(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤および無機充填材を必須成分として含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、無機充填材が全体量に対して80〜
85質量%の範囲を占めるとともに、前記エポキシ樹脂中の
29〜100質量%の範囲内で次式(1)で表わされるエポキシ樹脂が配合され、
前記次式(1)で表わされるエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂がビフェニル型エポキシ樹脂であり、かつ、前記フェノール系硬化剤中の
9.8〜50.8質量%の範囲内で次式(2)で表わされるフェノール系硬化剤が配合され、
前記次式(2)で表わされるフェノール系硬化剤以外のフェノール系硬化剤がフェノールノボラック樹脂であり、成形収縮率が0.30%以下であり、線膨張係数が40.0×10−6/℃以下であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】
(式中のR
1、R
2、R
3は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリル基のうちのいずれかを示し、互いに同一でも異っていてもよく、OGはグリシジルエーテル基を示し、kは0〜4のうちのいずれかの整数を示す。)
【化2】
【背景技術】
【0002】
従来、IC、LSI等の半導体チップの封止材としてセラミックや熱硬化性樹脂組成物が一般に用いられている。なかでも、エポキシ樹脂組成物は経済性と性能のバランスの点で優れた封止材である。エポキシ樹脂組成物は、例えば、近年の電子機器の小型化、薄型化にともない主流になりつつある表面実装型パッケージの封止材として広く用いられている。
【0003】
そして近年では、表面実装型パッケージの中でも、より実装密度の高いエリア実装型のBGAパッケージが多くなりつつある。
【0004】
しかしながら、このBGAパッケージは片面封止型であるために反りが発生し、半田リフロー時に問題となる。
【0005】
この反りを低減する方法としては、無機充填材を高充填することで線膨張を低減し、リフロー時の反りの変化量を低減させる方法がある。しかしながら、この方法では成形時の流動性が低下するためにワイヤースイープが起こってしまう場合がある。
【0006】
そこで、半田リフロー時の反りを低減することを実装時においても可能とするため、室温からリフロー温度における反りの温度変化を小さくすることが提案されている(特許文献1、2)。ここでは、エポキシ樹脂としてナフタレン骨格を持つグリシジルエーテルを使用している。
【0007】
また、近年の片面封止型パッケージにおいては、小型化、薄型化にともない封止材の厚みが薄くなり、また、片面封止型パッケージにおける半導体チップの占有面積が大きくなってきている。そのため、成形後において常温で反る場合が多く、これを適切に調整することが強く望まれている。
【0008】
このような要請に対し、これまでにも、この常温での反りも抑えるため、エポキシ樹脂としてアントラセン骨格を持つグリシジルエーテルを配合したエポキシ樹脂組成物が開発されてきている(特許文献3、4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
BGAパッケージのような片面封止においては、例えば上記のように、特に半田リフロー時の反りが問題となり、これに付随する課題へも対応するための検討が進められてきている。
【0011】
しかしながら、初期の成形収縮(PKG反り量)を調整するとともに、リフロー時の反りの変化低減、特に、熱時クライ反り低減と、ワイヤー変形に対してより有効な対策については依然としてさらなる検討が求められていた。
【0012】
そこで、本発明は、片面封止タイプの半導体封止用樹脂組成物として、初期の成形収縮(PKG反り量)を調整可能とするとともに、リフロー時の温度領域における反り変化量の低減をより有効に可能とすることのできる、新しい半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤および無機充填材を必須成分として含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、無機充填材が全体量に対して80〜
85質量%の範囲を占めるとともに、前記エポキシ樹脂中の
29〜100質量%の範囲内で次式(1)で表わされるエポキシ樹脂が配合され、
前記次式(1)で表わされるエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂がビフェニル型エポキシ樹脂であり、かつ、前記フェノール系硬化剤中の
9.8〜50.8質量%の範囲内で次式(2)で表わされるフェノール系硬化剤が配合され、
前記次式(2)で表わされるフェノール系硬化剤以外のフェノール系硬化剤がフェノールノボラック樹脂であり、成形収縮率が0.30%以下であり、線膨張係数が40.0×10−6/℃以下であることを特徴としている。
【0014】
【化1】
【0015】
(式中のR
1、R
2、R
3は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリル基のうちのいずれかを示し、互いに同一でも異っていてもよく、OGはグリシジルエーテル基を示し、kは0〜4のうちのいずれかの整数を示す。)
【0016】
【化2】
【0018】
そして本発明は、上記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で半導体素子が封止されていることを特徴とする半導体装置をも提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物によれば、片面封止タイプの半導体封止用樹脂組成物として、初期の成形収縮(PKG反り量)を調整可能とするとともに、リフロー時の温度領域における反り変化量の低減、特に熱時クライ反り低減をより有効に可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、前記式(1)で示されるジヒドロアントラセン骨格を持つエポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂中の30〜100質量%を占める割合で配合する。これによって、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の線膨張を小さくすることができ、リフロー時の熱時クライ反りを小さく良好に保つことを可能とする。この配合割合が30質量%未満では線膨張が大きくなってしまい、リフロー時の反りの変化量が大きくなってしまう。
【0021】
式(1)において、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアリル基を示す。
【0022】
アルキル基としては、直鎖または分岐のものを用いることができ、好ましくは炭素数1〜14のもの、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0023】
アルコキシ基としては、例えば、前記のアルキル基を水酸基で置換したものを挙げることができる。
【0024】
アリール基としては、好ましくは炭素数6〜14のもの、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基、ベンジル基、フェネチル基等を挙げることができる。
【0025】
本発明では、エポキシ樹脂として、式(1)で表されるジヒドロアントラセン骨格含有のエポキシ樹脂とともに、それ以外のエポキシ樹脂を用いることもできる。
【0026】
例えばビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、などを1種または2種以上併用することができる。
【0027】
前記式(1)のものを含むエポキシ樹脂の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全体量に対する配合割合としては、例えば、好ましくは8〜20質量%未満の範囲とすることが考慮される。
【0028】
また、本発明では、前記式(2)で示されるフェノール系硬化剤を、全フェノール系硬化剤中10〜50質量%の範囲内において配合する。この配合によって、半導体封止用エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度を大きくすることができリフロー時の熱時クライ反りを小さく良好に保つことを可能とする。配合割合が10質量%未満、あるいは50質量%超ではその効果を十分に発揮することができない。また、本発明のフェノール系硬化剤としては前記式(2)で示されるもの以外の、例えばフェノールノボラック、クレゾールノボラック、フェノールアラルキル、ナフトールアラルキル等、各種多価フェノール化合物あるいは、ナフトール化合物、などを1種または2種以上併用することができる。
【0029】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物における前記式(2)のものを含むフェノール系硬化剤の配合量は、例えば、好ましくはフェノール系硬化剤のフェノール水酸基とエポキシ樹脂のエポキシ基との当量比(OH基当量/エポキシ基当量)が0.5〜1.5となる量であり、より好ましくは当量比が0.8〜1.2となる量である。当量比が小さ過ぎると硬化特性が低下する場合があり、当量比が大き過ぎると耐湿信頼性等が不十分になる場合がある。
【0030】
なお、本発明では、硬化促進剤を併用してもよい。エポキシ樹脂とフェノール性水酸基の反応を促進するものであれば特に限定されないが、テトラフェニルホスホニウム、テトラフェニルポレートやトリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、ジアザビシククロウンデセン等の三級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類を併用することもできる。
【0031】
そして、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では無機充填材の配合を必須とし、その配合割合は、組成物全体量に対して80〜90質量%の範囲内とする。
【0032】
80質量%未満では線膨張が大きくなるために、リフロー時の反りの変化量が大きくなってしまう。90質量%超では十分な流動性が確保されず、ワイヤースイープが大きくなってしまう。
【0033】
また、無機充填材として適宜なものを用いることができ、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素などを用いることができる。
【0034】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、本発明の硬化を損なわない範囲内において、さらに他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、離型剤、シランカップリング剤、難燃剤、着色剤等が挙げられる。
【0035】
離型剤としては、例えば、カルナバワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィン等を用いることができる。
【0036】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることができる。
【0037】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を製造する際には、前記のエポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、無機充填材、および必要に応じて他の成分を配合する。そして、ミキサー、ブレンダー等を用いて十分均一になるまで混合した後、熱ロールやニーダー等の混練機により加熱状態で溶融混合する。これを室温に冷却した後、公知の手段により粉砕することにより半導体封止用エポキシ樹脂組成物を製造することができる。なお、半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、取り扱いを容易にするために、成形条件に合うような寸法と質量を有するタブレットとしてもよい。
【0038】
以上に説明した本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物によれば、初期の成形収縮(PKG反り量)を調整するとともにリフロー時の温度領域における反りの変化量、特に、片面封止パッケージで問題となるリフロー時の熱時のクライ反り量をより有効に低減することができる。
【0039】
特に、成形収縮率が0.30%以下であり、線膨張係数40.0×10
−6/℃以下であることで、リフロー時の温度領域における反りの変化量を大幅に低減することができる。
【0040】
本発明の半導体装置は、前記のようにして得られた半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いてICチップ、LSIチップ等の半導体チップ(半導体素子)を封止することにより製造することができる。この封止には、トランスファー成形、コンプレッション成形、インジェクション成形等の従来より用いられている成形方法を適用することができる。
【0041】
トランスファー成形を適用する場合、例えば、金型温度170〜180℃、成形時間30〜120秒に設定することができるが、金型温度、成形時間およびその他の成形条件は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の配合組成物等に応じて適宜に変更すればよい。
【0042】
このような本発明の半導体装置によれば、初期の成形収縮(PKG反り量)を調整するとともにリフロー時の温度領域における反りの変化量、特に、片面封止パッケージで問題となるリフロー時の熱時のクライ反り量を低減することができる。
【0043】
本発明の半導体装置のパケージ形態としては、例えば、半導体封止用エポキシ樹脂組成物で半導体チップ(半導体素子)を封止したBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Scale Package)等が挙げられる。また、PoP(Package on Package)等にも適用することができる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1に示す配合量は質量部を表す。
【0045】
表1に示す配合成分として、以下のものを用いた。
【0046】
(エポキシ樹脂1)式(1)のエポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン株式会社製 YL7172 エポキシ当量180 軟化点:104℃
(エポキシ樹脂2)ビフェニル型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン株式会社製 YX4000H エポキシ当量195
(硬化剤1)式(2)のエポキシ樹脂、群栄化学(株) TPM100 水酸基当量98 軟化点:103℃
(硬化剤2)フェノールノボラック樹脂、明和化学(株) DL−92 水酸基当量105
(無機充填材)シリカ、電気化学工業株式会社製 FB820
(カップリング剤)γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製 KBM403
カーボンブラック、三菱化学製 40B
硬化促進剤、北興化学(株)製 TPP
金属離型用カルナバワックス、大日化学 F1−100
表1に示す各配合成分を、表1に示す割合で配合し、ミキサー、ブレンダー等で均一に混合した後、ニーダーやロールで加熱、混練し、その後冷却固化し、次いで粉砕機で所定粒度に粉砕して粒状の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0047】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、次の条件にてトランスファー成形を行った。
【0048】
金型温度:175℃
注入圧力:70kgf/cm
2
成形時間:90秒
後硬化:175℃/6h
次の測定および評価を行った。
【0049】
1.測定
〔スパイラルフロー〕
ASTM D3123に準じたスパイラルフロー測定金型を用いて上記条件にて成形し、流動距離(cm)を測定した。
〔FBGAパッケージ反り量(リフロー時の熱時260℃での反り量)〕
14□FBGA(封止厚0.3mmt、基板厚0.13mmt(HL832NXA、2層))を175℃120sキュアにて成形し後硬化させたFBGAのパッケージを、AKROMETRIX社製のシャドウモアレ(PS200)を用いて、リフロー温度(260℃)の反り(コプラナリティー)を測定した。
〔ガラス転移温度および線膨張係数〕
上記トランスファー成形条件にて、5mmφ×30mmの試験片を得た。
【0050】
これを東京工業株式会社製の線膨張率試験機にセットし、昇温5℃/分にて常温から260℃まで測定した。寸法変化と温度のグラフを作成し、ガラス転移温度以下の線膨張係数α1(1/℃)を
(80℃での寸法−60℃での寸法)/(80−60)*(60℃における試験片の長さ)より算出
また、ガラス転移温度以上の線膨張係数α2(1/℃)を
(250℃での寸法−230℃での寸法)/(250−230)*(230℃における試験片の長さ)
より算出した。
〔成形収縮率〕
上記トランスファー成形条件にて、試験片を得た。
【0051】
成形後の試験片の寸法を測定し、金型寸法に対する試験片の寸法により、収縮率(%)を算出した。
【0052】
2.評価
〔流動性〕
前記のスパイラルフローの測定結果より次の規準に基づき評価した。
【0053】
◎:200cm以上
○:160cm以上200cm未満
△:140cm以上160cm未満(該当するものなし)
×:140cm未満
〔FBGA熱時クライ反り量(260℃)〕
◎:0〜−50μm(スマイル反り)
○:0〜100μm未満
△:100〜150μm未満
×:150μm以上
その結果を表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示した結果から、実施例1〜
4では成形後の収縮率がいずれも0.30%以下であり、線膨張係数は、いずれも40.0×10
−6/℃以下であった。
【0056】
また、流動性、そしてFBGA熱時クライ反り量(260℃)の評価結果も良好であった。
【0057】
一方、式(1)のエポキシ樹脂、式(2)のフェノール系硬化剤を配合していない比較例3、4は収縮率が0.30%を超え、線膨張係数は40.0×10
−6/℃を超えて、FBGA熱時クライ反り量(260℃)は好ましくない結果を示している。
【0058】
また、式(1)のエポキシ樹脂、式(2)のフェノール系硬化剤を配合せずに、無機充填材の割合を増大させた比較例1の場合にも、FBGA熱時クライ反り量(260℃)は好ましくない結果を示している。
【0059】
式(1)のエポキシ樹脂、式(2)のフェノール系硬化剤を含有するものの、無機充填材を90質量%超含む比較例2の場合には流動性が著しく悪い結果となっている。