特許第6033908号(P6033908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6033908-Vベルト式無段変速機 図000002
  • 特許6033908-Vベルト式無段変速機 図000003
  • 特許6033908-Vベルト式無段変速機 図000004
  • 特許6033908-Vベルト式無段変速機 図000005
  • 特許6033908-Vベルト式無段変速機 図000006
  • 特許6033908-Vベルト式無段変速機 図000007
  • 特許6033908-Vベルト式無段変速機 図000008
  • 特許6033908-Vベルト式無段変速機 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033908
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】Vベルト式無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/18 20060101AFI20161121BHJP
【FI】
   F16H9/18 A
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-56835(P2015-56835)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-176519(P2016-176519A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2015年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067840
【弁理士】
【氏名又は名称】江原 望
(74)【代理人】
【識別番号】100098176
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 訓
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(72)【発明者】
【氏名】若狭 秀智
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−012059(JP,A)
【文献】 実開昭49−064669(JP,U)
【文献】 実公昭49−034929(JP,Y1)
【文献】 実開昭62−196958(JP,U)
【文献】 実開昭50−153372(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/00−9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載内燃機関の動力が伝達される駆動軸(40)に設けられた駆動プーリ(70)と車輪に動力が伝達される被動軸(110)に設けられた被動プーリ(80)との間にVベルト(75)が架け渡され、
前記駆動プーリ(70)は、前記駆動軸(40)に相対回転を規制されて軸方向に摺動自在に軸支された可動駆動プーリ半体(72)が機関回転数に応じて軸方向に摺動して前記駆動軸(40)に固定される固定駆動プーリ半体(71)との間で互いの対向する対向テーパ面(71f,72f)が前記Vベルト(75)を挟んで周回させて前記被動軸(110)に動力を伝達するVベルト式無段変速機において、
前記固定駆動プーリ半体(71)に対して前記可動駆動プーリ半体(72)を離反する方向に付勢する付勢手段(73)が設けられ
前記付勢手段(73)は円錐コイルばね(73)であり、
前記固定駆動プーリ半体(71)は、対向テーパ面(71f)を形成する円錐部(71c)に、同円錐部(71c)の内周端から前記可動駆動プーリ半体(72)と軸方向反対側に延出する円筒部(71s)と、同円筒部(71s)の前記円錐部(71c)と反対側端部が内側に延出して前記駆動軸に固定される底壁部(71b)とを備え、
前記円錐コイルばね(73)は、前記固定駆動プーリ半体(71)の前記円筒部(71s)内に挿入されて前記底壁部(71b)と前記可動駆動プーリ半体(72)との間に介装される
ことを特徴とするVベルト式無段変速機。
【請求項2】
車載内燃機関の動力が伝達される駆動軸(40)に設けられた駆動プーリ(70)と車輪に動力が伝達される被動軸(110)に設けられた被動プーリ(80)との間にVベルト(75)が架け渡され、
前記駆動プーリ(70)は、前記駆動軸(40)に相対回転を規制されて軸方向に摺動自在に軸支された可動駆動プーリ半体(72)が機関回転数に応じて軸方向に摺動して前記駆動軸(40)に固定される固定駆動プーリ半体(71)との間で互いの対向する対向テーパ面(71f,72f)が前記Vベルト(75)を挟んで周回させて前記被動軸(110)に動力を伝達するVベルト式無段変速機において、
前記固定駆動プーリ半体(71)に対して前記可動駆動プーリ半体(72)を離反する方向に付勢する付勢手段(73)が設けられ
前記付勢手段(73)がコイルばね(73)であり、
前記固定駆動プーリ半体(71)は、対向テーパ面(71f)を形成する円錐部(71c)に、同円錐部(71c)の内周端から前記可動駆動プーリ半体(72)と軸方向反対側に延出する円筒部(71s)と、同円筒部(71s)の前記円錐部(71c)と反対側端部が内側に延出して前記駆動軸に固定される底壁部(71b)とを備え、
前記コイルばね(73)は、前記固定駆動プーリ半体(71)の前記円筒部(71s)内に挿入されて前記底壁部(71b)と前記可動駆動プーリ半体(72)との間に介装され、
前記可動駆動プーリ半体(72)は、前記駆動軸(40)に相対回転を規制されて軸方向に摺動可能に軸支された摺動スリーブ(68)に嵌着され、
前記摺動支持スリーブ(68)の前記可動駆動プーリ半体(72)より軸方向で前記固定駆動プーリ半体(71)側に延出した延出部の外周にベアリング(69)が嵌着され、
機関回転数が小さいときに、前記ベアリング(69)が前記固定駆動プーリ半体(71)と前記可動駆動プーリ半体(72)との間に位置する
ことを特徴とするVベルト式無段変速機。
【請求項3】
前記コイルばね(73)は、前記固定駆動プーリ半体(71)の前記底壁部(71b)と前記ベアリング(69)のインナレース(69i)との間に介装されることを特徴とする請求項記載のVベルト式無段変速機。
【請求項4】
機関回転数が大きくなることによる前記可動駆動プーリ半体(72)の前記固定駆動プーリ半体(71)への近接移動の際に、前記ベアリング(69)前記固定駆動プーリ半体(71)の前記円筒部(71s)の内側に収容されるように前記円筒部(71s)が設けられていることを特徴とする請求項記載のVベルト式無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される内燃機関の動力を無段で変速して伝達するVベルト式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
Vベルト式無段変速機において駆動軸に設けられる駆動プーリは、駆動軸に相対回転を規制されて軸方向に摺動自在に軸支された可動駆動プーリ半体が機関回転数に応じて軸方向に摺動して駆動軸に固定される固定駆動プーリ半体との間でVベルトを挟んで周回させて動力を伝達する。
可動駆動プーリ半体を機関回転数に応じて軸方向に摺動させるのに、遠心ウエイトを用いるのが、一般的であった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−236647号公報
【0004】
特許文献1に開示されたVベルト式無段変速機においては、可動駆動プーリ半体の固定駆動プーリ半体とは反対側のテーパした背面に遠心ウエイトがガイドプレートに挟まれて設けられ、機関回転数に応じてガイドプレートにより案内されて径方向に移動する遠心ウエイトにより可動駆動プーリ半体が固定駆動プーリ半体に対して接近・離反して駆動プーリにおけるVベルトの巻掛け径が変化し、これに伴い同時に被動プーリにおける巻掛け径が変化することにより変速比が自動的に変更され無段変速される。
【0005】
被動プーリが設けられる被動軸には、被動プーリとの間に遠心クラッチ機構が設けられていて、所定の機関回転数以上で動力が駆動輪まで伝達されるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Vベルトは、常時固定駆動プーリ半体と可動駆動プーリ半体との間に挟持された状態にあって、内燃機関の動力により回転する駆動プーリに巻き掛けられたVベルトは常に駆動プーリとの僅かな摩擦によって周回しており、Vベルトの周回に伴って他方でVベルトが巻き掛けられた被動プーリも常に回転している。
【0007】
所定の機関回転数以上で遠心クラッチ機構が接続すると、被動プーリの回転が駆動輪まで伝達されるが、所定の機関回転数に至るまでのアイドル運転中は、内燃機関の動力は、Vベルトを周回させ、被動プーリも回転させており、アイドル運転中のVベルトの周回運動や被動プーリの回転運動による負荷が、燃費を低下させていた。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、アイドル運転中の負荷を軽減して燃費の向上を図ることができるVベルト式無段変速機を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、
車載内燃機関の動力が伝達される駆動軸に設けられた駆動プーリと車輪に動力が伝達される被動軸に設けられた被動プーリとの間にVベルトが架け渡され、前記駆動プーリは、前記駆動軸に相対回転を規制されて軸方向に摺動自在に軸支された可動駆動プーリ半体が機関回転数に応じて軸方向に摺動して前記駆動軸に固定される固定駆動プーリ半体との間で互いの対向する対向テーパ面が前記Vベルトを挟んで周回させて前記被動軸に動力を伝達するVベルト式無段変速機において、
前記固定駆動プーリ半体に対して前記可動駆動プーリ半体を離反する方向に付勢する付勢手段が設けられ、前記付勢手段は円錐コイルばねであり、前記固定駆動プーリ半体は、対向テーパ面を形成する円錐部に、同円錐部の内周端から前記可動駆動プーリ半体と軸方向反対側に延出する円筒部と、同円筒部の前記円錐部と反対側端部が内側に延出して前記駆動軸に固定される底壁部とを備え、前記円錐コイルばねは、前記固定駆動プーリ半体の前記円筒部内に挿入されて前記底壁部と前記可動駆動プーリ半体との間に介装されることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、固定駆動プーリ半体に対して可動駆動プーリ半体を離反する方向に付勢する付勢手段が設けられるので、アイドル運転中など、付勢手段により固定駆動プーリ半体に対して可動駆動プーリ半体を離反する方向に移動して、可動駆動プーリ半体が固定駆動プーリ半体との間でVベルトを挟まないようにすることで、内燃機関の動力が駆動軸までしか伝達されず、Vベルトの周回運動や被動プーリの回転を伴わないようにすることができ、アイドル運転中の負荷を軽減して燃費の向上を図ることができる。
そして、コイルばねが、固定駆動プーリ半体の円筒部内に挿入されて底壁部と可動駆動プーリ半体との間に介装されるので、コイルばねが固定駆動プーリ半体の対向テーパ面を形成する円錐部と軸方向で重なる円筒部内にコンパクトに配設され、駆動プーリの軸方向幅を小さく抑えることができる。
また、コイルばねを円錐コイルばねとすることで、ばねの圧縮時に軸方向で重なることにより伸縮ストロークを大きくすることができ、また、駆動プーリの軸方向幅を小さく抑えることができる。
【0014】
請求項2記載の発明は、
車載内燃機関の動力が伝達される駆動軸に設けられた駆動プーリと車輪に動力が伝達される被動軸に設けられた被動プーリとの間にVベルトが架け渡され、前記駆動プーリは、前記駆動軸に相対回転を規制されて軸方向に摺動自在に軸支された可動駆動プーリ半体が機関回転数に応じて軸方向に摺動して前記駆動軸に固定される固定駆動プーリ半体との間で互いの対向する対向テーパ面が前記Vベルトを挟んで周回させて前記被動軸に動力を伝達するVベルト式無段変速機において、
前記固定駆動プーリ半体に対して前記可動駆動プーリ半体を離反する方向に付勢する付勢手段が設けられ、前記付勢手段がコイルばねであり、前記固定駆動プーリ半体は、対向テーパ面を形成する円錐部に、同円錐部の内周端から前記可動駆動プーリ半体と軸方向反対側に延出する円筒部と、同円筒部の前記円錐部と反対側端部が内側に延出して前記駆動軸に固定される底壁部とを備え、前記コイルばねは、前記固定駆動プーリ半体の前記円筒部内に挿入されて前記底壁部と前記可動駆動プーリ半体との間に介装され、前記可動駆動プーリ半体は、前記駆動軸に相対回転を規制されて軸方向に摺動可能に軸支された摺動スリーブに嵌着され、前記摺動支持スリーブの前記可動駆動プーリ半体より軸方向で前記固定駆動プーリ半体側に延出した延出部の外周にベアリングが嵌着され、機関回転数が小さいときに、前記ベアリングが前記固定駆動プーリ半体と前記可動駆動プーリ半体との間に位置することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、機関回転数が小さいときには、駆動プーリ側でVベルトがコイルばねにより離反した固定駆動プーリ半体と可動駆動プーリ半体とに挟まれることなく、摺動支持スリーブに嵌着されるベアリングのアウタレースに支持されことになり、回転する駆動軸とVベルトとのフリクションを抑えることができ、燃費を益々向上させることができる。
【0016】
前記構成において、
前記コイルばねは、前記固定駆動プーリ半体の前記底壁部と前記ベアリングのインナレースとの間に介装されるようにしてもよい。
【0017】
この構成によれば、コイルばねは、固定駆動プーリ半体の底壁部とベアリングのインナレースとに挟まれて駆動軸とともに回転するので、機関回転数が小さいときに固定駆動プーリ半体の回転がベアリングのアウタレースに支持されるVベルトに伝達するのを確実に防止することができる。
【0018】
前記構成において、
機関回転数が大きくなると、前記可動駆動プーリ半体の前記固定駆動プーリ半体に近づく方向の移動により、前記ベアリングは前記固定駆動プーリ半体の前記円筒部の内側に収容されるようにしてもよい。
【0019】
この構成によれば、可動駆動プーリ半体の移動距離を確保しながら駆動プーリの軸方向幅を極力小さく抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、アイドル運転中など、固定駆動プーリ半体に対して可動駆動プーリ半体を離反する方向に付勢する円錐コイルばねにより固定駆動プーリ半体に対して可動駆動プーリ半体を大きく離反して、可動駆動プーリ半体が固定駆動プーリ半体との間でVベルトを挟まないようにすることで、内燃機関の動力が駆動軸までしか伝達されず、Vベルトの周回運動や被動プーリの回転を伴わないようにすることができ、アイドル運転中の負荷を軽減して燃費の向上を図ることができる。
そして、コイルばねが、固定駆動プーリ半体の円筒部内に挿入されて底壁部と可動駆動プーリ半体との間に介装されるので、コイルばねが固定駆動プーリ半体の対向テーパ面を形成する円錐部と軸方向で重なる円筒部内にコンパクトに配設され、駆動プーリの軸方向幅を小さく抑えることができる。
また、コイルばねを円錐コイルばねとすることで、ばねの圧縮時に軸方向で重なることにより伸縮ストロークを大きくすることができ、また、駆動プーリの軸方向幅を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に係る自動二輪車の全体側面図である。
図2】パワーユニットの伝動ケースカバーを外した全体側面図である。
図3】同パワーユニットの伝動ケースカバーを外し一部省略した斜視図である。
図4】同パワーユニットの縦断断面図(図2のIV−IV線断面図)である。
図5】機関回転数が小さいときのVベルト式無段変速機の駆動プーリ側の横断断面図(図2のV−V線断面図)である。
図6】機関回転数が小さいときの同Vベルト式無段変速機の被動プーリ側の横断断面図(図2のVI−VI線断面図)である。
図7】機関回転数が大きいときの同Vベルト式無段変速機の駆動プーリ側の横断断面図である。
図8】機関回転数が大きいときの同Vベルト式無段変速機の被動プーリ側の横断断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図8に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用した一実施の形態に係る鞍乗型車両である自動二輪車1の側面図である。
なお、本明細書の説明において、前後左右の向きは、本実施の形態に係る自動二輪車1の直進方向を前方とする通常の基準に従うものとし、図面において、FRは前方を,LHは左方を,RHは右方を示すものとする。
【0023】
車体前部1fと車体後部1rとが、低いフロア部1cを介して連結されており、車体の骨格をなす車体フレームは、概ねダウンチューブ3とメインパイプ4とからなる。
すなわち車体前部1fのヘッドパイプ2からダウンチューブ3が下方へ延出し、同ダウンチューブ3は下端で水平に屈曲してフロア部1cの下方を後方へ延び、その後端において左右一対のメインパイプ4が連結され、メインパイプ4は該連結部から斜め後方に立ち上がって所定高さで水平に屈曲して後方に延びている。
【0024】
同メインパイプ4の上方にシート6が配置されている。
一方車体前部1fにおいては、ヘッドパイプ2に軸支されて上方にハンドル11が設けられ、下方にフロントフォーク12が延びてその下端に前輪13が軸支されている。
【0025】
メインパイプ4の前側下端から後方にブラケット15が突設され、同ブラケット15にリンク部材16が連結される。
パワーユニット20は、その前部が単気筒4ストロークの空冷式内燃機関30であり、シリンダブロック32を略水平に近い状態にまで大きく前傾した姿勢にあって、そのクランクケース31の下端から前方に突出したハンガーブラケット18の端部が前記リンク部材16にピボット軸(枢支)19を介して連結され、パワーユニット20が上下に揺動可能に連結支持されている。
【0026】
パワーユニット20は該内燃機関30から後方にかけてVベルト式無段変速機60が構成され、その後部に設けられた減速ギヤ機構120の出力軸である後車軸125に後輪21が設けられている(図2参照)。
この減速ギヤ機構120のあるパワーユニット20の後部に立設された支持ブラケット29と前記メインパイプ4の後部間にリヤクッション22が介装されている(図1参照)。
【0027】
パワーユニット20の上部では、内燃機関30の大きく前傾したシリンダヘッド33の上部から吸気管23が延出して後方に湾曲し、スロットルボディ25を介してVベルト式無段変速機60の上方のエアクリーナ26に至っている。
一方、シリンダヘッド33の下部から下方に延出した排気管27は、後方へ屈曲し右側に偏って後方に延びて後輪21の右側のマフラ28に連結される。
【0028】
車体前部1fは、フロントカバー9aとレッグシールド9bにより前後から覆われフロントロアカバー9cにより下部を前方から左右側方にかけて覆われ、ハンドル11の中央部はハンドルカバー9dによって覆われる。
フロア部1cはサイドカバー9eにより覆われ、また車体後部1rは左右側方からボデイカバー10によって覆われる。
【0029】
図2はパワーユニット20の伝動ケースカバー61を外した全体側面図であり、図3はパワーユニット20の伝動ケースカバー61を外し一部省略した斜視図であり、図4はパワーユニット20の縦断面図(図2のIV−IV線断面図)である。
【0030】
図4を参照して、内燃機関30は、シリンダブロック32のシリンダライナ32l内を往復動するピストン42とクランクシャフト40のクランクピン40pとをコネクティングロッド43が連結している。
クランクシャフト40は、左クランクシャフト40Lと右クランクシャフト40Rの各クランクウエブをクランクピン40pが連結した一体構造をしている。
【0031】
クランクケース31は、左右割りの左クランクケース31Lと右クランクケース31Rとを合体して構成されるもので、右クランクケース31Rは、クランクケース部の半体をなし、左クランクケース31Lは、前部がクランクケース部の半体をなすとともに、後方に延出して前後に長尺のVベルト式無段変速機60を収容する伝動ケースを兼ねる。
【0032】
この伝動ケース(左クランクケース)31Lの前後長尺の左側開放面は、伝動ケースカバー61により覆われ、内部にVベルト式無段変速機60が収納される変速室60Cが形成され、後部の右側開放面は減速ギヤカバー121により覆われ、内部に減速ギヤ機構120が収納される減速ギヤ室120Cが形成される。
【0033】
図4を参照して、左クランクケース31Lの前部と右クランクケース31Rとの合体による所謂クランクケース内には、クランクシャフト40が左右クランクケース31L,31Rの各側壁に左右の主ベアリング41,41を介して回転自在に支持されている。
【0034】
右クランクシャフト40Rの右水平方向に延びた軸部にはカムチェーン駆動スプロケット44とオイルポンプ駆動ギヤ45が嵌着されるとともに、右端にACジェネレータ46が設けられ、ACジェネレータ46は、ACGカバー47で覆われている。
【0035】
本4サイクル内燃機関30は、SOHC型式のバルブシステムを採用しており、シリンダヘッドカバー34内には動弁機構50が設けられ、同動弁機構50に動力伝達を行うカムチェーン51がカムシャフト53と右クランクシャフト40Rとの間に架渡されており、カムチェーン51を覆うカムチェーン室52が、右クランクケース31R,シリンダブロック32,シリンダヘッド33に連通して設けられている(図4参照)。
【0036】
すなわち左右水平方向に指向したカムシャフト53の右端に嵌着されたカムチェーン被動スプロケット56と、クランクシャフト40に嵌着された前記カムチェーン駆動スプロケット44との間にカムチェーン51がカムチェーン室52内を通って架渡されている。
【0037】
カムシャフト53の吸気カム面と排気カム面に吸気ロッカアーム54と排気ロッカアーム55の端部の各ローラが接する。
なお、シリンダヘッド33においてカムチェーン室52と反対側(左側)から燃焼室35に向かって点火プラグ36が嵌挿されている(図3図4参照)。
【0038】
図3および図4を参照して、シリンダブロック32とシリンダヘッド33は、シュラウド37により周囲を覆われている。
シュラウド37のシリンダブロック32とシリンダヘッド33の左側を覆う部分は、前部から後部にかけて徐々に大きく左方に膨出した送風ダクト部37bが形成されている。
送風ダクト部37bの後部は、後方のVベルト式無段変速機60に向けて開口37bhを形成している。
【0039】
Vベルト式無段変速機60の駆動プーリ70側の横断断面図である図5を参照して、左クランクシャフト40Lの左方に延出する軸部は、左クランクケース31Lの側壁に嵌着される主ベアリング41を介して軸支されるとともにシール部材48によりシールされるクランクウエブ近傍のジャーナル部40aと、ジャーナル部40aから段差を介し縮径されて左方に延出する延長軸部40bと、延長軸部40bからさらに左方に延出し外周にスプライン溝が形成されるスプライン軸部40cと、スプライン軸部40cから突出した端部である雄ねじ部40dとからなる。
【0040】
パワーユニット20の左側のVベルト式無段変速機60における左クランクシャフト40Lの左方に延びる軸部に設けられる駆動プーリ70は、左クランクシャフト40Lのスプライン軸部40cにスプライン嵌合される固定駆動プーリ半体71と、延長軸部40bにおいて固定駆動プーリ半体71と右側で対向して軸方向に摺動可能に設けられる可動駆動プーリ半体72とからなる。
固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72は、互いに対向してVベルト75を挟む対向テーパ面71f,72fを形成する円錐部71c,72cを有する。
【0041】
そして、固定駆動プーリ半体71は、円錐部71cの内周端から可動駆動プーリ半体72と軸方向反対側に延出する円筒部71sと、同円筒部71sの円錐部71cと反対側端部が内側にテーパして延出した底壁部71bとを備え、底壁部71bが左クランクシャフト40Lのスプライン軸部40cにスプライン嵌合する。
固定駆動プーリ半体71の円筒部71sの内径は、左クランクシャフト40Lの軸部の外径より十分大きい。
【0042】
固定駆動プーリ半体71の右側に対向する可動駆動プーリ半体72は、円錐部72cの内周端から固定駆動プーリ半体71と軸方向反対側に延出する円筒部72sを備えている。
可動駆動プーリ半体72の円錐部72cの背後(右側)の湾曲した背面と左クランクシャフト40Lの延長軸部40bに軸支されジャーナル部40aに接して固着されるガイドプレート63との間に、複数の遠心ウエイト62が径方向に移動可能に挟まれて配設されている。
【0043】
左クランクシャフト40Lのシール部材48より左方に突出した延長軸部40bには、ガイドプレート63を嵌挿してジャーナル部40aとの段差部に当接し、次いで円筒状のカラー部材64を嵌挿してガイドプレート63の内周基部に当接し、次いで固定駆動プーリ半体71が底壁部71bをスプライン軸部40cにスプライン嵌合してカラー部材64の端部に当接し、次いでさらに冷却ファン65が多数の羽根65pの取り付けられた円錐状基板65bの内周基部をスプライン軸部40cにスプライン嵌合して固定駆動プーリ半体71の底壁部71bに当接し、次いでワッシャ66を介してナット67を雄ねじ部40dに螺合し締め付ける。
【0044】
したがって、左クランクシャフト40Lのジャーナル部40aより左方軸部に、ガイドプレート63,カラー部材64,固定駆動プーリ半体71,冷却ファン65,ワッシャ66が順次嵌挿されて、ジャーナル部40aとの間にナット67により挟まれて緊締され、左クランクシャフト40Lに固定駆動プーリ半体71が冷却ファン65とともに一体に取り付けられ、左クランクシャフト40Lと一体となって回転するようになっている。
【0045】
そして、円筒状のカラー部材64の外周にはスプライン溝が形成されていて、相対回転を規制されて軸方向の移動を可能に摺動支持スリーブ68がスプライン嵌合しており、この摺動支持スリーブ68の外周に可動駆動プーリ半体72の円筒部72sが一体に嵌着されている。
したがって、可動駆動プーリ半体72は、左クランクシャフト40Lと一体に回転するカラー部材64の外周に摺動支持スリーブ68を介して軸方向の移動を可能に軸支される。
【0046】
可動駆動プーリ半体72の円筒部72sが嵌着される摺動支持スリーブ68は、円筒部72sが嵌着される部分より左方に延出する部分を有し、この延出部にインナレース69iが嵌着されてボールベアリング69が設けられている。
【0047】
固定駆動プーリ半体71の円筒部71sの内周面と円筒状のカラー部材64の外周面との間には、右方に開口する環状凹部71hが形成されており、この円筒部71sの内側の環状凹部71hには、円錐コイルばね73が挿入される。
【0048】
円錐コイルばね73は、大径の左端が円筒部71sの左端の内側に延出した底壁部71bの内面に接し、小径の右端が摺動支持スリーブ68に嵌着されるボールベアリング69のインナレース69iに添接されたリテーナ74に接し、左右両側から挟まれて摺動支持スリーブ68と一体の可動駆動プーリ半体72を固定駆動プーリ半体71に対して離反する方向に付勢する。
【0049】
固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72が、互いに対向する対向テーパ面71f,72fにより挟む無端状のVベルト75は、断面が等脚台形をなし、容易に湾曲するように内周面が波状に凹凸が周方向に形成されており、その凸部75pにおけるVベルト75の断面の台形の高さ(厚さ)が大きい(図3図5参照)。
【0050】
図4および図5を参照して、Vベルト式無段変速機60の左側を覆う伝動ケースカバー61は、冷却ファン65の左側部分に冷却風導入口61hが大きく開口して設けられている。
クランクシャフト40と一体に回転する冷却ファン65は、その複数の羽根65pの回転により、外気が冷却風導入口61hより変速室60Cに導入され、導入された外気の一部は後方に向かってVベルト式無段変速機60を冷却し、一部は前方に向かってシュラウド37の送風ダクト部37bの開口37bhから入り、送風ダクト部37bに案内されてシリンダブロック32およびシリンダヘッド33に至り、シリンダブロック32およびシリンダヘッド33を冷却する。
【0051】
機関回転数が小さいときは、遠心ウエイト62の遠心力により可動駆動プーリ半体72を左方へ移動する力が小さく、円錐コイルばね73による可動駆動プーリ半体72を右方に付勢する力が勝り、可動駆動プーリ半体72は固定駆動プーリ半体71から大きく離れており、図5に示されるように、固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72はVベルト75を挟んでおらず、Vベルト75は内周の凸部75pがベアリング69のアウタレースに接してベアリング69のアウタレースの上に支持されている。
【0052】
したがって、ベアリング69のアウタレースに支持されたVベルト75は、クランクシャフト40の回転が伝達されず、かつクランクシャフト40とともに回転する固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72に挟まれず連れ回りすることはないので、機関回転数が小さいときは、駆動プーリ70が回転してもVベルト75は周回しない(図5参照)。
【0053】
機関回転数が上昇すると、遠心ウエイト62の遠心力により可動駆動プーリ半体72を左方へ移動する力が大きくなり、円錐コイルばね73による可動駆動プーリ半体72を右方に付勢する力より勝り、可動駆動プーリ半体72を左方に移動して固定駆動プーリ半体71に近づけることにより、回転する固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72との間にVベルト75が挟まれ、Vベルト75を連れ回り周回させることができ、動力を後方の被動プーリ80に伝達することができる。
【0054】
機関回転数が大きく上昇すると、遠心ウエイト62の遠心力が大きくなり、図7に示されるように、可動駆動プーリ半体72をさらに固定駆動プーリ半体71に近づけることになり、よって固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72との間に巻き掛けられるVベルト75の巻掛け径が大きくなり、これに伴って後方の被動プーリ80のVベルト75の巻掛け径は小さくなり、変速比が自動的に変更され無段変速される。
【0055】
一方で、駆動プーリ70の後方において減速ギヤ機構120の入力軸である被動軸110に回転自在に軸支される被動プーリ80は、軸方向に摺動可能な第1被動プーリ半体81とこれと右側で対向する第2被動プーリ半体82とからなる。
【0056】
図4を参照して、被動軸110は、伝動ケース(左クランクケース)31Lの後部において、ベアリング111を介して軸支されるとともにシール部材112によりシールされるジャーナル部110aの右側に延出した右延出軸部110dが減速ギヤ室120C内に挿入され、その端部が減速ギヤカバー121にベアリング113により軸支されている。
【0057】
減速ギヤ室120C内の減速ギヤ機構120は、被動軸110と後車軸125との間に減速中間軸122が、互いに平行(左右水平方向)に指向して伝動ケース31Lと減速ギヤカバー121にベアリングを介して架設軸支されている。
減速中間軸122に嵌着された中間大径ギヤ123が被動軸110に形成された小径ギヤ111gと噛合している。
【0058】
後車軸125は、伝動ケース31Lと減速ギヤカバー121にベアリングを介して軸支されて右方に突出しており、減速ギヤ室120C内の後車軸125に嵌着された後車軸大径ギヤ124が、減速中間軸122に形成された小径ギヤ112gと噛合している。
【0059】
後車軸125の減速ギヤカバー121より右方に突出した部分に後輪21が嵌着される。
したがって、被動軸110の回転は、減速ギヤ機構120の小径ギヤ111gと中間大径ギヤ123の噛合および小径ギヤ122gと後車軸大径ギヤ124の噛合を介して減速されて後車軸125に伝達されて後輪21が回転される。
【0060】
図6を参照して、被動軸110のジャーナル部110aの左側は、段差を介して縮径されてスプライン軸部110bが変速室60C内に延出しており、スプライン軸部110bの左端は雄ねじ部110cが形成されている。
【0061】
被動軸110のスプライン軸部110bには、内周基部108bから放射状に被押圧片108pが3片延びる第2被押圧部材108,ボールベアリング107,円筒状の軸方向に長尺のカラー部材106,内周基部105bから放射状に被押圧片105pが3片延びる第1被押圧部材105(図2図3参照)が順次スプライン嵌合され、スプライン軸部110bの端部の雄ねじ部110cにナット109が螺合して締め付けられ、被動軸110に第1被押圧部材105,カラー部材106, ボールベアリング107,第2被押圧部材108を一体に取り付ける。
【0062】
なお、第1被押圧部材105の3片の被押圧片105pの先端部には、それぞれ摩擦部材であるクラッチシュー105Sが右方に突出して取り付けられている。
同様に、第2被押圧部材108の3片の被押圧片108pの先端部にも、それぞれ摩擦部材であるクラッチシュー108Sが左方に突出して取り付けられている。
第1被押圧部材105と第2被押圧部材108は、面対称の同じ形状をしている。
【0063】
円筒状の長尺のカラー部材106の外周にニードルベアリング103とボールベアリング104を介して相対回転自在に仲介スリーブ102が外嵌される。
仲介スリーブ102は、右側の大径円筒部102aがニードルベアリング103とボールベアリング104のアウタレースに嵌合し、左側の小径円筒部102bがカラー部材106の外周を左端部を残して覆っている。
【0064】
第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82は、それぞれ互いに対向してVベルト75を挟む対向テーパ面81f,82fを形成する第1円錐部81cと第2円錐部82cを有する。
第1被動プーリ半体81は、第1円錐部81cの内周部が屈曲して右方に延出する第1内周円筒部81sと第1円錐部81cの外周部が左方に屈曲した第1外周屈曲部81eとが形成されている。
第2被動プーリ半体82は、第2円錐部82cの内周部が屈曲して右方に延出する第2内周円筒部82sと第2円錐部82cの外周部が右方に屈曲した第2外周屈曲部82eとが形成されている。
【0065】
前記仲介スリーブ102の大径円筒部102aに摺動を許して嵌合された第2支持スリーブ84が、仲介スリーブ102の全体を覆い、かつ左方に延長して設けられている。
仲介スリーブ102と第2支持スリーブ84との間には、仲介スリーブ102の右端部と左端部近傍にそれぞれシール部材97a,97bが介装されている。
【0066】
第2被動プーリ半体82は、第2内周円筒部82sの端部が第2支持スリーブ84の第2支持円筒部84sの右端に形成された第2支持フランジ部84fに嵌着されている。
したがって、第2被動プーリ半体82は、第2支持スリーブ84に支持されて、仲介スリーブ102に摺動を許して軸支される。
【0067】
第2被動プーリ半体82の第2内周円筒部82sの内周面と第2支持スリーブ84の第2支持円筒部84sの外周面と第2支持フランジ部84fとによって構成される円環状の第2環状凹部82Qが、第1被動プーリ半体81側(左側)に開口して形成されている。
【0068】
仲介スリーブ102の小径円筒部102bに対応する第2支持スリーブ84の第2支持円筒部84sの所定箇所にガイドピン85pが径方向に突出して固着されている。
ガイドピン85pの径方向外方に突出した部分にはローラ85rが回転自在に軸支されている。
【0069】
第2支持スリーブ84の第2支持円筒部84sの外周面に、第1支持スリーブ83が相対回転および軸方向の摺動を可能に外嵌されている。
第2支持スリーブ84の第2支持円筒部84sと第1支持スリーブ83との間には、第1支持スリーブ83の右端部と左端部近傍にそれぞれシール部材98a,98bが介装されている。
【0070】
第1被動プーリ半体81は、第1内周円筒部81sの端部が第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sの端部に形成された第1支持フランジ部83fに嵌着されて、第1支持スリーブ83と一体に第2支持スリーブ84の第2支持円筒部84sに周方向にも軸方向にも摺動自在に軸支される。
【0071】
そして、第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sには螺旋状にカム孔85hが形成されており、第2支持スリーブ84の第2支持円筒部84sに突設されたガイドピン85pがこの螺旋状に形成されたカム孔85hにローラ85rを介して摺動可能に嵌合してトルクカム機構85が構成されている。
【0072】
回転抵抗の異なる第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82は、加速時などVベルト75との滑りに違いを生じることにより相対回転を生じる。
トルクカム機構85は、ガイドピン85pのカム孔85hへの摺動可能な嵌合により、この第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82の相対回転を互いに近づける軸方向の移動に変えて、Vベルト75を挟みつけるようにし、Vベルト75の周回する動力をできるだけ滑りを生じさせずに被動プーリ80に確実に伝達するようにしている。
【0073】
第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sの外周面には、遮蔽スリーブ86が嵌合し、第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sに形成された螺旋状のカム孔85hが遮蔽スリーブ86により遮蔽される。
【0074】
第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sの端部の第1支持フランジ部83fは、遮蔽スリーブ86の厚み程度第1支持円筒部83sより拡径しており、遮蔽スリーブ86の右端部は、第1支持スリーブ83の第1支持フランジ部83fに当接するまで第1被動プーリ半体81の第1内周円筒部81sと第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sとの間の環状の間隙に嵌入される。
【0075】
遮蔽スリーブ86の左端は、第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sの左端部の外周面に形成された外周溝に嵌め込まれた止め輪88により規制された円環状カラー部材87に当接して位置決めされ、遮蔽スリーブ86は、第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sに外嵌されて第1被動プーリ半体81と一体に取り付けられる。
【0076】
第1被動プーリ半体81の第1内周円筒部81s内に嵌入される遮蔽スリーブ86の右端部の外周面には、周方向に外周溝86vが形成され、同外周溝86vにシールリング89aが嵌合される。
また、第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sにおけるカム孔85hより左側に外周溝85vが形成され、同外周溝85vにシールリング89bが嵌合される。
【0077】
遮蔽スリーブ86により遮蔽される第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sのカム孔85hには、ガイドピン85pが容易に摺動するように、潤滑剤であるグリースが溜められ、この溜められたグリースがカム孔85hから漏れないように、遮蔽スリーブ86の右端部の外周面に形成された外周溝86vに嵌合されたシールリング89aが第1被動プーリ半体81の第1内周円筒部81sの内周面に押圧されてシールし、遮蔽スリーブ86の左端部が第1被動プーリ半体81の第1内周円筒部81sに形成された外周溝85vに嵌合されたシールリング89bを押圧してシールし、第1支持円筒部83sのカム孔85hに溜められたグリースがカム孔85hから左右に漏れるのを防止することができる。
【0078】
なお、第1支持スリーブ83の第1支持円筒部83sに形成されるカム孔85hは、遮蔽スリーブ86の右端部の外周面に形成された外周溝86vが存在する軸方向位置まで形成されている(図8参照)。
【0079】
第1被動プーリ半体81の第1内周円筒部81sは、第2内周円筒部82の内径より小さい外径を有して軸方向で第2被動プーリ半体側(右側)に延出され、第1支持スリーブ83に嵌着する第1支持フランジ部83fとともに第1環状凸部81Pが形成されている。
第1環状凸部81Pは、第2被動プーリ半体82の第2内周円筒部82sの内側の第2環状凹部82Qに臨み、第2環状凹部82Qに挿入可能である(図6参照)。
【0080】
第2支持スリーブ84の第2支持円筒部84sの左端部の内側に、摺動支持スリーブ90が左端部を残してスプライン嵌合して摺動自在に取り付けられ、摺動支持スリーブ90の第2支持円筒部84sから露出した左端部の外周に第1押圧部材91が嵌着される。
第1押圧部材91は、摺動支持スリーブ90に嵌着されるハブ部91hから放射状に延出した5本のスポーク部91sが先端で円環状押圧部91pを一体に支持している(図3図6参照)。
【0081】
第1押圧部材91は、前記第1被押圧部材105の右側に対向して配設され、第1押圧部材91の円環状押圧部91pの外径は、第1被押圧部材105の内周基部105bから放射状に延出する3片の被押圧片105pの外径に略等しい。
【0082】
そして、第1押圧部材91を支持する摺動支持スリーブ90が第2支持スリーブ84の第2支持円筒部84sの内側にスプライン嵌合しているので、第1押圧部材91は軸方向に摺動して第1被押圧部材105に接近したり離反したりすることが可能である。
【0083】
第1押圧部材91が左方に摺動して第1被押圧部材105に接近すると、第1押圧部材91の円環状押圧部91pが第1被押圧部材105の被押圧片105pの先端部に取り付けられたクラッチシュー105Sに押圧されて、第1押圧部材91の回転が第1被押圧部材105に伝達され、第1押圧部材91が右方に摺動して第1押圧部材91が第1被押圧部材105から離れると、円環状押圧部91pがクラッチシュー105Sを押圧する力を失って、第1押圧部材91の回転が第1被押圧部材105に伝達されない。
以上のように、第1押圧部材91と第1被押圧部材105との間に、第1乾式クラッチ機構C1が構成されている。
【0084】
他方、被動プーリ80の第2被動プーリ半体82側では、第2被動プーリ半体82の第2外周屈曲部82eの端面には環状円板状の第2押圧部材92が外周部で固着されて設けられている。
被動軸110のジャーナル部110aに接して被動軸110に固定される第2被押圧部材108は、第2被動プーリ半体82の右側に対向して位置し、3片の被押圧片108pの外径は、第2被動プーリ半体82の外径に略等しい。
第2被押圧部材108の3片の被押圧片108pの先端部に取り付けられたクラッチシュー108Sは、第2被動プーリ半体82に固着された第2押圧部材92に対向している。
【0085】
第2被動プーリ半体82が右方に摺動して第2被押圧部材108に接近すると、第2押圧部材92が第2被押圧部材108の被押圧片108pの先端部に取り付けられたクラッチシュー108Sに押圧されて、第2押圧部材92の回転が第2被押圧部材108に伝達され、第2押圧部材92が左方に摺動して第2押圧部材92が第2被押圧部材108から離れると、第2押圧部材92がクラッチシュー108Sを押圧する力が失われ、第2押圧部材92の回転が第2被押圧部材108に伝達されない。
以上のように、第2押圧部材92と第2被押圧部材108との間に、第2乾式クラッチ機構C2が構成されている。
【0086】
第1乾式クラッチ機構C1を構成する第1押圧部材91の5本のスポーク部91sには、径方向途中の所定半径箇所に右方に屈曲した屈曲部91ssが環状に形成されて、この環状に形成された5つの屈曲部91ssに、把持されてリテーナ94が保持されている。
リテーナ94は、5本のスポーク部91sの屈曲部91ssに把持される左端の大径のスプリング受け部94cから右方に径を徐々に小さくして円錐部94aが形成され、同円錐部94aの小径の右端は内側に若干延出して円開口を有する縮径環状部94bが形成されている。
【0087】
リテーナ94の右端の縮径環状部94bは、その円開口を第1被動プーリ半体81と一体の遮蔽スリーブ86が貫通可能で、遮蔽スリーブ86の左端の円環状カラー部材87は縮径環状部94bより左側に常にある。
このリテーナ94の左端のスプリング受け部94cと第1被動プーリ半体81の第1円錐部81cの内周縁の第1内周円筒部81sとの間に円錐コイルばね95が介装される。
【0088】
円錐コイルばね95の大径の左端がリテーナ94のスプリング受け部94cに当接され、小径の右端が第1被動プーリ半体81の第1内周円筒部81sの遮蔽スリーブ86との接合部に当接される。
したがって、円錐コイルばね95は、リテーナ94を介して第1押圧部材91と第1被動プーリ半体81とを離反する方向に付勢する。
【0089】
なお、円錐コイルばね95が第1押圧部材91を第2被動プーリ半体82と反対の左方に付勢することは、第1押圧部材91を第1乾式クラッチ機構C1の第1被押圧部材105に近づけることになり、円錐コイルばね95が第2被動プーリ半体82を第1被動プーリ半体81と反対の右方に付勢することは、Vベルト75介して第2被動プーリ半体82および第2押圧部材92を右方に付勢して第2乾式クラッチ機構C2の第2被押圧部材108に近づけることになる。
【0090】
機関回転数が小さく、第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82との間に巻き掛けられるVベルト75の巻掛け径が最も大きいときは、第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82が互いに近づいて、第1被動プーリ半体81側の第1環状凸部81Pが第2被動プーリ半体82側の第2環状凹部82Qに挿入されており、円錐コイルばね95のばね力は殆ど働いておらず、第1乾式クラッチ機構C1と第2乾式クラッチ機構C2は、ともに接続解除状態にある(図6参照)。
【0091】
機関回転数が上昇して、第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82との間のVベルト75の巻掛け径が小さくなり、第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82が互いに離れると、Vベルト75および円錐コイルばね95を介して第1押圧部材91と第2押圧部材92を互いに離れる方向に移動するので、第1押圧部材91は第1被押圧部材105に近づき、第1押圧部材91の円環状押圧部91pが第1被押圧部材105のクラッチシュー105Sに接し、同時に第2押圧部材92は第2被押圧部材108に近づき、第2押圧部材92が第2被押圧部材108のクラッチシュー108Sに接する状態となり、さらには円錐コイルばね95が圧縮されてばね力が働くようになると、第1押圧部材91が第1被押圧部材105のクラッチシュー105Sを押圧して第1乾式クラッチ機構C1を接続し、同時に第2押圧部材92が第2被押圧部材108のクラッチシュー108Sを押圧して第2乾式クラッチ機構C2を接続する(図8参照)。
【0092】
第1乾式クラッチ機構C1と第2乾式クラッチ機構C2の接続により、Vベルト75の周回による被動プーリ80の回転が被動軸110に伝達され、被動軸110の回転は減速ギヤ機構120を介して後車軸125に伝達されて後輪21が回転されて自動二輪車1は走行する。
【0093】
以上のようなVベルト式無段変速機60において、機関回転数に応じた前方の駆動プーリ70の動きとVベルト75を介した後方の被動プーリ80の動きを、関連させて図5ないし図8に基づいて簡潔に説明する。
図5および図6は、機関回転数が小さいときのVベルト式無段変速機60の駆動プーリ70の状態と被動プーリ80の状態をそれぞれ示している。
【0094】
アイドル運転中など機関回転数が小さいときは、駆動プーリ70側では、図5に示されるように、遠心ウエイト62の遠心力より勝る円錐コイルばね73のばね力により可動駆動プーリ半体72を固定駆動プーリ半体71から大きく離し、Vベルト75は、回転する固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72に挟まれずにベアリング69のアウタレースに支持され、駆動プーリ70が回転してもVベルト75は周回しない。
【0095】
この駆動プーリ70側の状態で、Vベルト75はベアリング69に巻き掛けられて巻掛け径は最も小さく、よって被動プーリ80側では、図6に示されるように、第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82との間に巻き掛けられるVベルト75の巻掛け径は最も大きく、かつVベルト75は周回しておらず、円錐コイルばね95のばね力が殆ど働くことがなく、第1乾式クラッチ機構C1と第2乾式クラッチ機構C2は、ともに接続解除状態にある。
【0096】
したがって、アイドル運転中など機関回転数が小さいときは、内燃機関30の動力がクランクシャフト40までしか伝達されず、Vベルト75の周回運動や被動プーリ80の回転を伴わないので、アイドル運転中の負荷を軽減して燃費の向上を図ることができる。
【0097】
図7および図8は、機関回転が大きいときのVベルト式無段変速機60の駆動プーリ70の状態と被動プーリ80の状態をそれぞれ示している。
機関回転数が上昇すると、駆動プーリ70側では、図7に示されるように、円錐コイルばね73のばね力より勝る遠心ウエイト62の遠心力により、可動駆動プーリ半体72を左方に移動して固定駆動プーリ半体71に近づけ、回転する固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72との間にVベルト75が挟まれ、Vベルト75を周回させ、固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72との間に巻き掛けられるVベルト75の巻掛け径を大きくしながら、動力を後方の被動プーリ80に伝達することができる。
【0098】
駆動プーリ70へのVベルト75の巻掛け径を大きくしながら周回するVベルト75は、被動プーリ80側で、図8に示されるように、第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82との間に巻き掛けられる巻掛け径を小さくしていき、第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82が互いに離れる方向に移動し、この互いに離れる方向の第1被動プーリ半体81と第2被動プーリ半体82がVベルト75および円錐コイルばね95を介して第1押圧部材91と第2押圧部材92を、それぞれ第1被押圧部材105と第2被押圧部材108に近づけ、円錐コイルばね95のばね力が働き、第1押圧部材91と第2押圧部材92が第1被押圧部材105のクラッチシュー105Sと第2被押圧部材108のクラッチシュー108Sを押圧して、第1乾式クラッチ機構C1と第2乾式クラッチ機構C2が同時に接続し、Vベルト75の周回による被動プーリ80の回転が接続された第1乾式クラッチ機構C1と第2乾式クラッチ機構C2を介して被動軸110に伝達され、減速ギヤ機構120を介して後輪21に伝達される。
【0099】
以上、詳細に説明した本発明に係るVベルト式無段変速機の一実施の形態では、以下に記す効果を奏する。
図5に示されるように、駆動プーリ70において、固定駆動プーリ半体71に対して可動駆動プーリ半体72を離反する方向に付勢する円錐コイルばね73が設けられ、機関回転数が小さいときは、遠心ウエイト62の遠心力より勝る円錐コイルばね73のばね力により可動駆動プーリ半体72を固定駆動プーリ半体71から大きく離し、Vベルト75は、回転する固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72に挟まれずにベアリング69のアウタレース69oに支持されるようにしているので、駆動プーリ70が回転してもVベルト75は周回しない。
【0100】
したがって、アイドル運転中など機関回転数が小さいときは、Vベルト75は、クランクシャフト40とともに回転する固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72に挟まれずに連れ回りすることなく周回しないので、内燃機関30の動力がクランクシャフト40までしか伝達されず、Vベルト75の周回運動や被動プーリ80の回転を伴わないようにすることができ、アイドル運転中の負荷を軽減して燃費の向上を図ることができる。
【0101】
図5に示されるように、可動駆動プーリ半体72は、クランクシャフト40に相対回転を規制されて軸方向に摺動可能に軸支された摺動支持スリーブ68に嵌着され、摺動支持スリーブ68の可動駆動プーリ半体72より軸方向で固定駆動プーリ半体71側に延出した延出部の外周にベアリング69が嵌着され、機関回転数が小さいときに、ベアリング69が固定駆動プーリ半体71と可動駆動プーリ半体72との間に位置するので、機関回転数が小さいとき、Vベルト75がクランクシャフト40と一体に回転する摺動支持スリーブ68に嵌着されるベアリング69のアウタレース69oに支持され、回転する摺動支持スリーブ68とVベルト75との間のフリクションを抑えることができ、燃費を益々向上させることができる。
【0102】
図5に示されるように、円錐コイルばね73が、固定駆動プーリ半体71の円筒部71s内に挿入されて底壁部71bと可動駆動プーリ半体72との間に介装されるので、円錐コイルばね73が固定駆動プーリ半体71の対向テーパ面71fを形成する円錐部71cと軸方向で重なる円筒部71s内にコンパクトに配設され、駆動プーリ70の軸方向幅を小さく抑えることができ、パワーユニット20の小型化を図ることができる。
【0103】
図5および図7に示されるように、円錐コイルばね73は、同径螺旋状をなす通常のコイルばねに比べてばねの圧縮時に軸方向で重なることにより伸縮ストロークを大きくすることができ、また、駆動プーリ70の軸方向幅を小さく抑えることができる。
【0104】
図5に示されるように、円錐コイルばね73は、固定駆動プーリ半体71の底壁部71bとベアリング69のインナレース69iとに挟まれてクランクシャフト40とともに回転するので、機関回転数が小さいときに固定駆動プーリ半体71の回転がベアリング69のアウタレース69oに支持されるVベルト75に伝達するのを確実に防止することができる。
【0105】
図7に示されるように、機関回転数が大きくなると、可動駆動プーリ半体72の固定駆動プーリ半体71に近づく方向の移動により、ベアリング69は固定駆動プーリ半体71の円筒部71sの内側に収容されるので、可動駆動プーリ半体72の移動距離を確保しながら駆動プーリ70の軸方向幅を極力小さく抑えることができ、パワーユニット20の更なる小型化を図ることができる。
【0106】
以上、本発明に係る一実施の形態に係るVベルト式無段変速機について説明したが、本発明の態様は、上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲で、多様な態様で実施されるものを含むものである。
【0107】
例えば、本発明の車両は、実施形態の鞍乗型の自動二輪車1に限らず、スクータ型および3輪、4輪のバギー車等、多様な鞍乗型車両であってよく、請求項1の要件を備える車両であればよい。
【符号の説明】
【0108】
1…自動二輪車、20…パワーユニット、30…内燃機関、40…クランクシャフト、
60…Vベルト式無段変速機、62…遠心ウエイト、63…ガイドプレート、64…カラー部材、68…摺動支持スリーブ、69…ボールベアリング、
70…駆動プーリ、71…固定駆動プーリ半体、71c…円錐部、71s…円筒部、71b…底壁部、72…可動駆動プーリ半体、72c…円錐部、72s…円筒部、73…円錐コイルばね、74…リテーナ、75…Vベルト、
80…被動プーリ、81…第1被動プーリ半体、82…第2被動プーリ半体、83…第1支持スリーブ、84…第2支持スリーブ、85…トルクカム機構、C1…第1乾式クラッチ機構、C2…第2乾式クラッチ機構、
110…被動軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8