【実施例】
【0163】
6.実施例
6.1. 実施例1:Escherichia coli NissleにおけるGLP−1の構成的発現
この実施例により、Escherichia coli NissleにおけるGLP−1の構成的発現が実証される。
【0164】
プラスミド構築:クローニングは全て、以前に記載された技法を用いて実施した(Sambrook,J. & Russell. D.W.、Molecular cloning: a laboratory manual. 第3版、Cold SpringHarbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.;2001年)。
図1は、この試験において使用したプラスミドの概略図を提供する。E.coli DH5α由来のP0/P1プロモーターを試験するために、2種のプラスミドを作製した(pFD1およびpFD2)。pFD1は高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)の発現を駆動するためのP0/P1領域全体をコードした。pFD2は、EGFPの上流のプロモーターのP0領域のみをコードした。Caco−2細胞におけるインスリン分泌を刺激するための、組換え細菌からのインスリン分泌性タンパク質の分泌の有効性を試験するために、プラスミドpFD−PDX、pFD−GLP.およびpFD−20を本明細書に記載の通り構築した。
図2は、グルコースに対するP0応答およびP0/P1応答を示す。EGFPの発現を用いて、P0プロモーターおよび/またはP1プロモーターの、異なる培地条件に対する応答を測定した。P0=P0のみ;P0+P1=P0プラスP1フランキング領域;DH5α=lacオペロン対照。グルコースに応答して組換えタンパク質を産生させるためのグルコース応答性プロモーター系の有効性を試験するために、2つの長さのE.coli DH5α由来のグルコース応答性プロモーター領域をpGlow−GFPの上流に、GFPとインフレームにTAクローニングした(
図2に結果が示されている)。2種の構築物は、GFP開始のインフレームかつ上流で、P0プロモーター、またはP0プロモーターとP1プロモーターの両方にわたる領域からなった(Ryu,S. & Garges, S.、Promoter Switch in the Escherichia coli Pts Operon. Journalof Biological Chemistry 269巻、4767〜4772頁(1994年))。簡単に述べると、P0領域をE.coli DH5αのゲノムDNAからpGLOW−GFP(Invitrogen、Carlsbad、CA)にクローニングして(pFD2)を作製した。P0/P1領域をpGLOW−GFPにクローニングしてpFD1を作製した。哺乳動物PDX−I遺伝子をNissleにおいて発現させるために。プラスミドpFD−PDXを以下の通り構築した。2ラウンドの高忠実度PCR(Stratagene、La Jolla、CA)を用いて発現カセット6×HiS−Xpress−EK−PDX−1−CPPを得た。高忠実度PCRによってDH5αから全長FLICを得た。これらの2つの断片を、pBluescript−KSにクローニングして6×HiS−Xpress−EK−PDX−1−CPP−FLICを創出した。次に、6×HiS−Xpress−EK−PDX−1−CPP−FLIC断片をpGLOW−P0−GFPにクローニングして、E.coliのP0プロモーターを用いて6×HiS−Xpress−EK−PDX−1−CPP−FLICの発現を駆動するベクター(pFD−PDX)を創出した。
【0165】
タンパク質GLP−IをEscherichia coli Nissleにおいて構成的に発現させるために、プラスミドpFD−GLPを以下の通り構築した。配列6×HiS−Xpress−EK−GLP−1(1〜37)を合成により作製した(IDT、Coralville、IA)。この断片を高忠実度PCRによってpBluescript−KSに挿入してpBluescript−GLPを作製した。高忠実度PCRを用いて、pKS104由来の5’UTR−FLIC20配列をpBluescript−GLPにクローニングしてpBluescipt−20−GLPを作製した。得られたベクターは、配列:5’UTR−FLIC20−6×HiS−Xpress−EK−GLP−1(1〜37)を含有した。この配列をpKS121(FLICの3’UTRを含有する)にクローニングして、高忠実度PCRにより構築物:5’UTR−FLIC20−6×HiS−Xprcss−EK−GLP−1(1〜37)−3’UTRを得た。
【0166】
pFD−20を得るために、高忠実度PCRを用いて、pFD−GLPから5’UTR−FLIC20−6×HiS−Xpress−EK配列をクローニングした。PCR断片をpKS121にクローニングして、構築物:5’UTR−FLIC20−6×HiS−Xpress−EKを得た。pKS104およびpKS121は、University of Helsinki、Finland、Laboratory of Benita Westerlund−Wikstroemから得た。しかし、pKS104およびpKS121の配列は、商業的な供給源から得ること、または従来の方法を用いてゲノムから直接誘導し(例えば、GenBank、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbankからダウンロードされた配列)、当技術分野で公知の標準の方法を用いて構築することもできる。
【0167】
6.2. 実施例2:E.coli Nissleを、GLP−1またはPDX−1−CPPを分泌するように工学的操作すること
Escherichia coli Nissle1917(市販のプロバイオティクス株、以下Nissleと称される)を、fliCプロモーターの制御下でGLP−1(アミノ酸1〜37)またはグルコース応答性エレメントの制御下でPDX−1−CPPを分泌するように工学的に操作した。PDX−1は、分泌後の上皮への急速な進入を容易にするために、細胞透過性ペプチド(CPP)との融合物として分泌させた。PDX−1は、漏出性発現がほとんど観察されないグルコース応答性プロモーターエレメントの制御下で分泌させた。細胞を6〜8時間成長させ、600nmにおける光学濃度1に対して正規化し、遠心分離した。Nissleの上清中およびNissleの細胞ペレット中の分泌タンパク質GLP−1(上のブロット)およびPDX−1−CPP(下のブロット)についてのウエスタンブロットが
図3に示されている。
図3に関して、ペレットを溶解させ、各タンパク質の量を決定した(画分「C」)。上清を保存し、同様に分析した(画分「M」)。PDX−1−CPPを発現している細胞について、グルコース(0.4%)またはグリセロール(0.4%)を含有する培地で成長させた細胞間で比較を行った。空のプラスミドを発現している細胞(20)を陰性対照として使用した。これらのデータから、どちらのタンパク質も分泌されたことが明らかであった。
【0168】
6.3. 実施例3:GLP−1またはPDX−1−CPPを分泌するように工学的に操作されたE.coli Nissleによるインスリン分泌の誘導
この実施例により、GLP−1またはPDX−1−CPPを分泌するように工学的に操作されたE.coli Nissleによるインスリン分泌の誘導が実証される。
【0169】
工学的に操作されたNissle株がヒト上皮細胞におけるインスリン分泌を誘導することができるかどうかを試験するために、Caco−2細胞を、PDX−1−CPP、GLP−1、または陰性対照として20アミノ酸配列タグを発現しているNissle株の一晩培養物由来の無細胞培地(CFM)で培養した。一晩培養物を、グルコースを伴わないF−12K培地(Mediatech、Manassas、VA)(PDX−1を産生するためにグルコースを必要とするPDX−1株は例外)で成長させた。Caco−2細胞を、グルコースを伴わない新鮮なF−12K培地と、PDX−1−CPP(「P」)、GLP−1(「G」)、20アミノ酸配列タグ(「20」)、またはPDX−1−CPP CFMとGLP−1CFMの1:1の組合せ(「GP」)を分泌しているNissleの一晩培養物由来のCFMの1:1混合物中で16時間培養した後、培地を除去し、Caco−2細胞をグルコース(0.4%)またはグリセロール(0.4%)のいずれかを伴う培地で2時間培養した。グルコースチャレンジ後、各試料を、インスリン分泌および転写について分析した。陽性対照として、Caco−2細胞を新鮮なF−12K培地(グルコースを伴わない)でインキュベートし、同じく16時間GLP−1(アミノ酸1〜37)を獲得した後、グルコース(0.4%)またはグリセロール(0.4%)と一緒に2時間培養した。
【0170】
転写および酵素結合免疫吸着検定法の両方のデータにより、ヒト上皮を、一緒または別々のGLP−1およびPDX−1−CPP由来のCFMと一緒にインキュベートすると、インスリンを産生するように刺激されたことが示された(
図4A〜B)。GLP−1(アミノ酸1〜37)CFMとのインキュベーションについて最大量のインスリン産生が一貫して見られた。PDX−1−CPP CFMにより、単独で添加しようとGLP−1と一緒に添加しようと、グルコース応答性インスリン分泌が刺激された。GLP−1−媒介性インスリン分泌とPDX−1媒介性インスリン分泌の両方がグルコースに応答して起こった。20アミノ酸配列タグ一晩培養物由来のCFMで培養した陰性対照の上皮ではグルコース応答性インスリン産生は示されなかった(
図4A〜B)。PDX−1−CPP処置によりCaco−2細胞におけるグルコース応答性インスリン分泌がもたらされたこと(
図4A〜B)は予想外であった。
【0171】
血液中のインスリンレベルは、10
6CFU mL〜10
9CFU mLにわたるNissle生存レベルに対して、それぞれ164fmol/リットル〜164pmol/リットルであることが推定された。成人の非糖尿病患者について食後の血清インスリン濃度が400pmolリットルまでの高さになり得るとすれば、最適化されていない工学的に操作された細菌は、インスリン放出を少なくとも正常な代謝に必要であるのと同じ桁の範囲内で刺激することができ得る。
【0172】
6.4. 実施例4:腸の細胞のグルコース応答性インスリン分泌細胞への再プログラミング
この実施例により、腸の細胞のグルコース応答性インスリン分泌細胞への再プログラミングが実証される。
【0173】
Nissleを、上記の通り、fliCプロモーターおよび分泌タグを使用して、GLP−1(1〜37)を分泌するように工学的に操作した。Nissleに挿入したカセットが
図5に示されている。この株の培養物におけるGLP−1の分泌を検証し、pKD3染色体挿入カセットを伴わず同じ配列を含有するプラスミド担持株からの分泌と比較した(
図5)。Nissle−GLP−1についての分泌量はプラスミド担持株の分泌量のおよそ半分であり、in vivoで試験することにより、いずれの株で処置したマウスの間でもグルコースレベルには有意差がないことが明らかになった(
図6)。したがって、これらの調査の全体を通して、プラスミドにGLP−1を担持する株の代わりにNissle−GLP−1を使用した。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスではin vivoで組換えタンパク質の有意な発現が実証された(ヒスチジンタグ染色によって決定された通り)(
図5)。
【0174】
GLP−1を分泌するように工学的に操作されたヒト共生細菌株を単純に経口投薬することにより、1型糖尿病のマウスモデルにおける高血糖症が、腸の細胞がグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングされることによって緩和されるかどうかを調査するために、ストレプトゾトシン(ストレプトゾシン、Zanosar(登録商標))(STZ)処置したマウスに、GLP−1(1〜37)を分泌するように工学的に操作された共生細菌(Nissle−GLP−1)を毎日摂食させた。耐糖能検査において、Nissle−GLP−1により、マウスの血中グルコースレベルが有意に低下し、インスリンレベルが有意に増加した。Nissle−GLP−1を摂食させた健康な(非糖尿病)マウスでは血中グルコースレベルまたは体重に変化はなかった。Nissle−GLP−1で処置したマウスでは腸上部の絨毛内でインスリン分泌細胞が発生した。クロモグラニンA(Chr−A)を用いたインスリン分泌細胞の共免疫染色により、腸内分泌細胞の「β様」細胞への細菌媒介性再プログラミングが示唆されている。これらの結果により、GLP−1を分泌するように工学的に操作されたヒト共生細菌株を投与することを含む、1型糖尿病を治療または緩和するための方法を、非常に低い費用で経口的に実行することができることが実証される。
【0175】
6.5. 実施例5:GLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌を用いたストレプトゾトシン(STZ)誘導性糖尿病マウスの治療
この実施例では、ストレプトゾトシン(STZ)誘導性糖尿病マウスを、GLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌を用いて処置するための典型的な方法を記載している。
【0176】
6〜8週齢の雄のストレプトゾトシン(STZ)誘導性糖尿病マウス(C57B6)に、細胞透過性ペプチドを有するGLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌(STZ+GLP)、またはランダムな20アミノ酸配列を発現しているE.coli Nissle1917細菌(STZベクター)のいずれかを摂食させた。「対照」マウスは、STZで処置しなかった。
図7に関して、「Nissle前」の測定値は、STZ処置により血中グルコースレベルが有意に上昇した後、STZ処置したマウスにNissle細菌を摂食させる前に取得した。全ての細菌の摂食を30日後に停止した。細菌の摂食を開始した60日後に血中グルコースを再度測定した(「60日」)。値は、4匹のマウスの平均を示す。エラーバーは1標準偏差を示す。p値はスチューデントのt検定による(n=4)。結果は、GLP−1分泌細菌を摂食させた糖尿病マウスは処置の30日後に血糖正常のレベルに戻ったことを示す。驚いたことに、これらのマウスでは、さらに30日間、いかなる処置もせずに血中グルコースの正常なレベルが維持された。
【0177】
これらのマウスの解剖および免疫組織学的検査により、それらの腸組織におけるインスリンのレベルが、ランダムなペプチド配列を分泌する共生細菌のみを摂食させた対照と比較して高かったことが示された(
図8A〜B)。
図8Aに関して、高濃度のインスリンは矢印で示されている。
【0178】
6.6. 実施例6:1型糖尿病マウスの、GLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌を用いた治療
この実施例では、1型糖尿病マウスを、GLP−1を発現しているE.coli Nissle1917細菌を用いて処置するための典型的な方法を記載している。
【0179】
Nissle−GLP−1の1型真性糖尿病(T1DM)に対する効果を決定するために、T1DMのSTZマウスモデルを作製した。雄のC57BL/6J(B6)マウスを、高用量のSTZで処置し、高血糖症が発症したら(ランダムなグルコースレベル>350mg/dL)、マウスにNissle−GLP−1もしくはNissleのいずれかを摂食させた、または処置しなかった。共生細菌の摂食は、1日2回、およそ8時間の間隔を空けて行った。血糖正常の対照として、マウスの1つの群にはSTZ処置もせず、共生細菌も摂食させなかった(対照)。マウスのランダムなグルコースレベル(
図9B)および体重(
図9C)を80日にわたってモニターした。β細胞質量を測定した(
図9A)。Nissle単独の摂食は、STZ処置し、共生細菌を与えなかったマウスと比較してランダムな血中グルコースレベルに対する有意な効果を有さなかった(
図9B)。しかし、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、摂食を始めてから16日以内に、有意に低いランダムな血中グルコースレベルを示した。80日の期間にわたって、試験に含まれたマウスのいずれにおいても体重に有意差はなく、マウスのいずれにおいても有意な体重増加はなかった。
【0180】
共生細菌処置した89日後に、マウスを耐糖能検査に供した。マウスを10時間絶食させた後、グルコースをi.p.注射した。グルコース注射した後、30分ごとに1.5時間にわたって血中のインスリンレベルおよびグルコースレベルを測定した(それぞれ
図9Dおよび9E)。0.5時間および1.5時間の時点で、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスとSTZのみのマウスの間でインスリンレベルの有意差が見られた。いずれの時点でも、Nissle GLP−1を摂食させたマウスと処置しなかった対照マウスの間でインスリンレベルに有意差はなかった(
図9D)。実験全体を通して、マウスの4つの群全ての間で血中グルコースレベルに有意差があった。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、耐糖能検査全体を通してSTZのみのマウスの50%未満の血中グルコースレベルを示したが、STZを与えなかった対照マウスの2倍の高さの血中グルコースレベルを有した(
図9E)。興味深いことに、グルコースを注射する前(時間=0)には、Nissle処置したマウスの血中グルコースはSTZ処置したマウスと有意差がなかったが、グルコース注射した1時間後には、Nissle処置したマウスは、STZ処置したマウスよりもほぼ33%低い血中グルコースレベルを示した。
【0181】
マウスの腸を、インスリンの存在について免疫染色した (
図10A〜F)。インスリン含有細胞のポケットがNissle−GLP−1で処置したマウスにおいて見いだされたが、この試験に用いた他のマウスのいずれにおいても見いだされなかった。これらのポケットの相対的な発生頻度が示されている(
図10A〜B)。全体的な上皮細胞集団の百分率として、ポケットは1%未満を構成すると推定される(
図10B)。予測通り、STZはT1DM応答を引き出すことに有効であった。β細胞質量は、STZ処置したマウスについて有意に低く(
図9A)、またSTZ処置したマウスの血中のグルコースレベルおよびインスリンレベルはT1DMと一致した(
図9B、D、E)。STZ処置したマウス全てについてβ細胞質量が同等に低下したことにより、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおける膵臓のβ細胞の再生はインスリンを増加させる、または血中グルコースを低下させる機構ではないことが示された。
【0182】
どの種類の腸細胞(パネート細胞、吸収細胞、杯細胞または腸内分泌細胞)が、再プログラミングされてインスリン含有細胞になったかを決定するために、細胞を、4種の細胞型のそれぞれの代表的なタンパク質に対する抗体を用いて青色で共染色した:パネート細胞についてはNOD−2、杯細胞についてはムチン−2(MUC−2)、吸収細胞についてはスクロースイソマルターゼ(SI)、および腸内分泌細胞についてはクロモグラニンA(Chr−A)。NOD−2、MUC−2、またはSIについて重複した染色は見られなかった(それぞれ
図10C、DおよびE)。しかし、Chr−Aについてインスリンと重複した染色が見られた(
図10F)。マウスの腸の免疫染色により、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスではインスリン含有細胞が示され(
図10A)、Nissleを摂食させたマウスまたは対照マウスではインスリン含有細胞は示されなかった(
図10B)。4種類の腸内細胞のそれぞれの代表的なタンパク質に対する抗体を用いた共染色により、これらの細胞の系列が腸内分泌細胞に関連することが示唆された(
図10F)。この結果により、血液中へのホルモンの分泌は通常、腸内分泌細胞の機能であり、他の3つの細胞型の機能ではないと予測された。
【0183】
健康なマウス(STZ処置していない)にもNissleおよびNissle−GLP−1を摂食させ、それらの血中グルコースレベルは、共生細菌を摂食させなかった健康なマウスの血中グルコースレベルと有意に異ならなかった(
図11A〜B)。結果は、94日の期間にわたって、処置していない健康なマウス(対照)といずれの処置マウスとの間にもランダムなマウスの血中グルコースレベルに有意な変化はないことを示している(
図11A)。マウスの体重変化にも、この時間にわたって差異はなかった(
図11B)。Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウス(
図11)について血中グルコースまたは体重に変化がないことを示すデータを、Nissle−GLP−1により血中グルコースレベルが有意に低下し得ることを示すデータと並べて検討すると、全体像は、糖尿病に対する有効かつ安全な潜在的治療の1つであり、これは、グルコース応答性であり、非糖尿病系と同様のインスリンカイネティクスを伴うものである(
図9D)。すなわち、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおけるインスリンレベルの変化は、健康なマウスにおいて起こるインスリンレベルの変化より少ない程度ではあるが、同じタイミングで起こる。
【0184】
これらのデータは、糖尿病マウスにNissle−GLP−1を摂食させることにより、グルコース応答性インスリン産生が引き起こされ、血中グルコースレベルが有意に低下し得ることを示唆している。理論に束縛されることを望むものではないが、インスリン分泌の機構は、再プログラミングされた腸の細胞のポケット由来のものであると思われる。これらのポケットは、インスリンに加えてChr−Aを発現し、これは、これらのポケットが腸内分泌細胞に由来することを示唆している。Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウスからの結果を考慮すると、証拠により、この治療は、たとえ非糖尿病患者が受けたとしても安全であると思われることが示唆される。
【0185】
6.7. 実施例7:染色体を改変したE.coli Nissleと、プラスミドを含有するE.coli NissleにおけるGLP−1の発現
この実施例では、染色体を改変したE.coli Nissleと、プラスミドを含有するE.coli NissleにおけるGLP−1の発現の比較について記載している。
【0186】
GLP−1発現を維持するために選択圧力が必要ない細菌を工学的に操作した。株の比較において、染色体を改変したNissleから培地中に分泌されるGLP−1の相対的な濃度は、プラスミド由来のGLP−1を発現しているNissleから分泌されるGLP−1の相対的な濃度よりも低いことが見いだされた。しかし、染色体からGLP−1を発現しているNissleは、in vivoにおいてプラスミド由来のGLP−1を発現しているNissleと同様に有効であった(
図5)。細菌培養物において分泌されたGLP−1の量とin vivoにおける血中グルコースレベルが低下したことの間に相関がないことにはいくつかの理由があり得る。マウスの腸におけるNissleの生存性を測定することにより、Nissle、プラスミド由来のGLP−1を発現しているNissleまたはNissle−GLP−1を摂食させた株間に差異がないことが明らかになった(
図12)。腸粘膜におけるGLP−1安定性は、粘膜プロテアーゼにより損なわれ、それによって有効な輸送が分泌速度よりもはるかに低下する可能性がある。マウス消化管内の理想より劣る成長条件(pH、栄養分など)(Nissleは、ヒトプロバイオティクスである)により、いずれの株についても最適より劣る遺伝子発現が導かれる場合もあり得た。
【0187】
グルコース応答試験におけるインスリン分泌のカイネティクスは、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスおよび対照マウスについて同様であると思われたが(
図9D)、血中グルコースの低下はSTZで処置したマウスの全てにおいて遅延した(
図9E)。しかし、Nissleを摂食させたマウスは対照マウスと同一のカイネティクスを示した。この結果は予想外であり、別の機構によって説明できる可能性がある。Nissleを摂食させたマウスについて、STZのみのマウスと比較して、グルコース応答試験において血中グルコースがより急速に低下したことも予想外であった(
図9E)。これは、Nissle単独によるある程度の保護を示す。この保護はランダムなグルコースレベルでは現れなかったが、これは、血中グルコースのスパイクの影響を弱めると思われる。グルコースをi.p.注射すると見られるように、腸のグルコースの細菌による消費は可能性のある機構として除外することができる。
【0188】
6.8. 実施例8:血中グルコースレベルに対するNissleの摂食の効果
この実施例により、マウスにおける、血中グルコースレベルに対するNissleの摂食の効果が実証される。
【0189】
実験の開始時に、マウスにSTZを5日間摂食させた(体重1kg当たり40mg)(STZ処置は「STZ停止」で終了する)。300mg/dLを超えるランダムな血中グルコースレベルが持続し始めた後、マウスに、ダミープラスミドを発現しているNissle単独で(STZ+ベクター)、同じプラスミド由来のGLP−1(1〜37)を発現しているNissle(STZ+GLP)のいずれかを含めたNissle処置を開始した、またはSTZなしで処置もしなかった(対照)。タイムラインにおいて摂食は「Nissle開始」で示されている。Nissleを、「Nissle停止」で示されている時間まで1日2回摂食させた。マウスは、基本的に、この時点で、「Nissle1回」で示されている時間まで放置した(通常の世話外)。その時点で血中グルコースを測定し、Nissleをマウスに1回摂食させた。次いで、マウスを最後の時点まで放置し、そこで血中グルコースを測定した。
図13を参照されたい。平均が提示されており(n=3)、エラーバーは1標準偏差を示す。
【0190】
非肥満糖尿病(NOD)マウスにNissle単独で、GLP−1(1〜37)を染色体性に発現しているNissleのいずれかを1日2回摂食させた、または処置しなかった。マウスを、血中グルコースを測定する直前の4時間絶食させた。
図14に関して、時間は、処置を開始した後の日数を示す。平均が提示されており(n=少なくとも3)、エラーバーは1標準偏差を示す。p値はスチューデントのt検定による。
【0191】
図15は、組換え細胞の推定作動方法を示す。左:粘膜Mの内部および上部の内腔B内に細菌を伴う正常な腸陰窩である。腸内分泌細胞(E)は固有層(LP)および脈管構造V内にホルモンを分泌する。右:本明細書の実施形態の組換え細胞(EB)は、GLP−1(EBから出ている点)を陰窩内に分泌して、初期の腸内分泌細胞をインスリン分泌細胞(RE)に再プログラミングする。次いで、グルコースに応答してインスリン(Ins、星印)が血流中に分泌される。
【0192】
理論に束縛されることを望むものではないが、組換え共生株を単純な経口投薬で、有意なバックグラウンド発現はなく、グルコース応答性を伴い使用することにより、インスリン注射の必要性を有意に低下させること、または、排除することさえでき、その使用が、宿主インスリン合成の交換により、糖尿病患者によって示される長期合併症の減少に役立ち得ると考えられている。
【0193】
6.9. 実施例9:GLP−1試験のための元の構築物および新しい構築物の配列
本明細書に開示されている方法に従って以下の構築物を使用することができる。
【0194】
実施例1〜11において使用した元のNissle−GLP−1構築物
【0195】
【化5】
ここで、
【0196】
【化6】
使用することができる別のプロモーターNissle−GLP−1構築物
【0197】
【化7】
ここで、
【0198】
【化8】
乳酸桿菌属構築物
【0199】
【化9】
ここで、
【0200】
【化10】
6.10. 実施例10:糖尿病マウスにおいて、共生細菌により分泌されるGLP−1により腸の細胞が再プログラミングされて、高血糖症が減少する
細菌によって分泌されたGLP−1を糖尿病マウスに、腸に摂食させることより、グルコース応答性インスリン産生が引き起こされ、血中グルコースレベルが有意に低下し得る。インスリン分泌の機構は、再プログラミングされた腸の細胞によるものであると思われる。これらの細胞は、PDX−1をほとんど発現せず、ほんの一部のみがインスリンに加えてChrAを発現するという点で大多数の膵臓のβ細胞とは別個のものである。
【0201】
導入
グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)は、マウスの腸上皮細胞のインスリン分泌細胞への変換を刺激する。本発明者らは、GLP−1を分泌するように工学的に操作されたヒト共生細菌株を単純に経口投薬することにより、腸の細胞がグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングされることによって1型真性糖尿病(T1DM)のマウスモデルにおける高血糖症が緩和され得るかを調査した。糖尿病マウスに、GLP−1を分泌するように工学的に操作された共生細菌(Nissle−GLP−1)を毎日摂食させた。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、インスリンレベルの有意な増加を示し、また耐糖能が有意に大きかった。これらのマウスでは、腸上部に、健康なマウスに見いだされる膵臓のβ細胞のおよそ82%が置き換わるために十分な数のインスリン産生細胞が発生した。驚いたことに、PDX−1の発現は、再プログラミングされた細胞において、上皮周囲よりも定性的に低かった。さらに、再プログラミングされた細胞のサブセットをクロモグラニンA(ChrA、腸内分泌およびβ細胞に対するマーカー)について共染色した。健康な(非糖尿病の)Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは同様に再プログラミングされた細胞を示したが、処置した後90日間を超えてさえ、血中グルコースレベルの変化はなく、体重は増加し、それは対照マウスと区別できないものであった。これらの結果は、T1DMに対する潜在的な経口的治療を指し、腸内細胞の運命を媒介するための細菌のシグナル伝達の概念を導入する。
【0202】
非β細胞をβ細胞またはインスリン分泌の潜在力を有する細胞に再プログラミングすることは、ここ10年にわたり、いくつかの試験の対象になってきた。研究は、移植するためにin vitroで膵臓細胞系列(腺房細胞など)および肝臓細胞系列からβ細胞を生成すること、ならびにin vivoで膵臓特異的細胞または他の組織特異的細胞のβ細胞への変換を引き起こすことを含めたいくつもの領域に焦点を合わせている。以前は不活性であると考えられていたグルカゴン様ペプチド1の形態(GLP−1(1〜37))が、ラット腸上皮細胞を刺激して、Notchシグナル伝達経路を通じてグルコース応答性インスリン分泌細胞にさせ得るという発見(Suzuki, A.、Nakauchi, H. & Taniguchi, H.、Glucagon-like peptide 1(1-37) converts intestinal epithelial cells into insulin-producing cells. ProcNatl Acad Sci USA 100巻、5034〜5039頁(2003年))により、この後者の手法の潜在性が実証された。Suzukiは、胎生期10.5日(E10.5)に、母親にGLP−1を腹腔内(i.p.)注射した発達中のラット胚の腸上部にいくつかのインスリン産生細胞が示されることを報告した。成体ラット(10週間)は、GLP−1を毎日、9日間注射すると、いくつかの(ずっと少ないが)腸インスリン産生細胞を有した。これにより、未分化の腸上皮(ラットにおける分化はE15後に起こる)を有するラットは、腸の細胞を「β様」細胞に分化させることができることが示唆された。この試験により、発達初期の空腸(E14.5)を、GLP−1と一緒にin vitroでインキュベートし、成体糖尿病ラットに外科的に埋め込むことにより、STZ誘導性T1DMを逆転させることができることも実証された。著者らは、成体腸細胞分化(腸陰窩から起こる)では有意な数のインスリン産生細胞が生じないこと、ならびにβ様機能性を有する細胞に有意に分化するためには発達中の胎児(E17前)の増殖細胞および多列細胞が必要になる可能性が高いことを結論づけた。
【0203】
Suzukiの研究により、腸の細胞の再プログラミングを媒介し得る生理活性化合物を、外科手術をせずに送達することの難しさが実証された。GLP−1自体の血液中の半減期はたった数分である。この短い半減期が、GLP−1が腸陰窩に到達するために循環中に長く生存しなければならない成体ラットにおいて再プログラミング速度が低いことの理由になってきた。外科手術の潜在的な落とし穴または血流内での分解を回避する、生理活性化合物を腸上部の管腔(絨毛)側に送達する1つの方法は、腸に定植している共生細菌からシグナルを分泌させることである。この手法により、シグナルを連続的にまたは局部刺激に応答して発現させ、その後、血液ではなく腸粘膜を通じて輸送することが可能になる。
【0204】
工学的に操作された共生細菌により、in vitroにおいてGLP−1(1〜37)をヒトの腸の細胞に送達し、グルコース応答性インスリン分泌を刺激することができる(Duan, F.、Curtis, K. L. & March, J. C.、Secretion ofinsulinotropic proteins by commensal bacteria: rewiring the gut to treatdiabetes. Appl Environ Microbiol 74巻、7437〜7438頁(2008年))。その研究では、E.coli Nissle1917(EcN)を、外因性誘導因子に応答してプラスミドからGLP−1(1〜37)を分泌するように形質転換した。この調査では、EcN染色体を、GLP−1(1〜37)を構成的に分泌するように改変することにより(Nissle−GLP−1)、T1DMのマウスモデルにおいて正常血糖が回復するかどうかを試験した。本発明者らの目的は、Nissle−GLP−1を毎日摂食させることによってマウスの腸の細胞をグルコース応答性インスリン分泌細胞に再プログラミングすることであった。本発明者らは、β細胞および腸内分泌マーカーの同時発現も測定して、再プログラミングの程度ならびに再プログラミングされた細胞の系列を決定した。
【0205】
EcNを、fliCプロモーター、細胞透過性ペプチド(CPP)および分泌タグを用いて、GLP−1(1〜37)を分泌するように工学的に操作した(
図19の上)。この株の培養物におけるGLP−1の分泌を検証し、pKD3染色体挿入カセットを伴わず同じ配列を含有するプラスミド担持株からの分泌と比較した(
図19の下)。Nissle−GLP−1についての分泌量は、プラスミド担持株の分泌量のおよそ50%であった。したがって、生じた差異は有意とみなされず、本発明者らはこれらの実験においてプラスミドを維持するための選択圧力を含めることを望まなかったので、in vivo試験のためにプラスミド担持株ではなくNissle−GLP−1を使用した。免疫蛍光法(IF)により明らかになった通り、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、腸上部でGLP−1について陽性に染色されたが、「ダミー」ペプチドを発現しているEcNを摂食させたマウス(Nissle)では同様の染色が示されなかった(
図16a、b)。粘液層を守るために、腸の切片はパラホルムアルデヒドに固定するのではなく、凍結させた。画像解析により、GLP−1染色は、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおいて、Nissleを摂食させたマウスよりも有意に高いことが示された(
図16c)。
【0206】
Nissle−GLP−1またはNissleを摂食させたマウスの腸中および糞便中の細菌の総数を測定した。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスおよびNissleを摂食させたマウスの腸の細菌の総数および糞便の細菌の総数は同じであり(
図16d)、これは、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスの切片について観察されたGLP−1の増加は組換えGLP−1の発現に由来し、EcN由来株が存在することによってもたらされる内在性のGLP−1産生に由来するものではない可能性が高いことを示している。糞便中ではなく大腸におけるコロニーを決定するために、下部GI管の切片を穏やかにこすり取り、洗浄して糞便を除去した。残った細菌の総数を得る。本発明者らによる小腸および糞便における細菌の総数は他で報告されているものほど高くなかったが、これは、マウスの品種が異なること、および代替の抗生物質前処理に起因する可能性がある。
【0207】
本発明者らは薬物誘導性T1DMマウスモデルおよび遺伝的な非肥満糖尿病(NOD)マウスモデルにおいて、Nissle−GLP−1により、正常血糖を回復させることができるかどうかを試験した(NODモデルからの結果がセクション6.11.(実施例11)に要約されている。薬物誘導性T1DMモデルの雄のC57BL/6J(B6)マウスに、ストレプトゾトシン(STZ)を高用量(体重1kg当たり40mgまたは50mg)で5日間継続的に注射した。高血糖症が発症した(空腹時血糖レベル>250mg/dL)マウスにNissle−GLP−1もしくはNissleのいずれかを摂食させた、または処置しなかった。共生細菌の摂食は、1日2回、およそ8時間の間隔を空けて行った。正常血糖対照として、マウスの1つの群にはSTZ処置もせず、共生細菌も摂食させなかった(対照)。血中グルコースレベルおよび体重を60日にわたってモニターした。
【0208】
膵臓の形態計測解析により、STZ処置したマウスのβ細胞質量が、対照マウスと比較して有意に減少したことが示された(
図17a)。Nissle単独の摂食は、STZ処置し、共生細菌を与えなかったマウスと比較して、血中グルコースレベルに対する有意な効果を有さなかった(
図17b)。しかし、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、摂食を始めた60日後に有意に低い(p=.000017)血中グルコースレベルを示した(
図17b)。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスについての血中グルコースレベルは、正常血糖対照と有意に異ならなかった(p=.46)。さらに、60日の期間中、試験に含めたマウスのいずれについても体重に有意な変化はなかった(
図20A〜B)。STZを摂食させたマウスの全てにおいてβ細胞質量が同等に減少したことにより、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスの血中グルコースレベルの低下がβ細胞再生の結果である可能性が除外された。
【0209】
健康な、STZ処置していないマウスにもNissleおよびNissle−GLP−1を摂食させ、それらの血中グルコースレベルは、共生細菌を摂食させなかった健康なマウスの血中グルコースレベルと有意に異ならなかった(
図17c)。92日の期間にわたって、いずれの複数の処置と処置していない健康なマウス(対照)との間にもマウスの血中グルコースレベルに有意な変化はなかった(
図17c)。同じ期間にわたってマウスの体重変化にも差異はなかった(
図20A〜B)。
【0210】
共生細菌で処置した60日後に、マウスの全群を耐糖能検査に供した。マウスを10時間絶食させた後、グルコース(体重1kg当たり25g)をi.p.注射した。グルコース注射した後、30分ごとに1.5時間にわたって血中のインスリンレベルおよびグルコースレベルを測定した(
図17d)。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスとSTZのみの群の間に、0.5時間および1.5時間の時点でインスリンレベルの有意差が見られたが、Nissle GLP−1を摂食させたマウスと処置しなかった対照マウスの間では、いずれの時点でもインスリンレベルに有意差は検出されなかった(
図17d)。耐糖能検査全体を通して、マウスの4つの群全てにわたって血中グルコースレベルに有意差があった。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、耐糖能検査全体を通して、STZのみのマウスの50%未満の血中グルコースレベルを示したが、STZを与えなかった対照マウスの2倍の高さの血中グルコースレベルを有した(
図17d)。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスの血中グルコースレベルは、正常血糖対照よりは高いが、耐糖能検査全体を通して275mg/dLを超えなかった(STZのみのマウスの600mg/dLと比較して)。興味深いことに、血中グルコースについて、Nissle処置したマウスでは基礎レベル(時間=0)においてはSTZ処置したマウスとの有意差が示されなかったが、グルコース注射した1時間後には、Nissle処置したマウスは、STZ処置したマウスよりもほぼ33%低い血中グルコースレベルを示した。この保護は、高レベルのグルコースを注射していないマウスでは明白ではなかったが、Nissleにより、血中グルコースのスパイクの影響がいくらかの程度緩和され得ると思われる。グルコースをi.p.注射したとすると、内腔内のグルコースの細菌による消費は可能性のある機構としては除外することができる。この知見を説明するためにはさらなる試験が必要である。
【0211】
処置した60日後(および耐糖能検査後)に、マウス小腸の切片を固定し、種々のマーカーについて免疫蛍光によりプロービングした。インスリン含有細胞のポケットが、Nissle−GLP−1で処置したマウスの小腸において見いだされたが、この試験に用いた他の群のいずれにおいても見いだされなかった(
図18a〜d)。画像解析から、インスリン産生細胞の相対的な発生頻度が小腸の細胞集団全体のおよそ0.013%(±0.002%)(または上皮細胞10,000個中1個)であると推定された。予測通り、試験に含めた全てのマウスで腸上部においてPDX−1産生が見られた(
図18a〜dの赤色の染色)。しかし、Nissle−GLP−1で処置したマウスのインスリン産生細胞は高レベルのPDX−1について染色されず、さらには、周囲の細胞よりも(
図18bおよびd)、または対照マウス由来の膵ベータ細胞よりも(データは示していない)、PDX−1発現が少ないとも思われた。これは興味深い転帰であるが、β細胞質量におけるPDX−1/インスリン分泌に不均一性が存在することが公知であるので、これらの細胞がβ細胞様の機能性を有するという可能性が残る。
【0212】
健康な(非糖尿病)マウスにNissleおよびNissle−GLP−1を摂食させた、より長期間の対照実験では、腸を、再プログラミングされた細胞の存在についても染色した。Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウスでは、インスリン染色が見られ、インスリン産生細胞におけるPDX−1の発現は同様に周囲の細胞より少なかった(
図18d)。Nissleを摂食させた健康なマウスでは再プログラミングされた細胞は示されなかった(
図18c)。
【0213】
再プログラミングされた細胞の生理機能をよりよく理解するために、マウスの腸の切片においてクロモグラニンA(ChrA)およびインスリンについて共染色した。ChrAは、通常、神経内分泌細胞、腸内分泌細胞によって発現され、島β細胞の分泌顆粒中にある。いくつかの場合には、インスリン染色はChrA染色(赤色)と重複し(
図18e)、観察されたインスリン産生細胞のおよそ80%において、ChrAは同じ細胞に局在しなかった(
図18f)。
図18eおよびfは、正常な腸内分泌細胞(ChrA陽性、インスリン染色なし)およびインスリン産生(インスリン染色)細胞を示す。正常な腸内分泌細胞がインスリン産生細胞の極めて近傍に存在することは、腸内分泌細胞からインスリン産生細胞にいくらか変換されているにもかかわらず腸内分泌機能性が動物全体で保存されていることを示唆している。本発明者らによってインスリンとリゾチームの共局在は観察されず(
図18g)、これにより、再プログラミングされた細胞がパネート細胞ではなかったことが示唆される。インスリンとスクラーゼイソマルターゼの同時発現(SI、
図18h)により、再プログラミングされた細胞がそれらの吸収力を維持することが示される。
【0214】
Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウスについて血中グルコース(
図17c)または体重(
図20A〜B)に変化がないことを示すデータと、2種のT1DMのげっ歯類モデルにおいてNissle−GLP−1により血中グルコースレベルが有意に低下し得ることを示すデータ(
図17bおよび21)を並べると、この手法が糖尿病に対する有効かつ安全な治療であり得ることが示唆され、これは非糖尿病系と同様のインスリンカイネティクスを有し、グルコース応答性である(
図17d)、すなわち、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおいて、血清インスリンレベルは低いが、インスリンレベルの変化が健康なマウスと同じタイミングで起こるものである。この試験で実現される再プログラミング効率の推定値(下の「再プログラミングされた細胞の数の算出および推定値」において詳述される)は、再プログラミングされた細胞が、健康なマウスの膵臓におけるβ細胞の数のおよそ82%の数に達することを示している。この数は、なぜマウスが日常条件下で正常化された血中グルコースレベルを示すことができたが、より厳しい耐糖能検査条件下では健康なマウスの血糖対照よりもわずかに低かったかを潜在的に説明する。ヒト患者が、本明細書で提示されたマウスに関する結果と同じ結果を実現するために毎日消費しなければならない細菌の量の推定値は、現在市場に出ている市販のプロバイオティクス製剤中に存在する細菌の量を考慮すると、1日およそ5〜15gである。しかし、コロニー形成数がより高ければ、1日の摂取量は50mgまでの低さになり得る。
【0215】
この手法に伴う考慮すべき問題は、腸において新しく生成したβ様細胞に対する免疫応答が引き出される潜在性である。他の再生手法と同様にこれが起こる有意な潜在性が存在する。しかし、これらの細胞の生理機能(ChrAをわずかに発現し、PDX−1の発現が比較的少ない)は、β細胞とは別個であり、したがって、これらの細胞は免疫系から検出されない可能性がある。さらに、患者を、この試験でのマウスと同様に、GLP−1を分泌する細菌で毎日処置する場合、インスリン分泌細胞が永久的に再生することにより、おそらく、新しく形成されたβ様細胞が免疫学的に破壊されるにもかかわらず、継続した血中グルコースの低下が可能になる。46日後にさえ、NODマウス(膵臓のβ細胞の免疫破壊を提示する)における保護作用を示す本発明者らのデータを用いて、ヒト上皮細胞がおよそ2日ごとに交換されることを考えると、腸上部において再プログラミングされた細胞に対する免疫系による有意な応答はない可能性がある。しかし、そのような攻撃がある場合、粘膜の表面の永久的な炎症がもたらされ得る。この手法の免疫学的影響を決定するためには、さらなる試験が必要である。
【0216】
本発明者らは、本明細書において提示されているデータから、糖尿病マウスにNissle−GLP−1を摂食させることにより、グルコース応答性インスリン産生が引き起こされ、血中グルコースレベルが有意に低下し得ると結論づける。さらなる特徴付けが必要ではあるが、インスリン分泌の機構は、再プログラミングされた腸の細胞に由来すると思われる。これらの細胞は、PDX−1をほとんど発現せず、これらの細胞の一部のみがインスリンに加えてChrAを発現するという点で、大多数の膵臓のβ細胞とは別個である。マウスに、β細胞のインスリン分泌を刺激しない不活性型のGLP−1を摂食させるとし、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスが、Nissleのみを摂食させたマウスまたは細菌を摂食させなかったマウスと同じレベルの膵臓のインスリン産生を有するとすると、この手法により、残りのβ細胞からのインスリン産生が増加する見込みはない。Nissle−GLP−1を摂食させた健康なマウスからの結果を考慮すると、証拠により、この治療が、たとえ非糖尿病患者が受けたとしても安全であると思われることが示唆される。今後の研究により、インスリン産生細胞の生理機能およびこの治療の詳細な長期の薬物動態がより綿密に検査される。
【0217】
材料および方法
プラスミド構築
別段の指定のない限り、化学物質および試薬は全て、VWR International(West Chester、PA)から購入した。クローニングは全て標準の技法を用いて行った(Sambrook, J. & Russell, D. W.、Molecular cloning: a laboratorymanual.、第3版(Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年))。以前に記載されている通り、細胞透過性ペプチド(CPP)と融合したglp−1(1〜37)をfliCプロモーターの制御下で発現させるためのプラスミドを構築して、pFD−GLPを作製した(Duan,F. & March, J. C.、Interrupting Vibrio cholerae infection of humanepithelial cells with engineered commensal bacterial signaling. BiotechnolBioeng 101巻(1号):128〜34頁(2008年))。配列6×HiS−EK−glp−1(1〜37)−CPPを合成により作製した(IDT、Coralville、IA)。この断片を、高忠実度PCR(Strategene)によってpBluescript−KSに挿入して、pBluescript−GLPを作製した。得られたベクターは、配列:5’UTR−Flic20−6×HiS−EK−glp−1(1〜37)−CPPを含有した。この配列をpKS121(fliCの3’UTRを含有する)にクローニングして、高忠実度PCRにより構築物:5’UTR−Flic20−6×HiS−EK−glp−1(1〜37)−CPP−3’UTRを得た。pFDベクターを得るために、高忠実度PCRを用いて、pFD−GLP由来の5’UTR−FLIC20−6×HiS−EK配列をクローニングした。PCR断片をpKS121にクローニングして、構築物:5’UTR−Flic20−6×HiS−EK−3’UTRを得た。pKS104およびpKS121はUniversity of Helsinki、FinlandのBenita Westerlund−Wikstroemからの好意の寄贈品であった。
【0218】
glp−1(1〜37)−CPPをネイティブなfliCプロモーターの制御下で染色体に挿入するために、確立された方法を用いて構築物pFD−GLPCを調製した(Datsenko, K. A. & Wanner, B. L.、One-step inactivation ofchromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products. Proc Natl AcadSci USA 97巻、6640〜6645頁(2000年))。構築物のマップが、クローニングステップおよび使用したプライマーの詳細な説明と一緒に下に記載されている。簡単に述べると、一段階不活化を用いて、Flic20−6×HiS−EK−glp−1(1〜37)−CPP遺伝子を、Nissle染色体に、fliCプロモーター領域の下流のfliCの代わりに挿入した。本発明者らは、Nissle染色体のfliD遺伝子をノックアウトした。この技法では、3つのプラスミド、pKD3(クロラムフェニコール耐性を付与する)、pKD4(カナマイシン耐性を付与する)、およびpKD46(アンピシリン耐性を付与する)を使用する(Datsenko,K. A. & Wanner, B. L.、One-step inactivation of chromosomal genes inEscherichia coli K-12 using PCR products. Proc Natl Acad Sci USA 97巻、6640〜6645頁(2000年))。染色体に挿入した後に生じた株はNissle−GLP−1と称した。
【0219】
ウエスタンブロット
E.coli Nissle1917(EcN)は、現在販売されているプロバイオティクスであるMutaflor(商標)から、以前に記載されている通り得た(Duan, F. & March, J. C.、Interrupting Vibrio cholerae infectionof human epithelial cells with engineered commensal bacterial signaling.Biotechnol Bioeng 101巻(1号):128〜34頁(2008年))。pFDベクターを有するEcN、pFD−GLPおよびpFD−GLPCの染色体挿入を伴うNissleを、LB中、37℃、225rpmで振とうしながら24時間成長させた。24時間後に、全ての細菌を遠心分離した。上清を濾過した(0.2μm、PALL Life Sciences)。無細胞培地(CFM)を同じOD600までLBで希釈し、プロテアーゼを阻害するために、10ng/mLのロイペプチン、0.04mMのPMSFおよび5ng/mLのアプロチニンに加えた。不純物を取り除いた上清(14mL)を、10%トリクロロ酢酸(TCA、VWR)を用いて30分間、氷上で沈殿させ、ペレットを氷冷したエタノール/エーテル(1:1)で2回洗浄した。上清ペレットを真空下で乾燥させ、試料緩衝液(2%SDS、50mMのトリス、pH6.8、20%グリセロール、10%メルカプトエタノール、ブロモフェノールブルー)50μlに溶解させ、95℃で5分間煮沸した。細胞ペレットを(14mLの培養物から)、プロテアーゼ阻害剤(10ng/mLのロイペプチン、200μMのPMSFおよび5ng/mLのアプロチニン)を伴う500μlのBugBuster Master Mixを使用し、室温で穏やかにボルテックスすることによりBugBuster Master Mixに再懸濁させた。細胞浮遊液を、室温で、振とうプラットフォーム(VWR、Bristol、CT)上、遅い設定で10〜20分インキュベートした。5×試料緩衝液125μlを各試料に加えた後、95℃で10分間煮沸した。
【0220】
GLP−1の発現量および分泌量を推定するために、ウエスタンブロットの標準の技法を用いた。簡単に述べると、試料50μlをポリアクリルアミドゲルにローディングし、Immobilon−P
SQ転写膜(Millipore、Billerica、MA)にブロッティングした。膜を、マウス抗his(GE health、Piscataway、NJ)に対して1:1,000でプロービングした。膜を、HRP−コンジュゲートした抗マウスIgG(Amersham Biosciences、Pittsburgh、PA)と一緒にインキュベートし、高感度化学発光(Pierce,Rockford,IL)により展開し、X線フィルム(Phoenix、Candler、NC)に曝露させた。
【0221】
マウスコロニー形成実験
この試験において用いたマウスは全て、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME)から購入し、Cornell University Veterinary SchoolのEast Campus Research Facility(ECRF)に収容した。試験は、Cornell University IACUCにより承認されたプロトコールに従って行った。
【0222】
STZモデル
ストレプトゾトシン(STZ)(Sigma、St.Louis、MO)を、適用する直前に、氷冷した0.1Mのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.2)中に溶解させた。6〜8週齢の雄のC57BL/6J(B6)マウスの4つの群に、ベータ細胞アポトーシスを誘導するために、5日連続して毎日、体重1kg当たり40mgまたは50mgのSTZの腹腔内注射を受けさせた。クエン酸ナトリウム注射を受けるマウスの別の群を対照として用いた。最後に注射した3日後に、動物の血中グルコースレベルを、Bayer Breeze血中グルコース試験紙(Bayer Healthcare LLC Mishawaka、IN)を用いて、Breeze(登録商標)2血中グルコースモニタリングシステム(Bayer Healthcare LLC Mishawaka、IN)によって決定した。血中グルコースレベルを、糖尿病のグルコースレベル(>250mg/dL)に到達するまで、3日ごとにモニターした。糖尿病の血中グルコースレベルに到達しなかったSTZ処置したマウスはこの試験には用いなかった。
【0223】
高血糖症を確立した後、常在通性細菌を排除するために、マウスに、クロラムフェニコール処理した((1g/リットル))飲料水を18時間与えた。pFD−GLPCを用いて染色体を改変したNissle株(Nissle−GLP−1)を、LB培地中の一晩培養500倍希釈物からOD
600=1になるまでクロラムフェニコールと一緒に成長させた。1000×gで3分遠心分離することによって細菌を採取した。生じたペレットを、1%スクロースを伴う200μlの滅菌LBに再溶解させた。クロラムフェニコール処置後、マウスに、10
9CFU/mL(OD
600=20)のルリア培地(Luria broth)で成長させたNissle株(NissleまたはNissle−GLP−1)を別々に含有する、1%スクロースを伴うLBを体重25g当たり50μl摂食させた。摂食させた細菌の体積をマウスの体重により正規化した。Nissle株を摂食させたマウスは全て、実験全体を通して、1日当たり2回Nissleを摂食させた。全てのマウスについて、7〜10日ごとに体重およびグルコースレベルを取得した。ほとんどの場合、空腹時血糖レベルを測定した。これらの測定は、マウスのストレスレベルを最小限にするために間隔を空けた。
【0224】
耐糖能検査およびELISA
マウスを10時間絶食させ、秤量し、ヘパリン添加したMicro−Hematocrit Capillary Tube(Fisher、PA)を使用して尾静脈から血液試料を採取した。次いで、マウスに体重1kg当たり25mgのグルコースを腹腔内注射し、0.5時間、1時間、1.5時間の時点で血液試料を取得した。Breeze(登録商標)2血中グルコースモニタリングシステムを使用して血漿グルコースを測定した。Rat/Mouse Insulin ELISAキット(Millipore、MA)を製造者の説明書に従って使用して血漿インスリンを測定した。
【0225】
細菌の計数
6〜8週齢の雄のC57BL/6J(B6)マウスに、常在通性細菌を排除するために、クロラムフェニコール(1g/リットル)を飲料水に入れて18時間与えた。Nissle株(NissleおよびNissle−GLP−1)の一晩培養物をLB培地中に1:500希釈し、OD600=1まで成長させた。1000×gで3分間遠心分離することによって細菌を採取した。生じたペレットを、1%スクロースを伴う滅菌LB中に再懸濁させてOD600=20にした。クロラムフェニコール処置後、マウスに、濃縮した再懸濁液を含有する、1%スクロースを伴うLBを体重25g当たり50μlで経口胃管栄養によって摂食させた(結果として生じる用量は、1日2回、動物当たり10
9CFUである)。20日間摂食させた後、マウスを新しいケージに移して3日間置いた。新しいケージから糞便を採取し、マウスを安楽死させた。各処置から少なくとも3匹のマウスを解剖し、それらのGI管を取り出した。GI管を2つの小片に切った(上部GI−小腸および下部GI−大腸)。下部GIを片側にそって開き、穏やかにこすり取ることによって糞便を除去し、1×PBSで洗浄した。上部GIは洗浄もこすり取ることもせずに秤量した。上部GI管および下部GI管をそれぞれ秤量し、新鮮なLB培地4mL中でホモジナイズした。ホモジナイズされた組織を、対応する抗生物質を伴うMacConkey寒天プレートに、段階希釈により播いた。プレートを、37℃で一晩インキュベートし、それらのコロニーを計数した。
【0226】
免疫組織学的検査
この試験で用いた、処置したマウスを全て、標準のプロトコールの通りCO
2を用いて安楽死させた。耐糖能検査後に屠殺したマウスの消化管および膵臓の組織を4%パラホルムアルデヒドに一晩固定し、1×PBSで3回洗浄し、70%エタノールに浸漬した。次いで、固定された組織を解剖した。
【0227】
脱パラフィンした後、固定された組織スライドを、IHC−Tek(商標)エピトープ回収溶液(IHC World、Woodstock、MD)中で蒸し、メタノール中0.5%過酸化水素(Fisher、Pittsburgh、PA)に10分間浸して、内在性のペルオキシダーゼをブロッキングした。0.01MのPBS(pH7.2)で洗浄した後、10%の通常のブロッキングヤギ血清(Invitrogen、Carlsbad、CA)を、加湿チャンバー内、室温で30分間適用した。PBSプラス1×カゼイン(Vector,Burlingame,CA)中に1:50希釈したウサギ抗インスリン(H−86、Santa Cruz Biotechnology)を適用して試料をブロッキングし、次いで、その試料を加湿チャンバー内、37℃で1.5時間インキュベートした。PBSで4回洗浄した後、PBS中に1:200希釈したビオチン化二次抗体ヤギAnti−Rabbit(Vector)を試料に、加湿チャンバー内、室温で20分間適用した。試料を、ストレプトアビジンペルオキシダーゼ(Invitrogen)と一緒に加湿チャンバー内、室温で20分間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。試料を、AEC色素原/基質溶液(Invitrogen)と一緒に室温でインキュベートした。色の発生を、通常の光学顕微鏡の下でおよそ5〜15分間モニターした。蒸留H
2Oによるすすぎを用いて反応を停止させた。
【0228】
一部の消化管組織および膵臓を、ヘマトキシリン(Fisher)を30秒間用いて対比染色した後、水道水で5分間すすいだ。試料を、水性封入剤であるFluoromount(Fisher)を使用して封入した。通常の光学顕微鏡(Leica、Bannockburn、IL)の下でカラーカメラを用いて写真を取得した。染色された膵臓組織の写真を、赤色の着色から推定されるβ細胞によるパーセント適用範囲についてImage Jソフトウェア(NIH−NCBI)によって解析した。
【0229】
免疫蛍光法
パラフィン免疫蛍光法−インスリン、PDX−1、ChrA、リゾチームおよびSI
Nissle株(NissleおよびNissle−GLP−1)を60日間摂食させた後に屠殺したマウスの消化管および膵臓の組織を、4%パラホルムアルデヒドに一晩固定し、1×PBSで3回洗浄し、70%エタノールに浸漬させた。次いで、固定された組織を解剖した。
【0230】
脱パラフィンした後、固定された組織スライドを、0.01Mのクエン酸緩衝液中で蒸した。0.01MのPBS(pH7.2)で洗浄した後、10%の通常のブロッキングロバ血清(Santa Cruz Biotechnology、CA)を加湿チャンバー内、室温で1時間適用した。1:50希釈したウサギ抗インスリン(Santa Cruz Biotechnology、CA)、およびPBSプラス1×カゼイン(Vector,Burlingame,CA)中1:500のヤギ抗PDX−1(Abcam、Cambridge、MA)、1:50に希釈された抗ヤギChrA、抗ヤギリゾチーム、または抗ヤギスクラーゼイソマルターゼ(SI)(Santa Cruz Biotechnology、CA)のいずれかを適用して試料をブロッキングし、次いで、その試料を加湿チャンバー内、4℃で一晩インキュベートした。PBSで4回洗浄した後、PBS中1:200希釈した、蛍光色素とコンジュゲートした二次抗体Alexa Fluor(登録商標)488ロバ抗ウサギIgGおよびAlexa Fluor(登録商標)555ロバ抗ヤギIgG(Invitrogen)を、加湿チャンバー内、室温で1.5時間、試料に適用した。PBSで3回洗浄した後、300nMのDAPI染色溶液(Invitrogen)を、試料と一緒に3分間インキュベートした。次いで、試料を、ProLong(登録商標)Gold退色防止(antifade)試薬(Invitrogen)を用いて封入した。検体を、各フルオロフォアについて、適切な励起波長を用いてすぐに検査した。Zeiss710共焦点顕微鏡(Zeiss、Jena、Germany)を用いて画像を取得した。
【0231】
凍結切片免疫蛍光法−Glp−1
Nissle株を10日間摂食させたマウスの腸および膵臓を回収し、OCT化合物中でスナップ凍結させ、凍結切片にした(8μM)。スライドを1時間風乾し、氷冷したアセトンに5分間固定した。一晩風乾した後、スライドをPBST(0.05%Tween)での3回洗浄で洗浄した。以下のプロトコールをM.O.M.(商標)キット染色手順(Vector)から改変した。細胞を、0.1%Triton X100を用いて15分間透過処理し、その後、PBSで2回洗浄した。M.O.M.(商標)Igブロッキング試薬の検量線用溶液中10%の通常のロバ血清(Santa Cruz Biotechnology、CA)を加湿チャンバー内、室温で1時間適用した。切片を2回、2分間、それぞれPBSで洗浄した。組織切片を、M.O.M.(商標)希釈剤の検量線用溶液中で5分間インキュベートした。次いで、試料を、M.O.M.(商標)希釈剤中1:100のウサギ抗GLP−1(1〜19)(Abcam)と一緒に37℃で30分間、その後RTで30分間インキュベートした。PBSTで2回洗浄し、次にPBSで4回洗浄した後、PBS中に1:200希釈した、蛍光色素とコンジュゲートした二次抗体Alexa Fluor(登録商標)488ロバ抗ウサギIgGおよびAlexa Fluor(登録商標)555ロバ抗ヤギIgG(Invitrogen)を加湿チャンバー内、室温で1時間、試料に適用した。その後PBSTで3回洗浄した後、試料を300nMのDAPI染色溶液(Invitrogen)中で3分間インキュベートした。試料をPBSで3回すすぎ、ProLong(登録商標)Gold退色防止試薬(Invitrogen)を用いて封入した。検体を、各フルオロフォアについて、適切な励起波長を用いてすぐに検査した。Zeiss710共焦点顕微鏡で写真を取得した。
【0232】
再プログラミングされた細胞の数の算出および推定値
Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおいて再プログラミングされた細胞の数を決定するための算出
マウス当たりのベータ細胞は1×10
6個であり(Bock, T.、Svenstrup,K.、Pakkenberg、B. & Buschard, K.、Unbiased estimation of total beta-cellnumber and mean beta-cell volume in rodent pancreas. Apmis 107巻、791〜799頁(1999年)、腸上部1cm
2当たりの細胞は1.9×10
7個である(Cheng,H. & Bjerknes, M.、Cell production in mouse intestinal epithelium measuredby stathmokinetic flow cytometry and Coulter particle counting. Anat Rec 207巻、427〜434頁、doi:10.1002/ar.1092070305(1983年)と仮定して、本発明者らはマウスの腸上部(十二指腸+空腸、332.4cm
2、Casteleyn,C、Rekecki, A.、Van der Aa, A.、Simoens, P. & Van den Broeck, W.、Surface areaassessment of the murine intestinal tract as a prerequisite for oral dosetranslation from mouse to man. Lab Anim 44巻、176〜183頁、doi:10.1258/la.2009.009112(2010年)を参照されたい)の推定表面積に、推定の再プログラミングされた細胞の百分率(0.00013)を掛け、これに1cm
2当たりの細胞数を掛けて、再プログラミングされた細胞の推定値を得、それは、健康なマウスにおけるベータ細胞の数のおよそ82%であった。
【0233】
マウス実験に基づく推定用量の算出
本発明者らは本実施例で報告される実験では、マウスに10
9cfu/mLを1日当たり2回摂食させた。これは、マウスの体重1kg当たり8×10
10CFUと等しい。市販されている通り、プロバイオティクスサプリメントを4.0×10
11CFU/gとし、ヒトの体重範囲を小児について25kg〜成人について75kgと仮定すると、これは、5〜15g/dの1日用量を意味することになる。しかし、コロニー形成効率が2桁高い場合には(報告されている通り、Rao, S.ら、Toward a live microbial microbicide for HIV: Commensalbacteria secreting an HIV fusion inhibitor peptide. Proc Natl Acad Sci USA 102巻、11993〜11998頁(2005年)を参照されたい)、用量は50〜150mg/dになる。
【0234】
6.11. 実施例11:GLP−1を分泌する共生細菌を非肥満糖尿病の(NOD)マウスに摂食させることの効果
この実施例により、GLP−1(1〜37)を分泌する共生細菌を、遺伝学的に実現した糖尿病マウス(非肥満糖尿病、NOD)に摂食させることの効果が実証される。本発明者らはNODマウスに、ダミーペプチドを発現しているE.coli Nissle1917(Nissle)、GLP−1(1〜37)を分泌しているNissle(Nissle−GLP−1)または細菌を含有しない培地を46日間摂食させた。その結果、Nissle−GLP−1を摂食させたマウスにおいて、培地のみを摂食させた対照NODマウスと比較して(p=.0003)、またはNissleを摂食させたマウスと比較して(p=.0008)、血中グルコースレベルが有意に低下した。さらに、Nissle−GLP−1マウスの尿量がはるかに低いことが観察された。Nissleを摂食させたマウスも、培地のみを摂食させたマウスよりも有意に低い血中グルコースレベルを示した(p=.01)。この試験では、Nissleを摂食させたマウスおよび対照マウスは外見が不健康であり、血中グルコースレベルが常に400mg/dLを超えたが、Nissle−GLP−1を摂食させたマウス(同様に不健康に見える)についての血中グルコースレベルは、46日の期間全体を通して160〜250mg/dLの範囲内であった。
【0235】
諸言
1型糖尿病(T1DM)を試験するための標準モデル生物体のうちの1つと考えられ、NODマウスは膵ベータ細胞ならびに全身の他の内分泌系の破壊を招く遺伝的欠陥を有する。T1DM様病態に加えて、他の全身性の病状を有するので、オフターゲットの効果により、NODマウスはT1DMを試験するために理想的なものではなくなっている。この限定にもかかわらず、当技術分野においてNODマウスは依然として早期概念実証研究の十分なモデルであるとみなされている。
【0236】
この実施例に関して、ペプチドGLP−1(1〜37)を腸上皮細胞に送達するための共生細菌の使用の、NODマウスにおける血中グルコースレベルに対する効果について調査した。
【0237】
実験手順
これらの実験に用いた雌のNODマウス(NOD/ShiLtJマウス)は、Cornell University IACUCにより承認されたプロトコールに従って処置した。全てのマウスをCornell University Veterinary SchoolのEast Campus Research Facility(ECRF)に収容した。マウスは全て、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME)から購入した。6週齢の雌のNOD/ShiLtJマウスの3つの群(n=5)について、それらの血中グルコースレベルを、Bayer Breeze(登録商標)血中グルコース試験紙(Baer Healthcare)を用いて、Breeze(登録商標)2血中グルコースモニタリングシステム(Baer Healthcare LLC Mishawaka、IN)によってモニターした。糖尿病のグルコースレベル(>250mg/dL)に到達するまで、5〜7日間ごとに血中グルコースレベルを測定した。糖尿病の血中グルコースレベルに到達するには、12〜14週間を要した。高血糖の血中グルコースレベルに到達できなかったマウスは安楽死させた。
【0238】
高血糖症を確立した後、全てのマウスに、常在共生細菌を排除するために、クロラムフェニコール(1g/リットル)飲料水を18時間与えた。Nissle株(Nissle、Nissle−GFP−1)を、一晩培養物からOD600=1まで成長させ、LB培地中に1:500希釈した。1000×gで3分間遠心分離することによって細菌を採取した。生じたペレットを、1%スクロースを伴う滅菌LB200μLに再溶解させた。クロラムフェニコール処置した後、マウスに、経口胃管栄養によって、10
9CFU(OD600=20)の、Nissle、Nissle−GLP−1を含有する、または細菌を含有しない(ただのスクロースを伴う滅菌培地)、1%スクロースを伴うLBを体重25g当たり50μLで摂食させた。株は、単独で、添加物なしでマウスに摂食させた。胃管栄養を開始したら、クロラムフェニコール処理した水はマウスゲージから除去した。Nissle株またはスクロースを伴う滅菌培地を、1日2回、46日間胃管栄養により摂食させた。細菌の摂食を開始した後11日目、21日目、30日目および46日目にマウスの体重および血中グルコースを測定した。
【0239】
結果
NODマウスに1日2回、46日間、Nissle−GLP−1もしくはNissleを経口的に摂食させた、または細菌を摂食させなかった。表1は、実験に含まれたマウスについての生存および糖尿病発症のデータを示す。全ての処置を各々マウス5匹で開始した。Nissle−GLP−1を摂食させたマウス以外の全てのマウスが、実験全体を通して高レベルの尿を排泄することが観察された。Nissle−GLP−1を摂食させたマウスは、尿量のレベルの上昇を示したが、他のマウスほどではなかった。
【0240】
Nissle株の摂食を開始する前に、全てのマウスが、500mg/dLを超える血中グルコースレベルを示し、高血糖症について陽性であるとみなされた。処置当たりの平均のマウスの空腹時(6時間)血中グルコースレベルが
図21に示されている。Nissleを摂食させたマウスおよびNissle−GLP−1を摂食させたマウスのどちらとも、対照マウスとの間で血中グルコースが有意に低下した。46日後に、Nissle摂食は対照に対して有意な効果(p=.01)を有し、Nissle−GLP−1はさらに著しい効果を有した(p=.0003)。Nissle−GLP−1とNissleの間の差異も有意であった(p=.0008)。比較は全て、スチューデントの両側t検定(n=4、3または2、表1参照)を用い、同等の分散を仮定して行った。
【0241】
実験の間、複数の処置間または1つの処置間でマウスの体重に有意差はなかった。全てのマウスの体重が、概して経時的に減少した(
図22)。
【0242】
結論
これらのデータは、NissleおよびNissle−GLP−1のどちらによっても、NODマウスにおける血中グルコースレベルが有意に低下し得ることを示している。しかし、これらのデータは、非常に小規模のマウスの群からのものである。46日間までに、各群に残ったマウスは2匹のみである。それはそうとして、Nissle−GLP−1群のマウスの血中グルコースレベルは、他の2つの群よりもはるかに低く、これは、NODマウスにより任意の再プログラミングされた細胞に対して開始され得るいかなる免疫応答もこの時間枠内では影響を有さなかったことを示している。
【0243】
表1:この実施例に関するマウスの生存
【0244】
【表1】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態による範囲に限定されるものではない。実際に、当業者には、本明細書に記載のものに加えて、本発明の種々の改変および変形が前述の説明から明らかになり、本発明に対して本発明の趣旨および範囲から逸脱することなくそれらを行うことができる。したがって、本発明は、それらが添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内に入るという条件で、本発明の改変および変形を包含するものとする。
【0245】
本明細書において引用された全ての参考文献は、個々の刊行物、特許または特許出願について、その全体があらゆる目的について具体的にかつ個別に参照により組み込まれることが示されたのと同じ程度に、その全体が参照によりあらゆる目的について本明細書に組み込まれる。
【0246】
いずれの刊行物の引用も出願日より前のその開示に対するものであり、本発明が、先行発明に基づいてそのような刊行物に先立つ権限がないことを容認するものと解釈されるべきではない。