(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、正極が4.2V以上の高い電位で作動する二次電池では、高電位で充放電を行うことにより正極活物質から遷移金属が溶出しやすい傾向がある。この溶出した遷移金属は、充放電に寄与しているリチウムを失活させるため、これがサイクル特性低下の原因になり得ると考えられる。本発明者は鋭意検討した結果、上記溶出した遷移金属に起因するリチウムの失活を抑制し得る化合物を発見し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は4.2V級以上のリチウム二次電池の改良に関するものであり、その目的は、4.2V級以上でのサイクル特性を向上させ得るリチウム二次電池を提供することである。また、そのような性能を有するリチウム二次電池の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明により、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を用いる4.2V級以上のリチウム二次電池が提供される。このリチウム二次電池を構成する負極の近傍には、ケイ素含有環状化合物および/またはその反応生成物が存在している。このケイ素含有環状化合物は、環を構成する原子の少なくとも1つがケイ素原子であり、かつ少なくとも1つのビニル基を有する。
【0007】
かかる構成によると、4.2V級以上の二次電池において、少なくとも1つのビニル基を有するケイ素含有環状化合物および/またはその反応生成物が、少なくとも負極近傍において、正極活物質から溶出した遷移金属に起因するサイクル特性の低下を抑制するように作用する。したがって、本発明によると、4.2V級以上の二次電池におけるサイクル特性の向上が実現される。
【0008】
上記ケイ素含有環状化合物が4.2V級以上の二次電池のサイクル特性向上に寄与することは、本発明者の検討によって初めて明らかになったものであり、特許文献1〜4では検討されておらず、その示唆はない。そのことは、例えば特許文献1において、4.2V以上の充放電ではサイクル特性の向上が実現できないヘキサメチルシクロトリシロキサン(後述の実施例参照)を使用していることからも明らかである。本発明によるサイクル特性の向上は、従来技術において予想されていなかった効果である。
【0009】
なお、本明細書において「4.2V級以上のリチウム二次電池」とは、SOC(State of Charge;充電状態)0%〜100%の範囲に、正極活物質の酸化還元電位(作動電位)が4.2V以上(対Li/Li
+)の領域を有するリチウム二次電池をいう。そのような二次電池は、SOC0%〜100%のうち少なくとも一部範囲において、正極の電位が4.2V以上となるリチウム二次電池としても把握され得る。
【0010】
ここに開示される技術の好適な一態様では、前記ケイ素含有環状化合物は、式(1):
【化1】
(式(1)中、R
1およびR
2は、同じかまたは異なり、いずれも炭素原子数1〜12の有機基であり、R
1およびR
2の少なくとも一方はビニル基を含む。nは3〜10の整数である。);で表されるビニル基含有環状シロキサンである。
【0011】
ここに開示される技術の好適な一態様では、前記ケイ素含有環状化合物は、環を構成するケイ素原子に結合した置換基がすべてビニル基である。このような構成を有することにより、4.2V級以上の二次電池におけるサイクル特性の向上を実現しながら、初期抵抗を低減することができる。
【0012】
ここに開示される技術の好適な一態様では、前記正極活物質は、Liと、遷移金属元素としてNiおよびMnと、を含むスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物である。上記スピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物は、作動電位が4.2V以上の領域を有する正極活物質の好適例である。このように作動電位の高い正極活物質を用いる二次電池において、上記ケイ素含有環状化合物によるサイクル特性の向上が顕著に実現され得る。
【0013】
ここに開示される技術の好適な一態様では、前記リチウム二次電池は非水電解質を含み、該非水電解質は、非水溶媒としてフッ素化カーボネートを含む。一般に、高電位では非水電解質は酸化分解されやすい傾向がある。しかし、耐酸化性に優れるフッ素化カーボネートを含む非水電解質を用いることで、該非水電解質の酸化分解は抑制される。このような非水電解質は、高電位で充放電を行う4.2V級以上の二次電池用非水電解質として好適である。
【0014】
また、本発明によると、4.2V級以上のリチウム二次電池を製造する方法が提供される。この方法は、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と負極とを用意すること、および少なくとも前記負極にケイ素含有環状化合物を供給すること、を包含する。ここで、前記ケイ素含有環状化合物は、環を構成する原子の少なくとも1つがケイ素原子であり、かつ少なくとも1つのビニル基を有する。かかる構成によると、少なくとも1つのビニル基を有するケイ素含有環状化合物および/またはその反応生成物が、正極活物質から溶出した遷移金属に起因するサイクル特性の低下を抑制するように作用する。その結果、4.2V級以上の二次電池におけるサイクル特性が向上する。
【0015】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記ケイ素含有環状化合物の供給は、前記ケイ素含有環状化合物を含む非水電解質を用意すること、および前記用意した非水電解質を、前記正極と前記負極とを備える電極体に供給すること、を包含する。これによって、電極体に接し得る非水電解質から上記ケイ素含有環状化合物が供給されることとなり、上記ケイ素含有環状化合物によるサイクル特性向上作用が好適に発揮される。
【0016】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記ケイ素含有環状化合物として、式(1):
【化2】
(式(1)中、R
1およびR
2は、同じかまたは異なり、いずれも炭素原子数1〜12の有機基であり、R
1およびR
2の少なくとも一方はビニル基を含む。nは3〜10の整数である。);で表されるビニル基含有環状シロキサンを用いる。
【0017】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記ケイ素含有環状化合物は、環を構成するケイ素原子に結合した置換基がすべてビニル基である。このような構成を有することにより、4.2V級以上の二次電池におけるサイクル特性の向上を実現しながら、初期抵抗を低減することができる。
【0018】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記正極活物質として、Liと、遷移金属元素としてNiおよびMnと、を含むスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物を用いる。このように作動電位の高い正極活物質を用いることによって、上記ケイ素含有環状化合物によるサイクル特性向上が顕著に実現され得る。
【0019】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記リチウム二次電池は非水電解質を含み、該非水電解質の非水溶媒として、フッ素化カーボネートを用いる。このような非水電解質は、高電位で充放電を行う4.2V級以上の二次電池用非水電解質として好適である。
【0020】
また、本発明によると、二次電池用の非水電解液が提供される。この非水電解液は、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を用いる4.2V級以上のリチウム二次電池に適用される。また、前記非水電解液はケイ素含有環状化合物を含む。さらに、前記ケイ素含有環状化合物は、環を構成する原子の少なくとも1つがケイ素原子であり、かつ少なくとも1つのビニル基を有する。さらに、本発明によると、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を用いる4.2V級以上のリチウム二次電池が提供される。この二次電池は、ここに開示されるいずれかの非水電解液を用いて構築されたことを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明によると、二次電池(好ましくはリチウム二次電池)用の非水電解液が提供される。この非水電解液は、ケイ素含有環状化合物を含む。また、前記ケイ素含有環状化合物は、環を構成する原子の少なくとも1つがケイ素原子であり、かつ少なくとも1つのビニル基を有する。さらに、前記ケイ素含有環状化合物は、環を構成するケイ素原子に結合した置換基の全数(S
TOTAL)に占めるビニル基の数(V
N)の比率(V
N/S
TOTAL)が50%を超えることが好ましい。このようなケイ素含有環状化合物を含む非水電解液によると、4.2V級以上の二次電池におけるサイクル特性の向上を実現しながら、初期抵抗を低減することができる。したがって、この明細書によると、上記ケイ素含有環状化合物を含む非水電解液用添加剤(典型的には上記比率(V
N/S
TOTAL)が50%を超えるケイ素含有環状化合物からなる添加剤が提供される。
【0022】
ここに開示されるリチウム二次電池は、高電位充放電におけるサイクル特性に優れる。したがって、この特徴を活かして、ハイブリッド自動車(HV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)等のような車両の駆動電源として好適に利用され得る。本発明によると、ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を搭載した車両が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明による実施形態を説明する。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極および負極を備えた電極体の構成および製法、セパレータの構成および製法、電池(ケース)の形状等、電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0025】
以下、リチウム二次電池に係る好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な電池一般をいい、リチウム二次電池等の蓄電池(すなわち化学電池)のほか、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(すなわち物理電池)を包含する。また、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオン(Liイオン)を利用し、正負極間におけるLiイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。その限りにおいて、例えば、Liイオン以外の金属イオン(例えばナトリウムイオン)を電荷担体として併用する二次電池も本明細書における「リチウム二次電池」に包含され得る。一般にリチウムイオン二次電池と称される電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【0026】
図1および
図2に示すように、リチウム二次電池100は、角型箱状の電池ケース10と、電池ケース10内に収容される捲回電極体20とを備える。電池ケース10は上面に開口部12を有している。この開口部12は、捲回電極体20を開口部12から電池ケース10内に収容した後、蓋体14によって封止される。電池ケース10内にはまた、非水電解質(非水電解液)25が収容されている。蓋体14には、外部接続用の外部正極端子38と外部負極端子48とが設けられており、それら端子38,48の一部は蓋体14の表面側に突出している。また、外部正極端子38の一部は電池ケース10内部で内部正極端子37に接続されており、外部負極端子48の一部は電池ケース10内部で内部負極端子47に接続されている。
【0027】
図3に示すように、捲回電極体20は、長尺シート状の正極(正極シート)30と、長尺シート状の負極(負極シート)40とを備える。正極シート30は、長尺状の正極集電体32とその少なくとも一方の表面(典型的には両面)に形成された正極合材層34とを備える。負極シート40は、長尺状の負極集電体42とその少なくとも一方の表面(典型的には両面)に形成された負極合材層44とを備える。捲回電極体20はまた、長尺シート状の2枚のセパレータ(セパレータシート)50A,50Bを備える。正極シート30および負極シート40は、2枚のセパレータシート50A,50Bを介して積層されており、正極シート30、セパレータシート50A、負極シート40、セパレータシート50Bの順に積層されている。該積層体は、長尺方向に捲回されることによって捲回体とされ、さらにこの捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。なお、電極体は捲回電極体に限定されない。電池の形状や使用目的に応じて、例えばラミネート型等、適切な形状、構成を適宜採用することができる。
【0028】
捲回電極体20の幅方向(捲回方向に直交する方向)の中心部には、正極集電体32の表面に形成された正極合材層34と、負極集電体42の表面に形成された負極合材層44とが重なり合って密に積層された部分が形成されている。また、正極シート30の幅方向の一方の端部には、正極合材層34が形成されずに正極集電体32が露出した部分(正極合材層非形成部36)が設けられている。この正極合材層非形成部36は、セパレータシート50A,50Bおよび負極シート40からはみ出た状態となっている。すなわち、捲回電極体20の幅方向の一端には、正極集電体32の正極合材層非形成部36が重なり合った正極集電体積層部35が形成されている。また、捲回電極体20の幅方向の他端にも、上記一端の正極シート30の場合と同様に、負極集電体42の負極合材層非形成部46が重なり合った負極集電体積層部45が形成されている。なお、セパレータシート50A,50Bは、正極合材層34および負極合材層44の積層部分の幅より大きく、捲回電極体20の幅より小さい幅を有する。これを正極合材層34および負極合材層44の積層部分に挟むように配することで、正極合材層34および負極合材層44が互いに接触して内部短絡が生じることを防いでいる。
【0029】
次に、上述のリチウム二次電池を構成する各構成要素について説明する。リチウム二次電池の正極(典型的には正極シート)を構成する正極集電体としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。そのような導電性部材としては、例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体の形状は、電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。正極集電体の厚さも特に限定されず、例えば5μm〜30μmとすることができる。正極合材層は、正極活物質の他、必要に応じて導電材、結着材(バインダ)等の添加材を含有し得る。
【0030】
正極活物質としては、リチウム二次電池の正極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種または2種以上を、特に限定なく使用することができる。例えば、リチウム(Li)と少なくとも1種の遷移金属元素とを構成金属元素として含む層状構造やスピネル構造等のリチウム遷移金属化合物、ポリアニオン型(例えばオリビン型)のリチウム遷移金属化合物等を用いることができる。より具体的には、例えば以下の化合物を用いることができる。
【0031】
(1)次の一般式(A1):LiMn
2−xM
xO
4;で表される、典型的にはスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物。ここで、xは0≦x<2であり、典型的には0≦x≦1である。xが0より大きい場合、Mは、Mn以外の任意の金属元素または非金属元素であり得る。Mが遷移金属元素の少なくとも1種を含む組成のものが好ましい。具体例としては、LiMn
2O
4,LiNi
0.5Mn
1.5O
4,LiCrMnO
4等が挙げられる。
好ましい正極活物質として、上記一般式(A1)におけるMが少なくともNiを含む化合物、例えば、次の一般式(A2):LiNi
pM
1qMn
2−p−qO
4;で表されるスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。ここで、0<pであり、0≦qであり、p+q<2(典型的にはp+q≦1)である。好ましい一態様では、q=0であり、0.2≦p≦0.6である。上記の含有割合(上記一般式(A2)のpで示す割合)のNiを含有させることによって、スピネル構造のLiNiMn複合酸化物(例えばLiNi
0.5Mn
1.5O
4)の充電終止時の正極電位を高電位化(典型的には4.5V(対Li/Li
+)以上に高電位化)させることができ、5V級のリチウム二次電池を構築することが可能になる。上記一般式(A2)において、0<qである場合、M
1は、Ni,Mn以外の任意の金属元素または非金属元素(例えば、Fe,Co,Cu,Cr,ZnおよびAlから選択される1種または2種以上)であり得る。M
1が3価のFeおよびCoの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、0<q≦0.3であり、1≦2p+qであることが好ましい。
【0032】
(2)一般式LiMO
2で表される、典型的には層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物。ここで、Mは、Ni,Co,Mn等の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、他の金属元素または非金属元素をさらに含み得る。具体例としては、LiNiO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等が挙げられる。
(3)一般式Li
2MO
3で表されるリチウム遷移金属複合酸化物。ここで、Mは、Mn,Fe,Co等の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、他の金属元素または非金属元素をさらに含み得る。具体例としては、Li
2MnO
3,Li
2PtO
3等が挙げられる。
(4)一般式LiMPO
4で表されるリチウム遷移金属化合物(リン酸塩)。ここで、Mは、Mn,Fe,Ni,Co等の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、他の金属元素または非金属元素をさらに含み得る。具体例としては、LiMnPO
4,LiFePO
4等が挙げられる。
(5)一般式Li
2MPO
4Fで表されるリチウム遷移金属化合物(リン酸塩)。ここで、Mは、Mn,Ni,Co等の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、他の金属元素または非金属元素をさらに含み得る。具体例としては、Li
2MnPO
4F等が挙げられる。
(6)LiMO
2とLi
2MO
3との固溶体。ここで、LiMO
2は上記(2)に記載の一般式で表される組成を指し、Li
2MO
3は上記(3)に記載の一般式で表される組成を指す。具体例としては、0.5LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2−0.5Li
2MnO
3で表される固溶体が挙げられる。
【0033】
好ましい一態様では、上記正極活物質として、SOC0%〜100%のうち少なくとも一部範囲における作動電位(対Li/Li
+)が一般的なリチウム二次電池(作動電位の上限が4.1V程度)よりも高いものを用いる。例えば、作動電位が4.2V(対Li/Li
+)以上の正極活物質を好ましく使用することができる。換言すれば、SOC0%〜100%における作動電位の最高値が4.2V(対Li/Li
+)以上の正極活物質を好ましく使用することができる。このような正極活物質を用いることにより、正極が4.2V(対Li/Li
+)以上の高い電位で作動するリチウム二次電池が実現され得る。そのような正極活物質の好適例として、LiNi
PMn
2−PO
4(0.2≦P≦0.6;例えば、LiNi
0.5Mn
1.5O
4),LiMn
2O
4,LiNiPO
4,LiCoPO
4,LiMnPO
4,LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2,0.5LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2−0.5Li
2MnO
3等が挙げられる。正極活物質の作動電位(対Li/Li
+)は、4.3V以上(例えば4.35V以上、さらには4.5V以上)が好ましく、4.6V以上(例えば4.8V以上、さらには4.9V以上)が特に好ましい。上記作動電位(対Li/Li
+)の上限は特に限定されないが、5.5V以下(例えば5.3V以下、典型的には5.1V以下)であり得る。
【0034】
ここで、正極活物質の作動電位としては、以下のようにして測定される値を採用することができる。すなわち、測定対象たる正極活物質を含む正極と、対極としての金属リチウムと、参照極としての金属リチウムと、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=30:70(体積基準)の混合溶媒中に約1mol/LのLiPF
6を含む電解液と、を用いて三極セルを構築する。このセルのSOC値を、当該セルの理論容量に基づき、SOC0%からSOC100%まで5%刻みで調整する。例えば、定電流充電により調整する。各SOC値に調整したセルを1時間放置した後の正極電位を測定し、その正極電位(対Li/Li
+)を当該SOC値における上記正極活物質の作動電位とする。なお、一般にSOC0%〜100%の間で正極活物質の作動電位が最も高くなるのはSOC100%を含む範囲であるため、通常は、SOC100%(すなわち満充電状態)における正極活物質の作動電位を通じて、当該正極活物質の作動電位の上限(例えば、4.2V以上か否か)を把握することができる。
【0035】
正極活物質の形状としては、通常、平均粒径1μm〜20μm(例えば2μm〜10μm)程度の粒子状が好ましい。なお、本明細書中において「平均粒径」とは、特記しない限り、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径、すなわち50%体積平均粒子径を意味するものとする。
【0036】
導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が好ましく用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック、例えばアセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末が好ましい。また、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル等の金属粉末類およびポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料等を、1種を単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
【0037】
結着材としては各種のポリマー材料が挙げられる。例えば、水系の組成物(活物質粒子の分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた組成物)を用いて正極合材層を形成する場合には、水溶性または水分散性のポリマー材料を結着材として好ましく採用し得る。水溶性または水分散性のポリマー材料としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル重合体;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等のゴム類;が例示される。あるいは、溶剤系の組成物(活物質粒子の分散媒が主として有機溶媒である組成物)を用いて正極合材層を形成する場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等のハロゲン化ビニル樹脂;ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイド;等のポリマー材料を用いることができる。このような結着材は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上記で例示したポリマー材料は、結着材として用いられる他に、正極合材層形成用組成物の増粘材その他の添加材として使用されることもあり得る。
【0038】
正極合材層に占める正極活物質の割合は凡そ50質量%を超え、凡そ70質量%〜97質量%(例えば75質量%〜95質量%)であることが好ましい。また、正極合材層に占める添加材の割合は特に限定されないが、導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して凡そ1質量部〜20質量部(例えば2質量部〜10質量部、典型的には3質量部〜7質量部)とすることが好ましい。結着材の割合は、正極活物質100質量部に対して凡そ0.8質量部〜10質量部(例えば1質量部〜7質量部、典型的には2質量部〜5質量部)とすることが好ましい。
【0039】
上述したような正極の作製方法は特に限定されず、従来の方法を適宜採用することができる。例えば以下の方法によって作製することができる。まず、正極活物質、必要に応じて導電材、結着材等を適当な溶媒(水系溶媒、非水系溶媒またはこれらの混合溶媒)で混合してペースト状またはスラリー状の正極合材層形成用組成物を調製する。混合操作は、例えば適当な混練機(プラネタリーミキサー、ホモディスパー、クレアミックス、フィルミックス等)を用いて行うことができる。上記組成物を調製するために用いられる溶媒としては、水系溶媒および非水系溶媒のいずれも使用可能である。水系溶媒は全体として水性を示すものであればよく、水または水を主体とする混合溶媒を好ましく用いることができる。非水系溶媒の好適例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン、トルエン等が例示される。
【0040】
こうして調製した上記組成物を正極集電体に塗付し、乾燥により溶媒を揮発させた後、圧縮(プレス)する。正極集電体に上記組成物を塗付する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーター、コンマコーター等の適当な塗付装置を使用することにより、正極集電体に該組成物を好適に塗付することができる。また、溶媒を乾燥するにあたっては、自然乾燥、熱風、低湿風、真空、赤外線、遠赤外線および電子線を、単独でまたは組み合わせて用いることにより良好に乾燥し得る。さらに、圧縮方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。厚さを調整するにあたり、膜厚測定器で該厚さを測定し、プレス圧を調整して所望の厚さになるまで複数回圧縮してもよい。このようにして正極合材層が正極集電体上に形成された正極が得られる。
【0041】
正極集電体上への正極合材層の単位面積当たりの目付量(正極合材層形成用組成物の固形分換算の塗付量)は特に限定されるものではないが、充分な導電経路(伝導パス)を確保する観点から、正極集電体の片面当たり3mg/cm
2以上(例えば5mg/cm
2以上、典型的には6mg/cm
2以上)であり、45mg/cm
2以下(例えば28mg/cm
2以下、典型的には15mg/cm
2以下)とすることが好ましい。
【0042】
負極(典型的には負極シート)を構成する負極集電体としては、従来のリチウム二次電池と同様に、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。そのような導電性部材としては、例えば銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。負極集電体の形状は、電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。負極集電体の厚さも特に限定されず、5μm〜30μm程度とすることができる。
【0043】
負極合材層には、電荷担体となるLiイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質が含まれる。負極活物質の組成や形状に特に制限はなく、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の1種または2種以上を使用することができる。そのような負極活物質としては、例えばリチウム二次電池で一般的に用いられる炭素材料が挙げられる。上記炭素材料の代表例としては、グラファイトカーボン(黒鉛)、アモルファスカーボン等が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。なかでも天然黒鉛を主成分とする炭素材料の使用が好ましい。上記天然黒鉛は鱗片状の黒鉛を球形化したものであり得る。また、黒鉛の表面にアモルファスカーボンがコートされた炭素質粉末を用いてもよい。その他、負極活物質として、チタン酸リチウム等の酸化物、ケイ素材料、スズ材料等の単体、合金、化合物、上記材料を併用した複合材料を用いることも可能である。負極合材層に占める負極活物質の割合は凡そ50質量%を超え、凡そ90質量%〜99質量%(例えば95質量%〜99質量%、典型的には97質量%〜99質量%)であることが好ましい。
【0044】
負極合材層は、負極活物質の他に、一般的なリチウム二次電池の負極合材層に配合され得る1種または2種以上の結着材や増粘材その他の添加材を必要に応じて含有することができる。結着材としては各種のポリマー材料が挙げられる。例えば、水系の組成物または溶剤系の組成物に対して、正極合材層に含有され得るものを好ましく用いることができる。そのような結着材は、結着材として用いられる他に負極合材層形成用組成物の増粘材その他の添加材として使用されることもあり得る。負極合材層に占めるこれら添加材の割合は特に限定されないが、凡そ0.8質量%〜10質量%(例えば凡そ1質量%〜5質量%、典型的には1質量%〜3質量%)であることが好ましい。
【0045】
負極の作製方法は特に限定されず、従来の方法を採用することができる。例えば以下の方法によって作製することができる。まず、負極活物質を結着材等とともに上記適当な溶媒(水系溶媒、有機溶媒またはこれらの混合溶媒)で混合して、ペースト状またはスラリー状の負極合材層形成用組成物を調製する。こうして調製した上記組成物を負極集電体に塗付し、乾燥により溶媒を揮発させた後、圧縮(プレス)する。このように該組成物を用いて負極集電体上に負極合材層を形成することができ、該負極合材層を備える負極を得ることができる。なお、混合、塗付、乾燥および圧縮方法は、上述の正極の作製と同様の手段を採用することができる。
【0046】
負極集電体上への負極合材層の単位面積当たりの目付量(負極合材層形成用組成物の固形分換算の塗付量)は特に限定されるものではないが、充分な導電経路(伝導パス)を確保する観点から、負極集電体の片面当たり2mg/cm
2以上(例えば3mg/cm
2以上、典型的には4mg/cm
2以上)であり、40mg/cm
2以下(例えば22mg/cm
2以下、典型的には10mg/cm
2以下)とすることが好ましい。
【0047】
ここに開示される技術におけるリチウム二次電池は、ケイ素含有環状化合物および/またはその反応生成物が負極の近傍(典型的には負極の表面、負極(典型的には負極合材層)内であってもよい)に存在しているものであり得る。ここに開示される技術におけるケイ素含有環状化合物は、環を構成する原子の少なくとも1つがケイ素原子(Si)であり、かつ少なくとも1つのビニル基を有する。上記ケイ素含有環状化合物がSiを含む環状構造とビニル基を有することによって、少なくとも負極近傍において、該化合物および/またはその反応生成物は、正極活物質から溶出した遷移金属に起因するサイクル特性の低下を抑制するように作用し得る。
【0048】
より具体的には、高電位充放電により正極から溶出した遷移金属(典型的にはMn)は、例えば負極表面で析出する。これが、充放電に寄与し得るリチウムを失活させることにより、サイクル特性の低下が生じているものと考えられる。そこで、上記ケイ素含有環状化物を負極の近傍(典型的には負極の表面)に存在し得るように電池内に含ませると、上記ケイ素含有環状化物は、電極(主として負極)表面で析出する(典型的には被膜を形成する)。この析出物(被膜)が、上記のリチウム失活を抑制するように作用し、サイクル特性の低下抑制に寄与しているものと考えられる。そして、このサイクル特性向上作用は、ビニル基を有するが環状でないケイ素含有化合物(例えば直鎖状、分岐状化合物、典型的にはビニル基含有鎖状シロキサン)では実現できず、また、ビニル基を有さないケイ素含有環状化合物(典型的にはビニル基非含有環状シロキサン)でも実現することができないことが本発明者によって確認されている。そのメカニズムは不明だが、ケイ素含有化合物であって、環状構造とビニル基とを有することがサイクル特性向上に重要な役割を果たしていると推察される。
【0049】
なお、ここに開示される「ケイ素含有環状化合物および/またはその反応生成物」とは、上記のとおり、上記ケイ素含有環状化合物に由来する成分(典型的には析出物)を意味するものであり、ケイ素含有環状化合物およびその反応生成物の少なくとも一方を含むものとして解釈され得る。なお、ケイ素含有化合物に由来する析出物(被膜形成)の有無は、例えば電極表面から試料を採取し、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析等の公知の分析手段により確認することが可能である。
【0050】
上記ケイ素含有環状化合物は、環を構成する原子の少なくとも1つがケイ素原子(Si)である。環を構成する原子数は特に限定されないが、被膜形成性等を考慮して3〜20とすることが適当であり、3〜12(例えば3〜10、典型的には8)とすることが好ましい。上記環を構成する原子としては、Siと酸素原子(O)とを含むことが好ましく、上記環を構成する原子はSiとOからなることがより好ましい。典型的には、SiとOとが交互に連続した、いわゆる環状シロキサンであり得る。
【0051】
また、上記ケイ素含有環状化合物は、少なくとも1つのビニル基を有する。ビニル基の数は1以上であれば特に限定されないが、1〜20とすることが適当であり、2〜12(例えば3〜10、典型的には4〜6)とすることが好ましい。また、ビニル基の少なくとも1つ(例えばビニル基の2以上、典型的にはビニル基の全部)は、上記環を構成するケイ素原子に結合していることが好ましい。
【0052】
また、初期抵抗低減の観点から、上記ケイ素含有環状化合物は、環を構成するケイ素原子に結合した置換基の全数(S
TOTAL)に占めるビニル基の数(V
N)の比率(V
N/S
TOTAL)が50%を超えることが好ましい。上記比率(V
N/S
TOTAL)は70%以上(例えば80%以上、典型的には90%以上)であることがより好ましい。ここに開示されるケイ素含有環状化合物は、環を構成するケイ素原子に結合した置換基がすべてビニル基であることが特に好ましい。換言すると、上記比率(V
N/S
TOTAL)が100%であるケイ素含有環状化合物が特に好ましい。
【0053】
ここに開示されるケイ素含有環状化合物の好適例としては、式(1):
【化3】
で表されるビニル基含有環状シロキサンが挙げられる。ここで、上記式(1)中、R
1およびR
2は、いずれも炭素原子数1〜12の有機基であり得る。また、R
1およびR
2は、同じであってもよく異なっていてもよい。また、R
1およびR
2の少なくとも一方はビニル基を含む。nは3〜10の整数である。
【0054】
上記式(1)中、R
1およびR
2は、炭素原子数1〜12の有機基であり得る。環状シロキサンによる作用を好適に発現させる観点から、上記炭素原子数は1〜6(例えば1〜4、典型的には1または2)であることが好ましい。そのような有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチル−2−メチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の鎖状アルキル基;シクロヘキシル基、ノルボルナニル基等の環状アルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、ブテニル基、1,3−ブタジエニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基;トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;3−ピロリジノプロピル基等の飽和複素環基を有するアルキル基;アルキル基を有していてもよいフェニル基等のアリール基;フェニルメチル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;トリメチルシリル基等のトリアルキルシリル基;トリメチルシロキシ基等のトリアルキルシロキシ基等が挙げられる。なかでも、環状シロキサンによる作用を好適に発現させる観点から、有機基は、メチル基、エチル基、ビニル基、プロペニル基、フェニル基が好ましく、メチル基、ビニル基が特に好ましい。
【0055】
また、上記式(1)中、R
1およびR
2の少なくとも一方はビニル基を含む。好ましくは、R
1およびR
2の少なくとも一方はビニル基である。あるいは、R
1およびR
2の少なくとも一方はビニル基を含む有機基であり得る。そのようなビニル基を含む有機基としては、アルケニル基が挙げられる。アルケニル基の炭素原子数は特に限定されないが、環状シロキサンによる作用を好適に発現させる観点から、3〜8(例えば3〜6、典型的には3または4)であることが適当である。アルケニル基の具体例としては、アリル基、ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基が挙げられる。なかでも、R
1およびR
2の少なくとも一方(典型的には、R
1およびR
2の一方のみ、あるいはR
1およびR
2の両方)がビニル基であることが好ましい。初期抵抗低減の観点からは、R
1およびR
2の両方がビニル基であることが好ましい。
【0056】
上記式(1)中のnは3〜10の整数である。高電位でのサイクル特性向上の観点から、nは好ましくは3〜6の整数であり、より好ましくは4〜6の整数であり、特に好ましくは4である。
【0057】
上述のビニル基を含有する環状シロキサンの具体例としては、ビニル基含有シクロトリシロキサン、ビニル基含有シクロテトラシロキサン、ビニル基含有シクロペンタシロキサン、ビニル基含有シクロヘキサシロキサン、ビニル基含有シクロヘプタシロキサン、ビニル基含有シクロオクタシロキサン、ビニル基含有シクロノナシロキサン、ビニル基含有シクロデカシロキサンが挙げられる。なかでも、高電位でのサイクル特性向上の観点から、ビニル基含有シクロテトラシロキサン、ビニル基含有シクロペンタシロキサン、ビニル基含有シクロヘキサシロキサンが好ましく、ビニル基含有シクロテトラシロキサンが特に好ましい。
【0058】
ビニル基含有シクロトリシロキサンとしては、例えば、2−ビニル−2,4,4,6,6−ペンタメチルシクロトリシロキサン等のビニル基を1つ有するシクロトリシロキサン、2,4−ジビニル−2,4,6,6−テトラメチルシクロトリシロキサン等のビニル基を2つ有するシクロトリシロキサン、2,4,6−トリビニル−2,4,6−トリメチルシクロトリシロキサン等のビニル基を3つ有するシクロトリシロキサン、2,4,6,6−テトラビニル−2,4−ジメチルシクロトリシロキサン等のビニル基を4つ有するシクロトリシロキサン、2,4,4,6,6−ペンタビニル−2−メチルシクロトリシロキサン等のビニル基を5つ有するシクロトリシロキサン、ヘキサビニルシクロトリシロキサン(2,2,4,4,6,6−ヘキサビニルシクロトリシロキサン)等のビニル基を6つ有するシクロトリシロキサン等が挙げられる。例えば、2,4,6−トリビニル−2,4,6−トリメチルシクロトリシロキサン、ヘキサビニルシクロトリシロキサンは、環状シロキサンの環を構成するすべてのSiにビニル基が結合している化合物である、また、ヘキサビニルシクロトリシロキサンは、環状シロキサンの環を構成するSi(典型的にはすべてのSi)にビニル基が2つ結合している化合物である。なかでも、2,4,6−トリビニル−2,4,6−トリメチルシクロトリシロキサンが好ましい。また、初期抵抗低減の観点からは、ビニル基を4つ以上(例えば5または6)有するシクロトリシロキサンが好ましく、ヘキサビニルシクロトリシロキサンがより好ましい。
【0059】
ビニル基含有シクロテトラシロキサンとしては、例えば、2−ビニル−2,4,4,6,6,8,8−ヘプタメチルシクロテトラシロキサン等のビニル基を1つ有するシクロテトラシロキサン、2,4−ジビニル−2,4,6,6,8,8−ヘキサメチルシクロテトラシロキサン等のビニル基を2つ有するシクロテトラシロキサン、2,4,6−トリビニル−2,4,6,8,8−ペンタメチルシクロテトラシロキサン等のビニル基を3つ有するシクロテトラシロキサン、2,4,6,8−テトラビニル−2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン等のビニル基を4つ有するシクロテトラシロキサン、2,4,6,8,8−ペンタビニル−2,4,6−トリメチルシクロテトラシロキサン等のビニル基を5つ有するシクロテトラシロキサン、2,4,6,6,8,8−ヘキサビニル−2,4−ジメチルシクロテトラシロキサン等のビニル基を6つ有するシクロテトラシロキサン、2,4,4,6,6,8,8−ヘプタビニル−2−メチルシクロテトラシロキサン等のビニル基を7つ有するシクロテトラシロキサン、オクタビニルシクロテトラシロキサン(2,2,4,4,6,6,8,8−オクタビニルシクロテトラシロキサン)等のビニル基を8つ有するシクロテトラシロキサン等が挙げられる。例えば、2,4,6,8−テトラビニル−2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン、オクタビニルシクロテトラシロキサンは、環状シロキサンの環を構成するすべてのSiにビニル基が結合している化合物である、また、オクタビニルシクロテトラシロキサンは、環状シロキサンの環を構成するSi(典型的にはすべてのSi)にビニル基が2つ結合している化合物である。なかでも、2,4,6,8−テトラビニル−2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサンが好ましい。また、初期抵抗低減の観点からは、ビニル基を5つ以上(例えば6,7または8)有するシクロテトラシロキサンが好ましく、オクタビニルシクロテトラシロキサンがより好ましい。
【0060】
ビニル基含有シクロペンタシロキサンとしては、例えば、2−ビニル−2,4,4,6,6,8,8,10,10−ノナメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10−ペンタビニル−2,4,6,8,10−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6,6,8,8,10,10−オクタビニル−2,4−ジメチルシクロペンタシロキサン、2,4,4,6,6,8,8,10,10−ノナビニル−2−メチルシクロペンタシロキサン、デカビニルシクロペンタシロキサン(2,2,4,4,6,6,8,8,10,10−デカビニルシクロペンタシロキサン)等が挙げられる。ビニル基含有シクロヘキサシロキサンとしては、例えば、2,4,6,8,10,12−ヘキサビニル−2,4,6,8,10,12−ヘキサメチルシクロヘキサシロキサン、2,4,6,6,8,8,10,10,12,12−デカビニル−2,4−ジメチルシクロヘキサシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10,12,12−ドデシルビニルシクロヘキサシロキサン等が挙げられる。ビニル基含有シクロヘプタシロキサンとしては、例えば、2,4,6,8,10,12,14−ヘプタビニル−2,4,6,8,10,12,14−ヘプタメチルシクロヘプタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10,12,12,14,14−テトラデシルビニルシクロヘプタシロキサン等が挙げられる。ビニル基含有シクロオクタシロキサンとしては、例えば、2,4,6,8,10,12,14,16−オクタビニル−2,4,6,8,10,12,14,16−オクタメチルシクロオクタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10,12,12,14,14,16,16−ヘキサデシルビニルシクロオクタシロキサン等が挙げられる。ビニル基含有シクロノナシロキサンとしては、例えば、2,4,6,8,10,12,14,16,18−ノナビニル−2,4,6,8,10,12,14,16,18−ノナメチルシクロノナシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10,12,12,14,14,16,16,18,18−オクタデシルビニルシクロノナシロキサン等が挙げられる。ビニル基含有シクロデカシロキサンとしては、例えば、2,4,6,8,10,12,14,16,18,20−デカビニル−2,4,6,8,10,12,14,16,18,20−デカメチルシクロデカシロキサン等が挙げられる。
【0061】
正極と負極とを隔てるように配置されるセパレータ(セパレータシート)は、正極合材層と負極合材層とを絶縁するとともに、電解質の移動を許容する部材であればよい。セパレータの好適例としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。例えば、厚さ5μm〜30μm程度の合成樹脂製(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらを組み合わせた二層以上の構造を有するポリオレフィン製)多孔質セパレータシートを好適に使用し得る。このセパレータシートには耐熱層が設けられていてもよい。なお、液状の電解質(電解液)に代えて、例えば上記電解質にポリマーが添加されたような固体状(ゲル状)電解質を使用する場合には、電解質自体がセパレータとして機能し得るため、セパレータが不要になることがあり得る。
【0062】
リチウム二次電池に注入される非水電解質は、少なくとも非水溶媒と支持塩とを含み得る。典型例としては、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する電解液が挙げられる。上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトンが挙げられ、これらは1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。なかでも、EC、DMCおよびEMCの混合溶媒が好ましい。
【0063】
また、上記非水電解液の非水溶媒として、1種または2種以上のフッ素化カーボネート(例えば、上述のようなカーボネート類のフッ素化物)を含有することが好ましい。フッ素化環状カーボネートおよびフッ素化鎖状カーボネートのいずれも好ましく使用可能である。通常は、1分子内に1個のカーボネート構造を有するフッ素化カーボネートの使用が好ましい。フッ素化カーボネートのフッ素置換率は、通常、10%以上が適当であり、例えば20%以上(典型的には20%以上100%以下、例えば20%以上80%以下)であり得る。
【0064】
上記フッ素化カーボネートは、正極活物質の作動電位(対Li/Li
+)と同等またはそれより高い酸化電位を示すことが好ましい。そのようなフッ素化カーボネートとして、例えば、正極活物質の作動電位(対Li/Li
+)との差が0Vより大(典型的には0.1V〜3.0V程度、好ましくは0.2V〜2.0V程度、例えば0.3V〜1.0V程度)であるもの、上記差が0V〜0.3V程度であるもの、上記差が0.3V以上(典型的には0.3V〜3.0V程度、好ましくは0.3V〜2.0V程度、例えば0.3V〜1.5V程度)であるもの等を好ましく採用することができる。
【0065】
上記フッ素化環状カーボネートとしては、炭素原子数が2〜8(より好ましくは2〜6、例えば2〜4、典型的には2または3)であるものが好ましい。炭素原子数が多すぎると、非水電解液の粘度が高くなったり、イオン伝導性が低下したりすることがあり得る。例えば、以下の式(C1)で表されるフッ素化環状カーボネートを好ましく用いることができる。
【0067】
上記式(C1)中のR
11,R
12およびR
13は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、炭素原子数1〜4(より好ましくは1〜2、典型的には1)のアルキル基およびハロアルキル基、ならびにフッ素以外のハロゲン原子(好ましくは塩素原子)から選択され得る。上記ハロアルキル基は、上記アルキル基の水素原子の1または2以上がハロゲン原子(例えばフッ素原子または塩素原子、好ましくはフッ素原子)で置換された構造の基であり得る。R
11,R
12およびR
13のうちの1つまたは2つがフッ素原子である化合物が好ましい。例えば、R
12およびR
13の少なくとも一方がフッ素原子である化合物が好ましい。非水電解液の低粘度化の観点から、R
11,R
12およびR
13がいずれもフッ素原子または水素原子である化合物を好ましく採用し得る。
【0068】
上記式(C1)により表されるフッ素化環状カーボネートの具体例としては、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、パーフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(ジフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(トリフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−4−フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−5−フルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロー4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロー5,5−ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)としては、trans−ジフルオロエチレンカーボネート(trans−DFEC)およびcis−ジフルオロエチレンカーボネート(cis−DFEC)のいずれも使用可能である。通常は、trans−DFECの使用がより好ましい。trans−DFECは、常温(例えば25℃)において液状を呈するので、常温において固体状のcis−DFECに比べて取扱性に優れるという利点がある。
【0069】
ここに開示される技術における非水電解液としては、例えば、以下の式(C2)で表されるフッ素化鎖状カーボネートを用いることができる。
【0071】
上記式(C2)中のR
21およびR
22の少なくとも一方(好ましくは両方)はフッ素を含有する有機基であり、例えば、フッ化アルキル基またはフッ化アルキルエーテル基であり得る。フッ素以外のハロゲン原子によりさらに置換されたフッ化アルキル基またはフッ化アルキルエーテル基であってもよい。R
21およびR
22の一方は、フッ素を含有しない有機基(例えば、アルキル基またはアルキルエーテル基)であってもよい。R
21およびR
22の各々は、炭素原子数が1〜6(より好ましくは1〜4、例えば1〜3、典型的には1または2)の有機基であることが好ましい。炭素原子数が多すぎると、非水電解液の粘度が高くなったり、イオン伝導性が低下したりすることがあり得る。同様の理由から、通常は、R
21およびR
22の少なくとも一方は直鎖状であることが好ましく、R
21およびR
22がいずれも直鎖状であることがより好ましい。例えば、R
21およびR
22がいずれもフッ化アルキル基であり、それらの合計炭素原子数が1または2であるフッ素化鎖状カーボネートを好ましく採用し得る。
【0072】
上記式(C2)で表されるフッ素化鎖状カーボネートの具体例としては、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、フルオロメチルジフルオロメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、(2−フルオロエチル)メチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、(2,2−ジフルオロエチル)メチルカーボネート、(2−フルオロエチル)フルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルカーボネート、(2,2−ジフルオロエチル)フルオロメチルカーボネート、(2−フルオロエチル)ジフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート、エチル−(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’,2’−ジフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルエチルカーボネート、ビス(ペンタフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。
【0073】
上記フッ素化カーボネートの量は、上記非水電解液から支持塩を除いた全成分(以下「支持塩以外成分」ともいう。)のうち、例えば2体積%以上(例えば5体積%以上、典型的には10体積%以上)とすることが好ましい。上記支持塩以外成分の実質的に100体積%(典型的には99体積%以上)がフッ素化カーボネートであってもよい。通常は、非水電解液の低粘度化、イオン伝導性の向上等の観点から、上記支持塩以外成分のうちフッ素化カーボネートの量は90体積%以下(例えば70体積%以下、典型的には60体積%以下)とすることが好ましい。
【0074】
他の好適例としては、アルキル基の炭素原子数が1〜4のジアルキルカーボネート(例えばDEC)と、フッ素化カーボネート(例えばDFEC)とを、それらの体積比が1:9〜9:1(例えば3:7〜7:3、典型的には4:6〜6:4)の割合で含み、かつ、それらの合計量が、上記支持塩以外成分のうち50体積%以上(例えば70体積%以上、典型的には90体積%以上100体積%以下)の非水溶媒を含む非水電解液が挙げられる。
【0075】
上記支持塩としては、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiI等のリチウム化合物(リチウム塩)の1種または2種以上を用いることができる。なお、支持塩の濃度は特に限定されないが、凡そ0.1mol/L〜5mol/L(例えば0.5mol/L〜3mol/L、典型的には0.8mol/L〜1.5mol/L)の濃度とすることができる。
【0076】
また、非水電解質(典型的には非水電解液)は、サイクル特性向上の観点から、上述のケイ素含有環状化合物を含むことが好ましい。非水電解質(典型的には非水電解液)中への上記ケイ素含有環状化合物の含有率(添加率)は特に限定されないが、充分なサイクル特性向上作用を得る観点から、0.01質量%以上(例えば0.1質量%以上、典型的には0.3質量%以上)であることが好ましい。また、過剰添加による電池特性低下(典型的には抵抗上昇)を抑制する観点から、5質量%以下(例えば2質量%以下、典型的には1質量%以下)とすることが好ましい。上記ケイ素含有環状化合物の含有量(添加量)が多すぎると、サイクル特性向上作用よりも過剰添加によるデメリットが上回り、所望の効果が得られない傾向がある。
【0077】
非水電解質は、本発明の目的を大きく損なわない限度で、必要に応じて任意の添加剤を含んでもよい。上記添加剤は、例えば、電池の出力性能の向上、保存性の向上(保存中における容量低下の抑制等)、サイクル特性の向上、初期充放電効率の向上等の1または2以上の目的で使用され得る。好ましい添加剤の例として、フルオロリン酸塩(好ましくはジフルオロリン酸塩。例えば、LiPO
2F
2で表されるジフルオロリン酸リチウム)や、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)等が挙げられる。また、例えば、過充電対策で用いられ得るシクロヘキシルベンゼン、ビフェニル等の添加剤が使用されていてもよい。
【0078】
次に、リチウム二次電池の製造方法について説明する。この二次電池の製造方法は、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と負極とを用意すること、および少なくとも上記負極にケイ素含有環状化合物を供給すること、を包含する。上記製造方法は、その他にも、例えば、正極を構築すること、負極を構築すること、上記正極および上記負極を用いてリチウム二次電池を構築すること等の工程を包含し得るが、これらについては、上述の説明および従来から用いられている手法を適宜採用して行うことができるので、ここでは特に説明しない。
【0079】
ここに開示される製造方法は、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極と負極とを用意することを包含する。正極活物質を含む正極および負極については、上述のとおりなので説明は繰り返さない。
【0080】
ここに開示される製造方法は、少なくとも上記負極にケイ素含有環状化合物を供給することを包含する。これによって、上記ケイ素含有環状化合物および/またはその反応生成物が負極の近傍に存在し得ることとなり、正極活物質から溶出した遷移金属に起因するサイクル特性の低下を抑制するように作用する。上記ケイ素含有環状化合物としては上述のものを好ましく用いることができる。上記ケイ素含有環状化合物は、少なくとも負極に供給されていればよく、正極等の他の電池構成要素に供給されてもよい。サイクル特性向上作用を効率的に得る観点から、上記ケイ素含有環状化合物を負極に供給すること(典型的には負極に集中的に供給すること)が特に好ましい。
【0081】
上記供給方法の好適例としては、上記ケイ素含有環状化合物を含む非水電解液を用意すること、および、用意した非水電解液を、正極と負極とを備える電極体に供給すること、を包含し得る。典型的には、上記ケイ素含有環状化合物を非水電解液中に添加し、非水電解液を介して電極(典型的には負極)に上記ケイ素含有環状化合物を供給する。これによって、電極体に接し得る非水電解液から上記ケイ素含有環状化合物が電極体(典型的には負極)に対して供給されることとなり、上記ケイ素含有環状化合物によるサイクル特性向上作用が好適に発揮される。
【0082】
非水電解液中への上記ケイ素含有環状化合物の含有率(添加率)は特に限定されないが、充分なサイクル特性向上作用を得る観点から、0.01質量%以上(例えば0.1質量%以上、典型的には0.3質量%以上)であることが好ましい。また、過剰添加による電池特性低下(典型的には抵抗上昇)を抑制する観点から、5質量%以下(例えば2質量%以下、典型的には1質量%以下)とすることが好ましい。上記ケイ素含有環状化合物の含有量(添加量)が多すぎると、サイクル特性向上作用よりも過剰添加によるデメリットが上回り、所望の効果が得られない傾向がある。
【0083】
なお、上記ケイ素含有環状化合物の供給方法は、上記のような非水電解質への含有に限定されない。例えば、正極および/または負極(典型的には負極)表面に上記ケイ素含有環状化合物を付与する方法であってもよい。その方法の好適例としては、上記ケイ素含有環状化合物を溶解または分散させた水または有機溶剤等の液体を電極(負極)の表面に塗付し、必要に応じて乾燥させる方法が挙げられる。あるいは、電極合材層(好ましくは負極合材層)形成用組成物に上記ケイ素含有環状化合物を含有させてもよい。その場合、上記ケイ素含有環状化合物の使用量(添加量)は、電極合材層(典型的には負極合材層)100質量部当たり0.001質量部以上(例えば0.01質量部以上、典型的には0.03質量部以上)であることが好ましい。また、過剰添加による電池特性低下を抑制する観点から、5質量部以下(例えば2質量部以下、典型的には1質量部以下)とすることが好ましい。
【0084】
このようにして構築されたリチウム二次電池は、4.2V級以上のリチウム二次電池となり得る。つまり、SOC0%〜100%の範囲に、正極活物質の酸化還元電位(作動電位)が4.2V以上(対Li/Li
+)の領域を有するリチウム二次電池となり得る。そのような二次電池は、SOC0%〜100%のうち少なくとも一部範囲において、正極の電位が4.2V以上となるリチウム二次電池としても把握され得る。本発明によるサイクル特性向上作用は、高電位充放電において好ましく発揮され得るため、リチウム二次電池は、4.3V級以上(例えば4.35V級以上、さらには4.5V級以上)のリチウム二次電池、さらには4.6V級以上(例えば4.8V級以上、さらには4.9V級以上)のリチウム二次電池として構築することが好ましい。
【0085】
上述のように、ここに開示される技術における4.2V級以上のリチウム二次電池は、高電位充放電におけるサイクル特性が向上しているので、各種用途の二次電池として利用可能である。例えば、
図7に示すように、リチウム二次電池100は、自動車等の車両1に搭載され、車両1を駆動するモータ等の駆動源用の電源として好適に利用することができる。したがって、本発明は、上記リチウム二次電池(典型的には複数直列接続してなる組電池)100を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1を提供することができる。
【0086】
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0087】
<例1>
[正極の作製]
正極活物質としてLiNi
0.5Mn
1.5O
4粉末(NiMnスピネル)と、導電材としてアセチレンブラック(AB)と、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、これらの材料の質量比が85:10:5となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)で混合して、ペースト状の正極合材層形成用組成物を調製した。この組成物を、アルミニウム箔(厚さ15μm)の片面に塗付量が6.5mg/cm
2(固形分基準)となるように均一に塗付した。その塗付物を乾燥させ、プレスした後、所定サイズ(直径14mmの円形)に切り出して正極を得た。
【0088】
[負極の作製]
負極活物質としてグラファイト粉末と、結着材としてPVDFとを、これらの材料の質量比が92.5:7.5となるようにNMPで混合して、ペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。この組成物を、銅箔(厚さ15μm)の片面に塗付量が4.3mg/cm
2(固形分基準)となるように均一に塗付した。その塗付物を乾燥させ、プレスした後、所定サイズ(直径16mmの円形)に切り出して負極を得た。
【0089】
[リチウム二次電池の作製]
上記のようにして作製した正極と負極とを用いて、
図4に示す概略構造のコイン型(2032型)電池200を作製した。すなわち、上記で作製した正極30および負極40を、非水電解液25を含浸させたセパレータ50とともに積層し、容器80(負極端子)に収容した後、さらに同電解液を滴下した。次いで、ガスケット60および蓋70(正極端子)で容器80を封止して、電池200を得た。セパレータとしては、厚み25μmのポリプロピレン(PP)製多孔質フィルムを所定サイズ(直径19mmの円形)に切り出したものを使用した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)との3:4:3(体積比)混合溶媒に、支持塩として約1mol/LのLiPF
6を溶解し、さらにケイ素含有環状化合物として2,4,6,8−テトラビニル−2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン(4VC4S)0.5%を含有させた電解液を用いた。
【0090】
<例2および3>
ケイ素含有環状化合物の含有率(添加率)を表1に示すように代えた他は例1と同様にして例2,3に係るコイン型電池を作製した。
【0091】
<例4>
4VC4Sを用いなかった他は例1と同様にして例4に係るコイン型電池を作製した。
【0092】
<例5〜7>
4VC4Sを表1に示す添加剤に代えた他は例1と同様にして例5〜7に係るコイン型電池を作製した。
【0093】
<例8>
非水電解液の非水溶媒として、EC:EMC:DMC=3:4:3(体積比)の混合溶媒に代えてジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)とジエチルカーボネート(DEC)との1:1(体積比)混合溶媒を用いた他は例1と同様にして例8に係るコイン型電池を作製した。
【0094】
<例9>
4VC4Sを用いなかった他は例8と同様にして例9に係るコイン型電池を作製した。
【0095】
[100サイクル後容量維持率]
上記で得られた各電池に対して、温度25℃にて、1/10Cのレートで4.1Vまで充電する操作と、同じレートで3.0Vまで放電させる操作とを交互に3回繰り返した。次いで、60℃の温度環境において、4.9Vまでの定電流定電圧(CCCV)充電(1Cレート、0.15Cカット)と、3.5Vまでの定電流(CC)放電(1Cレート)とを100サイクル繰り返した(サイクル試験)。1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%として、100サイクル後の放電容量の維持率(%)を求めた。得られた結果を表1に示す。また、例1と例4については、サイクル数と容量維持率(%)との関係を
図5に示す。
【0097】
<例10>
ケイ素含有環状化合物を4VC4Sから2,4,6−トリビニル−2,4,6−トリメチルシクロトリシロキサン(3VC3S)に代えた他は例1と同様にして例10に係るコイン型電池を作製した。
【0098】
例1,例4および例10に係る各電池に対して、上記の100サイクル後容量維持率測定試験と同内容の試験を行った。結果を表2に示す。
【0100】
<例11>
正極活物質として、NiMnスピネルに代えてLiMn
2O
4粉末(Mnスピネル)を用いた他は例1と同様にして正極を作製し、例11に係るコイン型電池を作製した。
【0101】
<例12>
4VC4Sを用いなかった他は例11と同様にして例12に係るコイン型電池を作製した。
【0102】
[50サイクル後容量維持率]
例11および12に係る電池に対して、温度25℃にて、1/10Cのレートで4.1Vまで充電する操作と、同じレートで3.0Vまで放電させる操作とを交互に3回繰り返した。次いで、60℃の温度環境において、4.9VまでのCCCV充電(1Cレート、0.15Cカット)と、3.0VまでのCC放電(1Cレート)とを50サイクル繰り返した(サイクル試験)。1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%として、50サイクル後の放電容量の維持率(%)を求めた。得られた結果を表3に示す。
【0103】
[100サイクル後容量維持率]
また、例11および12に係る電池に対して、温度25℃にて、1/10Cのレートで4.1Vまで充電する操作と、同じレートで3.0Vまで放電させる操作とを交互に3回繰り返した。次いで、60℃の温度環境において、4.2VまでのCCCV充電(1Cレート、0.15Cカット)と、3.0VまでのCC放電(1Cレート)とを100サイクル繰り返した(サイクル試験)。1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%として、100サイクル後の放電容量の維持率(%)を求めた。得られた結果を表3に示す。また、サイクル数と容量維持率(%)との関係を
図6に示す。
【0105】
<例13>
正極活物質として、NiMnスピネルに代えてLiMnPO
4粉末(Mnオリビン)を用いた他は例1と同様にして正極を作製し、例13に係るコイン型電池を作製した。
【0106】
<例14>
4VC4Sを用いなかった他は例13と同様にして例14に係るコイン型電池を作製した。
【0107】
[100サイクル後容量維持率]
例13および14に係る電池に対して、温度25℃にて、1/10Cのレートで4.1Vまで充電する操作と、同じレートで3.0Vまで放電させる操作とを交互に3回繰り返した。次いで、60℃の温度環境において、4.8VまでのCCCV充電(1Cレート、0.15Cカット)と、2.0VまでのCC放電(1Cレート)とを100サイクル繰り返した(サイクル試験)。1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%として、100サイクル後の放電容量の維持率(%)を求めた。得られた結果を表4に示す。
【0109】
<例15>
正極活物質として、NiMnスピネルに代えてLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2粉末(NiCoMn層状)を用いた他は例1と同様にして正極を作製し、例15に係るコイン型電池を作製した。
【0110】
<例16>
4VC4Sを用いなかった他は例15と同様にして例16に係るコイン型電池を作製した。
【0111】
[100サイクル後容量維持率]
例15および16に係る電池に対して、温度25℃にて、1/10Cのレートで4.1Vまで充電する操作と、同じレートで3.0Vまで放電させる操作とを交互に3回繰り返した。次いで、60℃の温度環境において、4.6VまでのCCCV充電(1Cレート、0.15Cカット)と、3.0VまでのCC放電(1Cレート)とを100サイクル繰り返した(サイクル試験)。1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%として、100サイクル後の放電容量の維持率(%)を求めた。得られた結果を表5に示す。
【0113】
<例17>
ケイ素含有環状化合物を4VC4Sから2,2,4,4,6,6,8,8−オクタビニルシクロテトラシロキサン(8VC4S)に代えた他は例1と同様にして例17に係るコイン型電池を作製した。
【0114】
[100サイクル後容量維持率]
上記で得られた例17に係る電池に対して、温度25℃にて、1/10Cのレートで4.1Vまで充電する操作と、同じレートで3.0Vまで放電させる操作とを交互に3回繰り返した(コンディショニング)。次いで、60℃の温度環境において、4.9Vまでの定電流定電圧(CCCV)充電(1Cレート、0.15Cカット)と、3.5Vまでの定電流(CC)放電(1Cレート)とを100サイクル繰り返した(サイクル試験)。1サイクル目の放電容量(初期放電容量)を100%として、100サイクル後の放電容量の維持率(%)を求めた。得られた結果を表1に示す。対比のため、例1,4に係る電池に対しても同様の試験を行った。結果を表6に示す。
【0115】
[交流インピーダンス測定]
例17に係る電池について、上記コンディショニング後にSOC60%の充電状態に調整したもの(サイクル試験前)の交流インピーダンス測定を行った。対比のため、例1,4に係る電池に対しても同様の試験を行った。結果を
図8に示す。交流インピーダンス測定条件は、周波数範囲1MHz〜0.1Hz、電圧振幅5mVとした。
【0117】
表1,2および
図5に示されるように、ビニル基を有する環状シロキサンを添加剤として用いた例1〜例3に係る電池は、ビニル基を有する環状シロキサンを用いなかった例4〜例7に係る電池よりも100サイクル後の容量維持率が高かった。例5〜例7では、ビニル基の含有と環状構造のいずれか一方のみを満たすシロキサンを添加剤として用いたが、添加剤を用いなかった例4と同等か例4より低いサイクル特性を示した。また、例1とは異なるビニル基を有する環状シロキサンを添加剤として用いた例10に係る電池も、例1には及ばないものの、サイクル特性が向上した。これらの結果から、環状構造を有し、かつビニル基を有するケイ素含有化合物を用いることによって、4.2V級以上でのサイクル特性を向上させ得ることがわかる。また、非水溶媒としてフッ素化カーボネートを含む非水電解液を用いた例8の電池は、非フッ素系カーボネートを用いた他の例よりもサイクル特性が優れていた。高電位で充放電を行う電池では、非水電解液にフッ素化カーボネートを含ませることが望ましい。
【0118】
表3〜5および
図6に示されるように、正極活物質の種類(構造)にかかわらず、環状構造を有し、かつビニル基を有するケイ素含有化合物を用いることによって、4.2V級以上でのサイクル特性を向上させ得ることがわかる。
【0119】
表6および
図8に示されるように、ビニル基置換率の高いケイ素含有化合物(典型的にはケイ素原子に結合した置換基がすべてビニル基である環状シロキサン)を用いた例17に係る電池は、例1と同等の100サイクル後の容量維持率を示しながら、初期抵抗が例1に係る電池よりも低かった。これらの結果から、ビニル基置換率の高いケイ素含有化合物を用いることによって、高いサイクル特性を実現しつつ、初期抵抗を抑制し得ることがわかる。
【0120】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。ここに開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。