(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る2ストロークエンジンのフローガイドは、掃気ポートの開閉タイミングを変化させることはできない。掃気ポートの開閉タイミングを変更できるようにすると、運転状態に応じて混合気の燃焼室への供給量や内部EGR量を調整することが可能になり、出力や熱効率の向上が図れる。
【0006】
本発明は、以上の背景を鑑み、2ストロークエンジンにおいて、掃気ポートの開閉タイミングを変更可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、2ストロークエンジン(E)であって、シリンダボア(3a)の側部を形成する壁部(42)に開口する開口端(42c)を有し、シリンダボア内を往復動するピストン(22)が下死点近傍にあるときに燃焼室(44)に向けて前記開口端が開かれる掃気ポート(43)と、前記シリンダボアの径方向外方に設けられ、シリンダ軸線(3X)方向に変位して前記掃気ポートの前記開口端の上縁部(42d)から前記開口端内に突入するシャッター(73)とを有し、
前記シリンダボアの側部は、機関本体に設けられた円筒形のシリンダスリーブ(42)によって形成され、前記掃気ポートの前記開口端は、前記シリンダスリーブを径方向に貫通する孔(42c)であり、前記シャッターは、前記シリンダスリーブの外周部に摺動可能に設けられ、かつ前記シリンダスリーブに対してシリンダ軸線方向に変位可能に設けられた筒部(74)と、前記掃気ポートの前記開口端の上縁よりも常時下方に配置された前記筒部の下縁(74b)と、前記筒部の下縁の内周面から前記シリンダボア側に前記掃気ポートの前記開口端内に突出して前記シリンダスリーブの内周面と面一となる突出端面(90a)を形成する凸部(90)とを有することを特徴とする。
前記凸部の前記突出端面は、前記シリンダスリーブの内周面と面一に連続する円周面に形成されているとよい。
【0008】
この構成によれば、シャッターの突入量を変更することで、掃気ポートの開閉タイミングが調整可能になる。2ストロークエンジンでは、掃気ポートと燃焼室との連通状態は、ピストンの外周上縁が掃気ポートのシリンダボア側開口端の上縁より下方に下がることによって形成される。本発明では、シャッターが掃気ポートのシリンダボア側開口端の上縁から下方に向けて開口端内に突入し、シャッターが掃気ポートの上縁を構成(画定)するため、掃気ポートと燃焼室との連通状態は、ピストンの外周上縁がシャッターの下縁より下方に下がることによって形成される。そのため、シャッター位置をシリンダ軸線方向に沿って上下に変位させ、シャッターの突入量を変更することによって、任意に掃気ポートの開閉タイミングを調整することができる。
【0010】
この構成によれば、掃気ポートがシリンダボアの周囲に複数設けられる場合にも、全ての掃気ポートを1つのシャッターで開閉することができる。また、複数の掃気ポートが設けられる場合において、シャッターは各掃気ポートを通過する混合気からシリンダボアの径方向に荷重を受けるため、シリンダボアに対する倒れが発生し難く、安定性良く掃気ポートの開口端を開閉することができる。
【0012】
この構成によれば、シャッターをシリンダボアの周囲にシリンダ軸線方向に変位可能な状態で組み付けることができる。また、シャッターの筒部がシリンダスリーブの外周に配置されるため、シャッターはシリンダスリーブ及びシリンダボアに対して倒れることなく、円滑にシリンダの軸線方向に変位することができる。また、シャッターを有する2ストロークエンジンの構成を簡素にすることができる。
また、シャッターの下端縁に設けられる凸部がピストンに摺接する位置まで張り出し、シリンダボアの径方向におけるピストンとシャッターとの隙間が埋められる。これにより、ピストンの外周上縁が、掃気ポートの開口端の上縁より下方、かつシャッターの下縁より上方に位置するときに、燃焼室と掃気ポートとの連通状態が確実に遮断される。
【0013】
また、上記の発明において、前記シリンダスリーブは、前記機関本体に形成された貫通孔(41)に挿入され、前記貫通孔の周囲には、前記クランク室から前記シリンダスリーブに形成された前記掃気ポートの前記開口端に延びる通路(3b)が形成されているとよい。
【0014】
この構成によれば、簡素な構成で機関本体に掃気ポートを容易に形成することができる。
【0015】
また、上記の発明において、前記シリンダスリーブの外周面には、周方向に延びて環状をなし、シリンダ軸線方向に所定の幅を有する受容溝(70)が凹設され、前記シャッターの前記筒部は、前記受容溝内
でシリンダ軸線方向に変位可能に前記受容溝に受容されているとよい。
【0016】
この構成によれば、シャッターのシリンダ軸線方向における移動の上限位置及び下限位置を規定することができる。
【0017】
また、上記の発明において、
前記受容溝の上側壁(70b)は前記掃気ポートの前記開口端の上縁よりも上方に配置され、前記受容溝の下側壁(70c)は前記掃気ポートの前記開口端の上縁と下縁との間に配置され、前記シャッターは、前記上側壁と前記下側壁との間でシリンダ軸線方向に変位可能であるとよい。
【0019】
また、上記の発明において、前記シャッターの外面に、シリンダ軸線方向に延在するように設けられたラック(75)と、前記ラックに噛み合い、駆動源に連結されたピニオン(78)とを有するとよい。
【0020】
この構成によれば、簡素な構成でシャッターをシリンダ軸線方向に変位させることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の構成によれば、2ストロークエンジンにおいて、掃気ポートの開閉タイミングを変更可能にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明をユニフロー型単気筒2ストロークエンジン(以下、単にエンジンEと称する。)に適用した実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1および
図2に示すように、エンジンEの機関本体1は、内部にクランク室2aを画成するクランクケース2と、クランクケース2の上部に起立状態で接合され、内部にシリンダボア3aを画成するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上部に接合されるシリンダヘッド4と、シリンダヘッド4の上部に接合されてシリンダヘッド4との間に上部動弁室6を画成するヘッドカバー5とを有している。
【0025】
クランクケース2は、
図2に示すように、シリンダ軸線3Xを通る面で左右に分割された一対のクランクケース半体7、7によって構成される。左右のクランクケース半体7、7は、適所に配置された本実施形態では7本のボルト9(
図1、
図3)によって互いに締結されて一体となっている。各クランクケース半体7の側壁7Sには、クランクシャフト8を支持する第1ベアリングB1がそれぞれ設けられている。クランクシャフト8は、クランク室2aにクランクスローが収容された状態で第1ベアリングB1を介してクランクケース2によって回転自在に支持される。
【0026】
クランクシャフト8は、第1ベアリングB1によって支持される一対のジャーナル11、11と、両ジャーナル11、11の互いに近接する側の端部に結合された一対のウェブ12、12と、両ウェブ12、12によってジャーナル11から偏心した位置に支持されたクランクピン13と、各ジャーナル11から同軸に延びる一対の延出部14、14とを有している。各ウェブ12は、クランク軸線8Xを中心としてクランクピン13までの距離よりも大きな半径を有する円盤状に形成されており、クランクシャフト8の回転を安定化させるフライホイールの役割を果たしている。
【0027】
クランクシャフト8の各延出部14は、各クランクケース半体7の側壁7Sに形成された貫通孔15、15を通ってクランクケース2の外部に延出している。クランクケース2の両側壁7Sにおける第1ベアリングB1の外側には、クランク室2aの気密性を確保するための第1シール部材S1、S1がそれぞれ設けられている。
図2および
図3に示すように、右側のクランクケース半体7の側壁7Sには、クランクシャフト8の右側の延出部14を取り囲むように突出する下部動弁ケース本体17が一体に形成されている。
【0028】
下部動弁ケース本体17は、突出端が開放された有底筒状に形成されており、内部に下部動弁室18を画成する。下部動弁ケース本体17の突出端には、下部動弁室18を塞ぐように動弁室カバー19が取り付けられる。下部動弁ケース本体17の突出端面にはシール溝17aが形成されており、シール溝17aに装着された第2シール部材S2によって下部動弁ケース本体17と動弁室カバー19とが気密性をもって接合される。
【0029】
クランクシャフト8の右側の延出部14は、動弁室カバー19を貫通してさらに外方に延出している。動弁室カバー19のクランクシャフト8を貫通させる貫通孔19aの内面には、下部動弁室18の気密性を確保し、ひいてはクランク室2aの気密性を確保するための第3シール部材S3が設けられている。
【0030】
図1に示すように、クランクシャフト8は、クランクピン13の回転中心となるクランク軸線8X、すなわちジャーナル11の軸心がシリンダ軸線3Xに対して一側方(
図1の左側方)にオフセットした位置に配置される。クランクピン13には、3つの支点(20a、20b、20c)を有するトリゴナルリンク20の中間支点をなす筒状の中間筒部20aが第2ベアリングB2を介して回動自在に連結されている。
【0031】
本実施形態では、トリゴナルリンク20は、中間筒部20aによって互いに平行に延在するように連結された2つの板状部20d、20dと、両端部近傍で両板状部20d、20dによってそれぞれ両軸端を支持されてそれぞれ支点をなす第1連結ピン20bおよび第2連結ピン20cとを有しており、3つの支点(20a、20b、20c)が略直線上に概ね等間隔に配置されている。
【0032】
トリゴナルリンク20のシリンダ軸線3X側の第1連結ピン20b(一端部)には、コネクティングロッド(以下、コンロッド21と略称する。)の大端部21aが第3ベアリングB3を介して回動自在に連結されている。コンロッド21の小端部21bは、シリンダボア3a内を往復動するピストン22にピストンピン22aおよび第4ベアリングB4を介して連結されている。
【0033】
クランク軸線8Xに対してシリンダ軸線3Xと相反する側、かつクランク軸線8Xよりも下側には、クランク軸線8Xと平行な軸線を有する支点軸23が配置されている。支点軸23は、
図2に示すように両端部がクランクケース2に形成された有底孔24に圧入されることによってクランクケース2に固定されている。支点軸23には揺動リンク25の基端部25aが第5ベアリングB5を介して回動可能に連結されている。揺動リンク25は基端部25aから概ね上方に向けて延び、その上端となる揺動端部25bがトリゴナルリンク20のシリンダ軸線3Xから遠い側の第2連結ピン20c(他端部)に第6ベアリングB6を介して回動可能に連結される。
【0034】
このように、エンジンEは、コンロッド21に加えてトリゴナルリンク20および揺動リンク25を備えた複リンク機構30を有している。複リンク機構30は、ピストン22の往復運動をクランクシャフト8の回転運動に変換する。そして複リンク機構30を構成する部材は、予混合された混合気の自着火が適切に行われるように燃料の特性に応じて設定された圧縮比(有効2次圧縮比およびこれに対応する幾何学的圧縮比)が実現されるように、その配置や寸法などが設定される。燃料としては、ガソリン、軽油、灯油、ガス(都市ガスやLPガス)などが用いられる。
【0035】
エンジンEが複リンク機構30を備えることにより、エンジンEの大型化を抑制しつつ、大きなピストンストロークLによって燃焼エネルギーの取出量を増やすことが可能になり、熱効率が大幅に向上する。すなわち、
図4(A)に示すように、ピストン22の上死点では、コンロッド21の大端部21aが、トリゴナルリンク20の右端の第1連結ピン20bによってクランクピン13よりも上方へ第1距離D1だけ押し上げられる。一方、
図4(B)に示すように、ピストン22の下死点では、コンロッド21の大端部21aは、トリゴナルリンク20の右端の第1連結ピン20bによってクランクピン13よりも下方へ第2距離D2だけ押し下げられる。その結果、ピストンストロークLは、コンロッド21の大端部21aをクランクピン13に直接連結した同一クランク半径Rを有する通常のレシプロエンジンに比べ、上記距離の和(D1+D2)だけ伸長することになる。従って、本実施形態のエンジンEでは、クランクケース2の大型化やエンジンEの全高の増大を抑制しつつ、ピストンストロークLを増大させることが可能である。
【0036】
また、このエンジンEでは、コンロッド21の大端部21aの軌跡Tが
図4に示すように円形ではなく縦長な形状になる。すなわち、同一クランク半径Rを有する通常のレシプロエンジンに比べ、コンロッド21の揺動角度が小さくなる。そのため、シリンダボア3aの小径化を可能にしながら、シリンダ下端部(後述するシリンダスリーブ42の下端部)とコンロッド21との干渉を回避することができる。また、コンロッド21の揺動角度が小さくなることから、ピストン22がスラスト側および反スラスト側でシリンダに与える荷重が低減される。
【0037】
図1に示すように、旋回するトリゴナルリンク20や揺動する揺動リンク25、縦長の軌跡Tをもって回転運動するコンロッド21の大端部21aなどが干渉しないように、クランク室2aは、揺動リンク25側では幅方向に長く、ピストン22の直下では上下方向に長く形成される。クランクケース2の上部には、クランク室2aに接続する円形断面の開口部31が鉛直に延在するように形成されている。開口部31は、シリンダスリーブ42の下部の外径よりも大きな内径を有し、シリンダスリーブ42の下部の周囲にクランク室2aに繋がる環状の空間を形成する。
【0038】
また、クランクケース2の上部における開口部31に隣接した位置には、吸気ポート32が斜め上方からクランクシャフト8に向けてクランク室2aに接続するように形成されている。吸気ポート32には、吸気ポート32側からクランク室2a側への流体の流れを許容する一方で、クランク室2a側から吸気ポート32側への流体の流れを阻止するリード弁33が設けられている。リード弁33は、ベース部材33aと、ベース部材33aに取り付けられた板状の一対の弁体33b、33bと、各弁体33bの背面側に設けられる一対のストッパ33c、33cとを有している。弁体33bはストッパ33cとともにベース部材33aに固定されている。リード弁33は、通常は閉弁しており、ピストン22の上昇によってクランク室2a内の圧力が低下すると開弁する。
【0039】
クランクケース2には、リード弁33を介して通路部材34が取り付けられている。通路部材34は、鉛直に延在して吸気ポート32に接続する吸気通路34aを画成するとともに、吸気通路34aを開閉するスロットル弁34bを水平な軸心をもって軸支している。また、通路部材34には、吸気通路34aのスロットル弁34bよりも下流側を臨む位置に燃料噴射弁35が取り付けられている。燃料噴射弁35は、噴射ノズル35aを斜め下方のリード弁33に向けて傾斜配置されており、リード弁33が開くタイミングに合わせて吸気通路34aの下流側部分に燃料を噴射する。通路部材34の上流側には、上方に向けて延びた後に屈曲して水平に延在するL字状の吸気管36が接続されている。
【0040】
クランクケース2の上面には、上方に向けて突出する4本のスタッドボルト38がシリンダボア3aを取り囲むように四隅に植設されている(
図1参照)。シリンダブロック3およびシリンダヘッド4は、これら4本のスタッドボルト38およびそれぞれに螺合する袋ナット39によってクランクケース2に共締めされている。
【0041】
図1および
図2に示すように、シリンダブロック3には上下方向に延在する円形断面の貫通孔41が形成されており、この貫通孔41に円筒状のシリンダスリーブ42が下端を突出させるように圧入されている。シリンダブロック3の貫通孔41は、上部において中間部よりも大きな径を有する段付孔となっており、この段部には上向きの環状肩面41aが形成される。貫通孔41の上部における下部に対して拡径した部分(正確には、後述する環状突起42bよりも上方の部分)には、環状空間41bが形成される。
【0042】
シリンダスリーブ42は、面取りされた下端を除き、軸方向の全長にわたって同一の内径を有しており、シリンダスリーブ42の内周面42aによってシリンダボア3aが画成される。また、シリンダスリーブ42の外周面における環状肩面41aに対応する位置には環状突起42bが形成されており、環状突起42bが環状肩面41aに係止されることによってシリンダブロック3に対するシリンダスリーブ42の下方への位置決めがなされる。シリンダスリーブ42は、シリンダブロック3の高さよりも大きな高さを有しており、上端面をシリンダブロック3の上端面と同一平面上に配置するとともに、下部をシリンダブロック3よりも下方に突出させるとともにクランクケース2の開口部31に突入させている。
【0043】
シリンダスリーブ42の左右両側には、周壁を貫通する掃気孔42c、42cが形成されている。両掃気孔42c、42cは、同一の形状および同一の大きさに形成され、シリンダ軸線3Xを中心として180度異なる位置に且つ同一の高さに配置されている。
図5に示すように、各掃気孔42cは、シリンダブロック3とクランクケース2との接合面よりも高い位置に配置された上縁42dを有し、接合面よりも低い位置に配置された下縁42eを有している。少なくとも、ピストン22が上死点に位置するときにピストン22の外周上縁よりも掃気孔42cの上縁42dが下方に位置し、かつピストン22が下死点に位置するときにピストン22の外周上縁よりも掃気孔42cの上縁42dが上方に位置するように、掃気孔42cは配置されている。好ましくは、ピストン22が上死点に位置するときにピストン22の外周下縁よりも掃気孔42cの上縁42dが下方に位置し、かつピストン22が下死点に位置するときにピストン22の外周上縁よりも掃気孔42cの下縁42eが上方に位置するように、掃気孔42cは配置されている。
【0044】
図1、
図2及び
図5に示すように、シリンダスリーブ42の外周面には、周方向に延在して環状をなし、上下方向(軸方向)に所定の幅を有する受容溝70が凹設されている。受容溝70は、底面70aがシリンダ軸線3Xを中心とした円周面に形成されている。受容溝70の上縁及び下縁を画定する上側壁70b及び下側壁70cは、底面70aに対してそれぞれ略垂直に立ち上がり、シリンダスリーブ42の周方向に延在している。これにより、受容溝70の横断面は、略長方形となっている。受容溝70は、上側壁70b及び下側壁70cによって形成される段部を介してシリンダスリーブ42の他の外周面と連続している。
【0045】
受容溝70の上側壁70bは各掃気孔42cの上縁42dよりも上方に配置され、受容溝70の下側壁70cは各掃気孔42cの上縁42dと下縁42eとの間に配置されている。各掃気孔42cは、受容溝70の下側壁70cを上下に跨ぐように配置され、その上半部が受容溝70の底面70aに開口し、その下半部がシリンダスリーブ42の受容溝70より下側の外周面に開口している。
【0046】
図1及び
図2に示すように、シリンダブロック3の下面における貫通孔41の開口端の周囲には、貫通孔41を拡径するように凹設された通路3bが形成されている。通路3bは、シリンダスリーブ42の外周を囲むように、シリンダ軸線3Xを中心とした環状に形成されている。また、通路3bは、上下に延び、その下端部はシリンダブロック3の下面に開口し、クランクケース2の開口部31と接続している。通路3bの上端部は掃気孔42cの上縁42dと同じ位置まで延びている。他の実施形態では、通路3bの上端部は掃気孔42cの上縁42dよりも上方に延びていてもよい。
【0047】
クランクケース2の開口部31、シリンダブロック3の通路3b、及びシリンダスリーブ42の掃気孔42cによって形成される一連の掃気ポート43は、クランク室2aとシリンダボア3aとを連通する。掃気孔42cは、掃気ポート43のシリンダボア3a側の開口端をなす。通路3bの上端部は、通路3bを下から上に流れる混合気を側方に配置される掃気孔42cに円滑に流すように、上方に進むほどシリンダスリーブ42側に進むように曲面状に湾曲した壁面によって形成されている。
【0048】
図5に示すように、シリンダスリーブ42の外周側、すなわちシリンダボア3aの径方向外方には、シャッター73がシリンダ軸線3X方向に変位可能に設けられている。シャッター73は、両端が開口した円筒形の筒部74と、筒部74の外周面に突設されたラック部75とを有している。ラック部75は、筒部74の軸線方向に延在し、その突出端に筒部74の軸線方向に列設された複数のラック歯75aを有している。
【0049】
シャッター73の筒部74は、シリンダスリーブ42の受容溝70に受容され、シリンダスリーブ42(シリンダボア3a)と同軸に配置される。このとき、筒部74の内周面は、受容溝70の底面70aに摺接する。筒部74の軸線方向長さは、受容溝70を画成する上側壁70b及び下側壁70c間の距離よりも短く設定されており、筒部74は受容溝70内をシリンダ軸線3X方向に変位可能である。筒部74は、上縁74aが上側壁70bに突き当たることによって上限位置が規定され、下縁74bが下側壁70c部に突き当たることによって下限位置が規定される。すなわち、筒部74は受容溝70に配置されることによって、所定の範囲でシリンダ軸線3X方向に変位可能になっている。
【0050】
図5に示すように、ラック部75は、筒部74に対してクランク軸線8X方向における一側に配置される。シリンダブロック3には、ラック部75と対応した位置に凹部77が形成されている。凹部77は、通路3bの上端部から上方に延びている。ラック部75は、シャッター73が上限位置側に位置するときに凹部77内に配置され、シャッター73が下方に移動するに従って通路3b内に突入する。このように、凹部77内にラック部75が出没可能に配置されることによって、シャッター73はシリンダブロック3と干渉することなく、シリンダ軸線3X方向への移動が可能になっている。ラック部75のシリンダ軸線3Xを中心とした周方向における側部は、凹部77を画定する側壁と摺接し、シャッター73のシリンダ軸線3Xを中心とした回転を阻止している。
【0051】
ラック部75のラック歯75aには、ピニオン78が噛み合っている。ピニオン78は、シリンダブロックに形成されたピニオン孔79内に回転可能に配置され、シリンダブロック3に回転可能に支持されたシャフト81の一端に結合されている。ピニオン孔79は、凹部77と連続して形成され、ピニオン孔79を形成する壁部82は、シリンダブロック3の側面に対して外方に張り出している。
図3に示すように、シャフト81は、クランク軸線8X及びシリンダ軸線3Xと直交する方向に延び、他端がシリンダブロックの外方に突出している。シャフト81の他端は、電動モータ84の回転軸に連結されている。電動モータ84は、ブラケット85を介してシリンダブロック3の側面に取り付けられている。これにより、電動モータ84が回転するとピニオン78が回転し、ラック部75においてピニオン78に噛み合うシャッター73はシリンダ軸線3X方向に移動する。電動モータ84は、図示しない電子制御装置(ECU)に制御されている。
【0052】
図5では、シャッター73が上限位置にある状態を実線で表し、シャッター73が下限位置にある状態を2点鎖線で表す。シャッター73は、上限位置において筒部74の下縁74bが掃気孔42cの上縁42dと一致する位置に配置されている。下限位置において、筒部74の下縁74bが掃気孔42cと径方向において対向する位置に配置される。
【0053】
以上の構成によれば、シャッター73が上限位置からシリンダ軸線3X方向に沿って下方に移動することによって、筒部74の下縁74bは掃気孔42cの上縁42dから掃気孔42c内に突入し、掃気ポート43のシリンダボア3a側の開口端の上縁を構成する。そのため、シャッター73のシリンダ軸線3X方向における位置を変化させることによって、ピストン22の下降時に掃気ポート43とシリンダボア3aのピストン22より上側の部分(燃焼室44)とが連通を開始するタイミング、すなわち掃気ポート43の開タイミングと、ピストン22の上昇時に掃気ポート43とシリンダボア3aのピストン22より上側の部分との連通が遮断されるタイミング、すなわち掃気ポート43の閉タイミングとを変化させることができる。掃気ポート43の開タイミング及び閉タイミングが変化することによって、掃気ポート43が開状態を維持する期間、すなわち開期間が変化する。
【0054】
図1および
図2に示すように、シリンダヘッド4の下面におけるシリンダボア3aに対応する位置には、ドーム状のヘッド側燃焼室4aが凹設されており、ピストン22の頂面とシリンダヘッド4との間に燃焼室44が形成される。また、シリンダヘッド4の下面におけるヘッド側燃焼室4aの周囲には、前述したシリンダブロック3に形成された環状空間41bと接続する環状溝4bが形成されている。環状空間41bおよび環状溝4bによって、ヘッド側燃焼室4aおよびシリンダボア3aの上部を囲繞するウォータージャケット45が構成される。
【0055】
シリンダヘッド4には、排気ポート46が燃焼室44の頂部に開口するように形成されるとともに、点火プラグ47が燃焼室44に臨むように螺着されている。点火プラグ47は、エンジン始動時に点火駆動され、燃焼室44内の混合気に火花点火を行う。また、シリンダヘッド4には、排気ポート46を開閉するポペット型の排気弁48が、クランク軸線8X方向に傾斜した状態でステムエンドを上部動弁室6に配置して摺動可能に設けられている。上部動弁室6には、排気弁48を開閉駆動する動弁機構50の一部が配置されている。
【0056】
動弁機構50は、排気弁48を閉弁方向(上方)に付勢するバルブスプリング51と、シリンダヘッド4に設けられた支柱52によってクランクシャフト8と直交する方向に支持された上部ロッカシャフト53と、上部ロッカシャフト53によって揺動自在に支持された上部ロッカアーム54とを含んでいる。上部ロッカアーム54は、クランクシャフト8と概ね平行に延在しており、一端にはプッシュロッド55の上端55aに当接する受け部54aが形成され、他端には排気弁48のステムエンドに当接するスクリュアジャスタ54bが設けられている。プッシュロッド55の上端55aは半球状とされており、上部ロッカアーム54の受け部54aは、プッシュロッド55に対応する球状に凹陥した座面を形成してプッシュロッド55の上端55aを摺動可能に受容する。
【0057】
図2および
図3に示すように、プッシュロッド55は、シリンダブロック3に対してクランク軸線8X方向の一側に概ね鉛直に延在するように配置され、シリンダヘッド4に接続された上端を有する中空のロッドケース56に収容されている。ロッドケース56はシリンダヘッド4と下部動弁ケース本体17とに掛け渡され、ロッドケース56の下端は下部動弁ケース本体17の上壁に接続している。
【0058】
ロッドケース56の下端は、クランクシャフト8がシリンダ軸線3Xからオフセットしていることから、下部動弁ケース本体17の上壁におけるクランクシャフト8から側方にオフセットした部位に接続される。下部動弁室18にも動弁機構50の一部が配置される。下部動弁ケース本体17の下壁には、下部動弁室18内の潤滑油を排出するためのドレン孔57が形成されており、ドレンプラグ58によってドレン孔57は閉塞される。
【0059】
動弁機構50は、クランクシャフト8の下部動弁室18内に延在する部位に設けられたカム61と、クランクケース2の側壁7Sと動弁室カバー19とによってクランクシャフト8と平行に支持された下部ロッカシャフト63と、下部ロッカシャフト63によってカム61に対応する位置に揺動自在に支持された下部ロッカアーム64とを含んでいる。すなわちクランクシャフト8の一方(
図2の右側)の延出部14がカムシャフト66を構成している。
【0060】
図3に示すように、下部ロッカアーム64は、下部ロッカシャフト63によって支持される筒部64aと、筒部64aからクランクシャフト8側に延びる第1アーム64bと、第1アーム64bの端部に軸支され、カム61に転接するローラ64cと、筒部64aから第1アーム64bと反対側に延びる第2アーム64dと、第2アーム64dの端部に形成されてプッシュロッド55の下端55bを支持する受け部64eとを有している。プッシュロッド55の下端55bは半球状とされており、受け部64eはこれに対応する球面状に凹陥する座面を形成してプッシュロッド55の下端55bを摺動可能に受容する。
【0061】
このように構成されたエンジンEは、始動後、次のように動作する。
図1を参照すると、まず、ピストン22の上昇行程では、これに伴ってクランク室2aの減圧によってリード弁33が開弁し、スロットル弁34bによって流量を制御された新気と、この新気に向けて燃料噴射弁35によって噴射された燃料とが混合気を形成しつつ、リード弁33および吸気ポート32を通過してクランク室2aに吸入される。なお、シリンダボア3a内の混合気はピストン22によって圧縮され、ピストン22の上死点近傍で点火プラグ47が火花点火を行うことにより燃料が着火する。
【0062】
その後、ピストン22が下降行程に移ると、リード弁33が閉じることからスロットル弁34b側への逆流が阻止され、クランク室2a内の混合気は圧縮される。ピストン22の下降が進んでピストン22が掃気ポート43を開放する前に、カム61のプロファイルにしたがって動弁機構50によって駆動された排気弁48が排気ポート46を開放する。次いで、ピストン22が掃気ポート43を開放すると、圧縮された混合気が掃気ポート43を通ってシリンダボア3a内(燃焼室44内)に送り込まれる。燃焼室44内の既燃焼ガス(排気ガス)は混合気によって押し出されるようにして排気ポート46から排出され、その一部は内部EGRガスとして燃焼室44内に残留する。排気弁48の閉弁タイミングは、燃焼室44内に残留するEGRガス量が比較的多くなり、EGRガス量の増大に伴って上昇する混合気の圧縮時温度の上昇によって自着火が容易になるように設定されている。
【0063】
ピストン22が再び上昇行程に移ると、ピストン22が掃気ポート43を閉じた後、カム61によって駆動された排気弁48が排気ポート46を閉じ、ピストン22の上昇に伴ってシリンダボア3a内(燃焼室44)内の混合気を圧縮しつつ、クランク室2a内を減圧してリード弁33から混合気を吸入させる。エンジンEの回転が安定してくると、ピストン22が上死点近傍に到達したときに混合気が自着火して燃焼、膨張し、ピストン22を下降させるようになる。
【0064】
このようにして、エンジンEは2サイクル動作を行い、始動時には点火プラグ47によって火花点火を行いながらも、回転が安定してくると、予混合圧縮自着火による2サイクル動作を行う。そして、掃気ポート43からシリンダボア3aを経由して排気ポート46へと流れる掃排気の流れは、曲がりの少ないユニフローとなる。
【0065】
本実施形態に係るエンジンEは、シャッター73を有するため、掃気ポート43の開タイミング、閉タイミング、及び開期間を任意に変化させることができる。シャッター73の筒部74の下縁74bは、掃気ポート43のシリンダボア3a側の開口端の上縁をなすため、シャッター73をシリンダ軸線3X方向に変位させることによって、ピストン22の外周上縁が筒部74の下縁74bを上下に通過するタイミングが変化し、開タイミング及び閉タイミングが変化する。なお、ピストン22の外周と筒部74の内周面との間には、シリンダスリーブ42の厚み分の隙間が形成されるが、この隙間の断面積は掃気ポート43の断面積に比べて微小であり、この隙間は燃焼室44と掃気ポート43とを連通状態には寄与しない。
【0066】
掃気ポート43の開タイミング、閉タイミング、及び開期間を変化させることによって、掃気ポート43から燃焼室44に流れる混合気量、及び燃焼室44に留まる内部EGRガス量が変化する。例えば、開タイミングを遅角側に変化させると共に閉タイミングを進角側に変化させ、開期間を短くすることによって、混合気の燃焼室44への供給量を低下させると共に、内部EGRガス量を増加させることができる。掃気ポート43の開タイミング、閉タイミング、及び開期間を変化させるためのシャッター73の位置制御は、エンジン回転数やアクセルペダルの操作量等に基づいて設定される要求負荷等の運転条件に応じて、連続的に行われるとよい。
【0067】
シャッター73の筒部74は、シリンダボア3a及びシリンダスリーブ42と同軸に設けられ、かつシリンダボア3aに対してシリンダ軸線3X方向に変位可能に設けられている。そのため、掃気孔42c(掃気ポート43)がシリンダボア3aの周囲に複数設けられる場合にも、全ての掃気孔42cを1つのシャッター73で開閉することができる。また、各掃気孔42cを通過する混合気、及びシリンダボア3a内で圧縮される混合気からシャッター73はシリンダボア3aの径方向に荷重を受けるが、筒部74が環状をなし、かつシリンダスリーブ42の外周面に配置されているため、シリンダボア3aに対する倒れが発生し難く、安定性良く掃気孔42cを開閉することができる。
【0068】
シャッター73の筒部74は、シリンダスリーブ42の外周面に凹設された受容溝70に受容されているため、シャッター73のシリンダ軸線3X方向における移動の上限位置及び下限位置が規定される。
【0069】
次に、上記の実施形態の一部を変更した変形実施形態を、
図6を参照して説明する。変形実施形態では、シャッター73が上死点にあるときに、筒部74の下縁74bは掃気孔42cの上縁42dよりも下方に配置されている。すなわち、筒部74の下縁74bは、掃気孔42cの上縁42dよりも常時下方に配置され(筒部74の下縁74bは、掃気孔42cとシリンダボア3aの径方向において重なる位置に常時配置され)、掃気ポート43のシリンダボア3a側の開口端の上縁を構成する。
【0070】
筒部74の下縁74bの内周面側には、シリンダボア3aの中心側(シリンダ軸線3X側)に突出する凸部90が設けられている。凸部90の突出端90aは、シリンダスリーブ42の内周面と面一に連続する円周面に形成されている。すなわち、凸部90はシリンダボア3aの外周部の一部をなし、ピストン22の外周部(詳細には、ピストン22の外周部に支持されたオイルリングやコンプレッションリングの外周部)と摺接可能になっている。
【0071】
変形実施形態によれば、シリンダスリーブ42の厚みが比較的大きい場合にも、シリンダボア3aの径方向においてシャッター73とピストン22との間に隙間が形成されない。そのため、ピストン22の外周部の上縁が、掃気孔42cの上縁42dより下方に位置し、かつ筒部74の下縁74bより上方に位置する状態において、燃焼室44と掃気ポート43との連通状態が確実に遮断される。
【0072】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、一例としてシャッター73が筒部74を有し、筒部74において掃気孔42cを開閉する構成としたが、筒部74に代えて、複数の板部材を各掃気孔42cに対応して設ける構成としてもよい。
【0073】
また、上記の実施形態では、シャッター73をシリンダ軸線3X方向に移動させる駆動手段としてラック部75及びピニオン78からなるラックアンドピニオン機構を例示したが、駆動機構は公知の様々な手段に置換することができる。例えば、電磁力を利用してシャッター73をシリンダ軸線3X方向に移動させるようにしてもよい。
【0074】
上記の実施形態では、シリンダスリーブ42の外周面に受容溝70を形成し、受容溝70に筒部74を配置することによって筒部74の移動範囲を上限位置及び下限位置の間で規制した。他の実施形態では、受容溝70の下側壁70cを形成せず、底面70aがシリンダスリーブ42の下端まで到達するようにしてもよい。このようにすると、筒部74の受容溝70への配置(取り付け)が容易である。