特許第6033101号(P6033101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033101
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20161121BHJP
   C08K 5/3462 20060101ALI20161121BHJP
   C08K 5/51 20060101ALI20161121BHJP
   C08K 5/5399 20060101ALI20161121BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20161121BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20161121BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   C08L67/04
   C08K5/3462
   C08K5/51
   C08K5/5399
   C08L27/18
   C08K5/29
   !C08L101/16ZBP
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-10698(P2013-10698)
(22)【出願日】2013年1月24日
(65)【公開番号】特開2014-141581(P2014-141581A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上川 泰生
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−342482(JP,A)
【文献】 特開2005−162912(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/090751(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/043219(WO,A1)
【文献】 特開2008−156616(JP,A)
【文献】 特開2005−023260(JP,A)
【文献】 特開2010−195963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08K 5/49−5/5399
C08K 5/29
C08K 5/3462
C08L 27/18
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)と、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)と、ホスファゼン化合物(C)とを含有し、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対し、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)との合計量が15〜40質量部であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)との質量比率((B)/(C))が95/5〜50/50であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対し、さらに四フッ化エチレン樹脂(D)0.1〜1質量部を含有することを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対し、さらに芳香族カルボジイミド化合物(E)0.05〜5質量部を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、さらに有機系結晶核剤(F)0.1〜5質量部を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れたポリ乳酸系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の見地から生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。生分解性ポリエステル樹脂の中でもポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどの樹脂は、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。
なかでも、ポリ乳酸樹脂は既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として製造可能となっており、使用後に焼却されても、これらの植物の生育時に吸収した二酸化炭素を考慮すると、炭素の収支として中立であることから、特に、地球環境への負荷の低い樹脂とされている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、それ自体燃焼しやすいため、これを単体で電気製品等の筐体に利用する場合には、安全上の問題があった。また、ポリ乳酸樹脂は、結晶化速度が遅いため、成形サイクルが長いだけでなく、得られる成形体の耐熱性に劣るという欠点も持ち合わせていた。
【0004】
すでに、特許文献1には、ポリ乳酸樹脂に難燃剤と有機充填剤とを添加し、金型温度90℃で射出成形することにより、UL94燃焼試験においてV−2〜V−0の難燃性が得られ、また荷重たわみ温度(0.45MPa)が100℃前後である耐熱性が得られることが開示されている。しかし、この方法で得られる成形体は、V−0の難燃性を満たすうちでの、接炎後の残炎時間については考慮されておらず、残炎時間が長いと、電気製品等の筐体として利用する場合に引火の恐れなどがあり、安全上の問題があるものであった。またこの方法では、有機充填剤として古紙粉末を20%以上添加することで、耐熱性を向上させているが、混錬や成形の際の溶融時に、熱により変色することは免れず、色調の調整が難しいものであった。
【0005】
また、特許文献2には、表面処理を施した水酸化物を添加することで、難燃性が得られ、また荷重たわみ温度(1.8MPa)が50℃以上である耐熱性が得られることが開示されている。しかしながら、水酸化物の配合量が多く、また、得られた難燃性はV−2であるため、前記用途への使用に際してはまだ不十分なレベルであった。
【0006】
一方、特許文献3では、ホウ酸塩を用いた難燃性ポリ乳酸樹脂組成物として、たとえば、ホウ酸ナトリウムを含浸させた繊維をポリ乳酸樹脂に含有させたものが提案されている。この組成物は、難燃性レベルはV−1と高くなく、また、ポリ乳酸樹脂に金属塩類を含む各種充填剤を配合することにより耐熱性が増大することは従来から知られているものの、荷重たわみ温度は100℃以下と低いものであった。またこの組成物の耐久性や耐衝撃性等については考慮されていなかった。
【0007】
特許文献4では、ポリ乳酸樹脂とポリカーボネート樹脂とからなる混合物に、難燃剤を配合した樹脂組成物が提案されている。しかし、この樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の配合比率がポリ乳酸樹脂のそれを超えて多く、地球環境への負荷が高いものであるだけでなく、耐熱性も不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−23260号公報
【特許文献2】特開2005−139441号公報
【特許文献3】特開2007−231034号公報
【特許文献4】特開2010−195963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、ポリ乳酸樹脂の配合比率が高く、耐熱性に優れた難燃性ポリ乳酸系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂にリン酸ピペラジン系難燃剤とホスファゼン化合物とを配合することによって、得られる樹脂組成物が前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)と、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)と、ホスファゼン化合物(C)とを含有し、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対し、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)との合計量が15〜40質量部であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
(2)リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)との質量比率((B)/(C))が95/5〜50/50であることを特徴とする(1)記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(3)ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対し、さらに四フッ化エチレン樹脂(D)0.1〜1質量部を含有することを特徴とする(1)または(2)記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(4)ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対し、さらに芳香族カルボジイミド化合物(E)0.05〜5質量部を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(5)ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、さらに有機系結晶核剤(F)0.1〜5質量部を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリ乳酸樹脂(A)に、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)とを特定量含有させたため、難燃性や耐熱性だけでなく、機械的強度や成形性に優れたポリ乳酸系樹脂組成物を提供することができる。この樹脂組成物を電気製品の筐体などに用いることで、低環境負荷材料であるポリ乳酸樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、産業上の利用価値はきわめて高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)と、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)と、ホスファゼン化合物(C)とを含有するものである。
本発明におけるポリ乳酸樹脂(A)としては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることができる。なかでも、生分解性、および成形加工性の観点からは、ポリ(L−乳酸)を主体とすることが好ましい。
【0013】
ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂(A)は、光学純度によってその融点が異なるが、本発明においては、成形体の機械的特性や耐熱性を考慮すると、融点が160℃以上であることが好ましい。ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂(A)において、融点を160℃以上とするためには、D−乳酸成分の割合を約3モル%未満とすればよい。さらに、樹脂組成物の成形性および耐熱性の観点から、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂(A)においては、D−乳酸成分の割合が0.6モル%以下であることが特に好ましい。
【0014】
ポリ乳酸樹脂(A)の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート(MFR)は通常0.1〜50g/10分、好ましくは0.2〜20g/10分、最適には0.5〜10g/10分である。上記MFRが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて成形体としたときの機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。また、MFRが0.1g/10分未満の場合は、成形加工時の負荷が高くなるため、操業性が低下する場合がある。なお、上記のMFRは、JIS K 7210(試験条件D)による値である。
【0015】
ポリ乳酸樹脂は公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造される。また、ポリ乳酸樹脂のMFRを所定の範囲に制御する方法としては、MFRが大きすぎる場合には、少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が挙げられる。逆に、MFRが小さすぎる場合は、MFRのより大きなポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法が挙げられる。
【0016】
ポリ乳酸樹脂(A)には、主たる構成成分以外のモノマーが共重合されていてもよい。
共重合可能な酸成分のモノマーとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、2,2′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸およびこれらの無水物;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。
【0017】
共重合可能なジオール成分のモノマーとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールAやビスフェノールSなどのビスフェノール類またはそれらのエチレンオキサイド付加体;ハイドロキノン、レゾルシノールなどの芳香族ジオールなどが挙げられる。
【0018】
さらに共重合可能なモノマーとして、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、6−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸などのヒドロキシカルボン酸;δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン化合物などが挙げられる。また、難燃性を付与するために有機リン化合物が共重合されていてもよい。
【0019】
またポリ乳酸樹脂(A)には、副成分として、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート等から選ばれる一種または二種以上の樹脂を、主成分であるポリ乳酸樹脂(A)と混合したものを、ポリ乳酸樹脂(A)として使用してもよい。
【0020】
また、少量であれば、ポリ乳酸樹脂(A)には、他のポリエステル樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/シクロへキシレンジメチレンテレフタレート、シクロへキシレンジメチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリ(p−ヒドロキシ安息香酸/エチレンテレフタレート)、植物由来の原料である1,3−プロパンジオールからなるポリテトラメチレンテレフタレートなどが混合されていてもよい。
【0021】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、難燃剤として、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)を含有する。
本発明に使用するリン酸ピペラジン系難燃剤(B)は、主成分としてリン酸ピペラジン系化合物を40質量%以上含む難燃剤である。
リン酸ピペラジン系化合物は、リン酸系化合物とピペラジン系化合物とからなる塩である。
リン酸ピペラジン系化合物を構成するリン酸系化合物としては、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等が挙げられる。またリン酸系化合物は、オルトリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、その他のポリリン酸の混合物であってもよく、それらの構成比率は、特に限定されるものではない。
またリン酸ピペラジン系化合物を構成するピペラジン系化合物としては、ピペラジン、trans−2,5−ジメチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
本発明においては、リン酸ピペラジン系化合物は、ピロリン酸ピペラジンであることが好ましい。
【0022】
リン酸系化合物とピペラジン系化合物の塩であるリン酸ピペラジン系化合物は、例えば、ピロリン酸ピペラジンの場合は、ピロリン酸とピペラジンとを、水中又はメタノール水溶液中で反応させることにより、水難溶性の沈殿として容易に得ることができる。
【0023】
リン酸ピペラジン系難燃剤(B)は、主成分のリン酸ピペラジン系化合物以外の成分を含有してもよい。リン酸ピペラジン系化合物以外の成分としては、特に限定されないが、リン酸メラミン類、メラミンシアヌレート類等のトリアジン誘導体の塩、さらにこれらの表面を処理したものが挙げられる。その他、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム等の金属酸化物、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物や、バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ、タルク等が挙げられる。これらは1種類で、または2種類以上を混合して用いることができる。ポリ乳酸系樹脂組成物の難燃性や耐加水分解性の観点から、メラミンシアヌレートまたはその表面処理品が特に好ましい。表面処理としてはシリコーン処理などが挙げられる。
【0024】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、上記リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とともにホスファゼン化合物(C)を含有する。
ホスファゼン化合物(C)は、分子中にリン原子と窒素原子とを含有することにより、ポリ乳酸系樹脂組成物に難燃性を付与することができる。
ホスファゼン化合物は、ハロゲン原子を含まず、分子中にホスファゼン構造を持つ化合物であれば特に限定されないが、鎖状ホスファゼン化合物、または環状ホスファゼン化合物であることが好ましい。ホスファゼン化合物の市販品としては、大塚化学社製のSPR−100、SA−100、SPB−100、SPB−100L、伏見製薬所社製のFP−100、FP−110が挙げられる。
【0025】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物における、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)の含有量の合計は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対し、15〜40質量部であることが必要であり、20〜25質量部であることが好ましい。含有量の合計が15質量部未満であると、難燃性を付与する効果が十分でなく、含有量の合計が40質量部を超えると、難燃性を付与できても機械物性や耐久性が低下する場合があり、また経済的に好ましくないものとなる。
【0026】
ポリ乳酸樹脂(A)は、他の樹脂と比べて燃焼時に炭化層が形成されにくい性質があるため、ドリップしやすいものである。しかしながら、ポリ乳酸樹脂(A)に対して、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)とを特定の比率で組み合わせることによって、それぞれを単独で樹脂組成物に配合するよりも、少ない配合量で優れた難燃性を付与することができ、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)との質量比率((B)/(C))は、95/5〜50/50であることが好ましく、難燃性や他の特性にとって、90/10〜70/30であることがより好ましい。
【0027】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を製造する方法は、特に制限されず、各成分が組成物中均一に分散されている状態になる方法であればよい。例えば、タンブラーやヘンシェルミキサーを用いて各成分を均一にドライブレンドした後、溶融混練押出して、冷却・カッティング・乾燥工程に付してペレット化してもよく、また、各成分の含有量が所定量となるように、各成分をそれぞれロスインウェイト式供給器から押出機に供給して、溶融混練押出したのち、上記同様ペレット化してもよい。
溶融混練に際しては、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等の一般的な混練機を使用することができる。混練状態を良くする意味で、二軸の押出機を用いることが好ましい。混練温度は{[ポリ乳酸樹脂(A)の融点]+5}℃〜{[ポリ乳酸樹脂(A)の融点]+100}℃であることが好ましい。混練温度がこの範囲より低温であると、混練や反応が不十分となり、一方、この範囲より高温であると、樹脂の分解や着色が起きる場合がある。また、混練時間は20秒〜30分であることが好ましい。混練時間がこの範囲より短いと混練や反応が不十分となり、一方、この範囲より長いと樹脂の分解や着色が起きる場合がある。
【0028】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、燃焼時の溶融滴下を防いで難燃性をより安定化させるために、四フッ化エチレン樹脂(D)を含有することが好ましい。四フッ化エチレン樹脂(D)は、その表面が処理されたものでもよい。
四フッ化エチレン樹脂(D)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して0.1〜1質量部であることが好ましく、0.2〜0.5質量部であることがより好ましい。四フッ化エチレン樹脂(D)の含有量が0.1質量部未満であると、難燃性をより安定化させる効果が乏しく、一方、1質量部を超えると、機械物性が低下する場合がある。
四フッ化エチレン樹脂(D)の市販品としては、ダイキン工業社製のポリフロンMPA FA−500Hが挙げられ、表面処理品としては、三菱レイヨン社製のメタブレンAシリーズのA3000、A3700、A3800などが挙げられる。
【0029】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、耐湿熱性向上させるために、カルボジイミド化合物を含有することが好ましい。ポリ乳酸系樹脂組成物は、カルボジイミド化合物を含有することによって、耐湿熱性が向上するとともに、溶融混練による相溶性もより良好になり、機械物性も向上する。
カルボジイミド化合物の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、0.05〜5質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。カルボジイミド化合物の含有量が0.05質量部未満であると、樹脂組成物の耐湿熱性の向上の効果は見られず、一方、5質量部を超えると耐熱性が低下し、経済的にも好ましくない。
【0030】
カルボジイミド化合物として脂肪族カルボジイミドを使用すると、難燃性が低下する場合があるので、本発明においては、難燃性を損なわないために、カルボジイミド化合物として、芳香族カルボジイミド(E)を使用することが好ましい。
芳香族カルボジイミド化合物(E)としては、種々のものを用いることができ、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するものであれば特に限定されず、芳香族モノカルボジイミド(E−1)、芳香族ポリカルボジイミド(E−2)などが挙げられ、さらに、分子内に各種複素環や各種官能基を有するものであってもよい。
【0031】
芳香族モノカルボジイミド化合物(E−1)としては、N,N′−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N′−フェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。中でも、湿熱耐久性の点からN,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましい。
【0032】
芳香族ポリカルボジイミド化合物(E−2)としては、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミド等が挙げられる。中でも、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミドが好ましい。
なお、芳香族ポリカルボジイミド化合物(E−2)は、その分子の両端または分子中の任意の部分が、イソシアネート基等の官能基を有していてもよく、また、分子鎖が分岐しているなど他の部位と異なる分子構造を有していてもよい。
【0033】
上記の芳香族カルボジイミド化合物(E)は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0034】
カルボジイミド化合物を製造する方法としては、特に限定されず、イソシアネート化合物を原料に製造する方法など、多くの方法が挙げられる。
【0035】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸の結晶化を促進し、成形サイクルを向上させるために、有機系結晶核剤(F)を含有することが好ましい。
有機系結晶核剤(F)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、0.5〜2質量部であることがより好ましい。含有量が0.1質量部未満であると、ポリ乳酸の結晶化を促進し、成形サイクルを向上させる効果が乏しい。一方、含有量が5質量部を超えると、結晶核剤としての効果が飽和するだけでなく、生分解後の残渣分が増大するため、環境面でも好ましくなく、また経済的にも不利である。
有機結晶核剤(F)としては、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、有機ホスホン酸塩等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組合わせて使用することができる。
有機結晶核剤(F)の市販品としては、伊藤製油社製のA−S−A T−530SF、日産化学社製のエコプロモート−NP、竹本油脂社製のLAK−403、LAK−301が挙げられる。特に、結晶化促進効果の観点から、エコプロモート−NPやLAK−403が好ましい。
これら有機系結晶核剤(F)とともに、各種無機系結晶核剤を併用してもよい。無機系結晶核剤としては、タルクやカオリンなどが挙げられる。
【0036】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、その特性を損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、無機充填材、植物繊維、強化繊維、耐候剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃改良剤、可塑剤、添加剤を添加することができる。
顔料としては、チタン、カーボンブラックなどが挙げられる。
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが挙げられる。
無機充填材としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、アルミナ、マグネシア、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維、層状珪酸塩などが挙げられる。層状珪酸塩を添加することにより、樹脂組成物のガスバリア性を向上させることができる。
植物繊維としては、例えば、ケナフ繊維、竹繊維、ジュート繊維、その他のセルロース系繊維などが挙げられる。
強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリマー繊維などの有機強化繊維などが挙げられる。
耐候剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズオキサジノンなどが挙げられる。
滑剤としては、各種カルボン酸系化合物を挙げることができ、なかでも、各種脂肪酸金属塩、特に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどが好ましい。
離型剤としては、各種カルボン酸系化合物を挙げることができ、なかでも、各種脂肪酸エステル、各種脂肪酸アミドなどが好適に用いられる。
耐衝撃改良剤としては、特に限定されず、コアシェル型構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系耐衝撃剤など、種々のものを用いることができる。耐衝撃改良剤の市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製のメタブレンシリーズのS−2001、S−2006、S−2003、S−2100、S−2200、C−223A、W−450A、W−600Aなどが挙げられる。
耐衝撃改良剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましい。耐衝撃改良剤の含有量が1質量部未満であると、耐衝撃性改良の効果が発揮できず、30質量部を超えると、成形性や耐熱性が低下する傾向がある。
【0037】
可塑剤は、ポリ乳酸樹脂(A)に柔軟性を付与させる目的で添加するものであり、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプレート、ポリグリセリン酢酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、中鎖脂肪酸トリセライド、ジグリセリン脂肪酸テトラエステル、ジグリセリンステアレート、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、トリエチレングリコールジアセテート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルトリブチルクエン酸、ポリエチレングリコール、ジブチルジグリコールサクシネート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、ビス(メチルジグリコール)アジペート、アジピン酸エステルなどが挙げられる。
可塑剤の市販品としては、理研ビタミン社製のPL−102、PL−109、PL−320、PL−710、アクターシリーズのM−1、M−2,M−3、M−4、M−107FR、S−71-D、S−74、田岡化学社製のATBC、大八化学社製のDAIFATTY−101、BXA、MXA、太陽化学社製のチラバゾールシリーズのVR−01、VR−05、VR−10P、VR−623などが挙げられる。
可塑剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対し0.05〜20質量部であることが好ましく、0.1〜15質量部であることがより好ましい。可塑剤の含有量が20質量部を超えると、耐熱性や難燃性が低下し、0.05質量部未満であると、柔軟性が付与されない場合がある。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、インジェクションブロー成形、発泡シート成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。すなわち、射出成形してなる成形体、あるいは、押出成形してなるフィルム、シート、およびこれらのフィルムやシートを加工してなる成形体、あるいはブロー成形してなる中空体、および、この中空体から加工してなる成形体などとすることができる。上記のなかでも、とりわけ、射出成形法を採用することが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。
本発明の樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、例えば、170〜250℃とすることが好ましく、170〜230℃とすることがより好ましい。また、金型温度は(樹脂組成物の融点−40)℃以下とすることが適当である。成形温度が上記のシリンダ温度や金型温度の範囲より低すぎると、成形体にショートが発生するなどして操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすくなったりする場合がある。逆に、成形温度が上記のシリンダ温度や金型温度の範囲を超えて高すぎると、樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色したりする等の問題が発生しやすく、ともに好ましくない場合がある。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、成形の際に結晶化を促進させることにより、耐熱性をさらに高めることができる。結晶化を促進させる方法としては、例えば、射出成形時に金型内で結晶化を促進させる方法があり、その場合には、樹脂組成物のガラス転移温度以上、(樹脂組成物の融点−40)℃以下に保たれた金型内で、一定時間成形体を保持した後、金型より取り出す方法が好適である。また、このような方法をとらずに金型から取り出された成形体であっても、該成形体を、樹脂組成物のガラス転移温度以上、(樹脂組成物の融点−40)℃以下で熱処理することにより、結晶化を促進することができる。
【0040】
本発明の樹脂組成物を用いた成形体の具体例としては、パソコン筐体部品および筐体、携帯電話筐体部品および筐体、その他OA機器筐体部品、コネクター類等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品をはじめ、コンテナーや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;花壇用レンガ、植木鉢等の緑化材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー・雑貨用樹脂部品;ボールペン、定規、クリップ等の文具用樹脂部品等が挙げられる。
そのうち、成形性、耐熱性および難燃性が必要とされる部品において、本発明の樹脂組成物は特に有用である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例および比較例の樹脂組成物の評価に用いた測定法は次の通りである。
【0042】
(1)MFR
JIS K 7210(試験条件D)に従い、190℃、荷重21.1Nで測定した。
【0043】
(2)曲げ強度
ISO178に従って曲げ強度を測定した。本発明においては、曲げ強度が65MPa以上であるものを実用に耐えうるものとした。
【0044】
(3)曲げ弾性率
ISO178に従って曲げ弾性率を測定した。本発明においては、曲げ弾性率が3.0GPa以上であるものを実用に耐えうるものとした。
【0045】
(4)耐熱性(荷重たわみ温度)
ISO75−1に従って、荷重0.45MPaで測定した荷重たわみ温度を用いて耐熱性を評価した。本発明においては、荷重たわみ温度が80℃以上であるものを実用に耐えうるものとした。
【0046】
(5)難燃性
UL94(米国 Under Writers Laboratories Inc.で定められた規格)の方法に従って測定した。試験片の厚みは1/16インチ(約1.6mm)とした。
難燃性はV−0、V―1、V−2であることが好ましく、V−0、V−1であることが特に好ましい。また、V−2に満たないものは「×」印で表示した。
【0047】
(6)成形性(成形サイクル)
射出成形機(東芝機械社製、IS−80G)を用いて、シリンダー温度190℃で樹脂組成物を溶融し、金型温度105℃の金型に充填して、ISOダンベル型試験片を成形した。成形体が金型に固着、または、抵抗なく取り出すことができ、突き出しピンによる変形がなく、良好に離型できるまでの所要時間を測定してこれを成形サイクルとし、成形性を評価した。なお、成形サイクルが100秒を超えたものは「>100」と表示した。
樹脂組成物が結晶核剤を含有する場合は、成形サイクルが60秒以下であることが好ましい。
【0048】
(7)耐久性(曲げ強度保持率)
試験片を2本用意し、1本は上記(2)と同様の方法で曲げ強度を測定して、「湿熱処理前の曲げ強度」とした。もう1本は温度60℃、湿度90℃RHの環境下で300時間曝して湿熱処理を施してから、上記(2)と同様の方法で曲げ強度を測定して、「湿熱処理後の曲げ強度」とした。以下の式により、曲げ強度保持率を算出した。
曲げ強度保持率(%)=(湿熱処理後の曲げ強度)/(湿熱処理前の曲げ強度)×100
以下の基準で耐久性を評価した。
◎:曲げ強度保持率が90%以上である。
○:曲げ強度保持率が80%以上、90%未満である。
△:曲げ強度保持率が80%未満である。
本発明においては、曲げ強度保持率が80%以上であるものを実用に耐えうるものであるとした。
【0049】
また、実施例および比較例に用いた各種原料は次の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)
・カーギルダウ社製、Nature Works 3001D(MFR:10g/10分、融点:168℃、D体含有率:1.4モル%)(以下、「PLA−1」と称する場合がある)
・トヨタ社製、S−12(MFR:8g/10分、融点:178℃、D体含有率:0.1モル%)(以下、「PLA−2」と称する場合がある)
【0050】
(2)リン酸ピペラジン系難燃剤(B)
・堺化学工業社製、STABIACE SCFR−200(以下、「SCFR−200」と称する場合がある)
・ADEKA社製、FP−2200
(3)ホスファゼン化合物(C)
・伏見製薬所社製、ラビトルFP−110(融点110℃)(以下、「FP−110」と称する場合がある)
(4)その他難燃剤
・クラリアント社製、エクソリットAP422(ポリリン酸アンモニウム)(以下、「AP422」と称する場合がある)
・大八化学社製、PX−200(縮合リン酸エステル)
(5)四フッ化エチレン樹脂(D)
・ダイキン工業社製、ポリフロンMPA FA−500H(四フッ化エチレン樹脂)(以下、「PTFE」と称する場合がある)
【0051】
(6)芳香族カルボジイミド化合物(E)
・ラインケミー社製、BIOADIMIDE 100(芳香族モノカルボジイミド N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)(以下、「BIOADIMIDE」と称する場合がある)
(7)脂肪族カルボジイミド化合物
・日清紡社製、HMV−15CA(脂肪族ポリカルボジイミド)
【0052】
(8)結晶核剤(F)
・日産化学社製、エコプロモート−NP(フェニルホスホン酸亜鉛)(以下、「NP」と称する場合がある)
・竹本油脂社製、LAK−403(スルホン酸バリウム塩)(以下、「LAK」と称する場合がある)
【0053】
(9)耐衝撃改良剤
・三菱レイヨン社製、メタブレンW−600A(以下、「W−600A」と称する場合がある)
【0054】
(10)可塑剤
・太陽化学社製、チラバゾールVR−01(以下、「VR−01」と称する場合がある)
・理研ビタミン社製、リケマールS−74(以下、「S−74」と称する場合がある)
【0055】
実施例1〜29、比較例1〜11
二軸押出機(東芝機械社製、TEM37BS型)を用い、各種原料を表1、表2に示す含有量となるようにドライブレンドして押出機に根元供給口から供給した。バレル温度190℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/hの条件で、ベントを効かせながら溶融押出を実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水を満たしたバットを通過させて冷却した後、ペレット状にカッティングして、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを、70℃にて24時間真空乾燥した。
得られた樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械社製、IS−80G型)を用いて、金型表面温度を105℃に調整しながら、ISO準拠の試験片に成形し、各種測定に供した。なお、試験片作製の際に測定した成形サイクルが100秒を超えた場合は、金型温度30℃に変更して成形し、成形して作製した試験片を80℃で2時間熱処理して結晶化させてから、各種測定に供した。評価結果を表1、表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1〜29で得られた本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)とを特定量含有するため、難燃性、耐熱性に優れ、また曲げ特性、耐久性に優れるものであった。さらに実施例16〜29で得られた樹脂組成物は、有機系結晶核剤(F)を含有するため、成形性にも優れるものであった。
一方、比較例1、5における樹脂組成物は、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)の合計量が本発明で規定する範囲に満たないため、また比較例3〜4、6〜11における樹脂組成物は、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)とを同時に含有しないため、難燃性が不十分なものであった。なかでも比較例4、7、9、11における樹脂組成物は、耐熱性も不十分なものであった。また比較例2における樹脂組成物は、リン酸ピペラジン系難燃剤(B)とホスファゼン化合物(C)の合計量が本発明で規定する範囲を超えたため、曲げ強度が低く、耐久性が不十分なものであった。