特許第6033158号(P6033158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033158
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】酸洗設備
(51)【国際特許分類】
   C23G 3/02 20060101AFI20161121BHJP
   C23G 1/08 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C23G3/02
   C23G1/08
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-76139(P2013-76139)
(22)【出願日】2013年4月1日
(65)【公開番号】特開2014-201751(P2014-201751A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2015年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】神尾 圭司
(72)【発明者】
【氏名】角野 初輝
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−256376(JP,A)
【文献】 実開昭63−192466(JP,U)
【文献】 特開平09−241887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00− 5/06
C23F 1/00− 4/04
C23C 22/00−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯を酸洗槽内に通板し、前記鋼帯を前記酸洗槽内の酸洗液に浸漬する酸洗設備であって、
前記酸洗槽内において前記鋼帯の上面に回転可能に当接するロールと、
前記酸洗槽内における前記ロールの下部に配置され、前記鋼帯の下面側における前記酸洗液の流れを遮断する遮断手段と、
を備え、
前記遮断手段の上端と前記鋼帯の下面との間には隙間が設けられ、
前記遮断手段は、上方から見たときに、前記ロールの外形の範囲内に配置されている、酸洗設備。
【請求項2】
前記遮断手段は遮断板であり、
前記遮断板の上端と前記鋼帯との間の間隔は10mm以下である、
請求項1に記載の酸洗設備。
【請求項3】
前記ロールは前記鋼帯の移動に伴って回転する、請求項1又は2に記載の酸洗設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸洗槽内に鋼帯を通板し、鋼帯を酸洗液に浸漬する酸洗設備に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延鋼帯の表面に形成される酸化スケール皮膜を除去する酸洗設備として、塩酸や硫酸によるディップ式酸洗設備が知られている。このようなディップ式酸洗設備では、酸洗槽の入側及び出側に一対のリンガーロールを設け、リンガーロール間で張力を付与した状態で鋼帯を酸洗槽内に水平方向に通板することで鋼帯を酸洗槽内の酸洗液に浸漬している。
【0003】
また、酸洗液の削減或いは酸洗時間の短縮等を図るため、酸洗槽を浅くすると共に、酸洗液を噴射して攪拌させるノズルを備えた噴流式酸洗設備がある。このような、噴流式酸洗設備として、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【0004】
特許文献1に記載された噴流式酸洗設備では、酸洗槽の入側堰を超えて入側の酸洗液排出口に排出される酸洗液量と、酸洗槽の出側堰を超えて出側の酸洗液排出口に排出される酸洗液量との割合を一定にするため、入側堰及び出側堰の高さを可変にして、鋼帯の下面と入側堰の上端及び出側堰の上端との間の隙間を調節可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−246995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼帯の生産性の向上を図るため、鋼帯の通板速度を早くする(例えば、420mpm程度)ことが行われている。上述した鋼帯を酸洗槽に浸漬する酸洗設備の場合、鋼帯の移動に引き連れられて酸洗液が酸洗槽から排出されてしまうため、通板速度が速くなると排出される酸洗液の量が増加する。例えば特許文献1に記載された酸洗設備においては、出側堰と鋼帯との間の隙間をより一層狭くすることで排出される酸洗液の量を低減することが考えられるが、出口堰の上端が鋼帯の下面に接触して鋼帯に疵が生じる恐れがあり好ましくない。
【0007】
そこで、本発明は、酸洗液の排出量を低減することができる酸洗設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の酸洗設備は、鋼帯を酸洗槽内に通板し、鋼帯を酸洗槽内の酸洗液に浸漬するものである。この酸洗設備は、ロールと、遮断手段とを備える。ロールは、酸洗槽内において鋼帯の上面に回転可能に当接する。遮断手段は、酸洗槽内においてロールの下部に配置され、鋼帯の下面側における酸洗液の流れを遮断する。遮断手段の上端と鋼帯の下面との間には隙間が設けられている。遮断手段は、上方から見たときに、ロールの外形の範囲内に配置されている。
【0009】
この酸洗設備によれば、鋼帯の上面側において鋼帯の移動に引き連れられて酸洗槽の入側から出側へ向かう酸洗液の流れがロールによって遮断される。また、鋼帯の下面側において鋼帯の移動に引き連れられて酸洗槽の入側から出側へ向かう酸洗液の流れが遮断手段によって遮断される。このように、鋼帯の上面側及び下面側の両側において、酸洗槽の出側へ向けて移動する酸洗液の流れを遮断することができるので、鋼帯の通板速度が速くなったとしても、酸洗液の排出量をより一層低減することができる。
【0010】
遮断手段は遮断板であり、遮断板の上端と鋼帯との間の間隔は10mm以下であることが好ましい。この場合には、鋼帯の下面側において鋼帯の移動に引き連れられて酸洗槽の入側から出側へ向かう酸洗液の流れを、遮断手段によって効果的に遮断することができる。これにより、より一層、酸洗液の排出量を低減することができる。
【0011】
ロールは鋼帯の移動に伴って回転することが好ましい。この場合には、鋼帯の移動に伴ってロールが回転することで、鋼帯に疵をつけることが少ない。また、鋼帯の上面側において鋼帯の移動に引き連れられて移動する酸洗液の流れを遮断することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸洗液の排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る酸洗設備の概略構成を示す側面図である。
図2図1におけるII−II線に沿った断面図である。
図3図1の鋼帯の上面側を流動する酸洗液を示す図であり、(a)は液切りロールの回転軸方向から見た図、(b)は上方から見た図である。
図4図1の鋼帯の下面側を流動する酸洗液を示す図であり、(a)は液切りロールの回転軸方向から見た図、(b)は上方から見た図、(c)は(b)におけるIVc−IVc線に沿った断面図である。
図5】遮断板を液切りロールよりも出側に設置した場合における鋼帯の上面側を流動する酸洗液を示す図であり、(a)は液切りロールの回転軸方向から見た図、(b)は上方から見た図である。
図6】遮断板を液切りロールよりも出側に設置した場合における鋼帯の下面側を流動する酸洗液を示す図であり、(a)は液切りロールの回転軸方向から見た図、(b)は上方から見た図である。
図7】遮断板を液切りロールよりも入側に設置した場合における鋼帯の上面側を流動する酸洗液を示す図であり、(a)は液切りロールの回転軸方向から見た図、(b)は上方から見た図である。
図8】遮断板を液切りロールよりも入側に設置した場合における鋼帯の下面側を流動する酸洗液を示す図であり、(a)は液切りロールの回転軸方向から見た図、(b)は上方から見た図である。
図9】遮断板を設置しない場合における鋼帯の上面側及び下面側を流動する酸洗液を示す図であり、(a)は液切りロールの回転軸方向から見た図、(b)は上方から見た図である。
図10】酸洗槽から排出される酸洗液の流出量のピーク値の測定結果を通板速度毎に示す図である。
図11】遮断板の設置位置を変えた場合における、酸洗液の流出量のピーク値の測定結果を示す図である。
図12】鋼帯の下面と遮断板の上端との間隔を変えた場合における、酸洗液の流出量のピーク値の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1及び図2に示すように、酸洗設備1は、鋼帯10の表面の酸化スケール皮膜を除去する設備である。酸洗設備1は、入側リンガーロール21、出側リンガーロール22、酸洗槽30、板押さえロール41及び42、液切りロール(ロール)43、遮断板(遮断手段)50、入側排出タンク61、及び、出側排出タンク62を含んで構成される。
【0016】
酸洗槽30は、上部が開口する容器である。酸洗槽30内には、酸洗液Wが満たされる。酸洗槽30内に満たされた酸洗液W内に、鋼帯10が通板される。入側リンガーロール21及び出側リンガーロール22は、酸洗槽30を挟んで対向する位置に設けられる。入側リンガーロール21は、酸洗槽30内に鋼帯10が搬入される側(以下「入側」という)の端部に配置され、出側リンガーロール22は、酸洗槽30から鋼帯10が搬出される側(以下「出側」という)の端部に配置される。入側リンガーロール21は、一対のロール21aを備える。出側リンガーロール22は、一対のロール22aを備える。
【0017】
鋼帯10は、酸洗槽30の入側端部において、入側リンガーロール21における一対のロール21aに挟まれ、酸洗槽30の出側端部において、出側リンガーロール22における一対のロール22aに挟まれる。鋼帯10は、入側リンガーロール21及び出側リンガーロール22間で張力を付与された状態で、酸洗槽30内の酸洗液Wに浸漬され、更に、入側から出側に向けて水平方向に通板される。
【0018】
板押さえロール41は、酸洗槽30の入側端部近傍に設けられ、鋼帯10を酸洗槽30の底面側に向けて押し付けて鋼帯10を酸洗液Wに浸漬させる。板押さえロール42は、酸洗槽30における入側と出側との間の中央部近傍に設けられ、鋼帯10を酸洗槽30の底面側に向けて押し付けて鋼帯10を酸洗液Wに浸漬させる。板押さえロール41及び42を設けることで、鋼帯10の通板時のばたつきが抑制され、安定した鋼帯10の通板が可能となる。
【0019】
液切りロール43は、酸洗槽30の出側端部近傍に設けられ、鋼帯10の上面に回転可能に当接する。ここで、鋼帯10が入側から出側に向けて移動すると、鋼帯10に引き連れられて鋼帯10の上面側及び下面側の酸洗液Wが、入側から出側に向けて流動する。液切りロール43は、鋼帯10の通板に伴って、鋼帯10の上面側に生じる酸洗液Wの流動を遮断する。これにより、液切りロール43によって流動が遮断された鋼帯10の上面の酸洗液Wが酸洗槽30内に戻される。このため、鋼帯10を入側から出側に向けて通板させたときに、鋼帯10の上面の酸洗液Wが酸洗槽30外に持ち出されてしまうことを抑制できる。なお、液切りロール43には駆動源が接続されておらず、鋼帯10の通板に伴って回転可能となっている。
【0020】
遮断板50は、液切りロール43の下部に配置される。遮断板50の上端は鋼帯10の下面に対向する。遮断板50の上端と鋼帯10の下面との間の間隔は、10mm以下とし、且つ、鋼帯10を通板させたときに遮断板50の上端と鋼帯10の下面とが接触しない間隔とする。遮断板50は、入側から出側に向けた鋼帯10の移動に伴って、鋼帯10の下面側において入側から出側に向けて移動する酸洗液Wの流動を遮断する。遮断板50は、図2に示すように、酸洗槽30内において立設するように酸洗槽30の底板30a及び側板30bに固定される。
【0021】
ここで、遮断板50が配置される液切りロール43の下部とは、液切りロール43の下方側の位置であって、上方から遮断板50を見たときに、液切りロール43によって遮断板50が隠れる位置、即ち、液切りロール43の外径(投影線)の範囲内とする。なお、図1及び図2では、液切りロール43の回転軸の直下に遮断板50を配置した状態を示している。
【0022】
酸洗槽30の入側端部近傍には、酸洗槽30の入側において酸洗液Wを堰き止める入側堰31が設けられる。酸洗槽30の出側端部近傍には、酸洗槽30の出側において酸洗液Wを堰き止める出側堰32が設けられる。入側堰31の上端及び出側堰32の上端と、鋼帯10の下面との間には、両者が当接しないように所定の隙間が設けられている。
【0023】
酸洗槽30の外側において入側端部近傍には、酸洗槽30の入側堰31を超えて酸洗槽30外に排出される酸洗液Wを回収する入側排出タンク61が設けられる。同様に、酸洗槽30の外側において出側端部近傍には、酸洗槽30の出側堰32を超えて酸洗槽30外に排出される酸洗液Wを回収する出側排出タンク62が設けられる。入側排出タンク61及び出側排出タンク62によって回収された酸洗液Wは、ポンプによって酸洗槽30内に戻される。
【0024】
また、酸洗設備1は、噴流式酸洗設備である。このため、酸洗槽30の側部には、鋼帯10に向けて酸洗液Wを噴射して、酸洗液Wを攪拌させるためのノズルが設けられる。このノズルには、入側排出タンク61及び出側排出タンク62で回収された酸洗液W等が供給される。
【0025】
次に、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の上面側及び下面側において入側から出側に向かって移動する酸洗液Wの流動を、液切りロール43及び遮断板50によって遮断する構成について説明する。まず、鋼帯10の上面側を移動する酸洗液Wの流動を遮断する構成について説明する。なお、遮断板50は、液切りロール43の回転軸の直下に配置されているものとする。図3(a)及び図3(b)に示すように、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の上面側において入側から出側に向かう酸洗液Wの流動が、液切りロール43によって遮断される。なお、図中において、酸洗液Wの流動方向を矢印で示す。液切りロール43によって流動が遮断された酸洗液Wの一部は、鋼帯10の側方から鋼帯10の下方に潜り込む。鋼帯10の下方に潜り込んだ酸洗液Wは、遮断板50によって出側への流動が遮断される。これにより、鋼帯10の上面側の酸洗液Wが酸洗槽30の出側の端部から持ち出されることを抑制できる。
【0026】
次に、鋼帯10の下面側を移動する酸洗液Wの流動を遮断する構成について説明する。図4(a)〜図4(c)に示すように、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の下面側において入側から出側に向かう酸洗液Wの流動が、遮断板50によって遮断される。遮断板50によって流動が遮断された酸洗液Wの一部は、鋼帯10の側方から鋼帯10の上面側に向けて移動する(特に図4(c)参照)。鋼帯10の上側に移動した酸洗液Wは、液切りロール43によって出側への流動が規制される。これにより、鋼帯10の下面側の酸洗液Wが酸洗槽30の出側の端部から持ち出されることを抑制できる。
【0027】
このように、液切りロール43の下部に遮断板50を設けることで、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の上面側及び下面側において入側から出側に向かう酸洗液Wの流動を遮断することができる。これにより、酸洗液Wが、鋼帯10の上面に乗って酸洗槽30の出側の端部から持ち出されることを抑制できる。
【0028】
ここで、比較のために、遮断板50を液切りロール43の下部よりも出側に設置した場合、即ち、上方から見たときに遮断板50が液切りロール43よりも出側に位置する場合の酸洗液Wの流動について説明する。まず、鋼帯10の上面側を移動する酸洗液Wの流動について説明する。図5(a)及び図5(b)に示すように、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の上面側において入側から出側に向かう酸洗液Wの流動が、液切りロール43によって遮断される。液切りロール43によって流動が遮断された酸洗液Wの一部は、鋼帯10の側方から鋼帯10の下方に潜り込む。鋼帯10の下方に潜り込んだ酸洗液Wは、鋼帯10の下面側を流動する酸洗液Wと共に液切りロール43よりも出側に移動し、遮断板50によって流動が遮断される。遮断板50によって流動が遮断された酸洗液Wの一部は、鋼帯10の側方から鋼帯10の上面側に向けて移動する。鋼帯10の上面側に移動した酸洗液Wは、鋼帯10の移動に伴って、酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外に持ち出される。
【0029】
次に、鋼帯10の下面側を移動する酸洗液Wの流動について説明する。図6(a)及び図6(b)に示すように、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の下面側において入側から出側に向かう酸洗液Wの流動が、遮断板50によって遮断される。遮断板50によって流動が遮断された酸洗液Wの一部は、鋼帯10の側方から鋼帯10の上面側に向けて移動する。鋼帯10の上側に移動した酸洗液Wは、鋼帯10の移動に伴って、酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外に持ち出される。
【0030】
このように、遮断板50が液切りロール43の下部よりも出側に設置されている場合、鋼帯10の上面に乗った酸洗液Wが鋼帯10の移動に伴って酸洗槽30の出側の端部から持ち出されてしまい、酸洗液Wの排出量を抑制することができない。
【0031】
また、遮断板50を液切りロール43の下部よりも入側に設置した場合、即ち、上方から見たときに遮断板50が液切りロール43よりも入側に位置する場合の酸洗液Wの流動について説明する。まず、鋼帯10の上面側を移動する酸洗液Wの流動について説明する。図7(a)及び図7(b)に示すように、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の上面側において入側から出側に向かう酸洗液Wの流動が、液切りロール43によって遮断される。液切りロール43によって流動が遮断された酸洗液Wの一部は、鋼帯10の側方から鋼帯10の下方に潜り込む。鋼帯10の下方に潜り込んだ酸洗液Wは、鋼帯10の下面側を入側から出側に向けて流動すると共に、その一部が鋼帯10の側方から鋼帯10の上面側に向けて移動する。鋼帯10の上面側に移動した酸洗液Wは、鋼帯10の移動に伴って、酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外に持ち出される。
【0032】
次に、鋼帯10の下面側を移動する酸洗液Wの流動について説明する。図8(a)及び図8(b)に示すように、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の下面側において入側から出側に向かう酸洗液Wの流動が、遮断板50によって遮断される。遮断板50によって流動が遮断された酸洗液Wの一部は、鋼帯10の側方から鋼帯10の上面側に向けて移動する。鋼帯10の上面側に移動した酸洗液Wは、鋼帯10の上面側を流動する酸洗液Wと共に、入側から出側に向けて流動する。その後、図7(a)及び図7(b)を用いて説明したのと同様に、遮断板50によって遮断されたことによって鋼帯10の下面側から上面側に移動した酸洗液Wは、液切りロール43によって流動が遮断されることで一部が鋼帯10の下方に潜り込む。更に、鋼帯10の下方に潜り込んだ酸洗液Wは、鋼帯10の下面側を入側から出側に向けて流動すると共に、その一部が鋼帯10の側方から鋼帯10の上面側に向けて移動する。鋼帯10の上面側に移動した酸洗液Wは、鋼帯10の移動に伴って、酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外に持ち出される。
【0033】
このように、遮断板50が、液切りロール43の下部よりも入側に設置されている場合、鋼帯10の上面に乗った酸洗液Wが鋼帯10の移動に伴って酸洗槽30の出側の端部から持ち出されてしまい、酸洗液Wの排出量を抑制することができない。
【0034】
また、遮断板50を設置しない場合の酸洗液Wの流動について説明する。まず、鋼帯10の上面側を移動する酸洗液Wの流動について説明する。図9(a)及び図9(b)に示すように、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の上面側において入側から出側に向かう酸洗液Wの流動が、液切りロール43によって遮断される。液切りロール43によって流動が遮断された酸洗液Wの一部は、鋼帯10の側方から鋼帯10の下方に潜り込む。鋼帯10の下方に潜り込んだ酸洗液Wは、鋼帯10の下面側を流動する酸洗液Wと共に、入側から出側に向けて液切りロール43の下方位置を通過するように流動する。液切りロール43の下方位置を通過した酸洗液Wの一部は、鋼帯10の側方から鋼帯10の上面側に移動する。鋼帯10の上面側に移動した酸洗液Wは、鋼帯10の移動に伴って、酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外に持ち出される。
【0035】
次に、鋼帯10の下面側を移動する酸洗液Wの流動について説明する。図9(a)及び図9(b)に示すように、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の下面側において酸洗液Wが入側から出側に向かって流動する。鋼帯10の下面側を流動する酸洗液Wのうち、液切りロール43よりも入側の位置において鋼帯10の上面側に移動した酸洗液Wの流動は、上述したように液切りロール43によって遮断される。鋼帯10の下面側を流動する酸洗液Wのうち、液切りロール43よりも出側の位置において鋼帯10の上面側に移動した酸洗液Wは、鋼帯10の移動に伴って、酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外に持ち出される。更に、液切りロール43よりも出側の位置において鋼帯10の下面側を流動する酸洗液Wは、鋼帯10の移動に伴って、鋼帯10の下面において酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外に持ち出される。
【0036】
このように、遮断板50設置されていない場合には、鋼帯10の移動に伴って鋼帯10の上面側及び下面側の酸洗液Wが酸洗槽30外に持ち出されてしまい、酸洗液Wの排出量を抑制することができない。
【0037】
以下、上述した遮断板50を液切りロール43の直下に設置した場合において、酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外へ持ち出されて出側排出タンク62へ排出される酸洗液Wの流出量のピーク値の測定結果を図10を用いて説明する。ここでは、液切りロール43の直下に遮断板50を設置し、鋼帯10を280mpm、350mpm、及び420mpmで酸洗槽30内を通板させた場合(遮断板 有)におけるそれぞれの酸洗液Wの流出量のピーク値の測定を行った。また、比較のため、遮断板50を設けずに、鋼帯10を280mpm、350mpm、及び420mpmで酸洗槽30内を通板させた場合(遮断板 無)におけるそれぞれの酸洗液Wの流出量のピーク値の測定を行った。なお、図10では、遮断板50が設置されておらず、且つ、鋼帯10の通板速度が280mpmの場合における酸洗液Wの流出量のピーク値を基準(100%)として、それぞれの場合における酸洗液Wの流出量のピーク値の比率(最大流出率)を示している。
【0038】
測定の結果、図10に示すように、鋼帯10の通板速度が280mpmの場合、遮断板50を設置することで、遮断板50を設置しない場合に比べて出側排出タンク62へ流出する酸洗液Wの最大流出率が2.3%低減された。鋼帯10の通板速度が350mpmの場合、遮断板50を設置することで、遮断板50を設置しない場合に比べて出側排出タンク62へ流出する酸洗液Wの最大流出率が10.5%低減された。鋼帯10の通板速度が420mpmの場合、遮断板50を設置することで、遮断板50を設置しない場合に比べて出側排出タンク62へ流出する酸洗液Wの最大流出率が8.5%低減された。
【0039】
このように、遮断板50を設置することで、遮断板50を設置しない場合に比べて、出側排出タンク62へ流出する酸洗液Wの流出量が低減された。また、鋼帯10の通板速度が350mpm以上の高速域において、遮断板50を設置したことによる酸洗液Wの流出量の低減効果が大きくなった。
【0040】
次に、遮断板50の設置位置を変えた場合において、酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外へ持ち出されて出側排出タンク62へ排出される酸洗液Wの流出量のピーク値の測定結果を図11を用いて説明する。ここでは、直径が318mmである液切りロール43を用い、鋼帯10の通板速度を420mpmとして測定を行った。また、液切りロール43の回転軸の直下に遮断板50を設置した場合(液切りロール43中心からの距離0mm)、液切りロール43の回転軸の直下から出側に185mmの位置に遮断板50を設置した場合(液切りロール43中心からの距離185mm)、液切りロール43の回転軸の直下から出側に395mmの位置に遮断板50を設置した場合(液切りロール43中心からの距離395mm)、液切りロール43の回転軸の直下から入側に185mmの位置に遮断板50を設置した場合(液切りロール43中心からの距離−185mm)、液切りロール43の回転軸の直下から入側に395mmの位置に遮断板50を設置した場合(液切りロール43中心からの距離−395mm)における酸洗液Wの流出量のピーク値を測定した。なお、図11では、遮断板50が設置されておらず、且つ、鋼帯10の通板速度が280mpmの場合における酸洗液Wの流出量のピーク値を基準(100%)として、それぞれの場合における酸洗液Wの流出量のピーク値の比率(最大流出率)を示している。
【0041】
測定の結果、図11に示すように、液切りロール43の下部(上方から遮断板50を見たときに、液切りロール43によって遮断板50が隠れる位置)に遮断板50が設置されている場合に、遮断板50を設置しない場合に比べて出側排出タンク62へ流出する酸洗液Wの最大流出率を効果的に低減することができた。特に、遮断板50を液切りロール43の回転軸の直下に設置した場合に、遮断板50を設置しない場合に比べて出側排出タンク62へ流出する酸洗液Wの最大流出率が最も低減された。
【0042】
次に、鋼帯10の下面と遮断板50の上端との間隔を変えた場合において、酸洗槽30の出側の端部から酸洗槽30外へ持ち出されて出側排出タンク62へ排出される酸洗液Wの流出量のピーク値の測定結果を図12を用いて説明する。ここでは、鋼帯10の通板速度を420mpmとして測定を行った。また、鋼帯10の下面と遮断板50との隙間を0mmとした場合、隙間を5mmとした場合、隙間を10mmとした場合、隙間を20mmとした場合における酸洗液Wの流出量のピーク値を測定した。なお、図12では、遮断板50が設置されておらず、且つ、鋼帯10の通板速度が280mpmの場合における酸洗液Wの流出量のピーク値を基準(100%)として、それぞれの場合における酸洗液Wの流出量のピーク値の比率(最大流出率)を示している。
【0043】
測定の結果、図12に示すように、鋼帯10の下面と遮断板50との隙間が10mm以下の場合に、遮断板50を設置しない場合に比べて出側排出タンク62へ流出する酸洗液Wの最大流出率が低減された。
【0044】
本実施形態は以上のように構成され、液切りロール43の下部に遮断板50を配置する。これにより、鋼帯10の上面側において鋼帯10の移動に引き連れられて酸洗槽30の入側から出側へ向かう酸洗液Wの流れは液切りロール43によって遮断される。また、鋼帯10の下面側において鋼帯10の移動に引き連れられて酸洗槽30の入側から出側へ向かう酸洗液Wの流れは遮断板50によって遮断される。このように、鋼帯10の上面側及び下面側の両側において、酸洗槽30の出側へ向けて移動する酸洗液Wの流れを遮断することができるので、例えば、鋼帯10の通板速度を350mpm以上とする等、鋼帯10の通板速度が速くなったとしても、酸洗液Wの排出量をより一層低減することができる。
【0045】
鋼帯10の下面側の酸洗液Wの流動を遮断する遮断手段として遮断板50を用いる。また、遮断板50の上端と鋼帯10の下面との間の間隔は、10mm以下とする。この場合には、鋼帯10の下面側において鋼帯10の移動に引き連れられて酸洗槽30の入側から出側へ向かう酸洗液Wの流れを、遮断板50によって効果的に遮断することができる。これにより、より一層、酸洗液Wの排出量を低減することができる。
【0046】
鋼帯10の移動に伴って液切りロール43が回転することで、鋼帯10に疵をつけることが少ない。また、鋼帯10の上面側において鋼帯10の移動に引き連れられて移動する酸洗液Wの流れを遮断することができる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、酸洗設備1として、噴流式酸洗設備を用いるものとしたが、噴流式に限定されず、これ以外の酸洗設備であってもよい。
【0048】
遮断板50は、底板30a及び側板30bに固定されるものとしたが(図2参照)、底板30a及び側板30bのいずれか一方に固定されていてもよい。また、酸洗液Wの流動を所定値以上遮断することができるものであれば、底板30a及び側板30bの少なくともいずれか一方と、遮断板50との間に隙間が設けられていてもよく、遮断板50に孔が設けられていてもよい。また、遮断板50は、板状に限らずブロック状であってもよい。更に、遮断板50を、複数枚設けてもよい。
【0049】
入側堰31及び出側堰32は、高さ調節が可能な堰であってもよい。また、酸洗設備1に板押さえロール41及び板押さえロール42を設けるものとしたが、これらを設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…酸洗設備、10…鋼帯、30…酸洗槽、43…液切りロール(ロール)、50…遮断板(遮断手段)、W…酸洗液。
図1
図2
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図5
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図12