(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033047
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】多層盛溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/127 20060101AFI20161121BHJP
G05B 19/42 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
B23K9/127 509D
G05B19/42 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-249811(P2012-249811)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-97517(P2014-97517A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】中川 慎一郎
【審査官】
篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−187270(JP,A)
【文献】
特開2009−119525(JP,A)
【文献】
特開平09−099368(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0008415(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/127
G05B 19/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接開始点および溶接終了点を含む予め教示された基本溶接線と、この基本溶接線に対して設定されるオフセット量とに基づいて全N層(ただしNは2以上の整数)の溶接パスを生成し、生成された溶接パスに従って溶接トーチを移動させて溶接を行う多層盛溶接装置において、
前記溶接トーチの動作確認を行うに際して、全N層の溶接パスの中から動作確認の対象となるいずれか1つの溶接パスを選択する溶接パス選択手段と、
この溶接パス選択手段により溶接パスが選択されると、選択された溶接パスにおける移動目標位置を算出する位置算出手段と、
移動信号が入力されると、前記位置算出手段により算出された移動目標位置へ前記溶接トーチを移動させる溶接トーチ移動手段と、
を備えたことを特徴とする多層盛溶接装置。
【請求項2】
第M(ただしMは1以上N未満の整数)層の溶接パスの所定位置に溶接トーチを位置させた状態で前記溶接パス選択手段により溶接パスの順送り操作が行われたときは、前記位置算出手段は、第(M+1)層の溶接パスにおける前記所定位置に対応する移動目標位置を算出することを特徴とする請求項1記載の多層盛溶接装置。
【請求項3】
第L(ただしLは2以上N未満の整数)層の溶接パスの所定位置に溶接トーチを位置させた状態で前記溶接パス選択手段により溶接パスの逆送り操作が行われたときは、前記位置算出手段は、第(L−1)層の溶接パスにおける前記所定位置に対応する移動目標位置を算出することを特徴とする請求項1または請求項2記載の多層盛溶接装置。
【請求項4】
前記全N層の溶接パスにおける前記溶接開始点または前記溶接終了点を、溶接進行方向に直交する平面上に点情報により表示する表示手段をさらに備え、
前記溶接パス選択手段は、前記表示手段に表示された点情報のうちいずれか1つの点が選択されることにより溶接パスを選択し、
前記位置算出手段は、選択された溶接パスにおける前記溶接開始点または前記溶接終了点を前記移動目標位置として算出することを特徴とする請求項1記載の多層盛溶接装置。
【請求項5】
前記表示手段は、全N層の溶接パスにより生成される溶接ビードを仮想的に表示することを特徴とする請求項4記載の多層盛溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、教示した基本溶接線に所定のオフセット量を反映させて所望数の溶接パスを生成する多層盛溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層盛溶接とは、厚板ワークの接合部を複数の溶接パスにより繰り返し溶接し、開先を溶接ビードにより埋めることにより接合する溶接施工法である。この多層盛溶接をティーチングプレイバック方式のロボットで実現する場合は、ロボットに教示点を教示する必要があるが、全ての溶接パスの教示点を教示していては作業量が膨大となる。そこで、例えば特許文献1に示されているように、教示するのは1パス目の基本溶接線のみとし、2パス目以降は、1パス目の各教示点に所定のオフセット量を加えることにより複数の溶接パスを自動的に生成して、教示作業を軽減することが行われる。
【0003】
図4は、多層盛溶接装置51のブロック図である。同図においてロボット制御装置RCは、ティーチペンダントTPからの操作信号Ssに基づいて、ロボットRに配置された複数軸のサーボモータを動作制御するための動作制御信号Mcを出力するとともに、所定のタイミングで溶接電源WPに溶接指令信号Wcを出力する。溶接電源WPは、上記した各種信号を入力として、溶接電圧Vwおよび溶接電流Iwを供給したり、図示しないガスボンベに備えられた電磁弁を制御してシールドガスを出力したり、ワイヤ送給モータWMに送給制御信号Fcを出力してワイヤ送給モータWMを回転駆動したりする。ロボットRは、ワイヤ送給モータWM、溶接トーチT等を載置し、溶接トーチTの先端位置を操作信号Ssに応じて移動させる。溶接ワイヤWRは、ワイヤ送給モータWMによって溶接トーチT内を通って送給されて、作業対象物であるワークWとの間でアークAが発生して溶接が行われる。
【0004】
ティーチペンダントTPは可搬式の教示操作盤であり、ロボット制御装置RCに接続されている。作業者は、このティーチペンダントTPを用いて基準座標系を切り替えたりロボットRをジョグ送りしたりするための操作を行い、ロボットRの1パス目の位置姿勢(教示点)を教示する。このとき、各教示点にはステップ番号が1から昇順に付与される。2パス目以降は、溶接パス毎に1パス目の教示点に対するオフセット量とを指定することにより、自動的に生成される。このようにして入力された教示データは、多層盛溶接プログラムTdとしてロボット制御装置RCの内部に記憶される。
【0005】
ロボット制御装置RCは、ティーチペンダントTPからの入力に応じてロボットRをジョグ送りしたり、多層盛溶接プログラムTdに基づいてロボットRを再生運転したりするものである。
【0006】
図5は、ティーチペンダントTPの外観図である。キーボード41は、教示操作、各種設定操作等を行うためのものであり、ロボットRをジョグ送りする際の移動方向および回転方向を定める方向指示キー41Aと、教示済みの教示点の位置姿勢を確認する際にロボットRを教示点に順次移動させるためのステップ前進キー41Bおよびステップ後退キー41Cを含んでいる。ステップ前進キー41BはロボットRをステップ番号順に移動させ、ステップ後退キー41CはロボットRをステップ番号とは逆順へ移動させるためのものである。表示部43は、多層盛溶接プログラムTdの教示内容、多層盛溶接を行う溶接区間の総パス数や現在のパス数、ロボットの動作制御に必要な各種パラメータ等を表示するためのものである。
【0007】
図6は、基本溶接線を基準にして生成される溶接パスについて説明するための図である。同図(a)では、溶接トーチTによりワークWの多層盛溶接が行われる場合の基本溶接線Wsと、その前後の教示点が示されている。この教示例の場合の溶接トーチTの動きは、アプローチ点P1から溶接開始点P2−1へ移動して溶接を開始し、溶接しながら溶接終了点P3−1へ移動して溶接を終了した後、退避点P4に移動する。
【0008】
一方、同図(b)では、3パスの多層盛溶接プログラムの動作軌跡が示されている。同図においては、溶接開始点P2−1に所定のオフセット量が設定されて2パス目の溶接開始点P2−2および3パス目の溶接開始点P2−3が設定されているものとする。また、溶接終了点P3−1に所定のオフセット量が設定されて2パス目の溶接終了点P3−2および3パス目の溶接終了点p3−3が設定されているものとする。この結果、同図(a)の1パス目の基本溶接線Wsに加えて、2パス目の溶接線Ws2および3パス目の溶接線Ws3が設定された多層盛溶接プログラムが生成されることになる。なお、上記オフセット量としては、位置成分および姿勢成分の計6成分を設定するのが一般的である。
【0009】
このような3パスの多層盛溶接プログラムが生成された場合、溶接トーチTの溶接時の動きは次のようになる。すなわち、1〜3パス目のそれぞれの溶接パスにおいて、アプローチ点P1から溶接開始点P2−N(Nは1〜3。以下同じ。)へ移動して溶接を開始し、溶接終了点P3−Nへ移動して溶接を終了した後、退避点P4に移動する(3回繰り返す)。あるいは、往復動作を実行させることもできるようになっており、この場合は、アプローチ点P1から溶接開始点P2−1へ移動して溶接を開始し、溶接しながら溶接終了点P3−1へ移動して溶接を終了した後、退避点P4に移動する。そして、退避点P4から溶接終了点P3−2へ移動して溶接を開始し、溶接開始点P3−2へ移動して溶接を終了した後、アプローチ点P1へ移動する。さらに、アプローチ点P1から溶接開始点P2−3へ移動して溶接を開始し、溶接しながら溶接終了点P3−3へ移動して溶接を終了した後、退避点P4に移動する。
【0010】
ところで、このようにして生成された多層盛溶接プログラムは、2パス目以降の溶接パスが自動的に生成されているために、治具や加工物に干渉しないことや所望の位置姿勢になっているかを、溶接加工を行う前に確認する必要がある。確認する方法としては、上述したティーチペンダントTPのステップ前進キー41Bまたはステップ後退キー41Cを押下することにより、ロボットRを各教示点に順番に到達させる方法を取る。すなわち、実際の溶接加工と同様の動きをさせながら確認作業を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58−187270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した従来技術では、ロボットRを各教示点に順番に到達させることしかできないために、教示点を全ての溶接パスの数だけ周回(または往復)させながら動作確認を行うと、非常に時間がかかるという問題がある。特に、板の厚さや開先形状によっては、パス数が100パスにも及ぶ場合があるために、このような場合に全ての溶接パスを周回(または往復)するには、非常に多くの時間がかかってしまう。
【0013】
そこで、本発明は、動作確認を行いたい溶接パスを選択することができる多層盛溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接開始点および溶接終了点を含む予め教示された基本溶接線と、この基本溶接線に対して設定されるオフセット量とに基づいて全N層(ただしNは2以上の整数)の溶接パスを生成し、生成された溶接パスに従って溶接トーチを移動させて溶接を行う多層盛溶接装置において、
前記溶接トーチの動作確認を行うに際して、全N層の溶接パスの中から
動作確認の対象となるいずれか1つ
の溶接パスを選択する溶接パス選択手段と、
この溶接パス選択手段により溶接パスが選択されると、選択された溶接パスにおける移動目標位置を算出する位置算出手段と、
移動信号が入力されると、前記位置算出手段により算出された移動目標位置へ前記溶接トーチを移動させる溶接トーチ移動手段と、
を備えたことを特徴とする多層盛溶接装置である。
【0015】
請求項2の発明は、第M(ただしMは1以上N未満の整数)層の溶接パスの所定位置に溶接トーチを位置させた状態で前記溶接パス選択手段により溶接パスの順送り操作が行われたときは、前記位置算出手段は、第(M+1)層の溶接パスにおける前記所定位置に対応する移動目標位置を算出することを特徴とする請求項1記載の多層盛溶接装置である。
【0016】
請求項3の発明は、第L(ただしLは2以上N未満の整数)層の溶接パスの所定位置に溶接トーチを位置させた状態で前記溶接パス選択手段により溶接パスの逆送り操作が行われたときは、前記位置算出手段は、第(L−1)層の溶接パスにおける前記所定位置に対応する移動目標位置を算出することを特徴とする請求項1または請求項2記載の多層盛溶接装置である。
【0017】
請求項4の発明は、前記全N層の溶接パスにおける前記溶接開始点または前記溶接終了点を、溶接進行方向に直交する平面上に点情報により表示する表示手段をさらに備え、
前記溶接パス選択手段は、前記表示手段に表示された点情報のうちいずれか1つの点が選択されることにより溶接パスを選択し、
前記位置算出手段は、選択された溶接パスにおける前記溶接開始点または前記溶接終了点を前記移動目標位置として算出することを特徴とする請求項1記載の多層盛溶接装置である。
【0018】
請求項5の発明は、前記表示
手段は、全N層の溶接パスにより生成される溶接ビードを仮想的に表示することを特徴とする請求項4記載の多層盛溶接装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多層盛溶接プログラムの動作確認時に、動作確認を行いたい溶接パスを簡単な操作により即座に選択することができるようにしたことによって、各溶接パスにおける位置姿勢の確認時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る多層盛溶接装置の機能ブロック図である。
【
図2】溶接パスの切り替え操作のイメージを説明するための図である。
【
図3】各溶接パスにおける溶接開始点を溶接進行方向に直交する平面上に点情報により表示した図である。
【
図6】基本溶接線を基準にして生成される溶接パスについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態1]
図1は、本発明の多層盛溶接装置1の機能ブロック図である。同図において、ティーチペンダントTPは、従来技術と同様に多層盛溶接プログラムを作成するための可搬式操作装置である。本発明においては、多層盛溶接プログラムを動作確認する際に溶接パスを選択するための溶接パス選択手段として機能する。ロボットRもまた、従来技術と同様のものであって、把持した溶接トーチT(
図4参照)の先端を指示された位置姿勢に導くものであり、本発明においては、選択された溶接パスにおける移動目標位置に溶接トーチを導くための溶接トーチ移動手段として機能する。以下、本発明の位置算出手段として機能するロボット制御装置RCの詳細について説明する。
【0022】
ロボット制御装置RCは、中央演算処理装置であるCPU21、ソフトウェアプログラムや制御パラメータ等が格納されたROM22、一時的な計算領域としてのRAM23、各種メモリ等を含むマイクロコンピュータによって構成されている。TPインターフェース10は、ティーチペンダントTPを接続するためのものである。ハードディスク5は不揮発性メモリであり、多層盛溶接プログラムTdや後述するオフセットファイルOfを記憶する。
【0023】
ROM22には、各種処理を行うためのソフトウェアプログラムが記憶されている。これらを機能的に同図に示すと、キー入力監視部2、教示処理部3、移動目標位置算出部7、動作制御部9、解釈実行部11および駆動指令部12の各処理部を備えている。これらの各処理部は、CPU21に読み込まれて実行される。
【0024】
キー入力監視部2は、ティーチペンダントTPのキーボード41(
図5参照)の操作がなされたときに入力される操作信号Ssを監視するとともに解析して、教示処理部3や解釈実行部11に教示情報を通知する。
【0025】
教示処理部3は、キー入力監視部2から通知される教示点(すなわち、基本溶接線を構成する溶接開始点、中間点、溶接終了点等)の位置姿勢座標値や、2パス目以降の溶接パスにおける基本溶接線からのオフセット量に応じて多層盛溶接プログラムTdを作成し、ハードディスク5に記憶する。オフセット量は、多層盛溶接プログラムTdの内部データとして持たせても良いし、図示するように多層盛溶接プログラムTdから間接的に参照されるオフセットファイルOfとして記憶するようにしても良い。
【0026】
解釈実行部11は、作業者がロボットRの位置姿勢を確認するために作成済みの多層盛溶接プログラムTdを手動操作により低速再生したときに、多層盛溶接プログラムTdを教示点ごとに読み出してその内容を解析する。そして、ロボットRを駆動させる必要がある場合は、駆動に必要な制御情報(命令の種類、位置姿勢値等)を動作制御部9に出力する。動作制御部9は、制御情報に基づいて軌道計画等を行い、駆動指令部12を介してロボットRに動作制御信号Mcを出力する。この結果、ロボットRが駆動制御される。
【0027】
解釈実行部11はまた、多層盛溶接プログラムTdに記憶されている溶接パスの選択操作が行われると、選択された溶接パス番号をRAM23に記憶するとともに、各溶接パスにおける移動目標位置の算出を移動目標位置算出部7に依頼する。移動目標位置算出部7は、選択されている溶接パスにおける移動目標位置を算出してRAM23に記憶する。
【0028】
次に、上記のように構成された多層盛溶接装置1において、作成済みの多層盛溶接プログラムTdの位置姿勢を確認する場面での本発明の作用について説明する。
【0029】
図2は、溶接パスの切り替え操作のイメージを説明するための図である。同図においては、3パスの多層盛溶接プログラムにおける溶接開始点および溶接終了点が示されている。具体的には、溶接開始点P2−1に所定のオフセット量が設定されて2パス目の溶接開始点P2−2および3パス目の溶接開始点P2−3が設定されている。また、溶接終了点P3−1に所定のオフセット量が設定されて2パス目の溶接終了点P3−2および3パス目の溶接終了点P3−3が設定されている。溶接開始点P2−1と溶接終了点P3−1により基本溶接線Wsが形成される。
【0030】
(1.多層盛溶接プログラムの低速運転操作の開始)
作業者により作成済みの多層盛溶接プログラムTdが選択され、
図4で示したステップ前進キー41Bが1回押下されると、溶接トーチTは、アプローチ点P1から溶接開始点P2−1に移動する。
【0031】
溶接トーチTが溶接開始点P2−1に位置している状態で、再度ステップ前進キー41Bが押下されると、従来と同様に溶接トーチTは溶接終了点P3−1へ移動する。この点に関し、本発明では、各溶接パスにおける位置姿勢を確認することが容易にできるように、移動方向を溶接パスの方向とする溶接パス選択モードが用意されている。以下、溶接パス選択モードが選択された状態でステップ前進キー41Bまたはステップ後退キー41Cが押下された場合について説明する。
【0032】
(2.溶接開始点における溶接パス方向への前進操作/後退操作)
溶接パス選択モードが選択された状態でステップ前進キー41Bが1回押下されると、解釈実行部11は移動目標位置算出部7に移動目標位置の算出を依頼する。移動目標位置算出部7は、2パス目の溶接開始点P2−2の位置姿勢を、設定されているオフセット量に基づいて算出し、RAM23に記憶すると共に動作制御部9に通知する。動作制御部9は、算出された移動目標位置へ溶接トーチを移動させるために動作制御信号Mcを駆動指令部12を介してロボットRに出力する。この結果、溶接トーチTは2パス目の溶接開始点P2−2に移動する。
【0033】
同様にして、溶接トーチTが2パス目の溶接開始点P2−2に位置している状態でステップ前進キー41Bが1回押下されると、溶接トーチTは3パス目の溶接開始点P2−3に移動する。さらにステップ前進キー41Bが1回押下されると、溶接トーチTは1パス目の溶接開始点P2−1に移動する(元に戻る)。もちろん、ステップ後退キー41Cを押下することにより、溶接パスの逆方向へ順次移動させることも可能である。
【0034】
なお、溶接パス選択モードと通常のモードとの切り替えは、所定のメニューにより切り替えるようにするか、ティーチペンダントTPの所定の操作キーを押下した状態のときであれば溶接パス選択モードに切り替わるように構成してもよい。この場合は、所定の操作キーを押下ながらステップ前進キー41B(またはステップ後退キー41C)を押下することにより、次の溶接パスへの移動が行われる。
【0035】
また、例えば、溶接開始点P2−1から2パス目の溶接開始点P2−2へ移動した後に、通常のモードへと切り替えてステップ前進キー41Bを押下すると、従来と同様に、2パス目の溶接開始点P2−2から溶接終了点P3−2へと移動させることもできる。
【0036】
(3.溶接終了点における溶接パス方向への前進操作/後退操作)
溶接終了点P3−1においてステップ前進キー41Bが1回押下されると、上記と同様の処理により、溶接トーチTを2パス目の溶接終了点P2−3、3パス目の溶接終了点P3−3に順次移動させることができる。
【0037】
(4.溶接区間の任意位置における溶接パス方向への前進操作/後退操作)
溶接区間の任意位置(例えば1パス目であれば溶接開始点P2−1〜溶接終了点P3−1の間の任意位置)に溶接トーチTが位置している場合においても、現在の位置姿勢値にオフセット量を反映させることにより、溶接トーチTを2パス目、3パス目における対応する位置へ順次移動させることができる。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、多層盛溶接プログラムの動作確認時に、動作確認を行いたい溶接パスを簡単な操作により即座に選択することができるようにしたことによって、各溶接パスにおける位置姿勢の確認時間を大幅に短縮することができる。
【0039】
なお、上述した実施形態においては、移動目標位置へ溶接トーチを移動させるための移動信号を、ティーチペンダントTPのステップ前進キー41Bまたはステップ前進キー41Bとしたが、これに限られるものではない。ロボット制御装置RCに外部から入力可能な信号を上記移動信号として使用したり、上記移動信号を入力するための別の操作手段を用意しても良い。
【0040】
[実施の形態2]
次に発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、各溶接パスにおける溶接開始点または溶接終了点を溶接進行方向に直交する平面上に点情報として表し、ティーチペンダントTPの表示部43(
図5参照)に表示するようにしている。そして、この表示を用いて移動先の溶接パスを選択可能にしている。以下、詳細を説明する。
【0041】
図3は、各溶接パスにおける溶接開始点を溶接進行方向に直交する平面上に点情報により表示した図である。同図は、ティーチペンダントTPの表示部43に表示された様子を例示している。同図に示すように、ワークWと溶接トーチTが仮想的に表示されているとともに、ワークWの開先平面上において各溶接パスにおける溶接開始点(
図2で例示したP2−1、P2−2、P2−3を含む全ての溶接開始点)が黒丸でプロットされている。黒丸のプロット位置は、基準となる溶接開始点の位置と、溶接開始点毎に設定されているオフセット量とにより、容易に算出することができる。なお、同図では、溶接開始点のみを対象としているが、溶接終了点を対象とした表示に切り替えることも可能である。
【0042】
また、同図において、全ての溶接パスによって形成されるビードの積層範囲Rgを表示するようにするとさらに良い。積層範囲Rgは、溶接ワイヤの送給量、溶接時間、開先断面積等の既知の値に基づいて積層範囲Rgを推測演算して表示するようにする。
【0043】
以上説明したように、実施形態2においては、各溶接パスにおける溶接トーチTの位置姿勢を溶接進行方向に直交する平面上でグラフィカルに表示することができるので、各溶接パス間の相対的な位置の差異を容易に確認することができる。
【0044】
なお、
図3において、ティーチペンダントTPのキー操作または画面を直接タッチすることにより、溶接開始点を示す上記黒丸のうち、いずれか1つを選択することが可能に構成するとともに、選択した黒丸の該当する位置へ溶接トーチTを実際に誘導するように構成するとさらに良い。すなわち、作業者により黒丸が選択され、続けて実施形態1と同様に
図4で示したステップ前進キー41Bが押下されると、選択した黒丸の溶接開始点における位置姿勢に溶接トーチTを移動させる処理を行う。具体的な処理の流れは、実施形態1と同様で良い。
【符号の説明】
【0045】
1 多層盛溶接装置
2 キー入力監視部
3 教示処理部
5 ハードディスク
7 移動目標位置算出部
9 動作制御部
10 インターフェース
11 解釈実行部
12 駆動指令部
21 CPU
22 ROM
23 RAM
41 キーボード
41A 方向指示キー
41B ステップ前進キー
41C ステップ後退キー
43 表示部
51 多層盛溶接装置
A アーク
Fc 送給制御信号
Iw 溶接電流
Mc 動作制御信号
Of オフセットファイル
R ロボット
RC ロボット制御装置
Rg 積層範囲
Ss 操作信号
T 溶接トーチ
Td 多層盛溶接プログラム
TP ティーチペンダント
Vw 溶接電圧
W ワーク
Wc 溶接指令信号
WM ワイヤ送給モータ
WP 溶接電源
WR 溶接ワイヤ
Ws 基本溶接線