特許第6033716号(P6033716)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033716
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】金属内の異物弁別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/225 20060101AFI20161121BHJP
【FI】
   G01N23/225 312
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-55323(P2013-55323)
(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公開番号】特開2014-181951(P2014-181951A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592244376
【氏名又は名称】日鉄住金テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】笠井 宣文
(72)【発明者】
【氏名】菅野 晃慈
(72)【発明者】
【氏名】谷山 明
(72)【発明者】
【氏名】浜中 真人
(72)【発明者】
【氏名】内山 徹也
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−062850(JP,A)
【文献】 特開昭57−142551(JP,A)
【文献】 特開平01−314956(JP,A)
【文献】 特開2004−191060(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0742434(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料中に含まれる介在物又は析出物を、以下の(1)〜(7)の工程により同定することを特徴とする金属内の異物弁別方法。
(1)走査電子顕微鏡又は電子線マイクロアナライザーを用いて個々の介在物又は析出物に電子線を照射し、前記個々の介在物又は析出物から得られた特性X線情報に含まれる元素とその強度を取得する工程。
(2)前記個々の介在物又は析出物から得られた特性X線情報に含まれる、O,S,N,Cの元素を除く一の元素と、O,S,N,Cのそれぞれの元素との強度相関を求める工程。
(3)前記強度相関において、前記特性X線情報に含まれる前記一の元素の所定値以下のデータを除いて、前記一の元素とO,S,N,Cのそれぞれの元素の相関関係を求める工程。
(4)酸化物、硫化物、窒化物、炭化物の特性X線強度比のテーブルに所定の相関関係の範囲を付与する工程。
(5)(3)の工程における前記一の元素とO,S,N,Cのそれぞれの元素の相関関係が前記一の元素の酸化物、硫化物、窒化物、炭化物の特性X線強度比のテーブルに所定の相関関係の範囲を満たしているか否かを判定する工程。
(6)前記所定の相関関係を満たしている場合には、前記一の元素の酸化物、硫化物、窒化物、炭化物の何れか、又は複合物があるとして、介在物又は析出物を同定する工程。
(7)前記一の元素と該当するO,S,N,Cの強度を(1)の工程から除く演算を行い、前記一の元素を除いて、特性X線情報に含まれる元素(O,S,N,Cの元素は除く)について(2)から(6)を繰返す工程。
【請求項2】
前記(2)の工程において、前記個々の介在物又は析出物から得られたX線情報に含まれる前記一の元素を特性X線情報に含まれる元素(O,S,N,Cの元素は除く)の積算強度の高い順に選択する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の金属内の異物弁別方法。
【請求項3】
相関係数の下限閾値をRtとした時、前記所定の相関係数Rが、Rt≦R≦1.0の範囲であって、かつ、Rtが0.4以下を満たす元素対であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属内の異物弁別方法。
【請求項4】
前記走査電子顕微鏡又は電子線マイクロアナライザーに反射電子検出器又は角度選択反射電子検出器をさらに備え、前記検出器の画像データとこの画像データの解析により前記介在物又は析出物のサイズ及び/又は位置を計測し、前記特性X線情報から前記介在物又は析出物の組成を同定することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の金属内の異物弁別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡(SEM)、電子プローブマイクロアナライザー等の形態観察と組成分析が可能な特性X線を用いる物理分析装置によって得られる組成情報、並びに画像分析による粒子サイズ情報及び位置情報を解析して、金属内に存在する介在物や析出物の種類別の大きさや個数分布を精度良く導出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、清浄鋼の製造技術が確立しつつあるのに伴い、製造された鋼の清浄性評価に対しても、評価精度を向上させた上での迅速かつ大量に処理する技術が極めて強く求められてきている。
【0003】
特に各種鋼材の素材となる連続鋳造(以下、略して連鋳ともいう。)鋳片の清浄性の迅速な評価は、大量の製品不良発生を未然に防止する上で今後さらにニーズが大きくなることが考えられる。
【0004】
ところで、鋳片の内部欠陥は、ピンホールと呼ばれる空洞状の欠陥と、非金属介在物(以下、単に介在物ともいう。)に大別される。このうち、非金属介在物には、その生成要因によって、球状介在物と塊状介在物が存在する。また、非金属介在物とは生成要因が異なる粒内析出物及び粒界析出物(以下、単に析出物という。)が存在する。
【0005】
例えば、タンディッシュから鋳型へ溶鋼を注入する浸漬管には、アルミナ詰まりを防止するためにArガスが吹込まれるが、この吹込み量が適切でない場合、そのArガスが鋳型内に持ち込まれる場合がある。このArガスが前記ピンホールの主な生成原因である。
【0006】
また、連続鋳造においては、鋳型と鋳片が焼き付かないように、その間にモールドパウダーを介在させ、潤滑を図ることが一般的である。しかしながら、鋳型内の湯面変動が大きい場合、鋳片のメニスカス(凝固初期の鋳片の端部)に未溶融状態のモールドパウダーが捕捉されてしまう。このモールドパウダーが塊状介在物の生成原因であることが分かっている。
【0007】
また、一般的な溶銑の精錬では、転炉にて溶鋼に大量の酸素を吹き込んでCを低減させるが、この時、同時に様々な非金属介在物が生成される。通常、非金属介在物は溶鋼より比重が軽いため、連続鋳造される前に溶鋼鍋の上部に浮上するが、浮上しきれずにタンディッシュに持ち込まれる場合もある。非金属介在物がアルミナ系の酸化物であって、これがネットワーク状になったものがアルミナクラスターの主な生成原因である。
【0008】
一方、連続鋳造機内において鋼が凝固する過程において、溶鋼中に含まれるMn,Al,S,Nb,Ti等の元素が化合物を生成することで粒界に析出する現象が生じる。これらの粒界析出物は析出する組成によっては粒界強度を脆弱にすることが知られている。
【0009】
これらの粒界析出物と上述した非金属介在物を効果的に除去若しくは無害化するためには、形態や組成別に、大きさ別の個数分布を正確に把握することが重要となってくる。
【0010】
従来、これらの要求に対して、以下のいくつかの清浄性評価手法が用いられてきたが、それぞれ問題を有している。
【0011】
例えば、全酸素分析法やサンドアルミナ分析法は、迅速かつ大量の分析が可能であるが、清浄鋼の介在物評価に必要な、粒度分布や形状、種類を判別することができない。
【0012】
一方、ミクロ検鏡法や、鋳片から切り出した試料を電解溶融して抽出した介在物を実体顕微鏡やSEMを用いて直接観察する電解スライム抽出法等の確性手法では、形状や種類の判別が可能である。しかしながら、これらの方法は、サンプル加工や結果算出の自動化が難しいことから、人為的な作業となるため作業者の作業負荷が大きく、また判別に時間を要する。よって、大量の介在物を統計的な手法を用いて解析するのには不向きであり、少数のサンプル数を評価することしかできず、鋳片全体の評価は困難である。
【0013】
これらの問題点を解消して迅速かつ大量に清浄性の評価試験を行うために、高周波超音波Cスコープ探傷装置に信号解析機能とニュートラルネットワークを用いた疵判別機能を導入した全自動探傷システムが特許文献1で提案されている。しかしながら、特許文献1で提案された探傷システムの場合、ピンホールと介在物の認識は可能であるが、介在物の種類を識別することができない。以下、高周波超音波Cスコープ探傷を、単に高周波超音波探傷という。
【0014】
また、極値統計法を応用した手法を用いて、高周波超音波探傷で得られた欠陥情報を介在物の形態別に弁別する手法が特許文献2で提案されている。しかしながら、特許文献2で提案された方法は、介在物を形態別に弁別した上で大きさ別個数分布を求めることは可能であるが、介在物の組成を把握することは不可能である。
【0015】
さらに、X線を利用して介在物の形態や平均組成を求める手法が特許文献3や特許文献4で提案されている。しかしながら、特許文献3で提案された手法は、検出した介在物を形態別に分類するだけであり、詳細に同定することはできていない。また、特許文献4で提案された手法も、介在物の平均組成を示すのみであり、同定することまでには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平10−62357号公報
【特許文献2】特開2006−184101公報
【特許文献3】特表2012−507002号公報
【特許文献4】特開2004−191060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする問題点は、従来方法の場合、金属内に存在する介在物や析出物等の異物を、迅速かつ大量に、形態や組成別に、大きさ別の個数分布を把握することができないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上述した課題を解決するために、金属内に存在する介在物や析出物を同定して弁別する方法、例えば鋼の清浄性評価のための非金属介在物や粒界析出物測定における迅速でかつ大量の種類別評価を可能とする金属内の異物弁別方法を提案するものである。
【0019】
なお、同定とは、介在物や析出物にどのような元素が含まれているかを確認(分析)したものが、どのような種類の介在物或いは析出物であるのかを判定することをいう。
【0020】
本発明の金属内の異物弁別方法は、
金属材料中に含まれる介在物又は析出物を、以下の(1)〜(7)の工程により同定することを最も主要な特徴とするものである。
【0021】
(1)走査電子顕微鏡又は電子線マイクロアナライザーを用いて個々の介在物又は析出物に電子線を照射し、前記個々の介在物又は析出物から得られた特性X線情報に含まれる元素とその強度を取得する工程。
(2)前記個々の介在物又は析出物から得られた特性X線情報に含まれる、O,S,N,Cの元素を除く一の元素と、O,S,N,Cのそれぞれの元素との強度相関を求める工程。
(3)前記強度相関において、前記特性X線情報に含まれる前記一の元素の所定値以下のデータを除いて、前記一の元素とO,S,N,Cのそれぞれの元素の相関関係を求める工程。
(4)酸化物、硫化物、窒化物、炭化物の特性X線強度比のテーブルに所定の相関関係の範囲を付与する工程。
(5)(3)の工程における前記一の元素とO,S,N,Cのそれぞれの元素の相関関係が前記一の元素の酸化物、硫化物、窒化物、炭化物の特性X線強度比のテーブルに所定の相関関係の範囲を満たしているか否かを判定する工程。
(6)前記所定の相関関係を満たしている場合には、前記一の元素の酸化物、硫化物、窒化物、炭化物の何れか、又は複合物があるとして、介在物又は析出物を同定する工程。
(7)前記一の元素と該当するO,S,N,Cの強度を(1)の工程から除く演算を行い、前記一の元素を除いて、特性X線情報に含まれる元素(O,S,N,Cの元素は除く)について(2)から(6)を繰返す工程。
【0022】
上記本発明方法によれば、金属内に存在する大量の介在物単体や析出物単体は元より複合化された介在物や析出物も短時間で分析し、その分析した介在物、析出物の種類を同定することが可能になる。
【0023】
上記本発明において、走査電子顕微鏡または電子線マイクロアナライザーに反射電子検出器又は角度選択反射電子検出器をさらに備え、前記検出器の画像データとこの画像データの解析により、介在物又は析出物の、サイズ又は配置或いはサイズ及び位置を計測し、前記特性X線情報から介在物又は析出物の組成を同定することで、粒界析出物の評価が迅速に行える。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、金属材料中に存在する大量の非金属介在物や析出物、複合介在物の種類を迅速に同定して測定材料における各介在物や析出物の種類ごとに粒度分布を評価でき、製品の不良発生を未然に防ぐことに寄与することができる。
【0025】
また、反射電子(BSE)像や、角度選択反射電子(AsB)像など結晶粒の粒界位置の情報を反映させた画像と、前記判定した各介在物や結晶物の位置情報との対応を確認することで、迅速に粒界析出物を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】複合介在物や析出物の同定過程の一例を示した図である。
図2】TiNとして解析した粒子の位置情報を反映させた分布図である。
図3】AsB像による測定範囲の結晶粒の画像である。
図4図2図3を重ね合わせて粒内析出物を計数した結果を示した図である。
図5】TiNにおける粒内析出物並びに粒界析出物を粒度解析した結果を示した図である。
図6】特性X線情報を基に統計処理によって相関が得られた元素対の一例を示した図である。
図7図6で分類した粒子中で、他の元素対との相関を示した図で、(a)はMnとSの相関を示した図、(b)はTiとNの相関を示した図である。
図8】相関係数の閾値Rtによる検出されるべき介在物および析出物のヒット率の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
一般的に、鋼中において介在物や析出物は単体で存在していることは少なく、複数のものが混在していることが多い。
【0028】
これら鋼中の介在物や析出物の同定は、主にSEMとそれに付属するエネルギー分散型X線分析装置(EDX)や電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって分析可能である。しかしながら、特に複合化された介在物や析出物の同定は、元素マッピングにて検出された各元素の位置関係や濃度プロファイルによって分析するため、1粒子を同定するのに長い時間を要していた。
【0029】
ところで、粒子をEDX等でポイント分析すると、OやS,N等が他のどの元素と化合しているのかを特定することは困難である。また、複数の介在物や析出物が混在している場合、ポイント分析のみでは複合化された介在物や析出物の同定は困難である。
【0030】
一方、粒界析出物の評価は、測定者がSEMの像より個々の粒子が粒界にあるかどうかを判断していた。
【0031】
また、電子線後方散乱回折法(走査電顕−結晶方位解析:EBSD)を利用して、結晶粒界と介在物や析出物の粒子との位置関係を明確にさせることは可能であるが、いずれの方法も長時間を要する。
【0032】
つまり、従来の粒子測定では、測定者は、粒子サイズや組成の分析結果等の測定粒子情報を一覧表示した上で、予め規定された条件に合う粒子のみを弁別する手法が主であり、条件の設定が主観的になってしまう欠点があった。また、設定した条件に合わない粒子は測定者が再度判断をする必要があり、膨大な作業工数が必要であった。
【0033】
本発明は、上記従来の欠点を改善して、金属材料中に存在する介在物や析出物等の異物を短時間で大量に同定して弁別するという目的を、特性X線情報に閾値を設けて相関の無い粒子群を除外することにより実現した。
【0034】
すなわち、本発明では、複数の粒子から検出された組成情報を基に、組成比率の相関を利用して結合元素を特定し、単体で存在する介在物や析出物から複合化して存在するものまで弁別する。
【0035】
また、各粒子の組成情報を統計処理することで、短時間で大量の粒子の組成判定ならびに介在物、析出物を同定する。実際には、統計処理によって相関が認められる元素同士で介在物や析出物を構成していることを利用して大まかに分類し、構成元素比率から予め決定した閾値を利用して介在物や析出物を細かく弁別する。
【実施例】
【0036】
以下、発明者らが知見した発明を実施するための形態について以下に説明する。
試料はダイヤモンドで表面を研磨し、鏡面に仕上げたものを使用する。さらに、観察面の結晶粒界並びに対象とする介在物粒子や析出物粒子が検出できるように適切なエッチング処理を行う。この処理を行うことで、粒界析出物と粒界若しくは金属粒との相関を求めることが可能になる。
【0037】
分析試料は任意の倍率にて観察し、介在物粒子や析出物粒子の粒子サイズ情報及び位置情報を取得できる画像解析用アプリケーションを利用して以下の手順で行う。
【0038】
(a)前記観察により、BSE像又はAsB像といった存在元素によってコントラストが異なる像を取得する。また、コントラストが異なって画像化される介在物や析出物を、画像処理して粒子サイズ等の粒子形状情報を取得する。
【0039】
(b)介在物粒子や析出物粒子は、主にEDXを用いて、分析領域内の特性X線情報から介在物や析出物を同定することを基本とする。
【0040】
(c)複数の粒子から検出された特性X線情報を基に各元素を統計処理し、例えば相関関係R≧0.4を示す元素対でグラフにプロットする。なお、特性X線検出結果からは、スペクトル強度、定量値(質量%、atomic%)等の複数の情報が得られるため、特性X線検出結果から得られる情報を特性X線情報という。
【0041】
(d)相関の精度を向上する目的で特性X線情報により閾値を設けて、相関のない粒子群を除外する。この閾値は、測定サンプルの化学組成や測定条件により異なるが、下記表1に示す範囲内で閾値を設定することが可能である。また、検出数が少ないために十分な相関が得られない介在物や析出物が存在する場合、検出した全元素に対する組成情報の割合が高い元素を抽出し、下記表1に示す範囲内で特性X線強度の閾値を設けることにより、相関の無い粒子を除外することができる。
【0042】
(e)相関がみられた元素同士の特性X線情報の比率(質量比率:質量%、原子質量比率:atomic%、特性X線強度)や粒子形状などから組成を同定する。下記表2に主な介在物や析出物を同定する場合の判定基準について、特性X線強度、質量%、atomic%を用いた場合を示した。すなわち、下記表2に示す判定基準で組成比率が判明する。次いで、その定量的な介在物量や析出物量は各種類別に量を算出する。なお、特性X線強度は特性X線を検出した全量(Count)と、1秒間に検出された量(Count per second:CPS)があり、表1、表2では全量で表現した。
【0043】
(f)複合介在物系に関しては、同様の処理を図1に示すような順序で段階的に処理することで同定する。
【0044】
(g)同定をした各介在物や各析出物の位置情報(図2参照)とBSE像、又はAsB像で得られた結晶粒の情報(図3参照)を照らし合わせて、図4で示す粒界析出物の計数処理、並びに図5に示すような粒度解析処理を行う。
【0045】
上記(a)〜(g)の手順で実施する本発明方法により、各介在物や各析出物の種類別粒度分布評価や粒界析出物の迅速な定量評価が可能となる。特に、特性X線情報に閾値を設けて、相関の無い粒子群を除外することで、従来方法ではできなかった、非金属介在物や粒界析出物測定における迅速な種類別評価が可能になる。
【0046】
介在物または析出物は、酸化物や硫化物、窒化物などが複合して存在する場合が多いため、相関係数Rを高く設定すると複合化した粒子を見落としてしまう。逆に、相関係数Rを0.4未満などのように低く設定してしまうと、介在物または析出物とは無関係の余計なデータが多くなってしまい、迅速な評価が困難となる。
【0047】
図8に相関係数の閾値Rtによる検出されるべき介在物および析出物のヒット率の変化を示した。図8に示すように、相関係数の閾値Rtとして0.4以下の値を選択し、相関係数RをRt以上、1.0以下とすると、ヒット率が100%となる。一方、相関係数の閾値Rtとして0.4より大きい値を選択して相関係数RをRt以上、1.0以下とした場合は、ヒット率は100%から減少してしまう。
【0048】
また、相関係数の上限の閾値Rtに0.4以下の値を選択し、相関係数RをそのRt以下、0以上とするとヒット率が0%となってしまう。一方、相関係数の上限の閾値Rtに0.4より大きい値を選択し、相関係数RをそのRt以下、0以上とするとヒット率は0%から増加し、相関係数Rが1.0でヒット率は100%になる。
【0049】
以上から、発明者らは、相関係数が1.0以下となるデータを対象とし、且つ、相関係数の下限の閾値Rtを0.4とした。これにより、介在物または析出物をヒット率は100%で漏れなく解析することができる。よって、本発明方法の効果は、ヒット率が100%を実現する相関係数Rが、0.4≦R≦1.0を示す元素対を選定することでより顕著になる。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
次に、本発明を鉄鋼材料に適用した実施例について具体的に説明する。
試料はダイヤモンドで表面を鏡面研磨し、適切なエッチング処理を行ったものを使用した。測定は、介在物粒子や析出物粒子を画像解析して粒子サイズ情報及び位置情報を取得できる解析用アプリケーションを有する電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて行った。測定条件は、加速電圧12KVにてCu−Kα線で10000cps得られる電流及び絞りを選択し、EDXスペクトルを較正した。また、倍率は2000倍で、画像処理によって対象とする介在物や析出物が検出し易いように撮影画像の調整を行った。また、EDX分析によって検出される元素を選択し、粒子サイズ0.01〜10μm2を示す粒子を測定視野3mm2について測定を実施した。
【0053】
測定によって得た下記表3に示すデータを汎用のデータ解析ソフトに出力し、各元素の特性X線情報を統計処理した。
【0054】
【表3】
【0055】
相関がみられる元素対をグラフにプロットし、相関がみられない部位(粒子)を除去するため、図6に示すようにスペクトル情報に閾値を設定した。このように閾値を設定して相関のある粒子のみを選択することで、相関のみられる元素対とのスペクトルデータの比率より、その粒子の組成を同定する。図6は、AlとOの相関関係からAl2O3と同定した本発明の実施例を示す。
【0056】
複合介在物についても同様にスペクトルデータを統計処理して解析した。例えば図6で分類したAl2O3中でさらに統計処理したところ、図7に示すMnとS、TiとNの元素対で相関が得られた。
【0057】
図7のデータに閾値を設定して複合化されたものを同定した。図7は、MnSとTiNに同定した本発明の実施例で、これら図6及び図7より最終的にAl2O3+MnS+TiNの複合介在物であると同定できる。
【0058】
上記したように、本発明方法によれば、単体の介在物や析出物も含め、図1に示すような順序で段階的に解析を繰り返していくだけで、迅速に複合化合物を同定することが可能となる。
【0059】
一方、粒界析出物の評価は、同定した介在物や析出物の位置情報(図2参照)とBSE像またはAsB像などで得られた結晶粒の情報(図3参照)を照らし合わせて、粒界に析出しているものと粒内に析出しているものを識別して評価する。
【0060】
さらに、表3で示した粒子形状情報の面積項目を使用して、粒内析出物と粒界析出物の粒度分布を図5で示すように評価する。
【0061】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0062】
例えば、本願の請求項1〜3に係る発明は、鋼に含まれる介在物や析出物分析だけでなく、電解抽出残渣に含まれる介在物や析出物の分析にも適用できる。
図1
図2
図5
図6
図7
図8
図3
図4