(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033073
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】橈骨神経麻痺に使用されるリハビリ装具
(51)【国際特許分類】
A61H 1/02 20060101AFI20161121BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
A61H1/02 K
A61F5/01 N
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-280499(P2012-280499)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-124191(P2014-124191A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】512332024
【氏名又は名称】柳川 哲二
(74)【代理人】
【識別番号】100111349
【弁理士】
【氏名又は名称】久留 徹
(72)【発明者】
【氏名】柳川 哲二
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−253504(JP,A)
【文献】
特開2005−80872(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0130895(US,A1)
【文献】
登録実用新案第3146959(JP,U)
【文献】
国際公開第2011/117901(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の肘近傍もしくは上腕部に巻き付けるように取り付けられる腕帯と、
当該腕帯の第一の位置に設けられる第一腕帯弾性体固定部と、
人の手掌に巻き付けるように取り付けられる手掌帯と、
当該手掌帯における手の甲側における末梢端側に設けられる第一手掌帯弾性体固定部と、
当該第一腕帯弾性体固定部と第一手掌帯弾性体固定部に取り付けられ、手の甲側を通るゴムと、
を備えるようにしたことを特徴とする橈骨神経麻痺用のリハビリ装具。
【請求項2】
請求項1に記載の橈骨神経麻痺用のリハビリ装具において、さらに、
人の各指の基節骨の中枢部に指ぬき状に嵌め込まれる指帯と、
当該指帯における指の甲側に設けられる指帯弾性体固定部と、
当該指帯弾性体固定部と前記第一腕帯弾性体固定部とに取り付けられ、手の甲側を通るゴムと、
を備えた橈骨神経麻痺用のリハビリ装具。
【請求項3】
前記腕帯が、肘よりも上方の上腕部に設けられるようにしたものである請求項1に記載の橈骨神経麻痺用のリハビリ装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橈骨神経麻痺を回復させるまでのリハビリ期間中に使用されるリハビリ装具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橈骨神経麻痺は、上腕部の橈骨神経を圧迫することなどによって引き起こされ、手関節の背屈ができなくなり、さらに、拇指と第1〜第5指の伸展が不能になる症状を有するものとして知られている。このように橈骨神経が圧迫されて麻痺されると、手の尺側手根伸筋、長橈側手根伸筋や短橈側手根伸筋、長拇指伸筋、長拇指外転筋、支持伸筋、総指伸筋、小指伸筋などを収縮させることができなくなり、
図7に示すように、手関節の背屈や手指の伸展ができなくなって、いわゆる下垂手となる。
【0003】
ところで、このような橈骨神経麻痺は、保存的療法によって治療されるのが一般的であるが、このような保存療法によっても回復不可能な場合は手術療法が行われることもある。どちらの治療法も長期間にわたってリハビリテーションを行わなければならず、この際に、次のような装具が用いられる(特許文献1、特許文献2など)。
【0004】
まず、第一のリハビリ装具が、トーマス型懸垂スプリントと称されるものである。この第一のリハビリ装具6は、
図4に示すように、手首近傍の複数箇所に巻き付けて固定される固定具61と、この固定具61から釣竿状に取り付けられる金属製スプリント62と、この金属製スプリント62の先端から指指帯に張架されたゴム部材63とを有するように構成され、この金属製スプリント62とゴム部材63によって手を持ち上げて、他動的に指の伸展を可能にするようにしたものである。
【0005】
また、第二のリハビリ装具7が、
図5に示すようなカックアップスプリントと称されるもので、橈骨神経麻痺によって手関節が下垂位になった場合に、日常生活上不都合を生じないように、下垂した手を約30度背屈位に保持させて、日常生活において最も支障の少ない肢位(機能肢位、便宜肢位、良肢位)に固定できるようにした装具である。
【0006】
このような装具は、橈骨神経麻痺によって収縮できなくなった筋肉を他動的に収縮させて手関節や指のMP関節、PIP関節を他動的に屈伸させることにより筋肉の萎縮を防ぎ、関節の拘縮を防ぎ神経麻痺の回復の促進と筋力の回復を促進することを目的とするものである。また、装具によっては関節をひたすら機能肢位に保持して神経麻痺の回復を待つだけのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−70949号後方
【特許文献2】特表2000−500674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このようなリハビリ装具においては、次のような問題を有する。
【0009】
まず、第一のリハビリ装具6のように釣竿状の金属製スプリント62を手の甲側に設けるようにした構造では、手の周囲に大掛かりな金属製スプリント62が突出するようになるため、構造的に複雑になってコストが高くなるばかりでなく、使用時にはその金属製スプリント62が目立って、美感上においても利便性においても抵抗感を与えてしまうといった問題がある。
【0010】
また、第二のリハビリ装具7では、手関節を機能肢位に保持するだけであり、手関節の可動性がなくリハビリ装具として機能しないのみならず、長期間装着すれば筋肉の不動性萎縮と関節の拘縮を避けがたい。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題に着目してなされたもので、簡単な構造で低コストに製造することができ、しかも、手関節、手指を動かしながら神経麻痺の回復を図れるようにした橈骨神経麻痺用のリハビリ装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の橈骨神経麻痺用のリハビリ装具は、上記課題を解決するために、人の肘近傍もしくは上腕部に巻き付けるように取り付けられる腕帯と、当該腕帯の第一の位置に設けられる第一腕帯弾性体固定部と、人の手掌に巻き付けるように取り付けられる手掌帯と、当該手掌帯における手の甲側における
末梢端側に設けられる第一手掌帯弾性体固定部と、当該第一腕帯弾性体固定部と第一手掌帯弾性体固定部に取り付けられ
、手の甲側を通るゴムとを備えるようにしたものである。
【0013】
このように構成すれば、手関節を固定していないので、手関節の機能肢位保持と同時に、ゴムの弾力を利用して手関節、背屈、掌屈のリハビリテーションを可能とすることができる。また、ゴムの本数を変えれば、各人の手の重量や前腕の長さに応じた張力の調整が可能となり、回復の程度に合わせた張力の微調整も可能となる。
【0014】
また、このようなリハビリ装具において、さらに、人の
各指の基節骨の中枢部に指ぬき状に嵌め込まれる指帯と、当該指帯における指の甲側に設けられる指帯ゴム固定部と、当該指帯ゴム固定部と前記第一腕帯弾性体固定部とに取り付けられ
、手の甲側を通るゴムとを備えるようにする。
【0015】
このようにすれば、手関節の機能回復訓練だけでなく、指についても屈曲と伸展を行わせることができるため、麻痺した指の伸筋腱のリハビリも可能となる。
【0016】
さらに、前記腕帯を、肘よりも上方の上腕顆上部に設けるようにする。
【0017】
このようにすれば、ゴムの引っ張り力によって腕帯が末梢部に引っ張られた場合であっても、上腕骨の内顆と外顆は隆起しているので、肘の出っ張りによって腕帯の末梢部への滑りを防止することができ、腕帯の位置を安定させることができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、人の肘近傍もしくは上腕部に巻き付けるように取り付けられる腕帯と、当該腕帯の第一の位置に設けられる第一腕帯弾性体固定部と、人の手掌に巻き付けるように取り付けられる手掌帯と、当該手掌帯における手の甲側における
末梢端側に設けられる第一手掌帯弾性体固定部と、当該第一腕帯弾性体固定部と第一手掌帯弾性体固定部
に取り付けられ、手の甲側を通るゴムとを備え、ゴムの弾力と手関節を支点とした梃子の原理を利用することによって手関節の背屈を可能としたものである。これにより、従来のように釣竿状の金属製スプリントを設ける必要がないのでリハビリ装具をコンパクトに構成にすることができ、また、コストを抑えて低価格にリハビリ装具を提供することができる。しかも、手関節を固定していないので、リハビリテーションの開始は麻痺の直後より可能となり、また、ゴムの本数を変えることで、麻痺の回復程度により手関節背屈力の調整や、各人の手の重さや前腕の長さに応じた背屈力の微調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態におけるリハビリ装具を使用した状態の側面図
【
図2】同形態におけるリハビリ装具を使用した状態の平面図
【
図6】指の各関節の屈曲角度により伸展に作用する腱の力関係が異なることを示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
この実施の形態における橈骨神経麻痺用のリハビリ装具1は、
図1や
図2に示すように、人の腕の上腕顆上部に巻き付けられる腕帯2と、人の手掌に巻き付けられる手掌帯3を設け、その腕帯2と手掌帯3に設けられた第一腕帯ゴム固定部23と第一手掌帯ゴム固定部31とをゴム5の弾力を利用して手掌を強制的に背屈させるようにしたものである。以下、本実施の形態におけるリハビリ装具1について説明する。
【0022】
まず、腕帯2は、人の肘近傍に巻き付けた状態でその位置に固定できるようにしたものであって、テニスのエルボーバンドのような帯状体21で構成される。そして、その帯状体21を腕に巻き付けた後に面ファスナー22によって固着し、使用者の腕の太さに対応できるようにしている。なお、この腕帯2を腕に取り付ける場合、ゴム5の張引力によって手掌側に引っ張られてずれてしまう可能性があるため、帯状体21の皮膚に接する側にウレタンやゴムなどのような摩擦体を全面に取り付けて、手掌側へのずれを防止できるようにしてもよい。また、このように手掌側へのずれを防止するためには、比較的強く巻き付けて面ファスナー22で固着させる必要があるが、このように強く巻き付けた場合は、血流が悪くなってしまう可能性がある。このため、好ましくは、肘よりも上腕側(例えば、顆上部など)に巻き付けられるようにしておく。このようにすれば、強く腕に巻き付けなくても、上腕骨の内顆と外顆の出っ張りがアンカーの役目を果たして、手掌側へのずれを防止することができる。
【0023】
第一腕帯ゴム固定部23は、
図2などに示すように、この腕帯2の表面に取り付けられるもので、ここではリング状部材25を取り付けて構成されている。そして、このリング状部材25に、ゴム5の一端側に取り付けられたS字状フック51を引っ掛けることによって、ゴム5を着脱可能に取り付けられるようにしている。
【0024】
一方、手掌側に取り付けられる手掌帯3は、
図2に示すように、示指(人差指)から小指までの指の付け根側の手掌を周回するように取り付けられるものであって、手の甲側からゴム5で引っ張ることによって手を背屈させる綿などの布体やループ状の紐などによって構成される。この手掌帯3の手の甲側における末梢端側には、同様に、ゴム5を取り付けるための第一手掌帯ゴム固定部31が設けられており、そのゴム5の張引力とテコの原理を利用して、手を背屈させられるようになっている。このゴム5を手掌帯3に取り付ける場合、比較的幅広い手を全体的に背屈させられるように、複数箇所(好ましくは、各指の付け根側)にゴム5の一端側を取り付けられるようにしておき、これによってゴム5で引っ張られた場合に、手全体に均等に背屈力が伝わるようにしている。なお、このような手掌帯3を構成する場合、手や指の屈曲動作や背屈動作時に摩擦によって皮膚が損傷を来さないように、手の平側を比較的柔らかい綿などの素材で構成しておき、手の甲側に面ファスナー22などを設けるようにしておくとよい。
【0025】
また、このように手掌側に手掌帯3を設ける他に、指の伸展機能の回復訓練の目的で指帯4を設けることもできる。この指帯4は、
図3に示すように、指の基節骨の中枢部に指ぬき状に嵌め込まれるように作成される。その背側の末梢部に設けられた指帯ゴム固定部41からゴム5を引っ張り、腕帯2の第一腕帯ゴム固定部23のリング状部材25に引っ掛けるようにする。これによって第2指〜第4指の中手骨指節間関節(MP関節)伸展が、ゴムの張力を利用して、他動的に可能となる。拇指に関しては他の指とは異なる方向に伸展させる必要があるため、腕帯2の第一腕帯ゴム固定部23より5〜7cm橈骨側に新しい第二腕帯ゴム固定帯24を設け、これにゴム5を引っ掛けられるようにしている。
【0026】
次に、このようにリハビリ装具1を用いた場合の作用について説明する。
【0027】
橈骨神経麻痺では、各手根伸筋腱と指の伸筋腱
81は収縮させることができず、手関節と指は下垂位となる。このような症例に対して、手掌帯3と腕帯2を取り付け、また、それらの間をゴム5によって連結する。このゴム5の強さとしては、手関節が背屈30度〜45度でバランスの取れるように初期設定しておく。このようにすれば、手関節の屈曲は、自己の筋肉の収縮によって可能となり、背屈は、筋肉が麻痺していても、ゴム5の張力と手関節を支点とした梃子の作用により可能となる。
【0028】
また、手関節の背屈リハビリとは別に指の伸展のリハビリを行う場合は、ゴムに連結された指帯4を用いる。これは、他動的に指のMP関節を伸展させると骨間筋
82の収縮によりPIP関節が伸展可能になることを示す。MP関節を他動的に伸展させると(
図6(b))、弛緩していた側索83は指の背側に滑る。そのとき、骨間筋
82の収縮により背側に移動した側索
83が緊張してPIP関節を伸展する。MP関節が屈曲すると再び側索83は掌側に滑りPIP関節を屈曲させるような力に変化する。骨間筋
82は橈骨神経以外の神経支配であるので伸筋腱
81と独立して運動できるようになる(
図6(a))。
【0029】
肘の屈曲時と伸展時では多少、ゴムの張力に差が出るはずであるが、前腕の長さと手の大きさは各人によって固定されているので、臨床的には問題になるほどの差はでない。
【0030】
このように上記実施の形態によれば、人の肘近傍もしくは上腕部(好ましくは、顆上部)に巻き付けるように取り付けられる腕帯2と、当該腕帯2の第一の位置に設けられる第一腕帯ゴム固定部23と、人の手掌に巻き付けるように取り付けられる手掌帯3と、当該手掌帯3における手の甲側における
末梢端側に設けられる第一手掌帯弾性体固定部31と、当該第一腕帯ゴム固定部23と第一手掌帯ゴム固定部31に取り付けられ
、手の甲側を通るるゴム5とを備えるようにしたので、従来のように釣竿状の金属製スプリントを設ける必要がなくなり、リハビリ装具1をコンパクトに構成にすることができるとともに、コストも抑えて低価格のリハビリ装具1を提供することができる。しかも、手首を固定していないので、装着直後よりリハビリができるのみならず、リハビリが進んだ状態でも手の屈曲と背屈を行わせることができ、その際、ゴム5の本数を変えることができるようにすれば、リハビリの進行状態に合わせた屈曲や背屈の動作を行わせることができるようになる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
【0032】
例えば、上記実施の形態では、腕帯2を肘近傍に取り付けるようにしたが、手首と肘の間に取り付けるようにしてもよい。この場合は、腕帯2のずれを防止できるようにしておくのが好ましい。
【0033】
また、上記実施の形態では、手掌帯3のみを取り付けた場合(
図1や
図2の場合)と、手掌帯3および指帯4を取り付けた場合(
図3の場合)について説明したが、指帯4のみを取り付けて使用するようにしてもよい。このような使用状態であっても、指帯4と腕帯2との間のゴム5の張引力によって手関節を背屈させることができ、骨間筋82の働きによって近位指節間関節の伸展が可能となる。
【0034】
さらに、上記実施の形態では、S字状フック51によってゴム5を腕帯2に取り付けるようにしたが、あらかじめゴム5と腕帯2とを取り付けるようにしておいてもよい。この場合、本発明との関係において、縫合部分などの取り付け部が第一腕帯固定部に相当する。
【0035】
また、上記実施の形態では、ゴム5を用いて説明したが、コイルスプリングなどの弾性体を用いて手掌帯3を張引させることもできる。
【符号の説明】
【0036】
1・・・リハビリ装具
2・・・腕帯
21・・・帯状体
22・・・面ファスナー
23・・・第一腕帯ゴム固定部
24・・・第二腕帯ゴム固定部
25・・・リング状部材
3・・・手掌帯
31・・・第一手掌帯ゴム固定部
4・・・指帯
5・・・ゴム
51・・・S字状フック