(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のプラズマジェット点火プラグは、耐久性が乏しいという問題があった。例えば、プラズマジェット点火プラグには、キャビティの側面部を構成する絶縁体の表面に沿面放電を発生させた後、この放電経路に高エネルギーの電流を流して放電状態を遷移させてプラズマを発生させるものが知られている。この場合、この沿面放電によって、絶縁体が溶融し、表面に溝状の痕(チャンネリング)が生じてしまう問題があった。一方、絶縁体の表面での沿面放電の発生を抑制するために、中心電極からキャビティの側面部を構成する絶縁体までの距離を大きくした場合には、キャビティ空間が大きくなる。キャビティ空間が過度に大きくなると、キャビティから噴出する火炎状のプラズマが小さくなり、着火性能が低下する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、
中心電極と、前記中心電極の軸線方向に延びる軸孔を有し、該軸孔内に前記中心電極を保持する略筒状の絶縁体と、前記絶縁体を保持する主体金具と、前記中心電極よりも先端側に配置される接地電極と、を備えるプラズマジェット点火プラグが提供される。このプラズマジェット点火プラグの前記主体金具は、前記主体金具の先端部に、前記中心電極と前記絶縁体のそれぞれの先端部のうち、少なくとも前記絶縁体の先端部の一部を前記軸線方向と交差する方向で覆って前記それぞれの先端部との間に空間部を形成する空間形成部と、前記空間形成部に設けられ、前記空間部を介して前記中心電極の先端部と対向する開口部と、を備え、前記接地電極は、略筒形状に形成され、前記主体金具の前記開口部の内側に配置され、前記開口部から前記空間部に向けて突出しており、前記主体金具の前記空間形成部は、前記空間部を形成する面が凹状に窪んだ凹陥部を備えていることを特徴としている。
この構成によれば、プラズマジェット点火プラグは、絶縁体と中心電極のそれぞれの先端部と、主体金具の空間形成部との間にキャビティ空間となる空間部を備えている。このプラズマジェット点火プラグは、接地電極がキャビティ空間の開口部からキャビティ空間に向けて突出しており、また、キャビティ空間を形成する主体金具の空間形成部の面が凹状に窪んでいる。そのため、中心電極と主体金具の空間形成部との間の気中放電の発生が抑制され、中心電極と接地電極との間の気中放電を発生させることができる。この中心電極と接地電極との間の気中放電後にプラズマを発生させることによって、プラズマジェット点火プラグの着火性能の向上を図ることができる。また、この構成によれば、中心電極と接地電極との間において気中放電が発生するため、絶縁体の表面における沿面放電の発生が抑制される。そのため、プラズマジェット点火プラグの耐久性の向上を図ることができる。また、接地電極が空間部に突出しているため、中心電極と接地電極との間で安定して気中放電を発生させることができる。これにより、プラズマジェット点火プラグの着火性能の向上を図ることができる。
【0007】
(2)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記空間形成部の前記空間部を形成する面は、前記軸線方向と直交する方向において、前記中心電極の軸線までの距離が、前記プラズマジェット点火プラグの先端側に向かうにつれて小さくなるように形成されていることを特徴としていてもよい。
この構成によれば、主体金具の空間形成部に放電を誘発するような特異な形状がなく、突出した接地電極に確実に放電することができるため、中心電極と主体金具の空間形成部との間の気中放電の発生がより一層抑制され、中心電極と接地電極との間の気中放電をより確実に発生させることができる。これにより、プラズマジェット点火プラグの着火性能の向上を図ることができる。また、この構成によれば、中心電極と接地電極との間において気中放電が発生するため、絶縁体の表面における沿面放電の発生がより一層抑制される。そのため、プラズマジェット点火プラグの耐久性の向上を図ることができる。
【0008】
(3)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記中心電極の先端部と前記絶縁体の先端部との前記軸線方向の距離gは、g≦1.5mmであることを特徴としていてもよい。この構成によれば、中心電極と接地電極とが近接することによる着火性能の低下や、接地電極と絶縁体とが離れてキャビティ空間の増大による着火性能の低下を抑制することができる。
【0009】
(4)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記主体金具の前記空間形成部は、前記凹陥部の外周に前記凹陥部から離れるにつれて前記絶縁体の先端部に近づくように形成されたテーパー部を備えており、前記絶縁体の先端部には、平坦な端面が形成されていることを特徴としていてもよい。この構成によれば、絶縁体の表面に沿った方向において、軸線に近づくにつれて中心電極から主体金具までの距離が大きくなるため、絶縁体の表面における沿面放電の発生が抑制される。そのため、プラズマジェット点火プラグの耐久性の向上を図ることができる。
【0010】
(5)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記絶縁体の先端部の端面と、前記テーパー部とがなす角度αは、5°≦α≦25°であることを特徴としていてもよい。この構成によれば、絶縁体の表面における沿面放電の発生を抑制することができ、プラズマジェット点火プラグの耐久性の向上を図ることができる。また、キャビティの内側の容積の増大による着火性能の低下を抑制することができる。
【0011】
(6)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記絶縁体の先端部の端面と、前記テーパー部とがなす角度αは、10°≦α≦20°であることを特徴としていてもよい。この構成によれば、絶縁体の表面における沿面放電の発生をさらに抑制することができ、ラズマジェット点火プラグの耐久性の向上を図ることができる。また、キャビティの内側の容積の増大による着火性能の低下をさらに抑制することができる。
【0012】
(7)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記空間部の容積Vは、4.47m
3≦V≦6.67m
3であることを特徴としていてもよい。この構成によれば、中心電極と主体金具との間における気中放電の発生を抑制することによって、着火性能の低下を抑制することができる。また、キャビティの内側の容積の増大による着火性能の低下を抑制することができる。
【0013】
(8)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記絶縁体の先端部のうち、前記中心電極の先端部に最も近い点Xから前記主体金具に最も近い点Yまでの最短距離を距離Aとし、前記中心電極の先端部から前記接地電極までの最短距離と前記絶縁体の先端部から前記接地電極までの最短距離のうちの小さい方を距離aとすると、前記距離Aと前記距離aとの比率は、1.8≦A/a≦2.5であることを特徴としていてもよい。この構成によれば、絶縁体の表面における沿面放電の発生を抑制することができ、プラズマジェット点火プラグの耐久性の向上を図ることができる。また、キャビティの内側の容積の増大による着火性能の低下を抑制することができる。
【0014】
(9)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記距離Aと前記距離aとの比率は、2≦A/aであることを特徴としていてもよい。この構成によれば、絶縁体の表面における沿面放電の発生をさらに抑制することができ、ラズマジェット点火プラグの耐久性の向上を図ることができる。また、キャビティの内側の容積の増大による着火性能の低下をさらに抑制することができる。
【0015】
(10)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記接地電極の前記開口部から前記空間部に向けての突出長さを長さbとし、前記中心電極の先端部から前記接地電極までの最短距離と前記絶縁体の先端部から前記接地電極までの最短距離のうちの小さい方を距離aとすると、前記長さbと前記距離aとの比率は、0.1≦b/a≦0.4であることを特徴としていてもよい。この構成によれば、中心電極と主体金具との間における気中放電の発生を抑制することによって、着火性能の低下を抑制することができる。また、キャビティの内側の容積の増大による着火性能の低下を抑制することができる。
【0016】
(11)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記長さbと前記距離aとの比率は、0.2≦b/a≦0.3であることを特徴としていてもよい。この構成によれば、中心電極と主体金具との間における気中放電の発生をさらに抑制することによって、着火性能の低下を抑制することができる。また、キャビティの内側の容積の増大による着火性能の低下をさらに抑制することができる。
【0017】
(12)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記中心電極の先端部から前記空間形成部までの最短距離と前記絶縁体の先端部から前記空間形成部までの最短距離のうちの小さい方を距離rとし、前記中心電極の先端部から前記接地電極までの最短距離と前記絶縁体の先端部から前記接地電極までの最短距離のうちの小さい方を距離aとすると、前記距離rと前記距離aとの比率は、1.05≦r/a≦1.4であることを特徴としていてもよい。この構成によれば、中心電極と主体金具との間における気中放電の発生を抑制することによって、着火性能の低下を抑制することができる。また、キャビティの内側の容積の増大による着火性能の低下を抑制することができる。
【0018】
(13)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記距離rと前記距離aとの比率は、1.2≦r/a≦1.3であることを特徴としていてもよい。この構成によれば、中心電極と主体金具との間における気中放電の発生をさらに抑制することによって、着火性能の低下を抑制することができる。また、キャビティの内側の容積の増大による着火性能の低下をさらに抑制することができる。
【0019】
(14)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記中心電極の先端部から前記接地電極までの最短距離と前記絶縁体の先端部から前記接地電極までの最短距離のうちの小さい方である距離aは、1mm≦aであることを特徴としていてもよい。この構成によれば、中心電極と接地電極との間において気中放電を発生させやすくすることができ、着火性能の向上を図ることができる。
【0020】
(15)上記形態のプラズマジェット点火プラグにおいて、
前記接地電極は、貴金属チップであることを特徴としていてもよい。この構成によれば、接地電極の耐久性の向上を図ることができる。
【0021】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、プラズマジェット点火プラグを含んで構成されるプラズマジェット点火装置、この点火装置を含んで構成される内燃機関、プラズマジェット点火プラグの製造方法、これらの装置または方法を実現するための集積回路、コンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態におけるプラズマジェット点火プラグ100の概略構成を説明するための説明図である。
図1において、プラズマジェット点火プラグ100の中心軸である軸線Oの右側には、プラズマジェット点火プラグ100の側面構成を例示し、軸線Oの左側には、プラズマジェット点火プラグ100の断面構成を例示している。以下の説明では、接地電極40が配置されている側(
図1の上方側)をプラズマジェット点火プラグ100の「先端側」と呼び、端子金具19が配置されている側(
図1の下方側)をプラズマジェット点火プラグ100の「後端側」と呼ぶ。
【0024】
プラズマジェット点火プラグ100は、中心電極10と、絶縁碍子20と、主体金具30と、接地電極40とを備えている。中心電極10は絶縁碍子20によって保持され、絶縁碍子20は主体金具30によって保持されている。接地電極40は主体金具30の先端部37に取り付けられている。プラズマジェット点火プラグ100は、中心電極10、絶縁碍子20、主体金具30、および接地電極40の軸心が、軸線Oと一致するように構成されている。
【0025】
中心電極10は、略棒形状の電極であり、ニッケルまたはニッケルを主成分とするニッケル合金(例えば、インコネル(登録商標)600)によって形成されている。中心電極10は、絶縁碍子20の内側に収容され、外側面がプラズマジェット点火プラグ100の外部と電気的に絶縁されている。中心電極10は、内部に、熱伝導性に優れる銅等からなる金属芯13を有している。中心電極10の先端部11は、軸線O方向の位置が絶縁碍子20の先端部29とほぼ揃うように構成されている。中心電極10の後端部12は、シール体18を介して端子金具19に電気的に接続されている。シール体18は、金属とガラスの混合物からなる導電性の部材であり、中心電極10および端子金具19を互いに導通させつつ、これらを絶縁碍子20の軸孔21内に固定している。端子金具19は、後端部が絶縁碍子20の後端側から突出しており、プラグキャップ(図示しない)を介して高圧ケーブル(図示しない)が接続される。中心電極10の外側面には、鍔状に拡径された拡径部17が形成されている。中心電極10は、この拡径部17が絶縁碍子20の軸孔21内に設けられた内側段状部22に当接することによって、絶縁碍子20の軸孔21内において位置決めされている。
【0026】
絶縁碍子20は、略円筒形状の絶縁体であり、軸線Oに沿った貫通孔である軸孔21を備えている。絶縁碍子20は、軸孔21の内側に中心電極10を収容している。絶縁碍子20は、アルミナを始めとする絶縁性セラミックス材料を焼成することによって形成されている。絶縁碍子20は、自身の外径が最も大きくなる部分である鍔部26が形成されている胴部23と、胴部23の先端側で胴部23よりも外径の小さい脚長部24と、を備えている。胴部23と脚長部24との間には外側段状部25が形成されている。
【0027】
絶縁碍子20の軸孔21は、内径の異なる3つの部位を備えている。具体的には、絶縁碍子20の軸孔21は、後端側軸孔部21prと、先端側軸孔部21pfと、先端小径部21psと、を備えている。後端側軸孔部21prは、胴部23の内周に相当する部分であり、内側に、シール体18や、中心電極10の後端側が配置されている。先端側軸孔部21pfは、脚長部24の内周に相当する部分を含み、後端側軸孔部21prの先端側に形成されている。先端側軸孔部21pfは、後端側軸孔部21prよりも小さな内径を有し、後端側軸孔部21prとの間に内側段状部22が形成されている。先端側軸孔部21pfの内側には、中心電極10の先端側が配置されている。先端小径部21psは、脚長部24の先端部の内周に相当する部分であり、先端側軸孔部21pfの更に先端側に形成されている。先端小径部21psは、先端側軸孔部21pfよりも更に小さな内径を有している。
【0028】
主体金具30は、内燃機関のエンジンヘッドにプラズマジェット点火プラグ100を固定するための略円筒形状の金具であり、内側に絶縁碍子20が配置されている。主体金具30は、ニッケルめっきや亜鉛めっきがなされた低炭素鋼や、無めっきのニッケル合金などによって形成されている。主体金具30は、プラグレンチが嵌合する工具係合部31と、内燃機関の上部に設けられたエンジンヘッドに螺合するねじ部32とを備えている。
【0029】
主体金具30の工具係合部31より後端側には加締部33が設けられている。工具係合部31から加締部33にかけての主体金具30と、絶縁碍子20の胴部23との間には円環状のリング部材6,7が介在されており、更に両リング部材6,7の間にタルク(滑石)9の粉末が充填されている。そして、加締部33を加締めることにより、リング部材6,7およびタルク9を介して絶縁碍子20が主体金具30内で先端側に向け押圧される。これにより、絶縁碍子20の外側段状部25が主体金具30の内周面に段状に形成された係止部36に環状のパッキン(図示しない)を介して支持されて、主体金具30と絶縁碍子20とが一体にされる。このパッキンによって、主体金具30と絶縁碍子20との間の気密は保持され、燃焼ガスの流出が防止される。また、工具係合部31とねじ部32との間には鍔部34が形成されており、ねじ部32の後端側近傍、すなわち鍔部34の座面35にはガスケット5が嵌挿されている。
【0030】
主体金具30の先端部37には、空間形成部38が形成されている。空間形成部38は、中心電極10の先端部11および絶縁碍子20の先端部29との間に容積の小さい放電空間50を形成する。この放電空間50を「キャビティ50」とも呼ぶ。空間形成部38の中心電極10の先端部11と対向する位置には、開口部39が形成されている。開口部39の軸線は、軸線Oと一致している。開口部39は、キャビティ50の内部とプラズマジェット点火プラグ100の外部とを連通させている。この開口部39の内側には、接地電極40が設けられている。接地電極40は、耐火花消耗性に優れた金属から構成されており、一例としてインコネル(商標名)600または601等のニッケル系合金が用いられる。接地電極40は、軸線Oを中心とした貫通孔41(「オリフィス41」ともいう)を有する略筒形状に形成された貴金属チップであり、その厚み方向を軸線O方向に揃え、中心電極10の先端側に配置されている。接地電極40は、主体金具30の開口部39の内周面にレーザ溶接され、主体金具30と一体となっている。接地電極40の貫通孔41は、キャビティ50と連通している。
【0031】
図2は、プラズマジェット点火プラグ100の先端部付近を拡大した断面図である。中心電極10は、本体部14の先端側に縮径部15が形成されている。本体部14は、内部に金属芯13を含んで構成され、絶縁碍子20の先端側軸孔部21pfの内側に配置されている。本体部14の外径は、先端側軸孔部21pfの内径と、ほぼ等しくなるように構成されている。縮径部15は、本体部14よりも小さな外径を備え、絶縁碍子20の先端小径部21psの内側に配置されている。縮径部15の外径は、先端小径部21psの内径と、ほぼ等しくなるように構成されている。縮径部15の先端部11、すなわち、中心電極10の先端部11には、平坦な先端面11feが形成されている。また、この中心電極10の先端部11と同様に、絶縁碍子20の先端部29にも平坦な先端面29feが形成されている。本実施形態のプラズマジェット点火プラグ100は、軸線O方向において、中心電極10の先端面11feの位置と、絶縁碍子20の先端面29feの位置とが揃うように構成されている。なお、プラズマジェット点火プラグ100は、軸線O方向における先端面11feの位置と、先端面29feの位置とが揃っていなくてもよいが、軸線O方向における先端面11feの位置から先端面29feの位置までの距離は、±1.5mm以内とすることが好ましい。この理由は後述する。
【0032】
主体金具30の空間形成部38は、中心電極10の先端部11や絶縁碍子20の先端部29のさらに先端側(
図2の上方側)において、絶縁碍子20の外周側から軸線Oに向けて張り出した形状を有している。これにより、主体金具30の空間形成部38は、絶縁碍子20の先端部29の一部を軸線O方向と直交する方向で覆っている。なお、空間形成部38は、中心電極10の先端部11および絶縁碍子20の先端部29のうち、絶縁碍子20の先端部29の一部を覆う構成に限定されず、絶縁碍子20の先端部29の全部を覆っていてもよいし、さらに、中心電極10の先端部11の少なくとも一部を覆っていてもよい。すなわち、中心電極10の先端部11および絶縁碍子20の先端部29のうち、空間形成部38によって覆われる部分は、主体金具30の開口部39の大きさに依存する。また、空間形成部38が中心電極10の先端部11や絶縁碍子20の先端部29を覆う方向については、軸線O方向と交差していれば、軸線O方向と直交する方向に限定されない。空間形成部38が絶縁碍子20の先端部29の一部を覆うことによって、空間形成部38と中心電極10の先端部11および絶縁碍子20の先端部29との間に、放電空間としてのキャビティ50が形成されている。
【0033】
空間形成部38のキャビティ50と対向する面には、凹陥部38pbと、テーパー部38ptとが形成されている。凹陥部38pbは、凹状に窪んだ形状を有しており、凹陥部38pbの中心部に開口部39が形成されている。すなわち、凹陥部38pbは、開口部39を囲むように形成されている。本実施形態の凹陥部38pbは、ドーム状に凹んだ曲面を有しており、中心電極10の先端面11feの外周から凹陥部38pbまでの距離rが一定(半径r)となるように形成されている。なお、中心電極10の先端面11feの位置が絶縁碍子20の先端面29feの位置よりも軸線O方向において後端側(
図2の下方側)となっている場合には、絶縁碍子20の先端面29feのうち、中心電極10に最も近い位置X(先端面29feの内周)から凹陥部38pbまでの距離が上記の距離rとなる。凹陥部38pbは、軸線Oから凹陥部38pbまでの軸線O方向と直交する方向における距離mがプラズマジェット点火プラグ100の先端側(
図2の上方側)に向かうにつれて小さくなるように構成されている。
【0034】
テーパー部38ptは、凹陥部38pbの外周に沿って凹陥部38pbを囲むように形成されている。テーパー部38ptの外周は、絶縁碍子20の外周と接触または近接している。テーパー部38ptは、円錐状の面であり、絶縁碍子20の先端面29feからテーパー部38ptまでの軸線O方向の距離pが、プラズマジェット点火プラグ100の中心側(軸線O側)に向かうにつれて大きくなるように構成されている。言い換えれば、テーパー部38ptは、凹陥部38pbから離れるにつれて絶縁碍子20の先端面29feに近づくように構成されている。テーパー部38ptは、軸線Oからテーパー部38ptまでの軸線O方向と直交する方向における距離nがプラズマジェット点火プラグ100の先端側に向かうにつれて小さくなるように構成されている。
【0035】
キャビティ50は、空間形成部38の凹陥部38pbおよびテーパー部38ptと、中心電極10の先端面11feと、絶縁碍子20の先端面29feとによって形成されている。接地電極40は、開口部39からキャビティ50に向けて突出している。プラズマジェット点火プラグ100は、接地電極40と中心電極10との間の火花放電間隙において気中放電をおこなう。この気中放電によって絶縁破壊された後に印加されるエネルギーによって、キャビティ50内でプラズマが形成される。このプラズマは、接地電極40の貫通孔41を介してキャビティ50内からプラズマジェット点火プラグ100の外部に噴出される。以後、プラズマジェット点火プラグ100の外部に噴出されるプラズマを「フレーム」とも呼ぶ。
【0036】
図3は、プラズマジェット点火プラグ100の先端部付近の寸法を説明するための第1の説明図である。
図4は、プラズマジェット点火プラグ100の先端部付近の寸法を説明するための第2の説明図である。
図3(a)に示すように、中心電極10の先端部11と絶縁碍子20の先端部29との軸線O方向の距離をgとすると、プラズマジェット点火プラグ100は、g≦1.5mmとなるように構成されていることが好ましい。これは以下の理由による。まず、中心電極10の先端部11が絶縁碍子20の先端部29よりも1.5mmを超えて先端側にある場合、中心電極10と接地電極40との間の放電ギャップ(
図3(a)の距離a)が小さくなり、着火性能が低下する。これは、中心電極10と接地電極40との間の気中放電が小さくなり、この気中放電から生じるプラズマも小さくなってしまうためである。一方、絶縁碍子20の先端部29から接地電極40までの距離が大きくなり、キャビティ50の容積V(
図3(b))が増大によって着火性能が低下する。これは、キャビティ50内でプラズマの体積膨張が発生してもキャビティ50内部の圧力上昇が相対的に低下し、接地電極40の貫通孔41から外部に向けて噴出するプラズマフレームが小さくなるためである。中心電極10の先端部11が絶縁碍子20の先端部29よりも1.5mmを超えて後端側にある場合、中心電極10の先端部11は、絶縁碍子20の軸孔の内側に位置するため、絶縁碍子20の軸孔の側面において沿面放電が発生する。沿面放電が過度に発生する場合、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能の低下や耐久性の低下が生じる可能性がある。具体的には、絶縁碍子20の先端部において沿面放電が発生すると、その後発生するプラズマの発生方向もこの沿面放電方向と同じになる。そのため、フレームの噴出方向がプラグの軸方向ではなく径方向となり、フレームがキャビティ内から噴出しづらく、着火性能の低下が生じる可能性がある。また、絶縁碍子20が沿面放電によって削れてしまう、いわゆるチャンネリングが発生し、放電が正規の位置で発生しなくなる。そのため、プラズマの発生位置も正規の位置で発生しなくなり、フレームの噴出がスムーズに行われず、着火性能が低下する。
【0037】
図3(a)に示すように、絶縁碍子20の先端面29feと、テーパー部38ptとがなす角度をαとすると、プラズマジェット点火プラグ100の角度αは、5°≦α≦25°とすることが好ましい。また、角度αは、10°≦α≦20°とすることがさらに好ましい。この理由については、
図5および
図6を用いて後述する。
【0038】
また、
図3(a)に示すように、絶縁碍子20の先端部29のうち、絶縁碍子20の幅方向(ここでは、軸線O方向と直交する方向)において、中心電極10の先端部11に最も近い位置Xから主体金具30に最も近い位置Yまでの最短距離を距離Aとする。すなわち、距離Aは、絶縁碍子20の先端部29(先端面29fe)うち、キャビティ50に露出している部分の軸線O方向と直交する方向の幅である。ここでは、絶縁碍子20の先端部29の全体がキャビティ50に露出しているため、距離Aは、絶縁碍子20の肉厚に等しい。また、中心電極10の先端部11から接地電極40までの最短距離と、絶縁碍子20の先端部29から接地電極40までの最短距離のうちの小さい方を距離aとすると、距離Aと距離aとの比率A/aは、1.8≦A/a≦2.5とすることが好ましい。また、比率A/aは、2≦A/a≦2.5とすることがさらに好ましい。この理由については、
図7と
図8を用いて後述する。また、距離aは、1mm≦aとすることが好ましい。距離aを1mmより大きくした場合には、中心電極10と接地電極40との間の気中放電が発生しにくくなるため、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能が低下する。
【0039】
また、
図3(a)に示すように、中心電極10の先端部11から空間形成部38までの最短距離と、絶縁碍子20の先端部29において中心電極10の先端部11に最も近い位置Xから空間形成部38までの最短距離のうちの小さい方を距離rとする。すなわち、距離rは、中心電極10の先端面11feの位置が絶縁碍子20の先端面29feの位置よりも軸線O方向において先端側となっている場合や、先端面11feの位置と先端面29feの位置とが揃っている場合には、中心電極10の先端面11feの外周から凹陥部38pbまでの距離となる。一方、中心電極10の先端面11feの位置が絶縁碍子20の先端面29feの位置よりも後端側となっている場合には、絶縁碍子20の先端面29feのうち、中心電極10の先端部11に最も近い位置X(先端面29feの内周)から凹陥部38pbまでの距離となる。このとき、距離rと距離aとの比率r/aは、1.05≦r/a≦1.4とすることが好ましい。また、比率r/aは、1.2≦r/a≦1.3とすることがさらに好ましい。この理由については、
図9と
図10を用いて後述する。
【0040】
また、
図3(b)にハッチングで示すように、キャビティ50の容積を容積Vとすると、容積Vは、4.47m
3≦V≦6.67m
3とすることが好ましい。これは以下の理由による。まず、キャビティ50の容積Vが4.47m
3よりも小さくなると、中心電極10から主体金具30の凹陥部38pbまでの距離(
図3(a)の距離r)が絶対的に小さくなる。そのため、中心電極10と接地電極40との間の気中放電のほか、中心電極10と主体金具30の凹陥部38pbとの間においても気中放電が発生する。このように、気中放電の位置が一定にならない場合には、貫通孔41から噴出するプラズマの大きさについても一定とならないため、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能の低下が生じる。一方、キャビティ50の容積Vが6.67m
3よりも大きい場合にも着火性能が低下する。これは、上述したように、キャビティ50内でプラズマの体積膨張が発生してもキャビティ50内部の圧力上昇が相対的に低下し、接地電極40の貫通孔41から外部に向けて噴出するプラズマフレームが小さくなるためである。なお、ここでのキャビティ50の容積Vには、接地電極40の貫通孔41の内側の空間の容積は算入されない。
【0041】
また、
図4に示すように、接地電極40において、主体金具30の開口部39からキャビティ50に向けての突出長さを長さbとすると、長さbと距離aとの比率b/aは、0.1≦b/a≦0.4とすることが好ましい。また、比率b/aは、0.2≦b/a≦0.3とすることがさらに好ましい。この理由については、
図11と
図12を用いて後述する。なお、接地電極40において、貫通孔41の内径c、軸方向の長さd、肉厚e、空間形成部38との接触長さfは、任意に設定することができる。一例として、c=1.0mm、d=0.8mm、e=0.3mm、f=0.5mm程度を例示することができる。
【0042】
B.実施例:
上述した実施形態に基づき製造されたプラズマジェット点火プラグ100に対して、本発明の効果を確認するための種々の試験を行った。以下、これらの試験の結果を示す。
【0043】
B−1.第1の放電経路評価試験と第1の着火性能評価試験:
図5は、第1の評価試験に用いたプラズマジェット点火プラグ100のサンプルの構成と、各サンプルの評価結果を示した説明図である。まず、
図3(a)に示す角度αを変更させた複数のプラズマジェット点火プラグ100を用意し、これらのプラズマジェット点火プラグ100の放電経路と着火性能を評価する試験を行った。用意したサンプル(サンプルS01〜S06)は、角度αを「0°」、「5°」、「10°」、「15°」、「20°」、「25°」とした6種類のプラズマジェット点火プラグ100である。各サンプルの比率A/aは「2」とし、比率r/aは「1.2」とし、比率b/aは、「0.2」とした。
【0044】
まず、各サンプル(サンプルS01〜S06)に対して放電経路を評価するための机上火花試験をおこなった。試験は、各サンプルを加圧チャンバーに設置して、20℃の大気雰囲気下、0.4MPaの圧力下でおこなった。加圧チャンバー内の各サンプルに印加電圧を加えて火花放電を100回発生させ、飛び火位置(放電路)を目視にて測定した。
図5では、各サンプルにおいて、中心電極10と接地電極40との間における気中放電が発生せずに、絶縁碍子20の表面(先端面29fe)において沿面放電が発生した回数の百分率を示している。
【0045】
また、各サンプル(サンプルS01〜S06)に対して着火性能を評価するためのLean Limit試験をおこなった。具体的には、各サンプルを1.5L、4気筒ガソリンエンジンに取り付けた上で、エンジンを駆動させ、図示平均有効圧Piを270kPa、回転数を2000rpmとした。この状態で空燃比(A/F)を徐々に上昇させていき(燃料を徐々に少なくしていき)、失火の発生したサイクルが1000サイクルあたり2サイクル以上となったときの空燃比を限界空燃比として測定した。
図5では、限界空燃比が22以上となったサンプルを「○」とし、限界空燃比が22より小さく20より大きくなったサンプルを「△」とし、限界空燃比が20以下のサンプルを「×」として示している。
【0046】
図5の試験結果から、角度αが5°≦α≦25°のサンプルS02〜06では、限界空燃比の評価が「△」または「○」、すなわち、限界空燃比が20よりも大きくなる(A/F>20)ことがわかる。このことから、プラズマジェット点火プラグ100は、角度αを5°≦α≦25°とすることで着火性能が向上することがわかる。また、角度αが10°≦α≦20°のサンプルS03〜05では、限界空燃比の評価が「○」、すなわち、限界空燃比が22以上になる(A/F≧22)ことがわかる。このことから、プラズマジェット点火プラグ100は、角度αを10°≦α≦20°とすることで着火性能がさらに向上することがわかる。
【0047】
図6は、角度αの大小関係の違いによる放電経路と着火性の変化を説明するための説明図である。
図6(a)に示すように、角度αが小さくなりすぎると、絶縁碍子20の先端面29feから主体金具30の凹陥部38pbまでの距離が小さくなる。そのため、中心電極10と接地電極40との間の気中放電の代わりに、絶縁碍子20の先端面29feにおいて、中心電極10から主体金具30の凹陥部38pbに向かって沿面放電が発生する。この沿面放電によって、絶縁碍子20の先端面29feが溶融し、表面に溝状の痕(チャンネリング)が生じる。このチャンネリングによって、プラズマジェット点火プラグ100の耐久性が低下する。また、絶縁碍子20の先端面29feでの沿面放電により発生するプラズマは、発生方向が沿面放電方向と同じになる。そのため、フレームの噴出方向がプラグの軸方向ではなく径方向となり、フレームがキャビティ内から噴出しづらくなる。これによって、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能の低下が発生する。また、チャンネリングが発生すると放電が正規の位置で発生しなくなるため、プラズマの発生位置も正規の位置で発生しなくなり、フレームの噴出がスムーズにおこなわれなくなる。これによっても、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能の低下が発生する。
【0048】
一方、
図6(b)に示すように、角度αが大きくなりすぎると、キャビティ50の容積Vが大きくなり、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能が低下する。これは、キャビティ50の容積Vが大きくなると、キャビティ50内でプラズマの体積膨張が発生してもキャビティ50内部の圧力上昇が相対的に低下し、接地電極40の貫通孔41から外部に向けて噴出するプラズマフレームが小さくなるためである。
【0049】
B−2.第2の放電経路評価試験と第2の着火性能評価試験:
図7は、第2の評価試験に用いたプラズマジェット点火プラグ100のサンプルの構成と、各サンプルの評価結果を示した説明図である。まず、距離Aと距離a(
図3(a))との比率A/aを変更させた複数のプラズマジェット点火プラグ100を用意し、これらのプラズマジェット点火プラグ100の放電経路と着火性能を評価する試験を行った。用意したサンプル(サンプルS07〜S13)は、比率A/aを「0.8」、「1」、「1.4」、「1.8」「2」、「2.5」、「3」とした7種類のプラズマジェット点火プラグ100である。各サンプルの角度αは「15°」とし、比率r/aは「1.2」とし、比率b/aは、「0.2」とした。
【0050】
まず、各サンプル(サンプルS07〜S13)に対して放電経路を評価するための机上火花試験をおこなった。試験内容や試験条件は、第1の放電経路評価試験と同様である。
図7では、
図5と同様に、各サンプルにおいて、中心電極10と接地電極40との間における気中放電が発生せずに、絶縁碍子20の表面において沿面放電が発生した回数の百分率を示している。また、各サンプル(サンプルS07〜S13)に対して着火性能を評価するためのLean Limit試験をおこなった。試験内容や試験条件は、第1の着火性能評価試験と同様である。
図7では、
図5と同様に、限界空燃比が22以上となったサンプルを「○」とし、限界空燃比が22より小さく20より大きくなったサンプルを「△」とし、限界空燃比が20以下のサンプルを「×」として示している。
【0051】
図7の試験結果から、比率A/aが、1.8≦A/a≦2.5のサンプルS10〜S12では、限界空燃比の評価が「△」または「○」、すなわち、限界空燃比が20よりも大きくなる(A/F>20)ことがわかる。このことから、プラズマジェット点火プラグ100は、比率A/aを1.8≦A/a≦2.5とすることで着火性能が向上することがわかる。また、比率A/aが、2≦A/a≦2.5のサンプルS11、S12では、限界空燃比の評価が「○」、すなわち、限界空燃比が22以上になる(A/F≧22)ことがわかる。このことから、プラズマジェット点火プラグ100は、比率A/aを2≦A/a≦2.5とすることで着火性能がさらに向上することがわかる。
【0052】
図8は、比率A/aの大小関係の違いによる放電経路と着火性の変化を説明するための説明図である。
図8(a)に示すように、比率A/aが小さくなりすぎると、中心電極10と接地電極40との間の気中放電の代わりに、絶縁碍子20の先端面29feにおいて、中心電極10から主体金具30の凹陥部38pbに向かって沿面放電が発生する。この沿面放電によって、絶縁碍子20の先端面29feが溶融し、表面にチャンネリングが発生し、プラズマジェット点火プラグ100の耐久性の低下が生じる。また、絶縁碍子20の先端面29feでの沿面放電によって発生するプラズマは、発生方向が沿面放電方向と同じになるため、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能の低下が発生する。この理由は、
図6(a)で説明したとおりである。一方、
図8(b)に示すように、比率A/aが大きくなりすぎると、キャビティ50の容積Vが大きくなり、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能が低下する。この理由は、
図6(b)で説明したとおりである。
【0053】
B−3.第3の放電経路評価試験と第3の着火性能評価試験:
図9は、第3の評価試験に用いたプラズマジェット点火プラグ100のサンプルの構成と、各サンプルの評価結果を示した説明図である。まず、
図3(a)に示す距離rと距離aとの比率r/aを変更させた複数のプラズマジェット点火プラグ100を用意し、これらのプラズマジェット点火プラグ100の放電経路と着火性能を評価する試験を行った。用意したサンプル(サンプルS14〜S18)は、比率r/aを「0.9」、「1.05」、「1.2」、「1.3」、「1.4」とした5種類のプラズマジェット点火プラグ100である。各サンプルの角度αは「15°」とし、比率A/aは「2」とし、比率b/aは、「0.2」とした。
【0054】
まず、各サンプル(サンプルS14〜S18)に対して放電経路を評価するための机上火花試験をおこなった。試験内容や試験条件は、第1の放電経路評価試験と同様である。
図9では、各サンプルにおいて、中心電極10と接地電極40との間における気中放電が発生した回数の百分率を示している。また、各サンプル(サンプルS07〜S13)に対して着火性能を評価するためのLean Limit試験をおこなった。試験内容や試験条件は、第1の着火性能評価試験と同様である。
図9では、
図5と同様に、限界空燃比が22以上となったサンプルを「○」とし、限界空燃比が22より小さく20より大きくなったサンプルを「△」とし、限界空燃比が20以下のサンプルを「×」として示している。
【0055】
図9の試験結果から、比率r/aが、1.05≦r/a≦1.4のサンプルS15〜S18では、限界空燃比の評価が「△」または「○」、すなわち、限界空燃比が20よりも大きくなる(A/F>20)ことがわかる。このことから、プラズマジェット点火プラグ100は、比率r/aを1.05≦r/a≦1.4とすることで着火性能が向上することがわかる。また、比率r/aが、1.2≦r/a≦1.3のサンプルS16、S17では、限界空燃比の評価が「○」、すなわち、限界空燃比が22以上になる(A/F≧22)ことがわかる。このことから、プラズマジェット点火プラグ100は、比率r/aを1.2≦r/a≦1.3とすることで着火性能がさらに向上することがわかる。
【0056】
図10は、比率r/aの大小関係の違いによる放電経路と着火性の変化を説明するための説明図である。
図10(a)に示すように、比率r/aが小さくなりすぎると、中心電極10の先端部11から接地電極40までの距離aに対して、中心電極10の先端部11から主体金具30の凹陥部38pbまでの距離rが相対的に小さくなる。そのため、中心電極10と接地電極40との間の気中放電のほか、中心電極10と絶縁碍子20の主体金具30の凹陥部38pbとの間においても気中放電が発生する。このように、気中放電の位置が一定にならない場合には、貫通孔41から噴出するプラズマの大きさについても一定とならないため、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能の低下が生じる。一方、
図10(b)に示すように、比率r/aが大きくなりすぎると、キャビティ50の容積Vが大きくなり、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能が低下する。この理由の一つは、
図6(b)で説明したとおりである。また、他の理由としては、r/aが大きくなりすぎると、接地電極が過剰に突き出すことで、開口部の裏側にある接地電極と主体金具の間の空間で発生したプラズマが開口部へ回り込むことが難しくなり、有効にプラズマが噴出できなくなるためである。
【0057】
B−4.第4の放電経路評価試験と第4の着火性能評価試験:
図11は、第4の評価試験に用いたプラズマジェット点火プラグ100のサンプルの構成と、各サンプルの評価結果を示した説明図である。まず、接地電極40の突き出し長さb(
図4)と距離a(
図3(a))との比率b/aを変更させた複数のプラズマジェット点火プラグ100を用意し、これらのプラズマジェット点火プラグ100の放電経路と着火性能を評価する試験を行った。用意したサンプル(サンプルS19〜S24)は、比率b/aを「0」、「0.1」、「0.2」、「0.3」、「0.4」、「0.5」とした6種類のプラズマジェット点火プラグ100である。各サンプルの角度αは「15°」とし、比率A/aは「2」とし、比率r/aは「1.2」とした。
【0058】
まず、各サンプル(サンプルS19〜S24)に対して放電経路を評価するための机上火花試験をおこなった。試験内容や試験条件は、第1の放電経路評価試験と同様である。
図11では、各サンプルにおいて、中心電極10と接地電極40との間における気中放電が発生した回数の百分率を示している。また、各サンプル(サンプルS19〜S24)に対して着火性能を評価するためのLean Limit試験をおこなった。試験内容や試験条件は、第1の着火性能評価試験と同様である。
図11では、
図5と同様に、限界空燃比が22以上となったサンプルを「○」とし、限界空燃比が22より小さく20より大きくなったサンプルを「△」とし、限界空燃比が20以下のサンプルを「×」として示している。
【0059】
図11の試験結果から、比率b/aが、0.1≦b/a≦0.4のサンプルS20〜S23では、限界空燃比の評価が「△」または「○」、すなわち、限界空燃比が20よりも大きくなる(A/F>20)ことがわかる。このことから、プラズマジェット点火プラグ100は、比率b/aを0.1≦b/a≦0.4とすることで着火性能が向上することがわかる。また、比率b/aが、0.2≦b/a≦0.3のサンプルS21、S22では、限界空燃比の評価が「○」、すなわち、限界空燃比が22以上になる(A/F≧22)ことがわかる。このことから、プラズマジェット点火プラグ100は、比率b/aを0.2≦b/a≦0.3とすることで着火性能がさらに向上することがわかる。
【0060】
図12は、比率b/aの大小関係の違いによる放電経路と着火性の変化を説明するための説明図である。
図12(a)に示すように、比率b/aが小さくなりすぎると、中心電極10の先端部11から接地電極40までの距離と、中心電極10の先端部11から主体金具30の凹陥部38pbまでの距離とがほぼ等しくなる。そのため、中心電極10と接地電極40との間の気中放電のほか、中心電極10と主体金具30の凹陥部38pbとの間においても気中放電が発生する。このように、気中放電の位置が一定にならない場合には、貫通孔41から噴出するプラズマの大きさについても一定とならないため、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能の低下が生じる。一方、
図12(b)に示すように、比率b/aが大きくなりすぎると、接地電極40の貫通孔41が長くなり、貫通孔41から外部に向けてプラズマフレームが噴出しにくくなる。また、放電ギャップが小さくなり発生するプラズマが小さくなる。また、接地電極が過剰に突き出すことで、開口部の裏側にある接地電極と主体金具の間の空間で発生したプラズマが開口部へ回り込むことが難しくなり、有効にプラズマが噴出できなくなる。これらの原因によって、プラズマジェット点火プラグ100の着火性能が低下する。
【0061】
以上説明した第1実施形態のプラズマジェット点火プラグ100によれば、接地電極40が開口部39からキャビティ50に向けて突出しており、また、主体金具30の凹陥部38pbが凹状に窪んでいるため、中心電極10と主体金具30との間の気中放電の発生を抑制して、中心電極10と接地電極40との間の気中放電によってプラズマを発生させることができる。これにより、プラズマジェット点火プラグの着火性能の向上を図ることができる。また、第1実施形態のプラズマジェット点火プラグ100によれば、中心電極10と接地電極40との間において気中放電が発生するため、絶縁碍子20の先端面29feにおける沿面放電の発生が抑制される。そのため、プラズマジェット点火プラグ100の耐久性の向上を図ることができる。また、接地電極40がキャビティ50に突出しているため、中心電極10と接地電極40との間で安定して気中放電を発生させることができる。これにより、プラズマジェット点火プラグの着火性能の向上を図ることができる。
【0062】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0063】
C−1.変形例1:
図13は、変形例1におけるプラズマジェット点火プラグ100a,100bの概略構成を説明するための説明図である。接地電極40の形状は、本実施形態に限定されず種々の形状とすることができる。例えば、
図13(a)に示すプラズマジェット点火プラグ100aように、接地電極40は、貫通孔(オリフィス)41がプラズマジェット点火プラグの先端側(
図13の上方側)に向かって縮径する形状であってもよい。また、
図13(b)に示すプラズマジェット点火プラグ100bように、接地電極40は、貫通孔41がプラズマジェット点火プラグの先端側に向かって拡径する形状であってもよい。
【0064】
C−2.変形例2:
図14は、変形例2におけるプラズマジェット点火プラグ100cの概略構成を説明するための説明図である。主体金具30の凹陥部38pbの形状は、本実施形態に限定されず種々の形状とすることができる。例えば、本実施形態の凹陥部38pbは、中心電極10の先端面11feの外周から凹陥部38pbまでの距離rが一定となるように形成されているが、凹陥部38pbは、中心電極10の先端面11feの外周から凹陥部38pbの距離rが一定ではない形状であってもよい。具体的には、
図14に示すプラズマジェット点火プラグ100cのように、凹陥部38pbの接地電極40付近から中心電極10までの距離r1と、凹陥部38pbのテーパー部38pt付近から中心電極10までの距離r2とが異なる(ここでは、r1<r2)ように構成されていてもよい。
【0065】
C−3.変形例3:
図15は、変形例3におけるプラズマジェット点火プラグ100dの概略構成を説明するための説明図である。本実施形態の凹陥部38pbは、ドーム状に凹んだ曲面を有しているが、凹陥部38pbの形状はこれに限定されない。例えば、
図15に示すプラズマジェット点火プラグ100dのように、凹陥部38pbは、複数の平坦な面を組み合わせた面や、傾きの異なる複数の円錐面を組み合わせた曲面によって構成されていてもよい。
【0066】
C−4.変形例4:
図16は、変形例4におけるプラズマジェット点火プラグ100eの概略構成を説明するための説明図である。本実施形態の空間形成部38は、キャビティ50と対向する面に、凹陥部38pbと、テーパー部38ptとが形成されているものとして説明した。しかし、
図16に示すプラズマジェット点火プラグ100eのように、空間形成部38は、キャビティ50と対向する面に、凹陥部38pbのみを備え、テーパー部38ptを備えていなくてもよい。
【0067】
C−5.変形例5:
図17は、変形例5におけるプラズマジェット点火プラグ100fの概略構成を説明するための説明図である。本実施形態のプラズマジェット点火プラグ100は、絶縁碍子20の先端面29feの全体がキャビティ50に露出しているものとして説明した。しかし、
図17に示すプラズマジェット点火プラグ100fのように、空間形成部38は、キャビティ50と対向する面に、テーパー部38ptを備えておらず、絶縁碍子20の先端面29feは、その一部のみがキャビティ50に露出していてもよい。
【0068】
C−6.変形例6:
本実施形態では、主体金具30と接地電極40とは別体であるものとして説明したが、接地電極40は、主体金具の一部として形成されていてもよい。