特許第6033416号(P6033416)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033416
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/02 20060101AFI20161121BHJP
【FI】
   F24F11/02 102T
   F24F11/02 Q
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-515733(P2015-515733)
(86)(22)【出願日】2014年7月28日
(86)【国際出願番号】JP2014069774
(87)【国際公開番号】WO2016016918
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】515294031
【氏名又は名称】ジョンソンコントロールズ ヒタチ エア コンディショニング テクノロジー(ホンコン)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】関谷 禎夫
(72)【発明者】
【氏名】小谷 正直
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 重幸
【審査官】 佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−249987(JP,A)
【文献】 特開2013−213613(JP,A)
【文献】 特開2012−154600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機を備えた室外機と複数の室内機とを接続して形成される冷凍サイクル装置を備え、
前記室内機は、吸込空気温度と設定温度との温度差情報を用いて、冷房運転又は暖房運転を行うサーモオン運転と冷房運転又は暖房運転を休止するサーモオフ運転とを切り替えて空調運転する空気調和装置において、
前記室内機のうち第1室内機がサーモオン運転からサーモオフ運転へ切り替わるサーモオフ条件を満たした場合であって、前記第1室内機以外にサーモオン運転中の前記室内機がない場合には、前記第1室内機をサーモオフ運転へ切り替えずにサーモオン運転を継続させる発停抑制運転モードに移行させるように構成し、
前記第1室内機がサーモオン運転からサーモオフ運転へ切り替わるサーモオフ条件を満たした場合であって、前記第1室内機以外にサーモオン運転中の前記室内機がない場合であっても、前記第1室内機以外の前記室内機である第2室内機が所定時間内にサーモオン運転に移行しないと判断した場合には、前記第1室内機を前記発停抑制運転モードに移行させないように構成している
ことを特徴とする空気調和装置。
【請求項2】
請求項において、
前記第2室内機における前記吸込空気温度と前記第2室内機がサーモオン運転に切り替わるサーモオン温度との差が所定値以内である場合は、所定時間内に前記第2室内機がサーモオン運転に移行すると判断し、
前記第2室内機における前記吸込空気温度と前記第2室内機がサーモオン運転に切り替わるサーモオン温度との差が所定値以上である場合は、所定時間内に前記第2室内機がサーモオン運転に移行しないと判断する
ことを特徴とする空気調和装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記発停抑制運転モードへの移行を許可する前記室内機を予め指定し、前記第1室内機が前記発停抑制運転モードへの移行を許可された室内機である場合のみ、前記発停抑制運転モードに移行させる
ことを特徴とする空気調和装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項において、
前記発停抑制運転モードでは、前記第1室内機がサーモオフするサーモオフ温度を前記設定温度との差を増大させた第1サーモオフ温度に変更する
ことを特徴とする空気調和装置。
【請求項5】
請求項において、
前記発停抑制運転モードは、前記第1室内機の前記吸込空気温度が前記第1サーモオフ温度に到達した時点で終了する
ことを特徴とする空気調和装置。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか1項において、
前記発停抑制運転モードは、前記第1室内機以外の何れかの前記室内機がサーモオン運転に切り替わる時点で終了する
ことを特徴とする空気調和装置。
【請求項7】
請求項1乃至4の何れか1項において、
前記発停抑制運転モードは、前記発停抑制運転モードに移行後所定時間が経過した時点で終了する
ことを特徴とする空気調和装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項において、
前記発停抑制運転モードでは、前記第1室内機以外の前記室内機がサーモオンするサーモオン温度を前記設定温度との差を減少させた第1サーモオン温度に変更す
ことを特徴とする空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧縮機を備えた室外機と複数の室内機とを接続して構成され、各々の室内機の吸込空気温度が各室内機に対して設定される設定温度となるように空調運転をおこなう空調装置が知られている。このような空調装置では、空調負荷に合わせて圧縮機を容量制御するものが知られているが、空調負荷との不一致等により空調能力が過多になると、室内機の運転と停止を繰り返す発停状態となる。
【0003】
具体的には、例えば冷房運転時に、各室内機における吸込空気温度が設定温度に応じて定まる下限値に達すると、対応する室内機は、空調運転をおこなうサーモオン運転から、空調運転を停止するサーモオフ運転へと移行する。その後、室内負荷によって室内温度が十分に上昇した後、室内機は再度サーモオン運転へと移行し、室温を下げる。
【0004】
このような空調装置において、すべての室内機がサーモオフ運転となった場合、圧縮機を停止する必要があるので、圧縮機の発停に伴う消費電力の増大や運転効率の低下が生じる。
【0005】
例えば、特許文献1では、特に大空間に複数の室内機を設置した場合や、各室内の空調負荷が一致するような場合には、複数の室内機がサーモオフ運転となるタイミングが同期しやすくなる。このような課題に対して、特許文献1では、制御部が、複数の室内ユニットのいずれかのサーモ温度幅を変更する室内サーモタイミング変更制御を行うことによって、室内サーモオフ及び/又は室内サーモオンとなるタイミングが他の室内ユニットとは異なる室内ユニットを積極的に作り出す。このような制御により、複数の室内ユニットの少なくとも1つが運転している状況を得やすくすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-154600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には以下のような課題が存在する。すなわち、複数の室内機の負荷が一致している場合には、例えば1台の室内ユニットのサーモオフ温度を下げることによって、同期したタイミングをずらすことができるが、完全には同期していない場合や、異なる部屋に設置される場合など周期が異なる室内機が存在する場合には、十分な効果が得られない可能性がある。
【0008】
また、空調負荷は一定ではなく、時刻とともに変動するので、サーモオフ温度を下げることにより、同期したタイミングをずらすことができたとしても、負荷の変動に伴い、再度同期する可能性がある。このような問題については考慮されておらず、確実性および実用性の面で課題がある。
【0009】
また、室内機や室外機の周期性を判断するための運転が必要であるため、所定時間運転を継続した後でなければ制御を開始できないという課題がある。
【0010】
また、例えば冷房運転では、ある室内機のサーモオフ温度を下げた運転が継続されることになるので、当該室内機近傍の室温が設定温度に対して低下することになる。したがって、冷房負荷が増大して、空調装置の消費電力が増大するという課題を有する。さらに、このために蒸発温度を下げた効率の低い運転を継続して行うことになるので、圧縮機の発停を回避できる場合には省エネ効果が得られる一方、圧縮機の発停が発生する場合には、逆に消費電力が増大する可能性がある。
【0011】
このように、従来例では発停回数を低減できる可能性がある一方で、消費電力を低減するという観点からは課題を有していた。
【0012】
本発明は、圧縮機の発停に伴う消費電力の増大を抑制するとともに省エネルギー性の高い空調装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の空気調和装置は、圧縮機を備えた室外機と複数の室内機とを接続して形成される冷凍サイクル装置を備え、前記室内機は、吸込空気温度と設定温度との温度差情報を用いて、冷房運転又は暖房運転を行うサーモオン運転と冷房運転又は暖房運転を休止するサーモオフ運転とを切り替えて空調運転する空気調和装置において、前記室内機のうち第1室内機がサーモオン運転からサーモオフ運転へ切り替わるサーモオフ条件を満たした場合であって、前記第1室内機以外にサーモオン運転中の前記室内機がない場合には、前記第1室内機をサーモオフ運転へ切り替えずにサーモオン運転を継続させる発停抑制運転モードに移行させるように構成し、前記第1室内機がサーモオン運転からサーモオフ運転へ切り替わるサーモオフ条件を満たした場合であって、前記第1室内機以外にサーモオン運転中の前記室内機がない場合であっても、前記第1室内機以外の前記室内機である第2室内機が所定時間内にサーモオン運転に移行しないと判断した場合には、前記第1室内機を前記発停抑制運転モードに移行させないように構成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、室内機のサーモオン/サーモオフ条件を適宜変更することで、圧縮機の発停回数を低減して圧縮機の発停に伴う消費電力の増大を抑制することができる省エネルギー性の高い空気調和機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の空気調和装置の構成を示す図
図2】リモコンからの信号、コントローラ及び各アクチュエータとの関係を示す図
図3】従来制御における動作例を示す図
図4】実施例1の動作例を示す図
図5】実施例1のフローチャート
図6】暖房運転時の動作例を示す図
図7】発停抑制運転モードの継続を温度により制限した動作例を示す図
図8】発停抑制運転モードの継続を時間により制限した動作例を示す図
図9】実施例2のフローチャート
図10】実施例2の動作例を示す図
図11】実施例3の動作例を示す図
図12】実施例4の動作例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の空気調和装置は、圧縮機を備えた室外機と複数の室内機とを接続して形成される冷凍サイクル装置を備え、室内機は、吸込空気温度と設定温度との温度差情報を用いて、冷房運転又は暖房運転を行うサーモオン運転と冷房運転又は暖房運転を休止するサーモオフ運転とを切り替えて空調運転する空気調和装置において、室内機Aがサーモオン運転からサーモオフ運転へ切り替わるサーモオフ条件を満たした場合であって、室内機A以外にサーモオン運転中の室内機がない場合には、何れかの室内機をサーモオン運転させる発停抑制運転モードに移行する。本発明によれば、室内機Aがサーモオン運転からサーモオフ運転へ切り替わるサーモオフ条件を満たした場合、室内機A以外にサーモオン運転中の室内機がない場合には、室内機の何れかをサーモオン運転させる発停抑制運転モードを備えることにより、圧縮機の発停回数を低減して圧縮機の発停に伴う消費電力の増大を抑制することができる省エネルギー性の高い空気調和機とすることができる。
【0017】
本発明の空気調和装置について、図1図12を用いて、以下詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の第1の実施形態を、図1図8を用いて説明する。
【0019】
図1は、本実施形態における空気調和装置の構成を示すサイクル系統図である。本実施例では1台の室外機90に対して、2台の室内機(91a、91b)が接続された例を示す。本発明はこれに限定されるものではなく、室外機90、室内機91ともに接続台数が異なっていても良い。
【0020】
2台の室内機(91a、91b)は、液管13とガス管12を介して、室外機90に並列に接続される。室外機90は内部に、冷媒(図示せず)を圧縮する圧縮機1、室外ファン4によって供給される室外空気と冷媒との熱交換をおこなう室外熱交換器3、圧縮機1の吸込口と吐出口のうち一方を室外熱交換器3へ他方をガス管12へと切替えて接続させるための四方弁5を備える。四方弁5と接続される室外熱交換器3の他端は室外膨張弁8を介して液管13へ接続される。
【0021】
室内機91では、室内熱交換器16の一方がガス管12へ、他方が室内膨張弁18を介して液管13へと接続される。室内熱交換器16には室内ファン17によって室内空間からの吸込空気が供給される。ユーザが、リモコン92により、室内機の運転開始および停止や、冷房および暖房の運転モードの指定、設定温度の入力等をおこなう。空調機の空調能力は、設定温度と吸込空気温度センサ21の検知温度(吸込温度)との温度差に基づいて決定される。
【0022】
図2に示すように、リモコン92からコントローラ60に運転開始の信号が入力されると、空調機の運転が開始され、コントローラ60から室外機90および室内機91の各アクチュエータへ制御信号が送られる。
【0023】
リモコン92aから冷房運転の要求がある場合について動作を説明する。この場合、図1において、四方弁2を図の実線で示す回路へ切替え、室外ファン4と室内ファン17aを所定の回転数で動作させる。
【0024】
圧縮機1により圧縮された冷媒は、室外熱交換器3で室外空気と熱交換器することにより凝縮・液化する。全開状態の室外膨張弁8を介して液管13へと流出した液冷媒は、室内膨張弁18aで減圧されて低温・低圧となって室内熱交換器16に流入する。室内空気から吸熱した冷媒は蒸発して過熱ガス冷媒となりガス管12へと流出する。この作用により冷却された室内空気が室内空間へと供給され室内空間を冷房する。ガス化した冷媒は、ガス管12を通って、室外機90内の四方弁2を介して、圧縮機1へと戻る。このとき、室内膨張弁18bは全閉状態であり、室内ファン17bは停止状態である。
【0025】
リモコン92bからも運転開始信号がある場合には、室内膨張弁18bも適度に開度が調整され、液管13内の冷媒が減圧されて室内熱交換器16bに流入し、室内ファン17bによって供給された室内空気と熱交換する。蒸発したガス冷媒は室内機92aで蒸発した冷媒と合流して、室外機90へと戻る。
【0026】
一方、リモコン92aおよび92bから暖房運転の要求がある場合には、四方弁を図1の破線で示す回路へと切替え、室外ファン4と室内ファン17を所定の回転数で動作させる。圧縮機1によって圧縮された冷媒は、ガス管12を通って室内熱交換器16a、16bへと流入する。室内熱交換器16では、室内ファン17によって供給される室内空気へ放熱することによって、冷媒を凝縮・液化させる一方、室内空間を暖房する。凝縮した液冷媒は、液管13で合流した後、室外膨張弁8で減圧され低温・低圧冷媒となり、室外熱交換器3にて室外空気から熱をもらい蒸発する。その後、四方弁2を介して圧縮機1へと戻り、再度圧縮工程を繰り返す。
【0027】
このような空調機における冷房時の動作について詳細に説明する。圧縮機1の回転数は、各室内機91の吸込サーミスタ21が検知した吸込空気温度Tin1が、リモコンで設定された設定温度Tsと等しくなるように制御される。しかし、室内負荷に対して、空調機の能力が過剰な場合や、圧縮機1の下限能力で運転した際の空調機の能力よりも室内の負荷が小さな場合などには、室内機91の吸込空気温度Tinが設定温度よりも低下する場合がある。
【0028】
このような場合には、室内機91の室内膨張弁18を閉止し、冷房動作を休止するサーモオフ運転とする。サーモオフ運転においては、室内熱交換器16へ冷媒が供給されなくなるので、冷媒の蒸発による冷却作用はなくなる。したがって、室内空間の負荷によって室温は徐々に上昇する。その後、所定の温度まで吸い込み温度が高くなると、再度室内膨張弁18を開き、サーモオン運転を再開する。
【0029】
図3はこのような従来制御における動作を模式的に示した図である。横軸が時間、縦軸は室内機91aと91bの室温(すなわち吸込空気温度Tin)と、サーモオン運転およびサーモオフ運転の状態、そして圧縮機の運転状態を示す。
【0030】
室内機91は、吸込空気温度Tinがサーモオン下限値LLに達した時点でサーモオフ運転となり、その後温度がサーモオフ上限値HLに達した時点でサーモオン運転になる。ここではHL1が設定温度に対して+2℃、LLが-1℃で、温度幅が3℃ある場合について示す。なお、設定温度に対するHLやLLの幅や、サーモオンまたはサーモオフする際の条件については、本実施例は1例であり、吸込空気温度Tinだけでなく時間などの条件を加えても良い。
【0031】
図3では、開始時点で、室内機91は2台とも運転しているが、時刻t1に室内機91aの吸込空気温度Tin1が下限値LL1に達したので、室内機91aはサーモオフ運転となる。その後、室内機91bが1台で運転を継続し、時刻t2において下限値LL2に達した時点で、室内機91bもサーモオフ運転となる。
【0032】
この際、室内機91a,91bがともにサーモオフ運転となったので、圧縮機1も停止状態となる。このように、複数の室内機91a,91bがサーモオフ運転となる時間が偶発的に一致すると、圧縮機1を停止させる必要が生じる。圧縮機1が停止状態になると、高温冷媒と低温冷媒が混合するなどエネルギー的なロスが発生するため、停止しない運転に比べて消費電力が増大する。
【0033】
また、圧縮機1は一旦停止状態になると、圧縮機1出入口の均圧が必要なことから、一般に3分程度は再起動ができない。したがって、時刻t3には室内機91aの室温がサーモオフ上限値HL1を超えるが、圧縮機1の起動が可能な時刻t4までサーモオンすることはできない。
【0034】
このように従来制御では、圧縮機1が停止している間に室温が上昇する可能性もあり、快適性の面でも課題があった。
【0035】
そこで本実施例では、全ての室内機がサーモオフ運転になる条件を満たした場合に、一時的に室内機がサーモオフとなる条件を変更する手段を設けた。この場合の動作例を図4に、本制御のフローチャートを図5に示す。
【0036】
時刻t1で室内機91aがサーモオフ運転となったのち、室内機91bが1台で運転を継続する点は従来制御と同様である。その後、室内機91bの吸込サーミスタ21が検知した吸込空気温度Tin2(すなわち室温)がサーモオン下限値LL2に達した時点で、本実施例の制御が実施される。すなわち、コントローラ60において、室内機91bが停止すると全室内機(91a、91b)がサーモオフ運転となることを検知すると、室内機91bをサーモオフ運転とはせずに、発停抑制運転モードに移行する。そしてサーモオン下限値LL2を所定温度(例えば1℃)だけ下げ、室内機91bにサーモオン運転を継続するように指令を送る。これにより、直ちに室内機91bがサーモオフする状態を回避することができ、他の室内機(本実施例では91a)がサーモオンするまで待つことができる。したがって、圧縮機1の発停を抑制することができるので、圧縮動力の増大を回避し、省エネルギー性を高めることができる。
【0037】
そして、室内機91aがサーモオンした時点で、発停抑制運転モードを終了させ、サーモオン下限値LL2を通常の値に戻す。これにより、室内機91bはサーモオフ運転へと移行する。
【0038】
このようにサーモオン下限値LLは本制御終了後に元の値に戻るので、本制御終了後は、通常の温度範囲での運転を継続する。したがって、室温の低下は一時的なものに限定され、室温が低下したままになるなどの不具合は発生せず、快適性を保つことができる。
【0039】
ところで、発停抑制運転モードの間は、一時的に室内機91bの吸込空気温度Tin2が低下してしまう。そこで本実施例では、室内機91bの運転を継続させる一方で、サーモオフ運転にある室内機91aがサーモオンするサーモオフ上限値HL2を所定幅(例えば1℃)だけ下げるとした。したがって、設定温度との温度差が小さい状態でもサーモオン運転へ移行することができる。
【0040】
これにより、時刻t3では、室内機91aの吸込空気温度Tin1が通常サーモオン運転へ移行する温度には達していないが、早期にサーモオン運転へ移行させることができる。サーモオフ運転していた室内機91aをサーモオン運転とすることができたので、この時点で本制御を終了とし、発停抑制運転モードから通常の運転モードへと戻る。すなわちサーモオフ上限値HL1、およびサーモオン下限値LL2を下げる制御を解除し、通常状態に戻す。このため室内機91bはサーモオフ運転となる。このように、本制御により室内機91bの吸込空気温度Tin2の低下幅を抑制することができるので、快適性への影響を小さくとどめながら、空調装置の消費電力を低減することができる。
【0041】
上述のように、本制御は、全室内機91がサーモオフ運転になると判断されるときに作動するので、必要なときに確実に圧縮機1の停止を回避することが可能となる。したがって、複数の室内機がサーモオン・サーモオフを繰り返す周期性等に依存することなく、常に発停を抑制する効果を得ることができる。
【0042】
なお、本実施例では、室内機91aがサーモオンした時点で発停抑制運転モードを終了させるとしたが、切替のタイミングにおいて冷凍サイクルの変動を抑制するために、室内機91aと91bの運転時間を所定時間だけ重複させるとしてもよい。
【0043】
また、本実施例では室内機91bのサーモオン運転時間を延長するために、閾値の温度を変更するとしたが、室内機91bのサーモオン運転時間を延長するための手段は、他の手段であっても良い。具体的には、閾値温度に達してからサーモオフと判断するための時間を延長する手法であっても良い。また、室内機がサーモオフと判断した場合に、室外機から強制的に室内膨張弁18の開度を調整等して、サーモオンと同様の空調動作をおこなわせる手法であっても良い。
【0044】
また、本実施例では室内機91bのサーモオフ条件を満足した際に、発停抑制運転モードに入る例を説明したが、例えば複数の室内機が接続されている場合に、室内機毎に発停抑制運転モードによる運転継続の可否を予め設定するようにしてもよい。したがって、発停抑制運転モードによる運転継続を可として設定した場合には、本実施例のように動作するが、例えば、室内機91bに発停抑制運転モードによるサーモオン運転の継続を不可として設定した場合には、図3と同様に停止するようにしても良い。この場合には、全室内機91がサーモオフとなる条件を満足した場合に、最後に運転を継続していた室内機によって、圧縮機1が停止する場合と、運転を継続する場合が生じるので、圧縮機1の発停に伴う消費電力の増大を回避できない条件も生じるが、室内機91の設置状況等に応じてユーザ側の快適性を優先する機能を備えることができる。
【0045】
図6に暖房運転時の動作を示す。暖房時も冷房時と同様に、室内機91aは、サーモオン上限温度HL1に達した時刻t1にサーモオフ運転となる。その後室内機91bの吸込空気温度Tin2は上昇を続け、時刻t2にサーモオン上限温度HL2に達するが、室内機91bがサーモオフすると全室内機91がサーモオフ運転となるので、サーモオン室内機91bのサーモオン上限温度を所定温度だけ高く設定する。これにより、室内機91bはサーモオン運転を継続することができる。さらにサーモオフ室内機91aのサーモオフ下限値を所定値だけ高く設定するので、室内機91aを早期にサーモオンさせることができ、結果として室内機91bをサーモオフさせることができる。したがって、室内機91bにおける吸込空気温度Tin2の上昇を抑制することができる。
【0046】
このように、暖房運転の際にも、快適性を程度保ちながら、圧縮機1の発停を回避することで消費電力の増大を抑制することができ、省エネルギー性の高い空調装置を提供することができる。
【0047】
図7は、空調負荷が異なる場合の動作例を示している。時刻t2において、全ての室内機91がサーモオフ条件を満たすため、本実施例においても、発停抑制運転モードへ入る。そして、サーモオン室内機91bのサーモオン下限温度LL2を下げる一方、室内機91aのサーモオフ上限温度HL1を下げる。
【0048】
この条件で運転を継続すると、室内機91bの吸込空気温度Tin2が低下し続けるので、室内機91aがサーモオンするまでに時間を要する場合には、快適性の面で課題が大きくなる。また、室内機91bの吸込空気温度Tin2の低下に伴い、冷凍サイクルの蒸発温度も低下することになり、冷凍サイクルの効率も低下して、消費電力が増大する。したがって、圧縮機1の発停を抑制することによる消費電力抑制の効果が十分に得られなくなる可能性がある。
【0049】
そこで本実施例では、室内機91bの吸込空気温度Tin2の値が、補正後のサーモオン下限値LL2に達した時点で、発停抑制運転モードを終了させるとした。このため、効率の悪い運転を不要に継続することを回避できるだけでなく、快適性の低下も防ぐことができる。
【0050】
図8は、同様の課題に対して、室内機91bの吸込空気温度Tin2の下限値を設けるのではなく、発停抑制運転モードを継続する時間に制限を設けた例である。時刻t2に発停抑制運転モードに移行した時点からタイマをカウントし、予め定めておいた制限時間ΔTだけ経過した時刻t3において、室内機91aがサーモオンできない場合には、室内機91aの負荷は小さく、それ以上室内機91bの運転を継続させることは省エネルギー効果が低いと判断し、本制御を解除し、室内機91aのサーモオフ上限値HL1、および室内機91bのサーモオン下限値LL2を元の値に戻し、室内機91bをサーモオフさせて圧縮機1を停止状態とする。
【0051】
したがって、冷凍サイクルの効率の悪い状態での圧縮機1の運転を制限することができるので、不要な消費電力の増大を回避することができる。本制御はサーモオフ運転時間が長い場合に特に有効である。
【実施例2】
【0052】
次に発停抑制運転モードの開始判定をおこなう場合の制御動作について説明する。図9は本制御のフローチャートである。
【0053】
図9のフローチャートでは、実施例1に対して、発停抑制運転モードを開始する前に、サーモオン待機状態の室内機があるか否かの判定ステップを追加した。サーモオン待機状態とは、吸込空気温度Tinが予め定める所定の温度よりも高い状態(暖房の場合には低い場合)を示しており、サーモオンし易い室内機の有無を判断し、それに基づいて発停抑制運転モードの開始を判断する。
【0054】
図10を用いて、本制御の動作例を説明する。本実施例においても、時刻t1に室内機91aがサーモオフ運転となり、時刻t2において室内機91bもサーモオフ条件を満たす。このような場合に、例えば、実施例1の図7に示した動作例では、制限時間まで室内機91bをサーモオン運転に維持するとしたが、本実施例では、サーモオフ室内機91aの状態を確認して、発停抑制運転モードを開始するか否かを判断する。
【0055】
実施例1では、制限時間や室温の下限値を設けて、発停抑制運転モードによる消費電力の増大や、快適性の低下を最小限にとどめるための動作例を示した。本実施例では、所定時間内に室内機91aがサーモオン運転に移行するか否かを推定し、室内機91aが早期にサーモオン運転になると判断される場合には、発停抑制運転モードに移行して、室内機91bをサーモオン運転に維持する。一方、室内機91aがサーモオン運転になるまでには時間を要すると判断した場合には、発停抑制運転モードには移行せずに、室内機91bをサーモオフ運転に移行させる。
【0056】
サーモオフ室内機91aが早期にサーモオン運転となるか否かを判断するために、本実施例では室内機91aの吸込空気温度Tin1を用いて判断する。すなわち、サーモオン下限値LL1より高く、かつサーモオフ上限値HL1以下の、判定温度TC1を定義し、この判定温度TC1を用いてサーモオフ室内機が早期にサーモオン運転となるか否かを判断する。より具体的には、サーモオフ室内機91aの吸込空気温度Tin1がTC1以上の場合には、早期にサーモオンする可能性が高いサーモオン待機状態であると判断し、サーモオン待機状態の室内機が存在する場合のみ、室内機91bのサーモオン運転を継続させる。
【0057】
本実施例では、サーモオフ室内機91aの吸込空気温度Tin1は、時刻t2において判定温度TC1よりも低く、サーモオン待機状態の室内機は存在しないので、時刻t2において室内機91bを停止させる。したがって、通常制御同様に圧縮機1を停止させた後、室内機91bの吸込空気温度Tin2がサーモオフ上限温度HL2に達した時刻t3に、圧縮機1を再起動させる。このように、発停抑制運転モードに移行すると室内機91bの吸込空気温度Tin2の低下や、冷凍サイクルの効率が低下するような条件では、積極的に圧縮機1を一旦停止させて、これらの問題を回避する。つまり、発停抑制運転モードを用いて圧縮機の発停を抑制する場合と、発停抑制運転モードを使わずに圧縮機を一旦停止させた場合とで、消費電力が少ないと想定される運転方法を選択することができるので、最終的に省エネルギー性の高い空気調和装置を提供することができる。
【0058】
なお、本実施例においては、発停抑制運転モード開始の判断を、サーモオン運転をおこなう室内機が0台になると判断されるときにおこなうとした。例えば、室内機が1台だけで運転する際に開始するとした場合には、該室内機の吸込空気温度もまだ高く、サーモオフ条件を満足するまでには時間を要するので、サーモオフ条件を満足する時点での、他室内機の吸込空気温度等を予測することは困難であり、このような判断をおこなうことはできない。本発明では、サーモオン運転をおこなう室内機が0台になると判断されるときに、そのときの他の室内機の情報を用いて、発停抑制運転モードの開始を判断することができる。
【0059】
なお、本実施例では発停抑制運転モードの開始を判定するために、サーモオン待機状態の室内機があるか否かに基づいて判断するとしたが、本発明はそれに限定されるものではなく、例えば、室内機の吸込空気温度の変化時間や、過去の運転におけるサーモオフ時間等を用いて判断するとしても良い。本発明では、サーモオン室内機が0台になると判断されるときに、発停抑制運転モードの開始を判断するとしたので、その時点における他の室内機の情報を用いて判断することができる。
【実施例3】
【0060】
図11にサーモオン下限値を2段階に設定した場合の実施例を示す。サーモオン下限値LLを下げると、一時的には室温が低下するので、これを防止するために、本実施例では、通常のサーモオン下限値LLよりも高い温度に第2のサーモオン下限値mLを設定した。通常はmLまで温度が低下した時点でサーモオフとし、発停抑制運転モードに入ったときだけ、LLまでサーモオフの閾値を下げる。
【0061】
図11を用いて動作例について説明する。時刻t1において、室内機91aの吸込み温度Tin1がmL1に達したので、室内機91aをサーモオフ状態とする。その後、室内機91bの吸込温度Tin2は下がり続け、時刻t2にてmL2に達するので、室内機91bはサーモオフ条件を満足する。しかしこのとき、室内機91bをサーモオフさせると、サーモオン室内機が無くなり、圧縮機を停止させなくてはいけなくなるので、発停抑制運転モードに移行する。これにより、室内機91bのサーモオン下限値をmL2からLL2へと変更し、室内機91bの冷房運転を継続させる。その後は、温度上昇に伴い室内機91aがサーモオンすると、発停抑制運転モードを終了し、室内機91bをサーモオフ状態へと移行させる。
【0062】
このとき、室内機91bの吸込温度はmL2よりは低下するものの、LL2までは低下しない。したがって、室内機91bの吹出し温度低下により、ユーザに不快感を与えることなく、圧縮機の停止と起動に伴う消費電力の増加を抑えることができる。
【実施例4】
【0063】
図12は、発停抑制運転モードの際にサーモオンさせる室内機を固定させた場合の動作例を示した図である。本実施例では、室内機が3台並列に接続された場合を例として示す。本実施例では、全ての室内機がサーモオフすることを防止するために、全室内機がサーモオフする場合には、室内機91cがサーモオンするように予め設定する。
【0064】
本実施例では、時刻t1で室内機91aの吸込温度Tin1が、時刻t2で室内機91bの吸込温度Tin2がそれぞれサーモオン下限値LLに達したので、サーモオフ条件を満足する。室内機91cはサーモオフ状態となっているので、時刻t2において室内機91bがサーモオフすると、全室内機がサーモオフ状態となり、圧縮機1が停止する。そこで、本実施例では、発停抑制運転モードを作動させることによって、室内機91cをサーモオン状態へと移行させて、圧縮機1が停止することを回避する。そして、室内機91aがサーモオン状態となった時刻t3で、室内機91cをサーモオフ状態へと戻す。室内機91cをサーモオン状態のままとしても良いが、この場合には室内機91cの吸込温度が低い状態での運転時間が長くなるので、サーモオフ状態とする方が望ましい。特に、発停抑制運転モードが頻発するような条件では、室内機91cの吸込温度が低い状態が継続する可能性があるので、サーモオフ状態に戻すことで、このような条件を回避しやすくなる。
【0065】
このように、発停抑制運転モードで、サーモオン状態となる室内機を固定することで、室内機91aや91bにおいて吸い込み温度が低下することを防止することができる。したがって、室内機91aや91bが吸込温度の低下を避けたい場所(小さな部屋等)に設置されている場合には、このような室内機での室温低下または過昇を避けることができる。また、大空間に設置されている室内機など、1台あたりの吸込温度変化がユーザに与える影響の小さな室内機等を選択することで、ユーザへの不快感を抑制しつつ、圧縮機の発停に伴う消費電力の増大を抑制できる。
【符号の説明】
【0066】
60…コントローラ
91a,91b…室内機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12