特許第6033774号(P6033774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033774
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】補体系を調節するためのペプチド化合物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/08 20060101AFI20161121BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20161121BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C07K14/08ZNA
   A61K37/02
   A61P29/00 101
   A61P25/00
   A61P37/02
   A61P21/04
   A61P7/06
   A61P13/12
   A61P7/00
   A61P9/10
   A61P11/00
   A61P37/06
   A61P25/28
   A61P13/02
   A61K45/00
   A61P7/10
【請求項の数】7
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-520856(P2013-520856)
(86)(22)【出願日】2011年7月21日
(65)【公表番号】特表2013-533273(P2013-533273A)
(43)【公表日】2013年8月22日
(86)【国際出願番号】US2011044791
(87)【国際公開番号】WO2012012600
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2014年7月18日
(31)【優先権主張番号】61/366,204
(32)【優先日】2010年7月21日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507056461
【氏名又は名称】イースタン ヴァージニア メディカル スクール
【氏名又は名称原語表記】Eastern Virginia Medical School
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キュニオン,ケンジ
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ,ニール,ケー.
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/145806(WO,A1)
【文献】 Molecular immunology ,2010年,Vol.47,p.792-798
【文献】 journal of virology ,2008年,Vol.82,p.817-827
【文献】 Viral immunology,2005年,Vol.18,p.17-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号9のアミノ酸配列を含む合成ペプチド。
【請求項2】
N末端残基のアセチル化により修飾されている、請求項に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号9に対し少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、補体活性化を調節する、合成ペプチド。
【請求項4】
一つまたは複数のアミノ酸置換、修飾、挿入、または欠失を有する配列番号9のアミノ酸配列を含み、補体活性化を調節する合成ペプチド。
【請求項5】
一つまたは複数の保存的アミノ酸置換を有する配列番号9のアミノ酸配列を含み、補体活性化を調節する合成ペプチド。
【請求項6】
アミノ酸残基が30以下である、請求項のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項7】
請求項のいずれか1項に記載のペプチドの治療有効量および少なくとも1つの薬剤的に許容できる担体、希釈剤、または賦形剤を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、炎症性疾患および自己免疫疾患における治療介入分野に関する。より具体的には、本発明は、補体の活性化を調節し、炎症性疾患、自己免疫性疾患および病原性疾患等の補体介在性疾患の予防および治療において治療薬として用いることができる、ペプチド化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
自然免疫系に必要不可欠な成分である補体系は、侵入病原体に対する生体防御機構として重要な役割を担っており、適応免疫応答を刺激し、免疫複合体およびアポトーシス細胞の除去を促進する。3つの異なる経路:古典経路、レクチン経路および副経路(alternative pathway)で、補体系は構成される。C1qおよびマンノース結合レクチン(MBL)は、それぞれ古典経路およびレクチン経路の、構造的に関連がある認識分子である。IgMまたはクラスター化IgGがC1qの主要なリガンドとして機能するが、一方MBLはマンナン等の多糖類を認識する。C1qおよびMBLによるリガンド結合は、C4およびC2の逐次活性化をもたらし、古典経路およびレクチン経路でのC3転換酵素を形成する。対照的に、副経路の活性化は認識分子を必要としないが、古典経路またはレクチン経路により惹起されるC3活性化を増幅することができる。これら3つの経路のうちのいずれかの活性化によって、炎症性メディエーター(C3およびC5a)および膜侵襲複合体(MAC)が形成され、細胞溶解が引き起こされる。
【0003】
補体系は多くの防御免疫機能において重要な役割を担っているが、補体活性化は、広範な自己免疫性疾患および炎症性疾患の進行において、組織の損傷の重要なメディエーターである(非特許文献1)。
【0004】
補体を調節する物質が必要とされている。補体系は病原性微生物に対する極めて重要な宿主防御であるが、それが抑制なく活性化すると、宿主細胞の壊滅的な損傷を引き起こす場合がある。現在、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、および多発性硬化症等の自己免疫疾患を含む、多くの疾患経過における補体の調節不全に付随する既知の罹患率および死亡率にもかかわらず、ヒト用に現在承認されている抗補体治療は、遺伝性血管浮腫(HAE)罹患患者用に認可された精製ヒトC1阻害剤、および発作性夜間血色素尿症(PNH)の治療に用いられる、抗C5長時間作用性ヒト化モノクローナル抗体であるエクリズマブ/ソリリス(Solaris)の2つのみである。PNHおよびHAEは共に罹患する人がほとんどいない希少疾患であり、現在、調節不全の補体活性化が中心的な役割を果たす、広く見られる疾患経過に対し承認されている補体調節物質は存在しない。
【0005】
アストロウイルス科(Astroviridae)は、一本鎖の、メッセンジャー−センスRNAゲノムを有する、非エンベロープの、20面体ウイルスのファミリーを構成している。これらのウイルスは、ヒトにおける胃腸炎、および他の動物種における他の疾患の大きな原因である。それらが世界における小児下痢性疾患の推定2〜17%を引き起こしていると推定されている。
【0006】
アストロウイルスのコートタンパク質(「CP」)は補体系に対し強力な作用を有しており、このことは、該タンパク質の「活性」部分が、補体介在性疾患による組織損傷を低減することにおいて臨床的な有用性を持ち得ることを示唆している。ヒトアストロウイルス1型(HAstV−1)から精製した野生型コートタンパク質(「WP CP」)は、C1qおよびMBLと結合することができ、古典経路およびレクチン経路両方の活性化を調節することができる(非特許文献2)。この特性は、ヒト好中球ペプチド−1(HNP−1)について記載される特性と類似している(非特許文献3及び4)。HAstV−1のコート(coat)タンパク質は、組換えバキュロウイルスコンストラクトから発現された後に精製された、787個のアミノ酸からなる分子である(非特許文献5)
【0007】
補体系の古典経路、レクチン経路および副経路を阻害するためのペプチド化合物を開発することは、これら3つの経路それぞれが多数の自己免疫性疾患および炎症性疾患の経過の一因となることが示されているため、重要である。古典経路およびレクチン経路の特異的な遮断が特に興味の対象となっているが、それは、これら両方の経路が多くの動物モデルにおける虚血再灌流により誘導される障害と関係付けられているためである(非特許文献6〜9)。副経路不全を有するヒトは深刻な細菌感染症に罹患する。そのため、機能的な副経路は侵入病原体に対する免疫監視機構に必要不可欠である。
【0008】
補体活性化を調節することができ、炎症性疾患、自己免疫性疾患および病原性疾患等の補体介在性疾患を予防および治療するための治療薬として用いることができるペプチド化合物を開発することが望ましいであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ricklin, D., Lambris, J.D. 2007. Nat. Biotech. 25, 1265-1275.
【非特許文献2】Hair et al., 2010. Molec. Immunol. 47, 792-798
【非特許文献3】van den Berg et al., 1998. Blood. 92, 3898-3903
【非特許文献4】Groeneveld et al., 2007. Molec. Immunol. 44, 3608-3614
【非特許文献5】Bonaparte et al., 2008, J. Virol. 82, 817-827
【非特許文献6】Castellano et al., 2010, Amer. J. Pathol. 176, 1-12.
【非特許文献7】Lee et al., 2010, Mol. Immunol. 47, 972-981.
【非特許文献8】Tjernberg, et al., 2008, Transplantation. 85, 1193-1199.
【非特許文献9】Zhang et al. 2006, J. Immunol. 177, 4727-4734.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、補体系の古典経路およびレクチン経路を調節するペプチド化合物、およびこれらの化合物を使用する方法を提供する。具体的には、本発明のペプチド化合物はC1およびMBLと結合し、それらを調節および不活性化することができるため、副経路はそのままに、古典経路およびレクチン経路の活性化をその最も早いポイントで効果的に阻害することができる。これらのペプチド化合物は、副経路(alterative pathway)に影響を与えずにC1およびMBLの活性化を選択的に調節および阻害するための治療薬として価値があり、古典経路およびレクチン経路の活性化調節不全を介した疾患を治療するために用いることができる。他の実施形態では、本ペプチド化合物は、古典経路の活性化を調節するが、レクチン経路の活性化は調節しない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、CP1と称される、ヒトアストロウイルスコートタンパク質由来の30個のアミノ酸からなり、C1qおよびMBLに結合することにより古典経路およびレクチン経路の活性化を調節することができる配列番号1を有する、単離・精製されたペプチドの同定に基づいている。
【0012】
他の実施形態では、本発明は、CP1のペプチド模倣薬、ペプチド類似体および/または合成誘導体であり、例えば、内部ペプチドの欠失および置換、N末端およびC末端での欠失および置換を有しており、C1qおよびMBLに結合することにより古典経路およびレクチン経路の活性化を調節することができるペプチド化合物を対象としている。
【0013】
本発明のさらなる実施形態は、ペプチド化合物がN末端残基のアセチル化によって修飾されている、本発明のペプチド化合物のうちのいずれか1つである。
【0014】
一部の実施形態では、ペプチド配列は、配列番号1に対し、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有する。
【0015】
本発明の別の実施形態はさらに、医薬組成物を提供する。例えば、本発明は、治療有効量の、上記化合物のいずれか1つのペプチドおよび少なくとも1つの薬剤的に許容できる担体、希釈剤、または賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明の別の実施形態はさらに、対象に上記組成物を投与することを含む、対象における補体系を調節する方法を提供する。
【0017】
本発明のさらなる実施形態は、上記医薬組成物を投与することによって補体により媒介される組織損傷が関連する疾患を治療する方法であり、該補体により媒介される組織損傷が関連する疾患は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、自己免疫性溶血性貧血、膜性増殖性糸球体腎炎、血清病、成人呼吸窮迫症候群(ASDS)、虚血再灌流障害、脳卒中、心筋梗塞、同種または異種移植障害、超急性拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、アルツハイマー病、熱傷、血液透析による損傷、心肺バイパスによる損傷、発作性夜間(pocturnal)血色素尿症(PNH)、および遺伝性血管浮腫(HAE)からなる群から選択される。
【0018】
本発明の別の実施形態は、補体により媒介される組織損傷が関連する疾患を治療するのに有効な少なくとも1つの他の活性成分を対象に投与することをさらに含む、該疾患を治療する方法であり、該少なくとも1つの他の活性成分は、非ステロイド系抗炎症剤、副腎皮質ステロイド、疾患修飾性抗リウマチ薬、C1−阻害剤、およびエクリズマブからなる群から選択される。
【0019】
別段の定めがない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参照によって組み込まれるものとする。さらに、材料、方法、および例は、例示のためだけのものであって、制限することを意図してはいない。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、発明を実施するための方法、図、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】CPが、C1qへの結合において、ヒト好中球デフェンシン1(HNP−1)と用量依存的に競合することを示しているグラフである。C1qを、増量させていく(increasing amounts of)WT CP(丸)またはBSA(三角)と混合し、HNP−1を被膜したELISAプレートに添加した。洗浄後、C1qに対するポリクローナル抗体を用いて結合したC1qを測定した。データは独立した3つの実験の平均値である。エラーバーはSEMを表わす。
図2図2Aは、ClustalW解析で決定した、WT CP(配列番号36)と30アミノ酸HNP−1分子(配列番号37)の配列比較を示している。CPおよびHNP−1の配列間で、シンボル「*」は同一の残基を示しており、「:」は保存残基を示しており、「.」は半保存残基を示している。図2Aはまた、この配列比較に基づいて合成された、2つの30アミノ酸ペプチド(CP1(配列番号1)およびCP2(配列番号2))を示している。図2Bは、C1qとの結合能において、WT CPと濃度依存的に競合するペプチド化合物を示すグラフである。一定量のC1qを、増量させていくWT CPと混合し、CP1(シンボルなし)またはCP2(四角)で被膜したELISAプレートに添加した。BSAをWT CP(三角)と置き換えた場合、競合は起こらなかった。データは独立した3つの実験の平均値である。エラーバーはSEMを表わす。
図3】CPペプチドのC1qへの結合能を示している。ペプチドCP1、CP2、HNP−1(図3A)、C04A、C27A(図3B)、E23A、E25A(図3C)およびΔ8−22(図3D)をELISAプレート上に被膜し、増量させていく精製C1qと共にインキュベートした。C1qをC1qに対するポリクローナル抗血清で検出した。データは、各ペプチド誘導体に対する3連の測定値を表わしている。エラーバーはSEMを表わす。
図4】C1活性化を、CP1は調節するが、CP2は調節しないことを示している。部分的に精製したヒトC1を、単独で、凝集型IgGと共に、または凝集型IgGおよび増量させていくCP1(図4A)もしくはCP2(図4B)ペプチド(250mMストックの1〜4μl)と共に、37℃で90分間インキュベートした。その後、反応混合物を8%SDS−PAGEゲルに充填し、C1sに対するポリクローナル抗血清で免疫ブロットした。図4Aおよび4Bにおいて、C1sの活性化を表わすC1sの重鎖および軽鎖、並びに酵素前駆体C1sは、ゲルイメージの右に表示され、一方、分子量マーカー(kD)はゲルイメージの左に表示される。図4Cおよび4Dは、Odyssey imagingで決定した、C1活性化の程度を定量化しているグラフであり、それぞれ、CP1(図4C)およびCP2(図4D)に対応している。データは独立した2つの実験の平均値である。エラーバーはSEMを表わす。
図5】C4活性化試験における、ペプチド化合物の補体活性調節を示すグラフである。ELISAプレートを、抗オボアルブミン抗体を飾ったオボアルブミンで予め被膜した。NHSを、単独で、またはBSA、ジメチルスルホキシド(DMSO)対照、WT CP(1.8μg)、もしくはペプチド化合物(0.5mM)と共に、15分間インキュベートし、続けてオボアルブミン−抗体標的に添加した。ポリクローナルC4抗体を用いてC4沈着を検出した。C4沈着はNHS単独を100%に標準化し、全ての値を、熱失活したNHS対照のバックグラウンド値を引いて調節した。データは独立した3つの実験の平均値である。エラーバーはSEMを表わす。
図6】溶血試験における、ペプチド化合物の補体活性調節を示すグラフである。図6Aでは、抗体感作したヒツジ赤血球を、NHS単独と共に、またはペプチド化合物(1.4mM)もしくはDMSO対照と共に、インキュベートした。図6Bでは、抗体感作したヒツジ赤血球を、NHS(白棒)もしくはB因子枯渇血清(黒棒)単独と共に、またはペプチド化合物(0.77mM)もしくはDMSO対照と共に、インキュベートした。溶血は血清単独を100%に標準化した。図6Aは独立した3つの実験から得た平均データを示しており、図6Bは1つの実験から得たデータを示している。エラーバーはSEMを表わす。
図7】B因子枯渇血清における極性取り合わせペプチド(Polar Assortant peptide)の溶血試験滴定(hemolytic assay titration)を示すグラフである。極性取り合わせペプチドが用量依存的に古典経路の活性化を調節することをデータは示している。
図8】オリゴマー状態のE23AのMALDI−TOF−TOF質量分析を示すグラフである。図8AはE23Aの線形モード解析を示しており、図8BはE23Aの反射モード解析を示している。E23Aは2934.37の理論的質量を有する。図8Aでは、より低い分解度およびより低い質量精度の線形モードが、ペプチドピークの拡大表示において、モノアイソトピックなペプチドピークを欠いて示されている。図8Bでは、高い分解度および質量精度の反射モードが、ペプチドピークの拡大表示に示されている。図8Aおよび8Bの両方で、前記ペプチドの理論的質量を超える質量電荷比(m/z)を有する主なピークは存在しない。
図9図9Aは、リョクトウ植物デフェンシン1(VrD1)(配列番号38)の残基と比較した、E23Aのアミノ酸残基(配列番号5の残基2〜29)を示している。E23AをCPHModels−3.0サーバーにアップロードし、E23Aの2〜29番目の残基と植物デフェンシンVrD1の17〜44番目の残基を配列比較した。配列比較はClustalW解析で確認した。シンボル「*」は同一の残基を示しており、「:」は保存残基を示しており、「.」は半保存残基を示している。図9BはE23Aの構造モデルを示しているイメージである。CPHModels−3.0によって作製されたPDB座標をJmolのFirstGlanceにアップロードし、構造モデルを可視化した。N末端のαヘリックスおよびβストランドをリボンとして示し、矢印はカルボキシ末端を向いている。ランダムコイルを平滑化した骨格の痕跡(smoothed backbone trace)として示す。推定ジスルフィド結合を細い円柱として示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、具体的にはC1およびMBLに結合および/または不活性化し、したがって副経路に影響を及ぼすことなくその最も早い時点で古典経路およびレクチン経路活性化を調節することにより、補体系の古典経路およびレクチン経路を調節するペプチド化合物を提供する。これらのペプチド化合物は、古典経路およびレクチン経路の無調節な活性化により媒介される病気および状態の治療に治療薬としての価値をもつ。
【0023】
本発明は、ヒトアストロウイルス外被タンパク質(CP1とよばれる)由来の30のアミノ酸の単離精製されたペプチド、すなわちC1qおよびMBLに結合することにより古典経路およびレクチン経路活性化を調節することができる配列(配列番号1)をもつペプチドの同定に基づく。他の実施形態では、ペプチド化合物は古典経路の活性化を調節するが、レクチン経路の活性化を調節しない。
【0024】
CP1のアミノ酸構造の修飾が、C1q活性を調節することができるさらなるペプチド化合物の発見を導いてきた。
【0025】
本明細書で使用される「ペプチド化合物」という用語は、天然由来であってよいアミノ酸配列、またはペプチド模倣薬、ペプチド類似体および/または配列番号1に基づく約30のアミノ酸の合成誘導体であってもよいアミノ酸配列を表す。さらに、ペプチド化合物は約30未満のアミノ酸残基、例えば約20から約30のアミノ酸残基であってよく、また例えば約10から約20のアミノ酸残基のペプチド化合物であってよい。例えば5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、および30のアミノ酸のペプチド残基は、本発明の文脈内でペプチド化合物になる可能性が高い。
【0026】
本開示のペプチド化合物は一般に、約30のアミノ酸残基または約30未満のアミノ酸残基の、束縛された(constrained)(すなわち例えばβターンまたはβプリーツシートを開始するアミノ酸が存在するような構造の要素をいくつか有する、または例えばジスルフィド結合したCys残基の存在により環化された)、または束縛されていない(unconstrained)(即ち直鎖)アミノ酸配列である。
【0027】
ペプチド配列内のアミノ酸の置換基(substitute)は、そのアミノ酸が属する分類の他の要員から選択してもよい。例えば非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが挙げられる。芳香環構造を含むアミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンが挙げられる。極性的に中性(polar neutral)であるアミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられる。正電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニンおよびリジンが挙げられる。負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。例えば、配列内の1つまたは複数のアミノ酸残基は、機能的に同等に作用し静かな変換(silent alteration)をもたらす同様な極性の別のアミノ酸により置換し得る。
【0028】
保存的変化は一般に、得られるタンパク質の構造および機能に変化をあまりもたらさない。非保存的変化は、得られるタンパク質の構造、活性、または機能に変換をもたらす可能性が高い。例えば本開示のペプチドは、1つまたは複数の次の保存的なアミノ酸置換:脂肪族アミノ酸例えばアラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンなどの別の脂肪族アミノ酸による置き換え;セリンのトレオニンによる置き換え;トレオニンのセリンによる置き換え;酸性残基例えばアスパラギン酸およびグルタミン酸などの別の酸性残基による置き換え;アミド基を有する残基例えばアスパラギンおよびグルタミンなどの、アミド基を有する別の残基による置き換え;塩基性残基例えばリジンおよびアルギニンなどの、別の塩基性残基による交換;ならびに芳香族残基例えばフェニルアラニンおよびチロシンなどの、別の芳香族残基による置き換え、を含む。
【0029】
特に好ましいアミノ酸置換としては次のものが挙げられる:
a)負電荷を低減し得るようにGluに対するAlaの置換またはその逆;
b)正電荷を維持し得るようにArgに対するLysの置換またはその逆;
c)正電荷を低減し得るようにArgに対するAlaの置換またはその逆;
d)負電荷を維持し得るようにAspに対するGluの置換またはその逆;
e)遊離−OHを維持することができるようにThrに対するSerの置換またはその逆;
f)遊離NH2を維持することができるようにAsnに対するGlnの置換またはその逆;
g)ほぼ疎水性アミノ酸に相当するようなLeuもしくはValに対するIleの置換またはその逆;
h)ほぼ芳香族アミノ酸に相当するようなTyrに対するPheの置換またはその逆;および
i)ジスルフィド結合が影響を受けるようにCysに対するAlaの置換またはその逆。
【0030】
一実施形態では、本発明はヒトアストロウイルス外被タンパク質由来の単離精製されたペプチドを開示し、前記ペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0031】
別の実施形態では、本発明は1つまたは複数のアミノ酸の置換、修飾、挿入、または欠失をもつ配列番号1のアミノ酸配列を含む、単離精製された合成ペプチドを開示し、前記ペプチドは補体活性化を調節する。
【0032】
別の実施形態では、本発明は1つまたは複数のアミノ酸の置換をもつ配列番号1のアミノ酸配列を含む、単離精製された合成ペプチドを開示し、前記ペプチドは補体活性化を調節する。
【0033】
ペプチド化合物は、内部ペプチド欠失および置換、ならびに配列番号1に基づくN末端およびC末端での欠失および置換を有してもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、または20またはそれ以上のアミノ酸置換、修飾、挿入,または欠失を有する。
【0034】
いくつかの実施形態では、ペプチド配列は配列番号1と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有する。
【0035】
アストロウイルス外被タンパク質ペプチドおよび誘導体
HNP−1とWT CPとの間の相同性領域を包含した2種の30残基ペプチド、CP1およびCP2を合成した(図2A)。CP1が古典経路活性化の一貫した調節を示した一方で、CP2は古典経路活性化の調節を示さなかった。CP1は、図2Aに示すように、そのN末端およびC末端にてHNP−1との限定された相同性を保持する(各4残基)が;しかし、これらの側面の残基に対してその内部に相同性は存在しない。いかなる理論にも縛られるものではないが、WT CPは、C1およびMBLの両分子のコラーゲン様領域に結合することにより、ならびにC1qおよびMBLからそれらとそれぞれ関連するセリンプロテアーゼ、すなわちC1s−C1r−C1r−C1sおよびMASP2をそれぞれ分離することにより、C1およびMBL活性を調節し得る(Hair et al., 2010. Molec. Immunol. 47, 792-798)。
【0036】
本開示でのペプチド化合物は、CP1、すなわち上述のHAstV CPの30アミノ酸ペプチドのペプチド欠失および置換により合成される。さらなるペプチド化合物は、以下の表1に示すように、CP1の修飾に基づき合成されている。
【0037】
【表1】
【0038】
CP1はヒトアストロウイルス外被タンパク質由来の単離精製されたペプチドであり、前記ペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0039】
CP2はヒトアストロウイルス外被タンパク質由来の単離精製されたペプチドであり、前記ペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0040】
親ペプチドとしてCP1を使用して、4種類のアラニン置換(C04A、C27A、E23A、E25A)を作製した(アラニン置換残基は表1において太字かつ下線で示す)。残基8から残基22までの内部欠失をΔ8−22ペプチドのために作製した(内部欠失は表1においてダッシュで示す)。CP2、CP1、およびCP1誘導体をプレート上に被覆した。ブロッキング後、C1qを増量させつつ(increasing amount of)室温で1時間添加し、その後C1qに対する抗血清を用いてC1qを検出した。C1qの各種ペプチド誘導体との結合性を図3に示す。データは各ペプチド化合物に関する3連での読み取りを表す。CP1はC1qに用量依存的に結合した(図3A)。CP2はC1qにCP1ほど結合しなかったが、HNP−1のその結合性と同様のレベルでC1qに結合した(図3A)。
【0041】
表1に示すように、CP1は2つのシステイン残基を第4位および第27位に含有し、これらのシステイン残基は、個々にC04AおよびC27Aではアラニンに置換される。CP1のシステイン残基を標的化して、CP1でのジスルフィド結合が古典経路活性化のために必要であるどうかを判定した。当技術分野に公知であるように、C3のペプチドレギュレータ(コンプスタチン)およびC1q(ペプチド2J)(共にアミノ酸配列に2つのシステイン残基を含有する)は活性のためにジスルフィド結合による環化(cyclicalization)を必要とする(Sahu et al.,1996.J. Immunol. 157,884-891; Roos et al.,2001. J. Immunol. 167,7052-7059)。システイン置換はC1q結合(図3B)またはC4活性化(図5)に有意な効果を示さない。しかし、両方のシステイン置換は、溶血アッセイでの補体調節活性を減少させることを示した(図6B)。このことは、システイン残基のジスルフィド結合を介した環化はC1qの結合に重要ではないが、環化が補体系の活性を阻害する能力に対する様々な効果を有すると思われることを示唆する。したがって、いかなる理論にも縛られるものではないが、システイン残基のジスルフィド結合は、E23Aの構造モデルが示唆しているように、適したペプチドの立体配座および安定性に重要であり得る(図9B)。
【0042】
表1に示すように、第23位および第25位のグルタミン酸残基はまた、アラニンにより置換されていた。これらの負電荷をもつアミノ酸がC1q分子上の非水酸化リジン残基とのCP相互作用に関与し得るため、グルタミン酸残基の置換がなされた。E23AおよびE25Aペプチドは、C1qへの効率的な結合(図3C)を示し、また全ての機能分析でCP1と同様のまたはCP1を超える調節活性を示した(図5および6)。具体的には、E23Aは、試験を行った他の全てのペプチド誘導体と比較して、古典経路活性化に優れた調節を示した。中性のアラニン残基による負電荷をもつグルタミン酸の1つの置換がペプチドの調節活性を増強するようである。
【0043】
表1に示すように、Δ8−22ペプチドはE23Aからの残基8〜22の欠失であった。このペプチドは試験を行った全ての機能分析で活性であり、C1qに結合した(図3D)。このΔ8−22ペプチドは2つのシステインおよび2つのグルタミン酸残基を保持し、またCP1の大きさの半分である(15残基対30残基)。
【0044】
Δ8−22ペプチド(配列番号7)は合成中に酸化されて、2つのシステイン残基間にジスルフィド結合を形成した(Δ8−22酸化)。このペプチドは試験を行った全ての機能分析で活性であった。2つのシステイン残基をΔ8−22ペプチドにてジスルフィド結合を形成していないシステイン誘導体と置き換えると、ペプチドの残留が減少した。(Δ8−22ペプチドAbu;配列番号8)。このペプチドは、試験を行った全ての機能分析で活性であった。ペプチドの極性取り合わせ(Polar Assortant)(配列番号9)に関しては、Δ8−22ペプチドからの15アミノ酸残基がスクランブル(scramble)されていた。このペプチドもまた、試験を行った全ての機能分析で活性であった。
【0045】
ペプチドの合理的欠失、置換、および修飾
以下の表2に示すように、CP1の一連のペプチド欠失、置換、および修飾を開示する。表1および表2に示すように、対象物(subject matter)は、配列番号1〜35のアミノ酸配列のいずれか1つを含む単離精製した合成ペプチドを開示する。
【0046】
【表2】
【0047】
内部欠失
上述のように、CP1は図2Aに示すようにHNP−1の最初の10残基の長さと配列をもつ30アミノ酸残基である。これらの2種類の分子の配列は、CP1の環化のために必要とされるN末端およびC末端でのシステイン残基に基づく。これはHNP−1と相同性である配列を有さないCP1の18残基内部領域をもたらす。CP1の内部欠失が徐々に増加して合成され、C1qおよびMBLの結合性に対して判断される(表2、内部欠失)。
【0048】
N末端およびC末端欠失
表2に示すように(N末端およびC末端欠失)、N末端およびC末端アミノ酸は、次第に、CP1の各システイン残基まで個々に欠失される。さらには、CP1およびCP2からのN末端およびC末端の両方の欠失がなされ、15のアミノ酸ペプチドが形成される。これらの修飾ペプチド化合物が合成されて、これらの側面の残基をC1qおよびMBL結合活性に必要とするかを判定するために、C1qおよびMBL結合性について修飾ペプチド化合物を判断する。これらの欠失は、補体活性化を調節するために必要とされるペプチド化合物の最小サイズを決定するのに役立つ。
【0049】
アラニンスキャン(Scan)
アラニンスキャンニングを行い、ペプチドの活性に関与する特定のアミノ酸残基を同定する。アラニンスキャンニングでは、アラニンを用いて各残基を連続的に置換する。必須アミノ酸の置換はペプチド活性に変化をもたらし、その活性度が置換されたアミノ酸の重要性の相対的測定値とみなされる。
【0050】
対象物は、ある位置でアラニンにより置換されたペプチド化合物を開示する。対象物は、配列番号1の配列を含む単離精製された合成ペプチドを開示し、前記合成ペプチドでは1つまたは複数のアミノ酸がアラニンで置換され、本ペプチドは補体活性化を調節する。1つまたは複数の実施形態では、アラニンで置換されたアミノ酸は第4、23、25、または27位に存在する。
【0051】
2つのグルタミン酸残基位置は両方とも個々におよび同時にアラニンで置換される(表2、太字および下線)。いかなる理論にも縛られるものではないが、野生型CP分子は、セリンプロテアーゼC1s−C1r−C1r−C1sおよびMASP2とそれぞれ結合するために必要とされるC1qおよびMBL上の反応性リジン残基と相互に作用し得る。グルタミン酸に関連する負電荷を仮定すると、これらの残基は直接的にCP結合を促進するC1qおよびMBL上の正電荷をもつリジン残基と相互に作用する。2つのシステイン残基位置は、両方とも個々におよび同時にアラニンで置換される(表2、太字および下線部)。
【0052】
N末端アセチル化
対象物は、N末端がアセチル化されたペプチド化合物を開示する。CP1のアセチル化は、ペプチドのN末端での電荷を減少させることにより、効果を高める(すなわち静電効果)(RicklinおよびLambris、2008. Nat. Biotech. 25、1265-1275)。この修飾は、Compstationにより示されているように、エクソペプチダーゼに関わるペプチドのin vivo安定性の改良に役立ち得る(RicklinおよびLambris、2008. Nat. Biotech. 25、1265-1275)。N末端アセチル化から合成されたペプチド化合物としては、上述のあらゆるペプチドが含まれるが、前記ペプチドはN末端残基のアセチル化により修飾されている。
【0053】
補体系およびその調節異常に関連する病気
補体は細菌やエンベロープをもついくつかのウイルスなどの病原体に対する重要な宿主防御である一方で、その無制限な活性化が破壊的な宿主細胞損傷を引き起こす。補体により媒介される宿主組織の損傷は、自己免疫の病変、例えば:関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、自己免疫性溶血性貧血、膜性増殖性糸球体腎炎、および血清病などの様々な病気に関与している。前記損傷はまた、以下の病気:成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血再灌流障害(脳卒中および心筋梗塞を含む)、同種および異種移植術合併症(超急性拒絶および移植片対宿主病(GVHD)を含む)、アルツハイマー病、熱傷、血液透析による損傷、心肺バイパスによる損傷、および発作性夜間血色素尿症(PNH)の原因の一因をもたらすと確認されている。
【0054】
遺伝性血管浮腫(HAE)は、非機能性C1阻害因子レベルの減少により引き起こされる非常に稀な遺伝性疾患であり、HAEの症状には急性の浮腫が挙げられる。C1阻害剤はC1活性化を天然に調節し、また急性浮腫の治療は、C1阻害剤の実質的な注入または血漿輸血を必要とする。アストロウイルスCPはC1活性化を機能的に遮断するので、HAEを治療するための本開示のペプチド化合物を使用することは治療必要性を満たす。その理由はC1阻害剤は、複数の対象からのヒト血清から精製しなければならないので、ヒト血液由来病原体により汚染され得る。本開示のペプチド化合物の治療的投与は、C1阻害剤を用いた補助療法においてまたは独立した治療法としてのいずれかにてC1を調節する。
【0055】
本開示のペプチド化合物は、副経路活性に影響を与えることなくC1qおよびMBL活性化を選択的に調節し、したがって古典経路およびレクチン経路の無調節な活性化よって媒介される病気を予防および治療するのに最適である。副経路は侵入病原体に対する免疫学的監視に不可欠であり、副経路の欠陥をもつヒトは深刻な細菌感染症を患う。C1qおよびMBLの結合および不活性化により、ペプチド化合物は、古典経路およびレクチン経路の活性化を効率よく調節する一方で、副経路を正常に保ち得る。
【0056】
本明細書に使用される「調節する」という用語は、i)酵素、タンパク質、ペプチド、因子、副生成物、またはその誘導体の生物学的機能を、個々にまたは複合体の状態で、制御、減少、阻害、調節すること;ii)生体タンパク質、ペプチド、またはその誘導体の量を、in vivoまたはin vitroで減少させること;またはiii)関連する一連の生物学的反応または化学的反応を含むことが知られている事象、カスケード、または経路の生物学的連鎖(biological chain)を遮断すること、をさす。「調節する」という用語は、したがって例えば対照試料と比較した補体カスケードの単一成分量を減少させること、成分もしくは成分複合体の形成率またはその総量を減少させること、または細胞融解、転換酵素の形成、補体由来の細胞膜傷害複合体、炎症、もしくは炎症性疾患の形成のような結果をもたらす複合プロセスまたは一連の生物学的反応の全活性を減少させることを説明するために使用してもよい。in vitroのアッセイで、「調節する」という用語は、いくつかの生物学的事象または化学的事象の測定可能な変化または減少を意味し得るが、当業者が、測定可能な変化または減少が「調節」の全てである必要がないことは理解されるであろう。
【0057】
製剤処方および投与
本開示は補体系の調節が可能な医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、少なくとも1つの上述のペプチド化合物と少なくとも1つの薬剤的に許容できる担体、希釈剤、または賦形剤とを含む。薬剤的に許容できる担体、賦形剤、または安定剤は、使用される用量および濃度において受容者に無毒である。これらは固形、半固形または液体であり得る。本発明の医薬組成物は錠剤、丸薬、粉末、トローチ剤、小袋、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液、またはシロップの形状であり得る。
【0058】
薬剤的に許容できる担体、希釈剤、または賦形剤のいくつかの例としては:ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、スターチ、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップ、およびメチルセルロースが挙げられる。本発明の医薬組成物は、当技術分野で公知の手順を用いて処方され、活性成分の迅速な、一般的もしくは持続的なまたは遅延性の放出をもたらす。
【0059】
本開示は、対象に上述の組成物を投与することを含む、対象での補体系を調節する方法に関する。本発明の医薬組成物は、適切な純度のペプチド化合物を薬剤的に許容できる担体、希釈剤、または賦形剤と混合することにより調製される。処方およびそのような処方の調製方法の例は、当技術分野で周知である。本発明の医薬組成物は、上記に記載した様々な疾患および病気の予防薬および治療薬として有用である。一実施形態では、組成物は、治療有効量のペプチド化合物を含む。別の実施形態では、組成物は補体媒介性組織損傷に関連する少なくとも1つの病気の治療に有効な少なくとも1つの他の活性成分を含む。本明細書に使用される「治療有効量」という用語は、対象の有意な利点を示すのに十分な活性成分の各々の総量をさす。
【0060】
本明細書に使用される「対象」という用語は、診断、予後、または治療が望まれるあらゆる対象を意味する。例えば、対象は哺乳類、例えばヒトまたは非ヒト霊長類(例えばサル(ape)、サル(monkey)、オランウータンまたはチンパンジーなど)、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ(cattle)、またはウシ(cow)であり得る。
【0061】
本明細書に使用される「治療する」、「治療すること」、または「治療」は、疾患(例えば本明細書に記載の疾患)もしくはその症状を改善する、または疾患(例えば本明細書に記載の疾患)もしくはその症状の進行を予防または遅延させるのに効果的な量、様式(例えば投与スケジュール)、および/またはモード(例えば投与ルート)で治療薬を投与することをさす。これは、例えば疾患またはその症状に関連するパラメータの、例えば、統計的に有意な程度までまたは当業者に検出可能な程度までの改善により明らかであり得る。有効量、様式、またはモードは、対象により変更可能であり、また対象に合わせてもよい。疾患またはその症状を予防または遅延させることにより、治療は罹患したまたは診断された対象において疾患またはその症状を予防またはその結果による悪化を遅延させ得る。
【0062】
ペプチド化合物の治療有効量は、いくつかの因子、例えば治療中の状態、状態の重篤度、投与時間、投与ルート、使用する化合物の排泄速度、治療継続期間、関与する共同療法、ならびに対象の年齢、性別、体重、および状態、等により変化する。当業者は、治療有効量を決定し得る。したがって、当業者は投与量のタイター量(titer)を必要とし投与経路を変更して、最大の治療効果を得てもよい。
【0063】
効果的な1日投与量は、一般に体重1キログラムあたり約0.001から約100ミリグラム(mg/kg)の範囲であり、好ましくは約0.01から約50mg/kg、より好ましくは約0.1から約20mg/kgの範囲である。この投与量は、1日1〜6回の投与方法により実現される。あるいは、最適な治療は、頻度のより低い投与方法の徐放性製剤により実現され得る。
【0064】
製剤処方は、あらゆる適切な経路、例えば経口の、経鼻の、局所の(口腔、舌下腺、または経皮を含む)、または非経口の(皮下、皮内(intracutaneous)、筋肉内、腹腔内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内、静脈内、もしくは皮内(intradermal)注射または注入を含む)経路による投与に適応してもよい。ヒトへの投与には、製剤は好ましくは、アメリカ食品医薬品局(Food and Administration)(FDA)で定められた無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度標準(purity standard)を満たす。
【0065】
併用療法
本発明のさらなる実施形態は、補体媒介性組織損傷に関連する病気を予防または治療する方法を提供し、前記方法は対象に本発明の医薬組成物を投与することを含む。本発明の医薬組成物を単独で活性な医薬品として投与し得るが、前記医薬組成物はまた病気の予防または治療に効果的な1つまたは複数の治療薬または予防薬と併用して使用し得る。この態様では、本発明の方法は、補体媒介性組織損傷に関連する少なくとも1つの病気を治療するのに効果的な1つまたは複数のさらなる治療薬または予防薬の前に、同時に、及び/又は後に本発明の医薬組成物を投与することを含む。
【0066】
例えば本発明の医薬組成物は、いずれか単独でまたは非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、コルチコステロイド、もしくは疾患修飾性抗リウマチ剤(DMARD)を組み合わせて、関節リウマチを治療するために使用し得る。
【0067】
NSAIDの例としては、次の:サリチル酸塩(例えばアスピリン、アモキシプリン(amoxiprin)、ベノリラート、トリサルチル酸コリンマグネシウム、ジフルニサル、ファイスラミン(faislamine)、メチルサリチル酸、サリチル酸マグネシウム、およびサリチルサリチラート(サルサラート)など)、アリールアルカン酸(例えばジクロフェナク、アセクロフェナク、アセメタシン、ブロムフェナク、エトドラク、インドメタシン、ケトロラク、ナブメトン、スリンダク、およびトルメチ(tolmeti)など)、2−アリールプロピオン酸(例えばイブプロフェン、カルプロフェン、フェンブフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセン、チアプロフェン酸、およびスプロフェンなど)、N‐アリールアントラニル酸(例えばメフェナム酸およびメクロフェナム酸など)、ピラゾリジン誘導体(例えばフェニルブタゾン、アザプロパゾン、メタミゾール、オキシフェンブタゾン、およびスルフィンピラゾンなど)、オキシカム(例えばピロキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、およびテノキシカムなど)、COX−2阻害剤(例えばエトリコキシブ、ルミラコキシブ、およびパレコキシブなど)、スルホンアニリド例えばニメスリドなど、ならびにその他例えばリコフェロンおよびオメガ3脂肪酸など、が挙げられる。
【0068】
コルチコステロイドの例としては、次の:トリアムシノロン(アリストコート(登録商標))、コルチゾン(コートン(登録商標)酢酸塩錠)、デキサメタゾン(デカドロン(登録商標)エリキシル剤)、プレドニゾン(デルタゾン(登録商標))、およびメチルプレドニゾロン(メドロール(登録商標))が挙げられる。
【0069】
DMARDの例としては、次の:メトトレキサート(リウマトレックス(登録商標))、レフルノミド(アラバ(登録商標))、エタネルセプト(エンブレル(登録商標))、インフリキシマブ(レミケード(登録商標))、アダリムマブ(ヒュミラ(登録商標))、アナキンラ(キネレット(登録商標))、スルファサラジン(アザルフィジンEN錠(登録商標))、抗マラリア剤、金塩、d−ペニシラミン、シクロスポリンA、シクロホスファミドおよびアザチオプリンが挙げられる。
【0070】
Soliris(商標)(エクリズマブ)は、ヒト化抗C5モノクローナル抗体である。Soliris(商標)は溶血性貧血のまれな症状、発作性夜間血色素尿症の治療に対し、FDAにより認可を受けている。一実施形態では、本発明の医薬組成物は、発作性夜間血色素尿症、心臓疾患、肺疾患、自己免疫疾患、喘息の治療、ならびに移植物の補助的ケアの際にSoliris(商標)と併用し得る。
【0071】
本発明の医薬組成物は、追加の薬剤(additional agent)と一緒に併用療法にて共同でまたは単独で投与し得、または1つの組成物中に医薬組成物および追加の薬剤を組み合わせて投与し得る。用量は、状態の最大限の管理が実現できるように投与および調整される。例えば医薬組成物および追加の薬剤の両方が、通常、単一治療(mono-therapy)投与方法において通常投与される用量の約10%から約150%、より好ましくは約10%から約80%の用量レベルで存在する。
【実施例】
【0072】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、実施例は説明のみを目的として提供される。それらがいずれの点においても本発明の範囲および内容を限定していると解釈されるべきではない。
【0073】
材料および方法
実施例1:HAstV−1 CP、ペプチド、熱凝集IgG、血清、赤血球、および補体緩衝液の調製
野生型HAstV−1 CPをヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞(IPLB−Sf21株)中で組換えバキュロウイルスから発現させ、前述のように精製した(Bonaparte et al., 2008. J. Virol. 82, 817-827)。HNP−1、CP1、およびCP2ペプチドをバイオマティック社(Biomatik)から入手し、一方、C04A、C27A、E23A、E25Aおよびd8−22はジェンスクリプト社(GenScript)から購入した。出荷前に、前記ペプチド化合物はHPLCおよびESI−質量分析で分析された。受領後直ちに、ペプチドを10mMの濃度でジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、−80℃で貯蔵した。熱凝集ヒトIgGは、当該技術分野において周知の方法(Bonaparte et al., 2008. J. Virol. 82, 817-827)を用いて調製した。プールされた正常ヒト血清(NHS)は、治験審査委員会により承認されたプロトコール(IRB 02-06-EX-0216, Eastern Virginia Medical School)に従って健康なヒトの志願者の血液に由来し、当該技術分野において周知の方法(Cunnion et al., 2001. Infect. Immun. 69, 6796-6803)を用いてプールし、分注し、−80℃で凍結したものである。抗体感作したヒツジ赤血球を、当該技術分野において周知の方法(Bonaparte et al., 2008. J. Virol. 82, 817-827)を用いて作製した。標準補体緩衝液:GVBS++(ベロナール緩衝食塩水、0.1%ゼラチン、0.15mM CaCl2、および1.0mM MgCl2)およびGVBS―ー(ベロナール緩衝食塩水、0.1%ゼラチン、0.01M EDTA)を使用した。
【0074】
実施例2:WT CPおよびペプチド化合物用C1q ELISAのプロトコール
C1q結合においてCPがHNP−1と競合するかどうかを解析するために、被膜緩衝液(100mM Na2CO3、NaHCO3、[pH9.6])中のHNP−1ペプチド(2.5μM)を96ウェルMaxisorpプレート(ヌンク社)上に被膜し、プレートを室温で一晩インキュベートした。プレートをPBS/Tで洗浄し、3%BSA/PBS、0.05%トウィーン−20(PBS/T)で室温で2時間ブロッキングした。次に、一定量の精製C1q(10μg/ml;コンプリメント・テクノロジー社(Complement Technologies, Inc.))を各ウェルに添加し、その一方で、100μg/mLから開始して減量させていく(decreasing amounts of)CPを同時に添加し、室温で1時間インキュベートした。競合の負の対照として、BSAをCPと置き換えた。洗浄後、一次抗体であるヤギ抗C1qポリクローナル抗体(コンプリメント・テクノロジー社)を、3%BSA/PBS/Tで1:2,000に希釈し、室温で1時間プレートに加えた。プレートを洗浄し、二次抗体であるロバ抗ヤギHRP(サンタクルーズバイオテクノロジー社)を3%BSA/PBS/Tで1:2,500に希釈し、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/Tで洗浄し、テトラメチルベンジジン(tetramethyl benzindine)(シグマ社)で1分間発色させた。その後、0.1mlの1N H2SO4で反応を停止させ、吸光度を450nmの波長でSynergy HTプレートリーダー(バイオテック社(Bio-Tek Instruments))で測定した。CPペプチドであるCP1およびCP2のC1q結合における競合的結合を評価するために、CP1およびCP2をプレート(2.5μM)上に被膜し、競合における負の対照としてCPと並行してBSAを用いたことを除いて前述と同一の方法で試験を実行した。
【0075】
CPペプチド誘導体のC1qへの結合を測定するため、2.5μMのペプチドをプレート上に被膜し、室温で一晩インキュベートした。洗浄およびブロッキング後、100μg/mLから開始して減量させていくC1qをウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。C1qを検出し、プレートを前述のように発色させた。
【0076】
実施例3:C1sの免疫ブロット
1μlの部分精製されたヒトC1(0.2mg/ml、コンプリメント・テクノロジー社)を、単独で、または熱凝集ヒト免疫グロブリンG(50μg/mlの出発溶液を1:250に希釈した5μl)と共に、または増量させていく指示(indicated)ペプチド(250μMストック)と共に、37℃で90分間インキュベートし、PBSで11μlの総体積まで体積を増やした。インキュベーション後、等量のローディングバッファーを全ての試料に添加し、その後煮沸し、8%SDS−PAGEを通じて140ボルトで60分間、電気泳動した。その後、ゲルをニトロセルロースに転写し、PBS中の脱脂粉乳(NFDM)でブロッキングした。ブロットを1:2,000に希釈したC1sに対するヤギポリクローナル抗体(クイデル社(Quidel))でプローブし、PBS/0.1%トウィーン−20で洗浄し、その後に1:10,000に希釈したHRP共役ロバ抗ヤギIRDye680抗体(Li−corバイオサイエンス社(Li-cor Biosciences))が続いて、PBS/0.1%トウィーンで洗浄した。その後、ブロットをバージョン3.0ソフトウェア(Li−corバイオサイエンス社)を用いるOdyssey imagerでイメージングし、酵素前駆体種に対して活性化C1sの特徴であるC1sの重鎖および軽鎖の量から、C1sの活性化を測定した。
【0077】
実施例4:C4活性化試験
C4活性化試験はMallik et al., 2005. J. Med. Chem. 48, 274-286から適応した。Immulon−2、96ウェルプレートのウェルを被膜緩衝液中の50μlの1.0mg/mlオボアルブミン(フィッシャー社(Fisher))で被膜し、4℃で一晩インキュベートした。プレートをPBS/Tで洗浄し、3%BSA/PBSで室温で2時間ブロッキングした。プレートを再度洗浄した後、3%BSA/PBSで1:2,000に希釈したウサギ抗オボアルブミン抗体(ミリポア社)と共に室温で1時間インキュベートした。このインキュベーションの間、ペプチドを10%NHS/GVBS++で0.5mMに希釈し、37℃で15分間インキュベートした。その後プレートを洗浄し、GVBS++で1:4に希釈し予めインキュベートした試料をプレートに添加し、室温で30分間インキュベートした。その後、プレートを洗浄し、3%BSA/PBSで1:2,000に希釈したヤギ抗C4抗体(コンプリメント・テクノロジー社)を1時間加え、その後再度洗浄し、3%BSA/PBSで1:2,000に希釈したロバ抗ヤギIgG−HRP抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社)を1時間加えた。その後、プレートを発色させ、吸光度値を前述のように測定した。
【0078】
実施例5:溶血試験
ペプチドを無希釈のNHSまたはB因子枯渇ヒト血清(コンプリメント・テクノロジー社)で1.4mMまたは0.77mMに希釈し、37℃で1時間インキュベートした。その後、これらのペプチドをGVBS++で希釈して2.5%NHSに等しくし、そのうちの0.25mlを0.4mlのGVBS++および0.1mlの感作ヒツジ赤血球(RBC)と混合し、再び37℃で1時間インキュベートした。手順(procedure)を4.0mlのGVBS−−を添加することにより止めて、1,620×gで5分間遠心し、その上清の吸光度を分光光度計において412nmで測定した。各試料の溶解率をNHSのみの対照の溶解率に対し標準化した。
【0079】
実施例6:B因子枯渇血清中の極性取り合わせペプチドの溶血試験滴定
極性取り合わせペプチドを図7に示されるように無希釈のB因子枯渇ヒト血清(コンプリメント・テクノロジー社)で段階希釈し、37℃で1時間インキュベートした。B因子枯渇血清単独、0.77mMのΔ8−22およびDMSOを対照として含む。その後、これらのペプチドをGVBS++で希釈して2.5%NHSに等しくし、そのうちの0.25mlを0.4mlのGVBS++および0.1mlの感作ヒツジ赤血球(RBC)と混合し、再び37℃で1時間インキュベートした。手順を4.0mlのGVBS−−を添加することにより止めて、1,620×gで5分間遠心し、その上清の吸光度を分光光度計において412nmで測定した。各試料の溶解率をNHSのみの対照の溶解率に対し標準化した。
【0080】
実施例7:統計解析
実験を再現するため、平均値および平均値の標準誤差(SEM)を、当該技術分野において周知の技術(Microsoft Excel XP)を用いて計算した。
【0081】
実施例8:ペプチドオリゴマー形成の質量分析
質量分析前に合成ペプチドを以下の通りにC18 ZipTips(商標)(ミリポア社)で精製した:10μlの70%アセトニトリル(ACN)/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)をZipTipを通して2回ピペッティングし樹脂を濡らし、その後10μlの0.1%TFAで2回洗浄して樹脂を平衡化した。酸性化したペプチド試料をZipTipを通し吸引して5回上げ下げし、ペプチドを樹脂に結合させた。混入物を、ZipTipを通して0.1%TFAを3回ピペッティングすることにより洗浄し、その後、70%ACN/0.1%TFAを用いて結合したペプチドを新しいチューブに溶出させた。ペプチドをスピードバックで乾燥させ、10μlの0.1%TFAに再懸濁させ、その後、分析前に1:4の比で基質(α−シアノ−4ヒドロキシ桂皮酸またはシナピン酸)と混合した。Bruker Daltonics Ultraflex II(商標)MALDI−TOF−TOFを用いて質量分析を行い、データを陽反射モードおよび陽線形モードの両方で得た。
【0082】
実施例9:E23Aペプチドの相同性モデリング
E23Aのアミノ酸配列をCPHmodels3.0サーバー(http://www.cbs.dtu.dk/services/CPHmodels/; Lund et al., 2002. Abstract at the CASP5 conference A102)にアップロードした。プログラムによりE23Aはリョクトウ植物デフェンシン1(VrD1)と配列比較され、それにより、構造モデルを作成するための鋳型およびProtein Data Bank(PDB)座標が得られた。その後、E23AのPDB座標をJMolのFirstGlance、バージョン1.45(http://firstglance.jmol.org)にアップロードして、構造を可視化した。
【0083】
結果
実施例10:CPはC1q結合においてHNP−1ペプチドと競合する
初期の研究によって、組換えバキュロウイルスにより発現されるタンパク質として発現され、昆虫細胞溶解産物から精製されたCPは、効率的にC1qおよびMBLと結合することができ、その結果、古典補体経路およびレクチン補体経路を阻害できることが明らかにされた(Bonaparte et al., 2008, Hair et al., 2010)。それ以前に、ヒト好中球デフェンシン−1(HNP−1)ペプチドは、C1qおよびMBLと結合可能であり、補体の古典経路およびレクチン経路の活性化をそれぞれ調節することが示された(van den Berg et al., 1998. Blood. 92, 3898-3903; Groeneveld et al., 2007. Molec. Immunol. 44, 3608-3614)。CPもこれらの特性を有することを前提として、両タンパク質のアミノ酸配列を分析し、限定的な相同性領域がHNP−1およびWT CPの79〜139番目の残基間に発見した。その後、CPがC1qへの結合においてHNP−1と直接競合することができるかどうかを、HNP−1ペプチドをELISAプレート上に被膜する競合ELISA法を用いて分析した。図1は、CPがC1qへの結合において、ヒト好中球デフェンシン1(HNP−1)と用量依存的に競合することを示すグラフである。一定量の精製C1qおよび増量させていくCPを、同時に加えた。HNP−1に結合した付着C1qを、C1qに対するポリクローナル抗体で検出した。結合C1qのシグナルはCP量が増加するにつれ減少したが、このことは、CPがC1q結合においてHNP−1と用量依存的に競合することを示している(図1、丸として表示)。対照的に、BSAをCPと置き換えた場合、C1qの結合における競合は検出さず(図1、三角として表示)、同様の競合の欠如がアルドラーゼおよび卵アルブミンに見られた(データ未記載)。さらに、HNP−1の代わりにBSAをプレート上に被膜した場合、結合は見られなかった。いかなる理論にも束縛されるものではないが、このデータは、HNP−1およびCPが同等にC1qと結合し、古典経路の活性化を調節すること矛盾しない(Hair et al., 2010. J. Virol. 82, 817-827)。
【0084】
実施例11:C1qへの結合においてWT CPと競合する、HNP−1に対し相同性を有するCPペプチドの同定
CPはC1qへの結合においてHNP−1と効率的に競合するため、CPおよびHNP−1がアミノ酸配列レベルで相同性を共有しているかどうかを分析した。787個のアミノ酸からなるCP分子と30個のアミノ酸からなるHNP−1ペプチドの配列比較をClustal Wを用いて行った(Larkin et al., 2007. Bioinformatics. 23, 2947-2948)。相同性領域をHNP−1およびCP分子の79〜139番目の残基の間に確認した(図2A)。このCP配列がWT CPの補体調節機能を保持しているかどうかを確認するために、CP分子の79〜108番目(CP1)および109〜138番目(CP2)の残基をコードする、30個の残基からなるペプチドを2つ合成した(図2A)。CP1はHNP−1の最初の10残基と並べ、一方、CP2は最後の20残基と並べた。CP1およびCP2のペプチドが、C1qと直接結合し、C1qへの結合においてWT CPと競合可能であるかどうかを確認するために、CP1およびCP2がELISAプレート上に被膜される競合ELISA法を行った。一定量の精製C1qおよび増量させていくWT CPを同時に添加し、その後結合したC1qをC1qに対するポリクローナル抗体で検出した。CPが存在しない場合、C1qはCP1ペプチドにより効率的に結合されるが;CPを増量するにつれてC1qのシグナルは減少し、このことは、C1q結合においてCPがCP1と用量依存的に競合することを示している(図2B、点線で表示)。同じ条件下でBSAをCPと置き換えた場合、CP1はC1qに効率的に結合し、競合は確認されなかった(図2B、三角で表示)。CP1と対照的に、CP2はC1q結合において競合しなかった(図2B、四角で表示)。従って、CPの79〜108番目までの残基で、WT CPと同程度にC1qと結合するのには十分である。
【0085】
実施例12:CPのペプチド誘導体のC1qへの結合
CP1ペプチドのWT CPと同程度にC1qと競合的に結合する能力から、これらの活性に重大な意味を持つペプチド残基が最初に解析されることとなった。上記表1に示すように、親CP1ペプチドを標的アミノ酸置換および大部分欠失させたものを合成した。C04AおよびC27Aを設計し、CP1内の2つのシステイン残基間の推定ジスルフィド結合がC1q結合および補体活性化調節に必要であるかどうかを評価した。E23AおよびE25Aを合成し、これらの負に帯電しているグルタミン酸残基がC1q結合および補体調節に必要であるかどうかを評価した。最後に、8〜22番目の内部残基を除去しているペプチド(Δ8−22)を設計し、HNP−1と相同性を持たないこの領域がC1q結合および補体活性化調節に必要であるかどうかを決定した。このΔ8−22ペプチドは、前記2つのシステインおよび2つのグルタミン酸残基を保持している。
【0086】
これらのペプチドがC1qと結合することができるかどうかを確認するために、種々のペプチド誘導体をELISAプレート上に被膜する結合実験を行った。増量させつつ精製C1qを加え、その後結合したC1qをC1qに対するポリクローナル抗体で検出した。CP1は用量依存的にC1qと結合し(図3A)、C1q結合においてWT CPと競合するその能力と一貫していた(図2B)。CP2はHNP−1と同じレベルでC1qと結合し(図3A)、このことは、このペプチドが、C1q結合においてCPと競合しないが、恐らくHNP−1のC末端の20アミノ酸に対するその相同性の結果として、C1qと結合する能力は保持していることを示している。次に、C04AおよびC27AのC1qへの結合能を分析したところ、両方のペプチドがCP1と同様にC1qと結合した(図3B)。E23AおよびE25AがCP1およびCP2の間のレベルでC1qと結合することが分かり(図3C)、この傾向はΔ8−22ペプチドにも観察された(図3D)。
【0087】
要約すると、全てのCP1誘導体ペプチドはC1qと結合するが、その結合の程度はアミノ酸置換に依存して変化する。いかなる理論にも束縛されるものではないが、システイン(C04およびC27)残基もグルタミン酸(E23およびE25)残基も、どちらもC1q結合においては決定的な役割を担っているようには思われない。さらに、Δ8−22ペプチドは、CP1の15個の内部アミノ酸残基の欠失を有しているが、C1q結合活性をなお保持している。従って、CP1誘導体によって、C1qへの結合がグルタミン酸残基にもシステイン残基にも依存していないことが個々に明らかされ、このことは、ジスルフィド結合による環化(cyclicalization)は必要ないことを示している。
【0088】
実施例13:CP1ペプチドはC1sの活性化を調節する。
精製CPは、C1qと結合し酵素前駆体C1sの切断を阻止することによって、C1の位置(level)で古典経路の活性化を調節することができる(Hair et al., 2010. J. Virol. 82, 817-827)。CP1ペプチドおよびCP2ペプチドがC1活性化も調節可能であるかどうかを評価するために、部分精製されたC1複合体を、CP1およびCP2の量を増加させつつ熱凝集型IgG(古典経路の活性化の強力な刺激物質)と共に37℃で90分間インキュベートした。C1s活性化を評価するために、酵素前駆体C1sの重鎖および軽鎖への切断を検出した。C1単独のインキュベーションはC1sの最小限の自発的活性化を示しただけだが、熱凝集型IgG存在下でのC1は強力なC1sの切断を示した(図4A、レーン1および2)。C1および熱凝集型IgGを、CP1を増量させつつインキュベーションしたところ、自発的なC1活性化で観察されたレベル(図4A、レーン1)まで、C1s切断を用量依存的に抑制した(図4A、レーン3〜6)。CP1とは対照的に、CP2は、試験されたどの濃度においても、C1s切断の有意な調節を示さなかった(図4B、レーン3〜6)。CP1およびCP2対して、それぞれのペプチドに対する2つの独立した実験におけるC1s切断調節のOdyssey imagingによる定量化によって、これらの結果は確認された(図4C〜4D)。CP2はC1qに対し僅かな結合しか示さず(図3A)、C1s切断を調節する能力を示さなかったが(図4Bおよび4D)、CP1とCP2を組み合わせることによって、CP1単独よりもより大きなC1s切断調節がもたらされるかどうかを試験した。一緒のCP1およびCP2は、CP1単独で観察されたもの以上のC1s切断調節をもたらさなかった。ペプチド誘導体のC1qと結合する能力に一貫して、全てのCP1ペプチド誘導体は、CP1で示されたようにC1s活性化を阻害することも分かった(データ未記載)。いかなる理論にも束縛されるものではないが、古典経路の第一成分であるC1で活性化を調節するCP1の能力は、このペプチドが、WT CPと同様に古典経路の活性化を調節することを示している。
【0089】
実施例14:機能分析におけるCPペプチドによる補体活性の調節
機能分析においてペプチド化合物の補体活性化調節能を測定するために、C4活性化試験および溶血試験を用いた。C4活性化試験として、当該技術分野において周知の方法(Mallik et al., 2005. J. Med. Chem. 48, 274-286)を改変して、ELISAプレートをオボアルブミンで被膜し、それに抗オボアルブミン抗体を結合させ、免疫複合体標的を模倣した。その後、種々のペプチド化合物を10%NHS/GVBS++で0.5mMに希釈し、15分間インキュベートした後、各ウェルに添加した。古典経路の活性化(C4)を、抗C4ポリクローナル抗体を用いてC4断片の沈着を検出することによって解析した。図5に示すように、NHS単独、NHS+BSA、およびNHS+DMSOは全て、同様のC4断片の沈着を示したが、一方、WT CPで処理されたNHSはC4活性化を調節した。CP1は35%の阻害効果を示したが、一方CP2はC4活性化に対し効果を与えず、このことはC1s活性化で観察された結果と一貫している(図4)。C04A、C27A、E25A、およびΔ8−22のペプチド化合物は全て、C4の補体活性化を20〜45%阻害した。E23AはC4活性化を強力に90%抑制した。
【0090】
ペプチド化合物による血清中補体活性の調節を、標準的な溶血性補体分析で評価した。ヒツジ赤血球を抗体で感作し、NHSと共にインキュベートし、その際ペプチドのプレインキュベーションはあってもなくてもよく、そして溶血性補体活性を測定した。C4活性化試験とは対照的に、3つの補体経路(典型、レクチンおよび副)全てが存在し、観察された調節活性に寄与した可能性がある。しかし、初期の補体活性化は、赤血球に対する抗体、従って古典経路によって、最初に惹起される。図6Aに示されるように、NHSは、単独またはDMSO存在下で、予想通りに赤血球を溶解させた。CP2は、CP2ペプチドが調節効果を持たなかったC4活性化試験とは対照的に、CP1(66%阻害)と同じようなレベルに溶解を調節した。C04Aは赤血球溶解に対し最小の効果しか持たなかったが、一方C27Aはより阻害的であった(85%阻害)。C4活性化試験で見られた効果と同様に、E23Aは、60%の阻害を有したE25Aと比較して赤血球溶解を効率的に阻害(85%阻害)した。Δ8−22ペプチド化合物は赤血球溶解を75%阻害した。
【0091】
本ペプチドが副経路の活性化を調節するかどうかを試験するために、最小限の阻害しかNHSで生じないように、プレインキュベーション中に用いる血清の量を増加させて、効率的に試験ペプチドの濃度を0.77mMまで低下させた(図6B)。次に、古典経路単独に対する本ペプチドの調節活性を、溶血試験においてB因子枯渇血清を用い、同量のペプチドおよび血清を使用することで、評価した(図6B)。NHSで見られた調節欠如とは対照的に、親ペプチドCP1は、B因子枯渇血清中で補体古典経路の活性化を調節した。さらに、ペプチド化合物E23A、E25A、およびΔ8−22は、補体古典経路の活性化を有意に調節した。いかなる理論にも束縛されるものではないが、より大量の血清においては、副経路がより効率的に活性化され始め、いくつかのペプチドが、補体活性化全体ではないが古典経路の活性化を効率的に調節し続け、このことは、副経路が溶血を媒介していることを示している。図5および6の調節活性の比較は、E23Aが優良な補体調節を及ぼすことを示している。
【0092】
極性取り合わせペプチドは、NHSおよびB因子枯渇血清での溶血試験において古典経路活性の有意な調節を最初に示した(データ未記載)。このペプチドの古典経路に対する調節活性をさらに調査するために、極性取り合わせペプチドの希釈をB因子枯渇血清で行った。NHS単独およびDMSOビヒクルで見られた調節欠如とは対照的に、極性取り合わせペプチドは、Δ8−22よりも有意に優って古典経路の活性化を用量依存的に調節した(図7、0.77mMのΔ8−22と0.77mMの極性取り合わせを比較せよ)。
【0093】
実施例15:CPペプチドは高次構造にオリゴマー形成しない
CPペプチドの特性をさらに明らかにするために、これらの化合物が二量体、三量体等の高次構造にオリゴマー形成できるかどうかを評価した。CPペプチドのオリゴマー化を評価するために、線形および反射モードのMALDI−TOF−TOF質量分析で、表1の7種類のCPペプチド全てを分析した。両方のモードにおいて、全てのペプチドが、主要なピークを持たず、試験ペプチドの理論的質量よりも大きな質量電荷比(m/z)を保有する単量体であることが分かった。図8A〜8Bは、線形モードおよび反射モードの両方をそれぞれ示している。線形モードは反射モードよりもより低い分解能であったが、両方のモードによって、E23Aが明らかな高次ピークを他に持たない単量体であることが示された。
【0094】
実施例16:植物デフェンシンVrD1との相同性に基づくE23Aの構造モデル
E23Aを古典経路活性化の非常に強力な調節物質とする同定を前提として、E23Aペプチドの構造モデルを作製した。E23Aのアミノ酸配列をCPHmodels−3.0サーバーにアップロードした。このプログラムはタンパク質相同性モデリングの情報源(resource)であり、そこで、鋳型認識は二次構造によって導かれるプロファイル‐プロファイル配列比較(profile-profile alignment)および曝露(exposure)予測に基づいている(Lund et al., 2002. Abstract at the CASP5 conference A102)。CPおよびHNP−1間の上述した相同性と一貫して、CPHmodels3.0はE23Aの2〜29番目の残基を、植物デフェンシン、リョクトウ植物デフェンシン1(VrD1)の46残基のうち17〜44番目の残基に対し配列比較した(図9A)。VrD1の核磁気共鳴溶液構造(Liu et al., 2006. Proteins. 63, 777-786)に基づいて、E23AのモデルをCPHmodels3.0によって作製し、JMolのFirstGlanceに表示した(図9B)。図9Aは、11残基のN末端αヘリックスと、それに続く2つの逆平行βストランドを示している。αヘリックスおよびβストランドは、2本の、3〜5残基の不規則なループによって連結されている。2つのシステイン残基は、αヘリックスと2つ目のβストランド間でジスルフィド結合を形成していることが示され(細い円柱として表示)、これは全体構造を安定化させるのに機能し得る。
【0095】
理論的なペプチド化合物設計
実施例17:CP1のペプチド類似体の合成
CP1のペプチド類似体は商業的に合成されている。その後、これらの改変ペプチドを、当該技術分野において周知の結合実験において、C1qおよびMBLとの相互作用について解析する(Hair et al., 2010. Molec. Immunol. 47, 792-798).)。これらの解析について以下に簡潔に説明する。
【0096】
実施例18:C1q結合
CPペプチド類似体を種々の濃度でマイクロタイタープレート上に被膜し、それらの精製C1q(コンプテック社(CompTech))との結合能について解析する。C1q結合を、抗C1qモノクローナル抗体(クイデル社(Quidel))と、続くロバ抗マウスHRP(サンタクルーズ・バイオテック社(Santa Cruz Biotech))で検出する。次に、プレートをテトラメチルベンジジン(tetramethyl benzindine)で発色させ、反応をH2SO4で終了させ、吸光度を450nmで測定する。C1q結合の正の対照はCP1から成り、一方負の対照はBSAである。各ペプチドの結合の初期条件を決定し、その後ペプチドの連続希釈を3連で行って、以前報告されたように(Hair et al., 2010. Molec. Immunol. 47, 792-798)、統計的有意性を決定し、最大半量結合値(half-maximal binding value)を計算する。最大半量結合値を用いて、各ペプチド類似体の相対結合親和性を評価する。
【0097】
実施例19:MBL結合
MBL結合を上述のC1q結合実験と同様に行う。精製ヒトMBLおよびヤギ抗MBL血清、続いてロバ抗ヤギHRPを、MBLの検出のために使用する。再度、最大半量結合値を計算し、ペプチド化合物間で比較する。
【0098】
機能分析において、CPペプチド誘導体のC1およびMBLの活性化を阻害する能力を試験した。機能分析において、C1qおよびMBLに特異的に結合するCPペプチド類似体を、それらの古典経路およびレクチン経路の活性化を阻害する能力について評価する。C1およびMBLの阻害についての特異性試験に加えて、抗体惹起補体活性化試験(antibody-initiated complement activation assay)を使用して、ヒトおよびラット両方の血清中のペプチド類似体のIC50値を決定する。これにより、ペプチドの相対機能活性の直接的な比較が可能となる。
【0099】
実施例20:C1活性化試験
ペプチド化合物を、C1s免疫ブロット切断試験において、C1活性化を阻害するそれらの能力について解析する。C1(コンプテック社)および熱凝集型IgGを、増量させていくペプチドと共にインキュベートする。C1sを、Odyssey赤外線撮像系(Li−Corバイオサイエンス社)での分析のために、C1sに対するヤギポリクローナル抗体(クイデル社)と、続く赤外色素標識ロバ抗ヤギ抗体(Li−Corバイオサイエンス社)で検出する。熱凝集型IgG非存在下または存在下のC1は、それぞれC1s切断の負の対照および正の対照として各ブロット上に含まれる。種々のCPペプチドによるC1s切断の阻害の程度を比較するために、Odyssey3.0ソフトウェアを用いてC1sの重鎖および軽鎖をC1s前駆物質に対して定量化し、C1活性化の百分率を決定する。CP1+熱凝集型IgGはC1s切断阻害の正の対照として機能し、必要ならば、実験間の値を標準化するためにも使用することができる。
【0100】
実施例21:MBL活性化試験
市販のMBL活性化試験(ハイカルト社(HyCult))を使用し(Hair et al., 2010. Molec. Immunol. 47, 792-798)、CPペプチド類似体を評価した。正常ヒト血清(NHS)を増量させていく前記ペプチドと共にインキュベートし、市販キットを用いてレクチン経路阻害について評価した。NHS単独はレクチン活性化の正の対照として機能し、一方、熱不活性化NHSは活性化の負の対照として機能する。レクチン経路活性化の阻害を明らかにするためにNHS+CPを対照として用いる。
【0101】
あるいは、当該技術分野において周知のレクチン活性化試験(Groeneveld et al., 2007. Molec. Immunol. 44, 3608-3614)を用いて、ペプチド化合物を評価した。
【0102】
実施例22:抗体惹起血清中補体活性化試験
CP1の阻害活性とそのペプチド類似体を直接的に比較するために、抗体惹起血清中補体活性化試験を用いた。この試験はJohn Lambris博士および共同研究者(ペンシルバニア大学)がコンプスタチンおよびその類似体のIC50値を算出するために使用したプロトコールを改変したものである(Mallik et al., 2005. J. Med. Chem. 48, 274-286)。補体活性化阻害を、NHS中のオボアルブミン‐抗オボアルブミン複合体への血清C4固定の阻害を測定することで評価する。マイクロタイター(microtiter)のウェル(well)をオボアルブミン(10mg/ml)で被膜する。次に、ウェルをBSA(10mg/ml)で室温で1時間飽和させ、1:2,000希釈のウサギ抗オボアルブミン抗体を加えて免疫複合体を形成させることで、補体を活性化することができる。次に、種々の濃度のペプチドを各ウェルに直接添加し、続いてGVB++で1:80に希釈したNHSを添加する。30分インキュベートした後、1:2,000希釈のヤギ抗C4抗体と、続く1:2,500希釈のロバ抗ヤギHRP二次抗体を用いて、結合したC4を検出する。次に、プレートをテトラメチルベンジジン(tetramethyl benzindine)で発色させ、反応をH2SO4で終了させ、吸光度を450nmで測定する。阻害率を、100%の活性化がペプチド非存在下で起こる活性化と等しいと見なして標準化する。活性化の負の対照として熱不活性化NHSを使用する。活性化阻害の対照としてNHS+CP1を用いる。
【0103】
ペプチド濃度に対して阻害率をプロットして、選択されたペプチド化合物のIC50値を決定する。CPは古典経路およびレクチン経路を介してC4活性化を阻害し、CPの副経路の活性化に対する効果はごく僅かであった(Bonaparte et al., 2008. J. Virol. 82, 817-827, Hair et al., 2010. Molec. Immunol. 47, 792-798)。基準としてCP1を用いることで、全てのペプチド化合物の相対的な阻害活性はこのように直接的に測定される。
【0104】
正常ラット血清(NRS)中のCPペプチドのIC50値を測定する。野生型CPおよびCP1は、NRS中の抗体惹起補体活性化を抑制することが示されている(Hair et al., 2010. Molec. Immunol. 47, 792-798)。NRS中のペプチド化合物のIC50値の決定は、ラットにおける投与量決定実験に非常に重要である。
【0105】
他の態様、変態、および実施形態は、以下の請求項の範囲内である。
【0106】
参考文献:
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図1
図2
図3(A)】
図3(B)】
図3(C)】
図3(D)】
図4
図5
図6
図7
図8(A)】
図8(B)】
図9(A)】
図9(B)】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]