特許第6033190号(P6033190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許6033190マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法
<>
  • 特許6033190-マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法 図000002
  • 特許6033190-マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法 図000003
  • 特許6033190-マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法 図000004
  • 特許6033190-マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法 図000005
  • 特許6033190-マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法 図000006
  • 特許6033190-マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法 図000007
  • 特許6033190-マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033190
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20161121BHJP
   B23H 7/28 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   B23H7/02 Q
   B23H7/28
   B23H7/02 P
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-183145(P2013-183145)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-47685(P2015-47685A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】糸数 篤
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆
(72)【発明者】
【氏名】三宅 英孝
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭53−15597(JP,U)
【文献】 実開平3−109726(JP,U)
【文献】 特開2013−166193(JP,A)
【文献】 特開昭54−20485(JP,A)
【文献】 特開2013−158893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本のガイドローラの間に互いに離間して平行に張られたワイヤからなる切断ワイヤ部を備え、前記ワイヤを軸方向に移動させつつ複数の被加工物を前記切断ワイヤ部の側に送って複数の前記被加工物を切断するマルチワイヤ加工装置であって、
数の前記被加工物の各々と前記切断ワイヤ部との距離を個別に制御する駆動手段と、
複数の前記被加工物同士の間にパルス電圧を印加するパルス電圧発生手段とを備え、
前記駆動手段は、複数の前記被加工物の一つを前記切断ワイヤ部に接触させて切削加工により切断するとともに、複数の前記被加工物のうちの前記一つ以外の被加工物と前記切断ワイヤ部との間隔を一定に保って、複数の前記被加工物のうちの前記一つ以外の被加工物を放電加工により切断することを特徴とするマルチワイヤ加工装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、複数の前記被加工物のうち前記切断ワイヤ部に接触させる被加工物を順番に変えることを特徴とする請求項1に記載のマルチワイヤ加工装置。
【請求項3】
前記切断ワイヤ部を複数有し、
複数の前記切断ワイヤ部の各々に加工液を供給する加工液供給手段と、
複数の前記切断ワイヤ部の各々に供給された加工液を回収する加工液回収槽とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチワイヤ加工装置。
【請求項4】
2本のガイドローラの間に互いに離間して平行に張られたワイヤからなる切断ワイヤ部の側に複数の被加工物を送りつつ前記ワイヤを軸方向に移動させて、複数の前記被加工物を切断するマルチワイヤ加工方法であって、
複数の前記被加工物の一つを前記切断ワイヤ部に接触させて切削加工により切断する処理と、複数の前記被加工物のうちの前記一つ以外の被加工物と前記切断ワイヤ部との間隔を一定に保ちつつ複数の前記被加工物同士の間にパルス電圧を印加して、複数の前記被加工物のうちの前記一つ以外の被加工物を放電加工により切断する処理とを同時に行うことを特徴とするマルチワイヤ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法に関し、特に、間隔をおいて配置された複数本のガイドローラに一本のワイヤを巻きかけることによって形成された複数の切断ワイヤ部と被加工物との間にパルス電圧を印加して、被加工物を複数片に切削切断及び放電切断するマルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体インゴットをウェハ状に切り出す手段としてマルチワイヤソーが知られている。マルチワイヤソーは、複数のガイドローラ間に切断用のワイヤを巻回することにより、加工対象である半導体インゴットに対して複数本の切断ワイヤ部を構成している。この切断ワイヤ部をその軸方向に高速駆動しながら、半導体インゴットを切断ワイヤ部へ押し付けることで、半導体インゴットを複数のウェハ状に加工する。
【0003】
マルチワイヤソーの一構成形態として、特許文献1では、二つのインゴットを同時に切断することを可能とした装置が提案されている。これによると、二つのインゴットを同時時切断できるため、一つのインゴットを切断するマルチワイヤソーと比較してウェハの生産量を改善している。
【0004】
一方、一本のワイヤ電極を複数のガイドローラ間で巻回させることにより柱状の被加工物に対し複数の切断ワイヤ部を形成し、切断ワイヤ部と柱状の被加工物との間に独立にパルス電流を印加し放電を発生させることで、被加工物から複数の薄板を一括して切り出すマルチワイヤ放電加工技術が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−274167号公報
【特許文献2】特開2012−240128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シリコンカーバイドなどに代表される高硬度材料の加工において、特許文献1の方法による切削加工では、切削抵抗の増加に伴う工具の摩耗により加工能力が低下するため、加工速度が低下するという問題があった。
【0007】
また、切断ワイヤ部に複数インゴットを対向して設置し、特許文献2のような放電式ワイヤソーにより同時に加工する方法も考えられるが、切断ワイヤとインゴットとの間の放電が発生すると、切断ワイヤとインゴットとの間の電圧がアーク電圧まで降下するため、一つの切断ワイヤに複数の放電を発生させることはできない。よって、上述のように複数のインゴットを同時に切断する方法では低い速度で加工しなければならず、ウェハ生産性の改善は困難であるという問題があった。
【0008】
さらに、粒径数十μm〜数百μmのダイヤモンドを付着させたワイヤを用いて被加工物を放電加工する場合、ワイヤ走行によりワイヤ電極と摺接する導体が切削されていくため、切断加工中にワイヤ電極へ給電できなくなるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、加工速度の低下を抑制したマルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、複数のガイドローラにワイヤを複数回巻回してワイヤを並列に配置した切断ワイヤ部を備え、ワイヤを軸方向に移動させつつ複数の被加工物を切断ワイヤ部の側に送って複数の被加工物を切断するマルチワイヤ加工装置であって、複数の被加工物の各々と切断ワイヤ部との距離を個別に制御する駆動手段と、複数の被加工物同士の間にパルス電圧を印加するパルス電圧発生手段とを備え、駆動手段は、複数の被加工物の一つを切断ワイヤ部に接触させて切削加工により切断するとともに、複数の被加工物のうちの一つ以外の被加工物と切断ワイヤ部との間隔を一定に保って、複数の被加工物のうちの一つ以外の被加工物を放電加工により切断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一本のワイヤを複数のガイドローラ間で巻回させることにより切断ワイヤ部を形成し、複数の被加工物のうち一つを切断ワイヤ部へ接触させて切削加工を行い、複数の被加工物のうちの一つ以外の被加工物を放電加工により切断加工することで、加工速度の低下を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明にかかるマルチワイヤ加工装置の実施の形態1の概略構成を示す斜視図である。
図2図2は、第2のガイドローラ及び第3のガイドローラの回転軸線方向から見た平面図である。
図3図3は、図2中の矢視A方向から見た本発明の実施の形態1にかかるマルチワイヤ加工装置の断面図である。
図4図4は、放電加工をする切断ワイヤ部と切削加工をする切断ワイヤ部とを分離したマルチワイヤ加工装置の構成を示す図である。
図5図5は、放電加工のみをする切断ワイヤ部と、放電加工及び切削加工をする切断ワイヤ部と、切削加工のみをする切断ワイヤ部とを分離したマルチワイヤ加工装置の構成を示す図である。
図6図6は、本発明の実施の形態3にかかるマルチワイヤ加工装置のガイドローラの回転軸方向から見た平面図である。
図7図7は、本発明の実施の形態4にかかるマルチワイヤ加工装置の放電加工パルスパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかるマルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明にかかるマルチワイヤ加工装置の実施の形態1の概略構成を示す斜視図である。図1において、マルチワイヤ加工装置100は、ワイヤ2を繰り出すワイヤ繰り出しボビン1a、第1のガイドローラ3a、第2のガイドローラ3b、第3のガイドローラ3c、第4のガイドローラ3d及びワイヤ2を回収するワイヤ回収ボビン1bを備える。第1〜第4のガイドローラ3a〜3dのそれぞれには、一本のワイヤ2が順次巻き掛けられ、軸線方向に並行に並んだワイヤ2が配置されている。マルチワイヤ加工時において、ワイヤ2はワイヤ繰り出しボビン1aから上記経路を経てワイヤ回収ボビン1bまで走行する。
【0015】
ワイヤ2のうち第3のガイドローラ3cと第4のガイドローラ3dとの間では、互いに平行に張られたワイヤ2からなる切断ワイヤ部2aが構成されている。切断ワイヤ部2aと対向する第1の被加工物8a及び第2の被加工物8bは、それぞれ第1の駆動ユニット9aと第2の駆動ユニット9bとに固定され、駆動手段としての位置制御装置4によって、切断ワイヤ部2aとの距離を適切に保ちながら切断方向(図1での上方向)に送られる。
【0016】
ワイヤ2は、導電性を有する材料で構成されている。また、ワイヤ2は、表面に粒径数μm〜数百μmの硬質材料(ダイヤモンドやシリコンカーバイドなど)を付着させても良い。また、加工液は図示しないが、粒径数μm〜数百μmの硬質材料(ダイヤモンドやシリコンカーバイドなど)を混ぜた液体、電解液、油、水などが好適である。なお、被加工物の切断加工には吹きかけ又は浸漬により切断部位に加工液が供給される。
【0017】
第1の被加工物8a及び第2の被加工物8bには、給電線7a,7bを介してパルス電圧発生手段としての加工電源6が電気的に接続されており、加工電源6は、第1の被加工物8aと第2の被加工物8bとの間にパルス電圧を印加することができる。
【0018】
第1の被加工物8a及び第2の被加工物8bは、複数の薄板にスライス加工されるインゴット状のものを用いることができる。また、その材質は、例えば、スパッタリングターゲットとなるタングステンやモリブデンなどの金属、各種構造部材として使われる多結晶シリコンカーバイドなどのセラミックス、半導体デバイスウェハとなる単結晶シリコンや単結晶シリコンカーバイドなどの半導体素材、太陽電池ウェハとなる単結晶及び多結晶シリコンなどの太陽電池素材などがある。
【0019】
上記のうち、金属は比抵抗が十分低いため放電加工を行うにあたって支障はないが、半導体素材及び太陽電池素材で放電加工が可能であるのは、比抵抗が概ね100Ωcm以下、望ましくは10Ωcm以下の素材である。
【0020】
したがって、第1及び第2の被加工物8a,8bとしては、金属又は比抵抗が金属と同等から100Ωcm以下、望ましくは10Ωcm以下の範囲の素材、特に上記範囲の比抵抗を有する半導体素材及び太陽電池素材が好適である。
【0021】
次に、切断加工の方法について説明する。図2は、第2のガイドローラ及び第3のガイドローラの回転軸線方向から見た平面図、図3は、図2中の矢視A方向から見た本発明の実施の形態1にかかるマルチワイヤ加工装置の断面図である。第1の被加工物8a及び第2の被加工物8bは、同一の切断ワイヤ部2aによって切断加工が行われる。
【0022】
位置制御装置4は、第2の駆動ユニット9bを制御することによって第2の被加工物8bを切断ワイヤ部2aに押し付けながら(接触させながら)、第1の駆動ユニット9aを制御することによって切断ワイヤ部2aと第1の被加工物8aとの相対距離を制御する。加工中は、図示しないワイヤ走行装置によって一定間隔ごとにワイヤ2の走行方向が交互に変更される。すなわち、被加工物8bは切断ワイヤ部2aにおいて往復するワイヤ2に押し付けられる。これにより第2の被加工物8bは、時間の経過に伴い切断ワイヤ部2aによって削られていくため、位置制御装置4が第2の駆動ユニット9bを制御することによって第2の被加工物8bを切断方向へ送ることにより第2の被加工物8bの切削加工が進行する。
【0023】
第1の被加工物8aは、位置制御装置4が第1の駆動ユニット9aを制御することによって切断ワイヤ部2aに機械的に接触しない状態で加工方向へ駆動される。位置制御装置4が第2の駆動ユニット9bを制御することによって第2の被加工物8bは切断ワイヤ部2aに押し付けられているため、第2の被加工物8bと切断ワイヤ部2aとは電気的に接続されている。そのため、第1の被加工物8aと第2の被加工物8bとの間にパルス電圧を印加することで、切断ワイヤ部2aと第1の被加工物8aとの間に放電を発生させることができる。時間の経過に伴い第1の被加工物8aは放電加工されるため、位置制御装置4が第1の駆動ユニット9aを制御するによって第1の被加工物8aを切断方向へ送ることで第1の被加工物8aの放電加工が進行する。
【0024】
本実施の形態では、給電子を使用せずに切断ワイヤ部2aへ給電できるため、給電子の保守の必要が無い。
【0025】
このように複数の被加工物の一つを切断ワイヤ部に押し付けて切削加工を行いながら、複数の被加工物間にパルス電圧を印加して、複数の被加工物のうちの一つ以外の被加工物を放電加工することで、加工速度の低下を抑制して被加工物を切断できる。例えば、加工速度を低下させることなく、複数のインゴットから薄板(特に半導体ウェハなどの硬脆材料や高難削材の薄板)を折損することなく製造できる。また、切断ワイヤ部に押し付ける被加工物以外の被加工物は放電加工で切断するため、全ての被加工物を切削加工する場合と比較して消費エネルギーを低減できる。すなわち、インゴット状の材料を薄板状にスライスする設備における環境負荷を低減できる。
【0026】
なお、実施の形態1では、被加工物が2個の場合の切断加工例を示したが、被加工物が3個以上であっても、切削加工と放電加工とを併用することで、被加工物総数に対する加工速度の低下を抑えられる。すなわち、被加工物が3個以上の場合は、放電加工が施される被加工物が2個以上になるため、ワイヤに複数の放電を発生させることができず速度を上げることが難しくなるが、同時に切断する被加工物の数が増えることにより被加工物一つ当たりの所要時間は短縮できる。よって、切削加工と放電加工とを併用して同時に複数の被加工物を切断するものであれば、被加工物の総数には限定されない。
【0027】
また、実施の形態1では、第1の被加工物8a及び第2の被加工物8bを切断ワイヤ部2aによって、放電加工と切削加工とを行う例を示したが、切断ワイヤ部2aとは別に切断ワイヤ部2bを設け、放電加工をする切断ワイヤ部2aと切削加工をする切断ワイヤ部2bとを分離しても良い。図4は、放電加工をする切断ワイヤ部と切削加工をする切断ワイヤ部とを分離したマルチワイヤ加工装置の構成を示す図である。放電加工をする切断ワイヤ部2aと切削加工をする切断ワイヤ部2bとを別個とすることにより、第1の被加工物8a及び第2の被加工物8bをワイヤ2の並列方向に沿って並べることが可能となり、装置の小型化が可能となる。
【0028】
さらに、三つの切断ワイヤ部2a,2b,2cを構成し、第1の被加工物8a及び第2の被加工物8bに対し、それぞれ放電加工のみ、放電加工及び切削加工、切削加工のみとする構成としてもよい。図5は、放電加工のみをする切断ワイヤ部と、放電加工及び切削加工をする切断ワイヤ部と、切削加工のみをする切断ワイヤ部とを分離したマルチワイヤ加工装置の構成を示す図である。
【0029】
実施の形態1にかかるマルチワイヤ加工装置は、放電加工と切削加工とを行う切断ワイヤ部を有するものであれば、特定の構成に限定されない。
【0030】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2は、実施の形態1と同様の機械構造を有する。ただし、位置制御装置4が第1の駆動ユニット9a及び第2の駆動ユニット9bを制御することによって第1の被加工物8a及び第2の被加工物8bを切断方向及び切断方向と逆方向へ移動させることで交互に切削加工と放電加工とを繰り返す。これにより、複数の被加工物の加工面の精度を均一にする(精度のばらつきを抑える)ことができる。
【0031】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3にかかるマルチワイヤ加工装置のガイドローラの回転軸方向から見た平面図である。放電加工がなされる第1の被加工物8aは、第2のガイドローラ3bと第3のガイドローラ3cとの間に位置し、切削加工がなされる第2の被加工物8bは、第1のガイドローラ3aと第4のガイドローラ3dとの間に位置している。第1のガイドローラ3aと第4のガイドローラ3dとの間には、第2の切断ワイヤ部2bが構成されている。第2の切断ワイヤ部2bを挟んで第2の被加工物8bの対向部には加工液を回収する加工液回収槽9が設置されている。加工液回収槽9で回収された第2の加工液は、図示しない加工液供給装置(加工液供給手段)により第2の被加工物8bへ吹きかけられる。
【0032】
その他の構成は実施の形態1と同様である。加工液回収槽9を設置することで、切削加工で使用する加工液と放電加工とで使用する加工液とを別の種類とすることができる。例えば、放電加工を行う第1の被加工物8aは水中に浸漬した状態で放電加工を行いながら、切削加工を行う第2の被加工物8bは硬質材料(ダイヤモンドなど)を混ぜた加工液を吹きかけても良い。このように、切削加工、放電加工に適した加工液を使用することができ、加工効率を向上させることができる。
【0033】
なお、実施の形態3では、第2の切断ワイヤ部2bを第1のガイドローラ3aと第4のガイドローラ3dとの間に設けたものであるが、例えば、第1のガイドローラ3aと第2のガイドローラ3bとの間に第2の切断ワイヤ部2bを設けてもよく、ワイヤ2を巻回する複数のガイドローラ間に第2の切断ワイヤ部2bを設け、加工液回収槽9を設けるものであれば良く、特定の構造に限定されない。
【0034】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4にかかるマルチワイヤ加工装置の放電加工パルスパターンを示す図である。図7に示す放電加工パルスパターンは、加工電源6によって発生させるもので、第1の被加工物8aと第2の被加工物8bとの間に極性を適宜反転させた放電加工パルスを印加する。これにより、被加工物が鉄系材料であるときの第1の被加工物8a及び第2の被加工物8bの表面に発生する腐食を抑制することができる。すなわち、放電電圧の平均値が常に零になるように放電加工パルスを制御することにより、被加工物の加工面の微小割れを防止して加工品質を向上し、ワイヤ及び被加工物の電蝕を防ぐことができる。
【0035】
なお、実施の形態4における加工電源6は、第1の被加工物8aと第2の被加工物8bとの間に極性を適宜反転して放電加工パルスと印加するものであればよく、印加する放電加工パルスパターンに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明にかかるマルチワイヤ加工装置及びマルチワイヤ加工方法は、切削加工と放電加工とを併用し、複数の被加工物を加工速度の低下を抑えながら切断することが可能であり、したがって、複数の被加工物から一括して複数の薄板材を切り出すのに適している。
【符号の説明】
【0037】
1a ワイヤ繰り出しボビン、1b ワイヤ回収ボビン、2 ワイヤ、2a,2b,2c 切断ワイヤ部、3a 第1のガイドローラ、3b 第2のガイドローラ、3c 第3のガイドローラ、3d 第4のガイドローラ、4 位置制御装置、6 加工電源、7a,7b 給電線、8a 第1の被加工物、8b 第2の被加工物、9a 第1の駆動ユニット、9b 第2の駆動ユニット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7