(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記傾斜部は円錐台状の形状を有し、前記傾斜部の上面の半径と、前記傾斜部の下面の半径との差は、前記回転子コア用鋼板の板厚に基づいて決定される請求項1又は2に記載の焼嵌め締結応力演算装置。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の電動機の固定子及び回転子の一例を示す斜視図である。電動機1001は、ケース1010の内部に複数のケース固定ボルト1011で固定された固定子1020と、固定子1020に囲まれた空間に配置された回転子1030とを有する。固定子1020には、複数の巻線コイル1021が巻回される。回転子1030は、回転子コア1031と、回転子コア1031の中央部に形成される貫通孔に締結される回転子軸1032とを有する。回転子コア1031には、複数の永久磁石1033が埋設されている。回転子コア1031は、貫通孔が打抜かれた電磁鋼板(不図示)を複数枚積層して形成される(例えば、引用文献1〜4参照)。
【0003】
回転子1030は、回転子コア1031と、回転子軸1032とを締結して形成される。回転子コア1031と、回転子軸1032との締結方法として、ボルトなどの締結部材を使用して締結する方法、回転子軸を回転子コアの貫通孔に圧入して締結する方法、回転子コアの貫通孔に回転子コアを焼嵌めして締結する方法等がある。
【0004】
図2は、打抜き加工を説明する模式図である。打抜き加工装置80は、打抜きポンチ81と打抜きダイ82とを有する。打抜きダイ82に載置された被加工板材90は、打抜きポンチ81が矢印Aの方向に移動することにより被加工板材90の表面から裏面に打抜き加工される。
図2において、幅Cは、打抜き加工装置80が被加工板材90を打抜くときの打抜きポンチ81と打抜きダイ82との間の距離であり、クリアランスと称される。従来、電磁鋼板を打抜くときのクリアランスは、鋼板の厚さTの7〜11%としている。
【0005】
図3は、貫通孔が打抜かれた電磁鋼板の貫通孔の一例を示す図である。電磁鋼板91の中央部に打抜き加工により形成された貫通孔92の端面95には、打抜き方向に順にダレ面96、せん断面97、破断面98及びバリ99が形成される。
【0006】
ダレ面96は、被加工板材90が打抜きポンチ81により全体的に押し込まれることにより形成される傾斜面である。貫通孔92の端面95面積に対するダレ面96の面積の比率は、10%以下である。
【0007】
せん断面97は、打抜きポンチ81と打抜きダイ82との間の間隙に被加工板材90が引き込まれ局所的に引き伸ばされて形成される。せん断面97は、打抜き方向に平行な平滑面である。クリアランスが鋼板の厚さTの7〜11%の場合、貫通孔92の端面95面積に対するせん断面97の面積の比率は、30%以下である。
【0008】
破断面98は、打抜きポンチ81と打抜きダイ82との間の間隙に引き込まれた被加工板材90が破断して形成される。破断面98は、打抜き方向に対して貫通孔が広がるように傾斜する凹凸面である。クリアランスが鋼板の厚さTの7〜11%の場合、貫通孔92の端面95面積に対する破断面98の面積の比率は、60%以上である。
【0009】
バリ99は、被加工板材90の裏面に形成され、突起形状を有する。バリ99の高さは、5〜10%である。
【0010】
打抜き加工された貫通孔92の端面がダレ面96、破断面98又はバリ99などの不均一面を有することに起因して、回転電機の鉄損が増加することが知られている。このため、従来は鉄損を低減するために、打抜き加工された貫通孔92は、打抜き加工後にシェービング加工することにより、不均一面を除去していた(例えば、引用文献5参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、回転電機の製造工程を最適化するために、鉄損の増加が許容される範囲内でシェービング加工を省略することが検討されている。
【0013】
図4は、打抜き加工後に貫通孔をシェービング加工することなしに形成された電磁鋼板1134を複数枚積層することにより形成される回転子コア1131と、回転子軸1132とを焼嵌めすることにより形成された回転子1130の概略断面図である。
【0014】
図4の矢印Bで示されるように、シェービング加工を省略された電磁鋼板1134で形成される回転子1130では、回転子コア1131と、回転子軸1132との接触部において、回転子コア1131の貫通孔の端面が座屈する座屈現象が現れることが明らかになった。
【0015】
回転子コア1131の貫通孔の端面が回転子軸1132に対して座屈しているので、回転子コア1131と回転子軸1132との間の締結応力が減少するおそれがある。さらに、回転子コア1131の貫通孔の端面が座屈することにより、回転子コア1131の座屈した部分が疲労破壊するおそれがあり信頼性が低下する。このため、回転子1130の設計段階において、回転子コア1131と回転子軸1132との間の締結応力、及び回転子コア1131の貫通孔の端面の座屈量を迅速且つ正確に評価する必要がある。
【0016】
そこで、本発明は、回転子コアと回転子軸との間の締結応力、及び回転子コアの貫通孔の端面の座屈量を迅速且つ正確に評価することが可能な焼嵌め締結応力演算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明に係る焼嵌め締結応力演算装置は、回転子軸と回転子コア用鋼板との焼嵌め締結応力を演算する焼嵌め締結応力演算装置であって、回転子軸の形状データ、回転子コア用鋼板の形状データ、回転子コア用鋼板の貫通孔の端面に貫通方向に平行に形成され且つ平滑な面を有する平滑部の形状データ、及び、平滑部の一端から回転子コア用鋼板の外周に向かって傾斜する傾斜面を有する傾斜部の形状データを取得する入力部と、回転子軸の形状データ、回転子コア用鋼板の形状データ、平滑部の形状データ、及び、傾斜部の形状データを記憶する記憶部と、回転子軸の形状データ、回転子
コア用鋼板の形状データ、平滑部の形状データ、及び、傾斜部の形状データに基づいて、回転子軸と回転子コア用鋼板の端面とが焼嵌めされた場合に形成される接触部における応力分布を、有限要素解析法によって求める解析部と、接触部の応力分布に基づいて、回転子コア用鋼板と回転子軸との焼嵌め締結応力を演算により求める演算部と、焼嵌め締結応力を出力する出力部と、を有する。
【0018】
さらに、本発明に係る焼嵌め締結応力演算装置は、解析部は、回転子コア用鋼板が回転子軸に焼嵌めされたときの貫通孔の端面の変位分布を演算し、演算部は、演算された貫通孔の端面の変位分布に基づいて、焼嵌め端面座屈量を演算し、出力部は、演算された焼嵌め端面座屈量を出力することが好ましい。
【0019】
さらに、傾斜部は円錐台状の形状を有し、傾斜部の上面の半径と、傾斜部の下面の半径との差は、回転子コア用鋼板の板厚に基づいて決定されることが好ましい。
【0020】
さらに、回転子コア用鋼板は、それぞれの貫通孔が合致するように3つ以上積層されていることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明に係る焼嵌め締結応力演算方法は、回転子軸と回転子コア用鋼板との焼嵌め締結応力を演算する焼嵌め締結応力演算装置を使用して、回転子軸の形状データ、回転子コア用鋼板の形状データ、回転子コア用鋼板の貫通孔の端面に貫通方向に平行に形成され且つ平滑な面を有する平滑部の形状データ、及び、平滑部の一端から回転子コア用鋼板の外周に向かって傾斜する傾斜面を有する傾斜部の形状データを取得し、回転子軸の形状データ、回転子コア用鋼板の形状データ、平滑部の形状データ、及び、傾斜部の形状データを記憶し、回転子軸の形状データ、回転子
コア用鋼板の形状データ、平滑部の形状データ、及び、傾斜部の形状データに基づいて、回転子軸と回転子コア用鋼板の端面とが焼嵌めされた場合に形成される接触部における応力分布を、有限要素解析法によって求め接触部の応力分布に基づいて、回転子コア用鋼板と回転子軸との焼嵌め締結応力を演算により求め、焼嵌め締結応力を出力する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、回転子コア用鋼板の貫通孔の端面に貫通方向に平行に形成され且つ平滑な面を有する平滑部の形状データ、及び、前記平滑部の一端から回転子コア用鋼板の外周に向かって傾斜する傾斜面を有する傾斜部の形状データを取得する。これにより、回転子コアと回転子軸とを焼嵌めしたときの焼嵌め締結応力、及び回転子コアの貫通孔の端面の座屈量を迅速且つ正確に評価することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。まず、演算に用される焼嵌め締結応力演算システムについて説明する。
【0025】
図5は、焼嵌め締結応力演算システムの機能ブロック図である。焼嵌め締結応力演算システム100は、焼嵌め締結応力演算装置101と、入力装置110と、表示装置120とを有する。
【0026】
焼嵌め締結応力演算装置101は、演算部102と、記憶部103とを有する有限要素解析(Finite Element Analysis:FEA)装置である。
【0027】
演算部102は、CPU(Central Processing Unit: 中央処理ユニット)、DSP(digital signal processor)等を有し、CPU、DSP等は、以下に説明する演算部102の各部の機能を果たす。記憶部103には、演算部102の各部の機能を果たすために使用されるコンピュータプログラム、その実行の際に使用されるデータ、演算部102により生成される解析データ等が格納される。記憶部103は、演算部102の各部の機能を果たすために使用されるコンピュータプログラムを記憶するための不揮発性記憶装置、データを一次的に記憶するための揮発性メモリを含んでいてよい。なお、他の実施例では、有限要素解析処理を行うための、LSI(large scale integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programming Gate Array)等の論理回路を備えていてもよい。以下に説明される有限要素解析処理の一部又は全部をハードウェア処理によって実行してもよい。
【0028】
演算部102は、入力データ処理部104と、プリ解析部105と、解析演算部106と、ポスト解析部107と、出力データ処理部108とを有する。記憶部103は、モデルデータ記憶部131と、プリ解析データ記憶部132と、ポスト解析データ記憶部133と、出力データ記憶部134とを有する。
【0029】
入力データ処理部104は、入力装置110から入力される形状データ、材料物性データ、境界条件データ及びメッシュサイズデータをモデルデータ記憶部131に記憶するために必要な処理を実行する。形状データは、図示しないCAD(computer aided design)装置等で生成された回転子コア用鋼板及び回転子軸の幾何形状に対応するデータである。材料物性データは、回転子コア用鋼板及び回転子軸のヤング率、ポアソン比及び摩擦系数等の材料物性に対応するデータである。境界条件データは、回転子コア用鋼板及び回転子軸の拘束条件及び荷重条件等の境界条件に対応するデータである。メッシュサイズデータは、回転子コア用鋼板及び回転子軸をそれぞれ複数の要素に分割して有限要素解析をするときの要素の大きさに対応するデータである。
【0030】
プリ解析部105は、メッシュ生成部151と、解析条件設定部152とを有する。
【0031】
メッシュ生成部151は、モデルデータ記憶部131に記憶される形状データ及びメッシュサイズデータに基づいて、回転子コア用鋼板及び回転子軸の形状を分割することによりメッシュデータを自動的に生成する。メッシュ生成部151により生成されたメッシュデータは、プリ解析データ記憶部132に出力され、記憶される。
【0032】
解析条件設定部152は、境界条件データ及び材料物性データを、メッシュ生成部151により生成されたメッシュに関連付ける。解析条件設定部152によりメッシュに関連付けられた境界条件データ及び材料物性データは、プリ解析データ記憶部132に出力され、記憶される。
【0033】
解析演算部106は、有限要素解析ソフトウェアであり、有限要素法により応力解析処理を実行する。解析演算部106は、ABAQUSであるが、MARC(登録商標)又はNASTRAN等の他の汎用の有限要素解析ソフトウェアを使用してもよい。解析演算部106は、プリ解析データ記憶部132に記憶されるメッシュデータ、境界条件データ及び材料物性データに基づいて、回転子コア用鋼板及び回転子軸の応力分布及び変位分布の解析結果にそれぞれ対応する応力分布データ及び変位分布データを演算する。解析演算部106で演算された応力分布データ及び変位分布データは、ポスト解析データ記憶部133に出力され、解析データとして記憶される。
【0034】
ポスト解析部107は、表示データ生成部171と、焼嵌め締結応力演算部172と、端面座屈量演算部173とを有する。
【0035】
表示データ生成部171は、ポスト解析データ記憶部133に記憶される解析データを処理して、回転子コア用鋼板及び回転子軸の応力分布及び変位分布の解析結果を視覚的に容易に把握可能なデータに変換する処理を実行する。表示データ生成部171は、応力分布データを処理して、回転子コア用鋼板及び回転子軸の応力分布を表示するための応力分布表示データを生成する。表示データ生成部171は、変位分布データを処理して、回転子コア用鋼板及び回転子軸の変位分布を表示するための変位分布表示データを生成する。
【0036】
焼嵌め締結応力演算部172は、解析データに含まれる回転子コア用鋼板及び回転子軸の応力分布に対応する応力分布データを処理して、焼嵌め締結応力に対応する焼嵌め締結応力データを生成する処理を実行する。焼嵌め締結応力演算部172は、回転子軸が回転子コア用鋼板に焼嵌めされたときに貫通孔の端面の平滑部と傾斜部のうち少なくとも平滑部の一部と回転子軸とが接触して形成される接触部の応力に対応する接触部応力データを回転子コアの半径方向応力分布データから抽出する。焼嵌め締結応力演算部172は、接触部応力データの平均値を演算することにより焼嵌め締結応力データを生成する。
【0037】
端面座屈量演算部173は、解析データに含まれる回転子コア用鋼板の変位分布に対応する変位分布データを処理して、貫通孔の端面の座屈量に対応する焼嵌め端面座屈量データを生成する処理を実行する。端面座屈量演算部173は、回転子コア用鋼板の貫通孔の端面の変位に対応する焼嵌め端面変位データを変位分布データから抽出する。そして、端面座屈量演算部173は、抽出された焼嵌め端面変位データから、貫通孔の上端部の中で変位が最も大きいデータを抽出することにより、焼嵌め端面座屈量データを生成する。また、端面座屈量演算部173は、回転子コア用電磁鋼板の貫通孔の端面の座屈量だけでなく、回転子コア用電磁鋼板の貫通孔の板面の所望の場所の座屈量に対応する座屈量データを生成処理も実行する。座屈量データを回転子コア用電磁鋼板の貫通孔の板面から外周方向に向かって複数生成しプロットすることにより、貫通孔からの距離と座屈量との関係を示すグラフが生成される。
【0038】
ポスト解析部107で生成された分布表示データ、変位分布表示データ、焼嵌め締結応力データ及び焼嵌め端面座屈量データはそれぞれ、出力データ記憶部134に出力され、記憶される。
【0039】
出力データ処理部108は、出力データ記憶部134に記憶される分布表示データ、変位分布表示データ、焼嵌め締結応力データ及び焼嵌め端面座屈量データをそれぞれ、表示装置120に表示するために必要な出力データを出力する処理を実行する。
【0040】
入力装置110は、キーボード等のユーザインタフェイス部と、ユーザインタフェイス部を制御するユーザインタフェイス制御部とを有し、ユーザインタフェイス部を介してユーザが入力した情報を、入力データ処理部104が処理可能な電気信号に変換する。
【0041】
表示装置120は、LCD(Liquid Crystal Display、液晶ディスプレイ)を有し、出力データ処理部108から出力されるデータをユーザが視覚的に認識可能な画像として表示する。
【0042】
次に、演算に使用した形状データ、境界条件及びメッシュサイズ等の演算条件について説明する。
【0043】
図6(a)は、1枚の回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の形状データを示す平面図である。回転子コア用鋼板31及び回転子軸32は、ソリッドモデルとして形成され、計算負荷軽減のために1/4対称モデルとなっている。回転子コア用鋼板31には、半径85mmの円形状の板面を有し、板面の中央部に半径25mmの貫通孔が形成される。また、回転子コア用鋼板31には、重量軽減のための空隙33が設けられる。回転子コア用鋼板31の板厚は、0.35mmである。回転子軸32は、半径25mmの円形状の断面を有する中空円柱であり、中空円柱の半径は15mmであり、軸の長さは無限大にモデル化されている。
【0044】
図6(b)は、1枚の回転子コア用鋼板31の形状データを示す部分断面図である。本実施形態では、回転子コア用鋼板31の貫通孔の端面35は、貫通方向に平行に形成され且つ平滑な面を有する平滑部37と、平滑部37の一端から板面の外周に外側に向けて傾斜する傾斜面を有する傾斜部38とを有するものとして形状データを取得する。平滑部37及び傾斜部38の厚さはそれぞれ、0.175mmである。
【0045】
図6(c)は、1枚の回転子コア用鋼板31の形状データを示す部分斜視図である。平滑部37は、貫通方向に平行に形成される側面を有する円柱状の形状を有する。傾斜部38は、平滑部37の一端から外周に向けて傾斜する側面を有する円錐台状の形状を有する。
【0046】
本明細書では、回転子コア用電磁鋼板の貫通孔の端面35に対する平滑部37の面積の比率は、回転子コア用鋼板31の板厚に対する平滑部の厚さの比率として規定される。ここでは、貫通孔の端面35の厚さは0.35mmであり、平滑部の厚さは0.175mmであるので、回転子コア用電磁鋼板の貫通孔の端面35に対する平滑部37の面積の比率は、貫通孔の端面35の面積の50%と規定される。
【0047】
回転子コア用鋼板31の傾斜部38の上面の半径と、下面の半径の差である傾斜面半径方向長さは、0.035mmである。傾斜面半径方向長さは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で撮影された回転子コア用鋼板31の端面35の観察写真から測定される。しかしながら、傾斜面半径方向長さは、回転子コア用鋼板31の板厚の10%として規定してもよい。上述のように磁鋼板を打抜くときのクリアランスは、鋼板の厚さTの7〜11%とすることが一般的であり、傾斜面半径方向長さは、打抜き加工のクリアランス長とほぼ同一長になるためである。
【0048】
表1は、入力装置110から入力される材料物性データに対応する材料物性を示す表である。回転子コア用鋼板31のヤング率は168GPaであり、ポアソン比は0.3である。回転子軸32のヤング率は200GPaであり、ポアソン比は0.3である。回転子コア用鋼板31と回転子軸32との間の接触部における摩擦係数は、0.1である。焼嵌め温度及び熱膨張率は、焼嵌め代が直径基準で120μm、半径基準で60μmになるように設定される。
【0050】
図6(d)は、回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の境界条件を示す平面図である。
図6(d)において、X方向は、回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の1/4対称モデルの右側切断面に平行であり且つ回転子軸32の軸方向と直交する方向として規定される。Y方向は、回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の1/4対称モデルの左側切断面に平行であり且つ回転子軸32の軸方向と直交する方向として規定される。Z方向は、回転子軸32の軸方向と平行な方向として規定される。
【0051】
回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の1/4対称モデルの右側切断面の境界条件はY方向拘束であり、左側切断面の境界条件はX方向拘束である。回転子コア用鋼板31の円弧面及び回転子軸32の中空部の端面の境界条件は、Z方向拘束である。
【0052】
メッシュサイズは、要素当たり、板面に平行な第1方向を0.3mmとし、板面に平行であり且つ第1方向に直交する第2方向を0.3mmとし、回転子軸32の軸方向に平行な第3方向を0.0875mmとする。
図6(b)に示すように、平滑部37及び傾斜部38はそれぞれ、2層の要素により形成される。
【0053】
次に、焼嵌め締結応力演算装置101を用いて実行される演算処理フローについて説明する。
【0054】
図7は、焼嵌め締結応力演算装置101を使用する焼嵌め締結応力演算方法を示すフロー図である。
図7に示すフローは、焼嵌め締結応力演算装置101の記憶部103に記憶されるコンピュータプログラムにより、焼嵌め締結応力演算装置101の演算部102が実行する。
【0055】
まず、ステップS101において、入力データ処理部104は、入力装置110から入力される形状データ、材料物性データ、境界条件データ及びメッシュサイズデータを読み取って、モデルデータ記憶部131に記憶する。入力装置110から入力される形状データは、回転子軸の形状データ、及び回転子コア用鋼板の形状データを含む。入力装置110から入力される形状データは、回転子コア用鋼板の貫通孔の端面35に貫通方向に平行に形成され且つ平滑な面を有する平滑部37の形状データ、及び、前記平滑部の一端から回転子コア用鋼板の外周に向かって傾斜する傾斜面を有する傾斜部38の形状データを更に含む。
【0056】
次いで、ステップS102において、メッシュ生成部151は、回転子コア用鋼板31及び回転子軸32のメッシュデータを生成する。
【0057】
次いで、ステップS103において、解析条件設定部152は、回転子コア用鋼板31及び回転子軸32のメッシュデータに、モデルデータ記憶部131に記憶される境界条件データ及び材料物性データを関連付ける。
【0058】
次いで、ステップS104において、解析演算部106は、応力解析処理を実行して、回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の応力分布データ及び変位分布データを生成する。応力分布データは、回転子軸32が回転子コア用鋼板31に焼嵌めされたときに貫通孔の端面35の平滑部37と傾斜部38のうち少なくとも平滑部37の一部と前記回転子軸32とが接触して形成される接触部の応力分布に対応するデータを含む。変位分布データは、回転子コア用鋼板31が回転子軸32に焼嵌めされたときの貫通孔の端面35の変位分布に対応するデータを含む。
【0059】
次いで、ステップS105において、表示データ生成部171は、回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の応力分布データ及び変位分布データにそれぞれ対応する応力分布表示データ及び変位分布表示データを生成する。
図8は、ステップS105において生成される回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の応力分布データに対応する応力分布表示51を示す図である。
図9は、ステップS105において生成される回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の変位分布データに対応する変位分布表示52を示す図である。
図9において、変形倍率は5倍になっている。
【0060】
次いで、ステップS106において、焼嵌め締結応力演算部172は、焼嵌め締結応力データを演算する。焼嵌め締結応力演算部172で演算される焼嵌め締結応力は、54.1MPaである。
【0061】
次いで、ステップS107において、端面座屈量演算部173は、焼嵌め端面座屈量データを生成する。端面座屈量演算部173で演算される焼嵌め端面座屈量は、0.25mmである。
【0062】
そして、ステップS108において、出力データ処理部108は、表示するために必要な出力データを表示装置120に出力する。
【0063】
以上、焼嵌め締結応力演算装置101を使用して、1枚の回転子コア用鋼板31及び回転子軸32の形状データから焼嵌め締結応力及び焼嵌め端面座屈量を演算する第1実施形態について説明した。第1実施形態では、回転子コア用鋼板31の貫通孔の端面35が平滑部37と傾斜部38とを有するとして応力解析処理を実行することにより、回転子コア用鋼板31の端面35が座屈する現象を再現することが可能になった。
【0064】
回転子コア用鋼板31の貫通孔の端面35が平滑部37のみを有する場合、座屈現象は再現できない。回転子コア用鋼板31の貫通孔の端面35が平滑部37のみを有する場合、焼嵌め締結応力の重心は端面35の中心にあり、焼嵌め締結応力は回転子軸32の側面に対して鉛直方向の成分のみを有するためである。これに対し、回転子コア用鋼板31の貫通孔の端面35が平滑部37と傾斜部38とを有する場合、焼嵌め締結応力の重心が端面35の中心から平滑部37の方向に移動する。さらに、回転子コア用鋼板31の貫通孔の端面35が外周方向に傾斜する傾斜面を有する傾斜部38を有することにより、焼嵌め締結応力は、回転子軸32の側面に対して鉛直方向の成分に加えて、回転子軸32の軸方向の成分を有することになる。座屈現象は、焼嵌め締結応力の回転子軸32の軸方向の成分により生じるモーメントに起因して生じると考えられている。なお、回転子コア用電磁鋼板の貫通孔の端面に対する平滑部の面積の比率が100%である場合は、第1実施形態と同一の入力データを使用して応力解析処理を実行したところ、座屈現象は再現できなかった。
【0065】
本実施形態では、回転子コア用鋼板31の貫通孔の端面35を、貫通方向に平行であり且つ平滑な面を有する平滑部37と、平滑部37の一端から板面の外周に向けて傾斜する傾斜面を有する傾斜部38とを有するものとして形状データを取得する。平滑部37は
図3に示すせん断面97に相当し、傾斜部38は破断面98に相当する。しかしながら、ダレ面96及びバリ99に対応する形状は、実施形態の端面35では省略されている。回転子コア用鋼板31の貫通孔の端面95に対するダレ面96及びバリ99の面積の比率は、せん断面97及び破断面98の比率よりも低いため、解析演算部106の演算の精度に与える影響が小さいためである。
【0066】
また、傾斜部38は、凹凸面を有する破断面98を凹凸を有さない傾斜部として形成している。これにより、ダレ面96及びバリ99に相当対応する形状が端面35で省略されていることと併せて、解析演算部106の解析精度を維持しつつ、解析演算部106の応力解析処理の負荷を軽減できる。
【0067】
次に、
図10〜12を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、入力装置110から入力される形状データが1枚の回転子コア用鋼板31及び回転子軸32ではなく、第1〜第3回転子コア用鋼板31a〜31c及び回転子軸32であることが、第1実施形態と相違する。
【0068】
図10(a)は、第1回転子コア用鋼板31a及び回転子軸32の形状データを示す平面図である。第1回転子コア用鋼板31aは、他の回転子コア用鋼板31b及び31cと結合するかしめ部34a〜34eが形成されることが
図6(a)に示す回転子コア用鋼板31と相違する。解析条件設定部152は、かしめ部34a〜34eにおいて、第1〜第3回転子コア用鋼板31a〜31cが互いに固定されているものとして、対応するメッシュデータと関連付ける。
【0069】
図10(b)は、第1〜第3回転子コア用鋼板31a〜31cの形状データを示す部分断面図である。第1〜第3回転子コア用鋼板31a〜31cの貫通孔の端面35a〜35cはそれぞれ、第1実施形態と同様に平滑部37a〜37cと傾斜部38a〜38cとにより形成される。第1回転子コア用鋼板31aは、貫通孔の端面35aに平滑部37a及び傾斜部38aを有し、第2回転子コア用鋼板31bは、貫通孔の端面35bに平滑部37b及び傾斜部38bを有する。第3回転子コア用鋼板31cは、貫通孔の端面35cに平滑部37c及び傾斜部35cを有する。第1回転子コア用鋼板31aの下側板面は、第2回転子コア用鋼板31bの上側板面と接触して配置される。第2回転子コア用鋼板31bの下側板面は、第3回転子コア用鋼板31cの上側板面と接触して配置される。接触する板面間の摩擦係数は、0.1である。
【0070】
図11は、ステップS105において生成される第1〜第3回転子コア用鋼板31a〜31c及び回転子軸32の応力分布データに対応する応力分布表示53を示す図である。ステップS106において焼嵌め締結応力演算部172で演算される焼嵌め締結応力は、91.2MPaである。
【0071】
図12は、ステップS105において生成される第1〜第3回転子コア用鋼板31a〜31c及び回転子軸32の変位分布データに対応する変位分布表示54を示す図である。
図12において、Z方向の変形倍率は5倍である。ステップS107において端面座屈量演算部173で演算される焼嵌め端面座屈量は、0.14mmである。
【0072】
表2は、焼嵌め締結応力及び焼嵌め端面座屈量の実測値と、第1及び第2実施形態で演算された焼嵌め締結応力及び焼嵌め端面座屈量の演算との比較を示す表である。
【0074】
ここで、実測値の測定に使用された回転子コアは、第1及び第2実施形態で使用された回転子コア用鋼板と同一の形状を有する電磁鋼板が167枚積層されて形成されている。すなわち、実測用の回転子コア用鋼板は、半径85mmの円形状の板面を有し、板面の中央部に半径25mmの貫通孔が形成される。回転子コア用鋼板の板厚は、0.35mmである。さらに、実測用の回転子コア用鋼板にも同様に、重量軽減のための空隙が形成されている。
【0075】
実測値の測定に使用された回転子軸は、半径25mm、高さ50mmの円形状の断面を有する中空円柱であり、中空部の半径15mmである。回転子コアと回転子軸とは、焼嵌め代120μmで焼嵌めされている。
【0076】
焼嵌め締結応力の実測値は、回転子コアを固定した状態で、回転子軸にねじりトルクを作用させることにより測定した。焼嵌め締結応力は、回転子コアと回転子軸との間にすべりが生じたときのねじりトルクから、以下の式(1)及び(2)から算定されている。
F=μ×π×d1×H×P (1)
T=F×d1/2 (2)
ここで、Fはねじりトルクで生じる回転子内周部円周方向の力であり、d1は回転子軸の口径であり、Hは回転子コアの高さであり、Pは焼嵌め締結応力であり、μは回転子軸外周と回転子コア内周の接触面の摩擦係数であり、Tはねじりトルクである。座屈量の実測値は、マイクロメータにより測定した。
【0077】
表2に示すように、第1実施形態により演算される焼嵌め締結応力及び焼嵌め端面座屈量と実測値との間には差異がある。この差異は、第1実施形態では1枚の回転子コア用鋼板35を対象としているため、回転子コア用鋼板の間の摩擦力が考慮されていないことに起因するものであると考えられる。一方、第2実施形態により演算される焼嵌め締結応力及び焼嵌め端面座屈量は、実測値と概ね一致している。したがって、第2実施形態のように、少なくとも3枚の回転子コア用鋼板の形状データを使用することにより、焼嵌め締結応力及び焼嵌め端面座屈量をより適確に算定することが可能になる。
【0078】
次に、
図13〜17を参照して、焼嵌め締結応力演算装置101を使用する第3実施形態について説明する。第3実施形態では、入力装置110から入力される形状データは、第2実施形態と同様に、3枚の回転子コア用鋼板と回転子軸とを使用する。しかしながら、使用される形状モデルが3次元モデルではなく、2次元軸対称モデルであることが、第2実施形態と相違する。
【0079】
図13(a)は、モデル化される第4回転子コア用鋼板31d及び回転子軸32の平面図である。第3実施形態では、
図13(a)のD−D´断面で2次元軸対称モデルとしてモデル化される。
【0080】
図13(b)は、2次元軸対称モデルとしてモデル化される第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31f及び回転子軸32の断面図である。第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31fの貫通孔の端面35d〜35fはそれぞれ、第1実施形態と同様に平滑部37d〜37fと傾斜部38d〜38fとにより形成される。
図13(b)において、X方向は第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31fの半径方向に平行な方向であり、Y方向は回転子軸32の軸方向に平行な方向である。回転子軸32の境界条件はY方向拘束であり、第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31fの外周の境界条件はY方向拘束である。かしめ部34gでは、第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31fが互いに固定されている。
【0081】
図13(c)は、モデル化された第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31fの部分断面図である。貫通孔の端面35d〜35fの厚さはそれぞれ0.35mmであり、平滑部37d〜37fの厚さはそれぞれ、0.245mmであり、傾斜部38d〜38fの厚さはそれぞれ、0.105mmである。したがって、回転子コア用電磁鋼板の貫通孔の端面35d〜35fに対する平滑部37d〜37fの面積の比率は、70%になる。第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31cの傾斜面半径方向長さはそれぞれ、0.035mmである。
【0082】
メッシュサイズは、要素当たり、板面に平行な第1方向を0.035mmとし、回転子軸32の軸方向に平行な第2方向を0.035mmとする。
【0083】
図14は、第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31f及び回転子軸32の応力分布データに対応する応力分布表示55を示す図である。第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31fの平滑部の下半分から傾斜部の上端部、及び回転子軸32の対向する部分の比較的大きな応力が分布している。
【0084】
図15は、第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31f及び回転子軸32の変位分布データに対応する変位分布表示56を示す図である。
【0085】
図16は、
図7に示すフローに従って演算された、貫通孔の端面35d〜35fの面積に対する平滑部37d〜37fの面積の比率と焼嵌め締結応力との関係を示す図である。焼嵌め締結応力は、第4〜第6回転子コア用鋼板31d〜31fと回転子軸32とがそれぞれ接触する接触部における平均応力から演算される。接触部では、平滑部37d〜37fと傾斜部38d〜38fのうち少なくとも平滑部37d〜37fの一部が回転子軸32と接触している。焼嵌め締結応力は、貫通孔の端面35d〜35fの面積に対する平滑部37d〜37fの比率が40%のとき80MPaであるが、貫通孔の端面35d〜35fの面積に対する平滑部37d〜37fの比率が50%で、92MPaになる。そして、貫通孔の端面35d〜35fの面積に対する平滑部37d〜37fの比率が60%を超えるとほぼ95MPaで一定となる。
【0086】
図17(a)は、貫通孔近傍の第4回転子コア用鋼板31dの上面の変位を示す図である。
図17(b)は、平滑部37d〜37fの面積の比率と第4回転子コア用鋼板31dの上面の変位との関係を示す図である。平滑部37d〜37fの面積の比率が40%のとき、回転子コア用鋼板31dの上面の変位は0.182mmであり、50%のとき回転子コア用鋼板31dの上面の変位は0.10mmである。平滑部37d〜37fの面積の比率が60%のとき回転子コア用鋼板31dの上面の変位は0.03mmであり、平滑部37d〜37fの面積の比率が70%〜90%のとき、第4回転子コア用鋼板31dの上面の変位はほぼ0である。
【0087】
第3実施形態では、2次元軸対称モデルを形状モデルとして使用するので、3次元モデルを形状モデルとして使用する場合と比較して、焼嵌め締結応力演算装置101の演算負荷を小さくすることができる。このため、少ない演算負荷で、貫通孔の端面35d〜35fの面積に対する平滑部37d〜37fの比率を変化させることができる。
【0088】
以上、
図5〜17を参照して、第1〜第3実施形態について説明してきたが、以下、他の実施形態について説明する。
【0089】
第1〜第3実施形態では、焼嵌め締結応力演算部172は、接触部応力データの平均値を演算することにより焼嵌め締結応力データを生成するが、接触部応力データの最大値又は最小値を抽出することにより生成してもよい。また、端面座屈量演算部173は、焼嵌め端面変位データの最大値を抽出することにより焼嵌め端面座屈量データを生成するが、焼嵌め端面変位データの平均値を演算することにより生成してもよい。
【0090】
端面座屈量演算部173では、焼嵌め締結応力データは、接触部応力データの平均値を演算することにより生成されるが、接触部応力データの最大値又は最小値を抽出することにより生成されてもよい。
【0091】
以上、本発明の実施形態を説明したが、ここに記載したすべての例や条件は、発明および技術に適用する発明の概念の理解を助ける目的で記載されたものであり、特に記載された例や条件は発明の範囲を制限することを意図するものではなく、明細書のそのような例の構成は発明の利点および欠点を示すものではない。発明の実施形態を詳細に記載したが、各種の変更、置き換え、変形が発明の精神および範囲を逸脱することなく行えることが理解されるべきである。