【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、消防庁、消防防災科学技術研究推進制度に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1つの舌骨当接部は、前記環状カフが前記挿入位置まで挿入された状態で前記挿入チューブから左右両側に突出する2つの舌骨当接部を含む、請求項1に記載のラリンジアルマスク。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体の食道と気管との連通を遮断しつつ気道を確保するためのラリンジアルマスクが知られている。まず、
図6を参照して、人体Jの構造を説明する。
【0003】
人体Jは、鼻腔J1と、口腔J2と、前記鼻腔J1及び口腔J2に連通する咽頭部Tと、この咽頭部Tから分岐する食道J5及び気管J6とを有する。前記食道J5の上流側には、食道J5と咽頭部Tとを連通し又は遮断するための括約筋の働きにより狭窄された第1狭窄部J4が形成されている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のラリンジアルマスクは、口腔J2を介して体内に導入される気道チューブと、この気道チューブの先端部に設けられたマスキングリングとを備えている。前記マスキングリングは、楕円形状を有し、膨張及び収縮可能である。前記気道チューブの先端部は、前記マスキングリングの内側領域で開口し、前記気道チューブの基端部には、人工呼吸器が接続可能である。
【0005】
特許文献1のラリンジアルマスクを使用する場合、まず、収縮させたマスキングリングの先端部が括約筋の領域(つまり、第1狭窄部J4)に当接するまで、気道チューブが体内に挿入される。つまり、医療従事者は、マスキングリングの先端部が括約筋の領域に当接した感触を受けた時点で、ラリンジアルマスクの挿入を停止する。この状態で、マスキングリングを膨張させることにより、当該マスキングリングは、気管J6の開口部に密着する。これにより、食道J5と気管J6との連通が遮断される。また、この状態では、マスキングリングの内側領域で開口する気道チューブを介して、気管J6と人工呼吸器とを連通可能である。したがって、食道J5と気管J6との連通を遮断しつつ気道を確保することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のラリンジアルマスクを用いた場合、正確に気道を確保することが困難である。
【0007】
具体的に、特許文献1に記載のラリンジアルマスクの人体に対する挿入深さは、マスキングリングの先端部が括約筋の領域(つまり、第1狭窄部J4)に接触した感触の有無に基づいて判断される。ここで、括約筋の領域(第1狭窄部J4)は、軟組織であり、変形し易い。そのため、マスキングリングと第1狭窄部J4との当接の有無を正確に判断するのは困難である。そして、マスキングリングの挿入位置が目的となる気管J6の開口部から外れると、このマスキングリングを膨張させても気道を正確に確保することができない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0014】
まず、
図6及び
図8を参照して、人体Jの構造について説明する。人体Jは、鼻腔J1と、口腔J2と、前記鼻腔J1及び口腔J2に連通する咽頭部Tと、この咽頭部Tから分岐する食道J5及び気管J6と、咽頭部Tに設けられるとともに気管J6内に食物が導入されるのを抑制するための喉頭蓋J3と、この喉頭蓋J3付近において咽頭部Tを前側及び左右両側から囲むU字形の舌骨J7とを有する。食道J5の上流側には、食道J5と咽頭部Tとを連通し又は遮断するための括約筋の働きにより狭窄された第1狭窄部J4が形成されている。咽頭部Tは、鼻腔J1と口腔J2との分岐部よりも上の範囲である上咽頭T1と、この上咽頭T1から喉頭蓋J3までの範囲である中咽頭T2と、この中咽頭T2よりも下の範囲である下咽頭T3とを有する。
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態に係るラリンジアルマスク1は、
図9に示すように、環状カフ7により食道J5と気管J6とを遮断した状態で、矢印Y1に示すように気道を確保するためのものである。
【0017】
具体的に、
図1〜
図4に示すように、ラリンジアルマスク1は、人体Jの気道を確保するためのマスク本体2と、患者の咽頭部Tを冷却するための冷却部3とを備えている。
【0018】
マスク本体2は、人体Jの口腔J2を介して体内に挿入される挿入チューブ本体4と、この挿入チューブ本体4の基端部に取り付けられたコネクタ5と、前記挿入チューブ本体4の挿入深さを規定の挿入位置(
図7参照)に位置決めするための位置決め部材6と、前記挿入チューブ本体4の先端部に取り付けられた環状カフ7とを備えている。
【0019】
挿入チューブ本体4は、人体Jの気道を確保するための外側チューブ4aと、外側チューブ4aの内側に挿通される内側チューブ4bとを備えている。外側チューブ4aは、人体Jの口腔J2から食道J5に至る経路に対応して湾曲している。また、外側チューブ4aの先端面は、外側チューブ4aの湾曲形状の内側(湾曲の中心の位置する側)に面する傾斜面となっている。さらに、外側チューブ4aには、その基端部から先端部に至る長手方向の全長にわたり貫通孔が形成されている。具体的に、貫通孔は、外側チューブ4aの先端部の開口部から基端部の開口部までを連通する。内側チューブ4bは、人体Jの食道J5内の異物を吸引するためものである。具体的に、内側チューブ4bは、前記外側チューブ4aの先端部を超えて後述する環状カフ7を貫通する。
【0020】
コネクタ5は、図外の人工呼吸器又は吸引器等と前記挿入チューブ4とを接続するためのY字管である。具体的に、コネクタ5は、前記外側チューブ4aの基端部に装着された筒状の本体部5aと、この本体部5aから突出するとともに本体部5a内に連通する筒状の第1接続部5b及び第2接続部5cとを備えている。本体部5a内には、前記外側チューブ4aの基端部が気密状態で嵌合されている。第2接続部5c内には、前記本体部5aを通じてコネクタ5内に導入された内側チューブ4bの基端部が気密状態で嵌合されている。そして、第1接続部5bは、前記外側チューブ4aの貫通孔内の空間であって内側チューブ4bの外側の空間と連通する。したがって、第1接続部5bに図外の人工呼吸器を接続することにより、外側チューブ4aと内側チューブ4bとの間の空間と人工呼吸器とが接続される。一方、第2接続部5cに図外の吸引器を接続することにより、内側チューブ4b内の空間と吸引器とが接続される。本実施形態に係る外側チューブ4a及びコネクタ5は、人工呼吸器を接続可能な第1接続部5bが形成された基端部と、通気開口部が形成された先端部とを有し、第1接続部5bと通気開口部とを連通する連通孔が形成された挿入チューブを構成する。
【0021】
位置決め部材6は、後述する環状カフ7が
図9に示す挿入位置まで挿入された状態で、
図7に示すように人体Jの咽頭部T内で舌骨J7に相当する部位に上から当接可能である。具体的に、位置決め部材6は、
図3〜
図5に示すように、前記外側チューブ4aに接続されたチューブ接続部6aと、このチューブ接続部6aの先端側に設けられた幅広部6bと、この幅広部6bから先端側に延びる延設部6cとを備えている。チューブ接続部6aは、前記外側チューブ4aの外側面に沿って配置可能となる曲率半径を有する円弧状に形成されている。このチューブ接続部6aは、外側チューブ4aの外側面に接着されている。幅広部6bは、外側チューブ4aの直径寸法よりも大きな幅寸法W1(
図5参照)を有する。この幅広部6bの左右の両部分は、それぞれ平面視において外側チューブ4aから左右に同等の寸法で張り出している。延設部6cは、前記幅広部6bよりも小さな幅寸法W2を有する。具体的に、延設部6cは、幅広部6bの左右両側に舌骨当接部6d、6eをそれぞれ残すように、幅広部6bの左右中央位置から先端側に突出する。つまり、本実施形態では、幅広部6bのうちの延設部6cから幅方向(左右方向)に突出した部分が同一の幅寸法を有する左右2つの舌骨当接部6d、6eを構成する。これら舌骨当接部6d、6eは、後述する環状カフ7が規定の挿入位置に挿入された状態で舌骨J7に相当する部位に上から当接可能な位置に設けられている。具体的に、本実施形態では、舌骨当接部6d、6eは、それぞれ前記外側チューブ4aの長手方向の同位置に設けられている。また、各舌骨当接部6d、6eは、舌骨J7に相当する部位の左右両側部分に上から当接可能な間隔(本実施形態では、約40mm)で設けられている。延設部6cは、前記幅広部6bからの長さ寸法L1を有する平板状に形成されている。具体的に、延設部6cは、前記外側チューブ4aの先端部よりも先端側まで延びている。そのため、
図8の二点差線で示すように、喉頭蓋J3が下りた場合であっても、喉頭蓋J3と咽頭部T後壁との間の狭いスペースに延設部6cを滑り込ませることができる。
【0022】
なお、位置決め部材6は、前記外側チューブ4a及びこの外側チューブ4aよりも硬度の低い環状カフ7のうち、少なくとも環状カフ7よりも高い硬度を有する。具体的に、位置決め部材6の硬度は、その材質及び寸法により調整することができる。
【0023】
環状カフ7は、
図9に示すように規定の挿入位置まで挿入された状態で膨張することにより気管J6の気管開口部に密着可能である。具体的に、
図1〜
図4に示すように、環状カフ7は、前記位置決め部材6(幅広部6b及び延設部6c)に対応する平面形状を有する底部7aと、この底部7aの周縁部の全周にわたり設けられた環状カフ本体7bと、前記外側チューブ4aを取り付けるための外側チューブ取付部7cと、前記内側チューブ4bを取り付けるための内側チューブ取付部7d、7fと、前記環状カフ本体7bに対して気体を給排するための気体給排部7eとを備えている。前記底部7aには、
図4に示すように、貫通孔7g及び貫通孔7hが形成されている。前記外側チューブ4aは、貫通孔7hを貫通し、外側チューブ4aの先端の開口部は、環状カフ本体7bの略中央に配置されている。外側チューブ取付部7cは、環状カフ本体7bの基端側の下部から先端側に延びるとともに、外側チューブ4aの外側面に接着されている。外側チューブ4aから導出された内側チューブ4bは、環状カフ本体7bの先端部を貫通した状態で、内側チューブ取付部7d、7fに気密状態で接着されている。内側チューブ取付部7d、7fは、それぞれ環状カフ本体7b内に連通するとともに内側チューブ4bを挿通可能な管状に形成されている。環状カフ本体7bは、外側チューブ4aの先端の開口部を取り囲むように外側チューブ4aの先端部に取り付けられている。また、環状カフ本体7bは、気体給排部7eを介して気体が給排されることにより、膨張又は収縮可能である。気体給排部7eには、図外の延長チューブと、この延長チューブの先端に設けられた図外の給排ポートとが接続されている。前記環状カフ本体7bが規定の挿入位置まで挿入された状態において、給排ポートは、延長チューブによって人体Jの外側に導出されている。人体Jの外側から給排ポートを介して環状カフ本体7bに気体を給排することにより、環状カフ本体7bが膨張又は収縮する。
【0024】
環状カフ本体7bの一方側の面(
図4の上面)は、気管J6の気管開口部に対し全周にわたり密着可能である。この密着状態において、外側チューブ4aと気管J6とを確実に連通させるために、環状カフ7と位置決め部材6と外側チューブ4aとは気密状態で固定されている。具体的に、位置決め部材6のチューブ接続部6aは、底部7aの貫通孔7hよりも基端側に位置する外側チューブ4aに気密状態で接着されている。位置決め部材6の延設部6cは、貫通孔7gを通して環状カフ本体7bの内側に導入し、前記内側チューブ取付部7dの外側面に気密状態で接着されている。位置決め部材6のうちチューブ接続部6a及び延設部6c以外の部分は、環状カフ7及び/又は外側チューブ4aに気密状態で接着されている。また、位置決め部材6が介在しない部分については、環状カフ7と外側チューブ4aとが気密状態で接着されている。
【0025】
なお、本実施形態において、位置決め部材6の延設部6cは、環状カフ本体7bではなく、内側チューブ取付部7dに接着されている。その理由は、環状カフ本体7bの後面と下咽頭T3(第1狭窄部)との間に位置決め部材6が介在するのを避けることにより、環状カフ本体7bを下咽頭T3に確実に密着させることにある。これにより、環状カフ本体7bにより食道J5と気管J6とを確実に遮断することができる。
【0026】
図1及び
図2を参照して、冷却部3は、環状カフ7を膨張させた状態で咽頭部Tに密着させることにより、咽頭部Tを冷却可能である。具体的に、冷却部3は、冷媒を収容することにより膨張するとともに冷媒が排出されることにより収縮する冷却カフ8と、この冷却カフ8に対して冷媒を給排可能な一対の給排チューブ9、10とを備えている。
【0027】
冷却カフ8は、前記環状カフ7を膨張させた状態において、人体Jの下咽頭T3及び中咽頭T2(
図6参照)の後壁に密着するように膨張可能である。具体的に、冷却カフ8は、前記環状カフ7が固定される固定部11と、この固定部11から基端側に延びる左右一対の延出部14、15とを備えている。固定部11の内部には、冷媒を収容可能な収容室が形成されている。左右一対の延出部14、15の内部には、前記固定部11の収容室に連通するとともに冷媒を収容可能な収容室がそれぞれ形成されている。
【0028】
また、固定部11は、前記環状カフ7の気管開口部の密着面とは反対側に設けられているとともに前記環状カフ7の一部が挿入された状態で前記環状カフ7に固定されている。具体的に、固定部11は、前記環状カフ本体7bに対応した平面形状を有する底部11aと、この底部11aの周縁部から立ち上がる右側壁11b、左側壁11c、右基端壁11d及び左基端壁11eとを備えている。右基端壁11dは、右側壁11bの基端部から左側に延びる。左基端壁11eは、左側壁11cの基端部から右側に延びる。これら右基端壁11dと左基端壁11eとの間には、前記外側チューブ4aを通すための間隙S1が形成されている。延出部14は、右基端壁11dから基端側へ延びるとともに、前記外側チューブ4aに対応して湾曲する。同様に、延出部15は、左基端壁11eから基端側へ延びるとともに、前記外側チューブ4aに対応して湾曲する。
【0029】
給排チューブ9は、前記延出部14内に連通するとともに前記延出部14から基端側に延びる。同様に、給排チューブ10は、前記延出部15内に連通するとともに前記延出部15から基端側に延びる。これら給排チューブ9、10の先端部は、前記環状カフ7が規定の挿入位置まで挿入された状態で人体Jの外側に配置される。各給排チューブ9、10の先端部には、図外の冷媒ポートが設けられている。これら冷媒ポートを介して冷却カフ8内に冷媒を供給することにより、冷却カフ8が膨張する。冷却カフ8内の冷媒と人体Jとの間で熱交換が行われることにより、人体J(咽頭部T)が冷却される。
【0030】
以下、前記ラリンジアルマスクの使用方法について説明する。
【0031】
まず、
図1を参照して、環状カフ7の気体給排部7eを介して環状カフ本体7b内の気体を導出する。これにより、環状カフ本体7bを収縮させる。この状態で、挿入チューブ本体4の先端部から口腔J2を介して体内に環状カフ7を挿入する。
【0032】
この挿入の過程では、
図8の二点鎖線で示すように、喉頭蓋J3が下に運動することにより、喉頭蓋J3と咽頭部Tの後壁との間のスペースが制限される場合がある。このような場合、位置決め部材6の平板状の延設部6cを喉頭蓋J3と咽頭部Tの後壁との間に滑り込ませることにより、環状カフ7をさらに奥へ挿入することができる。
【0033】
そして、環状カフ7が規定の挿入位置まで進行すると、
図7及び
図8に示すように、位置決め部材6の舌骨当接部6d、6eが舌骨J7に相当する部位に当接する。舌骨J7は、人体Jの咽頭部Tを前側及び左右両側から囲うようなU字形の骨である。そのため、咽頭部T内における舌骨J7に相当する部位は、第1狭窄部J4付近の軟組織よりも硬い。また、図示を省略するが、舌骨J7は、気管開口部付近の組織と人体で結合されているため、気管開口部に対する位置変動は少ない。したがって、舌骨当接部6d、6eを舌骨J7に当接させることにより、環状カフ7を規定の挿入位置で正確に位置決めすることができる。具体的に、環状カフ7(位置決め部材6)の先端部が食道J5と気管J6との分岐部よりも下で第1狭窄部J4よりも若干上に位置する
図8に示す挿入位置で環状カフ7が位置決めされる。なお、本実施形態では、左右一対の舌骨当接部6d、6eを有するため、舌骨J7に対してラリンジアルマスク1が左右に傾くのを抑制することができる。
【0034】
次いで、上記挿入位置において環状カフ本体7bを膨張させる。これにより、
図9に示すように、食道J5と気管J6とが遮断されるとともに、気管J6が外部から遮断される。この状態で、コネクタ5の第1接続部5bに人工呼吸器を接続する。これにより、矢印Y1に示すように外側チューブ4aを介して患者の気道が確保される。
【0035】
以上説明したように、前記実施形態では、第1狭窄部J4付近の軟組織よりも硬く、かつ、気管開口部との位置関係の変動の少ない舌骨J7に対し上から当接可能な舌骨当接部6d、6eを有する。そのため、第1狭窄部J4に対する当接の有無に基づいて外側チューブ4aの挿入位置を判断する場合と比較して、外側チューブ4aを規定の挿入位置に正確に位置決めすることができる。
【0036】
したがって、前記実施形態によれば、外側チューブ4aを患者の咽頭部T内に挿入するという簡単な操作で確実に気道を確保することができる。
【0037】
前記実施形態では、外側チューブ4aから左右両側に突出する2つの舌骨当接部6d、6eが設けられている。舌骨J7は、上述のように、咽頭部Tの左右両側に配されている。そのため、左右2つの舌骨当接部6d、6eを舌骨J7に当接させることにより、規定の挿入位置まで挿入された状態におけるラリンジアルマスク1の左右方向の傾きを抑制することができる。したがって、前記実施形態によれば、より正確に気道を確保することができる。
【0038】
前記実施形態では、位置決め部材6に舌骨当接部が形成されている。これにより、外側チューブ4aの一部として舌骨当接部6d、6eを形成する場合と異なり、舌骨当接部6d、6eの硬さを外側チューブ4aとは独立して自由に調整することができる。そして、本実施形態では、舌骨当接部6d、6eが環状カフ本体7bよりも硬くされている。そのため、環状カフ7に舌骨当接部を形成する場合と比較して、舌骨J7に対する環状カフ7の位置をより正確に位置決めすることができる。なお、環状カフ7よりも高い硬度を有する外側チューブ4aよりも舌骨当接部6d、6eの硬度を高くすれば、より正確に環状カフ7の位置決めを行うことができる。
【0039】
前記実施形態では、外側チューブ4aよりも硬度が高い位置決め部材6に外側チューブ4aの先端部よりも先端側に延びる平板状の延設部6cが形成されている。そのため、この延設部6cを喉頭蓋J3と咽頭部Tの後壁との間に滑り込ませることにより、外側チューブ4aの先端部を喉頭蓋J3よりも下に確実に挿入することができる。
【0040】
前記実施形態では、延設部6cと幅広部6bとの間に舌骨当接部6d、6eが形成されている。そのため、上述のように、喉頭蓋J3と咽頭部Tの後壁との間に延設部6cをすべり込ませるように外側チューブ4aの挿入を進行することにより、この延設部6cの基端側に位置する舌骨当接部6d、6eが舌骨J7に相当する部位に当接する。したがって、前記実施形態では、ラリンジアルマスク1の挿入のし易さと位置決めのし易さとの両立を図ることができる。
【0041】
前記実施形態では、環状カフ7を膨張させた状態で咽頭部Tに密着可能な冷却部3を有する。そのため、環状カフ7を膨張させた状態で冷却部3を咽頭部Tに密着させることにより、咽頭部Tに冷却することができる。ここで、咽頭部T近傍には、脳へ血液を供給する血管が集中しているため、これらの血管を冷却することにより、心停止のように呼吸機能や循環機能が不全な状態において、脳に対する酸素供給量が不足することにより脳細胞が死滅する、いわゆる虚血性神経細胞障害の発生を抑制することができる。
【0042】
前記実施形態では、冷媒の給排に応じて膨張又は収縮可能な冷却カフ8と、冷却カフ8内に冷媒を出し入れ可能な2本の給排チューブ9、10を有する。そのため、一方の給排チューブ9を介して冷却カフ8内に冷媒を導入するとともに、他方の給排チューブ10を介して冷却カフ8から冷媒を導出することにより、冷媒を循環させることができる。したがって、効率よく咽頭部Tを冷却することができる。
【0043】
なお、前記実施形態では、冷却部3を備えたラリンジアルマスク1について説明したが、冷却部3は必須ではない。具体的に、
図2に示すマスク本体2のみをラリンジアルマスク1として用いることもできる。
【0044】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0045】
上記課題を解決するために、本発明は、患者の気道を確保するためのラリンジアルマスクであって、人工呼吸器を接続可能な接続部が形成された基端部と、通気開口部が形成された先端部とを有し、前記接続部と前記通気開口部とを連通する連通路が形成された挿入チューブと、前記通気開口部を取り囲むように前記挿入チューブの先端部に取り付けられ、患者の規定の挿入位置まで挿入された状態で膨張することにより患者の気管の気管開口部に密着可能な環状カフと、前記環状カフが前記挿入位置まで挿入された状態で患者の咽頭部内で当該患者の舌骨に相当する部位に当接するように前記挿入チューブから側方に突出する少なくとも1つの舌骨当接部とを備えている、ラリンジアルマスクを提供する。
【0046】
図6及び
図8に示すように、舌骨J7は、人体Jの咽頭部Tを前側及び左右両側から囲うようなU字形の骨である。そのため、咽頭部T内における舌骨に相当する部位は、第1狭窄部J4付近の軟組織よりも硬い。また、図示を省略するが、舌骨J7は、気管開口部付近の組織と靭帯で結合されているため、気管開口部に対する位置変動は少ない。そして、本発明では、第1狭窄部J4付近の軟組織よりも硬く、かつ、気管開口部との位置関係の変動の少ない舌骨J7に対し上から当接可能な舌骨当接部を有する。そのため、第1狭窄部J4に対する当接の有無に基いて挿入位置を判断する場合と比較して、挿入チューブを規定の挿入位置に正確に位置決めすることができる。
【0047】
したがって、本発明によれば、挿入チューブを患者の咽頭部内に挿入するという簡単な操作で確実に気道を確保することができる。
【0048】
なお、『舌骨に相当する部位に当接する』とは、咽頭部内から軟組織を挟んで舌骨に当接することを意図する。また、『上から』とは、舌骨を基準として口腔側を上側、食道側を下側としたときの向きである。
【0049】
前記ラリンジアルマスクにおいて、前記少なくとも1つの舌骨当接部は、前記環状カフが前記挿入位置まで挿入された状態で前記挿入チューブから左右両側に突出する2つの舌骨当接部を含むことが好ましい。
【0050】
この態様では、挿入チューブから左右両側に突出する2つの舌骨当接部が設けられている。舌骨J7は、上述のように、咽頭部Tの左右両側に配されている。そのため、左右2つの舌骨当接部を舌骨に当接させることにより、前記挿入位置まで挿入された状態におけるラリンジアルマスクの左右方向の傾きを抑制することができる。したがって、前記態様によれば、より正確に気道を確保することができる。
【0051】
前記ラリンジアルマスクにおいて、前記挿入チューブに固定された位置決め部材をさらに備え、前記少なくとも1つの舌骨当接部は、前記位置決め部材に形成されていることが好ましい。
【0052】
この態様では、位置決め部材に舌骨当接部が形成されている。これにより、挿入チューブの一部として舌骨当接部を形成する場合と異なり、舌骨当接部の硬さを挿入チューブとは独立して自由に調整することができる。そのため、舌骨当接部の硬さを挿入チューブより硬くすることにより、舌骨に対する舌骨当接部の位置、つまり、環状カフの挿入位置を正確に位置決めすることができる。
【0053】
前記ラリンジアルマスクにおいて、前記位置決め部材は、前記挿入チューブの先端部よりも先端側に延びる平板状の延設部を有することが好ましい。
【0054】
図6及び
図8に示すように気管J6の上部には、気管J6に対する食物の流入を阻止するための喉頭蓋J3が存在する。
図8の二点鎖線で示すように、喉頭蓋J3が運動すると、咽頭部T内の通路面積が前後方向に狭くなる。ここで、前記態様では、位置決め部材に挿入チューブの先端部よりも先端側に延びる平板状の延設部が形成されている。そのため、この延設部を喉頭蓋J3と咽頭部Tの後壁との間に滑り込ませることにより、挿入チューブの先端部を喉頭蓋J3よりも下に確実に挿入することができる。
【0055】
なお、従来では、挿入チューブをねじり込むようにして、喉頭蓋と咽頭部の後壁との間に挿入していた。そのため、挿入チューブの先端部が誤って気管側に入り込んでしまう場合があった。しかし、前記態様では、上述のように延設部を喉頭蓋と咽頭部の後壁との間に滑り込ませることができるので、従来のように挿入チューブをねじり込むことによる気管への誤挿入を抑制することもできる。
【0056】
前記ラリンジアルマスクにおいて、前記位置決め部材は、前記延設部と、前記延設部の基端側に設けられるとともに前記延設部よりも大きな幅寸法を有する幅広部とを備え、前記幅広部のうち前記延設部から幅方向に突出する部分は、前記少なくとも1つの舌骨当接部を構成することが好ましい。
【0057】
この態様では、幅広部のうち延設部から幅方向に突出する部分が舌骨当接部を構成する。そのため、上述のように、喉頭蓋と咽頭部の後壁との間に延設部をすべり込ませるように挿入チューブの挿入を進行することにより、この延設部の基端側に位置する舌骨当接部が舌骨に相当する部位に当接する。したがって、前記態様では、ラリンジアルマスクの挿入のし易さと位置決めのし易さとの両立を図ることができる。
【0058】
前記ラリンジアルマスクにおいて、前記規定の挿入位置で前記環状カフを膨張させた状態で患者の咽頭部に密着可能で、かつ、咽頭部を冷却可能な冷却部をさらに備えていることが好ましい。
【0059】
この態様では、環状カフを膨張させた状態で咽頭部に密着可能な冷却部を有する。そのため、環状カフを膨張させた状態で冷却部を咽頭部に密着させることにより、咽頭部を冷却することができる。ここで、咽頭部近傍には、脳へ血液を供給する血管が集中しているため、これらの血管を冷却することにより、当該各血管内の血液を介して脳を冷却することができる。このように脳を冷却することにより、心停止のように呼吸機能や循環機能が不全な状態において、脳に対する酸素供給量が不足することにより脳細胞が死滅する、いわゆる虚血性神経細胞障害の発生を抑制することができる。冷却部としては、例えば、後述のように冷媒を収容可能なカフを用いてもよいが、高い比熱を有する材質により形成された部材を用いることもできる。
【0060】
前記ラリンジアルマスクにおいて、前記冷却部は、冷媒の給排に応じて膨張又は収縮可能な冷却カフと、前記冷却カフ内に冷媒を出し入れ可能な2本の冷媒用チューブとを備えていることが好ましい。
【0061】
この態様では、冷媒の供給により膨張可能な冷却カフと、冷却カフ内に冷媒を出し入れ可能な2本の冷媒用チューブを備えている。そのため、一方の冷媒用チューブを介して冷却カフ内に冷媒を導入するとともに、他方の冷媒用チューブを介して冷却カフから冷媒を導出することにより、冷媒を循環させることができる。したがって、効率よく咽頭部を冷却することができる。