(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記励起X線の入射は、前記化合物半導体の<0−110>、<−1010>、<−1100>、<01−10>、<10−10>、及び<1−100>のいずれかの方位である、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された化合物半導体を評価する方法。
前記複数の角度における入射方位に対応づけて前記蛍光X線スペクトルを測定する工程において、前記蛍光X線スペクトルは、5keVから9keVのエネルギー範囲について測定される、請求項5に記載された化合物半導体を評価する方法。
前記複数の角度における入射方位に対応づけて前記蛍光X線スペクトルを測定する工程において、前記金属元素は、銅、鉄、及びニッケルのいずれかを含む、請求項5〜請求項8のいずれか一項に記載された化合物半導体を評価する方法。
前記入射方位の決定では、前記銅、鉄、及びニッケルの少なくともいずれかのピーク位置の付近に現れるゴースト信号のレベルを判断する、請求項9に記載された化合物半導体を評価する方法。
前記入射方位の決定では、前記複数の蛍光X線スペクトル間におけるバックグラウンドのレベルを判断する、請求項5〜請求項10のいずれか一項に記載された化合物半導体を評価する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、タングステンの特定X線(W−Lβ1 線)を面方位{100}のシリコンウエハのミラー表面に<011>方位から入射角を連続的に変えて入射する。このX線の回折強度を測定する。同様にシリコンの特定X線についても入射角を連続的に変更してその回折強度を測定する。2つの回折強度を同一の入射角についてそれぞれその比を演算し、入射角を増加していくとその比の変化の割合が最大となる入射角(0.10度)を求めている。
【0005】
一方、シリコンと同様に全反射蛍光X線分析装置を用いて、窒化ガリウムといったIII−V族窒化物の不純物分析を行うとき、III−V族窒化物表面からの蛍光X線スペクトルは、シリコン表面上の不純物種(例えば、銅、鉄、及びニッケル)と同じエネルギーのところにピークを含むことになる。ところが、窒化ガリウム表面からの蛍光X線スペクトルは、銅、鉄、及びニッケル等のピーク位置に、これらの不純物種からの蛍光X線と異なる起源のX線スペクトルを含む。この不純物種からの蛍光X線と異なる起源のX線スペクトルは、当該不純物種からの蛍光X線に対してノイズ成分となる。これ故に、窒化ガリウム表面では、シリコンにおける不純物分析とは事情が異なっている。このような事情のため、化合物半導体においては不純物の定量分析に困難がある。
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、全反射蛍光X線分析法を用いて、化合物半導体表面上の不純物に関する定量分析を可能にする、化合物半導体を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、化合物半導体を評価する方法に係る。この方法は、(a)六方晶系の化合物半導体からなる表面により励起X線が全反射するように該励起X線を該表面のターゲットエリアに照射して、前記ターゲットエリアからの蛍光X線を測定する工程と、(b)前記蛍光X線のスペクトルを用いて、前記表面の元素を定量的に見積もる工程とを備える。前記励起X線は、前記化合物半導体におけるm軸のいずれかの方向に沿って入射される。
【0008】
この評価方法(化合物半導体を評価する方法)によれば、六方晶系のIII−V族化合物半導体表面の微量元素を定量的に分析することを可能になる。
【0009】
本発明に係る評価方法では、前記化合物半導体は、III−V族化合物半導体であって、In
XAl
YGa
1−X−YN(0≦X≦1、0≦Y≦1)からなることができる。この方法によれば、III−V族窒化物の表面の微量元素を定量的に分析できる。
【0010】
本発明に係る評価方法では、前記蛍光X線は5keVから9keVのエネルギー範囲について測定されることができる。この方法によれば、5keVから9keVのエネルギー範囲にある蛍光X線を発する、半導体表面上の微量元素を定量的に分析可能になる。
【0011】
本発明に係る評価方法では、前記励起X線の入射は、前記化合物半導体の<0−110>、<−1010>、<−1100>、<01−10>、<10−10>、及び<1−100>のいずれかの方位であることができる。この評価方法によれば、六方晶系結晶体の<0−110>、<−1010>、<−1100>、<01−10>、<10−10>、及び<1−100>のいずれかの方位から励起X線を入射することができる。
【0012】
本発明は、化合物半導体を評価する方法に係る。この評価方法は、(a)化合物半導体からなる表面の法線軸に直交する軸を基準にして該軸からある角度範囲において、複数の角度を入射方位として、前記表面において励起X線が全反射するように該励起X線を該表面に照射して、複数の蛍光X線スペクトルを測定する工程と、(b)前記複数の蛍光X線スペクトルにおいて金属元素の既知のピーク位置におけるノイズの大きさの比較を行って、該比較の結果から、本測定のための入射方位を決定する工程と、(c)III−V族化合物半導体からなる表面により励起X線が全反射するように該励起X線を該表面のターゲットエリアに前記入射方位から前記本測定のための照射を行って、前記ターゲットエリアからの蛍光X線を測定する工程と、(d)前記蛍光X線のスペクトルを用いて、前記表面の元素を定量的に見積もる工程とを備える。
【0013】
この評価方法(化合物半導体を評価する方法)によれば、シリコンの結晶構造と異なる化合物半導体では、例えば結晶構造に起因するノイズが蛍光X線スペクトルに現れる。発明者の知見によれば、このノイズの大きさ及びピーク位置は、入射X線の見上げ角よりは、励起X線の入射方位に依存している。これ故に、励起X線のいくつかの入射方位に沿って入射させてノイズレベルを評価することにより、半導体表面上における金属元素のより良い定量分析を可能にする。
【0014】
本発明に係る評価方法では、前記蛍光X線スペクトルは、5keVから9keVのエネルギー範囲について測定することができる。この評価方法によれば、蛍光X線のエネルギー範囲が5keVから9keVにある、半導体表面の構成元素と異なる微量な元素を定量的に分析可能になる。
【0015】
本発明に係る評価方法では、前記化合物半導体は、In
XAl
YGa
1−X−YN(0≦X≦1、0≦Y≦1)からなることができる。この評価方法によれば、III−V族窒化物の表面の微量元素を定量的に分析するための入射方位を決定できる。
【0016】
本発明に係る評価方法では、前記角度範囲は60度以上であることができる。また、本発明に係る評価方法では、前記金属元素は、銅、鉄、及びニッケルのいずれかを含むことができる。さらに、前記入射方位の決定では、前記銅、鉄、及びニッケルの少なくともいずれかのピーク位置の付近に現れるゴースト信号のレベルの大きさを判断することが良く、及び/又は本発明に係る評価方法では、前記入射方位の決定では、前記複数の蛍光X線スペクトル間におけるバックグラウンドのレベルの大きさを判断することが良い。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、全反射蛍光X線分析法を用いて、化合物半導体表面上の不純物に関する定量分析を可能にする、化合物半導体を評価する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明の化合物半導体を評価する方法、化合物半導体からの蛍光X線を評価する方法、化合物半導体における不純物を評価する方法、化合物半導体表面における微量分析を行う方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0020】
図1は、化合物半導体を評価する方法に用いる全反射蛍光X線分析装置を概略的に示す図面である。全反射蛍光X線分析(TXRF)装置11は、化合物半導体の表面を有する基板W1を支持するステージ13を含む。ステージ13上の基板W1には、X線源15からの励起X線が照射される。入射する励起X線XINの大部分は、ステージ13上の基板W1の表面で全反射されて、反射された励起X線XOUTは、X線測定器17に入射する。ステージ13に対向する位置には、基板W1の化合物半導体表面からの蛍光X線XDATAを検出するためのX線検出器19が設けられており、X線検出器19は、基板W1のIII−V族化合物半導体表面からの蛍光X線XDATAを検出する。データ処理装置21は、X線測定器17からのデータ信号S1及び蛍光X線のためのX線検出器19からのデータ信号S2を用いて、基板W1上の不純物の定量分析のためのデータ処理を行う。データ処理装置21は、処理された蛍光X線スペクトルXSPを生成する。
【0021】
図2は、本実施の形態の一例として化合物半導体を評価する方法における主要な工程を示す図面である。工程S101では、評価対象となる基板W1を準備する。基板W1は、例えば六方晶系のIII−V族化合物半導体からなる表面を有する。III−V族化合物半導体の表面はc面、{0001}面及び/又は{000−1}面、を備えることができ、例えばIII−V族化合物半導体表面は例えば上限0.02度程度のオフを有することができる。このような基板W1として、単結晶サファイア、単結晶炭化シリコン、GaN,InGaN,AlN,AlGaNが例示される。工程S102では、全反射蛍光X線分析装置11のステージ13上に基板W1を置く。好適な実施例では、基板W1は、ステージ13に対して位置決めされており、また向き付けされている。工程S103では、基板W1を搭載したステージ13を法線軸Nxの回りに回転して、X線源15からの入射する励起X線の入射軸に合わせて基板W1を向き付けする。励起X線XINは、III−V族化合物半導体におけるm軸方向に沿って入射される。結晶学的に基づき規定されるm軸方向を基準に-1度〜+1度の範囲で励起X線XINが入射することが好ましい。励起X線XINの入射は、評価対象が六方晶系のIII−V族化合物半導体の表面を有するとき、評価対象の結晶対称性に基づき、結晶学的に等価な<0−110>、<−1010>、<−1100>、<01−10>、<10−10>、及び<1−100>のいずれかの方位で励起X線XINを入射させても実質的に同等の定量分析の結果を得ることができる。
【0022】
X線源15は、例えばタングステン(W)のLβ1線を生成する。工程S104では、基板W1の主面により励起X線が全反射するような角度(例えば0.05〜0.1度)で励起X線XINをIII−V族化合物半導体表面のターゲットエリアに照射して、このターゲットエリアからの蛍光X線XDATAをX線検出器19を用いて測定する。励起X線の照射に応答して、III−V族化合物半導体表面に存在する不純物の濃度に対応した強度の蛍光X線が発生する。X線検出器19は、ターゲットエリアにおける蛍光X線の積分強度を算出する。工程S105では、蛍光X線のスペクトルを用いて、III−V族化合物半導体表面の微量元素を定量的に見積もる。この見積もりにおいて、まず、例えば測定された蛍光X線スペクトルにおけるバックグラウンドを見積もる。このバックグラウンドの見積もりは例えば試料自体の散乱と光電子による制動放射を数値計算することにより行われる。バックグラウンドの見積もりの後に、測定された蛍光X線スペクトルから、見積もられたバックグラウンドレベルを差し引いて、キャリブレーションされた蛍光X線スペクトル、つまり校正された蛍光X線スペクトルを生成する。蛍光X線は5keVから9keVのエネルギー範囲について測定されることが好ましい。このエネルギー範囲は、半導体表面を汚染する可能性のある元素を定量的に分析可能にする。校正済み蛍光X線スペクトルは、鉄(エネルギー6.400keV)、コバルト(エネルギー6.925keV)、ニッケル(エネルギー7.473keV)、銅(エネルギー8.041keV)、クロム(エネルギー5.412keV)及び亜鉛(エネルギー8.631keV)に対応するピークを含む可能性がある。校正済み蛍光X線スペクトルにおけるピーク値(X線強度)がその元素の不純物量に対応している。このピーク値から不純物濃度の見積もり値は、例えば数値解析によるスペクトルのカーブフィッテングにより変換されて、不純物の濃度を得る。この評価方法によれば、六方晶系のIII−V族化合物半導体表面の微量元素を定量的に分析することを可能になる。
【0023】
III−V族化合物半導体は例えばIn
XAl
YGa
1−X−YN(0≦X≦1、0≦Y≦1)からなる。III−V族窒化物の表面の微量元素を定量的に分析できる。III−V族化合物半導体表面は具体的にはGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaN、AlN等を備えることができる。
【0024】
シリコン半導体の製造において、全反射蛍光X線(TXRF)分析は、ウエハ表面の不純物濃度が1×10
10(「1E10」とも記す)(atoms/cm
2)以下の微量金属の定量解析に用いられている。これ故に、III−V族化合物半導体のためのウエハプロセスにおいても全反射蛍光X線(TXRF)分析の適用を求められている。微量金属の定量解析がインラインでの測定で可能になれば、シリコンのウエハ製造やデバイスプロセスのように、銅、鉄、ニッケル、やクロムなど汚染源となる微量金属を定量的に管理できる。窒化ガリウムなどの化合物半導体のウエハ製造やデバイスプロセスにおいても、シリコン同様に微量金属のインラインでの測定が必要とされている。しかし、これまでは、化合物半導体上の微量金属の分析では、1E10(atoms/cm
2)以下の定量解析が困難であり、化合物半導体の分野では全反射蛍光X線(TXRF)分析を使った管理(微量金属の管理)を実現できていない。
【0025】
図1に示されるように、TXRF装置では、励起X線が物質面に対して非常に低い角度で入射すると、この入射励起X線がその物質表面で全反射することを利用する。すなわち、励起X線を試料に対して非常に低い角度で照射させ、励起に寄与しないX線をサンプルホルダ面で全反射させて、蛍光X線を半導体X線検出器(例えばSSD:シリコンもしくはゲルマニウム製の半導体放射線検出器)で検出する。このとき、銅、鉄、ニッケル、クロム、亜鉛などを検出するためには、励起X線としてタングステンのW−Lβ線の使用が好適である。
【0026】
TXRF装置における微量金属の定量方法のデータ解析手順では、蛍光X線エネルギースペクトルを測定した後に、蛍光X線エネルギースペクトルから、バックグラウンドを引くと共に、カーブフィッテングによりエネルギースペクトルを計算する。分析対象となる個々の金属に対応するピーク信号(銅:Kα=8.041keV、鉄Kα=6.4keV、ニッケル:Kα=7.473keV)を積分し、ピーク部分の面積の比率により微量金属の量を求める。
【0027】
図3は、本実施の形態に係る化合物半導体を評価する方法における別の主要な工程を示す図面である。工程S201では、化合物半導体からなる表面の法線軸に直交する軸を基準にして該軸からある角度範囲において、複数の角度を入射方位として、化合物半導体表面により励起X線が全反射するように該励起X線を化合物半導体表面に照射して、複数の角度における入射方位に対応づけて複数の蛍光X線スペクトルを測定する。
図4の(a)部は、測定対象物としての六方晶系化合物半導体の表面を示す平面図であり、
図4の(b)部は、
図4の(a)部に示されたI−I線にそってとられた断面を示す。
図4の(a)部を参照すると、面内(例えば(0001)面)における角度ωを、一例として六方晶系結晶体のm軸<1−100>を基準にして、m軸<1−100>からa軸<11−20>へ向かう回転方向を正として規定している。角度ωの変更範囲は例えば60度以上であることができる。
【0028】
図4の(a)部において、座標系の原点には、c軸<0001>がm軸<1−100>及びa軸<11−20>に直交するように規定される。
図4の(b)部を参照すると、励起X線の入射軸と、この入射軸をc面に射影した射影c軸とにより規定される平面における断面を示す。この平面内において、励起X線に入射軸はc面に対して角度φを成す。
【0029】
図4の(c)部は、III−V族窒化物の表面(c面GaN)からの蛍光X線スペクトルの一例を示す。
図4の(c)部において、シンボル「B」は、生の測定データを示し、シンボル「BG」はバックグラウンドレベルを示し、シンボル「CB」は、校正されたスペクトルを示す。
図4の(c)部に示されるように、III−V族窒化物半導体からの生の測定データは、シリコンウエハからの蛍光X線エネルギースペクトルとは異なり、高いバックグラウンドレベルを含み、また「ゴーストピーク」と呼ばれる出所不明のピークを含む。この実施例では、「ゴーストピーク」は微量分析の対象となる元素の銅や亜鉛からの特性X線のエネルギーに重なる。このため、「ゴーストピーク」は微量分析の妨げとなる。また、高いバックグラウンドレベルは微量分析の精度を低下させる可能性がある。
【0030】
工程S202では、複数の蛍光X線スペクトルにおいて金属元素の既知のピーク位置におけるノイズの大きさの比較を行って、該比較の結果から、本測定のための入射方位を決定する。
【0031】
シリコンウエハにおいては、TXRF法を用いて、1E10(atoms/cm
2)以下のレベルで不純物の定量解析を行っている。しかし、窒化ガリウム基板や窒化ガリウムエピタキシャル層上で、TXRF分析を行うためには、測定データ値(B)には、蛍光X線以外のゴーストピーク成分やバックグラウンド成分が含まれる。この測定生データ値から求めたフィッティングカーブに、本来ならば窒化ガリウム表面に含まれない元素が含まれているように、解析結果が生成されてしまう可能性がある。特に、5keVから9keVのエネルギー範囲では、バックグラウンドの上昇やゴーストピークの発生が顕著である。また、このエネルギー範囲は、製造ラインの管理で重要とされている汚染物質である銅、鉄、ニッケルの特性X線のエネルギーを含むので、これらの元素の定量分析に大きな誤差を生むことになる。これが、窒化ガリウム等のIII−V族化合物半導体においてインラインの微量金属汚染の管理を困難にしている。
【0032】
この課題を鑑みて、本実施の形態では、窒化ガリウム基板上において1E10(atoms/cm
2)台の微量金属の定量解析を可能にし、化合物半導体のウエハ製造やデバイスプロセスにおいても、TXRF分析を用いて微量の金属汚染に関する管理を可能にする方法を見出した。
【0033】
バックグラウンドの上昇やゴーストピークの発生は励起X線の回折やラマン散乱に起因すると考えられる。励起X線の回折やラマン散乱は、単結晶ウエハの結晶方位に依存する。結晶方位は材料の結晶構造を反映している。窒化ガリウムにおいては、これまでシリコンウエハの測定条件をそのまま採用している。このため、バックグラウンドの上昇やゴーストピークが発生していた可能性がある。シリコンはダイヤモンド構造であり、一方、窒化ガリウムはウルツ鉱構造である。ウルツ鉱構造の結晶構造はダイヤモンド構造と異なる。そこで、窒化ガリウムで入手容易な(0001)面基板を用いて、<1−100>軸を基準に時計回り90度、つまりa軸<11−20>軸までの角度範囲において、複数の方位に対応する角度(ω)で励起X線を入射させて、回折光とラマン散乱の強度を測定した。入射角φは0.1度に固定しており、好ましくは0.05度〜0.1度の範囲が望ましい。
図5は、このように測定された、GaNからの蛍光X線スペクトルを示す。窒化ガリウムでは、角度(ω)が40度及び90度であるとき、望まれないゴーストピークが8.4keV付近に現れる。一方で、角度(ω)が60度であるとき、望まれないピークの強度は極小となる。この向きは、結晶方位<0−110>である。
【0034】
複数の角度における入射方位に対応づけて蛍光X線スペクトルを測定する際に、分析対象となる金属元素、例えば銅、鉄、及びニッケルに起因する特性X線ピークのいずれかを含むように蛍光X線スペクトルを測定する。また、入射方位の決定では、銅、鉄、及びニッケルの少なくともいずれかのピーク位置の付近に現れるゴースト信号のレベルの大きさに関する判断、及び/又は複数の蛍光X線スペクトル間におけるバックグラウンドのレベルの大きさに関する判断を行うことが好ましい。
【0035】
図6は、望まれないピークの強度が極小となる角度(ω)60度に入射方位を設定して調べた、銅、鉄、ニッケルの汚染量とTXRF分析の信号強度の相関を示す。
図5を参照すると、5keVから9keVのエネルギー範囲のバックグラウンド上昇やゴーストピークの発生を抑制できることを示す。このとき、1E10(atoms/cm
2)台まで信号強度は、物質の濃度に良好な相関関係を有している。これ故に、窒化ガリウム表面においても1E10(atoms/cm
2)台の微量金属の定量が可能である。したがって、励起X線の入射角を例えば60度にすることにより、化合物半導体のウエハ製造やデバイスプロセスの製造ラインにてインラインで微量汚染金属の管理が可能になる。
【0036】
工程S203では、化合物半導体からなる表面により励起X線が全反射するように該励起X線を該表面のターゲットエリアに入射方位から照射して、このターゲットエリアからの蛍光X線を測定する。工程S204では、蛍光X線のスペクトルを用いて、化合物半導体表面の微量元素を定量的に見積もる。この結果、化合物半導体表面の微量元素を定量的に評価できる。この方法によれば、シリコンの結晶構造と異なる化合物半導体では、結晶構造に起因するノイズが蛍光X線スペクトルに現れる。発明者の知見によれば、このノイズの大きさ及びピーク位置は、見上げ角よりは、励起X線の入射方位に依存している。これ故に、励起X線のいくつかの入射方位に沿って入射させてノイズレベルを評価することにより、半導体表面上における金属元素のより良い定量分析を可能にする入射方位を見出せる。
【0037】
複数の角度における入射方位に対応づけて蛍光X線スペクトルを測定する工程において、化合物半導体は、例えばIII−V族化合物半導体であることができ、またIn
XAl
YGa
1−X−YN(0≦X≦1、0≦Y≦1)からなることができる。
【0038】
図7に示されるように、III−V族化合物半導体のGaAsにおいても、GaN系半導体と同様な現象(ゴーストピークやバックグラウンドの上昇)が生じている。これ故に、上記の分析方法は、III−V族窒化物に限定されることなく、GaAs系半導体、InP系半導体といった閃亜鉛鉱型の結晶格子を有するIII−V族化合物半導体にも適用可能である。
図7において、シンボル「B」は、生の測定データを示し。シンボル「BG」はバックグラウンドレベルを示し、シンボル「CB」は、校正されたスペクトルを示す。
図7の測定は、角度ωが40度であり、角度θが0.05度である。GaAsに対する測定においても、III−V族化合物半導体からの生の測定データは、高いバックグラウンドレベルを含み、また「ゴーストピーク」と呼ばれる出所不明のピークを含む。この実施例を具体的に見ると、ゴーストピークは微量分析の対象となる元素の銅や亜鉛からの特性X線のエネルギーに重なる。このため、ゴーストピークは微量分析の妨げとなる。また、高いバックグラウンドレベルは微量分析の精度を低下させる可能性がある。
【0039】
図8は、結晶方位を説明するための六角柱を示す図面である。六方晶系結晶格子において、ウエハ主面として(0001)面を選ぶとき、
図8の(a)部に示されるように、六角柱の側面の一つ(柱面)に垂直な方向は、以下の6方向になる。
<0−110>、<−1010>、<−1100>、<01−10>、<10−10>、<1−100>。
これらの結晶方位の一つと基板主面とにより規定される平面に沿って励起X線を入射させるとき、この単結晶からの回折光の強度は最小となる。これは、全反射蛍光X線分析にて現れる蛍光X線以外の光の成分の強度はウルツ鉱構造の結晶方位に依存することを意味する。また、ウルツ鉱構造の結晶方位への依存は、上記の説明が特定の材料、つまり窒化ガリウムだけでなく、励起X線の入射方向の調整により全反射蛍光X線分析の回折光を低減できることを示しており、ウルツ鉱構造の結晶全般に当てはまる。
また、
図8の(b)部は、GaN系半導体の六方晶系結晶の結晶方位とGaAs系結晶の結晶方位との以下の関係を示す。
[0001]:[001]。
[−1−120]:[−1−10]。
[1−120]:[1−10]。
[2−1−10]:[100]。
[4−1−13]:[101]。
[10−12]:[212]。
[―12−10]:[010]。
【0040】
半導体プロセスにおいては、ウエハ表面の金属汚染を常に監視することが好ましい。シリコンのウエハ製造やデバイスプロセスにおいては、製造ライン内にて、金属汚染量の管理のために全反射蛍光X線分析が用いられてきた。一方で、窒化ガリウムなどの化合物半導体を用いたデバイスプロセスにおいても、TXRF分析が行われていたが、微量金属の定量分析は不可能であったので、製造ライン内での管理には使われていない。そのため、化合物半導体のウエハ製造やデバイスプロセスにおいては、製造ライン内で汚染物質となる微量金属量の維持・管理ができていなかった。
【0041】
化合物半導体ウエハにおいて微量金属の定量ができていなかった理由は、汚染金属を特定する蛍光X線スペクトルの中にラマン散乱や入射X線の回折光などが雑音として入り、蛍光X線スペクトルのバックグラウンドの上昇やゴーストピークの発生により、カーブフィッテングに大きな誤差が生じて、数値解析による金属の定量値の精度を著しく低下させるからである。また、定量値の精度の悪化は、金属が微量になるほど顕著になるため化合物半導体表面における微量金属の定量は難しいとされてきた。
【0042】
しかし、本実施の形態に係る方法では、化合物半導体の製造においても、インラインにおいて、微量元素の定量分析が可能になる。また、単結晶窒化アルミニウム、単結晶AlGaN、単結晶InGaN、単結晶サファイア、炭化シリコン等などウルツ鉱構造と、単結晶GaAs、単結晶InPなど、せん亜鉛構造、を持つウエハやエピタキシャル層における極微量の汚染物質を検査可能になる。
【0043】
本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。