【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例1の永久磁石同期電動機の制御装置の構成ブロック図である。実施例1の永久磁石同期電動機の制御装置は、1つの主インバータとn(n≧2の整数)個の補助インバータとを用いて、n個の永久磁石同期電動機を駆動することを特徴とする。
図1に示す実施例1では、nを3個とした例を示している。nは3に限定されるものではない。
【0015】
図1に示す永久磁石同期電動機の制御装置は、1つの主インバータ1と、補助インバータ3a〜3cと、3つの永久磁石同期電動機5a〜5cとを備える。
【0016】
永久磁石同期電動機5aは、主インバータ1に接続される主巻線7aと補助インバータ3aに接続されるダンピング制御用の補助巻線9aと有する。永久磁石同期電動機5bは、主インバータ1に接続される主巻線7bと補助インバータ3bに接続されるダンピング制御用の補助巻線9bと有する。永久磁石同期電動機5cは、主インバータ1に接続される主巻線7cと補助インバータ3cに接続されるダンピング制御用の補助巻線9cと有する。
【0017】
主インバータ1は、大容量であり、複数の永久磁石同期電動機5a〜5cを群運転し、V/f制御により複数の永久磁石同期電動機5a〜5cを並列運転する。V/f制御は、センサを必要とせず、オープンループで永久磁石同期電動機を駆動するため、ベクトル制御よりも複数の永久磁石同期電動機5a〜5cの並列運転が容易になる。
【0018】
補助インバータ3a〜3cは、補助巻線9a〜9cを介して乱調により生じるトルク振動を打ち消すトルクを発生させる電流を永久磁石同期電動機5a〜5cに流すことで、乱調による振動トルクを相殺する。具体的には、補助インバータ3a〜3cは、ベクトル制御により、個別に電流制御を行い、速度制御器をダンピング制御器として動作させ、即ち、補助巻線9a〜9cを介してダンピング制御を行い、乱調を抑制する。
【0019】
補助巻線9a〜9cは、主巻線7a〜7cに対して、十分に小さい定格容量に設計され、補助インバータ3a〜3cは、主インバータ1に対して、十分に小さい定格容量に設計されている。
【0020】
従って、実施例1の永久磁石同期電動機の制御装置は、出力トルク及び回転速度に乱調が発生せず、並列運転を行うことができる。
【0021】
なお、各々の永久磁石同期電動機5a〜5cに付随する補助インバータ3a〜3cが各々の永久磁石同期電動機5a〜5cで生じる乱調を抑制するため、3つ以上の永久磁石同期電動機を並列運転させても、同様のシステムにより装置の安定化が図れる。
【0022】
このため、実施例1の永久磁石同期電動機の制御装置は、1台の永久磁石同期電動機に中容量のインバータを接続するシステムに比較して、大容量の1つの主インバータ1に複数の永久磁石同期電動機5a〜5cを接続し、小容量の補助インバータ3a〜3cを接続することでシステムの低コスト化が図れる。
【0023】
図2は、本発明の実施例1の永久磁石同期電動機の制御装置に設けられた主インバータ制御部及び補助インバータ制御部の詳細な構成ブロック図である。
【0024】
主インバータ制御部11は、主インバータ1をV/f制御するもので、速度指令ω
жをf/V変換部111により指示電圧v
γδжに変換し、速度指令ω
жを微分(1/s)して指示角度θ
γδを求め、指示電圧v
γδж及び指示角度θ
γδをγδ/3φ変換部115によりu相v相w相の3相の三相指示電圧vum、vwm、vvmに変換して、三相指示電圧vum、vwm、vvmを主インバータ1に供給する。
【0025】
パルス発生器(PS)15は、永久磁石同期電動機5の磁極位置及び回転角速度に応じてパルスを発生し、発生したパルスに応じた磁極位置検出値θをdq/uvw変換部134及びdq/uvw変換部149に出力し、回転角速度ωを加算器131に出力する。
【0026】
補助インバータ制御部13は、d軸及びq軸の2軸により補助インバータ3をベクトル制御する。各々の補助インバータ3の座標軸は、通常のベクトル制御と同じく、d軸を磁束ベクトルの方向と一致させる。d軸電流指令値id
жは、最大効率運転を実現するように制御する方法もあるが、ここでは簡単のためd軸電流指令値id
жをゼロとする。q軸電流指令値iq
жは、トルクの振動を抑制するため、磁極位置の変動分に応じて逆方向にカウンターを与える。
【0027】
図3は、
図2に示す補助インバータ制御部に設けられたダンピング制御部によるダンピング制御ブロックを示す図である。
図3(a)に示すダンピング制御では、加算器19により磁極位置指令θ
жと磁極位置検出値θとの差δを求め、この差δを1次遅れ微分要素及び積分要素を持つ伝達関数21により擬似微分して、磁極位置の変動分を取り出す。さらに、磁極位置の変動分に比例ゲインKdを乗算し、d軸電流指令値iq
жを得る。
【0028】
しかし、
図3(a)に示すダンピング制御方法は、位置情報を微分するため、ノイズの影響を受け易いという問題や擬似微分による帯域の制限がある。
【0029】
そこで、
図2に示す補助インバータ制御部13では、磁極位置の微分が速度であることに着目し、
図3(b)及び補助インバータ制御部13に示すように、速度情報を用いて、加算器131は、角速度指令ω
жからパルス発生器(PS)15からの回転角速度ωを減算し、得られた偏差Δωをダンピング制御部133に出力する。
【0030】
ダンピング制御部133は、加算器131からの偏差ΔωにダンピングゲインKdを乗算してq軸電流指令値iq
жを得る。ここで、ダンピング制御は、速度制御器(ACR)と同様の構成になるが、制御器を比例制御器とすることで、V/f制御が設定する速度指令に対して、変動分のみを補償する形で動作する。
【0031】
ここでは、磁束情報は、簡単のため、センサ付きを仮定するが、センサレスベクトル制御の技術を用いて、推定することもできる。
【0032】
電流検出器17は、補助インバータ3に流れる三相電流iu,iw,ivを検出し、dq/uvw変換部134に出力する。dq/uvw変換部134は、三相電流iu,iw,ivをd軸電流検出値idとq軸電流検出値iqに変換し、d軸電流検出値idを加算器137に出力し、q軸電流検出値iqを加算器135に出力する。
【0033】
加算器137は、d軸電流指令値id
жからd軸電流検出値idを減算し、減算出力をACR141とデカプリング制御部139に出力する。加算器135は、q軸電流指令値iq
жからq軸電流検出値iqを減算し、減算出力をACR143とデカプリング制御部139に出力する。
【0034】
加算器145は、ACR141の出力からデカプリング制御部139の出力を減算し、減算出力をd軸指示電圧vd
ж としてdq/uvw変換部149に出力する。加算器147は、ACR143の出力とデカプリング制御部139の出力とを加算し、加算出力をq軸指示電圧vq
жとしてdq/uvw変換部149に出力する。
【0035】
dq/uvw変換部149は、d軸指示電圧vd
ж及びq軸指示電圧vq
жをuvw変換して、u相v相w相の3相の三相指示電圧vua、vwa、vvaに変換して、三相指示電圧vua、vwa、vvaを補助インバータ3に供給する。
【0036】
図4は、単独運転時のダンピング制御適用前のモータ加速時におけるシミュレーション結果を示す図である。
図5は、単独運転時のダンピング制御適用後のモータ加速時におけるシミュレーション結果を示す図である。
図6は、シミュレーション条件を示す図である。
【0037】
図5に示すダンピング制御を適用した後のシミュレーションでは、負荷として定トルク負荷35Nm(1p.u.) を加速時間が終了した後に加算している。加速時間は、定格加速時間の0.164sとした。
【0038】
図4に示すダンピング制御を適用する前では、加速開始直後から乱調による負荷角が振動することで、トルクと回転速度に振動が発生している。
【0039】
一方、
図5に示すダンピング制御を適用した後は、加速開始直後に負荷角の振動が見られるが、ダンピング制御により振動が収束していることがわかる。その結果、トルク及び回転速度の振動は、抑制され、回転速度は速度指令に追従している。
【0040】
また、定格トルクを加速時間が終了した後に印加し、負荷変動が生じた際にもダンピング制御によるトルクおよび速度変動が抑制された。これにより、ダンピング制御により乱調の抑制が可能であることが確認できる。
【0041】
補助インバータが乱調発生時にのみ動作しているか確認するために、出力トルクTと主インバータ1のdq軸電流寄与のトルクTmと補助インバータ3a〜3cのdq軸電流寄与のトルク(ダンピングトルク)TDに着目する。
【0042】
図5から、主インバータ1のdq軸電流寄与のトルクTmにダンピングトルクTDを加算することで、トルクTに振動が発生した際に、ダンピングトルクTDが振動を打ち消すように生じていることが確認できる。
【0043】
図7は、ダンピング制御を適用した並列運転時のシミュレーション結果を示す図である。キャプションのサフィックスは、2台の永久磁石同期電動機を区別するためにそれぞれ1,2を付けている。例えば、回転速度ω1,ω2、トルクT1,T2、補助出力電圧P1,P2である。
【0044】
なお、シミュレーション条件は、永久磁石同期電動機を単独運転する時と同一である。しかし、2台の永久磁石同期電動機を並列運転しているため、出力電力は2台の永久磁石同期電動機の定格出力の合計で基準化している。加速時間は、0.164sとした。
【0045】
ダンピング制御を適用した時には、単独運転時と同様に加速を開始した後にトルクや回転速度に乱調が発生する。しかし、その後、収束している。
【0046】
また、定格回転速度まで到達した後、異なるタイミングで各々の永久磁石同期電動機に定格トルクを入力した場合、負荷変動は生じるが、問題なく安定動作している。
【0047】
さらに、同時に負荷バランスが異なる場合でも並列運転が行える。振動が収束した後には、補助インバータは動作していないため、乱調発生時にのみ補助インバータが動作していることを確認でき、単独運転時と同様の効果が得られる。また、永久磁石同期電動機を加速中でも乱調を抑制し、安定な動作が可能であることを確認できる。
【0048】
出力電力に着目すると、並列運転しているため、主インバータ1の出力電圧は、定格出力の2倍の電力(1p.u.)を出力しているのに対して、補助インバータの出力電力は、それぞれ最大で0.25p.u.出力している。
【0049】
単独運転時の結果と比較すると、永久磁石同期電動機の並列台数の増加とともに主インバータ1の容量は増加してしまうが、補助インバータの容量は変化しないことがわかる。
【0050】
さらに、単独運転時と同様にダンピングゲインKdを調整することによって、各補助インバータの出力電力、電流は変化するため、各補助インバータの容量は、主インバータ1に比べて、25%以下の容量で構成することができる。
【0051】
これは、並列台数が増えても同様であるため、並列台数の増加に伴い、主インバータ1と比較して各補助インバータを小容量で構成できることがわかる。
【0052】
なお、並列台数が3台以上の場合でも同様に並列運転が可能なことをシミューレーションで確認している。各々の永久磁石同期電動機でダンピング制御を行うことで乱調を抑制しているため、並列台数に制限はない。
【0053】
このように実施例1の永久磁石同期電動機の制御装置によれば、主インバータ1により複数の永久磁石同期電動機5a〜5cを駆動でき、複数の補助インバータ3a〜3cにより、補助巻線9a〜9cを介して永久磁石同期電動機5a〜5cの負荷角の変動による乱調により生じるトルク振動を打ち消すトルクを発生させる電流を永久磁石同期電動機5a〜5cに流すので、振動トルクを相殺することができ、トルク振動を抑制することができる。
【0054】
主インバータ1は、V/f制御により複数の永久磁石同期電動機5a〜5cを並列運転し、補助インバータ3a〜3cは、ベクトル制御により個別に電流制御を行い、速度制御器をダンピング制御器として動作させることにより補助巻線9a〜9cを介してダンピング制御を行い、乱調を抑制することができる。
【0055】
具体的には、加算器131が角速度指令ω
жと永久磁石同期電動機の回転角速度ωとの偏差Δωを求め、ダンピング制御部133が加算器131で得られた偏差ΔωにダンピングゲインKdを乗算してq軸電流指令値iq
жを得るので、このダンピングゲインKdを調整することによって、各補助インバータ3a〜3cの出力電圧、電流を調整することができる。即ち、ダンピング制御を行い、乱調を抑制することができる。