特許第6033757号(P6033757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6033757アルミニウム合金クラッド板及びアルミニウム合金クラッド構造部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033757
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金クラッド板及びアルミニウム合金クラッド構造部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20161121BHJP
   C22F 1/047 20060101ALI20161121BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20161121BHJP
   C22F 1/057 20060101ALI20161121BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20161121BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20161121BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   C22C21/00 E
   C22F1/047
   C22F1/053
   C22F1/057
   B32B15/20
   B23K20/04 H
   B23K20/04 D
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-225708(P2013-225708)
(22)【出願日】2013年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-108163(P2015-108163A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2015年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-221336(P2013-221336)
(32)【優先日】2013年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100146112
【弁理士】
【氏名又は名称】亀岡 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100167335
【弁理士】
【氏名又は名称】武仲 宏典
(74)【代理人】
【識別番号】100164998
【弁理士】
【氏名又は名称】坂谷 亨
(72)【発明者】
【氏名】松本 克史
(72)【発明者】
【氏名】有賀 康博
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−188821(JP,A)
【文献】 特開平07−054088(JP,A)
【文献】 特開平05−043970(JP,A)
【文献】 特開2002−053925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04− 1/057
B23K 20/00−20/26
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアルミニウム合金層が積層されたアルミニウム合金クラッド板であって、
Mg:1.5〜14質量%、Zn:2〜30質量%、Cu:1.5〜6質量%の1種または2種以上を含み、残部が、アルミニウムと、前記含有量範囲外のMg、Zn又はCu(0質量%を含む)と、不可避的不純物とであるアルミニウム合金層が複数積層されたものであり、
少なくともMgか、Znか、Cuかのいずれかの含有量が互いに異なるアルミニウム合金層が接合するように積層されており、
前記アルミニウム合金クラッド板が、積層された前記各アルミニウム合金層のMg、Zn、Cuの各含有量をそれぞれ平均化した値として、Mg、Zn、Cuのうちの少なくとも2種を前記含有量範囲で含み、
積層された前記アルミニウム合金層のうち、Zn、Cuを前記各含有量範囲で含むアルミニウム合金層は、前記アルミニウム合金クラッド板の内側に積層され、
積層された前記アルミニウム合金層のうち、Mgを前記含有量範囲で含み、かつ、Zn:2質量%以下(0質量%を含む)、Cu:1.5質量%以下(0質量%を含む)に各々抑制したアルミニウム合金層が、前記アルミニウム合金クラッド板の両外側に積層されており、
前記アルミニウム合金クラッド板の、前記アルミニウム合金層の合計積層数が3〜7層で、全体の板厚が1〜5mmであり、
前記アルミニウム合金クラッド板の特性として、このクラッド板に450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間保持後、更に120℃×2時間時効処理した後の、前記積層されたアルミニウム合金層同士の各接合界面部の硬度が、この接合界面部を構成する前記積層された各アルミニウム合金層の硬度よりも全て高い組織を有する、
ことを特徴とするアルミニウム合金クラッド板。
【請求項2】
請求項1のアルミニウム合金クラッド板をプレス成形し、450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間保持後、更にT6処理を施すことにより、400MPa以上の0.2%耐力を有するアルミニウム合金クラッド構造部材を製造するアルミニウム合金クラッド構造部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金クラッド板およびアルミニウム合金クラッド構造部材(以下、アルミニウムをアルミやAlとも言う)に関するものである。ここでクラッド板とは、アルミニウム合金層同士を互いに積層し、圧延などで互いに一体に接合した積層板である。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体や航空機の機体など、軽量化のためにアルミニウム合金板が素材として用いられる輸送機の構造部材では、高強度化のための高合金化と、構造部材への成形性とが矛盾しやすい。
【0003】
例えば、構造部材用の7000系アルミニウム合金や超々ジュラルミン(Al-5.5%Zn-2.5%Mg合金)などは、高強度化させるための典型的手段として、ZnやMgなどの高強度化元素量を増加させているが、延性が低下して構造部材に成形しにくい問題がある。また、耐食性が低下したり、保管中に室温時効(時効硬化)して強度が増加して、構造部材への成形性が著しく低下するという問題もある。また、圧延工程など板の生産効率も低いという問題もある。
【0004】
このような高強度化と成形性との相矛盾する課題は、前記7000系アルミニウム合金板や、超々ジュラルミン板などの、アルミニウム合金板単体の組成や組織、あるいは製法だけで解決することは非常に難しい。
【0005】
この問題の解決の方向として、従来から、異なる組成や特性を有するアルミニウム合金層(板)同士を互いに2〜4層積層させたアルミニウム合金クラッド板(積層板)が知られている。
【0006】
この代表的な例は、3000系アルミニウム合金の心材に、7000系アルミニウム合金の犠牲陽極材、4000系アルミニウム合金のろう材をクラッドした3層〜4層構造の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートである。
【0007】
この他、特許文献1では、心材を高強度化のための5000系アルミニウム合金材、皮材を耐食性向上のための7000系アルミニウム合金材と各々したクラッド材からなる自動車燃料タンク用アルミニウム合金材も提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、1000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系などのアルミニウム合金の融点差を利用して、双ロールを用いた連続鋳造によって、アルミニウム合金同士を最大で4層積層して一体化させたクラッド板の製造方法も提案されている。
【0009】
更に、特許文献3では、複数のアルミニウム合金層を積層する際に、これらアルミニウム合金層の層間にCu防食層を介在させ、このCu防食層のCuを、高温の熱処理によって接合されたアルミニウム合金層にまで拡散させて、クラッド板の耐食性を向上させることも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−285391号公報
【特許文献2】特許第5083862号公報
【特許文献3】特開2013−95980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ただ、これら従来のアルミニウム合金クラッド板で、前記した輸送機の構造部材用として、前記7000系アルミニウム合金板などの高い強度レベルにおける成形性との矛盾を解決したものはない。
【0012】
このような課題に対して、本発明の目的は、前記7000系アルミニウム合金板などの高い強度レベルにおける成形性との矛盾を解決し、高強度化と高成形性とを兼備したアルミニウム合金クラッド板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本発明の要旨は、プレス成形されて構造部材として用いられるアルミニウム合金クラッド板であって、
プレス成形されて構造部材として用いられ、複数のアルミニウム合金層が積層されたアルミニウム合金クラッド板であって、
Mg:1.5〜14質量%、Zn:2〜30質量%、Cu:1.5〜6質量%の1種または2種以上を含むアルミニウム合金層が複数積層されたものであり、少なくともMgかZn、あるいはCuかのいずれかの含有量が互いに異なるアルミニウム合金層が接合するように積層されており、
前記アルミニウム合金クラッド板が、積層された前記各アルミニウム合金層のMg、Zn、Cuの各含有量をそれぞれ平均化した値として、Mg、Zn、Cuのうちの少なくとも2種を前記含有量範囲で含み、
積層された前記アルミニウム合金層のうち、Zn、Cuを前記各含有量範囲で含むアルミニウム合金層は、前記アルミニウム合金クラッド板の内側に積層され、
積層された前記アルミニウム合金層のうち、Mgを前記含有量範囲で含み、かつ、Zn:2質量%以下(0質量%を含む)、Cu:1.5質量%以下(0質量%を含む)に各々抑制したアルミニウム合金層が、前記アルミニウム合金クラッド板の両外側に積層されており、
前記アルミニウム合金クラッド板の、前記アルミニウム合金層の合計積層数が3〜7層で、全体の板厚が1〜5mmであり、
前記アルミニウム合金クラッド板の特性として、このクラッド板に450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間保持後、更に120℃×2時間時効処理した後の、前記積層されたアルミニウム合金層同士の各接合界面部の硬度が、この接合界面部を構成する前記積層された各アルミニウム合金層の硬度よりも全て高い組織を有する、
ことである。
【0014】
また、本発明のアルミニウム合金クラッド構造部材の要旨は、上記アルミニウム合金クラッド板をプレス成形してなり、450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間保持後、更にT6処理を施すことにより、400MPa以上の0.2%耐力を有することである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、アルミニウム合金クラッド板に高強度化と高成形性とを兼備させるために、前記した層数と板厚とを前提として、互いにクラッドするアルミニウム合金層をMg、Znを多く含む特定の組成とする。これによって、先ず、素材クラッド板の延性を高くして、構造部材へのプレス成形性を確保する。この素材段階での高強度化は、プレス成形性を却って阻害するために不要である。
【0016】
その上で、構造部材にプレス成形した後で、互いにクラッドしたアルミニウム合金層同士が含むMg、ZnあるいはCuなどを、熱処理によって積層した互いの板の組織に拡散させる。そして、このような元素の拡散によって、これらMg、ZnあるいはCuなどで形成する新たな複合析出物(時効析出物)を、互いの接合界面部に析出させて、高強度化を図る。この点で、前記クラッドするアルミニウム合金層のMg、Znなどを多く含む特定の組成は、単に延性の観点からだけではなく、熱処理によって、前記元素の拡散による複合析出物が互いの接合界面部に析出させて高強度化するための組成でもある。
【0017】
本発明では、このようなメカニズムの発現による高強度化を保証するために、素材段階でのクラッド板を、このクラッド板に450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間保持し、更に、その後に120℃×2時間の人工時効処理を施した後の組織乃至特性を規定している。そして、この組織乃至特性として、前記積層されたアルミニウム合金層同士の各接合界面部の硬度が、前記積層された各アルミニウム合金層の硬度よりも全て高いものと規定している。これは、前記複合析出物が互いの接合界面部に析出した場合には、この接合界面部の硬度が、板のより内部の組織に比して高硬度となるからである。
【0018】
したがって、例えばマイクロビッカース硬度など、ピンポイントで硬度を測定できる手法で、この硬度差を測定すれば、接合界面部の前記複合析出物(ナノレベルのサイズの微細析出物)の密度などの分散状況をTEMなどによって手間ひまかけて測定せずとも、所望の高強度化に直接相関する目安となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明クラッド板の一態様を示す断面図である。
図2】本発明クラッド板の他の態様を示す断面図である。
図3】本発明クラッド板の他の態様を示す断面図である。
図4】本発明クラッド板の他の態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアルミニウム合金クラッド板(以下、単にクラッド板とも言う)および、これを素材としたアルミニウム合金クラッド構造部材(以下、単にクラッド構造部材とも言う)を実施するための最良の形態について、図1、2、3を用いて説明する。なお、図1〜3は本発明クラッド板の幅方向あるいは圧延方向(長手方向)の一部の断面を示しているにすぎず、このような断面構造が本発明クラッド板の幅方向あるいは圧延方向の全般に亘って均一に(一様に)延在している。
また、以下の本発明実施態様の説明では、クラッドする前の板をアルミニウム合金板と称し、この板が圧延クラッドされて薄肉化された後のクラッド板における層をアルミニウム合金層と言う。したがって、クラッド板におけるアルミニウム合金層についての組成や積層の仕方などの規定の意義は、クラッドされる前のアルミニウム合金板や鋳塊の規定意義とも読み替えることができる。
【0021】
(クラッド板)
本発明クラッド板は、Mg、Zn、Cuの1種または2種以上を規定する範囲で含むアルミニウム合金層同士であって、少なくともMgか、Znか、Cuかのいずれかの含有量が互いに異なるアルミニウム合金層同士が、互いに3〜7層(枚)積層(クラッド)されている。そして、これら積層されたクラッド板全体の板厚は1〜5mmの範囲であるアルミニウム合金クラッド板である。
【0022】
積層する層(後述する鋳塊あるいは板の枚数、積層数)は、クラッド板の特性を発揮させるためには、多層とするほど効果的で、3層(3枚)以上の層とすることが必要である。2層では単体の板と大差がなく、積層する意味が無い。一方で、クラッド板の特性としては、7層(7枚)を超えて積層しても大した向上は望めず、逆に、前記板厚範囲でのクラッド板の製造効率が大きく低下して、実用的ではない。
【0023】
前記7000系など、通常の単体の板では、Mgを14質量%まで、Znを30質量%までなど、本発明のように高合金化した場合には、延性が極端に低下して、圧延割れなどを起こして圧延できなくなる。これに対して、本発明では、薄板同士の、しかも組成の互いに異なる薄板同士の積層板(積層鋳塊)としているため、前記高合金化しても延性が高いので、薄板のクラッドまで冷間圧延を含めて、熱延可能である。すなわち、本発明クラッド板は、通常の圧延工程により、圧延クラッド板として製造できる点が利点でもある。
【0024】
このため、圧延によりクラッド板とする前に、Mg、Zn、Cuの1種または2種以上を規定する範囲で含むアルミニウム合金鋳塊あるいは板同士であって、少なくともMgか、Znか、Cuかのいずれかの含有量が互いに異なるアルミニウム合金鋳塊あるいは板同士を、互いに3〜7枚積層(クラッド)する。そして、通常の圧延工程と同様に、必要に応じて均質化熱処理を施した後で、熱間圧延してクラッド板とできる。前記板厚範囲で更に薄肉化するためには、これに加えて、中間焼鈍を必要により施しながら、冷間圧延する。これら圧延クラッド板に、必要により調質(焼鈍、溶体化などの熱処理)を施して、本発明クラッド板を製造する。ここで、各アルミニウム合金鋳塊を各々別個に均質化熱処理した後に、互いに重ね合わせて積層した鋳塊を、熱延温度に再加熱後に熱間圧延しても良い。或いは、各アルミニウム合金鋳塊を各々別個に均質化熱処理した後に各々別個に熱間圧延を行い、さらに必要に応じて各々別個に中間焼鈍或いは冷間圧延を施して、各々別個に適当な板厚とした後に、互いに重ねあわせて積層した板材を、さらに冷間圧延を施してクラッド板とする工程でも良い。
【0025】
本発明のクラッド板全体の板厚が1〜5mmの範囲であるのは、前記した輸送機の構造部材で汎用されている板厚範囲を規定しているに過ぎない。板厚が1mm未満であれば、構造部材として必要な剛性、強度、加工性、溶接性などの必要特性を満たさない。一方、板厚が5mmを超えた場合には、輸送機の構造部材へのプレス成形が困難となり、また重量増加によって、前記した輸送機の構造部材として必要な軽量化が図れない。
【0026】
前記圧延クラッド法によって、最終的なクラッド板全体の板厚を1〜5mmとするための、前記鋳塊の厚み(板厚)は、積層する枚数(層数)や圧延率などにも勿論よるが、50〜200mm程度である。また、最終的なクラッド板全体の板厚が1〜5mmの場合の、積層された各合金層の厚みは、積層する枚数(層数)にもよるが0.1〜2.0mm(100〜2000μm)程度である。
また、単体で均質化熱処理、熱間圧延、または冷間圧延を施した後に、積層して冷間圧延工程でクラッド板とするプロセスの場合、積層する段階の各板材の厚みは、積層する枚数(層数)や圧延率などにも勿論よるが、0.5〜5.0mm程度である。
【0027】
(クラッドされる前のアルミニウム合金板、鋳塊組成、あるいはクラッドされて薄肉化された後のアルミニウム合金層の組成、更にはクラッド板の組成)
クラッド(積層)される前のアルミニウム合金板や鋳塊、あるいはクラッドされた後のアルミニウム合金層の組成は、Mg:1.5〜14質量%、Zn:2〜30質量%、Cu:1.5〜6質量%の1種または2種以上(1種〜3種)を含むものとする。このうちでも、Mg、Znの1種または2種を前記含有量範囲で含むアルミニウム合金層(板)同士であって、少なくともMgかZnのいずれかの含有量が互いに異なるアルミニウム合金層(板)同士が互いに積層され、前記アルミニウム合金クラッド板全体として、Mg、Znのうちのいずれかを前記含有量範囲で含むことが、成形性と強度との兼備の上で特に好ましい。
【0028】
これらMg:1.5〜14質量%、Zn:2〜30質量%、Cu:1.5〜6質量%の1種または2種以上を含むアルミニウム合金層とは、Al−Zn系、Al−Mg系、Al−Cu系の2元系アルミニウム合金であっても良い。また、Al−Zn−Mg系、Al−Zn−Cu系、Al−Mg−Cu系の3元系アルミニウム合金であっても、Al−Zn−Mg−Cu系の4元系であっても良い。これらを組み合わせて、最終的なクラッド板全体としてはMgとZnとを、前記含有量範囲で含むように所定枚数積層する。
【0029】
本発明クラッド板では、前記構造部材用の7000系アルミニウム合金板や超々ジュラルミン板、2000系アルミニウム合金板や8000系アルミニウム合金板の組成でも、選択的に含まれているSiやLiを含んでも良い。したがって、本発明で言う2元系、3元系、4元系のアルミニウム合金とは、規定するMg、Zn、Cuの主要元素以外の残部は不可避的不純物およびアルミニウムであっても良い。また、後述する不純物元素を許容量以下含んだ上で、これ以外の残部を、Si:0.5質量%以下、Li:0.1質量%以下、を選択的に含み、不可避的不純物およびアルミニウムとしても良い。
【0030】
本発明は、構造部材用の7000系アルミニウム合金板や超々ジュラルミン板(Al-5.5%Zn-2.5%Mg合金)、2000系アルミニウム合金板や8000系アルミニウム合金板などの代替を意図している。すなわち、素材クラッド板の段階では、これら高強度材の延性を大きく向上させるとともに、構造部材に成形後に、これらの高強度材並みに高強度化させることを主眼としている。このため、最終的なクラッド板の組成は、クラッド板全体の組成として、前記構造部材用の7000系アルミニウム合金板や超々ジュラルミン板、2000系アルミニウム合金板や8000系アルミニウム合金板の組成と同一か、これに近似する組成とする必要がある。
【0031】
したがって、前記構造部材用の7000系アルミニウム合金板や超々ジュラルミン板、2000系アルミニウム合金板や8000系アルミニウム合金板の主要元素(必須元素)であるMg、Zn、Cuの1種或いは2種以上(2種または3種)を、Mg:1.5〜14質量%、Zn:2〜30質量%、Cu:1.5〜6質量%の範囲で各々含むものとする。そして、最終的なクラッド板としても、これらの組成を保証するために、Mg:1.5〜14質量%、Zn:2〜30質量%、Cu:1.5〜6質量%の1種または2種以上(2種または3種)を含むものとする。すなわち、前記アルミニウム合金クラッド板全体の平均組成である、積層された前記各アルミニウム合金層のMg、Zn、Cuの各含有量をそれぞれ平均化した値として、Mg、Zn、Cuのうちの少なくとも2種を、前記各含有量範囲で含むものとする。ここで、積層された前記各アルミニウム合金層のMg、Zn、Cuの各含有量をそれぞれ平均化した値とは、クラッド板の各アルミニウム合金層を構成する、各々のアルミニウム合金板のMg、Zn、Cuの含有量において、クラッド比率に対応した重み付けを行って求めた、Mg、Zn、Cuの含有量の各々の加重相加平均値とする。なお、クラッド比率とは、例えば4層のアルミニウム合金クラッド板において、各アルミニウム合金層が均等な厚みであれば、各アルミニウム合金層のクラッド比率は全て25%となる。このクラッド比率を用いて、加重相加平均値を算出する。
【0032】
クラッドされるアルミニウム合金層、クラッド板の組成の意義:
本発明では、構造部材にプレス成形した後で、互いにクラッドしたアルミニウム合金層同士が含むMg、ZnあるいはCuなどを、熱処理によって積層した互いの板の組織に拡散させる。そして、このような元素の拡散によって、これらMg、ZnあるいはCuなどで形成する、Zn−Mg系、Zn−Mg―Cu系などの、新たな微細複合析出物(時効析出物)を互いの接合界面部に、高密度に析出させて高強度化を図る、界面部組織制御(ナノレベルのサイズの微細析出物の超高密度分散)を行う。これによって、クラッド板に450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間保持後、更にT6処理として120℃×2時間の人工時効処理を施した後の組織として、積層されたアルミニウム合金層同士の各接合界面部の硬度が、積層された各アルミニウム合金層の硬度よりも全て高い組織を有するようにして、クラッド板の高強度化を図る。
【0033】
この点で、積層される層は、Mg、Zn、Cuの1種または2種以上を規定する範囲で各々含むアルミニウム合金層同士であって、少なくともMgかZnかCuかの互いの含有量が異なるアルミニウム合金層同士である必要がある。すなわち、互いに同じMg、Zn、Cuの含有量では、互いの層の、その他の元素の含有量が例え違ったとしても、このMgとZnとCuとの、接合された層同士の相互拡散が生じないため、MgとZnとCuとの新たな微細複合析出物(時効析出物)を互いの接合界面部に、高密度に析出させることができず、高強度化が図れない。
【0034】
前記クラッドするアルミニウム合金層のMg、Zn、Cuなどを多く含む特定の組成や、互いに積層、接合される層を、少なくともMgかZnかCuかの互いの含有量が異なるアルミニウム合金層同士とすることは、単に延性の観点からだけではなく、熱処理によって、前記元素の拡散による複合析出物が互いの接合界面部に析出させて高強度化するための組成でもある。
【0035】
本発明では、このようなメカニズムの発現による高強度化を保証するために、素材段階でのクラッド板を、このクラッド板に450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間保持後、更に120℃×2時間の人工時効処理を施した後の組織として、前記積層されたアルミニウム合金層同士の各接合界面部の硬度が、前記積層された各アルミニウム合金層の硬度よりも全て高いものと規定している。これは、前記複合析出物が互いの接合界面部に析出した場合には、この接合界面部の硬度が、板のより内部の組織に比して高硬度となるからである。
【0036】
したがって、例えば、汎用されるマイクロビッカース硬度など、前記合金層同士の界面部組織と、それ以外の板の内部組織との硬度を、ピンポイントで測定できる手法で、この硬度差を測定すれば、所望の高強度化に直接相関する目安となる。接合界面部のナノレベルのサイズの微細析出物の高密度分散状態を、TEMなどによって直接測定する手段もあるが、それを調べても、強度と、ナノレベルのサイズの微細析出物の密度、サイズなどの因子とが直接相関するとは限らず、相関する因子を見つけ特定する困難性がある。また、TEMなどの測定には、測定数も含めて、非常な手間ひまを要する問題もある。これに対
して、前記マイクロビッカース硬度の測定は比較的簡便であり、何より、界面部の硬度あるいは界面部と板内部との硬度差は、界面部が例えクラッド板の部分的であっても、クラッド板全体の強度と直接、再現性良く相関する。
【0037】
本発明では、このクラッド板全体の平均組成としても、積層された各アルミニウム合金層のMg、Zn、Cuの各含有量を、前記したクラッド比率に対応した重み付けを行って求めた、Mg、Zn、Cuの含有量の各々の相加平均値として、Mg、Zn、Cuのうちの少なくとも2種を、前記含有量範囲である、Mg:1.5〜14質量%、Zn:2〜30質量%、Cu:1.5〜6質量%含むもとする。ここで、クラッド板全体の組成とは、積層された各アルミニウム合金層の各々のMg、Zn、Cuの含有量を、それぞれの元素ごとに平均化した値である。このクラッド板全体の平均組成として、Mg、Zn、Cuのうちの少なくとも2種を含んでも、各元素量が下限未満となって規定組成から外れた場合、クラッド板が450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間保持後、更に120℃×2時間の人工時効処理を施した後の組織として、Mg、ZnあるいはCuなどの積層した互いの板の組織への拡散が不足する。
【0038】
この結果、この拡散によって、これらMg、ZnあるいはCuなどで形成する新たな複合析出物(時効析出物)の、互いの接合界面部への析出量が不足する。このため、積層されたアルミニウム合金層同士の各接合界面部の硬度が、前記積層された各アルミニウム合金層の硬度よりも全て高くはならない。したがって、このアルミニウム合金クラッド板をプレス成形してなるアルミニウム合金クラッド構造部材が、400MPa以上の0.2%耐力を有することができなくなる。
【0039】
一方、このクラッド板全体の平均組成として、Mg、Zn、Cuのうちの少なくとも2種を含む場合でも、積層された各アルミニウム合金層の各々のMg、Zn、Cuの含有量を、前記したクラッド比率に対応した重み付けを行って求めた、Mg、Zn、Cuの含有量の各々の相加平均値が、上限を超えて規定組成から外れた場合、このクラッド板の延性が著しく低下する。したがって、前記構造部材用の7000系アルミニウム合金板や超々ジュラルミン板、2000系アルミニウム合金板や8000系アルミニウム合金板と同等のレベルにプレス成形性が低下して、クラッド板とする意味が無くなる。
【0040】
(クラッド板の積層の仕方)
本発明のクラッド板では、積層の際に組み合わされる、Mg:1.5〜14質量%、Zn:2〜30質量%、Cu:1.5〜6質量%の1種または2種以上を含むアルミニウム合金層互いの組成によって、積層の仕方を変えることが必要である。図1〜4を用いて、このような積層の仕方を説明する。
【0041】
図1は、Al−Mg系の板を両最外層(二つの最外層)として、Al−Zn系の板を各々その内側に積層し、中心にAl−Mg系の板を配置し、これらを合計で5層積層した例である。
【0042】
図2は、やはりAl−Mg系の板を両最外層(二つの最外層)として、Al−Zn−Mg系の板を各々その内側に積層し、中心にAl−Mg系の板を配置し、これらを合計で5層積層した例である。
【0043】
図3は、Al−Mg系の板を両最外層(二つの最外層)として、Al−Cu系の板を各々その内側に積層し、中心にAl−Mg系の板を配置し、これらを合計で5層積層した例である。
【0044】
図4は、Al−Mg系の板を両最外層(二つの最外層)として、Al−Cu−Mg系の板を各々その内側に積層し、中心にAl−Mg系の板を配置し、これらを合計で5層積層した例である。
【0045】
これら図1〜4はいずれも、互いに積層される板を、Mg、Zn、Cuの1種または2種以上を規定する範囲で各々含むアルミニウム合金層同士であって、少なくともMgかZnかCuかの互いの含有量が異なるアルミニウム合金層同士とした本発明例である。
【0046】
また、これら図1〜4では、更に、組み合わされるアルミニウム合金層のうち、Znおよび/またはCuを前記規定含有量範囲で含む、図1のAl−Zn系、図2のAl−Zn−Mg系、図3のAl−Cu系、図4のAl−Cu−Mg系などのアルミニウム合金層は、耐食性に劣るため、クラッド板の耐食性を確保するために、クラッド板の内側になるように積層している。これらのZnおよび/またはCuを含むアルミニウム合金層を、クラッド板の外側(表面側、表層側)になるように積層した場合には、クラッド板、ZnやCuの含有量が多いために、クラッド板ひいてはクラッド構造部材の耐食性が低下する。
【0047】
したがって、これら図1〜4では、クラッド板の両方の外側(両表面側、両表層側)には、Al−Mg系など、Mgを前記含有量範囲で含むクラッド板を積層している。ただし、このようなAl−Mg系などの場合でも、Mgの他にZn、Cuを含む場合には、やはり耐食性が低下するので、耐食性を大きく低下させない、Zn:2質量%以下(0質量%を含む)、Cu:1.5質量%以下(0質量%を含む)に各々抑制する必要がある。
【0048】
(アルミニウム合金組成)
以下に、クラッドされるアルミニウム合金層や最終的なクラッド板の組成としての、各元素の含有あるいは規制する意味につき個別に説明する。なお、最終的なクラッド板としての組成の場合は、各元素の含有量を、単一の板の各元素の含有量から、積層される各板(全部の板)の各々の元素の含有量の平均値であると読み替える。含有量に関する以下の%表示は全て質量%の意味である。
【0049】
Mg:1.5〜14%
必須の合金元素であるMgは、Znとともに、クラッド板やクラッド構造部材の組織にクラスタ(微細析出物)を形成して加工硬化特性を向上させる。また、クラッド板やクラッド構造部材の組織や接合界面部に時効析出物を形成して強度を向上させる。Mg含有量が1.5%未満では強度が不足し、14%を超えると、鋳造割れが発生し、またクラッド板(鋳塊)の圧延性が低下し、クラッド板の製造が困難になる。
【0050】
Zn:2〜30%
必須の合金元素であるZnは、Mgとともに、クラッド板やクラッド構造部材の組織にクラスタ(微細析出物)を形成して加工硬化特性を向上させる。また、クラッド板やクラッド構造部材の組織や接合界面部に時効析出物を形成して強度を向上させる。Zn含有量が2%未満では強度が不足し、強度と成形性とのバランスも低下する。一方Znが30%を超えると、鋳造割れが発生し、またクラッド板(鋳塊)の圧延性が低下し、クラッド板の製造が困難になる。製造可能な場合でも、粒界析出物MgZnが増えて粒界腐食が起こりやすくなり、耐食性が著しく劣化するし、成形性も低下する。
【0051】
Cu:1.5〜6%
Cuは、クラッド板やクラッド構造部材の強度を向上させる効果がある。Cu含有量が1.5%未満ではこの強度向上効果が小さい。一方、Cu含有量が6%を超えると、鋳造割れが発生し、またクラッド板(鋳塊)の圧延性が低下し、クラッド板の製造が困難になる。製造可能な場合でも、耐SCC性などの耐食性が著しく低下する。
【0052】
その他の元素:
これら記載した以外のその他の元素は不純物である。溶解原料として、純アルミニウム地金以外に、アルミニウム合金スクラップの使用による、これら不純物元素の混入なども想定(許容)して含有を許容する。具体的には、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下、Li:0.1%以下、Zr:0.3%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Sn:0.1%以下、Ti:0.1%以下の、各々の含有量であれば、本発明に係るクラッド板の延性や強度特性を低下させず、含有が許容される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。表1に示す組成のアルミニウム合金層に相当する組成の各鋳塊を組み合わせて積層した鋳塊を、後述する製造条件での圧延クラッド法にて、アルミニウム合金クラッド板を製造した。このクラッド板の前記した平均組成としてのMg、Zn、Cu量を測定、算出した。また、このクラッド板の成形性を評価するために、このクラッド板を、平均昇温速度20℃/秒、到達温度450℃で1秒間保持後に、冷却速度30℃/秒にて急却する熱処理を施した後の、伸び(%)を調査した。これらの結果を表2に示す。
【0054】
さらに、このアルミニウム合金クラッド板に450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間の保持後、120℃で2時間の人工時効処理を各々施し、各接合界面部全ての硬度、積層された各板の内部の硬度(HV)を調査した。硬度は市販のマイクロビッカース硬度計にて、クラッド板の幅方向の断面における、各接合界面部の任意の5か所、積層された各板の内部の任意の5か所の硬度(HV)を測定して、各々平均化した。各例とも、クラッド板の各接合界面部の厚さは、450℃×1時間における各元素の接合界面での拡散距離から、約30〜50μmの範囲以下であり、これに対して、マイクロビッカースで硬度評価を行う部位に形成させる圧痕の対角線長さは、約30μm以下となるようにするために、マイクロビッカースの測定条件として、荷重を10gとした。
【0055】
また、構造部材としての使用時を想定して、表2に示すように、450℃×1時間の拡散処理後、室温で1時間保持し、その後T6処理(人工時効処理)を各々行い、アルミニウム合金クラッド板の0.2%耐力(MPa)を調査した。これらの結果も表2に示す(表2ではアルミニウム合金クラッド板をクラッド板とも略記)。
【0056】
(アルミニウム合金クラッド板の製造)
アルミニウム合金クラッド板積層板の製造は以下の通りとした。表1に示すA〜Sの組成のアルミニウム合金鋳塊を溶解、鋳造し、別個に、常法により均質加熱処理及び熱間圧延、必要により冷間圧延を施して、板厚を各々0.5〜5.0mmの範囲に調整した板材を各々製造した。これらの板材を、表2に示す各々の組み合わせで重ね合わせて積層し、この積層板材を、400℃×30分の再加熱後に、その温度で熱間圧延を開始してクラッド板とした。このクラッド板を更に400℃×1秒の中間焼鈍を施しつつ、冷間圧延し、最後に400℃×1秒の最終焼鈍を施して、表2に示す各クラッド板厚(各層の合計板厚
)のクラッド板とした。これら最終的なクラッド板全体の板厚が1〜5mmの場合の、積層された各合金板の厚みは、0.1〜2.0mm(100〜2000μm)程度の範囲であった。また、最終的なクラッド板のクラッド比率は、表2の発明例1〜15および比較例16〜25に関しては、各アルミニウム合金層の厚み(クラッド比率)が均等になるように製造した。一方、表2の発明例26、27に関しては、後述するように、各アルミ合金層の厚みが異なるように製造した。
【0057】
表2における、アルミニウム合金クラッド板の欄には、このアルミニウム合金クラッド板全体としての、前記した平均組成であるMg、Zn、Cuの各含有量とともに、表1の板の合計積層数、積層した板の組み合わせとして表1に示すA〜Sまでの板の種別を、積層した上からの順に示している。ここで、アルミニウム合金クラッド板の平均組成であるMg、Zn、Cuの各含有量は、クラッド比率に対応した重み付けを行って求めた、Mg、Zn、Cuの含有量の各々の加重相加平均値とした。各アルミニウム合金層の厚みが均等な、表2の発明例1〜15および比較例16〜25の場合には、各アルミニウム合金層のクラッド比率を全て積層数に応じた均等割合として、前記各元素量の含有量の加重相加平均値を算出した。一方、表2の発明例26、27は、各アルミ合金層の異なる厚みに応じた、後述する不均等なクラッド比率の割合として、前記各元素量の含有量の加重相加平均値を算出した。
【0058】
例えば、AEAあるいはAGAとは、表1のAのアルミニウム合金層同士が、3層のクラッド板の両外側に各々積層されており、表1のEあるいはGの各アルミニウム合金層が、クラッド板の内側1層に積層されていることを意味する。他の3層例でも、各アルミニウム合金層の記号を各々表2に記載の記号と置き換えれば、これと同様の組み合わせとなる。
【0059】
AIJAあるいはLQRLとは、表1のA同士あるいはL同士のアルミニウム合金層が、4層のクラッド板の両外側に各々積層されており、表1のIとJ、あるいはQとRの各アルミニウム合金層が、クラッド板の内側2層に、上からI、JあるいはQ、Rの記載順に積層されていることを意味する。他の4層例でも、各アルミニウム合金層の記号を各々表2に記載の記号と置き換えれば、これと同様の組み合わせとなる。
【0060】
ADAEAあるいはLNLNLとは、表1のA同士あるいはL同士のアルミニウム合金層が、5層のクラッド板の両外側に各々積層されており、表1のD、A、EあるいはN、L、Nの各アルミニウム合金層が、クラッド板の内側3層に、上からD、A、EあるいはN、L、Nの記載順に積層されていることを意味する。他の5層例でも、各アルミニウム合金層の記号を各々表2に記載の記号と置き換えれば、これと同様の組み合わせとなる。
【0061】
ADAEADAあるいはAHAHAHAとは、表1のA同士のアルミニウム合金層が、7層のクラッド板の両外側に各々積層されており、表1のD、A、EあるいはH、Aの各アルミニウム合金層が、クラッド板の内側5層に、上からD、A、E、A、DあるいはH、A、H、A、Hの記載順に積層されていることを意味する。他の7層例でも、各アルミニウム合金層の記号を各々表2に記載の記号と置き換えれば、これと同様の組み合わせとなる。
【0062】
ここで、表2の発明例26は、発明例1のAEAの3層と同じ積層数、積層順序となっているが、各アルミニウム合金層のクラッド比率は、発明例1のような均等ではなく、[Aの板厚]:[Eの板厚]:[Aの板厚]が、各々2:3:2のクラッド比率となるよう、各アルミニウム合金層の板厚を調整して、クラッド板を製造している。また、表2の発明例27は、発明例7のADAEAの5層と同じ積層数、積層順序となっているが、これも、各アルミニウム合金層のクラッド比率は、発明例7のような均等ではなく、[Aの板厚]:[Dの板厚]:[Aの板厚]:[Eの板厚]:[Aの板厚]が、各々1:3:1:1:2のクラッド比率となるよう、各アルミニウム合金層の板厚を調整して、クラッド板を製造している。
【0063】
表2のマイクロビッカース平均硬度の見方において、例えば、界面部における、AEとはAとEとの板における接合界面部、BHとは、BとHとの板における接合界面部、LNとは、LとNとの板における接合界面部を示している。他の例でも、各アルミニウム合金板の記号を各々表2に記載の記号と置き換えれば、これと同様の組み合わせとなる。
【0064】
また、表2のマイクロビッカース平均硬度において、例えば、内部における、A:65とは表1のAの板の内部における測定硬度が65HV、E:91とは表1のEの板の内部における測定硬度が91HVであり、前記接合界面部AEの硬度112HVよりも小さいことを示している。他の例でも、各アルミニウム合金板の記号を各々表2に記載の記号と置き換えれば、これと同様の組み合わせとなる。
【0065】
なお、表2では、接合界面部の硬度につき、同じ積層の組み合わせ同士(アルミニウム合金層の組み合わせが同じ接合界面部同士)では、その上下側や積層順位などに関わらず、硬度は全て同じであった。
例えば、発明例1のAEA3層における二ヵ所の界面部の硬度は、上側の界面AEと、これと同じ積層の組み合わせである下側の界面EAとは、同じ値であったので、表2には、AEの場合しか、代表して記載していない。
これは他の発明例の、例えばBH、HB同士(発明例2)、AG、GA同士(発明例4)、CG、GC同士(発明例5)、AE、EA同士(発明例7、13)、AH、HA同士(発明例8、14)、AD、DA同士(発明例7、13、15)、CE、EC同士(発明例3、15)、AI、IA同士(発明例9)、AJ、JA同士(発明例10)、AK、KA同士(発明例11)も同じである。
また、比較例の、例えばLN、NL同士(比較例16、24、25)、LQ、QL同士(比較例17)、LR、RL同士(比較例18)、LS、SL同士(比較例19)、MN、NM同士(比較例20)、LO、OL同士(比較例21)、LP、PL同士(比較例22)も同じである。
【0066】
表2の発明例1〜15、26、27は、Mg:1.5〜14質量%、Zn:2〜30質量%、Cu:1.5〜6質量%の1種または2種以上を含むアルミニウム合金層同士であって、少なくともMgかZn、あるいはCuかのいずれかの含有量が互いに異なるアルミニウム合金層同士が互いに積層されている。そして、クラッド板全体として、Mg、Zn、Cuのうちの少なくとも2種を前記含有量範囲で含んでいる。また、Zn、Cuを前記各含有量範囲で含むアルミニウム合金層は、クラッド板の内側に積層され、Mgを前記含有量範囲で含み、かつ、Zn:2質量%以下、Cu:1.5質量%以下に各々抑制したアルミニウム合金層が、クラッド板の両外側に積層されている。また、クラッド板の合計積層数が3〜7層で、全体の板厚が1〜5mmである。
【0067】
そして、このクラッド板に450℃×1時間の拡散熱処理を施した後に、室温で1週間保持後、更に120℃×2時間時効処理した後の、アルミニウム合金層同士の各接合界面部の硬度が、この接合界面部を構成する前記積層された各アルミニウム合金層の硬度よりも全て高い組織を有する。
【0068】
この結果、このクラッド板は、前記熱処理後のクラッド板の伸びが20%以上であり、高い成形性を示している。また、このアルミニウム合金クラッド板を、構造部材にプレス成形後の熱処理を想定した、前記拡散熱処理、室温時効、T6処理後の0.2%耐力が400MPa以上の、高強度を示している。
【0069】
これに対して、表2の比較例16〜25は、積層数やクラッド板厚や積層順序などの積層条件は、規定範囲内であるものの、積層するアルミニウム合金層のMg、Zn、Cuの含有量が、表1の通り規定よりも少なすぎる。この結果、表2の通り、クラッド板全体としてのMg、Zn、Cuの含有量が規定よりも少なすぎる。このため、接合界面部の平均硬度が、各層の内部の平均硬度よりも小さくなって規定よりも外れているものが多い。この結果、これら比較例は、前記熱処理後のクラッド板の伸びも20%以上のものもあるが、前記拡散熱処理、室温時効、T6処理後の0.2%耐力も300MPa未満となっている。また、比較例20、22は圧延時に割れが発生して製造不可能であった。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、前記7000系アルミニウム合金板などの高い強度レベルにおける成形性との矛盾を解決し、高強度化と高成形性とを兼備したアルミニウム合金クラッド板を提供できる。このため、本発明は、輸送機用の構造部材に用いられて好適である。
図1
図2
図3
図4