(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、配線を上方に引き出すと、渦流ポンプ装置の上下方向の寸法が大きくなり、薄型化に不利な構成となってしまう。薄型化の観点からは、特許文献1のように配線をケースの側面から引き出すのが望ましい。しかしながら、特許文献1の構成は、成形型をブッシュの埋設位置で分割し、複数の配線を結束するブッシュを成形型によって挟み込んでケースにブッシュを埋設しているため、ブッシュの取り付け作業が面倒である。
【0008】
あるいは、従来から用いられているゴムブッシュに配線を1本ずつ通してゴムブッシュをケースの側面に設けた配線取り出し孔に装着する方法も考えられるが、各配線線を1本ずつブッシュに通す作業が面倒であり、ブッシュ自体もコスト高になるという問題点がある。
【0009】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、ステータを封止剤で覆う構成でありながら、薄型化およびコスト低減に有利で、ポンプケース外に配線を簡単に引き出すことができる渦流ポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の渦流ポンプ装置は、同軸に配置されたロータおよびステータと、当該ロータに設けられた羽根車と、当該羽根車が配置されるポンプ室、および、当該ポンプ室から区画されたステータ収納室を形成し、側面に吸入管と吐出管が設けられたポンプケースと、前記ポンプケースに前記ステータを覆う高さまで充填される封止剤と、前記ポンプケース内の配線を外部に取り出すための配線取出し部とを有し、前記ポンプケースは、前記ステータ収納室のステータ収納位置よりも上方に設けられた上部空間を囲む外周壁を備え、当該外周壁はポンプ側面を形成しており、前記配線取出し部は、前記外周壁を切り欠いた配線取出し口と、当該配線取出し口から外側に取り出した配線を載置する配線載置部と、当該配線載置部との間に前記配線を挟み込んで固定し、且つ、前記配線取出し口を塞ぐように取り付けられる固定部材とを備え
、前記固定部材は、前記配線取出し口の開口幅よりも幅広に形成されており、前記固定部材には、その幅方向の一方および他方の縁部分を切り欠いた一対の嵌合溝が形成され、各嵌合溝に、前記配線取出し口を挟んで対向している前記外周壁の各端部を嵌合させると、当該端部間に前記固定部材が圧入固定されることを特徴とする。
【0011】
本発明では、ポンプケースの側面を形成している外周壁に配線取出し口を形成してその外側に配線載置部を設け、配線載置部との間に配線を挟み込み、且つ、配線取出し口を塞ぐように固定部材を取り付けている。このようにすると、ポンプ側面から簡単に配線を取り出すことができるため、渦流ポンプ装置の軸線方向の寸法を小さくでき、薄型化に有利である。
また、固定部材を配線取出し口に簡単に位置決めして圧入固定することができるため、固定部材の取り付けが容易である。
【0012】
本発明において、前記ポンプケースは、上下に積層した状態に組み立てられる上ケースおよび下ケースを備え、前記ポンプ室は前記下ケースと前記上ケースとの間に設けられ、前記ステータ収納室および前記上部空間は前記上ケースに設けられた構成にすることができる。このようにすると、ポンプケースを分解したときに、封止剤に埋設された導電部がポンプ室内の液体に接触するのを阻止できる。
【0015】
この場合に、前記外周壁の端部が嵌合している前記嵌合溝の溝側面と、当該溝側面に対向する前記外周壁の表面とが、ラビリンス構造部を形成していることが望ましい。このようにすると、嵌合溝と外周壁の端部との隙間の入り口から嵌合溝の最奥部までの流路長が長くなるため、嵌合溝の最奥部まで封止剤が流れ込むのを阻止できる。よって、固定部材を取り付けた配線取出し口から外部に封止剤が漏れ出すのを防止できる。
【0016】
本発明において、前記配線載置部には配線保持溝が形成され、前記固定部材における前記配線保持溝に対向する位置に配線押え溝が形成され、前記配線保持溝および前記配線押え溝は、前記固定部材を前記配線取出し口に取り付けたとき、前記配線が通る貫通孔を形成することが望ましい。このようにすると、配線を配線保持溝に位置決めできるため、配線を容易に且つ整然と取り出すことができる。また、配線を貫通孔から引き出すことができる。
【0017】
本発明において、前記配線保持溝および前記配線押え溝の各内周面に、内側に突出するリブ状突起が形成されており、各リブ状突起は周方向に延びており、前記配線保持溝および前記配線押え溝が前記貫通孔を形成したときには環状突起を形成し、前記配線の表面は弾力性のある絶縁被膜で覆われており、前記環状突起の内径は、前記配線の外径よりも小さく、且つ、前記配線の芯線の外径より大きいことが望ましい。このようにすると、固定部材を取り付けたとき、リブ状突起が配線の絶縁被膜に圧入され、絶縁被膜に食い込んだ状態になる。従って、配線の引き抜きを防止できると共に、配線と固定部材および配線載置部との隙間から封止剤が外部に漏れ出すのを防止できる。
【0018】
この場合に、前記リブ状突起の配線長さ方向の肉厚が前記配線の外径よりも小さいことが望ましい。このようにすると、環状突起を絶縁被膜に食い込ませるための配線載置部への固定部材の押し付け力を小さくすることができる。従って、小さな力で固定部材を取り付けることができると共に、固定部材の浮き上がりを防止できる。
【0019】
また、前記配線取出し口を挟んで対向している前記外周壁の端部を結んだ線上に前記リブが形成されていることが望ましい。このようにすると、配線取出し口の開口位置において配線の絶縁被膜に環状突起を食い込ませたシール構造を設けることができるため、シール効果が高まる。
【0020】
本発明において、前記配線載置部には、前記固定部材の側に突出する位置決め突起が形成され、前記固定部材における前記位置決め突起に対向する位置に位置決め孔が形成され、
前記位置決め突起は、前記位置決め孔に固定される熱溶着部を備えるように構成することが望ましい。このようにすると、配線を押し付けた位置に固定部材を固定してその浮き上がりを防止できるため、治具や押さえ部材などを用いることなく、固定部材で配線を押し付けている状態を維持できる。また、配線取出し口への圧入位置とは異なる位置で固定部材を位置決めできるため、固定部材の傾き(配線引き出し方向に対する傾き)を防止でき、配線押え溝と各配線保持溝を正対させることができる。
【0021】
あるいは、本発明において、前記配線載置部には、前記配線保持溝をその溝幅方向に挟む一対の位置に、前記固定部材の側に突出する一対の位置決め突起が形成され、前記固定部材における各位置決め突起に対向する位置に位置決め孔が形成され、
前記位置決め突起は、前記位置決め孔に固定される熱溶着部を備えるように構成することができる。このようにすると、固定部材を水平に取り付けることができ、配線を均等に押し付けることができる。
【0022】
このとき、前記一対の位置決め突起を結んだ線上に前記リブ状突起が形成されていることが望ましい。このようにすると、熱溶着によって固定部材の浮き上がりが防止されている位置を、絶縁被膜に環状突起を食い込ませる位置(シール位置)とすることになるため、絶縁被膜に環状突起を食い込ませた状態を確実に維持できる。従って、シール効果が高まる。
【0023】
また、この場合に、前記配線取出し口に取り付けられた前記固定部材と、当該固定部材
を固定する前記位置決め突起の
前記熱溶着部の先端が、前記外周壁の上端よりも上に突出しないように構成されていることが望ましい。このようにすると、外周壁の上側の端面を相手側部材に対する取付面とする場合に、固定部材および位置決め突起が相手側部材に当接してしまうことがなく、外周壁の上側の端面を相手側部材に密着させることができる。従って、渦流ポンプ装置を傾かないように相手側部材に取り付けることができる。
【0024】
本発明において、前記ポンプケースは角柱形状であり、前記配線取出し部は、前記ポンプケースの側面部分の角部に形成されていることが望ましい。このようにすると、デッドスペースとなっているポンプケースの箇所(角部)を活用でき、配線取出し部をコンパクトに構成できるため、渦流ポンプ装置の小型化に有利である。
【0025】
本発明において、前記ステータの上方に配置され、前記ステータと共に前記封止剤に埋設される基板を有し、前記配線の一端は前記配線保持溝と同じ高さで前記基板における前記ステータ側の面に接続されていることが望ましい。このようにすると、配線保持溝と基板との接合部の間における配線の屈曲を低減できる。
【0026】
本発明において、前記ステータの上方に配置され、前記ステータと共に前記封止剤に埋設される基板を有し、前記配線の一端は前記基板における前記ステータ側の面に接続され、当該基板を介して前記ステータの駆動コイルに接続されていることが望ましい。このようにすると、配線の浮きを基板によって抑えることができるため、配線を低い位置に収めることができる。
【0027】
また、この場合に、前記ステータの駆動コイルは、前記基板における前記ステータ側と逆の面に接続されていることが望ましい。このようにすると、ステータの駆動コイルと基板の接続が容易になる。このような場合でも、基板が封止剤に埋設されるため、ポンプケースを分解したときに、封止剤に埋設された駆動コイルと基板の接続部(導電部)がポンプ室内の液体に接触するのを阻止できる。
【0028】
本発明において、前記基板には、前記封止剤の注入穴が形成されており、当該注入穴は、前記ステータの中心軸線上に配置されることが望ましい。このようにすると、ステータ収納室への封止剤の充填作業を容易に行うことができる。
【0029】
本発明において、前記封止剤は熱硬化性樹脂であることが望ましい。このようにすると、配線取出し口と固定部材に隙間がある場合でも、封止剤を速やかに硬化させることができるため、配線取出し口と固定部材の隙間から漏れ出す封止剤の量を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の渦流ポンプ装置によれば、ステータを封止剤で覆う構成でありながら、ポンプケースの側面から簡単に配線を取り出すことができるため、渦流ポンプ装置の軸線方向の寸法を小さくでき、薄型化に有利である。
また、固定部材を配線取出し口に簡単に位置決めして圧入固定することができるため、固定部材の取り付けが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の渦流ポンプ装置を説明する。なお、以下の説明において、説明の便宜上、
図2の上下に従って渦流ポンプ装置の上下を説明する。また、吸入管および吐出管が突出している側(
図2(a)の左側)を渦流ポンプ装置の前側、その反対側(
図2(a)の右側)を後側、上側から見て前側より反時計方向に90度回転した側(
図3の手前側)を右側、上側から見て前側より時計方向に90度回転した側(
図3の奥側)を左側とし、吸入管および吐出管の配列方向を装置幅方向として説明する。
【0033】
(全体構成)
図1(a)は本発明を適用した渦流ポンプ装置を前方の斜め右上から見た斜視図であり、
図1(b)は渦流ポンプ装置を後方の斜め右上から見た斜視図であり、
図1(c)は渦流ポンプ装置を前側から見た正面図である。本形態の渦流ポンプ装置1は冷媒等の液体を圧送する渦流ポンプ装置である。渦流ポンプ装置1は全体として上側から見た形状が略正方形となる偏平な略四角柱形状のポンプケース2を備えている。
【0034】
ポンプケース2は、下ケース3および上ケース4から構成されている。下ケース3および上ケース4は、いずれも樹脂成型品であり、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の熱可塑性樹脂からなる。下ケース3の前面3aからは吸入管5および吐出管6が前方に向かって平行に突出している。上ケース4の前面4aと、前面4aに時計回りの方向で隣接する側面4bはポンプケース2の上部の側面部分を形成している。前面4aと側面4bの間の角部には、ポンプケース2の内側から配線7を取出すための配線取出し部8が設けられている。配線7は配線取出し部8を介して渦流ポンプ装置1の軸線方向(高さ方向)の途中位置から左斜め前方に向かって引き出されている。配線7の先端にはコネクタ7aが取り付けられている。
【0035】
配線取出し部8が設けられている上ケース側面の角部には、当該角部の先端を斜め45度に切り欠く傾斜面4cが形成されている。傾斜面4cは、前面4aおよび側面4bと交差して軸線方向に延びている。配線取出し部8の下側に位置する下ケース3の角部分には、配線取出し部8から引き出された配線7を係止するためのフック9(
図3、
図5(a)参照)が設けられている。フック9は、下ケース3の角部分の先端を斜め45度に切り欠くように形成された傾斜面3c(
図5(a)参照)との間に配線7の外径よりもわずかに小さいU字状の隙間を開けて配置され、下ケース3の前面3aの側から側面3bの側に向かって一定幅で延びている。また、フック9は下ケース3の前面3aおよび側面3bを延長した範囲よりも外側に突出しない。
【0036】
また、ポンプケース2において配線取出し部8と対角に位置する後側右の角部分には、
図1(b)に示すように、下ケース3と上ケース4を積層する際に、これらが相対回転することを防止するための回り止め機構10が構成されている。
【0037】
図2(a)は
図1(a)のX−X線における渦流ポンプ装置1の縦断面図であり、
図2(b)は
図1(a)のY−Y線における渦流ポンプ装置1の縦断面図であり、ともに後述するステータ50の中心軸線Lを通る断面である。
図3は渦流ポンプ装置1の分解斜視図である。
図4(a)はロータ20の斜視図であり、
図4(b)はステータ50の斜視図である。
図2、
図3に示すように、下ケース3と上ケース4は上下に積層されており、下ケース3と上ケース4の間には、区画室11が構成されている。下ケース3と上ケース4の間には、区画室11からの流体の漏れを防止するためのOリング12が配置され、区画室11が吸入管5および吐出管6以外から渦流ポンプ装置1の外部と連通しないようにシールしている。
【0038】
区画室11には、円盤状の羽根車21と駆動マグネット22を備えるロータ20と、このロータ20を回転可能に支持する支軸13が配置されている。支軸13はステンレス製であり、上端部分が上ケース4の中央部分に設けられた有底筒状の中央突出部41の底部中央の支軸固定用凹部41aに圧入固定され、下端部分が下ケース3に設けられた支軸固定用凹部33aに固定されている。区画室11の外周側部分は環状のポンプ室14となっており、羽根車21はポンプ室14に挿入されている。上ケース4の上側、すなわち、区画室11とは反対側には、駆動コイル51と、この駆動コイル51を搭載するステータコア52を備えるステータ50が配置されている。駆動マグネット22と駆動コイル51は羽根車21を回転駆動するための磁気駆動機構を構成している。
【0039】
ポンプ室14の底面および天井面には、軸線回りの所定の角度範囲に渡って液体流路15が形成されている。より詳細には、下ケース3によって規定されているポンプ室14の底面には半円形の同一な断面形状を備える円弧溝からなる下側液体流路15aが形成されており、上ケース4によって規定されているポンプ室14の天井面には半円形の同一な断面形状を備える円弧溝からなる上側液体流路15bが形成されている。これら下側液体流路15aおよび上側液体流路15bの平面形状(上側から見た形状)はともにステータ50の中心軸線Lを中心とするC型の円弧であり、軸線方向から見たときに重なっている。本例では、液体流路15は軸線回りの270°を超える角度範囲に渡って形成されている。
【0040】
ポンプ室14において液体流路15の一方の端が位置する下ケース3の部位には吸入管5が連通する吸入口5aが設けられており、液体流路15の他方の端が位置する下ケース3の部位には吐出管6が連通する吐出口6aが設けられている(
図5(a)参照)。ポンプ室14の底面において、吸入口5aと吐出口6aの間に位置する部分は、下側液体流路15aが設けられていない下側封鎖部16aとなっている(
図5(a)参照)。同様に、ポンプ室14の天井面において、吸入口5aと吐出口6aの間に位置する部分は、上側液体流路15bが設けられていない上側封鎖部16bとなっている(
図6(b)参照)。
【0041】
ロータ20は、
図4(a)に示すように、円盤部23と、円盤部23の上側の面の中心から上方に突出する円筒状の軸受部24と、円盤部23の上側の面から上方に突出しており、軸受部24との間に後述するステータ収納室17を挿入可能な間隔を開けてこの軸受部24を同軸上で包囲している円筒部25を備えている。ロータ20は、軸受部24の中心孔24aに支軸13が挿入され、軸受部24が上ケース4の中央突出部41の内側に配置された状態で、支軸13の軸線回りに回転可能となっている。なお、軸受部24の中心孔24aは支軸13とのラジアル軸受として機能する。ここで、ロータ20の軸受部24と上ケース4の中央突出部41の底部の間には1枚または複数枚のワッシャー19が挿入されている。ワッシャー19の挿入により軸線方向におけるロータ20の位置を調整可能となっている。例えば、厚みが0.2mmのワッシャー19と厚みが0.3mmのワッシャー19のうち、1枚または2枚を選択することで、ワッシャー19の合計厚みを0.2mm〜0.6mmまで0.1mm間隔で調整することができる。
【0042】
円筒部25の内周面には、円筒状のヨーク26(
図2参照)が保持されており、ヨーク26の内周面に円筒状の駆動マグネット22が保持されている。円盤部23、軸受部24、円筒部25はヨーク26をインサート成形することによってと一体に形成され、PPS等からなる樹脂で構成される。駆動マグネット22はヨーク26の内周面に接着固定されている。円盤部23において円筒部25よりも外周側の外周部分は羽根車21となっている。
【0043】
羽根車21の外周部分には上下2段形成された凹部27が周方向に等角度間隔で形成されている。凹部27は円盤部23の周縁の上側を円弧形状に切り欠いて形成された上側凹部27aと、円盤部23の周縁の下側を円弧形状に切り欠いて形成された下側凹部27bを備えており、周方向で隣接する凹部27の間はそれぞれ半径方向に延びる羽根28となっている。上下方向で隣接する上側凹部27aと下側凹部27bの間は、周方向に延びて各羽根28の間を上下に区画するリブ29となっている。羽根車21は、
図2に示すように、ポンプ室14内に挿入されている。なお、凹部27の中心軸線Lを通る断面は、円盤部23の周縁の上端及び下端を中心とする円形(円の1/4)である。
【0044】
上ケース4の上側には、区画室11から上ケース4によって区画されたステータ収納室17が形成されている。言い換えると、上ケース4によって区画室11とステータ収納室17が隔てられ、区画室11の流体がステータ収納室17側に漏れないとともに、後述するポッティング剤64がステータ収納室17から区画室11側に漏れない形状になっている。ステータ収納室17は、中央突出部41の外周側に設けられた環状凹部である。ステータ50の駆動コイル51とステータコア52は、ステータ収納室17内に配置されている。ステータコア52は環状部53および環状部53から径方向外側に突出する複数の突極54を備えており、駆動コイル51は複数の突極54のそれぞれに巻き回されている。各突極54は、軸線と直交する方向で、上ケース4を介して、区画室11内のロータ20の駆動マグネット22と対向している。ここで、上ケース4は、ロータ20とステータ50の間に配置されて、ポンプ室14とステータ50を隔てる隔壁として機能している。
【0045】
ステータコア52は、
図4(b)に示すように、薄板状の磁性鋼板を型抜きして形成した同一形状の板状コア片55を複数枚上下方向(すなわち、ロータ20およびステータ50の軸線方向)に積層して構成されている。ステータコア52の環状部53の内周面には、軸線と直交する断面形状が半円形の3つの凹部53aが軸線回りに等角度間隔で形成されている。3つの凹部53aは同一形状であり、いずれも、軸線方向に重なって延びている。各凹部53aは半径方向の深さが一定であり、断面形状は軸線方向のいずれの位置においても同一である。
【0046】
ここで、上ケース4における中央突出部41の外周面には、周方向の一部分から径方向外側に突出する3つのステータコア固定用突部41bが設けられており、ステータコア52は、これらのステータコア固定用突部41bが環状部53の凹部53a内に圧入されることにより、中央突出部41に固定されている。より詳細には、中央突出部41の外周面に設けられた3つのステータコア固定用突部41bは、軸線と直交する断面形状が半円形状であり、支軸13の軸線回りに等角度間隔で形成されている。また、3つのステータコア固定用突部41bは、同一形状であり、それぞれ、中央突出部41の外周面に沿って軸線方向に延びているとともに、底部の側から開口端部の側に向かって径方向外側および周方向への突出量が増加するテーパー面を備えている。ステータコア52は、中央突出部41のステータコア固定用突部41bが環状部53の凹部53aに挿入される状態として上ケース4のステータ収納室17内に落とし込まれ、しかる後に、各ステータコア固定用突部41bの下端部分が環状部53の凹部53aに圧入されることによって、上ケース4に固定される。本例では、ステータコア52を構成している板状コア片55の1枚の環状部53の凹部にステータコア固定用突部41bの下端部分が圧入された状態で、ステータコア52は位置決めされて、固定される。なお、ステータコア52の環状部53の内側は中央突出部41より径が大きく、ステータコア固定用突部41bが設けられた場所を除いて、環状部53の内側と中央突出部41の間には隙間が構成される。また、ステータコア52の環状部53の凹部53aの曲率は、ステータコア固定用突部41bの下端部分より大きく、ステータコア固定用突部41bの下端部分の先端のみが環状部53の凹部53aの底部に圧入される。すなわち、ステータコア固定用突部41bの下端部分の周方向側面と凹部53aの間には隙間が設けられる。
【0047】
また、上ケース4の上端には、
図2、
図3に示すように、その外周縁に沿って上方に向かって突出する枠状の外周壁42が形成されている。外周壁42は、ステータ収納室17のステータ収納位置の上方まで延びており、外周壁42の内側には、ステータ収納室17の上方に広がる上部空間18が形成されている。なお、外周壁42の上側端面は、後述するように渦流ポンプ装置1が取り付けられる当接面として機能する場合を考慮して、最も高くなっている。上部空間18には、ステータ収納室17内に配置されたステータ50の駆動コイル51とステータコア52を上方から覆った(軸線方向に重なる)状態で基板60が固定されている。基板60の裏面60bには電源回路や配線接続用の端子部、ロータ20の駆動マグネット22の回転位置を検知するためのホール素子等の位置検知手段が設けられており、位置検知手段は外側環状部46の上側に配置される。基板60の表面(裏面60bと逆の面)にはステータ50の駆動コイル51から引き出した巻き線の端部(図示省略)が接続されている。巻き線の端部は後述する基板60の注入穴63を通って基板60の表面に形成された端子部にハンダ付けされる。基板60の下側面には配線7の一端が接続されている。配線7の他端は、配線取出し部8を介して、ポンプケース2の外側に引き出されている。
【0048】
基板60は、矩形の基板素材のうち、ポンプ前面側を向いている前端部分の左右の角部を斜め45度に切り欠いた略六角形の形状をしている。基板60の前端縁に対して時計回りの側に位置する斜辺60aは配線取出し部8に面している。基板60の裏面60bはステータ50側を向いており、裏面60bの斜辺60aに沿った部分には、配線7を接続するための端子部61が配線7の本数に対応する数だけ形成されている。なお、端子部61は基板60の裏面60bに導体パターンによって形成され、配線7は基板60の表面(裏面60bと逆の面)に突出しない。基板60の前端縁には円弧状の切り欠き62aが形成され、前端縁に対して時計回りの側に位置する側端縁の基板後端側の位置にも円弧状の切り欠き62bが形成されている。また、前端縁に対して反時計回りの側に位置する側端縁に沿った基板後端側の位置には、円形の固定穴62cが形成されている。基板60の略中央には円形の注入穴63が形成されている。基板60は、
図2に示すように、上部空間18において、上ケース4の中央突出部41およびここに装着されるステータ50の中心軸線Lと、注入穴63の中心とを一致させるように配置されている。
【0049】
上ケース4のステータ収納室17および上部空間18には、
図2に示すように、外周壁42の上端縁に近い高さまで上方からポッティング剤64が流し込まれており、ステータ50の駆動コイル51とステータコア52および基板60は封止剤としてのポッティング剤64に埋設されている。また、配線7は基板60の下側面(裏面60b)に接続されているため、基板60が埋設されるまでポッティング剤64が流し込まれると、配線7の基板60との接続部(芯線7bが絶縁皮膜7cに覆われていない部分)もポッティング剤64に埋設される。ポッティング剤64は、エポキシ系やアクリル系やシリコン系等の絶縁性の樹脂である。基板60に形成した注入穴63は中央突出部41の基板60と同一高さの部分よりも大径であるため、注入穴63の内周面と中央突出部41との間には隙間が形成される。この隙間から、ポッティング剤64がステータ50の上に注入され、ステータ収納室17に充填される。ポッティング剤64は上部空間18に配置された基板60が埋まる高さまで注入される。なお、ステータコア52の環状部53の内側と中央突出部41の間に構成される隙間にもポッティング剤が流れ込む。
【0050】
また、ポッティング剤64はエポキシ系やシリコン系等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。ステータコア52の環状部53の内側と中央突出部41の間に構成される隙間にポッティング剤64が流れ込みやすくするために低粘度のポッティング剤64を用いた場合、後述する配線取出し口81と固定部材83の間に隙間があるとポッティング剤64が上部空間18から漏れ出すおそれがあるが、熱硬化性樹脂からなるポッティング剤64を用いると、ポッティング剤64を速やかに硬化させることができるため、上部空間18から漏れ出すポッティング剤64の量を少なくすることができる。なお、光を透過する材料で固定部材83を構成した場合は、ポッティング剤64に紫外線等の光を照射することで硬化する光硬化性樹脂を用いてもよい。
【0051】
上記のように、配線7は、基板60を介して駆動コイル51に接続されている。配線7および基板60を介して駆動コイル51に励磁電流が供給されると、ロータ20は軸線回りに回転する。これにより、吸入管5からポンプ室14内に液体が吸い込まれ、ポンプ室14内で加圧されて、吐出管6から吐出される。なお、本例の渦流ポンプ装置1を駆動するモータ(ロータ20、ステータ50、基板60)は3相ブラシレスモータであり、基板60の裏面60bにはロータ20の駆動マグネット22の位置を検出するための図示しないホール素子が3つ配置されている。基板60の駆動制御装置から駆動コイル51に供給される励磁電流の順序を逆にすると、ロータ20が逆方向に回転し、液体を吐出管6から吸入して、ポンプ室14内で加圧して、吸入管5から吐出する。
【0052】
(下ケース)
図5(a)は下ケース3を右側上方から見た斜視図であり、
図5(b)は下ケース3を右側下方から見た斜視図である。下ケース3は、底板部31と、底板部31の外周側部分から起立して上方に延びる環状の側壁部32と、これら底板部31および側壁部32によって形成された円形凹部33を備えている。ポンプ室14は、円形凹部33の周縁に沿って環状に構成される。円形凹部33の円形底面の中央には支軸固定用凹部33aが設けられている。側壁部32の輪郭形状は矩形であり、下ケース3は軸線方向から見た平面形状が矩形となっている。なお、渦流ポンプ装置1を組立てると底板部31と上ケース4の外周壁42の上側端面が平行になる。このため、底板部31を水平となるよう設置すると外周壁42の上側端面も水平となる。また、底板部31から上ケース4の外周壁42の上側端面までの幅が渦流ポンプ装置1の軸線方向の寸法となる。
【0053】
支軸固定用凹部33aの外周側には環状凹部33bが支軸固定用凹部33aと同軸に構成されている。支軸固定用凹部33aと環状凹部33bの間は内側環状突出部33cとなっており、環状凹部33bの外周側は外側環状突出部33dとなっている。外側環状突出部33dには、その周縁に沿ってポンプ室14の底面を構成する上記の下側液体流路15aと下側封鎖部16aが設けられている。外側環状突出部33dにおいてポンプ室14の内側に隣接している環状端面部分33eは、区画室11内に配置されたロータ20の円盤部23と微小なギャップG1を開けて対向する(
図2参照)。環状端面部分33eには、環状凹部33bと下側液体流路15aとを連通させる一定幅の溝33fが、180°離れた位置に、2つ形成されている。渦流ポンプ装置1が駆動すると、流体の一部は、吐出管6に近い溝33fから環状凹部33bを経て吸入管5に近い溝33fに流れる。流体が水等の液体である場合、外側環状突出部33d内の空気等の気体は下側液体流路15aを経て吐出管6に排出される。このため、液体が支軸13と中心孔24aとの間に入り、支軸13と中心孔24aの接触が低減され、支軸13および中心孔24aの磨耗を低減することができる。
【0054】
側壁部32の上側部分の内周面には、段部34が設けられている。段部34は、側壁部32の内周面の軸線方向の途中位置から半径方向に延びる環状端面34aと、環状端面34aの外周側周縁から上方へ円筒状に延びる円形内周面34bを備えている。段部34は、下ケース3の上端部分に、円形凹部33よりも径の大きな円形の凹部を形成している。
【0055】
側壁部32の前面からは吸入管5と吐出管6が平行に突出している。側壁部32の吐出管6に隣接する下ケース3の前側左の角部分には、傾斜面3cおよびフック9が設けられている。傾斜面3cおよびフック9が設けられた角部分と対角に位置する前側右の角部分には、回り止め機構10を構成する回り止め用凹部10aが設けられている。回り止め用凹部10aは側壁部32の上端面から下方に窪む凹部である。また、回り止め用凹部10aは外周側から切り欠かれており、その内周面が下ケース3の外側に露出している。
【0056】
側壁部32の前面の吸入管5と吐出管6の間には、前方に突出する下側ケース固定部35が設けられている。下側ケース固定部35には、軸線方向に貫通する第1ケース固定用ネジ孔35aが設けられている。また、装置前後方向において第1ケース固定用ネジ孔35aと軸線を挟んで反対側に位置する後側右の角部分および後側左の角部分には、それぞれ軸線方向に貫通する第2ケース固定用ネジ孔35bと、軸線方向に貫通する第3ケース固定用ネジ孔35cが設けられている。第3ケース固定用ネジ孔35cは回り止め用凹部10aの前方に位置している。
【0057】
(上ケース)
図6(a)は上ケース4を右側上方から見た斜視図であり、
図6(b)は上ケース4を右側下方から見た斜視図である。上ケース4は軸線方向から見た平面形状が略矩形となっている。上ケース4は、その中央部分に設けられた中央突出部41と、中央突出部41を囲んで同軸に構成された円筒部43と、中央突出部41の下端部すなわち支軸固定用凹部41aの開口端部と円筒部43の下端部とを連続させている内側環状部44を備えている。また、上ケース4は、円筒部43の外周側において中央突出部41と同軸に構成され、下方に向かって突出している環状突出部45を備えており、円筒部43の上端と環状突出部45の上端の間を連続させている外側環状部46、および、環状突出部45の上端から外周側に張り出す張り出し部47を備えている。
【0058】
外側環状部46と張り出し部47との間には環状溝48が形成されている。環状溝48からは、基板支持部65、66が上向きに突出している。基板支持部65は、周方向に等角度間隔で3箇所に形成されている。基板支持部65には、外側環状部46および張り出し部47よりも上方に位置する上向きの環状支持面65aと、環状支持面65aの中央から上向きに突出する突起65bが形成されている。基板支持部66は、配線取出し部8の正面から時計回りにわずかに移動した位置に1箇所のみ形成されている。基板支持部66の先端面は、環状支持面65aと同一高さの平坦面となっている。基板60は、基板支持部65の環状支持面65aおよび基板支持部65の先端面に載せられて、外周壁42の上端よりも低い位置に支持されている。また、基板60は、各基板支持部65の先端から突出している突起65bが切り欠き62a、62bおよび固定穴62cに挿入されることにより、上ケース4の中央突出部41およびここに装着されるステータ50と注入穴63とが同軸に配置されるように位置決めされている。基板60の位置決め後に、突起65bを熱溶着させて基板60を固定する。
【0059】
ステータ収納室17は、中央突出部41、円筒部43、および内側環状部44の下ケース3とは反対側の面によって構成されている。中央突出部41はステータ収納室17内に配置されたステータコア52および基板60よりも上方に突出し、外周壁42よりもわずかに低い高さ寸法を備えている。ステータ収納室17の上部には、外側環状部46、環状溝48、張り出し部47、外周壁42および固定部材83によって囲まれる上部空間18が構成されている。ステータ収納室17と上部空間18は連続した空間であり、上ケース4によって区画室11と区画される。
【0060】
図6(b)に示すように、環状突出部45の下端面には、径方向の途中位置にポンプ室14の天井面を構成する上記の上側液体流路15bと上側封鎖部16bが形成されている。環状突出部45の下端面においてポンプ室14の内側に隣接している環状端面部分45aは、区画室11内に配置されたロータ20の円盤部分と微小なギャップG2を開けて対向する(
図2参照)。
【0061】
環状突出部45の環状端面部分45aの外周側には、環状端面部分45aの外周縁から上方に向かって円筒状の円形外周面45bが設けられ、円形外周面45bの上部には、半径方向外側に所定寸法だけ突出する径方向突出部45cが設けられている。径方向突出部45cは、環状突出部45の軸線方向の途中位置から半径方向外側に延びて下ケース3の側を向いている環状端面45dと、環状端面45dの外周縁から上方に延びて半径方向外側を向いている円形外周面45eを備えている。
【0062】
張り出し部47の輪郭形状は略矩形であり、その前側左の角部分は斜め45度に切り欠かれ、傾斜面4cを形成している。外周壁42は、配線取出し部8が設けられた角部を除き、張り出し部47の外周縁から上方に向かって突出している。一方、配線取出し部8が設けられた角部では、傾斜面4cから内側にセットバックした位置に外周壁42が設けられている。外周壁42は、ポンプケース2の側面上部を形成しており、セットバックした箇所は、張り出し部47の先端に形成された傾斜面4cよりもさらに後退し、傾斜面4cと平行な傾斜面4dを形成している(
図1(a)(c)、
図6(a)参照)。
【0063】
張り出し部47は平坦な下端面を備えている。張り出し部47の後側右の角部分からは、回り止め用凹部10aとともに回り止め機構10を構成する回り止め用突起10bが下方に突出している。回り止め用突起10bの先端の外周縁にはアールが施されている。ここで、回り止め用突起10bの先端面(下端面)の位置は、軸線方向において環状突出部45の環状端面部分45aと同じ位置となっている。さらに、回り止め用突起10bの突出寸法は、回り止め用凹部10aの深さ寸凹より短く設定されている。また、回り止め用突起10bは、この回り止め用突起10bが回り止め用凹部10a内に挿入されたときに、軸線回りの周方向では回り止め用凹部10aの内周面との間に隙間が形成されず、軸線を中心とする半径方向においては、回り止め用凹部10aの内周面との間に隙間が形成されるように設けられている。
【0064】
張り出し部47の前面の装置幅方向の中央には、前方に突出する突部からなる上側ケース固定部49が設けられている。上側ケース固定部49には、軸線方向に延びる第1ケース固定用ネジ孔49aが設けられている。また、装置前後方向において第1ケース固定用ネジ孔49aと軸線を挟んで反対側に位置する後側右の角部分および後側左の角部分には、それぞれ軸線方向に延びる第2ケース固定用ネジ孔49bおよび第3ケース固定用ネジ孔49cが設けられている。第3ケース固定用ネジ孔49cは回り止め用突起10bの前方に位置している。
【0065】
(ポンプ室の区画形成)
ポンプ室14(区画室11)を区画形成する際には、Oリング12を上ケース4の環状突出部45の円形外周面45bに装着した状態とする。この際に、Oリング12には、潤滑剤を塗布しておく。しかる後に、上ケース4の環状突出部45を下ケース3の円形内周面34bの内側に挿入する。ここで、回り止め機構10の回り止め用突起10bの先端は軸線方向において環状突出部45の環状端面部分45aと同じ位置にあるので、環状突出部45が円形内周面34bの内側に挿入されるのと同時に、回り止め用突起10bは下ケース3に設けられた回り止め用凹部10aに挿入される。
【0066】
その後、上ケース4と下ケース3とを相対的に接近させて、環状突出部45の下端面(上側液体流路15bおよび上側封鎖部16bの外周側に位置する環状端面部分)と、下ケース3の段部34の環状端面34aとを当接させる。これにより、上ケース4の環状突出部45の円形外周面45bが、下ケース3の段部34の円形内周面34bに当接した状態となり、上ケース4は下ケース3に対して径方向に位置決めされる。また、Oリング12は、下ケース3の段部34と、上ケース4の環状突出部45との間において、上ケース4の円形外周面45bと下ケース3の円形内周面34bの間で径方向に潰された状態となり、区画室11からの流体の漏れが防止された状態が形成される。
【0067】
しかる後に、下ケース3に設けられた第1〜第3ケース固定用ネジ孔35a〜35cを貫通して上ケース4に設けられた第1〜第3ケース固定用ネジ孔49a〜49cに螺合する3本の有頭ネジによって、上ケース4と下ケース3が固定される。ポンプ室14が区画された状態では、回り止め用凹部10aに挿入された回り止め用突起10bの先端部と回り止め用凹部10aの底面との間に隙間が形成されている。
【0068】
ここで、ポンプ室14(区画室11)を区画形成する際には、支軸13は予め上ケース4の支軸固定用凹部41aに圧入固定しておく。また、ロータ20は下ケース3の環状凹部33b内に配置して、軸受部24に支軸13を挿入可能な状態としておく。下ケース3に上ケース4が積層され、ポンプ室14(区画室11)が区画された状態となると、支軸13の下端が下ケース3の凹部53aに挿入されることで支軸13の径方向位置が固定され、支軸13と中央突出部41とが同軸状態となる。従って、ステータ50とロータ20が同軸に配置され、ステータコア52において駆動コイル51が巻き回されている突極54と、区画室11に配置されたロータ20の駆動マグネット22が上ケース4の円筒部43を介して対向する。
【0069】
なお、本例では、
図2に示すように、ロータ20の軸受部24の上端面24bと中央突出部41の底部(支軸固定用凹部41aの底部)との間に1枚または複数枚のワッシャー19を挿入することにより、ステータコア52の軸線方向の磁気中心位置に対して駆動マグネット22の軸線方向の磁気中心位置を下方にずらし、ステータコア52と駆動マグネット22の間に働く磁気吸引力によってロータ20を上方(支軸固定用凹部41a側)に付勢した状態としている。
【0070】
(配線取り出し部)
配線取出し部8は、
図3に示すように、ポンプケース2の側面部分の角部に形成されており、この角部において傾斜面4dを形成している外周壁42の部分を切り欠いて設けられた配線取出し口81と、配線取出し口81を介してポンプケース2の内側から外側に取り出した配線7を一列に配列して載置するための配線載置部82と、基板60および配線7の上方から配線取出し口81を塞ぐように取り付けられる固定部材83を備えている。固定部材83は、
図1(a)に示すように、その前端部分によって配線載置部82上に配列された配線7を配線載置部82との間に挟み込んで押圧した状態で固定するように取り付けられている。固定部材83はPPS等の樹脂からなる樹脂成型部材である。
【0071】
図7は装置前面上方側から見た渦流ポンプ装置1の分解斜視図であり、配線7、基板60、および固定部材83をポンプケース2から取り外した状態を示している。また、
図8は固定部材83の斜視図であり、
図8(a)は上(上端面83c)側から見た斜視図、
図8(b)は下(下端面83a)側から見た斜視図である。上記のように、ポンプケース2の前面に対して時計回りの側に位置する角部では外周壁42が内側にセットバックしており、張り出し部47の角部が外周壁42の外側まで延出されている。配線載置部82は、この延出部分によって構成されている。配線取出し口81は外周壁42をその上端縁から一定幅で切り欠いた矩形の切り欠き部分であり、ポンプケース2の側面上端に設けられた傾斜面4dの中央部分に開口している。この配線取出し口81を挟み、その両側に、外周壁42の端部42a、42bが配置されている。配線取出し口81は、上部空間18におけるポッティング剤64の充填高さよりも低い位置まで切り欠かれている。
【0072】
固定部材83は、配線取出し口81の開口幅よりも幅広な平面形状をしている。固定部材83の幅方向の一方の縁および他方の縁には、一対の嵌合溝84a、84bが形成されている。嵌合溝84a、84bは同一直線上に形成され、反対側を向いて開口している。嵌合溝84a、84bの開口幅は外周壁42の端部42a、42bを嵌合可能な寸法に設定されている。固定部材83は、嵌合溝84a、84bを形成した部分がくびれ形状となっており、このくびれ部分83bを外周壁42の端部42a、42bの間に圧入すると共に、端部42a、42bを嵌合溝84a、84b内に嵌合させることにより、配線取出し口81を閉鎖した状態に取り付けられる(
図1(a)参照)。
【0073】
固定部材83は、配線取出し口81に取り付けたとき、その上端面83cが外周壁42の上側の端面よりも低く、外周壁42の上端よりも上に固定部材83が突出しないように構成されている(
図1(a)(c)参照)。また、固定部材を配線取出し口81に取り付けることにより、外周壁42と固定部材83は上部空間18の周囲を連続して囲む枠を形成する。本例では、外周壁42の上側の端面を、渦流ポンプ装置1が取付けられる相手側部材との当接面(すなわち、相手側部材に対する取付面)とする場合を考慮して、固定部材83の上端面83cの高さをこのように設定している。固定部材83が外周壁42の上側の端面よりも低くなることで、固定部材83が相手側部材に当接することなく、外周壁42の上側の端面を相手側部材に密着させることができる。また、外周壁42の前側右および後側左の角部には渦流ポンプ装置1をネジ等で相手側部材に取り付けるための取り付け穴36が設けられ、外周壁42の上側端面は取り付け穴36を取り囲む。取り付け穴36は下ケース3と上ケース4を貫通する。
【0074】
図9は配線取出し部8の部分拡大図であり、嵌合溝84aと外周壁42の端部42aとの嵌合部分(
図1(a)の領域A)を拡大して示している。嵌合溝84aの溝底面84cは、外周壁42の端部42aの先端面42cに圧接されている。一方、嵌合溝84aの溝側面84dと、この溝側面84dに対向する外周壁42の表面42dとの間にはわずかな隙間が形成されている。本例では、この対向面の隙間がラビリンス構造部として機能する。このようなラビリンス構造部を設けると、外周壁42の表面42dとの隙間に形成される流路長が長くなるため、隙間の最奥部である嵌合溝84aの溝底面84cと外周壁42の端部42aの先端面42cの圧接部までポッティング剤64が流れ込むのを阻止できる。また、嵌合溝84aの溝底面84cと外周壁42の端部42aの先端面42cの圧接部までポッティング剤64が流れ込んだとしても、ラビリンス構造部によってポッティング剤にかかる圧力が低下する。これにより、外周壁42の内側空間に注入されたポッティング剤64が嵌合溝84aの溝底面84cと外周壁42の端部42aの先端面42cの圧接部を通過できず、この圧接部から外部にポッティング剤64が漏れ出すことのない構造となっている。
【0075】
図7に示すように、配線載置部82の上面82aには、配線取出し口81から外周側に向かって上ケース4の対角線方向に延びる円弧状断面の配線保持溝85aが配線7の数に対応する数だけ並列に設けられている。配線保持溝85aは、外周壁42の端部42a、42bを結んだ壁面中心線L1上から配線載置部82の先端まで延びている。外周壁42の内側には、配線保持溝85aの延長線上に延びる円弧溝46aが外側環状部46の上面に並列に形成されている。ここで、配線7は銅線等の導体で構成された線材を束ねた芯線7bを、弾力性のある樹脂等の絶縁材料で構成された絶縁被膜7cで覆った可撓性のリード線であり、本例では給電線、グランド線、信号線(回転信号用およびコントロール信号用に各1本)の4本の配線が設けられている。各配線7は、基板60との接続側の端部の絶縁被膜7cが除去され、芯線7bが露出している。この芯線7bは、基板60の配線取出し部8に面した部分の裏面60bに形成されている端子部61にハンダ付け等で接続される。基板60をステータ50の上方に取り付けると、各端子部61に接続された各芯線7bが各円弧溝46aに収容されるようになっている。
【0076】
図10は配線取出し部8および配線7の部分縦断面図であり、
図10(a)は
図1(a)のZ1−Z1線における配線取出し部8の部分縦断面図、
図10(b)は
図1(a)のZ2−Z2線における配線取出し部8の部分縦断面図、
図10(c)は配線7の端部の部分縦断面図である。
図8(b)に示すように、固定部材83の下端面83aには、配線載置部82の配線保持溝85aと対向する位置に配線押え溝85bが設けられている。配線押え溝85bは、配線保持溝85aと同様の円弧状断面の溝である。
図10(a)に示すように、固定部材83の下端面83aを配線載置部82の上面82aに当接させたとき、各配線押え溝85bの縁部分が各配線保持溝85aの縁部分に当接して、基板60の裏面60bと平行に延びる円形断面の貫通孔85が形成される。配線7は、貫通孔85を通り、配線取出し部8の内側から外側に取り出されるとき、これら配線載置部82の配線保持溝85aと固定部材83の配線押え溝85bとの間に挟まれて、絶縁被膜7cが押圧された状態で固定されている。
【0077】
配線保持溝85aと円弧溝46aは同じ高さに構成される。また、基板60が基板支持部65の環状支持面65aおよび基板支持部66の先端面に載せられた状態では、配線7は基板60の裏面60bと平行に伸び、貫通孔85を通る。このため、配線7の屈曲を低減でき、固定部材83を配線載置部82に取り付ける力を小さくできる。
【0078】
また、配線載置部82の上面82aには、上向きに突出する一対の位置決め突起86a、86bが配線保持溝85aを挟んで形成されている。固定部材83には、配線載置部82の位置決め突起86a、86bと対向する位置に位置決め孔87a、87bが形成されている。固定部材83を配線取出し口81に取り付けるとき、位置決め突起86a、86bを位置決め孔87a、87bに挿入しながら、外周壁42の端部42a、42bを嵌合溝84a、84bに嵌合させる。各位置決め突起86a、86bは、固定部材83の取り付け後、熱溶着によって位置決め孔87a、87bに固定される。このようにすると、配線取出し口81への圧入位置とは異なる位置で固定部材83を位置決めできるため、固定部材83の傾き(配線引き出し方向に対する傾き)を防止でき、配線押え溝85bと各配線保持溝85aとを正対させて円形の貫通孔85を確実に形成できる。また、熱溶着によって固定部材83を固定してその浮き上がりを防止できるため、治具や押さえ部材などを用いることなく、固定部材83で配線7を押し付けている状態を維持できる。更に、配線載置部82を挟む一対の位置で位置決め固定しているため、固定部材83を水平に取り付けることができ、配線を均等に押し付けることができる。また、固定部材83は基板60の上方で基板60と重なるため、固定部材83によって基板60の浮きを防止できる。
【0079】
図8(a)に示すように、固定部材83における位置決め孔87a、87bの周辺には、固定部材83の上端面83cより低い段部83dが構成されている。このため、熱溶着後の各位置決め突起86a、86bの先端面は固定部材83の上端面83cよりも低く、外周壁42の上側の端面よりも上に突出しないように構成されている(
図1(a)(c)参照)。このように、本例では、固定部材83だけでなく、熱溶着後の位置決め突起86a、86bの先端面についても外周壁42の上側の端面よりも低くなっている。従って、外周壁42の上側の端面を相手側部材に密着させることができ、渦流ポンプ装置1を傾かないように相手側部材に取り付けることができる。
【0080】
図7、
図10に示すように、各配線保持溝85aの内周面からは、内側に向けてリブ状突起88aが突出している。リブ状突起88aは、各配線保持溝85aの内周面に沿って周方向に延びる円弧状突起であり、内周面からの突出寸法は一定となっている。リブ状突起88aは、各配線保持溝85a内において、外周壁42の端部42a、42bを結んだ壁面中心線L1上と、位置決め突起86a、86bの中心位置を結んだ中心線L2上の2箇所に形成されている。また、
図8(b)に示すように、固定部材83には、各配線押え溝85bの各リブ状突起88aと対向する位置にリブ状突起88bが形成されている。リブ状突起88bの形状はリブ状突起88bと同一である。リブ状突起88bは、嵌合溝84a、84bを結んだ溝中心線L3上と、位置決め孔87a、87bの中心を結んだ中心線L4上の2箇所に形成されている。
【0081】
図10(b)に示すように、リブ状突起88a、88bは、固定部材83を配線取出し口81に取り付けて貫通孔85を形成したとき、外周壁42の端部42a、42bを結んだ壁面中心線L1上、および、位置決め突起86a、86bを結んだ中心線L2上の各位置において円形の環状突起88を形成する。本例では、環状突起88の内径D1が配線7の外径D2よりも小さく、貫通孔85の内径D3が配線7の外径より大きくなるように、配線押え溝85a、85bの溝形状およびリブ状突起88a、88bの突出寸法を設定している。このため、貫通孔85に配線7を通したとき、配線7の絶縁被膜7cに環状突起88が確実に食い込んだ状態を形成できる。また、環状突起88の内径D1は配線7の芯線7bの外径D4より大きいため、環状突起88が芯線7bを損傷することを防止できる。これにより、貫通孔85と配線7との隙間からポッティング剤64が外部に流出することのないシール構造を形成できる。すなわち、渦流ポンプ装置1の構成部品のみでポッティング剤64の流出を防止することが可能となり、例えば金型のような他部材を用いる必要がない。特に、環状突起88を壁面中心線L1上に設けているため、配線取出し部81の開口位置においてシール効果が高められている。また、位置決め突起86a、86bを結んだ中心線L2上、すなわち、熱溶着によって固定部材83の浮き上がりが防止されている位置に環状突起88を配置しているため、この位置でも環状突起88が絶縁被膜7cに確実に食い込んでおり、更にシール効果が高められている。
【0082】
また、本例では、リブ状突起88a、88bの配線長さ方向の肉厚dは、配線7の外径D2よりも小さく設定されている。このようにすると、環状突起88を絶縁被膜7cに食い込ませるための配線載置部82への固定部材83の押し付け力を小さくすることができる。従って、小さな力で固定部材83を取り付けることができ、固定部材83の浮き上がりを防止することができる。
【0083】
(作用効果)
以上のように、本例の渦流ポンプ装置1は、ポンプケース2の上ケース4にステータ収納室17およびその上部に広がる上部空間18を設け、上部空間18を囲み、ポンプケース2の側面を形成している外周壁42を切り欠いて配線取出し口81を形成し、ここに配線取出し部8を形成している。また、配線取出し部8を、配線取出し口81の外側に配線載置部82を設け、配線載置部82との間に配線7を挟み込み、且つ、配線取出し口81を塞ぐように固定部材83を取り付ける構造としている。このようにすると、ポンプ側面から配線7を取り出すことができるため、渦流ポンプ装置1の軸線方向の寸法を小さくでき、薄型化に有利である。また、従来のゴムブッシュを用いた場合のように予め配線7に固定部材83を取り付ける作業を行う必要がなく、配線取出し口81から配線7を引き出した後に固定部材83を配線取出し口81に取り付けるだけで良い。従って、配線7を容易に取り出すことができる。加えて、固定部材83と配線載置部82との間に配線7を挟み込んで固定できるため、配線7の抜け防止を図ることができる。更に、高価なゴムブッシュを用いる必要がないため、コスト低減効果も得られる。
【0084】
また、本例では、配線7をポンプ側面から取り出す構成でありながら、配線取出し口81からのポッティング剤64の流出を防止でき、ステータ収納室17内のステータ50側から引き出した配線7の基板60との接続部(絶縁被膜7cがなく芯線7bが露出している部分)を完全にポッティング剤64で覆うことができる。従って、駆動コイル51や基板60および、配線7の基板60との接続部といった導電部を全てポッティング剤64に埋設でき、配線7が上方に浮き上がるのを防止できる。また、ポッティング剤64への導電部の埋設により、漏電や錆などを防止できると共に、振動防止効果および騒音低減効果が得られる。更に、ポンプケース2を上ケース4と下ケース3に分解したときに、ポッティング剤64に埋設された導電部がポンプ室14内の液体に接触するのを阻止できる。
【0085】
特に、本例では、ステータ50の上部に基板60を配置して基板60の裏面60bに配線7を接続しているため、配線7の浮きを基板60によって抑えることができ、配線7を低い位置に収めることができる。すなわち、配線7の基板60との接合部(芯線7bが絶縁皮膜7cに覆われていない部分)を確実にポッティング剤64で覆うことができる。また、基板60についてもポッティング剤64で覆うことができる。そして、基板60におけるステータ50の中心軸線Lを通る位置にはポッティング剤64を注入するための注入穴63が形成されているため、基板60を取り付けた状態でのステータ収納室17へのポッティング剤64の注入作業を容易に行うことができる。なお、基板60をエラストマーやゴム材などの可撓性の素材で形成して、上ケース4に密着しやすくしてもよい。
【0086】
更に、本例では、角柱形状のポンプケース2の側面部分の角部に配線取出し部8を形成しており、デッドスペースとなっているポンプケース2の箇所を活用して配線取出し部8をコンパクトに構成している。従って、渦流ポンプ装置1の小型化に有利である。