【文献】
JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2008年,Vol.104, No.094501,p.1-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の研究開発が盛んにおこなわれている。有機EL素子の基本的な構成は、一対の電極間に発光性の有機化合物を含む層(以下、発光層とも記す)を挟んだものであり、薄型軽量化できる、入力信号に高速に応答できる、直流低電圧駆動が可能である、などの特性から、次世代のフラットパネルディスプレイ素子として注目されている。また、このような発光素子を用いたディスプレイは、コントラストや画質に優れ、視野角が広いという特徴も有している。さらに、有機EL素子は面光源であるため、液晶ディスプレイのバックライトや照明等の光源としての応用も考えられている。
【0003】
有機EL素子の発光機構は、キャリア注入型である。すなわち、電極間に発光層を挟んで電圧を印加することにより、電極から注入された電子および正孔が再結合して発光物質が励起状態となり、その励起状態が基底状態に戻る際に発光する。そして、励起状態の種類としては、一重項励起状態と三重項励起状態が可能である。また、発光素子におけるその統計的な生成比率は、前者は後者の3分の1であると考えられている。
【0004】
発光性の有機化合物では通常、基底状態が一重項状態である。したがって、一重項励起状態からの発光は、同じスピン多重度間の電子遷移であるため蛍光と呼ばれる。一方、三重項励起状態からの発光は、異なるスピン多重度間の電子遷移であるため燐光と呼ばれる。ここで、蛍光を発する化合物(以下、蛍光性化合物と記す)は室温において、通常、燐光は観測されず蛍光のみが観測される。したがって、蛍光性化合物を用いた発光素子における内部量子効率(注入したキャリアに対して発生するフォトンの割合)の理論的限界は、上記の一重項励起状態と三重項励起状態の比率を根拠に25%とされている。
【0005】
一方、燐光を発する化合物(以下、燐光性化合物と記す)を用いれば、理論上、内部量子効率は100%にまで高めることが可能となる。つまり、蛍光性化合物に比べて高い発光効率を得ることが可能になる。このような理由から、高効率な発光素子を実現するために、燐光性化合物を用いた発光素子の開発が近年盛んにおこなわれている。
【0006】
特に、燐光性化合物としては、その燐光量子効率の高さゆえに、イリジウム等を中心金属とする有機金属錯体が注目されており、例えば、特許文献1には、イリジウムを中心金属とする有機金属錯体が燐光材料として開示されている。
【0007】
上述した燐光性化合物を用いて発光素子の発光層を形成する場合、燐光性化合物の濃度消光や三重項−三重項消滅による消光を抑制するために、他の化合物からなるマトリクス中に該燐光性化合物が分散するように形成することが多い。この時、マトリクスとなる化合物はホスト、燐光性化合物のようにマトリクス中に分散される化合物はゲストと呼ばれる。
【0008】
このような、燐光性化合物をゲストとして用いる発光素子における発光の一般的な素過程はいくつかあるが、それらについて以下に説明する。
【0009】
(1)電子及び正孔がゲスト分子において再結合し、ゲスト分子が励起状態となる場合(直接再結合過程)。
(1−1)ゲスト分子の励起状態が三重項励起状態のとき
ゲスト分子は燐光を発する。
(1−2)ゲスト分子の励起状態が一重項励起状態のとき
一重項励起状態のゲスト分子は三重項励起状態に項間交差し、燐光を発する。
【0010】
つまり、上記(1)の直接再結合過程においては、ゲスト分子の項間交差効率、及び燐光量子効率さえ高ければ、高い発光効率が得られることになる。
【0011】
(2)電子及び正孔がホスト分子において再結合し、ホスト分子が励起状態となる場合(エネルギー移動過程)。
(2−1)ホスト分子の励起状態が三重項励起状態のとき
ホスト分子の三重項励起のエネルギー準位(T1準位)がゲスト分子のT1準位よりも高い場合、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動し、ゲスト分子が三重項励起状態となる。三重項励起状態となったゲスト分子は燐光を発する。ここで、ホスト分子の三重項励起エネルギーの準位(T1準位)への逆エネルギー移動も考慮しなければならず、したがって、ホスト分子のT1準位はゲスト分子のT1準位よりも高いことが必要である。
(2−2)ホスト分子の励起状態が一重項励起状態のとき
ホスト分子のS1準位がゲスト分子のS1準位およびT1準位よりも高い場合、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動し、ゲスト分子が一重項励起状態又は三重項励起状態となる。三重項励起状態となったゲスト分子は燐光を発する。また、一重項励起状態となったゲスト分子は、三重項励起状態に項間交差し、燐光を発する。
【0012】
つまり、上記(2)のエネルギー移動過程においては、ホスト分子の三重項励起エネルギーだけでなく、一重項励起エネルギーがいかにゲスト分子に効率良く移動できるかが重要となる。
【0013】
このエネルギー移動過程を鑑みれば、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動する前に、ホスト分子自体がその励起エネルギーを光又は熱として放出して失活してしまうと、発光効率が低下することになる。
【0014】
<エネルギー移動過程>
以下では、分子間のエネルギー移動過程について詳述する。
【0015】
まず、分子間のエネルギー移動の機構として、以下の2つの機構が提唱されている。ここで、励起エネルギーを与える側の分子をホスト分子、励起エネルギーを受け取る側の分子をゲスト分子と記す。
【0016】
≪フェルスター機構(双極子−双極子相互作用)≫
フェルスター機構は、エネルギー移動に、分子間の直接的接触を必要としない。ホスト分子及びゲスト分子間の双極子振動の共鳴現象を通じてエネルギー移動が起こる。双極子振動の共鳴現象によってホスト分子がゲスト分子にエネルギーを受け渡し、ホスト分子が基底状態になり、ゲスト分子が励起状態になる。フェルスター機構の速度定数k
h*→gを数式(1)に示す。
【0017】
【数1】
【0018】
数式(1)において、νは振動数を表し、f’
h(ν)はホスト分子の規格化された発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)を表し、ε
g(ν)はゲスト分子のモル吸光係数を表し、Nはアボガドロ数を表し、nは媒体の屈折率を表し、Rはホスト分子とゲスト分子の分子間距離を表し、τは実測される励起状態の寿命(蛍光寿命や燐光寿命)を表し、cは光速を表し、φはホスト分子の発光量子効率(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光量子効率、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光量子効率)を表し、K
2は、ホスト分子とゲスト分子の遷移双極子モーメントの配向を表す係数(0〜4)である。なお、ランダム配向の場合はK
2=2/3である。
【0019】
≪デクスター機構(電子交換相互作用)≫
デクスター機構は、ホスト分子とゲスト分子が軌道の重なりを生じる接触有効距離に近づき、励起状態のホスト分子の電子と基底状態のゲスト分子の電子の交換を通じてエネルギー移動が起こる。デクスター機構の速度定数k
h*→gを数式(2)に示す。
【0020】
【数2】
【0021】
数式(2)において、hはプランク定数であり、Kはエネルギーの次元を持つ定数であり、νは振動数を表し、f’
h(ν)はホスト分子の規格化された発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)を表し、ε’
g(ν)はゲスト分子の規格化された吸収スペクトルを表し、Lは実効分子半径を表し、Rはホスト分子とゲスト分子の分子間距離を表す。
【0022】
ここで、ホスト分子からゲスト分子へのエネルギー移動効率Φ
ETは、数式(3)で表されると考えられる。k
rはホスト分子の発光過程(ホスト分子の一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光、ホスト分子の三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光)の速度定数を表し、k
nは非発光過程(熱失活や項間交差)の速度定数を表し、τはホスト分子の実測される励起状態の寿命を表す。
【0023】
【数3】
【0024】
まず、数式(3)より、エネルギー移動効率Φ
ETを高くするためには、エネルギー移動の速度定数k
h*→gを、他の競合する速度定数k
r+k
n(=1/τ)に比べて遙かに大きくすれば良いことがわかる。そして、そのエネルギー移動の速度定数k
h*→gを大きくするためには、数式(1)及び数式(2)より、フェルスター機構、デクスター機構のどちらの機構においても、ホスト分子の発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)とゲスト分子の吸収スペクトル(通常は、燐光であるので、三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差)との重なりが大きい方が良いことがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0047】
(実施の形態1)
本実施の形態の一例である発光素子101aは、
図1(A)に示されるように、N型ホストを含むN型ホストの層103と、P型ホストを含むP型ホストの層104と、それらに挟まれたN型ホストとP型ホストを共に有する層(以下、発光層102という)を有する。発光層102にはゲスト分子105が分散している。
【0048】
図1(B)には発光素子101aにおける、N型ホストの濃度(図中にNと表記)とP型ホストの濃度(図中にPと表記)の分布を示す。発光素子101aにおいては、発光層102でのN型ホストの濃度は80%で、P型ホストの濃度は20%である。すなわち、発光層102では、N型ホスト:P型ホスト=4:1である。この比率は、N型ホスト、P型ホストの輸送特性等を考慮して決定されるとよいが、発光層においては、N型ホスト、P型ホストの濃度はいずれも10%以上であることが好ましい。
【0049】
ゲスト分子105は、
図1(C)に示されるように、発光層102に分散しているが、これに限らず、N型ホストの層103の一部やP型ホストの層104の一部に分散されていても良い。なお、図中、Gはゲストの濃度分布を表す。
【0050】
また、N型ホストの層103においては、P型ホストの濃度は極めて低く、0.1%以下であり、P型ホストの層104においては、N型ホストの濃度は極めて低く、0.1%以下である。もちろん、発光層102とN型ホストの層103との界面、および発光層102とP型ホストの層104との界面は必ずしも濃度変化が急峻なものである必要は無い。
【0051】
図1(D)には、本実施の形態の別の発光素子101bの例を示す。発光素子101bは、発光素子101aと同様な、N型ホストの層103と、P型ホストの層104と、発光層102を有し、発光層102にはゲスト分子105が分散している。
【0052】
発光素子101aと異なる点は、発光層102とN型ホストの層103との間に、N型ホストの濃度とP型ホストの濃度が緩やかに変化する領域(以下、N型遷移領域106という)が設けられていることと、発光層102とP型ホストの層104との間に、N型ホストの濃度とP型ホストの濃度が緩やかに変化する領域(以下、P型遷移領域107という)が設けられていることである。
【0053】
なお、N型遷移領域106とP型遷移領域107のいずれか一方を有しない構造であってもよい。また、N型遷移領域106やP型遷移領域107は発光機能を有する場合もある。したがって、N型遷移領域106やP型遷移領域107も広い意味での発光層と考えてもよい。その場合には発光層102は、主たる発光層と考えてもよい。N型遷移領域106やP型遷移領域107の厚さは、1nm以上50nm以下とするとよい。
【0054】
図1(E)にはN型ホストおよびP型ホストの濃度分布を示すが、N型遷移領域106やP型遷移領域107では、N型ホストの濃度およびP型ホストの濃度は連続的に変化する。また、ゲスト分子105は、
図1(F)に示されるように、発光層102のみならず、N型遷移領域106やP型遷移領域107中に含まれていても良く、さらには、N型ホストの層103やP型ホストの層104の一部に含まれるように設けてもよい。もちろん、ゲスト分子105を発光層102にのみ設けてもよい。
【0055】
図1(G)には、本実施の形態の他の発光素子101cを示す。発光素子101cでは、
図1(H)に示すようにN型ホストの層103とP型ホストの層104に挟まれた領域において、N型ホストの濃度とP型ホストの濃度が連続的に変化する。この場合、発光素子101aや発光素子101bにおける発光層(あるいは主たる発光層)を定義することは困難であるが、N型ホストとP型ホストが混合されており、かつ、N型ホスト、P型ホストのいずれの濃度も10%以上である領域は広い意味での発光層と呼べる。
【0056】
また、ゲストの濃度は、
図1(I)に示されるように、広い意味での発光層に含まれるように設定すればよい。なお、
図1においてはP型ホスト層104は発光層102を挟んでN型ホスト層103の上に設けられている。しかしながらこの構造は便宜的であり、逆の構成、すなわち、N型ホスト層103がP型ホスト層104の上に位置する構造も本発明の形態に含まれることが容易に理解される。
【0057】
上記の発光素子101aのエネルギー準位を
図2(A)を用いて説明する。上述のようにN型ホスト、P型ホストのHOMO準位およびLUMO準位には、N型ホストのHOMO準位<P型ホストのHOMO準位<N型ホストのLUMO準位<P型ホストのLUMO準位という関係がある。
【0058】
一方、N型ホストとP型ホストが混合された発光層102においては、ホールはP型ホストのHOMO準位を利用して輸送され、電子はN型ホストのLUMO準位を利用して輸送されるので、キャリア移動の観点から見ると、HOMO準位はP型ホストのHOMO準位と、LUMO準位はN型ホストのLUMO準位と見なすことができる。その結果、発光層102とP型ホストの層104の界面においては、LUMO準位にギャップが生じるため、電子の移動にとって障壁となる。同様に、発光層102とN型ホストの層103の界面においては、HOMO準位にギャップが生じるため、正孔の移動にとって障壁となる。
【0059】
一方で、発光層102とP型ホストの層104の界面においては、HOMO準位が連続であるため、正孔の移動にとっては障壁が無く、発光層102とN型ホストの層103の界面においても、LUMO準位が連続であるため、電子の移動にとっては障壁が無い。
【0060】
その結果、電子は、N型ホストの層103から発光層102へは移動しやすいが、発光層102とP型ホストの層104との間にあるLUMO準位のギャップにより、発光層102からP型ホストの層104への移動は妨げられる。
【0061】
同様に、正孔は、P型ホストの層104から発光層102へは移動しやすいが、発光層102とN型ホストの層103との間にあるHOMO準位のギャップにより、発光層102からN型ホストの層103への移動は妨げられる。この結果、発光層102に電子と正孔を閉じ込めることができる。
【0062】
また、上記の発光素子101bのエネルギー準位を
図2(B)を用いて説明する。上述のように発光層102、N型ホストの層103、P型ホストの層104のHOMO準位およびLUMO準位は
図2(A)と同じであるが、N型遷移領域106、P型遷移領域107には注意が必要である。これらの領域では、N型ホストの濃度とP型ホストの濃度が連続的に変化する。
【0063】
しかしながら、無機半導体材料(例えば、Ga
xIn
1−xN(0<x<1))の伝導帯や価電子帯が組成の変化に伴って連続的に変化する場合とは異なり、混合有機化合物のLUMO準位やHOMO準位が連続的に変化することはほとんど無い。これは、有機化合物の電気伝導がホッピング伝導という無機半導体とは異なる方式であるためである。
【0064】
例えば、N型ホストの濃度が低下し、P型ホストの濃度が上昇すると、電子は伝導しにくくなるが、それは、LUMO準位が連続的に上昇するためではなく、N型ホスト分子同士の距離が長くなるために移動確率が低下するため、および、近傍のP型ホストの高いLUMO準位へホッピングするためのエネルギーがさらに必要とされるためであると理解される。
【0065】
したがって、N型遷移領域106においては、そのHOMOはN型ホストのHOMOとP型ホストのHOMOの混合状態であり、より詳細には、発光層102に近い部分では、P型ホストのHOMOである確率が高いが、N型ホストの層103に近づくにつれ、N型ホストのHOMOである確率が高くなる。P型遷移領域でも同様である。
【0066】
しかし、このようなN型遷移領域106、P型遷移領域107があったとしても、発光層102とP型ホストの層104の界面においては、LUMO準位にギャップが生じるため、電子の移動にとって障壁となり、発光層102とN型ホストの層103の界面においては、HOMO準位にギャップが生じるため、正孔の移動にとって障壁となることは
図2(A)と同じである。
【0067】
ただし、
図2(A)のような濃度変化が急峻な界面では、例えば、電子はその界面に集中的に滞留する確率が高いため、界面付近が劣化しやすくなるという問題がある。これに対し、
図2(B)のように界面があいまいな状態では、電子の滞留する部分は確率的に決まるため、特定の部分が劣化することはない。すなわち、発光素子の劣化を緩和し、信頼性を高めることができる。
【0068】
一方、発光層102とP型遷移領域107の界面、およびP型遷移領域107とP型ホストの層104の界面においては、HOMO準位が連続であるため、正孔の移動にとっては障壁が無く、発光層102とN型遷移領域106の界面、およびN型遷移領域106とN型ホストの層103の界面においては、LUMO準位が連続であるため、電子の移動にとっては障壁が無い。
【0069】
その結果、電子は、N型ホストの層103から発光層102へは移動しやすいが、P型遷移領域107にあるLUMO準位のギャップにより、発光層102からP型ホストの層104への移動は妨げられる。同様に、正孔は、P型ホストの層104から発光層102へは移動しやすいが、N型遷移領域106にあるHOMO準位のギャップにより、発光層102からN型ホストの層103への移動は妨げられる。
【0070】
この結果、発光層102に電子と正孔を閉じ込めることができる。また、N型ホストの層103とP型ホストの層104との間のN型ホストの濃度とP型ホストの濃度が連続的に変化する発光素子101cでも、同様な考えにより、効率的に電子と正孔をN型ホストの層103とP型ホストの層104との間に閉じ込めることができる。
【0071】
次に、ゲスト分子105の励起過程について説明する。ここでは、発光素子101aを例に取り説明するが、発光素子101bおよび発光素子101cでも同様である。上述の通り、励起過程には、直接再結合過程とエネルギー移動過程がある。
【0072】
図2(C)は直接再結合過程を説明する図であるが、負極に接続したN型ホストの層103からは電子が、正極に接続したP型ホストの層104からは正孔が、ぞれぞれ、発光層102のLUMOおよびHOMOに注入される。発光層102にはゲスト分子105が存在するため、適切な条件の下では、ゲスト分子のLUMOおよびHOMOに電子および正孔を注入することでゲスト分子を励起状態(分子内励起子、エキシトン)とすることができる。
【0073】
しかしながら、発光層102にまばらに存在するゲスト分子のLUMOとHOMOに電子と正孔を効率よく注入することは技術的に困難であるため、その過程の確率は十分に高くない。効率をより高めるには、ゲストのLUMOをN型ホストのLUMOよりも0.1電子ボルト乃至0.3電子ボルト低くすることにより、ゲスト分子に電子を優先的にトラップさせるとよい。ゲストのHOMOをP型ホストのHOMOよりも0.1電子ボルト乃至0.3電子ボルト高くしても同様の効果が得られる。なお
図2(C)では、ゲストのHOMOはP型ホストのHOMOよりも低いが、ゲストのLUMOはN型ホストとP型ホストのLUMOよりも十分に低いので、電子は効率よくトラップされる。
【0074】
ゲストのLUMOをN型ホストのLUMOよりも0.5電子ボルト以上低くする(あるいはゲストのHOMOをP型ホストのHOMOよりも0.5電子ボルト以上高くする)と、電子(正孔)のトラップの確率は高まるが、発光層102の導電性が低下し、また、負極側(正極側)のゲスト分子のみが集中的に励起されるため好ましくない。
【0075】
図2(D)は、本発明にしたがってN型ホストとP型ホストを適切に選択し、エキシプレックスを形成させる場合を説明する図である。発光層102に、上記と同様に電子と正孔が注入された場合、電子と正孔がゲスト分子で出会う確率よりも、発光層102内の隣接しているN型ホスト分子とP型ホスト分子で出会う確率の方が高い。そのような場合には、エキシプレックスを形成する。ここで、エキシプレックスに関して詳説する。
【0076】
エキシプレックスは、励起状態における異種分子間の相互作用によって形成される。エキシプレックスは、比較的深いLUMO準位をもつ有機化合物(N型ホスト)と、浅いHOMO準位をもつ有機化合物(P型ホスト)間との間で形成しやすいことが一般に知られている。
【0077】
エキシプレックスからの発光波長は、N型ホストとP型ホストのHOMO準位とLUMO準位間のエネルギー差に依存する。エネルギー差が大きいと発光波長は短くなり、エネルギー差が小さいと発光波長は長くなる。そして、N型ホストの分子とP型ホストの分子によりエキシプレックスが形成された場合、エキシプレックスのLUMO準位はN型ホストに由来し、HOMO準位はP型ホストに由来する。
【0078】
したがって、エキシプレックスのエネルギー差は、N型ホストのエネルギー差、及びP型ホストのエネルギー差よりも小さくなる。つまり、N型ホスト、P型ホストのそれぞれの発光波長に比べて、エキシプレックスの発光波長は長波長となる。
【0079】
エキシプレックスの形成過程は大きく分けて2つの過程が考えられる。
【0080】
≪エレクトロプレックス(electroplex)≫
本明細書において、エレクトロプレックスとは、基底状態のN型ホスト及び基底状態のP型ホストから、直接、形成されたエキシプレックスを指す。例えば、N型ホストのアニオンとP型ホストのカチオンから、直接、形成されたエキシプレックスがエレクトロプレックスである。
【0081】
前述の通り、従来の有機化合物の発光過程のうちエネルギー移動過程においては、電子及びホールがホスト分子中で再結合(励起)し、励起状態のホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動し、ゲスト分子が励起状態に至り、発光する。
【0082】
ここで、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動する前に、ホスト分子自体が発光する、又は励起エネルギーが熱エネルギーとなると、励起エネルギーを失活する。特に、ホスト分子が一重項励起状態である場合は、三重項励起状態である場合に比べて励起寿命が短いため励起エネルギーの失活が起こりやすい。励起エネルギーの失活は、発光素子の劣化および寿命の低下につながる要因の一つである。
【0083】
しかし、N型ホスト分子及びP型ホスト分子がキャリアを持った状態(カチオン又はアニオン)からエレクトロプレックスを形成すれば、励起寿命の短い一重項励起子の形成を抑制することができる。つまり、一重項励起子を形成することなく、直接エキシプレックスを形成する過程が存在しうる。これにより、N型ホスト分子あるいはP型ホスト分子の一重項励起エネルギーの失活も抑制することができる。したがって、寿命が長い発光素子を実現することができる。
【0084】
このようにしてホスト分子の一重項励起状態の発生を抑制し、その代わりに生じたエレクトロプレックスからゲスト分子にエネルギー移動をおこなって発光効率が高い発光素子を得る概念はこれまでにないものである。
【0085】
≪励起子によるエキシプレックスの形成≫
もう一つの過程としては、N型ホスト分子及びP型ホスト分子の一方が一重項励起子を形成した後、基底状態の他方と相互作用してエキシプレックスを形成する素過程が考えられる。エレクトロプレックスとは異なり、この場合は一旦、N型ホスト分子あるいはP型ホスト分子の一重項励起状態が生成してしまうが、これは速やかにエキシプレックスに変換されるため、一重項励起エネルギーの失活を抑制することができる。したがって、ホスト分子が励起エネルギーを失活することを抑制することができる。
【0086】
なお、N型ホスト、P型ホストのHOMO準位の差、及びLUMO準位の差が大きい場合(具体的には差が0.3eV以上)、電子は優先的にN型ホスト分子に入り、ホールは優先的にP型ホスト分子に入る。この場合、一重項励起子を経てエキシプレックスが形成される過程よりも、エレクトロプレックスが形成される過程の方が優先されると考えられる。
【0087】
なお、エネルギー移動過程の効率を高めるには、MLCT遷移に由来する吸収の重要性を考慮すると、上述のフェルスター機構、デクスター機構のいずれにおいても、N型ホスト(又はP型ホスト)単独の発光スペクトル(あるいはそれに相当するエネルギー差)とゲストの吸収スペクトルとの重なりよりも、エレクトロプレックス、及びあるいはエキシプレックスの発光スペクトルとゲストの吸収スペクトルとの重なりを大きくすることがよい。
【0088】
また、エネルギー移動効率を高めるためには、濃度消光が問題とならない程度にゲストの濃度を高めることが好ましく、N型ホストとP型ホストの総量に対して、ゲストの濃度は重量比で1%乃至9%とするとよい。
【0089】
なお、上述の直接励起再結合過程でも、エネルギー移動過程でも、N型ホストおよびP型ホスト中に存在するゲスト分子を、N型ホストとP型ホストのエキシプレックス及びあるいはエレクトロプレックスからのエネルギー移動によって励起状態とする概念は従来知られておらず、本明細書ではこの概念をGuest Coupled with Complementary Hosts(GCCH)と呼ぶ。この概念を利用することで、本実施の形態においては、キャリアの閉じこめと発光層へのキャリア注入障壁の低減が同時に達成されるのみならず、ホスト分子のエキシプレックスを形成し、その一重項励起状態と三重項励起状態の双方からのエネルギー移動過程を利用することができるので、高効率かつ低電圧駆動(すなわちパワー効率の非常に高い)の発光素子が得られる。
【0090】
(実施の形態2)
本実施の形態の発光装置の一例を
図3(A)に示す。
図3(A)に示される発光装置は実施の形態1で説明した発光素子101(実施の形態1で説明した発光素子101a、発光素子101b、発光素子101c等)を負極108、正極109ではさんだものである。なお、負極108と正極109の少なくとも一方は透明であることが好ましい。この発光装置は適切な基板上に設けられてもよい。
【0091】
発光素子101においては、発光層102をはさむN型ホストの層103、P型ホストの層104が、それぞれ電子輸送層、正孔輸送層として機能し、また、上述の通り、それぞれ正孔、電子を阻止する機能を有するため、電子輸送層や正孔輸送層に相当する層を別途設ける必要が無い。そのため、
図3(A)に示す発光装置は作製工程を簡略化できる。
【0092】
発光素子101は、実施の形態1で説明したようにゲストとN型ホスト及びP型ホストを有する。N型ホスト(あるいはP型ホスト)は、2種以上の物質を用いることができる。
【0093】
ゲストとしては、有機金属錯体が好ましく、イリジウム錯体が特に好ましい。なお、上述のフェルスター機構によるエネルギー移動を考慮すると、燐光性化合物の最も長波長側に位置する吸収帯のモル吸光係数は、2000M
−1・cm
−1以上が好ましく、5000M
−1・cm
−1以上が特に好ましい。
【0094】
このような大きなモル吸光係数を有する化合物としては、例えば、ビス(3,5−ジメチル−2−フェニルピラジナト)(ジピバロイルメタナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]、下記化学式、化1参照)や、(アセチルアセトナト)ビス(4,6−ジフェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(dppm)
2(acac)]、下記化学式、化2参照)などが挙げられる。特に、[Ir(dppm)
2(acac)]のように、モル吸光係数が5000M
−1・cm
−1以上に達する材料を用いると、外部量子効率が30%程度に達する発光素子が得られる。
【0097】
N型ホストとしては、π電子欠如型複素芳香環を有する化合物が挙げられる。すなわち、炭素よりも電気陰性度の大きいヘテロ原子(窒素やリンなど)を環の構成元素として含有する、6員環の芳香環を有する化合物が挙げられる。例えば、2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)、2−[4−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f、h]キノキサリン(略称:2DBTPDBq−II)、2−[4−(3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2CzPDBq−III)、7−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:7mDBTPDBq−II)及び、6−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:6mDBTPDBq−II)のような電子を受け取りやすいベンゾキノキサリン骨格を有する化合物(ベンゾキノキサリン誘導体)のうちいずれか一を用いればよい。
【0098】
またP型ホストとしては、芳香族アミン(窒素原子に少なくとも一つの芳香環が結合した化合物)やカルバゾール誘導体が挙げられる。例えば、4,4’−ジ(1−ナフチル)−4’’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBNBB)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)、及び、4−フェニル−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)のような正孔を受け取りやすい化合物を用いればよい。ただし、これらに限定されることなく、P型ホストとN型ホストがエキシプレックスを形成できる組み合わせであればよい。
【0099】
正極109としては、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上の)金属、合金、導電性化合物、及びこれらの混合物などを用いることが好ましい。具体的には、例えば、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素又は酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム−酸化亜鉛、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(IWZO)等が挙げられる。これらの導電性金属酸化物膜は、通常スパッタリング法により成膜されるが、ゾル−ゲル法などを応用して作製しても構わない。
【0100】
例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛膜は、酸化インジウムに対し1〜20wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。また、IWZO膜は、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5〜5wt%、酸化亜鉛を0.1〜1wt%含有したターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。この他、グラフェン、金、白金、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、パラジウム、又は金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。
【0101】
但し、発光素子101のうち、正極に接して形成される層が、後述する有機化合物と電子受容体(アクセプター)とを混合してなる複合材料を用いて形成される場合には、正極に用いる物質は、仕事関数の大小に関わらず、様々な金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、アルミニウムを含む合金(例えば、Al−Si)等も用いることもできる。正極は、例えばスパッタリング法や蒸着法(真空蒸着法を含む)等により形成することができる。
【0102】
負極108は、仕事関数の小さい(好ましくは3.8eV以下の)金属、合金、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物などを用いて形成することが好ましい。具体的には、元素周期表の第1族または第2族に属する元素、すなわちリチウムやセシウム等のアルカリ金属、およびカルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、マグネシウム、およびこれらを含む合金(例えば、Mg−Ag、Al−Li)、ユーロピウム、イッテルビウム等の希土類金属およびこれらを含む合金などを用いることができる。
【0103】
但し、発光素子101のうち、負極に接して形成される層が、後述する有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いる場合には、仕事関数の大小に関わらず、Al、Ag、ITO、珪素若しくは酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ等様々な導電性材料を用いることができる。なお、負極を形成する場合には、真空蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。また、銀ペーストなどを用いる場合には、塗布法やインクジェット法などを用いることができる。
【0104】
本実施の形態の発光装置の一例を
図3(B)に示す。
図3(B)に示す発光装置は、
図3(A)に示す発光装置において発光素子101と負極108の間に電子注入層113を、また、発光素子101と正極109の間に正孔注入層114を設けたものである。
【0105】
電子注入層113、正孔注入層114を設けることにより負極108、正極109から発光素子101に電子および正孔を効率よく注入でき、エネルギー利用効率が高まる。ここで、発光素子101と電子注入層113、正孔注入層114を有する積層体をEL層110という。
【0106】
正孔注入層114は、正孔注入性の高い物質を含む層である。正孔注入性の高い物質としては、モリブデン酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、レニウム酸化物、ルテニウム酸化物、クロム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、タンタル酸化物、銀酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等の金属酸化物を用いることができる。また、フタロシアニン(略称:H
2Pc)、銅(II)フタロシアニン(略称:CuPc)等のフタロシアニン系の化合物を用いることができる。
【0107】
また、低分子の有機化合物である4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DPAB)、4,4’−ビス(N−{4−[N’−(3−メチルフェニル)−N’−フェニルアミノ]フェニル}−N−フェニルアミノ)ビフェニル(略称:DNTPD)、1,3,5−トリス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ベンゼン(略称:DPA3B)、3−[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA1)、3,6−ビス[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、3−[N−(1−ナフチル)−N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)アミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCN1)等の芳香族アミン化合物等を用いることができる。
【0108】
さらに、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマーを含む)を用いることもできる。例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(4−ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N−(4−{N’−[4−(4−ジフェニルアミノ)フェニル]フェニル−N’−フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略称:PTPDMA)、ポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)ベンジジン](略称:Poly−TPD)などの高分子化合物が挙げられる。また、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリ(スチレンスルホン酸)(PAni/PSS)等の酸を添加した高分子化合物を用いることができる。
【0109】
また、正孔注入層114として、有機化合物と電子受容体(アクセプター)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子受容体によって有機化合物に正孔が発生するため、正孔注入性および正孔輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、発生した正孔の輸送に優れた材料(正孔輸送性の高い物質)であることが好ましい。
【0110】
複合材料に用いる有機化合物としては、芳香族アミン化合物、カルバゾール誘導体、芳香族炭化水素、ポリマー(オリゴマー、デンドリマーを含む)など、種々の化合物を用いることができる。なお、複合材料に用いる有機化合物としては、正孔輸送性の高い有機化合物であることが好ましい。具体的には、10
−6cm
2/Vs以上の正孔移動度を有する物質であることが好ましい。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。以下では、複合材料に用いることのできる有機化合物を具体的に列挙する。
【0111】
複合材料に用いることのできる有機化合物としては、例えば、TDATA、MTDATA、DPAB、DNTPD、DPA3B、PCzPCA1、PCzPCA2、PCzPCN1、1,3,5−トリ(ジベンゾチオフェン−4−イル)ベンゼン(略称:DBT3P−II)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)等の芳香族アミン化合物や、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、1,3,5−トリス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(略称:TCPB)、9−[4−(N−カルバゾリル)]フェニル−10−フェニルアントラセン(略称:CzPA)、9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)、1,4−ビス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−2,3,5,6−テトラフェニルベンゼン等のカルバゾール誘導体を用いることができる。
【0112】
また、2−tert−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:t−BuDNA)、2−tert−ブチル−9,10−ジ(1−ナフチル)アントラセン、9,10−ビス(3,5−ジフェニルフェニル)アントラセン(略称:DPPA)、2−tert−ブチル−9,10−ビス(4−フェニルフェニル)アントラセン(略称:t−BuDBA)、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、9,10−ジフェニルアントラセン(略称:DPAnth)、2−tert−ブチルアントラセン(略称:t−BuAnth)、9,10−ビス(4−メチル−1−ナフチル)アントラセン(略称:DMNA)、9,10−ビス[2−(1−ナフチル)フェニル]−2−tert−ブチルアントラセン、9,10−ビス[2−(1−ナフチル)フェニル]アントラセン、2,3,6,7−テトラメチル−9,10−ジ(1−ナフチル)アントラセン等の芳香族炭化水素化合物を用いることができる。
【0113】
さらに、2,3,6,7−テトラメチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン、9,9’−ビアントリル、10,10’−ジフェニル−9,9’−ビアントリル、10,10’−ビス(2−フェニルフェニル)−9,9’−ビアントリル、10,10’−ビス[(2,3,4,5,6−ペンタフェニル)フェニル]−9,9’−ビアントリル、アントラセン、テトラセン、ルブレン、ペリレン、2,5,8,11−テトラ(tert−ブチル)ペリレン、ペンタセン、コロネン、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(略称:DPVBi)、9,10−ビス[4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル]アントラセン(略称:DPVPA)等の芳香族炭化水素化合物を用いることができる。
【0114】
また、電子受容体としては、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(略称:F
4−TCNQ)、クロラニル等の有機化合物や、周期表における第4族乃至第8族に属する金属などの遷移金属の酸化物を挙げることができる。具体的には、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムは電子受容性が高いため好ましい。中でも特に、酸化モリブデンは大気中でも安定であり、吸湿性が低く、扱いやすいため好ましい。
【0115】
なお、上述したPVK、PVTPA、PTPDMA、Poly−TPD等のポリマーと、上述した電子受容体を用いて複合材料を形成し、正孔注入層114に用いてもよい。
【0116】
電子注入層113は、電子注入性の高い物質を含む層である。電子注入層113には、リチウム、セシウム、カルシウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化カルシウム、リチウム酸化物等のようなアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物を用いることができる。また、フッ化エルビウムのような希土類金属化合物を用いることができる。
【0117】
また、電子注入層113には、電子輸送性の高い物質を用いることもできる。電子輸送性の高い物質としては、Alq
3、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq
3)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq
2)、BAlq、Zn(BOX)
2、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ)
2)などの金属錯体が挙げられる。
【0118】
また、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:p−EtTAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)、4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン(略称:BzOs)などの複素芳香族化合物も用いることができる。
【0119】
また、ポリ(2,5−ピリジン−ジイル)(略称:PPy)、ポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(ピリジン−3,5−ジイル)](略称:PF−Py)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(2,2’−ビピリジン−6,6’−ジイル)](略称:PF−BPy)のようなポリマーを用いることもできる。ここに述べた物質は、主に10
−6cm
2/Vs以上の電子移動度を有する物質である。
【0120】
なお、正孔よりも電子の輸送性の高い物質であれば、上記以外の物質を電子注入層113として用いてもよい。これらの電子輸送性の高い物質は、後述する電子輸送層にも用いることができる。
【0121】
あるいは、電子注入層113に、有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子供与体によって有機化合物に電子が発生するため、電子注入性および電子輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、発生した電子の輸送に優れた材料であることが好ましく、具体的には、例えば上述した電子輸送層を構成する物質(金属錯体や複素芳香族化合物等)を用いることができる。
【0122】
電子供与体としては、有機化合物に対し電子供与性を示す物質であればよい。具体的には、アルカリ金属やアルカリ土類金属や希土類金属が好ましく、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、エルビウム、イッテルビウム等が挙げられる。また、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物が好ましく、リチウム酸化物、カルシウム酸化物、バリウム酸化物等が挙げられる。また、酸化マグネシウムのようなルイス塩基を用いることもできる。また、テトラチアフルバレン(略称:TTF)等の有機化合物を用いることもできる。
【0123】
本実施の形態の発光装置の一例を
図3(C)に示す。
図3(C)に示す発光装置は、
図3(B)に示す発光装置において発光素子101と電子注入層113の間に電子輸送層111を、また、発光素子101と正孔注入層114の間に正孔輸送層112を設けたものである。
【0124】
上述のように、発光素子101内のN型ホストの層103およびP型ホストの層104は、それぞれ、電子輸送層および正孔輸送層としての機能も有するが、発光素子101に、より効果的に電子や正孔を注入するには、別途、電子輸送層111と正孔輸送層112を設けるとよい。
【0125】
電子輸送層111は、電子輸送性の高い物質を含む層である。電子輸送層111には、上述した電子輸送性の高い物質を用いることができる。また、電子輸送層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0126】
正孔輸送層112は、正孔輸送性の高い物質を含む層である。正孔輸送性の高い物質としては、NPB、TPD、BPAFLP、4,4’−ビス[N−(9,9−ジメチルフルオレン−2−イル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DFLDPBi)、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物を用いることができる。ここに述べた物質は、主に10
−6cm
2/Vs以上の正孔移動度を有する物質である。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。なお、正孔輸送性の高い物質を含む層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0127】
また、正孔輸送層112には、CBP、CzPA、PCzPAのようなカルバゾール誘導体や、t−BuDNA、DNA、DPAnthのようなアントラセン誘導体を用いても良い。また、正孔輸送層112には、PVK、PVTPA、PTPDMA、Poly−TPDなどの高分子化合物を用いることもできる。
【0128】
上述した正孔注入層114、正孔輸送層112、発光素子101、電子輸送層111、電子注入層113は、蒸着法(真空蒸着法を含む)、インクジェット法、塗布法等の方法で形成することができる。なお、EL層110は必ずしもこれらの層を全て有する必要は無い。
【0129】
また、
図3(D)に示すように、正極109と負極108との間に複数のEL層110a、110bが積層されていても良い。この場合、EL層110a、110bはそれぞれ少なくとも
図3(A)に示した発光素子101、あるいは
図3(B)乃び
図3(C)で説明した構造を有する。積層されたEL層110aとEL層110bとの間には、電荷発生層115を設ける。電荷発生層115は上述の正孔注入性の高い物質や複合材料で形成することができる。また、電荷発生層115は複合材料からなる層と他の材料からなる層との積層構造でもよい。
【0130】
この場合、他の材料からなる層としては、電子供与性物質と電子輸送性の高い物質とを含む層や、透明導電膜からなる層などを用いることができる。また、一方のEL層で燐光発光、他方で蛍光発光を得ても良い。この燐光発光は上述のEL層の構造を用いて得ることができる。
【0131】
また、それぞれのEL層の発光色を異なるものにすることで、発光装置全体として、所望の色の発光を得ることができる。例えば、EL層110aの発光色とEL層110bの発光色を補色の関係になるようにすることで、全体として白色発光する発光装置を得ることも可能である。また、3つ以上のEL層を有する発光装置の場合でも同様である。
【0132】
あるいは、
図3(E)に示すように、正極109と負極108との間に、正孔注入層114、正孔輸送層112、発光素子101、電子輸送層111、電子注入バッファー層116、電子リレー層117、及び負極108と接する複合材料層118を有するEL層110を形成しても良い。
【0133】
負極108と接する複合材料層118を設けることで、特にスパッタリング法を用いて負極108を形成する場合には、EL層110が受けるダメージを低減することができるため好ましい。複合材料層118は、前述の、正孔輸送性の高い有機化合物にアクセプター性物質を含有させた複合材料を用いることができる。
【0134】
さらに、電子注入バッファー層116を設けることで、複合材料層118と電子輸送層111との間の注入障壁を緩和することができるため、複合材料層118で生じた電子を電子輸送層111に容易に注入することができる。
【0135】
電子注入バッファー層116には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、およびこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウム等の酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウム等の炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、または希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))等の電子注入性の高い物質を用いることが可能である。
【0136】
また、電子注入バッファー層116が、電子輸送性の高い物質とドナー性物質を含んで形成される場合には、電子輸送性の高い物質に対して質量比で、0.001以上0.1以下の比率でドナー性物質を添加することが好ましい。電子輸送性の高い物質としては、先に説明した電子輸送層111の材料と同様の材料を用いて形成することができる。
【0137】
また、ドナー性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、およびこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウム等の酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウム等の炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、または希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))の他、テトラチアナフタセン(略称:TTN)、ニッケロセン、デカメチルニッケロセン等の有機化合物を用いることもできる。
【0138】
さらに、電子注入バッファー層116と複合材料層118との間に、電子リレー層117を形成することが好ましい。電子リレー層117は、必ずしも設ける必要は無いが、電子輸送性の高い電子リレー層117を設けることで、電子注入バッファー層116へ電子を速やかに送ることが可能となる。
【0139】
複合材料層118と電子注入バッファー層116との間に電子リレー層117が挟まれた構造は、複合材料層118に含まれるアクセプター性物質と、電子注入バッファー層116に含まれるドナー性物質とが相互作用を受けにくく、互いの機能を阻害しにくい構造である。したがって、駆動電圧の上昇を防ぐことができる。
【0140】
電子リレー層117は、電子輸送性の高い物質を含み、電子輸送性の高い物質のLUMO準位は、複合材料層118に含まれるアクセプター性物質のLUMO準位と、電子輸送層111に含まれる電子輸送性の高い物質のLUMO準位との間となるように形成する。
【0141】
また、電子リレー層117がドナー性物質を含む場合には、当該ドナー性物質のドナー準位も複合材料層118におけるアクセプター性物質のLUMO準位と、電子輸送層111に含まれる電子輸送性の高い物質のLUMO準位との間となるようにする。具体的なエネルギー準位の数値としては、電子リレー層117に含まれる電子輸送性の高い物質のLUMO準位は−5.0eV以上、好ましくは−5.0eV以上−3.0eV以下とするとよい。
【0142】
電子リレー層117に含まれる電子輸送性の高い物質としてはフタロシアニン系の材料又は金属−酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体を用いることが好ましい。
【0143】
電子リレー層117に含まれるフタロシアニン系材料としては、具体的にはCuPc、SnPc(Phthalocyanine tin(II) complex)、ZnPc(Phthalocyanine zinc complex)、CoPc(Cobalt(II)phthalocyanine, β−form)、FePc(Phthalocyanine Iron)及びPhO−VOPc(Vanadyl 2,9,16,23−tetraphenoxy−29H,31H−phthalocyanine)のいずれかを用いることが好ましい。
【0144】
電子リレー層117に含まれる金属−酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体としては、金属−酸素の二重結合を有する金属錯体を用いることが好ましい。金属−酸素の二重結合はアクセプター性(電子を受容しやすい性質)を有するため、電子の移動(授受)がより容易になる。また、金属−酸素の二重結合を有する金属錯体は安定であると考えられる。したがって、金属−酸素の二重結合を有する金属錯体を用いることにより発光装置の寿命を向上させることができる。
【0145】
金属−酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体としてはフタロシアニン系材料が好ましい。具体的には、VOPc(Vanadyl phthalocyanine)、SnOPc(Phthalocyanine tin(IV) oxide complex)及びTiOPc(Phthalocyanine titanium oxide complex)などは、アクセプター性が高いため好ましい。
【0146】
なお、上述したフタロシアニン系材料としては、フェノキシ基を有するものが好ましい。具体的にはPhO−VOPcのような、フェノキシ基を有するフタロシアニン誘導体が好ましい。フェノキシ基を有するフタロシアニン誘導体は、溶媒に容易に溶けるため、扱いやすく、また、成膜に用いる装置のメンテナンスが容易になるという利点を有する。
【0147】
電子リレー層117はさらにドナー性物質を含んでいても良い。ドナー性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属及びこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウムなどの酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウムなどの炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、又は希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))の他、テトラチアナフタセン(略称:TTN)、ニッケロセン、デカメチルニッケロセンなどの有機化合物を用いることができる。電子リレー層117にこれらドナー性物質を含ませることによって、電子の移動が容易となり、発光装置をより低電圧で駆動することが可能になる。
【0148】
電子リレー層117にドナー性物質を含ませる場合、電子輸送性の高い物質としては上記した材料の他、複合材料層118に含まれるアクセプター性物質のアクセプター準位より高いLUMO準位を有する物質を用いることができる。具体的なエネルギー準位としては、−5.0eV以上、好ましくは−5.0eV以上−3.0eV以下の範囲にLUMO準位を有する物質を用いることが好ましい。このような物質としては例えば、ペリレン誘導体や、含窒素縮合芳香族化合物などが挙げられる。なお、含窒素縮合芳香族化合物は、安定であるため、電子リレー層117を形成する為に用いる材料として、好ましい材料である。
【0149】
ペリレン誘導体の具体例としては、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(略称:PTCDA)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックビスベンゾイミダゾール(略称:PTCBI)、N,N’−ジオクチル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:PTCDI−C8H)、N,N’−ジヘキシル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:Hex PTC)等が挙げられる。
【0150】
また、含窒素縮合芳香族化合物の具体例としては、ピラジノ[2,3−f][1,10]フェナントロリン−2,3−ジカルボニトリル(略称:PPDN)、2,3,6,7,10,11−ヘキサシアノ−1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレン(略称:HAT(CN)
6)、2,3−ジフェニルピリド[2,3−b]ピラジン(略称:2PYPR)、2,3−ビス(4−フルオロフェニル)ピリド[2,3−b]ピラジン(略称:F2PYPR)等が挙げられる。
【0151】
その他にも、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(略称:TCNQ)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(略称:NTCDA)、パーフルオロペンタセン、銅ヘキサデカフルオロフタロシアニン(略称:F
16CuPc)、N,N’−ビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチル)−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:NTCDI−C8F)、3’,4’−ジブチル−5,5’’−ビス(ジシアノメチレン)−5,5’’−ジヒドロ−2,2’:5’,2’’−テルチオフェン)(略称:DCMT)、メタノフラーレン(例えば、[6,6]−フェニルC
61酪酸メチルエステル)等を用いることができる。
【0152】
なお、電子リレー層117にドナー性物質を含ませる場合、電子輸送性の高い物質とドナー性物質との共蒸着などの方法によって電子リレー層117を形成すれば良い。
【0153】
なお、先に説明したように、発光素子101内のN型ホストの層103およびP型ホストの層104は、それぞれ、電子輸送層および正孔輸送層としての機能も有するため、電子輸送層111、正孔輸送層112の一方あるいは双方を設けなくともよい。その際には、N型ホストの層103が電子輸送層111として機能する。
【0154】
上述した発光装置は、正極と負極との間に与えられた電位差により電流が流れ、EL層110(あるいは110a、110b)において正孔と電子とが再結合することにより発光する。そして、この発光は、正極または負極のいずれか一方または両方を通って外部に取り出される。従って、正極または負極のいずれか一方、または両方が可視光に対する透光性を有する電極となる。
【0155】
なお、正孔ブロック層を発光素子101に組み合わせてもよい。
【0156】
本実施の形態で示した発光装置を用いて、パッシブマトリクス型の発光装置や、トランジスタによって発光装置の駆動が制御されたアクティブマトリクス型の発光装置を作製することができる。また、該発光装置を電子機器又は照明装置等に適用することができる。
【0157】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1で説明した発光素子101a等を製造するための装置と作製方法について説明する。
図4(A)に示す製造装置は、真空チャンバー201内に、第1の蒸発源202、第2の蒸発源203、第3の蒸発源204を有する。第1乃至第3の蒸発源202〜204は、いずれも
図4(C)に示されるように線状の開口部223を有し、抵抗加熱方式で内部の有機化合物を蒸発させることができる。
【0158】
ここでは、第1の蒸発源202はN型ホストを蒸発させ、第2の蒸発源203はゲストを蒸発させ、第3の蒸発源204はP型ホストを蒸発させるものとする。また、第1乃至第3の蒸発源202〜204には、それぞれシャッターを設けてもよい。さらに、各蒸発源の温度は独立に制御して有機化合物の蒸気圧を適切に制御できるようにするとよい。例えば、N型ホストの蒸発量を、P型ホストの蒸発量の4倍とし、また、ゲストの蒸発量をP型ホストの蒸発量の1%となるように設定してもよい。
【0159】
さらに、例えば、第1の蒸発源202と第3の蒸発源204では有機化合物を比較的、広い角度範囲に飛散させ、これに対し、第2の蒸発源203では、より狭い範囲に飛散させるように、各蒸発源の開口部223の形状や大きさ等を異ならせてもよい。あるいは、
図4(A)に示すように各蒸発源の開口部223の向きを異なるように設定してもよい。
【0160】
また、真空チャンバー201内には1枚以上の基板、好ましくは2枚以上の基板(
図2(A)では基板205〜207)を配置し、図のように左から右へ(すなわち、蒸発源の開口部223の方向と略直角な方向に)適切な速度で移動するようにするとよい。なお、各蒸発源と基板205〜207の距離を異ならせてもよい。
【0161】
図4(A)に示す製造装置において、208に示す部分では主として、第1の蒸発源202から飛散するN型ホストが堆積する。また、209に示す部分では第1の蒸発源202から飛散するN型ホスト、第2の蒸発源203から飛散するゲスト、第3の蒸発源204から飛散するP型ホストが一定の比率で堆積する。さらに、210に示す部分では、主として、第3の蒸発源204から飛散するP型ホストが堆積する。
【0162】
したがって、基板205〜207が左から右へ移動する間に、最初にN型ホストの層103が形成され、次いで、発光層102が形成され、さらにP型ホストの層104が形成される。発光素子101bのように、N型ホストの層103と発光層102の間にN型遷移領域106、P型ホストの層104と発光層102の間にP型遷移領域107が形成されることもある。あるいは、発光素子101cのように、発光層とN型ホストの層103の間、あるいは発光層とP型ホストの層104の間に明確な境界が形成されない場合もある。
【0163】
図4(B)に示す製造装置は、
図4(A)に示す製造装置を改良したものである。すなわち、真空チャンバー211内に、第1の蒸発源212、第2の蒸発源213、第3の蒸発源214、第4の蒸発源215、第5の蒸発源216を有する。ここでは、第1の蒸発源212および第2の蒸発源213はN型ホストを蒸発させ、第3の蒸発源214はゲストを蒸発させ、第4の蒸発源215および第5の蒸発源216はP型ホストを蒸発させるものとする。
【0164】
図4(A)に示す製造装置と同様に、各蒸着源の開口部223の形状や大きさ、各蒸着源の位置や向きは互いに異なってもよい。また、真空チャンバー211内には1枚以上の基板、好ましくは2枚以上の基板(
図2(B)では基板217〜219)を配置し、図のように左から右へ適切な速度で移動するようにするとよい。
【0165】
図4(B)に示す製造装置において、220に示す部分では主として、第1の蒸発源212から飛散するN型ホストが堆積する。また、221に示す部分では第2の蒸発源213から飛散するN型ホスト、第3の蒸発源214から飛散するゲスト、第4の蒸発源215から飛散するP型ホストが一定の比率で堆積する。さらに、222に示す部分では、主として、第5の蒸発源216から飛散するP型ホストが堆積する。
【0166】
図4(B)に示す製造装置では、発光素子101aのように発光層102とN型ホストの層103との界面や発光層102とP型ホストの層104との界面における、濃度変化を急峻にすることができる。
【0167】
(実施の形態4)
本実施の形態では、N型ホストとして用いることのできる2mDBTPDBq−IIとP型ホストとして用いることのできるPCBNBBと、そのエキシプレックスについて説明する。2mDBTPDBq−II、PCBNBB、およびこれらを用いる際にゲストとして適切な[Ir(dppm)
2(acac)]、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]の主な物性値は表1の通りである。
【0169】
2mDBTPDBq−IIとPCBNBBが混合された領域では、LUMO準位は、−2.78eV、HOMO準位は−5.46eVとなる。これらは、それぞれ、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBのエキシプレックスのLUMO準位、HOMO準位と同じである。そして、ゲストである[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]のLUMO準位、HOMO準位も同じレベルである。
【0170】
一方、[Ir(dppm)
2(acac)]のLUMO準位、HOMO準位は、ともにこれより低いため、[Ir(dppm)
2(acac)]は電子をトラップしやすいことがわかる。このため、[Ir(dppm)
2(acac)]をゲストに用いた場合には、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]を用いた場合より直接再結合過程の確率が高いことが示唆される。
【0171】
また、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]も[Ir(dppm)
2(acac)]も三重項励起状態のエネルギー準位(T1準位)は2mDBTPDBq−IIやPCBNBBの三重項励起状態のエネルギー準位よりも0.1電子ボルト以上低いので、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]や[Ir(dppm)
2(acac)]が三重項励起状態となった後、その状態が2mDBTPDBq−IIやPCBNBBの三重項励起状態に移動する確率は小さい。特に[Ir(dppm)
2(acac)]では、0.18電子ボルト以上も低いので、[Ir(dppm)
2(acac)]の方が[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]よりも発光効率が高いことが示唆される。
【0172】
図5(A)は2mDBTPDBq−IIの分子構造を示す。一般に、ベンゼン環のような6員環芳香環の構成原子に、窒素原子のような炭素よりも電気陰性度が大きい原子(ヘテロ原子)を導入するとヘテロ原子に環上のπ電子が引きつけられ、芳香環は電子不足となりやすい。図の点線で囲まれた部分Aはπ電子が不足している部位を示し、この部分で電子をトラップしやすい。一般に6員環のヘテロ芳香族化合物はN型ホストとなりやすい。
【0173】
図5(B)はPCBNBBの分子構造を示す。一般に、窒素原子が、ベンゼン環のような芳香環の外側にあって環と結合すると、窒素原子の非共有電子対がベンゼン環に供与されて電子過剰となり電子を放出しやすくなる(すなわち、正孔をトラップしやすくなる)。図において点線で囲まれた部分Bはπ電子が過剰となっている部位を示し、この部分で電子を放出(正孔をトラップ)しやすい。一般に芳香族アミン化合物はP型ホストとなりやすい。
【0174】
また、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBのLUMOの間には0.47電子ボルト、HOMOの間には0.42電子ボルトという比較的大きなギャップが存在する。このギャップが電子や正孔の障壁となり、キャリアが再結合することなく発光層を突き抜けることを防ぐことができる。このような障壁の高さは0.3電子ボルト以上、好ましくは、0.4電子ボルト以上あるとよい。
【0175】
N型ホストとP型ホストがエキシプレックスを形成するかどうかはフォトルミネッセンスを測定すればよい。また、得られるエキシプレックスのフォトルミネセンスのスペクトルがゲストの吸収スペクトルと重なるとフェルスター機構によるエネルギー移動過程が起こりやすいといえる。
【0176】
図6(A)および
図6(B)に[Ir(dppm)
2(acac)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトル(吸収スペクトル0)を示す。吸収スペクトルの測定には、紫外可視分光光度計((株)日本分光製 V550型)を用い、ジクロロメタン溶液(0.093mmol/L)を石英セルに入れ、室温で測定をおこなった。
【0177】
また、同じく
図6(A)および
図6(B)に、2mDBTPDBq−IIの薄膜のフォトルミネッセンス・スペクトル(発光スペクトル1)、PCBNBBの薄膜のフォトルミネッセンス・スペクトル(発光スペクトル2)、及び2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの混合材料の薄膜のフォトルミネッセンス・スペクトル(発光スペクトル3)を示す。混合材料の薄膜における2mDBTPDBq−IIとPCBNBBの比は0.8:0.2であった。
【0178】
図6(A)において、横軸は、波長(nm)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M
−1・cm
−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
図6(B)において、横軸は、エネルギー(eV)を示し、縦軸は、モル吸光係数ε(M
−1・cm
−1)及び発光強度(任意単位)を示す。
【0179】
図6(A)の吸収スペクトル0から、[Ir(dppm)
2(acac)]が、520nm付近にブロードな吸収帯を有することがわかる。この吸収帯が、発光に強く寄与する吸収帯であると考えられる。
【0180】
発光スペクトル3は、発光スペクトル1、発光スペクトル2よりも長波長(低エネルギー)側にピークを有する。そして、発光スペクトル3のピークは、発光スペクトル1、発光スペクトル2のピークに比べて、[Ir(dppm)
2(acac)]の吸収帯と近い位置に存在する。具体的には、[Ir(dppm)
2(acac)]の吸収スペクトル0のピークと発光スペクトル3のピークの差は0.02eVであった。
【0181】
2mDBTPDBq−II及びPCBNBBの混合材料の発光スペクトルは、単体の発光スペクトルよりも長波長(低エネルギー)側にピークを有することがわかった。このことから、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBを混合することで、エキシプレックスが形成されることが示唆された。また、2mDBTPDBq−II及びPCBNBB単体に由来する発光ピークは観測されず、2mDBTPDBq−II及びPCBNBBが個別に励起されたとしても、ただちにエキシプレックスを形成することを意味する。
【0182】
該混合材料の発光スペクトルのピークは、[Ir(dppm)
2(acac)]の吸収スペクトル0において発光に強く寄与すると考えられる吸収帯と重なりが大きい。よって、2mDBTPDBq−IIとPCBNBBと[Ir(dppm)
2(acac)]を有する発光素子では、エキシプレックスからゲスト分子へのエネルギー移動効率が高いことが示唆される。
【実施例1】
【0183】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子を作製し、その特性評価をおこなった。本実施例の発光素子では、N型ホストとして2DBTPDBq−IIを用い、P型ホストとしてはPCBA1BPを用いた。
【0184】
本実施例で作製した発光素子の層構造は、上方より基板に向って、負極、電子注入層、電子輸送層、第1の層(N型ホストの層)、発光層(N型ホストとP型ホストを共に有する層)、第2の層(P型ホストの層)、正孔注入層、正極という構造を有する。
【0185】
これらを含めて、本実施例で用いた材料の化学式(構造式)を以下に示す。なお、既に説明した材料については省略する。
【0186】
【化3】
【0187】
以下に、本実施例の発光素子の作製方法を示す。まず、ガラス基板上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)をスパッタリング法にて成膜し、正極を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0188】
次に、基板上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒おこなった。その後、10
−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成をおこなった後、基板を30分程度放冷した。
【0189】
次に、正極が形成された面が下方となるように、正極が形成された基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、約10
−4Paの減圧下、正極上に、DBT3P−IIと酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層を形成した。その膜厚は、40nmとし、DBT3P−IIと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=DBT3P−II:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0190】
次に、正孔注入層上にPCBA1BPよりなる第2の層を20nmの膜厚となるように蒸着法により成膜した。
【0191】
さらに、PCBA1BPと2DBTPDBq−IIと[Ir(dppm)
2(acac)])を共蒸着し、第2の層上に発光層を形成した。ここで、2DBTPDBq−II、PCBA1BP及び[Ir(dppm)
2(acac)]]の重量比は、0.8:0.2:0.05となるように調節した。また、発光層の膜厚は40nmとした。
【0192】
次に、発光層上に各発光素子の2DBTPDBq−IIを膜厚10nmとなるよう蒸着法により成膜し、第1の層を形成した。
【0193】
次に、第1の層上に、バソフェナントロリン(略称:BPhen)を膜厚20nmとなるように成膜し、電子輸送層を形成した。
【0194】
さらに、電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層を形成した。
【0195】
最後に、負極として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着した。このようにして、発光素子を作製した。なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。以上により得られた発光素子の素子構造を表2に示す。
【0196】
【表2】
【0197】
窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業をおこなった後、発光素子の動作特性について測定をおこなった。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)でおこなった。
【0198】
図7(A)に得られた発光素子の輝度の電流密度依存性を、
図7(B)に輝度の電圧依存性を、
図7(C)に電流効率の輝度依存性を示す。また、得られた発光素子の主要な特性を表3に示す。約1000cd/m
2の輝度を得るための電圧が極めて低く(2.6V
)、また、パワー効率が70%以上の高効率な発光素子が得られた。
【0199】
【表3】
【実施例2】
【0200】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子を作製し、その測定をおこなった。本実施例では、N型ホストとして2mDBTPDBq−IIを用い、P型ホストとしてはPCBA1BPを用い、発光素子を作製した。
【0201】
本実施例で作製した発光素子の層構造は、実施例1の発光素子と同じである。また、用いる材料は既に説明した材料である。さらに、作製方法はN型ホストが異なる以外の点は実施例1と同様である(すなわち、実施例1の2DBTPDBq−IIを2mDBTPDBq−IIで置き換えただけである)ので詳細は省略する。なお、2mDBTPDBq−IIの構造を以下に示す。
【0202】
【化4】
【0203】
得られた発光素子の素子構造を表4に示す。
【0204】
【表4】
【0205】
図8(A)に得られた発光素子の輝度の電流密度依存性を、
図8(B)に輝度の電圧依存性を、
図8(C)に電流効率の輝度依存性を示す。また、得られた発光素子の主要な特性を表5に示す。約1000cd/m
2の輝度を得るための電圧が極めて低く(2.7V
)、また、外部量子効率が25%以上の高効率な発光素子が得られた。従来の発光素子では、取り出し効率に起因して外部量子効率の上限は20%程度であると言われているが、GCCHというコンセプトを用いることで、25%を超える外部量子効率の発光素子が得られる。
【0206】
【表5】