【実施例】
【0040】
(実施例1)
実施例1について説明する。複合電解質膜の作製は、
図1A及び
図1Bに示す手順で行った。
本実施例では、
図1A及び
図1Bに示すように、電解質スラリー3を以下の材料を用いて調製した。
【0041】
高分子材料として12wt%ポリフッ化ビニリデン(PVDF)溶液(溶媒;N−メチル−2−ピロリドン、KFポリマーL#1120、株式会社クレハ製)、もしくは10%ポリベンゾイミダゾール(PBI)溶液(溶媒;ジメチルアセトアミド)を用い、固体電解質にはKOH−ZrO
2系固体電解質を用いた。上記高分子溶液とKOH−ZrO
2系固体電解質を混合し(ステップS1、ステップS2)、30分の超音波処理(28kHz−3秒、45kHz−3秒、100kHz−3秒の3周波繰り返しプログラム、VS−100III、アズワン製)にて分散させ(Ultrasonication)、電解質スラリー3を作製した(ステップS3)。
【0042】
上記の電解質スラリー3を、電解質用容器2に、本実施例1ではガラスシャーレ(内径φ47mm)に流し込み(Casting)、基材1、本実施例1ではガラスシャーレ(外径φ44.7mm)を押し当て(ステップS4)、そのままの状態で60℃の電気炉で2〜3日間乾燥(Dry at 60℃)させた(ステップS5)。その後、基材1と電解質用容器2のすき間からカッターで切り込みを入れ、基材に複合電解質膜である電解質シートを移し取った(ステップS6)。
【0043】
KOH−ZrO
2−PVDF複合電解質膜、およびKOH−ZrO
2−PBI複合電解質膜のイオン導電率(交流導電率)は、次の様にして測定した。前記複合電解質膜を、カーボンペーパー(直径13mm、厚み0.2mm程度)で挟んだ状態で圧着させることにより、シート状(直径13mm、厚み0.5〜0.8mm)、かつ電極の接合された試料(膜−電極接合体)を得た。この試料を用い、電気化学測定システム(SI 1260、Solartron社)、および専用のソフトウェア(Z−plot)を用い、KOH−ZrO
2−PVDF複合電解質膜の30〜80℃の種々の温度でのイオン導電率(交流導電率)を測定した。その結果を
図2A及び
図2Bに示す。
【0044】
図2Aは、KOH−ZrO
2系固体電解質の添加量を60〜95wt%と変化させたときの、相対湿度60%で測定した交流導電率(σ/Scm
−1)を示したグラフである。比較として、KOH−ZrO
2固体電解質の交流導電率を値も示す。通常、イオン伝導体中に絶縁体を添加すると、その複合体のイオン導電率は低下する。本実施例では、水酸化物イオン伝導体であるKOH−ZrO
2系固体電解質と、イオン伝導性を持たないPVDFを用いて複合電解質膜を作製しており、KOH−ZrO
2系固体電解質の添加量が60〜80wt%と少ないとき、イオン導電率は3桁以上低下する。しかしながら、添加量が95wt%のとき、KOH−ZrO
2−PVDF複合電解質膜のイオン導電率は、KOH−ZrO
2固体電解質の1桁低い値である。
図2Bに、KOH−ZrO2固体電解質の添加量90wt%の複合電解質膜の導電率の経時変化を示す。80℃、80%RHの加湿雰囲気下で7日間、イオン導電率を測定した。イオン導電率は安定しており、複合電解質膜の強度や柔軟性も変化なく、KOH水溶液の漏液も観察されなかった。また、結着剤にPBIを用いたKOH−ZrO
2系固体電解質を含む複合電解質膜も水酸化物イオン伝導性を示した。
【0045】
実際に、金属−空気全固体二次電池の電解質として利用する場合、イオン導電率ではなく、実抵抗が発電特性に大きく影響する。つまり、イオン導電率が1桁低くとも(=抵抗が10倍高い)、電解質の膜厚を10分の1まで減少すれば、実抵抗は等しい。金属−空気全固体二次電池の電解質として、KOH−ZrO
2系固体電解質の圧粉体を用いる場合、電池の短絡を防ぐため、電解質の厚みは最低0.3mm程度必要であり、0.3mm以下では全個体電池作製時に負極と正極が短絡し、電池として機能しない。
図3に示す通り、プレス成形で全固体電池を作製すると、導電助剤であるカーボンを含むため嵩高い負極構成材料のバリが発生する。
【0046】
従来法では
図4の電池外観図に示す通り、固体電解質(白色部分)を薄くすると、電極材料のバリ(固体電解質層の黒色部分)により短絡する。しかしながら、本発明のKOH−ZrO
2−PVDF複合電解質膜は、膜厚を自由に調節可能であり、0.06mmまで容易に薄くできる。複合電解質膜の厚みは、固体電解質粉末の粒子径に依存し、固体電解質を1μm以下に微細化することで、究極的には複合電解質膜の厚みを0.001mmまで薄くすることが可能である。
【0047】
図5A及び
図5Bは、80wt%のKOH−ZrO
2系固体電解質を含む複合電解質膜の断面のSEM画像である。
図5Cは、
図5B中の領域(A)−(C)のエネルギー分散型X線分析(EDX)の結果である。
領域(A)はZrO
2、領域(B)はKOHとZrO
2、PVDF、領域(C)はKOHとZrO
2から構成されていた。KOH−ZrO
2系固体電解質は、ZrO
2を主とする粒子表面に、KOHとZrO
2からなる水酸化イオン伝導層が存在している。複合電解質膜では、KOHとZrO
2からなる水酸化イオン伝導層の一部にPVDFが吸着し、固体電解質粉末を結着している。
【0048】
PVDFなどの撥水性高分子を用いた場合、空気極から供給される水分や水酸化物イオンは、固体電解質表面に濃縮されるため、固体電解質表面のイオン伝導を阻害することはない。
吸水性高分子を用いる場合、複合電解質膜中を水酸化物イオンが伝導するためには、結着剤である高分子材料が水酸化物イオン伝導性を有する方が良く、特に4級アンモニウムなど強塩基性を示す官能基を有するものが好ましい。スルホ基などの酸性官能基を有する高分子は、水酸化物イオン伝導を阻害するので好ましくない。
【0049】
このKOH−ZrO
2−PVDF複合電解質膜の概観図を、
図6に示す。KOH−ZrO
2系固体電解質と違い、KOH−ZrO
2−PVDF複合電解質膜は柔軟性を有する自立膜である。即ち、KOH−ZrO
2系固体電解質と高分子材料の複合化によって、イオン導電率は減少するものの、膜厚を薄くすることで実抵抗の増加を最小限に抑えることに成功した。本手法を用いて、固体電解質をシート状に加工することで、電池の大型化が可能となり、さらには、電解質のプレス工程を省略できることから、生産性の飛躍的な向上が見込まれる。
【0050】
(実施例2)
実施例2について説明する。
本実施例では、高分子材料として12%ポリフッ化ビニリデン(PVDF)溶液(溶媒;N−メチル−2−ピロリドン、株式会社クレハ製)、もしくは10%ポリベンゾイミダゾール(PBI)溶液(溶媒;ジメチルアセトアミド)を用い、固体電解質にはKOH−LDH系固体電解質を用いて複合電解質膜を作製した。複合電解質膜の作製方法および交流導電率の評価方法は、実施例1と同じである。
【0051】
図7は、結着剤にPVDFを用い、KOH−LDH系固体電解質の添加量を60〜80wt%と変化させたときの、相対湿度60%で測定した交流導電率を示したグラフである。KOH−LDH固体電解質の添加量が80wt%のとき、導電率は2桁程度である。本実施例では、添加量が85wt%以上の場合では柔軟性を有する複合電解質膜が得られなかったが、高分子材料をPBIなどに変更することで添加量を90wt%まで増加させることは可能である。また、結着剤にPBIを用いたKOH−LDH系固体電解質を含む複合電解質膜も水酸化物イオン伝導性を示した。
【0052】
図8は、結着剤にPVDFを用い、80wt%のKOH−LDH系固体電解質を含む複合電解質膜の断面のSEM画像であり、
図9はその概観図である。本実施例のKOH−LDH−PVDF複合電解質膜の厚みは0.18mm程度であるが、0.1mm以下まで薄くすることも可能である。
(実施例3)
実施例3について説明する。
【0053】
実施例1のKOH−ZrO
2−PVDF複合電解質膜を用い、金属−空気全固体二次電池の評価を行った。複合電解質膜と負極シートは、
図1Aに示す手順で接合した。
実施例3では、負極シートを構成する負極スラリー5に以下の材料を用いた。酸化鉄担持カーボンと、高分子材料として12wt%PVDF溶液を用いた。酸化鉄担持カーボンの詳細は、上述の特許文献1を参照すれば良いが、その概略は以下のとおりである。鉄アセチルアセトナートのエタノール溶液にカーボンブラック(ケッチェンブラック(KB)、ライオン社製)を含浸し、空気中100℃で1日乾燥させた後、窒素ガス雰囲気中400℃で2時間熱処理し、酸化鉄を担持したカーボンを作製した。負極スラリー5の重量混合比を、以下の表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
上記PVDF溶液と酸化鉄担持カーボンを混合し、30分の超音波処理にて分散させ、負極スラリー5を作製した。
また、金属硫化物を金属極に添加すれば放電特性が向上することが知られており、上記負極スラリー5に、さらに硫化カリウム(K
2S)を添加し、負極シートを作製することも可能である。
【0056】
具体的な製造方法は以下の通りである。
図1Aを参照して、はじめに、電解質スラリー3を電解質用容器2、実施例1で示したガラスシャーレ(内径φ47mm)に流し込み(工程1−1)、基材1、実施例1で示したガラスシャーレ(外径φ44.7mm)を押し当てた(工程1−2)。
そのままの状態で60℃の電気炉で2〜3日間乾燥させ、その後、基材1と電解質用容器2のすき間からカッターで切り込みを入れ、基材1を電解質用容器2から取り出すことで、基材1に付着した電解質スラリー3を電解質シートとして移し取り複合電解質膜を作製した(工程1−3)。
【0057】
上述の工程1−1〜1−3を電解質膜作製工程という。
上記の負極スラリー5を、負極用容器4に入れ(工程2−1)、上記工程で得られた複合電解質膜付き基材(基材1及び電解質スラリー3)を押し当てた(工程2−2)。
その状態で60℃の電気炉で2〜3日間乾燥させ、その後、基材1と負極用容器4のすき間からカッターで切り込みを入れ、基材1上に、電解質膜である複合電解質膜(電解質スラリー3)及び電極膜である負極シート(負極スラリー5)による接合体、つまり電極膜と電解質膜で構成される接合体(電極膜・電解質膜接合体)を移し取った(工程2−3)。以下、電極膜・電解質膜接合体を負極シート・複合電解質膜接合体ともいう。
【0058】
上述の工程2−1〜2−3を接合体作製工程という。
上述の実施形態及び実施例による製造方法で得られた負極シート・複合電解質膜接合体の概観図を、
図10に示す。重量比Fe:ケッチェンブラック:PVDF=1:2:2の負極スラリー5を用いた。電解質シート同様、柔軟性を有する自立膜であり、全体の厚みは約340μmである(負極シート約280μm、電解質シート約60μm)。本製造方法を用いることで、電解質と電極が剥がれることなく、良好に密着している負極シート・複合電解質膜接合体を作製できる。
【0059】
上記電池について、高性能ポテンショスタット/ガルバノスタット(Solartron、SI 1287、DC分極電圧:±14.5V(±14.5Vに対しての分解能100μV)、電流:±2A(分解能100pA)、測定分解能(装置の解析理論限界)[電流分解能:1pA、電圧分解能:1μV])、および周波数応答アナライザ(Solartron、1252A、周波数範囲:10kHz〜300kHz、交流振幅:0〜3Vrms、交流振幅分解能:5mV)を用いて、セル電圧と電流密度を測定した。発電試験は温度20℃、相対湿度60%、充電レート0.25mA/cm
2、放電レート0.1mA/cm
2の条件で行った。
【0060】
図11は、上述の実施形態及び実施例による製造方法で作製した負極シート・複合電解質膜接合体の断面SEM画像である。負極シート材料の重量比はFe:ケッチェンブラック:K
2S:PVDF=1:2:0.3:2である。上記製法は、プレス成型することなく電解質と負極を接合することが可能である。この接合面のEDX分析の結果を
図12に示す。
図12の各分析結果において当該元素が検出された箇所が白く表示されている。複合電解質膜部分のZrO
2の周囲全体に、
図5Cと同様にカリウムが検出された。このKOH−ZrO
2固体電解質の粒子間の一部に、PVDFに由来する炭素とフッ素元素が検出され、PVDFの網目構造によって固体電解質が接続されている。また、このPVDFのネットワークは、負極シート中にも観察された。
【0061】
ここで、網目構造とは、電解質膜中の固体電解質の粒子を結着する結着剤と、電極膜中の電極活物質および導電剤の粒子を結着する結着剤が入り組んで互いの膜に侵入した状態となった構造のことであり、結着剤が網目構造を形成することとなる。具体的には、網目構造は、電解質膜乃至電極膜(負極シート)の表面の凹凸が入り組んで互いに侵入した状態となった構造のことを意味する。このような網目構造によって、電解質膜と電極膜からなる接合体は、自立した膜として利用することができる。
【0062】
図11で矢示する丸印内を参照すると、複合電解質膜の網目構造を形成する隙間に負極シートが入り込むようにして負極シートも網目構造を形成し、互いの網目構造が機械的に噛み合うことで複合電解質膜と負極シートが接合している。このように、上述の製法では、複合電解質膜と負極シートに同じ高分子材料を用いることで、高分子材料の網目構造が複合電解質膜及び負極シートの両方に構築されるので、互いの網目構造が噛み合って接合することにより、複合電解質膜と負極シートの接合体に接触面積の大きい良好な接合界面が得られる。
【0063】
図13は、実施例3で作製した金属−空気全固体二次電池の放電容量を示すグラフであり、
図14はサイクル特性を示すグラフである。上述の実施形態及び実施例による製造方法で作製した負極シート・複合電解質膜接合体を用いた鉄−空気全固体二次電池が、充放電できることを確認した。
図13における曲線(a)および
図14における曲線(a)は、負極シートにK
2Sを含まない電池の結果を示している。
図13における曲線(b)および
図14における曲線(b)は負極シートにK
2Sを添加した電池の結果を示している。上述したように、K
2Sを添加することで放電容量は増加した。本製造方法では、固体電解質を用いているが電解液K
2Sの添加効果は発揮され、酸化鉄担持カーボンとK
2SとPVDFが良好な分散状態を維持していることが推測される。
【0064】
上述の特許文献1および2の圧粉ペレット状の鉄−空気全固体二次電池では、充放電サイクル初期の放電容量は小さく、本来の特性を得るまでに10サイクル程度の充放電を繰り返す必要があった。これは、空気極より水分と水酸化物イオンが徐々に供給されているため全体に浸透するまで時間を要し、水分と水酸化物イオンが供給されていない部分の界面抵抗が大きいからである。
【0065】
一方、本実施形態及び実施例による鉄−空気全固体二次電池は3サイクル目から本来の放電容量を示し、60サイクル繰り返しても安定であった。電解質シートと負極シートに同じ素材(ここでは、PVDF)の結着剤を用いることで良好な接合界面が得られているからである。また、その結着剤が撥水性ポリマーであり空気極から供給される水分と水酸化物イオンはポリマー部分を避け、固体電解質や負極材料近傍に濃縮されることにより、優れた電池特性が発揮されたと思われる。また、撥水性ポリマーで結着しているため電極膜・電解質膜接合体シート(負極シート・複合電解質膜接合体)は水分を吸着しても形状は崩れず、優れた耐湿性を示した。
【0066】
電解質と電極の接触不良は電気やイオン輸送の妨げとなり電池特性を悪化させるが、上述の実施形態及び実施例による二次電池の製造方法を用いれば良好な密着性が得られる。その理由は、上述の二次電池の製造方法である負極シート/複合電解質膜接合体の製造方法は、負極と電解質に同じ高分子材料を用いており、電解質と負極の界面部分においても同種の高分子同士が結合するからである。
【0067】
また、金属−空気全固体二次電池は、高分子材料として撥水性ポリマーを用いているため、空気極から水分が供給されても高分子材料は膨潤しないため、接合体シートの形状は変化しないという利点もある。
以上記載した本発明の実施形態及び実施例による二次電池の製造方法は、全固体電池作製時の電極材料のバリ発生による短絡を防ぎ、且つ電解質と電極材料の良好な接触界面を形成することができる。また、電解質は電解液を用いた電池のセパレーターと同程度の厚みの自立膜として利用することが可能であり、金属極材料と空気極材料を確実に分離することができ、電池が短絡する可能性が激減し、長期間の安定した電池動作を得ることができる。
【0068】
なお、今回開示された各実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された各実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0069】
例えば、実施例3では、負極シートと複合電解質膜を利用しており、全固体電池でありながら柔軟性を有している。これにより、金属−空気全固体二次電池の大面積化が実現可能となった。また、平板に限られていた金属−空気全固体二次電池の形状を、円筒型など湾曲した構造とすることが可能となる。