(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる機械装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態.
図1は、本発明にかかる機械装置の実施の形態の外観を示す斜視図である。
図1に示す機械装置は、誘導電動機(モータ)及び減速機構を有するポンプ装置であり、誘導電動機21と、ポンプ22と、ベルト23と、プーリ(誘導電動機21側の小径プーリ31及びポンプ22側の大径プーリ32)と、を備える。
図1に示す機械装置の誘導電動機21は、高効率誘導電動機である。ここで、高効率誘導電動機とは、従来の非高効率誘導電動機と比較して同一出力において効率が高く、回転速度が速い誘導電動機をいう。
【0012】
図2は、
図1の機械装置におけるベルト・プーリの断面拡大図を示す図である。
図2に示すベルト・プーリにおいて、小径プーリ31の直径に対する大径プーリ32の直径は、従来よりも大きくなっている。例えば、従来の小径プーリの直径と大径プーリの直径の比が30:40であったとすると、本実施の形態の小径プーリの直径と大径プーリの直径の比は、30:41とする。このように、小径プーリの直径に対する大径プーリの直径を大きくすると、高効率誘導電動機を使用する際の減速比を大きくすることができ、この例では従来では減速比40/30であったものが減速比41/30となる。具体的には、誘導電動機21の回転速度をN
mとし、小径プーリ31の直径D
Sと大径プーリ32の直径D
Lの比をD
S:D
Lとすると、ポンプの回転速度N
pは減速比a=D
L/D
Sを用いて下記の式(1)で表される。
【0014】
上記の式(1)によれば、小径プーリ31の直径D
Sと大径プーリ32の直径D
Lの比を上記の例のように、従来の誘導電動機から高効率誘導電動機に変更するに際して、30:40から30:41に変更すると、従来の誘導電動機使用時のポンプの回転速度N
p1と従来の誘導電動機の回転速度N
m1ではN
p1=0.75N
m1であったところ、高効率誘導電動機使用時のポンプの回転速度N
p2と高効率誘導電動機の回転速度N
m2ではN
p2=0.73N
m2となる。一方、高効率誘導電動機の回転速度N
m2は、同一出力時の従来の誘導電動機の回転速度N
m1に比べて速くなる(N
m1<N
m2となる)。本実施の形態のように、高効率誘導電動機使用時の減速比を従来の誘導電動機使用時の減速比に比べて大きくすると、従来の誘導電動機使用時のポンプの回転速度N
p1と高効率誘導電動機使用時のポンプの回転速度N
p2は概ね等しくなる。これにより、機械出力は誘導電動機の変更前後で変化がなくなるため、誘導電動機21の高効率化による消費電力を削減することができる。
【0015】
次に、高効率誘導電動機の回転速度について説明する。
図3は、一般的な従来の誘導電動機(標準モータ)と高効率誘導電動機(高効率モータ)の損失比較を示す図である。
図3に示す損失は、一次銅損、二次銅損、鉄損、漂遊負荷損及び機械損により構成されている。
図3によれば、高効率誘導電動機では一般的な従来の誘導電動機に比べ、一次銅損及び二次銅損が減少する。これは、高効率誘導電動機では、誘導電動機の高効率化すなわち低損失化のため、一次抵抗及び二次抵抗が低減されるためである。
【0016】
更に、誘導電動機の抵抗と回転速度について説明する。誘導電動機のモータ出力は、下記の式(2)で表すことができる。
【0018】
ここで、P
Mはモータ出力であり、Vは電源電圧であり、sはすべりであり、r
1は一次抵抗であり、r
2は二次抵抗であり、x
1は一次リアクタンスであり、x
2は二次リアクタンスである。一般に、誘導電動機は定格運転時においてs<<1であるため、上記の式(2)からすべりと出力の関係は下記の式(3)で近似することができる。
【0020】
上記の式(3)より、出力一定時のすべりsは、下記の式(4)で表される。
【0022】
上記の式(4)より、出力一定時の誘導電動機の回転速度Nは、下記の式(5)で表される。
【0024】
ここで、N
0は同期回転速度であり、f
eは電源周波数であり
、pは誘導電動機の極対数である。上記の式(4)から、二次抵抗を小さくすると誘導電動機の定格出力時のすべりも小さくなり、上記の式(5)から、回転速度は速くなる。
【0025】
図4は、誘導電動機の回転速度とトルクの関係を示す図である。
図5は、誘導電動機の回転速度とトルクの関係を示し、
図4の拡大図を示す図である。
図4及び
図5において、曲線41は従来の誘導電動機の曲線であり、曲線42は高効率誘導電動機の曲線であり、曲線43は高効率誘導電動機に減速比変更を行った場合の曲線である。
図4及び
図5には、一般的な用途での回転速度と負荷トルクの関係(曲線44)も示している。負荷トルク(曲線44)と誘導電動機の速度トルク(曲線41,42,43)の交点が動作点となる。
【0026】
図5において、一般的な用途での負荷トルクから、従来の誘導電動機の動作点はL点(曲線41と曲線44の交点)であり、高効率誘導電動機の動作点はM点(曲線42と曲線44の交点)である。これは、高効率誘導電動機では、二次抵抗を小さくしているため、誘導電動機の定格出力時のすべりも小さくなり回転速度が上昇するためである。このようにして、M点では速度及びトルクの双方がL点よりも大きくなり、結果的に出力が増加する。そして、それに応じて入力電力も増加することとなり、誘導電動機としては高効率化しているものの、機械装置の消費電力としては増加する可能性がある。
【0027】
一方、
図4及び
図5には、高効率誘導電動機を使用する際の減速比を従来の誘導電動機を使用した場合に比べて大きくした場合の特性(曲線43)も示している。
図4及び
図5より、高効率誘導電動機を使用する際の減速比を従来の誘導電動機を使用した場合に比べて大きくしたことにより、従来の誘導電動機使用時の機械装置の回転速度と高効率誘導電動機使用時の機械装置の回転速度はL点で概ね等しくなり、機械出力は誘導電動機変更前後で変化がなくなる。このようにして、本実施の形態によれば、機械装置の出力増加による入力電力の増加がなくなり、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を引き出すことが可能となる。
【0028】
なお、減速比は、誘導電動機の回転速度が二次抵抗によって変化することに着目して、決定されてもよい。従来の誘導電動機使用時の減速比をα、高効率誘導電動機使用時の減速比をβ、従来の誘導電動機の二次抵抗をr
2、高効率誘導電動機の二次抵抗をA・r
2(Aは従来の誘導電動機と高効率誘導電動機の二次抵抗の比率)とすると、機械装置の回転速度N
pを同一とするための条件は、上記の式(5)等及びN
p=N
1/α=N
2/βから下記の式(6)にて表される。
【0030】
このため、従来の誘導電動機使用時と高効率誘導電動機使用時の回転速度を同等とするための減速比βは下記の式(7)で表される。
【0032】
したがって、上記の式(7)にて減速比βを決定すると、従来の誘導電動機使用時の回転速度と高効率誘導電動機使用時の回転速度は概ね等しくなり、機械出力は誘導電動機変更前後で変化がなくなるため、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を最大限に引き出すことが可能となる。
【0033】
また、上記の式(6)に着目して減速比増加率を決定する。
図6は、従来の誘導電動機に対する高効率誘導電動機の二次抵抗比及びすべりsをパラメータとするときの、従来の誘導電動機使用時と高効率誘導電動機使用時の回転速度を同等とするための減速比増加率を示す図である。
図6において、直線51は標準モータのすべり6%のときの減速比増加率を示す直線であり、直線52は標準モータのすべり5%のときの減速比増加率を示す直線であり、直線53は標準モータのすべり4%のときの減速比増加率を示す直線であり、直線54は標準モータのすべり3%のときの減速比増加率を示す直線であり、直線55は標準モータのすべり2%のときの減速比増加率を示す直線である。
図6により、従来の誘導電動機に対する高効率誘導電動機の二次抵抗比が小さく、従来の誘導電動機のすべり(定格回転速度)が大きいほど、誘導電動機変更前後での回転速度を同等とするための減速比増加率が大きくなる。具体的には、高効率誘導電動機の二次抵抗は、従来の誘導電動機のおよそ50%以下となることを想定すると、減速比は1.01〜1.06倍にすることを要する。
【0034】
また、本実施の形態では、上記の式(6)に用いた従来の誘導電動機と高効率誘導電動機の二次抵抗の比率Aを、誘導電動機の拘束試験により算出し、減速比βを上記の式(7)により算出する。なお、誘導電動機の拘束試験とは、誘導電動機の回転子を固定した状態で誘導電動機の一次巻線に定格周波数の低電圧を加え、定格電流に近い拘束電流を一次巻線に通電し、この時の一次側の入力を測定することで、二次抵抗を算出する試験である。拘束試験にて、誘導電動機変更前後での回転速度が同一となる減速比をより正確に求めることが可能となり、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を最大限に引き出すことが可能となる。
【0035】
また、本実施の形態では、高効率誘導電動機使用時の減速比βは、従来の誘導電動機の定格回転速度をN
1とし、従来の誘導電動機使用時の減速比をαとし、高効率誘導電動機の定格回転速度をN
2とすると、下記の式(8)で表される。
【0037】
誘導電動機は、定格回転速度付近で使用されることがほとんどであるため、上記の式(8)にて減速比を決定することで、多くの場合、誘導電動機変更前後での回転速度も同等となる。これにより、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を最大限に引き出すことが可能となる。
【0038】
なお、本実施の形態では、減速比を変更するためプーリの直径を変更することを説明したが本発明はこれに限定されず、減速機をギア構造とした機械装置において歯車の歯数を変更する構成であってもよい(
図7)。
図7は、本発明をギアに適用した形態を示す図である。
図7において、歯車61は小径プーリに相当し、歯車62は大径プーリに相当する。歯車の変更方法は、本実施の形態にて説明したように、従来の誘導電動機使用時と高効率誘導電動機使用時の回転速度が同等となるようにすればよい。これにより、誘導電動機変更前後での回転速度の変化がなくなるため、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を最大限に引き出すことが可能となる。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態にかかる機械装置は、小径プーリ(または小径ギア)を回転させる誘導電動機と、前記小径プーリの回転運動により駆動される大径プーリ(または大径ギア)が接続された回転機構を含む装置と、を備える機械装置であって、前記誘導電動機を高効率誘導電動機とすることによる回転速度の増加分が、前記小径プーリ(または小径ギア)の直径に対する前記大径プーリ(または大径ギア)の直径の比である減速比を増大させることで前記大径プーリ(または大径ギア)において相殺されており、前記誘導電動機を高効率誘導電動機とすることによる回転速度の増加分に起因する前記大径プーリ(または大径ギア)回転速度の増加が抑制されていることを特徴とする。または、本実施の形態にかかる機械装置は、誘導電動機と減速機を有する機械装置において、非高効率誘導電動機から高効率誘導電動機に変更した前記機械装置自体の回転速度が、変更前の非高効率誘導電動機使用時と同等となるように前記減速機の減速比を大きくしたことを特徴とする。このような構成とすることで、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を最大限に引き出すことができる。
【0040】
また、上記構成の機械装置において、前記減速比は、前記誘導電動機の二次抵抗に基づいて決定されていてもよい。このような形態は、例えば、上記の式(7)に示されている。このような構成とすることで、誘導電動機変更前後で回転速度の変化がなくなるため、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を最大限に引き出すことができる。
【0041】
また、上記構成の機械装置において、前記誘導電動機の前記二次抵抗は、拘束試験により算出すればよい。このような構成とすることで、正確に減速比を決定して誘導電動機変更前後で回転速度の変化がなくなるため、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を最大限に引き出すことができる。
【0042】
また、上記構成の機械装置において、前記誘導電動機の減速比は、前記誘導電動機の定格回転速度の比に基づいて決定されていてもよい。このような形態は、例えば、上記の式(8)に示されている。このような構成とすることで、誘導電動機変更前後で回転速度の変化がなくなるため、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を最大限に引き出すことができる。
【0043】
また、上記構成の機械装置において、前記小径プーリの直径に対する前記大径プーリの直径の比である減速比は、前記誘導電動機を高効率誘導電動機とすることによる回転速度の増加分に応じて1.0%以上6.0%以下で決定されていてもよい。このような構成とすることで、モータ高効率化による省エネ効果を最大限に引き出すことができる。
【0044】
または、上記構成と同様の機械装置において、前記誘導電動機を高効率誘導電動機とすることによる回転速度の増加分が、小径プーリの直径に対する大径プーリの直径の比である減速比を増大させるのではなく、前記誘導電動機に電力を供給する電源の周波数を小さくすることで前記大径プーリにおいて相殺されていてもよい。つまり、誘導電動機と減速機構を有する機械装置において、インバータ等の可変周波数電源を使用する従来の誘導電動機から高効率誘導電動機に置き換える際に、機械装置の回転速度が従来の誘導電動機使用時と同等となるようにインバータの出力周波数を小さくするとよい。インバータの出力周波数を、機械装置の回転速度が従来の誘導電動機使用時と同等となるように小さくし、具体的には、インバータの出力周波数を上記の式(7)等により、1/βまたは約1.0〜6.0%小さくする。これにより、誘導電動機変更前後で回転速度の変化がなくなり、誘導電動機の高効率化による消費電力削減効果を最大限に引き出すことが可能となる。