特許第6033428号(P6033428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033428
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20161121BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   B60T8/17 B
   B60T13/138 A
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-522263(P2015-522263)
(86)(22)【出願日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2013003720
(87)【国際公開番号】WO2014199419
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石野 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】岡田 周一
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 宏平
(72)【発明者】
【氏名】波多野 邦道
【審査官】 岩谷 一臣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−122819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12− 8/96
B60T13/00−13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操作する制動操作部材の制動操作量を検出する操作量検出手段と、前記制動操作量に応じて電動アクチュエータを駆動してブレーキ液圧を発生させる液圧発生手段と、車速を検出する手段と、前記制動操作量に応じて前記液圧発生手段により前記ブレーキ液圧を発生させる場合に前記車速が低くなるほど前記ブレーキ液圧を増大させるためのビルドアップ制御手段と、を備えた車両用ブレーキ装置において、
前記ビルドアップ制御手段は、前記制動操作量に応じて増大すべく設定される前記ブレーキ液圧の目標制御値を、
前記運転者の制動操作開始時の前記車速が高いほど大きい値をとり、一回の制動操作中において固定値として保持される第1係数と、
前記制動操作中の車速が所定の基準車速より低速側では低速であるほど大きい値を、前記制動操作中の車速が前記基準車速より高速側では高速であるほど小さい値を所定の補正量をもってとり、かつ前記制動操作中の前記制動操作量が大きいほど前記補正量を低減する第2係数とを用いて補正することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記第2係数は、前記制動操作中の前記制動操作量が増加するほど1に近付くように設定されていることを特徴とする請求項に記載の車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ装置に関し、特に電動アクチュエータによりブレーキ力を発生させる車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータを駆動源とする電動アクチュエータを用いたシリンダによりブレーキ圧を発生させるようにした、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤによる車両用ブレーキ装置がある。一方、ブレーキ装置の機械的要因により、一定の踏み込み量で制動する場合に、制動後半に制動力が不足し、運転者が意図した減速度による減速が行われないという現象がある。そのため、運転者は、所望の減速度を得るためにブレーキペダルの踏み増しを行う必要がある場合があり、その場合には制動操作が煩雑化してしまう。
【0003】
ブレーキ・バイ・ワイヤにより、ブレーキペダルの踏み込み量(制動操作量)に応じたブレーキ液圧を発生させるように電動アクチュエータを駆動する場合に、そのような現象を解消するために、車速が低くなるほど制動力または減速度を大きくするように電動アクチュエータを駆動制御し、摩擦係数の低下による制動力または減速度の低下を防止する(いわゆるビルドアップ効果を良くする)ものがある(例えば特許文献1参照)。
【0004】
上記特許文献1では、ブレーキペダルの操作量(制動操作量)に対する目標制動力(ブレーキ液圧)または目標減速度の比率を車速に応じて変化させる。これにより、車速が低下するほどブレーキペダルの操作量に対する目標制動力(目標減速度)の比率を増加させ、ブレーキペダルの操作量を一定の状態にしていても車速の低下に伴って目標制動力(目標減速度)が増加するため、制動後期のブレーキの利きを良くすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−189144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ブレーキ制御の入力要因としては、車速のみならず、運転者が操作する制動操作量(ブレーキペダルのストローク量)の変化もあり、制動操作中に制動操作量が変化した場合には対応できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、制動後期の制動力低下を抑制しかつ運転者の制動操作の意図を反映し得る車両用ブレーキ装置を実現するために、本発明に於いては、運転者が操作する制動操作部材(2)の制動操作量を検出する操作量検出手段(124)と、前記制動操作量に応じて電動アクチュエータ(4)を駆動してブレーキ液圧を発生させる液圧発生手段(131)と、車速を検出する手段(126)と、前記制動操作量に応じて前記液圧発生手段により前記ブレーキ液圧を発生させる場合に前記車速が低くなるほど前記ブレーキ液圧を増大させるためのビルドアップ制御手段(132・133)と、を備えた車両用ブレーキ装置において、前記ビルドアップ制御手段は、前記ビルドアップ制御手段は、前記制動操作量に応じて設定される目標制御値を、前記運転者の制動操作開始時の前記制動操作量及び前記車速に基づいて補正するものとした。
【0008】
これによれば、制動操作初期にはその時の制動操作量に応じたビルドアップのための目標制御値をその時の車速に基づいて補正することから、ビルドアップのための増加量を減少することができ、それにより車速に応じかつ制動操作量による制動初期の減速度の発生を緩やかにすることができる。そして、制動中には車速の変化及び制動操作量の変化に応じて補正することにより、車速の低下に伴って減速度を増大させることにより良好なビルドアップ効果が得られるとともに、制動操作量の変化に対する減速度の変化を抑制することができ、減速度の変化が穏やかになり、かつ制動操作量の変化に対する良好なコントロール性を実現し得る。
【0009】
特に、前記目標制御値を、前記車速に基づいて設定する第1係数と、制動中の前記制動操作量及び前記車速に応じて設定する第2係数とを用いて補正するとよい。
【0010】
これによれば、車速に応じてビルドアップのための増加量を減少するように第1係数を設定することができ、制動中には車速の変化及びブレーキ液圧の変化に応じて第2係数を設定することにより、制動初期から後記のビルドアップ制御まで、係数を用いた簡単な演算処理により制御を行うことができる。
【0011】
また、前記第1係数は、前記車速が高いほど大きく設定されかつ制動中に保持される固定値であるとよい。これによれば、車速が低い場合にはビルドアップのための増加量が小さく、車速が高い場合には大きいことから、ブレーキペダルの同じ踏み込み量に対して、車速が低い場合には制動力の発生を緩やかにし、車速が高い場合には早期に制動力を発させることができる。また、制動操作中は固定値なので、違和感を与えることはない。
【0012】
また、前記第2係数は、前記車速が所定の基準車速より高い場合には前記車速の変化量に対して小さく、前記基準車速よりも低い場合には前記車速の変化に対して大きくなるように設定されているとよい。これによれば、中車速域に設定した基準車速に対して、車速が高い場合には車速に低下幅に対してビルドアップ効果を小さくすることができ、それにより車両挙動を安定化し得るとともに、車速が低い場合には車速の低下幅に対してビルドアップ効果を大きくすることができ、それにより適切なビルドアップ効果が得られる。
【0013】
また、前記第2係数は、前記制動操作量が増加するほど1に近付くように設定されているとよい。これによれば、制動操作中に制動操作量を増加させるような操作をした場合にその変化に応じて大きく目標制御値を変えてしまうことを抑制でき、制動操作量を増大させる場合のコントロール性を向上し得る。
【0014】
また、前記目標制御値は、前記制動操作量に応じて発生させるブレーキ液圧であるとよい。これによれば、ブレーキ液圧の目標値と実測値とを直接的に比較することができ、応答性の良い制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、制動時の車両の状態である車速とブレーキペダルのペダルストローク量とに応じた最適なビルドアップ効果を奏する制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】車両用ブレーキ装置1の油圧回路を示す図である。
図2】車両用ブレーキ装置の制御系の構成図である。
図3】ESB_ECUの内部の本発明に対応する部分を示す要部ブロック図である。
図4】ペダルストローク量Sに対応するブレーキ液圧Pの発生状態(目標液圧)の変化を示すマップである。
図5】係数a及び係数cを表すマップである。
図6】係数bを表すマップである。
図7】目標ゲインK1を表すマップである。
図8】目標ゲインK2を表すマップである。
図9】目標ゲインK3を表すマップである。
図10】(a)は減速度の時間変化を示す図であり、(b)は車速の低下に伴う減速度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は車両用ブレーキ装置1の油圧回路を示す図であり、図2は車両用ブレーキ装置の制御系の構成図である。図1及び図2に示すように、実施形態に係る車両用ブレーキ装置1は、車体に回動可能に支持された制動操作部材としてのブレーキペダル2と、ブレーキペダル2の操作に応じて油圧を発生するマスタシリンダ3及びスレーブシリンダ4と、マスタシリンダ3又はスレーブシリンダ4の油圧を受けて駆動されるディスクブレーキ5、6、7、8とを有している。
【0018】
マスタシリンダ3は、タンデム型のシリンダであり、円筒状のマスタ側ハウジング11と、マスタ側ハウジング11の内部に変位可能に収容されたマスタ側第1ピストン12及びマスタ側第2ピストン13とを有している。マスタ側第1ピストン12はマスタ側ハウジング11内の軸線方向に沿った後側に配置され、マスタ側第2ピストン13はマスタ側ハウジング11内の軸線方向に沿った前側に配置されている。マスタ側第1ピストン12とマスタ側第2ピストン13との間にはマスタ側第1液圧室15が区画され、マスタ側第2ピストン13とマスタ側ハウジング11の前端部との間にはマスタ側第2液圧室16が区画されている。マスタ側第1ピストン12とマスタ側第2ピストン13との間、及びマスタ側第2ピストン13とマスタ側ハウジング11の端部との間には、それぞれ圧縮コイルばねであるリターンスプリング17が介装されている。リターンスプリング17によって、マスタ側第1ピストン12及びマスタ側第2ピストン13はマスタ側ハウジング11の後方に付勢されている。この状態のマスタ側第1ピストン12及びマスタ側第2ピストン13の位置を初期位置とする。
【0019】
マスタ側第1ピストン12には、軸線方向に沿って延び、マスタ側ハウジング11から後方に突出するロッド19の一端が結合されている。ロッド19の突出端は、ブレーキペダル2に回動可能に結合されている。これにより、ブレーキペダル2を踏み込むと、マスタ側第1ピストン12及びマスタ側第2ピストン13がリターンスプリング17に抗してマスタ側ハウジング11の前側に移動する。
【0020】
マスタ側ハウジング11には、マスタ側第1液圧室15に連通するマスタ側第1出力ポート21と、マスタ側第2液圧室16に連通する第2出力ポート22とが形成されている。また、マスタ側ハウジング11には、マスタ側リザーバタンク23が設けられている。マスタ側リザーバタンク23は、マスタ側ハウジング11に形成された液路(符号省略)を介してマスタ側第1液圧室15及びマスタ側第2液圧室16にブレーキオイルを供給する。なお、マスタ側第1液圧室15及びマスタ側第2液圧室16とマスタ側リザーバタンク23との間には公知のシール部材(符号省略)が設けられており、加圧時にマスタ側第1液圧室15及びマスタ側第2液圧室16からマスタ側リザーバタンク23にブレーキオイルが流れないようになっている。
【0021】
スレーブシリンダ4は、タンデム型のシリンダであり、円筒状のスレーブ側ハウジング31と、スレーブ側ハウジング31の内部に変位可能に収容されたスレーブ側第1ピストン32及びスレーブ側第2ピストン33とを有している。スレーブ側第1ピストン32はスレーブ側ハウジング31内の軸線方向に沿った後側に配置され、スレーブ側第2ピストン33はスレーブ側ハウジング31内の軸線方向に沿った前側に配置されている。スレーブ側第1ピストン32とスレーブ側第2ピストン33との間にはスレーブ側第1液圧室35が区画され、スレーブ側第2ピストン33とスレーブ側ハウジング31の前端部との間にはスレーブ側第2液圧室36が区画されている。スレーブ側第1ピストン32とスレーブ側第2ピストン33とは、連結ロッド37によって所定の範囲で相対移動可能に連結されている。連結ロッド37はスレーブ側ハウジング31の軸線方向に沿って延び、前端がスレーブ側第2ピストン33に固着され、後端がスレーブ側第1ピストン32に対して変位可能に支持されている。これにより、スレーブ側第1ピストン32とスレーブ側第2ピストン33の間隔の最大値及び最小値が定められている。
【0022】
スレーブ側第1ピストン32とスレーブ側第2ピストン33との間、及びスレーブ側第2ピストン33とスレーブ側ハウジング31の端部との間には、それぞれ圧縮コイルばねであるリターンスプリング38が介装されている。リターンスプリング38によって、スレーブ側第1ピストン32及びスレーブ側第2ピストン33はスレーブ側ハウジング31の後方に付勢されている。
【0023】
スレーブシリンダ4は、電動アクチュエータとしての電動サーボモータであるモータ40と、ギヤ列41を介してモータ40の回転力が伝達されるボールねじ機構42とを有している。ボールねじ機構42は、モータ40の回転に応じて、リターンスプリング38の付勢力に抗してスレーブ側第1ピストン32を前方に移動させる。初期位置では、スレーブ側第1ピストン32及びスレーブ側第2ピストン33が最も後方に配置されている。
【0024】
スレーブ側ハウジング31には、スレーブ側第1液圧室35に連通するスレーブ側第1出力ポート45と、スレーブ側第2液圧室36に連通するスレーブ側第2出力ポート46とが形成されている。また、スレーブ側ハウジング31にはスレーブ側リザーバタンク47が設けられている。スレーブ側リザーバタンク47は、スレーブ側ハウジング31に形成された液路(符号省略)を介してスレーブ側第1液圧室35及びスレーブ側第2液圧室36にブレーキオイルを供給する。マスタ側リザーバタンク23とスレーブ側リザーバタンク47とは、連通路48を介して互いに連通している。なお、スレーブ側第1液圧室35及びスレーブ側第2液圧室36とスレーブ側リザーバタンク47との間には公知のシール部材(符号省略)が設けられており、加圧時にスレーブ側第1液圧室35及びスレーブ側第2液圧室36からスレーブ側リザーバタンク47にブレーキオイルが流れないようになっている。
【0025】
マスタ側第1出力ポート21は、第1液路51、VSA装置52、左後輪液路53及び右後輪液路54を介して左右後輪のディスクブレーキ5、6のホイールシリンダ55、56に接続されている(第1系統)。マスタシリンダ3の第2出力ポート22は、第2液路61、VSA装置52、左前輪液63路及び右前輪液路64を介して左右前輪のディスクブレーキ7、8のホイールシリンダ65、66に接続されている(第2系統)。液路は、配管部材により構成されている。
【0026】
第1液路51の経路上には常開型電磁弁である第1マスタカットバルブ71が設けられ、第2液路61の経路上には常開型電磁弁である第2マスタカットバルブ72が設けられている。第1液路51の第1マスタカットバルブ71よりもVSA装置52側(下流側)の部分からは、第3液路73が分岐し、第3液路73の端部にはスレーブ側第1出力ポート45が接続されている。第2液路61の第2マスタカットバルブ72よりもVSA装置52側(下流側)の部分からは、第4液路74が分岐し、第4液路74の端部にはスレーブ側第2出力ポート46が接続されている。
【0027】
第2液路61の第2マスタカットバルブ72よりもマスタシリンダ3側(上流側)の部分からは、第5液路75が分岐し、第5液路75の端部にはストロークシミュレータ76が接続されている。ストロークシミュレータ76は、シリンダ77と、シリンダ77内に摺動可能に収容されたピストン78と、ピストン78とシリンダ77の内壁との間に介装され、ピストン78をシリンダ77の一側に付勢するスプリング79とを有する。ピストン78は、シリンダ77内を第5液路75に連通した第1液圧室81と、他の第2液圧室82とに区画している。スプリング79は、第1液圧室81が縮小する方向にピストンを付勢している。第5液路75の経路上には常開型電磁弁であるシミュレータバルブ84が設けられている。
【0028】
VSA装置52は、左右後輪のディスクブレーキ5、6(第1系統)を制御する第1ブレーキアクチュエータ85と、左右前輪のディスクブレーキ7、8(第2系統)を制御する第2ブレーキアクチュエータ86とを有する。第1及び第2ブレーキアクチュエータ86は同じ構造を有するため、代表して第1ブレーキアクチュエータ85について説明する。
【0029】
第1ブレーキアクチュエータ85は、第1液路51に接続される第1VSA液路91及び第2VSA液路92を有する。第1液路51と第1VSA液路91の間には、可変開度の常開型電磁弁よりなるレギュレータバルブ93と、レギュレータバルブ93に対して並列に配置されて第1液路51側から第1VSA液路91側へのブレーキ液の流通を許容する第1チェックバルブ94とが設けられている。第1VSA液路91と左後輪液路53と間には、常開型電磁弁よりなる第1インバルブ95と、この第1インバルブ95に対して並列に配置されて左後輪液路53側から第1VSA液路91側へのブレーキ液の流通を許容する第2チェックバルブ96とが設けられている。第1VSA液路91と右後輪液路54と間には、常開型電磁弁よりなる第2インバルブ98と、この第2インバルブ98に対して並列に配置されて右後輪液路54側から第1VSA液路91側へのブレーキ液の流通を許容する第3チェックバルブ99とが設けられている。
【0030】
左後輪液路53と第2VSA液路92との間には常閉型電磁弁よりなる第1アウトバルブ101が設けられ、右後輪液路54と第2VSA液路92との間には常閉型電磁弁よりなる第2アウトバルブ102が設けられている。第2VSA液路92には、リザーバ103が接続されている。リザーバ103は、第2VSA液路92に接続されたシリンダと、シリンダに変位可能に収容されたピストンと、ピストンを第2VSA液路92側に付勢するリターンスプリングとを有し(いずれも符号省略)、第2VSA液路92からブレーキ液が流入することによってピストンが変位するように構成されている。
【0031】
第2VSA液路92と第1液路51との間には、第2VSA液路92側から第1液路51側へのブレーキ液の流通を許容する第4チェックバルブ108と、常閉型電磁弁よりなるサクションバルブ109とが記載の順序で第2VSA液路92側から直列に設けられている。第2VSA液路92における第4チェックバルブ108とサクションバルブ109との間の部分は、ポンプ111を介して第1VSA液路91に接続されている。ポンプ111は、電動モータ112によって駆動され、第2VSA液路92側から第1VSA液路91側へブレーキ液を輸送する。ポンプ111の吸入側(第2VSA液路92側)及び吐出側(第1VSA液路91側)には、ブレーキ液の逆流を阻止する第5チェックバルブ113及び第6チェックバルブ114が設けられている。
【0032】
第1液路51における第1マスタカットバルブ71よりもマスタシリンダ3側の部分には、液圧を検出する第1液圧センサ121が設けられている。第2液路61における第2マスタカットバルブ72よりもVSA装置52側の部分には、液圧を検出する第2液圧センサ122が設けられている。また、第1液路51における第1マスタカットバルブ71よりもVSA装置52側の部分には、液圧を検出する第3液圧センサ123が設けられている。
【0033】
ブレーキペダル2にはブレーキペダル2の位置であるペダル位置を検出する操作量検出手段としてのペダル位置センサ124が設けられている。ペダル位置センサ124は、乗員によるブレーキペダル2の踏み込み操作がなされていない状態を初期状態(ペダル位置=0)として、運転者の制動操作量(踏み込み量)であるペダルストローク量を検出する。
【0034】
スレーブシリンダ4には、モータ40の回転角を検出するモータ回転角センサ125が設けられている。各車輪には、車輪速を検出する車輪速センサ126が設けられている。
【0035】
図2は、車両用ブレーキ装置の制御系の構成図である。図2に示すように、車両用ブレーキ装置の電子制御ユニットであるESB_ECU130には、第1〜第3液圧センサ121〜123、ペダル位置センサ124、モータ回転角センサ125、各車輪速センサ126から出力信号が入力される。ESB_ECU130は、これらの出力信号に基づいて、第1及び第2マスタカットバルブ71、72、シミュレータバルブ84、スレーブシリンダ4、VSA装置52を制御する。
【0036】
以上のように構成した車両用ブレーキ装置1の作用について説明する。システムが正常に機能する正常時には、第1液圧センサ121が運転者によるブレーキペダル2の踏み込みを検出すると、常開型電磁弁である第1及び第2マスタカットバルブ71、72が励磁されて閉弁し、常閉型電磁弁であるシミュレータバルブ84が励磁されて開弁する。これと同時にスレーブシリンダ4のモータ40が作動してスレーブ側第1ピストン32及びスレーブ側第2ピストン33を前進させ、スレーブ側第1液圧室35及びスレーブ側第2液圧室36にブレーキ液圧を発生させる。このブレーキ液圧は、第3液路73及び第4液路74、第1液路51及び第2液路61、レギュレータバルブ93及び第1及び第2インバルブ95、98が開弁されたVSA装置52を介して各ディスクブレーキ5〜8のホイールシリンダ55、56、65、66に伝達されて各車輪を制動する。
【0037】
このとき、常閉型電磁弁よりなるシミュレータバルブ84が励磁されて開弁するため、マスタ側第2液圧室16が発生したブレーキ液圧がストロークシミュレータ76の液圧室に伝達され、そのピストン78をスプリング79に抗して移動させることで、ブレーキペダル2のストロークを許容するとともに擬似的なペダル反力を発生させる。
【0038】
VSA装置52が作動していない状態では、レギュレータバルブ93が消磁されて開弁し、サクションバルブ109が消磁されて閉弁し、第1及び第2インバルブ95、98が消磁されて開弁し、第1及び第2アウトバルブ101、102が消磁されて閉弁する。従って、第1液路51及び第2液路61に発生したブレーキ液圧は、レギュレータバルブ93及び第1及び第2インバルブ95、98を経てホイールシリンダ55、56、65、66に供給される。
【0039】
VSA装置52の作動時には、サクションバルブ109が励磁されて開弁した状態でポンプ111が駆動され、第1液路51及び第2液路61からサクションバルブ109を通過してポンプ111で加圧されたブレーキ液が、第1VSA液路91に供給される。従って、レギュレータバルブ93を励磁して開度を調整することで、第1VSA通路のブレーキ液圧を調圧すると共に、そのブレーキ液圧を開弁した第1及び第2インバルブ95、98を介してホイールシリンダ55、56、65、66に選択的に供給することができる。これにより、運転者がブレーキペダル2を踏んでいない状態でも、四輪の制動力を個別に制御することができる。これにより、旋回性向上や、直進安定性向上、ブレーキのアンチロック制御を行うことができる。
【0040】
電源が失陥した場合には、常開型電磁弁である第1及び第2マスタカットバルブ71、72が自動的に開弁し、常閉型電磁弁であるシミュレータバルブ84が自動的に閉弁し、常開型電磁弁である第1及び第2インバルブ95、98およびレギュレータバルブ93が自動的に開弁し、常閉型電磁弁である第1及び第2アウトバルブ101、102及びサクションバルブ109が自動的に閉弁する。この状態では、マスタシリンダ3のマスタ側第1液圧室15及びマスタ側第2液圧室16に発生したブレーキ液圧は、ストロークシミュレータ76に吸収されることなく、第1及び第2液路61、VSA装置52を介して各車輪のディスクブレーキ5〜8装置のホイールシリンダ55、56、65、66を作動させ、支障なく制動力を発生させることができる。
【0041】
次に、本発明に基づく制御要領について説明する。本発明は、ブレーキペダル2を踏み込んで制動力を発生させ、例えば踏み込み量を一定に保持する場合の制動後期にビルドアップ制御を行う場合の制御に適用される。ここで、ビルドアップとは、ブレーキ装置の機械的要因により、一定のストローク量で制動する場合に、ブレーキ装置の摩擦係数が低下していき、制動後期で制動力が落ちる現象に対して、ストローク量を変えることなく制動力を高め、運転者の意図した制動力を実現することである。
【0042】
図3は、ESB_ECU130の内部の本発明に対応する部分を示す要部ブロック図である。第1〜第3液圧センサ121〜123の出力信号が入力する液圧発生手段としての液圧発生制御部131と、液圧発生制御部131の内部での処理であってよいビルドアップ制御手段としてのビルドアップ制御部132と、同じく液圧発生制御部131の内部での処理であってよい係数設定部133とが設けられている。そして、液圧発生制御部131の出力信号によりスレーブシリンダ4が駆動制御される。
【0043】
図3の入出力構成により、入力要因としての運転者要因におけるブレーキペダル2のストローク量をペダル位置センサ124の出力信号から算出し、車両要因における車速を車輪速センサ126の出力信号から算出し、各入力要因から本発明によるビルドアップ制御を行うことができる。この制御は、コンピュータプログラムによるソフトウェアの実行によるものであってよい。
【0044】
図4は、ペダルストローク量Sに対応するブレーキ液圧Pの発生状態(目標液圧)の変化を示す昇圧マップである。昇圧マップは液圧発生制御部131内に用意されている。図の実線で示される曲線は、ブレーキペダル2を踏み込んでいく(ペダルストロークの増加方向)場合の昇圧マップである。昇圧マップは、ペダルストローク量Sが小さい(踏み込みが浅い)領域ではストローク増加量に対してブレーキ液圧Pは少しずつ上昇し、ペダルストローク量Sが大きい(踏み込みが深い)領域ではストローク増加量に対してブレーキ液圧Pは大きく上昇する曲線で変化する。
【0045】
ブレーキ液圧Pを図4の昇圧マップを用いて制御するとともに、係数設定部133により、制動操作時の初期から後記のビルドアップ制御のためのゲインとして用いる各係数a・b・cを設定する。
【0046】
図5は、第1係数としての係数a及び後記する第2係数の1つである係数cを表すマップである。係数aは、図に示されるように車速Vに対するゲインであり、車速0(km/h)から車速Vが高くなるほど大きくなる曲線となる。なお、車速Vが高くなるほど増加率は減少している。また、中速域の所定の基準車速Vdでゲインは1に設定されている。
【0047】
図6は、第2係数の1つである係数bを表すマップである。係数bは、図に示されるようにブレーキ液圧(各液圧センサ122・123のいずれかを基準にしてよい)Pに対するゲインであり、車速Vの違いに応じて異なるように設定されている。上記したように基準車速Vdに対してはブレーキ液圧Pの変化にかかわらずゲインが1のまま一定である。なお、図から明らかなように、車速Vが低いほどゲインは増加し、高いほど低下している。また、基準車速Vdより低い車速に対応するものは、略一定の低下率でブレーキ液圧Pが高くなるほど低下する(図における右下がりの線)ように設定され、基準車速Vdより高い車速に対応するものは、略一定の上昇率でブレーキ液圧Pが高くなるほど上昇する(図における右上がりの線)ように設定されている。
【0048】
第2係数の他の1つである係数cは、図5に示されるように車速Vに対するゲインであり、車速0(km/h)から車速Vが高くなるほど小さくなる曲線となり、ブレーキ液圧Pの違いに応じて異なるように設定され、ブレーキ液圧Pが高いほど緩やかに減少し、低いほど大きく減少している。なお、車速Vが高くなるほど低減率は減少している。また、中速域の所定の基準車速Vdでゲインは1に設定されている。
【0049】
本発明によれば、上記各係数a・b・cを用い、目標ゲインKを下記の式1により算出する。
K=a×b×c …(式1)
【0050】
目標ゲインKは、図4の昇圧マップ(ベースマップ)により求められるブレーキ液圧Pに基づいて目標液圧Poを設定する場合の係数となり、目標液圧Poは下記の式2により算出される。
Po=K×(昇圧マップによるブレーキ液圧P) …(式2)
【0051】
先ず、ブレーキペダル2の踏み込み初期の目標ゲインK1を求める。係数aを、ブレーキペダル2を踏み込んだ制動開始時の車速Vに応じて図5のマップから求める。なお、係数aは、今回の制動中においてその値が保持され、ビルドアップ制御部132によるビルドアップ制御に至るまで保持される固定値である。また、係数bを、踏み込み初期のペダルストローク量Sに応じて図4のマップから求めた制動開始時のブレーキ液圧Pを用い、図6のマップから求める。また、係数cを、制動開始時のブレーキ液圧Pを用い、かつ制動開始時の車速Vに応じて図5のマップから求める。
【0052】
このようにしてそれぞれ求められた各係数a・b・cを用いて上記式1から初期の目標ゲインK1(=a×b×c)を求める。この初期の目標ゲインK1は、図7のK1で示される曲線のようになる。目標ゲインK1は、制動開始時の係数aを1制動中は保持することで、図に示されるように低速側から高速に至るほど漸増し、基準車速Vdで1となり、基準車速Vdより低速側で1以下であり、基準車速Vdより高速側で略1である。
【0053】
これにより、制動開始初期のブレーキ液圧Pの発生を、ペダルストローク量Sに応じた値に、さらに車速Vに応じた適切な値にすることができ、踏み込み初期の減速度の出方を車速によらず略一定にし、安心感がありかつコントロールし易い制動を実現し得る。
【0054】
次に、ブレーキペダル2の踏み込み時の目標ゲインK2について説明する。制動中に、第2係数(b・c)をブレーキ液圧Pに応じて変化させることで、踏み込み時の目標ゲインK2は、式1により図8に示されるようになる。この踏み込み時の目標ゲインK2は、ブレーキ液圧Pが低い側で1の近傍であり、基準車速Vdではブレーキ液圧Pの変化にかかわらず1を維持し、それより高速側ではブレーキ液圧Pが高くなるほど高くなり、低速側ではブレーキ液圧Pが高くなるほど低くなる。
【0055】
これにより、制動開始時のペダルストローク量S(ブレーキ液圧P)に対して車速Vに応じたゲインの変更を行うことができ、特に低速側でゲインが小さくなることからペダルストローク量Sに対する減速度の出方を緩やかなものにすることができる。このようにして、踏み込み時のコントロール性を向上し得るとともに、1制動中にブレーキ液圧Pに応じて図のように変化させることから、減速により希望する車速に近付くにつれてペダルストローク量Sを戻す(ブレーキ液圧Pを低くする)場合にゲインが1に近付くため、ペダルストローク量Sに応じた減速を行うことができる。
【0056】
次に、ビルドアップゲインとしての目標ゲインK3について説明する。制動中に、第2係数(b・c)を車速Vに応じて変化させることで、式1により、上記図7の目標ゲインK1が、図9に示されるビルトアップの目標ゲインK3のようになる。このビルトアップの目標ゲインK3は、標準車速Vdより低速側では1より大きく、高速側では1より小さいとともに、低速側では低速になるほど大きく増大し、高速側では高速になるほど緩やかに低下する。また、ブレーキ液圧Pの違いによる目標ゲインK3は、低速側ではブレーキ液圧Pが高くなるほど小さく、高速側ではブレーキ液圧Pが高くなるほど1に近付く曲線となる。
【0057】
これにより、例えばブレーキペダル2を一定量踏み込んだ状態で減速させる場合に、車速Vが低下していくにつれて目標ゲインK3が増大していくことから、ブレーキ装置の摩擦係数の低下により制動後期で制動力が落ちるような場合でも、ブレーキ液圧Pを増大させるビルドアップ制御を行うことができ、減速時のビルドアップによる安心感が得られる。
【0058】
本発明によれば、制動時に昇圧マップから求めるブレーキ液圧Pから目標液圧を設定するための係数としての目標ゲインKを式1により算出することから、各係数a・b・cを用いた好適なビルドアップ制御を行うことができる。
【0059】
図10(a)は、制動時の減速度の変化を、本発明(図の実線)と、従来例としてのブレーキストロークSから求めたブレーキ液圧Pによる制御(図の二点鎖線)とを比較したものであり、タイミングT1で制動を開始し、ブレーキペダル2の踏み込みをタイミングT2で一定にし、タイミングT3から踏み戻した場合である。従来例のものでは車速Vによらず一律にペダルストローク量Sに応じたブレーキ液圧Pにより減速開始するが、本発明によれば制動開始時の車速Vを考慮するため(係数a)、車速Vが低いほどゲインが小さくなり、制動初期の減速度Gの出方が従来例の場合に対して抑制され、穏やかに上昇する。これにより、特に極低速(駐車時など)における制動操作においてブレーキペダルを強めに踏み込んでしまっても、滑らかな制動力の発生となり、急停止などを抑制し得る。なお、高速の場合には、係数aのゲインは高く、制動力の効き始めを早めて制動時の減速効果に対する信頼感を確保し得る。
【0060】
制動操作中では、ブレーキ液圧Pに応じた係数bによるゲインの効果が発揮されるが、係数bは、全車速域においてブレーキ液圧Pが高いほどゲイン1に近付くようになっている。この場合、ブレーキペダル2を大きく踏み込む方向に対してそのペダルストローク量Sの変化に対してゲインが小さくなるため、踏み込み量の変化に対する目標液圧の変化が穏やかになる。これにより、制動操作中のコントロール性を向上し得る。
【0061】
制動後期では、車速Vの低下に伴ってゲインが高くなる係数cにより、目標ゲインK3が増加率を高めつつ増加するため、図10(b)に示されるように、車速Vの低下に伴って減速度Gが増加する。図では、ペダルストローク量Sを一定にしたままの場合に、減速度が一定の場合に対して任意の車速V1で減速度がΔG増加する状態が示されている。このように、ペダルストローク量Sを一定のままにして制動操作を行った場合に、低車速になるほど減速度を増加することができるため、良好なビルドアップ効果を奏することができる。
【0062】
このようなビルドアップ制御により、制動操作時に運転者が減速度の低下を感じてブレーキペダル2を踏み増すという煩わしさを軽減することができるばかりでなく、軽い操作力で余裕をもって減速させることができる。さらに、極低速時などにおいてペダルストローク量Sを大きくするように踏み込んでしまっても、その場合には急激な減速度の発生を抑制し得ることから、同乗者が不快感を抱くことがない。
【0063】
以上、本発明を、その好適実施形態の実施例について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。上記実施の形態では係数を用いたが、係数に変えて予め設定されたマップでもよく、その場合でも同様の制御が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 車両用ブレーキ装置
2 ブレーキペダル(制動操作部材)
4 スレーブシリンダ(電動アクチュエータ)
124 ペダル位置センサ(操作量検出手段)
126 車輪速センサ(車速を検出する手段)
131 液圧発生制御部(液圧発生手段)
132 ビルドアップ制御部(ビルドアップ制御手段)
133 係数設定部(ビルドアップ制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10