特許第6033086号(P6033086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6033086放射線検出器、及び、この検出器を備えた放射線撮像装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033086
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】放射線検出器、及び、この検出器を備えた放射線撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 7/00 20060101AFI20161121BHJP
   G01T 1/24 20060101ALI20161121BHJP
   G01T 1/17 20060101ALI20161121BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20161121BHJP
   A61B 6/14 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   G01T7/00 A
   G01T1/24
   G01T1/17 A
   A61B6/03 320Y
   A61B6/14 310
【請求項の数】9
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2012-549834(P2012-549834)
(86)(22)【出願日】2011年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2011079530
(87)【国際公開番号】WO2012086648
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2010-284571(P2010-284571)
(32)【優先日】2010年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516122162
【氏名又は名称】タカラテレシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(72)【発明者】
【氏名】尾川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山河 勉
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】長野 竜也
(72)【発明者】
【氏名】長岡 秀行
(72)【発明者】
【氏名】辻田 政廣
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−000587(JP,A)
【文献】 特開2008−298556(JP,A)
【文献】 特表平11−511035(JP,A)
【文献】 特開2007−117717(JP,A)
【文献】 特開2010−243394(JP,A)
【文献】 特開2004−325183(JP,A)
【文献】 特開2010−125249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 7/00
A61B 6/03
A61B 6/14
G01T 1/17
G01T 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する放射線をその放射線量に応じた画素毎の電気信号に変換して出力する、各画素を成す正方形の検出エレメントが複数、配置されて成る正方形の放射線入射面を有するモジュールを複数備えた放射線検出器において、
前記複数のモジュールは、当該放射線検出器のスキャン方向を第1のX軸と当該第1のX軸に直交する第1のY軸との内の一方の軸の方向に設定したときの当該第1のX軸及び当該第1のY軸のうちの少なくとも一方に沿って同一面上で既知幅の間隔を以って相互に隣接して配列され、
前記モジュールのそれぞれの前記複数の検出エレメントは、前記第1のX軸及び第1のY軸に対してそれぞれ斜めに設定され且つ相互に直交した第2のX軸と第2のY軸に沿って2次元的に配列され、
当該放射線検出器の前記放射線入射面の面積使用率、当該放射線検出器から出力されるデータの均一性補正に必要な必要領域率、及び、前記既知幅の前記スキャン方向における影響率に応じて設定された、前記第1のX軸及び第1のY軸と前記第2のX軸及び第2のY軸と間の相対的な角度は6°〜20.7°の範囲にある、ことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記複数の互いに隣接するモジュールの相互間の隙間に、当該隙間よりも狭い幅を有し、電気的な絶縁性を有し、且つ、前記検出エレメントと同等又はそれ以上の比重の素材を有する遮蔽体が配置され、
前記遮蔽体は、表面が電気的な絶縁体で覆われたタングステン、モリブデン、銅、或いは鉛であるか、又は、高比重セラミックそれ自体の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記既知幅の間隔は前記画素のサイズの1/N(Nは2以上の正の整数)の整数倍である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記複数のモジュールは前記第1のX軸又は第1のY軸に沿って1次元的に配置されている、ことを特徴とする請求項1又は3に記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記複数のモジュールは前記第1のX軸及び第1のY軸に沿って2次元的に配置されている、ことを特徴とする請求項1又は3に記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記検出エレメントのそれぞれは、前記放射線をデジタル量の前記電気信号に直接変換するように形成されており、
前記電気信号を画素データに処理する処理回路を備え、この処理回路は前記放射線の粒子数を計数して当該計数結果に基づく前記画素データを生成するように構成したことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の放射線検出器。
【請求項7】
放射線源と、
この放射線源から放射される放射線をその放射線量に応じた画素毎の電気信号に変換し且つ各画素を成す正方形の検出エレメントが複数、配置されて成る正方形の放射線入射面を有するモジュールを複数備え、当該複数のモジュールから出力される前記電気信号をフレームデータとして規則的に繰り返し出力する放射線検出器と、
前記フレームデータを画像データに生成する画像生成手段と、を備えた放射線撮像装置において、
前記複数のモジュールは、当該放射線検出器のスキャン方向を第1のX軸と当該第1のX軸に直交する第1のY軸との内の一方の軸の方向に設定したときの当該第1のX軸及び当該第1のY軸のうちの少なくとも一方に沿って同一面上で既知幅の間隔を以って相互に隣接して配列され、
前記モジュールのそれぞれの前記複数の検出エレメントは、前記第1のX軸及び第1のY軸に対してそれぞれ斜めに設定され且つ相互に直交した第2のX軸と第2のY軸に沿って2次元的に配列され、
前記放射線検出器の前記放射線入射面の面積使用率、前記放射線検出器の出力データの均一性補正に必要な必要領域率、及び、前記既知幅の前記スキャン方向における影響率に応じて設定された、前記第1のX軸及び第1のY軸と前記第2のX軸及び第2のY軸と間の相対的な角度は6°〜20.7°の範囲にある、ことを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項8】
前記画像生成手段は、前記放射線検出器の画素それぞれよりも小さいサイズの画素を2次元的に配列した仮想メモリ空間を用いて、サブピクセル法により、前記データを当該仮想メモリ空間の各画素の画素値に変換する変換手段を備え、
前記仮想メモリ空間の画素は前記第1のX軸及び第1のY軸から成る座標系に準じてマッピングされていることを特徴とする請求項7に記載の放射線撮像装置。
【請求項9】
前記変換手段は、前記放射線検出器から一定期間毎に出力された複数の前記フレームデータを成す画素データを前記仮想メモリ空間上での移動量を加味して重ねたときに当該仮想メモリ空間の各画素に占める画素データの面積比に基づいて当該仮想メモリ空間の各画素の画素値を演算する演算手段と、この演算された画素値を当該仮想メモリ空間の各画素にマッピングするマッピング手段とを有し、
前記演算手段は、検出面において前記複数のモジュールの相互間に位置する隙間に相当する画素は画素値が0であると仮定して前記仮想メモリ空間の各画素の画素値を演算するように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の放射線撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者を透過したX線などの放射線の量を検出する放射線検出器、及び、この放射線検出器を搭載し、この検出器により検出した放射線の検出データを用いて被検者の画像を生成する放射線撮像装置に係り、とくに、放射線を直接、それに対応した量の電気信号に変換する半導体層を有する直接変換型のモジュールを複数配置した放射線検出器、または、放射線を光に変換し、この光を電気信号に変換する検出セルで構成された間接変換型のモジュールを複数配置した大型の放射線検出器、及び、この放射線検出器を備えた放射線撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医用モダリティに関する技術の発展には目覚しいものがある。このような医用モダリティには、X線を用いて患者の歯列に沿った断層像を得る医用のパノラマ撮装置や、X線を用いて患者の全身や指定部位の任意断面の断層像を得る医用のX線CT装置も含まれる。
【0003】
このようなX線に関わる医用モダリティの発展にはX線検出器の性能アップが寄与していることも見逃せない。かかるX線検出器としては、例えば特許文献1に示す如く、CdTeなどの半導体から成る検出層を設け、この検出層に入射するX線を直接、電気信号に変換する、所謂、半導体を用いた直接変換型のX線検出器が知られている。また、放射線から光に変換するCsIやGOSなどのシンチレータを配し、その光をCCDやフォトダイオード、C−MOS回路で電気信号に変換する、所謂、間接変換型のX線検出器も多用されている。
【0004】
これらのX線検出器のうち、半導体を用いた検出器の場合、そのX線の検出層はインゴットから成長させて、これを成形・加工して製造する。このため、大きな検出領域の検出器を1つの素子として作成することは難しい。このため、2次元アレイ状に所定数の画素(例えば40×40画素)を並べた所定サイズ(例えば8mm×8mmの矩形状)のモジュールが作られる。このモジュールを複数、2次元アレイ状に又はライン状に相互に稠密に隣接させる、即ち、モジュールを隣接させて配置する構造を採用し、2次元又は1次元(1次元あっても実際にはモジュール1個分の検出幅を持つ)検出領域を有するX線検出器が提供されている。ただし、モジュールを稠密に配置する場合、モジュールの組み立て精度や配線スペースを確保する必要があるため、モジュールの相互間に一定幅の隙間(ギャップとも言われ、通常、1画素の0.5倍〜5倍程度の幅を有する)を設ける必要がある。この隙間は、小形化の観点から言えば、デッドスペースになる。
【0005】
一方で、パノラマ撮装置やX線CT装置の場合、X線検出器は矩形状の各画素の縦横に沿った直交座標軸のうちの一方の軸方向に平行にスキャンされることが普通である。つまり、直交座標の例えば横方向の軸とスキャン方向とが一致する。この場合、モジュールの相互間に位置する一定幅の隙間が伸びる方向が、スキャン方向とも一致してしまう。しかしながら、X線検出器を横方向にスキャンするので、この隙間が対象物のX線透過情報をピックアップできない不感帯となる。
【0006】
加えて、このX線検出器の場合、各モジュールの最外郭の画素は不安定なX線検出特性を示すことが多い。つまり、データを検出してない画素や不安定な検出特性の画素があるX線透過データ(フレームデータ)を用いて画像を再構成すると、画像にアーチファクトを生じたり、画像情報の欠落により読影の精度を低下させたりするという問題があった。
【0007】
この問題を改善するため、特許文献2や非特許文献1に示すように、検出面が矩形状の複数のモジュールをスキャン方向に対して斜めになるように配置したX線検出器も知られている。この検出器の場合、デッドスペースとなる、モジュール間の隙間の長さ方向もスキャン方向に対して傾斜しているので、全くデータ検出がされない不感領域は無くなる。
【0008】
ところで、近年、特許文献3、特許文献4、特許文献5、さらには非特許文献2に示すように、光子計数(フォトンカウンティング)型のX線検出器が使用され始めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
特許文献1:米国特許第5,952,646号
特許文献2:特開2010−125249
特許文献3:特開2000−069369
特許文献4:特開2004−325183
特許文献5:特開2006−101926
【非特許文献】
【0010】
非特許文献1:「量子計数型X線撮影法の胸部疾患の画像診断における有用性の検討」、木村和彦 ほか、NIPPON ACTA RAdiologica 1997; 57; 791-800
非特許文献2:J.S.Iwanczyk, et al,“Photo Counting Energy Dispersive Detector Arrays for X-ray Imaging”; Nuclear Science Symposium Conference Record, 2007.; NSS ’07, IEEE
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述した特許文献2や非特許文献2に係る、検出面の形状が矩形であってスキャン方向に対して斜めに配置し、検出器はスキャン方向に移動させる、所謂、「斜め配置のスキャン」を行う場合であっても、スキャン方向を横軸とする直交座標系の検出領域に基づいて画像が再構成される。このため、スキャンした検出領域の中で画像の再構成に使用されない部分領域があり、その部分は無駄なデータ収集となる。この収集部分は被検者に対して余分なX線被曝を与える。
【0012】
また、前述した特許文献3に係る、光子計数型のX線検出器を複数のモジュールの隣接配置により製造する場合、各画素を成す検出層の直下に、画素毎に、光子計数のための信号処理回路をASIC層として作り込む必要がある。この信号処理回路の回路ボリュームは信号積分型のX線検出器のそれに比して大きい。このため、光子計数型検出器の場合、各画素を小さく(例えば150μm以下の画素)することは構造的にも、また性能面やコスト面でも困難であることから、通常、200μm程度の画素サイズが現実的なサイズになってしまう。つまり、光子計数型の検出器の場合、信号積分型の検出器が100μm程度の画素でデータ収集していることに比して、再構成された画像の解像度が劣る。つまり、画像の細かさが劣る。また、その画像はデジタル的な歪が大きいため、読影精度も低下する。
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、複数のモジュールを隣接配置して構成される放射線検出器において、検出器の不感帯が画像に及ぼす影響を大幅に軽減でき、より少ない放射線被曝量できめが細かく且つ高い解像度の画像を提供可能であることを、その目的とする。また、この放射線検出器を搭載した放射線撮像装置により、検出器の不感帯が画像に及ぼす影響がより少なく且つ放射線被ばく量もより少なくて済むとともに、よりアナログ的で自然に近い感覚でありながら解像度が高く高精細な画像を提供することを、別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するために、本発明は、その1つの態様として、入射する放射線をその放射線量に応じた画素毎の電気信号に変換して出力する、各画素を成す正方形の検出エレメントが複数、配置されて成る正方形の放射線入射面を有するモジュールを複数備えた放射線検出器が提供される。この検出器において、前記複数のモジュールは、当該放射線検出器のスキャン方向を第1のX軸と当該第1のX軸に直交する第1のY軸との内の一方の軸の方向に設定したときの当該第1のX軸及び当該第1のY軸のうちの少なくとも一方に沿って同一面上で既知幅の間隔を以って相互に隣接して配列され、前記モジュールのそれぞれの前記複数の検出エレメントは、前記第1のX軸及び第1のY軸に対してそれぞれ斜めに設定され且つ相互に直交した第2のX軸と第2のY軸に沿って2次元的に配列され、当該放射線検出器の前記放射線入射面の面積使用率、当該放射線検出器から出力されるデータの均一性補正に必要な必要領域率、及び、前記既知幅の前記スキャン方向における影響率に応じて設定された、前記第1のX軸及び第1のY軸と前記第2のX軸及び第2のY軸と間の相対的な角度は6°〜20.7°の範囲にある、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は別の態様として、放射線源と、この放射線源から放射される放射線をその放射線量に応じた画素毎の電気信号のデータに変換し且つ各画素を成す正方形の検出エレメントが複数、配置されて成る正方形の放射線入射面を有するモジュールを複数備え、当該複数のモジュールから出力される前記データをフレームデータとして規則的に繰り返し出力する放射線検出器と、前記フレームデータを画像データに生成する画像生成手段と、を備えた放射線撮像装置が提供される。この撮像装置において、前記複数のモジュールは、当該放射線検出器のスキャン方向を第1のX軸と当該第1のX軸に直交する第1のY軸との内の一方の軸の方向に設定したときの当該第1のX軸及び当該第1のY軸のうちの少なくとも一方に沿って同一面上で既知幅の間隔を以って相互に隣接して配列され、前記モジュールのそれぞれの前記複数の検出エレメントは、前記第1のX軸及び第1のY軸に対してそれぞれ斜めに設定され且つ相互に直交した第2のX軸と第2のY軸に沿って2次元的に配列され、前記放射線検出器の前記放射線入射面の面積使用率、前記放射線検出器の出力データの均一性補正に必要な必要領域率、及び、前記既知幅の前記スキャン方向における影響率に応じて設定された、前記第1のX軸及び第1のY軸と前記第2のX軸及び第2のY軸と間の相対的な角度は6°〜20.7°の範囲にある、ことを特徴とする。
【本発明の効果】
【0016】
複数のモジュールを隣接した状態で配置して構成されるX線検出器などの放射線検出器において、検出器の不感帯が画像に及ぼす影響を大幅に軽減でき、より少ない放射線被曝量で済む。また、この放射線検出器を搭載した放射線撮像装置により、検出器の不感帯が画像に及ぼす影響を大幅に軽減でき且つより少ない放射線被ばく量で済むとともに、よりアナログ的で自然に近い感覚でありながら解像度が高く高精細な画像を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
添付図面において、
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る放射線撮像装置および放射線検出器を実施した歯科用のパノラマ撮像装置の概要を説明する図、
図2図2は、パノラマ撮像装置の電気的な構成の概要を説明するブロック図、
図3図3は、パノラマ撮像装置の検出器の電気的な構成の概要を説明するブロック図、
図4図4は、検出器のX線入射側の外面を一部破断し、また一部拡大して説明する平面図、
図5図5は、図4中のV−V線に沿った概略断面図、
図6図6は、検出器のモジュールの配置を説明する図、
図7図7は、検出器のモジュールの1つの側面の概要を示す側面図、
図8図8は、パノラマ撮像装置において実行されるデータ収集から画像生成までの処理の概要を説明するフローチャート、
図9図9は、面積比に基づくサブピクセル法に用いるモジュール、その画素、及び仮想メモリ空間の位置関係を説明する図、
図10図10は、面積比に基づくサブピクセル法を説明する図、
図11図11は、モジュール相互間に設ける隙間による不都合を説明する図、
図12図12は、本発明に係る斜め・縦列配置によるスキャンと従来の斜め配置によるスキャンとの違いを説明する図、
図13図13は、従来のサブピクセル法の処理を説明する図、
図14図14は、本発明に係る、面積比に基づくサブピクセル法の処理を説明する図、
図15図15は、本発明に係る斜め・縦列配置によるスキャンと従来の斜め配置によるスキャンとの比較に供した、画素値のプロファイル分析の複数の方向を説明する図、
図16図16は、図15に示す複数の方向に夫々に沿った画素値のプロファイルのシミュレーション結果を従来例と比較しながら示すグラフ、
図17図17は、本実施形態における別のプロファイル分析を説明する図、
図18図18は、モジュール相互間の隙間の幅の上限及び下限の推定説明に用いた図、
図19図19は、本発明の第2の実施形態に係る放射線撮像装置としてのCTスキャナに搭載される放射線検出器を実施した検出器の概要を説明する平面図、
図20図20は、第2の実施形態の検出器のモジュールの2次元配置を示す図、
図21図21は、第2の実施形態に係るCTスキャナで実施される、面積比に応じたサブピクセル法の実施過程を説明する図、
図22図22は、変形例に係る放射線検出器としての検出器のモジュール配置を説明する平面図、
図23図23は、別の変形例に係る検出器の製造過程、とくにモジュールの配置の仕方を説明した図、
図24図24は、更に別の変形例に係る検出器の概略を説明する平面図、
図25図25は、更に別の変形例に係る検出器の概略を説明する平面図、
図26図26は、更に別の変形例に係る散乱X線による影響を抑制するための構造を示す検出器の部分側面図、である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る放射線検出器の各種の実施形態を説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1図17を参照して、本発明に係る放射線検出器の第1の実施形態を説明する。
【0020】
この実施形態では、本発明に係る放射線検出器は歯科用のX線パノラマ撮像装置(以下、パノラマ撮像装置と呼ぶ)に採用されたX線検出器である。勿論、この放射線検出器は、後述するが、医療用のX線CT(Computed Tomography)スキャナに限らず、工業用のX線CT装置に搭載することもできる。さらに、X線検出器は、一例として、光子計数型(フォトンカウンティング)のX線検出器として説明される。しかし、本発明に係る放射線検出器は、必ずしも光子計数型に限定されるものではなく、入射するX線の量を一定時間、積分した積分値として検出する積分型の検出器にも適用可能である。
【0021】
図1に、パノラマ撮像装置1の概要を示す。このパノラマ撮像装置1は、被検者Pからデータを収集するガントリ(データ収集装置)2と、収集したデータを処理して画像などを作成するとともにガントリ2の動作を制御するコンソール3とを備える。
【0022】
ガントリ2は、支柱11を備える。この支柱が伸びる長手方向を縦方向(又は上下方向:Z軸方向)と呼び、この縦方向に直交する方向を横方向(XY面に沿った方向)と呼ぶ。支柱11には、略コ字状を成す上下動アームユニット12が縦方向に移動可能に備えられる。上下動アームユニット12は、支柱11に沿って移動可能な縦アーム12Aと、この縦アーム12Aの上下端のそれぞれから横方向に延びる上側横アーム12B及び下側横アーム12Cを備える。上側横アーム12Bの所定位置には、XY面内で回動可能な状態で、回動アームユニット13が取り付けられている。下側横アーム12Cの先端部は被検者Pの顎を載せるチンレスト14として構成されている。このため、撮像時には、被検者Pが図中の仮想線のように顎を載せて撮像に臨む。上下動アームユニット12の縦方向の位置は、図示しない駆動機構により、被検者Pの背丈に応じて調整される。
【0023】
回動アームユニット13は、下向きで略コ字状を成す横アーム13Aと、この横アーム13Aの両端のそれぞれから下向きに伸びる線源側縦アーム13B及び検出側縦アーム13Cとを備える。横アーム13Aが回転軸13Dにより垂下され、図示しない電動モータなどの駆動機構により回転軸13Dを中心に回動(回転)させられる。線源側アーム13Bの下端部にはX線管21が設置される。このX線管21から例えばパルスX線として曝射されたX線は、コリメータCLでコリメートされた後、被検者Pの顎部を透過して検出側縦アーム13Cに放射される(仮想線を参照)。検出側縦アーム13Cの下端部には、X線入射窓W(例えば、横6.4mm×縦150mm)を有したX線検出器22(以下、検出器と呼ぶ)が設置される。なお、コリメータCLのコリメート用スリットは、コリメート後のファンビームの大きさがX線入射窓Wに合致するように又はこの入射窓Wよりも若干(例えば1mm)程度大きくなるように設定されている。
【0024】
この検出器22は、入射する放射線を電気信号に直接に変換する半導体層を用いた、所謂、直接変換方式を採用した光子計数(フォトンカウンティング)型のX線検出器である。この検出器22の積層構造は、図6を用いて後述するので、ここでは半導体層と画素との関係を説明しておく。
【0025】
この光子計数型の検出器22において、半導体層のX線を入射させる面には例えば−500Vといった高電圧を印加させる荷電電極と言われる共通の電極が貼設され、他方の面には各画素を形成するべく集電電極が2次元アレイ状に貼設されている。このため、この集電電極の2次元の配置によって、この半導体層はX線検出素子を2次元アレイ状に配列したものと同等の構造になっている。この実質的に各画素を成すX線検出素子の部分を検出エレメントS(図3参照)と呼ぶことにする。
【0026】
これにより、検出器22は2次元に配列された検出エレメントS、すなわち画素(画素数は例えば32×750画素)を有する。各画素のサイズは、例えば200μm×200μmであり、この画素サイズは、X線をその光子(粒子として性質を持つ)の集合として検出することが可能な十分小さい値になっている。本実施形態において、X線をその粒子の集合として検出可能なサイズとは、「放射線(例えばX線)粒子が同一位置又はその近傍に複数個連続して入射したときの各入射に応答したパルス信号間の重畳現象の発生を実質的に無視可能な又はその量が予測可能なサイズ」であると定義される。この重畳現象が発生すると、X線粒子の「入射数対実際の計測数」の特性にX線粒子の数え落とし特性が発生する。このため、X線検出器12に形成する収集画素のサイズは、この数え落とし特性が発生しない又は実質的に発生しないとみなせる大きさに、又は、数え落し量が推定できる程度に設定されている。
【0027】
なお、この検出器22は必ずしも半導体を用いた直接変換型の光子計数型の検出器に限定されず、例えば、シンチレータと光検出器を組み合せた検出器であってもよいし、また、その信号処理法も光子計数型に限定されず、積分型と呼ばれる信号処理回路を搭載した検出器であってもよい。
【0028】
このため、検出器22は、その全画素それぞれにより、入射X線の光子を計数し、その計数値を反映させた電気量のフレームデータを出力する。被検者Pは所定の撮像位置に立って、その顎部をチンレスト14に載せた状態で、回動アームユニット13が回転駆動される。この回転中に、X線管21からX線が所定間隔又は連続的に曝射され、このX線は検出器22により例えば300fpsの高いフレームレートでフレームデータとして検出される。
【0029】
コンソール3は、図2に示すように、信号の入出力を担うインターフェース(I/F)31を備え、このインターフェース31にバス32を介して通信可能に接続されたコントローラ33、第1の記憶部34、画像プロセッサ35、表示器36、入力器37、キャリブレーション演算器38、第2の記憶部39、ROM40、及び閾値付与器41を備えている。
【0030】
コントローラ33は、CPU(中央処理装置)を備え、このCPUがROM40に予め与えられたプログラムに沿ってガントリ2の駆動を制御する。この制御には、X線管21に高電圧を供給する高電圧発生装置42への指令値の送出、画像プロセッサ35への駆動指令、及び、キャリブレーション演算器38への駆動指令も含まれる。第1の記憶部34は、ガントリ2からインターフェース31を介して送られてきたフレームデータを保管する。
【0031】
画像プロセッサ35は、CPUを備えたコンピュータである。画像プロセッサ35は、コントローラ33から処理開始の指令を受けたときに、画像プロセッサ35はROM40に予め与えられたプログラムに基づいて動作する。この動作により、第1の記憶部34に保管されたフレームデータを公知のシフト・アンド・アッド(shift and add)の演算を主体とするトモシンセシス法で処理し、被検者Pの口腔部の歯列のX線透過画像を作成する。表示器36は、作成されるX線透過像の表示や、ガントリ2の動作状況を示す情報及び入力器37を介して与えられるオペレータの操作情報の表示を担う。入力器37は、オペレータが撮像に必要な情報をシステムに与えるために使用される。
【0032】
また、キャリブレーション演算器38は、コントローラ33からの駆動指令に応じて動作する。ROM40には、キャリブレーション演算器38の動作に必要なプログラムが格納されている。このキャリブレーション演算器38は、後述するデータ収集回路おいて必要な、画素毎且つ各画素に対するエネルギ弁別系列毎に与えるエネルギ弁別のための閾値のキャリブレーションを担っている。第2の記憶部39は、キャリブレーションにより画素毎、エネルギ弁別系列毎、及びエネルギ値毎に生成された閾値の値を記憶している。この閾値は、撮像時に呼び出され、後述するデータ収集回路に与えられる。
【0033】
コントローラ33、画像プロセッサ35、キャリブレーション演算器38、閾値付与器41は共に、与えられたプログラムで稼動するCPUを備えている。それらのプログラムは、ROM40に事前に格納されている。
【0034】
ここで、上述した検出器22を詳述する。具体的には、検出器22の電気的な全体構成を説明した上で、モジュールと呼ばれる、複数の検出エレメントSの集合体であって実装上の構成単位を中心とする構造面の詳細、及び、モジュールの実装法について説明する。
【0035】
(検出器の電気的な全体構成)
最初に、図3を用いて、検出器22の電気的な全体構成を説明する。
【0036】
検出器22は、そのX線入射面に、前述したように各画素を成す検出エレメントSの2次元アレイ状の分布を有する。各検出エレメントSは、この検出エレメントに入射するX線を検出して、そのX線エネルギに応じたパルス電気信号を出力する。この電気信号を処理すべく、各検出エレメントSの出力側にデータ収集回路51n(n=1〜N:N=全画素数=全収集チャンネル数)が備えられている。
【0037】
この複数のデータ収集回路51n(n=1〜N)のそれぞれは、検出エレメントSから出力されたアナログ量の電気信号を受けるチャージアンプ52を有し、このチャージアンプ52の後段に、波形整形回路53、多段の比較器54〜54(ここではt=4)、エネルギ領域振分け回路55、多段のカウンタ56〜56(ここではt=4)、多段のD/A変換器57〜57(ここではt=4)、ラッチ回路58、及びシリアル変換器59を備える。
【0038】
チャージアンプ52は、各検出エレメントSの集電電極に接続され、X線粒子の入射に応答して集電される電荷をチャージアップして電気量のパルス信号として出力する。このチャージアンプ52の出力端は、ゲイン及びオフセットが調整可能な波形整形回路53に接続されており、検知したパルス信号の波形を、予め調整されているゲイン及びオフセットで処理して波形整形する。この波形整形回路53のゲイン及びオフセットは、検出エレメントSから成る画素毎の電荷チャージ特性のバラツキと各回路特性のバラツキを考慮して、キャリブレーションにより調整される。
【0039】
この波形整形回路53の出力端は、複数の比較器54〜54の比較入力端にそれぞれ接続されている。この複数の比較器54〜54それぞれの基準入力端には、それぞれ値が異なるアナログ量の閾値th(〜th)(ここではt=1〜4)が印加されている。これにより、1つのパルス信号を異なる閾値th(〜th)と比較することができる。この比較の理由は、入射したX線粒子のエネルギ量が、事前に複数に分けて設定したエネルギ領域のうちのどの領域に入るのかについて調べる(弁別する)ためである。パルス信号の波高値(つまり、各入射X線粒子のエネルギ量を表す)が閾値th1〜th4のどの値を超えているかにより、弁別されるエネルギ領域が異なる。なお、最も低い閾値thは、通常、外乱や、検出エレメントS、チャージアンプ52などの回路に起因するノイズ、或いは、画像化に必要のない低エネルギの放射線を検出させないための閾値として設定される。また、閾値の数、すなわち比較器の数は、必ずしも4個に限定されず、上記閾値thの分を含めて2個以上の何個であってもよい。
【0040】
上述した閾値th〜thは、具体的には、コンソール3のキャリブレーション演算器38からインターフェース32を介してデジタル値で画素毎、即ち収集チャンネル毎に与えられる。このため、比較器54〜54それぞれの基準入力端は4つのD/A変換器57〜57の出力端にそれぞれ接続されている。このD/A変換器57〜57はラッチ回路58を介して閾値受信端T(〜T)に接続され、この閾値受信端T(〜T)がコンソール3のインターフェース32に接続されている。
【0041】
ラッチ回路58は、撮像時には閾値付与器40からインターフェース31及び閾値受信端T(〜T)を介して与えられたデジタル量の閾値th〜thをラッチし、対応するD/A変換器D/A変換器57〜57にそれぞれ出力される。このため、D/A変換器D/A変換器57〜57は指令されたアナログ量の閾値th〜thを電圧値として比較器54〜54それぞれに与えることができる。
【0042】
このため、比較器54〜54の出力端は、図3に示すように、エネルギ領域振分け回路55に接続されている。このエネルギ領域振分け回路55は、複数の比較器54〜54の出力、すなわち、検出したX線粒子のエネルギに相当するパルス電圧と閾値th(〜th)との比較結果を解読し、そのエネルギ値がどのエネルギ領域1〜4に分類されるかという振分けを行う。
【0043】
このため、カウンタ56〜56のそれぞれは、エネルギ領域振分け回路55からパルス信号が入力される度にカウントアップを行う。このため、担当するエネルギ領域に弁別されるエネルギ値のX線粒子数を一定時間毎の累積値として計測する。なお、カウンタ56〜56にはコンソール3のコントローラ33からスタート・ストップ端子T2を介して起動及び停止の信号が与えられる。一定時間の計測は、自身が有するリセット回路を使って外部から管理される。
【0044】
このようにして、リセットされるまでの一定時間の間に、複数のカウンタ56〜56により、検出器12に入射したX線の粒子数が、画素毎に且つエネルギ領域毎に計測される。このX線粒子数の計数値は、カウンタ56〜56のそれぞれからデジタル量の計数データとして並列に出力された後、シリアル変換器59によりシリアルフォーマットに変換される。このシリアル変換器59は残り全てのチャンネル(収集画素)のシリアル変換器59とシリアルに接続されている。このため、最後のチャンネルのシリアル変換器59からシリアルなデジタル量の計数データとして出力され、その計数データが出力端T3を介してコンソール3に送られる。コンソール3では、インターフェース31がその計数データを受信して第1の記憶部34に格納する。
【0045】
そこで、画像プロセッサ35は、入力器37からのオペレータ指令に応じて、第1の記憶部34に格納されている計数データを読み出し、この計数データを用いて画像、例えば歯列に沿ったある断面のX線透過画像(パノラマ画像)をトモシンセシス法の元で再構成する。このパノラマ画像は例えば表示器46で表示される。
【0046】
(検出器の構造及び実装法)
続いて、モジュールと呼ばれる実装上の単位デバイスを用いて構成される検出器22の構造を説明する。
【0047】
検出器22の外観を図4、5に示す。同図に示すように、検出器22それ自体は長方形で所定高さを有する弁当箱状のハウジング101を有し、このハウジング101の内部に必要な構成要素が内蔵されている。この構成要素には板状のマザーボード102が含まる。このハウジング101には、カーボン材などの長方形状のX線入射窓Wが形成されている。この入射窓Wの直下にモジュールの配列構造体が置かれている。
【0048】
つまり、このマザーボード102上であって、X線入射窓Wの直下に、入射X線を電気パルス信号に画素毎に直接変換するための単位素子(つまり検出エレメントS)を一群とするモジュールMが複数、実装されている。モジュールMとは、製造可能な単位であって、2次元のアレイ状に分布させた複数の検出エレメントSを有する実装上の単位デバイスである。このモジュールMを、複数、既知量の幅の隙間(ギャップ)Gを空けて互いに隣接状態でマザーボード102上に配置することで、検出器22に必要な検出素子群を構成している。
【0049】
このモジュールMは、図4に示すように、一例として8mm×9mmのサイズを有する板状で矩形の構造体である。この8mm×9mmの平面サイズのうち、1mm分はリード線引き出し部であるので、検出面を成す平面サイズは正方形の8mm×8mmである。図6に示すように、この8mm×8mmの正方形の領域の中に40×40個の画素(すなわち検出エレメントS)が、第2のX軸:X2および第2のY軸:Y2からなる直交座標系(第2の直交座標系)の元で、縦横に稠密に2次元状に配列されている。
【0050】
図7に示すように、各モジュールMは、そのX線入射側から順に、層状の共通の荷電電極E1、半導体からなる検出層K1、層状で且つ各画素分の集電電極E2、及びASIC(特定用途向け集積回路)層K2がこの順に積層された状態で構成されている。
【0051】
荷電電極E1には、例えば−数十〜−数百ボルト程度の比較的高い電圧が印加される。検出層K1は、テルル化カドミウム半導体(CdTe半導体)、カドミュームジンクテルライド半導体(CdZnTe半導体)、シリコン半導体(Si半導体)などの半導体材料を用いて層状に構成される。また、集電電極E2は、各検出画素を構成すべく、所定サイズの碁盤の目状に分割されている。このサイズは例えば200μm×200μmであり、前述したように「X線をその粒子として検出可能なサイズ」である。これにより、光子計数(フォトンカウンティング)が可能になっている。
【0052】
このため、検出層K1に入射したX線光子に因り、その層内部に電子と正孔の対が発生し、電子が相対的に正電位の集電電極E2に集められる。この電子がもたらす電荷がパルス状の電気信号として集電電極E2により検知される。つまり、検出器22に入射したX線は電気量のパルス信号に直接的に変換される。
【0053】
ASIC層K2は、複数の集電電極E2それぞれにハンダ接続部(図示せず)を介して接続されるようにマザーボード102に積層されている。このASIC層K2に、前述した複数のデータ収集回路51n(n=1〜N)のそれぞれが、検出層K1の集電電極E2毎に、すなわち、検出画素毎に作り込まれている。
【0054】
このASIC層K2に作り込まれる、各検出画素のシリアル変換器59から、各モジュールMの検出信号、すなわち「40×40」画素分のパルス電気信号が出力される。このパルス電気信号はマザーボード102上の回路を使ってシリアルに集められ、図3に示すように出力端T3から出力される。
【0055】
次に、図6を再度参照して、上述したモジュールMの配置例を説明する。この複数のモジュールMをどのように配置するかということは本発明の最重要な特徴を成す。
【0056】
図6には、一部上述したが2通りの直交座標系が示されている。一方の第1の直交座標系は、第1のX軸:X1及びこれに直交する第1のY軸:Y1から成る座標系である。他方の第2の直交座標系は、第2のX軸:X2およびこれに直交する第2のY軸:Y2から成る座標系である。第1のX軸:X1は、例えばX線パノラマ撮を行うときに検出器22及びX線管21の対を被検者Pの周りに回転移動させるときの方向、すなわちスキャン方向に一致させている。
【0057】
さらに、第2の直交座標系、すなわち第2のX軸:X2及び第2のY軸:Y2は、第1の直交座標系、すなわち第1のX軸:X1及び第1のY軸:Y1に対して、一例として、図6に示すように右肩上がりにα=14.08°だけ傾いている。勿論、この傾きαは、第1及び第2の直交座標系の間の相対的な傾きを言うものであり、第1の直交座標系X1,Y1に対して左肩上がりに14.08°だけ傾斜する値でもよい。この14.08°の角度αは製造や実装の誤差などを考慮すると、実質的に14°であるとも言える角度である。また、この斜めの角度αは必ずしも14.08°に限らず、斜めの一定範囲の角度であればよい。この斜め角度αの範囲としては後述するように、例えば6°〜20.7°の範囲に属する角度である。
【0058】
これらの2つの直交座標系のうち、複数のモジュールMのそれぞれにおける複数の画素、すなわち複数の検出エレメントSは、同一面上で第2の直交座標系である第2のX軸:X2及び第2のY軸:Y2に沿って2次元アレイ状に配列されている。これに対し、複数のモジュールMそれ自体は第1の直交座標系に沿って配置されている。この図4図6の例の場合、第1のY軸:Y1に沿って縦方向に相互に隣接させながら、且つ、モジュール相互間に規定幅の隙間Gを空けつつ1列に配列されている(図4,6参照)。
【0059】
この隙間Gの幅は、既知であれば、どのような値でもよい。そうではあるももの、この隙間Gの幅は、収集したフレームデータを処理する演算負荷の低減の観点から、好適には、検出エレメントSで構成される各画素のサイズの1/N(Nは2以上の正の整数)の整数倍である方がよい。この隙間Gの幅は画素サイズの1/2、1/3、1/4、…の1倍、2倍、3倍である。一例として、画素サイズ200μmとしたときには、隙間Gは100μm、200μm、300μm、…となる。この隙間Gの幅の最大値は、斜めで互いに隣接するモジュールM同士が離れすぎているがために、スキャン時に被検者から画素データを収集しない帯状の不感領域を持たせないようにするときの限界の値に設定する方がよい。
【0060】
このように、複数のモジュールMは、マザーボード102の上に斜めに(第1の直交座標系に対して)且つ縦列に(第1のY軸:Y1に沿って)配置・実装されている。これにより、各モジュールMの直交配列の画素も第1のX軸:X1及び第1のY軸:Y1に対して斜めに配列されることになる。この結果、図6に示す如く、例えば200×200μmの正方形の画素(検出エレメントS)が「40×40」個分、正方形状に並べた画素群(モジュールM)が第1のY軸:Y1に沿って縦方向に稠密に並び、且つ、各画素群が第1のX軸:X1および第1のY軸:Y1に対して14.08°だけ傾いて並んでいることになる。つまり、「40×モジュールMの数」分の画素が第1のY軸:Y1に沿ってジグザグ形状ZG(図6参照)を描きながら並んでいることになる。
【0061】
このため、同一の正方形状の複数のモジュールMが図6に示すように第1のY軸:Y1に沿って並んだことによって、これらのモジュールMの全体によって形成されるX線の検出面も同様に第1のY軸:Y1に沿ってジグザグ形状ZGを成す縦長のものになる。このジグザグ形状ZGの検出面に対し、後述する座標変換のための視野F1が仮想的に設定されている。この視野F1は本実施形態では、各モジュールMの正方形の角部に内接する長方形に設定される。ただし、この視野F1は必ずしも内接する領域に限られず、各正方形の角部に外接する長方形の視野F2であってもよいし(図6参照)、場合によっては、外接する長方形の視野F2よりも大きい長方形の視野であってもよい。
【0062】
(信号収集及び画像再構成の処理)
次に、図8を参照して、コンソール3のコントローラ33及び画像プロセッサ35が連携して実行する信号収集及び画像再構成の処理を説明する。
【0063】
このX線パノラマ撮像装置により、パノラマ撮像の開始が指示されると、コントロール3のコントローラ33は、ステップS1にて、X線管21及び検出器22の対を被検者Pの顎部の周りに回転させるように指示するとともに、所定のシーケンスに沿ってX線管21の曝射を指示する。このため、X線管21及び検出器22の回転の間に、X線管21から例えばパルスX線が所定タイミング毎に曝射される。このX線曝射が行われる毎に、そのX線が被検者Pの顎部を透過して検出器22に入射する。このX線入射に応答して検出器22の複数のモジュールMが、それぞれの画素毎に、入射X線の光子数に応じた量を反映したデジタル電気量の画素データを出力する。
【0064】
このため、コンソール3の画像プロセッサ35は、ステップS2にて、インターフェース31を介して、図9(A)に模式的に示す如く、かかる画素データから成り且つ複数のモジュールMがその全体で成す検出面Pallからジグザグ形状ZGを有する長方形のフレームデータDFRAMEを受信する。このフレームデータDFRAMEは画像プロセッサ35の内部メモリに一時保管される。
【0065】
このフレームデータDFRAMEのうち、前述した隙間Gに相当するスリット状の領域には、検出エレメントSが存在しないために、画像データが無い。このため、画像プロセッサ35は、次のステップS3にて、その領域に画素値=0をマッピングする。このマッピングにより、ジグザグ形状ZGを有する長方形の領域に相当した長方形検出面Pallの大きさを維持したフレームデータDFRAMEが生成される。
【0066】
次いで、画像プロセッサ35は、ステップS4にて、フレームデータDFRAMEを第1の記憶部34に格納する。このフレームデータの受信、画素値=0のマッピング、及びデータ格納は一定のフレームレートで繰り返される(ステップS5)。このため、X線管21及び検出器22の対の回転動作が終わると、その一連のスキャンの間に一定フレームレートで決まる多数の収集タイミングで収集した多数のフレームデータDFRAMEが記憶部34に格納されている。
【0067】
次に、画像プロセッサ35は、ステップS6にて、第1の記憶部34に格納されている複数フレームのフレームデータDFRAMEをそれぞれに呼び出し、呼び出した各フレームデータDFRAMEに、面積比に基づいて画素値を決めるサブピクセル法に実施する。これにより、図9(B)に模式的に示す如く、収集画素、すなわち検出エレメントSよりも小さいサイズのサブピクセルであって、第1の直交座標系(X1、Y1)に沿った画素S1(<S)から成る新たな長方形状のフレームデータDFRAME−Aが生成される。つまり、第2の直交座標系(X2、Y2)の元で収集された生のフレームデータDFRAMEを、検出面Pallに対応して仮想的に設定される視野F1を利用して、第1の直交座標系(X1、Y1)に変換し且つサブピクセルに基づくフレームデータDFRAME−Aが生成される。この視野F1は、画像プロセッサ35が有するメモリに仮想メモリ空間VMとして設定される(図2参照)。
【0068】
ここで、図10を参照して、面積比に基づいてサブピクセルの画素値を決めるサブピクセル法の概念を説明する。
【0069】
いま、第2の直交座標系(X2,Y2)の元で収集された生のフレームデータDFRAMEを、模擬的に図10(A)に示すように、右肩上がりに傾けて示す4つの画素P1〜P4であり、それらの画素値はP1=2、P2=6、P3=6、P4=2であるとする。そこで、同図に示すように、検出面Pallに対応して仮想メモリ空間VMに設定される視野F1(例えば第1のX軸:X1の方向の幅5.8mm)に対応したサイズを有する、例えば第1の記憶部34にサブピクセルからなる領域Kを仮想的に設定する。この領域Kは例えば16個のサブピクセルK1〜K16から成る正方形状であって、第1の直交座標系(X1、Y1)に沿って配置されている。収集画素P1(〜4)の面積はサブピクセルK1(〜K16)のそれの1/4であるとする。そこで、フレームデータDFRAMEの4つの画素P1〜P4が成す正方形の領域を、その斜めの角度α=14.08°を保持した状態で且つ中心位置を合わせて、サブピクセルK1〜K16の16個のサブピクセルが成す領域Kに重ねる。
【0070】
この結果、図10(A)に示す如く、サブピクセルK1〜K16それぞれの小さい正方形の領域を斜めに分けるように、それらの領域に斜め配列の大きい画素P1〜P4が中心位置を同じくして重ねられる。なお、以下の説明で言及する「面積比」とは、斜めになっていない各サブピクセルK1(〜K16)に斜め配置の各画素P1(〜P4)が重なった部分の面積が、当該各画素P1(〜P4)の面積にどの程度の割合を占めるかを示す。なお、サブピクセルK1〜K16はそれに重ねられる画素P1〜P4に対して、面積比について、一定の点対称性を有する。このため、図示の如く、サブピクセルK1〜K16を4個のサブピクセルA,B,C,Dから成る集合として扱うことができる。点対称性を考慮すると、サブピクセルA〜Dは図10(A)に示すように配置される。このとき、
「サブピクセルAの面積比+サブピクセルBの面積比+サブピクセルCの面積比+サブピクセルDの面積比=1=各画素P1(〜P4)の面積比」
と表すことができる。
【0071】
このため、図10(A)においてサブピクセルA〜Dが画素P1〜P4に重なった部分領域をa,b,c1,d1,c2,d2と表記すると、それらの部分領域a,b,c1,d1,c2,d2の面積比は、例えば、
a=0.16、b=0.25、c1=0.13, d1=0.22, c2=0.09, d2=0.03
となる。したがって、第1の直交座標系(X1、Y1)に沿ったサブピクセルA,B,C,Dそれぞれの画素値は、斜め配置(第2の直交座標系(X2,Y2)に沿った)の画素P1〜P4の画素値を使って、面積比を考慮したサブピクセル法により、サブピクセルA〜Dの画素値は、
サブピクセルAの画素値=(2×a)×ゲイン
サブピクセルBの画素値=(2×b)×ゲイン
サブピクセルCの画素値=(2×c1+6×c2)×ゲイン
サブピクセルDの画素値=(2×d1+6×d2)×ゲイン
となる。ここで、2は画素P1の画素値、6は画素P3の画素値、ゲインはサブピクセルの画像を見易くするために設定する係数であり、一定値(例えばゲイン=2)である。
【0072】
そこで、例えばサブピクセルK1(=A)、K2(=B),K5(=C),K6(=D)に着目すると、
サブピクセルK1(=A)の画素値=2×0.16×2=0.64
サブピクセルK2(=B)の画素値=2×0.25×2=1
サブピクセルK5(=C)の画素値=(2×0.13+6×0.09)×2=1.6
サブピクセルK6(=D)の画素値=(2×0.22+6×0.03)×2=1.24
他のサブピクセルK3、K4,K7,K8,K19〜K16についても、これらの画素はサブピクセルA〜Dが成す群が3つ集まったものであるから、同様にしてそれらのサブピクセルの画素値を演算することができる。
【0073】
このように、サブピクセルK1〜K12のそれぞれをどのような面積比を以って収集画素P1〜P4が占有するかに応じて、その画素P1〜P4の画素値からサブピクセルK1〜K12の画素が演算される。この図10(A)の例の場合、同図(B)に示すようなサブピクセルK1〜K12が得られる。実際に収集されるフレームデータDFRAMEの画素はもっと多いが、原理的には、上述の演算法によって、面積比に基づくサブピクセル法が実施される。
【0074】
このサブピクセル法の実施によって、記憶部34にはスキャン方向に合致した直交座標系である第1の直交座標系(X1,Y1)に沿ってマッピングされた、収集回数分のフレームデータDFRAME−A図9(B)参照)が格納されている。そこで、画像プロセッサ35は、ステップS7にて、この複数枚のフレームデータDFRAME−Aのそれぞれに、画像の均一性を改善させるための画像処理を施す。ここで、画像の均一性とは、検出器22に均一と想定される放射線(X線、ガンマ線など)が照射されたときに、検出器の検出特性が均一化されている度合いである。以下、何故、そのような画像処理が必要なのかについて説明する。
【0075】
一般的に、本実施形態に係る検出器22のように複数のモジュールMを同一面に沿って併置する場合、それら複数のモジュールMの相互間に隙間(隙間)G(例えば図4,6参照)を開ける必要があることは前述した通りである。隙間Gを設ける必要があれば、その隙間Gの幅を正確に管理し、この隙間Gの領域には収集画素が無いことを意識した画像処理をする必要がある。本実施形態では隙間Gの領域に相当する収集画素には画素値=0を与えて、そのような画像処理を行っている(ステップS3)。しかしながら、それでも再構成した画像に隙間Gの影響、すなわち収集画素が無いことに因って不均一性(周期的な帯状のアーチファクトなど)が現われることがある。
【0076】
本発明者等は、この不均一性の発生要因を以下のように分析した。一般的に、X線検出器のモジュールMの相互間にギャップGを有する場合、同一のビューにおいて入射するX線の立体角は、モジュールMを構成する画素(検出エレメントS)の位置に応じて変わる。さらに、モジュールMの端部を形成する画素とその画素よりもモジュールMの内側に位置する画素とでは、入射するX線が成す立体角の大きさが異なる。つまり、モジュールMの端部を形成する画素の場合、図11に示すように、Δθだけ広い立体角のX線が入射する。このために、同一モジュールMであっても画素毎に検出感度が異なる。隙間Gの領域があると、この検出感度の相違がより強調され、画像上に帯状の歪が生じ易い。この歪を除去せんがため、スキャンして再構成を行った画像に隙間による不均一を補正する後処理を行うことを行なうことも考えられる。しかしながら、この後処理を行っても、処理後の画像にも歪が残り、使用に耐えない場合がある。
【0077】
この後処理を行っても不均一性を取りきれない原因として、以下のような様々な理由が考えられる。その1つに検出感度に関わる理由がある。具体的には、図11に示すように、入射するX線の立体角が画素(エレメントS)毎に、すなわち、隙間Gを含めた位置毎に違うこと、及び、歯、顎部などの実体物(つまり被検体の撮部位)で散乱X線が発生することから、隙間Gの領域内であっても検出感度が複雑に変化していることである。さらに、画像の再構成の前提条件に由来する理由が挙げられる。パノラマ画像を再構成するときにはシフト・アンド・アッドの処理が実行されるが、実体物がその再構成される面に存在すれば、その部分は再構成画像上で実像として的確(その部分のサイズを正確に反映して)に描出される。しかし、そうで無い場合、被検体は再構成画像にどのような描出されるかは定かではなく、的確な描出は保証されていない。このことも上述の理由の1つと考えられる。つまり、再構成後のパノラマ画像における、モジュールMの周辺部の画素値は、再構成面に被検体が在るという前提で処理されたものである。このため、パノラマ撮における障害陰影があるとか、パノラマ軌道から口腔部がずれているという場合には、被検体(実体物)が再構成面に無いと言えるので、再構成された画像上でモジュール周辺の画素から隙間に位置する画素の値を推定することは正当な処理ではない。したがって、精度の高い推定値は得られない。
【0078】
そこで、本発明者等は、実体物の有りのままの位置及び形態の情報を崩さずに有しているデータは、検出器22から収集したフレームデータ、又は、そのフレームデータを後述するように仮想メモリ空間にマッピングしたデータであるということに注目した。すなわち、画像再構成のシフト・アンド・アッドの処理を行う前のデータを前処理することが、再構成される画像の均一化を向上させる上で、本質的に重要である。
【0079】
このことを考慮し、本実施形態では、画像プロセッサ35は、ステップS7にて前処理として、複数のフレームデータDFRAME−A、すなわち画像再構成前の画像データに、フレーム毎に、以下の2通りの画像処理をそれぞれ単独で又は組み合せて適用する。
【0080】
(1)隙間Gのデータのない領域を、モジュールMの両端部付近の画素値から推定して補完する、又は、
(2)検出器22の移動量が正確に推定又は検出可能な場合には、検出器22が斜めに実装されている利点を利用し、隙間22の領域に相当するデータをその前後のフレームデータで実データが存在する画素から計算で求め、その画素値で隙間Gの領域の画素を埋める。
【0081】
なお、上述した(1)項に係る推定補完の代わりに、収集した複数のフレームデータDFRAMEを仮想メモリの空間にマッピングした段階で実行してもよい。つまり、この処理は、後述するステップS6において面積比に基づくサブピクセル法を実施するときの前処理として実行される。
【0082】
要するに、これらの画像均一性の改善処理は、後述する画像再構成の前に実行する方がよい。一度、画像再構成を行ってしまうと、前述した理由により、画像の均一化を図ることは容易でない。これに対し、本実施形態の場合には、上記(1)項及び/又は(2)項の画像均一化の改善処理を、画像再構成前に実行することで、隙間Gが存在することに因る画像の歪をより効果的に推定し低減できる。なお、本手法を採用した場合でも若干残るモジュール相互間の隙間に因る画像均一性への影響は、再構成後の画像に従来知られている補正法を後処理として適用してもよいことは勿論である。これにより、画像の均一性を補完的に向上させることができる。
【0083】
次いで、画像プロセッサ35は、ステップS8にて、均一化の処理を経た複数枚のフレームデータDFRAME−Aにシフト・アンド・アッドと呼ばれる画像再構成法を実施して、例えば被検者Pの歯列に沿った断層面の画像を再構成する。
【0084】
なお、前述した面積比に応じて画素値を配分するサブピクセル法と画像再構成のためのシフト・アンド・アッドの処理を1つの処理として実施することもできる。
【0085】
この再構成された画像には、その横方向、つまり第1のX軸:X1の方向に生じることがある統計ノイズによる画像ムラを生じることがある。そこで、画像プロセッサ35は、そのような画像ムラを低減させるため、公知のデノイズや均質補正などの後処理を施し(ステップS8)、その画像を表示器36に表示させる(ステップS9)。
【0086】
以上のように、本実施形態のパノラマ撮像装置によれば、以下のような様々な作用効果が得られる。
【0087】
まず、本実施形態に係るパノラマ撮像装置では、スキャン方向の両端部の生じる画像再構成に資することのできない領域の検出が不要になる。つまり、その分、X線被曝量を低減させることができる。これを、図12(A)を用いて分かりやすく説明する。いま、従来の斜め配置の検出器DECをスキャン方向に沿って移動させる「従来の斜め配置によるスキャン」を行なうとする。このとき、必要な撮領域RGNを確保しようとすると、この領域RGNのスキャン方向の両端の3角形の部分RXも余分にスキャンしなければならない。つまり、この2つの部分RXのX線曝射だけX線被曝が大きくなる。
【0088】
これに対して、本実施形態の場合、図12(B)に示すように、検出器22の画素そのものはスキャン方向に対して、前述したように角度αだけ斜めに配列されているが、複数のモジュールMは縦方向に配置されている。この検出器22によりスキャン(以下、斜め・縦列配置によるスキャンと呼ぶ)がスキャン方向に行われる。この「斜め・縦列配置によるスキャン」の場合、検出器22がスキャン方向(第1のX軸:X1)に直交しているので、この検出器22をスキャンさせても、前述したような余分な被曝領域RXが不要である。これ故に、本実施形態に係るパノラマ撮像装置の場合、従来の斜め配置の検出器を採用した装置に比して、X線被曝量を大きく減らすことができる。
【0089】
また、検出器22の複数の画素、すなわち複数の検出セグメントSはスキャン方向に対して、例えばα=14.08°という比較的低目の交差角を持ちながらその斜めの配列姿勢でスキャン方向に移動する。このため、被検者Pのある部分を通過する検出セグメントSの位置は、第2のY軸:Y2の方向の位置に関して、スキャンが進むにつれて変わる。このため、それぞれの収集タイミングで検出されるフレームデータDFRAMEの各画素には、同一地点の横方向(第1のX軸:X1)のみならず縦方向(第1のY軸:Y1)の画素値の変化成分も含まれている。このため、本実施形態による再構成画像は、画素配列をスキャン方向に対して斜めにしない従来の検出器を用いる撮像装置における再構成画像に比べて、デジタル画像独特の歪が軽減されるとともに、再構成画像の縦方向および横方向の両方における解像度を改善することができる。
【0090】
ここで、図13図17を参照して、上述の解像度の改善を模式的に詳述する。なお、この記述は本発明者等が実際に行ったシミュレーションに基づいている。
【0091】
いま、13(A)に示すように、被検者Pの中に十字形の構造体(斜線部分)PXを想定する。この構造体PXを透過したX線は、仮想セルRima毎に画素値=1を生成し、それ以外の部分は画素値=0を生成するものとする。仮想セルRimaは画素値を模式的にカウントするための仮想的な升目である。被検体Pを透過したX線を検出器22が検出する。このとき、検出器22の検出画素(検出エレメントS)は模式的にP1〜P4の4個であるとする。検出器22の検出画素の第2の直交座標系(X2,Y2)はスキャン方向に沿った第1の直交座標系(X1,Y1)と一致しており、前述した斜め・縦列配置によるスキャンではなく、モジュールの斜め配置の無い従来のスキャンであるとする。スキャンのピッチは1/2画素である。つまり、X線管21及び検出器22の対は被検体Pに対して1/2画素のピッチで移動する。この移動に伴い検出領域Rdecが図示の如く、スキャン方向に沿ってピッチ分ずつ移動する。この移動毎に1ショットの撮像が行なわれて図13(B)に示すようにシーケンス(Seq)1〜7までの7枚のフレームデータDFRAME−1〜DFRAME−7が生成される。この7枚のフレームデータDFRAME−1〜DFRAME−7のそれぞれの検出画素は、各ショットにおいて検出した、構造体PX上に存在する仮想セルRimaの数分の画素値を有する。例えばシーケンス1のフレームデータDFRAME−1の検出画素P1は構造体PX上に2つ分の仮想セルRimaを含むので画素値=2となる。また、シーケンス3のフレームデータDFRAME−3の検出画素P2は構造体PX上に10個分の仮想セルRimaを含むので画素値=10となる。この結果、検出した7枚のフレームデータDFRAME−1〜DFRAME−7を移動量=1/2画素分ずつ移動させながら相互に画素値を加算する処理(シフト・アンド・アッド)の一種であるサブピクセル法が実施される。これにより、図13(C)に示すように、面積比に応じて画素値を配分したサブピクセルPsubの再構成画像Pimage-Aが生成される。ここでは、各サブピクセルPsubのサイズは、各検出画素P1(〜P4)のそれの1/2になっている。
【0092】
これに対し、図13に示す従来スキャンと同じ条件でありながら、本発明に従う斜め・縦列配置によるスキャンの様子を図14に示す。図14(A)に、斜め・縦列配置の検出器22のスキャン方向における7つのシーケンスSeq.1〜7とショット位置の関係を示し、同図(B)に、収集されたシーケンスSeq.1〜7それぞれにおける7枚のフレームデータDFRAME−1〜DFRAME−7とその画素値を示し、さらに、同図(C)に、前述と同様に、面積比に応じて画素値を配分したサブピクセルPsubの再構成画像Pimage-Bが示されている。なお、このサブピクセル法の実施に際し、面積比の採り方及びサブピクセルPsubの画素値は、前述した図10で説明したものと同じ条件の元で演算される。この結果、図14(C)に示すように、再構成画像Pimage-BのサブピクセルPsubは通常スキャンのそれ(図14(C)参照)と比較して、横方向および縦方向(つまり、第1のX軸:X1および第1のY軸:Y1の両方向)共に、被検体Pの構造体PXを存在する部位を強調した画素値を呈していることが分かる。つまり、構造体PXがクロスしているなど密になっている部分ほど画素値は高くなっており、斜め配置の無い従来のスキャンのそれが第1のY軸:Y1に沿った変化しない画素値を呈しているものと区別できる。かかる従来のスキャンの場合にはのっぺりとして画像になるのに対し、斜め・縦列配置によるスキャンの場合には縦横方向共にめりはりの利いた画像になることは画素値を見ただけでも分かる。
【0093】
実際に、上述のように行った斜め配置の無い従来のスキャンと斜め・縦列配置によるスキャンとの画素値のプロファイルを検討してみると、その差は歴然としている。このプロファイルを演算する位置は、図15に示すように、再構成画像Pimage-A及びPimage-Bの点線で囲った領域Dotの上下端の左右方向および左右端の上下方向に設定した4方向D1、D2,D3,D4である。再構成画像Pimage-A及びPimage-Bのそれぞれにおいて、この4方向D1〜D4のそれぞれの位置にて演算した画素値のプロファイルを図16(A)〜(D)に示す。同図(A)は再構成画像Pimage-A及びPimage-Bの中心領域Dotの上端部を左右に進む方向D1に沿ったプロファイルである。横軸に方向D1に沿った位置を示し、縦軸に画素値(相対値)を示す。「斜め・縦列」とは本発明に係る斜め・縦列配置によるスキャン時のプロファイル曲線を示し、「従来」とは斜め配置の無い従来のスキャン時のプロファイル曲線を示している。同様に、同図(B)はかかる中心領域Dotの上端部を左右に進む方向D2に沿ったプロファイルである。同図(C)はかかる中心領域Dotの左端部を上下に進む方向D3に沿ったプロファイルであり、同図(D)はかかる中心領域Dotの右端部を上下に進む方向D4に沿ったプロファイルである。
【0094】
このプロファイルから、この例のように最も歪が生じ易いデジタル化の場合でも、そのデジタル化に伴う歪を軽減でき、再構成時に解像度を回復させることができるという効果がある、ことが分かる。
【0095】
このように、再構成画像の縦横方向共に解像度を上げることができる理由は、前述したように、検出画素群はスキャン方向に沿って移動するが、各検出画素自体はスキャン方向に対して傾いていることに拠る。この傾きによって、検出領域がスキャン方向のみならず、縦方向についてその移動と共に徐々に被検体と検出画素の位置関係が変化する。このため、被検体の同一点を異なる複数の検出画素が捉えることで、各検出画素の検出情報には縦方向の画素値変化情報も含まれている。この情報が再構成画像に反映されるので、第1のY軸:Y1に沿った縦方向についても解像度が回復するのである。
【0096】
この様子を図17に示す。図17(A)のシミュレーションは、画素数が8×8の検出面を有するモジュールMを2個縦列させた検出器22Aを本発明の原理に基づいて斜め・縦列に配置し(傾きα=14.08°)、これを被検体Pに対してスキャン方向に等速度で移動させながら、一定間隔毎に撮像する状況を想定している。なお、2つのモジュールMの間には1画素分の隙間Gが設定されている。被検体Pとして描いた升目は、検出器22Aの各検出画素の1/2のサイズを有する仮想メモリにおけるサブピクセルをも表しており、第1の直交座標系(X1,Y1)に沿っている。なお、座標変換に使用する有効視野F1は検出器22Aの検出面に内接する長方形として設定されている。
【0097】
この移動中に一定間隔毎に実行される複数の収集シーケンスにより複数のフレームデータが収集され、それらのフレームデータが前述したように面積比に応じたサブピクセル法及びシフト・アンド・アッドの処理を受け、被検体Pのある断面の画像が再構成される。
【0098】
この再構成された画像における、被検体Pを表す升目群の中央の位置Cの面の画素値のプロファイルを図17(B)に示す。このプロファイルの横軸は断面位置であり、縦軸は画素値(検出画素が重なる(つまり収集する)サブピクセルの数の合計値)である。このプロファイルから分かるように、断面位置の中央付近、すなわち、2つのモジュールMの間の隙間Gがスキャン方向に移動する部分の画素値はそれ以外の部分(規格化して画素値=1とする)よりも低下する(画素値=約0.25)。
【0099】
しかしながら、逆に言えば、隙間G、すなわち収集する検出画素が無い部分であるにも関わらず、他の検出画素の一部が隙間Gに相当する被検体部分を代替収集し、最低でも一定の画素値=約0.25(規格化後)を得るとも言える。これだけの画素値(最低でも約0.25)があれば、画像再構成後の均一性補正が有効性を発揮できる。本発明者等が行ったシミュレーションによれば、その均一性補正により、画素値が約0.72まで回復し、モジュールMの相互間に隙間Gを設けなければならないことの画像への影響を大幅に緩和できることが判明した。つまり、モジュールMの相互間に検出画素が無いことの画像再構成への影響を最小限に止めることができる。
【0100】
前述したように、この他、シフト・アンド・アッドの処理を行うときに、モジュールMの縦方向(第2のY軸:Y2の方向)に並んだ検出画素も隙間Gの部分の画像再構成に寄与する。このため、画素の不均一性に因る横方向(第1のX軸:X1の方向)にアーチファクトが出現し難くなり、デジタル画像にありがちな歪も生じ難くなるという利点がある。
【0101】
さらに、本実施形態にあっては、モジュールM(第2のX軸:X2)はスキャン方向(第1のX軸:X1)に対してα=14.08°だけ傾けており、これにより、上述した各種の利点がある。しかしながら、この傾き角度αは必ずしも14.08°に限定されるものではなく、製造や実装の誤差などを考慮すると約14°とも言える角度である。本発明者等が行ったシミュレーションによれば、6°≦α≦20.7°の範囲で選択されることで、上述の利点を享受できることが判明した。
【0102】
この角度範囲6°≦α≦20.7°について、図18を参照して説明する。同図に示すように、8mm×8mmの正方形のモジュールMを3個、スキャン方向に対して斜めに配置したとする。ここで、
α:スキャン方向である第1のX軸:X1とモジュールMが成す角度、
B:スキャン方向に直交する軸(第1のY軸:Y1)に平行であって、モジュールMに対して内接する視野(前述した視野F1に相当)の幅、
C:スキャン方向に直交する軸方向において隙間G(デッドスペース)の影響で検出が不均一になる距離、
とする。なお、隙間Gは0.4mmの幅を持つとする。
【0103】
このジオメトリにおいて、角度αを大きくするほど、それだけ内接視野B(=F1)のスキャン方向の幅はより狭まり、また距離Cはより大きくなる。つまり、この3つの物理量α,B,Cは互いに相反する関係にあり、それらに適切な関係を与える角度αが存在する筈である。この角度α=14°と仮定すると、そのときの視野Bの幅=約5.83mm、距離C=約2.82mmとなる。なお、距離D=8.24である。これにより、
I) 製造コストに影響する検出器の面積使用率
=(B×D/(8×8)×100
=(5.83×8.24/(8×8))×100
=約75%
となり、
II) 画質に影響する、直交座標系のおける検出器の均一性補正の必要領域率
=(C/D)×100
=約34%
となり、
III) 補正のし易さの目安である、隙間Gのスキャン方向における影響率
=(E/B)×100
=(1.65/5.83)×100
=約28%
となる。
【0104】
このため、上述の面積使用率=50%以上、必要領域率=50%以下、及び影響率=50%以下であることを角度αの設定の妥当性を示す指標として挙げることができる。
【0105】
図18に示す例の場合、必要領域率の指標を満足させる角度αはα<22.5°、影響率の指標を満足させる角度αはα<20.7°、影響率の指標を満足させる角度αはα>6°である。したがって、これら3つの指標を全て満足させる角度αの範囲は、「6°<α<20.7°」ということになる。この例の場合、検出器の形は正方形であって、そのサイズは8mm×8mmであるとして説明したが、このサイズは正方形であれば、上述の説明とほぼ同じ条件が成立する。
【0106】
なお、検出器の形状が正方形でない場合、つまり、矩形であってもその縦横の比が1:1でない場合、前述した指標は大きく変動するので、その点を考慮した適宜な設計が要求される。逆に言えば、検出器の形状が正方形であれば、角度Aの範囲を最適化し易く、「6°<α<20.7°」の角度範囲が好ましいということになる。
【0107】
さらに、本実施形態によれば、画像再構成の前に、すなわちシフト・アンド・アッドの処理の前に、再構成される画像を均一化させる処理を実行している。このため、検出器22のモジュールMの間に隙間Gが存在することに因る検出感度の変動を抑制でき、再構成された画像の均一化を大幅に改善させることができる。
【0108】
以上のように、本実施形態に係るパノラマ撮像装置によれば、斜め・従来配置によるスキャンによって不感帯が少なくなり、また、より少ないX線被ばくで済むとともに、よりアナログ的な自然な感覚でありながら解像度が高く、高精細な歯列に沿った断面像を提供することができる。
【0109】
(第2の実施形態)
図19図22を参照して、本発明に係る放射線検出器の第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態において、前述の第1の実施形態で説明したものと同様又は同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
【0110】
この実施形態は、本発明を実施したX線CT(Computed Tomography)スキャナに適用する例に関する。このX線CTスキャナ自体の構成は公知であるので、その説明は省略するが、このX線CTスキャナに図19に示すX線検出器80が採用されている。この検出器80も、第1の実施形態で説明した検出器22と同様に、ボックス状のハウジング81を有し、このハウジング81の内部にマザーボード82を置いている。また、ハウジング81の上面には、矩形状のX線入射窓Wが形成されている。この入射窓Wの直下に位置する、マザーボード82の上面には複数のモジュールMが配列されている。このモジュールMは第1の実施形態で説明したものと同じであって、そのX線検出面が正方形(8mm×8mm)を成している。なお、モジュールMの詳細構造も第1の実施形態で説明したものと同一である。
【0111】
この複数のモジュールMは全体として、図20に示すように、第1のX軸:X1及び第1のY軸:Y1から成る第1の直交座標系に沿って縦横に2次元アレイ状に配列してある。一方、それぞれのモジュールMを構成する複数の検出エレメントSも、第1の実施形態と同様に、第2のX軸:X2及び第2のY軸:Y2から成る第2の直交座標系に沿って縦横に2次元アレイ状に配列してある。
【0112】
さらに、それぞれのモジュールMはそれ自体、スキャン方向、すなわち第1のX軸:X1に対して角度αだけ右肩上がりに(又は左肩上がりに)傾けて配置されている。つまり、複数のモジュールMが斜め・縦列配置で実装されている。このとき、第1のX軸:X1及び第1のY軸:Y1の両方向において相互に隣接する2つのモジュールMの間には隙間G1,G2がそれぞれ設けられている(図18参照)。これも複数のモジュールMを同一面上で隣接させて配置する上で必要な隙間であって、共に既知量の幅の隙間である。これらの隙間G1,G2は、既知の量であればよく、例えば検出エレメントSで構成される各画素のサイズの1/N(Nは2以上の正の整数)の整数倍であってもよい。また、第2のX軸:X2の方向の隙間G1と第2のY軸:Y2の方向の隙間G2は互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、G1>G2であってもよい。この検出器80に設定する仮想的な視野は内接する視野F1の他、内部だけに設定する視野F2,F3など様々に設定することができる。
【0113】
この検出器80を用いて被検体Pをスキャンする場合、従来周知のように、図21に示すように、X線管21と検出器80の対をガントリ(図示せず)の内部で回転させる。被検体PはガントリGの筒状ドームに載置される。この回転中に、X線管21から一定間隔でX線が曝射される。被検体Pを透過したX線はその都度、対向する検出器80により検出される。つまり、回転中の夫々の投影角度毎に検出器80からデジタル量で成るプロジェクションデータ(フレームデータ)が出力される。このプロジェクションデータは、斜め・縦列配置による検出データである。この検出による収集されたプロジェクションデータをPD1,PD2,PD3,…,PDnとすると、例えば時系列上で近接する複数フレームのプロジェクションデータPD1,PD2,PD3を用いて前述したシフト・アンド・アッドを行うことにより投影角度θ=θ1にて第1の直交座標系(X1,Y1)に変換されたプロジェクションデータPDθ1が得られる。同様に、プロジェクションデータPD2,PD3,PD4を用いて前述したシフト・アンド・アッドを行うことにより投影角度θ=θ2にて第1の直交座標系(X1,Y1)に変換されたプロジェクションデータPDθ2が得られる。以下これを繰り返すことで、元のプロジェクションデータPD1,PD2,PD3,…,PDnを収集した投影角度(収集タイミング)とは異なった投影角度(タイミング)であって、スキャン方向に沿った第1の直交座標系のプロジェクションデータPDθnに変換することができる。これにより、自動的に隙間Gの領域の画素値を補完することができる。このため、このプロジェクションデータPDθnに従来周知の再構成法を適用することで、CT断層像を得ることができる。
【0114】
このような構成にするために、本実施形態では、通常のCTの再構成に必要なフレーム収集速度より速く、更に精細なピッチで各ビューのデータ収集を行っている。本実施形態に係る検出器22は、直接変換型の半導体検出器であるため、そのような高速なデータ収集に対応できている。
【0115】
このように複数のモジュールMがスキャン方向に沿い且つそれに対して斜めに配置されるともに、スキャン方向に直交する方向には整列させている。このため、前述した第1の実施形態の検出器の利点を享受できるとともに、X線入射面を広く2次元に広げた検出器80を提供することができる。したがって、この検出器80を搭載したX線CTスキャナも、不感帯の部分が無く且つより少ないX線被ばくで済むとともに、よりアナログ的な自然な感覚でありながら、解像度の高いX線断層像を提供することができる。
【0116】
(変形例)
図22に、上述した実施形態の第1の変形例に係るX線検出器90を示す。同図に示すように、この検出器90もハウジング91の内部にマザーボード92を備え、このマザーボード92の同一上面に、前述した第1の実施形態で説明した検出器22のモジュールMの配列と第2の実施形態で説明した検出器80のモジュールMの配列とを組み合わせたモジュール配列を持たせている。各モジュールMの構造及び配列は前述した各実施形態のそれと同じである。
【0117】
この斜め・縦列配列の特徴は、第1のX軸:X1(スキャン方向)及び第1のY軸:Y1に沿って2次元に配列した複数のモジュールMの群MAに加え、第1のX軸:X1の方向(横方向)の真ん中のモジュール配列MBだけが第1のY軸:Y1の方向(縦方向)に沿って延長されている。つまり、モジュール群MAからモジュール群MCが縦方向に突き出た形を成している。このため、X線入射窓Wもこの「2次元+1次元(画素でみた場合、2次元)」のモジュール配列構造に合わせて形成されている。
【0118】
これは、この検出器90がパノラマ撮像用の検出器とX線CT用の検出器とを兼用しているからである。パノラマ撮像用のときには、信号処理側において、モジュール群MB及びMCだけを使用し、X線CT用のときには信号処理側においてモジュールMAだけを使用すればよい。これにより、1台の検出器90によって両方のモダリティに対応でき、その汎用性を高めることができる。
【0119】
図23に、図22に示した兼用タイプの検出器90におけるモジュールMの実装法を示す。図23に示すように、同一サイズ及び同一長辺状のモジュール実装基板(プリント基板)PB1〜PBnを複数準備する。この基板PB1〜PBnは共に、モジュールMの第2のY軸:Y2の方向の長さよりも隙間Gの分だけ大きい幅を有している。
【0120】
この各モジュール実装基板PB1(〜PBn)に所望数のモジュールMをそれぞれ所望位置に実装する。この実装は、図示の如く、構成したい検出面の形状に合わせて決められる。第1のモジュール実装基板PB1であれば、その横方向の真ん中の位置に1個モジュールMが実装される。第11番目のモジュール実装基板PB11であれば、その横方向の所定位置に9個のモジュールMがそれぞれ実装される。
【0121】
次いで、これらのモジュール実装基板PB1〜PBnをスキャン方向として定めた第1のX軸:X1に対して角度αを以って例えば図示しないマザーボード上に斜めに設置する。このとき、モジュール実装基板PB1〜PBnは互いに接して配置すればよい。これにより、図示しないが、第2のY軸:Y2の方向に隙間Gが自動的に設定される。各モジュール実装基板PB1(〜PBn)の両端又は片側からマザーボードに信号線を接続する。
【0122】
これにより、モジュール実基板が同一のサイズ及び形状を有し、且つ、その形状が矩形であるので、モジュールの実装が容易化され、検出器の製造コストも抑制される。
【0123】
図24に、上述した実施形態の第2の変形例に係るX線検出器93を示す。同図に示すように、この検出器93もハウジング91の内部にマザーボード92を備え、このマザーボード92の同一上面に、前述した第1の実施形態で説明した検出器22のモジュールMの配列と平行四辺形を成すように配列されたモジュールMとを組み合わせたモジュール配列を持たせている。各モジュールMの構造及び配列それ自体は前述した各実施形態のそれと同じである。
【0124】
この斜め・縦列配列は、第1のX軸:X1(スキャン方向)に平行な2辺を有し且つ第1のY軸:Y1に角度β(例えばβ=αであり、β=14.1°)で斜めになる2辺を有する平行四辺形を成すように2次元配列した複数のモジュールMの群MDを有する。このモジュールMの群MDは、この平行四辺形の斜め2辺に平行な中心部のモジュール列がそのまま斜め上下に突き出たモジュール列群MEを、その一部に含む。このため、X線入射窓Wもこの「2次元+1次元(画素でみた場合、2次元)」のモジュール配列構造に合わせて形成されている。
【0125】
このX線検出器93もパノラマ撮とX線CT撮影とに兼用される。このため、この検出器93には、回転機構94が設けられている。この回転機構94により、パノラマ撮のときには姿勢1を採る。つまり、角度β=0となるように検出器93が図24上で反時計回りに回転させられる。このため、全体のモジュールMが第1のY軸:Y1に平行に並ぶが、第1のX軸:X1に対して右肩上がりの斜め・縦列の配置となる。この斜め・縦列配置の状態で、1次元配列のモジュール群MEがパノラマ撮に供される。
【0126】
一方、回転機構94により、X線CT撮影のときには姿勢2を採る。つまり、第1のY軸:Y1に対して角度β=14.1°だけ傾くようになる。これにより、モジュール群MDはスキャン方向、すなわち第1のX軸:X1に平行な平行四辺形を成す。この状態でモジュール群MDの各モジュールで検出した信号がX線CT撮影に使用される。
【0127】
これにより、1台の検出器93によって両方のモダリティに対応でき、その汎用性を高めることができる。また、X線CT撮影時には、スキャン方向に対して斜めの画素配列にはならないものの、同一の視野F4を確保しようとしたときに、図22のモジュール群MAの場合よりもモジュール数が少なくて済むという利点がある。なお、角度βの値は上述したものに限定されない。
【0128】
図25に第3の変形例を説明する。この変形例は本発明に適用可能な放射線検出器のモジュールの別の配列構造に関する。同図に示すX線検出器95は、複数のモジュールMを第1のY軸:Y1に沿って縦列状態で且つ第1のX軸:X1及び第1のY軸:Y1に対して角度αの斜め状態で1次元に縦列配置したものである。このモジュールMそれ自体は、前述した実施形態及び変形例のものとは違い、その検出面は平行四辺形を成している。平行四辺形であれば、長方形の平行四辺形であっても、正方形の平行四辺形であってもよい。これらのモジュールMが既知量の幅の隙間Gを以って縦列配置されている。ただし、各モジュールMには第2の直交座標系(X2、Y2)に沿って複数の検出エレメントSが2次元に配置されている。このため、各モジュールMの検出エレメントSはそれぞれスキャン方向に対して斜めに傾いたままスキャンされることになり、これまで説明してきた正方形のモジュールと同様の作用効果を発揮する。なお、この平行四辺形のモジュールMの場合、第2のX軸:X2の方向の両端部に存する正方形の画素にならない部分には、画素を形成しないようにしてもよい。
【0129】
ところで、前述した実施形態では、全画素分に対応した検出エレメントS及びデータ収集回路51nはASICによりCMOSで一体に構成されているとした。しかしながら、このデータ収集回路51nは、検出エレメントSの群とは互いに別体の回路又はデバイスとして構成してもよい。
【0130】
なお、本発明は、必ずしも上述した実施形態及びその変形例の構造に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさらに適宜に変形可能である。
【0131】
例えば、前述した、検出器22のモジュールMの相互間に隙間Gが存在することの影響の軽減、すなわち画像の均一化を図る別の手段を、図26に示すように構成することができる。同図に示すように、隙間GのモジュールMの側面を、電気的絶縁性を有し且つエネルギ吸収能力の高い、例えば板状の遮蔽体97で埋める。これにより、モジュールMの側面から入射するX線を減らすでき、モジュールMの周辺部で検出感度の均一性が低下するという影響をできるだけ抑えることができる。この遮蔽体97は、隙間Gより薄いタングステン、モリブデン、鉛などの素材を絶縁コーティングしたり、高比重のセラミック板などの絶縁性の高い素材そのもので形成したりすればよい。なお、この遮蔽体97の設置と前述した図8のステップS7で説明した前処理とを併用することで、画像均一化の効果はより向上する。
【0132】
さらに、モジュール相互間に設けなければならない隙間の幅をより狭くする構成として、センサー部分(荷電電極E1、検出層K1、及び集電電極E2)の大きさを若干、ASIC層K2(チャージアンプ52など)よりも広くして、モジュール周辺部の画素を大きくしてもよい。これにより、隙間Gに入射するX線量を等価的に減らすことができ、隙間Gに因る前述した影響を抑制することができる。
【0133】
さらに、前述したように、画像プロセッサ35に設定される仮想メモリ空間VMにサブピクセル法によって得られた画素値がマッピングされるが、このマッピングを以下のように変形してもよい。この変形は、複数のモジュールMをマザーボード102に配置するときに、実際にはどうしてもバラツキが生じるので、結局、隙間Gの幅も規定値に対してばらつくことを考慮したものである。具体的には、モジュールMを配置した後に、その相互間の隙間Gの幅の実際値を光計測器などの計測手段で測定する。この測定結果に応じて、画像プロセッサ35は仮想メモリ空間VMに画素値をマッピングする位置(すなわち画素)を変更する。これにより、モジュールMの配置のバラツキを画素値のマッピングで吸収することができるので、その分、モジュール配置に要求される配置精度が緩和される。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明によれば、X線被曝量を抑制でき、且つ、X線による検出を高い解像度で行うことができる、モジュールの斜め・縦列配置によるスキャンの放射線検出器、及び、この検出器を用いた放射線撮像装置を提供できる。
【符号の説明】
【0135】
1 歯科用のパノラマ撮像装置(放射線撮像装置)
3 コンソール
21 X線管(放射線源)
22 検出器(放射線検出器)
33 コントローラ
35 画像プロセッサ
51 データ収集回路
81、90、95 検出器
97 遮蔽体
S 検出エレメント(画素)
M モジュール
VM 仮想メモリ空間
図1
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