特許第6032563号(P6032563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032563
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】マイクロ波処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/68 20060101AFI20161121BHJP
   H05B 6/66 20060101ALI20161121BHJP
   H05B 6/64 20060101ALI20161121BHJP
   H05B 6/72 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   H05B6/68 320Z
   H05B6/66 C
   H05B6/64 G
   H05B6/64 H
   H05B6/64 D
   H05B6/72 D
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-533534(P2013-533534)
(86)(22)【出願日】2012年9月14日
(86)【国際出願番号】JP2012005922
(87)【国際公開番号】WO2013038715
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-202622(P2011-202622)
(32)【優先日】2011年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(74)【代理人】
【識別番号】100138771
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 将明
(72)【発明者】
【氏名】武藤 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】信江 等隆
【審査官】 土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−066292(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/004561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/68
H05B 6/64
H05B 6/66
H05B 6/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を収納する加熱室と、
加熱周波数の源信を出力する発振部と、
前記発振部の出力を電力増幅する半導体素子を用いた電力増幅部と、
前記電力増幅部の出力を前記加熱室に供給する給電部と、
前記電力増幅部から前記給電部に供給される入射電力および前記給電部から前記電力増幅部に反射する反射電力を検出する電力検出部と、
前記発振部の発振周波数と前記電力増幅部を制御する制御部と、
を備え、
前記給電部は、少なくとも前記加熱室を構成する壁面に配置され、
前記制御部は、加熱動作開始前に前記電力増幅部を低出力動作させ、所定の周波数範囲において前記発振部の発振周波数を変化させて前記電力検出部によって検出される反射電力を検出し、前記検出された反射電力の極小点周波数の上位数点を用いることにより前記発振部の加熱周波数を複数点決定し、前記複数の加熱周波数について所定の単位時間内で周波数ホッピング加熱し、周波数ホッピングの周期あたりの各加熱周波数の加熱時間を、複数の加熱周波数の各々の検出電力情報に基づいた時間係数によって定める、マイクロ波処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電力増幅部から前記給電部に供給される入射電力および前記給電部から前記電力増幅部へ反射される反射電力より計算される入反射電力比について所定の閾値を設定し、周波数ホッピング加熱に用いる加熱周波数として、前記閾値以下の範囲から前記反射電力、すなわち前記入反射電力比の小さい上位数点を選択する、
請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記複数の加熱周波数の各々の検出電力情報に基づいた時間係数を用いた周波数ホッピング加熱において、各加熱周波数あたりの負荷入射電力がほぼ等しくなる様に制御する、
請求項に記載のマイクロ波処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種のマイクロ波処理装置として、被加熱部の均一加熱に関して様々な提案がなされている。複数給電に関して、2つの給電口をソレノイド等からなる摺動手段にて交互に塞ぐことによりマグネトロンで発生させたマイクロ波のモードを連続的に変化させる高周波加熱装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、キャビティ壁面に関して、被加熱物と底面との接触面積を減少させる、凹凸部を設けたことを特徴とする高周波加熱装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開昭59−029397号公報
【特許文献2】日本国特開2003−307317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の高周波加熱装置は、スタラファン、回転テーブル、回転アンテナなどの機構部品を追加することで加熱室へ入射するマイクロ波を撹拌している。
【0006】
また、前記特許文献1は複数個所で給電する構成、一方前記特許文献2はキャビティ壁面形状を凹凸とする構成によりマイクロ波の集中および拡散を図っている。
【0007】
しかしながら、前記回転機構部品の追加、給電箇所の追加およびキャビティ壁面の加工により加熱室の容積が減少する弊害が発生し、加えてコストも増加傾向となり、機器の小型化および低コスト化の要求と相反する結果となる。
【0008】
本発明の目的は、前記従来の課題を解決するもので、機構部品の追加および加工を一切することなく均一加熱を実現するマイクロ波処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明のマイクロ波処理装置は、被加熱物を収納する加熱室と、加熱周波数の源信を出力する発振部と、前記発振部の出力を電力増幅する半導体素子を用いた電力増幅部と、前記電力増幅部の出力を前記加熱室に供給する給電部と、前記電力増幅部から前記給電部に供給される入射電力および前記給電部から前記電力増幅部に反射する反射電力を検出する電力検出部と、前記発振部の発振周波数と前記電力増幅部を制御する制御部と、を備え、前記給電部は、少なくとも前記加熱室を構成する壁面に配置され、前記制御部は、加熱動作開始前に前記電力増幅部を低出力動作させ、所定の周波数範囲において前記発振部の発振周波数を変化させて前記電力検出部によって検出される反射電力を検出し、前記検出された反射電力の極小点周波数の上位数点を用いることにより前記発振部の加熱周波数を複数点決定し、前記複数の加熱周波数について所定の単位時間内で周波数ホッピング加熱し、周波数ホッピングの周期あたりの各加熱周波数の加熱時間を、複数の加熱周波数の各々の検出電力情報に基づいた時間係数によって定める。
【0010】
これにより、加熱分布の時間的な拡散が可能となり、被加熱物に対する局所加熱を防止する効果を有する。
【0011】
また、前記制御部は、前記の抽出した反射電力の極小点周波数における上位数点を用いたマイクロ波加熱において、抽出した複数周波数に関する検出電力情報に基づいた時間係数を掛け合わせことにより、被加熱物に対する各周波数あたりの入射電力をほぼ等しくなる様に制御する。
【0012】
これにより、選択した各周波数における反射電力、すなわち被加熱物へ入射する電力強度が異なるが、前記各周波数の時間係数を用いた重み付け加熱により各周波数あたりの負荷入射電力がほぼ等しくなる為、均一加熱における仕上がり品質の更なる向上を実現する。
【0013】
また単数給電または複数給電ともに有効な技術であるが、特に、マイクロ波の撹拌機構を有さない単数給電方式のマイクロ波処理装置において加熱ムラを防止する効果が高い。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマイクロ波処理装置は、反射電力の少ない複数の周波数を用いた周波数ホッピング加熱により、回転機構および加熱室容積を増加することなく加熱室内の加熱分布を変化させ、被加熱部の均一加熱をシステム制御のみで実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波処理装置の構成図
図2】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波処理装置の電力検出特性図
図3】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波処理装置の電力検出特性図
図4】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波処理装置の電力検出特性図
図5】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波処理装置の制御フローチャート
図6】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波処理装置の制御フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、被加熱物を収納する加熱室と、加熱周波数の源信を出力する発振部と、前記発振部の出力を電力増幅する半導体素子を用いた電力増幅部と、前記電力増幅部の出力を前記加熱室に供給する給電部と、前記電力増幅部から前記給電部に供給される入射電力および前記給電部から前記電力増幅部に反射する反射電力を検出する電力検出部と、前記発振部の発振周波数と前記電力増幅部を制御する制御部と、を備え、前記給電部は、少なくとも前記加熱室を構成する壁面に配置され、前記制御部は、加熱動作開始前に前記電力増幅部を低出力動作させ、所定の周波数範囲において前記発振部の発振周波数を変化させて前記電力検出部によって検出される反射電力を検出し、前記検出された反射電力の極小点周波数の上位数点を用いることにより前記発振部の加熱周波数を複数点決定し、前記複数の加熱周波数について所定の単位時間内で周波数ホッピング加熱する。これにより、スタラファンなどのマイクロ波の撹拌機構を追加することなくシステム制御のみで加熱室のマイクロ波加熱分布を変化し、被加熱物に対するマイクロ波の局所集中による加熱ムラを解消する作用を有する。
【0017】
したがって、機構部品の追加および加工が不必要となり、加熱室容積を犠牲にする弊害は発生しなく、更に部材コストも一切発生しないため、コストアップなく前記作用を獲得可能となる。また、上記の構成は、特に撹拌機構を持たない単数給電部構成のマイクロ波処理装置では、一般的に加熱分布を変化させることが困難である為、加熱分布の拡散に対する効果が大きい。
【0018】
第2の発明は、特に第1の発明において、制御部が、前記電力増幅部から前記給電部に供給される入射電力および前記給電部から前記電力増幅部へ反射される反射電力より計算される入反射電力比について所定の閾値を設定し、周波数ホッピング加熱に用いる加熱周波数として、前記閾値以下の範囲から前記反射電力、すなわち前記入反射電力比の小さい上位数点を選択する。これにより、被加熱物の高効率な加熱を実現する。
【0019】
第3の発明は、特に第1の発明において、制御部が、周波数ホッピングの周期あたりの各加熱周波数の加熱時間を、複数の加熱周波数の各々の検出電力情報に基づいた時間係数によって定める。これにより、反射電力の小さい、すなわち被加熱物へ吸収される電力の大きい加熱周波数ほど加熱時間を短くし、反射電力の大きい、すなわち被加熱物へ吸収される電力の小さい加熱周波数ほど加熱時間を長くすることにより各加熱周波数あたりの被加熱物へ吸収される電力がほぼ等しくなる為、被加熱物の局所加熱を防止する。
【0020】
第4の発明は、特に第3の発明において、制御部が、複数の加熱周波数の各々の検出電力情報に基づく時間係数を用いた周波数ホッピング加熱において、各加熱周波数あたりの負荷入射電力がほぼ等しくなる様に制御する。これにより、精度の高い均一加熱を実現する。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。尚、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるマイクロ波処理装置の構成図である。
【0023】
図1において、マイクロ波発生部11は半導体素子を用いて構成した発振部12、発振部12の出力を電力増幅する半導体素子を用いて構成した電力増幅部13と、電力増幅部13によって増幅されたマイクロ波出力を加熱室14内に放射する給電部15と、電力増幅部13と給電部15を接続するマイクロ波伝送路に挿入され給電部15から電力増幅部13へ反射する電力および電力増幅部13から給電部15へ供給される入射電力を検出する電力検出部16と、電力検出部16によって検出された入射電力および反射電力によって電力増幅部13を制御する制御部17とで構成している。
【0024】
また、本実施の形態1のマイクロ波処理装置は、被加熱物18を収納する略直方体構造からなる加熱室14を有し、加熱室14は金属材料からなる左壁面、右壁面、底壁面、上壁面、奥壁面および被加熱物18を収納するために開閉する開閉扉(図示していない)と、被加熱物18を載置する載置台19から構成し、供給されるマイクロ波を内部に閉じ込めるように構成している。そして、マイクロ波発生部11の出力が伝送されそのマイクロ波を加熱室14内に放射供給する給電部15が加熱室14を構成する壁面に配置されている。本実施の形態では給電部15は加熱室14の底面に配置した図を示しているが、この給電部の配置は本実施の形態に拘束されるものではなく加熱室14を構成するいずれかの壁面に配置してもかまわない。
【0025】
電力増幅部13は、低誘電損失材料から構成した誘電体基板の片面に形成した導電体パターンにて回路を構成し、増幅素子である半導体素子を良好に動作させるべく各半導体素子の入力側と出力側にそれぞれ整合回路を配している。
【0026】
各々の機能ブロックを接続するマイクロ波伝送路は、誘電体基板の片面に設けた導電体パターンによって特性インピーダンスが略50Ωの伝送回路を形成している。また、電力検出部16は、加熱室14側から電力増幅部13側に伝送するいわゆる反射波の電力および電力増幅部13側から加熱室14側に伝送するいわゆる入射電力を抽出するものであり、電力結合度をたとえば約−40dBとし、反射電力および入射電力の約1/10000の電力を抽出する。この電力信号はそれぞれ、検波ダイオード(図示していない)で整流化し、コンデンサ(図示していない)で平滑処理し、その出力信号を制御部17に入力させている。
【0027】
制御部17は、使用者が直接入力する被加熱物18の加熱条件あるいは加熱中に被加熱物18の加熱状態から得られる加熱情報と電力検出部16よりの検知情報に基づいて、マイクロ波発生部11の構成要素である発振部12と電力増幅部13のそれぞれに供給する駆動電力を制御し、加熱室14内に収納された被加熱物18を最適に加熱する。また、マイクロ波発生部11には主に電力増幅部13に備えた半導体素子の発熱を放熱させる放熱手段(図示していない)を配する。
【0028】
図2から図4は、極小点周波数の抽出方法を説明する電力検出特性図である。各々の図は異なる被加熱物を収容した加熱室14にマイクロ波を供給した時の代表例であり、各曲線は、マイクロ波発生部11が発生した周波数帯、例えば2400〜2500MHzに対して電力検出部16が検出した信号に基づき制御部17が演算した入射電力(Pf)に対する反射電力(Pr)の割合をパーセント表示したものである。つまり、図2図4の各曲線は、反射電力(Pr)/入射電力(Pf)比21〜23を示す。また、各図中、所定の閾値25のレベルを破線で示す。
【0029】
図2は、閾値25を下回るPr/Pfの領域において極小点が複数存在する場合を示す。図2の場合、極小点周波数は昇順にf11、f12、f13とし、これらの周波数を本発明の周波数ホッピング加熱に用いる加熱周波数に設定する。
【0030】
図3は閾値25を下回るPr/Pfの領域において極小点が1点のみ存在する場合を示す。図3の場合、極小点周波数をf21に、Pr/Pf特性曲線と閾値直線との交点についてそれぞれ低周波側をf22、高周波側をf23とし、これらの周波数を本発明の周波数ホッピング加熱に用いる加熱周波数に選択する。
【0031】
図4は閾値25を下回るPr/Pfの領域において極小点が存在しない場合を示す。図4の場合、発振周波数の最低周波数をf31、最低周波数と最高周波数の中点周波数をf32、最高周波数をf33とし、これらの周波数を本発明の周波数ホッピング加熱に用いる加熱周波数に選択する。
【0032】
以上のように構成されたマイクロ波処理装置について、以下その動作と作用について図5および図6を参照しながら説明する。
【0033】
まず被加熱物18を加熱室14に収納し、操作部(図示していない)から加熱条件入力し、制御部17へ加熱開始信号が送信される(ステップS11)。その後、制御部17は、ステップS11より送信された情報に基づき駆動電源(図示していない)を動作させ、発振部12に電力を供給する(ステップS12)。
【0034】
次のステップS13では、発振部12の発振周波数を最低周波数、例えば2400MHzに設定する電圧信号を供給し、発振が開始するとともに、以降、駆動電源を制御して電力増幅部13を動作させる。このとき、電力増幅部13からは、第1の出力電力、たとえば10W未満のマイクロ波が出力される。次のステップS14では、給電部15に供給される入射電力(Pf)および給電部15から電力検出部16に戻ってくる反射電力(Pr)を電力検出部16によって検出し、その検出値を制御部17へ保存する。次のステップS15では、発振周波数が最高周波数、例えば2500MHzへ達しているか否か判別する。2500MHzへ達していない場合はステップS19へ進み、発振周波数へ所定のスキャン周波数ピッチ分、例えば1MHzを加算した後、更新した発振周波数にてマイクロ波を出力し、再びステップS14およびステップS15へ進む。2500MHzへ達している場合はステップS16へ進み、第1の出力電力によるマイクロ波出力を停止する。
【0035】
次のステップS17では、制御部17にて保存した各周波数の入射電力(Pf)および反射電力(Pr)の検出値より周波数を変数としたPr/Pf特性を計算する。このPr/Pf特性は、単位をパーセント:%とし、その値が小さいほど被加熱物18へ吸収される電力が大きい為、給電部15から電力検出部16に戻ってくる反射電力が小さく、被加熱物18に対する加熱効率が高いことを意味する。一方、Pr/Pfが大きい場合は、被加熱物18へ吸収される電力が小さい為、給電部15から電力検出部16に戻ってくる反射電力が大きく、加熱効率が低いことを意味する。次のステップS18では、先のステップS17にて計算したPr/Pf特性について、最小となるPr/Pf値に対して所定の数値、例えば10%を加算した値を所定の閾値に設定する。
【0036】
次のステップS20では、Pr/Pf特性について先のステップS18で設定した閾値以下の領域より極小点周波数が複数存在するか否かを判別する。図2に示したように、極小点周波数が複数点存在する場合にはステップS21へ進み、昇順にf11、f12、f13、・・・と設定する。よって、Pr/Pfが最小値である周波数をf11と設定することを意味する。一方、ステップS20にて極小点周波数が複数点存在しない場合にはステップS27へ進み、更に極小点周波数が1点のみ存在するか否かを判別する。図3に示したように、極小点周波数が1点のみ存在する場合にはステップS28へ進み、極小点周波数をf21に、Pr/Pf特性曲線と閾値直線との交点についてそれぞれ低周波側をf22、高周波側をf23と設定する。図4に示したように、極小点周波数が存在しない、すなわちPr/Pf特性曲線と閾値直線との交点が存在しない場合にはステップS29へ進み、発振周波数の最低周波数をf31、最低周波数と最高周波数の中点周波数をf32、最高周波数をf33に設定する。以降の説明では、f11、f12およびf13の3周波数を周波数ホッピング加熱に用いる加熱周波数とした場合を代表として説明する。
【0037】
次にステップS22では、先のステップS21、ステップS28およびステップS29にて設定された加熱周波数により各加熱周波数における加熱時間の重み付け係数を計算する。加熱周波数ごとの重み付け係数はBnとし、Ap(k−n+1)/ΣApnにより定義される。ここで、Apnは加熱周波数ごとの被加熱物吸収電力率であり、1−(Prn/Pfn)によって定義され、ΣApnはApnの総和によって定義される。また、nは先のステップS21、ステップS28およびステップS29にて設定された加熱周波数fの後に付与された二桁の数字の一の位の値に等しく、kは加熱周波数の数に等しい。例えば、加熱周波数がf11の場合における重み付け係数B1は、Ap(3−1+1)/ΣApn = Ap3/(Ap1+Ap2+Ap3)となる。よって、反射電力が最も小さい、すなわち被加熱物へ吸収される電力が最も大きい加熱周波数f11の加熱時間は、設定された周波数の中で被加熱物へ吸収される電力が最も小さい加熱周波数f13の被加熱物吸収電力率Ap3に比例する為、3周波数中で最も短かい時間に設定される。一方、加熱周波数f13の加熱時間は、加熱周波数f11の被加熱物吸収電力率Ap1に比例する為、最も長い時間に設定される。
【0038】
次にステップS23では、発振周波数をf11に設定し、第2の出力電力、例えば20Wのマイクロ波電力を出力する。その直後、所定のホッピング周期Th、例えば1秒の期間について、先のステップS22によって計算された重み付け係数に基づき周波数ホッピング加熱も開始する。一般的に周波数ホッピングとは、データ通信で用いられるスペクトラム拡散方式の一つであり、極めて短い時間、例えば、0.1秒ごとに信号の送信周波数を次々に変更していく為、特定周波数でノイズが発生した場合でも他の周波数で通信したデータによって訂正を可能とする技術である。ここでは、ホッピング周期Th内に複数の加熱周波数を用いて順次異なる周波数によって被加熱物を加熱するマイクロ波加熱方式を周波数ホッピング加熱と呼称する。ここで、所定のホッピング周期Th秒に被加熱物18へ吸収されるエネルギーEinは、Pf・Σ(Apn・Bn)・Thの式で定義され、単位はジュール:Jである。例えば、ホッピング周期あたりの加熱周波数f11の加熱時間は、前述のEinの式よりB1・Th秒となる。
【0039】
周波数ホッピング加熱は、次工程であるのステップS24のPr/Pf特性の所定の再検出時間Td、例えば5秒間繰り返される。再検出時間Tdに達した後ステップS25へ進み、被加熱物18が加熱前に設定された加熱条件を満たしている場合は、ステップS26へ進み、充たしていない場合はステップS14へ戻り再びPr/Pf特性を取得し、ステップS25までの一連の工程を繰り返す。ステップS26では、先のステップS25にて被加熱物18の加熱条件が満たされたと判断された為、第2のマイクロ波電力を停止し、被加熱物の加熱を終了する。
【0040】
このように反射電力、すなわちPr/Pf特性の極小点周波数のうち上位数点を求めることによって、所定の電力を出力する加熱動作時における反射電力を極力小さくして加熱動作するため効率的に被加熱物18にマイクロ波のエネルギーを吸収させることが可能となる。また、マイクロ波による加熱室14の加熱分布は周波数ごとに異なる分布を有する為、複数の設定周波数により複数の加熱分布によって被加熱物を加熱することが可能となり、加熱ムラは低減される。更に、検出電力情報に基づいて設定周波数ごと重み付け係数を付与することで、ホッピング周期あたりの設定した加熱周波数における被加熱物へ吸収される電力をほぼ等しくすることが可能となり、高精度な均一加熱を実現する。
【0041】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2011年9月16日出願の日本特許出願No.2011-202622に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように本発明にかかるマイクロ波処理装置は、既存の電子レンジの代替はもちろん、単一アンテナおよびシステム制御のみで均一加熱を可能とする為、機構制約の厳しいシステムキッチンへの実装や他の機器、たとえば冷蔵庫や自販機への一体組立を実現可能とする。
【符号の説明】
【0043】
11 マイクロ波発生部
12 発振部
13 電力増幅部
14 加熱室
15 給電部
16 電力検出部
17 制御部
18 被加熱物
19 載置台
21、22,23 反射電力(Pr) / 入射電力(Pf)比
25 閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6