特許第6032498号(P6032498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6032498-制御弁式鉛蓄電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032498
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】制御弁式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/08 20060101AFI20161121BHJP
   H01M 10/10 20060101ALI20161121BHJP
   H01M 10/34 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   H01M10/08
   H01M10/10 Z
   H01M10/34
   H01M10/10 G
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-513072(P2013-513072)
(86)(22)【出願日】2012年4月16日
(86)【国際出願番号】JP2012060213
(87)【国際公開番号】WO2012150673
(87)【国際公開日】20121108
【審査請求日】2014年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2011-103003(P2011-103003)
(32)【優先日】2011年5月2日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和馬
【審査官】 植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101882694(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101685884(CN,A)
【文献】 中国特許第1153310(CN,C)
【文献】 特開2008−204638(JP,A)
【文献】 特開2008−243487(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0107960(US,A1)
【文献】 特開2003−036831(JP,A)
【文献】 特開2012−074279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/08
H01M 10/10
H01M 10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電槽内に収容した正極板とリテイナーマットと負極板とに各々電解液を保持させ、かつ電解液にコロイダルシリカを含有させた制御弁式鉛蓄電池において、
前記電解液がリチウムイオンを含有し、
前記電解液中のシリカ含有量が1質量%以上で5質量%以下であることを特徴とする(ただし、電解液中のコバルトイオン含有量とニッケルイオン含有量が共に14massppm以上23massppm以下であるもの、及び電解液中のコバルトイオン含有量が75massppm以上125massppm以下であるものを除く)制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記電解液中のリチウムイオン含有量が0.02mol/L以上であることを特徴とする、請求項1の制御弁式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記電解液中のリチウムイオン含有量が0.4mol/L以下であることを特徴とする、請求項1の制御弁式鉛蓄電池。
【請求項4】
前記電解液中のリチウムイオン含有量が0.02mol/L以上で0.4mol/L以下であることを特徴とする、請求項1の制御弁式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はリテイナーマットを用いた制御弁式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
制御弁式鉛蓄電池は、電解液をゲル化しあるいはリテイナーマット等の多孔体に保持させることにより遊離の電解液を少なくできるため、任意の姿勢で用いることができる。また、充電時に正極で発生する酸素ガスを負極で吸収し水に還元することができるため、電解液中の水がほとんど失われないので補水が不要となる。一方、制御弁式鉛蓄電池では電解液の量が少ないので、放電により電解液中の硫酸イオン濃度が低下しやすい。そして電解液中の硫酸イオン濃度が低下すると、極板の鉛及び硫酸鉛は溶解度が高くなり、Pb2+の形態で電解液中に溶出しやすくなる。過放電の後に鉛蓄電池を充電すると、リテイナーマット中に溶出したPb2+が樹枝状の金属鉛に還元され、正極板と負極板とが短絡することがあり、この種の短絡は浸透短絡と呼ばれる。
【0003】
発明者らは、制御弁式鉛蓄電池での浸透短絡を防止するため、電解液にシリカゾルを添加することを提案した(特許文献1:特開2008-204638)。しかしながらシリカゾルを単独で加えても、過放電放置後の短絡を抑制する効果は充分ではなく(表1)、また過放電放置後の充電受入性も充分ではない。そこで制御弁式鉛蓄電池を過放電放置した後の短絡をさらに少なくすると共に、充電受入性を向上させる必要がある。
【0004】
なお特許文献2(特開2008-243487)は、液式の鉛蓄電池にリチウムイオンを含有させると、正極利用率が向上することを開示している。しかしながら特許文献2は、リチウムイオンと過放電放置後の浸透短絡あるいは充電受入性との関係について記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-204638
【特許文献2】特開2008-243487
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、制御弁式鉛蓄電池での過放電放置後の短絡をさらに少なくすると共に充電受入性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、電槽内に収容した正極板とリテイナーマットと負極板とに各々電解液を保持させ、かつ電解液にコロイダルシリカを含有させた制御弁式鉛蓄電池において、前記電解液がリチウムイオンを含有し、前記電解液中のシリカ含有量が1質量%以上で5質量%以下であることを特徴とする(ただし、電解液中のコバルトイオン含有量とニッケルイオン含有量が共に14massppm以上23massppm以下であるもの、及び電解液中のコバルトイオン含有量が75massppm以上125massppm以下であるものを除く)
【0008】
好ましくは、電解液中のリチウムイオン含有量が0.02mol/L以上である。また好ましくは電解液中のリチウムイオン含有量が0.4mol/L以下である。電解液中のリチウムイオン含有量は特に好ましくは、0.02mol/L以上で0.4mol/L以下である。
【0009】
電解液中にコロイダルシリカを含有させることにより、表1に示すように過放電放置後の短絡が減少する。なお以下では、コロイダルシリカを単にシリカという。また過放電放置後の充電受入性はシリカでは向上しない。ここでシリカに加えて、リチウムイオンを含有させると、過放電放置後の短絡はさらに減少し、過放電放置後の充電受入性も向上する。しかしリチウムイオンの代わりにナトリウムイオンを含有させると、JIS規定の充電受入性(JIS D 5301:2006の9.5.4b))が大きく低下した。
【0010】
シリカの含有量は0.5質量%から7質量%の範囲で実験したが、いずれの濃度でも過放電放置後の短絡を減らすことができた。そしてシリカ含有量を1質量%以上にすると、短絡の発生率は著しく低下した。この一方で、5質量%を超えると電解液のゲル化が生じて、充電受入性が著しく低下した。このためシリカ含有量は1質量%以上で5質量%以下が好ましい。リチウムイオンは0.01mol/L以上0.5mol/L以下の範囲で実験し、全ての含有量で過放電放置後の短絡をさらに少なくすることができた。ここでリチウムイオン含有量を0.02mol/L以上とすると、過放電放置後の短絡を充分に少なくでき、また過放電放置後の充電受入性を著しく向上させることができた。さらにリチウムイオン含有量を0.02mol/Lから増しても、過放電放置後の短絡は減少せず、また過放電放置後の充電受入性の向上も僅かであった。この一方で、リチウムイオンを0.5mol/L含有させると、JIS規定の充電受入性が著しく低下した。このためリチウムイオン含有量は0.02mol/L以上0.4mol/L以下が好ましい。そして電解液中のシリカ含有量を1質量%以上で5質量%以下、リチウムイオン含有量を0.02mol/L以上で0.4mol/L以下とすると、電解液のゲル化に伴う問題が少なく、過放電放置後の短絡が充分に少なく、かつ過放電放置後の充電受入性も高く、しかもJIS規定の充電受入性も大きくは低下しない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の制御弁式鉛蓄電池の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0013】
Pb-Ca-Sn系合金から成るエキスパンド方式の負極格子に、定法に従い鉛粉を希硫酸でペースト化した負極活物質を充填して負極板とした。またPb-Ca-Sn系合金から成るエキスパンド方式の正極格子に、定法に従い鉛粉を希硫酸でペースト化した正極活物質を充填して正極板とした。正極板をU字状のガラス繊維を主体としたリテイナーマット(1.5mm厚)で挟むことまたはリーフ状のリテイナーマットを正極板と負極板とで挟むことにより、正極板と負極板の間にリテイナーマットを介在させ、正極板5枚と負極板6枚とから成る極板群を作製し、極板群を6個直列に電槽内に収容した。比重が1.220g/cm3の希硫酸と所定量のコロイダルシリカと所定量のリチウムイオンとから成る電解液を、充電済み電池で遊離の電解液が無くなる量だけ電槽内に注液した。次いで30℃で正極理論容量の220%の電気量で充電する電槽化成を行い、電槽中蓋に設けた注入口に制御弁を設け、上蓋を取り付けて制御弁式鉛蓄電池とした。
【0014】
コロイダルシリカは日産化学工業製のスノーテックス20(スノーテックスは登録商標)を使用し、スノーテックス20中のコロイダルシリカはナトリウムイオンで安定化され、pHは9.5〜10、シリカの平均粒径は10〜20nmで、シリカ濃度は20質量%、分散媒は水である。シリカの平均粒径はpHにより変化するので、電解液中では異なる値となっている。出発材料のシリカの粒径、安定化に用いたイオンの種類等は任意で、例えば安定化剤としてナトリウムイオンを含まない酸タイプのコロイダルシリカを用いても良い。リチウムイオンは炭酸リチウムとして添加したが、添加時の形態は任意である。リテイナーマットはガラス繊維を主体としたものだけではなく、合成繊維を主体としたものでも良い。正負極活物質の組成、正負極格子の組成と製法、電槽化成の条件等は任意である。
【0015】
図1に制御弁式鉛蓄電池の構造を示し、1は負極板、2は正極板で、リテイナーマット3により前後の負極板1と正極板2とを分離し、負極板1と正極板2とリテイナーマット3とで極板群4を構成する。電槽5は例えばポリプロピレンから成り、6は中蓋、7は電解液の注入口である。8は極板群のストラップ、9は制御弁、10は上蓋である。
【0016】
シリカ濃度を0質量%〜7質量%の範囲で変化させ、リチウムイオン濃度を0質量%〜0.5質量%の範囲で変化させて、A1〜A29の制御弁式鉛蓄電池を作製した。試料A1はシリカもリチウムイオンも含まない比較例、試料A29はシリカを含まない比較例である。比較用の試料C1として、シリカを3質量%、ナトリウムイオンを0.2mol/L含み、リチウムイオンを含まない制御弁式鉛蓄電池を作製した。比較用の試料D1は、シリカとカリウムイオンを含む制御弁式鉛蓄電池である。比較用の試料C2はシリカを含まずナトリウムイオンを含む制御弁式鉛蓄電池、試料D2はシリカを含まずカリウムイオンを含む制御弁式鉛蓄電池である。
【0017】
JIS規定の充電受入性をJIS D 5301:2006の9.5.4b)に従って試験し、過放電放置として25℃の雰囲気で、20時間率電流で電圧が6.0Vとなるまで放電した後、端子間を10Ωの抵抗で短絡し、40℃の雰囲気に30日間放置した。次いでJIS D 5301:2006の9.5.4b)の試験法と同じ充電条件で、過放電放置後の充電受入性を測定した。過放電放置後に充電受入性を測定した後、25℃の雰囲気で10時間率電流により20時間充電し、鉛蓄電池を解体して、リテイナーマットを厚さに対して半分に引き裂き、その内表面(引き裂かれた面)にある短絡痕の個数をカウントした。充電受入性は各3個の鉛蓄電池から求めた平均値を示し、短絡発生率は各1個の鉛蓄電池に使用した全てのリテイナーマットから求めた。結果を表1に示す。表1の充電受入性及び短絡発生率は試料A1を100とする相対値である。実用的には、JIS規定の充電受入性は90以上、過放電放置後の充電受入性は140以上、過放電放置後の短絡発生率は10以下が望ましい。
【0018】
【表1】
【0019】
シリカ単独での効果は短絡の抑制に限られ、JIS規定の試験でも過放電放置後の試験でも、充電受入性を改善する効果は見られなかった。またシリカを単独で含有させると、1質量%から5質量%まで含有量を増しても、短絡の発生率を20未満に抑制できなかった。これに対してシリカとリチウムイオンとを含有させると、過放電放置後の短絡の発生率は10〜15程度とシリカ単独の場合の1/2〜3/4に減少し、さらに過放電放置後の充電受入性が向上した。そしてリチウムイオン濃度を0.02mol/L以上とすると、過放電放置後の充電受入性が顕著に向上し、かつ過放電放置後の短絡発生率も10とリチウムイオンを含有しない場合の1/2に減少した。
【0020】
シリカ濃度を7質量%にすると、電解液がゲル化するため、JIS規定の充電受入性が低下した。これに対して、シリカ濃度が5質量%まではゲル化は生じず、JIS規定の充電受入性の低下も許容範囲内であった。リチウムイオン濃度を0.3mol/Lから増しても、短絡の発生抑制及び過放電放置後の充電受入性の改善というポジティブな効果は0.3mol/L以上で飽和し、0.5mol/Lまで増すとJIS規定の充電受入性が低下した。従ってリチウムイオン濃度は0.4mol/L以下が好ましい。ここでリチウムイオン(試料A15)の代わりにナトリウムイオン(試料C1)を含有させると、過放電放置後の短絡発生率および充電受入性はリチウムイオンと変わらなかったが、JIS規定の充電受入性は大きく低下した。またリチウムイオン(試料A15)の代わりにカリウムイオン(試料D1)を含有させると、JIS規定の充電受入性はさらに低下した。
【0021】
SOC(充電状態)が90%からの充電受入性を、シリカの有無とアルカリ金属イオンの種類とを変化させて測定した。満充電状態から5時間率電流(5hR電流)で0.5h放電し、SOCを90%にして、25℃で一晩休止(放置)した。次いで、14.0Vの定電圧で最大電流を100Aとして、10秒間で充電できた積算電気量を測定した。試料A1を100%とする相対値で結果を表2に示し、この性能を回生受入性と呼ぶ。
【0022】
【表2】
【0023】
リチウムイオンを用いると、ナトリウムイオン及びカリウムイオンを用いる場合よりも、回生受入性が高かった。特にアルカリ金属イオンとシリカとを含む場合、リチウムイオンでは回生受入性は許容範囲内にあるが、ナトリウムイオン及びカリウムイオンでは回生受入性は極めて低くなった。
【0024】
実施例では、シリカとリチウムイオンとの相乗作用により、リテイナーマットを用いた制御弁式鉛蓄電池の、過放電放置後の充電受入性を向上すると共に短絡を抑制し、JIS規定の充電受入性及び回生受入性も許容範囲内に保つことができる。
【符号の説明】
【0025】
1 負極板 2 正極板 3 リテイナーマット 4 極板群
5 電槽 6 中蓋 7 注入口 8 負極ストラップ
9 制御弁 10 上蓋
図1