(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載されたインクジェット法による塗布膜形成では、膜厚が均一な(膜厚精度の良い)塗布膜を得ることができなかった。具体的には、
図7(a)に示すようにインクジェット法により塗布膜を形成した場合、時間が経つにつれ
図7(b)に示すように、基板Wの上に形成された塗布膜91において、外縁部に塗布液が引き寄せられて盛り上がる、いわゆるコーヒーステイン現象が発生するため、塗布膜91の外周部が他に比べて厚くなってしまっていた。このような場合、膜厚が比較的均一な塗布膜中央部と比べて膜厚差が大きい外縁部は、後の工程に使用することができず、除外しなければならないため、塗布基板の利用効率が下がってしまっていた。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、膜厚精度の良い塗布膜を得ることができる塗布膜形成方法および塗布装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の塗布膜形成方法は、基板へ塗布液を塗布し、所定の膜厚の塗布膜を形成する第1の塗布工程と、前記第1の塗布工程によって基板上に形成された第1の塗布膜の外縁部にコーヒーステイン現象により盛り上がりが生じるまで当該第1の塗布膜への塗布液の塗布を待機する待機工程と、当該第1の塗布膜の上方から、塗布液を重ねて塗布する第2の塗布工程と、を有し、前記第2の塗布工程において塗布液を吐出する領域は、前記第1の塗布膜が有する領域の内側であることを特徴としている。
【0009】
上記の塗布膜形成方法によれば、待機工程を有すること、および、第2の塗布工程において塗布液を吐出する領域は、第1の塗布膜が有する領域の内側であることにより、全面にわたって膜厚精度が良い塗布膜を得ることができる。具体的には、待機工程により第1の塗布膜の外縁部に盛り上がりが生じ、その後第2の塗布工程において第1の塗布膜の上に形成された塗布膜が外側に広がる挙動を示し、前記盛り上がりに覆いかぶさるため、最終的に得られる塗布膜は外縁部が平坦化されたような形状を有し、その結果、膜厚精度が良い塗布膜を得ることができる。
【0010】
また、前記第2の塗布工程において塗布液を吐出する領域の外縁端は、前記盛り上がりの頂上部よりも内側であると良い。
【0011】
こうすることにより、さらに膜厚精度の良い塗布膜を得ることができる。
【0012】
また、前記第1の塗布膜の領域の外縁端と前記第2の塗布工程において塗布液を吐出する領域の外縁端との距離d1は、前記盛り上がりが生じている部分の幅をd0としたときにd0≦d1≦1.25d0の関係が成り立つと良い。
【0013】
この関係式が成り立つように塗布することにより、さらに膜厚精度の良い塗布膜を得ることができる。
【0014】
また、前記第2の塗布工程は、前記第1の塗布膜の表面が半硬化状態であって、前記第2の塗布工程で吐出した塗布液が前記第1の塗布膜と一体化可能である間に行うと良い。
【0015】
こうすることにより、形成される塗布膜が二層にならずに、全面にわたって膜厚精度の良い単層の塗布膜を得ることができる。
【0016】
また、上記課題を解決するために本発明の塗布装置は、基板へ塗布液を吐出する塗布ヘッドと、前記塗布ヘッドからの塗布液の吐出条件を制御する制御部と、を備え、基板に塗布液を塗布する塗布装置であって、前記塗布ヘッドが基板へ塗布液を塗布し、所定の膜厚の塗布膜を形成する第1の塗布モードと、前記第1の塗布モードによって基板上に形成された第1の塗布膜の外縁部にコーヒーステイン現象により盛り上がりが生じるまで当該第1の塗布膜への塗布液の塗布を待機する待機モードと、前記塗布ヘッドが当該第1の塗布膜の上方から塗布液を重ねて塗布する第2の塗布モードと、を有し、前記第2の塗布モードにおいて塗布液を吐出する領域は、前記第1の塗布膜が有する領域の内側であるように前記制御部が前記塗布ヘッドを制御することを特徴としている。
【0017】
上記の塗布装置によれば、待機モードを有すること、および、第2の塗布モードにおいて塗布液を吐出する領域は、第1の塗布膜が有する領域の内側であることにより、全面にわたって膜厚精度が良い塗布膜を得ることができる。具体的には、待機モードにより第1の塗布膜の外縁部に盛り上がりが生じ、その後第2の塗布モードにおいて第1の塗布膜の上に形成された塗布膜が外側に広がる挙動を示し、前記盛り上がりに覆いかぶさるため、最終的に得られる塗布膜は外縁部が平坦化されたような形状を有し、その結果、膜厚精度が良い塗布膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の塗布膜形成方法および塗布装置によれば、膜厚精度の良い塗布膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る実施の形態を図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明を実施する塗布装置の概略図である。
塗布装置1は、塗布部2、塗布ステージ3、アライメント部4、および制御部5を備えており、塗布部2が塗布ステージ3上の基板Wの上方を移動しながら塗布部2内のノズルから塗布液の液滴を吐出することにより、基板Wへの塗布動作が行われる。また、塗布部2が基板Wへ液滴を吐出する前に、アライメント部4が基板Wのアライメントマークを撮像し、その結果にもとづいて制御部5が塗布ステージ3の位置および角度を調節して基板Wの位置ずれを補正する。
【0022】
なお、以下の説明では、基板Wへの液滴吐出時に塗布部2が移動する(走査する)方向をX軸方向、X軸方向と水平面上で直交する方向をY軸方向、X軸およびY軸方向の双方に直交する方向をZ軸方向として説明を進めることとする。
【0023】
塗布部2は、塗布ヘッド10、および塗布ヘッド移動装置12を有している。塗布ヘッド10は塗布ヘッド移動装置12によって塗布ステージ3上の基板Wの任意の位置まで移動することが可能であり、吐出位置まで移動した後、塗布ヘッド10はノズル11から各吐出対象に対してインクジェット法により液滴の吐出を行う。
【0024】
塗布ヘッド10は、Y軸方向を長手方向とする略直方体の形状を有し、複数の吐出ユニット13が組み込まれている。
【0025】
吐出ユニット13には、複数のノズル11が設けられており、吐出ユニット13が塗布ヘッド10に組み込まれることにより、ノズル11が塗布ヘッド10の下面に配列される形態をとる。
【0026】
また、塗布ヘッド10は配管を通じてサブタンク15と連通している。サブタンク15は、塗布ヘッド10の近傍に設けられており、サブタンク15と離間して設けられたメインタンク16から配管を経由して供給された塗布液を一旦貯蔵し、その塗布液を塗布ヘッド10へ高精度で供給する役割を有する。サブタンク15から塗布ヘッド10へ供給された塗布液は、塗布ヘッド10内で分岐され、各吐出ユニット13の全てのノズル11へ供給される。
【0027】
各ノズル11はそれぞれ駆動隔壁14を有し、制御部5からそれぞれのノズル11に対する吐出のオン、オフの制御を行うことにより、任意のノズル11の駆動隔壁14が伸縮動作し、液滴を吐出する。なお、本実施形態では、駆動隔壁14としてピエゾアクチュエータを用いている。
【0028】
また、各ノズル11からの液滴の吐出を安定させるために、塗布待機時には塗布液が各ノズル11内で所定の形状の界面(メニスカス)を維持してとどまる必要があり、そのため、サブタンク15内には真空源17によって所定の大きさの負圧が付与されている。なお、この負圧は、サブタンク15と真空源17との間に設けられた真空調圧弁18によって調圧されている。
【0029】
塗布ヘッド移動装置12は走査方向移動装置21、シフト方向移動装置22、および回動装置23を有しており、塗布ヘッド10をX軸方向およびY軸方向に移動させ、また、Z軸方向を回転軸として回動させる。
【0030】
走査方向移動装置21は、リニアステージなどで構成される直動機構であり、制御部5に駆動を制御されて塗布ヘッド10をX軸方向に移動させる。
【0031】
走査方向移動装置21が駆動し、基板Wの上方で塗布ヘッド10が走査しながらノズル11から液滴を吐出することにより、X軸方向に並んだ塗布領域に対して連続的に塗布液の塗布を行う。
【0032】
シフト方向移動装置22は、リニアステージなどで構成される直動機構であり、制御部5に駆動を制御されて塗布ヘッド10をY軸方向に移動させる。
【0033】
これにより、塗布ヘッド10内で吐出ユニット13同士が間隔を設けて設置されている場合に、一度塗布ヘッド10をX軸方向に走査させながら塗布を行った後、塗布ヘッド10をY軸方向にずらし、その間隔を補完するように塗布することで、基板Wの全面へ塗布を行う。
【0034】
また、基板WのY軸方向の幅が塗布ヘッド10の長さよりも長い場合であっても、1回の塗布動作が完了するごとに塗布ヘッド10をY軸方向にずらし、複数回に分けて塗布を行うことにより、基板Wの全面へ塗布を行うことが可能である。
【0035】
枢動装置23は、Z軸方向を回転軸とする回転ステージであり、制御部5に駆動を制御されて塗布ヘッド10を枢動させる。
【0036】
この枢動装置23によって塗布ヘッド10の角度を調節することにより、塗布ヘッド10の走査方向と直交する方向(Y軸方向)のノズル11の間隔を調節し、塗布領域およびの寸法および液滴の大きさに適した間隔とする。
【0037】
塗布ステージ3は、基板Wを固定する機構を有し、基板Wへの塗布動作はこの塗布ステージ3の上に基板Wを載置し、固定した状態で行われる。本実施形態では、塗布ステージ3は吸着機構を有しており、図示しない真空ポンプなどを動作させることにより、基板Wと当接する面に吸引力を発生させ、基板Wを吸着固定している。
【0038】
また、塗布ステージ3は図示しない駆動装置によりX軸方向およびY軸方向に移動し、また、Z軸方向を回転軸として枢動することが可能であり、塗布ステージ3の上に載置された基板Wが有するアライメントマークをアライメント部4が確認した後、この確認結果に基づいて基板Wの載置のずれを修正する際、塗布ステージ3が移動し、また、枢動する。なお、塗布ステージ3の移動および枢動は、基板Wの載置状態の微調整が目的であるため、塗布ステージ3が移動可能な距離、枢動可能な角度は微少であっても構わない。
【0039】
アライメント部4は、画像認識カメラ24、走査方向移動装置25およびシフト方向移動装置26を有している。画像認識カメラ24は、走査方向移動装置25およびシフト方向移動装置26に組み付けられており、これらの移動装置を駆動させることにより、画像認識カメラ24はX軸方向およびY軸方向に移動することが可能である。
【0040】
画像認識カメラ24は、本実施形態ではモノクロのCCDカメラであり、画像取得のタイミングについて外部からの制御が可能である。制御部5により指示を与えることで、この画像認識カメラ24は画像データを取得し、この取得した画像データはケーブルを介して制御部5へ転送される。
【0041】
走査方向移動装置25は、リニアステージなどで構成される直動機構であり、制御部5に駆動を制御されて画像認識カメラ24およびシフト方向移動装置26を塗布ヘッド10のX軸方向に移動させる。
【0042】
シフト方向移動装置26は、リニアステージなどで構成される直動機構であり、制御部5に駆動を制御されて画像認識カメラ24をY軸方向に移動させる。
【0043】
ここで、制御部5により走査方向移動装置25およびシフト方向移動装置26の駆動を制御することにより、画像認識カメラ24は塗布ステージ3に載置された基板Wに対してX軸方向およびY軸方向に相対的に移動し、複数の位置で基板Wのアライメントマークを撮像する。
【0044】
そして、撮像された各アライメントマークの位置情報をもとに制御部5が基板Wの載置ずれを計算し、この載置ずれを補正するように制御部5が塗布ステージ3を動作させる。
【0045】
制御部5は、コンピュータ、シーケンサなどを有し、塗布ヘッド10への送液、ノズル11からの液滴の吐出および吐出量の調節、画像認識カメラ24による画像取得、各移動機構の駆動などの動作の制御を行う。
【0046】
また、制御部5は、ハードディスクやRAMまたはROMなどのメモリからなる、各種情報を記憶する記憶装置を有しており、後述の第1の塗布工程における塗布範囲および液滴量、ならびに第2の塗布工程における塗布範囲および液滴量のデータがこの記憶装置に保存される。また、塗布に必要なその他のデータも、この記憶装置に保存される。
【0047】
次に、本発明の一実施形態における塗布膜形成方法による塗布膜の形成過程を
図2に示す。
【0048】
まず、
図2(a)に示すように、基板Wの上方で塗布ヘッド10が走査しながら(X軸方向に移動しながら)ノズル11から基板Wへ塗布液を吐出することにより、基板Wに所定の膜厚の第1の塗布膜31が形成される。これを第1の塗布工程と呼ぶ。また、塗布装置1がこの第1の塗布工程を実施することを、第1の塗布モードと呼ぶ。
【0049】
ここで、この第1の塗布膜31の膜厚は、本実施形態では、最終的に得られる塗布膜の膜厚の約半分である。最終的に得られる塗布膜は、第1の塗布膜と後述の第2の塗布膜32とが重なって形成されるが、第1の塗布膜31の膜厚も第2の塗布膜32の膜厚もともに最終的に得られる塗布膜の膜厚の約半分と設定されて塗布が実施されることにより、ノズル11から吐出される塗布液の液滴の大きさおよび塗布密度(単位面積あたりの吐出数)を、第1の塗布工程と後述の第2の塗布工程とで変更することなく塗布を実施することが可能である。
【0050】
この第1の塗布膜31が基板W上に形成されて時間が経つと、コーヒーステイン現象が発生し、第1の塗布膜31を形成する塗布液が外縁部に引き寄せられる。これにより、第1の塗布膜31の外縁部には
図2(b)に幅d0で示すような盛り上がりが発生する。このコーヒーステイン現象による盛り上がりは、塗布液の溶剤の種類によるが、第1の塗布膜31が形成されてから数秒程度で形成される。
【0051】
ここで、本発明では、上記の通り第1の塗布膜31に盛り上がりが形成されるまで、第1の塗布膜31への塗布動作を待機する。これを待機工程と呼ぶ。また、塗布装置1がこの待機工程を実施することを、待機モードとよぶ。
【0052】
なお、この待機工程では、第1の塗布膜31への塗布動作以外の動作は実施されていても構わない。たとえば、塗布ヘッド移動装置12による塗布ヘッド10と基板Wの相対移動は実施されても構わない。
【0053】
上記待機工程が実施され、
図2(b)に示すように第1の塗布膜31の外縁部に盛り上がりが形成された後、本実施形態では、第1の塗布膜31の上方からさらに塗布液の塗布が行われる。これを第2の塗布工程と呼ぶ。また、塗布装置1がこの第2の塗布工程を実施することを、第2の塗布モードと呼ぶ。
【0054】
このとき、
図2(c)に示すように、第2の塗布工程において塗布液が吐出される領域の幅L2は第1の塗布膜31の幅L1よりも小さくされており、第1の塗布膜31よりも基板面上(XY平面上)内側に第2の塗布膜32が形成される。
【0055】
また、先述の通り、第2の塗布工程においてノズル11から吐出される塗布液の液滴の大きさおよび塗布密度は第1の塗布工程と同じとされており、第2の塗布膜32の膜厚は第1の塗布膜31と同等となっている。
【0056】
この第2の塗布膜32は、塗布直後は
図2(c)に示したような形状であるが、時間が経つと外側に広がる挙動を示す。この挙動についての説明は、後述する。
【0057】
このように外側に広がった第2の塗布膜32が第1の塗布膜31の外縁部の盛り上がりに覆い被さった場合、
図2(d)に示すように、第1の塗布膜31と第2の塗布膜32とで形成された塗布膜全体は、外縁部が平坦化されたような形状を有する。
【0058】
このように平坦化された塗布膜が得られることにより、膜厚が比較的均一で後の工程に使用可能な部分の幅を広くすることができる。
【0059】
ここで、
図2(d)では、膜厚が均一と判断される範囲を2本の鎖線で表しており、この2本の鎖線の間に膜厚が入らなくなった箇所から外側の部分は、後の工程には使用できず除外すべき部分であり、これを本説明では除外部と呼ぶ。
図2(d)の例では、幅kで表した部分がこの除外部にあたる。
【0060】
図7(b)に示す従来の塗布膜形成方法によって得られる塗布膜では、コーヒーステイン現象が生じた部分がほとんど除外部に相当するため、除外部の幅kは広くなってしまう。すなわち、後の工程で使用できる部分が少なくなってしまう。これに対し、本実施形態の塗布膜形成方法によって塗布膜の端部が平坦化されることにより、除外部の幅kを狭めることが可能である。
【0061】
なお、第2の塗布工程は、第1の塗布膜31の表面が半硬化状態であって、第2の塗布工程で吐出した塗布液が第1の塗布膜31と一体化可能である間に行うと良い。ここで言う半硬化状態とは、第1の塗布膜31が第2の塗布膜31と一体化することが可能な状態のことである。こうすることにより、形成される塗布膜が二層にならずに、全面にわたって膜厚精度の良い単層の塗布膜を得ることができる。なお、本実施形態では、塗布ヘッド10を基板Wの上方で走査方向(X軸方向)に往復動させながら基板Wへ塗布を実施し、行きの動作で第1の塗布工程を実施し、帰りの動作で第2の塗布工程を実施するようにしている。こうすることにより、第1の塗布膜31の表面が半硬化状態であるときに第2の塗布工程を実施することができる。
【0062】
次に、本実施形態の塗布膜形成方法によって塗布膜の外縁部が平坦化される過程について、第1の塗布膜31および第2の塗布膜32の外縁部の概略図を
図3に示して説明する。
【0063】
先述の通り、まず、
図3(a)に示すように、基板W上に第1の塗布膜31が形成された後、コーヒーステイン現象により第1の塗布膜31の外縁部に盛り上がりが生じる。ここで、固体である基板Wの上に形成された第1の塗布膜31の幅は、コーヒーステイン現象により形状が変化してもほとんど変わらず、
図2に示した幅L1が維持される。また、第1の塗布膜31と基板Wとの接触角θ1は、基板Wと第1の塗布膜31を形成する塗布液の物性により決定される。
【0064】
次に、盛り上がりが生じた第1の塗布膜31の上に塗布液が吐出され、第2の塗布膜が形成される。
【0065】
ここで、上記の通り第1の塗布膜31はコーヒーステイン現象により形状が変化しても幅がほとんど変わらないのに対し、液状である第1の塗布膜31の上に形成された第2の塗布膜32は、第1の塗布膜31との間の界面張力がほぼゼロであるため、接触角が第1の塗布膜31と第2の塗布膜32との間で成立する接触角θ2になるまで
図3(b)に示すように外側に広がる挙動をとる。
【0066】
このように第2の塗布膜32が外側へ広がる際、第1の塗布膜31と同様にコーヒーステイン現象も発生すると思われるが、基板Wと第1の塗布膜31との間で成立する接触角θ1に対して接触角θ2は小さいため、顕著な盛り上がりは生じず、むしろ
図3(c)に示すように第2の塗布膜32が第1の塗布膜31の外縁部の盛り上がりに覆いかぶさって、その結果、最終的に得られる塗布膜の外縁部は平坦化されるものと考えられる。
【0067】
なお、このように第2の塗布膜32が第1の塗布膜31の外縁部の盛り上がりに覆いかぶさって平坦化されるようにするためには、少なくとも、
図2(c)に示すように塗布直後の第2の塗布膜32の外縁端が第1の塗布膜31の外縁部の盛り上がりの頂上部33よりも内側であることが望ましい。これは、仮に塗布直後の第2の塗布膜32の外縁端が頂上部33よりも外側であった場合、第2の塗布膜32が第1の塗布膜31の盛り上がり部全体に覆いかぶさり、その結果、最終的に得られる塗布膜にも盛り上がり部が生じるからである。
【0068】
次に、本実施形態の塗布膜形成方法により実際に得られた塗布膜の外縁部形状について説明する。
【0070】
図2にも示した通り、まず、第1の塗布工程が実施されて、
図4(a)に示すように、基板Wに第1の塗布膜31が形成される。そして、第1の塗布膜31がコーヒーステイン現象によって盛り上がった後、第2の塗布工程が実施されて
図4(b)に示すように、第2の塗布膜32が形成される。ここで、先述の通り、第2の塗布工程の塗布領域は第1の塗布膜31が有する領域の内側である。
【0071】
このように第2の塗布工程が実施された後、第2の塗布膜32が外側へ広がる挙動を示して最終的な塗布膜が形成される。このとき、
図4(b)に示す第1の塗布膜31の外縁端と第2の塗布工程の塗布領域の外縁端との距離d1と最終的な塗布膜の外縁部形状との関係を調べた。その結果を
図5に示す。
【0072】
図5に示すグラフは、左上から
図4(b)に示す距離d1が0mm、1mm、1.5mm、2mm、2.5mm、3mm、4mmのときの最終的な塗布膜の外縁近傍の膜厚を表すグラフであり、それぞれのグラフに二点鎖線で表しているものは、第1の塗布膜31の膜厚である。なお、第1の塗布膜31の盛り上がりの幅(
図2で示す幅d0)は、2.0mmであった。
【0073】
図5の各グラフを確認すると、d0=0mm(第2の塗布工程の塗布領域の外縁端が第1の塗布膜の外縁端と同じ)である場合は、第1の塗布膜31の盛り上がり部を拡張するように、最終的な塗布膜にも盛り上がりが見られるが、距離dが0mmから長くなるにつれて膜厚精度が良くなっていく(膜厚が平坦化される)様子が見られ、d=2mmおよびd=2.5mmの場合は、かなり膜厚精度が良く見える。
【0074】
そしてさらに距離dが長くなると、第2の塗布工程の塗布領域の外縁端が第1の塗布膜31の盛り上がり部から離れすぎてしまうため、第2の塗布膜32が外側へ広がる挙動を示したとしても、盛り上がり部に覆いかぶさる第2の塗布膜32の量は少ないため、最終的な塗布膜に盛り上がり部の形状が再び出現するようになる。
図5のd=4mmの場合にこのような傾向が見られる。
【0075】
次に、
図5のそれぞれの距離d1における除外部の幅kの値を表1に示す。表1において、幅kは、膜厚が均一である塗布膜中央部の膜厚の±10%の値に入らない部分を除外部として、この除外部の幅を求めたもの、および、膜厚が均一である塗布膜中央部の膜厚の±5%の値に入らない部分を除外部として、この除外部の幅を求めたものの2種類の値が示されている。
【0077】
表1によれば、塗布膜中央部膜厚±10%で除外部の幅kを求めた場合、d1=1.5mmからd1=3mmの場合は、d1=0mmの場合と比べて十分に幅kが狭くなっている。
【0078】
さらに、d1=2mm、およびd1=2.5mmの場合は、塗布膜中央部膜厚±5%で除外部の幅kを求めた場合でも、d1=0mmの場合と比べて十分に幅kが狭く、十分に膜厚精度が良いものと考えられる。
【0079】
すなわち、第1の塗布膜31の盛り上がりの幅d0が2.0mmであるのに対し、第1の塗布膜31の外縁端と第2の塗布工程の塗布領域の外縁端との距離d1が以下の式(1)を満たす場合、最終的に得られる塗布膜の膜厚精度は十分に良いものであると考えられる。
d0≦d1≦1.25d0 ……(1)
次に、本発明の他の実施形態について
図6を用いて説明する。
【0080】
先述の実施形態では、複数の塗布液の液滴を塗布することにより第1の塗布膜31の幅L1および第2の塗布膜32の幅L2を形成させていたが、この実施形態では、1滴の液滴により第1の塗布膜31の幅および第2の塗布膜32の幅を形成させるものである。
【0081】
インクジェット法を用いて配線材料を塗布して基板W上に微少幅の配線を形成する場合などでは、液滴1滴分の幅で一方向に長い塗布膜を形成することもある。このような場合であっても、第1の塗布工程により
図6(a)に示すように基板Wに形成された第1の塗布膜31は、時間が経つとコーヒーステイン現象によって
図6(b)に示すように外縁部が盛り上がった形状となる。
【0082】
このように外縁部が盛り上がった形状となった第1の塗布膜31の上に、
図6(c)に示すように、第1の塗布膜31を形成する際にノズル11から吐出された液滴よりも小さな液滴の塗布液が第2の塗布工程において吐出され、第2の塗布膜32が形成される。こうすることにより、先述の実施形態と同様に、第1の塗布膜31よりも内側に第2の塗布膜32が形成されることとなる。
【0083】
そして、
図6(d)に示すように、第2の塗布膜32が外側に広がることにより、第2の塗布膜32が第1の塗布膜31の盛り上がり部に覆いかぶさって、最終的に膜厚精度の良い塗布膜が形成される。
【0084】
以上説明した塗布膜形成方法および塗布装置によれば、膜厚精度の良い塗布膜を得ることが可能である。
【0085】
なお、上記の説明では、第1の塗布工程および第2の塗布工程をインクジェット法による塗布としているが、インクジェット法に限らず、コーヒーステイン現象が生じる他の塗布方法に適用しても構わない。たとえばスリットコーティングであっても、膜厚によりコーヒーステイン現象が生じる場合があるため、その場合は、スリットコーティングにより第1の塗布工程および第2の塗布工程が実施されても構わない。