(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
12質量%〜28質量%のクロム、1.8質量%〜3.0質量%のアルミニウム、1.0質量%〜15質量%の鉄、0.01質量%〜0.5質量%のケイ素、0.005質量%〜0.5質量%のマンガン、0.01質量%〜0.20質量%のイットリウム、0.02質量%〜0.60質量%のチタン、0.01質量%〜0.2質量%のジルコニウム、0.0002質量%〜0.05質量%のマグネシウム、0.0001質量%〜0.05質量%のカルシウム、0.03質量%〜0.11質量%の炭素、0.003質量%〜0.05質量%の窒素、0.0005質量%〜0.008質量%のホウ素、0.0001質量%〜0.010質量%の酸素、0.001質量%〜0.030質量%のリン、最大0.010質量%の硫黄、最大0.5質量%のモリブデン、最大0.5質量%のタングステン、残りのニッケル、および通常の不可避的不純物を有するニッケル−クロム−アルミニウム−鉄合金の電極材料としての使用において、以下の関係が満たされていなければならない、前記使用:
0 < 7.7C−x・a < 1.0 (2)
PN > 0である場合、 a = PN (3a)
もしくは、PN ≦ 0である場合、a = 0 (3b)
且つ、x = (1.0Ti+1.06Zr)/(0.251Ti+0.132Zr) (3c)
その際、PN = 0.251Ti+0.132Zr−0.857N (4)
且つ、Ti、Zr、N、Cは、該当の元素の質量%での濃度である。
イットリウムが全部または部分的に、0.001%〜0.2%のランタンによって、および/または0.001〜0.2%のセリウムによって置き換えられている、請求項1から8までのいずれか1項に記載の使用。
【技術分野】
【0001】
本発明は抜群の高温耐食性、良好な耐クリープ性、および改善された加工性を有するニッケル−クロム−鉄−アルミニウム合金の使用に関する。
【0002】
種々のニッケル含有率、クロム含有率およびアルミニウム含有率を有するオーステナイトのニッケル−クロム−鉄−アルミニウム合金は、長年、炉構造物において、および化学プロセス産業において使用されている。この使用のために、1000℃を上回る温度でも良好な高温耐食性および良好な耐熱性/耐クリープ性が必要である。
【0003】
一般に、表1に記載される合金の高温耐食性は、クロム含有率の増加に伴って上昇することに注目すべきである。それらの合金の全ては、その下にある多かれ少なかれ閉じたAl
2O
3層と共に、クロム酸化物層(Cr
2O
3)を形成する。非常に酸素親和性の高い元素、例えばYまたはCeをわずかに添加すると、耐酸化性が改善される。クロム含有率は、保護層の構築のための用途分野における使用の間に、徐々に消費される。従って、より高いクロム含有率によって材料の寿命が長くなり、なぜなら、保護層を形成する元素であるクロムの含有率がより高いことにより、Cr含有率が臨界値未満であり且つCr
2O
3以外の他の酸化物(例えば鉄含有およびニッケル含有酸化物である)が形成される時点が引き延ばされるからである。高温耐食性のさらなる上昇は、アルミニウムおよびケイ素の添加によって達成される。それらの元素は、公知の最低含有率から、クロム酸化物層の下で閉じた層を形成し、且つクロムの消費を軽減する。
【0004】
上記の温度での耐熱性/耐クリープ性は、とりわけ、高い炭素含有率によって改善される。
【0005】
この合金についての例を表1に列挙する。
【0006】
N06025、N06693またはN06603などの合金は、高いアルミニウム含有率に基づき、N06600、N06601またはN06690と比較して抜群の耐食性であることが知られている。N06025またはN06603などの合金も、高い炭素含有率に基づき、1000℃を上回る温度でさえも抜群の耐熱性/耐クリープ性を示す。ただし、例えばこの高いアルミニウム含有率によって加工性、例えば変形性および溶接性が阻害され、その際、アルミニウム含有率が高いほどその阻害は大きい(N06693)。同様に、ケイ素の量が多くなると、ニッケルと共にあまり溶解しない中間相が形成される。N06025については、例えば、特殊な溶接ガス(2%の窒素を有するAr)を使用することによって溶接性を高めることができる(Nicrofer 6025 HTのデータシート、ThyssenKrupp VDM)。N06025およびN06603の高い炭素含有率は、高い含有率の一次炭化物をもたらし、それは、例えば大きな変形の際、例えば深絞り加工を行う場合、一次炭化物に起因するクラックの形成をもたらす。同様のことはシームレス管を製造する際にも生じる。ここでもまた、殊にN06025の場合、炭素含有率の増加に伴うこの問題は深刻化する。
【0007】
EP0508058号A1は、(質量%で)C 0.12%〜0.3%、Cr 23%〜30%、Fe 8%〜11%、Al 1.8%〜2.4%、Y 0.01%〜0.15%、Ti 0.01%〜1.0%、Nb 0.01%〜1.0%、Zr 0.01%〜0.2%、Mg 0.001%〜0.015%、Ca 0.001%〜0.01%、N 最大0.03%、Si 最大0.5%、Mn 最大0.25%、P 最大0.02%、S 最大0.01%、Ni 残りからなり、溶融による不可避の不純物を含む、オーステナイトのニッケル−クロム−鉄合金を開示している。
【0008】
EP0549286号は、55%〜65%のNi、19%〜25%のCr、1%〜4.5%のAl、0.045%〜0.3%のY、0.15%〜1%のTi、0.005%〜0.5%のC、0.1%〜1.5%のSi、0%〜1%のMnおよび少なくとも合計0.005%のMg、Ca、Ceを含有する群からの少なくとも1つの元素、合計0.5%未満のMg+Ca、1%未満のCe、0.0001%〜0.1%のB、0%〜0.5%のZr、0.0001%〜0.2%のN、0%〜10%のCo、残りの鉄および不純物を含む、高温耐性Ni−Cr−合金を開示している。
【0009】
DE60004737号T2によって、0.1%以下のC、0.01%〜2%のSi、2%以下のMn、0.005%以下のS、10%〜25%のCr、2.1%〜4.5%以下のAl、0.055%以下のN、合計0.001%〜1%のB、Zr、Hfの元素の少なくとも1つ、(ここで、前記の元素は以下の含有率で存在できる: B 0.03%以下、Zr 0.2%以下、Hf 0.8%未満)、Mo 0.01%〜15%、W 0.01%〜9%(ここで、Mo+Wの合計の含有率は2.5〜15%であってよい)、Ti 0%〜3%、Mg 0%〜0.01%、Ca 0%〜0.01%、Fe 0%〜10%、Nb 0%〜1%、V 0%〜1%、Y 0%〜0、1%、La 0%〜0.1%、Ce 0%〜0.01%、Nd 0%〜0.1%、Cu 0%〜5%、Co 0%〜5%、残り ニッケルを含む、耐熱性ニッケル基合金が公知になった。MoおよびWについては、以下の式が満たされなければならない:
2.5 ≦ Mo+W ≦ 15 (1)
本発明の基礎を成す課題は、十分に高いニッケル−クロム−およびアルミニウム含有率の際に、
・ 良好な加工性、即ち変形性、深絞り性および溶接性、
・ N06025と類似した良好な耐食性
・ 良好な耐熱性/耐クリープ性
を有する合金を考案することである。
【0010】
前記の課題は、12質量%〜28質量%のクロム、1.8質量%〜3.0質量%のアルミニウム、1.0質量%〜15質量%の鉄、0.01質量%〜0.5質量%のケイ素、0.005質量%〜0.5質量%のマンガン、0.01質量%〜0.20質量%のイットリウム、0.02質量%〜0.60質量%のチタン、0.01質量%〜0.2質量%のジルコニウム、0.0002質量%〜0.05質量%のマグネシウム、0.0001質量%〜0.05質量%のカルシウム、0.03質量%〜0、11質量%の炭素、0.003質量%〜0.05質量%の窒素、0.0005質量%〜0.008質量%のホウ素、0.0001質量%〜0.010質量%の酸素、0.001質量%〜0.030質量%のリン、最大0.010質量%の硫黄、最大0.5質量%のモリブデン、最大0.5質量%のタングステン、残りのニッケル、および通常の不可避的不純物を有するニッケル−クロム−アルミニウム−鉄合金の電極材料としての使用によって解決され、その際、以下の関係が満たされなければならない:
0 < 7.7C−x・a < 1.0 (2)
PN > 0である場合、a = PN (3a)
もしくは、PN ≦ 0である場合、a = 0 (3b)
且つ、x = (1.0Ti+1.06Zr)/(0.251Ti+0.132Zr) (3c)
その際、PN = 0.251Ti+0.132Zr−0.857N (4)
且つ、Ti、Zr、N、Cは、該当の元素の質量%での濃度である。
【0011】
本発明の対象の有利な態様は、従属の下位請求項に記載される。
【0012】
ワイヤとして、特にガソリンエンジンの点火プラグ用の電極材料として前記合金を使用することが好ましい。
【0013】
クロム元素についての範囲は12%〜28%に及び、その際、用途に応じてクロム含有率は以下のとおりであってよく、且つ、用途に応じて合金内で調節する。
【0014】
好ましい範囲を以下のとおりに記載する:
・ 16%〜28%
・ 20%〜28%
・ 24%超〜27%
・ 19%〜24%。
【0015】
アルミニウム含有率は、1.8%〜3.0%であり、この場合もまた、合金の使用分野に応じてアルミニウム含有率を以下のとおりにすることができる:
・ 1.9%〜2.9%
・ 1.9%〜2.5%
・ 2.0%超〜2.5%。
【0016】
鉄含有率は1.0%〜15%であり、その際、用途分野に応じて、その範囲内の定義された含有率を調節することができる:
・ 1.0%〜11.0%
・ 1.0%〜7.0%
・ 7.0%〜11.0%。
【0017】
ケイ素含有率は0.01%〜0.50%である。好ましくは、その範囲内でSiを以下のとおりに合金内で調節することができる:
・ 0.01%〜0.20%
・ 0.01%〜0.10%未満。
【0018】
同じことがマンガン元素についてもあてはまり、マンガンは合金内に0.005%〜0.5%で含有されてよい。選択的に、以下の範囲も考えられる:
・ 0.005%〜0.20%
・ 0.005%〜0.10%
・ 0.005%〜0.05%未満。
【0019】
本発明の対象は、好ましくは材料特性を本質的に含有率0.01〜0.20%でのイットリウム元素の添加によって調節できることに由来する。好ましくは、その範囲内でYを以下のとおりに合金内で調節することができる:
・ 0.01%〜0.15%
・ 0.02%〜0.15%
・ 0.01%〜0.10%
・ 0.02%〜0.10%
・ 0.01%〜0.045%未満。
【0020】
選択的に、イットリウムを全部または部分的に
・ 0.001%〜0.20%のランタンおよび/または0.001%〜0.20%のセリウム
で置き換えることもできる。
【0021】
好ましくは、それぞれの置換物をその範囲内で以下のとおりに、合金内で調節することができる:
・ 0.001%〜0.15%。
【0022】
チタン含有率は0.02%〜0.60%である。好ましくは、その範囲内でTiを以下のとおりに合金内で調節することができる:
・ 0.03%〜0.30%
・ 0.03%〜0.20%。
【0023】
選択的に、チタンを全部または部分的に
・ 0.001%〜0.60%のニオブ
で置き換えることもできる。
【0024】
好ましくは、前記の置換物をその範囲内で以下のとおりに合金内で調節することができる:
0.001%〜0.30%。
【0025】
選択的に、チタンを全部または部分的に
・ 0.001%〜0.60%のタンタル
で置き換えることもできる。
【0026】
好ましくは、前記の置換物をその範囲内で以下のとおりに合金内で調節することができる:
0.001%〜0.30%。
【0027】
ジルコニウム含有率は0.01%〜0.20%である。好ましくは、Zrをその範囲内で以下のとおりに合金内で調節することができる:
・ 0.01%〜0.15%
・ 0.01%〜0.08%
・ 0.01%〜0.06%。
【0028】
選択的に、ジルコニウムを全部または部分的に
・ 0.001%〜0.2%のハフニウム
で置き換えることもできる。
【0029】
マグネシウムも0.0002%〜0.05%の含有率で含有されている。好ましくは、この元素は以下のとおりに合金内で調節される可能性がある:
・ 0.0005%〜0.03%。
【0030】
該合金はさらに、カルシウムを0.0001%〜0.05%、殊に0.0005%〜0.02%の含有率で含有する。
【0031】
該合金は0.03%〜0.11%の炭素を含有する。好ましくは、これをその範囲内で以下のとおりに合金内で調節することができる:
・ 0.04%〜0.10%。
【0032】
このことは同様に、0.003%〜0.05%の含有率で含有される窒素元素についてもあてはまる。好ましい含有率を以下に示す:
・ 0.005%〜0.04%。
【0033】
ホウ素および酸素元素は、以下のとおり、合金内で含有される:
・ ホウ素 0.0005%〜0.008%
・ 酸素 0.0001%〜0.010%。
【0034】
好ましい含有率を以下のとおりに示すことができる:
・ ホウ素 0.0015%〜0.008%。
【0035】
該合金はさらに、リンを0.001%〜0.030%の含有率で含有し、殊に0.002%〜0.020%含む。
【0036】
硫黄元素を以下のとおり、合金内にもたらすことができる:
・ 硫黄 最大0.010%。
【0037】
モリブデンおよびタングステンは、個々にまたは組み合わせて、合金内でそれぞれ最大0.50%の含有率で含有されてよい。好ましい含有率を以下のとおりに示すことができる:
・ Mo 最大0.20%
・ W 最大0.20%
・ Mo 最大0.10%
・ W 最大0.10%
・ Mo 最大0.05%
・ W 最大0.05%。
【0038】
Ti、Zr、NおよびCの間の相関を記載する下記の関係が満たされていなければならない:
・ 0 < 7.7C−x・a < 1.0 (2)
PN > 0である場合、 a = PN (3a)
もしくは、PN ≦ 0である場合、a = 0 (3b)
且つ、x = (1.0Ti+1.06Zr)/(0.251
*Ti+0.132Zr) (3c)
その際、PN = 0.251Ti+0.132Zr−0.857N (4)
且つ、Ti、Zr、N、Cは、該当の元素の質量%での濃度である。
【0039】
・ 好ましい範囲を、下記によって調節できる:
0 << 7.7C−x・a < 0.90 (2)
Zrが全部または部分的にHfによって置き換えられる場合、式3cおよび4は以下のとおりに変更される:
・ x=(1.0Ti+1.06Zr+0.605Hf)/(0.251
*Ti+0.132Zr+0.0672Hf) (3c−1)
その際、PN=0.251Ti+0.132Zr+0.0672Hf−0.857N (4−1)
且つ、Ti、Zr、Hf、N、Cは、該当の元素の質量%での濃度である。
【0040】
さらに、該合金は0.01%〜5.0%のコバルトを含有でき、それをさらに、以下のとおりに限定することができる:
・ 0.01%〜2.0%
・ 0.1%〜2.0%
・ 0.01%〜0.5%。
【0041】
さらに、該合金は最大0.1%のバナジウムを含有できる。
【0042】
最後に、不純物についてさらに銅、鉛、亜鉛およびスズの元素が以下に示されるとおりの含有率でもたらされることがある:
Cu 最大0.50%
Pb 最大0.002%
Zn 最大0.002%
Sn 最大0.002%
さらに、銅含有率を以下のとおりに限定することができる:
Cu 0.015%未満。
【0043】
本発明による合金は、好ましくは開放系で溶融され(offen erschmolzen)、次にVODまたはVLF装置内で処理される。塊状での鋳造もしくは連続鋳造の後、場合により900℃〜1270℃で2時間〜70時間の中間アニールを用いて、該合金を所望の半製品型に熱間成形する。その間または最後に、場合により(何度も)清浄化のために、材料の表面の化学的研摩および/または機械的研摩をすることができる。熱間成形終了後に、場合により変形度98%までの冷間成形で所望の半製品型にすることができ、その際、場合により800℃〜1250℃で0.1分〜70時間の間、場合により保護ガス、例えばアルゴンまたは水素下での中間アニールを行い、次に空気、動きのあるアニール雰囲気または水浴中で冷却を行う。その後、温度範囲800〜1250℃でのアニールを0.1分〜70時間、場合により保護ガス、例えばアルゴンまたは水素化で行い、次に空気、動きのあるアニール雰囲気または水浴中で冷却を行う。場合によりその間に、材料表面の化学的洗浄および/または機械的洗浄を行うことができる。
【0044】
本発明による合金を、製品形において、バンド、殊に厚さ100μm〜4mmのバンド、板、殊に厚さ1mm〜70mmの板、ロッド、殊に厚さ10mm〜500mmのロッド、およびワイヤ、殊に厚さ0.1mm〜15mmのワイヤに良好に製造し且つ使用することができる。
【0045】
これらの製品形は、平均粒径4μm〜600μmで製造される。好ましい範囲は10μm〜200μmである。
【0046】
本発明による合金は、その抜群の耐食性およびその良好な変形性に基づき、例えば内燃機関における点火部品内の電極材料としての、殊にガソリンエンジンの点火プラグとしての使用にも適している。それは、貴金属チップを備えた電極、例えば貴金属点火プラグにおける担体材料としての使用のためにも特に良く適している。
【0047】
本発明による合金は、深絞り加工品の製造のために良く適している。
【0048】
実施試験:
変形性をDIN EN ISO 6892−1に準拠する引張試験において室温で測定する。その際、耐力R
p0.2、引張強さR
m、および破断までの延びAを測定する。延びAは、破断された試料において原標点距離L
0の延び分から測定される:
A = (L
U−L
0)/L
0 100% = ΔL/L
0 100%
[式中、L
Uは破断後の標点距離である]。
【0049】
標点距離に応じて、破断延びは下記の添字を備える:
例えば、A
5については、前記標点距離 L
0=5・d
0 (前記d
0=円形の試料の元の直径)である。
【0050】
円形の試料において、測定範囲直径6mmおよび標点距離L
0 30mmを用いて試験を実施した。サンプル採取は半製品の変形方向に対して横向きに行われた。変形速度はR
p0.2の際に10MPA/sであり且つR
mの際に6.7×10
-3 1/s(40%/分)であった。
【0051】
室温での引張試験における延びAの大きさを、変形性についての尺度として取得することができる。良好に加工可能な材料は、少なくとも50%の延びを有するべきである。
【0052】
ここでは、
溶接性を熱クラックの形成範囲において評価する(DVS作業標準1004−1を参照)。熱クラック形成のリスクが高いほど、材料の溶接性が悪い。熱クラックの発生のしやすさは、修正されたバレストレイン法であるトランス・バレストレイン試験(MVT試験)を用いて、ドイツ連邦材料試験研究所において試験した(DVS作業標準1004−1を参照)。MVT試験に際しては、100mm×40mm×10mm長の寸法の材料試料の上面に、完全に機械的に、TIG(WIG)接合を一定の進行速度で施与する。アークが試料の中央を通過する際、試料がヨーク(Gesenk)によって既知の半径を有する治具に沿って曲げられることによって、試料上に定義された曲げ歪みがもたらされる。曲げている際に、MVT試料上で、限局的な試験領域において熱クラックが発生する。測定のために、試料を溶接方向に対して縦に曲げる(バレストレイン)。試験は、1%〜4%の曲げ歪み、2mm/sのヨーク速度で、7.5kJ/cmの引き延ばしエネルギーを用い、その都度アルゴン5.0および3%の窒素を有するアルゴン下で実施された。熱クラック耐性は以下のとおりに定量化される: 光学顕微鏡において倍率25倍で、試料上で可視である全ての凝固クラックおよび再溶融クラックの長さを合計する。同様に、クラックを、変形性の低下(DDC=延性低下クラック; Ductility Dip Cracks)によって算出した。この結果によって、材料を以下のとおり、「熱クラック耐性」、「熱クラック傾向の増加」、「熱クラックの危険」の分類に区分する。
【0053】
【表1】
【0054】
MTV試験の際に「熱クラック耐性」および「熱クラック傾向の増加」の範囲にある全ての材料を、溶接可能として次の検査を適用した。
【0055】
高温の際の耐食性を、空気中、1100℃での酸化試験において測定し、その際、試験を96時間ごとに中断し、且つ、酸化による試料の質量の変化を測定した(正味質量の変化m
N)。比(正味)質量変化は、試料表面に関する質量変化である。各々のバッチにつき3つの試料を曝露した。
【0056】
耐熱性を、DIN EN ISO 6892−2に準拠する加熱引張試験において測定する。その際、耐力R
p0.2、引張強さR
m、および破断までの延びAを、室温での引張試験(DIN EN ISO 6892−1)と同様に測定する。
【0057】
円形の試料において、測定範囲直径6mmおよび原標点距離L
0 30mmで試験を実施した。サンプル採取は半製品の変形方向に対して横向きに行われた。変形速度はR
p0.2の際に8.33×10
-5 1/s(0.5%/分)であり且つR
mの際に8.33×10
-4 1/s(5%/分)であった。
【0058】
試料を室温で引張試験器内に設置し、且つ、引張力を伴う負荷をかけずに所望の温度に加熱する。試験温度に達した後、負荷をかけずに、試料を1時間(600℃)もしくは2時間(700℃〜1100℃)、温度平衡になるように保持する。その後、引張力を用いて、所望の引き延ばし速度が保持されるように試料に負荷をかけて、試験を開始する。
【0059】
耐クリープ性を、低速引張試験(SSRT=Slow Strain Rate Test)によって測定する。このために、DIN EN ISO 6892−2による加熱引張試験を、1.0×10
-6 1/sの非常に低い変形速度で実施する。この引き延ばし速度は、既にクリープ速度の範囲内であり、低速引張試験からの耐力および殊に引張強度の比較を用いて、耐クリープ性に関する材料のランク付けを行うことができる。
【0060】
耐力R
p0.2、引張強さR
m、および破断までの延びAを、室温での引張試験(DIN EN ISO 6892−1)の際に記載された方法と類似して測定する。試験時間を短縮するために、R
mが達せられた場合には約30%の延びの後に、そうでなければ延びAがR
mを超過した後に、試験を中止した。円形の試料において、測定範囲直径約8mmおよび標点距離L
0 40mmで試験を実施した。サンプル採取は半製品の変形方向に対して横向きに行われた。
【0061】
試料を室温で引張試験器内に設置し、且つ、引張力を伴う負荷をかけずに所望の温度に加熱する。試験温度に達した後、負荷をかけずに、試料を2時間(700℃〜1100℃)、温度平衡になるように保持する。その後、引張力を用いて、所望の引き延ばし速度が保持されるように試料に負荷をかけて、試験を開始する。
【0062】
実施例:
表2aおよび2bに、調査された合金の組成を示す。
【0063】
合金N06025およびN06601は従来技術からの合金である。本発明による合金は、「E」で示されている。合金N06025およびN06601の分析は、表1に記載される範囲である。本発明による合金「E」は、N06025とN06601との間にあるC含有率を有する。表2には、さらに、式2および4によるPNおよび7.7C−x・aが記載されている。PNは表2a内の全ての合金についてゼロより大きい。7.7C−x・aは、本発明による合金については0.424であり、まさに0 < 7.7C−x・a < 1.0の好ましい範囲内である。
【0064】
従来技術による合金N06025については、7.7C−x・aが1.0より大きく、従って大きすぎる。
【0065】
従来技術による合金N06601については、7.7C−x・aがゼロ未満であり、従って小さすぎる。
【0066】
これらの例示的なバッチについて、以下の特性が比較される:
・ 室温での引張試験による変形性
・ MVT試験による溶接性
・ 酸化試験による耐食性
・ 加熱引張試験による耐熱性
・ 低速引張試験からの結果のランク付けによる耐クリープ性。
【0067】
表3は室温での引張試験の結果を示す。本発明による合金「E」は、80%を上回る延びを有し、N06025およびN06601よりもはるかに大きい延びを示す。このことは、N06025については、両方の例示的なバッチ163968および160483の0.17%という高い炭素含有率に基づき意外である。両方のバッチは、50%より少ない延びにより、不充分な変形性を示す。しかし、N06601についてはこのことは注目に値し、なぜなら、バッチ314975および156656は炭素含有率0.045もしくは0.053%を有し、それは本発明による合金の炭素含有率である0.075%よりも明らかに低く、50%より大きな伸びを有することが期待されるからである。このことは、0 < 7.7C−x・a < 1.0という境界についての範囲を保持する場合に従来技術を上回る変形性がもたらされることを示す。
【0068】
表4はMVT試験の結果を示す。N06601は、アルゴン、および3%の窒素を有するアルゴンの2種類のガスを用いて溶接可能であり、なぜなら、1%の曲げ歪みについて全ての測定されたクラック長の合計は7.5mm未満であり、且つ、4%の曲げ歪みについて全ての測定されたクラック長の合計は30mmであるからである。N06025および本発明による合金「E」については、測定されたクラック長の合計は7.5mmより大きい(1%の曲げ歪み)、もしくは30mm(4%の曲げ歪み)であり、従って、これらの合金はアルゴンを用いて溶接可能ではない。しかし、3%の窒素を有するアルゴンについては、測定されたクラック長の合計は明らかに7.5mm未満である(1%の曲げ歪み)か、もしくは30mm(4%の曲げ歪み)であり、従ってN06025および本発明による合金「E」は、3%の窒素を有するアルゴンを用いて溶接することができる。
【0069】
図1は、空気中1100℃での酸化試験の結果を示す。試料の比(正味)質量変化(各々のバッチの3つの試料の平均)の、曝露時間依存性がプロットされている。N06601のバッチは開始時には負の比質量変化を示し、そのことは、クロム酸化物の多くの剥離および蒸発によって引き起こされる。N06025および本発明による合金「E」の場合、開始時には質量変化のわずかな上昇を示し、次に時間と共に非常に穏やかに低下する。このことは、両方の合金が1100℃で低下した酸化速度およびわずかのみの剥離を有することを示す。本発明による合金「E」の挙動は、必要とされるとおり、N06025と同等である。
【0070】
表5は、600℃、700℃、800℃、900℃および1100℃での加熱引張試験の結果を示す。R
p0.2の場合もR
mの場合も、予想通り、N06025が最高の値を示し、N06601が最低の値を示す。本発明による合金「E」の値はその間にあり、その際、800℃では、R
p0.2の場合もR
mの場合も本発明による合金「E」の値はN6025の値よりも大きい。加熱引張試験の場合の延びは、全ての合金について十分に大きい。1100℃では、測定精度に基づき、本発明による合金「E」とN06601との間の違いはもはや確認されない。
【0071】
表6は、700℃、800℃および1100℃での低速引張試験の結果を示す。R
p0.2の場合もR
mの場合も、予想通り、N06025が最高の値を示し、N06601が最低の値を示す。本発明による合金「E」の値はR
p0.2についてはその間にあり、700℃および800℃の場合のR
mについてはN06025の場合より良好もしくはほぼ同程度に良好である。低速引張試験の場合の延びは、全ての合金について十分に大きい。1100℃では、測定精度に基づき、本発明による合金「E」とN06601との間の違いはもはや確認されない。
【0072】
700℃および800℃で、N06025および本発明による合金の低速引張試験によるR
mは同等である、即ち、この温度でN06025の耐クリープ性と本発明による合金「E」の耐クリープ性とは同等であると予測することができる。このことは、好ましい範囲である0 < 7.7C−x・a < 1.0の合金について、R
mはNicrofer6025の耐クリープ性と同等の耐クリープ性であり、同時に、N06025と比べて本発明による合金「E」の加工性がより良好であることを示す。
【0073】
本発明による合金「E」について特許請求される限界値は各々、以下のとおり説明される:
合金についてのコストは、鉄含有率の低下に伴い上昇する。1%未満では、前記のコストは過大に上昇し、なぜなら、特殊な原材料を使用しなければならないからである。従って、1%の鉄が費用上の理由から下限としてみなされなければならない。
【0074】
鉄含有率の上昇は、殊にクロムおよびアルミニウム含有率が高い場合に、相の安定性(脆性相の形成)を低下させる。従って、本発明による合金については15%のFeが合理的な上限である。
【0075】
低すぎるCr含有率は、Cr濃度が非常に速く臨界値より下に落ちることを意味する。従って、12%のCrがクロムについての下限である。高すぎるCr含有率は、合金の加工性を悪化させる。従って、28%のCrが上限としてみなされるべきである。
【0076】
クロム酸化物層の下のアルミニウム酸化物層の形成は、酸化速度を低下させる。1.8%未満のAlは、アルミニウム酸化物層がその作用を完全に発揮するためには不充分である。高すぎるAl含有率は、合金の加工性を阻害する。従って、3.0%のAl含有率が上限となる。
【0077】
Siは合金の製造に際して必要とされる。従って、0.01%の最低含有率が必要である。反対に、高すぎる含有率はまた、合金の加工性を阻害する。従って、Si含有率は0.5%に制限される。
【0078】
最低含有率0.005%のMnが、加工性の改善のために必要とされる。マンガンは0.5%に限定され、なぜなら、この元素は同様に耐酸化性を低下させるからである。
【0079】
既に言及されたとおり、酸素親和性の元素を添加することで耐酸化性が改善される。それらは、酸化物層内に組み込まれ且つそこで粒界において酸素の拡散経路をブロックすることによって耐酸化性の改善を行う。
【0080】
Yの耐酸化性の向上作用を保持するためには、最低含有率0.01%のYが必要とされる。その上限はコスト上の理由から0.20%に設定される。
【0081】
Yを全部または部分的にCeおよび/またはLaで置き換えることができ、なぜなら、それらの元素もYと同様に耐酸化性を高めるからである。その置き換えは0.001%の含有率から可能である。その上限はコスト上の理由からCe0.20%もしくはLa0.20%に設定される。
【0082】
チタンは高温強度を高める。効果を達成するためには、少なくとも0.02%が必要とされる。0.6%から酸化挙動が悪化することがある。
【0083】
チタンを全部または部分的に、ニオブで置き換えることができ、なぜなら、ニオブも高温強度を高めるからである。その置き換えは0.001%から可能である。比較的高い含有率は、コストを非常に上昇させる。従って、その上限は0.6%に決定される。
【0084】
チタンを全部または部分的に、タンタルで置き換えることもでき、なぜなら、タンタルも高温強度を高めるからである。その置き換えは0.001%から可能である。比較的高い含有率は、コストを非常に上昇させる。従って、その上限は0.6%に決定される。
【0085】
Zrの高温強度および耐酸化性の向上作用を保持するためには、最低含有率0.01%のZrが必要とされる。その上限はコスト上の理由からZr0.20%に設定される。
【0086】
Zrを必要に応じて全部または部分的にHfで置き換えることができ、なぜなら、この元素もZrと同様に高温強度および耐酸化性を高めるからである。その置き換えは0.001%の含有率から可能である。その上限はコスト上の理由からHf0.20%に設定される。
【0087】
非常に少ないMg含有率で既に、硫黄の脱離によって加工性は改善され、それにより、低溶融NiS共融混合物の発生が回避される。従って、Mgについては、0.0002%の最低含有率が必要である。高すぎる含有率の場合、Ni−Mg金属間化合物層が発生することがあり、それはまた、加工性を明らかに悪化させる。従って、Mg含有率は0.05%に制限される。
【0088】
Mgと同様に、非常に少ないCa含有率で既に、硫黄の脱離によって加工性は改善され、それにより、低溶融NiS共融混合物の発生が回避される。従って、Caについては、0.0001%の最低含有率が必要である。高すぎる含有率の場合、Ni−Ca金属間化合物層が発生することがあり、それはまた、加工性を明らかに悪化させる。従って、Ca含有率は0.05%に制限される。
【0089】
最低含有率0.03%のCが、良好な耐クリープ性のために必要とされる。Cは0.11%に限定され、なぜなら、この元素は加工性を低下させるからである。
【0090】
最低含有率0.003%のNが必要であり、それによって材料の加工性が改善される。Nは0.05%に限定され、なぜなら、この元素は耐酸化性を低下させるからである。
【0091】
ホウ素は耐クリープを改善する。従って、少なくとも0.0005%の含有率で存在すべきである。同時に、この界面活性元素は、耐酸化性を悪化させる。従って、それは最大0.008%のホウ素に決定される。
【0092】
合金の製造性を保証するために、酸素含有率は0.010%未満でなければならない。低すぎる酸素含有率は、コストの上昇を引き起こす。従って、酸素含有率は0.0001%より上であるべきである。
【0093】
リン含有率は、0.030%未満であるべきであり、なぜなら、この界面活性元素は耐酸化性を阻害するからである。低すぎるP含有率はコストを上昇させる。従って、P含有率は0.001%以上である。
【0094】
硫黄含有率は、できるだけ低く設定されるべきであり、なぜなら、この界面活性元素は耐酸化性を阻害するからである。従って、それは最大0.010%のSに決定される。
【0095】
モリブデンは最大0.5%に限定され、なぜなら、この元素は耐酸化性を低下させるからである。
【0096】
タングステンは最大0.5%に限定され、なぜなら、この元素は同様に耐酸化性を低下させるからである。
【0097】
以下の式はC、N、Ti、Zrの、および合金における相関を記載する:
0 < 7.7C−x・a < 1.0 (2)
PN > 0である場合、 a = PN (3a)
もしくは、PN ≦ 0である場合、a = 0 (3b)
且つ、x = (1.0Ti+1.06Zr)/(0.251Ti+0.132Zr) (3c)
PN = 0.251Ti+0.132Zr−0.857N (4)
且つ、Ti、Zr、N、Cは、該当の元素の質量%での濃度である。
【0098】
7.7C−x・aが1.0より大きい場合、変形性を阻害するほど多くの一次炭化物が生じる。7.7C−x・aが0より小さい場合、耐熱性および耐クリープ性が悪化する。
【0099】
コバルトは、この合金内に5.0%まで含有されてよい。より高い含有率は耐酸化性を顕著に低下させる。低すぎるコバルト含有率はコストを上昇させる。従って、Co含有率は0.01%以上である。
【0100】
バナジウムは最大0.1%に限定され、なぜなら、この元素は耐酸化性を低下させるからである。
【0101】
銅は最大0.5%に限定され、なぜなら、この元素は耐酸化性を低下させるからである。
【0102】
Pbは最大0.002%に限定され、なぜなら、この元素は耐酸化性を低下させるからである。同じことがZnおよびSnにもあてはまる。
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
【表7】