(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の提案によると、緊急着水時に航空機は水に浸かることがないため、気圧調整弁から水が流入することはない。しかし、航空機には、二重、三重の安全対策が要求されており、クッションシートが破れることなどを想定する必要がある。
そこで、本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、操縦士の操作によることなく、緊急着水時における航空機内への気圧調整弁を介する水の流入を防止する装置と、水流入防止装置を備え
る航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもとなされた本発明は、客室内の気圧を調整する気圧調整弁を備える航空機が着水時に、気圧調整弁からの水の流入を防止する装置に関し、この気圧調整弁は、航空機の内部と外部とを連通する通気路と、通気路の内部に設けられ
、その開閉によって客室内の気圧を調整する弁体と、を備えている。そして、本発明における水流入防止装置は、
着水時において、航空機の操縦士
による弁体の操作によることなく
水流入防止機能を発揮するように構成されており、前記気圧を調整する弁体とは別に水の流入に対する障害物
を有することを特徴とする。
なお、本発明において、水の流入を防止するとは、完全に水の流入を阻止することに限らず、流入を軽減できればよい。乗客および乗務員が安全に脱出する時間を確保するのに資するからである。
【0008】
本発明の水流入防止装置をなす障害物は、航空機が着水したことに基づいて動作して、通気路を閉じることができる。この障害物は、航空機が着水したことに基づいて動作するので、操縦士
による弁体の操作によることなく、水の流入を防止できる。
【0009】
航空機が着水したことに基づいて動作する障害物を、浮力が作用することにより、通気路を閉じる蓋体から構成することができる。つまり、着水により障害物となる蓋体が水中に浸漬すると浮力を作用させることで、通気路を閉じ水の流入を防止しようというものである。浮力を利用した蓋体の具体的な動作としては、回転、又は、上昇が掲げられる。
この形態によると、水中に浸漬することを利用して浮力を必然的に蓋体に生じさせることで、操縦士の操作によることなく、蓋体を確実に動作させることができる。
浮力が作用することで動作する蓋体としては、蓋体自体を水よりも比重の小さい材料で構成するほか、蓋体自体は水よりも比重の大きい材料で構成するが、水よりも比重の小さい材料で構成される浮力体を蓋体に取り付けることで実現できる。
【0010】
また本発明においては、水分を含み、又は、内部に気体が供給されると、膨張動作することで、操縦士の操作によることなく、通気路を閉じることができる。
水分を含むと膨張動作する障害物は、例えばポリウレタンから構成することができる。この形態においても、水中に浸漬すると必然的に障害物が膨張するので、操縦士の操作によることなく、水の流入を防止することができる。
また、内部に気体が供給されると膨張動作する障害物としては、例えば自動車に用いられているエアバックと同じ機構を想定することができる。この形態においても、着水の衝撃を受けると確実に障害物を膨張させることができるので、操縦士の操作によることなく、水の流入を防止することができる。
【0012】
以上説明した本発明における障害物は、航空機が着水したことに基づいて動作するものであるが、気圧調整弁の弁体よりも水の流入する向きの上流側又は下流側に予め設けられる抵抗体から本発明の障害物を構成することができる。
このように、予め抵抗体を設けておくことにより、操縦士の操作によることなく、水の流入を確実に防止(軽減)することができる。
【0013】
また、本発明では、上記機能をもつ水流入
防止装置を備え
る航空機をも提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、操縦士の操作によることなく、緊急着水時における航空機内への気圧調整弁を介する水の流入を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、緊急着水時に航空機100の客室内へ気圧調整弁1を介した水の流入を防止する装置の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下説明する各実施形態に共通する航空機100の構成について
図10を参照して簡単に説明する。
航空機100は、客室101の気圧を調整するための弁(気圧調整弁1)を胴体102の下部に設けている。気圧調整弁1は、客室101と航空機100の外部とを連通する円筒状のダクト2と、ダクト2の内部に設けられる弁体3と、を備えている。ここでは、気圧調整弁1の一例として、弁体3が弁軸を中心にして回転することにより開閉を行うバタフライバルブ(butterfly valve)を適用した例を示している。
航空機100が緊急着水時には、操縦士が弁体3を動作させてダクト2を塞ぐことで、ダクト2を介して客室101へ水が流入するのを防止することになるが、前述したように、操縦士の操作が遅れることもあり得る。そこで、以下説明する各実施形態では、操縦士の操作に頼ることなく、ダクト2を介した客室101への水の流入を防止できる装置を提供する。
【0017】
[第一の実施形態]
第一の実施形態は、
図1に示すように、航空機100が着水時に操縦士の操作に頼ることなくダクト2を塞ぐ閉塞蓋6を設ける。特に、水中に浸かった閉塞蓋6に浮力を作用させることで、自動的に閉塞蓋6がダクト2を塞ぐように動作させることを第一の実施形態は特徴とする。第一の実施形態は、二つの形態を含んでおり、一つ目の形態(第一の実施形態(1))は、閉塞蓋6を回転動作させることでダクト2を塞ぐものであり、二つ目の形態(第一の実施形態(2))は、閉塞蓋6を上昇動作させることでダクト2を塞ぐものである。以下、順に説明する。なお、
図1の断面図((c),(d))には弁体3の記載を省略している。以下、
図2〜5および
図8についても同様とする。
【0018】
[第一の実施形態(1)]
第一の実施形態(1)による浸水防止装置は、回転軸7を中心にして回転可能にダクト2に取り付けられた円板状の閉塞蓋6と、閉塞蓋6に取り付けられた浮力体9と、を備えている。
閉塞蓋6は、その径方向の一端側が、ダクト2の先端である通気口2aの端部に配置される回転軸7に係止されることで、回転軸7を中心にして回転自在とされている。回転軸7を中心にして回転自在であれば、回転軸7に対する閉塞蓋6の係止構造は問わない。なお、閉塞蓋6は、航空機100を構成するのと同様の素材又は異なる素材で形成することができる。例えば金属材料、繊維強化プラスチック、樹脂材料、その他で形成することができる。
浮力体9は、閉塞蓋6の重心を中心にして回転軸7と対称の位置、つまり径方向の他端側に配置される。浮力体9は、水よりも比重の小さい素材、例えば樹脂材料により形成される。また、浮力体9は、内部に気体が充填されている中空状の形態にすることもできる。
【0019】
さて、
図1(a)及び(c)に示すように、航空機100が飛行中においては、浸水防止装置は、重力により閉塞蓋6は回転軸7から垂下されるために、ダクト2の通気口2aは開放されている。このため、航空機100の飛行高度に応じて弁体3のダクト2における開度が調整されることにより、客室101の気圧が調整される。
一方、航空機100が着水し、閉塞蓋6が水中に浸漬すると、浮力体9が水から浮力を受ける。そうすると、閉塞蓋6は、浮力体9が設けられた側が水中で浮き上がることで、
図1(b)及び(d)に示すように、回転軸7を中心にして通気口2aを塞ぐように自動的に回転する。このように、閉塞蓋6が通気口2aを塞ぐことにより、機外から水が流入するのを防止することができる。しかも、閉塞蓋6は、浸漬すると自動的に回転するので、操縦士が操作をしなくても、通気口2aを塞ぐことができる。したがって、操縦士による弁体3を塞ぐ操作が後回しになったとしても、客室101への水の流入を防止することができるので、乗客、乗員の安全な脱出を確保できる。なお、ここでいう水の流入防止とは、水の流入が完全に阻止されることのみを意味するものではなく、水が流入したとしてもその量を軽減することを包含している。
【0020】
[変形例(1) 水溶性固定材]
以上説明した実施形態では、回転軸7に対して閉塞蓋6が回転自在とされているため、飛行中に気流を受けて閉塞蓋6が意図しない動きをし、通気口2aを塞ぐおそれがある。これを防止するため、本実施形態では、
図2に示すように、水溶性固定材11を用いて、閉塞蓋6の自在な回転動作を規制することができる。なお、水溶性固定材11により閉塞蓋6の動作を規制すること以外は、以上説明した実施形態と同様の構成を備えているので、
図2に
図1と同じ符号を付することで、その説明を省略する。変形例(2)以降についても同様である。
【0021】
水溶性固定材11は、大気中においては固体を呈しているが、水分を含むと軟化あるいは溶解する物質、例えば、接着剤として用いられるアクリル系水溶性ポリマー、水溶性多糖類を用いることができる。なお、水溶性固定材11を用いて閉塞蓋6の動作を規制する形態は任意であり、回転軸7に対して閉塞蓋6が回転する場合には、この回転を止めるように水溶性固定材11を施工し、回転軸7に閉塞蓋6が固定されている場合には、回転軸7の回転を止めるように水溶性固定材11を施工する。閉塞蓋6は、例えば、
図2(a)及び(c)に示すように、回転軸7から吊下げられた位置に固定することができるが、
図2(a)及び(c)に示す位置よりも、反時計周りに回転させた位置で固定することもできる。
【0022】
以上のように構成することで、航空機100が飛行中には閉塞蓋6は通気口2aを塞ぐことはない。しかし、航空機100が着水した後に、水溶性固定材11が水に浸漬されると溶解し始める。そうすると、水溶性固定材11による規制が解除されることで、閉塞蓋6は回転自在になり、浮力体9が受ける浮力によって閉塞蓋6は、
図2(b)及び(d)に示すように、通気口2aを塞ぎ、客室101への水の流入が防止される。
【0023】
[変形例(2) シール構造]
本実施形態において、閉塞蓋6が通気口2aをより気密に塞ぐことが客室101への水の流入を防止する上で好ましい。
そこで、
図3に示すように、通気口2aの先端縁にリング状のシール材13を貼り付けることができる。シール材13として、ゴムまたは樹脂を使用することができる。
図3(b)、(d)に示すように、航空機100が着水して閉塞蓋6が通気口2aを塞ぐと、シール材13を介して閉塞蓋6をダクト2に密着させることができるので、客室101への水の流入をより確実に防止することができる。
なお、ここではシール材13をダクト2側に設けた例を示したが、閉塞蓋6にシール材13を設けることもできる。
【0024】
[第一の実施形態(2)]
次に、閉塞蓋6を上昇動作させることでダクト2を塞ぐ二つ目の形態を、
図4を参照して説明する。
この実施形態における浸水防止装置も、浮力体9が取り付けられている閉塞蓋6がダクト2の通気口2aを塞ぐ点では、一つ目の形態と同じである。しかし、二つ目の形態による浸水防止装置は、閉塞蓋6が必要な上昇動作を行なえるように、ガイドレール14を備えている。
【0025】
U字状の形状をなすガイドレール14は、所定の間隔を隔てて配置される一対の直線ガイド部14a,14bと、直線ガイド部14a,14bの一端側を繋ぐ円弧状の係止部14cと、から構成される。直線ガイド部14a,14bの間隔はダクト2の直径と概ね等しく設定されており、また、係止部14cの直径はダクト2の直径と概ね等しく設定されている。
直線ガイド部14a,14b及び係止部14cの内周面には、閉塞蓋6の周縁部が挿入されるガイド溝14dが、ガイドレール14の長手方向に沿って形成されている。
また、係止部14cに形成されるガイド溝14dには、円弧状のシール材15が埋め込まれている。そのために、係止部14cのガイド溝14dは、直線ガイド部14a,14bのガイド溝14dよりもシール材15の厚さの分だけ深く形成されている。そして、シール材15が埋め込まれた状態で、直線ガイド部14a,14bと係止部14cは、ガイド溝14dの深さが一致するように形成されている。直線ガイド部14a,14bの各々の下端には、閉塞蓋6を係止するためのストッパ8が設けられている。
ガイドレール14は、係止部14cがダクト2の上半分の円弧部分と一致するように、ダクト2の通気口2aに固定されており、直線ガイド部14a,14bは鉛直方向に沿って配置される。
【0026】
閉塞蓋6は、その周縁部がガイドレール14のガイド溝14dの内部に挿入されており、ガイドレール14、特に直線ガイド部14a,14bに沿って鉛直方向に移動が自在とされている。
閉塞蓋6は、
図4(a),(c)に示されるように、最下端に位置するときに、ストッパ8により係止されることで、それよりも下方に抜け出ることが阻止される。この最下端の位置にあるとき、閉塞蓋6が通気口2aを塞がないように、ストッパ8の位置が選択される。
【0027】
さて、航空機100が飛行中には、閉塞蓋6は、ストッパ8で係止される最下端位置にあるため、ダクト2の通気口2aは開放されている。このため、航空機100の飛行高度に応じて弁体3のダクト2における開度が調整されることにより、客室101の気圧が調整される。
【0028】
一方、航空機100が着水し、閉塞蓋6が水中に浸漬すると、浮力体9が水から浮力を受ける。そうすると、閉塞蓋6は、浮力体9が設けられた側が水中で浮き上がることで、
図4(b),(d)に示すように、直線ガイド部14a,14bに案内されながら、係止部14cに向けて上昇動作する。係止部14cに達するまで移動すると、閉塞蓋6は通気口2aを塞ぐ。このように、閉塞蓋6が通気口2aを塞ぐことにより、機外から水が流入するのを防止することができる。しかも、閉塞蓋6は、浸漬すると自動的に係止部14cに向けて移動するので、操縦士が操作をしなくても、通気口2aを塞ぐことができる。したがって、第一の実施形態(1)と同様に、操縦士による弁体3を塞ぐ操作が後回しになったとしても、客室101への水の流入を防止することができるので、乗客、乗員の安全な脱出を確保できる。しかも、閉塞蓋6が係止部14cに達すると、係止部14cに設けられたシール材15と閉塞蓋6の周縁が密着することで、当該部分の封止性を向上できるので、より確実に水の流入を防止することができる。
【0029】
[第二の実施形態]
次に、
図5に基づいて、第二の実施形態を説明する。
第二の実施形態による浸水防止装置は、ダクト2の内部であって、弁体3を挟んだ両側に膨張閉塞体17を備えている。膨張閉塞体17は、ダクト2の内壁の上下に一つずつ取り付けられており、ダクト2の内部に合計で4つの膨張閉塞体17が設けられている。膨張閉塞体17は、水分を含むことで膨張する素材、例えばポリウレタン、高吸水性樹脂、水膨張性ゴムを使用することができる。
【0030】
航空機100が飛行中には、4つの膨張閉塞体17は、水分をほとんど含まないために、
図5(a),(c)に示すように収縮状態にある。したがって、ダクト2の通気口2aはほとんど開放されている。このため、航空機100の飛行高度に応じて弁体3のダクト2における開度が調整されることにより、客室101の気圧が調整される。
【0031】
一方、航空機100が着水してダクト2に水が流入すると、膨張閉塞体17が水分を含有することにより膨張し、ダクト2の内部を塞ぐため、それ以上の水の流入を防止することができる。本実施形態の場合、弁体3よりも水の流入の向きの上流側と下流側の両方に膨張閉塞体17を配置している。したがって、上流側の膨張閉塞体17が十分に膨張する間に流入した水を下流側の膨張閉塞体17によりそれ以上の流入を食い止めることができる。したがって、第一の実施形態と同様に、操縦士による弁体3を塞ぐ操作が後回しになったとしても、客室101への水の流入を防止することができるので、乗客、乗員の安全な脱出を確保できる。
【0032】
[第二の実施形態の変形例]
以上の第二の実施形態は、膨張閉塞体17として水分を含むことで膨張する素材を用いた例を示したが、本発明はこれに限定されず、膨張閉塞体17の代わりに、気体が供給されることで膨張する膨張閉塞体19を用いることもできる。
図6に示すように、膨張閉塞体19は配管20を介して圧縮空気供給部21と接続されている。圧縮空気供給部21は、配管20に向けた圧縮空気の供給可否を制御する制御弁22を備えている。また、圧縮空気供給部21は信号線24を介して衝撃感知部23が接続されている。航空機100が所定の衝撃、例えば海上に着水したことを衝撃感知部23が感知したことを、信号線24を介して圧縮空気供給部21に伝えると、それまで閉じていた制御弁22が開くことで、配管20を介して圧縮空気が各膨張閉塞体19に供給される。
【0033】
航空機100が飛行中には、衝撃感知部23が衝撃を感知しないため、4つの膨張閉塞体19は、
図6(a)に示すように収縮状態にある。したがって、ダクト2の通気口2aはほとんど開放されている。操縦士は、航空機100の飛行高度に応じて弁体3のダクト2における開度を操作することで、客室101の気圧を調整することができる。
【0034】
一方、航空機100が着水することで衝撃感知部23が所定の衝撃を感知すると、制御弁22が信号線24を介して衝撃感知信号を取得し、圧縮空気供給部21から膨張閉塞体19に向けて圧縮空気が供給される。圧縮空気が供給された膨張閉塞体19は
図6(b)に示すようにバルーン状に膨らみ、ダクト2の内部を塞ぐ。これによって、ダクト2を介して客室101に水が流入するのを防止することができる。
なお、航空機100への衝撃は、正常な着陸時にも生じ得るが、例えば着陸に備えて車輪が出ているときは、衝撃感知部23が感知した衝撃を圧縮空気供給部21に伝えるのをキャンセルすることができる。このようにすれば、着水時に航空機100に生じる衝撃と、着陸時に航空機100に生じる衝撃とを区別し、誤作動が生じるのを阻止できる。
【0035】
[第三の実施形態]
次に、
図7に基づいて、第三の実施形態を説明する。
第三の実施形態は、流入する水の力を利用してダクト2の内部に設けられる弁体3を閉じるというものである。
そのために、第三の実施形態は、
図7(a)に示すように、弁体3を水平方向に対して時計周りに傾けておく。ダクト2を全開にするには、通常であれば、弁体3を水平方向に沿った位置で静止させるが、本実施形態ではあえて弁体3を以上のように傾いた姿勢で静止させるのである。そうすれば、ダクト2に流入してきた水が、弁体3の機外側に臨む部分に先に到達するので、弁体3は時計回りに回転して鉛直方向に沿ったところで静止すると、
図7(b)に示すように、ダクト2を閉じる。
弁体3を傾ける程度は任意であるが、本来はダクト2を全開にすることを前提にすると、水平方向から数度だけ傾けておくことが望まれる。
また、水の流入状態によっては、弁体3が鉛直方向に沿った位置からさらに時計回りに回転することがあるので、本実施形態は回転を規制するストッパ25をダクト2の内壁の上下に取り付けることが好ましい。上下一対のストッパ25は、弁体3が鉛直方向に沿って静止するように、弁軸を中心にして互いに対称の位置に配置される。ただし、ストッパ25は、上下いずれか一方であってもかまわない。
【0036】
航空機100が飛行中には、
図7(a)に示した通り、ダクト2の通気口2aはほとんど開放されている。このため、航空機100の飛行高度に応じて弁体3のダクト2における開度が調整されることにより、客室101の気圧が調整される。
【0037】
一方、航空機100が着水し、機外側から水が流入してくると、流入してきた水が弁体3に到達し、弁体3が時計周りに回転する。弁体3がダクト2を塞ぐ位置まで回転するが、上下に設置したストッパ25に弁体3が係止されるので、それ以上の回転が規制される。したがって、操縦士による弁体3を塞ぐ操作が後回しになったとしても、客室101への水の流入を防止することができるので、乗客、乗員の安全な脱出を確保できる。
【0038】
[第四の実施形態]
次に、
図8に基づいて、第四の実施形態を説明する。
第四の実施形態による浸水防止装置は、ダクト2の内部にあって、弁体3よりも水の流入する向きの上流側に設けられている抵抗体28から構成される(
図8(a)、(b))。
抵抗体28は、ダクト2の上下及び幅方向に2つずつ、合計4つ配置されている。この抵抗体28はカップ形状を有しており、その開放側を水が流入する向きに対向させて配置することで、流入する水への抵抗を大きくしている。逆に、客室101から機外側への流れに対しては、抵抗体28は流線形となるので、抵抗が小さい。
【0039】
航空機100が飛行中には、航空機100の飛行高度に応じて弁体3のダクト2における開度を操作することで、客室101の気圧を調整することができる。この際、客室101から機外への排気に対して、抵抗体28は抵抗が小さいので、スムーズな排気を実現できる。
【0040】
一方、航空機100が着水してダクト2に水が流入すると、抵抗体28に向けて流入してきた水は一旦、堰き止められ、機内への流入する水の量は減少する。したがって、機外からの水の流入は許容するものの、客室101へ流入する水の量を軽減又は遅延させることができるので、操縦士による弁体3を塞ぐ操作が後回しになったとしても、乗客、乗員の安全な脱出を確保できる。
なお、
図8(a)および(b)に示した例では、抵抗体28はダクト2の上流側に設置されているが、さらにダクト2の下流側に設置してもよい。
また、抵抗体28は上記したカップ形状に限らず、他の抵抗体、例えば以下の形態によっても水の流入を軽減又は遅延できる。
【0041】
図8(c)および(d)に示したように、先端を先細りした円錐形状の抵抗体29をダクト2の一端に設ける。抵抗体29の開口側から水が流入する場合、ダクト2の通気口2aよりも抵抗体29の先端の開口29aの方が、開口径が小さく、また抵抗体29の先端において流入する水の剥離が生じるため、抵抗体29を設けていない場合に比べて、流入する水の量は減少する。すなわち、抵抗体29を設けることで、機外側からの水の流入を軽減又は遅延させることができる。一方、客室101側から機外側への流れに対しては、抵抗が小さいため客室101から機外へスムーズな排気を実現できる。
流入する水の量は、抵抗体29の仕様に依存し、例えば、開口29aの開口径が小さいほど少なくなる。また、同じ開口径であれば、通気口2aの先端から開口29aまでの突出長さが長いほど、水の流入量を減らすことができる。突出長さをあまり長くすると、水流入防止効果がほとんど変わらなくなる一方で重量が重くなったり、設置スペースを必要とすることから、通気口2aの直径Dに対し、突出長さを0.3D〜1.0Dの範囲とするのが好適である。
また、抵抗体29は、ダクト2と一体的に形成することができるが、別体として作製し
ダクト2に脱着容易に取り付けることもできる。
また、ここでは抵抗体29を弁体3よりも上流側に設けた例を示しているが、下流側に設けてもよい。
さらに、ここでは外形が円錐の抵抗体29の例を示しているが、円錐形と同様の効果が得られる任意の形状、例えば、外形が三角錐、四角錘の抵抗体とすることもできる。この場合、抵抗体の先端を下向きあるいは上向きに変位することを許容する。
【0042】
[第五の実施形態
(参考例)]
次に、
図9に基づいて、第五の実施形態を説明する。
第五の実施形態は、いわゆるゲートバルブによる弁体30とダクト2により気圧調整弁1を構成する。この弁体30は、ダクト2の上下に各々が配置される一対のシャッタプレート30a,30bからなる。弁体30は、シャッタプレート30a,30bが電力を受給していると、
図9(a)に示すように、ダクト2が解放された開状態をなし、シャッタプレート30a,30bが電力を受給していないと、
図9(b)に示すように、ダクト2が閉塞された閉状態をなす。開状態においては、シャッタプレート30a,30bの進退量を調整することで、弁体30の開度を調整することができる。
シャッタプレート30a,30bは図示しないアクチュエータを備えており、このアクチュエータによりシャッタプレート30a,30bは進退動作が行なわれる。このアクチュエータは電力線32を介して電力を供給する電力供給部31に接続されている。この電力供給部31は信号線34を介して衝撃感知部33に接続されている。
弁体30(シャッタプレート30a,30b)は、電力線32を介して電力供給部31から電力を受給することにより強制的に開状態とされる。ところが、航空機100が所定の衝撃、例えば海上に着水したことを衝撃感知部33が感知したことを、信号線34を介して電力供給部31に伝えると、電力供給部31がそれまで供給していた電力を遮断し、開状態に開放していた弁体30は閉状態とされる。
【0043】
航空機100が飛行中には、上述した通り、弁体30は開状態にあり、航空機100の飛行高度に応じて弁体3のダクト2における開度が調整されることにより、客室101の気圧が調整される。
【0044】
一方、航空機100が着水することで衝撃感知部33が所定の衝撃を感知すると、電力供給部31が信号線34を介して衝撃感知信号を取得し、電力供給部31から弁体30に向けての電力供給が遮断されるので、自動的に弁体30は閉じる。したがって、ダクト2は弁体30により塞がれ、機外からの水の流入を防止することができる。これによって、操縦士による弁体3を塞ぐ操作が後回しになったとしても、客室101への水の流入を防止することができるので、乗客、乗員の安全な脱出を確保できる。また、航空機100への衝撃は、正常な着陸時にも生じ得るが、第二の実施形態の変形例で示した方法により、誤作動が生じるのを阻止することができる。
【0045】
本実施形態では、航空機100が着水することで受けた衝撃に基づいて弁体30を閉じることにしているが、これに限らず、例えば、操縦士による電力の遮断や、航空機100のエンジンが停止したこと、あるいは水分検知センサにより航空機100が着水したことを、感知することで、弁体30を閉じることもできる
。
また、本実施形態では、上・下一対のシャッタプレート30a,30bの例を示したが、典型的にはシャッタープレートを上下いずれかにしたり、カメラの絞りに用いられているように、複数枚の羽根を組み合わせた開閉機構により弁体30を構成することもできる。
[第五の実施形態の変形例]
第五の実施形態では、ゲートバルブによる弁体30を気圧調整弁1の構成要素としているが、第一の実施形態〜第四の実施形態と同様に、バタフライバルブを気圧調整弁として用いるのに加えて、水の流入に対する障害物としてゲートバルブによる弁体30を設けることもできる。
【0046】
以上、本発明を第一の実施形態〜
第四の実施形態
、及び第五の実施形態の変形例に基づいて説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
例えば、気圧調整弁1を設ける位置は任意であり、胴体102の下部に限らず、上部に設けることもできる。航空機100が仰向けになって着水した場合に有効である。
また、気圧調整弁1のダクト2は円筒状に限らず、角筒状であってもよい。