【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術におけるよりも実施することが容易であり、かつより高い収率を与え、そして完全にまたは部分的に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを調製するのにも好適な、テトラアルキルビスホスフェートを調製するための方法を提供することである。
【0012】
驚くべきことには、テトラクロロビスホスフェートとアルコールとの間の反応で生成する塩化水素を、塩基を用いて中和し、その中和によって生成した塩を固形物として反応混合物から単離すると、テトラアルキルビスホスフェートをより容易にかつ高収率で調製することが可能となるということが見出された。したがって、前記の目的は、テトラアルキルビスホスフェートを調製するための方法の手段によって達成されるが、その特徴とするところは、次の通りである:
a)テトラクロロビスホスフェートを、1種または複数のアルコールと反応させ、
b)工程a)において、テトラクロロビスホスフェート中に存在しているP−Cl基の少なくとも50%が反応したときに、工程a)からの反応混合物を、式(Cat
n+)
a(X
m−)
b(ここでCat
n+は、電荷nを有するカチオンであり、X
m−は電荷mを有するアニオンであり、aおよびbは、n×a=m×bの条件を満たす整数である)の1種または複数の物質を含む塩基と反応させ、
c)工程b)において生成した塩のCatCl
nの少なくとも一部を、固形物として沈殿させ、そして
d)工程c)において得られた混合物から、その固形物のCatCl
nを単離する。
【0013】
式(Cat
n+)
a(X
m−)
bにおいて、好ましくは、
nが、1、2または3を表し、
mが、1、2または3を表し、
aが、1、2または3を表し、
そして
bが、1、2または3を表す。
【0014】
一つの好ましい実施態様においては、工程b)の塩基が、式(Cat
n+)
a(X
m−)
bの1種または複数の物質からなっている。「テトラアルキルビスホスフェート」という用語は、1分子あたり2個のリン酸エステル基−O−P(=O)(OR)
2を含む有機物質に相当しているが、ここでRは一般的にはアルキル基を表しており、一つの分子中に存在しているアルキル基Rは、同一であっても異なっていてもよい。「完全にまたは部分的に水溶性の」という用語は、本発明の関連においては、25℃の水の中への溶解度が、約1重量パーセントよりも高い物質に相当している。「テトラクロロビスホスフェート」という用語は、1分子あたり2個のリン酸エステルジクロリド、−O−P(=O)Cl
2を含む有機物質に相当している。
【0015】
本発明の方法において使用されるテトラクロロビスホスフェートは、たとえば、Indust.Eng.Chem.,1950,Volume 42,p.488または米国特許第4,056,480号明細書に記載されているような公知の方法によって調製することができる。
【0016】
本発明の方法において使用するテトラクロロビスホスフェートは、一般式(I)
【化1】
[式中、
Aは、直鎖状、分岐状および/または環状のC
4〜C
20アルキレン基、残基−CH
2−CH=CH−CH
2−、残基−CH
2−C≡C−CH
2−、残基−CHR
5−CHR
6−(O−CHR
7−CHR
8)
a−(ここで、aは1〜5の数)、残基−CHR
5−CHR
6−S(O)
b−CHR
7−CHR
8−(ここで、bは0〜2の数)、または残基−(CHR
5−CHR
6)
c−O−R
9−O−(CHR
7−CHR
8)
d−(ここで、cおよびdは互いに独立して、1〜5の数)であり、
R
5、R
6、R
7、R
8は互いに独立して、Hまたはメチルであり、
R
9は、残基−CH
2−CH=CH−CH
2−、残基−CH
2−C≡C−CH
2−、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、一般式(II)の基、
【化2】
一般式(III)の基、
【化3】
一般式(IV)の基、
【化4】
または、式−C(=O)−R
12−C(=O)−の基であり、
R
10およびR
11は互いに独立して、HもしくはC
1〜C
4アルキルであるか、またはR
10とR
11とが合体して、場合によってはアルキル−置換された4〜8個のC原子を有する環を形成し、そして
R
12は、直鎖状、分岐状および/または環状のC
2〜C
8アルキレン基、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、または1,4−フェニレン基である。]
に相当しているのが好ましい。
【0017】
好ましくはAが、直鎖状のC
4〜C
6アルキレン基であるか、または好ましくはAが、R
10およびR
11が同一であってメチルである一般式(III)の残基、式(V)、(VI)もしくは(VII)の残基であるか、
【化5】
または好ましくはAが、残基−CHR
5−CHR
6−(O−CHR
7−CHR
8)
a−(ここで、aは、1〜2の数であり、R
5、R
6、R
7およびR
8は同一であってHである)であるか、または好ましくはAが、残基−(CHR
5−CHR
6)
c−O−R
9−O−(CHR
7−CHR
8)
d−(ここで、cおよびdは互いに独立して1〜2の数であり、R
9は一般式(II)の残基であり、そしてR
10およびR
11は同一であって、メチルである)である。
【0018】
Aが、−CH
2CH
2−O−CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2CH
2−、および−CH
2−CH(CH
2CH
2)
2CH−CH
2−からなる群から選択される基であれば特に好ましい。
【0019】
本発明の方法において使用するアルコールは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、および2−ブタノールからなる群から選択するのが好ましい。メタノールおよびエタノールを使用するのが特に好ましい。
【0020】
本発明の方法において使用する式(Cat
n+)
a(X
m−)
bの塩基は、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、またはアルカリ土類金属塩であるのが好ましい。これらの塩を構成するアニオンは、水酸化物、アルコキシド、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、または酢酸塩であるのが好ましい。特に好ましいのは以下のものである:水酸化アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カリウム、カリウムtert−ブトキシド、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、カルシウムメトキシド、または酸化カルシウム。水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、または炭酸水素カリウムを採用するのが、さらに特に好ましい。
【0021】
本発明の方法の工程a)は、1モル当量のテトラクロロビスホスフェートあたり、少なくとも4モル当量のアルコールを使用して実施する。それらの反応剤は、バルク状態または溶媒中の溶液状態で、相互に反応させることができる。好適な溶媒は、トルエン、ヘプタン、およびジクロロメタン、ならびに反応の中で過剰に使用されているアルコールである。反応容器の中にテトラクロロビスホスフェートを導入し、アルコールを計量仕込みする。別な方法としては、反応容器の中にアルコールを導入し、テトラクロロビスホスフェートを計量仕込みする。反応容器の中にアルコールとテトラクロロビスホスフェートとを平行して計量仕込みすることもまた可能である。純粋な反応剤に代えて、それらの反応剤の溶液を計量仕込みすることもできる。
【0022】
次いで進行するその反応においては、テトラクロロビスホスフェートのP−Cl基がアルコールとの反応によって変換されて、P−OR基となり、塩化水素が発生する。
【0023】
その反応は、−10℃〜+70℃の間の温度と10〜6000mbarの間の圧力下で実施するのが好ましい。反応剤は、適切な手段、より好ましくは撹拌によって、この手順で相互に接触させる。
【0024】
反応において生成する副生物の塩化水素は、その反応混合物の中に実質的に残存させ、本方法の工程b)において塩基を用いて中和させるのが好ましい。本方法の、また別な同様に好ましい実施態様においては、工程a)における副生物として生成した塩化水素を、その反応容器から少なくとも部分的に循環除去する。この操作は、たとえば、真空をかけるか、または反応容器の中に窒素または二酸化炭素のような不活性ガスを通過させることによって実施する。
【0025】
一つのまた別な実施態様においては、工程a)にさらに、任意の分離操作、たとえば未反応のアルコールを除去するための蒸留のようなものを含んでいてもよい。
【0026】
工程a)において、テトラクロロビスホスフェート中に存在していたP−Cl基の少なくとも50%が反応してしまってから、それに続く工程b)の実施を開始する。P−Cl基の変換率は、分析的に、好ましくは
31P−NMR分光法によってモニターすることができる。
【0027】
工程b)を実施するためには、1モル当量のテトラクロロビスホスフェートあたり、好ましくは3.5〜8モル当量の量の塩基を、工程a)において得られた反応混合物と完全混合下で接触させる。
【0028】
工程a)の反応容器の中に、塩基を計量可能な形で導入するのが好ましい。同様に好ましい別な方法では、適切な形態にある塩基を、第二の反応容器に導入しておいて、工程a)からの反応混合物をその容器に移し込む。
【0029】
適切かつ好ましい計量可能な塩基の形態は、粉体、顆粒、溶液、または分散液である。本方法の一つの特に好ましい実施態様では、水性の溶液または分散液の形態の塩基を使用する。10重量%〜60重量%強度の、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、および/または炭酸カリウムの水溶液を使用するのが、極めて特に好ましい。
【0030】
本方法のまた別な同様に好ましい実施態様では、0.1μm〜2000μmの平均粒径を有する粉体の形態の塩基を使用する。この場合、粉体状の炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、および/または炭酸水素カリウムを使用するのが、特に好ましい。
【0031】
工程b)は、5℃〜70℃の間の温度と10〜6000mbarの間の圧力下で実施するのが好ましい。
【0032】
工程b)には、任意の分離操作、好ましくは工程a)からの未反応のアルコールを除去するための蒸留が含まれていてもよい。
【0033】
本発明の方法の工程c)においては、工程a)の塩化水素と工程b)の塩基とから生成した反応生成物、すなわち塩CatCl
nを、少なくとも部分的に、固形物の形態に転換させる。好ましくは、この操作は、好ましくは温度を降下させたり、および/またはその中では塩が不溶性であるような溶媒を添加したりすることによる、適切な手段によって、支援してもよい。しかしながら、典型的には、工程b)の塩基を工程a)からの反応混合物と接触させると、自発的な沈降が起きる、すなわちさらなる手段をまったく用いなくても固形物の形態で沈降する。
【0034】
工程c)にはさらに、任意の分離操作、好ましくは水不溶性の固形分を除去するための濾過、または工程a)からの未反応のアルコールを除去するための蒸留が含まれていてもよい。
【0035】
その方法の一つの好ましい実施態様は、少なくとも部分的に同時に工程b)とc)とを実施することである。
【0036】
本発明の方法の工程d)においては、工程c)からの反応混合物から、その固形物が除去される。この目的のためには、この反応混合物を、主として固形物を含む画分と主として液体を含む画分とに、好ましくは慣用される方法によって、より好ましくは濾過法または遠心分離法によって、分離する。付着している反応生成物の残分を単離させるために、その固形物残渣を1回または複数回洗浄するのが好ましい。好適な洗浄液体は、その塩であるCatCl
nを溶解させない溶媒ならば、何でもよい。
【0037】
工程d)において得られた液体の画分には、反応生成物が含まれているので、合わせる。それらにはさらに、未反応のアルコールおよび水、ならびに場合によっては溶媒または分散媒体も含んでいる可能性があり、従来技術において記述されている方法、好ましくは蒸留、抽出、濾過、清澄化および/または乾燥剤を用いた乾燥によって後処理をして、純粋なテトラアルキルビスホスフェートとする。
【0038】
本発明の方法は、完全にまたは部分的に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを調製するのに使用するのが好ましい。
【0039】
この方法の四つの工程のいずれも、不連続的にでもあるいは連続的にでも、実施することができる。この方法全体を、連続的または不連続的に実施する工程を、各種望むように組み合わせて構成してよい。
【0040】
本発明の方法によって、従来技術の方法によるよりも高収率、かつ高純度で、テトラアルキルビスホスフェートを合成することが可能となる。後処理の過程で水相を除去しないという点で、公知の方法とは本質的に異なっているが、そのように水を除去すると、特に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートの場合においては、ロスがもたらされる。塩状の副生物の除去が極めて完全であるために、その最終反応生成物が極めて低い塩含量しか有していないというのは驚くべきことである。本発明の意味合いにおいては、塩の含量が低いということは、最終反応生成物における金属イオンの含量(これは、塩含量から発生する)が、金属イオンあたり5000ppm未満であるということを意味している。
【0041】
以下の実施例を使用して本発明をさらに詳しく説明するが、それらによって本発明を限定するということはまったく意図していない。使用されている「部」は、重量部である。
【0042】
明確を期するために言えば、本発明の範囲には、先に、一般的、好ましい範囲、各種所望の組合せとして示した、すべてのパラメーターおよび定義が包含される。