(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.多孔質酸化物半導体層
本発明の多孔質酸化物半導体層は、金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜上に、酸化物半導体からなる薄膜が形成されている。
【0013】
<多孔質酸化物半導体膜>
多孔質酸化物半導体膜が有する酸化物半導体としては特に制限はないが、通常光電変換素子に使用される酸化チタン等が好適に使用される。
【0014】
なお、本発明において、「酸化チタン」又は「チタニア」とは、二酸化チタン(TiO
2)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti
2O
3);一酸化チタン(TiO);Ti
4O
7、Ti
5O
9等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含む概念である。また、末端OH基に代表されるように一部酸化チタンの合成に起因するTi−O−Ti以外の基を含んでいてもよい。
【0015】
多孔質酸化物半導体膜が、酸化チタンを含む場合、当該酸化チタンの形状としては、多孔質な膜を形成できる材料であれば特に制限はない。例えば、酸化チタンナノ粒子、酸化チタンナノチューブ、酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合物(酸化チタンナノ粒子が連なってなる酸化チタンナノチューブ)等が挙げられる。他の酸化物半導体であっても、同様に様々な形状の材料が使用できる。
【0016】
酸化チタンナノ粒子としては、市販又は公知のチタニアナノ粒子を使用してもよいし、例えば酸化チタン前駆体を用いてゾルゲル反応により合成してもよい。変換効率を考慮すると、酸化チタン前駆体を用いてゾルゲル反応により合成することが好ましい。この際使用できる酸化チタン前駆体としては、例えば、チタンテトライソプロポキシド等のチタンアルコキシド、水酸化チタン、塩化チタン、硫酸チタン等が挙げられる。
【0017】
酸化チタンナノ粒子の結晶構造としては、とくに制限されるわけではないが、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びブルッカイト型酸化チタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、光に対する活性が高い点から、アナターゼ型酸化チタンを含む(特に70重量%以上)ことがより好ましい。また、酸化チタンナノ粒子の結晶構造は、必ずしも1種のみである必要はなく、結晶構造の異なる2種以上の酸化チタンナノ粒子を混合してもよい。結晶構造の異なる2種以上の酸化チタンナノ粒子を混合する場合には、アナターゼ型酸化チタンと、ルチル型酸化チタン及び/又はブルッカイト型酸化チタンとを混合することが好ましく、この場合には、アナターゼ型酸化チタンを70〜95重量%(特に90〜95重量%)含ませることが好ましい。なお、酸化チタンナノ粒子の結晶構造は、例えば、X線回折法、ラマン分光分析等により測定することができる。
【0018】
酸化チタンナノ粒子の平均粒子径は、より多くの色素を吸着し、光を吸収できる点から、1〜500nmが好ましく、3〜100nmがより好ましい。また、酸化チタンナノ粒子としては、平均粒子径の異なる2種以上の酸化チタンナノ粒子を混合してもよい。特に、電池内部への光閉じ込め効果の観点から、平均粒子径が小さい(1〜100nm程度)酸化チタンナノ粒子とともに、平均粒子径が大きく(100〜500nm程度)光散乱の大きい酸化チタンナノ粒子を併用してもよい。なお、平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM)観察等により測定することができる。
【0019】
酸化チタンナノチューブとしては、公知又は市販の酸化チタンナノチューブを採用できる。例えば、特許文献3〜4等に記載の酸化チタンナノチューブ等が挙げられる。
【0020】
酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体としては、特許文献5に記載の材料を使用することができる。具体的には、以下のとおりである。
【0021】
酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体は、酸化チタンナノ粒子が連なってなる。本発明において、「連なってなる」とは、酸化チタンナノ粒子が、粒子の形状を維持しながら、隣接する酸化チタンナノ粒子と密接に接していることを言う。つまり、アモルファス状の酸化チタンナノチューブとは異なる。
【0022】
酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体は、酸化チタンナノ粒子が、チューブを形成するように連なって形成している。これにより、酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体の表面には、微細な凹凸が存在している。表面に微細な凹凸を有することで、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収できる。そして、効率よく電子を発生させ、隣接する酸化チタン同士が密接に接触しているため、隣接する酸化チタンを通して、電子を効率よく透明電極に運ぶことができる。
【0023】
酸化チタンナノ粒子の結晶構造としては、とくに制限されるわけではないが、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びブルッカイト型酸化チタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、光に対する活性が高い点から、アナターゼ型酸化チタンを含むことがより好ましい。酸化チタンナノ粒子の結晶構造は、例えば、X線回折法、ラマン分光分析等により測定することができる。また、酸化チタンナノ粒子としては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びブルッカイト型酸化チタンに加えて、さらに、2価チタンの酸化物、3価チタンの酸化物及び4価チタンの酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0024】
酸化チタンナノ粒子としては、他にも、マグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンを含むことが好ましい。このマグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンは、具体的な構成は明らかではないが、組成式:Ti
nO
2n−1(n:4〜10)で表され、金属と同程度の導電性を有する酸化チタンである。このマグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンを少量含むことで、電極との電気コンタクトを避け、イオン移動を促進することが可能になり、優れた特性を示す。3重量%以下、好ましくは、1重量%以下で含有されるものがよい。
【0025】
酸化チタンナノ粒子の平均粒子径は、光を吸収できる点から、1〜200nmが好ましく、1〜50nmがより好ましい。なお、平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
【0026】
酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体は、比表面積が20m
2/g以上が好ましく、比表面積が70m
2/g以上がより好ましく、80m
2/g以上がさらに好ましい。比表面積は、大きいほうが好ましく、上限値は特に制限されないが、3000m
2/g程度である。なお、比表面積は、BET法等により測定できる。
【0027】
酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体は、充分な表面積を有しつつ、効率よく電子を伝達する点から、長軸に直交する平均内径が5〜500nm(特に7〜300nm)、長軸の平均長さが0.1〜1000μm(特に1〜50μm)、平均アスペクト比(長軸の平均長さ/長軸に直交する平均直径)が3〜200000(特に3〜5000、さらに10〜1000)が好ましい。なお、直径とは外径のことを言う。また、酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体の平均内径、平均長さは、例えば、電子顕微鏡(SEM)観察等により測定することができる。
【0028】
酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体の肉厚は特に制限されないが、成膜性の点から、2〜500nm程度が好ましく、5〜50nm程度がより好ましい。また、酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体の肉厚は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
【0029】
この酸化チタンナノ粒子のチューブ状集合体としては、特許文献5に記載の方法で製造することができる。
【0030】
多孔質酸化物半導体膜の厚みは、特に制限されないが、より多くの入射光を吸収する点、電解質が電極膜深部まで浸透する点、均質で良好な成膜性の確保の点等から、1〜30μm程度が好ましく、2〜18μm程度がより好ましい。
【0031】
<金属ナノ粒子>
本発明においては、金属ナノ粒子は、必ずしも上記多孔質酸化物半導体膜を被覆している必要はなく、担持(付着)していればよい。
【0032】
なお、後述のように、色素を担持させる場合には、金属ナノ粒子と色素とを隣接させても電子が伝導しにくい。このため、金属ナノ粒子と色素との間に酸化物半導体を介在させるようにすることが好ましい。この観点から、金属ナノ粒子を担持させる際には、同時に酸化物半導体も担持させることが好ましい。この際の酸化物半導体としては、上述したものを使用できる。
【0033】
金属ナノ粒子を構成する金属としては、特に制限はなく、白金、金、銀等が挙げられる。これらは、金属ナノ粒子によりプラズモンが発生する波長が、色素の光吸収波長とオーバーラップするため、白金、金及び銀よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。なかでも、電解液と反応して溶解しない金属であるという点から、白金が好ましい。
【0034】
金属ナノ粒子の平均粒子径は、3〜30nmが好ましく、5〜15nmがより好ましい。金属ナノ粒子の平均粒子径を上記範囲内とすることで、30〜800nm近辺の領域でプラズモンが発生しやすくなる。なお、平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
【0035】
金属ナノ粒子の担持量は、光の吸収量を上昇させるとともに、リーク電流を抑制して光電変換効率を向上させる観点から、0.01〜10重量%程度が好ましく、0.1〜3.0重量%程度がより好ましい。
【0036】
<酸化物半導体からなる薄膜>
本発明においては、金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜上に、酸化物からなる薄膜を形成する。より好ましくは、金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜を、酸化物からなる薄膜で被覆する。これにより、金属ナノ粒子を完全に覆わない場合であっても、リーク電流を効果的に抑制し、光電変換効率を向上させることができる。
【0037】
なお、後述のように、色素を担持させる場合には、金属ナノ粒子と色素とを隣接させても電子が伝導しにくい。このため、酸化物半導体からなる薄膜を形成し、金属ナノ粒子と色素との間に酸化物半導体からなる薄膜を介在させるようにすることが好ましい。
【0038】
この酸化物半導体からなる薄膜を構成する酸化物半導体としては、上記説明したものとすることができ、酸化チタン等が挙げられる。また、好ましい特性等も同様である。
【0039】
この酸化物半導体からなる薄膜の厚みは、1〜20μm程度が好ましく、2〜14μmがより好ましい。酸化物半導体からなる薄膜の厚みをこの範囲内とすることで、電解液が負極深部まで浸透しやすく、かつ光の利用効率も十分となりえる。
【0040】
本発明の多孔質酸化物半導体層には、さらに、色素が担持していてもよい。
【0041】
色素は、可視域や近赤外域に吸収特性を有し、多孔質酸化物半導体層の光吸収効率を向上(増感)させる色素であれば特に限定されないが、金属錯体色素、有機色素、天然色素、半導体等が好ましい。また、多孔質酸化物半導体層への吸着性を付与するために、色素の分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホニル基、ホスホニル基、カルボキシルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、スルホニルアルキル基、ホスホニルアルキル基等の官能基を有するものが好ましい。
【0042】
金属錯体色素としては、例えば、ルテニウム、オスミウム、鉄、コバルト、亜鉛、水銀の錯体や、金属フタロシアニン、クロロフィル等を用いることができる。また、有機色素としては、例えば、シアニン系色素、ヘミシアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、金属フリーフタロシアニン系色素等が挙げられるが、これらに限定されない。色素として用いることができる半導体としては、i型の光吸収係数が大きなアモルファス半導体や直接遷移型半導体、量子サイズ効果を示し、可視光を効率よく吸収する微粒子半導体等が好ましい。通常、各種の半導体や金属錯体色素や有機色素の一種、又は光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ変換効率を上げるため、二種類以上の色素を混合することができる。また、目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように、混合する色素とその割合を選ぶことができる。
【0043】
2.多孔質酸化物半導体層の製造方法
本発明の多孔質酸化物半導体層の製造方法は、
(1)基板上に、酸化物半導体及び金属ナノ粒子を含むペースト組成物を塗布して金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜を得る工程、及び
(2)前記工程(1)で得た金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜を、酸化物半導体の前駆体を含む溶液中に浸漬する工程
を備える。
【0044】
<工程(1)>
酸化物半導体及び金属ナノ粒子を含むペースト組成物中に含まれる酸化物半導体及び金属ナノ粒子は、上記説明したものである。
【0045】
酸化物半導体及び金属ナノ粒子を含むペースト組成物において、固形分中の酸化物半導体及び金属ナノ粒子の含有量は、それぞれ、酸化物半導体が90〜99.9重量%が好ましく、95〜99.8重量%がより好ましく、96〜99.7重量%がさらに好ましい。また、金属ナノ粒子の含有量は、0.1〜10重量%が好ましく、0.2〜5重量%がより好ましく、0.3〜4重量%がさらに好ましい。酸化物半導体及び金属ナノ粒子の含有量を上記範囲内とすることで、光吸収量を上昇させるとともに、リーク電流を効果的に抑制して光電変換効率を向上させることができる。
【0046】
酸化物半導体及び金属ナノ粒子を含むペースト組成物において、固形分濃度は、塗布時の流動性と塗布後の厚みのバランスをとり、多孔質酸化物半導体膜のポアサイズを制御できる点から、5〜40重量%が、特に8〜20重量%が好ましい。
【0047】
また、金属ナノ粒子を含むペースト組成物の溶媒としては、水、有機溶媒等を用いることができる。
【0048】
有機溶媒としては、金属ナノ粒子及び酸化物半導体を分散できる溶媒であれば、特に限定はない。例えば、エタノール、メタノール、テルピネオール(特にα−テルピネオール)等のアルコール類;エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類等を用いることができる。これらの溶媒は、分散性、揮発性及び粘度を考慮し、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。好ましい具体例は、テルピネオール(特にα−テルピネオール)である。金属ナノ粒子を含むペースト組成物中の溶媒の割合としては、塗布時に流動性を持たせるから、30〜80重量%が、特に60〜75重量%が好ましい。
【0049】
分散液の成分として、上記の溶媒以外に、増粘剤等を含んでもよい。
【0050】
増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース等が挙げられる。なかでも、エチルセルロースを好適に用いることができる。
【0051】
多孔質酸化物半導体膜形成用ペースト組成物中の増粘剤の割合としては、塗布時の流動性の点から、5〜20重量%が、特に6〜15重量%が好ましい。
【0052】
基板としては、特に制限はなく、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面及び曲面のいずれでもよく、また応力によって変形するものでもよい。使用できる基板の具体例としては、例えば、各種ガラス、及びPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等の透明樹脂等に透明導電機能が付与されたものが挙げられる。ただし、300℃以上の高温で焼成する場合は、ガラス基板を用いるのが好ましい。
【0053】
塗布方法は特に制限はなく、スクリーン印刷、ドクターブレード、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、スキージ法等の常法を採用すればよいが、欠陥の無い良質な成膜性、膜厚制御及び高いスループットが実現可能な点から、スクリーン印刷を採用するのが好ましい。
【0054】
塗布した後、乾燥することが好ましい。乾燥条件は、特に制限されないが、25〜250℃、好ましくは50〜150℃にて1〜120分間、好ましくは5〜15分間とすることが好ましい。
【0055】
この工程により、金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜を得ることができる。
【0056】
<工程(2)>
工程(1)で得た金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜を浸漬させる溶液は、酸化物半導体の前駆体を含む。このような酸化物半導体の前駆体としては、工程(1)で得た金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜を浸漬させた後に例えば加熱することにより酸化物半導体を形成できるものであれば特に制限されないが、例えば、水酸化チタン、ハロゲン化チタン(四塩化チタン等)、チタンアルコキシド(テトライソプロポキシチタン、テトラエトキシチタン等)、金属チタン等が挙げられる。これらのなかでも、安価に均一な酸化チタン膜を得られ、ハンドリングしやすい点から、ハロゲン化チタン、特に四塩化チタンが好ましい。
【0057】
また、工程(1)で得た金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜を浸漬させる溶液の溶媒は、上記の酸化物半導体の前駆体を溶解できるものであれば特に制限されないが、加水分解により酸化チタンを合成するためには、水等の水性溶媒が好ましい。
【0058】
この溶液中の酸化物半導体の前駆体の濃度は、特に制限されないが、短時間でコーティングが可能で、かつ溶液中では酸化チタンが析出しない点から、0.1〜100mmol/Lが好ましく、10〜50mmol/Lがより好ましい。
【0059】
工程(1)で得た金属ナノ粒子が担持された多孔質酸化物半導体膜を浸漬する時間は、特に制限されないが、1〜120分間、好ましくは5〜60分間とすることが好ましい。
【0060】
浸漬後、さらに加熱することが好ましい。加熱条件は、100〜750℃、好ましくは350〜550℃にて10〜180分間、特に15〜30分間行うことが好ましい。
【0061】
<工程(3)>
本発明においては、上記工程(2)の後、
(3)工程(2)で得た光電変換素子用多孔質酸化物半導体層に、色素を担持させる工程
を施してもよい。
【0063】
色素を多孔質酸化物半導体層に吸着させる方法としては、例えば、溶媒に色素を溶解させた溶液を、多孔質酸化チタン塗膜上にスプレーコートやスピンコート等により塗布した後、乾燥する方法により形成することができる。この場合、適当な温度に基板を加熱してもよい。また、多孔質酸化物半導体層を上記色素溶液に浸漬して吸着させる方法を用いることもできる。浸漬する時間は色素が充分に吸着すれば特に制限されることはないが、好ましくは10分〜30時間、より好ましくは1〜25時間である。なお、色素溶液に浸漬する時間は、用いる色素によって調整することが好ましい。例えば、EverSolar製のD908(ルテニウム系色素)を使用する場合は15〜25時間程度、シグマアルドリッチ製のMK−2(有機系色素)を使用する場合は1〜5時間程度とすることが好ましい。また、必要に応じて浸漬する際に加熱してもよい。溶液にする場合の色素の濃度としては、0.01〜100mmol/L程度が好ましく、0.1〜10mmol/L程度がより好ましい。
【0064】
用いる溶媒は特に制限されるものではないが、水及び有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等のニトリル類;ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2−ブタノン等のケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、ジメトキシエタン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸エチルジメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリへキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリノニル、リン酸トリデシル、リン酸トリス(トリフフロロメチル)、リン酸トリス(ペンタフロロエチル)、リン酸トリフェニルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0065】
色素間の凝集等の相互作用を低減するために、界面活性剤としての性質を持つ無色の化合物を色素吸着液に添加し、半導体層に共吸着させてもよい。このような無色の化合物の例としては、カルボキシル基やスルホ基を有するコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸等のステロイド化合物やスルホン酸塩類等が挙げられる。
【0066】
未吸着の色素は、吸着工程後、速やかに洗浄により除去するのが好ましい。洗浄は湿式洗浄槽中でアセトニトリル、アルコール系溶媒等を用いて行うのが好ましい。
【0067】
色素を吸着させた後、アミン類、4級アンモニウム塩、少なくとも1つのウレイド基を有するウレイド化合物、少なくとも1つのシリル基を有するシリル化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いて、酸化チタン層の表面を処理してもよい。好ましいアミン類の例としては、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。好ましい4級アンモニウム塩の例としては、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド等が挙げられる。これらは有機溶媒に溶解して用いてもよく、液体の場合はそのまま用いてもよい。
【0068】
3.負極
上記説明した多孔質酸化物半導体層が形成された基板を、本発明の負極とすることができる。
【0069】
ここで使用される基板としては、上記説明したとおり、樹脂基板又はガラス基板(特に、樹脂基板又はガラス基板からなる透明基板)が好ましい。ただし、300℃以上の温度で焼成する場合は、ガラス基板を用いるのが好ましい。
【0070】
樹脂基板としては、透明であれば特に制限されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート樹脂基板(PEN樹脂基板)、ポリエチレンテレフタレート樹脂基板(PET樹脂基板)等のポリエステル;ポリアミド;ポリスルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリフェニレンサルファイド;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリメチルメタクリレート;ポリスチレン;トリ酢酸セルロース;ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0071】
ガラス基板としても特に制限はなく、公知又は市販のものを使用すればよく、無色又は有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等のいずれでもよい。
【0072】
この樹脂基板又はガラス基板としては、板厚が0.05〜10mm程度のものが好ましい。
【0073】
本発明では、多孔質酸化物半導体層は、樹脂基板又はガラス基板の表面上に直接形成されていてもよいが、透明導電膜を介して形成されていてもよい。
【0074】
透明導電膜としては、例えば、スズドープ酸化インジウム膜(ITO膜)、フッ素ドープ酸化スズ膜(FTO膜)、アンチモンドープ酸化スズ膜(ATO膜)アルミニウムドープ酸化亜鉛膜(AZO膜)、ガリウムドープ酸化亜鉛膜(GZO膜)等が挙げられる。これらの透明導電膜を介することで、樹脂基板又はガラス基板側から集電する(フロントコンタクト)構造の場合には、発生した電流を外部にとりだすことが容易となる。これらの透明導電膜の膜厚は、0.02〜10μm程度とするのが好ましい。
【0075】
これら樹脂基板又はガラス基板上に、多孔質酸化物半導体層を形成する方法は、上記「1.多孔質酸化物半導体層」及び「2.多孔質酸化物半導体層の製造方法」で説明した方法を採用できる。
【0076】
4.光電変換素子及び色素増感太陽電池
本発明の光電変換素子は、例えば、本発明の負極上に対向電極(対極)を形成し、これら電極間を電解液で満たすことにより製造することができる。
【0077】
対極は、導電性材料からなる単層構造でもよいし、導電層と基板とから構成されていてもよい。基板としては、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、無色又は有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、樹脂でもよい。かかる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン等が挙げられる。また、電荷輸送層上に直接導電性材料を塗布、メッキ又は蒸着(PVD、CVD)して対極を形成してもよい。
【0078】
導電性材料としては、白金、金、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、銀、タングステン等の金属;炭素材料;導電性有機物等の比抵抗の小さな材料が用いられる。
【0079】
また、対極の抵抗を下げる目的で金属リードを用いてもよい。金属リードは白金、金、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、銀、タングステン等の金属からなるのが好ましく、アルミニウム又は銀からなるのが特に好ましい。
【0081】
電解質
電解液では、電解質として、ヨウ素と、ヨウ化物とを使用することが好ましい。
【0082】
ヨウ素とヨウ化物は、本発明の電解液中で酸化還元対であるI
−/I
3−を形成する(I
−存在下にI
2を添加することでI
3−が生成する)。
【0083】
その結果、酸化チタン伝導帯を下げて色素から酸化チタンへの電子注入速度を向上させる効果がある。また、酸化チタンに注入された電子の輸送を促進させる効果もある。これにより、短絡電流密度をより向上させ、結果的に光電変換効率をより向上させることができる。
【0084】
電解質としてのヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウムの他、ヨウ化1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、ヨウ化1,3−ジメチルイミダゾリウム、ヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム、ヨウ化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、ヨウ化1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムのイミダゾリウム塩等が挙げられる。本発明では、溶媒としても使用できるヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムが好ましい。
【0085】
電解質の濃度は、それぞれ、ヨウ素が0.05〜0.6モル/リットル(好ましくは0.1〜0.5モル/リットル)、ヨウ化リチウム又はイミダゾリウム塩が0.05〜20モル/リットル(好ましくは0.1〜10モル/リットル)程度が好ましい。
【0086】
上記のとおり、ヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムを溶媒としてもいいし、イオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビススルホニルイミド等を溶媒として使用してもよい。
【0087】
電解液には、上記した成分以外にも、塩基性物質、例えば、4−ターシャルブチルピリジン、N−メチルベンズイミダゾール等を含有させることもできる。これらの塩基性物質を含有させれば、光電変換素子を作製した際に、負極の酸化チタン表面に吸着し、負極からの逆電子移動を防ぐことができ、開放電圧をより向上させるとともに、光電変換効率をより向上させることができる。
【0088】
また、色素を脱離させないため、塩基性物質の添加量は、金属錯体色素を使用する場合は、0.1〜1.0モル/リットル程度、特に0.3〜0.8モル/リットル程度が好ましい。また、有機色素を使用する場合は、0.01〜0.1モル/リットル程度、特に0.03〜0.08モル/リットル程度が好ましい。
【0089】
他にも、電解液には、上述のヨウ化リチウムと同様に、チタニアの伝導帯を下げて色素からチタニアへの電子注入速度を向上させる効果のあるグアニジンチオシアネート等も添加することができる。この場合、これらの添加量は、0.1〜1.0モル/リットル程度とすることが好ましい。
【0090】
なお、電解液においては、上記成分以外にも、粘度調整剤(ポリエチレングリコール等)や脱水剤(ゼオライト、シリカゲル等)等を、本発明の効果を損なわない範囲内で含ませることができる。
【0091】
本発明の色素増感太陽電池は、上記の光電変換素子をモジュール化するとともに、所定の電気配線を設けることによって製造することができる。
【実施例】
【0092】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0093】
比較例1
FTO膜付きガラス上に、ポリエステル製スクリーン印刷版(225メッシュ)を用いて、市販の酸化チタンペーストである日揮触媒化成(株)製のPST18NRDを、5ミリ角の大きさに膜厚が4μmになるまで繰り返しスクリーン印刷を行った。さらに電気炉に入れて550℃にて1時間焼成を行った。
【0094】
得られた酸化チタン層を、0.3mmol/Lのルテニウム系色素(D708)をアセトニトリルとターシャルブチルアルコールを体積比1:1で調製した溶媒とした溶液に25℃(室温)にて20時間浸漬した後、乾燥し、色素を担持させて比較例1の負極を作製した。
【0095】
次に、透明電極付透明ガラス基板に白金めっきした対向電極をスペーサーを介して貼りあわせ、その間に電解液として、0.15mol/Lのヨウ素、0.1mol/Lのグアニジンチオシアネート、0.5mol/Lのn−メチルベンズイミダゾールを含むヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム溶液を注入し、光電変換素子を作製した。
【0096】
比較例2
市販の酸化チタンペーストとして、日揮触媒化成(株)製のPST18NRDを99重量%、市販の白金ペーストとして、SOLALONIX製のT/SPを1重量%、それぞれを混合し攪拌することにより白金担持用ペースト組成物を得た。
【0097】
FTO膜付きガラス上に、ポリエステル製スクリーン印刷版(225メッシュ)を用いて、上記作製した白金担持用ペースト組成物を、5ミリ角の大きさに膜厚が4μmになるまで繰り返しスクリーン印刷を行った。さらに電気炉に入れて550℃にて1時間焼成を行って、白金担持酸化チタン層を得た。なお、担持量は、白金担持用ペースト組成物中の白金/酸化チタン比と同程度である。
【0098】
得られた白金担持酸化チタン層を、0.3mmol/Lのルテニウム系色素(D708)をアセトニトリルとターシャルブチルアルコールを体積比1:1で調製した溶媒とした溶液に25℃(室温)にて20時間浸漬した後、乾燥し、色素を担持させて比較例2の負極を作製した。
【0099】
次に、透明電極付透明ガラス基板に白金めっきした対向電極をスペーサーを介して貼りあわせ、その間に電解液として、0.15mol/Lのヨウ素、0.1mol/Lのグアニジンチオシアネート、0.5mol/Lのn−メチルベンズイミダゾールを含むヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム溶液を注入し、光電変換素子を作製した。
【0100】
実施例1
市販の酸化チタンペーストとして、日揮触媒化成(株)製のPST18NRDを99重量%、市販の白金ペーストとして、SOLARONIX製のT/SPを1重量%、それぞれを混合し攪拌することにより白金担持用ペースト組成物を得た。
【0101】
FTO膜付きガラス上に、ポリエステル製スクリーン印刷版(225メッシュ)を用いて、上記作製した白金担持用ペースト組成物を、5ミリ角の大きさに膜厚4μmになるまで繰り返しスクリーン印刷を行った。さらに電気炉に入れて550℃にて1時間焼成を行って、白金担持酸化チタン層を得た。
【0102】
次に、白金担持酸化チタン層上に、市販の酸化チタンペーストである日揮触媒化成(株)製のPST18NRDを、濃度が40mmol/Lの四塩化チタン水溶液に10分間浸漬することでコーティングを行った。さらに電気炉に入れて500℃にて30分間焼成を行った。
【0103】
得られた酸化チタン層を、0.3mmol/Lのルテニウム系色素(D708)をアセトニトリルとターシャルブチルアルコールを体積比1:1で調製した溶媒とした溶液に25℃(室温)にて20時間浸漬した後、乾燥し、色素を担持させて実施例1の負極を作製した。
【0104】
次に、透明電極付透明ガラス基板に白金めっきした対向電極をスペーサーを介して貼りあわせ、その間に電解液として、0.15mol/Lのヨウ素、0.1mol/Lのグアニジンチオシアネート、0.5mol/Lのn−メチルベンズイミダゾールを含むヨウ化1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム溶液を注入し、光電変換素子を作製した。
【0105】
実施例2
四塩化チタン水溶液に浸漬する時間を10分ではなく30分とすること以外は実施例1と同様に、実施例2の負極及び光電変換阻止を得た。
【0106】
比較例3
白金担持用ペースト組成物として、日揮触媒化成(株)製のPST18NRDを99重量%、SOLARONIX製のT/SPを1重量%含むペースト組成物ではなく、日揮触媒化成(株)製のPST18NRDを95重量%、SOLARONIX製のT/SPを5重量%含むペースト組成物を用いたこと以外は比較例2と同様に、比較例3の負極及び光電変換素子を得た。
【0107】
実施例3
白金担持用ペースト組成物として、日揮触媒化成(株)製のPST18NRDを99重量%、SOLARONIX製のT/SPを1重量%含むペースト組成物ではなく、日揮触媒化成(株)製のPST18NRDを95重量%、SOLARONIX製のT/SPを5重量%含むペースト組成物を用い、また、白金担持後に酸化チタンペーストをコーティングするコーティングの時間を10分ではなく30分とすること以外は実施例1と同様に、実施例3の負極及び光電変換阻止を得た。
【0108】
実験例
実施例1〜3及び比較例1〜3で作製した光電変換素子に、山下電装(株)製のソーラーシミュレーターでAM1.5(JISC8912Aランク)の条件下の100mW/cm
2の強度の光を照射して、光電変換特性を評価した。
【0109】
各実施例及び比較例について、実験例の結果を表1及び
図1に示す。
【0110】
【表1】