(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱伸長繊維は熱融着性を備えており、前記吸収層の前記伸長抑制部において、前記熱伸長繊維の熱融着性により、前記吸収層と前記表面層とが接合されている請求項1記載の吸収性物品。
前記吸収層の隆起面は前記表面層と接合されておらず、該隆起面直下の隆起部における熱伸長繊維が前記吸収層の他の構成繊維と融着していない請求項1又は2記載の吸収性物品。
周面が凹凸形状となっている第1のロールと、該第1のロールの凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有する第2のロールとの噛み合わせ部に、表面層用シートを搬送、挟持させて、該シートに凹部と凸部を賦形する工程と、
該賦形された前記シートの凸部を、熱伸長性繊維を含有する吸収層前駆体に接触させる工程と、
前記接触した吸収層前駆体と表面層用シートを加熱して一体化させるとともに、前記熱伸長性繊維を伸長させて吸収層前駆体の表面層用シート側表面に突状部を形成する工程と、を含む、表面層と吸収層とを備えた吸収性物品の製造方法。
前記第1のロールの凸部分を前記吸収層前駆体の表面から一定深さまでくい込ませて、前記表面層用シートの前記凸部が吸収層前駆体の表面から一定深さの位置で接触するようにする請求項8記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の吸収性物品を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は本発明の吸収性物品の直交する2切断面で示した斜視図である。本実施形態の吸収性物品は、肌当接面側に配置された液透過性の表面層1、非肌当接面側に配置された液難透過性の防漏層3、及び前記表面層1と前記防漏層3との間に配置された液保持性の吸収層2を有する。
【0013】
本発明においては、特に断らない限り、人体に接触する側を肌面側ないし肌当接面側あるいは表面側といい、これと反対側を非肌面側ないし非肌当接面側あるいは裏面側という。着用時に人体の前側に位置する方向を前方といいその端部を前端部とし、後側に位置する方向を後方といいその端部を後端部として説明する。吸収性物品の表面又は裏面の法線方向を厚み(厚さ)方向といいその量を厚み(厚さ)という。
【0014】
表面層1は、凹凸形状を有するシート体である。吸収層2は、肌当接面側において、熱伸長繊維21を含有し、伸長抑制部22と隆起面23とを有する。表面層1は、吸収層2とは全面では接合されず、伸長抑制部22においてのみ接合され固定されている。一方、表面層1と吸収層2との非接合の部分においては、両層の間に、空間部4が形成されている。防漏層3は、吸収層2の非肌当接面側の全面を覆い、液漏れを防いでいる。伸長抑制部22、隆起面23及び空間部4の詳細は後述する。
表面層1は、排泄された体液を速やかに吸収し、吸収層2に伝達する観点と、肌触りのよさの観点から親水性のエアスルー不織布からなる。防漏層3は、液難透過性の部材からなり、例えば、通気性を有し液不透過の透湿性フィルム等を用いて形成されたシート体である。前記液難透過性とは、液を透過させにくい性質を意味し、防水性、撥水性及び液不透過性を含む。なお、本発明においては、表面層1及び防漏層3は、本実施形態のシート体に限らず、複数の部材を組み合わせたものや厚みに変化を持たせたものなど、種々の態様のものを任意に採用できる。
【0015】
次に、吸収層2について、伸長抑制部22及び隆起面23の特徴とともに詳述する。
吸収層2は熱によってその長さが伸長した熱伸長繊維21、及び排泄液を吸収保持する部材として親水性繊維を有する。吸収層2は、これらの構成繊維が積繊されてなる積繊体(吸収性コア)である。なお、吸収層2には、吸水性ポリマーなど他の機能素材を含んでもよい。本実施形態における吸収層2は、周囲を被覆するコアラップシートを有さず、表面層1及び防漏層3と直接接合固定されている。
【0016】
熱伸長繊維21は、吸収層2の厚み方向(Z軸方向)にみて、少なくとも肌当接面側に存在しており、好ましくは、肌当接面側に偏在している。この偏在というとき、吸収層2中の、肌当接面側における熱伸長繊維21の含有率が、非肌当接面側よりも高いことをいい、含有率に相対的な差があることをいう。例えば、
図2に示す、肌当接面側の表面の領域P1における熱伸長繊維21の含有率(r1)が、これより下方にある中層部(厚み中央部分)の領域P2や防漏層3との対向面付近の領域P3における熱伸長繊維21の含有率(r2及びr3)よりも高い(r1>r2及びr3)。この含有率の偏在においては、熱伸長繊維21が、領域P2及びP3には全くなく、肌当接面側の表面付近のみにある状態でもよい。この含有率は、後述の繊維密度の測定方法と同様の方法により測定することができる。なお、熱伸長繊維21の含有率は、少なくともr1>r3であればよく、r1とr2は同じでも、r1<r2であってもよいが、r1>r2及びr3であることが隆起部231の厚み方向の繊維密度差を設け易くなるので好ましい。
【0017】
本発明において熱伸長繊維21とは、熱によってその伸長性が発現した後の繊維のことであり、部分的にその発現が抑制されているものを含む。つまり、伸長抑制部22でその伸長性の発現が抑制されていたとしても、該繊維の全体としては、伸長性が発現し、後述の隆起面23の形成に寄与した状態ものを熱伸長繊維21という。一方、熱伸長性が発現する前の状態のものを熱伸長性繊維210という。つまり、後述の製造工程の途中段階で熱風回復処理される前の状態のものを熱伸長性繊維210という。熱伸長繊維21及び熱伸長性繊維210は、熱融着性を有することが好ましい。
【0018】
次に、伸長抑制部22について説明する。
吸収層2の肌当接面側には、複数の伸長抑制部22が、平面方向(X軸及びY軸方向)に点在して形成されている(
図3参照)。伸長抑制部22においては、熱伸長繊維21の熱伸長性の発現が部分的に抑制された状態である。具体的には、熱エンボスや超音波エンボス等により、熱伸長繊維21が、自身の熱融着性によって親水性繊維等の吸収層2の他の構成繊維と融着されている。また、本実施形態においては、表面層1の繊維とも融着固定されている。この融着により、熱伸長繊維の熱伸長性の発現が抑制された状態である。この場合の熱伸長性が抑制されるとは、その部分において全く伸長しなかった場合に限らず、親水性繊維等の他の構成繊維を押し退けない程度に僅かに伸長した状態をも含む。
本実施形態においては、エンボス処理により伸長抑制部22が形成されているが、これに限定されず、上記の抑制機能を付与する種々の方法により形成することができる。例えば、部分的に接着剤を塗布して、熱伸長繊維を固定したりすることもできる。その他、熱伸長繊維21の接着性を発現する処理として、部分的に熱可塑性の接着剤を塗布し、接着剤の熱可塑温度以上に加熱して接着する方法や、熱伸長性繊維を溶解可能な溶剤を霧状に散布して、熱融着性繊維の表面を溶解し粘着性を発現させる化学的処理などが挙げられる。
【0019】
吸収層2の肌当接面側において、伸長抑制部22が配されていない部分は、構成繊維が隆起して形成された隆起面23となっている。本実施形態においては、
図3に示すとおり、4つの伸長抑制部22に囲まれた領域で隆起面23が形成されている。この伸長抑制部22と隆起面23との組み合わせが、複数、点在して配置されている。つまり、
図1におけるX方向、Y方向及びこれらの方向に交差する任意の方向に沿った縦断面において、抑制部22と隆起面23とが交互に連続し、吸収層2の肌当接面側が凹凸の繰り返す形状となっている。
【0020】
次に、この隆起面23について、
図2を参照して以下に詳述する。
隆起面23は、吸収層2の構成繊維が肌当接面側に隆起して形成されたものであり、構成繊維の繊維間空間(繊維間距離)が非肌当接面側よりも拡大したことで形成されている。つまり、隆起面23直下の繊維密度が非肌当接面側よりも粗な状態となっている。この粗な部分を隆起部231という。隆起部231の繊維密度が粗な状態は、従来のように周囲をエンボス処理して高低差をつけることでは得られない。なぜならば、従来のエンボス処理による高低差では、エンボス部分及びその周辺で繊維が圧密化されるものの、それ以外の部分は繊維の積繊状態が維持されたままだからである。
これに対し、本実施形態の隆起面23及び隆起部231は、熱伸長繊維の伸長により構成繊維が肌当接面側へと追いやられ、結果として繊維間空間が非肌当接面側より大となり、嵩高な状態とされて形成されたものである。より具体的には、本実施形態の吸収性物品の形成過程において、熱伸長する前の熱伸長性繊維210が親水性繊維等の他の構成繊維とともに積繊された後、熱風回復処理により、熱伸長性繊維210が伸長抑制部22を基底部として伸長する。その際、熱伸長性繊維210は他の構成繊維とは融着しておらず、十分に伸長性が発現される。これにより、その部分が、通常の積繊状態又は積繊後の成形のための表面押圧をした状態から、繊維密度が粗な状態へと変化して隆起面23及び隆起部231が形成されている。
その結果、隆起面23を含む吸収層2の縦断面において、隆起部231の肌当接面側とそれより下方の非肌当接面側との間に繊維密度の差が生じている。例えば、
図2に示す、中層部(厚み中央部分)の領域P2及び下層部の防漏層3との対向面付近の領域P3の繊維密度(m2及びm3)に対し、これよりも厚み方向上方にある隆起面23の頂上23t付近の領域P1の繊維密度(m1)が粗な状態となっている(m1<m2及びm3)。
【0021】
前述の繊維密度の差(m1<m2及びm3)により、吸収層2において、肌当接面側よりも非肌当接面側に強い毛管力が働く。これにより、排泄液が非肌当接面側へと移行され易い(
図2矢印a1参照)。また、肌当接面側の繊維密度が粗、つまり繊維間空間が非肌当接面側より大きい。そのため、肌当接面側は通液抵抗が低く、この部分で排泄液が保持されるよりも下方へと透過され易い。これにより、吸収層1の下層までも液保持に十分活用されて液吸収性能に優れる。また、吸収層2に取り込まれた液は、表面層1から遠い位置の非肌当接面側で保持され易く、肌への液戻りが生じ難い。下層での液吸収の観点から、吸水性ポリマーを含有させる場合は、上層よりも下層に高吸収可能となるよう、例えば、高密度となるように配することが好ましい。
【0022】
前記液吸収性能の向上の観点から、前述の厚み方向の頂上部と中層部との繊維密度差(m2−m1)は、0.1g/cm
3以上であることが好ましく、0.2g/cm
3以上であることがより好ましい。その上限は、1.0g/cm
3以下であることが好ましく、0.8g/cm
3以下であることがより好ましい。同様に、厚み方向の頂上部と下層部との繊維密度差(m3−m1)は、0.2g/cm
3以上であることが好ましく、0.3g/cm
3以上であることがより好ましい。その上限は、1.2g/cm
3以下であることが好ましく、1.0g/cm
3以下であることがより好ましい。上記下限以上とすることで頂上部から中間部、下層部にかけて密度勾配が形成され、隆起部231の内部に肌当接面側から非肌当接面側にかけて毛管力が働き、肌当接面側から体液を遠ざけ着用者に優れたドライ感を提供することができる。上記上限以下とすることで吸収層2の繊維密度が過度に高まることを抑制するので、吸収層2の硬さが適度で装着感を良好にすることが容易となる。
なお、本発明においては、前述の厚み方向の密度差は、単に3か所の密度差に限定されるものではなく、肌当接面側から非肌当接面側の下層部へ向かって、密度の勾配ができていることが好ましい。また、その勾配は、密度が徐々に高くなる場合に限らず、断続的ないし多段的に密度が高くなるような場合も含む。
【0023】
加えて、伸長抑制部22では、熱融着により繊維が密な状態である。特に伸長抑制部22がエンボス処理で形成されていると、押圧の影響で、その周辺の領域P4及び領域P5(
図2参照)などの繊維密度(m4及びm5)は、隆起部231の領域P1の繊維密度(m1)よりも密である(m1<m4及びm5)。これにより、吸収層2内部に取り込まれた排泄液は、複数の隆起面23ないし隆起部231から複数の伸長抑制22周辺の領域P4及び領域P5へと平面方向に拡散し、より液吸収性能に優れる(
図2矢印a2参照)。したがって、伸長抑制部22は、下層までの厚み(h3)全体に亘ってあるよりも、一部繊維同士が融着せず密度が高められた領域P5等があることが好ましい。この観点から、伸長抑制部22が配された部分の底部までの厚み(h3)に対する伸長抑制部22の形成深さ(h4)の割合(h4/h3)は、4/5以下が好ましく、2/3以下がより好ましい。一方、隆起面23の基底部として熱伸長性繊維21の伸長性をしっかりと抑制するため、割合(h4/h3)は、1/5以上が好ましく、1/3以上がより好ましい。
【0024】
前記の吸収層2内部での液拡散性の観点から、隆起部231と伸長抑制部22周辺との繊維密度差(m4−m1)は0.2g/cm
3以上であることが好ましく、0.3g/cm
3以上であることがより好ましい。その上限は2.0g/cm
3以下であることが好ましく、1.5g/cm
3以下であることがより好ましい。同様に、隆起部231と伸長抑制部22の下方部分との繊維密度差(m5−m1)は0.1g/cm
3以上であることが好ましく、0.2g/cm
3以上であることがより好ましい。その上限は1.5g/cm
3以下であることが好ましく、1.2g/cm
3以下であることがより好ましい。上記下限以上とすることで伸長抑制22の周辺部と伸長抑制部22の間に密度勾配が設けられ、伸長抑制部22の周辺部から伸長抑制部22に向かって毛管力が働き、体液を素早く吸収することが可能となる。上記上限以下とすることで製品厚み方向において、伸長抑制部22にクッション性を持たせ、着用者に優れた装着感を提供することが可能となる。
【0025】
(繊維密度の測定方法)
繊維密度は、例えば、以下の方法で測定することができる。
吸収層2の切断面を、走査電子顕微鏡を用いて拡大観察(繊維断面が30〜60本計測できる倍率(好ましくは150〜500倍)に調整し、繊維の断面数を測定し、一定面積あたりの前記切断面によって切断されている繊維の断面数を数え、次に1mm
2当たりの繊維の断面数に換算する。次に、得られた拡大画像から各繊維の断面積を測定し、各々の繊維を測定した断面積を有する柱状の構造体と仮定し、1mm
3当りの占有体積を算出する。各々の繊維の占有体積にその繊維の比重を乗じて1mm
3当りに含まれる全繊維重量を求めることで繊維密度(g/cm
3)を算出する。測定は3ヶ所行い、平均してそのサンプルの繊維密度とする。上記走査電子顕微鏡には、日本電子(株)社製のJCM−5100(商品名)を用いることができる。
【0026】
さらに、隆起部231は、熱伸長繊維の伸長により、周辺のエンボス処理で繊維が引きつれることなく、嵩高な状態である。これにより、吸収層2の肌当接面側は、従来の吸収層に比べて柔らかな風合いが得られる。その結果、この吸収層2を備えた吸収性物品は、エンボス部分があっても、柔らかく着用感に優れる。また、その柔らかさのため、他のシート部材よりも厚みのある吸収層2は湾曲し易く、装着時に吸収性物品を体に沿わせて好適にフィットさせることができる。
【0027】
隆起部231においては、前述の通液抵抗の低減及び柔らかな風合いの向上の観点から、熱伸長繊維21は、親水性繊維等の他の構成繊維と融着ないし接合せずに、自由度を保持していることが好ましい。また、前述の液の拡散(領域P1から領域P4及び領域P5への拡散)を考慮すると、隆起面23を含む隆起部231の形状は、頂点23tを有する山形ないしドーム形状であることが好ましい。
また、柔らかな風合い及び液の拡散性の観点から、
図2に示す、吸収層2全体の厚み(h1)に対する隆起面23の高さ(h2)の比率(h2/h1)は1/5以上が好ましく、1/4以上がより好ましい。また、下層での十分な液の吸収性能の確保の観点から、その上限は4/5以下が好ましく、3/4以下がより好ましい。なお、隆起面23の高さ(h2)とは、隆起面23の底部となる伸長抑制部22の肌当接面の位置から、隆起面23の頂点23tなどの最も隆起した位置までの厚み方向長さ(h1−h3)のことである。
【0028】
以上のとおり、吸収層2においては、隆起面23を取り込み口として、液を素早く透過させ、拡散させて、下層でより多くの液を吸収保持させることができる。この隆起面23及び隆起部231は、熱伸長性繊維210の伸長による。好適な隆起面23及び隆起部231を形成するため、熱伸長繊維21が熱伸長する前の状態の熱伸長性繊維210の長さは3mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましい。一方、熱伸長性繊維210は、親水性繊維等とともに積繊され易くする観点、吸収層2としての液保持性の確保の観点から、35mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましい。また同様の観点から、伸長した後の熱伸長繊維21は、伸長抑制部22にある融着された部分を除いて、5mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましい。その上限は、50mm以下であることが好ましく、40mm以下であることがより好ましい。
【0029】
一方、隆起面23の基底部となる伸長抑制部22は、前記の熱伸長する前の熱伸長性繊維210の端部を確実に捉えてその伸長性を抑制するために、熱伸長性繊維210の長さよりも短い断面幅を有することが好ましい。伸長抑制部22同士の間の幅は、熱伸長性繊維210が熱伸長する前の状態で、その最も長いところで、0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上が好ましい。その上限は、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましい。また、形成された隆起面23及び隆起部231が好適な大きさであるために、熱伸長性繊維210が熱伸長した後の状態における、伸長抑制部22同士の間の幅(w1)は、2mm以上が好ましく、3mm以上が好ましい。その上限は30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。なお、伸長抑制部22同士の間の幅(w1)とは、熱伸長抑制部22同士の内側の距離のことである(
図2参照)。
【0030】
なお、伸長抑制部22の平面形状は、
図3に示すとおり、円形等が挙げられるが、これに限らない。隆起面23の基底部としてとり得る形状を任意に採用できる。例えば、三角形、方形、多角形、楕円形、星型等の図形などでもよく、これらの2種以上を組み合わせたものでもよい。また、伸長抑制部22及び隆起面23の配置などは、
図3のものに限定されず、液吸収性能の向上及び柔らかな風合いの観点から、任意に設定できる。例えば、
図4(a)のように6つの円形の伸長抑制部22に囲まれて隆起面23が形成されるものでもよい。あるいは、
図4(b)及び(c)のように、伸長抑制部22自体が、線状であり、複数の線状又は方形の伸長抑制部22に囲まれた領域に隆起面23が形成されるものであってもよい。
【0031】
次に、
図1及び5を参照して、表面層1の構成、及び表面層1と吸収層2との連携による作用について、以下に詳述する。
表面層1は、
図1に示すように、肌当接面側及び非肌当接面側が一体的に厚み方向に変形した凸部11及び凹部12が繰り返す、凹凸形状を有している。凸部11は、肌当接面側から見れば、肌当接面側(Z1)方向に突出した表面凸部11aであり、非肌当接面側から見れば、非肌当接面側(Z2)から肌当接面側(Z1)へと窪んだ裏面凹部11bである。一方、凹部12は、肌当接面側から見れば、非肌当接面側(Z2)に窪んだ表面凹部12aであり、非肌当接面側から見れば、肌当接面側(Z1)から非肌当接面側(Z2)へと突出した裏面凸部12bである。表面凹部12a及び裏面凹部11bの窪みは、後述の液透過性及び液拡散性の観点から、筋状であるよりも、円錐や円錐台、楕円錐、楕円円錐台を逆さにした形状、すり鉢状ないしお椀状など、凹部の広がりが底部に向かって収束する形状であることが好ましい。
これらの凹部11と凸部12とが、平面視で交差する異なる方向(
図1におけるX方向、Y方向及びこれらと交差する異なる方向など)において交互に、隣接して周期的に複数配置されている。その結果、表面層1は、平面方向のほぼ全域に亘って、非肌当接面側及び肌当接面側が一体的に、凹凸を周期的に繰り返した形状となっている。本実施形態において、この表面層1の凹凸の周期は、吸収層2の伸長抑制部22と隆起面23とによる凹凸の周期と一致している。
【0032】
図5に示すように、本実施形態においては、表面層1の裏面凸部12bと吸収層2の伸長抑制部22とは、その配置がほぼ一致し、接合部5により接合されている。接合部5では、エンボス処理が施され、その位置にある熱伸長繊維21の熱融着により、表面層1と吸収層2とが接合されている。この接合方法は、本実施形態の方法に限らず、接着剤によるなど、この種の物品に用いられる方法を種々採用できる。このように表面層1の吸収層2との接合が、吸収層2の伸長抑制部22のみとされていることで、吸収層2の隆起面23及び隆起部231の隆起が表面層1によって潰されず好ましい。なお、表面層1の裏面凸部12bと吸収層2の伸長抑制部22との一致は、吸収性物品の全域でなされなくてもよく、少なくとも排泄液を直接受ける領域で一致していることが好ましい。また、排泄液を直接受ける領域でも、隆起面23及び空間部4の機能が維持されれば、多少のズレ等があってもよい。
【0033】
この接合部5及び伸長抑制部22を、後述の複数列の凹凸歯車を備えたエンボスロールを用いて形成する場合、その配列は、各列の歯車における凸部の間隔によって決まる。この場合、各列における接合部5及び伸長抑制部22の列方向での長さは、0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましい。その上限は20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましい。上記下限以上とすることで、表面層1と吸収層2中の熱伸長性繊維21が確実に熱融着し、着用中に表面層1と吸収層2が剥離し難い構造となる。上記上限以下とすることで熱処理により他の部分と比べて硬くなる伸長抑制部22が隆起した表面層1間に埋没し、装着中に着用者の肌と伸長抑制部22とが接することを防止する構造となる。また前記エンボスロールによって接合部5及び伸長抑制部22を形成する場合、隆起面23及び隆起部231を効果的な隆起形状とするため、各列における接合部5及び伸長抑制部22のピッチを、隣り合う列同士で半ピッチすれた配列とすることが好ましい。
【0034】
一方、表面層1の裏面凹部11bにおいては、吸収層1の隆起面23が対応して配置されている。裏面凹部11bと隆起面23とは、接合されず離間した状態とされている。これにより、両者の間には、空間部4が形成されている。この空間部4が介在することで、吸収層2の隆起面23及び隆起部231の形状がより維持され易く好ましい。この空間部4とは、この領域に全く部材が入り込んでない状態に限定されない。例えば、吸収層2の繊維が毛羽立って多少入り込んだ状態でもよい。空間部4としては、隆起面23及び隆起部231の形状が維持されて、後述のクッション作用や液調整弁としての作用を奏し得る態様を広く含む。
【0035】
空間部4の存在によって、凸部11と吸収層2とが分離した状態とされている。この部分において、表面層1は、吸収層2の厚みによる剛直性の影響を受けず、自在に変形可能とされている。つまり、表面層1の肌当接面側からの押圧に対し、表面凸部11aが吸収層2の制限を受けず圧縮仕事量が大きく、肌に触れたときのふんわりとした感触が増す。これによりやわらかなクッション感が得られる。
特に、本実施形態の表面層1及び吸収層2を組み込んだ吸収性物品は、複数の頂点11t付近で着用者の肌と接触することとなる。この場合、凸部11は、肌との接触面積を低減する一方で、体圧を直接受けることとなる。この体圧は、厚み方向の押圧(
図5の白矢印f1)に限らず、着用者の動きに合わせた多方向からの圧力(
図5の白矢印f2、f3)などとして加えられる。この場合でも、凸部11は、裏面凹部11bにおいて吸収層2の隆起面23に対しアーチ形状をなして形状が維持されつつ、空間部4の存在で表面凸部11aは、吸収層2とは分離して動きやすい(圧縮仕事量が大)。そして、多方向からの力に対しても柔軟に変形し、追従することができる。そのため表面凸部11aが弾けるようにして肌と擦れることが生じ難く、摩擦が少ない。その結果、肌に触れた感じが柔らかく、優しい肌触りとなる。さらに、表面層の肌当接面側の凹凸は、通気性に優れ、肌の濡れを防止し得る。これらのことが、吸収層2の柔らかな風合いと相俟って、吸収性物品の着用感の向上をもたらす。
【0036】
加えて、凸部11の裏面凹部11bは、空間部4の介在により、吸収層2と密着せず一体化していない。これにより、凸部11が、液を吸った後の吸収層2のヘタリの影響を受けず、形状が維持され易い。また、凸部11の根元にあたる裏面凸部12は、吸収層2の繊維の動きが拘束された伸長抑制部22と接合部5で接合固定されている。つまり、凸部11のアーチ形状の立ち上がりの基礎部分がしっかりと固定されている。これにより、凸部11の形状がより効果的に維持され、良好なクッション性が維持され易い。
【0037】
空間部4は、肌と接する凸部11と吸収層2の繊維密度が粗な隆起部231との間に配置されている。これにより、表面凸部11aで直接受けた排泄液は裏面凹部11bにある空間部4に一旦取り込まれ、吸収層2へと引き渡される。空間部4が介在することで、排泄液の排泄量が一度に多量となった場合でも、空間部4が表面層1からの液を一時的に保持して液吸収の調整弁となり得る。そして、空間部4は、親水性繊維等からなる吸収層2とは違って保水力が低い。また、吸収層2の隆起部231は繊維密度が粗で液透過性に優れる。これらの相乗作用により、液を吸収層2へと素早く引き渡すことができる。このように空間部4は、液の調整弁として一時液を保持しつつもすぐに空間が回復し得るので、多量の排泄の場合のみならず、繰り返しの排泄の場合であっても十分対応可能である。
【0038】
空間部4は、前述のとおり保水力を備えず、通液抵抗が低い。また、空間部4は、肌と接し排泄液を直接取得する凸部11の直下にあり、肌に近い位置に配されている。そのため、空間部4は凸部11から素早く排泄液を取り込み、繊維密度が粗な隆起部231へと素早く引き渡す(
図5の矢印a1参照)。このようにして、排泄液の取得口である凸部11、空間部4、及び排泄液の取り込み口である隆起面23が厚み方向に重なる配置が、前述の液の調整弁機能と併せ、好適に液の吸収性能を向上させることができる。また、この液取り込み性の観点から、凸部11の頂部11tと隆起面23の頂部23tとが重なる配置がさらに好ましい。
【0039】
また、空間部4に取り込まれた排泄液は、隆起面23を介し、下方に透過されると同時に、繊維密度の高い伸長抑制部22の周辺へも拡散して取り込まれる(
図5の矢印a2及びa3)。つまり、空間部4は、表面層1と吸収層2との間で液を拡散し、吸収層2の広い面積で液を引き渡すことができる。
【0040】
一方、表面層1の肌当接面側での液拡散防止という観点では、表面層1の凹凸の繰り返しがさらに効果的な作用を奏する。
図1に示すように、表面層1の肌当接面側には、すり鉢状に窪んだ表面凹部12aが複数分散配置されている。そのため、凹凸が筋状に形成される場合に比べて、表面凸部11aから流れ落ちる排泄液の捕捉性が高く、表面層1の肌当接面側での液の拡散を効果的に抑制し得る。
そして、表面凹部12aで捕捉された排泄液は、凸部11と凹部12とを繋ぐ壁部13などを介して、空間部4へと素早く透過される。また同時に、接合部5ないし吸収層2の伸長抑制部22周辺の繊維密度が高められた領域から積極的に引き抜かれる。
【0041】
このようにして、表面層1の凹凸形状、空間部4、並びに吸収層2における隆起面23及び伸長抑制部22が相乗的に作用して、液の肌当接面側での液拡散を防止し、積極的に液を吸収層2へと取り込み、液残りや液戻りを防止して、液吸収性能の向上に貢献し得る。そして、表面層1の肌当接面側は、さらっとしたドライ感を呈し、良好な着用感が得られる。このように本発明の吸収性物品は、従来、サブレイヤやコアラップシートが担う機能までも備えるものである。つまり、本発明は、これらの従来からの部材の省略を可能とし、製造コストを抑制し、より薄型で軽量化された、吸収性能の良い吸収性物品の提供を可能とする。
【0042】
以上のとおり、凸部11が肌に柔らかく接触して優れたクッション性を得る観点から、凸部11の高さ(h6)は、1mm以上が好ましく、1.2mm以上がより好ましい。その上限は、10mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましい。また、液拡散性を効果的なものとするべく空間部4の容積を好適なものとする観点から、凸部11の底面積は、4mm
2以上が好ましく、9mm
2以上がより好ましい。その上限は、900mm
2以下が好ましく、625mm
2以下がより好ましい。
さらに、空間部4による液吸収性能の向上の観点から、凸部11の高さ(h6)と空間部4の高さ(h7)との比率(h7/h6)は、9/10以下が好ましく、4/5以下がより好ましい。一方、優れたクッション性の凸部11の形状維持の観点から、1/10以上が好ましく、1/5以上がより好ましい。
なお、
図5に示すように、凸部11の高さ(h6)は、伸長抑制部22の肌当接面側の表面から凸部11の頂部11aまでの高さである。また、空間部4の高さ(h7)は、隆起面23の頂部23tから裏面凹部11bの最も肌当接面側へと窪んだ部分までの高さである。さらに、凸部11の底面積は、凸部11を囲む裏面凸部12bにおける接合部5(又は伸長抑制部22)で確定されるその内側の領域の広さである。これは隆起部231の底面積にも一致し、
図3に示される伸長抑制部5で囲まれるその内側の領域の広さに相当する。
【0043】
なお、本実施形態における表面層1は、凹凸形状に賦形されたシート体であるが、上記の機能を有する限り、この態様に限定されるものではない。例えば、空間部4が形成されるのであれば、伸長性を有する平坦な表面層を用いて吸収層の伸縮抑制部22で接合するようにしてもよい。その際、前記表面層は多少のあそびをもたせて接合するようにすると凹凸も出来やすく好ましい。その他、表面層1としては、空間部4の形成の観点から、表面凹凸でなくても、非肌当接面側だけが凹凸形状となるものであってもよい。
【0044】
次に、本実施形態の吸収性物品の全体構造について、その一実施形態としての生理用ナプキン30を模式的に示す
図6により説明する(これを拡大して2辺を断面により示した斜視図が
図1に相当する。)。ただし、本発明の吸収性物品はこの形態に限定して解釈されるものではない。本実施形態の生理用ナプキン30は、表面層1及び吸収層2からなる複合素材が防漏層3にホットメルト型接着剤による接合手段により接合されている。さらに吸収性物品の周辺部分においては、表面層1のみが延出され、防漏層3と熱シール、超音波シール等の接合手段、もしくは、ホットメルト型接着剤の併用により接合されている。また、着用者の排泄部に対向する排泄部対向部(縦横の中央部)を囲むように防漏溝38が形成されている。着用者に当接する表面には、凸部11が多数配設されている。この凸部11に加え、空間部4、隆起面23及び伸長抑制部22については、既に
図1〜
図5を参照して詳しく説明した。
【0045】
次に、本発明の吸収性物品の製造方法として好ましい態様を、
図7〜10を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明の製造方法はこれにより限定して解釈されるものではない。
図7は本発明の製造方法について、その工程の一部を模式的に示す工程説明図である。まず、原反ロール(図示せず)から表面層用シートである上層(不織布シート)42を矢印49aの方向に繰り出す。これとは別の原反ロール(図示せず)から吸収層前駆体である下層(繊維の積繊体)43を矢印49eの方向に繰り出す。下層43は、吸収層となるべく、潜在的に熱伸長性を有する熱伸長性繊維210と親水性繊維等とを積繊してなる。熱伸長性繊維210は、この時点では伸長性は発現していない。なお、下層43は、製造工程において搬送される前に、軽くプレスして上層42との接合面を平らに均しておくことが、後述の空間部4を良好に形成するために好ましい。
【0046】
次いで、繰り出された上層42を、周面が凹凸形状となっている第1ロール(凹凸パターンを有するエンボスロール)401と、第1のロールの凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有する第2ロール402との噛み合わせ部に搬送する。この噛み合わせ部に上層42の不織布シートが噛み込まれて挟持され、凹部12と凸部11とが賦形される。
【0047】
図8には、第1ロール401の部分拡大斜視図を示した。第1ロール401は、所定の歯幅を有する平歯車401a,401b,・・・を複数枚組み合わせてロール状に形成したものである。各歯車の歯幅は、所望の液吸収透過性シートの凸部の間隔に応じて定めることが好ましい。この態様においては隣り合う歯車は、その歯のピッチが半ピッチずつずれるように組み合わされている。
第1ロール401における各歯車の歯溝部には吸引孔403が形成されている。この歯溝部は、第1ロール401の周面における凹凸形状のうちの凹部に相当するものである。吸引孔403は、ブロワや真空ポンプなどの吸引源(図示せず)に通じ、
図7に示すように、第1ロール401(回転方向:矢印49c)と第2ロール402(回転方向:矢印49b)との噛み合い部45から上層42と下層43との合流部46まで吸引されるように制御されている。したがって、第1ロールと第2ロールとの噛み合いによって凹凸賦形された上層42は、吸引孔403による吸引力によって第1ロール401周面に密着し、その凹凸賦形された状態が保持される。この場合、
図8に示すように、隣り合う歯車間に所定の空隙Gを設けておくと、上層42に無理な伸長力や、ロールの凹凸噛み合いによる切断効果を加えることなく上層42を第1ロール401の周面に密着させられる。空隙Gは歯車の全歯たけや上層42の坪量にもよるが、上層42に破断や損傷を与えることなく密着を行うことができるため、0.1〜50mmが好ましく、0.1〜5mm程度がより好ましい。
【0048】
次いで、
図7に示すように、上層42を第1のロール401の周面に引きつづき密着させた状態で、合流部46で別に繰り出されている下層43を重ね合わせ、その重ね合わせたものを第1ロール401とアンビルロール404(回転方向:矢印49d)との間で挟圧し、複合シートが矢印49fの方向に得られる。この合流部46の近辺を
図9に模式的に拡大した部分断面図として示した。
【0049】
図9に示すように、第1ロール401の凸部(各歯車の歯先)51において、凸部51の熱で、上層42と下層43とが圧縮され熱融着される。その際、下層の上層側に配された熱伸長性繊維210が熱融着性を有すると、その熱融着性の発現により、上層42の不織布繊維及び下層の親水性繊維等と融着し固定される。これにより、後工程の熱風処理でも熱伸長性繊維210の伸長性が抑制される伸長抑制部22が形成される。一方、伸長抑制部22の形成されない領域では、第1ロール401の凹部52に沿って窪んだ上層42と、下層43との間に空間部4が形成され、両層が非接合とされている。
また、本実施形態においては、上層42及び下層43の接合工程と、下層43における伸長抑制部22の形成工程とを、1回の工程で行う。つまり、第1ロール401の凸部51による圧着だけで、必要な個所に対し好適に加熱できる。これにより、工程数の増加による煩雑さや、余計な繊維融着を防止でき、上層42及び下層43の風合いを阻害しない。この点において本実施形態の製造方法は好ましい。
【0050】
この伸長抑制部22を形成するにあたり、熱伸長性繊維210の確実な伸長抑制の観点から、第1ロール401の凸部分を吸収層前駆体(下層43)の表面から一定深さまでくい込ませて、表面層用シート(上層42)が吸収層前駆体(下層43)の表面から一定深さの位置で接触するようにすることが好ましい。さらに、伸長抑制部22を形成するに当たり、吸収層前駆体である下層43の底部まで圧着して形成するよりも、前述のとおり、伸長抑制部22が配された部分の底部までの厚み(h3)に対する伸長抑制部22の形成深さ(h4)の好ましい割合(h4/h3)として形成することが好ましい。
【0051】
次いで、
図10に示すように、上層42及び下層43が接合された複合体に対し、上層42側から熱風W1を吹き付けて、繊維の熱風回復処理を行う。この熱風回復処理においては、上層42の不織布の繊維の嵩高さが回復するとともに、下層43の肌当接面側に含有される熱伸長性繊維210の伸長性が発現する。これにより、前記工程で形成された伸長抑制部22を基底部として、その間で熱伸長性繊維210が下層43の構成繊維を肌当接面側に押し上げ、隆起面23が形成される。
この工程において、熱伸長性繊維210は、熱伸長した熱伸長繊維21となる。熱伸長を十分なものとするため、熱伸長性繊維210が親水性繊維等の他の構成繊維と融着されないことが好ましい。そのため、熱風回復処理においては、熱伸長性繊維210の熱融着性が発現する温度よりも低く、熱伸長性が十分に発現する温度であることが好ましい。
このことから、好ましい熱風回復処理の温度の下限は、80℃以上、より好ましくは90℃である。また、好ましい熱風回復処理の温度の上限は150℃以下、より好ましくは140℃以下である。上記下限以上とすることで、熱伸長性繊維210を、熱伸長した熱伸長繊維21とすることができる。また、上記上限以下とすることで、吸収層2中で熱伸長性繊維210が親水性繊維等の他の繊維と融着することを防止し、柔軟で且つ弾力性を有した吸収層2を形成することができる。
【0052】
その後、本発明の吸収性物品の製造方法においては、上層(表面層用シート)42と下層(吸収層前駆体)43とを一体化した複合シート41に防漏シートを積層する。このとき防漏シートは、下層43の上層42を付されていない側に積層される。これにより例えば
図1に示したような、表面層、吸収層、及び防漏層の設けられた吸収性物品の構成が得られる。
このようにして、本発明の製造方法によれば、吸収性物品に用いられる複合素材に、優れた液体吸収機能と、柔らかなふんわり感とを与えることができる。具体的には例えば、
図1に示した実施形態のような優れた機能を発揮し得る吸収性物品を連続した工程で効率的に製造することができる。
【0053】
次に、本発明の吸収性物品に用いられる部材の好ましい形成素材について説明する。
まず、吸収層2に含有される熱伸長繊維21が熱伸長する前の熱伸長性繊維210について説明する。熱伸長性繊維210としては、例えば、加熱により樹脂の結晶状態が変化して自発的に伸びる芯鞘型複合繊維などが挙げられる。好ましい熱伸長性繊維は、第1樹脂成分と、該第1樹脂成分の融点よりも低い融点又は軟化点を有する第2樹脂成分とからなる。第1樹脂成分は該繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。第2樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している、二成分系の複合繊維が好ましい。この複合繊維の形態には芯鞘型やサイド・バイ・サイド型など種々の形態があり、本発明においてはいずれの形態も含む。芯鞘型の場合、第1樹脂成分が芯部となり、第2樹脂成分が鞘部となることが好ましい。熱伸長性繊維については、例えば、特願2006−309513号明細書に記載されたものを用いることができる。
【0054】
以下、前記第1樹脂成分及び第2樹脂成分についてさらに詳しく説明する。
第1樹脂成分と第2樹脂成分との好ましい組み合わせとしては、第1樹脂成分をポリプロピレン(PP)とした場合の第2樹脂成分としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、ポリスチレンなどが挙げられる。また、第1樹脂成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂を用いた場合は、第2樹脂成分として、前述した第2樹脂成分の例に加え、ポリプロピレン(PP)、共重合ポリエステルなどが挙げられる。さらに、第1樹脂成分としては、ポリアミド系重合体や前述した第1樹脂成分の2種以上の共重合体も挙げられ、また第2樹脂成分としては前述した第2樹脂成分の2種以上の共重合体なども挙げられる。これらは適宜組み合わされる。
【0055】
その他、表面層1、吸収層2の熱伸長繊維以外の構成繊維、及び防漏層3の形成材料としては、この種の物品に採用されるものを特に制限なく用いることができる。
【0056】
例えば、表面層1は、排泄された体液を速やかに吸収し、吸収層2に伝達する観点と肌触りのよさの観点とから親水性のサーマルボンド不織布が好ましく、特にエアスルー不織布が好ましい。表面層1は親水化処理された熱可塑性樹脂繊維であり、かつ、該繊維が2次クリンプ又は3次クリンプのような立体捲縮がなされた繊維であることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、及びこれらの複合繊維を作成し、所定の長さにカットしてステープルを形成する前の段階で、各種親水化剤を塗工する。親水化剤としては、αオレフィンスルホン酸塩に代表される各種アルキルスルホン酸塩、アクリル酸塩、アクリル酸塩/アクリルアミド共重合体、エステルアミド、エステルアミドの塩、ポリエチレングリコール及びその誘導物、水溶性ポリエステル樹脂、各種シリコーン誘導物、各種糖類誘導物、及びこれらの混合物など、当業者公知の親水化剤による親水化処理を用いることができる。
【0057】
防漏層3としては、防水性があり透湿性を有していれば特に限定されないが、例えば、疎水性の熱可塑性樹脂と、炭酸カルシウム等からなる微小な無機フィラー又は相溶性のない有機高分子等とを溶融混練してフィルムを形成し、該フィルムを一軸又は二軸延伸して得られる多孔性フィルムが挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンが挙げられる。該ポリオレフィンとしては、高〜低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられ、これらを単独で又は混合して用いることができる。
【0058】
吸収層2の熱伸長繊維以外の構成素材としては、親水性繊維、該親水性繊維と高吸水性ポリマー粒子との混合物、または、親水性繊維と高吸水性ポリマー粒子と熱可塑性合成樹脂繊維との混合物などが挙げられる。親水性繊維としては、親水性表面を有する繊維を用いることができ、例えば天然パルプ繊維やレーヨン繊維等、合成繊維を必要に応じ界面活性剤等により親水化処理したものが挙げられる。具体的には、例えば、木材パルプ、木綿パルプ及びワラパルプ等の天然セルロース繊維、レーヨン及びキュプラ等の再生セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維及びポリアクリロニトリル繊維等の親水性合成繊維などが挙げられ、これらを複数と組み合わせてもよい。ポリマー粒子としては、デンプン系、セルロース系、合成ポリマー系のものを使用することができる。
【0059】
本発明の吸収性物品は、上記の実施形態の生理用ナプキンのほか、失禁パッド、失禁ライナ、使い捨ておむつや尿とりパッド等に適応することができる。
【0060】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の吸収性物品及びその製造方法を開示する。
【0061】
<1>肌当接面側に配置された表面層、非肌当接面側に配置された防漏層、及び前記表面層と前記防漏層との間に配置された液保持性の吸収層を有する吸収性物品であって、前記吸収層の肌当接面側には、熱伸長繊維が含まれているとともに、複数の伸長抑制部が点在して配設され、該各伸長抑制部間の吸収層には繊維間空間が非肌当接面側よりも大きい隆起面が配されている吸収性物品。
【0062】
<2> 前記熱伸長繊維は熱融着性を備えており、前記吸収層の前記伸長抑制部において、前記熱伸長繊維の熱融着性により、前記吸収層と前記表面層とが接合されている前記<1>に記載の吸収性物品。
<3> 前記熱伸長性繊維は、前記吸収層の厚み方向に見て、肌当接面側に偏在している、前記<1>又は<2>記載の吸収性物品。
<4> 前記吸収層の隆起面は前記表面層と接合されておらず、該隆起面直下の隆起部における熱伸長繊維が前記吸収層の他の構成繊維と融着していない前記<1>〜<3>いずれか1つに記載の吸収性物品。
<5> 前記表面層の非肌当接面側は、平面視交差する異なる方向において、複数の裏面凸部及び裏面凹部が交互に配されて凹凸形状をなし、前記吸収層の前記伸長抑制部において、前記表面層の前記裏面凸部が前記吸収層と接合固定されている前記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の吸収性物品。
<6>前記表面層の裏面凹部に対応して、前記吸収層の隆起面が配置されており、前記裏面凹部と前記隆起面との間には空間部が配設されている前記<4>に記載の吸収性物品。
<7>前記吸収層の肌当接面側は、前記吸収層の非肌当接面側に比べ、前記熱伸長繊維の含有比率が高い前記<1>〜<6>いずれか1つに記載の吸収性物品。
<8>前記吸収層の前記伸長抑制部のない部分において、肌当接面側の繊維密度が、非肌当接面側の繊維密度よりも低い前記<1>〜<7>いずれか1つに記載の吸収性物品。
<9>前記熱伸長繊維の繊維長が、前記各伸長抑制部間の幅よりも長い前記<1>〜<8>いずれか1つに記載の吸収性物品。
<10>前記表面層の凸部は、その高さが1mm以上10mm以下で、底面積が4mm
2以上900mm
2以下であり、前記表面層の凹部に形成される前記表面層と前記吸収層の接合部は、列方向での長さが0.1mm以上20mm以下である前記<1>〜<9>のいずれか1つに記載の吸収性物品。
<11>前記表面層の凹部及び前記伸長抑制部の重なりの配列は、隣り合う列と半ピッチずれた配列とされている前記<1>〜<10>のいずれか1つに記載の吸収性物品。
<12>前記吸収層に吸水性ポリマーが含有されている前記<1>〜<11>のいずれか1つに記載の吸収性物品。
<13> 前記吸収層の全体の厚みに対する隆起面の高さの比が1/5以上4/5以下である、前記<1>〜<12>記載の吸収性物品。
<14>周面が凹凸形状となっている第1のロールと、該第1のロールの凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有する第2のロールとの噛み合わせ部に、表面層用シートを搬送、挟持させて、該シートに凹部と凸部を賦形する工程と、該賦形された前記シートの凸部を、熱伸長性繊維を含有する吸収層前駆体に接触させる工程と、前記接触した吸収層前駆体と表面層用シートを加熱して一体化させるとともに、前記熱伸長性繊維を伸長させて吸収層前駆体の表面層用シート側表面に突状部を形成する工程と、を含む、表面層と吸収層とを備えた吸収性物品の製造方法。
<15>前記第1のロールの凸部分を前記吸収層前駆体の表面から一定深さまでくい込ませて、前記表面層用シートの前記凸部が吸収層前駆体の表面から一定深さの位置で接触するようにする<14>に記載の製造方法。