特許第6033974号(P6033974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6033974二液型コーティング剤及び被覆体保護方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6033974
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】二液型コーティング剤及び被覆体保護方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20161121BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20161121BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20161121BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20161121BHJP
   B05D 7/12 20060101ALI20161121BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20161121BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C09D133/00
   C09D183/04
   C09D127/12
   C09D7/12
   B05D7/12
   B05D7/24 301U
   B05D1/36 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-7116(P2016-7116)
(22)【出願日】2016年1月18日
【審査請求日】2016年4月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516017765
【氏名又は名称】株式会社SSKプロテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博司
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−203921(JP,A)
【文献】 特開2000−038537(JP,A)
【文献】 特表2009−520087(JP,A)
【文献】 特開平04−353447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
B05D 1/36
B05D 7/12
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも主剤と硬化剤とからなる二液型コーティング剤において、
主剤は、フッ素樹脂を含有し、主剤全質量に対する質量%で、アクリル:3〜20%、シリコン:3〜20%、上記フッ素樹脂が含有された水:40%〜90%、鉱油:3〜50%を含有し、
硬化剤は、カルボジイミド化合物からなる架橋成分を含有し、
上記主剤と上記硬化剤の混合後におけるフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量:1〜4であること
を特徴とする二液型コーティング剤。
【請求項2】
上記硬化剤の質量/上記主剤の質量:0.1〜0.07であること
を特徴とする請求項1記載の二液型コーティング剤。
【請求項3】
革体又は布体からなる被覆体に対して被膜を形成することにより汚れの付着を防止するために用いられること
を特徴とする請求項1又は2記載の二液型コーティング剤。
【請求項4】
上記カルボジイミド化合物は、多価カルボジイミドであること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載の二液型コーティング剤。
【請求項5】
請求項1〜4のうち何れか1項に記載の二液型コーティング剤により被覆体に対して被膜を形成させることによりこれを保護する被覆体保護方法において、
被覆体の表面に上記主剤を塗布する主剤塗布工程と、
上記主剤塗布工程において塗布された主剤の表面に上記硬化剤を塗布する硬化剤塗布工程とを有し、
上記硬化剤塗布工程により塗布された上記硬化剤による硬化後の被膜を介して、汚れの付着を防止すること
を特徴とする被覆体保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐汚染性、耐摩擦性、耐水性、質感等に優れた被膜を被覆体表面に形成させる上で好適な二液型コーティング剤及びこれを用いた被覆体保護方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の座席等には布シート又はレザー(革)シートが用いられている。このうち、レザーシートについては、その表面について汚染や磨耗を防止し、質感等を向上させる観点で各種仕上げ方法が研究されている。
【0003】
レザー表面の最もオーソドックスな仕上げ方法は、素仕上げである。この素仕上げでは、着色剤や仕上げ剤を使用することなく、場合によっては若干の染料のみを使用し、ロール掛けやバフ掛けのみによってレザー自体の色艶を全面的に活かすものである。特に染色も全く行わない、いわゆるヌメ革で仕上げていく場合もある。この素仕上げによれば、革そのものの風合いが浮き出てくるものであり、手触り感や見た目の美しさには優れるものであるが、素材の良し悪しが如実に現れてしまう欠点もある。また耐水性に劣り、塗装をしていない分において汚れがつきやすく、しかもそれが目立ってしまう欠点もある。このためこの素仕上げにおいては手入れに細心の注意が必要となる。
【0004】
図3(a)は、素仕上げを行ったレザーの経時変化を模式的に示している。レザー71の表面に何ら着色剤や仕上げ材を塗布しない、この素仕上げにおいては、通気が確保されることは勿論であるが、経年に応じて水分、油分が外部に浸出しやすくなっており蒸発し易い。また時間の経過に応じてレザー71の表面に汚れ72が徐々に付着し、更にこの汚れ72が時間の経過に応じてレザー71の奥深くに浸入し始める。そして、最終的にこの汚れ72に基づいてレザー71自身がひび割れてしまう。
【0005】
図4(a)は、この素仕上げにおけるレザー71の時間の変化に対する状態の変化状況を示している。このような素仕上げにおいては外部から何らコーティングが施されていないため、上述したひび割れ、シワの発生、汚れ72の付着、乾燥及び硬化、擦れ等が時間の経過に応じて着実に進むこととなる。
【0006】
またレザー表面の仕上げ方法としては、他に染料仕上げ(アニリン仕上げ)もよく用いられる。この染料仕上げは、革の銀面(革の表面)の表情を生かすように薄い被膜によって染め上げるものである。このため染料仕上げは、肌触り感や見た目で自然の風合いを醸し出すことができ、特に高級鞄等に使用される場合が多い。しかしながら、この染料仕上げは、耐水性に劣り色落ちしやすく、経年により色や艶が変化しやすいという欠点がある。
【0007】
更にレザー表面の仕上げ方法としては、顔料仕上げが特に自動車のレザーシートにおいて頻繁に使用されている(例えば、特許文献1参照。)。この顔料仕上げは、革の表面を顔料でコーティングして仕上げる方法であり、鮮やかな色を出しやすく、耐久性に優れ、色落ちしにくいという利点がある。一方、この顔料仕上げは自然な肌触り感が得られるとはいい難く、革固有の自然な表情が見えにくいという欠点がある。
【0008】
図3(b)は、これら染料又は顔料による一般的な保護膜73をレザー71の表面に塗布した場合におけるレザーの経時変化を模式的に示している。レザー71の表面に保護膜73を塗布する場合においても同様に通気が確保されることは勿論であり、水分、油分が外部に浸出しにくく蒸発しにくくなっているが、通気性は劣る。またこの保護膜73を介してレザー71自身の乾燥及び硬化、擦れはある程度抑えることができる。しかし、時間の経過に応じて保護膜73の表面に汚れ72が徐々に蓄積し、保護膜73が徐々に角質化していくこととなる。更に時間の経過に応じて保護膜73がこの角質化に伴い、自然に剥離したり、あるいはクリーニングにより剥離してしまう。このため、この剥離してしまった保護膜73を更に補強する観点から新たな保護膜73を塗布する必要が出てくる。
【0009】
図4(b)は、この染料又は顔料による一般的な保護膜73を塗布した場合におけるレザー71の時間の変化に対する状態の変化状況を示している。上述した保護膜73の新たな塗布作業によるメンテナンスが数ヶ月〜数年おきに発生することになり、その分レザー71の表面劣化が進みやすくなることは否めない。
【0010】
図5は、この保護膜73を塗布した場合における表面の詳細なイメージを示している。汚れ72のみならず、皮脂75、埃76等がこの保護膜73の上に付着して照かりや、くすみの原因にもなる。特にこのレザー71が自動車の座席等に使用される場合には、この自動車の車内において静電気が発生しやすく、埃76が表面に吸着しやすくなる。更に雨天時には湿気を帯びた埃76が表面に浸透しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平1−170700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、汚れの付着を強固に防止すると共に、レザーや布等の被覆体の表面劣化を長期間にわたり防止することができ、耐水性、耐摩擦性、質感等に優れた被膜を被覆体表面に形成させることが可能な二液型コーティング剤及びこれを用いた被覆体保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、主剤と上記硬化剤の混合後におけるフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量を1〜4の範囲になるように調製することで、耐水性、耐摩擦性、質感等に優れた被膜を被覆体表面に形成させることができることを新たに見出した。
【0014】
第1発明に係る二液型コーティング剤は、少なくとも主剤と硬化剤とからなる二液型コーティング剤において、主剤は、フッ素樹脂を含有し、主剤全質量に対する質量%で、アクリル:3〜20%、シリコン:3〜20%、上記フッ素樹脂が含有された水:40%〜90%、鉱油:3〜50%を含有し、硬化剤は、カルボジイミド化合物からなる架橋成分を含有し、上記主剤と上記硬化剤の混合後におけるフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量:1〜4であることを特徴とする。
【0015】
第2発明に係る二液型コーティング剤は、第1発明において、上記硬化剤の質量/上記主剤の質量:0.1〜0.07であることを特徴とする。
【0016】
第3発明に係る二液型コーティング剤は、第1発明又は第2発明において、革体又は布体からなる被覆体に対して被膜を形成することにより汚れの付着を防止するために用いられることを特徴とする。
【0018】
第4発明に係る二液型コーティング剤は、第1発明〜第3発明の何れかにおいて、上記カルボジイミド化合物は、多価カルボジイミドであることを特徴とする。
【0019】
第5発明に係る被覆体保護方法は、第1発明〜第4発明の何れかの二液型コーティング剤により被覆体に対して被膜を形成させることによりこれを保護する被覆体保護方法において、被覆体の表面に上記主剤を塗布する主剤塗布工程と、上記主剤塗布工程において塗布された主剤の表面に上記硬化剤を塗布する硬化剤塗布工程とを有し、上記硬化剤塗布工程により塗布された上記硬化剤による硬化後の被膜を介して、汚れの付着を防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上述した構成からなる本発明によれば、被覆体上に形成させたフッ素被膜を通じて、汚れの付着を強固に防止することができ、被覆体の表面劣化を長期間にわたり防止することができる。また、耐水性、耐摩擦性、質感等に優れたフッ素被膜を被覆体表面に形成させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明を適用した二液型コーティング剤により、被覆体の表面にフッ素被膜を形成させた例を示す図である。
図2】発明を適用した二液型コーティング剤により、被覆体上に実際にフッ素被膜を形成させた場合における状態の経時変化状況を示す図である。
図3】(a)は、素仕上げを行ったレザーの経時変化を模式的に示す図であり、(b)は、染料又は顔料による一般的な保護膜を塗布した場合におけるレザーの経時変化を模式的に示す図である。
図4】(a)は、素仕上げにおけるレザーの時間の変化に対する状態の変化状況を示す図であり、(b)は、染料又は顔料による保護膜を塗布した場合におけるレザー71の時間の変化に対する状態の変化状況を示す図である。
図5】従来の保護膜を塗布した場合における表面の詳細なイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した二液型コーティング剤について図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0023】
本発明を適用した二液型コーティング剤は、少なくとも主剤と硬化剤により構成される。
【0024】
主剤は、実際に硬化させることで所期の防汚性、耐摩擦性、耐水性等を発揮させる材料である。主剤は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン、フッ素含有水、鉱油、ポリシラザン等から構成される。
【0025】
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの重合体であり、透明性の高い非晶質の合成樹脂である。このアクリル樹脂は、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)等に代表され、重合度が10000〜15000程度で構成されている。このようなアクリル樹脂は、特に密着性を向上させることで、耐摩擦性を向上させる役割を担う。
【0026】
このアクリル樹脂の含有量は、主剤全質量に対し、3〜20質量%の割合で添加されている。このアクリル樹脂の含有量が3質量%未満では、上述したアクリル樹脂特有の耐摩擦性向上の効果を奏することができない。一方、このアクリル樹脂の含有量が20質量%を超えてしまうと、特にそれ以上添加しても上述した効果も飽和してしまい、材料コストが逆に高くなってしまう。このため、アクリル樹脂の含有量は、主剤全質量に対し、3〜20質量%としている。
【0027】
ウレタン樹脂は、例えばポリウレタン等に代表され、イソシアネート基と水酸基を有する化合物の縮合により生成される。このウレタン樹脂は、ウレタン結合を有する重合体であればいかなるものであってもよい。このようなウレタン樹脂は、特に密着性を向上させることで、耐摩擦性を向上させる役割を担う。
【0028】
このウレタン樹脂の含有量は、主剤全質量に対し、10質量%以下の割合で添加されている。このウレタン樹脂の含有量が10質量%を超えてしまうと、特にそれ以上添加しても上述した効果も飽和してしまい、材料コストが逆に高くなってしまう。このため、ウレタン樹脂の含有量は、主剤全質量に対し、10質量%以下としている。ちなみに、このウレタン樹脂は、主剤中に含有されていなくてもよい。
【0029】
シリコンは、人工高分子化合物の一種であり、シロキサン結合による主骨格を持つ化合物である。このシリコンは、特に耐汚染性、質感を向上させる役割を担う。
【0030】
このシリコンの含有量は、主剤全質量に対し、3〜20質量%の割合で添加されている。このシリコンの含有量が3質量%未満では、上述したシリコンの耐汚染性、質感の効果を奏することができない。一方、このシリコンの含有量が20質量%を超えてしまうと、特にそれ以上添加しても上述した効果も飽和してしまい、材料コストが逆に高くなってしまう。このため、シリコンの含有量は、主剤全質量に対し、3〜20質量%としている。
【0031】
フッ素含有水は、フッ素樹脂が含有された水である。フッ素樹脂は、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン〈四フッ化樹脂〉等に代表される。フッ素含有水は、このようなフッ素樹脂が水に対してある割合で溶解している。以下の実施例において、フッ素樹脂は、水の全質量に対する質量%で10%含有している場合を例にとり説明をするが、これに限定されるものではなく、いかなる割合で含有されていてもよい。
【0032】
このようなフッ素樹脂が溶解しているフッ素含有水についても、その主剤全質量に対する含有率については、特に限定されるものではなく、いかなる割合で含有されるものであってもよい。以下では、このフッ素含有水は、主剤全質量に対して40〜90質量%の割合で含有されている場合を例にとり説明をする。なお、このフッ素樹脂は、後述する後述する硬化剤に含有する架橋成分との間で架橋構造を形成して各種機能を発揮する。このため、このフッ素含有水の主剤に対する含有率、並びにフッ素含有水に対するフッ素樹脂の含有率は、後述する硬化剤に含有する架橋成分との関係で決められることとなる。
【0033】
鉱油は、例えば、石油(原油)、天然ガス、石炭等、鉱物質の油であり、地下資源由来の炭化水素化合物である。本発明においては、この鉱油として、例えば、植物油、動物油脂等が適用されるものであってもよい。この鉱油は、特に施工性を向上させる役割を担う。
【0034】
この鉱油の含有量は、主剤全質量に対し、3〜50質量%の割合で添加されている。この鉱油の含有量が3質量%未満では、上述した鉱油の施工性向上の効果を奏することができない。一方、この鉱油の含有量が50質量%を超えてしまうと、特にそれ以上添加しても上述した効果も飽和してしまい、材料コストが逆に高くなってしまう。このため、鉱油の含有量は、主剤全質量に対し、3〜50質量%としている。
【0035】
ポリシラザンも、コーティング剤として使用されるが、これが微量に亘り添加されていてもよい。ちなみにポリシラザンの含有は必須ではなく、特に含有されていなくてもよい。
【0036】
また主剤は、上述した成分以外に適宜必要に応じて他の成分が添加される場合もあることは勿論である。主剤は、例えば炭化水素系溶剤、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、増粘剤、防腐剤等が適宜添加されていてもよい。
【0037】
硬化剤は、架橋成分としてカルボジイミド化合物又はイソシアネートを含有する。架橋成分以外は水分で構成される。カルボジイミド化合物は、これに含まれるカルボン酸との間で、主剤中に含まれるフッ素含有水中のフッ素樹脂との間でフッ素被膜を形成させることを促進する。
【0038】
この硬化剤中の架橋成分は、硬化剤の全質量に対し、38〜42質量%の割合で含有している。この架橋成分が硬化剤の全質量に対し、38%未満であると、そもそも主剤と混合させた際においてフッ素樹脂と反応させるカルボン酸が少なくなってしまい、架橋構造を効果的に形成させることができず、フッ素被膜を被覆体表面に効果的に塗布させることができない。また、架橋成分が硬化剤の全質量に対し、42%超であると、特にそれ以上添加しても上述した効果も飽和してしまい、材料コストが逆に高くなってしまう。
【0039】
同様にイソシアネートについても、主剤中に含まれるフッ素含有水中のフッ素樹脂との間で被覆体にフッ素被膜を形成させることを促進する。
【0040】
この架橋成分における硬化剤全質量に対する含有量は、上述した範囲に限定されるものではない。この架橋成分の含有率は、具体的には、主剤に含まれるフッ素樹脂との関係で決められることとなる。
【0041】
実際に主剤と硬化剤の混合後におけるフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量は、1〜4となるように調整される。これにより、被覆体にフッ素被膜を好適に形成させることができ、耐汚染性の耐摩擦性、耐水性の向上、質感や施工性の向上を図ることが可能となる。
【0042】
一方、この主剤と硬化剤の混合後におけるフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量が1未満である場合、又は4を超えてしまう場合には、好適なフッ素被膜を形成させることができず、上述した所期の作用効果を奏することができない。このため、主剤と硬化剤の混合後におけるフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量は、1〜4とされる。
【0043】
主剤と硬化剤の混合後におけるフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量を上述した範囲に調整するためには、主剤と、硬化剤との混合比率、主剤中に含有させるフッ素含有水の含有比率、フッ素含有水中のフッ素樹脂の含有比率、硬化剤中の架橋成分の含有比率を調整することとなる。この調整の過程において、硬化剤と主剤との混合比率を調整する際において、硬化剤の質量/主剤の質量:0.1〜0.07とされていることが望ましいが、これに限定されるものではなく、いかなる比率で混合されるものであってもよい。特に硬化剤の質量/主剤の質量:0.1〜0.07とされていることにより、硬化剤と主剤との混合操作がしやすくなるという利点がある。
【0044】
次に本発明を適用した二液型コーティング剤の使用方法について説明をする。
【0045】
二液型コーティング剤は、主剤、硬化剤ともに別々の容器に封入された状態で流通、販売される。実際に二液型コーティング剤を購入した消費者は、主剤と、硬化剤とを混合する。この主剤と硬化剤の混合比率は、上述したフッ素樹脂と架橋成分との質量比率に基づいて予め調整される。主剤と硬化剤とを混合した際には、混合液を攪拌等することが望ましい。
【0046】
この混合後の混合液は、上述したようにフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量が1〜4となるように混合されている。
【0047】
消費者は、この混合液を、実際にコーティングを施そうとする被覆体としてのレザーや布等に対して塗布をする。その結果、架橋構造が被覆体の表面に形成される。その後、時間の経過に応じてフッ素樹脂と架橋成分との反応が更に進行し、その結果、図1に示すように被覆体1の表面には、上述した架橋構造からなるフッ素被膜2が形成される。このフッ素被膜2はフィルム状の薄膜であり、仮に被覆体1が折り曲げ可能な材料で構成されている場合において、これに塗布されたフッ素被膜2もこれに追従させることが可能となる。また被覆体1の表面につき、図1に示すように微細なピッチで凹凸や起伏が形成されて屈曲性に富む場合においても、このフッ素被膜2は、その凹凸に沿って堆積されることとなる。
【0048】
このフッ素被膜2を通じて被覆体1の通気性は確保することができることは勿論であるが、フッ素被膜2の表面に汚れが接触した場合、或いはそれが付着した場合においても、湿らせた布等で軽く拭くだけで汚れをほぼ完全に除去することが可能となる。ちなみに、このフッ素被膜2によれば油性ボールペンの汚れも付着しない程の高い耐汚染性を発揮させることが可能となる。また従来技術の如き皮脂や埃の付着も、このフッ素被膜2により効果的に防止することができる。その理由として、フッ素被膜2によれば、静電気が発生しにくい性質を発揮するためである。
【0049】
また、このフッ素被膜2によれば耐水性が発揮されることで水分を効果的にはじくことが可能となる。この耐水性については、このフッ素被膜2が付着されていない被覆体1と比較して、このフッ素被膜2が形成されている本発明によれば6倍程度の耐水性を発揮することが可能となる。
【0050】
また、フッ素被膜2によれば、摩擦がかかった場合にこれに耐えることができる耐摩擦性を向上させることができ、実際にこの被覆体1に対して塗布する施工性も優れ、メンテナンス作業も楽なものとなる。しかもこの被覆体1は、非常に薄い膜厚で構成することができるため、被覆体1上に形成された後のフッ素被膜2を触った場合のレザーの質感や風合いを損なうことも無い。
【0051】
図2は、本発明を適用した二液型コーティング剤により、被覆体1上に実際にフッ素被膜2を形成させた場合における、被覆体1の時間の変化に対する状態の変化状況を示している。時間の経過に対して、殆ど状態は悪化していかないことが示されている。乾燥及び硬化、擦れ、汚れの付着が大幅に抑えられ、付着した汚れも簡単なメンテナンス作業により落とせるため、3年以上にも亘り綺麗な状態を維持することが可能となる。即ち、一度被覆体1上に形成させたフッ素被膜2の発現する硬化をより長く持続させることができる。また図4(b)に示す顔料仕上げのように被膜の張替え等を始めとした大掛かりなメンテナンス作業も不要となり、被覆体1の表面の素地を痛めてしまうのを防止することができる。
【0052】
特にこの被覆体1が自動車のシートに用いられる場合には、その上に人が座ったり出たりするため激しく使用される場合が多いが、被覆体1としてのレザーの特性(通気性、保油、保湿)を生かしつつ、レザー表面の劣化を効果的に予防することが可能となる。
【実施例1】
【0053】
以下、本発明を適用した二液型コーティング剤の具体的な実施例について詳細に説明をする。
【0054】
先ず二液型コーティング剤を構成する主剤、硬化剤をそれぞれ組み合わせて、以下の表1に示す本発明例1〜9、比較例1〜6のサンプルを作成した。
【0055】
【表1】
【0056】
主剤は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン、フッ素含有水、鉱油のそれぞれの含有比率をそれぞれ調製することで作製した。このとき、フッ素含有水に含有するフッ素樹脂の割合は、フッ素含有水の全質量に対して10質量%としている。また硬化剤は、これに含有されるイソシアネート、カルボジイミド化合物の含有量をそれぞれ調製することで作製した。硬化剤中に含有するカルボイミド化合物等を始めとする架橋成分の比率は、38〜42%であるが、これについても表1に示すとおりである。
【0057】
次にそれぞれ調製した主剤、硬化剤について表1に示す、主剤の質量比率(%)と、硬化剤の質量比率(%)に基づいて混合した。次に、主剤、硬化剤を混合した上で、被覆体1へこれを塗布した。塗布した被覆体1は、白革としている。指触乾燥の時間は3〜5分としている。
【0058】
その後、後述する各種試験を行った。試験項目は、耐汚染性、耐水性、耐久性、施工性、質感の5項目としている。
【0059】
耐汚染性の試験については、汚れの付き易さを評価する。この耐汚染性については、サンプルを表面に塗布した被覆体1としての白革に、油性ボールペンで落書きをすることで汚れを意図的に付着させた。この油性ボールペンで落書きした被覆体1の表面をマイクロファイバーで水拭きをし、油性ボールペンによる汚れの除去度合を確認した。この汚れの除去度合を確認する上では、この油性ボールペンによる落書き領域の半分のみ水拭きし、残りの半分は残しておくことで、除去度合を視覚的に把握し易くした。実際にこの汚れの除去度合については、視覚的な外観観察を通じて行い、耐汚染性を1〜5のレンジの中で評価している。この耐汚染性の数値は高いほど汚れの除去度合が高いことを意味している。評価は2名の評価者がそれぞれ外観観察をすることで評価を行い、それぞれの評価値を平均して最終的な評価値とした。
【0060】
耐水性については、JIS K 6550に基づいて評価を行った。サンプルを表面に塗布した被覆体1としての黒革に、先ず弱アルカリ性の脱脂剤を含ませたスポンジで擦り、これをきれいに拭き取る。その後、その脱脂剤を拭き取った箇所に対して水をスプレーして撥水状態を確認する。スプレーした水がこの被覆体1上において浸み込んで親水状態になっている場合には、撥水していないため、耐水性が低いものと判断する。一方、スプレーした水がこの被覆体1上において内部に浸み込むことなく、独立した略半球状の水滴を形成している場合には、いわゆる撥水している状態であり、耐水性が高いものと判断する。実際にこのスプレーした水の撥水状態については、視覚的な外観観察を通じて行い、耐水性を1〜5のレンジ(小数第一位まで)の中で評価している。この耐水性の数値は高いほど撥水性が高いことを意味している。評価は2名の評価者がそれぞれ外観観察をすることで評価を行い、それぞれの評価値を平均して最終的な評価値とした。
【0061】
耐久性(耐摩擦性)は、コーティングされたフッ素被膜がどの程度持つかを示す指標であり、JIS K 6547 革の染色摩擦堅ろう度に基づいて評価を行った。この耐久性については、サンプルを表面に塗布した被覆体1としての白革に、油性ボールペンで落書きをすることで汚れを意図的に付着させた。この油性ボールペンで落書きした被覆体1の表面に木を当てて強めに11000回に亘り擦りつけを行った。この擦りつけ後、染色移行評価を行った。染色移行評価は、実際に油性ボールペンがこの擦りつけ作業を通じて擦りつけ往復をさせた方向に色がどの程度移行しているかを判断した。実際にこの染色移行評価については、視覚的な外観観察を通じて行い、耐久性を1〜5のレンジの中で評価している。この耐久性の数値は高いほど染色移行度合が低いことを意味している。評価は2名の評価者がそれぞれ外観観察をすることで評価を行い、それぞれの評価値を平均して最終的な評価値とした。
【0062】
また施工性は、実際の施工現場において、実際に二液型コーティング剤を構成する主剤、硬化剤を塗布することにより、フッ素被膜2を形成するための作業のし易さを測る指標である。この施工性については、上述した被覆体1上に、主剤、硬化剤を混合した混合液を適量付け、これを手塗りした。この手塗りによる施工を実際に行った評価者が施工性を1〜5のレンジの中で評価する。この数値は高いほど施工性が優れていることを意味している。評価は2名の評価者がそれぞれ実際に施工作業を行うことで評価を行い、それぞれの評価値を平均して最終的な評価値とした。
【0063】
質感は、実際に被覆体1上に形成されたフッ素被膜2について実際に触診した結果を示しており、いわゆる表面の触り心地の変化を示している。この質感の評価は、塗布されたフッ素被膜2を触診した評価者が1〜5のレンジの中で評価する。この数値が高いほど質感が優れていることを意味している。評価は2名の評価者がそれぞれ実際に触診を行うことで評価を行い、それぞれの評価値を平均して最終的な評価値とした。
【0064】
表1において、主剤、硬化剤のそれぞれの成分を示している。ちなみに主剤の欄においては、最下段においてフッ素樹脂の含有率を示している。このフッ素樹脂の含有率は、主剤の全質量に対する質量%で示している。フッ素含有水に含有しているフッ素樹脂は、水の全質量に対する質量%で10%含有しているため、フッ素含有水の質量%のさらに10%が、このフッ素樹脂の主剤の全質量に対する質量%となる。
【0065】
また主剤と硬化剤との混合比率は、主剤と硬化剤を混合する際の質量比率で定義している。また、各本発明例、各比較例について、フッ素樹脂の換算質量と、硬化剤の架橋成分であるイソシアネート又はカルボジイミド化合物の換算質量もこの表1に示している。ここでいうフッ素の換算質量は、(主剤の質量比)×(主剤全質量に対するフッ素樹脂の質量(%))である。硬化剤の架橋成分の換算質量は、(硬化剤の質量比)×(硬化剤中の架橋成分の質量(%))である。
【0066】
主剤と硬化剤の混合後におけるフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量は、(フッ素樹脂の換算質量)/(架橋成分の換算質量)で表される。表1中にこの比率も示す。
【0067】
本発明例1〜8は、フッ素樹脂の質量/架橋成分の質量が、何れも1〜4の範囲に含まれるものである。これに対して、比較例1〜3、5は、このフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量が1未満であり、比較例4、6は、このフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量が4を超えている。
【0068】
本発明例1〜8は、何れも耐汚染性、耐水性、耐久性、施工性、質感が全て優れたものとなっており、各評価項目の評価値が最低でも2.5以上となっていた。ちなみに、この評価点が2.5のレベルは、製品化を考える上で、最低限要求性能を満たすレベルである。これら耐汚染性、耐水性、耐久性、施工性、質感の評価点の合計値は、最低でも13.7であり、良好なものとなっていた。
【0069】
これに対して、比較例1〜6は、耐汚染性、耐水性、耐久性、施工性、質感の何れか1以上が、2.5未満となるものがあった。また耐汚染性、耐水性、耐久性、施工性、質感の評価点の合計値が13.7を下回るものとなっていた。このため、フッ素樹脂の質量/架橋成分の質量が、何れも1〜4の範囲に含まれるように調製することにより、耐汚染性、耐水性、耐久性、施工性、質感を何れも向上させたフッ素被膜2を形成させることができることが示されている。
【0070】
中でも、フッ素樹脂の質量/架橋成分の質量が、1.8〜2.7の範囲とされていることで、評価点の合計値を17.6以上にまで引き上げることができ、被覆体1上にフッ素被膜2を好適に形成させることができ、耐汚染性の耐摩擦性、耐水性の向上、質感や施工性の向上の効果が更に顕著になることが示されている。
【符号の説明】
【0071】
1 被覆体
2 フッ素被膜
71 レザー
73 保護膜
75 皮脂
76 埃
【要約】
【課題】汚れの付着を強固に防止すると共に、レザーや布等の被覆体の表面劣化を長期間にわたり防止することができ、耐水性、耐摩擦性、質感等に優れた被膜を被覆体表面に形成させることが可能な二液型コーティング剤を提供する。
【解決手段】少なくとも主剤と硬化剤とからなる二液型コーティング剤において、主剤は、フッ素樹脂を含有し、硬化剤は、カルボジイミド化合物又はイソシアネートからなる架橋成分を含有し、上記主剤と上記硬化剤の混合後におけるフッ素樹脂の質量/架橋成分の質量:1〜4であることを特徴とする。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5