特許第6033467号(P6033467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033467
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20161121BHJP
【FI】
   F04C18/02 311F
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-552212(P2015-552212)
(86)(22)【出願日】2013年12月9日
(86)【国際出願番号】JP2013082908
(87)【国際公開番号】WO2015087374
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2015年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】達脇 浩平
(72)【発明者】
【氏名】石園 文彦
(72)【発明者】
【氏名】角田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 祐司
【審査官】 佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−44659(JP,A)
【文献】 特開2004−308591(JP,A)
【文献】 特開平10−26088(JP,A)
【文献】 特公昭58−28433(JP,B2)
【文献】 特開平6−42473(JP,A)
【文献】 特開2003−148362(JP,A)
【文献】 特開昭59−108889(JP,A)
【文献】 特開昭62−147072(JP,A)
【文献】 実開昭62−119529(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0317276(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロールと、
前記固定スクロールと組み合わされて圧縮室を形成し、一方の面に一対の第1オルダムキー溝を有する揺動スクロールと、
前記揺動スクロールを支持し、一対の第2オルダムキー溝を有するフレームと、
一方の面に第1オルダムキー溝に摺動可能に嵌合する一対の第1オルダムキーを有し、他方の面に第2オルダムキー溝に摺動可能に嵌合する一対の第2オルダムキーを有し、前記揺動スクロールの自転を抑制するオルダムリングと、を備え、
前記オルダムリングは、前記一方の面に少なくとも一対の突起部を有し、
前記突起部は、前記オルダムリングがいた際に、前記第1オルダムキーが前記第1オルダムキー溝の2箇所で接触する前に、前記揺動スクロールの一方の面に接触する高さである
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記一対の突起部は、前記オルダムリングの、前記一対の第2オルダムキーの裏側の範囲内にそれぞれ形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記一対の突起部は、前記オルダムリングの中心から対称となる位置にそれぞれ形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記突起部は、前記オルダムリングの端側に形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記突起部は、前記揺動スクロールの一方の面との接触面が球形状である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記第1オルダムキーは四角柱形状である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記突起部は、樹脂でコーティングされている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記突起部は前記オルダムリングと一体形成されている
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項9】
前記突起部は前記オルダムリングと別部材で形成されている
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気調和装置や冷凍装置のスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスクロール圧縮機において、台板の一面に渦巻の設けられた揺動スクロールと、揺動スクロールを軸方向側に支持するフレームと、揺動スクロールに形成された一対のオルダムキー溝と、これらの溝に直交するようにフレームに形成された一対のオルダムキー溝と、前記揺動スクロールとフレームとの間に配置されるオルダムリングと、を有するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このオルダムリングの両面には、揺動スクロールまたはフレームのオルダムキー溝に摺動可能に嵌合する一対のオルダムキー、及び、突起部(凸部)が形成されている。そして、スクロール圧縮機の運転時にオルダムリングと、揺動スクロール及びフレームとが摺動するが、この突起部(凸部)によってそれらの接触面積を低減させ、摺動時の摩擦を軽減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−140776号公報(例えば、図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のような突起部では高さが不十分であるため、スクロール圧縮機の高速運転時にオルダムリングの慣性力が増加してオルダムリングが傾くことによる、オルダムキーがオルダムキー溝内の2箇所で接触することを防げなかった。そのため、オルダムキー溝内でオルダムキーの凝着摩耗が発生し、焼き付きが起きてしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたもので、オルダムキー溝内でのオルダムキーの凝着摩耗の発生を防止することができるスクロール圧縮機を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスクロール圧縮機は、固定スクロールと、前記固定スクロールと組み合わされて圧縮室を形成し、一方の面に一対の第1オルダムキー溝を有する揺動スクロールと、前記揺動スクロールを支持し、一対の第2オルダムキー溝を有するフレームと、一方の面に第1オルダムキー溝に摺動可能に嵌合する一対の第1オルダムキーを有し、他方の面に第2オルダムキー溝に摺動可能に嵌合する一対の第2オルダムキーを有し、前記揺動スクロールの自転を抑制するオルダムリングと、を備え、前記オルダムリングは、前記一方の面に少なくとも一対の突起部を有し、前記突起部は、前記オルダムリングがいた際に、前記第1オルダムキーが前記第1オルダムキー溝の2箇所で接触する前に、前記揺動スクロールの一方の面に接触する高さである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るスクロール圧縮機によれば、オルダムキーがオルダムキー溝内の2箇所で接触する前に突起部が揺動スクロールの一方の面に接触するため、オルダムキーがオルダムキー溝内の2箇所で接触することを防ぎ、凝着摩耗の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機の断面構成例を示す縦断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る揺動スクロール及びオルダムリング及びフレームの分解図(X軸方向からの視点)である。
図3】本発明の実施の形態に係る揺動スクロール及びオルダムリング及びフレームの分解図(Y軸方向からの視点)である。
図4a】本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機のオルダムリングの斜視図である。
図4b】本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機のオルダムリングに形成された突起部の拡大図である。
図5a】本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機のオルダムリングの上面図である。
図5b】本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機のオルダムリングの側面図である。
図6】本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機のオルダムリングが単振動している様子を示す第1概略図である。
図7】本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機のオルダムリングが単振動している様子を示す第2概略図である。
図8】従来のスクロール圧縮機のオルダムリングが単振動している様子を示す第1概略図である。
図9】従来のスクロール圧縮機のオルダムリングが単振動している様子を示す第2概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機100の断面構成例を示す縦断面図、図2は、本発明の実施の形態に係る揺動スクロール2及びオルダムリング6及びフレーム20の分解図(X軸方向からの視点)、図3は、本発明の実施の形態に係る揺動スクロール2及びオルダムリング6及びフレーム20の分解図(Y軸方向からの視点)である。
以下、図1図3に基づいてスクロール圧縮機100の構成及び動作について説明する。
本実施の形態に係るスクロール圧縮機100は、例えば冷蔵庫や冷凍庫、自動販売機、空気調和装置、冷凍装置、給湯器等の各種産業機械に用いられる冷凍サイクルの構成要素の一つとなるものである。
【0011】
スクロール圧縮機100は、冷凍サイクルを循環する冷媒を吸入し、圧縮して高温高圧の状態として吐出させるものである。このスクロール圧縮機100は、図1に示すようにセンターシェル8、アッパーシェル22、及びロアシェル23により構成される密閉容器24内に、固定スクロール1と固定スクロール1に対して揺動する揺動スクロール2とを組み合わせた圧縮機構を備えている。また、密閉容器24内に主軸9、固定子11、回転子12等からなる回転駆動手段を備えており、密閉容器24内において、圧縮機構が上側に、回転駆動手段が下側に、それぞれ配置されている。
【0012】
密閉容器24は、センターシェル8の上部にアッパーシェル22が、センターシェル8の下部にロアシェル23がそれぞれ設けられて構成されている。ロアシェル23は、潤滑油を貯留する油溜めとなっている。また、センターシェル8には、冷媒ガスを吸入するための吸入パイプ15が接続されている。また、アッパーシェル22には、冷媒ガスを吐出するための吐出パイプ17が接続されている。なお、センターシェル8内部は低圧室18に、アッパーシェル22内部は高圧室19になっている。
【0013】
固定スクロール1は、固定スクロール台板1bと、固定スクロール台板1bの一方の面(図1の下側)に立設された渦巻状突起である固定スクロール渦巻1aと、で構成されている。また、揺動スクロール2は、揺動スクロール台板2bと、揺動スクロール台板2bの一方の面(図1の上側)に立設され、固定スクロール渦巻1aと実質的に同一形状の渦巻状突起である揺動スクロール渦巻2aと、で構成されている。なお、揺動スクロール台板2bの他方の面(図1の下側で揺動スクロール渦巻2aの形成面とは反対側の面)は、揺動スクロールスラスト軸受面2cとして作用する。
【0014】
固定スクロール1は図示省略のボルト等によってフレーム20に固定されている。
また、揺動スクロール2は、圧縮機運転中に生じるスラスト軸受荷重が揺動スクロールスラスト軸受面2cを介してフレーム20で支持されるようになっている。なお、フレーム20がスラスト軸受荷重に対して十分な硬度を持たない場合は、図1に示すように、揺動スクロールスラスト軸受面2cとフレーム20との間に、スラスト軸受荷重に対して十分な硬度を持つ素材から成るスラストプレート3を挿入する構造としてもよい。
【0015】
固定スクロール1及び揺動スクロール2は、固定スクロール渦巻1aと揺動スクロール渦巻2aとを互いに組み合わせ、密閉容器24内に装着されている。固定スクロール1及び揺動スクロール2が組み合わされた状態では、固定スクロール渦巻1aと揺動スクロール渦巻2aの巻方向が互いに逆となる。固定スクロール渦巻1aと揺動スクロール渦巻2aとの間には、相対的に容積が変化する圧縮室25が形成される。なお、固定スクロール1及び揺動スクロール2には、固定スクロール渦巻1a及び揺動スクロール渦巻2aの先端面からの冷媒漏れを低減するため、固定スクロール渦巻1aの先端面にシール26が、揺動スクロール渦巻2aの先端面にシール27がそれぞれ配設されている。
【0016】
固定スクロール1の固定スクロール台板1bの中央部には、圧縮され、高圧となった冷媒ガスを吐出する吐出口16が形成されている。そして、圧縮され、高圧となった冷媒ガスは、固定スクロール1の上部に設けられている高圧室19に排出されるようになっている。高圧室19に排出された冷媒ガスは、吐出パイプ17を介して冷凍サイクルに吐出されることになる。なお、吐出口16には、高圧室19から吐出口16側への冷媒の逆流を防止する吐出弁28が設けられている。
【0017】
揺動スクロール2は、その自転運動を阻止して公転させるオルダムリング6により、固定スクロール1に対して自転運動することなく公転運動を行う。また、揺動スクロール2の揺動スクロール渦巻2a形成面とは反対側の面の略中心部には、中空円筒形状のボス部2dが形成されている。このボス部2dには、主軸9の上端に設けられた偏心軸部9aが挿入される。さらに、同じ面のボス部2dと揺動スクロールスラスト軸受面2cとの間には、揺動スクロール台板背面2eが形成されている。
【0018】
図2及び図3に示すように揺動スクロール2の揺動スクロール渦巻2a形成面とは反対側の面に、前後(Y軸方向)一対の第1オルダムキー溝4が、フレーム20のオルダムリング6が配置されるオルダムリング着座面20aに、左右(X軸方向)一対の第2オルダムキー溝5が、それぞれ形成されている。そして、オルダムリング6は、第1オルダムキー溝4が形成された揺動スクロール2と、第2オルダムキー溝5が形成されたフレーム20との間に配置される。
【0019】
オルダムリング6のリング部6bの下面(図2の下側)には、フレーム20の第2オルダムキー溝5に摺動可能に嵌合する四角柱形状の第2オルダムキー6acが、上面(図2の上側)には、揺動スクロール2の第1オルダムキー溝4に摺動可能に嵌合する四角柱形状の第1オルダムキー6abが、それぞれ形成されている。これら前後(Y軸方向)の第1オルダムキー6ab及び左右(X軸方向)の第2オルダムキー6acは、前後(Y軸方向)の揺動スクロール2の第1オルダムキー溝4及び左右(X軸方向)のフレーム20の第2オルダムキー溝5にそれぞれ摺動可能に嵌合する。
【0020】
そして、第1オルダムキー6ab及び第2オルダムキー6acは、潤滑油で満たされた前後(Y軸方向)の第1オルダムキー溝4内及び左右(X軸方向)の第2オルダムキー溝5内にそれぞれ形成される摺動面上を前後(Y軸方向)または左右(X軸方向)に摺動しながら回転駆動手段の回転力を、公転する揺動スクロール2に伝えている。このとき、オルダムリング6はフレーム20に対して左右(X軸方向)に単振動し、揺動スクロール2はオルダムリング6に対して前後(Y軸方向)に単振動する。
【0021】
回転駆動手段は、図1に示すように回転軸である主軸9、主軸9に固定された回転子12、及びセンターシェル8に固定された固定子11等で構成されている。回転子12は、主軸9に焼き嵌め固定され、固定子11への通電が開始されることにより回転駆動し、主軸9を回転させるようになっている。すなわち、固定子11及び回転子12で電動回転機械を構成している。また、回転子12は、センターシェル8に焼き嵌め固定された固定子11とともに、主軸9に固定されている第1バランスウェイト13の下部に配置されている。なお、固定子11には、センターシェル8に設けられた電源端子10を介して電力が供給されるようになっている。
【0022】
主軸9は、回転子12の回転に伴って回転し、揺動スクロール2を公転させるようになっている。この主軸9の上部(偏心軸部9a近傍)は、フレーム20に設けられた主軸受21によって支持されている。一方、主軸9の下部は、副軸受30によって回転自在に支持されている。この副軸受30は、密閉容器24の下部に設けられたサブフレーム29の中央部に形成された軸受収納部に圧入固定されている。また、サブフレーム29には、容積型のオイルポンプ32が設けられている。このオイルポンプ32で吸引された潤滑油は、主軸9の内部形成された油供給穴33を介して各摺動部に送られる。
【0023】
また、主軸9の上部には、揺動スクロール2が偏心軸部9aに装着されて揺動することにより生じるアンバランスを相殺するため、第1バランスウェイト13が設けられている。また、回転子12の下部には、揺動スクロール2が偏心軸部9aに装着されて揺動することにより生じるアンバランスを相殺するため、第2バランスウェイト14が設けられている。第1バランスウェイト13は主軸9の上部に焼き嵌めによって固定され、第2バランスウェイト14は回転子12の下部に回転子12と一体的に固定される。
なお、オルダムリング6の突起部7については後述する。
【0024】
次に、スクロール圧縮機100の動作について説明する。
電源端子10に通電すると、固定子11の電線部に電流が流れ、磁界が発生する。この磁界は、回転子12を回転させるように働く。つまり、固定子11及び回転子12にトルクが発生し、回転子12が回転する。回転子12が回転すると、それに伴い主軸9が回転駆動される。主軸9が回転駆動されると、オルダムリング6により自転を抑制された揺動スクロール2は、公転運動を行う。
【0025】
回転子12が回転するとき、主軸9の上部に固定されている第1バランスウェイト13、及び回転子12の下部に固定されている第2バランスウェイト14で、揺動スクロール2の偏心公転運動に対する静的及び動的バランスを保っている。これにより、主軸9の上部に偏心支持され、オルダムリング6により自転を抑制された揺動スクロール2が揺動されて公転運動を始め、公知の圧縮原理により冷媒を圧縮する。
【0026】
そして、冷媒ガスの一部はフレーム20のフレーム冷媒吸入口を介して圧縮室25内へ流れ、吸入過程が開始される。また、冷媒ガスの残りの一部は、固定子11の鋼板の切り欠き(図示せず)を通って、電動回転機械及び潤滑油を冷却する。圧縮室25は、揺動スクロール2の公転運動により揺動スクロール2の中心へ移動し、さらに体積が縮小される。この工程により、圧縮室25に吸入された冷媒ガスは圧縮されていく。圧縮された冷媒は、固定スクロール1の吐出口16を通り、吐出弁28を押し開けて高圧室19に流入する。そして、吐出パイプ17を介して密閉容器24から吐出される。
【0027】
圧縮室25内の冷媒ガスの圧力により発生するスラスト軸受荷重は、揺動スクロールスラスト軸受面2cを支持するフレーム20で受けている。また、主軸9が回転することで第1バランスウェイト13及び第2バランスウェイト14に生じる遠心力及び冷媒ガス荷重は、主軸受21及び副軸受30で受けている。なお、低圧室18内の低圧冷媒ガスと高圧室19内の高圧冷媒ガスとは、固定スクロール1、フレーム20により仕切られ、気密が保たれる。そして、固定子11への通電を止めると、スクロール圧縮機100が運転を停止する。
【0028】
図4aは、本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機100のオルダムリング6の斜視図、図4bは、本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機100のオルダムリング6に形成された突起部7の拡大図、図5aは、本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機100のオルダムリング6の上面図、図5bは、本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機100のオルダムリング6の側面図である。以下、図4a及び図4bをまとめて図4図5a及び図5bをまとめて図5と称する。
【0029】
以下、図2図5に基づいてオルダムリング6について詳細に説明する。
図4に示すように、オルダムリング6は、リング部6b、第1オルダムキー6ab、第2オルダムキー6ac、及び突起部7により構成され、リング部6bの一方の面に第1オルダムキー6ab及び突起部7が、他方の面に第2オルダムキー6acがそれぞれ形成されている。
【0030】
図2及び図3に示すように、オルダムリング6のリング部6bに形成された第1オルダムキー6ab、及び第2オルダムキー6acは、揺動スクロール2の揺動スクロール台板2bに形成された一対の第1オルダムキー溝4、及びその第1オルダムキー溝4に直交するようにフレーム20に形成された一対の第2オルダムキー溝5に、それぞれ摺動するように嵌合される。
【0031】
オルダムリング6の突起部7は、半球形状でオルダムリング6と一体成形され、図5に示すようにリング部6bの、第2オルダムキー6acの裏側の範囲内(図5aの横線部)、かつオルダムリング6の中心から対称となる位置に2つ形成されている。また、オルダムリング6の突起部7と揺動スクロール台板背面2eとの間は、揺動スクロール2の第1オルダムキー溝4内での第1オルダムキー6abの凝着磨耗を防止できる幅に設定されている。
【0032】
図6は、本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機100のオルダムリング6が単振動している様子を示す第1概略図、図7は、本発明の実施の形態に係るスクロール圧縮機100のオルダムリング6が単振動している様子を示す第2概略図、図8は、従来のスクロール圧縮機のオルダムリング60が単振動している様子を示す第1概略図、図9は、従来のスクロール圧縮機のオルダムリング60が単振動している様子を示す第2概略図である。
以下、図6図9に基づいてスクロール圧縮機の運転時におけるオルダムリング6の単振動について詳細に説明する。
図6及び図8に示すように、スクロール圧縮機の運転に伴い、オルダムリング6、60はX軸方向に単振動を始める。なお、オルダムリング6、60が単振動する空間31は、揺動スクロール台板背面2e、スラストプレート3、及びフレーム20により形成され、図6図9の斜線部で示される。また、その空間31は、油供給穴33により潤滑油が供給され、潤滑油で満たされている。
【0033】
オルダムリング6、60が単振動する際に、自身の慣性力が小さい間は、フレーム20のオルダムリング着座面20aに着座し、フレーム20の第2オルダムキー溝5に沿い、X軸方向に単振動している。しかし、高速運転時にオルダムリング6、60自身の慣性力が大きくなるにつれ、図7及び図9に示すようにその慣性力によってオルダムリング6、60が傾いていく。そして、その傾きが大きくなると、図9に示す従来のようにオルダムリング60に突起部7が形成されていない場合は、第1オルダムキー6abが第1オルダムキー溝4内の2箇所(図9のA点及びB点)で接触する。そうすると、第1オルダムキー溝4内で第1オルダムキー6abの凝着摩耗が発生し、焼き付きが起きてしまう。
【0034】
しかし、図7に示す実施の形態のようにオルダムリング6に突起部7が形成されている場合は、第1オルダムキー6abが第1オルダムキー溝4内の2箇所(図9のA点及びB点)で接触する前に、突起部7が揺動スクロール台板背面2eに接触する。そのため、第1オルダムキー6abが第1オルダムキー溝4内の2箇所で接触することを防ぎ、凝着摩耗の発生及び焼き付きを防止することができる。
【0035】
なお、突起部7は、第1オルダムキー6abが第1オルダムキー溝4内の2箇所(図9のA点及びB点)で接触する前に、揺動スクロール台板背面2eに接触する高さが少なくとも必要である。ただし、突起部7は、オルダムリング6が傾いていない状態で揺動スクロール台板背面2eに接触する高さであると、オルダムリング6が揺動スクロール台板2bとフレーム20とで挟み込まれて動けなくなってしまうため、それ未満の高さである必要がある。
また、突起部7を小さく(低く)することで、オルダムリング6が単振動する空間31の容積の減少(空間31内を占めるオルダムリング6の体積)を抑えることができるため、オルダムリング6の単振動により生じる油攪拌損失の増加を抑制することができる。
【0036】
また、突起部7が設けられる位置について、オルダムリング6のリング部6bのできるだけ端側(オルダムリング6の中心から遠い位置)である方がよい。これは同じ高さでも端側に設けた方が傾きを抑制できるため、突起部7をより低くすることができる。また、突起部7上端と揺動スクロール台板背面2eとの隙間に関連する寸法(例えばスラストプレート3の厚さ、オルダムリング6のリング部6bの高さ等)の公差幅を大きくでき、寸法精度を緩和できる。
【0037】
以上のように、オルダムリング6の突起部7を、リング部6bの、第2オルダムキー6acの裏側の範囲内、かつオルダムリング6の中心から対称となる位置に2つ設ける。そうすることにより、スクロール圧縮機100の高速運転時にオルダムリング6の慣性力が増加してオルダムリング6が傾くことによる、揺動スクロール2の第1オルダムキー溝4内での第1オルダムキー6abの凝着磨耗及び焼き付きを防止できる。また、オルダムリング6が単振動する方向(X軸方向)に対してオルダムリング6の中心から遠い位置に突起部7を配置することで、突起部7を小さく(低く)できるため、オルダムリング6が単振動する空間31の容積の減少(空間31内を占めるオルダムリング6の体積)を抑えることができ、オルダムリング6の単振動により生じる油攪拌損失の増加を抑制することができる。
【0038】
また、突起部7上端と揺動スクロール台板背面2eとの隙間を大きくできため、突起部7上端と揺動スクロール台板背面2eの隙間に関連する寸法(例えばスラストプレート3の厚さ、オルダムリング6のリング部6bの高さ等)の公差幅を大きくでき、寸法精度を緩和できる。また、突起部7が半球形状であることにより、揺動スクロール2の第1オルダムキー溝4内での第1オルダムキー6abの凝着磨耗を防止する際の、突起部7上端と揺動スクロール台板背面2eとの接触により生じていた摺動損失を低減できる。
【0039】
なお、本実施の形態では、突起部7を半球形状としたが、平面である揺動スクロール台板背面2eとの接触面を球形状とすることで摺動損失を低減するためであり、少なくとも接触面(先端部)が球形状であればその他の形状であってもよい。また、オルダムリング6の突起部7がオルダムリング6と一体成形されている場合を例に説明したが、上記効果が得られれば、オルダムリング6と突起部7とは別部材で形成されているものとし、ボルト締結や圧入固定等の締結手段を用いて、オルダムリング6の突起部7をオルダムリング6に固定取り付けする構成としてもよい。また、オルダムリング6の突起部7に摺動損失を低減するような樹脂等の物質をコーティングしてもよい。また、オルダムリング6の突起部7を、オルダムリング6の中心から対称となる位置に2つ設けるとしたが、それらは完全に対称でなくてもよく、数についても対称となる2つに加え、さらに多く設けてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 固定スクロール、1a 固定スクロール渦巻、1b 固定スクロール台板、2 揺動スクロール、2a 揺動スクロール渦巻、2b 揺動スクロール台板、2c 揺動スクロールスラスト軸受面、2d ボス部、2e 揺動スクロール台板背面、3 スラストプレート、4 (揺動スクロールの)第1オルダムキー溝、5 (フレームの)第2オルダムキー溝、6 オルダムリング、6ab (揺動スクロールのオルダムキー溝に摺動可能に嵌合する)第1オルダムキー、6ac (フレームのオルダムキー溝に摺動可能に嵌合する)第2オルダムキー、6b (オルダムリングの)リング部、 7 (オルダムリングの)突起部、 8 センターシェル、9 主軸、9a 偏心軸部、10 電源端子、11 固定子、12 回転子、13 第1バランスウェイト、14 第2バランスウェイト、15 吸入パイプ、16 吐出口、17 吐出パイプ、18 低圧室、19 高圧室、20 フレーム、20a オルダムリング着座面、21 主軸受、22 アッパーシェル、23 ロアシェル、24 密閉容器、25 圧縮室、26 シール、27 シール、28 吐出弁、29 サブフレーム、30 副軸受、31 オルダムリングが単振動する空間、32 オイルポンプ、33 油供給穴、60 (従来の)オルダムリング、100 スクロール圧縮機。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9