特許第6034220号(P6034220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6034220α位置換アクリル酸エステル類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6034220
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】α位置換アクリル酸エステル類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/31 20060101AFI20161121BHJP
   C07C 69/734 20060101ALI20161121BHJP
   C07C 67/343 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   C07C67/31
   C07C69/734 Z
   !C07C67/343
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-37862(P2013-37862)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-162784(P2014-162784A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 敦
(72)【発明者】
【氏名】中村 涼
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/148903(WO,A1)
【文献】 特開平07−285906(JP,A)
【文献】 特開平08−183755(JP,A)
【文献】 特開2000−319228(JP,A)
【文献】 特開平08−325200(JP,A)
【文献】 特開2010−235546(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/084320(WO,A1)
【文献】 特開平10−226669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/31
C07C 69/734
C07C 67/343
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】
(式中、は、水素原子又は炭素数1〜30の直鎖状又は分岐状アルキル基を表す。は、水素原子を表す。は、メチル基、エチル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基のいずれかを表す。)で表される化合物、又は、下記一般式(6);
【化2】
(式中、R及びRは、前記と同じである。)で表される化合物と、下記一般式(7);
【化3】
(式中、Yは、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基、アリル基、メタリル基、クロチル基のいずれかを表す。)で表されるヒドロキシ基含有化合物とを反応させて得られる、下記一般式(2);
【化4】
(式中、R及びYは、前記と同じである。)で表されるα位置換アクリル酸エステルを製造する方法であって、
該製造方法は、下記一般式(3);
【化5】
(式中、Rは、前記と同じである。)で表されるアクリル酸エステルと下記一般式(8);
【化6】
(式中、Rは、前記と同じである。)で表される構造を有する化合物又はその多量体であるアルデヒドとを1.1:1〜10:1のモル比で反応させ、一般式(1)又は一般式(6)で表される化合物を含む反応液を得る第1の工程
第1の工程で得られた反応液を一般式(7)で表されるヒドロキシ基含有化合物と反応させる第2の工程、及び、一般式(3)で表されるアクリル酸エステルを共沸剤として用いて、反応液中の水を留去する工程を含む
ことを特徴とするα位置換アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、水と、前記アクリル酸エステルと前記アルデヒドとの反応で副生するアルコールとの質量比を1:0〜1:2に保持した相分離槽で共沸剤と水とを相分離することを特徴とする請求項に記載のα位置換アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、第1の工程で得られた反応液に、酸及び/又はその塩を供給する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のα位置換アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程で得られた反応液に、酸及び/又はその塩を供給する工程は、アルデヒドの濃度が反応液全量に対して0.01〜10質量%である、第1の工程で得られた反応液に対して、酸及び/又はその塩を供給する工程であることを特徴とする請求項に記載のα位置換アクリル酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α位置換アクリル酸エステル類の製造方法に関する。より詳しくは、光学材料や塗料、反応性希釈剤、界面活性剤原料、医農薬製造用の中間体、レジスト用原料等の他、様々な用途に有用なα位置換アクリル酸エステル類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α位置換アクリル酸エステル類は、光学材料や塗料、反応性希釈剤、界面活性剤原料、医農薬製造用の中間体、レジスト用原料等の他、様々な用途に有用なものであることから注目を集めている化合物群である。このようなα位置換アクリル酸エステル類については、活発に研究が進められており、その合成方法においても、これまでに種々の方法が試みられている。
【0003】
従来のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法としては、例えば、α−(ブロモメチル)アクリル酸メチルとアルコールとを、トリエチルアミン存在下に反応させて、対応するα−(アルコキシメチル)アクリル酸メチルを製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステル類と、ヒドロキシ基含有化合物とを、酸触媒の存在下に反応させて、対応するα−(アルコキシメチル)アクリル酸エステル類を製造する方法(例えば、特許文献1参照。)や、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルとエタノールとを、濃硫酸の存在下に反応させて、α−(エトキシメチル)アクリル酸エチルを製造する方法(例えば、非特許文献2参照。)、更にはα−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルとアルコールとを、固体酸であるモンモリロナイトの存在下に反応させて、対応するα−(アルコキシメチル)アクリル酸メチルを製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献3参照。)。その他、アクリル酸メチルとホルムアルデヒドとを、トリエチレンジアミン存在下に反応させて、対応するα−(アルコキシメチル)アクリル酸メチルを製造する方法(例えば、特許文献2参照。)や、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルとアルコールとを、3級アミンの存在下に反応させて、対応するα−(アルコキシメチル)アクリル酸エチルを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。更に、ルイス塩基性官能基を有するアクリル酸誘導体と活性水素含有化合物とを3級アミンと酸及び/又はその塩とが共存した条件下で反応を行ってα位置換アクリル酸エステル類を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3907738号公報
【特許文献2】米国特許第4889948号明細書
【特許文献3】特許第3943180号公報
【特許文献4】国際公開第2011/148903号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ブンイチロウ・ヤマダ(Bunichiro Yamada)、外2名、「マクロモレキュラー ケミー(Makromolekulare Chemie)」、1991年、第192巻、p.2713−2722
【非特許文献2】バルドウィン(M.G.Baldwin)、外1名、「ジャーナル オブ ポリマー サイエンス:パート A(Journal of Polymer Science:Part A)」、1963年、第1巻、p.1919−1926
【非特許文献3】ポヌサミー・シャムガン(Ponnusamy Shanmugam)、外1名、「ケミストリー レターズ(Chemistry Letters)」、2002年、第31巻、p.1212−1213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、様々なα位置換アクリル酸エステル類の製造方法が開示されているが、上記非特許文献1の方法は、原料として反応性の高いハロメチルアクリル酸エステルを用いる方法であり、高収率でα位置換アクリル酸エステル類が得られる製造方法である。しかしながら、ハロメチルアクリル酸エステルは高価であり入手するのが困難であることから、工業的な製造を行うには経済的に課題があった。更には、副生成物として大量のハロゲン化水素又はそのアンモニウム塩が生じるために、それによって装置の腐食が進行するという問題や、廃棄物を無毒化しなければならないという問題もあった。
また、特許文献1、非特許文献2のように、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステル類と、ヒドロキシ基含有化合物とを、酸触媒の存在下に反応させる場合には、生成物であるα−(アルコキシメチル)アクリル酸エステル類の生成と同時に、α−(アルコキシメチル)アクリル酸エステル類の加水分解反応も進行してしまうために、反応収率が低くなり効率的な反応とは言い難いものであった。更には、α−(アルコキシメチル)アクリル酸エステル類の生成反応の副反応としてエステル交換反応が進行するために、エステル置換基の構造とヒドロキシ基含有化合物のヒドロキシ基以外の部分の構造とが異なる場合には、生成物の生成選択性が低くなってしまうものであった。また、非特許文献3においては、触媒として固体酸であるモンモリロナイトを用いており、この場合には、固体酸が反応原料の60質量%と多量に必要となり、工業的な製造方法としては課題のあるものであった。
そして、特許文献2、特許文献3のように、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルを原料に、3級アミンを触媒として用いる場合には、上記同様、生成物の生成反応と共にエステル交換反応が進行し、更には、反応時間が長く必要であり、原料の転化率及び生成物の収率も低いものであった。
また、特許文献4の方法は、α位置換アクリル酸エステル類を短時間かつ高収率で得ることができる方法であるが、更に高い収率でα位置換アクリル酸エステル類を製造することができる方法を開発する工夫の余地があった。
このように、従来α位置換アクリル酸エステル類の製造方法として提案されている方法は、いずれも工業的な製造方法としてより好適なものとなるよう工夫する余地があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、装置腐食の問題や廃棄物無毒化の必要がなく、安価な原料からより高い収率でα位置換アクリル酸エステル類を製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、α位置換アクリル酸エステル類の製造方法について種々検討し、特定の構造のアクリル酸誘導体とヒドロキシ基含有化合物との反応によりα位置換アクリル酸エステル類を製造する方法に注目した。本発明者は、アクリル酸エステル類が、平衡反応であるこの反応の副生物である水を留去する一方、反応原料であるヒドロキシ基含有化合物は留去しにくい共沸剤としてはたらくことを見出し、アクリル酸エステル類を含む反応液中でこの反応を行うと、反応原料であるヒドロキシ基含有化合物は反応系中に残しつつ副生物である水を効率的に留去できるため、平衡を生成物側に傾け、α位置換アクリル酸エステル類を高い収率で製造することが可能となることを見出した。そして本発明者は、アクリル酸エステル類とアルデヒド類とを特定の比率で含む反応原料の反応によってこの反応に用いる特定の構造のアクリル酸誘導体を製造し、製造されたアクリル酸誘導体を含む反応液をヒドロキシ基含有化合物と反応させると、装置腐食の問題や廃棄物無毒化の必要がなく、安価なアクリル酸エステルとアルデヒド類とを最初の出発原料とするシンプルなプロセスでα位置換アクリル酸エステル類を効率的に高い収率で製造することができることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。Rは、炭素数1〜30の有機基を表す。)で表される化合物と、ヒドロキシ基含有化合物とを反応させて得られる、下記一般式(2);
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、R、及びRは、前記と同じである。Yは、炭素数1〜30の有機基を表す。)で表されるα位置換アクリル酸エステル類を製造する方法であって、
上記製造方法は、下記一般式(3);
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、Rは、前記と同じである。)で表されるアクリル酸エステル類と、アルデヒド類とを1.1:1〜10:1のモル比で反応させ、一般式(1)で表される化合物を含む反応液を得る第1の工程、及び、上記第1の工程で得られた反応液を該ヒドロキシ基含有化合物と反応させる第2の工程を含むことを特徴とするα位置換アクリル酸エステル類の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0016】
以下においては、まず、本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法における各工程について記載し、その後に、本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法に用いられる化合物について記載する。
【0017】
本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法は、上記一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類と、アルデヒド類とを1.1:1〜10:1のモル比で反応させ、一般式(1)で表される化合物を含む反応液を得る第1の工程と、該第1の工程で得られた反応液を、ヒドロキシ基含有化合物と反応させる第2の工程とを含む方法であるが、これら2つの工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。
【0018】
上記第2の工程は、第1の工程で得られた反応液を、ヒドロキシ基含有化合物と反応させる工程である。ここで、第1の工程で得られた反応液を、ヒドロキシ基含有化合物と反応させる、とは、第1の工程で得られた反応液を精製工程等の他の工程を経ることなく、そのままヒドロキシ基含有化合物と反応させることだけでなく、第1の工程で得られた反応液を精製工程等の他の工程に供し、当該他の工程を経た後にヒドロキシ基含有化合物と反応させることも含む。また第1の工程の反応を後述する反応蒸留で行った場合のように反応と精製とを同時に行って得られた反応液をヒドロキシ基含有化合物と反応させることも含む。上記のとおり、本発明においては、第2の工程で用いられる一般式(1)で表される化合物を含む反応液が、共沸剤としての効果を充分に発揮することができる程度のアクリル酸エステル類を含んでいることが重要である。第1の工程で得られた反応液を精製することなく、第2の工程に用いることは、共沸剤としての効果を充分に発揮することができる程度のアクリル酸エステル類を含む反応液をヒドロキシ基含有化合物と反応させる1つの方法であり、そのような方法は本発明の好適な実施形態の1つである。ただし、共沸剤としての効果を充分に発揮することができる程度のアクリル酸エステル類を含む反応液を第2の工程でヒドロキシ基含有化合物と反応させることになる限り、第1の工程と第2の工程との間に精製工程を含んでいてもよく、後述する反応蒸留のように、反応と精製とを同時に行う方法により第1の工程を行ってもよい。
本発明において、精製工程には、反応液中の水や第1の工程の反応で副生するアルコール類等を除く工程が含まれ、後述する一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類を共沸剤として用いて、反応液中の水を留去する工程は精製工程に含まれる。
精製工程における精製方法は特に制限されないが、蒸留や相分離(抽出)を含む方法が好ましい。
【0019】
本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法において、第1の工程の反応とともに、又は、第1の工程の反応が終了した後、第2の工程の反応の前に精製工程を行う場合、精製工程を経た後の反応液が第2の工程に供されることになるが、第2の工程に供される、すなわち、第2の工程でヒドロキシ基含有化合物と反応する直前の一般式(1)で表される化合物を含む反応液は、該反応液中の一般式(1)で表される化合物に対してモル比で0.01〜10倍のアクリル酸エステル類を含むことが好ましい。より好ましくは、0.1〜5倍のアクリル酸エステル類を含むことであり、更に好ましくは、0.1〜1.5倍のアクリル酸エステル類を含むことである。
【0020】
本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法における第1の工程は、上記一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類とアルデヒド類とを1.1:1〜10:1のモル比で反応させ、上記一般式(1)で表される化合物を含む反応液を得る工程である。このようなモル比で反応させることで、アルデヒド類の転化率を高めることができ、また、得られる反応液に上記一般式(1)で表される化合物とともに、充分な量のアクリル酸エステル類が含まれることになる。
第1の工程の反応に供される一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類とアルデヒド類とのモル比は、1.1:1〜5:1であることが好ましい。より好ましくは、1.5:1〜3:1である。
【0021】
本発明の第1の工程の反応は、触媒を用いて行うことが好ましい。第1の工程の反応に用いることができる触媒としては、下記文献に示される森田・ベイリス・ヒルマン反応に用いることができる触媒であれば特に制限されるものではないが、例えば、後述する3級アミン等の窒素含有化合物;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン等のリン化合物;酸素化合物;硫黄化合物;セレン化合物;フッ素化合物;塩素化合物;臭素化合物;ヨウ素化合物等が挙げられる。
これらの中でも、トリメチルアミン、トリエチレンジアミン、キヌクリジン、ピロコリジン等の3級アミンは、第2の工程の触媒としても作用するものであるため特に好ましい。
Deevi Basavaiah、外2名、「ケミカル レビュー(Chemical Review)」、2003年、第103巻、p.811−891
【0022】
本発明の第1の工程の反応における触媒の使用量としては、アクリル酸エステル類100質量%に対して、50〜0.1質量%であることが好ましい。このような配合割合とすることによって、一般式(1)で表される化合物を適切に合成することが可能となる。より好ましくは、20〜0.5質量%であり、更に好ましくは、10〜1質量%である。
【0023】
上記第1の工程における反応条件は、特に制限されないが、反応原料である一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類、及び、生成物である一般式(1)で表される化合物は、いずれも重合し易いことから、上記反応工程中に重合反応が進行してしまうのを防ぐために、反応系中に、重合禁止剤及び/又は分子状酸素を添加して反応を行うことが好ましい。
【0024】
上記重合禁止剤としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノン、t−ブチルカテコール、t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノール、フェノチアジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等が挙げられる。これら重合防止剤は、単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。また、重合防止剤の添加量としては、特に制限されず、適宜設定することができるが、例えば、一般式(1)で表される化合物100質量%に対して、0.001〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.01〜5質量%である。
【0025】
上記分子状酸素としては、例えば、分子状酸素;分子状酸素と、窒素、アルゴン等の不活性ガスとの混合ガス;空気を用いることができる。分子状酸素の導入方法としては、反応系中に溶存させる、又は、吹き込む(いわゆる、バブリング)ことにより導入することができる。
また、分子状酸素の供給量としては、特に制限されないが、反応系の気相部の酸素濃度が0.01〜10容量%となるように供給することが好ましい。
なお、上記反応工程中の重合反応を充分に抑制するためには、重合禁止剤と分子状酸素とを併用することが好ましい。
【0026】
本発明の第1の工程の反応は溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、反応を阻害するものでなければ特に制限されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、トリメチルノナノン、アセトニトリルアセトン、メシチルオキシド、ホロン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジエチルアセタール、ジヘキシルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、トリオキサン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸i-プロピル、酢酸t-ブチル等のエステル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;水等が挙げられる。
これらの中でも、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、水が好ましい。これら溶媒は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
本発明の第1の工程の反応における、溶媒の使用量としては、アクリル酸エステル類100質量%に対して、10000〜0質量%であることが好ましい。このような配合割合とすることによって、一般式(1)で表される化合物を適切に合成することが可能となる。より好ましくは、1000〜0質量%であり、更に好ましくは、100〜0質量%である。
【0028】
本発明の第1の工程の反応の反応温度は、60〜120℃であることが好ましい。このような反応温度であると、反応時間が長くなり過ぎることがなく、また、反応原料である一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類や生成物である一般式(1)で表される化合物の重合も抑制することができる。より好ましくは、70〜100℃である。
また反応時間は、反応原料や触媒の種類や量、反応温度に応じて適宜設定することができるが、1〜30時間であることが好ましい。より好ましくは、5〜20時間である。
反応圧力は特に制限されず、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれの条件下で行ってもよい。
【0029】
本発明の製造方法は、一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類を共沸剤として用いて、反応液中の水を留去する工程を含むことが好ましい。
本発明の第2の工程は、第1の工程の反応で得られた上記一般式(1)で表される化合物と、ヒドロキシ基含有化合物とを反応させて上記一般式(2)で表されるα位置換アクリル酸エステル類を製造する反応である。この第2の工程の反応では水が副生する。また、第1の工程の反応において溶媒として水が使用された場合には、第1の工程で得られた、一般式(1)で表される化合物を含む反応液は水を含んでいる。
第2の工程の反応は平衡反応であり、α位置換アクリル酸エステル類の収率を上げるためには、反応系中に存在する水を留去することが重要である。水を充分に留去するためには共沸剤を用いて反応液を蒸留することが好ましいが、共沸剤の種類によっては水だけでなく、一般式(1)で表される化合物と反応するヒドロキシ基含有化合物も一緒に留去してしまい、α位置換アクリル酸エステル類を高い収率で得ることができない場合がある。しかし、一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類は、水を留去し、ヒドロキシ基含有化合物は留去しにくい共沸剤としてはたらくものであることから、一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類を共沸剤として用いて、反応液中の水を留去することで、α位置換アクリル酸エステル類の生成を促進し、収率を上げることができる。
【0030】
本発明における第1の工程の反応に、パラホルムアルデヒドのように常温で固体のアルデヒドを用いる場合、上記一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類を共沸剤として用いて、反応液中の水を留去する工程は、第1の工程の反応が充分に進行してから行うことが好ましい。常温で固体のアルデヒドが多く残留した反応液を加熱して蒸留を行うと、アルデヒドが気化し、気化して蒸留装置から出ていったアルデヒドが反応装置中の配管部分で冷却されて固体に戻り、配管の閉塞をおこすおそれがある。
好ましくは、第1の工程の反応に原料として供給されたアルデヒド類の一般式(1)で表される化合物への転化率が50モル%以上となった後に上記一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類を共沸剤として用いて、反応液中の水を留去する工程を行うことである。
アルデヒド類の一般式(1)で表される化合物への転化率は、反応液をサンプリングしてクロマトグラフィーによりアルデヒドやアルデヒド由来の誘導体を定量することにより確認することができる。
【0031】
本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法は、水とアルコール類との質量比を1:0〜1:2に保持した相分離槽で水と共沸剤とを相分離することが好ましい。
本発明の第1の工程において、一般式(3)で表されるアクリル酸エステルとして、Rが炭素数1〜10のアルキル基であるものを用いた場合、メタノール等の低級アルコール類が副生することになる。本発明の第1の工程の反応の副生物であるアルコール類を含む反応液を第2の工程で使用すると、第2の工程で当該副生したアルコール類と一般式(1)で表される化合物とが反応する副反応がおこり、目的物であるα位置換アクリル酸エステル類の収率が低下する原因となるため、副生物であるアルコール類を除去することが好ましい。これらの低級アルコール類を除去する方法として相分離を用いる方法が好適であるが、これらの低級アルコール類は相分離時の油層にも水層にも溶解するため、相分離槽内でのアルコール類濃度が上がると、油層と水層とが混ざって均一層になる。本発明において共沸剤として用いるアクリル酸エステル類は、極性が高く、水とも混ざりやすいため、油層と水層との分離が充分でない相分離槽で相分離を行うと、反応液に共沸剤としての機能を発揮するだけの充分な量のアクリル酸エステル類が残存しないおそれがある。
上記のように相分離槽内の水とアルコール類との質量比を1:0〜1:2に保持すれば、油層と水層とが分離した状態が保持され、相分離した油層を回収した反応液に充分な量のアクリル酸エステル類を残存させることができる。また、油層と水層との分離が充分であると、反応液からの水の除去も充分に行うこともできる。
上記特許文献4等においては、本発明の第2の工程と同様の反応において、共沸剤としてジイソプロピルエーテル等が用いられているが、ジイソプロピルエーテル等は、層分離しやすいため、このような水とアルコール類との質量比の管理は必要とならない。このような水とアルコール類との質量比の特定は、アルコール類が副生する第1の工程の反応で得られた反応液を第2の工程で用い、更に、極性が高く、水とも混ざりやすいアクリル酸エステル類を共沸剤として用いる本発明の製造方法において特に技術的意義があるといえる。
相分離槽の水とアルコール類との質量比は、より好ましくは、1:0〜1:0.5であり、更に好ましくは、1:0〜1:0.2である。
相分離槽内の水とアルコール類との質量比は、相分離槽内を組成分析し、必要により水相を抜き出すことにより管理することができる。
【0032】
上記相分離は、第1の工程の反応で得られた反応液、及び/又は、第2の工程の反応で得られた反応液を蒸留し、該蒸留によって得られた塔頂液に対して行うことが好ましい。
上述したとおり、目的物であるα位置換アクリル酸エステル類の収率を高くするためには、第1の工程の反応で副生するアルコール類を除去することと、第2の工程において反応液中の水を除去することが重要である。
このため、第1の工程の反応で得られた反応液や第2の工程の反応で得られた反応液を蒸留して第1の工程の副生物であるアルコール類や水を除去することが考えられるが、蒸留した場合、アルコール類や水とともに一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類も共沸剤として塔頂液に留出することになる。しかし、反応液中のアルコール類や水を蒸留により充分に取り除くためには、反応液中に一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類が存在することが必要である。このため、蒸留によって得られた塔頂液を相分離して、不要なアルコール類や水と、一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類とを分離し、一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類を回収して反応液に戻すことが好適となる。このようにすることで、反応液中の一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類の減少を抑制し、副生するアルコール類や水等の不純物の除去を充分に行って、α位置換アクリル酸エステル類をより高い収率で製造することができる。
【0033】
本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法において特に好ましい実施の形態は、第1の工程の反応及び/又は第2の工程の反応をしつつ反応液の蒸留も同時に進める反応蒸留を行う形態である。
第1の工程の反応では、アルコールが副生することになる。第1の工程を反応蒸留により行って、副生するアルコールを除去しながら反応をすすめることで、第1の工程で生成する上記一般式(1)で表される化合物と副生するアルコールとのエステル交換反応による副生成物の生成を効果的に抑制することができる。また上記のように、第2の工程の反応は平衡反応であるため、反応系中の水を蒸留により除去しながら反応を行うことで、α位置換アクリル酸エステル類の収率を高くすることができる。
本発明の製造方法における第1の工程、第2の工程のいずれか一方を反応蒸留で行ってもよく、両方を反応蒸留で行ってもよいが、求められる構造のα位置換アクリル酸エステル類の収率を高くする点からは、第1の工程、第2の工程の両方を反応蒸留で行うことが最も好ましい。
【0034】
本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法は、第1の工程で得られた反応液に、酸及び/又はその塩を供給する工程を含むことが好ましい。本発明の第2の工程の反応は、触媒として酸及び/又はその塩を用いて行われることが好ましいため、第1の工程で得られた反応液に、酸及び/又はその塩を供給する工程を含むことで、第2の工程の反応を促進することができ、目的とするα位置換アクリル酸エステル類の収率を高くすることができる。
第1の工程で得られた反応液が、第1の工程と第2の工程との間に精製工程を経る場合、酸及び/又はその塩は、当該精製工程を経た後の反応液に対して供給されることが好ましい。
なお、ここでいう第1の工程で得られた反応液とは、第1の工程を終了し、第2の工程に供給される反応液を意味する。
【0035】
上記酸及び/又はその塩を供給する工程は、第1の工程で得られた反応液に対して、第2の工程の反応の開始時に一括添加する工程であってもよく、第2の工程の反応を行いながら逐次添加する工程であってよい。
【0036】
上記第1の工程で得られた反応液に、酸及び/又はその塩を供給する工程は、アルデヒド類の濃度が反応液全量に対して0.01〜10質量%である、第1の工程で得られた反応液に対して、酸及び/又はその塩を供給する工程であることが好ましい。
第1の工程の反応で用いられるアルデヒド類は、酸及び/又はその塩を失活させるおそれがあるため、酸及び/又はその塩の供給は、アルデヒド類の濃度が反応液全量に対して0.01〜10質量%に低下した反応液に対して行うことが好ましい。アルデヒド類の濃度が充分に低下した反応液に酸及び/又はその塩を供給し、第2の工程の反応を行うことで触媒である酸及び/又はその塩の作用により第2の工程の反応を促進し、α位置換アクリル酸エステル類の収率を高める効果を充分に発揮させることができる。
酸及び/又はその塩を供給する際のアルデヒド類の反応液全量に対する濃度は、より好ましくは、0.01〜7質量%であり、更に好ましくは、0.01〜5質量%であり、特に好ましくは、0.01〜3質量%である。
反応液中のアルデヒド類の濃度は、反応液をサンプリングしてクロマトグラフィーによりアルデヒドやアルデヒド由来の誘導体を定量することで確認できる。
【0037】
上記第1の工程で得られた反応液に供給する酸及び/又はその塩としては、ブレンステッド酸性又はルイス酸性を有しており、反応溶液中において全体として酸としてはたらいて、一般式(1)で表される化合物からルイス塩基性官能基を脱離させて活性水素含有化合物の残基に交換する反応を促進するものであり、かつ、反応液が3級アミンを含む場合には、共存する3級アミンと塩を形成してその求核性を著しく阻害するものでなければ特に制限されないが、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、安息香酸、テレフタル酸、フタル酸、マレイン酸、フェノール類、ペンタフルオロフェノール、トリクロロフェノール(TCP)類、ジクロロフェノール、パラメトキシフェノール、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、バナジン酸、タングステン酸、モリブデン酸等の無機酸;該有機酸又は無機酸とアミン類との塩若しくは混合物;ホウ酸エステル類、ボロン酸類、ボロン酸エステル類、ハロゲン化ホウ素類、トリアリールボラン類等のホウ素化合物;酢酸亜鉛、亜鉛トリフラート、亜鉛アセチルアセトナート、酢酸マグネシウム、酢酸ランタン、ランタントリフラート、酢酸アルミニウム、アルミニウムトリフラート、酢酸鉄、鉄トリフラート等のルイス酸性金属塩;タングストリン酸、モリブドリン酸、タングストケイ酸、モリブドケイ酸等のヘテロポリ酸;酸性イオン交換樹脂等のブレンステッド酸;等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、有機酸又は無機酸とアミン類との塩若しくは混合物におけるアミン類としては、後述する3級アミンと同様のものを用いることができる。
これらの中でも、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、テレフタル酸、フタル酸、マレイン酸、ペンタフルオロフェノール、トリクロロフェノール類、ジクロロフェノール、p−トルエンスルフィン酸等のpKaが3〜8の有機酸;ホウ酸、リン酸等の無機酸;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、テレフタル酸、フタル酸、マレイン酸、ペンタフルオロフェノール、トリクロロフェノール類、ジクロロフェノール、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸又は塩酸、ホウ酸、リン酸、硫酸、硝酸、バナジン酸、タングステン酸、モリブデン酸等の無機酸とトリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルイミダゾール、アニシジン、トルイジン、ピリジン、2,6−ジメチルピリジン、3,5−ジメチルピリジン、N,N−ジメチル−4−ピリジン、トリエチレンジアミン、キヌクリジン、ピロコリジンのアミン類との塩若しくは混合物;ホウ酸エステル類、ボロン酸類、ボロン酸エステル類、ハロゲン化ホウ素類、トリアリールボラン類等のホウ素化合物;酢酸亜鉛、亜鉛トリフラート、亜鉛アセチルアセトナート、酢酸マグネシウム、酢酸ランタン、ランタントリフラート、酢酸アルミニウム、アルミニウムトリフラートのルイス酸性金属塩が好ましい。より好ましくは、酢酸、安息香酸、ペンタフルオロフェノール、トリクロロフェノール類、ホウ酸、ホウ酸エステル、トリアリールボラン類、酢酸亜鉛、亜鉛トリフラート、これらの酸とトリメチルアミン、トリエチルアミン、アニシジン、トルイジン、ピリジン、トリエチレンジアミンとの塩若しくは混合物であり、更に好ましくは、酢酸、安息香酸、トリクロロフェノール類、ホウ酸、酢酸亜鉛、亜鉛トリフラートである。特に好ましくは、酢酸、酢酸亜鉛である。
【0038】
上記第2の工程において、酸及び/又はその塩を使用する場合の使用量としては、一般式(1)で表される化合物100モル%に対して、0.01〜50モル%であることが好ましい。酸及び/又はその塩の使用量がこのような範囲であると、反応促進作用を充分に示すことが期待される。より好ましくは、0.1〜20モル%であり、更に好ましくは、0.1〜10モル%である。
【0039】
本発明における第2の工程は、上記酸及び/又はその塩に加え、3級アミンを用いて行われることが好ましい。
酸及び/又はその塩に加え、3級アミンを用いて反応を行うことで、目的とするα位置換アクリル酸エステル類の収率を更に高くすることができる。また、第2の工程の反応を酸を触媒として行うと、エステル交換反応が進行し、一般式(1)におけるRと、ヒドロキシ基含有化合物の後述する式(7)におけるYがことなる構造であると、反応生成物の選択率が低下する結果となる。しかし、上記酸及び/又はその塩に加え、3級アミンを用いると、エステル交換反応の進行が抑制され、一般式(1)におけるRと、ヒドロキシ基含有化合物の後述する式(7)におけるYがことなる構造である場合でも、高い選択率で目的とする生成物を得ることができる。
上述したように3級アミンは、第1の工程の反応の触媒としても好ましいものであるため、第1の工程の反応において3級アミンを触媒として用いることで、第1の工程の反応、及び、第2の工程の反応の両方の反応を促進することができる。
【0040】
上記3級アミンとしては、下記一般式(4);
【0041】
【化4】
【0042】
(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状アルキル基、若しくは、炭素数5〜8のシクロアルキル基である)で表される3級アミン化合物;下記一般式(5);
【0043】
【化5】
【0044】
(式中、R、R、R及びR10は、同一若しくは異なって、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状アルキル基、若しくは、炭素数5〜8のシクロアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基であり、nは1〜8の整数である)で表される3級アミン化合物;炭素数3〜15の環状3級アミン化合物;3級アミンを交換基に有するイオン交換樹脂;3級アミンを有する重合体等が挙げられる。
【0045】
上記一般式(4)で表される3級アミン化合物としては、具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、N,N−ジエチルメチルアミン、N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジメチルプロピルアミン、N,N−ジメチルイソプロピルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチル(2−エチルヘキシル)アミン、N,N−ジメチルラウリルアミン等を挙げることができる。
【0046】
上記一般式(5)で表される3級アミン化合物としては、具体的には、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノブタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ジアミノブタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン等を挙げることができる。
【0047】
上記環状3級アミン化合物としては、具体的には、1−アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン、1−アザビシクロ[3,2,1]オクタン、1−アザビシクロ[3,3,1]ノナン、1−アザビシクロ[2,3,2]ノナン、1−アザビシクロ[3,3,0]オクタン、1−アザビシクロ[4,3,0]ノナン、キヌクリジン、ピロリジン、ピロコリジン、ルピナン、キヌクリジノン、3−ヒドロキシキヌクリジン、キノリジン,N−メチルピロリジン、N−メチルピロリン、N−メチルピペリジン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)−N’−メチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N−メチルイミダゾール、アニシジン、トルイジン、ピリジン、2,6−ジメチルピリジン、3,5−ジメチルピリジン、N,N−ジメチル−4−ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン等を挙げることができる。
【0048】
上記3級アミンを交換基に有するイオン交換樹脂としては、具体的には、ローム・アンド・ハース社製のアンバーライトA−21、アンバーライトIRA−68、アンバーライトIRA−93ZU、アンバーライトIRA−35およびアンバーライトIRA−99;三菱化学(株)製のダイヤイオンWA−10、ダイヤイオンWA−11およびダイヤイオンWA−30;ダウ・ケミカル社製のダウエックスMWA−1、ダウエックス66およびダウエックスD−3;住友化学(株)製のデュオライトA−368、デュオライトA−561、デュオライトA−340、デュオライトA−375およびデュオライト−378;等を挙げることができる。
【0049】
上記3級アミンを有する重合体としては、具体的には、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの三級アミン基を有する重合性モノマーを重合して得られる重合体であり、単独重合体あるいはアルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、スチレンなどの重合性モノマーとの共重合体、またはそれら重合体の架橋物などを挙げることができる。
【0050】
上記3級アミンの中でも、トリメチルアミン、N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジメチルプロピルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノブタン、トリエチレンジアミン、キヌクリジン、ピロコリジン、N−メチルイミダゾール、N,N−ジメチル−4−ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン等の窒素原子上が嵩高くない3級アミンが好ましい。より好ましくは、トリメチルアミン、トリエチレンジアミン、キヌクリジン、ピロコリジンであり、更に好ましくは、トリエチレンジアミン、キヌクリジン、ピロコリジンである。
【0051】
上記第2の工程において、3級アミンを使用する場合の使用量としては、一般式(1)で表される化合物100モル%に対して、0.1〜50モル%であることが好ましい。3級アミンの使用量が0.1モル%より少ないと、充分に触媒活性を示すことが難しくなる恐れがあり、50モル%より多いと、副反応が進行してしまう恐れがある。より好ましくは、0.5〜20モル%であり、更に好ましくは、1〜10モル%である。
【0052】
上記第2の工程におけて、3級アミンと、酸及び/又はその塩とを使用する場合の3級アミンと、酸及び/又はその塩との配合割合は、3級アミン、並びに、酸及び/又はその塩の種類の組み合わせにより適宜設定することができ、3級アミンと、酸及び/又はその塩とのモル比が、10000/1〜1/10000の範囲で用いることができる。中でも、3級アミンと、酸及び/又はその塩とのモル比が、1000/1〜1/100の範囲であることが好ましい。より好ましくは、100/1〜1/10であり、更に好ましくは、20/1〜1/5である。
なお、酸及び/又はその塩として、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、バナジン酸、タングステン酸、モリブデン酸等のpKaが3未満のブレンステッド酸を用いる場合には、3級アミンと、酸及び/又はその塩とのモル比は、20/1〜1/1であることが特に好ましい。酸及び/又はその塩として、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、テレフタル酸、フタル酸、マレイン酸、ペンタフルオロフェノール、トリクロロフェノール類、ジクロロフェノール等のpKaが3〜8のブレンステッド酸を用いる場合には、3級アミンと、酸及び/又はその塩とのモル比は、10/1〜1/5であることが特に好ましい。酸及び/又はその塩として、ホウ酸、パラメトキシフェノール等のpKaが8より大きいブレンステッド酸を用いる場合には、3級アミンと、酸及び/又はその塩とのモル比は、10/1〜1/10であることが特に好ましい。酸及び/又はその塩として、上記有機酸又は無機酸とアミン類との塩若しくは混合物を用いる場合には、3級アミンと、酸及び/又はその塩とのモル比は、5/1〜1/10であることが特に好ましい。また、酸及び/又はその塩として、ホウ酸エステル、トリアリールボラン類等のホウ素化合物や、酢酸亜鉛、亜鉛トリフラート等のルイス酸性金属塩等のルイス酸を用いる場合には、3級アミンと、酸及び/又はその塩とのモル比は、20/1〜1/2であることが特に好ましい。
【0053】
上記第2の工程における反応条件は、特に制限されないが、反応原料である一般式(1)で表される化合物、及び、生成物である一般式(2)で表されるα位置換アクリル酸エステル類は共に、重合し易いことから、上記反応工程中に重合反応が進行してしまうのを防ぐために、反応系中に、重合禁止剤及び/又は分子状酸素を添加して反応工程を行うことが好ましい。重合禁止剤、分子状酸素としては、上述した第1の工程において用いられるものと同様のものを用いることができる。
重合防止剤の添加量としては、特に制限されず、適宜設定することができるが、例えば、一般式(1)で表される化合物100質量%に対して、0.001〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.01〜5質量%である。
分子状酸素の供給量は、上述した第1の工程における場合と同様である。
【0054】
上記第2の工程の反応は、溶媒中で行ってもよい。上記溶媒としては、上述した本発明の第1の工程の反応に用いることができる溶媒と同様のものが挙げられる。これらの中でも、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタンを用いることが好ましい。これら溶媒は、単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0055】
上記溶媒の使用量としては、特に制限されないが、一般式(1)で表される化合物100質量%に対して、10000〜0質量%であることが好ましい。より好ましくは、1000〜0質量%であり、更に好ましくは、100〜0質量%である。
【0056】
上記第2の工程の反応における反応温度は、0〜150℃であることが好ましい。反応温度が0℃よりも低いと、反応時間が長くなり過ぎて反応を効率的に行うことが困難になる恐れがある。一方、反応温度が150℃よりも高いと、上記重合反応を充分に抑制することができなくなる恐れがある。反応温度としてより好ましくは、50〜120℃である。反応時間は、上記反応工程における反応が完了するよう、反応温度、一般式(1)で表される化合物、活性水素含有化合物、3級アミン、酸及び/又はその塩、並びに、溶媒の種類や組み合わせ、使用量等に応じて適宜設定することができる。また、反応圧力は、特に制限されず、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下いずれの条件下で行ってもよい。
【0057】
上記第2の工程における、上記一般式(1)で表される化合物とヒドロキシ基含有化合物との配合割合は、一般式(1)で表される化合物及びヒドロキシ基含有化合物の種類の組み合わせにより適宜設定することができるが、一般式(1)で表される化合物とヒドロキシ基含有化合物とのモル比が、10/1〜1/50であることが好ましい。このような範囲の配合割合であると、円滑な反応の進行が望める。より好ましくは、5/1〜1/10であり、更に好ましくは、2/1〜1/5である。
【0058】
次に、本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法に用いられる化合物について述べる。
本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法において、一般式(1)で表される化合物は、一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類とアルデヒドとの反応により製造されるものであり、一般式(1)におけるRは、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表す。
【0059】
また、一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(6);
【化6】
【0060】
(式中、R及びRは、一般式(1)と同様である。)で表されるエーテル二量体構造であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0061】
上記一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物におけるR及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜30の有機基を表し、Rは、炭素数1〜30の有機基を表す。該R、R及びRの炭素数1〜30の有機基としては、特に制限されないが、例えば、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐状アルキル基;炭素数3〜30の環状アルキル基;炭素数2〜30の直鎖状又は分岐状アルケニル基;炭素数3〜30の環状アルケニル基;炭素数2〜30の直鎖状又は分岐状アルキニル基;炭素数6〜30のアリール基;炭素数4〜200のオキシアルキレン基を繰り返し単位とするポリアルキレングリコール構造;ヒドロキシ基によって置換された炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアリール基;炭素数1〜30のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアリールオキシ基によって置換された炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアリール基;炭素数1〜30のアルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基又はアリールカルボニルオキシ基によって置換された炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアリール基;炭素数1〜30のアルキルオキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基によって置換された炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアリール基;炭素数1〜30のアルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基又はアリールカルボニル基によって置換された炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアリール基;シアノ基によって置換された炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアリール基;炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアリール基によって置換されたカルボニル基;炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基又はアリール基によって置換されたオキシカルボニル基等が挙げられる。これらの中でも、水素原子、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数3〜30の環状アルキル基、炭素数2〜30の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6〜30のアリール基が好ましい。
【0062】
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−又はi−プロピル基、n−、i−又はt−ブチル基、n−、s−又はt−アミル基、ネオペンチル基、n−、s−又はt−ヘキシル基、n−、s−又はt−ヘプチル基、n−、s−又はt−オクチル基、2−エチルヘキシル基、カプリル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基、セリル基、メリシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−t−ブチルシクロヘキシル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、ジシクロペンタニル基等が挙げられる。
上記アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、メタリル基、ベンジル基、クロチル基、1,1−ジメチル−2−プロペニル基、2−メチル−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オレイル基、リノール基、リノレン基、シクロペンテニル基、シクロペンテニルメチル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキセニルメチル基、4−メチルシクロヘキセニル基、4−t−ブチルシクロヘキセニル基、シクロオクテニル基、ジシクロペンテニル基等が挙げられる。
上記アリール基としては、フェニル基、o−、m−、p−の各種トリル基、o−、m−、p−の各種メトキシフェニル基、o−、m−、p−の各種キシリル基、ヘミメリチル基、クメニル基,プソイドクメニル基、メシチル基、ジュニル基、ペンタフェニメチル基、エチルフェニル基,クメニル基、スチリル基、ビフェニル基、p−テルフェニル基,ジフェニルメチルフェニル基、フェノキシフェニル基、ビベンジリル基、スチルベニル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、フリル基、チエニル基等が挙げられる。
【0063】
上記R及びRとしては、水素原子、又は、上述した炭素数1〜30の有機基の中でも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、カプリル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基、セリル基、メリシル基、フェニル基、トリル基、o−、m−、p−の各種キシリル基、ビフェニル基、テルフェニル基,フェノキシフェニル基、ビベンジリル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基であることが好ましい。より好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、フェニル基であり、最も好ましくは、R、Rが共に、水素原子であることである。
【0064】
また、上記Rとしては、上述したものの中でも、メチル基、エチル基、n−又はi−プロピル基、n−、i−又はt−ブチル基、n−、s−又はt−アミル基、ネオペンチル基、n−、s−又はt−ヘキシル基、n−、s−又はt−ヘプチル基、n−、s−又はt−オクチル基、2−エチルヘキシル基、カプリル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基、セリル基、メリシル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、クロチル基、1,1−ジメチル−2−プロペニル基、2−メチルブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オレイル基、リノール基、リノレン基、シクロペンチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−t−ブチルシクロヘキシル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基、シンナミル基、ナフチル基、アントラニル基、メトキシエチル基、メトキシエトキシエチル基、メトキシエトシキエトキシエチル基、3−メトキシブチル基、エトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基、シクロペントキシエチル基、シクロヘキシルオキシエチル基、シクロペントキシエトキシエチル基、シクロヘキシルオキシエトキシエチル基、ジシクロペンテニルオキシエチル基、フェノキシエチル基、フェノキシエトキシエチル基、グリシジル基、β−メチルグリシジル基、β−エチルグリシジル基、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル基、2−オキセタンメチル基、3−メチル−3−オキセタンメチル基、3−エチル−3−オキセタンメチル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロフルフリル基、テトラヒドロピラニル基、ジオキサゾラニル基、ジオキサニル基であることが好ましい。より好ましくはメチル基、エチル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基であり、最も好ましくはメチル基、エチル基である。
がメチル基やエチル基である場合、第1の工程の反応で副生するアルコール類が、相分離工程において油層、水層のいずれにも溶解するメタノール又はエタノールとなるため、上述した相分離工程において、相分離槽での水とアルコール類との質量比を上述した範囲とすることの技術的意義が大きくなる。
【0065】
本発明において、一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類におけるRの具体例や好ましい構造は、上記一般式(1)におけるRの具体例や好ましい構造と同じである。
【0066】
本発明におけるヒドロキシ基含有化合物としては、アルコール系ヒドロキシ基含有化合物及び/又はフェノール系ヒドロキシ基含有化合物が挙げられる。
アルコール系ヒドロキシ基含有化合物は、下記一般式(7);
【0067】
【化7】
【0068】
(式中、Yは、炭素数1〜30の有機基を表す。)で表すことができる。なお、該Yは、上記一般式(1)におけるR、R及びRの炭素数1〜30の有機基と同様である。
【0069】
上記一般式(7)で表されるアルコール系ヒドロキシ基含有化合物としては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルキルアルコール類;シクロペンタノール、シクロヘキサノール等のシクロアルキルアルコール類、ベンジルアルコール等のアリールアルコール類;アリルアルコール、メタリルアルコール、クロチルアルコール、プロパルギルアルコール等の不飽和アルコール類;ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノールなどのアミノアルコール類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、エチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート等の重合性基含有アルコール類、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、カルビトール、ポリエチレングリコールモノメトキシエーテル、ポリプロピレングリコールモノエトキシエーテル等の、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルキレングリコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール類、グルコース、マントースなどの糖類、およびこれら化合物のハロゲン置換体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール、アリルアルコール、メタリルアルコール、クロチルアルコールがより好ましい。これらのアルコールは、上記具体例を上げたアルコールの中でも、アクリル酸エステル類と共沸しにくいものであるため、ヒドロキシ基含有化合物としてこれらのアルコールを用いることでα位置換アクリル酸エステル類を高い収率で得る効果がより充分に発揮されることになる。これらの中でも特に好ましくはアリルアルコール、メタリルアルコール、クロチルアルコールである。
【0070】
上記フェノール系ヒドロキシ基含有化合物は、上記一般式(7)で表される化合物のうち、ベンゼン環に置換したヒドロキシ基を有する化合物である。
フェノール系ヒドロキシ基含有化合物としては、具体的には、フェノール、o−、m−、p−の各種クレゾール、o−、m−、p−の各種メトキシフェノール、2,3−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、3,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、トリメチルフェノール、o−、m−、p−の各種t−ブチルフェノール、o−、m−、p−の各種s−ブチルフェノール、メチル−t−ブチルフェノール、o−、m−、p−の各種シクロヘキシルフェノール、o−、m−、p−の各種フェニルフェノール、1−又は2−ナフトール、アントロールが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、α位置換アクリル酸エステル類を高い収率で得る効果がより充分に発揮されるという点からは、フェノール、o−、m−、p−の各種クレゾール、2,3−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、3,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、トリメチルフェノール、o−、m−、p−の各種t−ブチルフェノール、o−、m−、p−の各種フェニルフェノール、1−又は2−ナフトール、アントロールがより好ましい。
【0071】
また、上記ヒドロキシ基含有化合物として、一般式(1)におけるRが水素である化合物を用いる場合は、α位置換アクリル酸エステル類のエーテル二量体を合成することができる。このように、本発明の製造方法は、α位置換アクリル酸エステル類のエーテル二量体の合成にも好適に用いることができる。
【0072】
本発明の製造方法の第1の工程において用いられるアルデヒド類は、下記一般式(8);
【0073】
【化8】
【0074】
(式中、Rは、一般式(1)と同じである。)で表される構造を有するもの、及びそれらの多量体である。一般式(8)におけるRの具体例及び好ましいものは、一般式(1)におけるRと同様である。
本発明の製造方法の第1の工程においては、一般式(3)で表されるアクリル酸エステル類、及び、一般式(8)で表されるアルデヒドをそれぞれ1種用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0075】
上記アルデヒド類としては、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロパナール、ブタナール、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等が挙げられる。
【発明の効果】
【0076】
本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法は、上述の構成よりなり、装置腐食の問題がなく、安価な材料からシンプルなプロセスによってα位置換アクリル酸エステル類を高い収率で製造することができることから、光学材料や塗料、反応性希釈剤、界面活性剤原料、医農薬製造用の中間体、レジスト用原料等の他、様々な用途に用いられるα位置換アクリル酸エステル類の有用な製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1】本発明のα位置換アクリル酸エステル類の製造方法に用いる製造装置の一例を示した概念図である。
図2】実施例1〜3、及び、比較例1〜4のAMAの製造方法におけるAMA収率の経時変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0079】
実施例1
分留管、冷却管及び相分離槽(還流ホルダー)を備えた500ml容のガラス製反応容器にアクリル酸メチル(AM)237g、92%パラホルムアルデヒド(PFA)45g、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)7.73g、水 6.2g、及び重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.12g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4H−TEMPO)0.12gを仕込んだ。この混合液を80℃で4時間攪拌した後、沸点まで昇温し、塔頂液の水相を相分離槽に溜めて油相のみを還流させる反応蒸留操作に切り替えた。さらに4時間攪拌を続けた後、還流状態を保ったままアリルアルコール 120g、DABCO 7.73g、酢酸 16.7gから成る混合溶液を30分かけて滴下し、滴下終了時からさらに11.5時間、上記反応蒸留操作を続けた。反応開始から20時間後のα−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率は仕込んだパラホルムアルデヒドに対し73.3モル%、反応液の水分は0.4%であった。また滴下操作開始時の反応液中のアルデヒド分は3質量%であり、相分離槽の水:メタノールの質量比は工程を通して1:0〜1:0.2の範囲内であった。
【0080】
実施例2
相分離槽の水相を連続的に抜き出しながら反応蒸留操作を行った点以外は実施例1と同様に行った。工程終了時のα−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率は仕込んだパラホルムアルデヒドに対し54.9モル%、反応液の水分は3.4%であった。また滴下操作開始時の反応液中のアルデヒド分は10質量%であり、相分離槽の水:メタノールの質量比は工程を通して1:0〜1:1の範囲内であった。
【0081】
実施例3
反応開始から4時間後までの温度を70℃とした点以外は実施例1と同様に行った。工程終了時のα−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率は仕込んだパラホルムアルデヒドに対し58.5モル%であった。また滴下操作開始時の反応液中のアルデヒド分は5質量%であり、相分離槽の水:メタノールの質量比は工程を通して1:0〜1:0.14の範囲内であった。
【0082】
比較例1
攪拌機、冷却管、温度計、ガス吹き込み管および油浴を備えた500mlの4つ口フラスコに、92%PFA 45g、触媒としてDABCO 15.46g、助触媒として酢酸16.7g、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.12g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4H−TEMPO)0.12g、AM 237g、水 6.2g、アリルアルコール 120gを仕込んだ。常圧下、反応液に空気を吹き込みながら、反応液を85℃に昇温し16時間反応させた。α−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率は仕込んだPFAに対し14.4モル%であった。酢酸添加時点のアルデヒド分の濃度は10.2質量%であった。
【0083】
比較例2
助触媒の酢酸を入れなかった点以外は比較例1と同様に行った。α−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率は仕込んだPFAに対し31.0モル%であった。
【0084】
比較例3
AMを118gにした(AM:PFAのモル比=1:1)こと以外は、比較例1と同様に行った。α−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率は仕込んだPFAに対し15.2モル%であった。酢酸添加時点のアルデヒド分の濃度は14質量%であった。
【0085】
比較例4
AMを118gにした(AM:PFAのモル比=1:1)こと以外は実施例1と同様に行った。α−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率は仕込んだPFAに対して57.8モル%あった。酢酸添加時のアルデヒド分の濃度は13質量%であった。
【0086】
実施例1〜3、及び、比較例1〜4の反応の工程、反応原料として仕込んだパラホルムアルデヒドとアクリル酸メチルとのモル比、相分離槽内の水:メタノールの質量比、酸添加時のパラホルムアルデヒド濃度、及び、目的物であるα−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率をまとめたものを表1に示す。また、実施例1〜3、及び、比較例1〜4の反応開始からのα−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率の経時変化を図2に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
実施例1〜3と比較例1〜3との比較から、アクリル酸メチルとパラホルムアルデヒドとを所定のモル比で仕込んでアクリル酸メチルとパラホルムアルデヒドとを反応させる第1の工程、及び、第1の工程で得られた反応液とアリルアルコールとを反応させる第2の工程を行ってα−アリルオキシメチルアクリル酸メチルを製造することで、高い収率でα−アリルオキシメチルアクリル酸メチルを得ることが可能となることが確認された。
また実施例1と比較例4との比較から、アクリル酸メチルとパラホルムアルデヒドとのモル比を所定の範囲にすることで、高い収率でα−アリルオキシメチルアクリル酸メチルを得ることが可能となることが確認された。
更に、実施例1〜3の比較から、相分離槽内の水:アルコール比、酸触媒添加時のアルデヒド類濃度がα−アリルオキシメチルアクリル酸メチルの収率に影響することが確認された。
【符号の説明】
【0089】
1:蒸留塔
2:相分離槽
3:還流ポンプ
4、5:冷却管
6、7:温度計
8:油相
9:水相
10、11:還流液(油相)
図1
図2