【文献】
鍾亞衛,Solution-Processed ZrInZnO Semiconductor for Thin Film Transistors,國立交通大學光電工程研究所碩士論文,2011年
【文献】
Tae Hoon Jeong et al.,Study on the Effects of Zr-Incorporated InZnO Thin-Film Transistors Using a Solution Process,Japanese Journal of Applied Physics,日本,Volume 50, Number 7R,pp.070202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態である薄膜トランジスタ及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0022】
<第1の実施形態>
1.本実施形態の薄膜キャパシタの全体構成
図1乃至
図8は、それぞれ、薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程を示す断面模式図である。また、
図9は、本実施形態における薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程及び全体構成を示す断面模式図である。
図9に示すように、本実施形態における薄膜トランジスタ100においては、基板10上に、下層から、ゲート電極20、ゲート絶縁層34、チャネル44、ソース電極58及びドレイン電極56の順序で積層されている。
【0023】
薄膜トランジスタ100は、いわゆるボトムゲート構造を採用しているが、本実施形態はこの構造に限定されない。従って、当業者であれば、通常の技術常識を以って本実施形態の説明を参照することにより、工程の順序を変更することにより、トップゲート構造を形成することができる。また、本出願における温度の表示は、基板と接触するヒーターの加熱面の表面温度を表している。また、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。
【0024】
基板10には、例えば、高耐熱ガラス、SiO
2/Si基板(すなわち、シリコン基板上に酸化シリコン膜を形成した基板。以下、単に「基板」ともいう)、アルミナ(Al
2O
3)基板、STO(SrTiO)基板、Si基板の表面にSiO
2層及びTi層を介してSTO(SrTiO)層を形成した絶縁性基板等)、半導体基板(例えば、Si基板、SiC基板、Ge基板等)を含む、種々の絶縁性基材が適用できる。
【0025】
ゲート電極20の材料には、例えば、白金、金、銀、銅、アルミ、モリブデン、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、タングステン、などの高融点金属、又はその合金等の金属材料、ルテニウム酸化物を含む導電性の金属酸化物、あるいはp
+−シリコン層やn
+−シリコン層が適用できる。
【0026】
本実施形態における薄膜トランジスタ100においては、ゲート絶縁層34が、ポリシラザン(polysilazane)を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするシリコン酸化物(但し、不可避不純物を含み得る。以下、この材料の酸化物に限らず他の材料の酸化物についても同じ。)である。
【0027】
本実施形態のゲート絶縁層34の厚みは50nm以上300nm以下が好ましい。ゲート絶縁層34の厚みの上限は特に制限はないが、例えば、300nmを超えると、チャネルの界面特性に影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。一方、その厚みが50nm未満になることは、リーク電流増加や膜の基板への被覆性劣化などの観点から好ましくない。なお、本実施形態のゲート絶縁層34を用いるデバイスの種類によっては、50nm未満の厚みであっても適用され得るため、その下限値についても特に限定されない。
【0028】
また、ゲート絶縁層34の比誘電率は、3以上100以下が好ましい。ゲート絶縁層34の比誘電率が100を超えると、時定数が大きくなるため、トランジスタの高速動作を妨げる要因になる一方、比誘電率が3未満になれば、ゲート絶縁膜による誘起電荷量が低減してデバイス特性が劣化する可能性があるため好ましくない。なお、前述の観点から言えば、比誘電率が3以上10以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態のチャネル44は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)を含むチャネル用酸化物からなる。また、チャネル用酸化物は、インジウム(In)を1としたときに0.046以上0.375以下の原子数比となるジルコニウム(Zr)を含む。後述するように、チャネル44における、インジウム(In)を1としたときのジルコニウム(Zr)の原子数比が0.046以上0.375以下の原子数比である薄膜トランジスタは、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とからなる酸化物の場合は形成することが困難であった、過度の酸素欠損を抑制することが可能になる。その結果、薄膜トランジスタとしての各種の特性(例えば、ヒステリシスの低減又はON/OFF比)を格段に向上させることができる。なお、本願発明者らのさらなる研究と分析によれば、チャネル44におけるインジウム(In)を1としたときに0.03以上0.07以下の原子数比となるジルコニウム(Zr)を含むときに、最もヒステリシスが低減されることが知見された。
【0030】
また、本実施形態のチャネル用酸化物は、アモルファス相であることから、チャネル44に接するゲート絶縁層34との良好な界面状態が得られると考えられる。その結果、良好な電気特性を備えた薄膜トランジスタが形成され得る。なお、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)を含むチャネル用酸化物からなるチャネル44は、ZIZO層とも呼ばれる。
【0031】
また、チャネル44の厚みが、5nm以上80nm以下である、チャネル44の厚みが5nm以上80nm以下である薄膜トランジスタは、確度高くゲート絶縁層34等を覆う観点、及びチャネルの導電性の変調を容易にする観点から好適な一態様である。
【0032】
また、本実施形態のソース電極58及びドレイン電極56は、ITO(Indium Tin Oxide)からなる。
【0033】
2.薄膜トランジスタ100の製造方法
(1)ゲート電極の形成
まず、
図1に示すように、ゲート電極20が、公知のスパッタリング法やCVD法により基材であるSiO
2/Si基板(以下、単に「基板」ともいう)10上に形成される。
【0034】
(2)ゲート絶縁層の形成
次に、
図2に示すように、ゲート電極20上に、公知のスピンコーティング法により、ポリシラザン(polysilazane)を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層32を形成する。
【0035】
より具体的には、本実施形態のポリシラザンは、反応溶媒(例えば、炭化水素類、エーテル類、アミド類、アミン類、エステル類)内に、ジクロロシラン、トリクロロシラン、及びアンモニアを導入し、それらを触媒存在下で反応させることによって合成することができる。
【0036】
その後、溶質である本実施形態のポリシラザンをキシレンに溶解させた、濃度が5重量%のゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層32を、上述のとおり、ゲート電極20上に形成する。なお、最終的に十分なゲート絶縁層34の厚み(例えば、約120nm)を得るために、本実施形態では、1度のスピンコーティング法によるゲート絶縁層用前駆体層32の形成を行った。
【0037】
その後、例えば、大気中で、所定時間(例えば、2時間)、250℃以上450℃以下で加熱する焼成工程が行われる。なお、本実施形態においては、「大気中」には水蒸気が含まれる。また、この焼成により、ポリシラザンが水蒸気による加水分解反応を経て、該ポリシラザンのSi−N結合の一部又は全てSi−O結合を形成することができるため、シリコン酸化膜に転換されることになる。
【0038】
その結果、
図3に示すように、ゲート電極20上に、シリコン酸化物の層であるゲート絶縁層34が形成される。
【0039】
ところで、本実施形態におけるゲート絶縁層34は、ポリシラザンを溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を焼成することによって形成されている。本出願では、前述のように、前駆体溶液を出発材とし、それを焼成することによってゲート絶縁層34やその他の酸化物層を形成する方法を、便宜上、「溶液法」とも呼ぶ。
【0040】
(3)チャネルの形成
図4に示すように、ゲート絶縁層34上に、公知のスピンコーティング法により、チャネル用前駆体層42を形成する。本実施形態では、インジウム(In)を含む前駆体、亜鉛(Zn)を含む前駆体、及び前記インジウム(In)を1としたときに0.046以上0.375以下の原子数比となるジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とするチャネル用前駆体溶液を出発材とするチャネル用前駆体層42が形成される。
【0041】
その後、予備焼成として、チャネル用前駆体層42を所定時間、80℃以上250℃以下の範囲で加熱する。なお、上述の予備焼成は、酸素雰囲気中又は大気中(以下、総称して、「酸素含有雰囲気」ともいう。)で行われる。
【0042】
さらにその後、本焼成として、チャネル用前駆体層42を、酸素雰囲気中(例えば100体積%であるが、これに限定されない。以下の「酸素雰囲気」についても同じ。)、所定時間、350℃以上550℃以下の範囲で加熱することにより、
図5に示すように、ゲート絶縁層34上に、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)からなる酸化物であるチャネル44が形成される。
【0043】
ここで、本実施形態におけるチャネル44のためのインジウム(In)を含む前駆体の例は、インジウムアセチルアセトナートである。その他の例として、酢酸インジウム、硝酸インジウム、塩化インジウム、又は各種のインジウムアルコキシド(例えば、インジウムイソプロポキシド、インジウムブトキシド、インジウムエトキシド、インジウムメトキシエトキシド)が採用され得る。また、本実施形態におけるチャネル44のための亜鉛(Zn)を含む前駆体の例は、塩化亜鉛である。その他の例として、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、又は各種の亜鉛アルコキシド(例えば、亜鉛イソプロポキシド、亜鉛ブトキシド、亜鉛エトキシド、亜鉛メトキシエトキシド)が採用され得る。また、本実施形態におけるチャネル44のためのジルコニウム(Zr)を含む前駆体の例は、ジルコニウムブトキシドである。その他の例として、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、又はその他の各種のジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシド)が採用され得る。
【0044】
(4)ソース電極及びドレイン電極の形成
さらにその後、
図6に示すように、チャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜90が形成された後、チャネル44及びレジスト膜90上に、公知のスパッタリング法により、ITO層50を形成する。本実施形態のターゲット材は、例えば、5wt%酸化錫(SnO
2)を含有するITOであり、室温下において形成される。その後、レジスト膜90が除去されると、
図7に示すように、チャネル44上に、ITO層50によるドレイン電極56及びソース電極58が形成される。
【0045】
その後、ドレイン電極56、ソース電極58、及びチャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜90が形成された後、レジスト膜90、ドレイン電極56の一部、及びソース電極58の一部をマスクとして、公知のアルゴン(Ar)プラズマによるドライエッチング法を用いて、露出しているチャネル44を除去する。その結果、パターニングされたチャネル44が形成されることにより、薄膜トランジスタ100が製造される。
【0046】
3.薄膜トランジスタ100の特性
次に、第1実施形態をより詳細に説明するために、実施例1を説明するが、本実施形態はこの例によって限定されるものではない。実施例1については、以下の方法によって、薄膜トランジスタ100の特性が調べられた。
【0047】
(実施例1)
実施例1においては、まず、基板10の上にゲート電極20として、p
+−シリコン層を形成した。p
+−シリコン層は、公知のCVD法により形成された。実施例1では、SiO
2上に約10nm厚のTiO
X膜(図示しない)が形成されている。なお、基板10がp
+−シリコン基板である場合は、この基板10がゲート電極の役割を果たし得る。
【0048】
次に、ゲート電極20上に、公知のスピンコーティング法により、ポリシラザンを溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層32を形成する。その後、大気中で2時間、250℃以上450℃以下でゲート絶縁層用前駆体層32を加熱することにより、ゲート電極20上に、シリコン酸化物の層であるゲート絶縁層34が形成される。なお、ゲート絶縁層34の厚みは、250℃の場合は約121nmであり、350℃の場合は約118nmであり、450℃の場合は約115nmであった。
【0049】
その後、ゲート絶縁層34上に、公知のスピンコーティング法により、インジウム(In)を含む前駆体、亜鉛(Zn)を含む前駆体、及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とするチャネル用前駆体溶液を出発材とするチャネル用前駆体層42を形成した。なお、チャネル用前駆体層42のためのインジウム(In)を含む前駆体として、インジウムアセチルアセトナートを採用した。また、チャネル用前駆体層42のための亜鉛(Zn)を含む前駆体として、亜鉛ブトキシドを採用した。また、ジルコニウム(Zr)を含む前駆体として、ジルコニウムブトキシドを採用した。
【0050】
次に、予備焼成として、チャネル用前駆体層を約5分間、250℃に加熱する。その後、本焼成として、チャネル用前駆体層42を、酸素雰囲気中、500℃で約10分間加熱することにより、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)からなるチャネル用酸化物層が形成された。実施例1のチャネル用酸化物層におけるインジウム(In)と亜鉛(Zn)とジルコニウム(Zr)との原子数比は、インジウム(In)を1としたときに亜鉛(Zn)が0.5であり、ジルコニウム(Zr)が0.046であった。また、チャネル用酸化物層の厚みは約20nmであった。その後、第1の実施形態のとおり、ソース電極58及びドレイン電極56が形成された。
【0051】
(1)電流−電圧特性
図10は、一例としての、ゲート絶縁層用前駆体層32を450℃で加熱することによって形成されたゲート絶縁層34を備える薄膜トランジスタ100のVg−Id特性、及びオフ電流を示すグラフである。なお、
図10におけるV
D(1.5V)は、薄膜トランジスタ100のソース電極58とドレイン電極56間に印加された電圧(V)である。また、表1は、薄膜トランジスタ100における閾値(V
th)、電界効果移動度(μ
FE)、及びON/OFF比を示している。
【0053】
図10及び表1に示すように、第1の実施形態における薄膜トランジスタ100のVg−Id特性を調べたところ、閾値(V
th)が2.6Vであり、電界効果移動度(μ
FE)が19.7cm
2/Vsであった。また、ON/OFF比は、4.3×10
7であった。従って、薄膜トランジスタ100は、それを構成するゲート絶縁層及びチャネルが、酸化物層であるとともに溶液法を採用することによって形成されているにもかかわらず、トランジスタとしての機能を十分に発揮し得ることが確認された。なお、この例においては、チャネル44の本焼成の温度が500℃であったが、発明者らの実験結果から、本焼成における加熱温度が、350℃以上500℃以下であれば、薄膜トランジスタとして機能することが確認された。加えて、本焼成における加熱温度が、400℃以上500℃以下であれば、トランジスタの各電気特性の安定性が向上することも確認された。
【0054】
(2)比誘電率
実施例1において、比誘電率は、東陽テクニカ社製、1260−SYS型広帯域誘電率測定システムを用いた。その結果、ゲート絶縁層34の酸化物の比誘電率を測定すると、概ね3以上6以下であった。
【0055】
(3)XRD分析による結晶構造解析
実施例1におけるチャネルについてX線回折(XRD:X−Ray Diffraction)装置による分析を行った。その結果、特徴的なピークが観察されなかったため、チャネルを構成するチャネル用酸化物がアモルファス相であることが分かった。本実施例では、チャネル用酸化物がジルコニウム(Zr)を含有していることから、アモルファス相を比較的容易に形成することが可能となるため、酸化物の層の平坦性を高めることができる。加えて、アモルファス相を比較的容易に形成することが可能となるため、ゲート絶縁層34との良好な界面が形成され得る。
【0056】
(4)XPS測定装置による酸化物中の酸素原子の分析
実施例1におけるチャネルと厚みのみが異なるチャネル用酸化物に含まれる酸素原子についてXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)測定装置による酸化物中の酸素原子の分析を行った。具体的には、この分析対象は、約30nm厚のインジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)からなる酸化物である。従って、この酸化物は、実質的にチャネル用酸化物であるといえる。
【0057】
図11は、このインジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)からなる酸化物に含まれる酸素原子のXPS分析結果を示すグラフである。また、
図12は、参照用測定対象としての酸化物に含まれる酸素原子のXPS分析結果を示すグラフである。なお、この参照用測定対象は、インジウム(In)及び亜鉛(Zn)からなる(従って、ジルコニウム(Zr)を含まない)酸化物であって、材料の違いを除いては、第1の実施形態と同様の溶液法によって形成されたものである。また、
図11の(a1)及び
図12の(a2)は、金属−酸素結合に由来するピークであると考えられる。例えばZIZO層の場合、
図11の(a1)及び
図12の(a2)のピークは、O
2−とZr又はIn又はZnとの結合を示すピークであると考えられる。また、
図11の(c1)及び
図12の(c2)は、前述の酸化物中の表面におけるH
2O、O
2、又はCO
2に由来する弱い酸素結合に由来するピークであると考えられる。そして、
図11の(b1)及び
図12の(b2)は、531eV以上532eV以下(531eV近傍ともいう。)のピークであり、前述の酸化物中の酸素の欠損状況を反映する、又は酸化物中の酸素の欠損状態に由来すると考えられるピークである。
【0058】
図11及び
図12に示すように、ジルコニウム(Zr)を含有する酸化物は、それを含有しない酸化物よりも、531.9eV近傍のピークが小さくなっていることが分かる。
より具体的には、
図11に示す(b1)においては、酸素原子の総数を1としたときの、531.9eV近傍のピークに起因する酸素原子数が、0.200であった。また、
図12に示す(b2)においては、酸素原子の総数を1としたときの、531.9eV近傍のピークに起因する酸素原子数が、0.277であった。
【0059】
その後の発明者らの更なる分析により、その酸化物中のジルコニウム(Zr)の含有量を増加させるにしたがって、531.9eV近傍のピークが小さくなっていくことが知見された。従って、
図11に示す(b1)のピークの状況を形成することにより、酸素の欠損が抑制されることになると考えられる。従って、
図11に示す(b1)のピークの状況が、トランジスタを動作させる際の適切なキャリア濃度への調整と、ゲート絶縁膜との界面特性の向上に寄与すると考えられる。そして、特に、酸素原子の総数を1としたときの、上述の531eV以上532eV以下の範囲内のピークに起因する酸素原子の数が、0.19以上0.21以下であれば、過度の酸素欠損を抑制するため、薄膜トランジスタとしての各種の特性(例えば、ヒステリシスの低減、ON/OFF比)の向上に寄与することになる。
【0060】
(5)AFMによる酸化物表面の観察及びその表面粗さの分析
さらに、実施例1におけるチャネルと厚みのみが異なるチャネル用酸化物のAFM(Atomic force microscopy)像の観察とその表面粗さの分析を行った。
図13は、そのチャネル用酸化物、及び参照用測定対象としての酸化物の表面のAFM像と表面粗さを示す図である。
【0061】
具体的には、XPS分析結果の場合と同様に、約30nm厚のインジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)からなる酸化物(
図13の試料A)が分析対象である。従って、この酸化物も、実質的にチャネル用酸化物であるといえる。また、インジウム(In)及び亜鉛(Zn)からなる(従って、ジルコニウム(Zr)を含まない)酸化物であって、材料の違いを除いては、第1の実施形態と同様の溶液法によって形成されたもの(
図13の試料B)も参照用測定対象として分析した。
【0062】
図13に示すように、表面粗さの観点から言えば、ジルコニウム(Zr)を含有する酸化物は、それを含有しない酸化物よりも二乗平均平方根(RMS:Root Mean Square)の値が小さいことが確認された。また、その後の発明者らの更なる分析により、その酸化物中のジルコニウム(Zr)の含有量を増加させるにしたがって、RMSの値が小さくなっていくことが知見された。従って、実施例1におけるチャネルは、ジルコニウム(Zr)を含有することにより平坦性を高められることが明らかとなった。この平坦性の高さは、特に、積層構造を有する薄膜トランジスタを形成するときの寸法精度の向上に寄与し得るとともに、チャネルとゲート絶縁膜との界面特性の向上につながる。
【0063】
上述のとおり、本実施形態の薄膜トランジスタ100は、薄膜トランジスタとしての良好な電気特性を実現し得ることが明らかとなった。また、本実施形態の薄膜トランジスタ100の製造方法によれば、ゲート絶縁層及びチャネルが酸化物によって構成されるとともに、溶液法を用いて形成されているため、従来の方法と比較して大面積化が容易になるとともに、工業性ないし量産性が格段に高められることになる。
【0064】
<第2の実施形態>
1.本実施形態の薄膜キャパシタの全体構成
図14乃至
図18は、それぞれ、薄膜トランジスタ200の製造方法の一部の一過程を示す断面模式図である。また、
図18は、本実施形態における薄膜トランジスタ200の製造方法の一部の一過程及び全体構成を示す断面模式図である。
図18に示すように、本実施形態における薄膜トランジスタ200においては、基板10上に、下層から、ゲート電極20、第1ゲート絶縁層234a、第2ゲート絶縁層234b(なお、積層されたゲート絶縁層234)、チャネル44、ソース電極58及びドレイン電極56の順序で積層されている。
【0065】
本実施形態は、薄膜トランジスタ200のゲート絶縁層234が、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる多元系酸化物(不可避不純物を含み得る)の層である第2ゲート絶縁層234bと、第1の実施形態で採用されたシリコン酸化物と同じシリコン酸化物からなる第1ゲート絶縁層234aとを積層構造にしたものである点を除いて、第1の実施形態と同様である。従って、薄膜トランジスタ200の構成については、第1の実施形態の薄膜トランジスタ100と異なる構成とその製造方法についてのみ説明する。
【0066】
図14に示すように、本実施形態における薄膜トランジスタ200は、ゲート絶縁層234として、第2ゲート絶縁層234bと第1ゲート絶縁層234aとの積層構造を採用している。
【0067】
本実施形態の薄膜トランジスタ200の製造方法においては、まず、
図14に示すように、基板10上のゲート電極20上に第1の実施形態で採用されたシリコン酸化物と同じ第1ゲート絶縁層234aが形成される。
【0068】
その後、
図15に示すように、第1ゲート絶縁層234a上に、公知のスピンコーティング法により、ランタン(La)を含む前駆体及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とする第2ゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とする第2ゲート絶縁層用前駆体層232bを形成する。
【0069】
本実施形態における第2ゲート絶縁層用の多元系酸化物234bのためのランタン(La)を含む前駆体の例は、酢酸ランタンである。その他の例として、硝酸ランタン、塩化ランタン、又は各種のランタンアルコキシド(例えば、ランタンイソプロポキシド、ランタンブトキシド、ランタンエトキシド、ランタンメトキシエトキシド)が採用され得る。また、本実施形態における第2ゲート絶縁層用の多元系酸化物234bのためのジルコニウム(Zr)を含む前駆体の例は、ジルコニウムブトキシドである。その他の例として、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、又はその他の各種のジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシド)が採用され得る。
【0070】
その後、予備焼成として、所定時間、80℃以上250℃以下で加熱する。ところで、この予備焼成により、第2ゲート絶縁層用前駆体層232b中の溶媒を十分に蒸発させるとともに、将来的な塑性変形を可能にする特性を発現させるために好ましいゲル状態(熱分解前であって有機鎖が残存している状態と考えられる)を形成することができる。前述の観点をより確度高く実現するから言えば、予備焼成温度は、80℃以上250℃以下が好ましい。また、この温度範囲は、他の材料における予備焼成の好ましい温度範囲でもある。
【0071】
なお、この予備焼成は、酸素含有雰囲気で行われる。本実施形態では、最終的に十分なゲート絶縁層34の厚み(例えば、約125nm)を得るために、前述のスピンコーティング法による第2ゲート絶縁層用前駆体層232bの形成と予備焼成を複数回繰り返す。さらにその後、本焼成として、第2ゲート絶縁層用前駆体層232bを、酸素雰囲気中、所定時間、350℃以上550℃以下加熱することにより、
図16に示すように、シリコン酸化物である第1ゲート絶縁層234a上に、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とからなる酸化物である第2ゲート絶縁層234bが形成される。なお、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とを含む酸化物からなる層は、LZO層とも呼ばれる。
【0072】
その後、第1の実施形態と同様に、第2ゲート絶縁層234b上に公知のスピンコーティング法により、インジウム(In)を含む前駆体、亜鉛(Zn)を含む前駆体、及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とするチャネル用前駆体溶液を出発材とするチャネル用前駆体層42を形成した。その後、第1の実施形態と同様の予備焼成、及び本焼成を行われる。
【0073】
さらにその後、第1の実施形態と同様に、チャネル44上に、ITO層50によるドレイン電極56及びソース電極58が形成されることにより、第1ゲート絶縁層234aと第2ゲート絶縁層234bとを積層構造にしたゲート絶縁層234を備えた、本実施形態の薄膜トランジスタ200が製造される。
【0074】
なお、本実施形態においては、第1ゲート絶縁層234aの上に第2ゲート絶縁層234bが積層されたゲート絶縁層234が採用されているが、本実施形態は、この構造に限定されない。例えば、第2ゲート絶縁層234bの上に第1ゲート絶縁層234aが積層されたゲート絶縁層が採用されることも、本実施形態の効果の少なくとも一部の効果が奏される点で他の好ましい一態様である。
【0075】
ただし、チャネル44に含まれるジルコニウム(Zr)のゲート絶縁層234中への拡散は、ゲート絶縁層内のいわゆるトラップ順位を形成する可能性があるため、好ましくない。従って、チャネル44に含まれるジルコニウム(Zr)のゲート絶縁層234中への拡散を確度高く防ぐ観点から言えば、第1ゲート絶縁層234aの上に第2ゲート絶縁層234bが積層されたゲート絶縁層234が採用されるとともに、第2ゲート絶縁層234bがチャネル44に接するように配置されることが好ましい。
【0076】
加えて、シリコン酸化物の層である第1ゲート絶縁層234aの厚みを1としたときに、多元系酸化物の層である第2ゲート絶縁層234bの厚みが、0.1以上2以下であることは、より確度高く上述の効果を奏させる観点から好ましい一態様である。
【0077】
3.薄膜トランジスタ200の特性
次に、第2の実施形態をより詳細に説明するために、実施例2を説明するが、本実施形態はこの例によって限定されるものではない。実施例2については、以下の方法によって、薄膜トランジスタ200の特性が調べられた。
【0078】
(実施例2)
実施例2においては、第2ゲート絶縁層用の多元系酸化物234bのためのランタン(La)を含む前駆体を、ランタンアセチルアセトナートとした。また、第2ゲート絶縁層用の多元系酸化物234bのためのジルコニウム(Zr)を含む前駆体を、ジルコニウムブトキシドとした。それらを除いて実施例1と同様の条件で薄膜トランジスタ200が作製された。また、第2ゲート絶縁層用の厚みは約120nmであった。
【0079】
(1)電流−電圧特性
図19は、薄膜トランジスタ200のVg−Id特性を示すグラフである。
図19におけるV
Dは、薄膜トランジスタ200のソース電極58とドレイン電極56間に印加された電圧(V)である。また、表1は、薄膜トランジスタ200における閾値(V
th)、電界効果移動度(μ
FE)、及びON/OFF比を示している。
【0081】
図19及び表2に示すように、第2の実施形態における薄膜トランジスタ200のVg−Id特性を調べたところ、閾値(V
th)が0Vであり、電界効果移動度(μ
FE)が3.17cm
2/Vsであった。また、ON/OFF比は、10
8のオーダー以上という非常に高い値であった。従って、薄膜トランジスタ200は、それを構成するゲート絶縁層及びチャネルが、酸化物層であるとともに溶液法を採用することによって形成されているにもかかわらず、トランジスタとしての機能を十分に発揮し得ることが確認された。なお、この例においても、チャネル44の本焼成の温度が500℃であったが、発明者らの実験結果から、本焼成における加熱温度が、350℃以上500℃以下であれば、薄膜トランジスタとして機能することが確認された。加えて、本焼成における加熱温度が、400℃以上500℃以下であれば、トランジスタの各電気特性の安定性が向上することも確認された。
【0082】
(2)比誘電率
実施例2において、比誘電率を測定した結果、積層構造であるゲート絶縁層234の全体としての比誘電率を測定すると、概ね4.2以上8.4以下であった。
【0083】
(3)XRD分析による結晶構造解析
実施例2におけるチャネルについてもX線回折装置による分析が行われた結果、特徴的なピークが観察されなかったため、チャネルを構成するチャネル用酸化物がアモルファス相であることが分かった。従って、本実施形態においても、チャネル用酸化物がジルコニウム(Zr)を含有していることから、アモルファス相を比較的容易に形成することが可能となるため、酸化物の層の平坦性を高めることができる。加えて、アモルファス相を比較的容易に形成することが可能となるため、ゲート絶縁層234との良好な界面が形成され得る。
【0084】
上述のとおり、本実施形態の薄膜トランジスタ200は、薄膜トランジスタとしての良好な電気特性を実現し得ることが明らかとなった。また、本実施形態の薄膜トランジスタ200の製造方法によれば、ゲート絶縁層及びチャネルが酸化物によって構成されるとともに、溶液法を用いて形成されているため、従来の方法と比較して大面積化が容易になるとともに、工業性ないし量産性が格段に高められることになる。
【0085】
<第3の実施形態>
本実施形態では、第2の実施形態における一部の層の形成過程において型押し加工が施されている点を除いて、第2の実施形態と同様である。したがって、第1及び第2の実施形態と重複する説明は省略され得る。なお、本実施形態の説明により、いわゆる当業者であれば、第1の実施形態においても一部の層の形成過程において型押し加工が施される態様は十分に理解され得るため、その説明を省略する。
【0086】
1.薄膜トランジスタ300の製造方法
図20乃至
図25は、それぞれ、薄膜トランジスタ300の製造方法の一過程を示す断面模式図である。また、
図25は、本実施形態における薄膜トランジスタ300の製造方法の一過程及び全体構成を示す断面模式図である。なお、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。
【0087】
(1)ゲート電極の形成
まず、
図20に示すように、ゲート電極20が、公知のスパッタリング法、フォトリソグラフィー法、及びエッチング法により基板10上に形成される。なお、本実施形態のゲート電極20の材料は、白金(Pt)である。
【0088】
(2)ゲート絶縁層の形成
次に、基板10及びゲート電極20上に、第1の実施形態と同様に、公知のスピンコーティング法により、ポリシラザン(polysilazane)を溶質とするゲート絶縁層用前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層332aを形成する。
【0089】
その後、本実施形態においては、第1ゲート絶縁層用前駆体層332aの予備焼成を行う。具体的には、第1ゲート絶縁層用前駆体層332aが、大気中(水蒸気を含む)で、80以上250℃未満に加熱される。ところで、この焼成工程により、ゲート絶縁層用前駆体層32中の溶媒を適度に又は十分に蒸発させるとともに、将来的な塑性変形を可能にする特性を発現させるために好ましいゲル状態(熱分解前であって有機鎖が残存している状態と考えられる)を形成し得る。前述の観点をより確度高く実現するから言えば、焼成温度は、80℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0090】
次に、公知のスピンコーティング法により、第1ゲート絶縁層用前駆体層332a上に、ランタン(La)を含む前駆体及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とする前駆体溶液を出発材とする第2ゲート絶縁層用前駆体層334bを形成する。その後、酸素含有雰囲気中、80以上250℃未満に加熱した状態で予備焼成を行う。なお、本実施形態においては、第1ゲート絶縁層用前駆体層332aを備えた積層構造を採用するため、後述する第1ゲート絶縁層用前駆体層332aの型押し加工の確度を高める観点から言えば、第2ゲート絶縁層用前駆体層334bに対する(予備)焼成温度は、80℃以上200℃以下であることがより好ましい。
【0091】
第1ゲート絶縁層用前駆体層332aと第2ゲート絶縁層用前駆体層334bとの積層構造となるゲート絶縁層用前駆体層332が形成された後、この積層構造に対する型押し加工が行われる。
【0092】
具体的には、予備焼成のみを行った積層構造のゲート絶縁層用前駆体層332のパターニングを行うため、
図20に示すように、水蒸気を含む酸素含有雰囲気中で、100以上250℃未満に加熱した状態で、ゲート絶縁層用型M1を用い、1MPa以上20MPa以下の圧力で型押し加工を施す。その結果、本実施形態のゲート絶縁層用型M1により、層厚が約100nm〜約150nmの第1ゲート絶縁層用前駆体層332aと、層厚が約50nm〜約150nmの第2ゲート絶縁層用前駆体層332bとが積層された、ゲート絶縁層用前駆体層332が形成される。
【0093】
その後、ゲート絶縁層用前駆体層332を全面エッチングすることにより、
図21に示すように、ゲート絶縁層に対応する領域以外の領域からゲート絶縁層用前駆体層332を除去する(ゲート絶縁層用前駆体層332の全面に対するエッチング工程)。なお、本実施形態のゲート絶縁層用前駆体層332のエッチング工程は、真空プロセスを用いることないウェットエッチング技術を用いて行われたが、プラズマを用いた、いわゆるドライエッチング技術によってエッチングされることを妨げない。
【0094】
その後、所定時間、本焼成として450℃以上500℃以下で加熱することにより、
図22に示すように、基板10及びゲート電極20上に、ゲート絶縁層334が形成される。
【0095】
(3)チャネルの形成
予備焼成のみを行ったチャネル用前駆体層42に対して、型押し加工を施す。まず、ゲート絶縁層334及び基板10上に、第1の実施形態と同様に、インジウム(In)を含む前駆体、亜鉛(Zn)を含む前駆体、及びジルコニウム(Zr)を含む前駆体を溶質とするチャネル用前駆体溶液を出発材とするチャネル用前駆体層42を形成する。その後、第1の実施形態と同様に予備焼成として、チャネル用前駆体層42を所定時間、350℃以上550℃以下の範囲で加熱する。
【0096】
次に、
図23に示すように、80℃以上300℃以下に加熱した状態で、チャネル用型M2を用いて、1MPa以上20MPa以下の圧力でチャネル用前駆体層42に対して型押し加工を施す。その結果、層厚が約50nm以上約300nm以下のチャネル用前駆体層42が形成される。その後、所定時間、350℃以上550℃以下の範囲で本焼成することにより、
図24に示すように、ゲート絶縁層334上に、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)からなるチャネル44が形成される。
【0097】
(4)ソース電極及びドレイン電極の形成
次に、第1の実施形態と同様、チャネル44上に、公知のフォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜が形成された後、チャネル44及びレジスト膜上に、公知のスパッタリング法により、ITO層を形成する。その後、レジスト膜が除去されると、
図25に示すように、チャネル44上に、ITO層によるドレイン電極56及びソース電極58が形成される。
【0098】
本実施形態では、高い塑性変形能力を得た前駆体層に対して型押し加工を施すこととしている。その結果、型押し加工を施す際に印加する圧力が1MPa以上20MPa以下という低い圧力であっても、各前駆体層が型の表面形状に追随して変形するようになり、所望の型押し構造を高い精度で形成することが可能となる。また、その圧力を1MPa以上20MPa以下という低い圧力範囲に設定することにより、型押し加工を施す際に型が損傷し難くなるとともに、大面積化にも有利となる。
【0099】
ここで、上記の圧力を「1MPa以上20MPa以下」の範囲内としたのは、以下の理由による。まず、その圧力が1MPa未満の場合には、圧力が低すぎて各前駆体層を型押しすることができなくなる場合があるからである。他方、その圧力が20MPaもあれば、十分に前駆体層を型押しすることができるため、これ以上の圧力を印加する必要がないからである。前述の観点から言えば、上述の第3の実施形態における型押し工程においては、2MPa以上10MPa以下の範囲内にある圧力で型押し加工を施すことが、より好ましい。
【0100】
なお、第3の実施形態では、第2の実施形態の積層構造からなるゲート絶縁層334及びチャネル44に対して型押し加工を施したが、型押し加工の対象はこれらに限定されない。例えば、第1の実施形態の単層のゲート絶縁層34に対しても、上述の各条件によって型押し加工を施すことにより、型押し構造を形成することが可能である。
【0101】
上述のように、本実施形態では、ゲート絶縁層334及びチャネル44に対して型押し加工を施すことによって型押し構造を形成する、「型押し工程」が採用されている。この型押し工程が採用されることにより、真空プロセスやフォトリソグラフィー法を用いたプロセス、あるいは紫外線の照射プロセス等、比較的長時間、及び/又は高価な設備を必要とするプロセスが不要になる。従って、薄膜トランジスタ300及びその製造方法は、極めて工業性ないし量産性に優れている。
【0102】
<その他の実施形態>
上述の各実施形態における効果を適切に奏させるために、チャネル用前駆体溶液の溶媒は、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールの群から選択される1種のアルコール溶媒、又は酢酸、プロピオン酸、オクチル酸の群から選択される1種のカルボン酸である溶媒であることが好ましい。
【0103】
加えて、上述の各実施形態における効果を適切に奏させるために、ゲート絶縁層用前駆体溶液の溶媒は、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールの群から選択される1種のアルコール溶媒、又は酢酸、プロピオン酸、オクチル酸の群から選択される1種のカルボン酸、キシレン、あるいはジブチルエーテルであることが好ましい。
【0104】
また、上述の実施例1において、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)からなるチャネル用酸化物層における、インジウム(In)と亜鉛(Zn)との原子数の比率は、インジウム(In)を1としたときに亜鉛(Zn)が0.5に限定されない。例えば、少なくとも、インジウム(In)を1としたときに亜鉛(Zn)が0.4以上0.6以下の範囲内であれば、実施例1の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0105】
また、上述の第3の実施形態における各酸化物層を形成するための予備焼成の際、予備焼成温度は、もっとも好ましくは、80℃以上200℃以下である。これは、各種の前駆体層中の溶媒を、より適度に又は十分に蒸発させることが出来るからである。また、特に、その後に型押し工程を行う場合は、前述の温度範囲で予備焼成を行うことにより、将来的な塑性変形を可能にする特性を発現させるためにより好ましいゲル状態(熱分解前であって有機鎖が残存している状態と考えられる)を形成することができる。
【0106】
また、上述の第3の実施形態では、高い塑性変形能力を得た前駆体層に対して型押し加工を施すこととしている。その結果、型押し加工を施す際に印加する圧力を1MPa以上20MPa以下という低い圧力であっても、各前駆体層が型の表面形状に追随して変形するようになり、所望の型押し構造を高い精度で形成することが可能となる。また、その圧力を1MPa以上20MPa以下という低い圧力範囲に設定することにより、型押し加工を施す際に型が損傷し難くなるとともに、大面積化にも有利となる。
【0107】
ここで、上記の圧力を「1MPa以上20MPa以下」の範囲内としたのは、以下の理由による。まず、その圧力が1MPa未満の場合には、圧力が低すぎて各前駆体層を型押しすることができなくなる場合があるからである。他方、その圧力が20MPaもあれば、十分に前駆体層を型押しすることができるため、これ以上の圧力を印加する必要がないからである。前述の観点から言えば、上述の第3の実施形態における型押し工程においては、2MPa以上10MPa以下の範囲内にある圧力で型押し加工を施すことがより好ましい。
【0108】
また、上述のそれぞれの型押し工程において、予め、型押し面が接触することになる各前駆体層の表面に対する離型処理及び/又はその型の型押し面に対する離型処理を施しておき、その後、各前駆体層に対して型押し加工を施すことが好ましい。そのような処理を施すことにより、各前駆体層と型との間の摩擦力を低減することができるため、各前駆体層に対してより一層精度良く型押し加工を施すことが可能となる。なお、離型処理に用いることができる離型剤としては、界面活性剤(例えば、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等)、フッ素含有ダイヤモンドライクカーボン等を例示することができる。
【0109】
また、上述の各実施形態における各前駆体層に対する型押し工程と本焼成の工程との間に、型押し加工が施された各前駆体層(例えば、チャネル用前駆体層やゲート絶縁層用前駆体層)のうち最も層厚が薄い領域においてその前駆体層が除去される条件で、その前駆体層を全体的にエッチングする工程が含まれることは、より好ましい一態様である。これは、各前駆体層を本焼成した後にエッチングするよりも容易に不要な領域を除去することが可能なためである。従って、上述の各実施形態において、本焼成後に全面エッチングを行っている工程の代わりに、前述のより好ましい一態様を採用することができる。
【0110】
また、上述の各実施形態においては、いわゆる逆スタガ型の構造を有する薄膜トランジスタが説明されているが、上述の各実施形態はその構造に限定されない。例えば、スタガ型の構造を有する薄膜トランジスタのみならず、ソース電極、ドレイン電極、及びチャネルが同一平面上に配置される、いわゆるプレーナ型の構造を有する薄膜トランジスタであっても、上述の各実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。
【0111】
以上述べたとおり、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。