特許第6033507号(P6033507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6033507-複合膜の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6033507
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】複合膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 67/00 20060101AFI20161121BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   B01D67/00
   B01D69/12
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-533673(P2016-533673)
(86)(22)【出願日】2015年12月10日
(86)【国際出願番号】JP2015084720
【審査請求日】2016年5月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-61572(P2015-61572)
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高容量リチウムイオン電池用革新的セパレーターの実用化開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】本元 博行
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−119224(JP,A)
【文献】 特開2011−062682(JP,A)
【文献】 特開平11−192420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 67/00
B01D 69/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂及びフィラーを含有し、粘度が0.1Pa・s以上5.0Pa・s以下である塗工液を調製する塗工液調製工程と、
前記塗工液を、前記塗工液に含まれる凝集物の最大粒径よりも大きい最小細孔径を有するフィルタに通して前記凝集物を除去する凝集物除去工程と、
前記凝集物除去工程を経た前記塗工液を、多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成する塗工工程と、
前記塗工層に含まれる前記樹脂を凝固させて、前記多孔質基材の片面又は両面に前記樹脂及び前記フィラーを含有する多孔質層を備えた複合膜を得る凝固工程と、
を有する、複合膜の製造方法。
【請求項2】
前記フィルタの最小細孔径が前記凝集物の最大粒径の2倍以上10倍以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記凝集物の最大粒径が2μm以上30μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記フィラーは、一次粒子の体積平均粒径が0.1μm以上3.0μm以下である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記フィルタの最小細孔径が30μm以上70μm以下である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記凝集物除去工程は、前記塗工液に対し0.05MPa以上0.5MPa以下の圧力をかけて前記フィルタを通すことを含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記凝集物除去工程は、前記フィルタを通る前記塗工液の流量が0.5L/min以上である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池セパレータ、ガスフィルタ、液体フィルタ等として、多孔質基材上に多孔質層を有する複合膜が知られている。この複合膜の製造方法として、樹脂及びフィラーを含む塗工液を多孔質基材上に塗工して塗工層を形成した後、塗工層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を作製する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。多孔質基材の表面に多孔質層を形成するための塗工液は、樹脂とフィラーを含んでいることにより、例えば作製してから時間が経過すると塗工液中に凝集物が形成されることがある。この凝集物を含んだ塗工液を多孔質基材上に塗工すると、凝集物が複合膜に残存し複合膜の品質低下を招くおそれがあるため、従来、塗工液を塗工前に濾過処理して塗工液中の凝集物や異物を除去することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5424179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合膜の生産効率の観点からは、長尺の多孔質基材を高速で搬送しながら該多孔質基材上に塗工液の塗工を行うことが望ましく、その実現のためには、塗工液の供給速度を向上させる必要がある。一方で、複合膜の品質を向上させる観点からは、塗工液を塗工前に濾過処理することが望ましい。しかし、塗工液の濾過処理を行えば塗工液の供給速度が低下してしまう。
【0005】
本発明の実施形態は、上記状況のもとになされた。
本発明の実施形態は、高い生産効率で高品質の複合膜を製造する、複合膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0007】
[1] 樹脂及びフィラーを含有し、粘度が0.1Pa・s以上5.0Pa・s以下である塗工液を調製する塗工液調製工程と、前記塗工液を、前記塗工液に含まれる凝集物の最大粒径よりも大きい最小細孔径を有するフィルタに通して前記凝集物を除去する凝集物除去工程と、前記凝集物除去工程を経た前記塗工液を、多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成する塗工工程と、前記塗工層に含まれる前記樹脂を凝固させて、前記多孔質基材の片面又は両面に前記樹脂及び前記フィラーを含有する多孔質層を備えた複合膜を得る凝固工程と、を有する、複合膜の製造方法。
[2] 前記フィルタの最小細孔径が前記凝集物の最大粒径の2倍以上10倍以下である、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記凝集物の最大粒径が2μm以上30μm以下である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記フィラーは、一次粒子の体積平均粒径が0.1μm以上3.0μm以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記フィルタの最小細孔径が30μm以上70μm以下である、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記凝集物除去工程は、前記塗工液に対し0.05MPa以上0.5MPa以下の圧力をかけて前記フィルタを通すことを含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 前記凝集物除去工程は、前記フィルタを通る前記塗工液の流量が0.5L/min以上である、[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、高い生産効率で高品質の複合膜を製造する、複合膜の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の製造方法の一実施形態を示す概念図である。
図2】本開示の製造方法の別の一実施形態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0011】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本明細書において、「機械方向」とは、長尺状に製造される多孔質基材及び複合膜において長尺方向を意味し、「幅方向」とは、「機械方向」に直交する方向を意味する。「機械方向」を「MD方向」ともいい、「幅方向」を「TD方向」ともいう。
【0013】
以下に、本発明の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0014】
<複合膜の製造方法>
本開示の製造方法は、多孔質基材と、該多孔質基材の片面又は両面に設けられた、樹脂及びフィラーを含有する多孔質層と、を備えた複合膜を製造する方法である。本開示の製造方法は、樹脂及びフィラーを含有する塗工液を、多孔質基材の片面又は両面に塗工して、多孔質基材の片面又は両面に多孔質層を設ける製造方法である。本開示の製造方法は、下記の工程を有する。
【0015】
・塗工液調製工程:樹脂及びフィラーを含有する塗工液を調製する工程。
・凝集物除去工程:塗工液をフィルタに通して塗工液に含まれる凝集物を除去する工程。
・塗工工程:凝集物除去工程を経た塗工液を多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成する工程。
・凝固工程:塗工層に含まれる樹脂を凝固させて、多孔質基材の片面又は両面に樹脂及びフィラーを含有する多孔質層を備えた複合膜を得る工程。
【0016】
本開示の製造方法は、凝固工程の後に、複合膜を水洗する水洗工程と、水洗工程の後に、複合膜から水を除去する乾燥工程と、をさらに有してもよい。
【0017】
図1は、本開示の製造方法の一実施形態を示す概念図である。図1では、図内の左側に、複合膜の製造に供する多孔質基材のロールが置かれ、図内の右側に、複合膜を巻き取ったロールが置かれている。図1に示す実施形態は、塗工液調製工程、凝集物除去工程、塗工工程、凝固工程、水洗工程、及び乾燥工程を有し、凝固工程が湿式の工程である。本実施形態は、塗工工程、凝固工程、水洗工程、及び乾燥工程を連続的に順次行う。また、本実施形態は、塗工工程の実施時期に合わせて塗工液調製工程及び凝集物除去工程を行う。各工程の詳細は後述する。
【0018】
図2は、本開示の製造方法の別の一実施形態を示す概念図である。図2では、図内の左側に、複合膜の製造に供する多孔質基材のロールが置かれ、図内の右側に、複合膜を巻き取ったロールが置かれている。図2に示す実施形態は、塗工液調製工程、凝集物除去工程、塗工工程、及び凝固工程を有し、凝固工程が乾式の工程である。本実施形態は、塗工工程、及び凝固工程を連続的に順次行う。また、本実施形態は、塗工工程の実施時期に合わせて塗工液調製工程及び凝集物除去工程を行う。各工程の詳細は後述する。
【0019】
本開示の製造方法においては、凝集物除去工程に用いるフィルタが、塗工液に含まれる凝集物の最大粒径よりも大きい最小細孔径を有するフィルタである。凝集物の最大粒径と同じ又はより小さい最小細孔径を有するフィルタは、塗工液を通すことが困難であるか、塗工液の通過に時間がかかる。凝集物の最大粒径より大きい最小細孔径を有するフィルタは、塗工液をスムーズに通しつつ、凝集物の少なくとも一部を除去し、塗工液中の凝集物の低減が可能である。したがって、本開示の製造方法によれば、塗工液を塗工工程に安定的に供給することができるので生産効率が高く、しかも、凝集物が少ない塗工液を塗工工程に用いるので、高品質の複合膜を製造することができる。
【0020】
本開示において、塗工液に含まれる凝集物の最大粒径とは、粒度ゲージを用い、JIS K5600−2−5:1999に従って操作を行って測定される凝集物の大きさである。具体的には、粒度ゲージの最深部に塗工液を滴下した後、スクレーパーを深度0μmに向かって塗工液を掻き取るように等速及び等圧で掃引し、粒状又は線状の特異模様が現れる最深部の目盛を読み取った値(つまり、粒状又は線状の特異模様が存在する領域の最大値)が、凝集物の最大粒径(μm)である。
【0021】
本開示において、フィルタの最小細孔径(μm)は、水銀圧入法に基づき、パームポロメーターを用いて測定される値である。
【0022】
本開示の製造方法において、塗工液調製工程で調製する塗工液の粘度は、多孔質基材への塗工適性の観点から0.1Pa・s以上であり、塗工工程に安定的に塗工液を供給する観点から5.0Pa・s以下である。塗工液の粘度(Pa・s)は、B型回転粘度計を用いて、温度20℃の試料を測定した粘度である。
【0023】
以下、本開示の製造方法の各工程を詳しく説明する。
【0024】
[塗工液調製工程]
塗工液調製工程は、樹脂及びフィラーを含有する塗工液を調製する工程である。塗工液は、例えば、樹脂を溶媒に溶かし、さらにフィラーを分散させて調製する。塗工液の調製に用いる樹脂やフィラー、即ち、多孔質層に含まれる樹脂やフィラーについては、後述する[多孔質層]の項において詳細に説明する。
【0025】
塗工液の調製に用いる、樹脂を溶解する溶媒(以下、「良溶媒」ともいう。)としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が挙げられる。良好な多孔構造を有する多孔質層を形成する観点から、相分離を誘発させる相分離剤を良溶媒に混合することが好ましい。相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。相分離剤は、塗工に適切な塗工液の粘度が確保できる範囲の量比で良溶媒と混合することが好ましい。
【0026】
塗工液の調製に用いる溶媒としては、良好な多孔構造を形成する観点から、良溶媒を50質量%以上(より好ましくは60質量%以上)含み、相分離剤を10質量%〜50質量%(より好ましくは10質量%〜40質量%)含む混合溶媒が好ましい。塗工液は、良好な多孔構造を形成する観点から、樹脂が3質量%〜10質量%の濃度で含まれており、フィラーが10質量%〜90質量%の濃度で含まれていることが好ましい。
【0027】
塗工液の調製には、樹脂及びフィラーの溶媒への溶解性及び分散性を高めるために、ホモジナイザー、グラスビーズミル、セラミックビーズミル等を用いることができる。さらに分散効率を高めるために、樹脂又はフィラーを溶媒に混合する前に、分散剤へのプレ分散を行ってもよい。
【0028】
塗工液調製工程においては、粘度0.1Pa・s〜5.0Pa・sの塗工液を調製する。塗工液の粘度は、多孔質基材への塗工適性の観点から、0.1Pa・s以上であり、より好ましくは0.5Pa・s以上であり、更に好ましくは1.0Pa・s以上である。塗工液の粘度は、塗工工程に安定的に塗工液を供給する観点から、5.0Pa・s以下であり、より好ましくは4.0Pa・s以下であり、更に好ましくは3.0Pa・s以下である。塗工液の粘度は、溶媒、樹脂及びフィラーの混合比によって制御可能である。
【0029】
塗工液には、例えば、調製後に時間が経ったり、液温が上昇したりすると、樹脂及びフィラーの少なくとも一方を含む、様々な大きさの凝集物が生じる。塗工液に含まれる凝集物の最大粒径は、例えば2μm〜30μmである。
【0030】
[凝集物除去工程]
凝集物除去工程は、塗工液をフィルタに通して塗工液に含まれる凝集物を除去する工程であり、塗工液に含まれる凝集物の最大粒径よりも大きい最小細孔径を有するフィルタを用いて行う工程である。
【0031】
凝集物除去工程に用いるフィルタの最小細孔径は、塗工液に含まれる凝集物の最大粒径に対して、処理効率の観点から、2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、4倍以上が更に好ましく、凝集物の除去効率の観点から、10倍以下が好ましく、9倍以下がより好ましく、8倍以下が更に好ましい。
【0032】
凝集物除去工程に用いるフィルタの最小細孔径は、10μm以上が好ましく、30μm以上が好ましく、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましい。凝集物除去工程に用いるフィルタの最小細孔径は、塗工液に含まれる凝集物の最大粒径に応じて設定することが好ましい。
【0033】
フィルタの濾材としては、不織布、微多孔膜、網目状構造物、多孔質体等が挙げられる。フィルタの濾材は、単層及び多層のいずれでもよい。フィルタの濾材の材料としては、樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、フッ素系樹脂、ナイロン等)、セルロース等の有機材料;金属、ガラス、セラミック等の無機材料;が挙げられる。
【0034】
フィルタの濾材としては、樹脂繊維の不織布、セルロース濾紙、ガラス繊維濾紙、金属メッシュ、多孔質セラミック等が挙げられ、塗工液に含まれる凝集物の除去効果が高い観点から、樹脂繊維の不織布が好ましい。フィルタの濾材は、液の通過方向の厚さが、例えば5mm〜40mmである。
【0035】
フィルタの一実施形態は、濾材が連続的に密度勾配(即ち細孔径の勾配)を有するフィルタである。本実施形態において、フィルタの最小細孔径(μm)とは、連続的に密度勾配をなしている濾材全体について、水銀圧入法に基づきパームポロメーターを用いて測定される値である。
【0036】
フィルタの一実施形態は、密度の異なる同種材料又は異種材料の濾材を複数種組み合せ、フィルタ内部に濾材の密度勾配(即ち細孔径の勾配)を不連続的に有するフィルタである。本実施形態において、フィルタの最小細孔径(μm)とは、各濾材について水銀圧入法に基づきパームポロメーターを用いて測定される値のうちの最も小さい値である。
【0037】
凝集物除去工程に用いるフィルタとしては、濾材が連続的に密度勾配(即ち細孔径の勾配)を有するもの;密度の異なる同種材料又は異種材料の濾材を複数種組み合せ、フィルタ内部に濾材の密度勾配(即ち細孔径の勾配)を不連続的に有するもの;が好ましい。
【0038】
凝集物除去工程に用いるフィルタとしては、例えば、ポリプロピレン不織布を濾材として備えるロキテクノ社製のHCシリーズ、BOシリーズ、SLFシリーズ、SRLシリーズ、MPXシリーズ等が挙げられる。これらのフィルタは、塗工液の入口及び出口を有するハウジング内に1個又は2個以上設置して、凝集物除去工程に供することが好ましい。
【0039】
凝集物除去工程に用いるフィルタは、全体の濾過面積が、例えば0.01m〜10mであり、0.1m〜10mが好ましい。
【0040】
凝集物除去工程は、処理効率の観点から、塗工液に対し圧力をかけてフィルタを通す工程であることが好ましい。塗工液に対してかける圧力は、処理効率の観点から、0.05MPa以上が好ましく、0.1MPa以上がより好ましく、0.2MPa以上が更に好ましい。塗工液に対してかける圧力は、塗工液に含まれる凝集物の除去を確実に行う観点から、0.5MPa以下が好ましく、0.45MPa以下がより好ましく、0.4MPa以下が更に好ましい。
【0041】
凝集物除去工程においては、フィルタを通る塗工液の流量を調製することが好ましい。フィルタを通る塗工液の流量は、処理効率の観点から、0.5L/min以上が好ましく、1L/min以上がより好ましく、2L/min以上が更に好ましい。フィルタを通る塗工液の流量は、塗工液に含まれる凝集物の除去を確実に行う観点から、20L/min以下が好ましく、15L/min以下がより好ましく、10L/min以下が更に好ましい。
【0042】
フィルタを通す際の塗工液の温度は、例えば5℃〜50℃である。
【0043】
[塗工工程]
塗工工程は、多孔質基材の片面又は両面に、樹脂及びフィラーを含有する塗工液を塗工して塗工層を形成する工程である。多孔質基材への塗工液の塗工は、マイヤーバー、ダイコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター等の塗工手段により行う。塗工量は、両面の合計で、例えば10mL/m〜60mL/mである。
【0044】
塗工工程の一実施形態は、多孔質基材を介して対向して配置された、一方の面を塗工する第一の塗工手段と、他方の面を塗工する第二の塗工手段とを用いて、塗工液を多孔質基材の両面に同時に塗工する形態である。
【0045】
塗工工程の一実施形態は、多孔質基材の搬送方向において離間して配置された、一方の面を塗工する第一の塗工手段と、他方の面を塗工する第二の塗工手段とを用いて、塗工液を多孔質基材の両面に片面ずつ順次塗工する形態である。
【0046】
塗工工程における多孔質基材の搬送速度は、生産効率の観点から、5m/min以上が好ましく、10m/min以上がより好ましい。塗工工程における多孔質基材の搬送速度は、塗工液の塗工を確実に行う観点から、100m/min以下が好ましく、90m/min以下がより好ましい。
【0047】
[凝固工程]
凝固工程は、塗工層を凝固液に接触させて塗工層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を得る湿式工程;塗工層に含まれる溶媒を除去して塗工層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を得る乾式工程;のいずれでもよい。乾式工程は湿式工程に比べて多孔質層が緻密になりやすいので、良好な多孔構造を得られる観点から湿式工程の方が好ましい。
【0048】
湿式工程は、塗工層を有する多孔質基材を凝固液に浸漬させることが好ましく、具体的には、凝固液の入った槽(凝固槽)を通過させることが好ましい。
【0049】
湿式工程において用いる凝固液は、塗工液の調製に用いた良溶媒及び相分離剤と、水との混合溶液が一般的である。良溶媒と相分離剤の混合比は、塗工液の調製に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。凝固液の水の含有量は、多孔構造の形成及び生産性の観点から、40質量%〜80質量%が好ましい。凝固液の温度は例えば20℃〜50℃である。
【0050】
乾式工程において、複合膜から溶媒を除去する方法は、限定はなく、例えば、複合膜を発熱部材に接触させる方法;温度及び湿度を調整したチャンバー内に複合膜を搬送する方法;複合膜に熱風をあてる方法;などが挙げられる。複合膜に熱を付与する場合、その温度は、例えば50℃〜80℃である。
【0051】
[水洗工程]
本開示の製造方法は、凝固工程に湿式工程を採用した場合、凝固工程の後、複合膜を水洗する水洗工程を設けることが好ましい。水洗工程は、複合膜に含まれている溶媒(塗工液の溶媒、及び、凝固液の溶媒)を除去する目的で行われる工程である。水洗工程は、複合膜を水浴の中を搬送する工程であることが好ましい。水洗用の水の温度は、例えば0℃〜70℃である。
【0052】
[乾燥工程]
本開示の製造方法は、水洗工程の後、複合膜から水を除去する乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥方法は、限定はなく、例えば、複合膜を発熱部材に接触させる方法;温度及び湿度を調整したチャンバー内に複合膜を搬送する方法;複合膜に熱風をあてる方法;などが挙げられる。複合膜に熱を付与する場合、その温度は、例えば50℃〜80℃である。
【0053】
本開示の製造方法は、下記の実施形態を採用してもよい。
・塗工液調製工程の一部として、塗工液の調製用溶媒から異物を除去する目的で、該溶媒を樹脂との混合前にフィルタを通過させる処理を行う。この処理に使用するフィルタの保留粒子径は、例えば0.1μm〜100μmである。
・塗工液調製工程を実施するタンクに攪拌機を設置し、攪拌機で常に塗工液を攪拌し、塗工液中の固形成分(例えばフィラー)の沈降を抑制する。
・塗工液調製工程から塗工工程までの塗工液輸送配管を循環式にし、配管内を塗工液を循環させて塗工液中の固形成分の凝集を抑制する。この場合、配管内の塗工液の温度を一定に制御することが好ましい。
・塗工液調製工程から凝集物除去工程に塗工液を供給するポンプとして、精密定量ポンプを設置する。
・凝集物除去工程から塗工工程に塗工液を供給するポンプとして、無脈動定量ポンプを設置する。
・塗工工程の上流に、静電気除去装置を配置し、多孔質基材表面を除電する。
・塗工手段の周囲にハウジングを設け、塗工工程の環境を清浄に保ち、また、塗工工程の雰囲気の温度及び湿度を制御する。
・塗工手段の下流に塗工量を検知するセンサーを配置し、塗工工程における塗工量を補正する。
【0054】
以下、複合膜の多孔質基材及び多孔質層を詳細に説明する。
【0055】
[多孔質基材]
本開示において多孔質基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜;繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シート;これら微多孔膜や多孔性シートに他の多孔性の層を1層以上積層した複合多孔質シート;などが挙げられる。本開示においては、複合膜の薄膜化及び強度の観点から、微多孔膜が好ましい。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。
【0056】
多孔質基材の材料としては、電気絶縁性を有する材料が好ましく、有機材料及び無機材料のいずれでもよい。
【0057】
多孔質基材の材料としては、多孔質基材にシャットダウン機能を付与する観点からは、熱可塑性樹脂が好ましい。シャットダウン機能とは、複合膜が電池セパレータに適用された場合において電池温度が高まった際に、構成材料が溶解して多孔質基材の孔を閉塞することによりイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が適当であり、特にポリオレフィンが好ましい。
【0058】
多孔質基材としては、ポリオレフィンを含む微多孔膜(「ポリオレフィン微多孔膜」という。)が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、従来の電池セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜が挙げられ、この中から十分な力学特性と物質透過性を有するものを選択することが好ましい。
【0059】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能を発現する観点から、ポリエチレンを含むことが好ましく、ポリエチレンの含有量としては、ポリオレフィン微多孔膜の全質量に対して、95質量%以上が好ましい。
【0060】
ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝されたときに容易に破膜しない程度の耐熱性を付与する観点からは、ポリエチレンとポリプロピレンとを含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。このようなポリオレフィン微多孔膜としては、ポリエチレンとポリプロピレンが1つの層において混在している微多孔膜が挙げられる。このような微多孔膜においては、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点から、95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むことが好ましい。また、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点からは、ポリオレフィン微多孔膜が2層以上の積層構造を備えており、少なくとも1層はポリエチレンを含み、少なくとも1層はポリプロピレンを含む構造のポリオレフィン微多孔膜も好ましい。
【0061】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、重量平均分子量が10万〜500万のポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンの重量平均分子量が10万以上であると、微多孔膜に十分な力学特性を付与できる。一方、ポリオレフィンの重量平均分子量が500万以下であると、微多孔膜のシャットダウン特性が良好であるし、微多孔膜の成形がしやすい。
【0062】
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後延伸し、次いで熱処理をして微多孔膜とする方法:流動パラフィンなどの可塑剤と一緒に溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出し熱処理をして微多孔膜とする方法;などが挙げられる。
【0063】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等の耐熱性樹脂;セルロース;などの繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シートが挙げられる。耐熱性樹脂とは、融点が200℃以上の樹脂、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂を指す。
【0064】
複合多孔質シートとしては、微多孔膜や繊維状物からなる多孔性シートに、機能層を積層したシートが挙げられる。このような複合多孔質シートは、機能層によってさらなる機能付加が可能となる観点から好ましい。機能層としては、例えば耐熱性を付与するという観点からは、耐熱性樹脂からなる多孔性の層や、耐熱性樹脂及び無機フィラーからなる多孔性の層が挙げられる。耐熱性樹脂としては、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミドから選ばれる1種又は2種以上の耐熱性樹脂が挙げられる。無機フィラーとしては、アルミナ等の金属酸化物;水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;などが挙げられる。複合化の手法としては、微多孔膜や多孔性シートに機能層を塗工する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを接着剤で接合する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを熱圧着する方法等が挙げられる。
【0065】
多孔質基材の幅は、本開示の製造方法への適合性の観点から、0.1m〜3.0mが好ましい。
【0066】
多孔質基材の厚さは、機械強度の観点から、5μm〜50μmが好ましい。
【0067】
多孔質基材の破断伸度は、機械強度の観点から、MD方向に10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、TD方向に5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。多孔質基材の破断伸度は、温度20℃の雰囲気中で、引張試験機を用いて、引張速度100mm/minで引張試験を行って求める。
【0068】
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117:2009)は、機械強度と物質透過性の観点から、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましい。
【0069】
多孔質基材の空孔率は、機械強度、ハンドリング性、及び物質透過性の観点から、20%〜60%が好ましい。
【0070】
多孔質基材の平均孔径は、物質透過性の観点から、20nm〜100nmが好ましい。多孔質基材の平均孔径は、ASTM E1294−89に準拠しパームポロメーターを用いて測定される値である。
【0071】
[多孔質層]
本開示において多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層である。
【0072】
多孔質層は、複合膜が電池セパレータに適用される場合、電極と接着し得る接着性多孔質層であることが好ましい。接着性多孔質層は、多孔質基材の片面のみにあるよりも両面にある方が好ましい。
【0073】
多孔質層は、樹脂及びフィラーを含有する塗工液を塗工して形成される。したがって、多孔質層は、樹脂及びフィラーを含有する。フィラーは、無機フィラー及び有機フィラーのいずれでもよい。フィラーとしては、多孔質層の多孔化及び耐熱性の観点から、無機粒子が好ましい。以下、塗工液及び多孔質層に含有される樹脂などの成分について説明する。
【0074】
[樹脂]
多孔質層に含まれる樹脂は、種類の限定はない。多孔質層に含まれる樹脂としては、フィラーを固定化する機能を有するもの(所謂、バインダ樹脂)が好ましい。多孔質層に含まれる樹脂は、複合膜を湿式工程で製造する場合は製造適合性の観点から、疎水性樹脂が好ましい。多孔質層に含まれる樹脂は、複合膜が電池セパレータに適用される場合、電解液に安定であり、電気化学的に安定であり、無機粒子を固定化する機能を有し、電極と接着し得るものが好ましい。多孔質層は、樹脂を1種含んでもよく2種以上含んでもよい。
【0075】
多孔質層に含まれる樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のビニルニトリル類の単独重合体又は共重合体、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル類が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン共重合体(これらを「ポリフッ化ビニリデン系樹脂」という。)が好ましい。
【0076】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(ポリフッ化ビニリデン共重合体);これらの混合物;が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル等が挙げられ、1種類又は2種類以上を用いることができる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、乳化重合又は懸濁重合により製造し得る。
【0077】
多孔質層に含まれる樹脂としては、耐熱性の観点からは、耐熱性樹脂(融点が200℃以上の樹脂、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂)が好ましい。耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド(ナイロン)、全芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、セルロース、及びこれらの混合物が挙げられる。中でも、多孔構造の形成のしやすさ、無機粒子との結着性、耐酸化性などの観点から、全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドの中でも、成形が容易な観点から、メタ型全芳香族ポリアミドが好ましく、特にポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましい。
【0078】
多孔質層に含まれる樹脂としては、粒子状樹脂又は水溶性樹脂も挙げられる。粒子状樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の樹脂を含む粒子が挙げられる。粒子状樹脂は、水等の分散媒に分散させて塗工液の作製に使用する。水溶性樹脂としては、例えば、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール等が挙げられる。水溶性樹脂は、例えば水に溶解させて塗工液の作製に使用する。粒子状樹脂及び水溶性樹脂は、凝固工程を乾式工程にて実施する場合に好適である。
【0079】
[フィラー]
多孔質層に含まれるフィラーは、種類の限定はない。多孔質層に含まれるフィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーのいずれでもよい。フィラーの一次粒子の体積平均粒径は、0.01μm〜10μmが好ましく、0.1μm〜10μmがより好ましく、0.1μm〜3.0μmが更に好ましい。
【0080】
多孔質層はフィラーとして無機粒子を含むことが好ましい。多孔質層に含まれる無機粒子は、電解液に安定であり、且つ、電気化学的に安定なものが好ましい。多孔質層は、無機粒子を1種含んでもよく2種以上含んでもよい。
【0081】
多孔質層に含まれる無機粒子としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化セリウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物;シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;ケイ酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物;などが挙げられる。中でも、難燃性付与や除電効果の観点から、金属水酸化物及び金属酸化物が好ましい。無機粒子は、シランカップリング剤等により表面修飾されたものでもよい。
【0082】
多孔質層に含まれる無機粒子の粒子形状は任意であり、球形、楕円形、板状、針状、不定形のいずれでもよい。無機粒子の一次粒子の体積平均粒径は、多孔質層の成形性、複合膜の物質透過性、及び複合膜のすべり性の観点から、0.01μm〜10μmが好ましく、0.1μm〜10μmがより好ましく、0.1μm〜3.0μmが更に好ましい。
【0083】
多孔質層が無機粒子を含有する場合、樹脂と無機粒子の合計量に占める無機粒子の割合は、例えば30体積%〜90体積%である。
【0084】
多孔質層は、フィラーとして有機フィラーを含有していてもよい。有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、架橋ポリシリコーン、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物等の架橋高分子からなる粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド等の耐熱性樹脂からなる粒子;などが挙げられる。
【0085】
多孔質層の厚さは、機械強度の観点から、多孔質基材の片面において0.5μm〜5μmが好ましい。
【0086】
多孔質層の空孔率は、機械強度、ハンドリング性、及び物質透過性の観点から、30%〜80%が好ましい。
【0087】
多孔質層の平均孔径は、物質透過性の観点から、20nm〜100nmが好ましい。多孔質層の平均孔径は、ASTM E1294−89に準拠しパームポロメーターを用いて測定される値である。
【0088】
[複合膜の特性]
複合膜の厚さは、例えば5μm〜100μmであり、電池セパレータ用の場合、例えば5μm〜50μmである。
【0089】
複合膜のガーレ値(JIS P8117:2009)は、機械強度と物質透過性の観点から、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましい。
【0090】
複合膜の空孔率は、機械強度、ハンドリング性、及び物質透過性の観点から、30%〜60%が好ましい。
【0091】
本開示において複合膜の空孔率は、下記の式により求める。多孔質基材の空孔率及び多孔質層の空孔率も同様である。
【0092】
空孔率(%)={1−(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
【0093】
Wa、Wb、Wc、…、Wnは、構成材料a、b、c、…、nの質量(g/cm)であり、da、db、dc、…、dnは、構成材料a、b、c、…、nの真密度(g/cm)であり、tは膜厚(cm)である。
【0094】
[複合膜の用途]
複合膜の用途としては、例えば、電池セパレータ、コンデンサー用フィルム、ガスフィルタ、液体フィルタ等が挙げられ、特に好適な用途として、非水系二次電池用セパレータが挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を挙げて、本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の実施形態の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0096】
<物性の測定方法>
実施例及び比較例に適用した測定方法は、下記のとおりである。
【0097】
[フィラーの一次粒径]
フィラーの一次粒子の体積平均粒径(μm)は、スペクトリス社のゼータサイザーナノZSPを用いて測定した。
【0098】
[塗工液の粘度]
塗工液の粘度(Pa・s)は、B型回転粘度計(ブルックフィールド社の品番RVDV+I、スピンドル:SC4−18)を用いて測定した。試料は、攪拌によって均質化された塗工液から採取し、試料の量7mL、試料の温度20℃、スピンドルの回転数10回転/minの条件で測定した。
【0099】
[凝集物の最大粒径]
塗工液に含まれる凝集物の最大粒径(μm)は、第一測範製作所の粒度ゲージ(最大深さ25μm、目盛間隔5μm、測定範囲0μm〜25μm)で測定した。本測定は、JIS K5600−2−5:1999に従って操作を行った。具体的には、粒度ゲージの最深部に塗工液を滴下した後、スクレーパーを深度0μmに向かって塗工液を掻き取るように等速及び等圧で掃引し、粒状又は線状の特異模様が現れる最深部の目盛を読み取った(つまり、粒状又は線状の特異模様が存在する領域の最大値を求めた。)。この測定を10回行って平均を算出し、凝集物の最大粒径(μm)とした。塗工液は経時により凝集物が沈降する場合があるので、粒度ゲージにのせる試料は、攪拌によって均質化された塗工液から採取した。
【0100】
[フィルタの最小細孔径]
フィルタの最小細孔径(μm)は、PMI社のパームポロメーターを用いて、水銀圧入法で測定した。測定用の試料は、フィルタ内部から濾材の一部を形状を保つように留意して採取した。
【0101】
<複合膜の品質評価方法>
実施例及び比較例で製造した複合膜を、下記の品質評価方法によって評価した。
【0102】
[表面の異物個数]
複合膜の多孔質層側の表面をニレコ社の無地検査機で観察し、長径100μm以上の大きさの異物(黒点)を計数し、下記のとおり分類した。
【0103】
A:100m当り1個未満である。
B:100m当り1個以上5個未満である。
C:100m当り5個以上10個未満である。
D:100m当り10個以上である。
【0104】
[表面の平滑性]
複合膜を幅8cm、長さ10mに切り出し試料とした。試料の幅方向における、中央、一方の端から1cm内側、もう一方の端から1cm内側、のそれぞれの位置における膜厚を、試料の長さ方向に10cm毎に測定し、全ての値の平均値及び標準偏差を算出した。得られた標準偏差を平均値で除して、膜厚の平均値に対する膜厚の標準偏差の比Q(標準偏差/平均値)を求め、下記のとおり分類した。
【0105】
AA:比Qが1%以下である。
A:比Qが1%超2%以下である。
B:比Qが2%超3%以下である。
C:比Qが3%超である。
【0106】
<複合膜の製造>
[実施例1]
−塗工液調製工程−
ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)の混合溶媒(質量比1:1)に、ポリメタフェニレンイソフタルアミドを溶解し、さらに水酸化アルミニウム粒子(Al(OH))を分散させて塗工液を調製した。塗工液の組成(質量比)は、Al(OH):ポリメタフェニレンイソフタルアミド:DMAc:TPG=16:4:40:40とした。塗工液の粘度、及び、塗工液に含まれる凝集物の最大粒径を表1に示す。
【0107】
−凝集物除去工程−
フィルタとしてロキテクノ社の型番62.5L-HC-50AD(濾材:ポリプロピレン不織布、濾過面積0.02m)を用いた。このフィルタは、中空の円筒形であり、フィルタ内部に濾材の密度勾配を連続的に有し、外側から内側に向かって液体が流れるフィルタである。このフィルタをハウジング内に1個設置し、10Lの塗工液を通した。塗工液を調製したタンクからフィルタへの塗工液の供給は、モータ駆動精密定量ポンプ(タクミナ社のスムーズフローポンプ)によって行い、塗工液にかける圧力及び塗工液の流量を調節した。凝集物除去工程の処理条件を表1に示す。
【0108】
−塗工工程−
多孔質基材として長尺状の幅1mのポリエチレン微多孔膜(PE膜)を用意し、凝集物の除去処理後の塗工液を多孔質基材の片面にダイコーターにより塗工して塗工層を形成した。塗工工程における多孔質基材の搬送速度は、10m/minとした。
【0109】
−凝固工程−
塗工層形成後の多孔質基材を凝固槽に搬送して凝固液(水:DMAc:TPG=43:40:17[質量比]、液温30℃)に浸漬して塗工層に含まれる樹脂を凝固させて、複合膜を得た。
【0110】
−水洗工程、乾燥工程−
複合膜を、水温30℃に制御された水浴に搬送して水洗し、水洗後の複合膜を、加熱ロールを備えた乾燥装置を通過させて乾燥させた。
【0111】
上記の各工程を連続的に実施し、ポリエチレン微多孔膜の片面に多孔質層を備えた複合膜を得た。製造した複合膜の品質評価の結果を表1に示す。また、ほかの実施例及び比較例についても同様に表1に示す。
【0112】
[実施例2]
フィルタをロキテクノ社の型番62.5L-HC-25AD(濾材:ポリプロピレン不織布、濾過面積0.02m)に変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0113】
[実施例3]
フィルタをロキテクノ社の型番62.5L-HC-100AD(濾材:ポリプロピレン不織布、濾過面積0.02m)に変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0114】
[比較例1]
フィルタをロキテクノ社の型番62.5L-HC-10AD(濾材:ポリプロピレン不織布、濾過面積0.02m)に変更したところ、フィルタが目詰まりして凝集物の除去処理ができなかったため、複合膜を製造できなかった。
【0115】
[比較例2]
フィルタをロキテクノ社の型番62.5L-HC-05AD(濾材:ポリプロピレン不織布、濾過面積0.02m)に変更したところ、フィルタが目詰まりして凝集物の除去処理ができなかったため、複合膜を製造できなかった。
【0116】
[実施例4]
含まれる凝集物の最大粒径が15μmの塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0117】
[実施例5]
含まれる凝集物の最大粒径が20μmの塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0118】
[実施例6]
含まれる凝集物の最大粒径が8μmの塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0119】
[実施例7〜10]
凝集物除去工程の条件を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0120】
[実施例11]
塗工液調製工程において、ポリメタフェニレンイソフタルアミドをポリフッ化ビニリデン(PVDF)に変更し、水酸化アルミニウム粒子をアルミナ粒子(Al)に変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0121】
[実施例12]
塗工液調製工程において、ポリメタフェニレンイソフタルアミドをポリフッ化ビニリデン(PVDF)に変更し、水酸化アルミニウム粒子を水酸化マグネシウム粒子(Mg(OH))に変更し、凝集物除去工程の条件を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0122】
[実施例13]
塗工液調製工程において、ポリメタフェニレンイソフタルアミドをポリフッ化ビニリデン(PVDF)に変更し、水酸化アルミニウム粒子を架橋ポリメタクリル酸メチル粒子(PMMA)に変更し、凝集物除去工程の条件を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0123】
[実施例14]
塗工液調製工程において、ポリメタフェニレンイソフタルアミドをポリフッ化ビニリデン(PVDF)エマルジョンに変更し、凝集物除去工程の条件を表1に記載のとおりに変更し、凝固工程を温度60℃で乾燥させる乾式工程に変更した(したがって、水洗工程及びその後の乾燥工程を行わない)以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0124】
[実施例15]
多孔質基材をポリエチレンテレフタレート不織布(PET不織布)に変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0125】
[実施例16]
塗工液の組成(質量比)をAl(OH):ポリメタフェニレンイソフタルアミド:DMAc:TPG=16:4:35:45に変更し、フィルタをロキテクノ社の型番62.5L-HC-100AD(濾材:ポリプロピレン不織布、濾過面積0.02m)に変更し、凝集物除去工程の条件を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0126】
【表1】
【0127】
2015年3月24日に出願された日本国出願番号第2015−61572号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0128】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【要約】
樹脂及びフィラーを含有し、粘度が0.1Pa・s以上5.0Pa・s以下である塗工液を調製する塗工液調製工程と、前記塗工液を、前記塗工液に含まれる凝集物の最大粒径よりも大きい最小細孔径を有するフィルタに通して前記凝集物を除去する凝集物除去工程と、前記凝集物除去工程を経た前記塗工液を、多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成する塗工工程と、前記塗工層に含まれる前記樹脂を凝固させて、前記多孔質基材の片面又は両面に前記樹脂及び前記フィラーを含有する多孔質層を備えた複合膜を得る凝固工程と、を有する、複合膜の製造方法。
図1
図2