特許第6033780号(P6033780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6033780内分泌障害、胃腸障害または自己免疫障害を処置するための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033780
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】内分泌障害、胃腸障害または自己免疫障害を処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20161121BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20161121BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20161121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161121BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20161121BHJP
   C07K 14/605 20060101ALN20161121BHJP
   A61K 48/00 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   A61K35/74 A
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61P43/00 105
   !C12N15/00 A
   !C07K14/605
   !A61K48/00
【請求項の数】16
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2013-534008(P2013-534008)
(86)(22)【出願日】2011年10月13日
(65)【公表番号】特表2013-540445(P2013-540445A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】US2011056174
(87)【国際公開番号】WO2012051431
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2014年10月10日
(31)【優先権主張番号】61/539,121
(32)【優先日】2011年9月26日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/393,618
(32)【優先日】2010年10月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508057896
【氏名又は名称】コーネル・ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】CORNELL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マーチ, ジョン シー.
(72)【発明者】
【氏名】デュアン, ファピング
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/126719(WO,A2)
【文献】 Appl. Environ. Microbiol.,2008年12月,Vol.74, No.23,p.7437-7438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーター、および哺乳動物宿主の腸上皮細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングすることができるシグナルタンパク質またはペプチドをコードするコード配列を含む組換え乳酸桿菌属細菌であって、ここで、
記プロモーターおよび前記シグナルタンパク質またはペプチドをコードするコード配列が、配列番号19を含む、
組換え乳酸桿菌属細菌
【請求項2】
糖尿病を処置するための、請求項1に記載の組換え乳酸桿菌属細菌を含む組成物。
【請求項3】
1型糖尿病、2型糖尿病またはメタボリックシンドロームから選択される疾患を処置するための、請求項1に記載の組換え乳酸桿菌属細菌を含む組成物。
【請求項4】
哺乳動物宿主において腸上皮細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に分化させるための、請求項1に記載の組換え乳酸桿菌属細菌を含む組成物。
【請求項5】
前記組換え乳酸桿菌属細菌の量が、前記宿主の体重1kgあたり少なくとも約10CFUであるように、前記組成物が投与される、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組換え乳酸桿菌属細菌の量が、1日あたり少なくとも約5g〜約15gまたは1日あたり少なくとも約50mg〜約150mgであるように、前記組成物が投与される、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記宿主が高血糖性であり、前記組成物を前記高血糖性宿主に投与することにより外因性インスリンを前記宿主に治療的に投与する必要性が低下するか、または排除される、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
2型糖尿病またはメタボリックシンドロームを処置するための組成物であって、前記組成物は、プロモーター、およびシグナルタンパク質またはペプチドをコードするコード配列を含む組換え乳酸桿菌属細菌を含み、ここで、前記シグナルタンパク質またはペプチドは、分泌タグおよびGLP−1(1〜37)を含み、前記シグナルタンパク質またはペプチドは、哺乳動物宿主の腸上皮細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングすることができる、組成物。
【請求項9】
前記組換え乳酸桿菌属細菌が、配列番号19を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
前記プロモーターが、SlpAプロモーターである、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
前記分泌タグが、USP45配列およびLEEISS配列を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組換え乳酸桿菌属細菌の量が、前記宿主の体重1kgあたり少なくとも約10CFUであるように、前記組成物が投与される、請求項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組換え乳酸桿菌属細菌の量が、1日あたり少なくとも約5g〜約15gまたは1日あたり少なくとも約50mg〜約150mgであるように、前記組成物が投与される、請求項に記載の組成物。
【請求項14】
プロモーター、および哺乳動物宿主の腸上皮細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングすることができるシグナルタンパク質またはペプチドをコードするコード配列を含む組換え乳酸桿菌属細菌を含む組成物であって、ここで、
前記プロモーターがSlpAプロモーターであり、前記シグナルタンパク質またはペプチドがGLP−1(1〜37)である、
組成物。
【請求項15】
前記シグナルタンパク質またはペプチドが、分泌タグをさらに含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記分泌タグが、USP45分泌タグおよびLEEISS分泌タグを含む、請求項15に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、同時係属中の2010年10月15日に出願された米国仮特許出願第61/393,618号、および2011年9月26日に出願された同第61/539,121号(これらの各々は、それらの全体が参考として本明細書に援用される)に対する優先権およびそれらの利益を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
該当せず
1.技術分野
本発明は、概して、内分泌障害、胃腸障害または自己免疫障害を処置するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2.発明の背景
真性糖尿病は、高血糖;脂質、炭水化物およびタンパク質の代謝の変更;ならびに血管疾患による合併症の危険度の上昇によって特徴付けられる疾患である。糖尿病は、年齢の上昇および肥満の増加の両方に伴うので、ますます増加している公衆衛生問題である。
【0004】
2種類の主要な糖尿病がある:1)インスリン依存性糖尿病(IDDM)としても公知であるI型、および2)インスリン非依存性(insulin independent)またはインスリン非依存性(non−insulin dependent)糖尿病(NIDDM)としても公知であるII型。どちらの種類の真性糖尿病も、循環インスリンの量が不十分であること、および末梢組織のインスリンに対する応答が減少することに起因する。
【0005】
I型糖尿病は、体の細胞を「開き」、グルコースの進入を可能にし、細胞に燃料を供給するホルモンであるインスリンを体が産生することができないことに起因する。I型糖尿病の合併症としては、心疾患および脳卒中;網膜症(眼疾患);腎疾患(腎症);ニューロパチー(神経損傷);ならびに良好な皮膚、足および口の健康の維持が挙げられる。
【0006】
II型糖尿病は、体が十分なインスリンを産生することができないこと、または、体によって自然に産生されるインスリンを細胞が使用することができないことに起因する。体がインスリンを最適に使用することができない状態は、インスリン抵抗性と称されている。II型糖尿病は、多くの場合、高血圧を伴い、これが心疾患の一因となり得る。II型真性糖尿病の患者では、ストレス、感染症、およびコルチコステロイドなどの)薬物によっても血糖レベルが激しく上昇し得る。脱水を伴い、II型糖尿病の患者における激しい血糖の上昇により、血液重量オスモル濃度が上昇し得る(高浸透圧状態)。この状態は昏睡に至る可能性がある。
【0007】
インスリンは、筋肉および脂肪組織によるグルコースの取り込みおよび代謝を刺激することによって血液中のグルコースの濃度を低減させる。インスリンは、グルコースの、肝臓におけるグリコーゲンとしての貯蔵、および脂肪組織におけるトリグリセリドとしての貯蔵を刺激する。インスリンは、また、筋肉におけるグルコースのエネルギーとしての利用を促進する。したがって、血液中のインスリンレベルが不十分であること、またはインスリンに対する感度の低下により、血液中に過剰に高レベルのグルコースおよびトリグリセリドが生じる。
【0008】
未治療真性糖尿病の初期の症状は血糖レベルの上昇、および尿中のグルコースの損失に関連づけられる。尿中の多量のグルコースにより、尿量の増加が引き起こされ、脱水に至る可能性がある。脱水により、口渇および水の消費の増加が引き起こされる。グルコースエネルギーを利用することができないことにより、最終的に、食欲は増加するにもかかわらず体重が減少する。一部の未治療糖尿病患者は、疲労、悪心、および嘔吐も訴える。糖尿病の患者では、膀胱、皮膚、および膣の領域の感染症が発生しやすい。血中グルコースレベルのゆらぎにより霧視が導かれ得る。グルコースレベルの極端な上昇により嗜眠および昏睡(糖尿病性昏睡)が導かれ得る。
【0009】
グルコースレベルが正常と糖尿病の間である人は耐糖能障害(IGT)を有する。この状態は、糖尿病前症またはインスリン抵抗性シンドロームとも称される。IGTの人は糖尿病を有さないが、正常よりは高いが糖尿病と診断されるほどは高くない血中グルコースレベルを有する。彼らの体はますますインスリンを作るが、組織はそれに応答しないので、彼らの体は糖を適正に使用することができない。最近の試験により、IGT自体が心疾患発生の危険因子である可能性があることが示された。糖尿病前症の人は正常な血中グルコースを有する人と比較して1.5倍の心臓血管疾患の危険度を有すると推定されている。糖尿病の人は心臓血管疾患の危険度が2〜4倍上昇する。
【0010】
グルコースおよびトリグリセリドの血中レベルが高いことにより、毛細血管基底膜の肥厚が引き起こされ、その結果、血管腔の進行性の狭小化がもたらされる。血管病変(vasculopathology)により、糖尿病性網膜症などの状態が生じ、それにより、失明、冠動脈心疾患(coronary heart disease)、毛細管内糸球体硬化症、ニューロパチー、ならびに四肢の潰瘍および壊疽がもたらされる恐れがある。
【0011】
グルコースの血漿レベルが過剰であることの毒作用としては、細胞および組織のグリコシル化が挙げられる。グリコシル化産物は組織内に蓄積し、最終的に、架橋したタンパク質を形成する可能性があり、架橋したタンパク質は終末糖化産物と称される。非酵素的グリコシル化が血管マトリックスの拡大および糖尿病の血管合併症に直接関与する可能性がある。例えば、コラーゲンのグリコシル化により、過剰な架橋がもたらされ、その結果、アテローム硬化性血管が生じる。また、グリコシル化されたタンパク質がマクロファージに取り込まれることにより、これらの細胞による炎症促進性サイトカインの分泌が刺激される。サイトカインは、間葉細胞および内皮細胞における、それぞれ分解カスケードおよび増殖カスケードを活性化または誘導する。
【0012】
ヘモグロビンのグリコシル化により、血糖状態の統合指標を決定するための都合のよい方法がもたらされる。グリコシル化されたタンパク質のレベルは、ある期間にわたるグルコースのレベルを反映し、ヘモグロビンA1(HbA1c)アッセイと称されるアッセイの基礎になっている。
【0013】
HbA1cは、過去120日間の血中グルコースレベルの加重平均を反映し、過去30日間の血漿グルコースがHbA1cアッセイの最終的な結果に約50%寄与する。A1c(HbA1c、グリコヘモグロビン、または糖化ヘモグロビンとしても公知である)の検査により、ここ数ヶ月にわたって糖尿病がいかによく制御されたかが示される。A1cが6%に近いほど、糖尿病がよりよく制御されている。A1c血中グルコースが30mg/dl増加するごとに、A1cが1%上昇し、合併症の危険度が増す。
【0014】
高血糖症の毒作用についての別の説明としてはソルビトールの形成が挙げられる。細胞内のグルコースは、酵素であるアルドース還元酵素により、その対応する糖アルコールであるソルビトールに還元され、ソルビトールの産生の速度は周囲のグルコース濃度によって決定される。したがって、水晶体、網膜、動脈壁および末梢神経のシュワン細胞などの組織は高濃度のソルビトールを有する。
【0015】
高血糖症はまた、グルコースはミオイノシトールと競合し、その結果、細胞濃度が低下し、したがって、神経の機能の変更およびニューロパチーがもたらされるので、神経組織の機能も害する。
【0016】
トリグリセリドレベルの上昇も、インスリン欠乏の結果である。トリグリセリドレベルが高いことは、血管疾患にも関連づけられる。
【0017】
したがって、血中グルコースおよびトリグリセリドレベルを制御することは、望ましい治療的目標である。いくつもの経口抗高血糖作用剤が公知である。膵臓によるインスリンの産出量を増加させる薬物としては、スルホニル尿素系(クロルプロパミド[Orinase(登録商標)]、トルブタミド[Tolinase(登録商標)]、グリブリド[Micronase(登録商標)]、グリピジド[Glucotrol(登録商標)]、およびグリメピリド[Amaryl(登録商標)]を含む)およびメグリチニド(レパグリニド(reparglinide)[Prandin(登録商標)]およびナテグリニド[Starlix(登録商標)]を含む)が挙げられる。肝臓により産生されるグルコースの量を減少させる薬物としては、ビグアナイド系化合物(メトホルミン[Glucophage(登録商標)]を含む)が挙げられる。インスリンに対する細胞の感度を上昇させる薬物としては、チアゾリジンジオン(thazolidinedione)(トログリタゾン[Resulin(登録商標)]、ピオグリタゾン[Actos(登録商標)]およびロシグリタゾン[Avandia(登録商標)]を含む)が挙げられる。腸からの炭水化物の吸収を減少させる薬物としては、アルファグルコシダーゼ阻害剤(アカルボース[Precose(登録商標)]およびミグリトール[Glyset(登録商標)]を含む)が挙げられる。ピオグリタゾンおよびロシグリタゾンは、糖尿病患者のコレステロールパターンを変化させることができる。これらの薬物に対してHDL(または善玉コレステロール)が増加する。アカルボースは、腸で働き、その作用は、スルホニル尿素系などの他の部位で働く糖尿病薬物に対して相加的である。高血圧症または糖尿病の人において高血圧を制御するため、心不全を処置するため、および腎損傷を予防するために、ACE阻害剤を使用することができる。ACE阻害剤またはACE阻害剤と利尿薬の配合剤、例えば、ヒドロクロロチアジド(hydrochlorothazide)などが販売されている。しかし、これらの治療薬はどれも、多くの副作用を伴い短期治療が提起されるので、理想的ではない。
【0018】
血圧を制御することにより、心臓血管疾患(例えば、心筋梗塞および脳卒中)をおよそ33%〜50%減らすことができ、また、微小血管疾患(眼、腎臓、および神経の疾患)をおよそ33%減らすことができる。疾病予防管理センター(Center for Disease Control)は、収縮期血圧が水銀(mmHg)が10ミリメートル低下するごとに、糖尿病に関連する任意の合併症に対する危険度が12%低下することを見いだした。コレステロールおよび脂質(例えば、HDL、LDL、およびトリグリセリド)の制御を改善することにより、心血管系合併症を20%〜50%減らすことができる。
【0019】
健康なヒトでは、総コレステロールは200mg/dl未満であるべきである。高密度リポタンパク質(HDLまたは「善玉」コレステロール)の標的レベルは、男性では45mg/dl超、女性では55mg/dl超であり、一方、低密度リポタンパク質(LDLまたは「悪玉」コレステロール)は、100mg/dl未満に維持されるべきである。女性および男性の標的トリグリセリドレベルは150mg/dl未満である。
【0020】
糖尿病の患者のおよそ50%において、糖尿病になって10年後にある程度の糖尿病性網膜症が発生し、糖尿病患者の80%が、15年後に網膜症を有する。
【0021】
国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)(NIDDK)により行われた試験(DCCT試験)により、血中グルコースレベルをできるだけ正常に近く維持することにより、糖尿病によって引き起こされる眼疾患、腎臓疾患、および神経疾患の発症および進行が遅くなることが示された。
【0022】
糖尿病予防プログラム(Diabetes Prevention Program)(DPP)臨床試験では、2型糖尿病患者が試験された。DPP試験では、3年間の試験にわたって、食事および運動により、IGTの人に糖尿病が発生する可能性が急激に低下することが見いだされた。メトホルミン(Glucophage(登録商標))を投与することによっても、それほど劇的にではないが、危険度が低下した。
【0023】
DCCT試験により、HbA1cと平均血中グルコースの間の相関が示された。DPP試験により、HbA1cが有害な転帰の危険度と強く相関することが示された。
【0024】
米国心臓学会予防会議(American Heart Association’s Prevention Conference)VI:糖尿病および心臓血管疾患(Diabetes and Cardiovascular Disease)からの一連の報告では、糖尿病の人の約3分の2が、最終的に心疾患または血管疾患で死亡することが報告された。この試験により、糖尿病に伴う心臓血管疾患の危険度の上昇は、個体の危険因子、例えば、肥満、高コレステロール、および高血圧などを制御することによって軽減することができることも示された。
【0025】
糖尿病に罹患している人にとっては、心臓血管疾患、網膜症、腎症、およびニューロパチーなどの合併症の危険度を低下させることが重要である。糖尿病患者にとっては、総コレステロールおよびトリグリセリドレベルを低下させて、心血管系合併症を減少させることも重要である。これらの可能性のある合併症の危険度を低下させることは、IGTに罹患している人(前糖尿病患者)にとっても重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
したがって、血中グルコースレベルを制御することができれば、心臓血管疾患、網膜症、腎症、およびニューロパチーなどの合併症の危険度を低下させること、またはそれらの発症を遅延させることができる。総コレステロールおよびトリグリセリドレベルを低下させることができれば、心血管系合併症を減少させることができる。
【0027】
セクション2または本出願の任意の他のセクションの任意の参照の引用または同定は、そのような参照が本発明に対する先行技術として利用可能であると容認するものとみなされるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0028】
3.発明の概要
組換え細胞が提供される。一実施形態では、組換え細胞は、シグナル配列およびプロモーターを含み、
a.シグナル配列は、宿主における標的核酸のシグナル依存性発現を調節し、
b.組換え細胞は腸内細菌または共生細菌に由来し、
c.シグナル配列は、GLP−2、その断片、もしくはその類似体、またはそれらの組合せである。
【0029】
別の実施形態では、組換え細胞は、シグナル配列およびプロモーターを含み、
a.シグナル配列は、宿主における標的核酸のシグナル依存性発現を調節し、
b.組換え細胞は腸内細菌または共生細菌に由来し、
c.標的核酸は、宿主の第1の細胞を第2の細胞に再プログラミングすることができる哺乳動物因子をコードする。
【0030】
別の実施形態では、宿主は哺乳動物である。
【0031】
別の実施形態では、第2の細胞は、β様細胞、甲状腺細胞、肝細胞または免疫応答性細胞である。
【0032】
別の実施形態では、宿主の第1の細胞は、腸上皮細胞である。
【0033】
別の実施形態では、第2の細胞は、グルコース応答性インスリン分泌細胞である。
【0034】
別の実施形態では、シグナル配列は、環境刺激に応答して標的核酸のシグナル依存性発現を調節する。
【0035】
別の実施形態では、プロモーターは、グルコース応答性プロモーターである。
【0036】
別の実施形態では、プロモーターは、当技術分野で公知の任意の誘導性プロモーターまたは構成的プロモーターであってよい。
【0037】
別の実施形態では、シグナル配列は、GLP−1、GIP、PDX−1、1つまたは複数のその断片、その類似体、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
【0038】
別の実施形態では、シグナル配列は、GLP−1、PDX−1、GIP、GLP−2、インスリン、成長ホルモン、プロラクチン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、副甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、甲状腺刺激ホルモン、血管作動性腸管ポリペプチド、トレフォイルファクター(trefoil factor)、細胞および組織修復因子(cell and tissue repairfactor)、トランスホーミング増殖因子β、ケラチノサイト成長因子;逆平行4αヘリックス束構造をとる構造的第1群サイトカインであるIL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、GM−CSF、M−CSF、SCF、IFN−γ、EPO、G−CSF、LIF、OSM、CNTF、GH、PRL、IFNα/β;構造的第2群サイトカインであるTNF−ファミリーサイトカイン、TNFα、TNFβ、CD40、CD27、FASリガンド、IL−1−ファミリーサイトカイン、線維芽細胞成長因子、血小板由来増殖因子、トランスホーミング増殖因子p、神経成長因子;短鎖α/β分子を含む構造的第3群サイトカインである上皮成長因子ファミリーサイトカイン、C−CケモカインまたはC−X−Cケモカイン、インスリン関連サイトカイン;構造的第4群サイトカインであるヘレグリン(heregulin)、ニューレグリン(neuregulin)、EGF、免疫グロブリン様ドメイン、クリングルドメイン(kringle domain);1つまたは複数のその断片、その類似体、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される。
【0039】
別の実施形態では、シグナル配列およびプロモーターは組換え細胞内のプラスミドにコードされている。
【0040】
別の実施形態では、細胞はプロバイオティクス細菌(probiotic bacterium)に由来する。
【0041】
別の実施形態では、細胞は、エシェリキア属、シュードモナス属、バクテロイデス属、乳酸桿菌属、ラクトコッカス属(Lactococcus)、バチルス属、プロテウス属、ビフィドバクテリウム属、連鎖球菌属、ブドウ球菌属、およびコリネバクテリウム属からなる群より選択される細菌である。
【0042】
別の実施形態では、標的核酸は、宿主における生理的プロセスの所望の機能を促進することができる、または、宿主における非感染性の疾患を処置することができる哺乳動物因子をコードする。
【0043】
別の実施形態では、非感染性の疾患は、自己免疫疾患、癌、内分泌疾患、胃腸癌およびそれらの組合せからなる群より選択される。
【0044】
別の実施形態では、非感染性の疾患は糖尿病である。
【0045】
別の実施形態では、糖尿病は1型糖尿病、2型糖尿病またはメタボリックシンドロームである。
【0046】
別の実施形態では、非感染性の疾患は、クローン病、肥満症、フェニルケトン尿症、カエデシロップ病、ヒスチジン血症、高血糖症、糖尿病性網膜症、冠動脈心疾患、毛細管内糸球体硬化症、腎症、ニューロパチー、四肢の潰瘍または壊疽、アテローム性動脈硬化症、高コレステロール血症、高血圧、高タンパク血症、タンパク尿症、骨粗鬆症、貧血、高リポタンパク血症、ケトアシドーシス、高トリグリセリド血症、乳酸アシドーシス、心筋症、ウィルソン病、白質ジストロフィー、フコース蓄積症、癌、化学療法誘導性下痢、炎症性腸疾患、心室細動および心房細動、術後臓器不全、過敏性腸症候群、間質性膀胱炎/膀胱疼痛症候群(bladder pain syndrome)、短腸症候群、潰瘍性大腸炎、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される。
【0047】
別の実施形態では、癌は胃腸癌、胃癌、胆嚢癌、消化管間質腫瘍、肝臓癌、膵癌、または結腸癌である。
【0048】
別の実施形態では、哺乳動物因子は、腸の傷害または外科手術後の生理的プロセスの所望の機能を促進する。
【0049】
別の実施形態では、組換え細胞は、宿主の体循環内に吸収されることなく腸絨毛に到達することができる。
【0050】
別の実施形態では、プロモーターは、誘導性プロモーターまたは構成的プロモーターである。
【0051】
別の実施形態では、プロモーターは、fliCプロモーターである。
【0052】
別の実施形態では、組換え細胞は、分泌タグをさらに含む。
【0053】
別の実施形態では、分泌タグはfliC分泌タグである。
【0054】
別の実施形態では、分泌タグはアルファ溶血素(HlyA)分泌タグである
別の実施形態では、組換え細胞は、細胞透過性ペプチド(CPP)配列をさらに含む。
【0055】
別の実施形態では、組換え細胞は、シグナル配列を、シグナル配列にコードされるシグナルおよび細胞透過性ペプチド配列にコードされる細胞透過性ペプチドを含む融合タンパク質として発現する。
【0056】
宿主における糖尿病を処置するための方法も提供され、この方法は、宿主に、シグナル配列およびプロモーターを含む組換え細胞を投与するステップを含み、
a.シグナル配列は、宿主における標的核酸のシグナル依存性発現を調節し、
b.組換え細胞は腸内細菌または共生細菌に由来し、
c.標的核酸は、宿主の第1の細胞を第2の細胞に再プログラミングすることができる哺乳動物因子をコードする。
【0057】
一実施形態では、標的シグナル配列は、疾患予防因子の発現を刺激する、または糖尿病の原因因子の発現を阻害する。
【0058】
別の実施形態では、糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病またはメタボリックシンドロームである。
【0059】
別の実施形態では、シグナル配列は、環境刺激に応答して標的核酸のシグナル依存性発現を調節する。
【0060】
別の実施形態では、環境刺激はグルコースである。
【0061】
別の実施形態では、疾患予防因子はインスリンを含む。
【0062】
別の実施形態では、標的核酸は、宿主における血中グルコースレベルの低下を促進する哺乳動物因子をコードする。
【0063】
別の実施形態では、標的核酸は、宿主における血中インスリンレベルの上昇を促進する哺乳動物因子をコードする。
【0064】
哺乳動物宿主において腸の細胞を別の細胞型に分化させるための方法であって、宿主に、シグナル配列およびプロモーターを含む組換え細胞を投与するステップを含み、
a.シグナル配列は、宿主における標的核酸のシグナル依存性発現を調節し、
b.組換え細胞は腸内細菌または共生細菌に由来し、
c.標的核酸は、宿主の第1の細胞を第2の細胞に再プログラミングすることができる哺乳動物因子をコードする方法。
【0065】
別の実施形態では、別の細胞型は、β様細胞、甲状腺細胞、肝細胞または免疫応答性細胞である。
【0066】
別の実施形態では、β様細胞は、グルコース応答性細胞である。
【0067】
別の実施形態では、組換え細胞を有効量で投与する。
【0068】
別の実施形態では、組換え細胞の有効量は少なくとも約10CFU/kgである。
【0069】
別の実施形態では、組換え細胞を、相乗効果を有する化合物と組み合わせて投与する。
【0070】
別の実施形態では、相乗効果を有する化合物は、DPP−4阻害剤、GLP−2、GLP−1アゴニスト、ジメチルスルホキシド、インスリン、アルファ−グルコシダーゼ阻害剤、プラムリンチド、メグリチニド、レパグリニド、ナテグリニド、クロルプロパミド、メトホルミン、スルホニル尿素、グリピジド、グリブリド、グリメピリド、チアゾリジンジオン、その類似体、その断片、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
【0071】
別の実施形態では、シグナル配列は、GLP−1、PDX−1、GIP、GLP−2、インスリン、成長ホルモン、プロラクチン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、副甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、甲状腺刺激ホルモン、血管作動性腸管ポリペプチド、トレフォイルファクター、細胞および組織修復因子、トランスホーミング増殖因子β、ケラチノサイト成長因子;逆平行4αヘリックス束構造をとる構造的第1群サイトカインであるIL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、GM−CSF、M−CSF、SCF、IFN−γ、EPO、G−CSF、LIF、OSM、CNTF、GH、PRL、IFNα/β;構造的第2群サイトカインであるTNF−ファミリーサイトカイン、TNFα、TNFβ、CD40、CD27、FASリガンド、IL−1−ファミリーサイトカイン、線維芽細胞成長因子、血小板由来増殖因子、トランスホーミング増殖因子p、神経成長因子;短鎖α/β分子を含む構造的第3群サイトカインである上皮成長因子ファミリーサイトカイン、C−CケモカインまたはC−X−Cケモカイン、インスリン関連サイトカイン;構造的第4群サイトカインであるヘレグリン、ニューレグリン、EGF、免疫グロブリン様ドメイン、クリングルドメイン;1つまたは複数のその断片、その類似体、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される。
【0072】
別の実施形態では、シグナル配列は、GIP、GLP−1、GLP−2、PDX−1、その断片、その類似体、およびそれらの組合せである。
【0073】
宿主において腸の細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングするための方法も提供され、この方法は、GLP−1、GIP、PDX−1、その断片、その類似体、およびそれらの組合せからなる群より選択されるシグナル配列、ならびにプロモーターを含む組換え細胞を投与するステップを含む。
【0074】
一実施形態では、宿主は高血糖であり、組換え細胞を高血糖宿主に投与することにより、外因性インスリンを宿主に治療的投与する必要性が低下するまたは排除される。
例えば、本願発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
シグナル配列およびプロモーターを含む組換え細胞であって、
a.上記シグナル配列が、宿主における標的核酸のシグナル依存性発現を調節し、
b.上記組換え細胞が腸内細菌または共生細菌に由来し、
c.上記シグナル配列が、GLP−2、その断片、もしくはその類似体、またはそれらの組合せである、組換え細胞。
(項目2)
シグナル配列およびプロモーターを含む組換え細胞であって、
a.上記シグナル配列が、宿主における標的核酸のシグナル依存性発現を調節し、
b.上記組換え細胞が腸内細菌または共生細菌に由来し、
c.上記標的核酸が、上記宿主の第1の細胞を第2の細胞に再プログラミングすることができる哺乳動物因子をコードする、組換え細胞。
(項目3)
上記宿主が哺乳動物である、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目4)
上記第2の細胞がβ様細胞、甲状腺細胞、肝細胞または免疫応答性細胞である、項目2に記載の組換え細胞。
(項目5)
上記宿主の上記第1の細胞が腸上皮細胞である、項目2に記載の組換え細胞。
(項目6)
上記第2の細胞がグルコース応答性インスリン分泌細胞である、項目2に記載の組換え細胞。
(項目7)
上記シグナル配列が、環境刺激に応答して標的核酸のシグナル依存性発現を調節する、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目8)
上記プロモーターがグルコース応答性プロモーターである、項目7に記載の組換え細胞。
(項目9)
上記シグナル配列が、GLP−1、GIP、PDX−1、1つまたは複数のその断片、その類似体、およびそれらの組合せからなる群より選択される、項目2に記載の組換え細胞。
(項目10)
上記シグナル配列が、GLP−1、PDX−1、GIP、GLP−2、インスリン、成長ホルモン、プロラクチン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、副甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、甲状腺刺激ホルモン、血管作動性腸管ポリペプチド、トレフォイルファクター、細胞および組織修復因子、トランスホーミング増殖因子β、ケラチノサイト成長因子;逆平行4αヘリックス束構造をとる構造的第1群サイトカインであるIL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、GM−CSF、M−CSF、SCF、IFN−γ、EPO、G−CSF、LIF、OSM、CNTF、GH、PRL、IFNα/β;構造的第2群サイトカインであるTNF−ファミリーサイトカイン、TNFα、TNFβ、CD40、CD27、FASリガンド、IL−1−ファミリーサイトカイン、線維芽細胞成長因子、血小板由来増殖因子、トランスホーミング増殖因子p、神経成長因子;短鎖α/β分子を含む構造的第3群サイトカインである上皮成長因子ファミリーサイトカイン、C−CケモカインまたはC−X−Cケモカイン、インスリン関連サイトカイン;構造的第4群サイトカインであるヘレグリン、ニューレグリン、EGF、免疫グロブリン様ドメイン、クリングルドメイン;1つまたは複数のその断片、その類似体、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、項目2に記載の組換え細胞。
(項目11)
上記シグナル配列および上記プロモーターが上記組換え細胞内のプラスミドにコードされている、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目12)
プロバイオティクス細菌に由来する、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目13)
エシェリキア属、シュードモナス属、バクテロイデス属、乳酸桿菌属、ラクトコッカス属、バチルス属、プロテウス属、ビフィドバクテリウム属、連鎖球菌属、ブドウ球菌属、およびコリネバクテリウム属からなる群より選択される細菌である、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目14)
上記標的核酸が、上記宿主における生理的プロセスの所望の機能を促進することができる、または上記宿主における非感染性の疾患を処置することができる哺乳動物因子をコードする、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目15)
上記非感染性の疾患が、自己免疫疾患、癌、内分泌疾患、胃腸疾患、癌およびそれらの組合せからなる群より選択される、項目14に記載の組換え細胞。
(項目16)
上記非感染性の疾患が糖尿病である、項目14に記載の組換え細胞。
(項目17)
上記糖尿病が1型糖尿病、2型糖尿病またはメタボリックシンドロームである、項目16に記載の組換え細胞。
(項目18)
上記非感染性の疾患が、クローン病、肥満症、フェニルケトン尿症、カエデシロップ病、ヒスチジン血症、高血糖症、糖尿病性網膜症、冠動脈心疾患、毛細管内糸球体硬化症、腎症、ニューロパチー、四肢の潰瘍または壊疽、アテローム性動脈硬化症、高コレステロール血症、高血圧、高タンパク血症、タンパク尿症、骨粗鬆症、貧血、高リポタンパク血症、ケトアシドーシス、高トリグリセリド血症、乳酸アシドーシス、心筋症、ウィルソン病、白質ジストロフィー、フコース蓄積症、癌、化学療法誘導性下痢、炎症性腸疾患、心室細動および心房細動、術後臓器不全、過敏性腸症候群、間質性膀胱炎/膀胱疼痛症候群、短腸症候群、潰瘍性大腸炎、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、項目14に記載の組換え細胞。
(項目19)
上記癌が胃腸癌、胃癌、胆嚢癌、消化管間質腫瘍、肝臓癌、膵癌、または結腸癌である、項目18に記載の組換え細胞。
(項目20)
上記哺乳動物因子が、腸の傷害または外科手術後の生理的プロセスの所望の機能を促進する、項目14に記載の組換え細胞。
(項目21)
上記宿主の体循環内に吸収されることなく腸絨毛に到達することができる、項目2に記載の組換え細胞。
(項目22)
上記プロモーターが誘導性プロモーターまたは構成的プロモーターである、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目23)
上記プロモーターがfliCプロモーターである、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目24)
分泌タグをさらに含む、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目25)
上記分泌タグがfliC分泌タグである、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目26)
上記分泌タグがアルファ溶血素(HlyA)分泌タグである、項目1または2に記載の組換え細胞。
(項目27)
細胞透過性ペプチド(CPP)配列をさらに含む、項目1に記載の組換え細胞。
(項目28)
上記シグナル配列を、上記シグナル配列にコードされるシグナルおよび上記細胞透過性ペプチド配列にコードされる細胞透過性ペプチドを含む融合タンパク質として発現する、項目26に記載の組換え細胞。
(項目29)
宿主における糖尿病を処置するための方法であって、上記宿主に項目2に記載の組換え細胞を投与するステップを含む、方法。
(項目30)
標的シグナル配列が、疾患予防因子の発現を刺激する、または糖尿病の原因因子の発現を阻害する、項目29に記載の方法。
(項目31)
上記糖尿病が1型糖尿病、2型糖尿病またはメタボリックシンドロームである、項目29に記載の方法。
(項目32)
上記シグナル配列が、環境刺激に応答して標的核酸のシグナル依存性発現を調節する、項目29に記載の方法。
(項目33)
上記環境刺激がグルコースである、項目32に記載の方法。
(項目34)
上記疾患予防因子がインスリンを含む、項目30に記載の方法。
(項目35)
上記標的核酸が、上記宿主における血中グルコースレベルの低下を促進する哺乳動物因子をコードする、項目29に記載の方法。
(項目36)
上記標的核酸が、上記宿主における血中インスリンレベルの上昇を促進する哺乳動物因子をコードする、項目29に記載の方法。
(項目37)
哺乳動物宿主において腸の細胞を別の細胞型に分化させるための方法であって、上記宿主に項目2に記載の組換え細胞を投与するステップを含む、方法。
(項目38)
上記別の細胞型がβ様細胞、甲状腺細胞、肝細胞または免疫応答性細胞である、項目37に記載の方法。
(項目39)
上記β様細胞がグルコース応答性細胞である、項目38に記載の方法。
(項目40)
有効量の上記組換え細胞が投与される、項目29または37のいずれか一項に記載の方法。
(項目41)
上記組換え細胞の上記有効量が少なくとも約10CFU/kgである、項目29または37のいずれか一項に記載の方法。
(項目42)
上記組換え細胞を、相乗効果を有する化合物と組み合わせて投与する、項目29または37のいずれか一項に記載の方法。
(項目43)
上記相乗効果を有する化合物が、DPP−4阻害剤、GLP−2、GLP−1アゴニスト、ジメチルスルホキシド、インスリン、アルファ−グルコシダーゼ阻害剤、プラムリンチド、メグリチニド、レパグリニド、ナテグリニド、クロルプロパミド、メトホルミン、スルホニル尿素、グリピジド、グリブリド、グリメピリド、チアゾリジンジオン、その類似体、その断片、およびそれらの組合せからなる群より選択される、項目29または37のいずれか一項に記載の方法。
(項目44)
上記シグナル配列が、GLP−1、PDX−1、GIP、GLP−2、インスリン、成長ホルモン、プロラクチン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、副甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、甲状腺刺激ホルモン、血管作動性腸管ポリペプチド、トレフォイルファクター、細胞および組織修復因子、トランスホーミング増殖因子β、ケラチノサイト成長因子;逆平行4αヘリックス束構造をとる構造的第1群サイトカインであるIL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、GM−CSF、M−CSF、SCF、IFN−γ、EPO、G−CSF、LIF、OSM、CNTF、GH、PRL、IFNα/β;構造的第2群サイトカインであるTNF−ファミリーサイトカイン、TNFα、TNFβ、CD40、CD27、FASリガンド、IL−1−ファミリーサイトカイン、線維芽細胞成長因子、血小板由来増殖因子、トランスホーミング増殖因子p、神経成長因子;短鎖α/β分子を含む構造的第3群サイトカインである上皮成長因子ファミリーサイトカイン、C−CケモカインまたはC−X−Cケモカイン、インスリン関連サイトカイン;構造的第4群サイトカインであるヘレグリン、ニューレグリン、EGF、免疫グロブリン様ドメイン、クリングルドメイン;1つまたは複数のその断片、その類似体、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、項目29または37のいずれか一項に記載の方法。
(項目45)
上記シグナル配列がGIP、GLP−1、GLP−2、PDX−1、その断片、その類似体、およびそれらの組合せである、項目29または37のいずれか一項に記載の方法。
(項目46)
宿主において腸の細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングするための方法であって、GLP−1、GIP、PDX−1、その断片、その類似体、およびそれらの組合せからなる群より選択されるシグナル配列、ならびにプロモーターを含む組換え細胞を投与するステップを含む、方法。
(項目47)
上記宿主が高血糖性であり、上記組換え細胞を上記高血糖性宿主に投与することにより外因性インスリンを上記宿主に治療的に投与する必要性が低下するか、または排除される、項目46に記載の方法。
【0075】
4.図面の簡単な説明
ここで、本発明を、いくつかの図全体を通して同様の参照符号が同様の要素を示す付属図を参照して説明する。いくつかの場合には、本発明の種々の態様は、本発明の理解を容易にするために誇張または拡大して示されていることがあることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1図1は、試験のために作製したプラスミドを示す。E.coli DH5α由来のP0/P1プロモーターを試験するために、2種のプラスミドを作製した(pFD1およびpFD2)。pFD1は高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)の発現を駆動するためのP0/P1領域全体をコードした。pFD2は、EGFPの上流のプロモーターのP0領域のみをコードした。Caco−2細胞におけるインスリン分泌を刺激するための、組換え細菌からのインスリン分泌性タンパク質の分泌の有効性を試験するために、プラスミドpFD−PDX、pFD−GLP、およびpFD−20を構築した。
図2図2は、グルコースに対するP0応答およびP0/P1応答を示す。EGFPの発現を用いて、異なる培地条件に対するP0プロモーターおよび/またはP1プロモーターの応答を測定した。P0=P0のみ;P0+P1=P0プラスP1フランキング領域;DH5α=lacオペロン対照。
図3図3は、E.coli Nissleによる組換えインスリン分泌性タンパク質の分泌を示す。
図4図4Aは、GLP−1(G)、PDX−1−CPP(P)、GLP−1とPDX−1−CPPの両方(GP)、もしくは対照プラスミド(「20」で示される試料)を発現しているE.coli Nissleの一晩培養物由来の無細胞培地(CFM)と一緒に、または合成GLP−1(アミノ酸1〜37;「37」で示される試料)と一緒にインキュベートし、その後グルコース(「g」)またはグリセロールのいずれかを用いて刺激したCaco−2細胞の逆転写PCRを示す。図4Bは、刺激されたCaco−2細胞によるインスリン分泌の酵素結合免疫吸着検定法を示す。エラーバーは、少なくとも3回の実験についての1標準偏差を示す。P値はスチューデントt検定(n=3)による。
図5図5は、fliCプロモーターおよび分泌タグを用いてGLP−1を分泌するように工学的に操作されたNissleからのGLP−1の分泌と、pKD3染色体挿入カセットを伴わない同じ配列を含有するプラスミド担持株からのGLP−1の分泌の比較を示す。
図6図6は、fliCプロモーターおよび分泌タグを用いてGLP−1を分泌するように工学的に操作されたNissleで処置したマウスと、pKD3染色体挿入カセットを伴わない同じ配列を含有するプラスミド担持株からのGLP−1の分泌の間のグルコースレベルのin vivoにおける試験を示す。
図7図7は、1型糖尿病のマウスモデルにおける血中グルコースレベルの低下を示す。
図8図8A〜Bは、インスリンを示す、マウスの腸切片の免疫組織学的検査を示す。GLP−1を発現しているE.coli Nissle1917を摂食させた糖尿病マウス(A)およびランダムなペプチドを発現しているE.coli Nissle1917を摂食させた糖尿病マウス(B)をセクション6.5、実施例5に記載の実験の最後に屠殺した。腸切片をインスリンの存在について染色した(赤色)。Aでは高濃度のインスリンが矢印で示されている。
図9図9A〜Eは、Nissle−GLP−1もしくはNissleのいずれかで処置した後、または処置しなかったマウスについての測定値を示す。β細胞質量を測定した(A)。マウスのランダムなグルコースレベル(B)および体重(C)を80日にわたってモニターした。血中インスリンをグルコース注射した後、30分ごとに1.5時間にわたって測定し(D)、血中グルコースをグルコース注射した後、30分ごとに1.5時間にわたって測定した(E)。
図10-1】図10A〜Fは、マウスの腸におけるインスリン含有細胞のポケットの相対的な発生頻度を示す。マウスの腸の免疫染色により、Nissleを摂食させたマウスまたは対照マウス(B)ではなく、Nissle−GLP−1を摂食させたマウス(A)においてインスリン含有細胞が明らかになった。細胞を、4種の細胞型のそれぞれの代表的なタンパク質に対する抗体を用いて青色で共染色した:パネート細胞についてはNOD−2(C)、杯細胞についてはムチン−2(MUC−2)(D)、吸収細胞についてはスクロースイソマルターゼ(SI)(E)、および腸内分泌細胞についてはクロモグラニンA(Chr−A)(F)。4種類の腸の細胞のそれぞれの代表的なタンパク質に対する抗体を用いた共染色により、これらの細胞の系列が腸内分泌細胞に関連することが示唆された。
図10-2】図10A〜Fは、マウスの腸におけるインスリン含有細胞のポケットの相対的な発生頻度を示す。マウスの腸の免疫染色により、Nissleを摂食させたマウスまたは対照マウス(B)ではなく、Nissle−GLP−1を摂食させたマウス(A)においてインスリン含有細胞が明らかになった。細胞を、4種の細胞型のそれぞれの代表的なタンパク質に対する抗体を用いて青色で共染色した:パネート細胞についてはNOD−2(C)、杯細胞についてはムチン−2(MUC−2)(D)、吸収細胞についてはスクロースイソマルターゼ(SI)(E)、および腸内分泌細胞についてはクロモグラニンA(Chr−A)(F)。4種類の腸の細胞のそれぞれの代表的なタンパク質に対する抗体を用いた共染色により、これらの細胞の系列が腸内分泌細胞に関連することが示唆された。
図11図11Aは、同様にNissleを摂食させた健康なマウス(STZ処置していない)およびNissle GLP−1を摂食させた健康なマウス(STZ処置していない)の経時的な血中グルコースレベルを示す。図11Bは、同様にNissleを摂食させた健康なマウス(STZ処置していない)およびNissle GLP−1を摂食させた健康なマウス(STZ処置していない)の経時的な体重変化を示す。
図12図12は、Nissle、プラスミド由来のGLP−1を発現しているNissleまたはNissle−GLP−1を摂食させた系統のマウスの糞便におけるNissle生存性の測定値を示す。
図13図13は、ダミープラスミドを伴うNissle、同じプラスミド由来のGLP−1(1〜37)を伴うNissleのいずれかを用いたNissle処置後、または処置もSTZもなし(対照)のランダムな血中グルコースレベルを示す。
図14図14は、非肥満糖尿病(NOD)マウスに、Nissle、GLP−1を染色体性に発現しているNissle(1〜37)を1日2回摂食させた後の、または処置しなかったNODマウスの空腹時血中グルコースレベルを示す。マウスを、血中グルコースを測定する直前の4時間絶食させた。時間は、処置を開始した後の日数を示す。
図15図15は、組換え細胞の推定作動方法を示す。左:粘膜Mの内部および上部の内腔B内に細菌を伴う正常な腸陰窩。腸内分泌細胞(E)は固有層(LP)および脈管構造V内にホルモンを分泌する。右:本明細書の実施形態の組換え細胞(EB)は、GLP−1(EBから出ている点)を陰窩内に分泌して、初期の腸内分泌細胞をインスリン分泌細胞(RE)に再プログラミングする。次いで、グルコースに応答してインスリン(Ins、星印)が血流中に分泌される。
図16図16A〜Dは、マウスの腸上部における細菌によって分泌されたGLP−1を示す。60日にわたってマウスに1日2回摂食させたE.coli Nissle1917からGLP−1(1〜37)が分泌された(Nissle−GLP−1)。a、マウスの腸上部の切片の免疫蛍光法により、腸粘膜へのGLP−1の結合が明らかになった。白い矢印は、腸内分泌細胞からのGLP−1発現を示す。灰色の矢印は、上皮に付着した、細菌によって分泌されたGLP−1を示す。b、ダミーペプチド(Nissle)を発現しているE.coli Nissle1917を摂食させたマウスでは、粘膜のGLP−1染色は示されなかった。白い矢印は、腸内分泌細胞を示す。c、GLP−1結合(%適用範囲(coverage))を画像解析によって数量化した。値は、少なくとも3匹のマウスから取得した画像の平均であり、エラーバーは1標準偏差を示す。GLP−1=Nissle−GLP−1;Nissle=ダミーペプチドを発現しているEcN。p値はスチューデントのt検定による(n=3)。d、マウス全腸からの細菌の総数:腸上部(洗浄していない)、大腸(下部GI、PBSで穏やかに洗浄した後)または糞便中の総数のいずれか。*糞便中の総数は糞便1グラム当たりである。値は、3匹のマウスについての平均であり、エラーバーは1標準偏差を示す。
図17図17A〜Dは、STZ処置したマウスにおける1型真性糖尿病(T1DM)の減少を示す。a、マウスの膵臓を試験終了時に回収し、インスリンについて染色したIHC切片からβ細胞質量を決定した。群当たり3匹のマウスからの画像を解析し、各群について平均のβ細胞質量が示されている。エラーバーは標準偏差を示し、p値はスチューデントのt検定による(n=3)。Nissleを摂食させたマウス(Nissle)、Nissle−GLP−1を摂食させたマウス(GLP−1)、細菌を摂食させなかったマウス(STZ)、STZで処置せず、細菌も摂食させていないマウス(対照)を本文に記載の通り処置した。b、マウスの血中グルコースレベルを60日後に測定した。処置を開始した時点(0日目)および60日後の平均値が示されている。提示されている値は、少なくとも4匹のマウスの平均である。エラーバーは1標準偏差を示す。p値はスチューデントのt検定による(n=4)。c、STZで処置していない健康なマウスに、Nissle(Nissle)およびNissle−GLP−1(GLP−1)を、92日の期間にわたって、1日2回摂食させた。比較のために、細菌を摂食させなかった対照マウスを同じ期間にわたって用いた(対照)。3つの時点が示されている(0日目、57日目および92日目)。p値はスチューデントのt検定による(n=4)。d、β細胞質量のSTZによる枯渇に続いて細菌で処置した60日後に、マウスを、10時間絶食させ、次いでグルコースを注射する(体重1kg当たり25mg)耐糖能検査に供した。血中インスリンレベル(上のパネル)および血中グルコースレベル(下のパネル)を30分ごとに、1.5時間にわたって測定した。
【0077】
【化1】
図18図18A〜Hは、Nissleを摂食させたマウスおよびNissle−GLP−1を摂食させたマウスにおけるβ細胞および上皮のマーカーを示す。STZ処置した(a、b、e〜f)、および健康な(c、d)、Nissle(a、c)またはNissle−GLP−1(b、d、e〜f)を摂食させたマウス由来の腸の切片を、インスリンの存在について緑色で免疫染色し(a〜h)、核酸について青色で共染色し(DAPI、a〜h)、PDX−1(a〜d)、ChrA(e、f)、リゾチーム(Lys、g)またはスクロースイソマルターゼ(SI、h)のいずれかについて赤色で共染色した。画像e〜fの右矢印は、インスリンを発現している再プログラミングされた細胞を指す。bの左矢印およびdの全ての矢印は、インスリンを発現している細胞を指す。eおよびfの左矢印および下矢印は、ChrAを発現し、インスリンを発現していない細胞を指す。gの上矢印はLysを発現しているパネート細胞を指す。hの左矢印および上矢印はSIを指す。b、eおよびfの挿入パネルは、インスリン産生細胞が現れる画像内の、インスリン産生細胞の高拡大率の画像である。a、eおよびhのスケールバーは25μmであり、他の全てのパネルのスケールバーは100μmである。A=自己蛍光。
図19図19は、工学的に操作された共生細菌からのGLP−1の分泌を示す。上:染色体への挿入によってE.coli Nissle1917をGLP−1分泌細胞株に形質転換するために使用したカセットの概略図が示されている。カセットはfliCの5’非翻訳領域、その後に6ヒスチジンタグ、エンテロキナーゼ部位(EK)、細胞透過性ペプチド(CPP)と融合したGLP−1(1〜37)および染色体への挿入のために使用するpKD3の切片を含んだ。下:ウエスタンブロット法は、染色体を改変したNissle(染色体)またはプラスミド上にカセットを有するNissle(プラスミド)のいずれかの、分泌されたGLP−1の量(M)または細胞ペレット中のGLP−1の量(C)を示す。
図20図20A〜Bは、T1DM実験についてのマウスの体重のレベルを示す。a、STZ処置したマウスの体重を、Nissle(Nissle)、Nissle−GLP−1(GLP−1)のいずれかを摂食させ、または細菌を摂食させず(STZ)、その後60日目に測定した。対照として、マウスをSTZで処置せず、細菌も摂食させなかった(対照)。処置を開始した時点(0日目)および60日後の平均値が示されている。提示されている値は、少なくとも4匹のマウスの平均である。エラーバーは1標準偏差を示す。b、雌のC57BL/6マウス(6〜8週齢)に1日2回、NissleかNissle−GLP−1のいずれかを摂食させた、または細菌を摂食させなかった。示されている通り体重を測定した。値は、5匹のマウスの平均である。エラーバーは標準偏差を示す(n=5)。
図21図21は、NODマウスの血中グルコースレベルを示す。NODマウスに、1日2回、46日間Nissle(Nissle)もしくはNissle−GLP−1(GLP−1)を摂食させた、または細菌を摂食させなかった(対照)。毎日の摂食開始後11日目、21日目、30日目および46日目に、空腹時血中グルコースを測定した。値は、明記された日における各群のマウスの平均である。エラーバーは1標準偏差を示す。p値は46日目のデータ(n=2)に対するスチューデントのt検定による。
図22図22は、NODマウスの体重を示す。NODマウスに、1日2回、46日間、Nissle(Nissle)もしくはNissle−GLP−1(GLP−1)を摂食させた、または細菌を摂食させなかった(対照)。毎日の摂食開始後11日目、21日目、30日目および46日目にマウスの体重を測定した。値は、明記された日における各群のマウスの平均である。エラーバーは1標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0078】
5.発明の詳細な説明
工学的に操作されたシグナル伝達能力を有する遺伝子操作された微生物(例えば、細菌)が提供される。工学的に操作された微生物(またはそれに由来する組換え細胞)を、疾患または障害を緩和する生体シグナル伝達(biosignaling)分子または生体化合物(biocompound)を発現させるために使用するための方法。グルカゴン様ペプチド1(GLP−1))、PDX、GIFまたはグルカゴン様ペプチド2(GLP−2))またはそれらの断片、類似体または組合せを分泌するように工学的に操作された共生細菌株も提供される。そのような工学的に操作された細菌株を用いて高血糖症および/または真性糖尿病(DM)および他の疾患を緩和するための方法も提供される。
【0079】
グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)、PDX、GIF、その断片、その類似体、またはそれらの組合せを分泌するように工学的に操作された共生細菌株を用いて、腸の細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングするための方法がさらに提供される。グルカゴン様ペプチド2(GLP−2)を分泌するように工学的に操作された共生細菌株を用いて、腸機能を増強するため、傷害、例えば、炎症性エピソード、外科手術などの後に腸の上皮表面を再生させるため、および腸の内層の治癒を促進するための方法も提供される。
【0080】
開示を明瞭にするために、また、限定する目的ではなく、発明の詳細な説明は下記の小節に分けられる。
【0081】
5.1.用語法
本組成物および方法を説明する前に、記載されている特定のプロセス、組成物、または方法体系は変動し得るので、本発明は、これらに限定されないことが理解されるべきである。本明細書で使用される用語法は、特定の見解または実施形態を説明するためだけのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定するものではないことも理解される。別段の定義のない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および材料と類似した、またはそれと等しい任意の方法および材料を本発明の実施形態の実施または試験において使用することができるが、好ましい方法、デバイス、および材料がここに記載されている。本明細書で言及されている全ての刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書における全てが、本発明が先行発明の理由でそのような開示に先立つ権利が与えられないことを容認するものと解釈されるべきではない。
【0082】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、および「the(その)」は、文脈により明確に別段の規定がなされない限り、複数の参照を含むことにも留意しなければならない。したがって、例えば、「組換え細胞」への言及は、1つまたは複数の組換え細胞および当業者に公知のその等価物への言及などである。
【0083】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、使用されている数字の数値のプラスマイナス10%を意味する。したがって、約50%とは、45%〜55%の範囲内を意味する。
【0084】
「投与すること」とは、治療薬と同時に使用される場合、治療薬を標的組織内もしくは標的組織上に直接投与すること、または、治療薬を患者に投与し、それにより、治療薬が標的とする組織に正に影響を与えることを意味する。したがって、本明細書で使用される場合、「投与すること」という用語は、組換え細胞と同時に使用される場合、これに限定されないが、経口投与、組換え細胞を標的組織内または標的組織上にもたらすこと;組換え細胞を患者に、例えば、静脈内注射によって全身的にもたらし、それにより、治療薬を標的組織に到達させること;組換え細胞を、それのコード配列の形態で標的組織にもたらすこと(例えば、いわゆる遺伝子療法の技法によって)を包含し得る。
【0085】
組成物を「投与すること」は、経口的に、注射、局所投与によって、または、他の公知の技法と組み合わせた任意の方法によって実現することができる。
【0086】
「動物」または「患者」または「宿主」または「被験体」という用語は、本明細書で使用される場合、これらに限定されないが、ヒトおよび非ヒト脊椎動物、例えば、野生動物、家畜動物および農場動物などを包含する。「動物」または「患者」または「宿主」または「被験体」という用語は、哺乳動物を指すことが好ましく、ヒトを指すことがより好ましい。
【0087】
「改善する」という用語は、本発明により、本発明が提供される、適用されるまたは投与される組織の外観、形態、特性および/または物理的属性のいずれかが変化することを伝えるために使用される。形態の変化は、以下のいずれかの単独または組合せによって実証することができる:腸上皮細胞のインスリン分泌細胞への変換、治療的シグナルの分泌、標的核酸の発現、または、癌、自己免疫性障害、内分泌障害もしくは心血管障害などの標的障害の症状の緩和、予防もしくは低減。
【0088】
「阻害すること」という用語は、症状の発症を妨げるため、症状を軽減するため、または疾患、状態もしくは障害を排除するために本発明の組換え細胞を投与することを包含する。
【0089】
「薬学的に許容される」とは、担体、希釈剤または賦形剤が、製剤の他の成分と適合しなければならず、かつそのレシピエントに対して有害であってはならないことを意味する。
【0090】
本明細書で使用される場合、「治療薬」という用語は、患者の望ましくない状態または疾患を処置する、それと闘う、それを緩和する、予防する、または改善するために利用される作用剤を意味する。部分的に、本発明の実施形態は、糖尿病の治療またはインスリン産生の増加、または、癌、自己免疫性障害、内分泌障害もしくは心血管障害の治療を対象とする。
【0091】
組成物の「治療有効量」または「有効量」は、所望の効果を実現するため、すなわち、癌、自己免疫性障害、内分泌障害、または心血管障害の症状を予防、緩和または低減するために算出された所定量である。本方法により意図される活性は、必要に応じて、医学的な治療的治療および/または予防的治療の両方を含む。治療効果および/または予防効果を得るために本発明に従って投与される組換え細胞の特定の用量は、当然、例えば、投与しようとするコードされるタンパク質、投与経路、および治療されている状態を含めた、その事例を取り巻く特定の状況によって決定される。組換え細胞は、広い投与量の範囲にわたって有効であり得る。しかし、投与される有効量は、治療される状態、投与しようとするコードされるタンパク質の選択、および選択された投与経路を含めた関連する状況を考慮して医師が決定し、したがって、上記の投与量の範囲は、本発明の範囲をいかなる形でも限定するものではないことが理解されよう。本発明の組換え細胞の治療有効量は、一般には、それを生理的に許容できる賦形剤組成物中に入れて投与すると、有効な全身濃度または組織における局部濃度が実現されるのに十分な量である。
【0092】
本明細書で使用される「処置する」、「治療された」、または「治療している」という用語は、治療的治療および予防的措置または予防措置の両方を指し、その目的は、望ましくない生理的状態、障害もしくは疾患を予防することもしくは遅くする(和らげる)こと、または、有益なもしくは所望の臨床結果を得ることである。「治療」という用語は、本明細書で使用される場合、望ましくない生理的状態、障害または疾患の発症、確立および蔓延を予防することも包含する。本開示の目的に関して、有益なまたは所望の臨床結果としては、これらに限定されないが、症状の軽減;状態、障害または疾患の程度の減弱;状態、障害または疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと);状態、障害または疾患の発症の遅延または進行の減速;状態、障害または疾患の状態の緩和;および検出可能であろうと検出不可能であろうと寛解(部分的であろうと完全であろうと)、または状態、障害もしくは疾患の増強もしくは改善が挙げられる。治療とは、過剰なレベルの副作用を伴わずに臨床的に有意な応答を引き出すことを包含する。治療とは、治療を受けない場合に予測される生存と比較した生存の延長も包含する。
【0093】
一般的に言うと、「組織」という用語は、特定の機能の実行に一体化された同様に特殊化した細胞の任意の集合体を指す。
【0094】
5.2.GLP−1、PDX−1、GIPおよびGLP−2
3種のタンパク質、GLP−1(グルカゴン様ペプチド1)、PDX−1(膵臓および十二指腸ホメオボックス遺伝子1)、および胃抑制ポリペプチド(GIP)は、グルコースに応答して(GIPおよびGLP−1)、およびグルコースレベルに関係なく(PDX−1)、腸上皮細胞を刺激して、インスリンを合成させることができる。第4のタンパク質であるGLP−2は、消化(GI)管においていくつもの作用を有することが当技術分野で公知である。
【0095】
GLP−1
グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)は、プログルカゴン遺伝子の転写産物に由来する。体内のGLP−1の主要な供給源は、GLP−1を消化管ホルモンとして分泌する腸のL細胞である。GLP−1(1〜37)は、GLP−1の細胞内前駆体であり、プログルカゴンから切断され、その後、N末端から最初の6アミノ酸が除去されて、生理活性ペプチドを形成する。主要な生物学的活性型のGLP−1は、GLP−1(7〜37)および優勢な循環活性型のGLP−1(7〜36)アミドである。GLP−1は、グルコースおよび他の栄養分に応答して、遠位小腸の腸上皮から分泌される。GLP−1は非常に短い半減期を有し、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−4)によるその分解が血管において起こり腸粘膜が排出される。GLP−1は、膜受容体GLP−1Rに結合することによって膵臓のβ細胞におけるインスリン合成を活性化し、1型糖尿病および2型糖尿病の両方を処置するための治療薬になる可能性がある。驚いたことに、GLP−1を注射した腸上皮細胞はグルコース応答性インスリン分泌細胞になり得、その後、in vitroにおいてGLP−1で刺激した上皮細胞を宿主に外科的に埋め込むことにより、宿主における真性糖尿病が逆転し得ることが見いだされた。本明細書に開示されている通り、生物学的に不活性型であるGLP−1(1〜37)により、腸の細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングすることができると考えられている。
【0096】
GIP
GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチドとしても公知である)は、インスリン分泌を誘導し、主に十二指腸におけるグルコースの高浸透圧により刺激され得る。GIPはまた、脂肪細胞においてリポタンパク質のリパーゼ活性を刺激することにより、脂肪酸代謝に対して有意な効果を有すると考えられている。GIPは、GIP遺伝子にコードされる153アミノ酸のプロタンパク質に由来し、生物学的に活性な42アミノ酸のペプチドとして循環する。GIPは、消化管の十二指腸および空腸の粘膜において見いだされるK細胞により合成される。全ての内分泌ホルモンと同様に、GIPは血液により輸送される。胃抑制ポリペプチド受容体は膵臓のベータ細胞上に見いだされる7−膜貫通タンパク質である。
【0097】
PDX−1
さらに、転写活性化因子PDX−1は、β細胞および腸上皮の両方におけるインスリン分泌を刺激する。サプリメントの腸細菌が「プロバイオティクス」として広範に利用可能であり、一般に、食品医薬品局(Food and Drug Administration)により安全であるとみなされている。in vivoにおける組換え遺伝子発現のために共生株を用いることの潜在的利点としては、それらが宿主(特に宿主の免疫系)と適合すること、それらが腸において制御可能に持続すること、および、それらを経口的に投薬することができることが挙げられる。動物モデルにおける共生細菌による種々の組換えサイトカインおよび組換え抗原の発現が報告されている。
【0098】
幹細胞をβ細胞またはインスリン分泌の潜在力を有する細胞に再プログラミングすることは、ここ10年にわたり、いくつかの試験の対象になってきた。移植するための幹細胞をin vitroで生成すること、ならびに膵臓特異的幹細胞または他の組織特異的幹細胞のいずれかを、in vivoでβ細胞に変換させることに焦点があてられてきた。理論に束縛されることを望むものではないが、不活性型のグルカゴン様ペプチド1(GLP−1(1〜37))は、発達中の腸の幹細胞および成人の腸の幹細胞を刺激して、Notchシグナル伝達経路を通じてグルコース応答性インスリン分泌細胞にさせることができると考えられている。GLP−1と一緒にin vitroでインキュベートし、成体糖尿病ラットに外科的に埋め込んだ発達初期の空腸(E14.5)は、STZ誘導性1型真性糖尿病(T1DM)を逆転させることができたが、成体腸細胞の分化(腸陰窩から起こる)では有意な数のインスリン産生細胞が生じず、β様機能性を有する細胞に有意に分化するためには発達中の胎児(E17前)の増殖細胞および多列細胞が必要であると思われる。
【0099】
GLP−2
全長のグルカゴン様ペプチド−2(GLP−2)は、小腸および大腸の腸内の分泌細胞からGLP−1と一緒に分泌される33アミノ酸のペプチドである。GLP−1と同様に、活性型GLP−2(1〜33)はプロテアーゼDPPIVにより切断されて不活性型GLP−2(3〜33)になる。GLP−2は、小腸および大腸の粘膜の成長の刺激、腸細胞の抑制および陰窩細胞のアポトーシス、腸細胞のグルコース輸送およびGLUT−2発現の刺激、栄養吸収の増加、胃内容排出および胃酸分泌の阻害、腸透過性の低下、腸の血流の刺激、ならびに腸管平滑筋の弛緩を含めた、消化(GI)管におけるいくつもの作用を有することが当技術分野で公知である(www.glucagon.com、2011/10/3訪問)。GLP−2は、ラット星状膠細胞培養物における細胞増殖の刺激を含めた、GI管の外側での作用も有する(グルカゴン様ペプチド−2は培養されたラット星状膠細胞の増殖を刺激する。EurJ Biochem. 2003年7月;270巻(14号):3001〜9頁;www.glucagon.comに挙げられている、2011/10/3訪問)。げっ歯類またはヒトにおいて、血漿グルコースはGLP−2投与した後に変化しないが、薬理学的レベルのGLP−2(正常よりも約10倍高い)は、正常なヒト宿主における絶食および食後の状態におけるグルカゴンの循環レベルの上昇を伴う(ヒトにおいて、グルカゴン様ペプチド2はグルカゴンの分泌を刺激し、脂質の吸収を増強し、胃酸分泌を阻害する;Gastroenterology.2006年1月;130巻(1号):44〜54頁;www.glucagon.comに挙げられている、2011/10/3訪問))。理論に束縛されることを望むものではないが、GLP−2は腸における腸細胞の細胞増殖を刺激すると考えられている。
【0100】
5.3.組換え細胞
本明細書に記載の実施形態は、概して、内分泌障害、心血管障害または自己免疫障害を直接または間接的に処置するための、単離された、工学的に操作された組換え細胞の使用に関する。
【0101】
複数の実施形態が、シグナル配列およびプロモーターを含む組換え細胞を対象とし得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、組換え細胞によって発現させることができ得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、組換え細胞の細胞質からの治療的タンパク質の分泌を引き起こし得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、標的核酸のシグナル依存性発現を調節することができ得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、環境刺激に応答して標的核酸のシグナル依存性発現を調節することができ得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列およびプロモーターは、組換え細胞内のプラスミドにコードされている。いくつかの実施形態では、シグナル配列およびプロモーターは、組換え細胞の核酸にコードされている。
【0102】
さらなる実施形態では、シグナル配列は、標的核酸の発現を調節し得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、環境刺激に応答して標的核酸の発現を調節し得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、GIP、GLP−1、PDX−1、その断片、その類似体、またはそれらの組合せであってよい。いくつかの実施形態では、標的シグナル配列は、疾患予防因子の発現を刺激すること、または疾患の原因因子の発現を阻害することができ得る。複数の実施形態では、環境刺激はグルコースであり得る。いくつかの実施形態では、疾患予防因子はインスリンを含み得る。いくつかの実施形態では、組換え細胞を投与することにより、健康な被験体における血中インスリンレベルの上昇は引き起こされない。
【0103】
いくつかの実施形態では、シグナル配列は、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)またはその断片もしくは類似体を含んでよい。いくつかの実施形態では、GLP−1は、GLP−1(1〜37)、GLP−1(7〜37)、GLP−1(7〜36)アミドまたはそれらの組合せを含んでよい。GLP−1の類似体は当技術分野で公知であり、下に記載されている。上に開示されている通り、GLP−1は、プログルカゴン遺伝子の転写産物に由来する。体内のGLP−1の主要な供給源は、GLP−1を消化管ホルモンとして分泌する腸のL細胞である。生物学的活性型のGLP−1は、GLP−1−(6〜37)、GLP−1−(7〜37)およびGLP−1−(7〜36)NH2である。これらのペプチドは、プログルカゴン分子の選択的な切断から生じる。ある特定の実施形態では、長さが4〜7アミノ酸、7〜10アミノ酸、10〜13アミノ酸、13〜16アミノ酸、16〜19アミノ酸、19〜22アミノ酸、22〜25アミノ酸、25〜28アミノ酸、28〜31アミノ酸、31〜34アミノ酸または34〜37アミノ酸のGLP−1の断片も使用することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、シグナル配列は、グルカゴン様ペプチド−2(GLP−2)またはその断片もしくは類似体を含んでよい。いくつかの実施形態では、GLP−2は、GLP−2(1〜33)、GLP−2(3〜33)、または、疾患予防因子の発現を刺激すること、もしくは疾患の原因因子の発現を阻害することができる任意の他の断片もしくは類似体を含み得る。GLP−2の類似体は当技術分野で公知であり、下に記載されている。循環中では、GLP−2は、2つの分子形態、GLP−2(1〜33)およびGLP−2(3〜33)で存在する。GLP−1と同様に、活性型GLP−2(1〜33)はプロテアーゼDPPIVにより切断されて不活性型GLP−2(3〜33)になる。GLP−2は、胃腸機能(消化、吸収、運動性、上皮の成長、および血流)および骨吸収の調節において重要な役割を果たすことが示されている。したがって、GLP−2またはその類似体は、クローン病および骨粗鬆症などの疾患を処置するための治療的潜在性を有し得る。ある特定の実施形態では、長さが4〜7アミノ酸、7〜10アミノ酸、10〜13アミノ酸、13〜16アミノ酸、16〜19アミノ酸、19〜22アミノ酸、22〜25アミノ酸、25〜28アミノ酸、28〜31アミノ酸、または31〜33アミノ酸であるGLP−2の断片も使用することができる。
【0105】
いくつかの実施形態では、組換え細胞は、任意の形質転換可能な細菌細胞であってよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、腸内細菌または共生細菌に由来し得る。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、プロバイオティクス細菌に由来し得る。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、これらに限定されないが、エシェリキア属、シュードモナス属、バクテロイデス属、乳酸桿菌属、ラクトコッカス属(Lactococcus)、バチルス属、プロテウス属、ビフィドバクテリウム属、連鎖球菌属、ブドウ球菌属、およびコリネバクテリウム属を含めた、種々のグラム陽性ファミリーおよびグラム陰性ファミリーから選択される細菌であってよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、Escherichia coliの株であってよい。特定の実施形態では、組換え細胞は、E.coli Nissleまたは乳酸桿菌属であってよい。
【0106】
いくつかの実施形態では、標的核酸は、宿主における生理的プロセスの正常な機能を促進する、または宿主における非感染性の疾患の発症、確立、もしくは蔓延の予防において有効である哺乳動物因子をコードしてよい。いくつかの実施形態では、宿主における非感染性の疾患は、自己免疫疾患、内分泌疾患、癌、心臓血管疾患またはそれらの組合せを含んでよい。いくつかの実施形態では、非感染性の疾患は、糖尿病を含んでよい。いくつかの実施形態では、非感染性の疾患は、1型糖尿病を含んでよい。いくつかの実施形態では、非感染性の疾患は、2型糖尿病を含んでよい。
【0107】
生理活性化合物を腸上部の管腔(絨毛)側に送達するための方法が提供される。この方法は、腸に定植し、生理活性化合物を分泌する共生細菌をもたらすことを含んでよい。この手法により、外科手術の潜在的な落とし穴または血流内での分解が回避される。
【0108】
この方法により、シグナルを連続的にまたは局部刺激に応答して発現させ、その後、血液ではなく腸粘膜を通じて輸送することが可能になる。
【0109】
複数の実施形態は、シグナル配列およびプロモーターを含む組換え細胞を対象とし得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、組換え細胞によって発現させることができ得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、組換え細胞の細胞質からの治療的タンパク質の分泌を引き起こし得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、標的核酸のシグナル依存性発現を調節することができ得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、環境刺激に応答して標的核酸のシグナル依存性発現を調節することができ得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列およびプロモーターは、組換え細胞内のプラスミドにコードされている。いくつかの実施形態では、シグナル配列およびプロモーターは、組換え細胞の核酸にコードされている。
【0110】
いくつかの実施形態では、組換え細胞は、任意の形質転換可能な細菌細胞であってよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、腸内細菌または共生細菌であってよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、プロバイオティクス細菌であってよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、エシェリキア属、シュードモナス属、バクテロイデス属、乳酸桿菌属、ラクトコッカス属(Lactococcus)、バチルス属、プロテウス属、ビフィドバクテリウム属、連鎖球菌属、ブドウ球菌属、およびコリネバクテリウム属からなる群より選択される細菌であってよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、Escherichia coliの株であってよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、E.coli Nissleであってよい。いくつかの実施形態では、標的核酸は、宿主における生理的プロセスの正常な機能を促進する、または宿主における非感染性の疾患の発症、確立、もしくは蔓延の予防において有効である哺乳動物因子をコードしてよい。いくつかの実施形態では、宿主における非感染性の疾患は、癌、または自己免疫疾患、内分泌疾患、心臓血管疾患またはそれらの組合せを含んでよい。いくつかの実施形態では、非感染性の疾患は、糖尿病を含んでよい。いくつかの実施形態では、非感染性の疾患は、1型糖尿病を含んでよい。いくつかの実施形態では、非感染性の疾患は、2型糖尿病を含んでよい。
【0111】
いくつかの実施形態では、組換え細胞は、プロモーターおよびシグナル配列を含む。当技術分野で公知の任意の適切なプロモーターを使用することができる。プロモーターは、誘導性プロモーターまたは構成的プロモーターであってよい。特定の実施形態では、プロモーターは、グルコース応答性プロモーターである。
【0112】
一実施形態では、シグナル配列は、GLP−1またはその断片もしくは類似体を含んでよい。いくつかの実施形態では、GLP−1の類似体は、タスポグルチド、エクセナチド、エキセンディン−4、リラグルチド、アルビグルチド、(Val8)GLP−1、NN9924、CJC−1131、AVE010、LY548806、米国特許第5,545,618号に記載の類似体などからなる群より選択することができる。
【0113】
他の実施形態では、シグナル配列は、グルカゴン様ペプチド−2(GLP−2)またはその類似体を含んでよい。GLP−2は、小腸および大腸の腸内の分泌細胞からGLP−1と一緒に分泌される33アミノ酸のペプチドである。げっ歯類またはヒトにおいて、血漿グルコースはGLP−2を投与した後に変化しないが、薬理学的レベルのGLP−2(正常よりも約10倍高い)は、正常なヒト被験体における絶食および食後の状態におけるグルカゴンの循環レベルの上昇を伴う。GLP−2は、小腸および結腸の増殖因子としての役割も果たし得る。シグナル配列がGLP−2である、本明細書に開示されている方法は、例えば、1型糖尿病および2型糖尿病、肥満に関連する糖尿病、化学療法誘導性下痢;炎症性腸疾患、心室細動および心房細動、術後臓器不全、過敏性腸症候群、間質性膀胱炎/膀胱疼痛症候群、短腸症候群、潰瘍性大腸炎、メタボリックシンドローム、クローン病、骨粗鬆症などの疾患を処置するために用いることができる、またはあらゆる種類の腸の外科手術後の宿主を処置するために用いることができる。
【0114】
GLP−2の類似体は当技術分野で周知である。いくつかの実施形態では、GLP−2の類似体は、脊椎動物に天然に存在するGLP−2および天然に存在する形態のGLP−2の類似体からなる群より選択することができ、GLP−2の類似体は腸栄養(intestinotrophic)作用を引き出し、また、所与の脊椎動物GLP−2と比較して、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、置換により、またはアミノ酸(複数可)へのブロック基の組み込みにより構造的に変更されている。他のGLP−2の類似体は、それぞれが参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,834,428号;同第5,994,500号に記載されている。
【0115】
GLP−2の種々の脊椎動物の形態としては、例えば、ウシ(ox)GLP−2を含めたラットGLP−2およびその相同体、ブタGLP−2、デグーGLP−2、ウシ(bovine)GLP−2、モルモットGLP−2、ハムスターGLP−2、ヒトGLP−2、ニジマスGLP−2、およびニワトリGLP−2が挙げられ、その配列は、Buhlら、J. Biol. Chem.、1988年、263巻(18号):8621頁、NishiおよびSteiner、Mol.Endocrinol.、1990年、4巻:1192〜8頁、ならびにIrwinおよびWong、Mol. Endocrinol.、1995、9巻(3号):267〜77頁を含め、多くの著者により報告されている。脊椎動物GLP−2の類似体は、全て本明細書において提供される手引きに従って、ペプチド化学の標準の技法を用いて生成することができ、腸栄養活性について評価することができる。本発明の特に好ましい類似体は、以下のヒトGLP−2の配列に基づくものである:
【0116】
【化2】
ここで、1つまたは複数のアミノ酸残基は、類似体が依然として脊椎動物における小腸の成長、膵島の成長、および/または陰窩/絨毛の高さの増大などの腸栄養活性を維持する限りは別のアミノ酸残基で保存的に置換される。任意の天然に存在するGLP−2、好ましくはヒトGLP−2配列における保存的置換は、以下の5群のいずれかの範囲内の交換と定義される:
I. Ala、Ser、Thr、Pro、Gly
II. Asn、Asp、Glu、Gln
III. His、Arg、Lys
IV. Met、Leu、Ile、Val、Cys
V. Phe、Tyr、Trp。
【0117】
任意の脊椎動物GLP−2配列におけるアミノ酸の非保存的置換は、非保存的置換が異なる種から単離されたGLP−2において変動することが公知であるアミノ酸位で起こるのであれば包含される。非保存的な残基の位置は、公知の脊椎動物GLP−2配列の全てをアラインメントすることによって容易に決定される(例えば、Buhlら、J. Biol. Chem.、1988年、263巻(18号):8621頁、NishiおよびSteiner、Mol. Endocrinol.、1990年、4巻:1192〜8頁を参照されたい)。哺乳動物において変動するアミノ酸位および非保存的な残基で置換することができるアミノ酸位は、いくつかの実施形態では、13位、16位、19位、20位、27位、および28位であり得る。脊椎動物において変動する追加的なアミノ酸残基および非保存的な残基で置換することもできる追加的なアミノ酸残基は、2位、5位、7位、8位、9位、10位、12位、17位、21位、22位、23位、24位、26位、29位、30位、31位、32位、および33位に現れる。
【0118】
あるいは、非保存的置換は、アラニンスキャニング突然変異誘発により、アミノ酸残基をアラニンで置換することにより全ての腸栄養活性が破壊されないという点で突然変異に対するいくらかの耐容能が示される任意の位置でなされてよい。アラニンスキャニング突然変異誘発の技法は、CunninghamおよびWells、Science、1989年、244巻:1081頁に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。大多数のGLP−2配列がおよそ33アミノ酸のみからなる(また、ヒトGLP−2ではアラニンがすでに4位に現れる)ので、当業者は、残りの位置のそれぞれにおけるアラニン類似体を腸栄養性作用について下記の実施例に教示されている通り容易に試験することができる。
【0119】
脊椎動物GLP−2の公知の配列をアラインメントすることにより、これらのGLP−2種の中の有意な配列相同性ならびに種間で変動することが公知である残基を考慮に入れた一般式が構築された。この式を使用して、置換、付加、欠失、またはアミノ酸ブロック基を加えることによる修飾のための特定の好ましい非保存的な残基の選択を手引きすることができる。したがって、本発明に包含される特定の脊椎動物GLP−2の類似体は、その態様のうちの1つによると、以下に配列番号2として示される一般式に合致する脊椎動物GLP−2の類似体およびGLP−2の類似体である。
【0120】
【化3】
ここで、aaとは、任意のアミノ酸残基を指し、aa1〜aa6は、異なる種から得たGLP−2配列の間で変動することが公知である残基の位置であり、
Xは、群IIIから選択される1つまたは2つのアミノ酸、例えば、Arg、LysまたはArg−Argなどであり、
Yは、群IIIから選択される1つまたは2つのアミノ酸、例えば、Arg、LysまたはArg−Argなどであり、
mは、0または1であり、
nは、0または1であり、
R1は、HまたはN末端ブロック基であり、
R2は、OHまたはC末端ブロック基である。
【0121】
本発明の実施形態のいくつかでは、aa1〜aa6は下で定義される通りである:
aa1は、群IVから選択され、
aa2は、群IまたはIIから選択され、
aa3は、群Iから選択され、
aa4は、群IIIから選択され、
aa5は、群IVから選択され、
aa6は、群IIまたはIIIから選択される。
【0122】
本発明の特に好ましい実施形態では、aa1〜aa6は、以下の通り、異なる種から単離されたGLP−2のその位置に現れることが公知である残基の群から選択される:
aa1はIleまたはValであり、
aa2はAsnまたはSerであり、
aa3はAlaまたはThrであり、
aa4はLysまたはArgであり、
aa5はIleまたはLeuであり、
aa6はGlnまたはHisである。
【0123】
ヒトGLP−2とラットGLP−2は、19位のアミノ酸残基のみが互いと異なる。ヒト配列では、この残基はアラニンであり、ラットGLP−2では、19位はトレオニンである。したがって、本発明に包含される特定のGLP−2またはGLP−2の類似体は、19位に可変性の残基を含有する。本発明のこれらの実施形態では、GLP−2ペプチドは以下に示される配列番号3に合致する:
【0124】
【化4】
ここで、aa3、Y、m、X、n、R1およびR2は上で定義された通りである。
【0125】
他の実施形態では、シグナル配列は、これらに限定されないが、GLP−1、PDX−1、GIP、GLP−2、インスリン、成長ホルモン、プロラクチン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、副甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、甲状腺刺激ホルモン、血管作動性腸管ポリペプチド、トレフォイルファクター、細胞および組織修復因子、トランスホーミング増殖因子β、ケラチノサイト成長因子;逆平行4αヘリックス束構造をとる構造的第1群サイトカイン、例えば、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、GM−CSF、M−CSF、SCF、IFN−γ、EPO、G−CSF、LIF、OSM、CNTF、GH、PRLまたはIFNα/βなど;多くの場合、細胞表面結合性であり、対称のホモ三量体を形成し、サブユニットが特定のウイルスコートタンパク質に関して説明されるβゼリーロールのコンフォメーションをとる構造的第2群サイトカイン、例えば、サイトカインのTNFファミリー、例えば、TNFα、TNFβ、CD40、CD27またはFASリガンド、サイトカインのIL−1ファミリー、線維芽細胞成長因子ファミリー、血小板由来増殖因子、トランスホーミング増殖因子pおよび神経成長因子など;大きな膜貫通前駆体分子として産生され、それぞれが細胞外領域に少なくとも1つのEGFドメインを含有する短鎖α/β分子を含む構造的第3群サイトカイン、例えば、サイトカインの上皮成長因子ファミリー、保存されたシステイン残基の周りに群分けされたアミノ酸配列を保有することによって特徴付けられるケモカイン(C−CまたはC−X−Cケモカインサブグループ)またはインスリン関連サイトカイン;異なるドメイン、例えば、EGF、免疫グロブリン様およびクリングルドメインで構成されるヘレグリンまたはニューレグリンなどのモザイク構造を示す構造的第4群サイトカインを含めた、分泌されたペプチドまたはその類似体、断片もしくは部分を含んでよい。これらの分泌されたペプチドの生物学的に活性な類似体、断片および部分は、当技術分野で公知である。
【0126】
いくつかの実施形態では、組換え細胞は、誘導性プロモーターを含んでよい。いくつかの実施形態では、プロモーターは、グルコース応答性プロモーターであってよい。いくつかの実施形態では、プロモーターは、fliCプロモーターであってよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、分泌タグをさらに含んでよい。いくつかの実施形態では、分泌タグは、fliC分泌タグであってよい。いくつかの実施形態では、分泌タグは、アルファ溶血素(HlyA)分泌タグであってよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、細胞透過性ペプチド(CPP)配列をさらに含んでよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、シグナル配列を、シグナル配列にコードされるシグナルおよび細胞透過性ペプチド配列にコードされる細胞透過性ペプチドを含む融合タンパク質として発現することができ得る。
【0127】
5.4.治療方法
疾患または障害を処置するための方法が提供される。一実施形態では、方法は、疾患予防因子の発現を刺激するため、または疾患の原因因子の発現を阻害するために有効な条件下で細胞を宿主に投与することを含んでよい。いくつかの実施形態では、疾患は、自己免疫疾患、癌、内分泌疾患、代謝疾患、心臓血管疾患またはそれらの組合せであってよい。
【0128】
いくつかの実施形態では、疾患または障害は、糖尿病(これらに限定されないが、1型糖尿病、2型糖尿病および肥満に関連する糖尿病を含む)、肥満症、メタボリックシンドローム、クローン病、フェニルケトン尿症、カエデシロップ病、ヒスチジン血症、高血糖症、糖尿病性網膜症、冠動脈心疾患、毛細管内糸球体硬化症、腎症、ニューロパチー、四肢の潰瘍もしくは壊疽、アテローム性動脈硬化症、高コレステロール血症、高血圧、高タンパク血症、タンパク尿症、骨粗鬆症、貧血、高リポタンパク血症、ケトアシドーシス、高トリグリセリド血症、乳酸アシドーシス、心筋症、ウィルソン病、白質ジストロフィー、フコース蓄積症、ならびに、胃腸癌、胃癌、胆嚢癌、消化管間質腫瘍、肝臓癌、膵癌、結腸癌などの癌、化学療法誘導性下痢;炎症性腸疾患、心室細動および心房細動、術後臓器不全、過敏性腸症候群、間質性膀胱炎/膀胱疼痛症候群、短腸症候群、潰瘍性大腸炎、または骨粗鬆症であってよい(またはそれを含んでよい)。
【0129】
本明細書に開示されている方法は、あらゆる種類の腸の外科手術後の宿主を処置するためにも用いることができる。
【0130】
本明細書に開示されている方法に従って投与される細胞の有効量(または「治療有効」量)は、当技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。有効量は、望ましくない生理的状態もしくは疾患の病期、投与経路および/または当業者に公知の他の因子に左右され得る。例えば、種々の実施形態では、細胞の有効量は、少なくとも約10CFU/kg、少なくとも約10CFU/kg、少なくとも約10CFU/kg、または少なくとも約10CFU/kgであり得る。他の実施形態では、細胞の有効量は、宿主の体重1kg当たり約10〜1014CFU、10〜1012CFU、または1010〜1011CFUである。別の実施形態では、細胞の有効量は、宿主の体重1kg当たり約1×1010CFU、2×1010CFU、3×1010CFU、4×1010CFU、5×1010CFU、6×1010CFU、7×1010CFU、8×1010CFU、9×1010CFUまたは10×1010CFUである。
【0131】
例えば、一実施形態では、有効量は、以下の通り算出することができる。8×1010CFU/kgの所望量がおよそ4.0×1011CFU/g(市販されている通り)のプロバイオティクスサプリメントで投与されると仮定し、ヒトの体重範囲を小児について25kg〜成人について75kgと仮定すると、これは、5〜15g/dの1日用量を意味することになる。しかし、コロニー形成効率が2桁高い場合には(報告されている通り、Rao、S.ら、Toward a live microbial microbicide for HIV: Commensalbacteria secreting an HIV fusion inhibitor peptide;Proc Natl Acad Sci USA 102巻、11993〜11998頁(2005年)を参照されたい)、用量は50〜150mg/dになる。他の実施形態では、用量は、10〜100mg/d、100〜200mg/d、200〜300mg/d、300〜400mg/d、400〜500mg/d、500〜600mg/d、600〜700mg/d、700〜800mg/d、800〜900mg/d、900〜1000mg/dまたは1000〜2000mg/dである。
【0132】
腸上皮細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングするための方法も提供される。一実施形態では、該方法は、プロモーターおよびシグナル配列を含む組換え細胞を投与するステップを含んでよい。複数の実施形態は、プロモーターおよびシグナル配列を含む組換え細胞を投与することによって糖尿病を処置する方法を対象とし得る。さらなる実施形態では、シグナル配列は、標的核酸の発現を調節し得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、環境刺激に応答して標的核酸の発現を調節し得る。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、GIP、GLP−1、GLP−2、PDX−1、その断片、その類似体、またはそれらの組合せであってよい。いくつかの実施形態では、標的シグナル配列は、疾患予防因子の発現を刺激すること、または疾患もしくは障害の原因因子の発現を阻害することができ得る。いくつかの実施形態では、環境刺激はグルコースであり得る。いくつかの実施形態では、疾患予防因子は、インスリンを含んでよい。いくつかの実施形態では、組換え細胞を投与することにより、健康な宿主における血中インスリンレベルの上昇は引き起こされない。
【0133】
血中グルコースレベルを低下させるための方法も提供される。一実施形態では、該方法は、有効量の組換え細胞を、それを必要とする宿主に投与することを含んでよい。いくつかの実施形態では、該方法により、血中グルコースレベルが低下し、その結果、宿主は血糖正常のレベルを有する。いくつかの実施形態では、該方法により、血中グルコースレベルが、処置の30日後に、約20%〜約80%、約30〜約70%、または約40%〜約60%低下する。いくつかの実施形態では、宿主が高血糖である場合、組換え細胞を投与することにより、外因性インスリンを宿主に治療的投与する必要性が減少する、または排除される。いくつかの実施形態では、組換え細胞は、宿主におけるグルコースのレベルに応答する。例えば、いくつかの実施形態では、宿主のグルコースレベルがほんのわずかに上昇している場合、組換え細胞は、グルコースレベルを、血糖正常のレベルに到達するようにだけ低下させ、グルコース欠乏を引き起こさないように働く。
【0134】
血中インスリンレベルを上昇させるための方法も提供される。一実施形態では、該方法は、有効量の組換え細胞を、それを必要とする宿主に投与することを含む。いくつかの実施形態では、血中インスリンレベルを上昇させる方法により、宿主が血糖正常のレベルを有するようになる。いくつかの実施形態では、該方法により、グルコースに応答して血中インスリンレベルが上昇する。いくつかの実施形態では、該方法により、処置の30日後に、血中インスリンレベルが約20%〜約80%、約30〜約70%、または約40%〜約60%上昇する。
【0135】
腸の細胞を再プログラミングする(または分化させる)ための方法も提供される。一実施形態では、腸の細胞は、腸上皮細胞、例えば、腸内分泌細胞、パネート細胞、吸収腸細胞または杯細胞である。一実施形態では、該方法は、有効量の組換え細胞を腸の細胞に投与することまたは局在化させることを含む。そのような方法は、in vitroまたはin vivoで行うことができる。該方法は、そのような再プログラミングされた、分化した、または前処理された腸の細胞を、それを必要とする宿主または患者に投与することをさらに含んでよい。該方法は、そのような再プログラミングされた、分化した、または前処理された腸の細胞を、それを必要とする宿主または患者に移植することをさらに含んでよい。
【0136】
腸上皮細胞を再プログラミングするための方法も提供される。そのような方法は、より伝統的なウイルスに媒介される手法を超えるいくつかの有利な点を有し得る。理論に束縛されることを望むものではないが、GLP−1を送達するために共生細菌を使用することによって、例えば、腸粘膜が排出される、脈管構造におけるGLP−1の酵素による分解が回避され得る。GLP−1は、血液に曝露されることなく管腔側面から腸陰窩に直接浸透し得る。腸陰窩では、腸の幹細胞が4種類の腸細胞に発達する。腸細胞の1種類である腸内分泌細胞は、脈管構造内にホルモンを分泌する。理論に束縛されることを望むものではないが、腸内分泌細胞は細菌によって分泌されたGLP−1の存在下でインスリン分泌性になると考えられる。そのような細菌株を開発して、基本的に体の他の部分では欠けていると思われる機能を交換しながら腸の幹細胞をいくつかの異なる種類の細胞に分化させることができる。例としては、β細胞以外の他の膵臓の機能(例えばα細胞)、さらには、おそらく、甲状腺機能、肝細胞機能または免疫応答性機能が挙げられる。
【0137】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示されている細胞を再プログラミングする方法をin vitroで用いて、細胞を再プログラミングし、それらを増殖させることができる。そのような再プログラミングされた細胞は、その後回収し、当技術分野で公知の方法を用いて宿主に投与する(または埋め込む)ことができる。
【0138】
5.5.診断方法および使用
いくつかの実施形態では、組換え細胞を別の治療用化合物と組み合わせて投与することができる。特定の実施形態では、組換え細胞を、相乗効果を有する化合物と組み合わせて投与することができる。他の実施形態では、組換え細胞を、DPP−4阻害剤、GLP−2、GLP−1アゴニスト、ジメチルスルホキシド、インスリン、アルファ−グルコシダーゼ阻害剤、プラムリンチド、メグリチニド、レパグリニド、ナテグリニド、クロルプロパミド、メトホルミン、スルホニル尿素、グリピジド、グリブリド、グリメピリド、チアゾリジンジオン、その断片、その類似体、またはそれらの組合せと併せて投与することができる。DPP−4阻害剤の例としては、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、リナグリプチン、デュトグリプチン(dutogliptin)、ジェミグリプチン(gemigliptin)、アログリプチン、ベルベリンなどが挙げられる。
【0139】
例えば、一部の態様では、上で定義された組換え細胞、および薬学的に許容される担体もしくは希釈剤を含む医薬組成物、または上で定義された組換え細胞を含む有効量の医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、1つまたは複数の安定剤をさらに含んでよい。
【0140】
共生細菌を使用する本明細書に開示されている方法の複数の実施形態では、追加的な利点は、ウイルスに媒介される手法には欠けるものである、ほぼ100年プロバイオティクスとして使用されていることによって確立されたそれらの安全性である。さらに、共生細菌は、必要であれば通常の抗生物質を使用して容易に死滅させることができる。共生細菌を使用することの別の利点は、共生細胞にフィードバックループを装備させ、特異的な管腔シグナル(例えば、グルコースまたはIL−8)に応じてGLP−1分泌を正確に制御させることが可能になることである。さらに、GLP−1を使用することにより腸細胞がグルコース応答性になり、腸細胞に、健康な個体においてβ細胞によって媒介されるインスリン制御とほぼ同様にインスリン用量の制御がもたらされることが示されている。最後に、腸細胞を再プログラミングするための共生細菌の使用により、最終的に、1型糖尿病、2型糖尿病、およびメタボリックシンドロームに対する単純な経口的に投薬される有効な治療薬が導かれる。
【0141】
5.6.投与経路および製剤
本発明の組換え細胞は、活性が残る任意の経路によって慣習的な様式で投与することができる。組換え細胞の活性が残る有効な経路は、当技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。組換え細胞の投与は、全身性、局所的、または経口的であってよい。例えば、投与は、これらに限定されないが、非経口経路、皮下経路、静脈内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、経皮経路、経口経路、頬側経路、もしくは眼経路であってよい、または膣内へのもの、吸入にもの、デポ注射によるもの、もしくは埋め込みによるものであってよい。したがって、本明細書に開示されている組換え細胞(単独で、または他の医薬品と組み合わせてのいずれかで)の投与形式は、これらに限定されないが、舌下投与形式、注射可能な投与形式(皮下または筋肉内に注射する、短時間作用形態、デポ剤形態、埋め込み形態、ビーズ形態、またはペレット形態を含む)、または膣クリーム剤、坐剤、膣坐薬、膣リング、肛門坐薬、子宮内デバイス、ならびにパッチ剤およびクリーム剤などの経皮的な形態を使用することによる投与形式であってよい。
【0142】
特定の投与形式は、適応症に左右される。特定の投与経路および用量レジメンの選択は、最適な臨床応答を得るために、臨床医により、臨床医に公知の方法に従って調整または用量設定される。投与される組換え細胞の量は、治療的に有効な量である。投与される投与量は、治療されている宿主の特性、例えば、治療される特定の動物、年齢、体重、健康、もしあれば、併用治療の種類、および治療の頻度に左右され、当業者(例えば、臨床医)が容易に決定することができる。
【0143】
組換え細胞および適切な担体を含む医薬製剤は、これらに限定されないが、有効量の組換え細胞を含む、錠剤、カプセル剤、カシェ剤、ペレット剤、丸剤、散剤および顆粒剤を含む固体剤形;これらに限定されないが、溶液、散剤、流体エマルション、流体懸濁剤、半固体、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ゲル剤およびゼリー剤、ならびに泡を含む局所用剤形;ならびにこれらに限定されないが、溶液、懸濁剤、エマルション、および乾燥散剤を含む非経口用剤形であってよい。活性成分は、そのような製剤中に、薬学的に許容される希釈剤、増量剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、界面活性物質、疎水性ビヒクル、水溶性ビヒクル、乳化剤、緩衝液、湿潤剤、保湿剤、可溶化剤、保存料などと一緒に含有されてよいことも当技術分野で公知である。投与するための手段および方法は当技術分野で公知であり、当業者は手引きのために種々の薬理的な参考文献を参照することができ、例えば、Modern Pharmaceutics、Banker & Rhodes、Marcel Dekker, Inc.(1979年);およびGoodman& Gilman's The Pharmaceutical Basis of Therapeutics、第6版、MacMillanPublishing Co.、New York(1980年)、およびRemington's: The Science and Practice ofPharmacy、第21版、Lippincott Williams & Wilkins、Baltimore、MD(2006年)を見ることができる。
【0144】
組換え細胞は、注射によって、例えば、ボーラス注射または連続注入によって非経口投与するために製剤化することができる。組換え細胞は、約15分〜約24時間の期間にわたって皮下に連続注入することによって投与することができる。注射用の製剤は、単位剤形で、例えば、アンプル内または複数回用量容器内に、添加した保存料とともに存在してよい。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁剤、溶液またはエマルションなどの形態をとってよく、製剤化作用剤、例えば、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などを含有してよい。
【0145】
経口投与するために、組換え細胞は、それを当技術分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって容易に製剤化することができる。そのような担体により、本発明の組換え細胞を、治療される患者が経口摂取するための錠剤、丸剤、糖剤、カプセル剤、液体、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などとして製剤化することができる。経口使用するための医薬調製物は、固体賦形剤を添加し、場合によって生じた混合物を粉砕し、所望であれば、錠剤または糖剤のコアを得るために適切な助剤を加えた後、顆粒剤の混合物を加工することによって得ることができる。適切な賦形剤としては、これらに限定されないが、これらに限定されないが、ラクトース、スクロース、マンニトール、およびソルビトールを含めた糖;セルロース調製物、例えば、これらに限定されないが、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、イネデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびポリビニルピロリドン(PVP)などの増量剤が挙げられる。所望であれば、崩壊剤、例えば、これらに限定されないが、架橋したポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などを添加することができる。
【0146】
糖剤のコアに適切なコーティングをもたらすことができる。この目的のために、場合によってアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポール(carbopol)ゲル、ポリエチレングリコール、および/もしくは二酸化チタンを含有し得る濃縮糖溶液、ラッカー溶液、ならびに適切な有機溶媒または溶媒混合物を使用することができる。異なる活性組換え細胞用量の組合せを同定するため、または特徴付けるために、錠剤または糖剤のコーティングに染料または色素を添加することができる。
【0147】
経口使用することができる医薬調製物としては、これらに限定されないが、ゼラチンで作られた押し込み型(push−fit)カプセル剤、ならびに、ゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤で作られた軟らかい密閉されたカプセル剤が挙げられる。押し込み型カプセル剤は、ラクトースなどの増量剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および場合によって安定剤との混和物中に活性成分を含有してよい。軟カプセル剤では、活性組換え細胞は、脂肪性油、液体パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体に溶解または懸濁されていてよい。さらに、安定剤を添加することができる。経口投与するための製剤は全て、そのような投与に適した投与量であるべきである。
【0148】
頬側投与するために、組成物は、例えば、慣習的な様式で製剤化された錠剤またはロゼンジの形態をとってよい。
【0149】
一実施形態では、製剤は制御放出製剤である。米国特許第8,007,777号(Borekら、2011年8月30日)には、プロバイオティクスの制御放出製剤の当技術分野で公知の例が開示されている。製剤は、親水化剤(hydrophilic agent)、電解剤および多糖を含有してよく、腸系に経口的に送達するための一体化した錠剤の形態であってよい。
【0150】
特定の実施形態では、組換え細胞を噴霧乾燥し、乾燥した細胞を当技術分野で公知の標準の方法を用いてカプセルに入れる。カプセルに入れる前に細胞を完全に乾燥させることが好ましい。
【0151】
他の好ましい投与経路および製剤は、当業者が、手引きのために標準の薬理学的な参考文献を見ることにより決定することができる。例えば、Remington's: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、LippincottWilliams & Wilkins、Baltimore、MD(2006年)、45〜47章には、本明細書に開示されている組換え細胞および方法と使用することができる適切な経口用固体剤形、薬剤形のコーティングならびに持続放出および標的化薬物送達システムが開示されている。
【0152】
吸入による投与については、本発明に従って使用するための組換え細胞は、適切な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスを使用して、加圧されたパックまたはネブライザーからエアロゾルスプレープレゼンテーション(aerosol spray presentation)の形態で都合よく送達される。加圧されたエアロゾルの場合では、投与単位は、計量された量を送達するための弁をもたらすことによって決定することができる。吸入器または吹き入れ器で使用するための、例えば、ゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、組換え細胞とラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤の粉末混合物を含有させて製剤化することができる。
【0153】
本発明の組換え細胞は、例えば、カカオバターまたは他のグリセリドなどの慣習的な坐薬基剤を含有する坐剤または停留浣腸などの直腸用組成物に製剤化することもできる。
【0154】
上記の製剤に加えて、組換え細胞は、デポ剤として製剤化することもできる。そのような長時間作用性製剤は、埋め込みによって(例えば、皮下または筋肉内に)、または筋肉内注射によって投与することができる。
【0155】
デポ注射は、約1ヶ月〜約6ヶ月またはそれより長い間隔で施すことができる。したがって、例えば、組換え細胞は、適切なポリマー材料もしくは疎水性材料(例えば、許容できる油中エマルションとして)またはイオン交換樹脂と一緒に、あるいはやや難溶の誘導体として、例えば、やや難溶の塩として製剤化することができる。
【0156】
経皮投与では、本発明の組換え細胞は、例えば、貼付剤に適用することができる、または結果的に生物体に供給される経皮的治療系によって適用することができる。
【0157】
組換え細胞の医薬組成物は、適切な固体担体もしくはゲル相担体または賦形剤も含んでよい。そのような担体または賦形剤の例としては、これらに限らないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリマー、例えばポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0158】
組換え細胞は、例えば、アジュバント、プロテアーゼ阻害剤などの他の活性成分、または他の適合する薬物もしくは組換え細胞と組み合わせることが本明細書に記載の方法の所望の効果の実現に望ましいまたは有利であると思われる場合に、そのような組合せで投与することもできる。
【0159】
いくつかの実施形態では、崩壊剤成分は、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、イオン交換樹脂、食物酸およびアルカリ性炭酸成分に基づく発泡系、粘土、タルク、デンプン、アルファ化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、セルロースフロック、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ケイ酸カルシウム、金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、またはリン酸カルシウムのうちの1つまたは複数を含む。
【0160】
いくつかの実施形態では、希釈剤成分は、マンニトール、ラクトース、スクロース、マルトデキストリン、ソルビトール、キシリトール、粉末セルロース、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、アルファ化デンプン、リン酸カルシウム、金属炭酸塩、金属酸化物、または金属アルミノケイ酸塩のうちの1つまたは複数を含む。
【0161】
いくつかの実施形態では、任意選択の潤滑剤成分が存在する場合、それは、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、フマル酸ステアリルナトリウム、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸エステル、ベヘン酸グリセリル、鉱油、植物油、パラフィン、ロイシン、シリカ、ケイ酸、タルク、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、ポリエトキシル化ステロール、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリエトキシル化植物油、または塩化ナトリウムのうちの1つまたは複数を含む。
【0162】
以下の実施例は、限定する目的ではなく、例示する目的で提供される。
【実施例】
【0163】
6.実施例
6.1. 実施例1:Escherichia coli NissleにおけるGLP−1の構成的発現
この実施例により、Escherichia coli NissleにおけるGLP−1の構成的発現が実証される。
【0164】
プラスミド構築:クローニングは全て、以前に記載された技法を用いて実施した(Sambrook,J. & Russell. D.W.、Molecular cloning: a laboratory manual. 第3版、Cold SpringHarbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.;2001年)。図1は、この試験において使用したプラスミドの概略図を提供する。E.coli DH5α由来のP0/P1プロモーターを試験するために、2種のプラスミドを作製した(pFD1およびpFD2)。pFD1は高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)の発現を駆動するためのP0/P1領域全体をコードした。pFD2は、EGFPの上流のプロモーターのP0領域のみをコードした。Caco−2細胞におけるインスリン分泌を刺激するための、組換え細菌からのインスリン分泌性タンパク質の分泌の有効性を試験するために、プラスミドpFD−PDX、pFD−GLP.およびpFD−20を本明細書に記載の通り構築した。図2は、グルコースに対するP0応答およびP0/P1応答を示す。EGFPの発現を用いて、P0プロモーターおよび/またはP1プロモーターの、異なる培地条件に対する応答を測定した。P0=P0のみ;P0+P1=P0プラスP1フランキング領域;DH5α=lacオペロン対照。グルコースに応答して組換えタンパク質を産生させるためのグルコース応答性プロモーター系の有効性を試験するために、2つの長さのE.coli DH5α由来のグルコース応答性プロモーター領域をpGlow−GFPの上流に、GFPとインフレームにTAクローニングした(図2に結果が示されている)。2種の構築物は、GFP開始のインフレームかつ上流で、P0プロモーター、またはP0プロモーターとP1プロモーターの両方にわたる領域からなった(Ryu,S. & Garges, S.、Promoter Switch in the Escherichia coli Pts Operon. Journalof Biological Chemistry 269巻、4767〜4772頁(1994年))。簡単に述べると、P0領域をE.coli DH5αのゲノムDNAからpGLOW−GFP(Invitrogen、Carlsbad、CA)にクローニングして(pFD2)を作製した。P0/P1領域をpGLOW−GFPにクローニングしてpFD1を作製した。哺乳動物PDX−I遺伝子をNissleにおいて発現させるために。プラスミドpFD−PDXを以下の通り構築した。2ラウンドの高忠実度PCR(Stratagene、La Jolla、CA)を用いて発現カセット6×HiS−Xpress−EK−PDX−1−CPPを得た。高忠実度PCRによってDH5αから全長FLICを得た。これらの2つの断片を、pBluescript−KSにクローニングして6×HiS−Xpress−EK−PDX−1−CPP−FLICを創出した。次に、6×HiS−Xpress−EK−PDX−1−CPP−FLIC断片をpGLOW−P0−GFPにクローニングして、E.coliのP0プロモーターを用いて6×HiS−Xpress−EK−PDX−1−CPP−FLICの発現を駆動するベクター(pFD−PDX)を創出した。
【0165】
タンパク質GLP−IをEscherichia coli Nissleにおいて構成的に発現させるために、プラスミドpFD−GLPを以下の通り構築した。配列6×HiS−Xpress−EK−GLP−1(1〜37)を合成により作製した(IDT、Coralville、IA)。この断片を高忠実度PCRによってpBluescript−KSに挿入してpBluescript−GLPを作製した。高忠実度PCRを用いて、pKS104由来の5’UTR−FLIC20配列をpBluescript−GLPにクローニングしてpBluescipt−20−GLPを作製した。得られたベクターは、配列:5’UTR−FLIC20−6×HiS−Xpress−EK−GLP−1(1〜37)を含有した。この配列をpKS121(FLICの3’UTRを含有する)にクローニングして、高忠実度PCRにより構築物:5’UTR−FLIC20−6×HiS−Xprcss−EK−GLP−1(1〜37)−3’UTRを得た。
【0166】
pFD−20を得るために、高忠実度PCRを用いて、pFD−GLPから5’UTR−FLIC20−6×HiS−Xpress−EK配列をクローニングした。PCR断片をpKS121にクローニングして、構築物:5’UTR−FLIC20−6×HiS−Xpress−EKを得た。pKS104およびpKS121は、University of Helsinki、Finland、Laboratory of Benita Westerlund−Wikstroemから得た。しかし、pKS104およびpKS121の配列は、商業的な供給源から得ること、または従来の方法を用いてゲノムから直接誘導し(例えば、GenBank、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbankからダウンロードされた配列)、当技術分野で公知の標準の方法を用いて構築することもできる。
【0167】
6.2. 実施例2:E.coli Nissleを、GLP−1またはPDX−1−CPPを分泌するように工学的操作すること
Escherichia coli Nissle1917(市販のプロバイオティクス株、以下Nissleと称される)を、fliCプロモーターの制御下でGLP−1(アミノ酸1〜37)またはグルコース応答性エレメントの制御下でPDX−1−CPPを分泌するように工学的に操作した。PDX−1は、分泌後の上皮への急速な進入を容易にするために、細胞透過性ペプチド(CPP)との融合物として分泌させた。PDX−1は、漏出性発現がほとんど観察されないグルコース応答性プロモーターエレメントの制御下で分泌させた。細胞を6〜8時間成長させ、600nmにおける光学濃度1に対して正規化し、遠心分離した。Nissleの上清中およびNissleの細胞ペレット中の分泌タンパク質GLP−1(上のブロット)およびPDX−1−CPP(下のブロット)についてのウエスタンブロットが図3に示されている。図3に関して、ペレットを溶解させ、各タンパク質の量を決定した(画分「C」)。上清を保存し、同様に分析した(画分「M」)。PDX−1−CPPを発現している細胞について、グルコース(0.4%)またはグリセロール(0.4%)を含有する培地で成長させた細胞間で比較を行った。空のプラスミドを発現している細胞(20)を陰性対照として使用した。これらのデータから、どちらのタンパク質も分泌されたことが明らかであった。
【0168】
6.3. 実施例3:GLP−1またはPDX−1−CPPを分泌するように工学的に操作されたE.coli Nissleによるインスリン分泌の誘導
この実施例により、GLP−1またはPDX−1−CPPを分泌するように工学的に操作されたE.coli Nissleによるインスリン分泌の誘導が実証される。
【0169】
工学的に操作されたNissle株がヒト上皮細胞におけるインスリン分泌を誘導することができるかどうかを試験するために、Caco−2細胞を、PDX−1−CPP、GLP−1、または陰性対照として20アミノ酸配列タグを発現しているNissle株の一晩培養物由来の無細胞培地(CFM)で培養した。一晩培養物を、グルコースを伴わないF−12K培地(Mediatech、Manassas、VA)(PDX−1を産生するためにグルコースを必要とするPDX−1株は例外)で成長させた。Caco−2細胞を、グルコースを伴わない新鮮なF−12K培地と、PDX−1−CPP(「P」)、GLP−1(「G」)、20アミノ酸配列タグ(「20」)、またはPDX−1−CPP CFMとGLP−1CFMの1:1の組合せ(「GP」)を分泌しているNissleの一晩培養物由来のCFMの1:1混合物中で16時間培養した後、培地を除去し、Caco−2細胞をグルコース(0.4%)またはグリセロール(0.4%)のいずれかを伴う培地で2時間培養した。グルコースチャレンジ後、各試料を、インスリン分泌および転写について分析した。陽性対照として、Caco−2細胞を新鮮なF−12K培地(グルコースを伴わない)でインキュベートし、同じく16時間GLP−1(アミノ酸1〜37)を獲得した後、グルコース(0.4%)またはグリセロール(0.4%)と一緒に2時間培養した。
【0170】
転写および酵素結合免疫吸着検定法の両方のデータにより、ヒト上皮を、一緒または別々のGLP−1およびPDX−1−CPP由来のCFMと一緒にインキュベートすると、インスリンを産生するように刺激されたことが示された(図4A〜B)。GLP−1(アミノ酸1〜37)CFMとのインキュベーションについて最大量のインスリン産生が一貫して見られた。PDX−1−CPP CFMにより、単独で添加しようとGLP−1と一緒に添加しようと、グルコース応答性インスリン分泌が刺激された。GLP−1−媒介性インスリン分泌とPDX−1媒介性インスリン分泌の両方がグルコースに応答して起こった。20アミノ酸配列タグ一晩培養物由来のCFMで培養した陰性対照の上皮ではグルコース応答性インスリン産生は示されなかった(図4A〜B)。PDX−1−CPP処置によりCaco−2細胞におけるグルコース応答性インスリン分泌がもたらされたこと(図4A〜B)は予想外であった。
【0171】
血液中のインスリンレベルは、10CFU mL〜10CFU mLにわたるNissle生存レベルに対して、それぞれ164fmol/リットル〜164pmol/リットルであることが推定された。成人の非糖尿病患者について食後の血清インスリン濃度が400pmolリットルまでの高さになり得るとすれば、最適化されていない工学的に操作された細菌は、インスリン放出を少なくとも正常な代謝に必要であるのと同じ桁の範囲内で刺激することができ得る。
【0172】
6.4. 実施例4:腸の細胞のグルコース応答性インスリン分泌細胞への再プログラミング
この実施例により、腸の細胞のグルコース応答性インスリン分泌細胞への再プログラミングが実証される。
【0173】
Nissleを、上記の通り、fliCプロモーターおよび分泌タグを使用して、GLP−1(1〜37)を分泌するように工学的に操作した。Nissleに挿入したカセットが図5に示されている。この株の培養物におけるGLP−1の分泌を検証し、pKD3染色体挿入カセットを伴わず同じ配列を含有するプラスミド担持株からの分泌と比較した(図5)。Nissle−GLP−1についての分泌量はプラスミド担持株の分泌量のおよそ半分であり、in vivoで試験することにより、いずれの株で処置したマウスの間でもグルコースレベルには有意差がないことが明らかになった(図6)。したがって、これらの調査の全体を通して、プラスミドにGLP−1を担持する株の代わりにNissle−GLP−1を使用した。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスではin vivoで組換えタンパク質の有意な発現が実証された(ヒスチジンタグ染色によって決定された通り)(図5)。
【0174】
GLP−1を分泌するように工学的に操作されたヒト共生細菌株を単純に経口投薬することにより、1型糖尿病のマウスモデルにおける高血糖症が、腸の細胞がグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングされることによって緩和されるかどうかを調査するために、ストレプトゾトシン(ストレプトゾシン、Zanosar(登録商標))(STZ)処置したマウスに、GLP−1(1〜37)を分泌するように工学的に操作された共生細菌(Nissle−GLP−1)を毎日摂食させた。耐糖能検査において、Nissle−GLP−1により、マウスの血中グルコースレベルが有意に低下し、インスリンレベルが有意に増加した。Nissle−GLP−1を摂食させた健康な(非糖尿病)マウスでは血中グルコースレベルまたは体重に変化はなかった。Nissle−GLP−1で処置したマウスでは腸上部の絨毛内でインスリン分泌細胞が発生した。クロモグラニンA(Chr−A)を用いたインスリン分泌細胞の共免疫染色により、腸内分泌細胞の「β様」細胞への細菌媒介性再プログラミングが示唆されている。これらの結果により、GLP−1を分泌するように工学的に操作されたヒト共生細菌株を投与することを含む、1型糖尿病を治療または緩和するための方法を、非常に低い費用で経口的に実行することができることが実証される。
【0175】
6.5. 実施例5:GLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌を用いたストレプトゾトシン(STZ)誘導性糖尿病マウスの治療
この実施例では、ストレプトゾトシン(STZ)誘導性糖尿病マウスを、GLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌を用いて処置するための典型的な方法を記載している。
【0176】
6〜8週齢の雄のストレプトゾトシン(STZ)誘導性糖尿病マウス(C57B6)に、細胞透過性ペプチドを有するGLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌(STZ+GLP)、またはランダムな20アミノ酸配列を発現しているE.coli Nissle1917細菌(STZベクター)のいずれかを摂食させた。「対照」マウスは、STZで処置しなかった。図7に関して、「Nissle前」の測定値は、STZ処置により血中グルコースレベルが有意に上昇した後、STZ処置したマウスにNissle細菌を摂食させる前に取得した。全ての細菌の摂食を30日後に停止した。細菌の摂食を開始した60日後に血中グルコースを再度測定した(「60日」)。値は、4匹のマウスの平均を示す。エラーバーは1標準偏差を示す。p値はスチューデントのt検定による(n=4)。結果は、GLP−1分泌細菌を摂食させた糖尿病マウスは処置の30日後に血糖正常のレベルに戻ったことを示す。驚いたことに、これらのマウスでは、さらに30日間、いかなる処置もせずに血中グルコースの正常なレベルが維持された。
【0177】
これらのマウスの解剖および免疫組織学的検査により、それらの腸組織におけるインスリンのレベルが、ランダムなペプチド配列を分泌する共生細菌のみを摂食させた対照と比較して高かったことが示された(図8A〜B)。図8Aに関して、高濃度のインスリンは矢印で示されている。
【0178】
6.6. 実施例6:1型糖尿病マウスの、GLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌を用いた治療
この実施例では、1型糖尿病マウスを、GLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌を用いて処置するための典型的な方法を記載している。
【0179】
Nissle−GLP−1の1型真性糖尿病(T1DM)に対する効果を決定するために、T1DMのSTZマウスモデルを作製した。雄のC57BL/6J(B6)マウスを、高用量のSTZで処置し、高血糖症が発症したら(ランダムなグルコースレベル>350mg/dL)、マウスにNissle−GLP−1もしくはNissleのいずれかを摂食させた、または処置しなかった。共生細菌の摂食は、1日2回、およそ8時間の間隔を空けて行った。血糖正常の対照として、マウスの1つの群にはSTZ処置もせず、共生細菌も摂食させなかった(対照)。マウスのランダムなグルコースレベル(図9B)および体重(図9C)を80日にわたってモニターした。β細胞質量を測定した(図9A)。Nissle単独の摂食は、STZ処置し、共生細菌を与えなかったマウスと比較してランダムな血中グルコースレベルに対する有意な効果を有さなかった(図9B)。しかし、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、摂食を始めてから16日以内に、有意に低いランダムな血中グルコースレベルを示した。80日の期間にわたって、試験に含まれたマウスのいずれにおいても体重に有意差はなく、マウスのいずれにおいても有意な体重増加はなかった。
【0180】
共生細菌処置した89日後に、マウスを耐糖能検査に供した。マウスを10時間絶食させた後、グルコースをi.p.注射した。グルコース注射した後、30分ごとに1.5時間にわたって血中のインスリンレベルおよびグルコースレベルを測定した(それぞれ図9Dおよび9E)。0.5時間および1.5時間の時点で、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスとSTZのみのマウスの間でインスリンレベルの有意差が見られた。いずれの時点でも、Nissle GLP−1を摂食させたマウスと処置しなかった対照マウスの間でインスリンレベルに有意差はなかった(図9D)。実験全体を通して、マウスの4つの群全ての間で血中グルコースレベルに有意差があった。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、耐糖能検査全体を通してSTZのみのマウスの50%未満の血中グルコースレベルを示したが、STZを与えなかった対照マウスの2倍の高さの血中グルコースレベルを有した(図9E)。興味深いことに、グルコースを注射する前(時間=0)には、Nissle処置したマウスの血中グルコースはSTZ処置したマウスと有意差がなかったが、グルコース注射した1時間後には、Nissle処置したマウスは、STZ処置したマウスよりもほぼ33%低い血中グルコースレベルを示した。
【0181】
マウスの腸を、インスリンの存在について免疫染色した (図10A〜F)。インスリン含有細胞のポケットがNissle−GLP−1で処置したマウスにおいて見いだされたが、この試験に用いた他のマウスのいずれにおいても見いだされなかった。これらのポケットの相対的な発生頻度が示されている(図10A〜B)。全体的な上皮細胞集団の百分率として、ポケットは1%未満を構成すると推定される(図10B)。予測通り、STZはT1DM応答を引き出すことに有効であった。β細胞質量は、STZ処置したマウスについて有意に低く(図9A)、またSTZ処置したマウスの血中のグルコースレベルおよびインスリンレベルはT1DMと一致した(図9B、D、E)。STZ処置したマウス全てについてβ細胞質量が同等に低下したことにより、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおける膵臓のβ細胞の再生はインスリンを増加させる、または血中グルコースを低下させる機構ではないことが示された。
【0182】
どの種類の腸細胞(パネート細胞、吸収細胞、杯細胞または腸内分泌細胞)が、再プログラミングされてインスリン含有細胞になったかを決定するために、細胞を、4種の細胞型のそれぞれの代表的なタンパク質に対する抗体を用いて青色で共染色した:パネート細胞についてはNOD−2、杯細胞についてはムチン−2(MUC−2)、吸収細胞についてはスクロースイソマルターゼ(SI)、および腸内分泌細胞についてはクロモグラニンA(Chr−A)。NOD−2、MUC−2、またはSIについて重複した染色は見られなかった(それぞれ図10C、DおよびE)。しかし、Chr−Aについてインスリンと重複した染色が見られた(図10F)。マウスの腸の免疫染色により、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスではインスリン含有細胞が示され(図10A)、Nissleを摂食させたマウスまたは対照マウスではインスリン含有細胞は示されなかった(図10B)。4種類の腸内細胞のそれぞれの代表的なタンパク質に対する抗体を用いた共染色により、これらの細胞の系列が腸内分泌細胞に関連することが示唆された(図10F)。この結果により、血液中へのホルモンの分泌は通常、腸内分泌細胞の機能であり、他の3つの細胞型の機能ではないと予測された。
【0183】
健康なマウス(STZ処置していない)にもNissleおよびNissle−GLP−1を摂食させ、それらの血中グルコースレベルは、共生細菌を摂食させなかった健康なマウスの血中グルコースレベルと有意に異ならなかった(図11A〜B)。結果は、94日の期間にわたって、処置していない健康なマウス(対照)といずれの処置マウスとの間にもランダムなマウスの血中グルコースレベルに有意な変化はないことを示している(図11A)。マウスの体重変化にも、この時間にわたって差異はなかった(図11B)。Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウス(図11)について血中グルコースまたは体重に変化がないことを示すデータを、Nissle−GLP−1により血中グルコースレベルが有意に低下し得ることを示すデータと並べて検討すると、全体像は、糖尿病に対する有効かつ安全な潜在的治療の1つであり、これは、グルコース応答性であり、非糖尿病系と同様のインスリンカイネティクスを伴うものである(図9D)。すなわち、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおけるインスリンレベルの変化は、健康なマウスにおいて起こるインスリンレベルの変化より少ない程度ではあるが、同じタイミングで起こる。
【0184】
これらのデータは、糖尿病マウスにNissle−GLP−1を摂食させることにより、グルコース応答性インスリン産生が引き起こされ、血中グルコースレベルが有意に低下し得ることを示唆している。理論に束縛されることを望むものではないが、インスリン分泌の機構は、再プログラミングされた腸の細胞のポケット由来のものであると思われる。これらのポケットは、インスリンに加えてChr−Aを発現し、これは、これらのポケットが腸内分泌細胞に由来することを示唆している。Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウスからの結果を考慮すると、証拠により、この治療は、たとえ非糖尿病患者が受けたとしても安全であると思われることが示唆される。
【0185】
6.7. 実施例7:染色体を改変したE.coli Nissleと、プラスミドを含有するE.coli NissleにおけるGLP−1の発現
この実施例では、染色体を改変したE.coli Nissleと、プラスミドを含有するE.coli NissleにおけるGLP−1の発現の比較について記載している。
【0186】
GLP−1発現を維持するために選択圧力が必要ない細菌を工学的に操作した。株の比較において、染色体を改変したNissleから培地中に分泌されるGLP−1の相対的な濃度は、プラスミド由来のGLP−1を発現しているNissleから分泌されるGLP−1の相対的な濃度よりも低いことが見いだされた。しかし、染色体からGLP−1を発現しているNissleは、in vivoにおいてプラスミド由来のGLP−1を発現しているNissleと同様に有効であった(図5)。細菌培養物において分泌されたGLP−1の量とin vivoにおける血中グルコースレベルが低下したことの間に相関がないことにはいくつかの理由があり得る。マウスの腸におけるNissleの生存性を測定することにより、Nissle、プラスミド由来のGLP−1を発現しているNissleまたはNissle−GLP−1を摂食させた株間に差異がないことが明らかになった(図12)。腸粘膜におけるGLP−1安定性は、粘膜プロテアーゼにより損なわれ、それによって有効な輸送が分泌速度よりもはるかに低下する可能性がある。マウス消化管内の理想より劣る成長条件(pH、栄養分など)(Nissleは、ヒトプロバイオティクスである)により、いずれの株についても最適より劣る遺伝子発現が導かれる場合もあり得た。
【0187】
グルコース応答試験におけるインスリン分泌のカイネティクスは、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスおよび対照マウスについて同様であると思われたが(図9D)、血中グルコースの低下はSTZで処置したマウスの全てにおいて遅延した(図9E)。しかし、Nissleを摂食させたマウスは対照マウスと同一のカイネティクスを示した。この結果は予想外であり、別の機構によって説明できる可能性がある。Nissleを摂食させたマウスについて、STZのみのマウスと比較して、グルコース応答試験において血中グルコースがより急速に低下したことも予想外であった(図9E)。これは、Nissle単独によるある程度の保護を示す。この保護はランダムなグルコースレベルでは現れなかったが、これは、血中グルコースのスパイクの影響を弱めると思われる。グルコースをi.p.注射すると見られるように、腸のグルコースの細菌による消費は可能性のある機構として除外することができる。
【0188】
6.8. 実施例8:血中グルコースレベルに対するNissleの摂食の効果
この実施例により、マウスにおける、血中グルコースレベルに対するNissleの摂食の効果が実証される。
【0189】
実験の開始時に、マウスにSTZを5日間摂食させた(体重1kg当たり40mg)(STZ処置は「STZ停止」で終了する)。300mg/dLを超えるランダムな血中グルコースレベルが持続し始めた後、マウスに、ダミープラスミドを発現しているNissle単独で(STZ+ベクター)、同じプラスミド由来のGLP−1(1〜37)を発現しているNissle(STZ+GLP)のいずれかを含めたNissle処置を開始した、またはSTZなしで処置もしなかった(対照)。タイムラインにおいて摂食は「Nissle開始」で示されている。Nissleを、「Nissle停止」で示されている時間まで1日2回摂食させた。マウスは、基本的に、この時点で、「Nissle1回」で示されている時間まで放置した(通常の世話外)。その時点で血中グルコースを測定し、Nissleをマウスに1回摂食させた。次いで、マウスを最後の時点まで放置し、そこで血中グルコースを測定した。図13を参照されたい。平均が提示されており(n=3)、エラーバーは1標準偏差を示す。
【0190】
非肥満糖尿病(NOD)マウスにNissle単独で、GLP−1(1〜37)を染色体性に発現しているNissleのいずれかを1日2回摂食させた、または処置しなかった。マウスを、血中グルコースを測定する直前の4時間絶食させた。図14に関して、時間は、処置を開始した後の日数を示す。平均が提示されており(n=少なくとも3)、エラーバーは1標準偏差を示す。p値はスチューデントのt検定による。
【0191】
図15は、組換え細胞の推定作動方法を示す。左:粘膜Mの内部および上部の内腔B内に細菌を伴う正常な腸陰窩である。腸内分泌細胞(E)は固有層(LP)および脈管構造V内にホルモンを分泌する。右:本明細書の実施形態の組換え細胞(EB)は、GLP−1(EBから出ている点)を陰窩内に分泌して、初期の腸内分泌細胞をインスリン分泌細胞(RE)に再プログラミングする。次いで、グルコースに応答してインスリン(Ins、星印)が血流中に分泌される。
【0192】
理論に束縛されることを望むものではないが、組換え共生株を単純な経口投薬で、有意なバックグラウンド発現はなく、グルコース応答性を伴い使用することにより、インスリン注射の必要性を有意に低下させること、または、排除することさえでき、その使用が、宿主インスリン合成の交換により、糖尿病患者によって示される長期合併症の減少に役立ち得ると考えられている。
【0193】
6.9. 実施例9:GLP−1試験のための元の構築物および新しい構築物の配列
本明細書に開示されている方法に従って以下の構築物を使用することができる。
【0194】
実施例1〜11において使用した元のNissle−GLP−1構築物
【0195】
【化5】
ここで、
【0196】
【化6】
使用することができる別のプロモーターNissle−GLP−1構築物
【0197】
【化7】
ここで、
【0198】
【化8】
乳酸桿菌属構築物
【0199】
【化9】
ここで、
【0200】
【化10】
6.10. 実施例10:糖尿病マウスにおいて、共生細菌により分泌されるGLP−1により腸の細胞が再プログラミングされて、高血糖症が減少する
細菌によって分泌されたGLP−1を糖尿病マウスに、腸に摂食させることより、グルコース応答性インスリン産生が引き起こされ、血中グルコースレベルが有意に低下し得る。インスリン分泌の機構は、再プログラミングされた腸の細胞によるものであると思われる。これらの細胞は、PDX−1をほとんど発現せず、ほんの一部のみがインスリンに加えてChrAを発現するという点で大多数の膵臓のβ細胞とは別個のものである。
【0201】
導入
グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)は、マウスの腸上皮細胞のインスリン分泌細胞への変換を刺激する。本発明者らは、GLP−1を分泌するように工学的に操作されたヒト共生細菌株を単純に経口投薬することにより、腸の細胞がグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングされることによって1型真性糖尿病(T1DM)のマウスモデルにおける高血糖症が緩和され得るかを調査した。糖尿病マウスに、GLP−1を分泌するように工学的に操作された共生細菌(Nissle−GLP−1)を毎日摂食させた。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、インスリンレベルの有意な増加を示し、また耐糖能が有意に大きかった。これらのマウスでは、腸上部に、健康なマウスに見いだされる膵臓のβ細胞のおよそ82%が置き換わるために十分な数のインスリン産生細胞が発生した。驚いたことに、PDX−1の発現は、再プログラミングされた細胞において、上皮周囲よりも定性的に低かった。さらに、再プログラミングされた細胞のサブセットをクロモグラニンA(ChrA、腸内分泌およびβ細胞に対するマーカー)について共染色した。健康な(非糖尿病の)Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは同様に再プログラミングされた細胞を示したが、処置した後90日間を超えてさえ、血中グルコースレベルの変化はなく、体重は増加し、それは対照マウスと区別できないものであった。これらの結果は、T1DMに対する潜在的な経口的治療を指し、腸内細胞の運命を媒介するための細菌のシグナル伝達の概念を導入する。
【0202】
非β細胞をβ細胞またはインスリン分泌の潜在力を有する細胞に再プログラミングすることは、ここ10年にわたり、いくつかの試験の対象になってきた。研究は、移植するためにin vitroで膵臓細胞系列(腺房細胞など)および肝臓細胞系列からβ細胞を生成すること、ならびにin vivoで膵臓特異的細胞または他の組織特異的細胞のβ細胞への変換を引き起こすことを含めたいくつもの領域に焦点を合わせている。以前は不活性であると考えられていたグルカゴン様ペプチド1の形態(GLP−1(1〜37))が、ラット腸上皮細胞を刺激して、Notchシグナル伝達経路を通じてグルコース応答性インスリン分泌細胞にさせ得るという発見(Suzuki, A.、Nakauchi, H. & Taniguchi, H.、Glucagon-like peptide 1(1-37) converts intestinal epithelial cells into insulin-producing cells. ProcNatl Acad Sci USA 100巻、5034〜5039頁(2003年))により、この後者の手法の潜在性が実証された。Suzukiは、胎生期10.5日(E10.5)に、母親にGLP−1を腹腔内(i.p.)注射した発達中のラット胚の腸上部にいくつかのインスリン産生細胞が示されることを報告した。成体ラット(10週間)は、GLP−1を毎日、9日間注射すると、いくつかの(ずっと少ないが)腸インスリン産生細胞を有した。これにより、未分化の腸上皮(ラットにおける分化はE15後に起こる)を有するラットは、腸の細胞を「β様」細胞に分化させることができることが示唆された。この試験により、発達初期の空腸(E14.5)を、GLP−1と一緒にin vitroでインキュベートし、成体糖尿病ラットに外科的に埋め込むことにより、STZ誘導性T1DMを逆転させることができることも実証された。著者らは、成体腸細胞分化(腸陰窩から起こる)では有意な数のインスリン産生細胞が生じないこと、ならびにβ様機能性を有する細胞に有意に分化するためには発達中の胎児(E17前)の増殖細胞および多列細胞が必要になる可能性が高いことを結論づけた。
【0203】
Suzukiの研究により、腸の細胞の再プログラミングを媒介し得る生理活性化合物を、外科手術をせずに送達することの難しさが実証された。GLP−1自体の血液中の半減期はたった数分である。この短い半減期が、GLP−1が腸陰窩に到達するために循環中に長く生存しなければならない成体ラットにおいて再プログラミング速度が低いことの理由になってきた。外科手術の潜在的な落とし穴または血流内での分解を回避する、生理活性化合物を腸上部の管腔(絨毛)側に送達する1つの方法は、腸に定植している共生細菌からシグナルを分泌させることである。この手法により、シグナルを連続的にまたは局部刺激に応答して発現させ、その後、血液ではなく腸粘膜を通じて輸送することが可能になる。
【0204】
工学的に操作された共生細菌により、in vitroにおいてGLP−1(1〜37)をヒトの腸の細胞に送達し、グルコース応答性インスリン分泌を刺激することができる(Duan, F.、Curtis, K. L. & March, J. C.、Secretion ofinsulinotropic proteins by commensal bacteria: rewiring the gut to treatdiabetes. Appl Environ Microbiol 74巻、7437〜7438頁(2008年))。その研究では、E.coli Nissle1917(EcN)を、外因性誘導因子に応答してプラスミドからGLP−1(1〜37)を分泌するように形質転換した。この調査では、EcN染色体を、GLP−1(1〜37)を構成的に分泌するように改変することにより(Nissle−GLP−1)、T1DMのマウスモデルにおいて正常血糖が回復するかどうかを試験した。本発明者らの目的は、Nissle−GLP−1を毎日摂食させることによってマウスの腸の細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングすることであった。本発明者らは、β細胞および腸内分泌マーカーの同時発現も測定して、再プログラミングの程度ならびに再プログラミングされた細胞の系列を決定した。
【0205】
EcNを、fliCプロモーター、細胞透過性ペプチド(CPP)および分泌タグを用いて、GLP−1(1〜37)を分泌するように工学的に操作した(図19の上)。この株の培養物におけるGLP−1の分泌を検証し、pKD3染色体挿入カセットを伴わず同じ配列を含有するプラスミド担持株からの分泌と比較した(図19の下)。Nissle−GLP−1についての分泌量は、プラスミド担持株の分泌量のおよそ50%であった。したがって、生じた差異は有意とみなされず、本発明者らはこれらの実験においてプラスミドを維持するための選択圧力を含めることを望まなかったので、in vivo試験のためにプラスミド担持株ではなくNissle−GLP−1を使用した。免疫蛍光法(IF)により明らかになった通り、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、腸上部でGLP−1について陽性に染色されたが、「ダミー」ペプチドを発現しているEcNを摂食させたマウス(Nissle)では同様の染色が示されなかった(図16a、b)。粘液層を守るために、腸の切片はパラホルムアルデヒドに固定するのではなく、凍結させた。画像解析により、GLP−1染色は、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおいて、Nissleを摂食させたマウスよりも有意に高いことが示された(図16c)。
【0206】
Nissle−GLP−1またはNissleを摂食させたマウスの腸中および糞便中の細菌の総数を測定した。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスおよびNissleを摂食させたマウスの腸の細菌の総数および糞便の細菌の総数は同じであり(図16d)、これは、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスの切片について観察されたGLP−1の増加は組換えGLP−1の発現に由来し、EcN由来株が存在することによってもたらされる内在性のGLP−1産生に由来するものではない可能性が高いことを示している。糞便中ではなく大腸におけるコロニーを決定するために、下部GI管の切片を穏やかにこすり取り、洗浄して糞便を除去した。残った細菌の総数を得る。本発明者らによる小腸および糞便における細菌の総数は他で報告されているものほど高くなかったが、これは、マウスの品種が異なること、および代替の抗生物質前処理に起因する可能性がある。
【0207】
本発明者らは薬物誘導性T1DMマウスモデルおよび遺伝的な非肥満糖尿病(NOD)マウスモデルにおいて、Nissle−GLP−1により、正常血糖を回復させることができるかどうかを試験した(NODモデルからの結果がセクション6.11.(実施例11)に要約されている。薬物誘導性T1DMモデルの雄のC57BL/6J(B6)マウスに、ストレプトゾトシン(STZ)を高用量(体重1kg当たり40mgまたは50mg)で5日間継続的に注射した。高血糖症が発症した(空腹時血糖レベル>250mg/dL)マウスにNissle−GLP−1もしくはNissleのいずれかを摂食させた、または処置しなかった。共生細菌の摂食は、1日2回、およそ8時間の間隔を空けて行った。正常血糖対照として、マウスの1つの群にはSTZ処置もせず、共生細菌も摂食させなかった(対照)。血中グルコースレベルおよび体重を60日にわたってモニターした。
【0208】
膵臓の形態計測解析により、STZ処置したマウスのβ細胞質量が、対照マウスと比較して有意に減少したことが示された(図17a)。Nissle単独の摂食は、STZ処置し、共生細菌を与えなかったマウスと比較して、血中グルコースレベルに対する有意な効果を有さなかった(図17b)。しかし、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、摂食を始めた60日後に有意に低い(p=.000017)血中グルコースレベルを示した(図17b)。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスについての血中グルコースレベルは、正常血糖対照と有意に異ならなかった(p=.46)。さらに、60日の期間中、試験に含めたマウスのいずれについても体重に有意な変化はなかった(図20A〜B)。STZを摂食させたマウスの全てにおいてβ細胞質量が同等に減少したことにより、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスの血中グルコースレベルの低下がβ細胞再生の結果である可能性が除外された。
【0209】
健康な、STZ処置していないマウスにもNissleおよびNissle−GLP−1を摂食させ、それらの血中グルコースレベルは、共生細菌を摂食させなかった健康なマウスの血中グルコースレベルと有意に異ならなかった(図17c)。92日の期間にわたって、いずれの複数の処置と処置していない健康なマウス(対照)との間にもマウスの血中グルコースレベルに有意な変化はなかった(図17c)。同じ期間にわたってマウスの体重変化にも差異はなかった(図20A〜B)。
【0210】
共生細菌で処置した60日後に、マウスの全群を耐糖能検査に供した。マウスを10時間絶食させた後、グルコース(体重1kg当たり25g)をi.p.注射した。グルコース注射した後、30分ごとに1.5時間にわたって血中のインスリンレベルおよびグルコースレベルを測定した(図17d)。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスとSTZのみの群の間に、0.5時間および1.5時間の時点でインスリンレベルの有意差が見られたが、Nissle GLP−1を摂食させたマウスと処置しなかった対照マウスの間では、いずれの時点でもインスリンレベルに有意差は検出されなかった(図17d)。耐糖能検査全体を通して、マウスの4つの群全てにわたって血中グルコースレベルに有意差があった。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、耐糖能検査全体を通して、STZのみのマウスの50%未満の血中グルコースレベルを示したが、STZを与えなかった対照マウスの2倍の高さの血中グルコースレベルを有した(図17d)。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスの血中グルコースレベルは、正常血糖対照よりは高いが、耐糖能検査全体を通して275mg/dLを超えなかった(STZのみのマウスの600mg/dLと比較して)。興味深いことに、血中グルコースについて、Nissle処置したマウスでは基礎レベル(時間=0)においてはSTZ処置したマウスとの有意差が示されなかったが、グルコース注射した1時間後には、Nissle処置したマウスは、STZ処置したマウスよりもほぼ33%低い血中グルコースレベルを示した。この保護は、高レベルのグルコースを注射していないマウスでは明白ではなかったが、Nissleにより、血中グルコースのスパイクの影響がいくらかの程度緩和され得ると思われる。グルコースをi.p.注射したとすると、内腔内のグルコースの細菌による消費は可能性のある機構としては除外することができる。この知見を説明するためにはさらなる試験が必要である。
【0211】
処置した60日後(および耐糖能検査後)に、マウス小腸の切片を固定し、種々のマーカーについて免疫蛍光によりプロービングした。インスリン含有細胞のポケットが、Nissle−GLP−1で処置したマウスの小腸において見いだされたが、この試験に用いた他の群のいずれにおいても見いだされなかった(図18a〜d)。画像解析から、インスリン産生細胞の相対的な発生頻度が小腸の細胞集団全体のおよそ0.013%(±0.002%)(または上皮細胞10,000個中1個)であると推定された。予測通り、試験に含めた全てのマウスで腸上部においてPDX−1産生が見られた(図18a〜dの赤色の染色)。しかし、Nissle−GLP−1で処置したマウスのインスリン産生細胞は高レベルのPDX−1について染色されず、さらには、周囲の細胞よりも(図18bおよびd)、または対照マウス由来の膵ベータ細胞よりも(データは示していない)、PDX−1発現が少ないとも思われた。これは興味深い転帰であるが、β細胞質量におけるPDX−1/インスリン分泌に不均一性が存在することが公知であるので、これらの細胞がβ細胞様の機能性を有するという可能性が残る。
【0212】
健康な(非糖尿病)マウスにNissleおよびNissle−GLP−1を摂食させた、より長期間の対照実験では、腸を、再プログラミングされた細胞の存在についても染色した。Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウスでは、インスリン染色が見られ、インスリン産生細胞におけるPDX−1の発現は同様に周囲の細胞より少なかった(図18d)。Nissleを摂食させた健康なマウスでは再プログラミングされた細胞は示されなかった(図18c)。
【0213】
再プログラミングされた細胞の生理機能をよりよく理解するために、マウスの腸の切片においてクロモグラニンA(ChrA)およびインスリンについて共染色した。ChrAは、通常、神経内分泌細胞、腸内分泌細胞によって発現され、島β細胞の分泌顆粒中にある。いくつかの場合には、インスリン染色はChrA染色(赤色)と重複し(図18e)、観察されたインスリン産生細胞のおよそ80%において、ChrAは同じ細胞に局在しなかった(図18f)。図18eおよびfは、正常な腸内分泌細胞(ChrA陽性、インスリン染色なし)およびインスリン産生(インスリン染色)細胞を示す。正常な腸内分泌細胞がインスリン産生細胞の極めて近傍に存在することは、腸内分泌細胞からインスリン産生細胞にいくらか変換されているにもかかわらず腸内分泌機能性が動物全体で保存されていることを示唆している。本発明者らによってインスリンとリゾチームの共局在は観察されず(図18g)、これにより、再プログラミングされた細胞がパネート細胞ではなかったことが示唆される。インスリンとスクラーゼイソマルターゼの同時発現(SI、図18h)により、再プログラミングされた細胞がそれらの吸収力を維持することが示される。
【0214】
Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウスについて血中グルコース(図17c)または体重(図20A〜B)に変化がないことを示すデータと、2種のT1DMのげっ歯類モデルにおいてNissle−GLP−1により血中グルコースレベルが有意に低下し得ることを示すデータ(図17bおよび21)を並べると、この手法が糖尿病に対する有効かつ安全な治療であり得ることが示唆され、これは非糖尿病系と同様のインスリンカイネティクスを有し、グルコース応答性である(図17d)、すなわち、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおいて、血清インスリンレベルは低いが、インスリンレベルの変化が健康なマウスと同じタイミングで起こるものである。この試験で実現される再プログラミング効率の推定値(下の「再プログラミングされた細胞の数の算出および推定値」において詳述される)は、再プログラミングされた細胞が、健康なマウスの膵臓におけるβ細胞の数のおよそ82%の数に達することを示している。この数は、なぜマウスが日常条件下で正常化された血中グルコースレベルを示すことができたが、より厳しい耐糖能検査条件下では健康なマウスの血糖対照よりもわずかに低かったかを潜在的に説明する。ヒト患者が、本明細書で提示されたマウスに関する結果と同じ結果を実現するために毎日消費しなければならない細菌の量の推定値は、現在市場に出ている市販のプロバイオティクス製剤中に存在する細菌の量を考慮すると、1日およそ5〜15gである。しかし、コロニー形成数がより高ければ、1日の摂取量は50mgまでの低さになり得る。
【0215】
この手法に伴う考慮すべき問題は、腸において新しく生成したβ様細胞に対する免疫応答が引き出される潜在性である。他の再生手法と同様にこれが起こる有意な潜在性が存在する。しかし、これらの細胞の生理機能(ChrAをわずかに発現し、PDX−1の発現が比較的少ない)は、β細胞とは別個であり、したがって、これらの細胞は免疫系から検出されない可能性がある。さらに、患者を、この試験でのマウスと同様に、GLP−1を分泌する細菌で毎日処置する場合、インスリン分泌細胞が永久的に再生することにより、おそらく、新しく形成されたβ様細胞が免疫学的に破壊されるにもかかわらず、継続した血中グルコースの低下が可能になる。46日後にさえ、NODマウス(膵臓のβ細胞の免疫破壊を提示する)における保護作用を示す本発明者らのデータを用いて、ヒト上皮細胞がおよそ2日ごとに交換されることを考えると、腸上部において再プログラミングされた細胞に対する免疫系による有意な応答はない可能性がある。しかし、そのような攻撃がある場合、粘膜の表面の永久的な炎症がもたらされ得る。この手法の免疫学的影響を決定するためには、さらなる試験が必要である。
【0216】
本発明者らは、本明細書において提示されているデータから、糖尿病マウスにNissle−GLP−1を摂食させることにより、グルコース応答性インスリン産生が引き起こされ、血中グルコースレベルが有意に低下し得ると結論づける。さらなる特徴付けが必要ではあるが、インスリン分泌の機構は、再プログラミングされた腸の細胞に由来すると思われる。これらの細胞は、PDX−1をほとんど発現せず、これらの細胞の一部のみがインスリンに加えてChrAを発現するという点で、大多数の膵臓のβ細胞とは別個である。マウスに、β細胞のインスリン分泌を刺激しない不活性型のGLP−1を摂食させるとし、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスが、Nissleのみを摂食させたマウスまたは細菌を摂食させなかったマウスと同じレベルの膵臓のインスリン産生を有するとすると、この手法により、残りのβ細胞からのインスリン産生が増加する見込みはない。Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウスからの結果を考慮すると、証拠により、この治療が、たとえ非糖尿病患者が受けたとしても安全であると思われることが示唆される。今後の研究により、インスリン産生細胞の生理機能およびこの治療の詳細な長期の薬物動態がより綿密に検査される。
【0217】
材料および方法
プラスミド構築
別段の指定のない限り、化学物質および試薬は全て、VWR International(West Chester、PA)から購入した。クローニングは全て標準の技法を用いて行った(Sambrook, J. & Russell, D. W.、Molecular cloning: a laboratorymanual.、第3版(Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年))。以前に記載されている通り、細胞透過性ペプチド(CPP)と融合したglp−1(1〜37)をfliCプロモーターの制御下で発現させるためのプラスミドを構築して、pFD−GLPを作製した(Duan,F. & March, J. C.、Interrupting Vibrio cholerae infection of humanepithelial cells with engineered commensal bacterial signaling. BiotechnolBioeng 101巻(1号):128〜34頁(2008年))。配列6×HiS−EK−glp−1(1〜37)−CPPを合成により作製した(IDT、Coralville、IA)。この断片を、高忠実度PCR(Strategene)によってpBluescript−KSに挿入して、pBluescript−GLPを作製した。得られたベクターは、配列:5’UTR−Flic20−6×HiS−EK−glp−1(1〜37)−CPPを含有した。この配列をpKS121(fliCの3’UTRを含有する)にクローニングして、高忠実度PCRにより構築物:5’UTR−Flic20−6×HiS−EK−glp−1(1〜37)−CPP−3’UTRを得た。pFDベクターを得るために、高忠実度PCRを用いて、pFD−GLP由来の5’UTR−FLIC20−6×HiS−EK配列をクローニングした。PCR断片をpKS121にクローニングして、構築物:5’UTR−Flic20−6×HiS−EK−3’UTRを得た。pKS104およびpKS121はUniversity of Helsinki、FinlandのBenita Westerlund−Wikstroemからの好意の寄贈品であった。
【0218】
glp−1(1〜37)−CPPをネイティブなfliCプロモーターの制御下で染色体に挿入するために、確立された方法を用いて構築物pFD−GLPCを調製した(Datsenko, K. A. & Wanner, B. L.、One-step inactivation ofchromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products. Proc Natl AcadSci USA 97巻、6640〜6645頁(2000年))。構築物のマップが、クローニングステップおよび使用したプライマーの詳細な説明と一緒に下に記載されている。簡単に述べると、一段階不活化を用いて、Flic20−6×HiS−EK−glp−1(1〜37)−CPP遺伝子を、Nissle染色体に、fliCプロモーター領域の下流のfliCの代わりに挿入した。本発明者らは、Nissle染色体のfliD遺伝子をノックアウトした。この技法では、3つのプラスミド、pKD3(クロラムフェニコール耐性を付与する)、pKD4(カナマイシン耐性を付与する)、およびpKD46(アンピシリン耐性を付与する)を使用する(Datsenko,K. A. & Wanner, B. L.、One-step inactivation of chromosomal genes inEscherichia coli K-12 using PCR products. Proc Natl Acad Sci USA 97巻、6640〜6645頁(2000年))。染色体に挿入した後に生じた株はNissle−GLP−1と称した。
【0219】
ウエスタンブロット
E.coli Nissle1917(EcN)は、現在販売されているプロバイオティクスであるMutaflor(商標)から、以前に記載されている通り得た(Duan, F. & March, J. C.、Interrupting Vibrio cholerae infectionof human epithelial cells with engineered commensal bacterial signaling.Biotechnol Bioeng 101巻(1号):128〜34頁(2008年))。pFDベクターを有するEcN、pFD−GLPおよびpFD−GLPCの染色体挿入を伴うNissleを、LB中、37℃、225rpmで振とうしながら24時間成長させた。24時間後に、全ての細菌を遠心分離した。上清を濾過した(0.2μm、PALL Life Sciences)。無細胞培地(CFM)を同じOD600までLBで希釈し、プロテアーゼを阻害するために、10ng/mLのロイペプチン、0.04mMのPMSFおよび5ng/mLのアプロチニンに加えた。不純物を取り除いた上清(14mL)を、10%トリクロロ酢酸(TCA、VWR)を用いて30分間、氷上で沈殿させ、ペレットを氷冷したエタノール/エーテル(1:1)で2回洗浄した。上清ペレットを真空下で乾燥させ、試料緩衝液(2%SDS、50mMのトリス、pH6.8、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、ブロモフェノールブルー)50μlに溶解させ、95℃で5分間煮沸した。細胞ペレットを(14mLの培養物から)、プロテアーゼ阻害剤(10ng/mLのロイペプチン、200μMのPMSFおよび5ng/mLのアプロチニン)を伴う500μlのBugBuster Master Mixを使用し、室温で穏やかにボルテックスすることによりBugBuster Master Mixに再懸濁させた。細胞浮遊液を、室温で、振とうプラットフォーム(VWR、Bristol、CT)上、遅い設定で10〜20分インキュベートした。5×試料緩衝液125μlを各試料に加えた後、95℃で10分間煮沸した。
【0220】
GLP−1の発現量および分泌量を推定するために、ウエスタンブロットの標準の技法を用いた。簡単に述べると、試料50μlをポリアクリルアミドゲルにローディングし、Immobilon−PSQ転写膜(Millipore、Billerica、MA)にブロッティングした。膜を、マウス抗his(GE health、Piscataway、NJ)に対して1:1,000でプロービングした。膜を、HRP−コンジュゲートした抗マウスIgG(Amersham Biosciences、Pittsburgh、PA)と一緒にインキュベートし、高感度化学発光(Pierce,Rockford,IL)により展開し、X線フィルム(Phoenix、Candler、NC)に曝露させた。
【0221】
マウスコロニー形成実験
この試験において用いたマウスは全て、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME)から購入し、Cornell University Veterinary SchoolのEast Campus Research Facility(ECRF)に収容した。試験は、Cornell University IACUCにより承認されたプロトコールに従って行った。
【0222】
STZモデル
ストレプトゾトシン(STZ)(Sigma、St.Louis、MO)を、適用する直前に、氷冷した0.1Mのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.2)中に溶解させた。6〜8週齢の雄のC57BL/6J(B6)マウスの4つの群に、ベータ細胞アポトーシスを誘導するために、5日連続して毎日、体重1kg当たり40mgまたは50mgのSTZの腹腔内注射を受けさせた。クエン酸ナトリウム注射を受けるマウスの別の群を対照として用いた。最後に注射した3日後に、動物の血中グルコースレベルを、Bayer Breeze血中グルコース試験紙(Bayer Healthcare LLC Mishawaka、IN)を用いて、Breeze(登録商標)2血中グルコースモニタリングシステム(Bayer Healthcare LLC Mishawaka、IN)によって決定した。血中グルコースレベルを、糖尿病のグルコースレベル(>250mg/dL)に到達するまで、3日ごとにモニターした。糖尿病の血中グルコースレベルに到達しなかったSTZ処置したマウスはこの試験には用いなかった。
【0223】
高血糖症を確立した後、常在通性細菌を排除するために、マウスに、クロラムフェニコール処理した((1g/リットル))飲料水を18時間与えた。pFD−GLPCを用いて染色体を改変したNissle株(Nissle−GLP−1)を、LB培地中の一晩培養500倍希釈物からOD600=1になるまでクロラムフェニコールと一緒に成長させた。1000×gで3分遠心分離することによって細菌を採取した。生じたペレットを、1%スクロースを伴う200μlの滅菌LBに再溶解させた。クロラムフェニコール処置後、マウスに、10CFU/mL(OD600=20)のルリア培地(Luria broth)で成長させたNissle株(NissleまたはNissle−GLP−1)を別々に含有する、1%スクロースを伴うLBを体重25g当たり50μl摂食させた。摂食させた細菌の体積をマウスの体重により正規化した。Nissle株を摂食させたマウスは全て、実験全体を通して、1日当たり2回Nissleを摂食させた。全てのマウスについて、7〜10日ごとに体重およびグルコースレベルを取得した。ほとんどの場合、空腹時血糖レベルを測定した。これらの測定は、マウスのストレスレベルを最小限にするために間隔を空けた。
【0224】
耐糖能検査およびELISA
マウスを10時間絶食させ、秤量し、ヘパリン添加したMicro−Hematocrit Capillary Tube(Fisher、PA)を使用して尾静脈から血液試料を採取した。次いで、マウスに体重1kg当たり25mgのグルコースを腹腔内注射し、0.5時間、1時間、1.5時間の時点で血液試料を取得した。Breeze(登録商標)2血中グルコースモニタリングシステムを使用して血漿グルコースを測定した。Rat/Mouse Insulin ELISAキット(Millipore、MA)を製造者の説明書に従って使用して血漿インスリンを測定した。
【0225】
細菌の計数
6〜8週齢の雄のC57BL/6J(B6)マウスに、常在通性細菌を排除するために、クロラムフェニコール(1g/リットル)を飲料水に入れて18時間与えた。Nissle株(NissleおよびNissle−GLP−1)の一晩培養物をLB培地中に1:500希釈し、OD600=1まで成長させた。1000×gで3分間遠心分離することによって細菌を採取した。生じたペレットを、1%スクロースを伴う滅菌LB中に再懸濁させてOD600=20にした。クロラムフェニコール処置後、マウスに、濃縮した再懸濁液を含有する、1%スクロースを伴うLBを体重25g当たり50μlで経口胃管栄養によって摂食させた(結果として生じる用量は、1日2回、動物当たり10CFUである)。20日間摂食させた後、マウスを新しいケージに移して3日間置いた。新しいケージから糞便を採取し、マウスを安楽死させた。各処置から少なくとも3匹のマウスを解剖し、それらのGI管を取り出した。GI管を2つの小片に切った(上部GI−小腸および下部GI−大腸)。下部GIを片側にそって開き、穏やかにこすり取ることによって糞便を除去し、1×PBSで洗浄した。上部GIは洗浄もこすり取ることもせずに秤量した。上部GI管および下部GI管をそれぞれ秤量し、新鮮なLB培地4mL中でホモジナイズした。ホモジナイズされた組織を、対応する抗生物質を伴うMacConkey寒天プレートに、段階希釈により播いた。プレートを、37℃で一晩インキュベートし、それらのコロニーを計数した。
【0226】
免疫組織学的検査
この試験で用いた、処置したマウスを全て、標準のプロトコールの通りCOを用いて安楽死させた。耐糖能検査後に屠殺したマウスの消化管および膵臓の組織を4%パラホルムアルデヒドに一晩固定し、1×PBSで3回洗浄し、70%エタノールに浸漬した。次いで、固定された組織を解剖した。
【0227】
脱パラフィンした後、固定された組織スライドを、IHC−Tek(商標)エピトープ回収溶液(IHC World、Woodstock、MD)中で蒸し、メタノール中0.5%過酸化水素(Fisher、Pittsburgh、PA)に10分間浸して、内在性のペルオキシダーゼをブロッキングした。0.01MのPBS(pH7.2)で洗浄した後、10%の通常のブロッキングヤギ血清(Invitrogen、Carlsbad、CA)を、加湿チャンバー内、室温で30分間適用した。PBSプラス1×カゼイン(Vector,Burlingame,CA)中に1:50希釈したウサギ抗インスリン(H−86、Santa Cruz Biotechnology)を適用して試料をブロッキングし、次いで、その試料を加湿チャンバー内、37℃で1.5時間インキュベートした。PBSで4回洗浄した後、PBS中に1:200希釈したビオチン化二次抗体ヤギAnti−Rabbit(Vector)を試料に、加湿チャンバー内、室温で20分間適用した。試料を、ストレプトアビジンペルオキシダーゼ(Invitrogen)と一緒に加湿チャンバー内、室温で20分間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。試料を、AEC色素原/基質溶液(Invitrogen)と一緒に室温でインキュベートした。色の発生を、通常の光学顕微鏡の下でおよそ5〜15分間モニターした。蒸留HOによるすすぎを用いて反応を停止させた。
【0228】
一部の消化管組織および膵臓を、ヘマトキシリン(Fisher)を30秒間用いて対比染色した後、水道水で5分間すすいだ。試料を、水性封入剤であるFluoromount(Fisher)を使用して封入した。通常の光学顕微鏡(Leica、Bannockburn、IL)の下でカラーカメラを用いて写真を取得した。染色された膵臓組織の写真を、赤色の着色から推定されるβ細胞によるパーセント適用範囲についてImage Jソフトウェア(NIH−NCBI)によって解析した。
【0229】
免疫蛍光法
パラフィン免疫蛍光法−インスリン、PDX−1、ChrA、リゾチームおよびSI
Nissle株(NissleおよびNissle−GLP−1)を60日間摂食させた後に屠殺したマウスの消化管および膵臓の組織を、4%パラホルムアルデヒドに一晩固定し、1×PBSで3回洗浄し、70%エタノールに浸漬させた。次いで、固定された組織を解剖した。
【0230】
脱パラフィンした後、固定された組織スライドを、0.01Mのクエン酸緩衝液中で蒸した。0.01MのPBS(pH7.2)で洗浄した後、10%の通常のブロッキングロバ血清(Santa Cruz Biotechnology、CA)を加湿チャンバー内、室温で1時間適用した。1:50希釈したウサギ抗インスリン(Santa Cruz Biotechnology、CA)、およびPBSプラス1×カゼイン(Vector,Burlingame,CA)中1:500のヤギ抗PDX−1(Abcam、Cambridge、MA)、1:50に希釈された抗ヤギChrA、抗ヤギリゾチーム、または抗ヤギスクラーゼイソマルターゼ(SI)(Santa Cruz Biotechnology、CA)のいずれかを適用して試料をブロッキングし、次いで、その試料を加湿チャンバー内、4℃で一晩インキュベートした。PBSで4回洗浄した後、PBS中1:200希釈した、蛍光色素とコンジュゲートした二次抗体Alexa Fluor(登録商標)488ロバ抗ウサギIgGおよびAlexa Fluor(登録商標)555ロバ抗ヤギIgG(Invitrogen)を、加湿チャンバー内、室温で1.5時間、試料に適用した。PBSで3回洗浄した後、300nMのDAPI染色溶液(Invitrogen)を、試料と一緒に3分間インキュベートした。次いで、試料を、ProLong(登録商標)Gold退色防止(antifade)試薬(Invitrogen)を用いて封入した。検体を、各フルオロフォアについて、適切な励起波長を用いてすぐに検査した。Zeiss710共焦点顕微鏡(Zeiss、Jena、Germany)を用いて画像を取得した。
【0231】
凍結切片免疫蛍光法−Glp−1
Nissle株を10日間摂食させたマウスの腸および膵臓を回収し、OCT化合物中でスナップ凍結させ、凍結切片にした(8μM)。スライドを1時間風乾し、氷冷したアセトンに5分間固定した。一晩風乾した後、スライドをPBST(0.05%Tween)での3回洗浄で洗浄した。以下のプロトコールをM.O.M.(商標)キット染色手順(Vector)から改変した。細胞を、0.1%Triton X100を用いて15分間透過処理し、その後、PBSで2回洗浄した。M.O.M.(商標)Igブロッキング試薬の検量線用溶液中10%の通常のロバ血清(Santa Cruz Biotechnology、CA)を加湿チャンバー内、室温で1時間適用した。切片を2回、2分間、それぞれPBSで洗浄した。組織切片を、M.O.M.(商標)希釈剤の検量線用溶液中で5分間インキュベートした。次いで、試料を、M.O.M.(商標)希釈剤中1:100のウサギ抗GLP−1(1〜19)(Abcam)と一緒に37℃で30分間、その後RTで30分間インキュベートした。PBSTで2回洗浄し、次にPBSで4回洗浄した後、PBS中に1:200希釈した、蛍光色素とコンジュゲートした二次抗体Alexa Fluor(登録商標)488ロバ抗ウサギIgGおよびAlexa Fluor(登録商標)555ロバ抗ヤギIgG(Invitrogen)を加湿チャンバー内、室温で1時間、試料に適用した。その後PBSTで3回洗浄した後、試料を300nMのDAPI染色溶液(Invitrogen)中で3分間インキュベートした。試料をPBSで3回すすぎ、ProLong(登録商標)Gold退色防止試薬(Invitrogen)を用いて封入した。検体を、各フルオロフォアについて、適切な励起波長を用いてすぐに検査した。Zeiss710共焦点顕微鏡で写真を取得した。
【0232】
再プログラミングされた細胞の数の算出および推定値
Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおいて再プログラミングされた細胞の数を決定するための算出
マウス当たりのベータ細胞は1×10個であり(Bock, T.、Svenstrup,K.、Pakkenberg、B. & Buschard, K.、Unbiased estimation of total beta-cellnumber and mean beta-cell volume in rodent pancreas. Apmis 107巻、791〜799頁(1999年)、腸上部1cm当たりの細胞は1.9×10個である(Cheng,H. & Bjerknes, M.、Cell production in mouse intestinal epithelium measuredby stathmokinetic flow cytometry and Coulter particle counting. Anat Rec 207巻、427〜434頁、doi:10.1002/ar.1092070305(1983年)と仮定して、本発明者らはマウスの腸上部(十二指腸+空腸、332.4cm、Casteleyn,C、Rekecki, A.、Van der Aa, A.、Simoens, P. & Van den Broeck, W.、Surface areaassessment of the murine intestinal tract as a prerequisite for oral dosetranslation from mouse to man. Lab Anim 44巻、176〜183頁、doi:10.1258/la.2009.009112(2010年)を参照されたい)の推定表面積に、推定の再プログラミングされた細胞の百分率(0.00013)を掛け、これに1cm当たりの細胞数を掛けて、再プログラミングされた細胞の推定値を得、それは、健康なマウスにおけるベータ細胞の数のおよそ82%であった。
【0233】
マウス実験に基づく推定用量の算出
本発明者らは本実施例で報告される実験では、マウスに10cfu/mLを1日当たり2回摂食させた。これは、マウスの体重1kg当たり8×1010CFUと等しい。市販されている通り、プロバイオティクスサプリメントを4.0×1011CFU/gとし、ヒトの体重範囲を小児について25kg〜成人について75kgと仮定すると、これは、5〜15g/dの1日用量を意味することになる。しかし、コロニー形成効率が2桁高い場合には(報告されている通り、Rao, S.ら、Toward a live microbial microbicide for HIV: Commensalbacteria secreting an HIV fusion inhibitor peptide. Proc Natl Acad Sci USA 102巻、11993〜11998頁(2005年)を参照されたい)、用量は50〜150mg/dになる。
【0234】
6.11. 実施例11:GLP−1を分泌する共生細菌を非肥満糖尿病の(NOD)マウスに摂食させることの効果
この実施例により、GLP−1(1〜37)を分泌する共生細菌を、遺伝学的に実現した糖尿病マウス(非肥満糖尿病、NOD)に摂食させることの効果が実証される。本発明者らはNODマウスに、ダミーペプチドを発現しているE.coli Nissle1917(Nissle)、GLP−1(1〜37)を分泌しているNissle(Nissle−GLP−1)または細菌を含有しない培地を46日間摂食させた。その結果、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおいて、培地のみを摂食させた対照NODマウスと比較して(p=.0003)、またはNissleを摂食させたマウスと比較して(p=.0008)、血中グルコースレベルが有意に低下した。さらに、Nissle−GLP−1マウスの尿量がはるかに低いことが観察された。Nissleを摂食させたマウスも、培地のみを摂食させたマウスよりも有意に低い血中グルコースレベルを示した(p=.01)。この試験では、Nissleを摂食させたマウスおよび対照マウスは外見が不健康であり、血中グルコースレベルが常に400mg/dLを超えたが、Nissle−GLP−1を摂食させたマウス(同様に不健康に見える)についての血中グルコースレベルは、46日の期間全体を通して160〜250mg/dLの範囲内であった。
【0235】
諸言
1型糖尿病(T1DM)を試験するための標準モデル生物体のうちの1つと考えられ、NODマウスは膵ベータ細胞ならびに全身の他の内分泌系の破壊を招く遺伝的欠陥を有する。T1DM様病態に加えて、他の全身性の病状を有するので、オフターゲットの効果により、NODマウスはT1DMを試験するために理想的なものではなくなっている。この限定にもかかわらず、当技術分野においてNODマウスは依然として早期概念実証研究の十分なモデルであるとみなされている。
【0236】
この実施例に関して、ペプチドGLP−1(1〜37)を腸上皮細胞に送達するための共生細菌の使用の、NODマウスにおける血中グルコースレベルに対する効果について調査した。
【0237】
実験手順
これらの実験に用いた雌のNODマウス(NOD/ShiLtJマウス)は、Cornell University IACUCにより承認されたプロトコールに従って処置した。全てのマウスをCornell University Veterinary SchoolのEast Campus Research Facility(ECRF)に収容した。マウスは全て、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME)から購入した。6週齢の雌のNOD/ShiLtJマウスの3つの群(n=5)について、それらの血中グルコースレベルを、Bayer Breeze(登録商標)血中グルコース試験紙(Baer Healthcare)を用いて、Breeze(登録商標)2血中グルコースモニタリングシステム(Baer Healthcare LLC Mishawaka、IN)によってモニターした。糖尿病のグルコースレベル(>250mg/dL)に到達するまで、5〜7日間ごとに血中グルコースレベルを測定した。糖尿病の血中グルコースレベルに到達するには、12〜14週間を要した。高血糖の血中グルコースレベルに到達できなかったマウスは安楽死させた。
【0238】
高血糖症を確立した後、全てのマウスに、常在共生細菌を排除するために、クロラムフェニコール(1g/リットル)飲料水を18時間与えた。Nissle株(Nissle、Nissle−GFP−1)を、一晩培養物からOD600=1まで成長させ、LB培地中に1:500希釈した。1000×gで3分間遠心分離することによって細菌を採取した。生じたペレットを、1%スクロースを伴う滅菌LB200μLに再溶解させた。クロラムフェニコール処置した後、マウスに、経口胃管栄養によって、10CFU(OD600=20)の、Nissle、Nissle−GLP−1を含有する、または細菌を含有しない(ただのスクロースを伴う滅菌培地)、1%スクロースを伴うLBを体重25g当たり50μLで摂食させた。株は、単独で、添加物なしでマウスに摂食させた。胃管栄養を開始したら、クロラムフェニコール処理した水はマウスゲージから除去した。Nissle株またはスクロースを伴う滅菌培地を、1日2回、46日間胃管栄養により摂食させた。細菌の摂食を開始した後11日目、21日目、30日目および46日目にマウスの体重および血中グルコースを測定した。
【0239】
結果
NODマウスに1日2回、46日間、Nissle−GLP−1もしくはNissleを経口的に摂食させた、または細菌を摂食させなかった。表1は、実験に含まれたマウスについての生存および糖尿病発症のデータを示す。全ての処置を各々マウス5匹で開始した。Nissle−GLP−1を摂食させたマウス以外の全てのマウスが、実験全体を通して高レベルの尿を排泄することが観察された。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、尿量のレベルの上昇を示したが、他のマウスほどではなかった。
【0240】
Nissle株の摂食を開始する前に、全てのマウスが、500mg/dLを超える血中グルコースレベルを示し、高血糖症について陽性であるとみなされた。処置当たりの平均のマウスの空腹時(6時間)血中グルコースレベルが図21に示されている。Nissleを摂食させたマウスおよびNissle−GLP−1を摂食させたマウスのどちらとも、対照マウスとの間で血中グルコースが有意に低下した。46日後に、Nissle摂食は対照に対して有意な効果(p=.01)を有し、Nissle−GLP−1はさらに著しい効果を有した(p=.0003)。Nissle−GLP−1とNissleの間の差異も有意であった(p=.0008)。比較は全て、スチューデントの両側t検定(n=4、3または2、表1参照)を用い、同等の分散を仮定して行った。
【0241】
実験の間、複数の処置間または1つの処置間でマウスの体重に有意差はなかった。全てのマウスの体重が、概して経時的に減少した(図22)。
【0242】
結論
これらのデータは、NissleおよびNissle−GLP−1のどちらによっても、NODマウスにおける血中グルコースレベルが有意に低下し得ることを示している。しかし、これらのデータは、非常に小規模のマウスの群からのものである。46日間までに、各群に残ったマウスは2匹のみである。それはそうとして、Nissle−GLP−1群のマウスの血中グルコースレベルは、他の2つの群よりもはるかに低く、これは、NODマウスにより任意の再プログラミングされた細胞に対して開始され得るいかなる免疫応答もこの時間枠内では影響を有さなかったことを示している。
【0243】
表1:この実施例に関するマウスの生存
【0244】
【表1】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態による範囲に限定されるものではない。実際に、当業者には、本明細書に記載のものに加えて、本発明の種々の改変および変形が前述の説明から明らかになり、本発明に対して本発明の趣旨および範囲から逸脱することなくそれらを行うことができる。したがって、本発明は、それらが添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内に入るという条件で、本発明の改変および変形を包含するものとする。
【0245】
本明細書において引用された全ての参考文献は、個々の刊行物、特許または特許出願について、その全体があらゆる目的について具体的にかつ個別に参照により組み込まれることが示されたのと同じ程度に、その全体が参照によりあらゆる目的について本明細書に組み込まれる。
【0246】
いずれの刊行物の引用も出願日より前のその開示に対するものであり、本発明が、先行発明に基づいてそのような刊行物に先立つ権限がないことを容認するものと解釈されるべきではない。
図1
図8A-B】
図10A-B】
図10C-F】
図15
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図9
図11
図12
図13
図14
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]