特許第6033711号(P6033711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033711
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】起伏ゲート式防波堤
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/40 20060101AFI20161121BHJP
【FI】
   E02B7/40
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-44390(P2013-44390)
(22)【出願日】2013年3月6日
(65)【公開番号】特開2014-173249(P2014-173249A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】仲保 京一
(72)【発明者】
【氏名】森井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】山川 善人
(72)【発明者】
【氏名】板垣 暢
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−085521(JP,U)
【文献】 特開2000−291600(JP,A)
【文献】 特開2009−191563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/40
E02B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格納部に形成された扉体格納空間に格納されている倒伏状態の扉体を起立させて港口を塞ぐ起伏ゲート式防波堤であって、
満潮時、タンク内の水位が満潮時の水位と同程度となるようにタンク内に海水を取水する海水タンクと、
一端が前記海水タンク内の下方に開口し、他端が前記海水タンクの上端を経て前記扉体格納空間の床面と前記倒伏状態にある扉体の反海域側の面との間の扉体格納空間内に開口した送水配管と、
一端が前記送水配管の他端側開口と対向するように前記扉体格納空間内に開口し、他端が海域に開口した排水配管と、
を備え、
前記送水配管には、常時は閉状態で潮位が低下した時に開放する送水弁を、前記排水配管には、扉体格納空間から海域側に海水が流出する方向のみ許容する逆止弁を設けたことを特徴とする起伏ゲート式防波堤。
【請求項2】
倒伏状態にある扉体の反海域側の面と、前記送水配管の他端側開口との間に、海域から前記扉体格納空間内に落下してくる底質は通過する一方、前記扉体格納空間の床面に堆積した底質が倒伏状態にある扉体側への移動は抑制する半透過部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の起伏ゲート式防波堤。
【請求項3】
前記海水タンク内に海水を取水する際の異物混入を防止するため、海水タンクの側壁上端を超えて海水タンク外の海面と海水タンク内の水面を繋ぐ逆U字型の配管と、この配管途中に設けた開閉弁及びフィルターを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の起伏ゲート式防波堤。
【請求項4】
前記海水タンクの上面を密閉し、この密閉した海水タンクに開閉弁を設けた配管を介して蓄圧タンクを繋いで海水タンク内の海水に圧力を付与できるようにすると共に、前記海水タンクの上面にはタンク内の圧力を開放する排気弁を設けたことを特徴とする請求項3に記載の起伏ゲート式防波堤。
【請求項5】
潮位を検出するセンサーを更に設け、この潮位検出センサーによる潮位の検出に連動して前記送水弁の開閉制御を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の起伏ゲート式防波堤。
【請求項6】
前記送水弁は送水配管の、前記開閉弁は逆U字型の配管の、気中にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の起伏ゲート式防波堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高潮や津波対策として港口に設置される起伏ゲート式防波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
起伏ゲート式防波堤は、高潮や津波の発生が予測された際に、倒伏状態で格納されている扉体を起立させて港口を塞ぎ、高潮や津波が港内に浸入するのを防ぐものである(例えば特許文献1,2参照。)。
【0003】
このような起伏ゲート式防波堤の場合、扉体を格納する格納部の扉体格納空間は上面が開口しているので、扉体格納空間に底質が堆積することは避けられない。この堆積した底質が倒伏状態の扉体を覆うと、扉体の起立に支障が生じる場合が起こり得る。
【0004】
そこで、従来は、ダイバーが格納部の扉体格納空間に定期的に潜り、堆積した底質を、水中ポンプを用いて扉体格納空間から排出していた。
【0005】
しかしながら、ダイバーが定期的に潜って扉体格納空間に堆積した底質を排出する作業は、ダイバーに大きな負担を強いることになる。また、気象条件によっては予定していた時に排出作業ができなくなる場合もあるが、このような場合、次回の排出時には予定していた堆積量よりも多くの底質を排出することになって、ダイバーの負担がより大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−211457号公報
【特許文献2】特開2010−133095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、ダイバーが定期的に潜って格納部の扉体格納空間に堆積した底質を排出する場合、ダイバーに大きな負担を強いるという点である。また、気象条件によって予定していた時に作業ができなくなった場合は、次回の排出時には予定していた堆積量よりも多くの底質を排出することになるので、ダイバーの負担がより大きくなるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するために、格納部の扉体格納空間に堆積した底質をダイバーが潜って排出する必要がないようにすることを目的としてなされたものである。
【0009】
本発明は、
格納部に形成された扉体格納空間に格納されている倒伏状態の扉体を起立させて港口を塞ぐ起伏ゲート式防波堤であって、
満潮時、タンク内の水位が満潮時の水位と同程度となるようにタンク内に海水を取水する海水タンクと、
一端が前記海水タンク内の下方に開口し、他端が前記海水タンクの上端を経て前記扉体格納空間の床面と前記倒伏状態にある扉体の反海域側の面との間の扉体格納空間内に開口した送水配管と、
一端が前記送水配管の他端側開口と対向するように前記扉体格納空間内に開口し、他端が海域に開口した排水配管と、
を備え、
前記送水配管には、常時は閉状態で潮位が低下した時に開放する送水弁を、前記排水配管には、扉体格納空間から海域側に海水が流出する方向のみ許容する逆止弁を設けたことを最も主要な特徴としている。
【0010】
上記の本発明では、満潮時には満潮時の水位と同程度まで海水タンク内に海水が取水される。この状態から、潮位が低下して海水タンク内と海域間で水位差が生じた時に送水弁を開放する。
【0011】
この送水弁の開放により送水配管を介して扉体格納空間に海水タンク内の海水が送られ、送られた海水は排水配管を通って海域に排出する。そして、この海水の流れにより扉体格納空間に堆積した底質を排出する。
【0012】
送水が完了して海水タンク内の水位が低下すれば送水弁を閉じ、潮位の上昇により海水タンク内の貯水が回復するのを待つ。干満の周期は約半日であるため、潮位差を利用した本発明の運転は1日2回実施される。
【0013】
本発明において、倒伏状態にある扉体の反海域側の面と、送水配管の他端側開口との間に、海域から格納部の上面開口を通って扉体格納空間内に落下してくる海域中の底質は通過する一方、扉体格納空間の床面に堆積した底質が倒伏状態の扉体側に移動することは抑制する半透過部材を設けた場合は、底質の前記排出がより良好に行える。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、満潮時に取水した海水タンク内の海水を潮位低下時に送水配管を介して扉体格納空間に送水し、扉体格納空間に溜まった底質を、排水配管を通して海域に排出するので、ダイバーが潜らなくても扉体格納空間に堆積した底質を排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の起伏ゲート式防波堤の第1の例を示した概略構成図で、(a)満潮時、(b)は潮位低下時、(c)は底質の排出時を示す。
図2】(a)(b)は本発明の起伏ゲート式防波堤を構成する半透過部材の一例を示した図である。
図3】(a)(b)は海水タンク内に海水を取水する際の異物混入を防止する構成の一例を示した図である。
図4】本発明の起伏ゲート式防波堤の第2の例を示した概略図である。
図5】本発明の起伏ゲート式防波堤の第3の例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、格納部の扉体格納空間に堆積した底質をダイバーが潜って排出する必要がないようにするという目的を、満潮時に取水した海水タンク内の海水を、潮位低下時に送水配管を介して扉体格納空間に送水し、排水配管を通して海域に排出することで実現した。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、図1図5を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の起伏ゲート式防波堤の第1の例を示した概略構成図である。
【0018】
図1において、1は起伏ゲート式防波堤を構成する扉体であり、平時は格納部2の扉体格納空間2aに倒伏した状態で格納されている。そして、高潮や津波の発生が予測された際には、先端側の空気室に給気して基端側の回転軸1aを支点として先端側を起立させ、港口を塞ぐ。
【0019】
本発明は、上記起伏ゲート式防波堤において、海水を貯留する海水タンク3と、この海水タンク3内の海水を前記扉体格納空間2aに送水する送水配管4と、前記扉体格納空間2aに送水された海水を海域6に排出する排水配管5を備えた構成である。
【0020】
前記海水タンク3は、例えば満潮時の水位と同程度の高さを有した上部が開口したタンクで、満潮時に海水タンク3の上部から海水を取水して貯留するもので、例えば起伏ゲート式防波堤の機械室下部の空間に備えられる。
【0021】
また、前記送水配管4は、一端を前記海水タンク3内の下方に開口させる一方、他端は、海水タンク3の上部開口3aを経て扉体格納空間2aの床面2aaと前記倒伏状態にある扉体1の反海域側の面1bとの間の扉体格納空間2a内に開口させている。そして、送水配管4の内部に海水が留まっていない気中部分に、常時は閉状態で潮位が低下した時に開放される送水弁7を設置している。
【0022】
また、前記排水配管5は、前記送水配管4の他端側開口4bと対向するように、一端を扉体格納空間2a内に開口する一方、他端は海域6に開口させている。そして、その途中に、一端側開口5aから他端側開口5bに向かう方向にのみ海水の移動を許容する逆止弁8を設けている。
【0023】
これら送水配管4及び排水配管5は、扉体格納空間2aの床面2aaに堆積した底質9を効率良く海域6に排出するために、扉体1の幅方向に所定の間隔を存して複数設置している。
【0024】
10は、海域6から扉体格納空間2aの内部に落下してくる底質9を通過させるが、扉体格納空間2aの床面2aaに堆積した底質9が倒伏状態の扉体1側に移動することを抑制する半透過部材である。この半透過部材10は、倒伏状態の扉体1の反海域側の面1bと、前記送水配管4の他端側開口4b(前記排水配管5の一端側開口5a)との間に配置されている。
【0025】
前記半透過部材10は、上記作用を奏することができるものであれば、その構成は問わない。例えば図2(a)では山形鋼10aを複数個、図2(b)では横断面が三角形状の各材10bを複数個、それぞれの山部を上方向に向け、それぞれの山裾間が適宜の間隔dとなるように配置したものを示している。
【0026】
上記本発明では、満潮時には満潮時の水位と同程度まで海水タンク3に海水が取水されて貯留される(図1(a))。この状態では、送水弁7は閉じていることから、潮位が低下すれば、海水タンク3内と海域6との間で水位差が生じる(図1(b))。
【0027】
従って、例えば潮位検出センサーによって潮位を検出し、前記水位差が予め規定した水位差になった時に、図1(c)のように、送水弁7を開放するように制御すれば、送水配管4を介して扉体格納空間2aに海水タンク3内の海水が送り込まれる。送り込まれた海水は扉体格納空間2aの床面2aa上に堆積した底質9を押し流す。押し流された底質9は、半透過部材10の作用によって排水配管5の一端側開口5aに流れ込んで他端側開口5bから海域6に排出される。
【0028】
送水が完了して海水タンク3の水位が低下すれば送水弁7を閉じ、潮位の上昇により海水タンク3内の貯水が回復するのを待つ。干満の周期は約半日であるため、潮位差を利用した本発明の運転は1日2回実施される。
【0029】
すなわち、本発明では、ダイバーが潜らなくても、干満による潮位差によって扉体格納空間2aに堆積した底質9を排出することができる。なお、排水配管5に設けた逆止弁8の作用によって排水配管5を介して扉体格納空間2a内に海水が流れ込むことはない。
【0030】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0031】
例えば、海水の取水時に海水タンク3に異物が入るのを防止するため、図3(a)に示すように、海水タンク3の側壁上端に網状の異物捕捉材11を設置しても良い。
【0032】
或いは、図3(b)に示すように、海水タンク3の側壁上端からその両端部を海水タンク3の内側及び外側に降ろした逆U字型の配管12の途中に、開閉弁13と取り替えが可能なフィルター14を備えたものでも良い。この逆U字型の配管12による取水は、サイフォンの原理によるものであるため、その両端部は海面から出ないようにしておくことは言うまでもない。なお、前記開閉弁13は、前記送水弁7と同様、逆U字型の配管12の内部に海水が留まっていない気中部分に設ける。
【0033】
この図3(b)に示した構造の場合、図4に示すように、上面を密閉した海水タンク3に配管15を介して蓄圧タンク16を繋げば、配管15に設けた開閉弁17を開けて蓄圧タンク15の圧力を作用させれば、海水タンク3内の海水を送水することができる。なお、この場合、海水タンク3の上面を密閉するので、海水を取水するためには、海水タンク3の上面にタンク内の圧力を開放する排気弁18を設けておくことが必要である。
【0034】
また、排水配管5の途中に設ける逆止弁8の設置位置は特に限定されるものではないが、メンテナンスの容易性を考慮すれば、図5に示すように、扉体1の格納部2からダイバーがアクセスできる位置に設置することが望ましい。
【0035】
上記実施例では、倒伏状態の扉体1の反海域側の面1bと、前記送水配管4の他端側開口4b(排水配管5の一端側開口5a)との間に半透過部材10を配置しているが、この半透過部材10は必須の構成要素ではない。
【符号の説明】
【0036】
1 扉体
1b 反海域側の面
2 格納部
2a 扉体格納空間
2aa 床面
3 海水タンク
4 送水配管
4a 一端側開口
4b 他端側開口
5 排水配管
5a 一端側開口
5b 他端側開口
6 海域
7 送水弁
8 逆止弁
9 底質
10 半透過部材
11 異物捕捉材
12 逆U字型の配管
13 開閉弁
14 フィルター
15 配管
16 蓄圧タンク
17 開閉弁
18 排気弁
図1
図2
図3
図4
図5