【実施例1】
【0020】
次に、
図2を参照して、COシフト反応装置108のシステム構成の実施例1を詳細に説明する。石炭ガスは、No.1予熱器106aで予熱され、脱硫器106bにおいてCOシフト触媒の被毒成分である石炭ガス中の硫黄分が除去される。また、No.1予熱器106aの上流側の管路に、パージ用窒素ガス供給弁17を介して窒素ガスを供給可能になっている。
【0021】
COシフト反応装置108は、高圧蒸気ミキサー3と、No.2予熱器4と、最上流の高温シフト反応器5と、No.1シフトガス冷却器6と、2段目の高温シフト反応器7と、No.2シフトガス冷却器8と、3段目の低温シフト反応器9と、No.3シフトガス冷却器10とが順次直列に接続されている。No.3シフトガス冷却器10は石炭ガスを過冷却して水蒸気を凝縮させ、ノックアウトドラム11に導いて凝縮水を除去した後、
図1に示した吸収搭110にて吸収液にCO
2を吸収させて分離回収するようになっている。
【0022】
高圧蒸気ミキサー3には、脱硫器106bから石炭ガスライン20及び主ガス量調節弁18aを介して石炭ガスが供給されるようになっている。また、主ガス量調節弁18aの上流側から分岐して、高圧蒸気ミキサー3とNo.2予熱器4と最上流の高温シフト反応器5をバイパスして、石炭ガスを高温シフト反応器5の出口側の管路に導入するバイパスライン21が設けられている。バイパスライン21には、バイパスガス量調節弁18bが介装されている。また、高温シフト反応器5の出口とNo.1シフトガス冷却器6を結ぶ管路に、No.1シフトガス冷却器6に流通する石炭ガスのガス量を調節して、No.1シフトガス冷却器6の出口側の石炭ガスの温度を制御する温度調節弁12が介装されている。同様に、高温シフト反応器7とNo.2シフトガス冷却器8とを結ぶ管路に、No.2シフトガス冷却器8の出口側の石炭ガスの温度を制御する温度調節弁13が介装されている。
【0023】
また、ノックアウトドラム11の下流側から石炭ガスをリサイクルガス圧縮機14により抜き出して、高圧蒸気ミキサー3の流入側にリサイクルするリサイクルガスライン19が設けられている。リサイクルガスライン19にはリサイクルガス量調節弁15が介装されている。これにより、高温シフト反応器5に流入する石炭ガスのCO濃度を希釈することができるようになっている。なお、COシフト反応装置108の全体をバイパスして、脱硫器106bの下流側からノックアウトドラム11の下流側へ石炭ガスを逃すバイパスライン22が設けられている。バイパスライン22にはバイパス弁16が介装されている。
【0024】
No.1予熱器106aの上流側の管路に流れる石炭ガスの流量を計測する流量計24aと、高温シフト反応器5に流入する石炭ガスの主ガス量を計測する流量計24bと、高温シフト反応器5のバイパスライン21に流通されるバイパスガス量を計測する流量計24cと、COシフト反応装置108の全体をバイパスするバイパスライン22に流通されるバイパスガス量を計測する流量計24dが設けられている。これらの流量計24a〜dにより計測された流量は、制御装置25に入力されている。
【0025】
また、本実施例の高温シフト反応器5のCOシフト触媒層内の入口部、中央部、出口部に、COシフト触媒層の温度を計測する例えば熱電対を用いてなる温度センサ23a、23b、23cが設置されている。また、高温シフト反応器5のCOシフト触媒層から流出される石炭ガスの温度を測定する温度センサ23dが設置されている。これらの温度センサ23a〜dにより計測された温度は、制御装置25に入力されている。制御装置25は、主ガス量調節弁18aと、バイパスガス量調節弁18bと、温度調節弁12、13と、リサイクルガス量調節弁15と、バイパス弁16と、パージ用窒素ガス供給弁17は、それぞれ制御装置25により制御されるようになっている。
【0026】
このように構成される実施例1のCOシフト反応装置108の動作について説明する。脱硫器106bから流出される石炭ガスは主ガス量調節弁18aを介して高圧蒸気ミキサー3に流入される。このとき、石炭ガスの流量は、流量計24bの計測流量に基づいて、主ガス量調節弁18aの開度を制御装置25により調節して制御する。また、図示していないが、前記式(1)のシフト反応に見合う高圧蒸気が蒸気ミキサー3に供給されて混合される。次に、No.2予熱器4にてCOシフト触媒の活性提示温度(例えば、≒300℃)まで予熱して、最上流の高温シフト反応器5に流入させることにより、COのシフト反応が進行する。
【0027】
高温シフト反応器5から流出するシフトされた石炭ガスは、No.1シフトガス冷却器6で冷却された後、2段目の高温シフト反応器7に流入してシフト反応が進行する。高温シフト反応器7から流出するシフトされた石炭ガスは、No.2シフトガス冷却器8で冷却された後、低温シフト反応器9に流入されてさらにシフト反応が進行する。低温シフト反応器9から流出するシフトされた石炭ガスは、No.3シフトガス冷却器10で冷却され、かつ過剰な水蒸気の凝縮が行われ、発生した凝縮水はノックアウトドラム11で除去される。ノックアウトドラム11を通過した石炭ガスは、
図1に示した吸収搭110に導入されてCO
2が吸収分離される。
【0028】
ところで、石炭ガスはCO濃度が非常に高い(例えば、50vol%)ことから、シフト反応による反応熱が多いため、最上流の高温シフト反応器5内の触媒温度が耐熱限界温度(例えば、480℃)を超過して、シフト触媒が損傷するとCOシフト反応装置108、延いては石炭ガス化システムの安定した連続運転が損なわれる。
【0029】
そこで、従来から、最上流の高温シフト反応器5にバイパスライン21を設けるとともに、高温シフト反応器5に流入する石炭ガスのCO濃度を希釈するリサイクルガスライン19を設けている。すなわち、バイパスライン21は、脱硫器2と高圧蒸気ミキサー3の間の石炭ガスライン20から高温シフト反応器5をバイパスして、石炭ガスを高温シフト反応器5の出口側に導くようにしている。バイパスライン21を流通する石炭ガスのバイパス流量は、制御装置25によってバイパスガス流量調整弁18bを制御して調節する。また、高温シフト反応器5に流通させる石炭ガスの流量は、制御装置25によって主ガス量調節弁18aを制御して調節する。具体的には、高温シフト反応器5のCOシフト触媒層の温度が、予め設定された設定温度を越えたとき、高温シフト反応器5に流入する石炭ガス量を制限し、発熱反応を抑制してCOシフト触媒層の温度を設定温度に保持する。
【0030】
一方、高温シフト反応器5をバイパスした石炭ガスは、2段目の高温シフト反応器7に流入してシフト反応が進行する。しかし、2段目の高温シフト反応器7においては、CO濃度が低下していること、及び高温シフト反応器5で反応しても、No.1シフトガス冷却器6で冷却されるから、シフト反応で発熱しても、予め設定された設定温度を越えるほど上昇しない。さらに、バイパスライン21によるバイパス制御で高温シフト反応器5の触媒温度の上昇を吸収しきれなかった場合は、バイパス弁16を開けて石炭ガスを逃がすと共に、リサイクルガス圧縮機14よりリサイクルガスライン19を通してシフトされた石炭ガスをリサイクルすることにより、高温シフト反応器5の入口の石炭ガスのCO濃度を希釈して対応する。このような、従来の高温シフト反応器5をバイパスする温度制御は、COシフト反応装置に不可欠な方法である。
【0031】
ここで、実施例1のCOシフト反応装置108の特徴構成について説明する。そのために、特徴構成に係る解決課題について、
図3を参照して説明する。
(1)シフト反応器をバイパスさせることに伴う課題
主ガス量調節弁18aの開度を絞るとともに、バイパスガス量調節弁18bの開度を開くと、高温シフト反応器5に流通する石炭ガスの主ガス量が減る。その主ガス量の減少に伴い、高温シフト反応器5のCOシフト触媒の発熱量が減少し、高温シフト反応器5から流出される石炭ガスの温度が低下する。しかし、ガス量の減少に伴いシフト触媒のSVが低下するため、COシフト触媒にとっては性能(活性)に余裕のある状態となる。その結果、COシフト触媒層中の最高温度点はCOシフト触媒層のガス流れ方向の上流側に移動する(
図3(a)の点Aから点B)。このときのガス流れ方向の温度分布は、図中の点線31から実線32に示すプロファイルに変化する。また、SVの低下により触媒活性が高くなることに伴い、最高触媒温度が上昇して、耐熱限界温度を超過する場合が発生するという不都合が発生する。
【0032】
(2)COシフト触媒の温度制御点の位置に起因する課題
高温シフト反応器5のCOシフト触媒の温度制御は、従来は、一般に
図2の温度センサ23dで計測した計測温度を予め設定した設定温度に保持するように、主ガス量調節弁18aとバイパスガス量調節弁18bとを制御している。つまり、温度計測点は温度センサ23dの1点であるから、上記の(1)で説明したように、COシフト触媒層中の最高温度点が上流側に移動すると、温度計測点である温度センサ23dの計測温度が急速に低下する(
図3(a)の点Aから点C)。その結果、制御装置25は主ガス量調節弁18aを開き、バイパスガス量調節弁18bを閉じる方向の指令を出すから、高温シフト反応器5に流通される石炭ガスの主ガス量が増加し、シフト反応熱が増加してCOシフト触媒層の温度が上昇する。このとき、最高温度点も、
図3(b)に示すように、ガス流れ方向の上流側に移動し(点線33から実線34)、温度センサ23dの計測温度が急速に上昇する(
図3(b)の点Dから点E)。
【0033】
また、熱移動の時間遅れも加わり、最高触媒温度はバイパス制御前より高くなり、耐熱限界温度を超過することがある。そのため、制御装置25は、逆に、主ガス量調節弁18aを閉じ、バイパスガス量調節弁18bを開く方向の指令を出すことになる。この一連の制御により、高温シフト反応器5においてCOシフト触媒層の温度分布と最高触媒温度に変動が生じ、高温シフト反応器5へ流入する主ガス量及びバイパスライン21のバイパスガス量も変動し、COシフト触媒層の温度制御ができなくなるハンチング現象が生じる。また、一般に、COシフト触媒層の温度は触媒保護の観点から、COシフト反応装置を含めて石炭ガス化システムを緊急に停止する事象も発生する。特に、上述のハンチング現象は、高温シフト反応器5のバイパス制御開始時や、負荷を増加する時に、頻繁に発生するものと推定され、装置の安定運転を阻害する要因となる。
【0034】
これらの課題に対応するため、本実施例1では、以下に述べる特徴構成を備えたことにある。まず、最上流の高温シフト反応器5のCOシフト触媒層内に、ガス流れ方向に沿って入口部と中央部と出口部の3箇所に温度センサ23a、23b、23cを分散配置したことを特徴とする。なお、温度センサの分散配置数は3個に限られるものではなく、COシフト触媒層のガス流れ方向の長さ、断面積に応じて3個以上配置することができる。また、高温シフト反応器5の出口部の石炭ガスの温度を計測するため、COシフト触媒層の下流端側の反応器の空間に温度センサ23dを設置しているのは、従来と同様である。
【0035】
本実施例1によれば、COシフト触媒層内の温度センサ23a、23b、23cの計測温度を制御装置25に取り込み、制御装置25は最高計測温度を示すいずれかの温度センサ23a〜cを1つ選択する。そして、選択した温度センサ23の計測温度を最高触媒温度とし、その最高触媒温度を予め設定された設定温度に保持するように、例えば耐熱制限温度に近付いた場合あるいは越えたときに、主ガス量調節弁18aを閉じ、バイパスガス量調節弁18bを開く操作を行う。
【0036】
図4を参照して、本実施例1の主ガス量調節弁18aとバイパスガス量調節弁18bの開度の関連制御を説明する。温度センサ23a〜23cのうちで、最高計測温度を示す温度センサの計測温度をCOシフト触媒層の最高触媒温度とする。そして、COシフト触媒層の最高触媒温度が耐熱制限温度に近付いた場合あるいは越えたときに、制御装置25は主ガス量調節弁18aに指令を送って、全開から設定開度(
図4の例では、70%開度)まで絞り、その開度を維持する。これは、高温シフト反応器5を流通する石炭ガスに流通抵抗を与えて、バイパスライン21に石炭ガスが流れやすくすること、及びバイパスガス量の調整を容易にするためである。
【0037】
一方、制御装置25は、COシフト触媒層の最高温度が設定温度を越えた程度に応じて、バイパスガス量調節弁18bに開度指令(0〜100%)を送る。なお、バイパスガス量調節弁18bは、開度0から設定開度(
図4の例では、87%開度)まで開くようになっている。ここで、主ガス量調節弁18aとバイパスガス量調節弁18bの開度は、予め両者の開度と流通ガス量との関係を求めておき、開度指令90%のときに、主ガス量とバイパスガス量の流量比が概ね1:1となるように設定する。このように、主ガス量調節弁18aとバイパスガス量調節弁18bの開度指令を設定することにより、制御装置25はCOシフト触媒層の最高温度が設定温度を越えた程度に応じてバイパスガス量調節弁18bの開度指令を制御するだけで、主ガス量を調整するとともに、バイパスガス量を調整することができる。つまり、本実施例1の主ガス量調節弁18aとバイパスガス量調節弁18bの開度制御は、双方の調節弁の開度を相関させるように設定した一連のプログラムによって行うようにしている。
【0038】
ところで、
図4に示した本実施例1の主ガス量調節弁18aとバイパスガス量調節弁18bの開度制御が支障なく行われていても、石炭ガス組成の変動に伴い、COシフト触媒層の計測最高温度が耐熱限界温度を越える場合がある。このような場合は、
図4に示した関連制御を行いながら、
図5に示すように、先行的にバイパスガス量を一時的に増加する先行制御を行うことが望ましい。つまり、設定温度(図示例では、470℃)と耐熱限界温度(図示例では、480℃)との中間に閾値(図示例では、475℃)を設定する。そして、計測最高温度が閾値を越えたときに、バイパスガス量調節弁18bの開度を一時的に設定開度(例えば、全開の0〜10%、好ましくは5〜10%)だけ増開して速やかに元の開度に戻す。これにより、COシフト触媒層の温度を急速に低下させることができ、COシフト触媒層の温度上昇を抑制できる。