特許第6033170号(P6033170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033170
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 29/04 20060101AFI20161121BHJP
   F16H 21/20 20060101ALI20161121BHJP
   F16H 21/44 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F16H29/04
   F16H21/20 A
   F16H21/44 E
【請求項の数】10
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2013-126064(P2013-126064)
(22)【出願日】2013年6月14日
(65)【公開番号】特開2015-1265(P2015-1265A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2015年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 優史
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−019429(JP,A)
【文献】 特開2010−133522(JP,A)
【文献】 特開2009−225609(JP,A)
【文献】 特開平11−141314(JP,A)
【文献】 特開平03−244846(JP,A)
【文献】 特開2012−001048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/00−37/16、49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動源の駆動力が伝達される入力部と、
前記入力部の回転中心軸線と平行な回転中心軸線を有する出力軸と、
回転半径を調節自在であり前記入力部の回転中心軸線を中心として回転可能な回転半径調節機構と、前記出力軸に軸支された揺動リンクと、前記回転半径調節機構と前記揺動リンクとを連結するコネクティングロッドとを有し、前記回転半径調節機構の回転運動を前記揺動リンクの揺動運動に変換するてこクランク機構と、
前記揺動リンクが前記出力軸の回転中心軸線を中心として前記出力軸に対して一方側に回転しようとするときに前記出力軸に対して前記揺動リンクを固定し、他方側に回転しようとするときに前記出力軸に対して前記揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構とを備えた無段変速機であって、
前記揺動リンクが前記出力軸に駆動力を伝達しているときに、前記入力部の回転中心軸線と前記出力軸の回転中心軸線との間の距離Lpが変化するように、前記入力部又は前記出力軸の位置を調整する入出力軸間調整機構を備え、
前記揺動リンクが前記出力軸に駆動力を伝達していないときに、次の条件式(1),(2)を満足することを特徴とする無段変速機。
【数1】
【数2】
ただし、前記回転半径調節機構と前記コネクティングロッドとの連結点を入力側支点といい、前記揺動リンクの揺動端部と前記コネクティングロッドとの連結点を出力側支点というとき、Lconは前記入力側支点と前記出力側支点との距離、R1は前記回転半径調節機構の回転半径が所定の回転半径のときの前記入力部の回転中心軸線と前記入力側支点との間の距離、R2は前記出力軸の回転中心軸線と前記出力側支点との間の距離である。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機であって、
前記入出力軸間調整機構は、前記入力部又は前記出力軸を回転可能に軸支する軸支部材と、前記軸支部材を前記入力部の回転中心軸線と前記出力軸の回転中心軸線との間の軸間方向に移動させる軸間距離調整用駆動源とを備えることを特徴とする無段変速機。
【請求項3】
請求項2に記載の無段変速機であって、
前記入出力軸間調整機構は、前記軸間距離調整用駆動源からの駆動力により回転し、該回転に応じて前記軸支部材を移動させるボールネジと、前記軸間距離調整用駆動源の出力する駆動力を制御することによって、前記ボールネジの回転を制御し、前記軸支部材の移動量を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記ボールネジの回転量に基づいて前記軸支部材の位置を検出することを特徴とする無段変速機。
【請求項4】
請求項1に記載の無段変速機であって、
前記入出力軸間調整機構は、前記入力部又は前記出力軸を回転可能に軸支する軸支部材と、前記軸支部材を前記入力部の回転中心軸線と前記出力軸の回転中心軸線との間の軸間方向に摺動可能に収容するとともに、前記軸支部材により前記軸支部材の摺動方向に区切られて構成された2つの内部空間に粘性流体が充填されている収容部材と、前記収容部材に対して前記軸支部材を前記距離Lpを縮める方向に付勢する第1の弾性部材と、前記収容部材に対して前記軸支部材を前記距離Lpを伸ばす方向に付勢する第2の弾性部材と、前記2つの内部空間を連通する連通路とにより構成されていることを特徴とする無段変速機。
【請求項5】
請求項4に記載の無段変速機であって、
前記入出力軸間調整機構は、前記軸支部材の移動量を検出するストロークセンサと、前記連通路に介設され、前記連通路を通過する前記粘性流体の流量を制御する弁部と、前記弁部を制御する制御部とを備え、前記入力部又は前記出力軸の一端側の端部及び他方側の端部にそれぞれ配置されており、
前記制御部は、前記ストロークセンサが検出した値に基づいて前記入力部の回転中心軸線と前記出力軸の回転中心軸線とが平行になるように、弁部を制御することを特徴とする無段変速機。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の無段変速機であって、
前記入力部及び前記出力軸の一端側に位置する一端壁部と、前記入力部及び前記出力軸の他端側に位置する他端壁部と、前記てこクランク機構及び前記一方向回転阻止機構を間隔を存して覆い、前記他端壁部と前記一端壁部とを連結する周壁部とにより構成され、前記てこクランク機構及び前記一方向回転阻止機構を収納する変速機ケースを備え、
前記入出力軸間調整機構は、前記一端壁部及び前記他端壁部に夫々取り付けられ、2つの前記入出力軸間調整機構で前記入力部又は前記出力軸の両端部を回転可能に軸支していることを特徴とする無段変速機。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の無段変速機であって、
前記一方向回転阻止機構は、前記揺動端部が前記入力部から離れるように前記出力軸を中心として前記出力軸に対して相対回転するときに前記出力軸に対して前記揺動リンクを固定し、前記揺動端部が前記入力部に近づくように前記出力軸に対して相対回転とするときに前記出力軸に対して前記揺動リンクを空転させ、
前記入出力軸間調整機構は、前記揺動リンクが前記出力軸に駆動力を伝達しているときに、次の条件式(3),(4)を満足するように、前記距離Lpを調整することを特徴とする無段変速機。
【数3】
【数4】
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の無段変速機であって、
前記一方向回転阻止機構は、前記揺動端部が前記入力部に近づくように前記出力軸を中心として前記出力軸に対して相対回転するときに前記出力軸に対して前記揺動リンクを固定し、前記揺動端部が前記入力部から離れるように前記出力軸に対して相対回転とするときに前記出力軸に対して前記揺動リンクを空転させ、
前記入出力軸間調整機構は、前記揺動リンクが前記出力軸に駆動力を伝達しているときに、次の条件式(5),(6)を満足するように、前記距離Lpを調整することを特徴とする無段変速機。
【数5】
【数6】
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の無段変速機であって、
前記所定の回転半径は、前記出力軸に伝達されるトルクが最大になる回転半径であることを特徴とする無段変速機。
【請求項10】
請求項7又は請求項8に記載の無段変速機であって、
前記てこクランク機構を複数備え、
前記所定の回転半径は、前記出力軸に伝達されるトルクが最大になる回転半径のうち、変速比が最小になるときの回転半径であることを特徴とする無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てこクランク機構を用いた四節リンク機構型の無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の走行用駆動源からの駆動力が伝達される入力部である入力軸と、入力軸の回転中心軸線と平行な回転中心軸線を有する出力軸と、複数のてこクランク機構とを備える四節リンク機構型の無段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の無段変速機において、てこクランク機構は、回転半径を調節自在であり入力軸の回転中心軸線を中心として回転可能な回転半径調節機構と、出力軸に軸支された揺動リンクと、一方の端部が回転半径調節機構に回転自在に外嵌していて他方の端部が揺動リンクの揺動端部に連結されたコネクティングロッドとで構成されている。このてこクランク機構は、回転半径調節機構の回転運動を揺動リンクの揺動運動に変換する。
【0004】
揺動リンクと出力軸との間には、揺動リンクが出力軸の回転中心軸線を中心として出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに出力軸に対して揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに出力軸に対して揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構としての一方向クラッチが設けられている。
【0005】
回転半径調節機構は、中心から偏心して穿設された貫通孔を有する円盤形状の回転部と、回転部の貫通孔の内周面に取り付けられた内歯ギヤと、入力軸に固定され内歯ギヤに噛合する第1ピニオンと、調節用駆動源からの駆動力が伝達されるキャリアと、キャリアによって自転及び公転自在にそれぞれ軸支されていて内歯ギヤにそれぞれが噛合する2つの第2ピニオンとで構成されている。第1ピニオンと2つの第2ピニオンは、それらの中心を頂点とする三角形が正三角形となるように配置されている。
【0006】
この回転半径調節機構は、走行用駆動源で回転する入力軸と調節用駆動源で回転するキャリアの回転速度が同一の場合は、入力軸の回転中心軸線に対する回転部の中心の偏心量が維持され、回転半径調節機構の回転半径も一定のまま維持される。一方、入力軸とキャリアの回転速度が異なる場合は、入力軸の回転中心軸線に対する回転部の中心の偏心量が変化し、回転半径調節機構の回転半径も変化する。
【0007】
したがって、この回転半径調節機構は、その回転半径を変化させることによって、揺動リンクの揺動端部の振れ幅、ひいては変速比を変化させ、入力軸の回転速度に対する出力軸の回転速度を制御する。
【0008】
また、この回転半径調節機構では、3つのピニオンの中心を頂点とする正三角形の中心と入力軸の回転中心軸線との距離を、この正三角形の中心と回転部の中心との距離と等しく設定しているので、入力軸の回転中心軸線と回転部の中心とを重ね合わせて偏心量を「0」にすることができる。偏心量が「0」の場合には、入力軸が回転している場合であっても揺動リンクの揺動端部の振れ幅が「0」となり、出力軸が回転しない状態となる。
【0009】
さらに、この回転半径調節機構では、キャリアと第2ピニオンとでカム部が構成され、カム部に調節用駆動源からの駆動力が伝達される。そのカム部は、回転半径調節機構ごとに、すなわち、てこクランク機構ごとにそれぞれ位相が異なるように設定され、複数のカム部で入力軸の周方向を一回りするようになっている。そのため、各回転半径調節機構に外嵌したコネクティングロッドによって、各揺動リンクが順にトルクを出力軸に伝達し、出力軸をスムーズに回転させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−1048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
四節リンク機構型の無段変速機は、各回転半径調節機構の偏心方向が異なっているので、コネクティングロッドや回転半径調節機構の重さによって、入力部や出力軸に偏った荷重が掛かり易い。そのため、揺動リンクの揺動運動により振動が発生しやすく、その振動によって入力部や出力軸の軸受に負荷が加わるという問題がある。
【0012】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、振動を抑制し、軸受の負荷を軽減することができる無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の無段変速機は、走行用駆動源の駆動力が伝達される入力部と、入力部の回転中心軸線と平行な回転中心軸線を有する出力軸と、回転半径を調節自在であり入力部の回転中心軸線を中心として回転可能な回転半径調節機構と、出力軸に軸支された揺動リンクと、回転半径調節機構と揺動リンクとを連結するコネクティングロッドとを有し、回転半径調節機構の回転運動を揺動リンクの揺動運動に変換するてこクランク機構と、揺動リンクが出力軸の回転中心軸線を中心として出力軸に対して一方側に回転しようとするときに出力軸に対して揺動リンクを固定し、他方側に回転しようとするときに出力軸に対して揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構とを備えた無段変速機であって、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達していないときに、入力部の回転中心軸線と出力軸の回転中心軸線との間の距離Lpが変化するように、前記入力部又は前記出力軸の位置を調整する入出力軸間調整機構を備え、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達していないときに、次の条件式(1),(2)を満足することを特徴とする。
【数1】
【数2】
ただし、回転半径調節機構とコネクティングロッドとの連結点を入力側支点といい、揺動リンクの揺動端部とコネクティングロッドとの連結点を出力側支点というとき、Lconは入力側支点と出力側支点との距離、R1は回転半径調節機構の回転半径が所定の回転半径のときの入力部の回転中心軸線と入力側支点との間の距離、R2は出力軸の回転中心軸線と出力側支点との間の距離である。
【0014】
本発明においては、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達していないときには、距離Lpが条件式(1),(2)を満足している。
【0015】
そのため、入力部の回転中心軸線と出力軸の回転中心軸線とを結ぶ線(この線の長さを「距離Lp」とする)と回転半径調節機構の回転半径が所定の回転半径のときの入力部の回転中心軸線と入力側支点とを結ぶ線(この線の長さを「距離R1」とする)とがなす角が直角になるときに、出力軸の回転中心軸線と出力側支点と結ぶ線(この線の長さを「距離R2」とする)とコネクティングロッド(すなわち、入力側支点と出力側支点とを結ぶ線(この線の長さを「距離Lcon」とする))とがなす角も直角になる。
【0016】
すなわち、入力部の回転中心軸線と出力軸の回転中心軸線との間の軸間(以下、「入出力軸間」という)方向における入力側支点の移動速度が最大になるときに、入出軸間方向における出力側支点の移動速度は遅くなる。
【0017】
その結果、本発明の無段変速機は、条件式(1),(2)を満足するように構成されていない従来の無段変速機に比べ、出力側支点の揺動運動による慣性力を抑制して、揺動リンクの揺動運動による振動を抑制することができ、その振動により入力部や出力軸の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0018】
ところで、距離Lpがこの条件式(1),(2)を満足するように構成することが、揺動リンクの揺動運動による振動を抑制する上で必ずしも最適であるとは限らない。例えば、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達しているときには、出力軸や一方向回転阻止機構に捩れが生じる。
【0019】
そのため、揺動端部が入力部から離れるように出力軸を中心として出力軸に対して相対回転するときにのみ揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達する一方向回転阻止機構を備えている場合であって、揺動リンクが出力軸に駆動力伝達しているときには、最適な入出力軸間の距離Lpは、条件式(1),(2)を満足する場合の距離Lpよりも長くなる。
【0020】
一方、揺動端部が入力部から近づくように出力軸を中心として出力軸に対して相対回転するときにのみ揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達する一方向回転阻止機構を備えている場合であって、揺動リンクが出力軸に駆動力伝達しているときには、最適な入出力軸間の距離Lpは、条件式(1),(2)を満足する場合の距離Lpよりも短くなる。
【0021】
そこで、本発明の無段変速機においては、入出力軸間調整機構を備え、入出力軸間の距離Lpを変化させることができるようにしている。
【0022】
その結果、本発明の無段変速機は、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達していないときだけではなく、例えば、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達しているときにおいても、効果的に揺動リンクの揺動運動による振動を抑制することができる。
【0023】
また、本発明の無段変速機では、入出力軸間調整機構は、入力部又は出力軸を回転可能に軸支する軸支部材と、軸支部材を入力部の回転中心軸線と出力軸の回転中心軸線との間の軸間方向に移動させる軸間距離調整用駆動源とを備えることが好ましい。
【0024】
入出力軸間調整機構をこのような軸間距離調整用駆動源を有する構成にした場合、軸間距離調整用駆動源を制御することによって、能動的に距離Lpを変化させることができる。
【0025】
そのため、距離Lpを変化させることによって、揺動リンクの揺動運動による振動を抑制することができる。また、距離Lpを変化させることによって、回転半径調節機構の位相に対する揺動リンクの位相(出力軸に対する揺動リンクの傾き)を変化させることができるので、回転半径を変化させずに変速比を変化させることができるようになる。
【0026】
また、本発明の無段変速機は、入出力軸間調整機構は、軸間距離調整用駆動源からの駆動力により回転し、該回転に応じて軸支部材を移動させるボールネジと、軸間距離調整用駆動源の出力する駆動力を制御することによって、ボールネジの回転を制御し、軸支部材の移動量を制御する制御部とを備え、制御部は、ボールネジの回転量に基づいて軸支部材の位置を検出することが好ましい。
【0027】
このような構成にすれば、軸支部材の位置を検出する手段を別途設けなくても、ボールネジの回転量によって、制御部で軸支部材の位置を検出することができる。
【0028】
例えば、軸間距離調整用駆動源としてステッピングモータを用いる場合、1パルス当たりのステッピングモータの回転子の回転角度が分かる。そして、ステッピングモータの回転角度当たりのボールネジのネジ軸に転動体を介して螺合するナットが設けられた軸支部材の移動量を予め求めておけば、制御パルスの積算値で軸支部材の位置を検出することができる。
【0029】
また、本発明の無段変速機では、入出力軸間調整機構は、入力部又は出力軸を回転可能に軸支する軸支部材と、軸支部材を入力部の回転中心軸線と出力軸の回転中心軸線との間の軸間方向に摺動可能に収容するとともに、軸支部材により軸支部材の摺動方向に区切られて構成された2つの内部空間に粘性流体が充填されている収容部材と、収容部材に対して軸支部材を距離Lpを縮める方向に付勢する第1の弾性部材と、収容部材に対して軸支部材を距離Lpを伸ばす方向に付勢する第2の弾性部材と、2つの内部空間を連通する連通路とにより構成されていることが好ましい。
【0030】
入出力軸間調整機構をこのような油圧回路として構成した場合、入力部や出力軸に加わる荷重に応じて、自動的に適切な距離Lpとなるように又は適切な距離Lpに近づくように距離Lpを変化させることができる。また、入出力軸間調整機構によって距離Lpを変化させると、2つの弾性部材の弾性力によって軸支部材がしばらく振動しようとするが、この振動は粘性流体によって速やかに収束させることができる。
【0031】
また、本発明の無段変速機は、前記入出力軸間調整機構は、軸支部材の移動量を検出するストロークセンサと、連通路に介設され、連通路を通過する粘性流体の流量を制御する弁部と、弁部を制御する制御部とを備え、入力部又は出力軸の一端側の端部及び他方側の端部にそれぞれ配置されており、制御部は、ストロークセンサが検出した値に基づいて入力部の回転中心軸線と出力軸の回転中心軸線とが平行になるように、弁部を制御することが好ましい。
【0032】
このような構成にすれば、入力部や出力軸に加わる荷重に応じて自動的に距離Lpが変化する場合であっても、入力部又は出力軸の一端側と他端側のそれぞれにおける入出力軸間の距離を2つのストロークセンサによって検出し、その検出値に基づいて制御部が一端側と他端側のそれぞれにおける入出力軸間の距離を調整することができる。その結果、入力部の回転中心軸線と出力軸の回転中心軸線とを平行に保つことができるので、入力部や出力軸の相対的な傾きを防止することができる。
【0033】
また、本発明の無段変速機は、入力軸及び出力軸の一端側に位置する一端壁部と、入力軸及び出力軸の他端側に位置する他端壁部と、てこクランク機構及び一方向回転阻止機構を間隔を存して覆い、他端壁部と一端壁部とを連結する周壁部とにより構成し、てこクランク機構及び一方向回転阻止機構を収納する変速機ケースを備え、入出力軸間調整機構は、一端壁部及び他端壁部に夫々取り付けられ、2つの入出力軸間調整機構で入力部又は出力軸の両端部を回転可能に軸支するように構成することができる。
【0034】
また、本発明の無段変速機では、一方向回転阻止機構が、揺動端部が入力部から離れるように出力軸を中心として出力軸に対して相対回転するときに出力軸に対して揺動リンクを固定し、揺動端部が入力部に近づくように出力軸に対して相対回転とするときに出力軸に対して揺動リンクを空転させる場合には、入出力軸間調整機構は、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達しているときに、次の条件式(3),(4)を満足するように、距離Lpを調整することが好ましい。
【数3】
【数4】
コネクティングロッドを縮める方向の荷重がコネクティングロッドに加わるように、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達しているときには、上述した条件式(1),(2)ではなく、条件式(3),(4)を満たすように入出力軸間調整機構が距離Lpを調整すれば、所定の回転半径において、揺動リンクとコネクティングロッドとの連結点(すなわち、出力側支点)に最も荷重が加わるときに、揺動リンク(出力軸の回転中心軸線と出力側支点と結ぶ線)とコネクティングロッド(入力側支点と出力側支点とを結ぶ線)とがなす角を直角にすることができる。
【0035】
これにより、出力側支点に最も荷重が加わるときに、その荷重のベクトルが揺動リンクの揺動運動の接線方向と一致するので、出力側支点に加わる荷重が分散しなくなり、コネクティングロッドを縮める方向の荷重がコネクティングロッドに加わっているときにおいても、効果的に揺動リンクの揺動運動による振動を抑制することができる。
【0036】
また、本発明の無段変速機では、一方向回転阻止機構が、揺動端部が入力部に近づくように出力軸を中心として出力軸に対して相対回転するときに出力軸に対して揺動リンクを固定し、揺動端部が入力部から離れるように出力軸に対して相対回転とするときに出力軸に対して揺動リンクを空転させる場合には、入出力軸間調整機構は、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達しているときに、次の条件式(5),(6)を満足するように、距離Lpを調整することが好ましい。
【数5】
【数6】
コネクティングロッドを伸ばす方向の荷重がコネクティングロッドに加わるように、揺動リンクが出力軸に駆動力を伝達しているときには、上述した条件式(1),(2)ではなく、条件式(5),(6)を満たすように入出力軸間調整機構が距離Lpを調整すれば、所定の回転半径において、揺動リンクとコネクティングロッドとの連結点(すなわち、出力側支点)に最も荷重が加わるときに、揺動リンク(出力軸の回転中心軸線と出力側支点と結ぶ線)とコネクティングロッド(入力側支点と出力側支点とを結ぶ線)とがなす角を直角にすることができる。
【0037】
これにより、出力側支点に最も荷重が加わるときに、その荷重のベクトルが揺動リンクの揺動運動の接線方向と一致するので、出力側支点に加わる荷重が分散しなくなり、コネクティングロッドを伸ばす方向の荷重がコネクティングロッドに加わっているときにおいても、効果的に揺動リンクの揺動運動による振動を抑制することができる。
【0038】
また、本発明の無段変速機においては、所定の回転半径は、出力軸に伝達されるトルクが最大になる回転半径であることが好ましい。
【0039】
出力軸に伝達されるトルクは、無段変速機が搭載される車両の特性等(例えば、タイヤのスリップ限界特性)によって、最大値が定まる。そのような最大値になる回転半径調節機構の回転半径において、上記の条件式(3),(4)又は条件式(5),(6)を満足するように構成すれば、より効果的に揺動リンクの揺動運動による振動を抑制することができる。
【0040】
また、本発明の無段変速機においては、てこクランク機構を複数備え、所定の回転半径は、出力軸に伝達されるトルクが最大になる回転半径のうち、変速比が最小になるときの回転半径であるように構成することができる。
【0041】
本発明の無段変速機は、てこクランク機構を複数備える場合、変速比が小さくなるのに応じて、一つのてこクランク機構あたりの荷重分担が大きくなる場合がある。
【0042】
そこで、無段変速機を構成する部材の特性等によって定まる最大値となるトルクを伝達し得る回転半径のうち、変速比が最小になるときの回転半径において、上記の条件式(3),(4)又は条件式(5),(6)を満足するように構成すれば、てこクランク機構1つあたりの荷重分担が最も大きい状態で荷重を軽減することができるので、より効果的に揺動リンクの揺動運動による振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の第1実施形態の無段変速機を示す断面図。
図2】第1実施形態の無段変速機の回転半径調節機構、コネクティングロッド及び揺動リンクを軸方向から示す模式図。
図3】第1実施形態の無段変速機の回転半径調節機構の回転半径の変化を示す模式図であり、(a)は回転半径が最大、(b)は回転半径が中、(c)は回転半径が小、(d)は回転半径が「0」である場合を示す。
図4】第1実施形態の無段変速機の回転半径調節機構の回転半径の変化と、揺動リンクの揺動運動の揺動角との関係を示す模式図であり、(a)は回転半径が最大、(b)は回転半径が中、(c)は回転半径が小である場合の揺動リンクの揺動運動の揺動角を示す。
図5】第1実施形態の無段変速機の回転半径調節機構の回転半径の変化に対する揺動リンクの角速度の変化を示すグラフ。
図6】第1実施形態の無段変速機の変速機ケースを示す斜視図。
図7】第1実施形態の無段変速機の入出力軸間で動力伝達が行われていない場合の、てこクランク機構の構成部材の長さと、入出力軸間の距離との関係を示す説明図。
図8】出力軸が所定の角速度で回転している場合における、第1実施形態の無段変速機のてこクランク機構の動作を示す模式図であり、(a)は揺動端部が内死点にある状態、(b)は揺動端部が噛合点にある状態、(c)は揺動端部が最大角速度点にある状態、(d)は揺動端部が最大荷重点にある状態、(e)は揺動端部が外死点にある状態を示す。
図9図8に示した状態における、第1実施形態の無段変速機の入力軸及び出力軸の角速度の変化を示すグラフ。
図10】第1実施形態の無段変速機の入出力軸間調整機構の構成を示す断面図であり、(a)は揺動リンクから出力軸に駆動力が伝達されていない状態、(b)は揺動リンクから出力軸に駆動力が伝達されている状態を示す。
図11】第1実施形態の無段変速機のてこクランク機構の構成部材の長さと、入出力軸間の距離を示す説明図であり、(a)は距離Lpが変化する前の状態、(b)は距離Lpが変化した後の状態を示す。
図12】第1実施形態の無段変速機のてこクランク機構において、回転半径同一の場合における入出力軸間の距離に対する変速比の変化を示すグラフ。
図13】第1実施形態の無段変速機の回転半径調節機構の回転半径の変化に対する出力軸トルクの変化を示すグラフ。
図14】第1実施形態の無段変速機の出力軸トルクの変化を示すグラフであり、(a)は回転半径調節機構の回転半径が図10に示すグラフのR1aであるときの状態、(b)は回転半径調節機構の回転半径が図10に示すグラフのR1bであるときの状態を示す。
図15】本発明の第2実施形態の無段変速機の回転半径調節機構、コネクティングロッド及び揺動リンクを軸方向から示す模式図。
図16】出力軸が所定の角速度で回転している場合における、第2実施形態の無段変速機のてこクランク機構の動作を示す模式図であり、(a)は揺動端部が外死点にある状態、(b)は揺動端部が噛合点にある状態、(c)は揺動端部が最大角速度点にある状態、(d)は揺動端部が最大荷重点にある状態、(e)は揺動端部が内死点にある状態を示す。
図17】第2実施形態の無段変速機の入出力軸間調整機構の構成を示す断面図であり、(a)は揺動リンクから出力軸に駆動力が伝達されていない状態、(b)は揺動リンクから出力軸に駆動力が伝達されている状態を示す。
図18】第2実施形態の無段変速機のてこクランク機構の構成部材の長さと、入出力軸間の距離を示す説明図あり、(a)は距離Lpが変化する前の状態、(b)は距離Lpが変化した後の状態を示す。
図19】本発明の第3実施形態の無段変速機の回転半径調節機構、コネクティングロッド及び揺動リンクを軸方向から示す模式図。
図20】第3実施形態の無段変速機の入出力軸間調整機構の構成を示す断面図であり、(a)は揺動リンクから出力軸に駆動力が伝達されていない状態、(b)は揺動リンクから出力軸に駆動力が伝達されている状態を示す。
図21】本発明の第4実施形態の無段変速機の回転半径調節機構、コネクティングロッド及び揺動リンクを軸方向から示す模式図。
図22】第4実施形態の無段変速機の入出力軸間調整機構の構成を示す断面図であり、(a)は揺動リンクから出力軸に駆動力が伝達されていない状態、(b)は揺動リンクから出力軸に駆動力が伝達されている状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の無段変速機の実施形態を説明する。本実施形態の無段変速機は、四節リンク機構型の無段変速機であり、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、いわゆるIVT(Infinity Variable Transmission)の一種である。
【0045】
[第1実施形態]
図1図14を参照して、本発明の無段変速機の第1実施形態について説明する。
【0046】
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態の無段変速機1Aの構成について説明する。
【0047】
本実施形態の無段変速機1Aは、入力部である入力軸2と、出力軸3と、6つの回転半径調節機構4とを備える。
【0048】
入力軸2は、一方の端部が閉塞された中空の部材であり、閉塞された端部側から内燃機関であるエンジン22や電動機等の走行用駆動源からの回転駆動力を受けることで入力軸2の回転中心軸線P1を中心に回転する。
【0049】
出力軸3は、入力軸2に平行に配置され、図外のデファレンシャルギヤやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪等の駆動部に回転駆動力を伝達する。
【0050】
各回転半径調節機構4は、入力軸2の回転中心軸線P1を中心として回転するように設けられ、カム部としてのカムディスク5と、回転部としての回転ディスク6と、ピニオンシャフト7とを有する。
【0051】
カムディスク5は、円盤形状であり、入力軸2の回転中心軸線P1から偏心して入力軸2と一体的に回転するように入力軸2に2個1組で設けられている。各1組のカムディスク5は、それぞれ位相が60°異なるように設定され、6組のカムディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置されている。
【0052】
回転ディスク6は、その中心から偏心した位置に受入孔6aが設けられた円盤形状であり、その受入孔6aを介して、1組のカムディスク5に対して1つずつ、回転自在に外嵌している。
【0053】
回転ディスク6の受入孔6aは、その中心が、入力軸2の回転中心軸線P1からカムディスク5の中心P2(受入孔6aの中心)までの距離Raとカムディスク5の中心P2から回転ディスク6の中心P3までの距離Rbとが同一となるように形成されている。また、回転ディスク6の受入孔6aには、1組のカムディスク5の間となる位置に、内歯6bが設けられている。
【0054】
ピニオンシャフト7は、中空の入力軸2内に、入力軸2と同心に配置され、入力軸2に対して相対回転自在になっている。また、ピニオンシャフト7の外周には、外歯7aが設けられている。さらに、ピニオンシャフト7には、差動機構8が接続されている。
【0055】
ところで、入力軸2には、1組のカムディスク5の間となる位置において、入力軸2の回転中心軸線P1に対してカムディスク5の偏心方向とは逆の方向にある周面に、内周面と外周面とを連通させる切欠孔2aが形成されている。その入力軸2の切欠孔2aを介して、ピニオンシャフト7の外周に設けられた外歯7aは、回転ディスク6の受入孔6aの内周に設けられた内歯6bと噛合している。
【0056】
差動機構8は、遊星歯車機構として構成され、サンギヤ9と、入力軸2に連結された第1リングギヤ10と、ピニオンシャフト7に連結された第2リングギヤ11と、サンギヤ9及び第1リングギヤ10と噛合する大径部12aと、第2リングギヤ11と噛合する小径部12bとからなる段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを有している。また、差動機構8のサンギヤ9は、ピニオンシャフト7用の電動機からなる調節用駆動源14の回転軸14aに連結されている。
【0057】
そのため、調節用駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度と同一にした場合、サンギヤ9と第1リングギヤ10とが同一速度で回転することとなる。その結果、サンギヤ9、第1リングギヤ10、第2リングギヤ11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギヤ11と連結するピニオンシャフト7が入力軸2と同一速度で回転する。
【0058】
調節用駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くした場合、サンギヤ9の回転数をNs、第1リングギヤ10の回転数をNR1、サンギヤ9と第1リングギヤ10のギヤ比(第1リングギヤ10の歯数/サンギヤ9の歯数)をjとすると、キャリア13の回転数が(j・NR1+Ns)/(j+1)となる。また、サンギヤ9と第2リングギヤ11のギヤ比((第2リングギヤ11の歯数/サンギヤ9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギヤ11の回転数が{j(k+1)NR1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
【0059】
入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とに差がある場合には、回転ディスク6はカムディスク5の中心P2を中心にカムディスク5の周縁を回転する。
【0060】
図2に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5に対して、P1からP2までの距離RaとP2からP3までの距離Rbとが同一となるように偏心している。そのため、回転ディスク6の中心P3を入力軸2の回転中心軸線P1と同一線上に位置させて、入力軸2の回転中心軸線P1と回転ディスク6の中心P3との距離(回転半径調節機構4の回転半径)、すなわち、偏心量R1を「0」にすることもできる。
【0061】
回転半径調節機構4の回転ディスク6の周縁には、コネクティングロッド15が回転自在に外嵌している。
【0062】
コネクティングロッド15は、一方の端部に大径の大径環状部15aを有し、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを有している。コネクティングロッド15の大径環状部15aは、ボールベアリングからなるコネクティングロッド軸受16を介して、回転ディスク6に外嵌している。
【0063】
出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17Aを介して、揺動リンク18が軸支されている。
【0064】
一方向クラッチ17Aは、出力軸3の回転中心軸線P4を中心として出力軸3に対して一方側に相対回転しようとする場合に出力軸3に対して揺動リンク18を固定し、他方側に相対回転しようとする場合に出力軸3に対して揺動リンク18を空転させる。
【0065】
揺動リンク18には、揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、小径環状部15bを軸方向で挟み込むことができるように形成された一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、小径環状部15bの内径に対応する貫通孔18cが穿設されている。貫通孔18c及び小径環状部15bに連結ピン19が挿入されることによって、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結されている。
【0066】
本実施形態の無段変速機1Aにおいては、入力部として入力軸2を用い、その入力軸2に設けられているカムディスク5が入力軸2と一体的に回転する構成になっているが、本発明の無段変速機の構成はこのような構成に限られるものではない。
【0067】
例えば、カムディスクに貫通孔を設け、その貫通孔をつなげるようにしてカムディスクを軸状に連結してカムシャフトを構成し、そのカムシャフトの走行用駆動源側の端部に、走行用駆動源から伝達された駆動力によって回転する入力部を接続するようにしてもよい。
【0068】
また、本実施形態においては、一方向回転阻止機構として一方向クラッチ17Aを用いているが、本発明の無段変速機に用いられる一方向回転阻止機構はこのような一方向クラッチ17Aに限られない。例えば、揺動リンク18から出力軸3にトルクを伝達可能な揺動リンク18の出力軸3に対する回転方向を切換自在に構成される二方向クラッチ(ツーウェイクラッチ)で構成してもよい。
【0069】
次に、図1図4を参照して、本実施形態の無段変速機のてこクランク機構について説明する。
【0070】
図2に示すように、本実施形態の無段変速機1Aでは、回転半径調節機構4と、コネクティングロッド15と、揺動リンク18とで、てこクランク機構20A(四節リンク機構)が構成されている。
【0071】
このてこクランク機構20Aによって、入力軸2の回転運動は、揺動リンク18の揺動運動に変換される。本実施形態の無段変速機1Aは、図1に示すように、合計6個のてこクランク機構20Aを備えている。
【0072】
このてこクランク機構20Aでは、回転半径調節機構4の回転半径、すなわち、偏心量R1が「0」でない場合に、入力軸2とピニオンシャフト7とを同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が、60度ずつ位相を変えながら、入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり、入力軸2側に引いたりを交互に繰り返して、揺動リンク18を揺動させる。
【0073】
そして、揺動リンク18と出力軸3との間には一方向クラッチ17Aが設けられている。この一方向クラッチ17Aは、コネクティングロッド15によって、揺動リンク18が入力軸2から離れるように押された場合には、揺動リンク18が固定されて出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されて出力軸3が回転するように構成されている。
【0074】
また、一方向クラッチ17Aは、揺動リンク18が入力軸2に近づくように引かれた場合には、揺動リンク18が空回りして出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、出力軸3が回転しないように構成されている。
【0075】
6つの回転半径調節機構4は、それぞれ60度ずつ位相を変えて配置されているので、出力軸3は6つの回転半径調節機構4で順に回転させられる。
【0076】
また、本実施形態の無段変速機1Aでは、図3に示すように、回転半径調節機構4の回転半径、すなわち、偏心量R1を調節自在としている。
【0077】
図3(a)は、偏心量R1を「最大」とした状態を示し、入力軸2の回転中心軸線P1とカムディスク5の中心P2と回転ディスク6の中心P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト7と回転ディスク6とが位置する。この場合の変速比iは最小となる。図3(b)は、偏心量R1を図3(a)よりも小さい「中」とした状態を示し、図3(c)は、偏心量R1を図3(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図3(b)では図3(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図3(c)では図3(b)の変速比iよりも大きい「大」となる。図3(d)は、偏心量R1を「0」とした状態を示し、入力軸2の回転中心軸線P1と、回転ディスク6の中心P3とが同心に位置する。この場合の変速比iは無限大(∞)となる。
【0078】
また、図4は、本実施形態の回転半径調節機構4の回転半径、すなわち、偏心量R1の変化と、揺動リンク18の揺動運動の揺動角の関係を示す模式図である。
【0079】
図4(a)は偏心量R1が図3(a)の「最大」である場合(変速比iが最小である場合)、図4(b)は偏心量R1が図3(b)の「中」である場合(変速比iが中である場合)、図4(c)は偏心量R1が図3(c)の「小」である場合(変速比iが大である場合)の、回転半径調節機構4の回転運動に対する揺動リンク18の揺動範囲θ2を示している。
【0080】
ここで、出力軸3の回転中心軸線P4からコネクティングロッド15と揺動端部18aの連結点、すなわち、連結ピン19の中心P5までの距離が、揺動リンク18の長さR2である。
【0081】
この図4から明らかなように、偏心量R1が小さくなるにつれ、揺動リンク18の揺動範囲θ2が狭くなり、偏心量R1が「0」になった場合には、揺動リンク18は揺動しなくなる。
【0082】
また、図5は、無段変速機1Aの回転半径調節機構4の回転角度θ1を横軸、揺動リンク18の角速度ωを縦軸として、回転半径調節機構4の偏心量R1の変化に伴う角速度ωの変化の関係を示す図である。
【0083】
この図5から明らかなように、偏心量R1が大きい(変速比iが小さい)ほど揺動リンク18の角速度ωが大きくなることが分かる。
【0084】
次に、図1及び図6を参照して、本実施形態の無段変速機1Aの変速機ケース21について説明する。
【0085】
変速機ケース21は、図1及び図6に示すように、一端壁部21aと、一端壁部21aと対向するように配置された他端壁部21bと、6つのてこクランク機構20Aと一方向クラッチ17Aを間隔を存して覆うとともに一端壁部21aの外縁と他端壁部21bの外縁とを連結するように形成され周壁部21cとを備えている。
【0086】
そして、入力軸2の一方の端部からは、ピニオンシャフト7が突出しており、そのピニオンシャフト7は、一端壁部21aに取り付けられている差動機構ケース8aに収納された差動機構8に接続されている。一方、入力軸2の他方の端部は、他端壁部21bに取り付けられているエンジン22のクランクシャフトに不図示のねじりダンパ等を介して接続されている。
【0087】
また、出力軸3は、図外のデファレンシャルギヤやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪に回転駆動力を伝達させる。
【0088】
次に、図1図2及び図6図14を参照して、本実施形態の無段変速機1Aのてこクランク機構20Aについて詳細に説明する。
【0089】
てこクランク機構20Aは、図7に示すように、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときに、入出力軸間の距離、すなわち、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸の回転中心軸線P4との間の距離Lpが、以下の条件式(1),(2)を満足するように構成されている。
【数7】
【数8】
【0090】
ただし、入力側支点は回転半径調節機構4とコネクティングロッド15との連結点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)、出力側支点は揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点(すなわち、連結ピン19の中心P5)とする。
【0091】
そして、Lconは入力側支点と出力側支点との距離、R1は回転半径調節機構4の回転半径が所定の回転半径のときの入力軸の回転中心軸線P1と入力側支点P3との距離、R2は出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点との距離である。
【0092】
てこクランク機構20Aは、この条件式(1),(2)を満足するように構成されているので、図7に示すように、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときには、距離Lpを持つ線と距離R1を持つ線とがなす角が直角になると、距離R2を持つ線と距離Lconを持つ線とがなす角も直角になる。
【0093】
すなわち、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4との間の軸間方向における回転ディスク6の中心P3(入力側支点)の移動速度が最大になるときに、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)と連結ピン19の中心P5(出力側支点)との間の軸間方向における出力側支点の移動速度は遅くなる。
【0094】
その結果、本実施形態の無段変速機1Aは、条件式(1),(2)を満足するように構成されていない従来の無段変速機に比べ、連結ピン19の中心P5(出力側支点)の揺動運動による慣性力を抑制して、揺動リンクの揺動運動による振動を抑制することができ、その振動により入力部や出力軸の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0095】
ところで、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているときには、距離Lpがこの条件式(1),(2)を満足するように構成することが、揺動リンクの揺動運動による振動を抑制する上で必ずしも最適であるとは限らない。
【0096】
本実施形態の無段変速機1Aでは、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)の回転運動を、距離Lconの長さを持つコネクティングロッド15を介して、揺動リンク18の揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点、すなわち、連結ピン19の中心P5(出力側支点)の揺動運動に変換している。
【0097】
この回転運動の中心は、入力軸2の回転中心軸線P1、半径は、回転半径調節機構4の回転半径、すなわち、偏心量R1である。また、この揺動運動の中心は、出力軸3の回転中心軸線P4、半径は、連結ピン19の中心P5から出力軸3の回転中心軸線P4までの距離R2である。
【0098】
一方向クラッチ17Aの内側部材である出力軸3の角速度が一定の場合、てこクランク機構20Aでは、まず、図8(a)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)が回転運動を開始すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、揺動リンク18の揺動範囲のうち入力軸2に最も近い位置(以下、「内死点」という。)から、入力軸2から離れる方向に移動を開始するとともに、一方向クラッチ17Aの外側部材である揺動リンク18の環状部18dの角速度が増加し始める。この状態は、図9におけるt=t0の状態である。
【0099】
次に、図8(b)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がある程度まで回転すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、外側部材である揺動リンク18の環状部18dの角速度が一方向クラッチ17Aの内側部材である出力軸3の角速度と同一になるまで増加する位置(以下、「噛合点」という。)に到達し、出力軸3にトルクが伝達され始める。この状態は、図9におけるt=t1の状態である。
【0100】
次に、図8(c)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がさらに回転すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、一方向クラッチ17Aの外側部材である揺動リンク18の環状部18dの角速度が最大になる位置(以下、「最大角速度点」という。)に到達し、環状部18dの角速度が減少し始める。この状態は、図9におけるt=t2の状態である。
【0101】
次に、図8(d)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がさらに回転すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、外側部材である揺動リンク18の環状部18dの角速度が一方向クラッチ17Aの内側部材である出力軸3の角速度と同一になるまで減少する位置(以下、「最大荷重点」という。)に到達し、出力軸3に伝達されたトルクの累積値(図9におけるハッチングされた領域)が最大になる。この状態は、図9におけるt=t3の状態である。
【0102】
次に、図8(e)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がさらに回転すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、揺動リンク18の揺動範囲のうち出力軸3に最も遠い位置(以下、「外死点」という。)に到達し、入力軸2に近づく方向に移動を開始するとともに、一方向クラッチ17Aの外側部材である揺動リンク18の環状部18dの角速度が負の方向に増加し始める。この状態は、図9におけるt=t4の状態である。
【0103】
その後、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がさらに回転し、図8(a)〜図8(e)の状態を繰り返すようにして、揺動リンク18の揺動運動が行われる。
【0104】
このてこクランク機構20Aの動作からもわかるように、本実施形態の無段変速機1Aが備える一方向回転阻止機構である一方向クラッチ17Aは、揺動リンク18の揺動端部18aが入力軸2から離れるように動くときに、出力軸3に対して揺動リンク18を固定することによって、入力軸2から出力軸3に駆動力を伝達している。
【0105】
このとき、てこクランク機構20Aでは、入出力軸間の距離Lpは、次の条件式(3),(4)を満足するように構成されることが好ましい。
【数9】
【数10】
【0106】
ただし、入力側支点は回転半径調節機構4とコネクティングロッド15との連結点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)、出力側支点は揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点(すなわち、連結ピン19の中心P5)とする。
【0107】
そして、Lconは入力側支点と出力側支点との距離、R1は回転半径調節機構4の回転半径が所定の回転半径のときの入力軸の回転中心軸線P1と入力側支点P3との距離、R2は出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点との距離である。
【0108】
距離Lpが、この条件式(3),(4)を満足するように構成されていれば、図8(d)に示すように、所定の回転半径において、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が最大荷重点に位置するときに、コネクティングロッド15(出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点とを結ぶ線)と揺動リンク18(入力側支点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)と出力側支点とを結ぶ)とのなす角が直角になる。
【0109】
これにより、連結ピン19の中心P5(出力側支点)に最も荷重が加わるときに、その荷重のベクトルが揺動リンク18の揺動運動の接線方向と一致するので、出力側支点に加わる荷重が分散しなくなり、揺動リンク18の揺動運動による振動が抑制される。
【0110】
したがって、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているときには、距離Lpは、条件式(3),(4)を満足するように設定されていることが、揺動リンクの揺動運動による振動を抑制する上では好ましいことになる。
【0111】
そこで、本実施形態の無段変速機1Aは、図1及び図6に示すように、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4との間の距離Lpを変化させる入出力軸間調整機構23Aを備えることによって、これらの条件式(1),(2)と条件式(3),(4)を同時に満足することができるような構成になっている。
【0112】
図1に示すように、入出力軸間調整機構23Aは、変速機ケース21の一端壁部21aに設けられた一端壁部開口21a1と他端壁部21bに設けられた他端壁部側開口部21b1の各々に、1つずつ嵌め込まれている。
【0113】
そして、図10に示すように、入出力軸間調整機構23Aは、軸支部材23A1と、収容部材23A2と、ステッピングモータ23A3と、ボールネジ23A4と、制御部23A5とにより構成されている。
【0114】
軸支部材23A1は、その中心部に形成された開口にベアリング24が嵌め込まれている。そのベアリング24は、出力軸3がその回転中心軸線P4を中心として回転自在となるように、その端部を軸支している。
【0115】
収容部材23A2は、変速機ケース21に嵌め込まれ、その内部において、軸支部材23A1を、入出力軸間方向に摺動自在に保持している。
【0116】
ステッピングモータ23A3は、収容部材23A2に固定された軸間距離調整用駆動源である。このステッピングモータ23A3は、制御部23A5からの信号に従って、ボールネジ23A4に回転駆動力を伝達する。
【0117】
ボールネジ23A4は、軸支部材23A1に設けられたナットと、このナットにボール等の転動体を介して螺合するネジ軸とにより構成されている。また、ネジ軸の一方の端部は、ステッピングモータ23A3の回転子に取り付けられている。そのため、ステッピングモータ23A3の回転子が回転すると、ボールネジ23A4もその回転子と一体的に回転し、軸支部材23A1が入出力軸間方向に移動する。
【0118】
制御部23A5は、ステッピングモータ23A3がボールネジ23A4に伝達する駆動力を制御することによって、ボールネジ23A4の回転を制御し、軸支部材23A1の移動量を制御する。
【0119】
また、制御部23A5は、予め求められている1パルス当たりのステッピングモータ23A3の回転子の回転角度と、ステッピングモータ23A3の回転角度当たりの軸支部材23A1の移動量とに基づいて、制御パルスの積算値から軸支部材23A1の位置を検出している。
【0120】
揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないとき、軸支部材23A1の収容部材23A2に対する相対位置は、図10(a)に示すように、軸支部材23A1の摺動範囲の中央の位置になるように調整される。その結果、入出力軸間の距離Lpは、図11(a)に示すように、条件式(1),(2)を満足する状態になる。
【0121】
一方、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているとき、軸支部材23A1の収容部材23A2に対する相対位置は、図10(b)に示すように、入出力軸間の距離Lpが図10(a)の状態よりも長くなる位置になるように調整される。その結果、入出力軸間の距離Lpは、図11(b)に示すように、条件式(3),(4)を満足する状態になる。
【0122】
そのため、本実施形態の無段変速機1Aは、入出力軸間調整機構23Aが入出力軸間の距離Lpを、揺動リンクの揺動運動による振動を抑制するために適切な距離に調整することによって、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているかいないかに関わらず、振動を抑制することができ、その振動により入力軸2や出力軸3の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0123】
また、図11(a),(b)からも明らかなように、入出力軸間の距離Lpが長くなると、回転半径調節機構4の位相に対する揺動リンク18の位相(出力軸3に対する揺動リンク18の傾き)が変化する。
【0124】
その結果、回転半径調節機構4の回転半径、すなわち、偏心量R1が同一の場合であっても、揺動リンク18の揺動範囲が広くなる、すなわち、出力側支点の移動速度が速くなるため、変速比iが小さくなる。
【0125】
そして、出力側支点の移動速度が最も遅くなる、すなわち、揺動リンク18の揺動範囲が最も狭くなるのは、入出力軸間の距離Lpが条件式(1),(2)を満足する場合である(この場合の入出力軸間の距離を距離Lp0とする)。
【0126】
そのため、図12に示すように、回転半径調節機構4の回転半径、すなわち、偏心量R1が一定の場合には、条件式(1),(2)を満足するような入出力軸間の距離Lp0よりも距離Lpが短くなるにつれて、変速比iが小さくなる。
【0127】
したがって、本実施形態の無段変速機1Aは、入出力軸間調整機構23Aを備えることによって、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制するだけではなく、偏心量R1を変化させずに変速比iを変化させることができる。
【0128】
また、本実施形態の無段変速機1Aでは、制御部23A5によって、軸支部材23A1の位置が検出される構成になっている。
【0129】
そのため、軸支部材23A1の位置を検出する手段を別途設けなくても、ボールネジ23A4の回転量に基づき、制御パルスの積算値から、制御部23A5で軸支部材23A1の位置を検出することができる。
【0130】
ところで、本実施形態の無段変速機1Aを一般的な車両等に用いた場合、回転半径調節機構4の回転半径(すなわち、偏心量R1)の変化に対する出力軸3に加わる出力軸トルクの変化は、車両の特性などにより、図13に示すグラフのようになる。
【0131】
具体的には、出力軸トルクは、偏心量R1が所定の値(図13においてはR1b)以下の場合には、その車両の駆動輪の摩擦係数等によって定まるスリップ限界値となり、偏心量R1がR1bを超える場合には、偏心量R1の増加に伴って最大出力軸トルクが低下していく。
【0132】
また、図13において、出力軸トルクがスリップ限界値である場合には、その出力軸トルクを分担するてこクランク機構20Aの数は、常に同一とは限らない。
【0133】
例えば、偏心量R1が0に近いR1aである場合、図14(a)に示すように、ある時点において、ある出力軸トルクを分担するてこクランク機構20Aの数は4つである。
【0134】
しかし、偏心量R1がR1a(図13参照)よりも大きく、出力軸トルクが減少し始める直前のR1bである場合、図14(b)に示すように、図14(a)と同一の出力軸トルクを分担するてこクランク機構20Aの数は3つである。
【0135】
このように、最大出力軸トルクが一定の状態においては、偏心量R1の増加に伴って、1つのてこクランク機構20Aが分担する荷重は大きくなる場合がある。
【0136】
そこで、本実施形態の無段変速機1Aでは、図13に示すような特性を持つ車両等に用いられる場合には、上記の条件式(3)及び条件式(4)を満足するときの偏心量R1を、R1bとしている。
【0137】
すなわち、本実施形態の無段変速機1Aは、条件式(3)を満足する場合の回転半径調節機構4の所定の回転半径(偏心量R1)が、出力軸3に伝達されるトルクが最大になる回転半径(偏心量0〜R1b)のうち、変速比iが最大になる場合の回転半径(偏心量R1b)になるように構成されている。
【0138】
そのため、出力軸3に加わる荷重が最も大きく、かつ、その荷重を分担するてこクランク機構の数が最も少ない状態で、コネクティングロッド15と揺動リンク18とのなす角が直角になるので、連結ピン19の中心P5に加わる最大荷重を極小化して、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制することができ、その振動により入力軸2や出力軸3の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0139】
[第2実施形態]
図15図18を参照して、本発明の第2実施形態の無段変速機1Bについて説明する。ただし、本実施形態の無段変速機1Bは、てこクランク機構、一方向回転阻止機構である一方向クラッチ及び入出力軸間調整機構を除き、第1実施形態の無段変速機1Aと同じ構成であるので、てこクランク機構、一方向クラッチ及び入出力軸間調整機構についてのみ説明する。
【0140】
図15に示すように、本実施形態の無段変速機1Bには、揺動リンク18と出力軸3との間に一方向クラッチ17Bが設けられている。
【0141】
この一方向クラッチ17Bは、コネクティングロッド15によって、揺動リンク18が入力軸2に近づくように引かれた場合には、揺動リンク18が固定されて出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達され、出力軸3が回転するように構成されている。
【0142】
また、一方向クラッチ17Bは、揺動リンク18が入力軸2から離れるように押された場合には、揺動リンク18が空回りして出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、出力軸3が回転しないように構成されている。
【0143】
そして、てこクランク機構20Bは、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときに、入出力軸間の距離、すなわち、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸の回転中心軸線P4との間の距離Lpが、以下の条件式(1),(2)を満足するように構成されている。
【数11】
【数12】
【0144】
ただし、入力側支点は回転半径調節機構4とコネクティングロッド15との連結点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)、出力側支点は揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点(すなわち、連結ピン19の中心P5)とする。
【0145】
そして、Lconは入力側支点と出力側支点との距離、R1は回転半径調節機構4の回転半径が所定の回転半径のときの入力軸の回転中心軸線P1と入力側支点P3との距離、R2は出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点との距離である。
【0146】
てこクランク機構20Bがこのように構成されているので、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときには、距離Lpを持つ線と距離R1を持つ線とがなす角が直角になると、距離R2を持つ線と距離Lconを持つ線とがなす角も直角になる。
【0147】
すなわち、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4との間の軸間方向における回転ディスク6の中心P3(入力側支点)の移動速度が最大になるときに、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)と連結ピン19の中心P5(出力側支点)との間の軸間方向における出力側支点の移動速度は遅くなる。
【0148】
その結果、本実施形態の無段変速機1Bは、条件式(1),(2)を満足するように構成されていない従来の無段変速機に比べ、連結ピン19の中心P5(出力側支点)の揺動運動による慣性力を抑制して、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制することができ、その振動により入力部や出力軸の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0149】
ところで、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているときには、距離Lpがこの条件式(1),(2)を満足するように構成することが、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制する上で必ずしも最適であるとは限らない。
【0150】
本実施形態の無段変速機1Bでは、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)の回転運動を、距離Lconの長さを持つコネクティングロッド15を介して、揺動リンク18の揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点、すなわち、連結ピン19の中心P5(出力側支点)の揺動運動に変換している。
【0151】
この回転運動の中心は、入力軸2の回転中心軸線P1、半径は、回転半径調節機構4の回転半径、すなわち、偏心量R1である。また、この揺動運動の中心は、出力軸3の回転中心軸線P4、半径は、連結ピン19の中心P5から出力軸3の回転中心軸線P4までの距離R2である。
【0152】
一方向クラッチ17Bの内側部材である出力軸3の角速度が一定の場合、てこクランク機構20Bでは、まず、図16(a)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)が回転運動を開始すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、外死点から、入力軸2に近づく方向に移動を開始するとともに、一方向クラッチ17Bの外側部材である揺動リンク18の環状部18dの角速度が増加し始める。
【0153】
次に、図16(b)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がある程度まで回転すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、噛合点に到達し、出力軸3にトルクが伝達され始める。
【0154】
次に、図16(c)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がさらに回転すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、最大角速度点に到達し、環状部18dの角速度が減少し始める。
【0155】
次に、図16(d)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がさらに回転すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、最大荷重点に到達し、出力軸3に伝達されたトルクの累積値が最大になる。
【0156】
次に、図16(e)に示すように、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がさらに回転すると、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が、内死点に到達し、入力軸2から離れる方向に移動を開始するとともに、一方向クラッチ17Bの外側部材である揺動リンク18の環状部18dの角速度が負の方向に増加し始める。
【0157】
その後、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)がさらに回転し、図16(a)〜図16(e)の状態を繰り返すようにして、揺動リンク18の揺動運動が行われる。
【0158】
このてこクランク機構20Bの動作からもわかるように、本実施形態の無段変速機1Bが備える一方向回転阻止機構である一方向クラッチ17Bは、揺動リンク18の揺動端部18aが入力軸2に近づくように動くときに、出力軸3に対して揺動リンク18を固定することによって、入力軸2から出力軸3に駆動力を伝達している。
【0159】
このとき、てこクランク機構20Bでは、入出力軸間の距離Lpは、次の条件式(5),(6)を満足するように構成されることが好ましい。
【数13】
【数14】
【0160】
ただし、入力側支点は回転半径調節機構4とコネクティングロッド15との連結点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)、出力側支点は揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点(すなわち、連結ピン19の中心P5)とする。
【0161】
そして、Lconは入力側支点と出力側支点との距離、R1は回転半径調節機構4の回転半径が所定の回転半径のときの入力軸の回転中心軸線P1と入力側支点P3との距離、R2は出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点との距離である。
【0162】
距離Lpが、この条件式(5),(6)を満足するように構成されていれば、図16(d)に示すように、所定の回転半径において、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が最大荷重点に位置するときに、コネクティングロッド15(出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点とを結ぶ線)と揺動リンク18と(入力側支点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)と出力側支点とを結ぶ)のなす角が直角になる。
【0163】
これにより、連結ピン19の中心P5(出力側支点)に最も荷重が加わるときに、その荷重のベクトルが揺動リンク18の揺動運動の接線方向と一致するので、出力側支点に加わる荷重が分散しなくなり、揺動リンク18の揺動運動による振動が抑制される。
【0164】
したがって、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているときには、距離Lpは、条件式(5),(6)を満足するように設定されていることが、振動を抑制する上では好ましいことになる。
【0165】
そこで、本実施形態の無段変速機1Bは、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4との間の距離Lpを変化させる入出力軸間調整機構23Bを備えることによって、これらの条件式(1),(2)と条件式(5),(6)を同時に満足することができるような構成になっている。
【0166】
図17に示すように、入出力軸間調整機構23Bは、軸支部材23B1と、収容部材23B2と、ステッピングモータ23B3と、ボールネジ23B4と、制御部23B5とにより構成されている。
【0167】
揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないとき、軸支部材23B1の収容部材23B2に対する相対位置は、図17(a)に示すように、軸支部材23B1の摺動範囲の中央の位置になるように調整される。その結果、入出力軸間の距離Lpは、図18(a)に示すように、条件式(1),(2)を満足する状態になる。
【0168】
一方、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているとき、軸支部材23B1の収容部材23B2に対する相対位置は、図17(b)に示すように、入出力軸間の距離Lpが図17(a)の状態よりも短くなる位置になるように調整される。その結果、入出力軸間の距離Lpは、図18(b)に示すように、条件式(5),(6)を満足する状態になる。
【0169】
そのため、本実施形態の無段変速機1Bは、入出力軸間調整機構23Bが入出力軸間の距離Lpを、振動を抑制するために適切な距離に調整することによって、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているかいないかに関わらず、振動を抑制することができ、その振動により入力軸2や出力軸3の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0170】
また、図18(a),(b)からも明らかなように、入出力軸間の距離Lpが短くなると、回転半径調節機構4の位相に対する揺動リンク18の位相(出力軸3に対する揺動リンク18の傾き)が変化する。
【0171】
その結果、回転半径調節機構4の回転半径、すなわち、偏心量R1が同一の場合であっても、揺動リンク18の揺動範囲が広くなる、すなわち、出力側支点の移動速度が速くなるため、変速比iが小さくなる。
【0172】
したがって、本実施形態の無段変速機1Bは、入出力軸間調整機構23Bを備えることによって、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制するだけではなく、回転半径調節機構の回転半径、すなわち、偏心量R1を変化させずに変速比iを変化させることができる。
【0173】
[第3実施形態]
図19及び図20を参照して、本発明の第3実施形態の無段変速機1Cについて説明する。ただし、本実施形態の無段変速機1Cは、てこクランク機構、一方向回転阻止機構である一方向クラッチ及び入出力軸間調整機構を除き、第1実施形態の無段変速機1A及び第2実施形態の無段変速機1Bと同じ構成であるので、てこクランク機構、一方向クラッチ及び入出力軸間調整機構についてのみ説明する。
【0174】
図19に示すように、本実施形態の無段変速機1Cには、揺動リンク18と出力軸3との間に一方向クラッチ17Cが設けられている。
【0175】
この一方向クラッチ17Cは、コネクティングロッド15によって、揺動リンク18が入力軸2から離れるように押された場合には、揺動リンク18が固定されて出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達され、出力軸3が回転するように構成されている。
【0176】
また、一方向クラッチ17Cは、揺動リンク18が入力軸2に近づくように引かれた場合には、揺動リンク18が空回りして出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、出力軸3が回転しないように構成されている。
【0177】
そして、てこクランク機構20Cは、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときに、入出力軸間の距離、すなわち、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸の回転中心軸線P4との間の距離Lpが、以下の条件式(1),(2)を満足するように構成されている。
【数15】
【数16】
【0178】
ただし、入力側支点は回転半径調節機構4とコネクティングロッド15との連結点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)、出力側支点は揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点(すなわち、連結ピン19の中心P5)とする。
【0179】
そして、Lconは入力側支点と出力側支点との距離、R1は回転半径調節機構4の回転半径が所定の回転半径のときの入力軸の回転中心軸線P1と入力側支点P3との距離、R2は出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点との距離である。
【0180】
てこクランク機構20Cがこのように構成されているので、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときには、距離Lpを持つ線と距離R1を持つ線とがなす角が直角になると、距離R2を持つ線と距離Lconを持つ線とがなす角も直角になる。
【0181】
すなわち、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4との間の軸間方向における回転ディスク6の中心P3(入力側支点)の移動速度が最大になるときに、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)と連結ピン19の中心P5(出力側支点)との間の軸間方向における出力側支点の移動速度は遅くなる。
【0182】
その結果、本実施形態の無段変速機1Cは、条件式(1),(2)を満足するように構成されていない従来の無段変速機に比べ、連結ピン19の中心P5(出力側支点)の揺動運動による慣性力を抑制して、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制することができ、その振動により入力部や出力軸の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0183】
ところで、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているときには、距離Lpがこの条件式(1),(2)を満足するように構成することが、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制する上で必ずしも最適であるとは限らない。
【0184】
例えば、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているときには、てこクランク機構20Cでは、入出力軸間の距離Lpは、次の条件式(3),(4)を満足するように構成されることが好ましい。
【数17】
【数18】
【0185】
ただし、入力側支点は回転半径調節機構4とコネクティングロッド15との連結点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)、出力側支点は揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点(すなわち、連結ピン19の中心P5)とする。
【0186】
そして、Lconは入力側支点と出力側支点との距離、R1は回転半径調節機構4の回転半径が所定の回転半径のときの入力軸の回転中心軸線P1と入力側支点P3との距離、R2は出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点との距離である。
【0187】
距離Lpが、この条件式(3),(4)を満足するように構成されていれば、所定の回転半径において、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が最大荷重点に位置するときに、コネクティングロッド15(出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点とを結ぶ線)と揺動リンク18(入力側支点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)と出力側支点とを結ぶ)とのなす角が直角になる。
【0188】
これにより、連結ピン19の中心P5(出力側支点)に最も荷重が加わるときに、その荷重のベクトルが揺動リンク18の揺動運動の接線方向と一致するので、出力側支点に加わる荷重が分散しなくなり、揺動リンク18の揺動運動による振動が抑制される。
【0189】
そこで、本実施形態の無段変速機1Cは、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4との間の距離Lpを変化させる入出力軸間調整機構23Cを備えることによって、これらの条件式(1),(2)と条件式(3),(4)を同時に満足することができるような構成になっている。
【0190】
図20に示すように、入出力軸間調整機構23Cは油圧回路であり、出力軸3の両端部の各々に設けられている。そして、入出力軸間調整機構23Cは、軸支部材23C1と、収容部材23C2と、第1の弾性部材であるバネ23C3と、第2の弾性部材であるバネ23C4と、連通路23C5と、弁部であるソレノイドバルブ23C6と、ストロークセンサ23C7と、制御部23C8により構成されている。
【0191】
軸支部材23C1は、その中心部に形成された開口にベアリング24が嵌め込まれている。そのベアリング24は、出力軸3がその回転中心軸線P4を中心として回転自在となるように、その端部を軸支している。
【0192】
収容部材23C2は、変速機ケース21に嵌め込まれ、その内部において、軸支部材23C1を、入出力軸間方向に摺動自在に保持している。また、その内部は、軸支部材23C1により軸支部材23C1の摺動方向に区切られて2つの内部空間が構成されている。さらに、その2つの内部空間には、オイル等の粘性流体が充填されている。
【0193】
バネ23C3は、収容部材23C2に対して軸支部材23C1を、入出力軸間の距離Lpを縮める方向に付勢している。
【0194】
バネ23C4は、収容部材23C2に対して軸支部材23C1を、入出力軸間の距離Lpを伸ばす方向に付勢している。
【0195】
連通路23C5は、収容部材23C2の内部で軸支部材23C1により画成された2つの内部空間を連通させるように形成されている。
【0196】
ソレノイドバルブ23C6は、連通路23C5に流れる油量を制御するために設けられており、制御部23C8によってその駆動が制御されている。このソレノイドバルブ23C6は、連通路23C5の途中に設けられた小径部を閉塞するためのボールと、そのボールを小径部を閉塞する方向に付勢するバネと、そのバネの付勢方向とは反対方向にボールを移動させるために磁力で突出自在な軸部材とにより構成されている。
【0197】
ストロークセンサ23C7は、軸支部材23C1の収容部材23C2に対する相対的な位置を検出し、その検出した値を制御部23C8に送信する。
【0198】
制御部23C8は、2つのストロークセンサ23C7から送信された検出値に基づいて、出力軸3の両端部に位置する2つの軸支部材23C1の移動量が一致するように、ソレノイドバルブ23C6の軸部材を突出させて、連通路23C5の小径部を閉塞しているボールをバネの付勢力に抗して移動させることによって、ボールと小径部との間の隙間を制御し、連通路23C5に流れる油量を制御する。
【0199】
揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないとき、ソレノイドバルブ23C6が開放状態であれば、軸支部材23C1の収容部材23C2に対する相対位置は、入出力軸間調整機構23Cが備える2つのバネ23C3,23C4が付勢する力によって、図20(a)に示すように、軸支部材23C1の摺動範囲の中央の位置に自動的に調整される。その結果、入出力軸間の距離Lpは、条件式(1),(2)を満足する状態になる。
【0200】
一方、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているとき、ソレノイドバルブ23C6が開放状態であれば、軸支部材23C1の収容部材23C2に対する相対位置は、回転半径調節機構4から、コネクティングロッド15、揺動リンク18を介して加えられた力によって、図20(b)に示すように、入出力軸間の距離Lpが図20(a)の状態よりも長くなる位置になるように調整される。その結果、入出力軸間の距離Lpは、条件式(3),(4)を満足する状態になる。
【0201】
そのため、本実施形態の無段変速機1Cは、入出力軸間調整機構23Cが入出力軸間の距離Lpを、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制するために適切な距離に自動的に調整することによって、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているかいないかに関わらず、振動を抑制することができ、その振動により入力軸2や出力軸3の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0202】
また、入出力軸間調整機構23Cによって入出力軸間の距離Lpを変化させると、2つのバネ23C3,23C4の弾性力によって、軸支部材23C1がしばらく振動しようとする。しかし、その振動は、収容部材23C2の2つの内部空間に充填された粘性流体が連通路23C5を通るときの粘性抵抗によって、速やかに収束される。
【0203】
さらに、入出力軸間調整機構23Cは、出力軸3の両端部に設けられた入出力軸間調整機構23Cの軸支部材23C1の移動量を、各々の入出力軸間調整機構23Cが備えているストロークセンサ23C7で検出している。
【0204】
そして、それらの検出値に基づいて、制御部が、ソレノイドバルブ23C6を介して連通路23C5に流れる油量を制御し、2つの軸支部材23C1における入出力軸間の距離Lpを、それぞれ独立して調整することができる。
【0205】
その結果、振動等の理由によって入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4とが平行でなくなってしまった場合であっても、出力軸3の両端部に設けられた入出力軸間調整機構23Cの一方のみを作動させて、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4とを平行にし、出力軸3の入力軸2に対する相対的な傾きを防止することができる。
【0206】
[第4実施形態]
図21及び図22を参照して、本発明の第4実施形態の無段変速機1Dについて説明する。ただし、本実施形態の無段変速機1Dは、てこクランク機構、一方向回転阻止機構である一方向クラッチ及び入出力軸間調整機構を除き、第1実施形態の無段変速機1A、第2実施形態の無段変速機1B及び第3実施形態の無段変速機1Cと同じ構成であるので、てこクランク機構、一方向クラッチ及び入出力軸間調整機構についてのみ説明する。
【0207】
図21に示すように、本実施形態の無段変速機1Dには、揺動リンク18と出力軸3との間に一方向クラッチ17Dが設けられている。
【0208】
この一方向クラッチ17Dは、コネクティングロッド15によって、揺動リンク18が入力軸2に近づくように引かれた場合には、揺動リンク18が固定されて出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達され、出力軸3が回転するように構成されている。
【0209】
また、一方向クラッチ17Dは、揺動リンク18が入力軸2から離れるように押された場合には、揺動リンク18が空回りして出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、出力軸3が回転しないように構成されている。
【0210】
そして、てこクランク機構20Dは、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときに、入出力軸間の距離、すなわち、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸の回転中心軸線P4との間の距離Lpが、以下の条件式(1),(2)を満足するように構成されている。
【数19】
【数20】
【0211】
ただし、入力側支点は回転半径調節機構4とコネクティングロッド15との連結点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)、出力側支点は揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点(すなわち、連結ピン19の中心P5)とする。
【0212】
そして、Lconは入力側支点と出力側支点との距離、R1は回転半径調節機構4の回転半径が所定の回転半径のときの入力軸の回転中心軸線P1と入力側支点P3との距離、R2は出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点との距離である。
【0213】
てこクランク機構20Dがこのように構成されているので、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときには、距離Lpを持つ線と距離R1を持つ線とがなす角が直角になると、距離R2を持つ線と距離Lconを持つ線とがなす角も直角になる。
【0214】
すなわち、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4との間の軸間方向における回転ディスク6の中心P3(入力側支点)の移動速度が最大になるときに、回転ディスク6の中心P3(入力側支点)と連結ピン19の中心P5(出力側支点)との間の軸間方向における出力側支点の移動速度は遅くなる。
【0215】
その結果、本実施形態の無段変速機1Dは、条件式(1),(2)を満足するように構成されていない従来の無段変速機に比べ、連結ピン19の中心P5(出力側支点)の揺動運動による慣性力を抑制して、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制することができ、その振動により入力部や出力軸の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0216】
ところで、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているときには、距離Lpがこの条件式(1),(2)を満足するように構成することが、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制する上で必ずしも最適であるとは限らない。
【0217】
例えば、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているときには、てこクランク機構20Dでは、入出力軸間の距離Lpは、次の条件式(5),(6)を満足するように構成されることが好ましい。
【数21】
【数22】
【0218】
ただし、入力側支点は回転半径調節機構4とコネクティングロッド15との連結点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)、出力側支点は揺動端部18aとコネクティングロッド15との連結点(すなわち、連結ピン19の中心P5)とする。
【0219】
そして、Lconは入力側支点と出力側支点との距離、R1は回転半径調節機構4の回転半径が所定の回転半径のときの入力軸の回転中心軸線P1と入力側支点P3との距離、R2は出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点との距離である。
【0220】
距離Lpが、この条件式(5),(6)を満足するように構成されていれば、所定の回転半径において、連結ピン19の中心P5(出力側支点)が最大荷重点に位置するときに、コネクティングロッド15(出力軸3の回転中心軸線P4と出力側支点とを結ぶ線)と揺動リンク18(入力側支点(すなわち、回転ディスク6の中心P3)と出力側支点とを結ぶ)とのなす角が直角になる。
【0221】
これにより、連結ピン19の中心P5(出力側支点)に最も荷重が加わるときに、その荷重のベクトルが揺動リンク18の揺動運動の接線方向と一致するので、出力側支点に加わる荷重が分散しなくなり、揺動リンク18の揺動運動による振動が抑制される。
【0222】
そこで、本実施形態の無段変速機1Dは、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4との間の距離Lpを変化させる入出力軸間調整機構23Dを備えることによって、これらの条件式(1),(2)と条件式(3),(4)を同時に満足することができるような構成になっている。
【0223】
図22に示すように、入出力軸間調整機構23Dは油圧回路であり、出力軸3の両端部の各々に設けられている。そして、入出力軸間調整機構23Dは、軸支部材23D1と、収容部材23D2と、第1の弾性部材であるバネ23D3と、第2の弾性部材であるバネ23D4と、連通路23D5と、弁部であるソレノイドバルブ23D6と、ストロークセンサ23D7と、制御部23D8により構成されている。
【0224】
軸支部材23D1は、その中心部に形成された開口にベアリング24が嵌め込まれている。そのベアリング24は、出力軸3がその回転中心軸線P4を中心として回転自在となるように、その端部を軸支している。
【0225】
収容部材23D2は、変速機ケース21に嵌め込まれ、その内部において、軸支部材23D1を、入出力軸間方向に摺動自在に保持している。また、その内部は、軸支部材23D1により軸支部材23D1の摺動方向に区切られて2つの内部空間が構成されている。さらに、その2つの内部空間には、オイル等の粘性流体が充填されている。
【0226】
バネ23D3は、収容部材23D2に対して軸支部材23D1を、入出力軸間の距離Lpを縮める方向に付勢している。
【0227】
バネ23D4は、収容部材23D2に対して軸支部材23D1を、入出力軸間の距離Lpを伸ばす方向に付勢している。
【0228】
連通路23D5は、収容部材23D2の内部で軸支部材23D1により画成された2つの内部空間を連通させるように形成されている。
【0229】
ソレノイドバルブ23D6は、連通路23D5に流れる油量を制御するために設けられており、制御部23D8によってその駆動が制御されている。このソレノイドバルブ23D6は、連通路23D5の途中に設けられた小径部を閉塞するためのボールと、そのボールを小径部を閉塞する方向に付勢するバネと、そのバネの付勢方向とは反対方向にボールを移動させるために磁力で突出自在な軸部材とにより構成されている。
【0230】
ストロークセンサ23D7は、軸支部材23D1の収容部材23D2に対する相対的な位置を検出し、その検出した値を制御部23D8に送信する。
【0231】
制御部23D8は、2つのストロークセンサ23D7から送信された検出値に基づいて、出力軸3の両端部に位置する2つの軸支部材23D1の移動量が一致するように、ソレノイドバルブ23D6を駆動して、連通路23D5に流れる油量を制御する。
【0232】
揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないとき、ソレノイドバルブ23D6が開放状態であれば、軸支部材23D1の収容部材23D2に対する相対位置は、入出力軸間調整機構23Dが備える2つのバネ23D3,23D4が付勢する力によって、図22(a)に示すように、軸支部材23D1の摺動範囲の中央の位置に自動的に調整される。その結果、入出力軸間の距離Lpは、条件式(1),(2)を満足する状態になる。
【0233】
一方、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているとき、ソレノイドバルブ23D6が開放状態であれば、軸支部材23D1の収容部材23D2に対する相対位置は、回転半径調節機構4から、コネクティングロッド15、揺動リンク18を介して加えられた力によって、図22(b)に示すように、入出力軸間の距離Lpが図22(a)の状態よりも短くなる位置になるように調整される。その結果、入出力軸間の距離Lpは、条件式(5),(6)を満足する状態になる。
【0234】
そのため、本実施形態の無段変速機1Dは、入出力軸間調整機構23Dが入出力軸間の距離Lpを、揺動リンク18の揺動運動による振動を抑制するために適切な距離に自動的に調整することによって、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達しているかいないかに関わらず、振動を抑制することができ、その振動により入力軸2や出力軸3の軸受へ加わる負荷も軽減することができる。
【0235】
また、入出力軸間調整機構23Dによって入出力軸間の距離Lpを変化させると、2つのバネ23D3,23D4の弾性力によって、軸支部材23D1がしばらく振動しようとする。しかし、その振動は、収容部材23D2の2つの内部空間に充填された粘性流体が連通路23D5を通るときの粘性抵抗によって、速やかに収束される。
【0236】
さらに、入出力軸間調整機構23Dは、出力軸3の両端部に設けられた入出力軸間調整機構23Dの軸支部材23D1の移動量を、各々の入出力軸間調整機構23Dが備えているストロークセンサ23D7で検出している。
【0237】
そして、それらの検出値に基づいて、制御部が、ソレノイドバルブ23D6を介して連通路23D5に流れる油量を制御し、2つの軸支部材23D1における入出力軸間の距離Lpを、それぞれ独立して調整することができる。
【0238】
その結果、振動等の理由によって入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4とが平行でなくなってしまった場合であっても、出力軸3の両端部に設けられた入出力軸間調整機構23Dの一方のみを作動させて、入力軸2の回転中心軸線P1と出力軸3の回転中心軸線P4とを平行にし、出力軸3の入力軸2に対する相対的な傾きを防止することができる。
【0239】
以上、図示の実施形態について説明したが、本発明はこのような形態に限られるものではない。
【0240】
上記各実施形態における無段変速機では、6つのてこクランク機構に対して、出力軸3の両端にそれぞれ1つずつ入出力軸間調整機構を備えている。
【0241】
しかし、本発明の無段変速機はこのような構成に限られるものではなく、1つのてこクランク機構に対して、出力軸の両端にそれぞれ1つずつ入出力軸間調整機構を備えるようにしてもよい。また、2〜5つ又は7つ以上のてこクランク機構に対して、出力軸の両端にそれぞれ1つずつ入出力軸間調整機構備えるようにしてもよい。
【0242】
また、上記の各実施形態における無段変速機では、入出力軸間調整機構は、出力軸のみを移動させて、入出力軸間の距離である距離Lpを調整している。
【0243】
しかし、本発明の無段変速機はこのような構成に限られるものではなく、入力軸のみを移動させて距離Lpの調整を行ってもよいし、入力軸と出力軸の両方を移動させて距離Lpの調整を行ってもよい。
【0244】
また、上記第1実施形態や第2実施形態においては、図10(a)や図17(a)に示すように、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときの軸支部材23A1,23B1の収容部材23A2,23B2に対する相対位置を、軸支部材23A1,23B1の摺動範囲の中央の位置になるように調整されている。
【0245】
これは、入出力軸間調整機構23A,23Bによって、偏心量R1を変化させずに変速比iを変化させる際に、距離Lpを距離Lp0(図12参照)よりも短くしたり長くしたりする必要があるためである。
【0246】
すなわち、入出力軸間調整機構23A,23Bによって、変速比iを変化させる必要がない場合には、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときの軸支部材23A1,23B1の収容部材23A2,23B2に対する相対位置を、軸支部材23A1,23B1の摺動範囲の中央とする必要はない。
【0247】
例えば、第1実施形態の無段変速機1Aの場合においては、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときの軸支部材23A1の収容部材23A2に対する相対位置を、収容部材23A2の図10の紙面上における左側の壁面に接触する位置としてもよい。
【0248】
逆に、第2実施形態の無段変速機1Bの場合においては、揺動リンク18が出力軸3に駆動力を伝達していないときの軸支部材23B1の収容部材23B2に対する相対位置を、収容部材23B2の図17の紙面上における右側の壁面に接触する位置としてもよい。
【符号の説明】
【0249】
1A,1B,1C,1D…無段変速機、2…入力軸(入力部)、2a…切欠孔、3…出力軸、4…回転半径調節機構、5…カムディスク(カム部)、6…回転ディスク(回転部)、6a…受入孔、6b…内歯、7…ピニオンシャフト、7a…外歯、8…差動機構、8a…差動機構ケース、9…サンギヤ、10…第1リングギヤ、11…第2リングギヤ、12…段付きピニオン、12a…大径部、12b…小径部、13…キャリア、14…調節用駆動源、14a…回転軸、15…コネクティングロッド、15a…大径環状部、15b…小径環状部、16…コネクティングロッド軸受、17A,17B,17C,17D…一方向クラッチ(一方向回転阻止機構)、18…揺動リンク、18a…揺動端部、18b…突片、18c…貫通孔、19…連結ピン、20A,20B,20C,20D…てこクランク機構、21…変速機ケース、21a…一端壁部、21a1…一端壁部側開口部、21b…他端壁部、21b1…他端壁部側開口部、21c…周壁部、22…エンジン、23A,23B,23C,23D…入出力軸間調整機構、23A1,23B1,23C1,23D1…軸支部材、23A2,23B2,23C2,23D2…収容部材、23A3,23B3…ボールネジ、23A4,23B4…ステッピングモータ(軸間距離調整用駆動源)、23A5,23B5…制御部、23C3,23D34…バネ(第1の弾性部材)、23C4,23D4…バネ(第2の弾性部材)、23C5,23D5…連通路、23C6,23D6…ソレノイドバルブ、23C7,23D7…ストロークセンサ(ストロークセンサ)、23C8,23D8…制御部、24…ベアリング、i…変速比、P1…入力軸2の回転中心軸線、P2…カムディスク5の中心、P3…回転ディスク6の中心(入力側支点)、P4…出力軸3の回転中心軸線、P5…連結ピン19の中心(出力側支点)、Ra…P1とP2の距離、Rb…P2とP3の距離、R1…P1とP3の距離(偏心量,回転半径調節機構4の回転半径)、R2…P4とP5の距離(揺動リンク18の長さ)、θ1…回転半径調節機構4の回転角度、θ2…揺動リンク18の揺動範囲。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図22