【実施例】
【0036】
以下、発明者らが知見した発明を実施するための形態について以下に説明する。
試料はダイヤモンドで表面を研磨し、鏡面に仕上げたものを使用する。さらに、観察面の結晶粒界並びに対象とする介在物粒子や析出物粒子が検出できるように適切なエッチング処理を行う。この処理を行うことで、粒界析出物と粒界若しくは金属粒との相関を求めることが可能になる。
【0037】
分析試料は任意の倍率にて観察し、介在物粒子や析出物粒子の粒子サイズ情報及び位置情報を取得できる画像解析用アプリケーションを利用して以下の手順で行う。
【0038】
(a)前記観察により、BSE像又はAsB像といった存在元素によってコントラストが異なる像を取得する。また、コントラストが異なって画像化される介在物や析出物を、画像処理して粒子サイズ等の粒子形状情報を取得する。
【0039】
(b)介在物粒子や析出物粒子は、主にEDXを用いて、分析領域内の特性X線情報から介在物や析出物を同定することを基本とする。
【0040】
(c)複数の粒子から検出された特性X線情報を基に各元素を統計処理し、例えば相関関係R≧0.4を示す元素対でグラフにプロットする。なお、特性X線検出結果からは、スペクトル強度、定量値(質量%、atomic%)等の複数の情報が得られるため、特性X線検出結果から得られる情報を特性X線情報という。
【0041】
(d)相関の精度を向上する目的で特性X線情報により閾値を設けて、相関のない粒子群を除外する。この閾値は、測定サンプルの化学組成や測定条件により異なるが、下記表1に示す範囲内で閾値を設定することが可能である。また、検出数が少ないために十分な相関が得られない介在物や析出物が存在する場合、検出した全元素に対する組成情報の割合が高い元素を抽出し、下記表1に示す範囲内で特性X線強度の閾値を設けることにより、相関の無い粒子を除外することができる。
【0042】
(e)相関がみられた元素同士の特性X線情報の比率(質量比率:質量%、原子質量比率:atomic%、特性X線強度)や粒子形状などから組成を同定する。下記表2に主な介在物や析出物を同定する場合の判定基準について、特性X線強度、質量%、atomic%を用いた場合を示した。すなわち、下記表2に示す判定基準で組成比率が判明する。次いで、その定量的な介在物量や析出物量は各種類別に量を算出する。なお、特性X線強度は特性X線を検出した全量(Count)と、1秒間に検出された量(Count per second:CPS)があり、表1、表2では全量で表現した。
【0043】
(f)複合介在物系に関しては、同様の処理を
図1に示すような順序で段階的に処理することで同定する。
【0044】
(g)同定をした各介在物や各析出物の位置情報(
図2参照)とBSE像、又はAsB像で得られた結晶粒の情報(
図3参照)を照らし合わせて、
図4で示す粒界析出物の計数処理、並びに
図5に示すような粒度解析処理を行う。
【0045】
上記(a)〜(g)の手順で実施する本発明方法により、各介在物や各析出物の種類別粒度分布評価や粒界析出物の迅速な定量評価が可能となる。特に、特性X線情報に閾値を設けて、相関の無い粒子群を除外することで、従来方法ではできなかった、非金属介在物や粒界析出物測定における迅速な種類別評価が可能になる。
【0046】
介在物または析出物は、酸化物や硫化物、窒化物などが複合して存在する場合が多いため、相関係数Rを高く設定すると複合化した粒子を見落としてしまう。逆に、相関係数Rを0.4未満などのように低く設定してしまうと、介在物または析出物とは無関係の余計なデータが多くなってしまい、迅速な評価が困難となる。
【0047】
図8に相関係数の閾値R
tによる検出されるべき介在物および析出物のヒット率の変化を示した。
図8に示すように、相関係数の閾値R
tとして0.4以下の値を選択し、相関係数RをR
t以上、1.0以下とすると、ヒット率が100%となる。一方、相関係数の閾値R
tとして0.4より大きい値を選択して相関係数RをR
t以上、1.0以下とした場合は、ヒット率は100%から減少してしまう。
【0048】
また、相関係数の上限の閾値R
tに0.4以下の値を選択し、相関係数RをそのR
t以下、0以上とするとヒット率が0%となってしまう。一方、相関係数の上限の閾値R
tに0.4より大きい値を選択し、相関係数RをそのR
t以下、0以上とするとヒット率は0%から増加し、相関係数Rが1.0でヒット率は100%になる。
【0049】
以上から、発明者らは、相関係数が1.0以下となるデータを対象とし、且つ、相関係数の下限の閾値R
tを0.4とした。これにより、介在物または析出物をヒット率は100%で漏れなく解析することができる。よって、本発明方法の効果は、ヒット率が100%を実現する相関係数Rが、0.4≦R≦1.0を示す元素対を選定することでより顕著になる。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
次に、本発明を鉄鋼材料に適用した実施例について具体的に説明する。
試料はダイヤモンドで表面を鏡面研磨し、適切なエッチング処理を行ったものを使用した。測定は、介在物粒子や析出物粒子を画像解析して粒子サイズ情報及び位置情報を取得できる解析用アプリケーションを有する電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて行った。測定条件は、加速電圧12KVにてCu−Kα線で10000cps得られる電流及び絞りを選択し、EDXスペクトルを較正した。また、倍率は2000倍で、画像処理によって対象とする介在物や析出物が検出し易いように撮影画像の調整を行った。また、EDX分析によって検出される元素を選択し、粒子サイズ0.01〜10μm
2を示す粒子を測定視野3mm
2について測定を実施した。
【0053】
測定によって得た下記表3に示すデータを汎用のデータ解析ソフトに出力し、各元素の特性X線情報を統計処理した。
【0054】
【表3】
【0055】
相関がみられる元素対をグラフにプロットし、相関がみられない部位(粒子)を除去するため、
図6に示すようにスペクトル情報に閾値を設定した。このように閾値を設定して相関のある粒子のみを選択することで、相関のみられる元素対とのスペクトルデータの比率より、その粒子の組成を同定する。
図6は、AlとOの相関関係からAl
2O
3と同定した本発明の実施例を示す。
【0056】
複合介在物についても同様にスペクトルデータを統計処理して解析した。例えば
図6で分類したAl
2O
3中でさらに統計処理したところ、
図7に示すMnとS、TiとNの元素対で相関が得られた。
【0057】
図7のデータに閾値を設定して複合化されたものを同定した。
図7は、MnSとTiNに同定した本発明の実施例で、これら
図6及び
図7より最終的にAl
2O
3+MnS+TiNの複合介在物であると同定できる。
【0058】
上記したように、本発明方法によれば、単体の介在物や析出物も含め、
図1に示すような順序で段階的に解析を繰り返していくだけで、迅速に複合化合物を同定することが可能となる。
【0059】
一方、粒界析出物の評価は、同定した介在物や析出物の位置情報(
図2参照)とBSE像またはAsB像などで得られた結晶粒の情報(
図3参照)を照らし合わせて、粒界に析出しているものと粒内に析出しているものを識別して評価する。
【0060】
さらに、表3で示した粒子形状情報の面積項目を使用して、粒内析出物と粒界析出物の粒度分布を
図5で示すように評価する。
【0061】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0062】
例えば、本願の請求項1〜3に係る発明は、鋼に含まれる介在物や析出物分析だけでなく、電解抽出残渣に含まれる介在物や析出物の分析にも適用できる。