特許第6033894号(P6033894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6033894Mytilus属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033894
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】Mytilus属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20161121BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20161121BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20161121BHJP
   G01N 33/577 20060101ALI20161121BHJP
   C12N 5/12 20060101ALN20161121BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   G01N33/53 S
   C07K16/18
   G01N33/48 N
   G01N33/577 B
   !C12N5/12
   !C12P21/08
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-2591(P2015-2591)
(22)【出願日】2015年1月8日
(62)【分割の表示】特願2007-326554(P2007-326554)の分割
【原出願日】2007年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-99156(P2015-99156A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2015年1月9日
【審判番号】不服-19595(P-19595/J1)
【審判請求日】2015年10月30日
【微生物の受託番号】IPOD  FERMP-21414
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507030863
【氏名又は名称】株式会社セシルリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】川端 豊喜
(72)【発明者】
【氏名】柳川 敏治
(72)【発明者】
【氏名】太田 真紀
(72)【発明者】
【氏名】神谷 享子
(72)【発明者】
【氏名】山下 桂司
【合議体】
【審判長】 中島 庸子
【審判官】 瀬下 浩一
【審判官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−246822(JP,A)
【文献】 水研センター研報,2002年,No.2,p.35−46
【文献】 Sessile Organisms,2007年 2月28日,Vol.24, No.1,p.21−32
【文献】 Aquaculture,2003年,Vol.219,p.545−559
【文献】 エネルギア総研レビュー,2007年 2月23日,No.7,p.10−11
【文献】 第10回マリンバイオテクノロジー学会大会講演要旨集,2007年 5月26日,p.72,B−6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K16/00-16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mytilus属に属するイガイ幼生とPerna属に属するイガイ幼生を含む試料において、Mytilus属に属するイガイ幼生だけを検出する検出方法であって、
試料に、Mytilus属に属するイガイ幼生に反応し、Perna属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体又はその抗体結合部位を含むフラグメントを添加することを特徴とする検出方法。
【請求項2】
Mytilus属に属するイガイ幼生がムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)幼生であり、Perna属に属するイガイ幼生がミドリイガイ(Perna viridis)幼生であることを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体又はその抗体結合部位を含むフラグメントはムラサキイガイ幼生の面盤に反応することを特徴とする請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体は受託番号FERM P-21414で寄託されているハイブリドーマから産生されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mytilus属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ又はその作製方法、Mytilus属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体又はそのフラグメント、並びに、Mytilus属に属するイガイ幼生の検出用試薬、検出方法、検出キット、及び検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
二枚貝類の種の判別や同定は、形態学的手法に基づいて専門家によって行われていた。しかしながら、各種二枚貝の付着期幼生は形態が非常に似ており、専門家においても種の判別や同定が困難とされている。そのため、二枚貝の付着期幼生の判別や同定を容易に行うことができる手法の開発が求められている。
【0003】
現在までに、アサリ浮遊幼生を同定する方法として、アサリ浮遊幼生に特異的なモノクローナル抗体の開発がなされている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ムラサキイガイ等のMytilus属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体の開発はなされておらず、また、ムラサキイガイ等のMytilus属に属するイガイ幼生を迅速かつ簡便に同定する方法の開発も行われていなかった。
【特許文献1】特開平11-196866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、Mytilus属に属するイガイ幼生に反応し、Perna属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、その抗体及びそのフラグメント、並びに、その利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これまで、Mytilus属とPerna属は同じイガイ科に属し、分類上非常に近縁の二枚貝であるため、当業者にとっても、Mytilus属に属するイガイ幼生に反応し、Perna属に属するイガイ幼生には反応しない抗体が得られるかどうか、全く不明であった。
【0006】
本発明者らは、ムラサキイガイ幼生を抗原とすることで、Mytilus 属に属するイガイの幼生を認識し、Perna属に属するイガイの幼生は認識しないモノクローナル抗体が得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、Mytilus属に属するイガイ幼生に反応し、Perna属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体又はそのフラグメントである。ここで、前記モノクローナル抗体又はそのフラグメントは、Mytilus属に属するイガイ幼生がムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)幼生であり、Perna属に属するイガイ幼生がミドリイガイ(Perna viridis)幼生であることが好ましい。また、前記モノクローナル抗体又はそのフラグメントは、ムラサキイガイ幼生の面盤に反応することが好ましく、マガキ幼生、アサリ幼生、及びバカガイ幼生にも反応しないことが好ましく、甲殻類プランクトン又はフジツボ幼生にも反応しないことが好ましい。なお、前記モノクローナル抗体又はそのフラグメントとしては、例えば、受託番号FERM P-21414で寄託されているハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体又はそのフラグメント等が挙げられる。
【0008】
また、本発明にかかる検出用試薬は、Mytilus属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出用試薬であって、前記いずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを有効成分として含有する。
【0009】
さらに、本発明にかかる検出方法は、Mytilus属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出方法であって、試料に、前記いずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを添加することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる検出キットは、Mytilus属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出キットであって、前記いずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む。
【0011】
さらに、本発明にかかる検出器は、Mytilus属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出器であって、前記いずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントが固定化されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるハイブリドーマの作製方法は、前記いずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製する方法であって、ムラサキイガイ付着期幼生で免疫したヒト以外の哺乳類動物由来の脾臓細胞とミエローマ細胞とを融合したハイブリドーマから、ムラサキイガイ幼生に反応するが、ミドリイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選定する工程を含む。
【0013】
さらに、本発明にかかるハイブリドーマは、前記いずれかに記載のモノクローナル抗体モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマである。このようなハイブリドーマとしては、例えば、受託番号FERM P-21414で寄託されているハイブリドーマ等が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Mytilus属に属するイガイ幼生に反応し、Perna属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、その抗体及びそのフラグメント、並びに、その利用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例において、ハイブリドーマN4-3-4bから産生されたモノクローナル抗体の、ムラサキイガイ付着期幼生(ペディベリジャー幼生)及びムラサキイガイD型幼生に対する反応性を、免疫染色法により調べた結果を示す図である。
図2】本発明の一実施例において、ハイブリドーマN4-3-4bから産生されたモノクローナル抗体の、ミドリイガイ付着期幼生(ペディベリジャー幼生)及びミドリイガイD型幼生に対する反応性を、免疫染色法により調べた結果を示す図である。
図3】本発明の一実施例において、ハイブリドーマN4-3-4bから産生されたモノクローナル抗体の、ムラサキイガイ付着期幼生(ペディベリジャー幼生)、ムラサキイガイD型幼生、ミドリイガイD型幼生、及びアカフジツボ付着期幼生に対する反応性を、ウエスタンブロッティングにより調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記知見に基づき完成した本発明を実施するための形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0017】
==モノクローナル抗体又はそのフラグメント==
本発明にかかるモノクローナル抗体は、Mytilus属に属するイガイ幼生に反応し、Perna属に属するイガイ幼生には反応しないことを特徴とする。ここで、イガイは二枚貝類のイガイ目イガイ科に属する貝の総称であって、イガイ科Mytilus属には、イガイ(Mytilus coruscus)、ムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)等が属し、イガイ科Perna属には、ミドリイガイ(Perna viridis)、モエギイガイ(Perna canaliculatus)等が属している。なお、モノクローナル抗体が幼生に反応するというとき、その幼生の形状は、whole-mountであっても、組織切片であっても、粗抽出液(超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物)であっても、当業者が抗体反応に用いる形状であれば、特に限定されない。また、その幼生に対して行う処理(固定、溶解、抽出等)も、当業者が抗体反応に用いるために通常行う処理であれば、特に限定されない。
【0018】
この抗体は、イガイ以外の二枚貝類(特に、マガキ、アサリ、及びバカガイ)幼生には反応しない方が好ましく、甲殻類プランクトンやフジツボ幼生にも反応しない方が好ましい。それによって、捕獲したプランクトンの中に、多種類の幼生が混在していても、Mytilus属に属するイガイ幼生のみを同定できる。
【0019】
本発明にかかるフラグメントとしては、前述のモノクローナル抗体の一部からなり、可変領域を含む抗原結合部位であれば特に制限されるものではないが、例えば、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント等を用いることができる。これらのフラグメントは、例えば、前述のモノクローナル抗体をタンパク質分解酵素によって部分消化することにより得ることができる。なお、タンパク質分解酵素としては、FabフラグメントやF(ab')2フラグメントを得ることができるものであればどのようなものであってもよいが、例えば、ペプシン、フィシン等の分解酵素を用いることができる。
【0020】
==モノクローナル抗体の製造方法==
本発明のモノクローナル抗体は、Mytilus属に属するイガイ幼生に反応し、Perna属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(以下、「本発明にかかるハイブリドーマ」と称する。)から得ることができる。
【0021】
本発明にかかるハイブリドーマを用いたモノクローナル抗体の製造は、常法に従って行うことができる。例えば、該ハイブリドーマを適当な培養培地で培養し、培養上清を回収することにより行ってもよいが、前述のハイブリドーマを哺乳類動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル等)の腹腔内に投与し、腹水を回収することにより行ってもよい。なお、モノクローナル抗体の精製は、前述のハイブリドーマの培養上清又は培養したハイブリドーマを超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物、又は前述のハイブリドーマを腹腔内に投与した哺乳類動物から採取した腹水を、常法、例えば、硫安塩析、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィーやアフィニティークロマトグラフィー等)、ゲル濾過等の方法、又はこれらの方法を適宜組み合わせた方法により行うことができる。
【0022】
前述のハイブリドーマとしては、例えば、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおいて受託番号FERM P-21414で寄託されている細胞株N4-3-4bを用いることができる。
【0023】
===ハイブリドーマの作製===
本発明にかかるハイブリドーマは、常法により作製することができる。以下に一例を示す。
【0024】
まず、ムラサキイガイ付着期幼生を集める。具体的には、ムラサキイガイ付着期幼生が含まれているムラサキイガイ幼生集団を飼育ビーカーから取り出し、顕微鏡観察によって、眼点及び足が形成されている個体を選別し、収集を行なう。
【0025】
次に、ムラサキイガイ付着期幼生又はその粗抽出液等を抗原として用い、適当な量の抗原(アジュバントを使用してもよい。)を哺乳類動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル等)の静脈内、皮下、腹腔内等に(1〜複数回)投与して免疫する。
【0026】
その後、免疫した動物から抗体産生細胞を採取し、採取した抗体産生細胞と骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)と融合させてハイブリドーマを作製する。得られたハイブリドーマの中で、ミドリイガイ幼生には反応性を示さないが、ムラサキイガイ幼生には反応性を示すモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選定することにより、本発明にかかるMytilus属に属するイガイ幼生特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0027】
前記抗体産生細胞とミエローマ細胞は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等の細胞融合促進剤を用いて細胞融合することができるが、エレクトロポレーション等の電気刺激を利用して細胞融合することもできる。なお、細胞融合の効率を高めるために、ジメチルスルホキシドやレシチン等の補助剤を細胞融合促進剤に含ませてもよい。
【0028】
前記抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等を用いることができる。これらの細胞は、動物から脾臓、リンパ節、胸腺、又は末梢血を摘出し、摘出した組織を破砕、濾過、遠心分離等することにより得ることができる。また、前記ミエローマ細胞としては、各種動物由来の細胞株を用いてもよいが、それ自身薬剤に対して抵抗性を示さないが、融合すると薬剤に対して抵抗性を示す細胞株を用いることが好ましい。これにより、細胞融合した後、薬剤を添加した培養培地(例えば、HAT培地等)で培養することにより、細胞融合によって得られたハイブリドーマの選択が容易となる。なお、融合させる抗体産生細胞とミエローマ細胞は、同種の動物由来の細胞を用いることが望ましいが、異なる種の動物由来の細胞を用いてもよい。
【0029】
前述のハイブリドーマの選定は、常法のスクリーニングやクローニングにより行うことができる。ハイブリドーマのスクリーニングには、例えば、酵素免疫測定法(EIA:Enzyme ImmunoAssay、ELISA:Enzyme-Linked Immunosorbent Assays)、放射線免疫測定法(RIA:Radio Immuno Assay)、ウエスタンブロッティング等を用いることができ、ハイブリドーマのクローニングには、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等を用いることができる。本発明にかかるハイブリドーマの選定において、上記スクリーニング及びクローニングを繰り返し行うことにより、ムラサキイガイ幼生又はその粗抽出液に対して特異性の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択することが可能となる。
【0030】
なお、前述のハイブリドーマのスクリーニングでは、最低限ムラサキイガイ幼生(ペディベリジャー幼生)及びミドリイガイ幼生との反応性を調べればよいが、さらに、他の二枚貝類の幼生、フジツボ幼生(キプリス幼生)、甲殻類プランクトン等の他の幼生若しくはプランクトンとの反応性を調べることがより好ましい。これにより、Mytilus属に属するイガイ幼生に対してより特異性の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができ、このハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体を用いることにより、様々な幼生又はプランクトンを含む試料(例えば、海水等)中からMytilus属に属するイガイ幼生を特異的に検出することが可能となり、また、様々な幼生又はプランクトンを含む試料(例えば、海水等)中からMytilus属に属するイガイ幼生を特異的に検出することができるようになる。すなわち、Mytilus属に属するイガイ幼生の存在の有無の確認、Mytilus属に属するイガイ幼生の同定、Mytilus属に属するイガイ幼生の量の測定等を行うことができるようになる。
【0031】
==モノクローナル抗体又はそのフラグメントの使用==
本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、Perna属に属するイガイ幼生には反応性を示さないが、Mytilus属に属するイガイ幼生に対して特異的に反応性を示す。従って、イガイ科に属する生物間において、Mytilus属に属するイガイ幼生の属特異的な検出に有用であると考えられる。
【0032】
また、本発明にかかるモノクローナル抗体は、イガイ以外の二枚貝類(特に、マガキ、アサリ、及びバカガイ)の幼生には反応性を示さない方が好ましい。このようなモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、類似の生物間におけるMytilus属に属するイガイ幼生の特異的な検出にも有用であると考えられる。
【0033】
さらに、本発明にかかるモノクローナル抗体又はフラグメントは、Mytilus属に属するイガイ幼生を効率的に選択して回収するのに有用であると考えられる。Mytilus属に属するイガイ幼生の回収は、モノクローナル抗体又はそのフラグメントとの親和性を利用して行うことができる。例えば、磁性体を結合させた本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントをMytilus属に属するイガイ幼生に作用させ、その後、磁石を用いて本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを回収することにより行うことができる。なお、前記磁性体としては、例えば、鉄、酸化鉄等を用いることができる。その他、Mytilus属に属するイガイ幼生の回収において、FACS(Fluorescence Activated Cell sort)、panning等の方法を用いてもよい。
【0034】
本発明にかかるMytilus属に属するイガイ幼生の検出は、試料(例えば、海水若しくは川水又はそれを超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物等)に、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを加えて試料中のMytilus属に属するイガイ幼生由来の抗原と反応させることにより、その抗原を同定することにより行うことができる。
【0035】
従ってMytilus属に属するイガイ幼生に特異的に反応し、Perna属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む試薬、キット、又は器具は、Mytilus属に属するイガイ幼生の検出用試薬、検出キット、及び検出器として利用可能である。
【0036】
なお、本発明にかかるMytilus属に属するイガイ幼生の検出用試薬は、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むものであればどのようなものでもよく、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりMytilus属に属するイガイ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の、抗体又はそのフラグメント以外に抗原の検出用試薬に含ませる一般的な物質が1又は2以上、さらに含まれていてもよい。
【0037】
本発明にかかるMytilus属に属するイガイ幼生の検出器は、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントが媒体(例えば、濾紙等の紙、ガラス、繊維、ニトロセルロース等の変性セルロース、ナイロン、プラスチック等から成るフィルター、メンブレン、プレート、ディッシュ等)に固定化されているものを含めばどのようなものでもよく、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりMytilus属に属するイガイ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質、発色基質、二次抗体、発色増強剤等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の、抗体又はそのフラグメント以外に抗原の検出器に含ませる一般的な物質が1又は2以上、さらに含まれていてもよい。
【0038】
本発明にかかるMytilus属に属するイガイ幼生の検出器の一例としては、試料を滴下する部分又は試料を浸す第一の部分と、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントが固定化された第二の部分と、本発明にかかるモノクローナル抗体が産生されたホストの動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する抗免疫グロブリン抗体等が固定化された第三の部分を有し、第二の部分が第一の部分と第三の部分との間に備えられ、第一の部分には、金属コロイド粒子(例えば、金コロイド粒子等)、重金属(例えば、金、白金等)、蛍光物質(例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、ローダミン、ファロイジン等)、着色ラテックス粒子等の標識物質で標識された、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むクロマトグラフ媒体を挙げることができる。前記クロマトグラフ媒体としては、例えば、ガラスやシリカ等の無機繊維からなる濾紙、ニトロセルロース等の変性セルロース等を用いることができる。このようなクロマトグラフ媒体を用いることにより、試料中にMytilus属に属するイガイ幼生が存在するかどうかを検出することが可能になる。
【0039】
その原理としては、Mytilus属に属するイガイ幼生又はその溶解物を含む試料をクロマトグラフ媒体の第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、試料中のMytilus属に属するイガイ幼生又はその溶解物は、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体又はそのフラグメントと反応して複合体を形成し、液が媒体中を広がるのを利用して、その複合体は第二の部分へと移動し、第二の部分において固定化された前述のモノクローナル抗体又はそのフラグメントに捕捉されてその位置で標識物質によりMytilus属に属するイガイ幼生の検出が可能となる。第一の部分からくるフリーの抗体は、第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分で発色が生じる。この第三の部分での発色は、検出のポジティブコントロールとなる。これに対して、Mytilus属に属するイガイ幼生由来の抗原を含まない試料を第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体又はそのフラグメントが、第二の部分を素通りして第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分でのみ発色が生じる。このように、第二の部分にシグナルが現れたか否かによって、試料中にMytilus属に属するイガイ幼生が存在するかどうかを判定することが可能となる。
【0040】
一方、本発明にかかるMytilus属に属するイガイ幼生の検出キットは、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むものであればどのようなものでもよく、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメント以外に、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりMytilus属に属するイガイ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質、発色基質、二次抗体、発色増強剤等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の抗原の検出キットに含ませる一般的な物質、若しくは前述のような本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントが媒体に固定化されている検出器、又はこれらのうち2以上を組み合わせたものが含まれていてもよい。
【0041】
なお、標識物質としては、例えば、蛍光物質(例えば、FITC、ローダミン、ファロイジン等)、金等のコロイド粒子、重金属(例えば、金、白金等)、色素タンパク質(例えば、フィコエリトリン(PE)、フィコシアニン(PC)等)、放射性同位元素(例えば、3H、32P、35S、125I、131I等)、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ビオチン、ストレプトアビジン等の物質を用いることができるがこれらに制限されるものではなく、公知の標識物質を用いてもよい。また、発色基質としては、前述の酵素に対する発色基質であれば特に制限されるものではなく、例えば、ジアミノベンジジン(DAB)、o-フェニレンジアミン(o-Phenylenediamine)、過酸化水素水、BCIP/Nitro-TB(5-Bromo-4-chloro-3-indolylphosphate/Nitrotetrazolium blue)、pNPP(para-nitorophenylphosphate)等を用いることができる。発色増強剤としては、前述の基質の発色を増強させることができるものであればどのようなものでもよく、例えば、硫酸等を用いることができ、二次抗体としては、例えば、本発明にかかるモノクローナル抗体が産生されたホストの動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する抗免疫グロブリン抗体、抗Ig(H+L)、抗Ig(Fc)等を用いることができる。
【0042】
また、前述の免疫学的手法としては、EIA(Enzyme Immunoassay)、蛍光免疫測定法、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、RIA(Radioimmuno assay)、ウエスタンブロッティング、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、サンドイッチ法等の公知の方法を用いることができる。
【0043】
以上のように、本発明にかかるMytilus属に属するイガイ幼生の検出方法を用いることにより、Mytilus属に属するイガイ幼生の同定やMytilus属に属するイガイ幼生の分離及び量の測定が可能となるが、検出キットや検出器を用いることにより、より容易にMytilus属に属するイガイ幼生を同定することができるようになる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
<実施例1>
本発明のモノクローナル抗体を得るために、以下の飼育方法により得られたムラサキイガイ付着期幼生(ペディベリジャー幼生)を抗原として用いた。
【0046】
[ムラサキイガイ付着期幼生の飼育方法]
ムラサキイガイ親貝を水槽内で維持し、親貝の放卵・放精によって受精した卵を回収した。受精卵をろ過海水にて洗浄後、ろ過海水を満たしたビーカー等の容器に収容し、エアレーションを行なった。ろ過海水には抗生物質(終濃度ペニシリン3mg/L ストレプトマイシン 6.6mg/L)を添加し、餌として植物プランクトン(ハプト藻 Isochrysis galbana)を与えた。成長初期は飼育容器内の海水を毎日交換して給餌し、その後、2〜3日に1回の頻度で海水の交換を行った。約3週〜約1ヶ月後、顕微鏡観察によって、眼点及び足が形成されている個体を選別し、付着期幼生(ペディベリジャー幼生)の収集を行ない、以下のように抗原として用いた。
【0047】
7週齢のBALB/cマウスの腹腔内に上記抗原を6回注射し(1〜5回目の注射:幼生300個/100〜150μl PBS、6回目の注射(最終免疫):幼生1000個/200μl PBS;1回目の投与から22日目に2回目の投与を、2回目の投与から24日目に3回目の投与を、3回目の投与からおよそ半年後に4回目の投与を、4回目の投与から半月後に5回目の投与を、5回目の投与からおよそ80日目に6回目の投与を行った。)、マウスを免疫した。
【0048】
最終免疫から3日後に抗体価が上がったマウスを解剖して脾臓を摘出し、摘出した脾臓を10%のFBS(Fetal Bovine Serum;GIBCO)及び1%の抗生物質(Antibiotic-Antimycotic;GIBCO)を含むRPMI1640(GIBCO)培地中で滅菌ステンレスメッシュにより裏漉した後、分散・懸濁することにより浮遊細胞を得た。この浮遊細胞を10%のFBS を含むRPMI1640培地(FBS+培地)で洗浄・遠心した後、RPMI1640培地(FBS-培地)で3回遠心・洗浄し、脾臓細胞(108個程度)を回収した。
【0049】
次に、ミエローマ細胞株P3U1(5×107個)と脾臓細胞(108個程度)を混合し、その後遠心して上清を除去し、細胞ペレット(沈殿)を作製した。これに1gのPEG4000(ポリエチレングリコール;MERCK社Article No.9727)とFBS-培地1mlとを混合した溶液を1分間かけてゆっくりと添加しながら撹拌し、さらに1分間緩やかに撹拌した。その後、FBS-培地2mlをゆっくり加えながら1分間撹拌して、細胞融合を行った。
【0050】
細胞融合処理後、さらにFBS-培地(37℃)8mlを1分間かけてゆっくりと添加し、続いて遠心分離(1000rpm×5分間)して上澄みを吸引除去した。これにFBS+培地10mlを添加して懸濁し、FBS+HAT培地(10%のFBS、1%の抗生物質、及びHAT supplement medium(SIGMA;粉末1バイアルを50倍に希釈したものを使用)×0.5を含むRPMI1640培地(GIBCO))が入った分室シャーレ5枚にそれぞれ2ml播種し、37 ℃,5% CO2の条件下で5日間培養した。
【0051】
各セル内で明瞭な増殖が確認されたハイブリドーマ細胞のコロニーをピックアップし、HT培地(10%の細胞増殖因子(conditioned medium from J774A.1 cells,HYBRIMAX;SIGMA)、100μMヒポキサンチン及び16μMチミジンを含むRPMI1640培地)の入った96穴ウェルプレートに移し、ハイブリドーマの培養を行った。その後、明瞭なハイブリドーマの増殖が確認されたウェルについて、その培養上清を採取し、ELISA法により抗体の産生を確認した。なお、特に記載がない過程については室温にて処理(反応を含む)を行った。
【0052】
(1)上記「室内飼育方法」によって得られたムラサキイガイ付着期幼生30000個体に600μlの50mM Tris-HCl(pH 7.5)を加え、氷中でホモジナイズ・超音波(数秒×5回)処理を行い、5000rpm×20分間遠心することにより、ムラサキイガイ付着期幼生粗抽出液(タンパク質濃度:39.5mg/ml)を調製した。
(2)(1)で得られたムラサキイガイ付着期幼生粗抽出液(100μg/ml)50μlを、96穴イワキELISAプレートの各ウェルに加え、4℃で抗原をウェル底面に吸着させた。
(3)(2)で吸着処理した各ウェルをTBS(0.5 M NaCl及び20 mM Tris-HCl(pH7.5))200μlで洗浄した。
(4)各ウェルを1% BSAを含むTBS 100μlで1時間ブロッキングした。
(5)各ウェルをTTBS(0.05% Tween20を含むTBS)200μlで3回洗浄した。
(6)ハイブリドーマを培養することにより得られた培養上清(1次抗体)50μlを各ウェルに加え、1時間反応させた。
(7)各ウェルをTTBS 200μlで4回洗浄した。
(8)各ウェルに2次抗体(アルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)ヤギ抗体;ZYMED laboratory)溶液(TBSで1000倍に希釈した溶液)50μlを加えて1時間反応させた。
(9)各ウェルをTTBS 200μlで5回洗浄した。
(10)各ウェルに基質(アルカリフォスファターゼ基質キット;BIO-RAD)溶液 100μlを加え、1時間振盪することにより発色させた。
(11)マイクロプレートリーダー(BIO-RAD Model550;405nm)を用いて、各ウェルの溶液の吸光度を測定した。
【0053】
前述のELISA法により高い抗体産生能が確認されたハイブリドーマについて、段階的に希釈した培養液をさらにELISA法により抗体価を測定し、抗体産生能が高いハイブリドーマをピックアップするという操作を3回繰り返して行い(2回目及び3回目の培養は、HTを含まない、10% FBS、1% 抗生物質、及び10% 細胞増殖促進成分(conditioned medium from J774A.1 cells, HYBRIMAX, SIGMA)を含むRPMI1640を用いた。)、ムラサキイガイ付着期幼生粗抽出液に対してより高い抗体産生能を示すハイブリドーマクローン(N4-3-4b)を得た。
【0054】
<実施例2>
次に、実施例1により得られた1つのハイブリドーマの培養上清に含まれるモノクローナル抗体が、ムラサキイガイ付着期幼生(ペディベリジャー幼生)に対して特異的に反応するか否かを調べるため、ムラサキイガイ幼生(付着期幼生、D型幼生)、ムラサキイガイ以外の二枚貝類(ミドリイガイ、アサリ、バカガイ、マガキ等)の付着期幼生(ペディベリジャー幼生)、ムラサキイガイ以外の二枚貝類(ミドリイガイ等)のD型幼生、甲殻類プランクトン(コペポーダ類、アルテミア(Artemia salina)ノープリウス幼生)、イワフジツボ(Chthamalus challengeri Hoek)キプリス幼生、アカフジツボキプリス幼生の粗抽出液(タンパク質の濃度;100μg/ml)との反応性を、実施例1に記載のELISA法と同様に確認した。なお、各粗抽出液は、各幼生又はプランクトンを50mM Tris-HCl(PH7.5)に加えてホモジナイズ・超音波(数秒×5回)処理し、5000rpm×20分間の遠心を行うことにより調製した。
【0055】
ELISAの結果(OD405値)を表1及び表2に示す。
【0056】
【表1】
まず、表1では、ムラサキイガイ付着期幼生と他種の二枚貝やプランクトンとの間で、抗体反応性を比較した。ハイブリドーマN4-3-4bの上清は、ムラサキイガイ付着期幼生(ペディベリジャー幼生)の粗抽出液に対して非常に強い反応性を示したが、形態学的に非常に似ているマガキ、アサリ、バカガイ等のムラサキイガイ以外の二枚貝類のペディベリジャー幼生の粗抽出液や、二枚貝類以外の幼生(イワフジツボキプリス幼生及びアカフジツボキプリス幼生)や甲殻類プランクトン(コペポーダ類、アルテミア(Artemia salina)ノープリウス幼生)の粗抽出液に対しては反応性を示さなかった。
【0057】
【表2】
表2では、ムラサキイガイ幼生と、ミドリイガイ幼生との間で、抗体反応性を比較した。ハイブリドーマN4-3-4bの上清は、ムラサキイガイ付着期幼生(ペディベリジャー幼生)及びムラサキイガイD型幼生の粗抽出液に対して非常に強い反応性を示したが、同じイガイ科のミドリイガイD型幼生の粗抽出液に対しては反応性を示さなかった。
【0058】
<実施例3>
次に、実施例1により得られたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体がムラサキイガイ付着期幼生をwhole-mountで認識するかどうかを調べるために、ハイブリドーマN4-3-4bのモノクローナル抗体を用いて、ムラサキイガイ(付着期幼生、D型幼生)及びミドリイガイ(付着期幼生、D型幼生)に対する免疫染色を以下のように行った。また、以下において、特に記載がない過程については室温にて処理(反応を含む)を行った。
【0059】
(1)ムラサキイガイ(付着期幼生、D型幼生)及びミドリイガイ(付着期幼生、D型幼生)をそれぞれ96穴プレートに入れ、5% ホルマリンを用いて固定した。
(2)各ウェルをPBS 200μlで洗浄した後、PBST(0.05% Tween20を含むPBS)200μlにてさらに洗浄した。
(3)各ウェルに1% BSAを含むPBST200μlを注入し、4℃で8時間ブロッキングした。
(4)各ウェルにN4-3-4bのモノクローナル抗体(1次抗体;1% BSAを含むPBSTで8倍に希釈した溶液)200μlを加え、4℃で一晩反応させた。なお、コントロールには、一次抗体としてマウス抗アカフジツボ付着期幼生抗体(特開2006-246820に記載のハイブリドーマKF1-6a4(1)6P-3(受託番号FERM P-20279)の培養上清)を用いた。
(5)各ウェルをPBST 200μlで4回洗浄した。
(6)各ウェルに2次抗体(アルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)ヤギ抗体;1% BSAを含むPBSTで400倍に希釈した溶液)200μlを加えて4℃で8時間反応させた。
【0060】
(7)各ウェルをPBST 200μlで4回洗浄した。
(8)各ウェルに基質(アルカリフォスファターゼ基質キット;BIO-RAD)溶液 200μlを加えて発色させた。
【0061】
図1及び図2に示すように、ハイブリドーマN4-3-4bが産生するモノクローナル抗体は、ムラサキイガイ付着期幼生の面盤と足、及びムラサキイガイD型幼生の面盤に特異的に反応した(図1)が、ミドリイガイの幼生(付着期幼生、D型幼生)には反応しなかった(図2)。
【0062】
<実施例4>
次に、ハイブリドーマN4-3-4bから産生されたモノクローナル抗体が、ムラサキイガイ付着期幼生又はムラサキイガイD型幼生のどの抗原に特異的に反応するのかを確認するため、ムラサキイガイ付着期幼生及びムラサキイガイD型幼生の各粗抽出液に対し、ハイブリドーマN4-3-4bから産生されたモノクローナル抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。また、ムラサキイガイ付着期幼生又はムラサキイガイD型幼生に類似した他の幼生に発現している抗原には、反応性を示さないことを確認するため、ミドリイガイD型幼生及びアカフジツボ付着期幼生の粗抽出液についてもウエスタンブロッティングを行った。
【0063】
(1)タンパク量を5μgに調整した各種抽出液にてSDS電気泳動(ポリアクリルアミド7.5%)を行った。
(2)PVDF膜を電気泳動ゲルと同様の大きさに切り、100%メタノールに数秒、次に10mMCAPS緩衝液を浸透させて親水化処理を行った。
(3)セミドライ式ブロッティング装置に10mMCAPS緩衝液を浸透させたろ紙、メンブレン及びSDS電気泳動後のゲルをセットし、2mA/cm2で2時間通電した。
(4)ブロッティング済みのPVDF膜をTBSで10分間洗浄した。
(5)PVDF膜を3%スキムミルク入りのTBSで室温にて1時間ブロッキングした。
(6)TBSで洗浄後、ハイブリドーマN4-3-4bを培養することによって得られた培養上清(一次抗体)を1%スキムミルク入りのTBSで10倍希釈し、室温で1時間又は4℃で一晩反応させた。
(7)蒸留水で洗浄後、TTBS中に10分間、2回置いた。
(8)PVDF膜を二次抗体(アルカリフォスファターゼ標識坑マウスIgG ヤギ抗体:BioRAD)溶液(1%スキムミルク入りのTBSで3000倍希釈)と1時間反応させた。
(9)蒸留水で洗浄後、TTBS中に10分間、2回置いた。
(10)蒸留水で洗浄後、BCIP/NBT アルカリフォスファターゼ基質溶液(SIGMA)にて染色を行った。
【0064】
図3に示すように、ハイブリドーマN4-3-4bが産生するモノクローナル抗体は、ムラサキイガイ付着期幼生における約121kDa、約122kDa、約124kDaのタンパク質、及びムラサキイガイD型幼生における約121kDa、約122kDa、約124kDaのタンパク質に特異的に反応した。一方、このモノクローナル抗体は、ミドリイガイD型幼生、及びアカフジツボ付着期幼生由来の抗原には反応しなかった。
【0065】
以上のことから、ハイブリドーマN4-3-4bは、Mytilus属に属するイガイ付着期幼生(ペディベリジャー幼生)に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生することが明らかになり、これらのハイブリドーマ細胞株が産生するモノクローナル抗体を用いることにより、Mytilus属に属するイガイ付着期幼生を特異的に検出したり、回収したりすることができることが明らかになった。そこで、このハイブリドーマ細胞株を独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した(N4-3-4b:受託番号FERM P-21414)。
図1
図2
図3