(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032984
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】イヤホン用電磁型音響変換装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20161121BHJP
H04R 13/00 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
H04R1/10 104Z
H04R13/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-158603(P2012-158603)
(22)【出願日】2012年7月17日
(65)【公開番号】特開2014-22876(P2014-22876A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】591210530
【氏名又は名称】ヤシマ電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091247
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 雅人
(72)【発明者】
【氏名】桜井 一夫
(72)【発明者】
【氏名】桜井 広樹
【審査官】
千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−079890(JP,A)
【文献】
実開昭51−101135(JP,U)
【文献】
特開平09−215091(JP,A)
【文献】
特開2000−059889(JP,A)
【文献】
特開2008−028594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のヨークと、該ヨーク一端の開口面に固定された振動板と、該振動板上に固定された可動鉄片と、前記ヨーク他端に設けられた基体からその一部を振動板に向けて柱状に突出させたポールピースと、該ポールピースの柱状部分に巻回されたコイルと、該コイルを取り囲むように配設された磁石とからなる電磁型音響変換装置であって、
振動板をヨーク一端の開口面に対し、その形状がヨークの一端におけるエッジの全体形状に対応する円板状の樹脂シートを介して固定したことを特徴とするイヤホン用電磁型音響変換装置。
【請求項2】
振動板の外径をφ13以下とした請求項1に記載のイヤホン用電磁型音響変換装置。
【請求項3】
樹脂シートが熱成型されたものである請求項1に記載のイヤホン用電磁型音響変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヤホン用電磁型音響変換装置に関するものであり、更に詳しくは、良好な全高調波歪特性を有するイヤホン用電磁型音響変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、技術的進歩により、ポケットに入るようなサイズの音楽プレーヤーが、誰もが購入できる価格で一般的に販売されるようになると共に、携帯電話やスマートフォンにもこのような音楽プレーヤーとしての機能が付加されるようになった結果、これらの音楽プレーヤーや携帯電話等に各人の好みの音楽等を録音し、イヤホンを利用して通勤、通学途中や休憩中に楽しんでいる光景に接することが非常に多くなってきている。
【0003】
又、イヤホンについて近年では、オープンエアー型のヘッドホーンでは音漏れが発生してしまうため、公共の場(電車内、バス車内等)で使用した場合はこの音漏れで他人に迷惑を掛けてしまい、一方、大
型のヘッドホーンは、音質に優れ、且つ、音漏れはしないが、大型で完全に耳を覆ってしまうため、いずれも混雑している公共の場では使用勝手の悪さから敬遠され、結果的に密閉型の耳道挿入型イヤホンが主流になっている。
【0004】
耳道挿入型イヤホンの音響変換装置の構造の一例として、電磁型の音響変換装置を挙げることができ、この音響変換装置は、磁気回路中で機械系(可動鉄片付き振動板)の運動バランスを取ることができるため、良好な変換効率(電気→機械運動への変換効率)を得ることができ、そのために消費電流が少なく、音楽プレーヤーの電池寿命を伸ばすことができるという効果があり、しかも、他の音響変換装置では、音質を調整する上で基本構造的に無理が生じてしまう、完全密閉構造を採ることを可能
にするという効果もある。
【0005】
特許文献1には、
図1に示したような、電磁型の音響変換装置の一例が開示されていて、これは、可動鉄片1を、復元力のある振動板2に固定して磁石3と対向させ、磁石3、コイル4及びポールピース5から構成される磁気回路において、可動鉄片1を取り付けた振動板2を、これを貫く磁束による吸引力と、振動板の復元力との相反する力で均衡させることにより、磁気回路中のわずかな磁束の変化(電気信号の変化)でも、可動鉄片1の機械運動に変換することを可能にしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−55683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に耳道挿入型イヤホンは、男女や使用する年齢層を問わず、万人にフィットさせる必要があり、大きい耳の持ち主には大きい耳用の耳栓を用意することにより対応することができるが、小さい耳の持ち主にもフィットさせるためには、必然的に振動板の外径を例えばφ13以下に小型化せざるを得ない。
【0008】
しかしながら、
図1のような従来の電磁型の音響変換装置には、単純な部品構成で作ることができるという利点はあるものの、その単純な構造ゆえに、高効率を維持して小型化すると、大型のものに比較して振動板が大きく湾曲することになり、全高調波歪が増加するという難点がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、小型化しても高効率を維持することができ、しかも良好な全高調波歪特性を有するイヤホン用の電磁型音響変換装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、筒状のヨークと、該ヨーク一端の開口面に固定された振動板と、該振動板上に固定された可動鉄片と、前記ヨーク他端に設けられた基体からその一部を振動板に向けて柱状に突出させたポールピースと、該ポールピースの柱状部分に巻回されたコイルと、該コイルを取り囲むように配設された磁石とからなる電磁型音響変換装置であって、
振動板をヨーク一端の開口面に対し、
その形状がヨークの一端におけるエッジの全体形状に対応する円板状の樹脂シートを介して固定したことを特徴とするイヤホン用電磁型音響変換装置である。
【0011】
又、本発明のイヤホン用電磁型音響変換装置において、振動板の外径をφ13以下とすることが好ましい。
【0012】
更に、樹脂シートは
、それ
がヨーク一端の開口面の大きさや形状に対応していれば、差支えがない。
【0013】
更に又、樹脂シートは熱成型されたものであることも好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、小型化しても高効率を維持することができ、しかも、大型のものと比較して振動板が大きく湾曲しているにもかかわらず、良好な全高調波歪特性を有するイヤホン用の電磁型音響変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】従来の電磁型音響変換装置の一例を示す断面図である。
【
図2】従来の電磁型音響変換装置の一例における振動板の取付状態を示す一部拡大断面図である。
【
図3】本発明の
参考例に係る電磁型音響変換装置における振動板の取付状態を示す一部拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態
1に係る電磁型音響変換装置の構成を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態
1に係る電磁型音響変換装置の周波数特性を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態
1に係る電磁型音響変換装置の全高調波歪特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)について図面を参照しながら説明する。
【0017】
本発明のイヤホン用電磁型音響変換装置の基本的な構造は、従来技術のものと同様である。
【0018】
即ち、本発明装置の基本的構造は、
図1に示すように、円筒状で樹脂又は金属製のヨーク6と、該ヨーク6一端の開口面におけるエッジ7に固定された振動板2と、該振動板2上に固定された可動鉄片1と、前記ヨーク6の他端に設けられた基体8からその一部を振動板2に向けて柱状に突出させたポールピース5と、該ポールピース5の柱状部分に巻回されたコイル4と、該コイル4を取り囲むように配設された磁石3とからなるものである。
【0019】
そして、従来技術における電磁型音響変換装置にあっては、
図2に示すように、ヨーク6一端の開口面におけるエッジ7に、振動板2を直接に固定していた。
【0020】
一方、本発明
の発明者らは、さまざまな実験を繰り返し、
まず、
図3に示すように、ヨーク6一端の開口面におけるエッジ7に、外径を概ねφ13以下とした振動板2を、樹脂シート9を介して固定し
た。
【0021】
前記樹脂シート9を形成するための素材としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を挙げることができるが、厚みを細かく調整することができれば、これに限定されない。尚、一般的に振動板2は高硬度の素材により形成されているので、樹脂シート9にも高硬度のものを使用すると、共振現象が発生する可能性があるので、樹脂シート9を形成するための樹脂としては、あまり硬度の高いものは好ましくない。
【0022】
又、前記樹脂シート9の厚みとしては、振動板の外径にもよるが、例えば振動板の外径がφ13以下の場合で9μm〜16μmという範囲を挙げることができ、厚みがこの範囲を外れる場合は、所望の効果を得ることができない。
【0023】
一方、前記樹脂シート9の形状としては、
図3に明らかなように、ヨーク6の一端におけるエッジ7の平面形状に対応したワッシャ
ー状となっている。
【0024】
尚、可動鉄片1が固定されている振動板2は、磁石3からの吸引力により磁石3やポールピース5側へ引っ張られると共に、エッジ7に支持されているので、樹脂シート9の固定には特に接着剤等は必要ではない。
【0025】
実施の形態
1(参考例)
次いで本発明の発明者らは、前記樹脂シート9の形状としては、エッジ7の形状に対応するワッシャ
ー状
ではなく、
図4に示すように、ヨーク6の一端におけるエッジ7の全体形状に対応する円板状のもの
とした。
【0026】
本発明のイヤホン用電磁型音響変換装置は、上記の通り、従来技術の難点を解消して、優れた特性を発揮するものである
ことが判明した。
【0027】
即ち、上記実施の形態
1にかかる音響変換装置(以下、実施例及び図面では単に「実施の形態
1」とする。)と、振動板の外径を概ねφ13以下とすることによって単に小型化した従来技術における音響変換装置(以下、実施例及び図面では単に「従来品」とする。)とについて、国際規格(IEC)に従った人口耳を使用し、これにイヤホンを装着してから当該イヤホンに20Hz〜20KHz、1mWの信号を入力し、発された信号を人口耳に備え付けられたマイクロホンで電気信号に変換することにより特性を測定したのである。得られた周波数特性を
図5に、全高調波歪特性を
図6に示す。
【0028】
図5に明らかなように、実施の形態
1の周波数特性は、従来品の周波数特性と比較して特に遜色はなく、双方共にフラットなものであった。
【0029】
又、
図6に明らかなように、従来品の全高調波歪特性は、低域から中音域に至るまで歪の多いことが分かるが、実施の形態
1では、ほぼ全域に亘って良好な全高調波歪特性を有することが分かった。
【符号の説明】
【0030】
1:可動鉄片、2:振動板、3:磁石、4:コイル、5:ポールピース、6:ヨーク、7:エッジ、9:樹脂シート