(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033224
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】内燃機関の排ガスターボチャージャの安定した運転を制御する方法及び相応の装置
(51)【国際特許分類】
F02B 37/12 20060101AFI20161121BHJP
F02B 33/44 20060101ALI20161121BHJP
F02B 37/04 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
F02B37/12 303D
F02B33/44 J
F02B33/44 H
F02B37/04 Z
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-524431(P2013-524431)
(86)(22)【出願日】2011年8月12日
(65)【公表番号】特表2013-534292(P2013-534292A)
(43)【公表日】2013年9月2日
(86)【国際出願番号】EP2011063972
(87)【国際公開番号】WO2012022694
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年8月11日
(31)【優先権主張番号】102010034727.2
(32)【優先日】2010年8月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル−ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr−Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
(74)【復代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル マルクス
(72)【発明者】
【氏名】グァン ラオ
【審査官】
安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−514854(JP,A)
【文献】
特開2009−264198(JP,A)
【文献】
特表2008−531907(JP,A)
【文献】
特開2008−223544(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102007027968(DE,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102007033693(DE,A1)
【文献】
国際公開第2010/089087(WO,A1)
【文献】
独国特許出願公開第19637571(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/44
F02B 37/04
F02B 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過渡出力が必要な際に補助空気(ZL)を内燃機関(7)に吹き込む新鮮ガス供給装置(4)と、
圧縮空気を発生させるコンプレッサ(8)と、
前記圧縮空気のための、排出弁(9)を有する空気処理ユニット(10)と、
前記コンプレッサ(8)を排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)の上流にある空気入口(LE)に接続するか、又は前記コンプレッサ(8)を排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)に接続する切換弁(5)と、
前記切換弁(5)を制御する制御装置(6)と、
を備える内燃機関(7)の排ガスターボチャージャ(2)の、ターボチャージャサージングを示さない安定した運転を制御する方法であって、
前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を前記空気入口(LE)に接続する吸気モードを実行し、かつ前記内燃機関(7)、前記空気処理ユニット(10)及び前記排ガスターボチャージャ(2)の運転パラメータを監視するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、前記吸気モードを、前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を前記排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)に接続する過給モードに切り換えることにより、前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を再び前記空気入口(LE)に接続することによって、前記過給モードを前記吸気モードに切り換えるステップと、
を有し、
前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップにおいて、前記新鮮ガス供給装置(4)の運転のための運転パラメータが、監視される運転パラメータをなし、前記新鮮ガス供給装置(4)の作動時、前記吸気モードから前記過給モードへの切換を実施し、前記新鮮ガス供給装置(4)の作動後、前記過給モードから前記吸気モードへの切換を実施することを特徴とする、内燃機関の排ガスターボチャージャの安定した運転を制御する方法。
【請求項2】
過渡出力が必要な際に補助空気(ZL)を内燃機関(7)に吹き込む新鮮ガス供給装置(4)と、
圧縮空気を発生させるコンプレッサ(8)と、
前記圧縮空気のための、排出弁(9)を有する空気処理ユニット(10)と、
前記コンプレッサ(8)を排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)の上流にある空気入口(LE)に接続するか、又は前記コンプレッサ(8)を排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)に接続する切換弁(5)と、
前記切換弁(5)を制御する制御装置(6)と、
を備える内燃機関(7)の排ガスターボチャージャ(2)の、ターボチャージャサージングを示さない安定した運転を制御する方法であって、
前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を前記空気入口(LE)に接続する吸気モードを実行し、かつ前記内燃機関(7)、前記空気処理ユニット(10)及び前記排ガスターボチャージャ(2)の運転パラメータを監視するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、前記吸気モードを、前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を前記排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)に接続する過給モードに切り換えることにより、前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を再び前記空気入口(LE)に接続することによって、前記過給モードを前記吸気モードに切り換えるステップと、
を有し、
前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップにおいて、前記内燃機関(7)のコースティング期間及び前記新鮮ガス供給装置(4)の運転のための運転パラメータが、監視される運転パラメータをなし、前記新鮮ガス供給装置(4)が運転されていないとき、コースティング期間の開始時、前記吸気モードから前記過給モードへの切換を実施し、コースティング期間の終了後、前記過給モードから前記吸気モードへの切換を実施することを特徴とする、内燃機関の排ガスターボチャージャの安定した運転を制御する方法。
【請求項3】
前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップは、
前記排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)の給気圧及び/又は質量流量を監視するステップと、
前記排出弁(9)を開放することにより前記コンプレッサ(8)の出口を雰囲気に接続するステップと、
を有する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記排出弁(9)の開放を有段又は無段に実施する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップにおいて、前記排ガスターボチャージャ(2)のウェイストゲートバルブの運転のための運転パラメータが、監視される運転パラメータをなし、前記ウェイストゲートバルブを開放する信号に応じて、前記吸気モードから前記過給モードへの切換を実施し、かつ前記ウェイストゲートバルブを閉鎖する信号に応じて、前記過給モードから前記吸気モードへの切換を実施する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
過渡出力が必要な際に補助空気(ZL)を内燃機関(7)に吹き込む新鮮ガス供給装置(4)と、
圧縮空気を発生させるコンプレッサ(8)と、
前記圧縮空気のための、排出弁(9)を有する空気処理ユニット(10)と、
を備える、内燃機関(7)の排ガスターボチャージャ(2)の、ターボチャージャサージングを示さない安定した運転を制御する方法を実施する装置であって、
前記コンプレッサ(8)を、排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)の上流にある空気入口(LE)に接続するか、又は前記コンプレッサ(8)を前記排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)に接続する切換弁(5)と、
前記切換弁(5)を制御する制御装置(6)と、
を備え、
前記制御装置(6)は、
前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を前記空気入口(LE)に接続する吸気モードを実行し、かつ前記内燃機関(7)、前記空気処理ユニット(10)及び前記排ガスターボチャージャ(2)の運転パラメータを監視するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、前記吸気モードを、前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を前記排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)に接続する過給モードに切り換えることにより、前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を再び前記空気入口(LE)に接続することによって、前記過給モードを前記吸気モードに切り換えるステップと、
を実行し、
前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップにおいて、前記新鮮ガス供給装置(4)の運転のための運転パラメータが、監視される運転パラメータをなし、前記制御装置(6)は、前記新鮮ガス供給装置(4)の作動時、前記吸気モードから前記過給モードへの切換を実施し、前記新鮮ガス供給装置(4)の作動後、前記過給モードから前記吸気モードへの切換を実施することを特徴とする、内燃機関の排ガスターボチャージャの安定した運転を制御する方法を実施する装置。
【請求項7】
過渡出力が必要な際に補助空気(ZL)を内燃機関(7)に吹き込む新鮮ガス供給装置(4)と、
圧縮空気を発生させるコンプレッサ(8)と、
前記圧縮空気のための、排出弁(9)を有する空気処理ユニット(10)と、
を備える、内燃機関(7)の排ガスターボチャージャ(2)の、ターボチャージャサージングを示さない安定した運転を制御する方法を実施する装置であって、
前記コンプレッサ(8)を、排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)の上流にある空気入口(LE)に接続するか、又は前記コンプレッサ(8)を前記排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)に接続する切換弁(5)と、
前記切換弁(5)を制御する制御装置(6)と、
を備え、
前記制御装置(6)は、
前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を前記空気入口(LE)に接続する吸気モードを実行し、かつ前記内燃機関(7)、前記空気処理ユニット(10)及び前記排ガスターボチャージャ(2)の運転パラメータを監視するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、前記吸気モードを、前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を前記排ガスターボチャージャ(2)の圧縮機(2a)に接続する過給モードに切り換えることにより、前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、前記切換弁(5)により前記コンプレッサ(8)を再び前記空気入口(LE)に接続することによって、前記過給モードを前記吸気モードに切り換えるステップと、
を実行し、
前記排ガスターボチャージャ(2)の安定した運転を制御するステップにおいて、前記内燃機関(7)のコースティング期間及び前記新鮮ガス供給装置(4)の運転のための運転パラメータが、監視される運転パラメータをなし、前記制御装置(6)は、前記新鮮ガス供給装置(4)が運転されていないとき、コースティング期間の開始時、前記吸気モードから前記過給モードへの切換を実施し、コースティング期間の終了後、前記過給モードから前記吸気モードへの切換を実施することを特徴とする、内燃機関の排ガスターボチャージャの安定した運転を制御する方法を実施する装置。
【請求項8】
前記制御装置(6)は、前記排出弁(9)を制御するために形成されている、請求項6又は7記載の装置。
【請求項9】
前記制御装置(6)は、エンジン制御装置(11)又は前記空気処理ユニット(10)の構成部分である、請求項6から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
前記新鮮ガス供給装置(4)は、スロットルバルブ(4a)及び補助空気弁(4b)を有する、請求項6から9までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
前記スロットルバルブ(4a)、前記補助空気弁(4b)及び/又は前記排出弁(9)は、有段又は無段に調節可能な弁である、請求項10記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の内燃機関の排ガスターボチャージャの安定した運転を制御する方法に関する。さらに本発明は、このような方法を実施する装置にも関する。
【0002】
排ガスターボチャージャを備えるこのような内燃機関は、所定の運転状態において、特にトルク要求時に、排ガスターボチャージャによる圧縮された新鮮空気の供給が不十分な期間を有している。これにより、いわゆるターボラグが発生する。このターボラグを解消するために、増大した所要空気量は、新鮮ガス供給装置による付加的な新鮮空気の供給によってカバーされ、内燃機関のいわゆる過渡性能は向上する。
【0003】
この付加的な新鮮空気は、例えば車両空気システムの圧縮空気アキュムレータから取り出し可能である。増大した所要空気量は、圧縮空気アキュムレータに圧縮空気を供給するコンプレッサあるいは空気圧縮機の調整に至らしめる場合がある。この場合、コンプレッサの過給が実施され得る。すなわち、コンプレッサは、流動方向で見て排ガスターボチャージャの圧縮機の下流の給気を、内燃機関の所定の運転パラメータに基づいて、入力空気として受け取る。これにより、増大した所要空気量は、完全にカバー可能である。
【0004】
コンプレッサは、主に機械式に、例えば内燃機関のクランク軸によって駆動されている。連続的に過給されるコンプレッサも、特に米国において従来技術である。
【0005】
電子式に制御される空気処理システムも従来技術であり、大量生産されて、圧縮空気により制動される商用車両に組み付けられる。電子式の空気処理システム内には、電磁式の遮断弁が含まれている。
【0006】
新鮮ガス供給装置は、例えば国際公開第2006/089779号パンフレットにおいて公知である。
【0007】
すべてのシステムは、それ自体、燃料節減、エミッション及び/又は車両の過渡性能に関する利点をもたらす。
【0008】
しかし、排ガスターボチャージャの運転は、不安定となる場合がある。このことは、いわゆるターボチャージャサージング(Turboladerpumpen)の発生により起こる場合があり、不可避である。ターボチャージャのサージングは、圧縮機翼における流動の剥離によって発生する。流動の剥離は、サージ限界に達したとき、つまり圧力比と質量流量とが所定の比になったときに、発生する。これに関して、
図1に排ガスターボチャージャの圧縮機の圧縮機特性曲線図を示した。横軸には、スループットあるいは質量流量を記載し、縦軸には、圧力比及びエンタルピーのヘッド(Foerderhoehe)を記載した。
図1には、特性線群が記載されており、これらの特性線群のうち、符号Eは、圧縮機の回転数nが一定であるときの線である。6つの回転数n1〜n6に関する線Eが記載されている。ここでn1>n6である。さらに符号Dは、η1〜η4の等効率線を示しており、ここでη1>η4である。最高効率η1の領域内での、回転数n3と、無衝突流入(stossfreie Anstroemung)に関する線Fとの間の交点は、設計点又は運転点Aを概略的に示している。この特性線群は、左側に向かって、すなわちスループットあるいは質量流量が小さくなる方向で、サージ限界Cによって不安定領域Bに対して区切られている。
【0009】
サージングは、圧縮機翼の高い動的負荷を惹起し、ターボチャージャの故障に至らしめる場合がある。
【0010】
新鮮ガス供給装置の吹き込みプロセス中、吹き込まれた空気がターボチャージャの圧縮機方向へ逆流することを防止するためにフラップが閉鎖されることに基づいて、サージ限界Cに達する場合がある。このことは、ターボチャージャが空気を圧縮機の下流側で、閉鎖されたフラップに向かって圧送することから生じる。これにより、質量流量がますます小さくなると同時に、圧力比が上昇する。
【0011】
それゆえ、本発明の課題は、内燃機関の排ガスターボチャージャの安定した運転を制御する改善された方法を提供することである。
【0012】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法により解決される。
【0013】
この課題は、請求項7に記載の特徴を有する装置によっても解決される。
【0014】
本発明の思想は、監視される運転パラメータに基づいて、コンプレッサを吸気運転(angesaugender Betrieb)と過給運転(aufgeladener Betrieb)との間で可逆に切り換えることによって、内燃機関の関与する既存のコンポーネントの協働により、排ガスターボチャージャの安定領域を制御することにある。
【0015】
これにより、システムの挙動は、排ガスターボチャージャの作業点が安定領域にとどまり、不安定領域に陥ることがないことによって改善される。こうして、好ましくは、いわゆるターボチャージャサージングは回避される。
【0016】
これに応じて、新鮮ガス供給装置と、切換弁と、制御装置と、コンプレッサと、排出弁を有する空気処理ユニットとを備える内燃機関の排ガスターボチャージャの安定した運転を制御する方法は、
切換弁によりコンプレッサを空気入口に接続して、コンプレッサを吸気モードで運転し、かつ内燃機関、空気処理ユニット及び排ガスターボチャージャの運転パラメータを監視するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、切換弁によりコンプレッサを排ガスターボチャージャの圧縮機に接続することによって、コンプレッサを吸気モードから過給モードに切り換えることにより、排ガスターボチャージャの安定した運転を制御するステップと、
監視される運転パラメータに基づいて、切換弁によりコンプレッサを再び空気入口に接続することによって、コンプレッサを過給モードから吸気モードに切り換えるステップと、
を有する。
【0017】
「インテリジェントスイッチバルブ(intelligentes Umschaltventil)」とも称呼可能な切換弁によって、今や、エアシステムにおいて、コンプレッサの自然吸気モード(natuerlich ansaugender Modus:排ガスターボチャージャの圧縮機上流の空気入口からの空気の取り出し)と、コンプレッサの過給モード(aufgeladener Modus:圧縮機下流の圧縮された空気の取り出し)との間で切り換えることが可能である。
【0018】
種々異なる運転パラメータ、例えばエンジン回転数及び給気圧に基づいて、制御装置は、切換弁の位置を決定する。
【0019】
制御時、排ガスターボチャージャの圧縮機の給気圧及び/又は質量流量の監視も実施され得る。その際、例えば、その都度求められた目下のパラメータが、予め規定可能な限界値と比較される。例えば圧縮機の給気圧がそれにもかかわらず引き続き上昇する場合、排出弁を開放することによって、コンプレッサの出口を雰囲気に接続することが可能である。排出弁の開放は、別の態様において、有段又は無段に実施されてもよい。この場合、その都度の運転状態への特に良好な適合が実施可能である。
【0020】
排ガスターボチャージャの安定した運転を制御するステップにおいて、新鮮ガス供給装置の運転が、監視される運転パラメータをなしてもよい。新鮮ガス供給装置の作動時、吸気モードから過給モードへのコンプレッサの切換を実施し、新鮮ガス供給装置の作動後、過給モードから吸気モードへのコンプレッサの切換を実施する。この運転パラメータは、信号、例えばエンジン制御装置の信号として既に提供可能な状態にあり、付加的に生成される必要はない。
【0021】
排ガスターボチャージャの安定した運転を制御するステップにおいて、内燃機関のコースティング期間あるいは惰走期間(Schubphase)及び新鮮ガス供給装置の運転が、監視される運転パラメータをなしてもよい。新鮮ガス供給装置が運転されていないとき、コースティング期間の開始時、吸気モードから過給モードへのコンプレッサの切換を実施し、コースティング期間の終了後、過給モードから吸気モードへのコンプレッサの切換を実施する。これにより、コースティング期間中に発生される、給気内に含まれるエネルギは、圧縮空気を形成し、これを貯蔵するためにも利用される。
【0022】
排ガスターボチャージャがいわゆるウェイストゲートバルブを装備可能であるとき、排ガスターボチャージャのウェイストゲートバルブは省略されてもよい。その際、排ガスターボチャージャの安定した運転を制御するステップにおいて、排ガスターボチャージャのウェイストゲートバルブの運転のための運転パラメータが、監視される運転パラメータをなしてもよく、ウェイストゲートバルブを開放する信号が、吸気モードから過給モードへのコンプレッサの切換を起こし、かつウェイストゲートバルブを閉鎖する信号が、過給モードから吸気モードへのコンプレッサの切換を起こす。
【0023】
内燃機関の排ガスターボチャージャの安定した運転を制御する方法を実施する装置は、過渡出力が必要な際に補助空気を内燃機関に吹き込む新鮮ガス供給装置と、圧縮空気を発生させるコンプレッサと、圧縮空気のための、排出弁を有する空気処理ユニットとを備える。この装置は、切換弁及び制御装置を特徴としている。切換弁は、コンプレッサの吸気モードでは、コンプレッサを空気入口に接続し、コンプレッサの過給モードでは、コンプレッサを排ガスターボチャージャの圧縮機に接続する。制御装置は、排ガスターボチャージャの安定した運転を制御するために切換弁を制御するために役立つ。
【0024】
制御装置は、排出弁を制御するために形成されていてもよい。これにより、排ガスターボチャージャの安定した運転のより広範な個別の制御が可能となる。
【0025】
一態様において、制御装置は、エンジン制御装置又は空気処理ユニットの構成部分であってもよい。これにより、付加的な構成スペースは不要である。
【0026】
別の態様において、新鮮ガス供給装置は、スロットルバルブ及び補助空気弁を有していてもよい。これらの弁及び/又は排出弁が、有段又は無段に調節可能な弁である場合、運転状態へのさらに広範な適合が個別に可能である。
【0027】
上述の装置は、上述の方法を実施するために適している。
【0028】
以下に、本発明について、一実施の形態に基づいて、添付の図面を参照しながら詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】本発明に係る方法を実施する本発明に係る装置を備える内燃機関の第1の運転状態における概略ブロック図である。
【
図3】第2の運転状態における
図2に示した概略ブロック図である。
【
図4】第3の運転状態における
図2に示した概略ブロック図である。
【
図5】本発明に係る方法の一実施の形態のフローチャートである。
【0030】
図1については、既に本明細書の導入部において上述した。
【0031】
図2は、本発明に係る方法を実施する本発明に係る装置を備える内燃機関7の第1の運転状態における概略ブロック図である。
【0032】
内燃機関7の排ガスターボチャージャ2の安定した運転を制御する本発明に係る方法を実施する本発明に係る装置は、新鮮ガス供給装置4と、空気処理ユニット10及び排出弁9を有する圧縮空気設備のための圧縮空気を発生させるコンプレッサ8と、切換弁5と、制御装置6とを有する。
【0033】
空気入口LEは、内燃機関7のために雰囲気から新鮮空気を吸い込むために役立つ。図示の内燃機関7は、吸気マニホールド7aと、6つのシリンダ7bと、排ガス管路7cとを有する。空気入口LEは、空気フィルタ1に接続されている。空気フィルタ1の下流において吸気管路は、圧縮機吸気管路1aと吸気管路1bとに分岐している。
【0034】
圧縮機吸気管路1aは、排ガスターボチャージャ2の圧縮機2aに接続されている。圧縮機2aは、排ガスターボチャージャ2のタービン2bに連結されている。タービン2bは、内燃機関7の排ガス管路7cと連通している。タービン2bの出口は、排ガス出口AAに接続されている。
【0035】
吸気管路1bは、切換弁5の入口側に接続されている。切換弁5については下で詳述する。
【0036】
排ガスターボチャージャ2の圧縮機2aは、圧縮機管路2cを介して給気冷却器3に接続されている。給気冷却器3は、給気管路3aにより、いわゆるPBSシステム(Pneumatic Booster System)の新鮮ガス供給装置4のスロットルバルブあるいは絞りフラップ弁4aのポートuと、切換弁5の入口側の別のポートとに接続されている。新鮮ガス供給装置4は、スロットルバルブ4aの他に、本実施の形態では補助空気弁4bも有している。補助空気弁4bは、補助空気管路4cを介して補助空気ZLのためのポートに接続されている。補助空気ZLは、例えば図示しない圧縮空気容器に由来するものであってよい。スロットルバルブ4a及び補助空気弁4bは、両弁の出口側において合流して内燃機関7の吸気マニホールド7aに接続されている。この種の新鮮ガス供給装置4の詳細な説明は、国際公開第2006/089779号パンフレットに看取可能である。
【0037】
切換弁5の出口側は、コンプレッサ入口管路8aを介してコンプレッサ8に接続されている。コンプレッサ8は、図示はしないが、内燃機関7によって駆動されている。コンプレッサ8は、電気的な駆動モータを独自に又は付加的に有していてもよい。コンプレッサ吐出管路8bは、排出弁9の入口側にも、圧縮空気設備のための空気処理ユニット10の入口にも接続されている。空気処理ユニット10の出口は、コンプレッサアキュムレータ空気KSLのためのポートに接続されており、このポートは、例えば圧縮空気容器(図示せず)に通じている。排出弁9の出口側は、雰囲気に通じるコンプレッサ空気出口KLAに接続されている。
【0038】
制御装置6は、制御線路(破線で図示)を介して内燃機関7のエンジン制御装置11と、新鮮ガス供給装置4のスロットルバルブ4a及び補助空気弁4bと、切換弁5と、排出弁9とに接続されている。これらの弁4a,4b,5,9は、例えば電気式に制御可能であり、電気式の駆動装置を有している。他の駆動形態ももちろん可能である。これらすべての接続及び図示しない別の接続、例えば空気処理ユニット10及び排ガスターボチャージャ2との接続は、内燃機関7を有する車両のバスシステム、例えばCANバスの構成部分であってよい。
【0039】
図2は、例えば一定の回転数で内燃機関7が運転されているときの、装置の第1の運転状態を示している。この場合、コンプレッサ8は、いわゆる吸気モードで作動している。吸気モードは、コンプレッサ8によって圧縮される空気が空気入口LEを通して吸い込まれ、吸気管路1bを介して切換弁5によりコンプレッサ入口管路8aに流入することを意味している。切換弁5は、この第1の運転状態において、吸気管路1bが切換弁5の弁位置u/yを介してコンプレッサ入口管路8aに接続されているように切り換えられている。切換弁5に別に接続されている給気管路3aは、切換弁5の弁位置wによって閉鎖されている。排出弁9は閉鎖位置にある。すなわち、排出弁9に接続されているコンプレッサ吐出管路8bは、排出弁9の位置vによって遮断されている。これにより、コンプレッサ8は、装置の第1の運転状態において、圧縮空気を空気入口LEから形成する。コンプレッサ8は、空気を空気入口LEから吸い込み、圧縮空気をコンプレッサ吐出管路8bを通して空気処理ユニット10に、例えば圧縮空気容器内に貯蔵するために、圧送する。
【0040】
内燃機関が移行出力、すなわち過渡出力を必要とするとき、エンジン制御装置11は、例えばCANバスを介して新鮮ガス供給装置4の作動を要求する。同時に制御装置6は、新鮮ガス供給装置4の間近に迫った作動についての情報を入手する。スロットルバルブ4aが閉鎖(ポートv及びx:遮断)されるとともに、開放された補助空気弁4b(ポートu及びw:接続)を通した内燃機関7の吸気マニホールド7aへの補助空気ZLの吹き込みプロセスが開始されると直ちに、切換弁5は、
図3に示した弁位置に切り換えられる。
図3に示した弁位置において、コンプレッサ入口管路8aは、切換弁5の弁位置x/zを介して給気管路3aに接続されている。このとき、吸気管路1bは、切換弁5の弁位置vによって閉鎖されている。
【0041】
図3に示した装置の概略ブロック図は、装置の第2の運転状態を示している。第2の運転状態において、コンプレッサ8は過給モードで作動する。
【0042】
給気管路3aをコンプレッサ入口管路8aに接続したことにより、コンプレッサ8は、圧縮された給気を排ガスターボチャージャ2の圧縮機2aの給気冷却器3から得る。これにより、圧縮機2aの質量流量を分岐させることができ、この質量流量の圧送によって圧縮機2aが特性曲線図の不安定領域B(
図1参照)外の安定領域内に引き続きとどまるので、排ガスターボチャージャ2のサージングを回避することができる。
【0043】
この質量流量の分岐では少なすぎる場合は、同時に制御ユニット6に、排出弁9を開放する信号を入力することができる。このことは、
図4の概略ブロック図において、装置の第3の運転状態で示してある。こうして、給気管路3aから、引き続き位置x/zにある切換弁5、コンプレッサ入口管路8a、コンプレッサ8、コンプレッサ吐出管路8b、位置u/wにある排出弁9及びコンプレッサ空気出口KLAを介して雰囲気へと至る、空気質量流量を導出するための空気経路が生じる。この空気経路を通る最大で可能な質量流量は、特に排出弁9の横断面積に依存している。コンプレッサ8を通るこの空気質量流量により、排ガスターボチャージャ2の圧縮機2a内での質量流量の強い剥離は、回避される。その結果、新鮮ガス供給装置4のスロットルバルブ4aが閉鎖されているときのターボチャージャサージングは発生せず、排ガスターボチャージャ2の安定した運転が得られる。
【0044】
分岐された質量流量の大きさは、例えば空気処理ユニット10によって確認可能である。さらにこのために、排ガスターボチャージャ2の圧縮機2aにかつ/又は新鮮ガス供給装置4のスロットルバルブ4aの入口側に、適当な測定値発生器、例えば圧力ピックアップあるいは圧力センサが配置されていてよい。
【0045】
新鮮ガス供給装置4の作動が終了すれば、ターボチャージャサージングの危険はもはや存在しない。スロットルバルブ4aが再び開放された後、排出弁9は再び閉鎖される。その後、切換弁5は、目下の運転パラメータ次第で、コンプレッサ8を過給モード(位置x/z)のままとどめるか、又は切換により自然吸気モード(位置u/y)に戻すことが可能である。運転パラメータについては後述する。
【0046】
例えば内燃機関7の全負荷加速時、新鮮ガス供給装置4の作動後、圧縮機2aの給気圧の降下を回避するために、コンプレッサ8は自然吸気モードに切り換えられることが望ましい。
【0047】
装置は、ターボチャージャサージングを回避可能なだけでなく、以下の作用効果を奏することもできる。
【0048】
現在の排ガスターボチャージャ2は、しばしば、いわゆるウェイストゲートバルブ(図示せず)を有している。この弁は、圧縮機2a内の給気圧が所定の値になると開弁して、排ガスターボチャージャ2のタービン2bにおいて所定量の排ガス質量流量を逃がす。これにより、排ガスターボチャージャ2及び/又は内燃機関7に損傷が発生する事態は回避される。こうして、排ガスをバイパスすることにより、この排ガスのエネルギは利用されない。ウェイストゲートバルブが作動する期間中、切換弁5は、常に、コンプレッサ8が過給モードで作動する位置x/zに切換可能である。こうして、排ガスの、提供可能な質量流量は、完全に利用可能であって、圧縮機2aによって、内燃機関7が必要としない付加的な給気を、コンプレッサ8、ひいてはコンプレッサ8に接続された圧縮空気設備に、貯蔵の目的で供給することができる。
【0049】
さらに切換弁5は、内燃機関7のコースティング期間中も、コンプレッサ8が過給モードで作動する位置x/zに切換可能である。この場合も、存在するエネルギは利用され得る。
【0050】
図5は、内燃機関7の排ガスターボチャージャ2の安定した運転を制御する本発明に係る方法の一実施の形態のフローチャートである。
【0051】
第1のステップ100では、第1の運転状態において、コンプレッサ8を吸気モードで運転する。このとき、切換弁5は、コンプレッサ入口管路8aを吸気管路1bを介して空気入口LEに接続する。同時に内燃機関7及び空気処理ユニット10の運転パラメータを監視する。
【0052】
第2のステップ110では、内燃機関7の過渡出力が要求され、新鮮ガス供給装置4を作動させる。このプロセスは、監視される運転パラメータに基づいて実施される。
【0053】
次に、第3のステップ130では、排ガスターボチャージャ2の安定した運転を制御するために、コンプレッサ8を吸気モードから過給モードに切り換える。この切換は、切換弁5がコンプレッサ入口管路8aを排ガスターボチャージャ2の圧縮機2aに接続するとともに、吸気管路1bを遮断あるいは閉鎖することによって行われる。
【0054】
最終的に、第4のステップ140を実施する。第4のステップ140では、監視される運転パラメータに基づいて、新鮮ガス供給装置4の作動の終了を確認する。次に、切換弁5がコンプレッサ入口管路8aを吸気管路1bに接続するとともに、コンプレッサ入口管路8aと給気管路3aとの接続を解消することによって、コンプレッサ8を再び吸気モードに切り換える。
【0055】
第3のステップ130は、2つの部分ステップ131及び132を有している。部分ステップ131では、排ガスターボチャージャ2の圧縮機2aの給気圧及び/又は質量流量を、それぞれ予め規定可能な値と比較することによって監視する。それぞれのパラメータがこの比較値を上回ると直ちに、部分ステップ132において、コンプレッサ吐出管路8bをコンプレッサ空気出口KLAに接続するために、排出弁9を開放する。それぞれのパラメータが、予め規定可能な別の値を下回ると、排出弁9を再び閉鎖する。
【0056】
択一的な第2のステップ120では、新鮮ガス供給装置4が作動されていないとき、運転パラメータに基づいて、内燃機関7がコースティング運転されるか、かつ/又は(排ガスターボチャージャ2がウェイストゲートバルブを装備している場合)排ガスターボチャージャ2のウェイストゲートバルブが開放されるかを確認する。両事例の各々について、第3のステップ130を実施し、コンプレッサ8を過給モードに切り換える。
【0057】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、添付の特許請求の範囲内で改変可能である。
【0058】
例えば制御装置6は、エンジン制御装置11又は空気処理ユニット10の構成部分であってもよい。
【0059】
さらに制御装置6は、図示しない記憶装置内にそれぞれの圧縮機特性曲線図の表値を含んでいてよい。この場合、監視されるパラメータに基づいて、その都度の目下の運転点A(
図1参照)を求め、その都度必要なモードへの切換弁5によるコンプレッサ8の適当な切換によって、目下の運転点Aがサージ限界Cを超過し、不安定領域Bに陥る事態は回避される。
【0060】
スロットルバルブ4a、補助空気弁4b及び/又は排出弁9は、有段又は無段にあるいは不連続的又は連続的に変更可能な通流横断面積を有する調節弁として形成されていてもよい。この場合、このような排出弁9によって、調節可能な質量流量を介した特に個別的な適合が可能である。
【0061】
新鮮ガス供給装置4は、国際公開第2006/089779号パンフレットに記載されているような新鮮ガス供給装置であってよい。
【符号の説明】
【0062】
1 空気フィルタ
1a 圧縮機吸気管路
1b 吸気管路
2 排ガスターボチャージャ
2a 圧縮機
2b タービン
2c 圧縮機管路
3 給気冷却器
3a 給気管路
4 新鮮ガス供給装置
4a スロットルバルブ
4b 補助空気弁
4c 補助空気管路
5 切換弁
6 制御装置
7 内燃機関
7a 吸気マニホールド
7b シリンダ
7c 排ガス管路
8 コンプレッサ
8a コンプレッサ入口管路
8b コンプレッサ吐出管路
9 排出弁
10 空気処理ユニット
100,...,140 ステップ
A 運転点
AA 排ガス出口
B 不安定領域
C サージ限界
D 等効率線
E 等回転数線
F 無衝突流入線
KLA コンプレッサ空気出口
KSA コンプレッサアキュムレータ空気
LE 空気入口
ZL 補助空気
u,...,z 弁ポート