【実施例】
【0070】
以下に実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
(実施例1)
(1)材料と方法
(1−1)動物
6週齢の雌のSDラット(n = 15、体重200−230g)を、日本SLC(株)より購入した。全ての実験は、名古屋大学医学部の実験ガイドラインに従って行った。これらの動物は、12時間の明暗サイクル下に、室温にて飼育した。飼料及び水は自由に摂取させた。
【0071】
(1−2)細胞培養
ラットのBMSCsを、ラットの大腿骨の髄腔から得た。骨髄液(50μL/大腿骨)を集めて、10%ウシ胎児血清(FBS、和光純薬工業(株))、ペニシリン及びストレプトマイシン(和光純薬工業(株))を含むダルベッコ変法MEM(DEMEM、シグマ−アルドリッチ社製)中にて、5%CO
2インキュベータ中にて、37℃で3代予備培養した。2日ごとに培地を交換した。スピンドル形状及び接着性等の特徴を有する細胞のみを使用した。
【0072】
(1−3)CM調製
培養したBMSCを70〜80%コンフレントになるまで増殖させ、暖めたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、ペニシリン及びストレプトマイシンを含む無血清DMEMを加えた。48時間後の培養上清(以下、「CM」ということがある。)を集めて1,500 rpmで5分間遠心し、その後、3,000rpmで3分間遠心して他の細胞を除去した。5mLのCMを45mLの100%エタノールと混合し、−20℃にて1時間インキュベートした。この混合物を、4℃、15,000rpmにて15分間遠心し、上清を除いた。CMの沈殿物を冷90%エタノール(−20℃)に再度懸濁し、4℃、15,000rpmにて15分間遠心した。最終沈殿物を−80℃にて凍結させて凍結乾燥させ、−30℃で使用まで保存した。細胞と接触させていない無血清DMEMを対照として使用した。
【0073】
(1−4)CM固定Tiインプラントスクリューの調製
Ti インプラントスクリュー(全長5mm、スレッド径2mm、及び1mm ピッチ)は、西島メディカル(株))より提供を受けた。これらのTiインプラントは、先の研究で得られた条件で製造された。
Tiインプラントの表面は、PBSのみ、DMEMのみ又はCMで処理し、それぞれ、PBS処理群(陰性対照群)、DMEM処理群(陽性対照群)及びCM/DMEM処理群(試験群)とした。
各処理群は、以下のようにして調製した。
まず、Tiインプラントをアセトンと70%エタノールで洗浄し、第1石灰化溶液[136.8mM NaCl, 3.10mM CaCl
2・H
2O, 1.86mM K
2HPO
4を含有する50mM Tris-HCl(pH 7.4)(和光純薬工業(株)製))中で、37℃にて、4時間浸漬した。
【0074】
この浸漬処理と並行して、CM/DMEM(1mg/mL)、DMEM(3mL)、又はPBS(3mL)をそれぞれ含有する3種類の第2石灰化溶液[142.8mM KNO
3, 1.5mM Ca(NO
3)
2・4H
2O, 0.9mM K
2HPO
4(和光純薬工業(株)製)]を調製した。
上記3種類の石灰化溶液3mL中に、洗浄済の各Tiインプラント材5本を浸漬し、37℃にて3日間、インキュベートした。インキュベーション終了後、各Tiインプラント材を取り出した。
【0075】
次いで、第2石灰化溶液中でインキュベート開始直後及び終了後の各Tiインプラント材表面を、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製)で観察したマイクログラフを
図1(A)〜(F)に示す。
図1(A)〜(C)は3,000倍、(D)〜(F)は15,000倍で、各々撮影した。
(A)及び(D)は、Tiインプラントの表面を機械研磨したときの典型的なトポグラフィーを示した。(C)及び(E)は雪景色様の微細構造を示した。(F)では、Tiインプラント表面の雪景色様の微細構造及び微小球(ミクロスフェア)が観察された。微小球を矢印で示した。図中に示した線分は、(A)〜(C)が10μm、(D)〜(F)が2μmである。
【0076】
(2)細胞接着分析
Tiディスク(10×10mm;(株)オーファ製)を、Tiインプラント上への固定と同様の手法によって、PBS、DMEM、又はCMのいずれかで処理した。ラットのBMSCs(1.0×10
6個)を上記のように処理したTiディスク上に播種し(N=3)、10%FBS及び1%ペニシリン‐ストレプトマイシン含有DMEMを用いて、37℃にて、5%CO
2存在下に24時間培養した。
【0077】
接着したラットのBMSCsを、0.05%トリプシン‐EDTA(シグマ-アルドリッチ社製)と10分間インキュベートし、Tiディスクから剥離させた。このTiディスクをSEMで観察し、すべてのラットのBMCsが剥離されたことを確認した。剥離された細胞を、血球計算盤(サンリードガラス(有)製)を用いて計算した。3回実験を繰り返し、有意水準5%(p<0.05)にて、Scheff検定を用いて、一元配置分散分析(ANOVA)により、統計的な有意差を分析した。結果を
図2に示す。
PBS処理群及びDMEM処理群の間、及びPBS処理群及びCM処理群との間には、それぞれ有意差が見られた(*:p<0.05, ANOVA検定)。
【0078】
(3)走査型電子顕微鏡(SEM)によるTiインプラント表面の変化の観察
以上より、PBSで表面を処理したTiインプラントは、
図1(A)及び(D)に示すような機械研磨の典型的なトポグラフィーを示した。DMEMを固定化したTiインプラントは、雪景色様の微細構造を広く、不規則にディスプレイしていた(
図1(B)及び(E))。CMでコートしたTiインプラントの表面は、雪景色様の微細構造上にミクロスフェアをディスプレイしていた(
図1(C)及び(F)の矢印参照)。これらの結果は、CM又はDMEMの固定化成分により、インプラント表面のトポグラフィーが変化することを示唆した。
【0079】
(4)LC/MS/MSによるTiインプラント表面上のタンパクの同定
上記で得たCM/DMEM処理群のTiインプラント材の表面から、80%アセトニトリルを用いてタンパク質を剥離させた。剥離させたタンパク質は、凍結乾燥を行って粉末化した。粉末化したタンパク質1mgを100μLの泳動用サンプルバッファーで希釈し、希釈したバッファー10μLを、12%アクリルアミドゲルのゲルを使用したゲル電気泳動に供した。泳動後、CBB(コマジーブリリアントブルー)溶液、又はSilver Stain Kit(Therimo社製)を用いてそれぞれ染色を行なった。染色後、メスを用いてゲルを切り出した。
【0080】
上記のようにして切り出したゲルを、最初に100μLの30%(v/v)アセトニトリルを含む25mM NH
4HCO
3中で20分間2回洗浄して脱染色し、その後、CVE-3100(東京理化機械(株)製)で乾燥させた。タンパク質のインゲル消化(in-gel digestion)は、20μg/mLのシーケンスグレードトリプシン(プロメガ社製)を含む50mMのヨードアセトアミド(和光純薬工業(株)製)/100mM NH
4HCO
3(pH 7.8)を100μL用いて、37℃にて1時間戻し、100μLの25mM NH
4HCO
3を加えて、37℃にて終夜インキュベートした。ペプチドを0.1%のTFAを含有する60%アセトニトリル中で、室温にて20分間抽出し、ペプチドサンプルをCVE-3100中で乾燥させた。
【0081】
ペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)を、Paradigm MS4-LCQ Advantage (AMR社製)を用いて行った。得られたペプチドマススペクトルを、the Mascot search engine (www.matrixscience.com)を使用するSwiss-Prot protein knowledgebase (哺乳類のタンパク質に限定されている)へのクエリー(検索要求)に使用するペプチドマスリストの生成に使用した。
検索パラメータは、1 missed trypsin cleavageのトレランス、質量トレランス6100 ppm及びメチオニン残基の酸化を許容するように設定した。クエリーが、含有される4以上のペプチドとマッチし、Mascot search engineによって生成された統計的に有意なMowse(分子量サーチ;molecular weight search)スコアと一致する質量を有するときに、同定されたタンパク質を承認した。
【0082】
次に、Tiインプラント上に固定化されたタンパク質と培養上清(CM)中のこれらを、LC/MS/MSで検出した。約2,000種のタンパク質が培養上清中で検出されたが、この数は、Tiインプラントの表面上とほぼ同じであった。Tiインプラントの表面上で検出された全てのタンパク質は、いずれもCM中で検出された。細胞外マトリックスは、タンパク質、シグナル伝達、タンパク合成及びプロセッシング、並びに成長因子タンパク質を含むため、下記に示すフォワードプライマー及びリバースプライマーを用いてタンパク質の検出を行った。
【0083】
(ALP遺伝子増幅用)
フォワードプライマー GCTGTGAAGGGCTTCTTGTC・・・配列番号1
リバースプライマー CGCCTATCAGCTAATGCACA・・・配列番号2
【0084】
(OCN遺伝子増幅用)
フォワードプライマー TGAGGACCCTCTCTCTGCTC・・・配列番号3
リバースプライマー GAGCTCACACACCTCCCTGT・・・配列番号4
【0085】
(OPN遺伝子増幅用)
フォワードプライマー AGGTCCTCATCTGTGGCATC・・・配列番号5
リバースプライマー AGACTGGCAGTGGTTTGCTT・・・配列番号6
【0086】
(BSP遺伝子増幅用)
フォワードプライマー TTCTCGAGAAAAATTTCCA・・・配列番号7
リバースプライマー TCACTGGTGGTAGTAATAAT・・・配列番号8
【0087】
(Col-I遺伝子増幅用)
フォワードプライマー CGATGCCATTTTCTCCCTTA・・・配列番号9
リバースプライマー CTCTGGTACCGCTGGAGAAG・・・配列番号10
【0088】
(GAPDH遺伝子増幅用)
フォワードプライマー ATGACTCTACCCACGGCAAG・・・配列番号11
リバースプライマー TTCAGCTCTGGGATGACCTT・・・配列番号12
【0089】
【表1】
ALP:アルカリフォスファターゼ; OCN:オステオカルシン;
OPN:オステオポンチン;BSP:骨シアロタンパク質;Col-I:I型コラーゲン
【0090】
骨関連タンパク質であるI型コラーゲン、骨シアロタンパク質2、デコリン、オステオポンチン、オステオカルシン、フィブロネクチン、及び血管上皮成長因子A(VEGF A)が検出された。結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
(5)インビトロにおけるラットBMSCsのRNA分析
ラットBMSCsを、PBS、DMEM又はCMで処理したTiディスク上で培養した。固定化及び培養方法は、細胞接着分析を行ったのと同じ方法である。BMSCsを、1日、7日、14日間培養した。各ディスク上で培養したラットBMSCsからの総RNAを、TRIZOL試薬(インビトロジェン ライフテクノロジー社製)を用いて、製造元のプロトコルにしたがって行った。cDNAを、1μgの総RNAから、10x反応バッファー、5mM dNTP混合物、1U/μLのRNaseインヒビター、0.25U/μLの逆転者酵素(M-MLV逆転写酵素、インビトロジェン社)、及び0.125μMのランダムプライマー(タカラバイオ(株))を含む20μLの反応液中で合成した。
【0093】
sq-PCRのために、PCR Thermal Cycler SP (タカラバイオ(株)製)中で、95℃で30秒、45〜60℃で30秒、及び72℃で30秒の反応条件で25〜35サイクル行った。
ラットのグリセルアルデヒド-3-ホスフェート・デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プライマーを、内部標準として使用した。in vitro遺伝子発現分析において、移植された培養細胞中のGAPDHに対するmRNAの発現レベル(%)を、Scion Image picture-imaging software (Scion社製)を使用して測定した。合成されたcDNAを、表1に示す特異的プライマーを用いた次のPCR増幅用の鋳型として使用した。すべての実験は3回繰り返し、データを有意差レベル5%で、Scheffe検定を用いて、一元配置分散分析(ANOVA)により解析した。
結果をOCN,OPN及びCol Iの遺伝子の発現パターン(
図3(A)〜(C)参照)及びそれを定量化したグラフ(
図3(D)〜(F)参照)として
図3に示した。
【0094】
(6)Qdot(登録商標)655 ITK carboxyl quantum dots (QDs)によるCMのラベリング
QDs (インビトロジェン・モレキュラー・プローブス社製)を用いたCMのラベリングは、製造元の指示書に従って行った。簡単に言えば、石灰化溶液で処理したTi検体 を、25μLの8μM QDs、1mg/mLのCM、1mLの10mMのホウ酸バッファー(pH 7.4)、及び5.7μLの10mg/mL N-エチル-N’-ジメチルアミノプロピル-カルボジイミド(架橋試薬;シグマ‐アルドリッチ社製)の混合物に添加し、室温でそっと1時間攪拌した。血清不添加のDMEM又はPBSのQDラベリングを、対照として使用した。結果を
図4に示す。
【0095】
図中、A、B、及びCはそれぞれ試験開始前のTiインプラントの画像を示す。A1は試験開始1日後、A7は7日後、A14は14日後、A28は28日後の画像を示す。B及びCについても同様である。
PBSで処理したTiインプラントでは、観察期間中を通して、その周囲に蛍光は検出されなかった。これに対し、DMEM又はCMで処理したTiインプラントでは、その周囲に傾向が検出された。
以上から、DMEM又はCMで処理したTiインプラントでは生体分子の局在化が起きていることが判明した。
【0096】
(実施例2)不死化乳歯幹細胞作出用ウイルスの作製
(1)プラスミド抽出用試薬
(1−1)試薬等
カナマイシン(Kan)、アンピシリン(Amp)、LB液体培地及びLB寒天培地、グリコーゲン、アガロース、滅菌水、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム及びRNase Aを使用した。50mg/mLのカナマイシン(Kan)及びアンピシリン(Amp)を調製し、ストック溶液として−20℃で保存した。グリコーゲンは20mg/mLに調製した。10mg/mLのRNase Aを調製し−20℃で保存した。10M(飽和)酢酸アンモニウム(NH
4OAc)、3Mの酢酸ナトリウム(NaOAc;pH5.2)を調製した。
【0097】
(1−2)制限酵素等
大腸菌コンピテントセル(Supercharge EZ10 Electrocompetent Cells、製品コード 636756)、Swa I(製品コード 1111A、Smi Iが同等品)、Xho I(製品コード 1094A)、T4 DNA Ligase(製品コード 2011A)、NucleoBond Xtra Midi(製品コード 740410.10/.50/.100)、NucleoSpin Plasmid(製品コード 740588 10/50/250)は、いずれもタカラバイオ(株)より購入した。Pac IはNew England Biolabs社より購入した。
【0098】
(1−3)バッファー等
1×TE Buffer(1mMのEDTAを含む10mM Tris-HCl[pH8.0])、100mM Tris-HCl(pH8.0)で飽和したフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1、以下、「PCI混液」という。)を調製した。エタノールは、100%及び70%で使用した。ミニスケールでの組換えで使用するpAdeno-X プラスミドDNAの精製用に、以下のバッファー1〜4を調製した。
【0099】
バッファー1:10mMのEDTA及び50mMのグルコースを含む25mMのTris-HCl(pH8.0)(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー2:1%SDSを含む0.2M NaOH(使用直前に用時調製、密封し、室温保存)
バッファー3:5M KOAc(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー4:1mMのEDTA、20μg/mLのRNaseを含む10mMのTris-HCl(pH8.0)(使用直前にRNaseを添加し、−20℃で保存)
【0100】
(2)アデノウイルス精製及びβ-galアッセイ用試薬
ヒト5型アデノウイルスで形質転換したヒトHEK293細胞(ATCC #CRL1573)を使用した。HEK293細胞は完全培地で培養した。完全培地の組成は、100 unit/mLのペニシリンGナトリウムと100μg/mLのストレプトマイシン、4mMのL-グルタミン及び10%FBSを添加したDMEM(基本培地)とした。ペニシリンGナトリウム溶液は10,000 units/mL、硫酸ストレプトマイシン溶液は10,000μg/mLで調製し、ストック溶液として保存した。
培養には、60mmプレート、100mmプレート、6−ウェルプレート、T75及びT175フラスコを使用した。
【0101】
トリプシン-EDTA(製品コード CC-5012)はタカラバイオ(株)より購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Ca
2+とMg
2+不含)及びダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS、Ca
2+とMg
2+含有)を調製した。また、0.33%のニュートラルレッド染色液、0.4%トリパンブルー染色液を使用した。
β-galアッセイには、X-Gal(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactopyranoside [25mg/mL])ジメチルホルムアミド(DMF)溶液は−20℃で遮光保存した。Luminescent β-gal Detection Kit II(製品コード 631712)を使用した。
【0102】
(3)予備試験
(3−1)lacZ を含む組換えアデノウイルス(pAdeno-X-lacZ)の構築
10mLの上述した完全培地に、解凍後、DMSOを除去したHEK293細胞を再懸濁し、全量を100mmの培養プレートに移した。HEK293細胞が付着した後に培養液を除去し、細胞を滅菌PBSで1度洗浄し、1mLのトリプシン-EDTA溶液を加えて約2分間処理した。
【0103】
次に、10mLの完全培地を加えてトリプシンの反応を止め、穏やかに懸濁した。バイアブルカウントを行って、培養液10mLを入れた100mmのプレートに10
5個の細胞を移し、均一に拡げた。
pShuttle2-lacZ(Adeno-X Expression System 1に含まれている陽性対照ベクター)とキットに含まれているAdeno-X Viral DNA(PI-Sce I及びI-Ceu I digested)とを使用し、キットに添付されているプロトコルに従って、lacZを含む組換えアデノウイルスを構築した。標的細胞であるSHEDに感染させ、β-ガラクトシダーゼの発現をアッセイし、ベクターが構築されていることを確認した。
【0104】
(3−2)組換えpShuttle2プラスミドの構築
組換えpShuttle2 Vector(以下、「rpShuttle2 Vector」という。)の構築前に、キットに含まれているpShuttle2 Vector及びpShuttle2-lacZ VectorでDH5α大腸菌を形質転換した。50μg/mLのカナマイシンを含有するLB寒天プレート(以下、「LB/Kan」という。)上で形質転換体を選択し、単一コロニーからとった菌体を新しいLB/Kanに画線し、37℃で一晩インキュベートした。
次いで、hTERT、bmi-1、E6、E7を、pShuttle2へ以下の手順でクローニングした。これらの遺伝子に適した制限酵素でpShuttle2 Vectorを切断した。
次いで、上記のキットに添付されているpShuttle2 Vector Information Packet(PT3416-5)を参照し、挿入するDNAに合致するマルチクローニングサイトを決定した。制限酵素処理済みの上記プラスミドをアルカリホスファターゼで処理して精製した。
【0105】
常法に従って、標的DNA断片を調製し精製した。上記の制限酵素で消化したベクターと上記の遺伝子断片とをライゲーションし、DH5α細胞(コンピテント細胞)を、ライゲーション産物で形質転換した。上記コンピテント細胞の一部をとり、キットに含まれている対照ベクターpShuttle2-lacZ Vectorで形質転換して陽性対照とした。
形質転換した大腸菌を含む混合液を、LB/Kan寒天プレートに接種し、カナマイシン耐性(Kanr)の形質転換体(コロニー)を選択した。5〜10個のKan耐性クローンを選択し、少量の液体培地に接種して増幅した。これらのクローンがrpShuttle2 Vectorを有していることを確認した後に、一晩インキュベートした。その後、市販のシリカ吸着カラムを用いて、常法に従い、構築されたプラスミドDNAを精製した。
【0106】
このプラスミドDNAを制限酵素で処理して、1%アガロースゲル電気泳動を行い、目的の組換えプラスミドを同定した。シーケンシングによって、挿入した断片の方向と挿入部位を確認し、ポジティブクローンを同定した。
組換えpShuttle2プラスミドDNA(以下、「rpShuttle2プラスミドDNA」という。)をターゲット細胞に直接にトランスフェクトし、ウエスタンブロットを行って目的タンパク質の発現を予備的にチェックした。
【0107】
(3−3)rpShuttle2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化
上記のようにして作製したrpShuttle2プラスミドDNAから、導入した遺伝子の発現カセットをPI-Sce I及びI-Ceu Iで切り出した。キットに添付されたプロトコルに記載されたin vitroライゲーション法に従って、切り出した発現カセットをAdeno-X Viral DNAに組み込んだ。rpShuttle2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化液を30μL調製し、下記の表1に記載した試薬を1.5mLの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れて混合した。
【0108】
【表3】
【0109】
次いで、十分に混和した後にマイクロ遠心チューブに入れて軽く遠心し、その後、37℃にて3時間インキュベートし、1kbラダー(DNA サイズマーカー)と共に上記二重消化後の反応液(5μL)を1%アガロース/EtBrゲルで泳動した。
【0110】
(3−4)フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール抽出
遠心チューブに、上述した二重消化液の残り(25μL)に、70μLの1×TE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。次いで、微量遠心機を用いて、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移した。ここに、400μLの95%エタノール、25μLの10Mの酢酸アンモニウム、及び1μLのグリコーゲン(20mg/mL)を添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。
【0111】
次いで、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、上清を吸引除去し、ペレットを得た。このペレットに300μLの70%エタノールを加え、室温にて14,000 rpmで2分間遠心した。上清を注意深く吸引して除去し、ペレットを室温にておよそ15分間風乾した。ペレットが乾燥した後に、これを10μLの滅菌した1×TE Buffer(pH8.0)に溶解し、使用するまで−20℃にて保存した。
【0112】
(4)組換えAdeno-X プラスミドDNAの構築
(4−1)Adeno-X ウイルスゲノムへの発現カセットのサブクローニング
下記の表4に示す試薬を、順番通りに1.5mLの滅菌済マイクロ遠心チューブに入れ、穏やかに混和し、軽く遠心した後に、16℃にて一晩インキュベートした。
【0113】
【表4】
【0114】
各サンプルに、90μLの1×TEバッファー(pH8.0)と100μLのPCI混液とを加えて、ボルテックスで穏やかに撹拌した。4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移し、ここに400μLの95%エタノール、25μLの10M 酢酸アンモニウム、及び1μLのグリコーゲン(20mg/mL)を加えてボルテックスで穏やかに撹拌した。
4℃にて5分間、14,000rpmで遠心し、上清を吸引により除去してペレットを得た。以下のエタノール沈殿操作は、上記(3−4)と同様に行った。
ペレットが乾燥した後に、これを15μLの滅菌脱イオン水に溶解した。
(4−2)組換えAdeno-X プラスミドDNAのSwa I消化
下記表5に示す消化液を調製し、遠心チューブに入れた各サンプルに加えて、2時間、25℃にて、インキュベートした。
【0115】
【表5】
【0116】
各サンプルに、80μLの1×TE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを加え、ボルテックスで穏やかに撹拌した。マイクロ遠心チューブ、4℃にて5分間、14,000rpmで遠心した。以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に行い、ペレットの溶解液は使用まで−20℃にて保存した。
【0117】
(4−3)組換えAdeno-X プラスミドDNAによる大腸菌の形質転換の確認
電気的にコンピテントにした大腸菌を、Supercharge EZ10 Electrocompetent Cell(製品コード 636756)を使用して、上記(4−2)で得たSwa I消化産物で形質転換した。
形質転換混合液を、LB培地にアンピシリン(終濃度100μg/mL)を加えた寒天プレート(以下、「LB/Amp寒天プレート」という。)に接種し、37℃で一晩インキュベートして、アンピシリン耐性(Ampr)形質転換体を選択した。約10
6個のコロニーを得た。得られたコロニーを、製品に付属のAdeno-X System PCR Screening Primer Setでチェックした。
【0118】
5mLの新鮮なLB/Amp液体培地に単一のコロニーからの菌体を接種し、一晩培養した。翌日、後述するミニスケール法に従って、Adeno-X プラスミドDNAを精製した。
【0119】
(4−4)組換えAdeno-X プラスミドDNAのミニスケール調製
対数増殖にある培養液5mLを、14,000rpmで30秒間遠心し、上清を除去した。ペレットを再度10,000rpmで1分間遠心し、マイクロピペットを用いて、上清を除去した。
ここに、150μLの上記バッファー1を加えて穏やかにピペッティングし、再懸濁した。この細胞懸濁液に、150μLのバッファー2を添加し、穏やかに転倒混和し、氷上に5分間放置した。冷却した細胞懸濁液に、150μLのバッファー3を加えて、再度転倒混和し、氷上に5分間放置した。
この細胞懸濁液を、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、透明な上清を清浄な1.5mLの遠心チューブに移した。この上清に、450μLのPCI混液を添加し、転倒混和して撹拌した。その後、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移した。
【0120】
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(4−1)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。目的のrDNAは、後述する制限酵素による解析及びPCRにより同定した。
(5)得られたrAdeno-X プラスミドDNAの制限酵素部位解析
PI-Sce I及びI-Ceu Iを用いて解析を行った。下記の表6に示す試薬を、1.5mLの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れ、30μLのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化反応液を加えて、十分に撹拌し、軽く回転させて内容物を集めた。
【0121】
【表6】
【0122】
37℃にて3時間インキュベートし、制限酵素処理を行った。この処理後の反応液を1%アガロース/EtBrゲルで泳動し、培養液を得た。
(6)組換えアデノウイルスの産生
(6−1)HEK293細胞トランスフェクト用rAdeno-X プラスミドDNAの調製
下記表7に示す試薬等を、1.5mLの滅菌済み遠心チューブに入れて混合し、微量遠心機で軽く遠心した。その後、37℃にて2時間、インキュベートし、rAdeno-X プラスミドDNAのPac I制限酵素処理を行った。
【0123】
【表7】
【0124】
60μLの1×TE Buffer(pH8.0)と、100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで穏やかに撹拌し、微量遠心機で、4℃にて5分間、14,000rpmで遠心した。水層を、清浄な1.5mLの滅菌済み遠心チューブに注意深く移した。
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。
(6−2)Pac I消化Adeno-X プラスミドDNAのHEK293細胞へのトランスフェクション
上記プラスミドDNAのトランスフェクションの24時間前に、60mmの培養プレートあたりの細胞数が1〜2×10
6(およそ100 cells/mm
2)になるよう、HEK293細胞を接種し、37℃、5%CO
2存在下でインキュベートした。
【0125】
各培養プレートに、Pac I消化した10μLのAdeno-X プラスミドDNAをトランスフェクトし、標準的なトランスフェクション法(CalPhos Mammalian Transfection Kit 製品コード 631312)に従って、HEK293細胞にAdeno-X DNAを導入した。トランスフェクションの翌日から、CPE(細胞変性効果)が起きているかどうかを確認した。
1週間後に、培養プレートの底面や側面に付着している細胞を穏やかに撹拌して遊離させた。得られた細胞懸濁液を15mLの滅菌済みの円錐遠心チューブに移し、室温にて5分間、1,500×gで遠心した。
【0126】
得られた沈殿を、500μLの滅菌PBSに懸濁した。ドライアイス/エタノール中で凍結させ、37℃の恒温槽で融解させるという凍結融解操作を3回繰り返して、細胞を十分に融解させたライセートを得た。次いで、軽く遠心して浮遊物を除き、上清を滅菌した別のチューブに移して、直ちに使用した。直ちに使用しない分は、−20℃で保存した。
60mmプレートの培養細胞に250μLの上記ライセートを加えて、培養を続けた。なお、Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028)に含まれる抗Hexon 抗体を用いて、このキットの取扱説明書(PT3651-1)に従い、アデノウイルスの力価を測定した。
【0127】
(6−3)高力価ウイルス調製のためのウイルスの増幅
この力価測定を始める約24時間前に、HEK293細胞をT75フラスコに接種し、37℃、5%CO
2存在下で一夜培養し、50〜70%コンフルエントになっていることを確認した。
翌日、ウイルスを含む新しい培地と交換し、MOI=10で感染させた。37℃、5%CO
2存在下で90分間培養した後にフラスコを取り出し、10mLの培地を加えた。
【0128】
37℃、5%CO
2存在下で3〜4日間培養し、CPEを確認した。50%の細胞が剥がれたところで、上記と同様にして遊離細胞懸濁液とし、15mLの滅菌済円錐遠心チューブに移した。上記と同様の凍結融解操作を行い、細胞を融解させた。Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028)を使用し、10
7PFU/mLの力価を得た。
ウェスタンブロッティングを行い、パッケージングされたアデノウイルスゲノムが、目的遺伝子に特異的な転写単位のコピーを、機能する形で持っているかを確認した。
【0129】
(7)標的細胞へのアデノウイルス感染
(7−1)標的細胞への感染
感染の24時間前に6−ウェルプレートに1×10
6個のSHEDを接種した。接種の翌日に培地を取り除き、ウイルスを含む1.0mLの培地を各プレートの中心に添加した。この溶液をSHEDが形成した単層全体に均一に広げた。
37℃、5%CO
2存在下で4時間培養し、ウイルスをSHEDに感染させた。次いで、新鮮な培地を添加し、さらに、37℃、5%CO
2存在下で培養した。感染24時間後〜48時間後にかけて導入遺伝子の発現を経時的に解析した。
(7−2)感染細胞のβ--ガラクトシダーゼ発現の解析
Adeno-X-lacZを感染させた接着性細胞におけるβ--ガラクトシダーゼの発現は、Luminescent β-galDetection Kit II(製品コード 631712、クロンテック社)を使用してアッセイした。
【0130】
(実施例3)不死化乳歯幹細胞の作製
(1)脱落乳歯歯髄細胞の調製
10歳の健常男児から得られた脱落乳歯を使用した。この脱落乳歯をイソジン溶液で消毒した後、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、歯冠を水平方向に切断し、歯科用リーマーを用いて歯髄組織を回収した。得られた歯髄組織を、3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼの溶液中で37℃にて1時間消化した。ついで、この溶液を70mmの細胞ストレーナ(Falcon社製)を用いて濾過した。
【0131】
濾別した細胞を、4mLの上記培地に再懸濁し、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種した。10%FCSを含有するDMEMをこのディッシュに添加し、5%CO
2、37℃に調整したインキュベータにて2週間程度培養した。コロニーを形成した接着性細胞(歯髄幹細胞)を、0.05%トリプシン・EDTAにて5分間、37℃で処理し、ディッシュから剥離した細胞を回収した。
【0132】
次に、上記のようにして選抜した接着性細胞を、付着性細胞培養用ディッシュ(コラーゲンコートディッシュ)に播種し、5%CO
2、37℃に調整したインキュベータにて、一次培養し初代培養細胞とした。肉眼観察でサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントになったときに、0.05%トリプシン・EDTAにて5分間、37℃で処理して細胞を培養容器から剥離して回収した。
【0133】
こうして得られた細胞を、再度、上記の培地を入れたディッシュに播種し、継代培養を数回行って、約1×10
7個/mLまで増殖させた。得られた細胞を、液体窒素中で保存した。
その後、一次培養細胞を上記の培地を用いて約1×10
4細胞/cm
2濃度で継代培養した。1〜3回継代した細胞を実験に用いた。ヒトBMMSCs(Bone Marrow Mesenchymal stem cells、骨髄間葉系幹細胞)はロンザ社から購入し、メーカーの取扱説明書に従って培養した。
【0134】
以上のようにして、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(SHED)を得た。得られたSHEDを、FACSTARPLUS (ベクトン・ディキンソン社製)を用いて、各試料について、約1x10
6個のSTRO-1陽性細胞を以下のようにしてソートした。
ブロモデオキシウリジンBrdU染色キットのメーカー(Invitrogen社製)の取扱説明書に従いBrdUを12時間取り込ませ、SHEDの増殖速度を評価した(各群についてn=3)。実験は5回繰り返した。1元配置分散分析後に、Tukey-Kramer検定を行い、統計的有意差を評価した。
【0135】
STRO-1を免疫蛍光で検出するために、SHEDを3%パラホルムアルデヒドで固定し、さその後PBSで2回リンスし、100mMのグリシンで20分間処理した。次いで、これらの細胞を0.2%のTriton-X(Sigma-Aldrich社)で30分間透過処理し、その後、5%のロバ血清及び0.5%のウシ血清アルブミンの混合物中で20分間インキュベートした。
次に、細胞を一次抗体のマウス抗ヒトSTRO-1抗体(1:100、R&D社製)と一緒に1時間インキュベートし、二次抗体のヤギ抗マウス免疫グロブリンM-FITC抗体(1:500、Southern Biotech社製)と一緒に30分間インキュベートし、ベクタシールドDAPI(Vector Laboratories Inc)を用いてマウントした。
その後、15%FBSを添加したα-MEMを6ウェルプレートに入れ、ソートした細胞をクローン作製用に播種した。増殖した細胞の中から約300コロニーを試験用にプールした。
【0136】
(2)遺伝子の導入
上述したように、bmi-1, E6, E7及びhTERTの4つの遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込み、これらの遺伝子産物を発現するウイルスベクターを作製した。対照として、これらの遺伝子を組み込んでいない対照ベクターを作製した。
【0137】
SHEDを100mmφのコラーゲンコートディッシュに1×10
6個を播種し、10%FBSを添加したDMEMを加えてサブコンフレントまで培養した。この培地を吸引除去して上記培地で希釈したウイルス溶液500μLを加え(MOI=10)、37℃にて、5%CO
2インキュベータ中で1時間培養し、上記ウイルスベクターを感染させた。感染48時間後、感染細胞をピューロマイシン(1pg/mL)を加えた上記の培地中で10日間培養して選択し、500〜600個の耐性クローンをプールした。3〜4日ごとに約0.5x10
5個のSHEDを100mmφの培養シャーレに播種し、継代した。遺伝子が導入されたSHEDをSHED-T、遺伝子が導入されないSHEDをSHED-Cとした。
【0138】
(3)SHED-C及びSHED-Tの成長速度の測定
SHED-T(遺伝子導入をしたSHED)の個体数の倍加状態を、
図5に示した。図中、縦軸は個体数倍化回数(細胞分裂回数)、横軸は時間(培養日数)である。また、培養中のSHEDが1ヶ月間分裂しない状態を、細胞の老化の判断基準とした。
SHED-Cは30回程で増殖が停止し、老化又は増殖停止段階に入った。これに対し、SHED-Tは250PDを超え、800日経過後も増殖した。
【0139】
(3−1)フローサイトメトリー分析
単一細胞の懸濁液を得るため、接着性の単層細胞をトリプシン/EDTAで消化した。2x10
5個の細胞に抗STRO-1モノクローナル抗体(1:100)を加えて放置し、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson社)を使用して分析した。対応するアイソタイプが同一の対照抗体と比較し、99%以上の割合で蛍光レベルが高い場合に発現が陽性とした。SHED-T及びSHED-Cともに、初期及び後期の継代細胞を固定し、FITC結合STRO-1抗体で染色した。その後、フローサイトメトリーで分析した。試験はそれぞれ二回行なった。SHED-CではSTRO-1陽性細胞の割合がPD20で27%であり、PD30では15%まで減少した(
図6(A)及び(B))。SHED-TではSTRO-1陽性細胞の割合が、それぞれPD20で46%、PD40で41%であった(
図6(C)及び(D))。
【0140】
(3−2)分化能の検討
PD0、PD10及びPD20におけるSHED-C及びSHED-Tの分化能を、新生骨量の形成能及び組織染色で調べた。
まず、2.0 x 10
6個のSHED-C又はSHED-Tを、40mgのヒドロキシアパタイト/三カルシウムリン酸(HA/TCP)セラミック粉末(オリンパス工業(株)製)に混合し、10週齢の免疫無防備状態マウス(NIH-bgnu-xid, 雌、Harlan Sprague Dawley社製)の背側表面の皮下に移植した。
移植8週間後に移植物を回収し、4%ホルマリンで固定して脱灰した後、パラフィン包埋するため10%EDTAを含むPBS溶液でバッファリングした。一部は、プラスチック包埋するために70%エタノール溶液中に保存した。
【0141】
パラフィン切片を脱パラフィン化し、これを水和した後、ヘマトキシリン及びエオシン(以下、「H&E」という。)で染色した。
図7(A)〜(C)は、SHED-T(不死化幹細胞)のPD0〜PD20を示し、同(D)〜(F)はSHED-C(正常細胞)のPD0〜PD-20を示す。生体内での新しい骨の形成を定量するため、特定の領域を選び、SHED-T移植後に形成された移植物又はSHED-C移植後に形成された移植物それぞれについて、新生骨面積と視野面積とを算出し、これらの数値から新生骨量を求めた。
新生骨量=新生骨面積/視野面積×100
【0142】
図8に各個体数倍加回数(倍加時間)における、SHED-TとSHED-Cとの新生骨量の変化を示した。図中、**はp<0.05、***はp<0.01を表す。なお、新生骨量は、以下の算出式で求めた。
図8に示されるように、SHED-Cでは個体数倍加回数が増えるについて新生骨量が減少し、PD20ではPD0の約1/5まで低下した。これに対し、SHED-Tでは、PD20まで新生骨量はほとんど変動がなく、PD20では、SHED-TはSHED-Cの5倍以上の骨を形成したことが示された。
【0143】
(3−3)癌化活性の評価
SHED-C及びSHED-T細胞を、免疫無防備状態マウスの皮下組織に、1×10
6個移植した。移植後、30日以上観察を行ったが、この期間中、上記の細胞を移植したいずれのマウスにおいても、腫瘍は形成されなかった。また、SHED-T細胞では、40〜200PDの培養細胞のすべてのクローンの形態に変化はなかった。
以上より、SHED-Tには、癌化活性はないことが示された。
【0144】
(4)評価
SEHD-Tは、260PDを超えても分化能力を保ったまま増殖する能力を有していることが示されたが、SHED-Cは、分化能力を有するものの30PD以下で老化した。
以上から、SHED-Tは不死化細胞となっており、活性の高いSHED培養上清の大量生産に適することが示された。
(5)CM固定Tiインプラントスクリューの調製
CM固定Tiインプラントスクリューの調製、細胞接着分析、走査型電子顕微鏡(SEM)によるTiインプラント表面の変化の観察、LC/MS/MSによるTiインプラント表面上のタンパクの同定及びインビトロにおけるSHEDのRNA分析は、上述した実施例1と同様に行った。
【0145】
(実施例4)
(1)インプラント及び外科的手順
Tiインプラント(チタンフィクスチャー)を、既に記載したように(文献番号40)、大腿骨中に挿入した。ラットを、ジエチルエーテル蒸気(3mL/チャンバー)の吸入と、ペントバルビタール(20 mg/kg)の腹腔内投与の組み合わせとにより麻酔した。10mmの切開口を遠位大腿骨を超えて形成し、この骨をむき出しにした。
【0146】
ユニコーチカルインプラントフロア(unicortical implant floor)を、歯科用ラウンドバー(dental round bar、直径1.5mm)を用いて、1500rpm以下の回転速度で、大腿骨の遠位から7mmで形成した。CM、DMEM又はPBSで処理したインプラントを、皮質骨中に挿入して埋め込んだ。その後、軟組織を、それらの正常の位置に戻し、3-0バイクリル(登録商標)SH-1(エチコン社製)で縫合した。
【0147】
(2)In vivoイメージング分析
固定化したQD-修飾CMを有するTiインプラントをトラックし、イメージングシステム(IVIS spectrum, Xenogen社製)を用いて可視化した。ラットを、移植後1日目、7日目、14日目、及び28日目にそれぞれ屠殺し、埋め込んだTiインプラントを有する大腿骨を取り出した。取り出したラットの大腿骨中のTiインプラントと会合した(associated with)QD-ラベルを、イメージングによって検出した。
各ラット及び取り出した大腿骨を、以下の条件でイメージングした:
【0148】
検体の高さ: 1.50cm
視野: 13×13cm
暴露時間: 1秒
f-ストップ: 1
バインディング: 8
励起フィルター: 605nm
放射フィルター: 655nm又は検体の高さ: 0.01cm
【0149】
視野: 6.5×6.5cm,
暴露時間: 2秒
f-ストップ: 1
バインディング: 8,
励起フィルター: 605nm,
放射フィルター: 655nm,
【0150】
(3)除去トルク(Ncm)測定
大腿骨インプラントの除去トルク(Ncm)を、インプラント設置後1日、7日、14日及び28日の時点で、実験群ごとに深麻酔下に測定した(各時点においてN=5)。除去トルクを、トルクゲージATG 3 CN(登録商標、測定レンジ:0.1‐3 Ncm;Tohnichi, Tokyo, Japan)及びBTG 15 CN-S(登録商標、測定レンジ:2−15 Ncm;(株)東日製作所製)を用いて測定した。データを有意差レベル5%で、Scheffe検定を用いて、一元配置分析により解析した。
結果を
図9に示す。陰性対照群(PBS処理群)と陽性対照群(DMEM処理群)との間では、1日後、及び7日後で有意差が見られたが、14日後には有意差は見られなかった。試験群(CM処理群)では、全ての測定時点で対照群よりも高い値を示し、14日後まで有意差が見られた(*はp<0.05を示す。)。
【0151】
(4)組織学的処理及び骨移植接触(bone-implant contact (BIC))率(%)の測定
除去トルク測定後、ラット(各群ともN=5)を深麻酔下に屠殺し、大腿骨インプラントを取り出した。得られた試料を、Technovit 7100(応研商事(株))中に埋め込んだ。各ブロックをインプラントの長軸方向に沿って移動させ、50μm厚の切片を作成し、トルイジンブルーを用いて、通常の方法で染色した。
切片の顕微鏡画像をモニター上に表示してコンピュータ入力し、イメージ分析用ソフトウェア(VMS-50 VideoPro、イノテック(株)製)を用いて分析した。骨接触率は、下記の式によって求めた:
骨接触率(%)=直接移植‐骨接触/ペリインプラント長。
データを有意差レベル5%で、Scheffe検定を用いて、一元配置分析で解析した。結果を
図10に示す。
【0152】
結果を
図10(A)は海綿骨の場合を、また、
図10(B)は皮質骨の場合を示す。骨移植接触率は、海綿骨においては移植7日後及び14日後で陰性対照群と他の2群との間で有意差が見られた。一方、皮質骨では、移植1日後から試験群と陰性対照群との間で有意差が見られた(ANOVA検定、*:p<0.05、**:p<0.01)。
試験群でBICの値が高いことから、骨との一体化が促進されていることが示された。
【0153】
(実施例5)ヒト用高機能インプラントの作製
(1)材料と方法
インプラントは、アストラ社製のチタンインプラント(長さ13mm、直径3.75mm、又は長さ11mm、直径3.75mm)を使用した。
(2)成長因子含有培養上清の調製
実施例1で得た幹細胞の培養上清を用いて成長因子含有溶液を調製し、以下のように処理を行った。
【0154】
この培養上清を培養フラスコに入れ、チタンインプラント材をここに加えて、ふたをきっちりと締めて十分に振盪した。ソニケーターで1分間、ソニケーションした。次いで、5分間静置し、再び、同じ条件で1分間ソニケーションした。5分間静置後に、純水で2回洗浄した。以上のようにして、上記培養上清中に含まれる成長因子でコーティングしたチタンインプラントを得た。培養上清に代えて、DMEMのみを使用して同様の処理を行い、無処理のチタンインプラント材を調製した。
【0155】
(実施例6)高機能インプラントの移植例
(1)患者等
41歳〜68歳の男性8名の上顎無歯顎に、実施例5で作製したインプラントを移植した。これらの患者には、糖尿病、高血圧その他の骨代謝に影響を与える基礎疾患はなかった。また、飲酒量が多いということもなく、喫煙習慣もなかった。
ある患者では、上顎臼歯部で、上顎洞底との距離が15mm以上残存している部位を埋入部位とした。成長因子で処理したインプラント(処理群)8本を患者の一方側の上顎臼歯部に埋入し、成長因子で処理していないインプラント(無処理群)8本を、同一患者の反対側上顎臼歯部に埋入した。
【0156】
(2)評価方法
上記16本のインプラントを埋入した直後(埋入時)、6カ月後、及び12ヶ月後の時点で、オステルモニター(Ostell Mentor, Ostell AB, Grothenburug, Sweden)を用いて、ISQ(Implant Stability Quotient)の変動によって評価した。
ISQ値は、インプラント周囲の骨の高さや質、骨とインプラントの結合力によって変化し、1から100の間の数値で表示される。一般的に、成功したインプラントはISQが65±5の場合に多いといわれている。計測結果を
図11に、また、評価を下記表8に示した。
図11に示すように、設置時のISQは、対照群及びSHED-CM処理群ともにこの範囲内であった。ISQ値は、いずれの群においても経時的に上昇したが、6月経過時点でSHED-CM処理群が有意に高くなっていた(p<0.05)。この傾向は、12月経過でも同様であった。
【0157】
【表8】
【0158】
上記表8に示すように、不死化乳歯幹細胞由来成長因子を表面にコーティングしたチタンインプラントでは、フィクスチャーの長さにかかわらず、骨との一体化が促進されることが示された。
【0159】
(実施例7)培養上清中及び高機能インプラント表面に付着したタンパク質の分析
(1)材料と方法
実施例1で得た幹細胞の培養上清中のタンパク質を使用し、LC/MS/MS(MS4 HPLC System (Michrom BioResources社製)とLCQ Advantage mass spectrometry system (Thermo Scientific社製)で同定した。
測定条件は、下記の通りとした。
【0160】
LC:MS4 HPLC System (Michrom BioResources社製)
カラム:Magic C18AQ(Michrom BioResources社製、0.1mm(i.d.)x50cm)
溶離液:溶液A(2% アセトニトリル−98% 水(0.1% 蟻酸含有))、溶液B(90% アセトニトリル−10% 水(0.1%蟻酸含有)をグラジエントさせた(0分, 95% A:5% B→45分, 0% A:100% B)。
流速:1μL/分
MS1:LCQ Advantage mass spectrometry system (Thermo Scientific社製)
MS2:LCQ Advantage mass spectrometry system (Thermo Scientific社製)
【0161】
インプラント上に付着したタンパク質は、10%EDTA、4Mグアニジン、80%アセトニトリルの順で液体クロマトグラフィーによる段階抽出を行い、それぞれのバッファーの流量は2mL/分になるようにして採取し、タンパク量が2μg/mLになるように調製した。タンパク量は、ビウレット法にて測定した。
培養上清は、100%エタノール、90%エタノールを用いてエタノール沈殿をさせた後に凍結乾燥し、タンパク量が2μg/mLになるように調製した。タンパク量は、ブラッドフォード法にて測定した。
分析結果を表9に示す。
【0162】
【表9】
【0163】
表9に示したように、実施例1で得られた幹細胞の培養上清中には、細胞構造の形成に関連するタンパク質が多く含まれていることが明らかになった。また、上記のようにして得られた間葉系幹細胞を培養した後の接着細胞の割合の多さから、コラーゲンα-1(I)鎖、コラーゲンα-2(I)鎖、フィブロネクチン、及びデコリンが、インプラントと歯槽骨との接着に重要な役割を果たしているものと考えられた。
【0164】
(実施例8)培養上清の細胞の接着性に対する影響及び凍結保存の影響
(1)材料
実施例1で得た幹細胞の培養上清を試料とし、陰性対照としてPBSを使用した。
(2)細胞の接着性に対する影響
直径15mm純チタン板に、イヌ骨髄間質細胞(年齢18-25ヶ月、体重15-25kgのビーグル犬の腸骨より骨髄液を10mL採取し、10%FBS及び50〜150U/mLのペニシリン、50〜150μg/mLのストレプトマイシンを含むDMEM培地を用いて、5%CO
2インキュベータ中にて、37℃で3代予備培養したもの)を1.5〜3x10
5個/ウェルで播種(n=3)し、培養上清の有無による細胞の接着性の影響、及びプラズマ処理の影響を調べた。
【0165】
培養は、10%FBS及びペニシリン(50〜150U/mL)、ストレプトマイシン(50〜150μg/mL)を含むDMEM使用し、37℃にて、培養した。培養前に、直径15mmの純チタン板に対して30秒間大気圧プラズマ(MPS-01K01C, 栗田製作所社製)をプラズマ炎先端から10mmの距離で照射し、チタン板を、培養上清またはPBS中に、24時間37℃の条件下で浸漬した。培養開始後1時間、及び24時間の時点での接着細胞数を、トリプシン-EDTAで接着細胞を剥離させ、血球計算盤上で浮遊細胞をカウントするようにして計数して求めた。結果を
図12に示す。
図12中、N-PBSはプラズマ処理なしでPBS中での培養、P-PBSはプラズマ処理しPBS中での培養、N-CMはプラズマ処理なしで培養上清中での培養、P-CMはプラズマ処理し培養上清中での培養を意味する。
【0166】
N-PBSでは、24時間後でも接着細胞数の大きな増加は見られなかったが、P-PBSでは大きく増加していた。また、N-CM及びP-CMの両群では24時間後の接着細胞数が増加していた。
N-PBS群とP-CM群では、24時間後の接着細胞数に有意差が見られた(p<0.01)。また、P-PBS群とP-CM群との間にも、有意差が見られた(p<0.05)。
また、24時間後における細胞の付着状態を、DAPIとファロイジンとを用いて蛍光染色し、250倍で、蛍光顕微鏡(励起波長:358nm(DAPI), 560nm(ファロイジン)、測定波長:465nm(DAPI), 575nm(ファロイジン)、A1+(Nikon社製)で観察した。
結果を
図13に示す。
図13に示すように、細胞の増殖状況は、N-CM群及びP-CM群で、明らかに多くなっていた。
【0167】
(3)凍結保存した場合の細胞増殖に対する影響
上記の培養上清を、1mLずつプラスチック製のネジ口チューブ(容量2mL、コーニング社製)に分注し、それぞれ、4℃、-15℃、及び-80℃で1週間、2週間及び1ヶ月保存した。
この影響を、ブロモウリジンアッセイで確認した。アッセイキットとして、BrdUラベリング&ディテクションキットII(ロシュ アプライドサイエンス社製)を使用し、添付された使用説明書に従ってアッセイを行った。
実施例1と同様にして得た間葉系幹細胞を、1x10
6個/ウェルで96ウェルプレートに播種した。上記のように保存した培養上清を100μL/ウェルで添加し、5%CO
2インキュベータ中にて、37℃で24時間培養し、この幹細胞の増殖を観察し、増殖率を求めた。結果を
図14に示す。
【0168】
-80℃で保存した場合には、1ヶ月保存した場合の活性は、1週間保存した場合と比較して低下傾向にあったが、有意差は見られなかった。一方、−80℃で2週間保存した場合と、-15℃で1ヶ月保存した場合との間には、有意差が見られた(p<0.05)。また、−80℃で2週間保存した場合と、4℃で1ヶ月保存した場合との間には、有意差が見られた(p<0.05)。−80℃で1週間保存した場合と、4℃で2週間保存した場合との間でも有意差が見られた(p<0.05)。
以上から、培養上清の保存期間は、−80℃で凍結保存した場合には1ヶ月、−15℃の場合には1ヶ月、4℃の場合には2週間と考えられる。
【0169】
以上より、培養上清でインプラントを処理することによって、上記の再生因子を産生する幹細胞の増殖が促進され、インプラントとそれをそれを埋め込んだ骨との接着が強固になることが示された。