特許第6033736号(P6033736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日星電気株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人トヨタ学園の特許一覧

特許6033736光吸収機能を有するレーザ装置用光ファイバ
<>
  • 特許6033736-光吸収機能を有するレーザ装置用光ファイバ 図000002
  • 特許6033736-光吸収機能を有するレーザ装置用光ファイバ 図000003
  • 特許6033736-光吸収機能を有するレーザ装置用光ファイバ 図000004
  • 特許6033736-光吸収機能を有するレーザ装置用光ファイバ 図000005
  • 特許6033736-光吸収機能を有するレーザ装置用光ファイバ 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033736
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】光吸収機能を有するレーザ装置用光ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20161121BHJP
   H01S 3/067 20060101ALI20161121BHJP
   C03B 37/012 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   G02B6/02 356A
   H01S3/067
   C03B37/012 Z
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-98037(P2013-98037)
(22)【出願日】2013年5月8日
(65)【公開番号】特開2014-219524(P2014-219524A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(72)【発明者】
【氏名】小松 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】西川 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 朋也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰生
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 和也
【審査官】 鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−226223(JP,A)
【文献】 特開昭55−040483(JP,A)
【文献】 特開平11−029335(JP,A)
【文献】 特開2005−049796(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/096557(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02 − 6/036
H01S 3/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素を主成分とする光ファイバであり、該光ファイバに酸素が欠乏した二酸化ケイ素の領域が存在し、該光ファイバの少なくとも一端に増幅用光ファイバを接続したことを特徴とする、レーザ装置用光ファイバ。
【請求項2】
該酸素欠乏領域において、該光ファイバを伝搬する光の少なくとも一部が吸収されることを特徴とする、請求項1に記載のレーザ装置用光ファイバ。
【請求項3】
該酸素欠乏領域は、該光ファイバのクラッドのみに形成されたことを特徴とする、請求項1または2に記載のレーザ装置用光ファイバ。
【請求項4】
該酸素欠乏領域は、該光ファイバのコアと隣接しないことを特徴とする、請求項3に記載のレーザ装置用光ファイバ。
【請求項5】
該酸素欠乏領域を、該光ファイバを構成する材料に放射線を照射することによって形成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ装置用光ファイバの製造方法。
【請求項6】
放射線が照射され、酸素欠乏領域が形成された二酸化ケイ素を主成分とする、クラッド用光ファイバ母材を使用して光ファイバを製造する工程と、該光ファイバの少なくとも一端に増幅用光ファイバを接続する工程とを有することを特徴とするレーザ装置用光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にファイバレーザ装置に使用される、レーザ装置用光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工や医療用途などへの適用を目的として、ファイバレーザは、高効率でしかも高ビーム品質のレーザ光を簡単に取り出せるという理由で注目を集めている。
一般的なファイバレーザ装置は、図1に示すような構成をしている。
すなわち、信号光源1から発生した信号光2と、励起光源3から発生する励起光4を、光結合器5を介して希土類元素を添加したコアを有する増幅用光ファイバ7へ入力し、励起光4がコアに添加された希土類元素に作用することで、増幅用光ファイバ7のコアを伝搬する信号光2を増幅し、高エネルギーを有するレーザ光10を得る。
【0003】
増幅用光ファイバ7に入力された励起光4の一部は、クラッドを伝搬して増幅用光ファイバ7の出射端まで到達する。増幅用光ファイバ7の出射端にはレーザ出射用の光ファイバ9などが接続されることが多いが、クラッド伝搬光は接続先の光ファイバのコアに入力されずに、接続部8で放射されるのが通常である。
【0004】
この接続部8で放射されたクラッド伝搬光が周囲に存在する部品などに吸収されることによって予期せぬ発熱が発生し、部品や光ファイバに損傷が発生する場合がある。
このため、クラッド伝搬光が増幅用光ファイバ7の出射端に到達する前に除去して放熱させる方法が取られている。
【0005】
クラッド伝搬光を吸収する方法として、特許文献1のようにクラッドにクラッド伝搬光を吸収するドーパントを添加する方法や、特許文献2のようにクラッドの周囲に光吸収体を設ける方法が知られている。
【0006】
しかしながら、特許文献1のようにドーパントを添加する方法は、均一にドーパントが分布するようクラッド材を形成する必要があり、手間・コストが非常に掛かるという難点が存在する。加えて、クラッド全体にドーパントが添加されているため、光ファイバの長手方向の特定の位置のみでクラッド伝搬光を吸収させたい場合には不向きな方法である。
【0007】
一方、特許文献2のように光吸収体を設ける方法は、必要な箇所のみに光吸収体を設けることができるため、光ファイバの長手方向の特定の位置のみでクラッド伝搬光を吸収させたい場合に有効な方法である。しかしながら、光吸収体を設けた部分の寸法が大きくなってしまうため、小型化が必要な際には不向きな方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−174739
【特許文献2】特開平11−274613
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ドーパントや光吸収体を使用せずとも、不要な伝搬光を吸収する機能を有する、光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、光ファイバの材料として広く使用されている石英ガラスの主成分である二酸化ケイ素に放射線を照射すると、酸素が欠乏して光学特性が変化した領域が形成されることに注目し、この光学特性が変化した領域に光を吸収させることで、従来の問題を解消できることを究明した。
【0011】
本発明によって提供されるレーザ装置用光ファイバは、二酸化ケイ素が主成分であり、酸素が欠乏した二酸化ケイ素の領域が存在する光ファイバの少なくとも一端に、増幅用光ファイバを接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のレーザ装置用光ファイバにあっては、以下に記載した優れた効果が期待できる。

(1)ドーパントや光吸収体といった、光ファイバに対する新たな物質・物品を追加することなく、比較的簡便・安価に光吸収機能を得ることができる。

(2)任意の位置に酸素欠乏領域を設けることで、光ファイバの長手方向の特定の位置のみでクラッド伝搬光を吸収させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一般的なファイバレーザ装置の一例である。
図2】本発明に使用する光ファイバの実施形態の一例であり、光ファイバの先端部のクラッド内に酸素欠乏領域を形成した場合である。
図3】本発明に使用する光ファイバの実施形態の一例であり、光ファイバのクラッド全体に酸素欠乏領域を形成した場合である。
図4】本発明に使用する光ファイバの実施形態の一例であり、光ファイバをダブルクラッド構造とし、第2クラッド全体に酸素欠乏領域を形成した場合である。
図5】本発明のレーザ装置用光ファイバの実施形態の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に使用する光ファイバの基本的構成を、添付図面を参照しながら説明する。
図2において、11は光ファイバ、12は光ファイバのコア、13は光ファイバのクラッド、14は酸素欠乏領域である。
本発明で特徴的なことは、光ファイバ11の主成分を二酸化ケイ素とし、光ファイバに二酸化ケイ素の酸素が欠乏した領域14が存在することである。
【0015】
酸素が欠乏した二酸化ケイ素は、通常化学式でSiOと表記されている状態からSiO(0<x<2)という状態に変化する。この変化に伴って二酸化ケイ素を主成分として構成された材料に分子レベルでの構造欠陥が発生し、光学特性も変化する。この光学特性の変化により、赤外線吸収機能を有するようになるため、その酸素欠乏領域で光を吸収することができる。この酸素欠乏領域14は、二酸化ケイ素に放射線を照射することによって形成することができる。放射線として、エックス線、ガンマ線が好ましい。
【0016】
この酸素欠乏領域14を、図2に示したようにクラッド13内のみに形成すれば、クラッド伝搬光を効率的に吸収することができる。
なお、図2は光ファイバ11の先端部のクラッド13内に酸素欠乏領域14を形成した場合を示しているが、図3のようにクラッド13全体を酸素欠乏領域14としても良いし、図示しないが、光ファイバ11の中間部のクラッド13内に酸素欠乏領域14を形成しても良い。
【0017】
また、酸素欠乏領域14をクラッド13内のみに形成する際は、図のように酸素欠乏領域14と光ファイバのコア12を隣接させないようにするのが好ましい。コア12と酸素欠乏領域14が隣接していると、コア12と酸素欠乏領域14の界面でコア12を伝搬する光が酸素欠乏領域14に吸収されやすいためである。
【0018】
酸素欠乏領域14と光ファイバ11のコア12を隣接させない方法として、光ファイバ11をダブルクラッド構造とすることが挙げられる。すなわち、光ファイバ11をコア12、第1クラッド13A、第2クラッド13Bから構成されるダブルクラッドファイバとし、第2クラッド13B内のみに酸素欠乏領域14を形成させることで、コア12と酸素欠乏領域14が隣接しない光ファイバ11となる。
【0019】
実際にクラッド13内のみに酸素欠乏領域14が形成された光ファイバ11を得るには、光ファイバ11に直接放射線を照射するより、光ファイバ11の材料となる母材の状態で放射線を照射するのが好ましい。クラッド13となる母材に放射線を照射して酸素欠乏領域を形成し、この母材を用いて一般的な光ファイバの製造方法である線引き法によって光ファイバを製造すると、クラッド13内のみに酸素欠乏領域14が形成された光ファイバ11を得ることができる。
【0020】
のように光ファイバ11をダブルクラッド構造とする場合は、第2クラッド13Bとなる母材のみに放射線を照射して、酸素欠乏領域14を形成させれば良い。
【実施例】
【0021】
本発明のレーザ装置用光ファイバの実施例を示す。
石英ガラス製の第1、第2クラッド用母材を準備し、第2クラッド用母材の全体にエックス線を照射して酸素欠乏領域を形成した。
これらの第1、第2クラッド用母材と、石英ガラス製のコア用母材を使用して線引きを行い、コア径20μm、第1クラッド径400μm、第2クラッド径550μm、NA=0.06の光ファイバを得た。この光ファイバは第2クラッド全体が酸素欠乏領域となっている。
【0022】
このようにして得た光ファイバを長さ10mmに切断し、両端を研磨したものを、図5に示すように、ファイバレーザ装置に使用される増幅用光ファイバの出射端側に融着接続して、本発明のレーザ装置用光ファイバを作製した
このレーザ装置用光ファイバをファイバレーザ装置に組み込み、クラッド伝搬光吸収能力の評価試験を行ったところ、ドーパントや光吸収体を使用した時と同等の吸収能力があり、本発明のレーザ装置用光ファイバはファイバレーザ装置で使用される光ファイバとして十分な機能が確保されていることが確認できた。
【0023】
以上の例は、本発明の一例に過ぎず、本発明の思想の範囲内であれば、種々の変更および応用が可能であることは言うまでもない。例えば、本発明のレーザ装置用光ファイバは、使用されるファイバレーザ装置などに応じて、コア/クラッド径、開口数、酸素欠乏領域の範囲・数などを、適宜変更されて供されることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0024】
1 信号光源
2 信号光
3 励起光源
4 励起光
5 光結合器
6 光結合器と増幅用光ファイバの接続部
7 増幅用光ファイバ
8 増幅用光ファイバとレーザ出射用光ファイバの接続部
9 レーザ出射用光ファイバ
10 レーザ光
11 光ファイバ
12 光ファイバのコア
13 光ファイバのクラッド
13A 光ファイバの第1クラッド
13B 光ファイバの第2クラッド
14 酸素欠乏領域
図1
図2
図3
図4
図5