特許第6033121号(P6033121)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033121
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】波長変換素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 2/02 20060101AFI20161121BHJP
【FI】
   G02F2/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-37077(P2013-37077)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-164233(P2014-164233A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2014年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 新平
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/049905(WO,A1)
【文献】 特開2010−262277(JP,A)
【文献】 特開2010−008990(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0229943(US,A1)
【文献】 TSAI,Ming-Wei et al.,Coupling between surface plasmons via thermal emission of a dielectric layer sandwiched between two metal periodic layers,Applied Physics Letters,2007年11月20日,Vol.91,213104-1 - 213104-3
【文献】 BISWAS,R. et al.,Sharp thermal emission and absorption from conformally coated metallic photonic crystal with triangular lattice ,Applied Physics Letters,2008年 8月15日,Vol.93,063307-1 - 063307-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125,1/21−7/00
Scitation
OSA Publishing
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から入射した電磁波の波長を変換して裏面から放射する波長変換素子であって、
該表面の最表面は、第1周期で周期的に設けられた凹部または凸部を有すると共に、該表面全体は該入射した電磁波を透過しない、表皮効果の厚さの、少なくとも2倍の厚さの金属膜からなり、
該裏面の最表面は、該第1周期とは異なる第2周期で周期的に設けられた凹部または凸部を有すると共に、該裏面全体は該放射された電磁波を透過しない、表皮効果の厚さの、少なくとも2倍の厚さの金属膜からなり、
該第1周期は、第1波長を有する電磁波と表面プラズモン共鳴する周期からなり、該第2周期は、第2波長を有する電磁波と表面プラズモン共鳴する周期からなり、該第1波長を有する電磁波を、該第2波長を有する電磁波に変換することを特徴とする波長変換素子。
【請求項2】
上記凹部または凸部は、円柱、楕円柱、三角柱、または四角柱形状の凹部または凸部であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
上記凹部または凸部は、上記表面および上記裏面に、1次元方向または2次元方向に周期的に設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換素子。
【請求項4】
上記凹部または凸部は、上記表面および上記裏面に、正方格子状または三角格子状に配置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の波長変換素子。
【請求項5】
上記表面と上記裏面が金属で覆われた誘電体からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の波長変換素子。
【請求項6】
上記金属膜は、Au、Ag、Cu、Al、Ni、CrおよびTiからなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の波長変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射電磁波から特定波長の電磁波を選択的に吸収し、特定波長とは異なる波長の電磁波を放射する波長変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁波の波長を変換する波長変換素子としては、材料固有の放射スペクトルを利用した波長変換素子、あるいは分極反転などの光学非線形効果を利用した波長変換素子が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された波長変換素子では、波長変換素子への入射光でヒータを熱し、ヒータの材料固有の波長の光を波長変換素子から放射することにより波長変換が行われる。また、特許文献2に記載された波長変換素子では、周期的分極反転構造に基づく擬似位相整合により非線形な波長変換が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−354378号公報
【特許文献2】特開2010−93244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された波長変換素子では、吸収・放射スペクトルが共にヒータ等の材料固有の物性値に依存するため、変換できる光の波長を自由に選択できないという問題があった。具体的には、波長λrの放射光が必要な場合であっても、ヒータ等の材料固有の放射スペクトルがλrでなければ、波長λrの放射光を得ることができなかった。同様に、波長λaの光が入射しても、材料固有の吸収波長がλaでなければ入射光は吸収されず、当然に波長変換も行えなかった。
また、特許文献2に記載された波長変換素子は、レーザ光等の強い光を対象としており、自然光に含まれる赤外光のような光の波長変換は困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、特定波長の電磁波を吸収し、これを所望の波長の電磁波に変換して放射できる波長変換素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表面から入射した電磁波の波長を変換して裏面から放射する波長変換素子であって、
該表面は、第1周期で周期的に設けられた凹部または凸部を有すると共に、該入射した電磁波を透過しない膜厚の金属で覆われ、
該裏面は、該第1周期とは異なる第2周期で周期的に設けられた凹部または凸部を有すると共に、該放射された電磁波を透過しない膜厚の金属で覆われ、
該第1周期は、第1波長を有する電磁波と表面プラズモン共鳴する周期からなり、該第2周期は、第2波長を有する電磁波と表面プラズモン共鳴する周期からなり、該第1波長を有する電磁波を、該第2波長を有する電磁波に変換することを特徴とする波長変換素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる波長変換素子を用いることにより、特定波長の電磁波を吸収し、所望の波長の電磁波に波長変換して放射することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子の斜視図である。
図2】本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子の断面を含んだ斜視図である。
図3A】本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子の断面図である。
図3B】本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子の凹部の部分断面図である。
図4】本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子の表面方向から見た平面図である。
図5】本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子の裏面方向から見た平面図である。
図6】本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子の変形例の断面図である。
図7】本発明の実施の形態1にかかる他の波長変換素子の断面図である。
図8】本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子の吸収率の波長依存性を示す。
図9】本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子の放射率の波長依存性を示す。
図10】本発明の実施の形態2にかかる波長変換素子の斜視図である。
図11】本発明の実施の形態1、2にかかる波長変換素子を用いた断熱中空構造の上面図である。
図12】本発明の実施の形態1、2にかかる波長変換素子を用いた断熱中空構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、全体が100で表される、本発明の実施の形態1にかかる波長変換素子(波長変換フィルタ)の斜視図であり、図2は、図1のI−I’における断面を含む波長変換素子100の斜視図である。
また、図3Aは、図1のI−I’における波長変換素子100の断面図であり、図3Bは波長変換素子100の凹部の部分断面図である。
また、図4は、図3AのA方向(表面方向)から見た場合の波長変換素子100の平面図であり、図5は、図3AのB方向(裏面方向)から見た場合の波長変換素子100の平面図である。
【0011】
図1図5に示すように、波長変換素子100は、金属膜2からなる。金属膜2は、表面プラズモン共鳴を生じやすい金属から選択され、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti等であるのが好ましい。金属膜2の膜厚は、吸収率、熱時定数、材料の応力等を考慮して適宜決定される。
【0012】
図3Aに示すように、金属膜2の表面には、直径がd1、深さがh1の円柱形の凹部1が、周期p1で形成されている。また、金属膜2の裏面には、直径がd2、深さがh2の円柱形の凹部11が、周期p2で形成されている。図3Aでは、横方向の周期がp1、p2であるが、縦方向(紙面に垂直な方向)の周期も同様にp1、p2である。
【0013】
図1図5では、凹部1、11を正方格子配置(xy方向に配置)としたが、三角格子配置等でも良い。また、凹部1、11の表面、裏面内における形状は円形としたが、楕円形や正方形でも良い。円形や正方形のような形状では吸収・放射に偏光依存性が無いが、楕円形、長方形、三角形のような形状では吸収・放射に偏光依存性が存在する。このため、偏光特性を有する光の吸収あるいは放射においては、楕円形、長方形、三角形のような非対称の形状が選択される。また、この特性を利用して偏光方向を変換することも可能である。なお、凹部は、二次元に配列されることが好ましいが、一次元配列でもある程度の効果は得ることができる。
【0014】
なお、凹部1、11が偏向依存性の無い形状であっても、配置方向によって周期を変えた場合は吸収・放射に偏光依存性が生じる。
【0015】
図3Aに示すように、凹部1、11の表面に垂直な方向の断面は、矩形形状であることが好ましい。この理由について、図3Bを参照しながら説明する。図3Bは波長変換素子100の凹部1の周辺を取り出した部分断面図である。図3Bに示すように、凹部1の側壁傾斜角θは、金属膜2の表面に垂直な方向と側壁とのなす角度で定義される。裏面の凹部11の側壁傾斜角度θも同様に定義できる。側壁傾斜角θ=0°の場合、凹部1、11の側壁は金属膜2の表面に対して垂直となり好ましい。また、側壁傾斜角θが、一定の値より大きくなると、垂直方向の共鳴が弱くなるため、一般には、入射光の吸収率または放射光の放射率が小さくなる。但し、一方で、吸収光の波長あるいは放射光の波長の半値幅を小さくすることができる。また、θがマイナスの値つまり、逆テーパ形状の場合も、吸収・放射特性に変化が生じる。このため、側壁傾斜角度θは、入射光の吸収率、放射光の放射率、それらの半値幅を考慮して選定することが可能である。
【0016】
図6は、波長変換素子100の変形例であり、図3Aと同じ方向から見た場合の断面図である。図6の波長変換素子100では、断面の端部が曲線になるように凹部1、11が形成されている。このような断面形状を用いることにより、入射光の入射角度依存性が低減でき、より広い入射角で入射する光を吸収することができる。
【0017】
波長変換素子100は、例えばフォトリソグラフィを用いて金属膜2をパターニングすることにより作製する。具体的には、以下のような工程1〜6を用いて作製する。
【0018】
工程1:金属膜2を準備する。
【0019】
工程2:金属膜2の表面にフォトレジストを塗布する。
【0020】
工程3:フォトレジストの上にマスクパターンを重ねてフォトレジストを露光する。
【0021】
工程4:フォトレジストを現像してレジストマスクを形成する。
【0022】
工程5:ハロゲン系ガスを用いたドライエッチングにより露出した金属膜2をエッチングする。あるいはイオンビームエッチングでもよい。
【0023】
工程6:レジストマスクを有機溶剤で除去することにより、金属膜2の表面に凹部1が形成される。
【0024】
なお、工程5のドライエッチングに代えてウエットエッチングを用いても良い。同様の工程を金属膜2の裏面に対して行うことで、凹部11を形成することができる。
【0025】
上述のように、波長変換素子100は、少なくとも最表面が、光の透過しない厚さの金属膜であればよい。図7は、本発明の実施の形態1にかかる他の波長変換素子200の断面図であり、本体3と、その表面全体を覆うように設けられた金属膜12から形成される。本体3は、好ましくはシリコン酸化膜(SiO)、窒化シリコン(SiN)、シリコン(Si)等の誘電体材料あるいは半導体からなる。但し、表面に凹凸パターンを加工しやすい材料であればこれらに限らない。
【0026】
金属膜12は、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti等の表面プラズモン共鳴を生じやすい金属から選択される。金属膜12の膜厚は入射光を透過しない厚さであれば良い。このような膜厚であれば、金属膜12の表面における表面プラズモン共鳴のみが電磁波の吸収および放射に影響し、本体3は吸収等に光学的な影響を与えない。
【0027】
例えば、波長変換素子200の金属膜12の膜厚δが、吸収波長に対して以下の関係:
δ=(2/μσω)1/2
ここで、δは金属膜12の膜厚、μは金属膜12の透磁率、
σは金属膜12の電気伝導率、ωは入射光の角振動数、
で表される表皮効果の厚さ(skin depth)δの、少なくとも2倍の厚さ(数10nmから数100nm程度)を有すれば、本体3への入射光の漏れ出しは充分に小さくできる。
【0028】
例えば、金とシリコン酸化膜(SiO)の熱容量を比較すると、酸化シリコンの方が小さい。よって、本体3が酸化シリコン、金属膜12が金とした場合の波長変換素子200の場合、金のみからなる波長変換素子100に比べて熱容量を小さくすることができ、この結果、応答を速くすることができる。
【0029】
図7に示す波長変換素子200の作製は、誘電体あるいは半導体からなる本体3に対して、まず、表面側に対してフォトリソグラフィとドライエッチングを用いて周期構造を形成した後に、金属膜12をスパッタ等で形成する。次に、裏面についても同様に、周期構造を作製した後に金属膜12を形成する。
【0030】
なお、凹部1、11の直径は数μm程度と小さくなるため、金属膜を直接エッチングして凹部を形成するより、本体をエッチングして凹部を形成した後に金属膜を形成する方が、製造工程が容易となる。また、金属膜にはAuやAgのような高価な材料が使用されるため、誘電体あるいは半導体の本体を用いることで金属の使用量を減らし、コストを低減することができる。
【0031】
次に、波長変換素子の波長変換特性について説明する。
一般に、電磁波が境界面で全反射する時に発生するエバネセント波の波長が、表面プラズモン波の波長と一致する場合に、表面プラズモンが励起される。また、本発明のように、吸収体の表面(赤外線吸収面)に微細な周期構造を設けた場合も、後述するように周期構造によって変調された表面プラズモンが生じる。近赤外域以上の波長域においても、金属表面からなる周期構造を導入することで、表面に強く結合する表面モード、つまり疑似表面プラズモンが発生し周期構造に応じた吸収が生じる。
【0032】
本発明では、金属膜の内部の自由電子が寄与する現象と、周期構造による表面モードの生成について、吸収の観点からは同義とみなし、両者を区別すること無く、表面プラズモンあるいは表面プラズモン共鳴あるいは単に共鳴と呼ぶ。また、疑似表面プラズモン、メタマテリアルと呼ばれる場合もあるが、吸収の観点から見た現象としては同様のものとして扱う。
【0033】
表面プラズモンが金属膜の表面と結合することにより、共鳴波長の電磁波が表面近傍に強く局在し、結果的に金属膜に吸収されることになる。このため、共鳴波長において吸収率が増加する。
【0034】
続いて、表面プラズモンの分散関係について説明する。表面プラズモンの波数ベクトルをKsp、入射光の波数ベクトルをK0、mを整数、表面周期構造の逆格子ベクトルをGとすると、下記の式1が成立する。
【0035】
sp= K + m×G ・・・・・・ (式1)
【0036】
簡単のため周期pの1次元の周期構造とした場合、誘起される表面プラズモンの波数をksp、入射光の波数をk、入射角をθ、mを整数とすると、下記の式2が成立する。
【0037】
・・・・・・ (式2)
【0038】
式2から、周期pによって決定される波長の電磁波が表面近傍に強く局在し、結果的に吸収されることがわかる。特に、メインの入射角である垂直入射(θ=0°)の場合、周期pによって表面プラズモン共鳴波長が決定される。
【0039】
2次元周期構造の場合は、上記式1、式2における逆格子ベクトル(2π/p)が2次元となる。独立した凹部が、2次元的に周期的に配置された構造、例えば、正方格子状や三角格子状に配置された構造では、表面プラズモン共鳴は面内方向及び深さ方向に生じるが、面内方向の表面プラズモン共鳴が支配的であり、主要な吸収波長は周期によって決定される。
【0040】
また、キルヒホッフの法則から、吸収=放射であるため、吸収が生じる波長においては同様の放射が発生する。つまり、このような吸収体は、構造体を熱した場合は放射体として作用し、表面プラズモン共鳴によって特定波長の放射が生じることになる。
【0041】
ここで、図1に示す波長変換素子100の表面に電磁波が入射した場合、周期p1と等しい波長の電磁波が吸収される。吸収された電磁波の光エネルギーは、熱エネルギーとして保持される。このように、熱エネルギーが保持された場合、波長変換素子100は熱平衡に達し、裏面においてエネルギーの放射、つまり電磁波の放射が行われる。この場合、放射された電磁波の波長は、同様の原理から裏面の周期構造の周期p2と等しくなる。この結果、波長変換素子100では、波長がp1の電磁波が表面で吸収されて光エネルギーが熱エネルギーに変換された後、裏面から波長p2の電磁波として放射される。これにより、波長変換が可能となる。
【0042】
このように、金属膜の表面および裏面に形成された周期構造が誘起する表面プラズモンを用いて電磁波の吸収及び放射を行うことにより、材料固有の放射特性に束縛されることなく、所望の波長の入射光を、所望の波長の放射光に変換することができる。また、作製の困難な非線形光学素子も不要となる。
【0043】
次に、図8図9を参照しながら、波長変換素子100を用いた波長変換について説明する。図8は、Auからなる波長変換素子100の吸収率の波長依存性を電磁界解析で求めた結果を示し、横軸は入射光の波長、縦軸は波長変換素子100の吸収率を表す。波長変換素子100は、表面(入射面)に、直径d1=3μm、深さh1=1.5μmの円柱形の凹部を、周期p1=5μmで正方格子状に配置されたものとする。
【0044】
一方、図9は、波長変換素子100の放射率の波長依存性を電磁界解析で求めた結果を示し、横軸は入射光の波長、縦軸は波長変換素子100の放射率を表す。波長変換素子100は、裏面(放射面)に、直径d2=6μm、深さh2=1.5μmの円柱形の凹部を、周期p2=12μmで正方格子状に配置されたものとする。
【0045】
入射面の吸収波長をλ1、放射面の吸収波長をλ2とすると、図8の吸収率のピーク波長、図9の放射率のピーク波長より、λ1=5μm、λ2=12μmとなることが分かる。このように、表面および裏面に周期的な凹部を有する波長変換素子では、それぞれの周期(p1=5μm、p2=12μm)にほぼ等しい波長の光を吸収し、放射することがわかる。この結果から、凹部の周期を調整することにより、所望の波長の電磁波を吸収し、それを所望の波長の電磁波に変換して放射できることがわかる。これらの吸収・放射による波長変換は、既に述べたように図7に示す波長変換素子200においても同様に生じる。
【0046】
電磁波の吸収波長、放射波長と、凹部の周期との関係は、2次元周期構造であれば、正方格子状、三角格子状等の配置でもほぼ同じであり、吸収波長及び放射波長は凹部の周期によって決定されることがわかる。但し、式1で示したように、周期構造の逆格子ベクトルを考慮すれば、理論的には、正方格子配置においては、吸収・放射波長が周期とほぼ等しいのに対して、三角格子配置では、吸収・放射波長は、周期×√3/2となる。しかしながら、実際には凹部の直径によって吸収・放射波長はわずかに変化するため、どちらの周期構造においてもほぼ周期と等しい波長が吸収あるいは放射されると考えられる。
【0047】
以上で述べたように、波長変換素子100の入射面、放射面に表面プラズモン共鳴を生じる金属周期構造を設けることにより、材料の固有の物性値によらず、吸収・放射スペクトルを自在に制御できるようになり、波長変換の自由度が高くなる。
【0048】
上述のように、吸収、放射する電磁波の波長は、凹部の周期によって制御できる。凹部の直径については、一般に周期の1/2以上であることがのぞましい。1/2より小さい場合は共鳴効果が小さくなり、吸収率は低下する傾向にある。但し、凹部内の三次元的な共鳴であるため、直径が周期の1/2より小さくても十分な吸収が得られる場合もある。周期に対する直径の値は、適宜設計される。重要なのは、吸収・放射波長が主に周期によって制御されることである。直径に関しては、周期に対してある値以上であれば、十分な吸収をもつため、設計に幅をもたせることができる。一方、式1、2に示すように、表面プラズモンの分散関係の一般式を参照すれば、表面に結合する光は凹部の深さには無関係であり、周期にのみ依存する。よって、図3Aに示す凹部の深さh1、h2には、吸収波長、放射波長は依存しない。
【0049】
次に、波長変換素子100全体の厚さについて述べる。波長変換素子100は、吸収した光を熱に変換する。このため、例えば画像センサなどに用いる場合は、高速な応答が必要となり、熱容量は低い方が好ましい。高速な応答を行うには、熱容量つまり波長変換素子100の体積を小さくする必要がある。即ち、入射面から放射面の距離、つまり波長変換素子100の厚さは、薄い方が望ましい。但し、十分な表面プラズモンによる吸収を得るためには凹部の深さはある程度大きくする必要がある。凹部の深さが、波長の少なくとも1/4であれば、凹部内において共鳴が生じる。よって、表面と裏面のそれぞれに設けられ凹部の深さを考慮すれば、波長変換素子100の厚さは、対象とする波長以下にすることが理論的に可能である。
【0050】
実施の形態2.
図10は、全体が300で表される、本発明の実施の形態2にかかる波長変換素子の斜視図である。波長変換素子300では、金属膜2に周期構造として、凹部の代わりに、円柱状の凸部4を設けたものである。図10では、波長変換素子300の表面側のみを示しているが、裏面側にも、周期構造として円柱状の凸部が設けられている。なお、ここでは、凸部を円柱形状としたが、楕円柱、四角柱、三角柱等であっても良い。
【0051】
波長変換素子300においても、上述の式1、式2で表される表面プラズモンの分散関係から、同様の効果が得られる。従って、表面と裏面に周期的な凸部4を形成した波長変換素子300を用いることで、波長変換素子100と同様に、所望の波長の電磁波を吸収し、所望の波長の電磁波を放射することが可能となる。
【0052】
なお、図6図7に示す構造について、凹部の代わりに凸部を形成しても、同様の効果を得ることができる。
【0053】
これまで述べた波長変換素子(フィルタ)は、例えば帯域通過フィルタなどの光学フィルタと同様の、通常の使用でも効果は発揮される。但し、本発明のフィルタの断熱性を高め、応答を速くするためには、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)分野において用いられるサーフェスマイクロマシーニング、あるいはバルクマイクロマシーニング技術を用いて断熱中空構造を形成し、断熱支持脚でフィルタを支える構造により、フィルタ部分のみを中空に保持する構造とすれば効果的である。
【0054】
図11は、波長変換素子100を断熱構造とする一例であり、図12図11のA−A’部分の断面図である。但し、波長変換素子200、300の場合についても同様に成立する。
【0055】
断熱中空構造の波長変換素子100の作製方法について簡単に述べる。例えば基板7がSiの場合、波長変換素子の凹凸パターンと逆のパターンをフォトリソグラフィとドライエッチングで形成する。次に、そのパターンの上にメッキやスパッタでAuを形成する。上面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)などで平坦化し、最表面に同様の凹凸パターンを形成する。この場合の加工方法は既に述べたものと同じである。
【0056】
次に、断熱支持脚6となる部分を絶縁膜で形成する。最後に基板7の裏面からドライ、またはウエットエッチングにより、波長変換素子100下部付近を除去すれば中空断熱構造が完成する。基板7がSiの場合は、一般的に、ICP−RIEによるドライエッチングやTMAHによるウエットエッチングにより中空化が可能である。
【0057】
図11、12のような中空断熱構造の場合、吸収した熱がフィルタ外部の接続部に逃げないため、吸収された熱のうち放射面から放射される割合が高くなり、波長変換効率が高くなる効果がある。
【0058】
図11、12に示す中空断熱構造では2本の断熱支持脚6を用いたが、断熱支持脚6は2本以外でもよい。その他、フィルタを保持する部分に断熱材を用いる等でも同様の効果が得られる。
【0059】
なお、実施の形態1、2では、赤外線波長域の光を例に説明したが、本発明は赤外線以外の波長域、例えば可視、近赤外、テラヘルツ(THz)、マイクロ波、電波領域の波長域の電磁波に適用しても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 凹部、2 金属膜、3 本体、4 凸部、6 断熱支持脚、7 基板、11凹部、12 金属膜、100、200、300 波長変換素子。
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図3A
図3B
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