特許第6032561号(P6032561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032561
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】疼痛における中枢機能改善薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4535 20060101AFI20161121BHJP
   A61K 31/485 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   A61K31/4535
   A61K31/485
   A61P25/00
   A61P25/04
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-502409(P2013-502409)
(86)(22)【出願日】2012年3月2日
(86)【国際出願番号】JP2012055328
(87)【国際公開番号】WO2012118172
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2015年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-47004(P2011-47004)
(32)【優先日】2011年3月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】高濱 和夫
(72)【発明者】
【氏名】川浦 一晃
(72)【発明者】
【氏名】本田 宗吉
(72)【発明者】
【氏名】白崎 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】副田 二三夫
(72)【発明者】
【氏名】浦嶋 優里
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−227631(JP,A)
【文献】 特表2005−533046(JP,A)
【文献】 Ikeda K, et al.,Involvement of G-protein-activated inwardly rectifying K (GIRK) channels in opioid-induced analgesia,Neuroscience Research,2000年,Vol.38, No.1,p.113-116
【文献】 森山 彩子 ほか,痛みや鎮痛における個人差の遺伝的要因,日本緩和医療薬学雑誌,2009年,第2巻,第4号,p.99−110
【文献】 林章敏,癌性疼痛の薬物療法の実際 鎮痛補助薬 2)抗うつ薬,抗不安薬,綜合臨牀,2003年 8月,第52巻,第8号,p.2363−2368
【文献】 本家好文,オピオイド鎮痛薬に鎮痛補助薬を併用すべきとき−神経因性の痛みに視点をおいて,がん患者と対症療法,2003年,第14巻, 第2号,p.54−59
【文献】 高橋美奈 外1名,21世紀のオピオイド鎮痛法の発展,がん患者と対症療法,2001年,第12巻, 第1号,p.31−35
【文献】 佐伯茂,がん疼痛に対する薬物療法,痛みと臨床,2001年,第1巻, 第1号,p.79−88
【文献】 鎌田不二子 外11名,がん性疼痛に対する鎮痛補助薬の使用状況調査,日本病院薬剤師会雑誌,2008年,第44巻, 第7号,p.1086−1089
【文献】 川浦一晃 外4名,GIRKチャネル阻害作用を持つ薬物の新規抗うつ様作用,薬学雑誌,2010年 5月,第130巻,第5号,p.699−705
【文献】 メルクマニュアル 第18版 日本語版,日経BP社,2007年 4月25日,p.1880−1889
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00−45/08
A61K 31/00−31/80
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チペピジンと麻薬性鎮痛薬としてのモルヒネとからなる疼痛における中枢機能改善薬であって、チペピジンの用量がそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現しない2.5mg/kg体重〜40mg/kg体重、好ましくは5mg/kg体重〜40mg/kg体重である第1用量であり、また麻薬性鎮痛薬の用量がそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現しない0.05mg/kg体重〜0.3mg/kg体重、好ましくは0.1mg/kg体重〜0.3mg/kg体重である第2用量であるが、第1用量と第2用量とを合わせると疼痛に対する鎮痛作用効果を発現可能な第3用量からなることを特徴とする疼痛における中枢機能改善薬。
【請求項2】
請求項1に記載の中枢機能改善薬であって、チペピジンが、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンから選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする中枢機能改善薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、疼痛における中枢機能改善薬に関するものであり、更に詳細には、GIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有するGIRKチャンネル活性化電流抑制化合物と麻薬性鎮痛薬とを有効成分とする疼痛における中枢機能改善薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌をはじめとする多くの疾患に付随する疼痛は、それ自体が種々の疾患や回復の遅延をもたらすため、臨床において大きな問題である。我が国では、WHO式3段階除痛ラダ―の普及などによってモルヒネを初めとする麻薬性鎮痛薬が積極的に使用されはじめ、投与量の増加も試みられているが、その副作用や依存が問題視されている。
【0003】
そこで、近年では、麻薬性鎮痛剤の低用量化の要請に応えるべく、抗うつ薬や抗けいれん薬などの既存の鎮痛補助薬を併用して疼痛に対する鎮痛効果を発揮できる併用療法が推進されているが、効果や鎮痛補助薬自体の副作用などの面でまだまだ不十分であり、実現されていない。そのため、現在では、副作用が少なくかつ強力な鎮痛補助薬の登場が求められている。
【0004】
本発明者らは、過去20数年にわたる中枢性鎮咳薬に関する研究の結果、鎮咳薬であるチペピジン(tipepidine)がGタンパク質共役型内向き整流性カリウムイオンチャンネル(以下、「GIRKチャンネル」ともいう)を抑制することを既に報告している(非特許文献1)。
【0005】
さらに、本発明者らは、長年に亘る研究成果を、このGIRKチャンネル活性化電流を抑制する作用を有するGIRKチャンネル抑制化合物を活性成分として含有する、うつ病や治療抵抗性うつ病などの気分障害または感情障害の治療薬(特許文献1)、注意欠陥・多動性障害の治療薬(特許文献2)、治療薬のない脳硬塞に伴う排尿障害を改善する薬剤(特許文献3)、環境化学物質に起因する脳機能障害の機能改善薬(特許文献4)、および排尿障害治療薬(特許文献5)として特許出願をしている。
【0006】
ところで、GIRKチャンネルは、心筋などに加えて脳内に広く分布し、様々な受容体と共役していて、この共役する受容体を介して、活性化され、細胞の興奮性を抑制する作用に関与していることが知られている。このGIRKチャンネル活性は細胞内の様々な要因により調節を受けていることも知られている。またGIRKチャンネルは、セロトニン(5-HT)やノルアドレナリンなどの様々な神経伝達物質受容体と共役しており、例えば5-HT1A受容体やアドレナリンα2受容体をそれぞれ刺激するセロトニンやノルアドレナリンにより活性化されることが知られている。
【0007】
そこで、本発明者らは、酢酸ライジング法(鎮痛評価法)によって、販売から半世紀経っても特に小児領域で咳止め薬として使用されていて、GIRKチャンネル活性化電流を抑制するチペピジンが鎮痛様作用を有するか否かを調べたところ、チペピジンは有意に酢酸ライジング回数を減少させた。さらに本薬物および麻薬性鎮痛薬であるモルヒネを、それぞれ単独では鎮痛作用効果を発現しない用量で併用したところ、有意に鎮痛様作用を発現することを見出した。この結果より、チペピジンは、モルヒネの低用量化を実現できる、新規鎮痛補助薬候補物質と成り得ることが示唆される。したがって、この発明は、この知見に基づいて完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−227631
【特許文献2】WO2007/037258
【特許文献3】WO2005/084709
【特許文献4】WO2007/139153
【特許文献5】特開2007−204366
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takahama, K., et al., Handb. Exp. Pharmacol. 2009:219-240
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、GIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物(以下、「GIRKチャンネル抑制化合物」ともいう)と、麻薬性鎮痛薬が有効成分である疼痛における中枢機能改善薬(以下、単に「中枢機能改善薬」ともいう)であって、該GIRKチャンネル抑制化合物の用量がそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現できない第1用量であり、また該麻薬性鎮痛薬の用量がそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現できない第2用量であるが、該第1用量と該第2用量を合わせた第3用量は疼痛に対する鎮痛作用効果を発現可能な用量であることからなる疼痛における中枢機能改善薬およびその中枢機能改善薬としての用途を提供することを目的としている。
【0011】
この発明は、その好ましい態様として、GIRKチャンネル抑制化合物が、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である疼痛における中枢機能改善薬およびその用途を提供することを目的としている。
【0012】
この発明は、その好ましい態様として、麻薬性鎮痛薬が、モルヒネ等の強オピオイド鎮痛剤またはコデイン等の弱オピオイド鎮痛剤などであることからなる疼痛における中枢機能改善薬およびその用途を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、この発明は、チペピジンと麻薬性鎮痛薬としてのモルヒネとからなる疼痛における中枢機能改善薬であって、チペピジンの用量がそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現しない2.5mg/kg体重〜40mg/kg体重、好ましくは5mg/kg体重〜40mg/kg体重である第1用量であり、また麻薬性鎮痛薬の用量がそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現しない0.05mg/kg体重〜0.3mg/kg体重、好ましくは0.1mg/kg体重〜0.3mg/kg体重である第2用量であるが、第1用量と第2用量とを合わせると疼痛に対する鎮痛作用効果を発現可能な第3用量からなることを特徴とする疼痛における中枢機能改善薬を提供する。
【0015】
この発明は、その好ましい態様として、該チペピジンが、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンから選ばれる少なくとも1種の化合物である疼痛における中枢機能改善薬およびその用途を提供する。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係る疼痛における中枢機能改善薬は、長年小児領域で鎮咳薬として使用されている副作用が極めて少ないチペピジンなどのGIRKチャンネル抑制化合物と、モルヒネなどの麻薬性鎮痛剤とを有効成分として含有する薬剤であることから、疼痛の治療に当たって疼痛改善作用により中枢機能が改善できる薬剤である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】酢酸ライジング法によるチペピジンとモルヒネとの併用投与の鎮痛効果を示す図。
図2】酢酸ライジング法によるチペピジン単独投与の鎮痛効果を示す図。
図3】酢酸ライジング法によるモルヒネ単独投与の鎮痛効果を示す図。
図4】酢酸ライジング法によるモルヒネ単独投与ならびにエタノール単独投与と、モルヒネ/エタノール併用投与の鎮痛効果を比較した結果を示す図。
図5】酢酸ライジング法によるモルヒネ単独投与ならびにエタノール単独投与、およびモルヒネ/エタノール併用投与の鎮痛効果を比較した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る疼痛における中枢機能改善薬は、GIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物(GIRKチャンネル抑制化合物)と、麻薬性鎮痛剤とを有効成分として含有する副作用が少ない薬剤であって、該GIRKチャンネル抑制化合物の用量がそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現しない第1用量であり、また該麻薬性鎮痛薬の用量がそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現しない第2用量であるが、該第1用量と該第2用量を合わせると疼痛に対する鎮痛作用効果を発現可能な第3用量からなることを特徴とする。
【0020】
この発明において使用可能なGIRKチャンネル活性化電流抑制作用を有する化合物は、細胞内のGIRKチャンネル活性化電流を抑制することができる化合物であって、例えば、クロペラスチン、塩酸クロペラスチン、フェンジゾ酸クロペラスチン、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジンおよびクエン酸イソアミニルから選択することができ、これらの化合物は有効成分として単独でもまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
また、麻薬性鎮痛薬としては、例えば、モルヒネ、ジアモルヒネ、フェナゾシン、ベチジン、ブブレノルフィン、ナルブフィン等の強オピオイド鎮痛薬またはコデイン、ジヒドロコデイン、ペンタゾシン、ナロキソン等の弱オピオイド鎮痛剤などが挙げられ、単独でもまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0022】
さらに、この発明の中枢機能改善薬においては、GIRKチャンネル抑制化合物の第1用量は、それ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現しない用量であるが、麻薬性鎮痛薬の第2用量と合わせることによって、疼痛に対する鎮痛作用効果を発現可能な用量である必要がある。その用量にしても、投与対象の患者の年齢、体重等の身体状態、投与形態や病態などによって変えることができ、例えば、一般には2.5 mg/kg体重〜40 mg/kg体重、好ましくは5 mg/kg体重〜40 mg/kg体重であるのがよい。
【0023】
同様に、麻薬性鎮痛薬の第2用量は、それ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現しない用量であるが、GIRKチャンネル抑制化合物の第1用量と合わせることによって、疼痛に対する鎮痛作用効果を発現可能な用量である必要がある。その用量にしても、投与対象の患者の年齢、体重等の身体状態、投与形態や病態などによって変えることができ、例えば、一般には0.05 mg/kg体重〜0.3 mg/kg体重、好ましくは0.1 mg/kg体重〜0.3 mg/kg体重であるのがよい。
【0024】
さらに、GIRKチャンネル抑制化合物の第1用量と麻薬性鎮痛薬の第2用量とを合わせた第3用量は、疼痛に対する鎮痛作用効果を発現可能な用量である必要がある。また、その用量にしても、投与対象の患者の年齢、体重等の身体状態、投与形態や病態などによって変えることができ、例えば、一般にはさらに該第3用量が、一般には0.05 mg/kg体重〜2.5 mg/kg体重、好ましくは0.1 mg/kg体重〜2.5 mg/kg体重であるのがよい。
【0025】
また、この発明の中枢機能改善薬は、GIRKチャンネル抑制化合物の第1用量と麻薬性鎮痛薬の第2用量とを適宜合わせて疼痛に対する鎮痛作用効果を発現する第3用量を含有する合剤として調剤することができる。しかし、場合によっては、GIRKチャンネル抑制化合物の第1用量と麻薬性鎮痛薬の第2用量とを別個に単独に合計容量が第3用量になるように投与することもできる。このような投与形態もこの発明に包含されるものとする。
【0026】
この発明に係る中枢機能改善薬は、経口的(舌下投与を含む)または非経口的に投与される。このような薬剤の形態としては、錠剤 、カプセル剤 、細粒剤 、丸剤 、トローチ剤 、輸液剤 、注射剤 、坐剤 、軟膏剤 、貼付剤等を挙げることができる。
【0027】
この発明の中枢機能改善薬を輸液剤として生体内に投与する際には、生理食塩水に、必要に応じて他の水溶性の添加剤、薬液を配合したものを用いることができる。このような水に添加される添加剤としては、カリウム、マグネシウム等のアルカリ金属イオン、乳酸、各種アミノ酸、脂肪、グルコース、フラクトース、サッカロース等の糖質等の栄養剤、ビタミンA、B、C、D等のビタミン類、リン酸イオン、塩素イオン、ホルモン剤、アルブミン等の血漿蛋白、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ等の高分子多糖類等を挙げることができる。このような水溶液における化合物の濃度は、10-7Mから10-5Mの濃度の範囲とすることが好ましい。
【0028】
この発明による中枢機能改善薬はまた、固形剤として生体に投与することができる。固形剤としては、粉末、細粒、顆粒、マイクロカブセル、錠剤等を挙げることができる。このような固形剤の中では、好ましくは嚥下しやすい錠剤の形状をしていることが好ましい。
【0029】
錠剤を形成するための充填剤、粘結剤としては公知のもの、例えばオリゴ糖等を使用することが出来る。錠剤の直径は2〜10mm、厚さは1〜5mmの範囲にあることが好ましい。また、他の治療薬と混合して使用してもよい。
【0030】
固形剤には通常用いられる種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、安定剤、界面活性剤、可溶化剤、可塑剤、甘味剤、抗酸化剤、着香剤、着色剤、保存剤、無機充填剤等を挙げることができる。
【0031】
界面活性剤としては、高級脂肪酸石鹸、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アシルN−メチルタウリン塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、N−アシルアミノ酸塩等のアニオン界面活性剤;塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシ−N−ヒドロキシイミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレン型、多価アルコールエステル型、エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロック共重合体等の非イオン界面活性剤があるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
嚥下性等の改良等の目的のため配合される無機充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、二酸化チタン等を挙げることができる。
【0033】
安定剤としては、例えば、アジピン酸、アスコルビン酸等を挙げることができる。可溶化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリルアルコール等の界面活性剤、アスパラギン、アルギニン等を挙げることができる。甘味剤として、アスパルテーム、アマチャ、カンソウ等、ウイキョウ等を挙げることができる。
【0034】
懸濁化剤としては、カルボキシビニルポリマー等を、抗酸化剤としては、アスコルビン酸等を、着香剤としては、シュガーフレーバー等を、pH調整剤としてはクエン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0035】
この発明による中枢機能改善薬は、通常1回1〜40mg、好ましくは10mg〜20mg、1日3回までの範囲で体内に投与するのがよい。
【0036】
以下の実施例によりこの発明を更に詳しく説明するが、この発明はこれらの実施例によって一切限定されるものではない。
【0037】
〔実施例1〕
本実施例は、チペピジンの鎮痛作用効果の発現しない用量とモルヒネの鎮痛作用効果の発現しない用量で併用した時の鎮痛作用効果の発現を示す実験である。この実験は、一般的な鎮痛活性評価法である、「酢酸ライジング試験」方法を用いて行った。この方法は、酢酸を投与した際に現れる、マウスのライジング反応(腹が垂れ、身体をよじる反応)の回数を一定時間内でカウントする方法である。この試験は、ある化合物を投与し、その回数が減少した時、鎮痛活性ありと判定する。ddY系 雄性マウス(26-45 g)(九動株式会社)に、塩酸モルヒネ (0.05-0.3 mg/kg)(大日本住友製薬)を皮下投与し、その10分後にクエン酸チペピジン(2.5 mg/kg) (田辺三菱製薬)を腹腔内投与した。そして、その20分後に酢酸(1%)(WAKO)腹腔内投与し、その5分後からライジング回数を10分間測定した。測定は、主観的要素を排除するために、実験者と測定者は別の者で行った。塩酸モルヒネおよびクエン酸チペピジンは、生理食塩水(0.9 %)で溶解し、酢酸は、超純水にて溶解した。塩酸モルヒネは5 ml/kg、クエン酸チペピジンおよび酢酸は、10 ml/kgの容量で投与した。その結果、塩酸モルヒネ (0.1 および0.3 mg/kg)とクエン酸チペピジン (2.5 mg/kg)の併用によって、有意なライジング回数の減少を示した(図1)。
【0038】
〔比較例1〕
本実験例は、チペピジン単独投与による鎮痛効果を示す比較例である。
ddY系 雄性マウス(26-45 g)(九動株式会社)に、クエン酸チペピジン(2.5 -40 mg/kg)(田辺三菱製薬)を腹腔内投与した。そして、その20分後に酢酸(1%)(WAKO]を腹腔内投与し、その5分後からライジング回数を10分間測定した。測定は、主観的要素を排除するために、実験者と測定者は別の者で行った。クエン酸チペピジンは、生理食塩水(0.9 %)で溶解した。酢酸は、超純水にて溶解した。クエン酸チペピジンおよび酢酸は、10 ml/kgの容量で投与した。クエン酸チペピジン (5 -40 mg/kg)によって有意なライジング回数の減少を示した。しかし、2.5 mg/kgでは、有意な減少を示さなかった(図2)。
【0039】
〔比較例2〕
本実験例は、モルヒネ単独投与による鎮痛効果を示す比較例である。
ddY系 雄性マウス(26-45 g)(九動株式会社)に、塩酸モルヒネ (0.05-0.3 mg/kg)(大日本住友製薬)を皮下投与した。そして、その30分後に酢酸(1%)(WAKO]を腹腔内投与し、その5分後からライジング回数を10分間測定した。測定は、主観的要素を排除するために、実験者と測定者は別の者で行った。塩酸モルヒネは、生理食塩水(0.9 %)で溶解し、酢酸は、超純水にて溶解した。塩酸モルヒネは5 ml/kgの容量で投与した。その結果、塩酸モルヒネ(0.3 mg/kg)によって有意なライジング回数の減少を示した。しかし、0.05および0.1 mg/kgでは、有意な減少を示さなかった(図3)。
【0040】
〔実施例2〕
本実施例では、GIRKチャネルに影響を与えるとされているエタノールを用いて、エタノール/モルヒネとの併用投与した場合の併用効果を調べた。
【0041】
試験は、エタノールとモルヒネのいずれも投与しない(コントロール)群、エタノールのみ投与した群(以下、Et+/mor-と示す)、モルヒネのみ投与した群(以下、Et-/mor+と示す)、エタノールとモルヒネとの両方を投与した群(以下、Et+/mor+と示す)の4群にマウスを無作為に分類して行った。各群に分類されたマウスはいずれも雄性ddYマウス(30〜37g)である。
【0042】
また、本実施例2では、投与するエタノールの量が少ない第1試験と、投与するエタノールの量が多い第2試験との2種の試験を行った。第1試験においてエタノールを投与する群のマウスに投与されたエタノールの量は0.1g/kgである。また、第2試験においてエタノールを投与する群のマウスに投与されたエタノールの量は1.0g/kgである。
【0043】
また、本実施例2における第1試験及び第2試験は、投与するエタノールの量のみが異なる共通のプロトコルで実施された。すなわち、コントロール群以外の群のマウスにモルヒネ(0.1 mg/kg)を皮下投与し、10分後にEt+/mor-群及びEt+/mor+群に対し、第1試験では0.1g/kg、第2試験では1.0g/kgのエタノールを腹腔内に投与した。
【0044】
そして、その20分後に全ての群のマウスに対して1%酢酸溶液を0.1 ml/10g、腹腔内に投与し、酢酸投与5分後から10分間のライジングの回数を数えた。その結果を図4および図5に示す。
【0045】
図4は第1試験における結果を示している。本第1試験のデータ解析時に行った有意差検定の結果、いずれの群間においても有意差(p<0.05)は見られなかった。
【0046】
モルヒネ0.1 mg/kgの皮下投与(例えば、Et+/mor-群)は、コントロール群との群間有意差がないことからも分かるように鎮痛効果を示さない用量であるが、図4からも分かるように、この用量のモルヒネと、0.1g/kgのエタノールとを併称した場合(Et+/mor+群)であっても、モルヒネの鎮痛効果は増強されなかった。すなわち、0.1g/kgのエタノールでは、併用による相乗効果は見られなかった。
【0047】
次に、第2試験において1.0g/kgのエタノールとの併用効果について更に検討した結果を図5に示す。なお、第2試験におけるコントロール群は、第1試験におけるコントロール群と同じであるため、図5におけるコントロール群のグラフは省略している。本第2試験のデータ解析時に行った有意差検定の結果でも、いずれの群間においても有意差(p<0.05)は見られなかった。
【0048】
図5において、Et-/mor+群と、Et+/mor+群とを比較すると、Et+/mor+群は、Et-/mor+群に比して若干のライジング回数の減少が認められた。このことから、エタノールの増量により、鎮痛効果がわずかに増強される可能性は否定できない。しかしながら、これらの群間においても有意差(p<0.05)はなく、また、投与したエタノールの1.0g/kgという用量は極めて大用量であることから、モルヒネの鎮痛効果増強のための併用物質としては非現実的であると考えられる。
【0049】
一方、これらの結果を踏まえると、チペピジンは、大用量のエタノールによる弊害を防止可能であることは勿論のこと、エタノールに比して、より低用量で効果的に鎮痛増強効果を生起可能であるものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明に係る中枢機能改善薬は、GIRKチャンネル抑制化合物と、麻薬性鎮痛剤をそれぞれそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現できない用量でありながら、GIRKチャンネル抑制化合物と麻薬性鎮痛剤との用量を合わせることによる相乗効果により疼痛における鎮痛効果を奏することができることから、疼痛における中枢機能を改善することができる中枢機能改善薬として有用である。また、特に、麻薬性鎮痛薬をそれ単独では疼痛に対する鎮痛作用効果を発現しない用量しか適用しないことから、副作用が非常少ない中枢機能改善薬として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5