(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
湿度センサーと、前記湿度センサーにより検出される湿度に対応する信号に基づいて前記圧縮空気温度調節装置を制御する第1の制御手段とを備える、請求項2に記載のマイクロニードル製剤製造用システム。
温度センサーと、前記温度センサーにより検出される温度に対応する信号に基づいて前記圧縮空気温度調節装置を制御する第2の制御手段とを備える、請求項2又は3に記載のマイクロニードル製剤製造用システム。
前記湿度調節装置は、前記空気圧縮機から供給される空気と湿度調節源たる水分とが透湿膜で分離されている透湿膜型であり、水分の温度を調節することで湿度を調節するようになっているものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロニードル製剤製造用システム。
湿度センサーと、前記湿度センサーにより検出される湿度に対応する信号に基づいて前記水分供給器の水温を制御する第3の制御手段とを備える、請求項9に記載のマイクロニードル製剤製造用システム。
温度センサーと、前記温度センサーにより検出される温度に対応する信号に基づいて前記水分供給器の水温を制御する第4の制御手段とを備える、請求項9又は10に記載のマイクロニードル製剤製造用システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、塗布液に溶媒として水が用いられている場合、特許文献1に開示された方法を用いて塗布を行っても、塗布液をマイクロニードルに塗布した後、乾燥工程を経て得られるマイクロニードル製剤のマイクロニードル上の薬剤量を調べると、製造日又は製造時間等によってばらつきが生じており、安定的に製造することが困難であることが分かった。
【0005】
そこで、本発明は、マイクロニードル上に塗布される薬剤量のばらつきを防止することのできるマイクロニードル製剤製造用のシステム及び空調方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず、本発明者らは、マイクロニードルへの薬剤塗布が行われる塗布チャンバー内の環境に着目し、塗布チャンバー内を所定範囲の温度及び湿度にすることで、塗布液の物性変化を抑え、これにより、マイクロニードルに塗布される薬剤量のばらつきを抑えられることを見出した。
【0007】
しかし、塗布チャンバーの内部に温度調節装置及び調湿器を設けることによって塗布チャンバー内の温湿度を直接制御することは困難であった。そこで、本発明者らは、塗布チャンバーの外部で予め所定範囲の温度及び湿度に調節した空気を塗布チャンバー内に供給することによって、塗布チャンバー内を所望の温湿度に維持するという手段を着想するに至った。
【0008】
また、上述のように、塗布チャンバー内の温湿度を調節することによって塗布液の物性変化を抑制しようとする場合、塗布液の組成によっては高い湿度を要する。一方、マイクロニードル製剤は無菌状態で製造される必要がある。通常、ある空間を無菌状態にするためには、湿度を下げて微生物の繁殖を抑制するという手段が採用されているため、マイクロニードル製剤製造用システムにおいては、従来、高湿度と無菌状態という相反する二つの状態を同時に実現することは困難であると考えられてきた。
【0009】
しかしながら、この相反する要請についても、塗布チャンバーの外部で予め所定範囲の温度及び湿度に調節した空気を塗布チャンバー内に供給するという手段を採用することで十分に応えうることを、本発明者らは見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、マイクロニードルに薬剤を含む塗布液を塗布してマイクロニードル製剤を製造するための塗布チャンバー内の空気環境を調節するマイクロニードル製剤製造用システムであって、空気圧縮機と、空気圧縮機から供給される空気の湿度を調節する湿度調節装置と、塗布チャンバー内に供給される空気を除菌するエアフィルターと、を備えるマイクロニードル製剤製造用システムを提供するものである。
【0011】
このような構成を有するマイクロニードル製剤製造用システムを温度が所定の範囲内である環境下で用いることによって、塗布チャンバー内に、所定範囲の温度及び湿度である無菌状態の空気を安定的に供給することができる。
【0012】
マイクロニードル製剤製造用システムは、空気圧縮機から供給される空気の温度を調節する圧縮空気温度調節装置を備えていてもよい。システムが置かれる環境の温度が変動し、空気圧縮機によってシステム内に供給される空気が所望範囲の温度でない場合には、システムが圧縮空気温度調節装置を備えることにより、塗布チャンバー内に送り込む空気を任意の温度に調節することができ、湿度の制御をより精度よく行うことができる。
【0013】
また、マイクロニードル製剤製造用システムは、湿度センサーと、湿度センサーにより検出される湿度に対応する信号に基づいて圧縮空気温度調節装置を制御する第1の制御手段とを備えることが好ましい。さらに、マイクロニードル製剤製造用システムは、温度センサーと、温度センサーにより検出される温度に対応する信号に基づいて圧縮空気温度調節装置を制御する第2の制御手段とを備えることとしてもよい。このように第1の制御手段及び/又は第2の制御手段を設けることにより、塗布チャンバー内の温湿度に対応して圧縮空気温度調節装置を随時操作することができ、より効率的、かつ確実に塗布チャンバー内の温湿度を制御することができる。
【0014】
湿度調節装置は、空気圧縮機から供給される空気と湿度調節源たる水分とが透湿膜で分離されている透湿膜型であり、水分の温度を調節することで湿度を調節するようになっているものを用いることができる。湿度調節装置がこのような構成を有することによって、システム内に水分を水蒸気として容易に供給することができ、精密な湿度調節を効率的に行うことができる。また、透湿膜を介して水分をシステム内に供給することにより、水分中に微生物等が含まれている場合であっても、それらがマイクロニードル製剤製造用システム内を流れる空気に混入することを防ぐことができる。
【0015】
透湿膜は中空糸状に形成されているものであることが好ましい。透湿膜がこのような形状を有していることによって、塗布チャンバー内に供給される空気の温湿度の制御を効率的に、かつより精密に行うことができる。
【0016】
湿度調節装置は、水分を供給する水分供給器を備えることが好適である。湿度調節装置がこのような構成を有することによって、システム内の湿度を調節するための水分を簡便に供給することができる。
【0017】
水分供給器は恒温水槽であることが望ましい。恒温水槽を水分供給器として用いることにより、水分供給器の水分を容易に一定の温度に保つことができるため、温湿度の制御をより高精度に行うことができる。
【0018】
また、水分供給器は水温を調節可能であるもの、すなわち、幅を持った温度範囲のうち、任意の温度に調節することができるものであることが有効である。水分供給器がこのような機能を有することにより、水分供給器の水分を、幅広い範囲の任意の一定温度に保つことができる。
【0019】
マイクロニードル製剤製造用システムは、湿度センサーと、湿度センサーにより検出される湿度に対応する信号に基づいて水分供給器の水温を制御する第3の制御手段とを備えてもよい。さらに、マイクロニードル製剤製造用システムは、温度センサーと、温度センサーにより検出される温度に対応する信号に基づいて水分供給器の水温を制御する第4の制御手段とを備えてもよい。このように第3の制御手段及び/又は第4の制御手段を設けることによって、塗布チャンバー内の温湿度に対応して水分供給器の水温を随時操作することができ、より効率的、かつ確実に塗布チャンバー内の温湿度を制御することができる。
【0020】
本発明の別の態様によれば、マイクロニードルに薬剤を含む塗布液を塗布してマイクロニードル製剤を製造するための塗布チャンバー内の空気環境を調節するための空調方法であって、塗布チャンバーに送り込む空気の湿度を湿度調節装置によって調節する工程と、前記空気をエアフィルターによって除菌する工程と、湿度が調節され除菌された空気を塗布チャンバーに導入する工程とを含む空調方法を提供する。
【0021】
このような空調方法によれば、温度が所定の範囲内である空気を湿度調節装置に供給することで、温湿度が所望の範囲である無菌状態の空気を、安定的に塗布チャンバー内に供給することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のマイクロニードル製剤製造用システム又は空調方法により、温湿度が所定の範囲内であり、かつ無菌状態である空気を、安定的に塗布チャンバー内に供給することができる。これにより、塗布チャンバー内外の温湿度の日間及び日内変動に影響されることなく、塗布チャンバー内を所望範囲の温湿度に維持することができるため、塗布チャンバー内の塗布液物性の変動を抑制することができる。したがって、本発明のマイクロニードル製剤製造用システム又は空調方法によって調節された空気環境下でマイクロニードルに薬剤を含む塗布液を塗布すると、一定の薬剤量が塗布されたマイクロニードル製剤を安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明によるマイクロニードル製剤製造用システム及び空調方法の好適な実施形態について説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0025】
本実施形態に係るマイクロニードル製剤製造用システム(以下、場合により単に「システム」ともいう。)は、マイクロニードルに薬剤を含む塗布液を塗布してマイクロニードル製剤を製造する作業を行うのに適した空気環境を作り出すものである。本明細書では湿度とは相対湿度のことをいう。
【0026】
図1は、本発明のマイクロニードル製剤製造用システムの第1実施形態を示すブロック構成図である。第1実施形態では、マイクロニードル製剤製造用システム100は、空気圧縮機10、圧縮空気温度調節装置12、風量調節装置14、エアフィルター16及び湿度調節装置18が、それぞれ送風ラインLを介してこの順に接続されることによって構成されている。送風ラインLの終端は、マイクロニードルが配置され薬剤の塗布が行われる塗布チャンバー20に接続されている。
【0027】
次に、本実施形態に係るマイクロニードル製剤製造用システム100の各構成について説明する。
【0028】
本実施形態に係るマイクロニードル製剤製造用システム100における空気圧縮機10は、所望の風速(流速)の気流を発生することのできるものであればよく、空気圧縮機10の圧縮比は特に制限されない。したがって、空気圧縮機10としては、JIS(B 0132:2005)に規定されるところの圧縮機に限定されず、圧縮比の低い送風機などを用いることもできる。空気圧縮機10によって本システム100内に供給される空気の風量は、10〜250L/minであることが好ましく、20〜100L/minであることがより好ましい。また、風量は、10L/min以下であってもよく、例えば0.3〜10L/minであってもよい。供給される空気の風量は、塗布チャンバー20の容積当たりの風量として計算することができる。塗布チャンバー20の容積1L当たりに供給される空気の風量は、28〜696L/minであることが好ましく、56〜278L/minであることがより好ましい。また、塗布チャンバー20の容積1L当たりに供給される空気の風量は28L以下であってもよく、例えば、1〜28L/minであってもよい。なお、空気圧縮機10により本システム100内に供給される空気としては、システム外部に存在する空気を用いることができるが、マイクロニードルに塗布される塗布液の組成に応じて、任意のガスを混合してもよい。
【0029】
空気圧縮機10からの空気の風量(流量)は空気圧縮機10自体の機能によって調節することも可能であるが、空気圧縮機10の下流側に風量調節装置14を接続することで、本システム100内を流れる空気の風量をより高精度に調節できるようにすることが好適である。本システム100が風量調節装置14を含む場合、本システム100内を流れる空気の風量を調節することにより、マイクロニードルに塗布される薬剤の量を制御することもできる。例えば、風量調節装置14によって本システム100内を流れる空気の風量を多くすると、塗布チャンバー20内でマイクロニードルに塗布される薬剤の量を増やすことができる。また、逆に、風量調節装置14によって前記風量を低下させると、塗布される薬剤の量を減らすことができる。なお、風量が一定量以上、例えば2.0L/min以上であると、塗布チャンバー内における温湿度の分布をより均一化することができる。
【0030】
本実施形態に係るマイクロニードル製剤製造用システム100における圧縮空気温度調節装置12は、空気圧縮機10によって外部から本システム100内に供給された空気の温度を、任意の温度に調節することができるものである。したがって、本システム100の外気の温度に日間及び日内の変動がある場合でも、圧縮空気温度調節装置12を設けることにより、外部の環境によらず本システム100内に流れる空気の温度を所望の範囲内に維持することができる。圧縮空気温度調節装置12は、圧縮空気温度調節装置12に注入される空気の温度として、およそ5〜40℃の範囲に適応できることが好ましい。圧縮空気温度調節装置12から下流側の送風ラインLに送り込まれる空気の温度は、用いる塗布液の組成に応じて、任意に設定することができるが、温度調節の効率の観点から、室温付近に設定することが好ましく、20〜30℃に設定することがより好ましい。また、排出空気の温度を±0.5℃以下の精度で制御できる圧縮空気温度調節装置12を用いることが好ましい。圧縮空気温度調節装置12としては、圧縮空気の温度を精度よく制御できるものであればよく、温度制御方式、放冷方式などによるものを用いることができる。
【0031】
本実施形態に係るマイクロニードル製剤製造用システム100におけるエアフィルター16は、通過する空気中に含まれる細菌、真菌類などの微生物を捕捉して除菌することができるものであれば制限なく用いることができる。このようなエアフィルター16を用いることにより、微生物だけでなく、空気中の塵埃を取り除くことができる。フィルター16の孔径は、除菌効率の観点から、0.2μm以下であることが好ましい。また、例えば、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターなどの除塵効果のあるフィルターと、除菌効果のあるエアフィルターとを組み合わせるなど、2つ以上のエアフィルターを用いることもできる。本実施形態に係るシステム100内では、絶えず空気圧縮機10から供給された空気が塗布チャンバー20の開口21に向かって流れているため、エアフィルター16を本システム100内に備えていることによって、より確実に塗布チャンバー20内を無菌状態にすることができる。なお、風量調節装置14の下流側に設置されているが、本システム100内の空気圧縮機10より下流側の送風ラインL上の任意の位置に設けることができる。
【0032】
本実施形態に係るマイクロニードル製剤製造用システム100における湿度調節装置18は、上述の圧縮空気温度調節装置12と組み合わせて用いることによって、本システム100内に流れる空気を、所望の湿度に調節し維持することができるものである。本システム100により調節して得られる空気の湿度は、例えば、70〜95%(RH)とすることができ、95%(RH)以上とすることもできる。湿度調節装置18は、透湿膜を有する透湿膜型であることが好ましい。透湿膜型の湿度調節装置18としては、例えば、水分供給器22と、透湿性の膜(透湿膜)を有する透湿膜装置24とを備えるものを用いることができる。透湿膜としては、例えば、イオン交換樹脂を中空糸状に成形したものを用いることができる。透湿膜は、水蒸気を透過させ、液体の水を透過させない性質を有する。
【0033】
水分供給器22は、一定に水温を制御するために恒温水槽を用いることが有効である。さらに、恒温水槽は、幅をもった温度範囲に調節可能であり、任意の温度に高精度に調整が可能であるものが好適である。水分供給器22に用いられる水は、無菌状態を確保するために純水であることが好ましい。水分供給器22から透湿膜装置24に供給された水分は、透湿膜を介して、気化されて水蒸気として本システム100内に供給される。
【0034】
透湿膜装置24としては、種々の形態が考えられるが、効率性の観点から、中空糸状に形成された透湿膜が多数束状に固定されたものである中空糸モジュールを用いることが好ましい。中空糸モジュールを用いる場合、中空糸状透湿膜の内部に本システム100内を流れる空気が通過するように、中空糸モジュールを本システム100の送風ラインLに接続する。そして、中空糸状透湿膜の外部には、水分供給器22、好ましくは恒温水槽によって水温を制御された水が接するように流れ、中空糸状透湿膜と水分供給器22との間を常に循環するように構成されることが好ましい。中空糸状透湿膜を介して一定の温度の水分と所定範囲の温度の気体が接した場合、所定範囲の湿度の気体が中空糸モジュールから導出される。したがって、圧縮空気温度調節装置12により温度調節された空気が中空糸モジュールに導入されかつ恒温水槽から一定温度の純水が中空糸モジュールを通過することで、中空糸モジュールからの空気は所望範囲の湿度を有して下流へと流れていくことになる。また、恒温水槽などの水分供給器22の水温を制御することによって、湿度の制御を高精度に行うことができることにもなる。すなわち、水温をある温度にまで上昇させることによって、本システム100内を流れる空気をその温度に対応した湿度まで加湿でき、逆に水温をある温度まで下げることによって、本システム100内を流れる空気をその温度に対応した湿度まで除湿することができる。なお、中空糸モジュールを有する透湿膜装置24を用いた場合、中空糸モジュールにはフィルター機能があるため、水分供給器22中の水に含まれている可能性のある微生物は中空糸モジュールにより捕捉され、本システム100内に流れる空気中に混入することを抑制することができる。
【0035】
本実施形態に係るマイクロニードル製剤製造用システム100における送風ラインLは、その材質を問わず、空気の漏出入のないものであればどのような形態のものを用いてもよい。圧縮空気温度調節装置12による温度調節の効果をより確実にし、塗布チャンバー20内の空気環境を所望の温度により安定的に維持するため、送風ラインLは断熱効果を有するものであることが好ましい。送風ラインLが断熱効果を有するようにするための方法としては、送風ラインLの周囲を覆うように断熱材を設けてもよく、送風ラインLの材質自体を断熱効果のある素材にしてもよい。
【0036】
湿度調節装置18から導出された、温湿度が所定の範囲内である空気は、内部でマイクロニードルに薬剤を含む塗布液を塗布してマイクロニードル製剤を製造するための塗布チャンバー20に送り込まれる。塗布チャンバー20は、その壁面の一部に開口21を有している。この開口21は、本システム100から供給された空気が排出される排気口としてだけでなく、塗布液を塗布されるマイクロニードル製剤の搬入口の役割も有している。開口21は、塗布チャンバー20が例えば箱型である場合、塗布チャンバー20の上面に設けられていてもよく、側面又は下面に設けられていてもよい。塗布チャンバー20内を所望の空気環境で十分に満たすために、開口21と、本システム100との接続部とは十分離れていることが好ましい。塗布チャンバー20に吹き込まれる空気の風量は、十分に高く保たれていることが望ましい。この風量を十分に高く保つことで、塗布チャンバー20内を本システム200の外部に対して陽圧に保ち、開口21から外部の空気が塗布チャンバー20内に流入することを防ぐことができる。そのため、塗布チャンバー20内を所望の温湿度に維持することができ、また、菌類が開口21から塗布チャンバー20内部に侵入することを防ぐことができる。
【0037】
塗布チャンバー20の内部には、塗布チャンバー20内の空気の温湿度を把握するために、温湿度センサー(温度センサー及び湿度センサー)26を設置することが好ましい。本システム100によって塗布チャンバー20内に供給された空気が、所望の温湿度に維持されているかを随時把握可能にすることにより、塗布チャンバー20内の温湿度に対応して圧縮空気温度調節装置12及び湿度調節装置18を逐次操作し、さらに厳密に塗布チャンバー20内の空気の温湿度を制御することができるからである。また、温湿度センサー26によって検出された塗布チャンバー20内の温度及び湿度に対応する信号を制御装置(圧縮空気温度調節装置12を制御する第1の制御手段及び/又は第2の制御手段、並びに水分供給器22の水温を制御する第3の制御手段及び/又は第4の制御手段)28に送り、その信号に基づいて制御装置28が圧縮空気温度調節装置12又は湿度調節装置18内の水分供給器22を操作するシステム、すなわちフィードバックシステムを設けてもよい。具体的には、例えば、塗布チャンバー20内の湿度低下を検知すると、水分供給器22の加熱機構を作動させ、逆に塗布チャンバー20内の湿度上昇を検知すると、水分供給器22の冷却機構を作動させるようなフィードバックシステムを設けることができる。また、例えば、塗布チャンバー20内の温度が所定の下限値よりも低いことを検知すると、圧縮空気温度調節装置12の加熱機構の加熱を促進し、又は冷却機構の冷却を抑制し、逆に、塗布チャンバー20内の温度が所定の上限値よりも高いことを検知すると、圧縮空気温度調節装置12の加熱機構の加熱を抑制し、又は冷却機構の冷却を促進するようなフィードバックシステムを設けることができる。このようなフィードバックシステムを設けることによって、塗布チャンバー20内の温湿度制御をより効率的に、かつ確実に行うことができる。
【0038】
以上のような構成のマイクロニードル製剤製造用システム100を作動させると、まず、空気圧縮機10によって外部から空気が吸入され、本システム100内に供給される。空気圧縮機10によって吸入された空気は、送風ラインLを通って圧縮空気温度調節装置12に注入され、所定の温度に調節される。圧縮空気温度調節装置12によって所定の温度に調節された空気は、送風ラインLを通り、必要に応じて風量調節された後、エアフィルター16によって除菌される。エアフィルター16によって除菌された空気は湿度調節装置18に注入され、所定の湿度に調節される。このようにして温湿度を調節された無菌状態の空気は、送風ラインLを通って塗布チャンバー20内に供給される。それまで塗布チャンバー20内に存在していた空気は、塗布チャンバー20を構成する壁の一部に設けられている開口21から排出され、塗布チャンバー20の内部は、所望の温湿度を有する無菌状態の空気で満たされる。開口21からは、本システム100により塗布チャンバー20内に供給された空気が随時排出される。本システム100内を流れる空気は、空気圧縮機10の送風力によって、常にある程度の風速をもった状態で、開口21に向かって一方向に流れている。そのため本システム100の内部で空気が滞留することはなく、本システム100内部に菌が存在していたとしても、その繁殖は抑制される。
【0039】
塗布チャンバー20内には、マイクロニードルに薬剤を含む塗布液を予め用意しておく。塗布作業をする間、前述したように、常に塗布チャンバー20内は所定範囲の温湿度かつ無菌状態の環境下にあるため、塗布液に含まれる水の気化反応、及び空気中の水分の液化反応は制御され、塗布液の物性の変化が抑制される。これによって、マイクロニードルに塗布される薬剤の量のばらつきを抑制することができ、マイクロニードル製剤を無菌環境下で安定的に生産することができる。マイクロニードルに塗布される薬剤の量のばらつきの度合いを示すCV(変動係数)値は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。CV値とは、標準偏差を平均値で除し、百分率で表した値である。
【0040】
図2は、本発明によるマイクロニードル製剤製造用システム200の第2実施形態を示すブロック構成図である。第2実施形態のシステムは、圧縮空気温度調節装置12の下流かつ湿度調節装置18の上流に圧力調節装置30が接続されている点が、第1実施形態のシステム100と異なる特徴点である。この構成は、透湿膜を有する透湿膜装置24、特に中空糸モジュール型の透湿膜装置24を用いたシステムにおいて、透湿膜装置24が、導入される空気の圧力によっても導出される空気の湿度を調節できる点に鑑みてなされたものである。すなわち、湿度調節装置18に注入される空気の圧力を、圧力調節装置30によって制御することによっても、塗布チャンバー20内に供給される空気の湿度を精密に制御することができる。
【0041】
なお、圧力調節装置30を用いる場合、設置レイアウトの関係から、風量調節装置14及びエアフィルター16は湿度調節装置18より下流に設けられることが好ましい。また、圧力調節装置30を迂回して圧縮空気温度調節装置12から湿度調節装置18に空気を直接移送できるようなラインを設けてもよい。さらに、この第2実施形態に係るシステム200に関しても、図示のようにフィードバックシステムを設け、温湿度センサー26によって塗布チャンバー20内の温度及び湿度に対応する信号を制御装置28に送り、その信号に応じて制御装置28が湿度調節装置18内の水分供給器22、圧縮空気温度調節装置12及び圧力調節装置30を操作可能とすることが好適である。
【0042】
上記実施形態では、本システム100が置かれる環境の温度が変動するものとして説明したが、環境全体の温度が制御されている空間の中で本システム100を用いる場合など、空気圧縮機10から供給される空気が既に所定範囲の温度に保たれているときには、圧縮空気温度調節装置12を構成中に備えていなくてもよい。
【0043】
また、湿度調節装置18は、中空糸状の透湿膜を有する透湿膜装置24を有するものとして説明したが、透湿膜は中空糸状の形状に制限されず、任意の形状のものを用いることができる。
図3に示す湿度調節装置18は、隔壁型に設けられた透湿膜23を有している。
図3中の透湿膜23は、空気圧縮機10から本システム200内に供給される空気と、湿度調節源たる水分とを分離している。水分は、透湿膜23を介して水蒸気として本システム100の流路内を流れる空気中に供給される。
【0044】
図3中の圧力調節装置30は、湿度調節装置18の上流側の外部に接続されており、湿度調節装置18内に導入される空気の圧力を調節する。なお、圧力調節装置30は、湿度調節装置18の内部に設けられ、湿度調節装置18内に導入された空気の圧力を調節するようになっていてもよい。
【0045】
以上の構成におけるマイクロニードル製剤製造用システムを用いて、マイクロニードル製剤を製造する方法について、概要を説明する。
図4は、本実施形態に係るシステムを用いて製造されるマイクロニードル製剤の一例を示す斜視図である。
図4に示すマイクロニードル製剤40は、基板42と、基板42上に二次元状に配置された複数のマイクロニードル44と、マイクロニードル44上に形成された塗布層46とを備えている。塗布層46は、本実施形態に係るマイクロニードル製剤製造用システムを用いて塗布されたものであり、その揮発成分の少なくとも一部が除去されていることが好ましい。
【0046】
基板42は、マイクロニードル44を支持するための土台である。基板42の面積は、0.5〜10cm
2であることが好ましく、さらに好ましくは1〜5cm
2、より好ましくは1〜3cm
2である。この基板42を数個つなげることで所望の大きさの基板を構成するようにしてもよい。
【0047】
マイクロニードル44は微小構造であり、その高さ(長さ)は、好ましくは50〜600μmである。ここで、マイクロニードル44の長さを50μm以上とすることにより、塗布液に含まれる薬剤の投与を確実に行うことができる。また、マイクロニードル44の長さを600μm以下とすることにより、マイクロニードルが神経に接触するのを回避して、痛みの可能性を確実に減少させるとともに、出血の可能性を確実に回避することができるようになる。また、マイクロニードル44の長さが500μm以下であると、皮内に入るべき量の薬剤を効率良く投与することができ、基底膜を穿孔させずに投与することも可能である。マイクロニードル44の長さは、300〜500μmであることが特に好ましい。
【0048】
ここで、マイクロニードル44とは、凸状構造物であって、広い意味での針形状、又は針形状を含む構造物を意味する。もっとも、マイクロニードルは、鋭い先端を有する針形状のものに限定されるものではなく、先の尖っていない形状のものであってもよい。マイクロニードル44が円錐状構造である場合には、その基底における直径は50〜200μm程度であることが好ましい。本実施形態ではマイクロニードル44は円錐状であるが、四角錐などの多角錐状や、別の形状のマイクロニードルであってもよい。
【0049】
マイクロニードル44は、典型的には、針の横列について1ミリメートル(mm)当たり約1〜10本の密度となるように間隔を空けて設けられる。一般に、隣接する横列は横列内の針の空間に対して実質的に等しい距離だけ互いに離れており、1cm
2当たり100〜10000本の針密度を有する。100本以上の針密度があると、効率良く皮膚を穿孔することができる。一方、10000本を超える針密度では、マイクロニードル44の強度を保つことが難しくなる。マイクロニードル44の密度は、好ましくは200〜5000本、さらに好ましくは300〜2000本、特に好ましくは400〜850本である。
【0050】
基板42又はマイクロニードル44の材質としては、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、金属(ステンレス、チタン、ニッケル、モリブテン、クロム、コバルト等)及び合成又は天然の樹脂素材等が挙げられるが、マイクロニードルの抗原性及び材質の単価を考慮すると、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ乳酸−co−ポリグリコリド、プルラン、カプロノラクトン、ポリウレタン、ポリ無水物等の生分解性ポリマー、又は非分解性ポリマーであるポリカーボネート、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン等の合成又は天然の樹脂素材が特に好ましい。また、多糖類であるヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、プルラン、デキストラン、デキストリン又はコンドロイチン硫酸等も好適である。
【0051】
基板42又はマイクロニードル44の製法としては、シリコン基板を用いたウエットエッチング加工又はドライエッチング加工、金属若しくは樹脂を用いた精密機械加工(放電加工、レーザー加工、ダイシング加工、ホットエンボス加工、射出成型加工等)、機械切削加工等が挙げられる。これらの加工法により、基板42とマイクロニードル44は、一体に成型される。マイクロニードル44を中空にする方法としては、マイクロニードル44を作製後、レーザー等で2次加工する方法が挙げられる。
【0052】
マイクロニードル製剤40は、マイクロニードル44上に塗布層46を備えているが、塗布層46は、塗布液を塗付することにより形成されることが好ましい。塗付方法としては、噴霧コーティング及び浸漬コーティング等が挙げられ、浸漬コーティングが好ましい。なお、
図4では、全てのマイクロニードル44に塗布層46が形成されているが、塗布層46は複数存在するマイクロニードル44の一部だけに形成されていてもよい。
図4ではまた、塗布層46はマイクロニードル44の先端部分だけに形成されているが、マイクロニードル44の全体を覆うように形成されていてもよい。さらには、塗布層46は基板42の上に形成されていてもよい。
【0053】
図5は
図4のV−V線断面図である。
図5に示すように、マイクロニードル製剤40は、基板42と、基板42上に設けられた、マイクロニードル44と、当該マイクロニードル44上に設けられた塗布層46と、を備えるものである。マイクロニードル上に付着している塗布層46は、薬剤を含有するものであり、例えば上述した工程を経て製造することができる。
【0054】
図6(a)、(b)及び(c)は、マイクロニードル製剤40の製造方法の一例を示す図である。この方法はディップ方式と称される。この方法では、まず、
図6(a)に示すように、塗布液50をマスク版52上でヘラ54により矢印A方向に掃引する。これにより、開口部56に塗布液50が充填される。続いて、
図6(b)に示すように、マスク版52の開口部56にマイクロニードル44を挿入する。その後、
図6(c)に示すように、マスク版52の開口部56からマイクロニードル44を引き出す。これにより、マイクロニードル44上に塗布液50を付着させる。なお、塗布液50は基板42上に付着させてもよい。
【0055】
図6(a)、(b)及び(c)に示す作業を塗布チャンバー内において行うことで、マイクロニードル製剤を製造するわけであるが、その際の条件として、本実施形態に係るシステムを用いることによって、塗布チャンバー内を、温湿度を制御した無菌状態の空気環境にする。具体的には、本システムにおける各装置を起動させ、空気圧縮機から供給された空気を所望の環境に調節し、塗布チャンバー内に吹き込む。塗布チャンバー内の温湿度計測結果を恒温水槽などにフィードバックすることによって、安定的に所望の温湿度の空気環境を維持する。このようにして得られる空気環境下で塗布を行うことによって、一定の薬剤含量である塗布液をマイクロニードルに安定的に塗布することができる。
【0056】
上述のようにして塗布を行った後、風乾、真空乾燥、又はそれらの組み合わせの既知の方法により、マイクロニードル44上の塗布液50の揮発成分を除去する。これにより、マイクロニードル44上に塗布層46が強固に付着し、典型的にはガラス質又は固形状になり、マイクロニードル製剤40が製造される。塗布層46の水分含有量は通常、塗布層46の全量基準で55質量%以下、好ましくは、30質量%以下、さらには10質量%以下である。上記方法により、付着した塗布液50の液ダレが防止される。液ダレとは、針先から塗布液が垂れてくることを指し、
図6(c)ではH部分が長くなることを意味する。
【0057】
マイクロニードル44上に付着している塗布層46の高さHは、
図6(b)に示すクリアランス(ギャップ)Cで調整される。このクリアランスCは、マイクロニードル44の基底からマスク版52表面までの距離(基板42の厚みは関与しない)で定義され、マスク版52のテンションとマイクロニードル44の長さに応じて設定される。クリアランスCの距離の範囲は、好ましくは、0〜500μmである。クリアランスCの距離が0の場合には、塗布液50がマイクロニードル44の全体に対して塗付されることを意味する。マイクロニードル44上に付着している塗布液50の高さHはマイクロニードル44の高さによって変動するが、0〜500μmとすることができ、通常10〜500μmであり、好ましくは30〜300μm程度で、特に好ましくは40〜250μm程度である。塗布液50中の薬剤を有効に用いるためには、マイクロニードルの一部分、すなわちニードルの先端部分に集中的に存在させた方が好ましく、また、皮膚に対する刺激及び薬物の皮膚への移行率の観点からも、先端から200μmまでに存在させることが好ましい。塗布液50は、例えば高分子化合物を水溶液中に溶解させることができ、高い粘度を有することから、マイクロニードルの一部分に塗布層46を形成することが可能となる。このような形でマイクロニードル44上に保持された塗布液50は、マイクロニードル44を皮膚へ穿刺させたときに同時に皮内へ挿入される。
【0058】
マイクロニードル44上に付着している塗布層46の乾燥後の厚さは50μm未満であることが好ましく、より好ましくは40μm未満、さらに好ましくは1〜30μmである。一般に、マイクロニードル上に付着している塗布層46の厚さは、乾燥後にマイクロニードル44の表面にわたって測定される平均の厚さである。マイクロニードル44上に付着している塗布層46の厚さは、塗布液50の複数の被膜を適用することにより増大させること、すなわち、塗布液50を付着させた後に付着工程を繰り返すことで増大させることができる。
【0059】
塗布液50に含まれる薬剤としては、例えば、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA等の高分子化合物が考えられるが特に限定されず、分子量が1000程度であれば、ワクチン、低分子ペプチド、糖、核酸等であってもよい。生理活性物質としては、例えば、ナルトレキソン、酢酸セトロレリクス、タルチレリン、ナファレリン酢酸塩、プロスタグランジンA1、アルプロスタジル、α−インターフェロン、多発性硬化症のためのβ−インターフェロン、エリスロポイエチン、フォリトロピンβ、フォリトロピンα、G−CSF、GM−CSF、ヒト絨毛性腺刺激ホルモン、黄体形成(leutinizing)ホルモン、サケカルシトニン、グルカゴン、GNRH アンタゴニスト、インスリン、ヒト成長ホルモン、フィルグラスチン、ヘパリン、低分子ヘパリン、ソマトロピン、インクレチン、GLP−1誘導体等が挙げられる。また、ワクチン類の例としては、日本脳炎ワクチン、ロタウィルスワクチン、アルツハイマー病ワクチン、動脈硬化ワクチン、癌ワクチン、ニコチンワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、ライム病ワクチン、狂犬病ワクチン、肺炎双球菌ワクチン、黄熱病ワクチン、コレラワクチン、種痘疹ワクチン、結核ワクチン、風疹ワクチン、麻疹ワクチン、おたふくかぜワクチン、ボツリヌスワクチン、ヘルペスウイルスワクチン、他のDNAワクチン、B型肝炎ワクチン等が挙げられる。
【0060】
その他、例えば、催眠・鎮静剤(塩酸フルラゼパム、塩酸リルマザホン、フェノバルビタール、アモバルビタール等)、解熱消炎鎮痛剤(酒石酸ブトルファノール、クエン酸ペリソキサール、アセトアミノフェン、メフェナム酸、ジクロフェナックナトリウム、アスピリン、アルクロフェナク、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、ペンタゾシン、インドメタシン、サリチル酸グリコール、アミノピリン、ロキソプロフェン等)、ステロイド系抗炎症剤(ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等)、興奮・覚醒剤(塩酸メタンフェタミン、塩酸メチルフェニデート等)、精神神経用剤(塩酸イミプラン、ジアゼパム、塩酸セルトラリン、マレイン酸フルボキサミン、塩酸パロキセチン、臭化水素酸シタロプラム、塩酸フルオキセチン、アルプラゾラム、ハロペリドール、クロミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、アモクサピン、マプロチリン、ミアンセリン、セチプチリン、トラザドン、ロヘプラミン、ミルナシプラン、デュロキセチン、ベンラフェキシン、塩酸クロルプロマジン、チオリダジン、ジアゼパム、メプロバメート、エチゾラム等)、ホルモン剤(エストラジオール、エストリオール、プロゲステロン、酢酸ノルエチステロン、酢酸メテロノン、テストステロン等)、局所麻酔剤(塩酸リドカイン、塩酸プロカイン、塩酸テトラカイン、塩酸ジブカイン、塩酸プロピトカイン等)、泌尿器官用剤(塩酸オキシブチニン、塩酸タムスロシン、塩酸プロピベリン等)、骨格筋弛緩剤(塩酸チザニジン、塩酸エペリゾン、メシル酸プリジノール、塩酸スキサメトニウム、等)、生殖器官用剤(塩酸リトドリン、酒石酸メルアドリン)、抗てんかん剤(バルプロ酸ナトリウム、クロナゼパム、カルバマゼピン等)、自律神経用剤(塩化カルプロニウム、臭化ネオスチグミン、塩化ベタネコール等)、抗パーキンソン病剤(メシル酸ペルゴリド、メシル酸ブロモクリプチン、塩酸トリヘキシフェニジル、塩酸アマンタジン、塩酸ロピニロール、塩酸タリペキソール、カベルゴリン、ドロキシドパ、ピペリデン、塩酸セレギリン等)、利尿剤(ヒドロフルメチアジド、フロセミド等)、呼吸促進剤(塩酸ロベリン、ジモルホラミン、塩酸ナロキソン等)、抗片頭痛剤(メシル酸ジヒドロエルゴタミン、スマトリプタン、酒石酸エルゴタミン、塩酸フルナリジン、塩酸サイプロヘプタジン等)、抗ヒスタミン剤(フマル酸クレマスチン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェニルピラリン、プロメタジン等)、気管支拡張剤(塩酸ツロブテロール、塩酸プロカテロール、硫酸サルブタモール、塩酸クレンブテロール、臭化水素酸フェノテロ−ル、硫酸テルブタリン、硫酸イソプレナリン、フマル酸ホルモテロール等)、強心剤(塩酸イソプレナリン、塩酸ドパミン等)、冠血管拡張剤(塩酸ジルチアゼム、塩酸ベラパミル、硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、ニコランジル等)、末梢血管拡張剤(クエン酸ニカメタート、塩酸トラゾリン等)、禁煙補助薬(ニコチン等)、循環器官用剤(塩酸フルナリジン、塩酸ニカルジピン、ニトレンジピン、ニソルジピン、フェロジピン、ベシル酸アムロジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、塩酸マニジピン、塩酸ベニジピン、マレイン酸エナラプリル、塩酸デモカプリル、アラセプリル、塩酸イミダプリル、シラザプリル、リシノプリル、カプトプリル、トランドラプリル、ペリンドプリルエルブミン、アテノロール、フマル酸ビソプロロール、酒石酸メトプロロール、塩酸ベタキソロール、塩酸アロチノロール、塩酸セリプロロール、カルベジロール、塩酸カルテオロール、塩酸ベバントロール、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、ロサルタンカリウム、塩酸クロニジン等)、不整脈用剤(塩酸プロプラノロール、塩酸アルプレノロール、塩酸プロカインアミド、塩酸メキシチレン、ナドロール、ジソピラミド等)、抗悪性潰瘍剤(シクロフォスファミド、フルオロウラシル、デガフール、塩酸プロカルバジン、ラニムスチン、塩酸イリノテカン、フルリジン等)、抗脂血症剤(プラバスタチン、シンバスタチン、ベザフィブレート、プロブコール等)、血糖降下剤(グリベンクラミド、クロルプロパミド、トルブタミド、グリミジンナトリウム、グリブゾール、塩酸ブホルミン)、消化性潰瘍治療剤(プログルミド、塩酸セトラキサート、スピゾフロン、シメチジン、臭化グリコピロニウム)、利胆剤(ウルソデスオキシコール酸、オサルミド等)、消化管運動改善剤(ドンペリドン、シサプリド等)、肝臓疾患用剤(チオプロニン等)、抗アレルギー剤(フマル酸ケトチフェン、塩酸アゼラスチン等)、抗ウイルス剤(アシクロビル等)、鎮暈剤(メシル酸ベタヒスチン、塩酸ジフェニドール等)、抗生剤(セファロリジン、セフジニル、セフポドキシムプロキセチル、セファクロル、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、メチルエリスロマイシン、硫酸カナマイシン、サイクロセリン、テトラサイクリン、ベンジルペニシリンカリウム、プロピシリンカリウム、クロキサシンナトリウム、アンピシリンナトリウム、塩酸バカンピシリン、カルベニシリンナトリウム、クロラムフェニコール、等)、習慣性中毒用剤(シアナミド等)、食欲抑制剤(マジンドール等)、化学療法剤(イソニアシド、エチオナミド、ピラジナミド等)、血液凝固促進剤(塩酸チクロピジン、ワルファリンカリウム)、抗アルツハイマー剤(フィゾスチグミン、塩酸ドネペジル、タクリン、アレコリン、キサノメリン等)、セロトニン受容体拮抗制吐剤(塩酸オンダンセトロン、塩酸グラニセトロン、塩酸ラモセトロン、塩酸アザセトロン等)、痛風治療剤(コルヒチン、プロベネシド、スルフィンピラゾン等)、麻薬系の鎮痛剤(クエン酸フェンタニル、硫酸モルヒネ、塩酸モルヒネ、リン酸コデイン、塩酸コカイン、塩酸ペチジン等)が挙げられる。
【0061】
なおこれらの薬剤は単独で用いても2種類以上併用してもよく、薬学的に許容できる塩であれば、無機塩又は有機塩のいずれの形態の薬物も当然含まれる。また、薬物は、塗布液中に包含させるのが基本であるが、塗布液中には薬剤を包含させずに別に後からマイクロニードルの基板に施された貫通孔より供給することもできる。塗布液中の(A)薬剤の含有量は、0.1〜80重量%であり、好ましくは1〜70重量%であり、特に好ましくは5〜60重量%である。
【0062】
塗布液は、上記薬剤とは異なる高分子化合物を含んでいてもよい。当該高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリメチルセルロース、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、カルメロースナトリウム、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デキストラン、アラビアゴム等が挙げられる。
【0063】
この他、塗布液には、必要に応じて溶解補助剤又は吸収促進剤として、炭酸プロピレン、クロタミトン、l−メントール、ハッカ油、リモネン、ジイソプロピルアジペート等や、薬効補助剤として、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、l−メントール、チモール、ハッカ油、ノニル酸ワニリルアミド、トウガラシエキス等を添加してもよい。
【0064】
さらに、塗布液には、必要に応じて、安定化剤、抗酸化剤、乳化剤、界面活性剤、塩類等を添加してもよい。界面活性剤は、非イオン性活性剤、イオン性活性剤(カチオン、アニオン、両性)のいずれでもよいが、安全性の面から通常医薬品基剤に用いられる非イオン性活性剤が望ましい。さらに詳しくは、ショ糖脂肪酸エステルなどの糖アルコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0065】
他の既知の製剤補助物質は、それらが塗布液の塗布に必要な溶解性及び粘度の特徴、並びに乾燥された塗布層の性状及び物性に有害な影響を及ぼさない限り、塗布液に添加されてもよい。
【0066】
塗布液には、液だれすることのないよう、ある程度の粘性が必要であり、具体的には100〜100000cps程度の粘度が必要である。塗布液のより好ましい粘度は、100〜60000cpsであり、粘度がこの範囲にあることにより、マイクロニードル44の材質に依存することなく、所望量の塗布液を一度に塗布することが可能となる。また、一般的に粘度が高くなればなるほど塗布される塗布液の量が増える傾向にあり、粘度が600cps未満であるとき最低限の塗布液をマイクロニードル44に塗布することが困難になる。しかし、意外なことに45000cps以上であると逆に得られる塗布層46中の薬剤含量が減少に転じる。このような特徴から、塗布液の粘度を45000cps以上の粘度にすると、使用する薬剤に応じた塗布層46中の薬剤の含量が望めなくなり、経済的に好ましくないため、塗布液の粘度は、600〜45000cpsとすることが特に好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
コンプレッサー、圧縮空気温度調節装置、風量調節装置、エアフィルター及び湿度調節装置をこの順に備えるマイクロニードル製剤製造用システムを作製した。湿度調節装置としては、中空糸モジュール及び恒温水槽を組み合わせて用いた。具体的には、中空糸モジュールの中空糸状膜の内部を、システム内に流れる気体が通過するように接続し、中空糸モジュールの中空糸状膜の外部に、恒温水槽から供給される一定温度(24.5℃)の水が接触し恒温水槽と循環するように接続した。各装置を接続する送風ラインにはテフロン(登録商標)チューブ及びシリコンチューブを用い、断熱材としてチューブの周囲に気泡ニトリル系合成ゴム製保温材を設置した。使用した各装置の詳細は以下のとおりである。
コンプレッサー:制御圧力0.6〜0.8MPa、吐出し空気量85L/min
圧縮空気温度調節装置:電子冷熱式、設定排出温度23℃
風量調節装置:設定風量30L/min
エアフィルター:ポリテトラフルオロエチレン製、孔径0.2μm、有効面積50cm
2
恒温水槽:循環恒温水槽
中空糸モジュール:内径1mm、外形1.3mm、長さ300mmのフッ素系イオン交換樹脂製の中空糸を230本内蔵した、円筒形モジュール
作製したマイクロニードル製剤製造用システムを、塗布チャンバーにポリプロピレンチューブを介して接続した。塗布チャンバーとしてはアクリル製チャンバーを用いた。塗布チャンバーはさらにブースで覆い、ブース内の温湿度を精密温湿度ユニットによって管理した。各装置を起動させ、塗布チャンバー内を、温湿度を調節した空気で満たした。
【0069】
塗布チャンバー内の温度及び湿度を経時的に測定した。結果を
図7(a)、(b)に示す。実施例1のシステムを用いることにより、塗布チャンバー内の温度及び湿度を任意に調節することができた。
【0070】
(実施例2、3)
中空糸モジュールの中空糸状膜の外部に恒温水槽から供給される水の温度を12℃に変更した以外は上記実施例1と同じ方法で、温湿度を調節した空気で塗布チャンバー内を満たし、経時的に塗布チャンバー内の温度及び湿度を測定した(実施例2)。結果を
図8(a)、(b)に示す。また、中空糸モジュールの中空糸状膜の外部に恒温水槽から供給される水の温度を17℃に変更した以外は、上記実施例1と同じ方法で、温湿度を調節した空気で塗布チャンバー内を満たし、塗布チャンバー内の温度及び湿度を経時的に測定した(実施例3)。結果を
図9(a)、(b)に示す。塗布チャンバー内を70%RH以上の任意の湿度に調節することができた。
【0071】
<塗布試験>
上述の実施例1の方法で温湿度を調節した塗布チャンバー内で、マイクロニードルデバイスへの塗布試験を行った。塗布試験の具体的な方法としては以下のとおりである。
(マイクロニードル)
材質:ポリ乳酸、高さ:500μm、密度:625本/cm
2、マイクロニードルデバイスの製剤面積:1cm
2/patch
(塗布液)
FR−40(食用赤色40号、モデル薬剤)の濃度が1質量%、プルランの濃度が24質量%となるように水と混合し、塗布液を得た。
マイクロニードルへの塗布液の塗布を、上述の
図6(a)〜(c)に示す方法で行った。塗布チャンバー内に設置したメタルマスク版(厚さ100μm、開口径250μm、ピッチ400μm)に、得られた塗布液をヘラにより掃引し、メタルマスク版の開口部に充填した。充填した開口部にマイクロニードルを挿入させた後引き出すことにより、マイクロニードルに塗布液を塗布した。塗布後のマイクロニードルを風乾後、室温にて保存した。200枚のマイクロニードルデバイスの塗布に要した時間は約2時間であった。
モデル薬剤定量方法:風乾後のマイクロニードル上の薬剤を1mlの水で抽出した。抽出して得られた抽出液の504nmの吸光度を、吸光度計を用いて測定した。得られた測定値から、マイクロニードル製剤1枚当たりのFR−40含量を測定した。
【0072】
乾燥後のモデル薬剤含量の測定結果を
図10に示す。200枚のマイクロニードルデバイスに、モデル処方塗布液を塗布したところ、乾燥後のマイクロニードル上のモデル薬剤含量の各デバイス間における変動は非常に小さく、モデル薬剤含量の平均値は1.04μg、標準偏差は0.04μg、CV値は3.58%であった。
【0073】
(実施例4)
実施例1と同様に、コンプレッサー、圧縮空気温度調節装置、風量調節装置、エアフィルター及び湿度調節装置をこの順に備えるマイクロニードル製剤製造用システムを用いて、下記の風量調節試験を行った。塗付チャンバー内の湿度を97%RH及び98%RHに設定し、それぞれの湿度下で、風量調節装置によって表1に示す風量に調節し、それぞれの条件下で塗付試験を行った。塗布液として、OVAの濃度が25質量%、プルランの濃度が15質量%となるように水と混合したものを用いた以外は実施例1と同様に塗布試験を行い、塗布液乾燥後の、マイクロニードル上のOVA含量を測定した。結果を表1に示す。風量を高めることにより、乾燥後のマイクロニードル上のOVA含量が上昇した。風量を制御することによりマイクロニードルに塗付される薬物量を調節することが可能であった。
【0074】
【表1】
【0075】
(実施例5)
実施例1と同様のシステム及び
図11に示す塗布チャンバーを用いて、風量調節試験を行った。塗布チャンバーのサイズは以下のとおりである。
高さ35mm、幅50mm、長さ205mm、容積約0.359L
排気口(開口)21:長方形、25mm×30mm
送風ラインLが接続された給気口:円形、直径16mm
【0076】
システムの各装置を起動させ、風量を風量調節装置によって表2に示す各値に設定し、必要に応じて恒温水槽温度、循環水量及び圧縮空気温度を適宜調節した。塗布チャンバー内に中央と四隅の計5つの測定位置pを設け、それぞれ塗布チャンバーの高さの2分の1の高さの位置とした。各測定位置pにおいて湿度を測定し、5点の平均湿度、標準偏差(SD)及びCV値を求めた。結果を表2に示す。風量がいずれの値であっても湿度を任意に調節することが可能であったが、風量が一定量以上である場合、塗布チャンバー内の湿度をより均一に調節することが可能であった。
【0077】
【表2】
【0078】
(比較例1)
コンプレッサー、風量調節装置及び湿度調節装置を、送風ラインを介してこの順に接続した。コンプレッサー及び風量調節装置は実施例1と同じものを用い、同様に設定を行った。湿度調節装置としては循環恒温水槽のみを用いた。塗布チャンバー内の温度及び相対湿度の推移を計測した。結果を
図12(a)、(b)に示す。塗布チャンバー内の温度には日間及び日内で変動が見られた。また、塗布チャンバー内の相対湿度も大きく変動していた。この塗布チャンバー内で、モデル化合物としてOVAを用いた以外は、実施例1と同様にマイクロニードルへの塗布試験を行った。塗布液乾燥後の、マイクロニードル上のモデル化合物の含量を測定した。結果を
図13に示す。200枚のマイクロニードルデバイスに塗布液を塗布した結果、各マイクロニードルデバイスによってモデル化合物の含量は大きくばらつき、CV値は13.5%であった。