(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1バスバー電極は、前記第2バスバー電極に向かって延びた複数の第1ダミー電極指を有し、該第1ダミー電極指の先端と前記第2電極指の先端とが前記第2ギャップを介して対向しており、
前記第2バスバー電極は、前記第1バスバー電極に向かって延びた複数の第2ダミー電極指を有し、該第2ダミー電極指の先端と前記第1電極指の先端とが前記第1ギャップを介して対向している請求項1または2に記載の弾性波素子。
アンテナ端子と、送信信号をフィルタリングして前記アンテナ端子に出力する送信フィルタと、前記アンテナ端子からの受信信号をフィルタリングする受信フィルタとを備えた分波器であって、
前記送信フィルタは、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の弾性波素子を有する分波器。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るSAW素子および分波器について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0014】
第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態の構成と同一または類似する構成については、既に説明された実施形態と同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0015】
<通信モジュール>
図1は、本発明の実施形態に係る通信モジュール101の要部を示すブロック図である。通信モジュール101は、電波を利用した無線通信を行うものである。分波器1は、通信モジュール101において送信周波数の信号と受信周波数の信号とを分波する機能を有している。
【0016】
通信モジュール101において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF−IC103によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数の高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ105によって
送信用の通過帯域以外の不要成分が除去され、増幅器107によって増幅されて分波器1に入力される。そして、分波器1は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯域以外の不要成分を除去してアンテナ109に出力する。アンテナ109は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号(電波)に変換して送信する。
【0017】
また、通信モジュール101において、アンテナ109によって受信された無線信号は、アンテナ109によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器1に入力される。分波器1は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯域以外の不要成分を除去して増幅器111に出力する。出力された受信信号RSは、増幅器111によって増幅され、バンドパスフィルタ113によって受信用の通過帯域以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF−IC103によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RISとされる。
【0018】
なお、送信情報信号TISおよび受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された音声信号である。無線信号の通過帯域は、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)等の各種の規格に従ったものでよい。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。回路方式は、
図1では、ダイレクトコンバージョン方式を例示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、
図1は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にローパスフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
【0019】
<分波器>
図2は、本発明の実施形態に係る分波器1の構成を示す回路図である。分波器1は、
図1において通信モジュール101に使用されているものである。
【0020】
分波器1は、増幅器107からの送信信号TSが入力される送信端子3と、送信信号TSから送信用の通過帯域以外の不要成分を除去して出力する送信フィルタ5と、送信フィルタ5からの信号が入力されるアンテナ端子7とを有している。アンテナ端子7は、アンテナ109に接続される。
【0021】
また、分波器1は、アンテナ109からアンテナ端子7を介して入力された受信信号RSから受信用の通過帯域以外の不要成分を除去して出力する受信フィルタ9と、受信フィルタ9からの信号が入力される受信端子11とを有している。受信端子11は、増幅器111に接続される。
【0022】
送信フィルタ5は、例えば、ラダー型SAWフィルタによって構成されている。すなわち、送信フィルタ5は、その入力側と出力側との間において直列に接続された1以上(本実施形態では3)の第1直列共振子15A−1〜第3直列共振子15A−3と、その直列のラインと基準電位部との間に設けられた1以上(本実施形態では2)の並列共振子15Bとを有している。なお、以下では、第1直列共振子15A−1〜第3直列共振子15A−3を単に「直列共振子15A」といい、これらを区別しないことがあり、また、直列共振子15Aおよび並列共振子15Bを単に「共振子15」といい、これらを区別しないことがある。
【0023】
第1直列共振子15A−1は、送信フィルタ5においてアンテナ端子7に最も近い共振子15である。また、送信フィルタ5、受信フィルタ9とアンテナ端子7の間には、インピーダンスマッチング用の回路が挿入されてもよい。
【0024】
受信フィルタ9は、例えば、多重モード型SAWフィルタ17と、その入力側に直列に接続された補助共振子15Cとを有している。なお、本実施形態において、多重モードは、2重モードを含むものとする。
【0025】
<SAW素子>
図3は、本発明の実施形態に係るSAW素子51の平面図である。SAW素子51は、
図2に示した分波器1において、第1直列共振子15A−1を構成するものである。
【0026】
なお、SAW素子51は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともに、z方向の正側(
図3の紙面手前側)を上方として、上面、下面等の用語を用いるものとする。
【0027】
SAW素子51は、例えば、1ポートSAW共振子として構成されており、圧電基板53と、圧電基板53の上面53aに設けられたIDT電極55および反射器57を有している。なお、SAW素子51は、上記の他、IDT電極55および反射器57の上面に配置される付加膜、IDT電極55および反射器57と圧電基板53との間に介在する接着層、圧電基板53の上面53aをIDT電極55および反射器57の上から覆う保護層等を有していてもよい。
図3では、IDT電極55に信号の入出力を行うための配線およびパッドは図示を省略している。
【0028】
圧電基板53は、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)単結晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)単結晶等の圧電性を有する単結晶の基板である。より具体的には、42°±10°Y−XカットのLiTaO
3、128°±10°Y−XカットのLiNbO
3基板もしくは0°±10°Y−XカットのLiNbO
3基板などを使用することができる。圧電基板53の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。
【0029】
IDT電極55は、圧電基板53の上面53aに形成された導電層からなり、第1櫛歯状電極59Aおよび第2櫛歯状電極59Bを有している。なお、以下では、第1櫛歯状電極59Aおよび第2櫛歯状電極59Bを単に櫛歯状電極59といい、これらを区別しないことがある。また、第1櫛歯状電極59Aを構成する部材については、「第1バスバー電極61A」のように、「第1」および「A」を付すことがあり、第2櫛歯状電極59Bを構成する部材については、「第2バスバー電極61B」等のように、「第2」および「B」を付すことがある。また、第1櫛歯状電極59Aおよび第2櫛歯状電極59Bを構成する部材で対応するもの同士をまとめて称するときは、「第1」、「第2」、「A」、および「B」を省略することがある。
【0030】
第1櫛歯状電極59Aは、第1バスバー電極61Aから第2バスバー電極61Bに向かって延びた複数の第1電極指63Aを有する。隣接する第1電極指63Aの間には、第1ダミー電極指65Aが設けられている。
【0031】
第2櫛歯状電極59Bは、第2バスバー電極61Bから第1バスバー電極61Aに向かって延びた複数の第2電極指63Bを有する。隣接する第2電極指63Bの間には、第2ダミー電極指65Bが設けられている。
【0032】
一対の櫛歯状電極59は、複数の電極指63が互いに噛み合うように配置されている。換言すれば、第1電極指63Aと第2電極指63Bとはx方向に沿って交互に配置されている。
【0033】
なお、SAWの伝搬方向は複数の電極指63の向き等によって規定されるが、本実施形態では、便宜的に、SAWの伝搬方向を基準として、複数の電極指63が延びている方向
等を説明することがある。
【0034】
第1、第2バスバー電極61A、61Bは、例えば、長尺状であり、一定の幅でSAWの伝搬方向(x方向)に直線状に延びている。第1バスバー電極61Aと第2バスバー電極61Bは、SAWの伝搬方向に直交する方向(y方向)において対向している。また、第1バスバー電極61Aと第2バスバー電極61Bは、例えば、互いに平行であり、両者の間の距離は、SAWの伝搬方向において一定である。
【0035】
複数の第1、第2電極指63A,63Bは、概ね一定の幅でy方向に直線状に延びている。複数の第1、第2電極指63A,63Bは、SAWの伝搬方向(x方向)に沿って一定の間隔で配列されている。複数の電極指63は、そのピッチpが、例えば、共振させたい周波数でのSAWの波長λの半波長と同等となるように設けられている。ピッチpは、例えば、隣接する第1電極指63Aと第2電極指63Bとの中心間距離によって規定される。SAWの波長λは、例えば、1.5μm〜6μmである。
【0036】
第1、第2電極指63A,63Bの長さおよび幅wは、例えば、互いに同等である。なお、これらの寸法は、SAW素子51に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。電極指63の幅wは、例えば、電極指63のピッチpに対して0.4p〜0.7pである。
【0037】
第1ダミー電極指65Aは、複数の第1電極指63A間の中央に配置されている。同様に第2ダミー電極指65Bは、複数の第2電極指63B間の中央に配置されている。第1、第2ダミー電極指65A、65Bの幅(x方向)は、例えば、電極指63の幅wと同等である。ダミー電極指65の長さ(y方向)は、電極指63よりも短い。
【0038】
第1電極指63Aの先端は、第2ダミー電極指65Bの先端と第1ギャップ67Aを介して対向している。また、第2電極指63Bの先端は、第1ダミー電極指65Aの先端と第2ギャップ67Bを介して対向している。
【0039】
複数の第1ギャップ67Aの数は、複数の第1電極指63Aの本数と同数である。同様に複数の第2ギャップ67Bの数は、複数の第2電極指63Bの本数と同数である。また、複数の第1、第2ギャップ67A,67Bの幅は、複数の第1、第2電極指63A,63Bの幅wと同等である。複数の第1、第2ギャップ67A,67Bの長さl
g(y方向の大きさ。以下、ギャップの長さを「ギャップ長」と称することがある。)は、ギャップ67同士で互いに同一である。ギャップ長l
gは、SAW素子51に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。例えば、ギャップ長l
gは、0.1λ〜0.6λである。
【0040】
IDT電極55は、例えば、金属によって形成されている。この金属としては、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)が挙げられる。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。なお、IDT電極55は、複数の金属層から構成されてもよい。IDT電極55の厚みは適宜に設定されてよい。
【0041】
IDT電極55によって圧電基板53に交流電圧が印加されると、圧電基板53の上面53a付近において上面53aに沿ってx方向に伝搬するSAWが誘起される。また、SAWは、電極指63によって反射される。そして、電極指63のピッチpを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指63によって取り出される。このようにして、SAW素子51は、共振子もしくはフィルタとして機能する。
【0042】
反射器57は、圧電基板53の上面53aに形成された導電層によって構成されており
、平面視において格子状に形成されている。すなわち、反射器57は、SAWの伝搬方向に交差する方向において互いに対向する一対のバスバー電極およびこれらバスバー電極間においてSAWの伝搬方向に直交する方向(y方向)に延びる複数の電極指を有している。反射器57の複数の電極指は、IDT電極55の複数の電極指63と概ね同等のピッチで配列されている。
【0043】
SAW素子51は、上記の基本的な構成に加え、歪波がSN比に及ぼす影響を抑制するための構成として、絶縁膜69を有している。
【0044】
絶縁膜69は圧電基板53の上面53aの所定の領域にのみ形成されている。具体的には、圧電基板53の上面53aのうちIDT電極55の直下領域を、第1電極指63Aと第2電極指63Bとが交差している交差領域Tcと、交差領域Tc以外の領域、すなわち第1電極指63Aと第2電極指63Bとが交差していない非交差領域Tnとに分けたときに、非交差領域Tnには絶縁膜69が形成されているが、交差領域Tcには絶縁膜69は形成されていない。
【0045】
このように絶縁膜69を形成した結果、一対の櫛歯状電極59のうち非交差領域Tnに位置する部分全体が絶縁膜69を介して圧電基板53の上面53aに配置されることとなる。なお、SAW素子51において、櫛歯状電極59のうち非交差領域Tnに位置する部分とは、バスバー電極61、ダミー電極指65および電極指63の根本部分(隣り合う電極指とx方向において交差しない部分)である。
【0046】
このような絶縁膜69を設けることによって歪波を抑制することができる。また、IDT電極55の大きさはそのまま維持されるため、SAW素子51が大型化されることもない。絶縁膜69を設けることによって歪波を抑制することができる理由を
図4および
図5を用いて説明する。
【0047】
図4は
図3に示すIDT電極55の一部分を抜き出した図である。
図4において、第1櫛歯状電極59Aが第2櫛歯状電極59Bよりも電位が高い状態にあるとする。このとき圧電基板53の第1櫛歯状電極59Aと第2櫛歯状電極59Bとの間の領域には、主として黒塗りの矢印で示した方向の電場Eが発生している。すなわち、交差領域Tcでは、SAWの伝搬方向(x方向)に沿った電場Exが発生し、ギャップ67の領域ではSAWの伝搬方向に直交する方向(y方向)に沿った電場Eyが発生する。
【0048】
このような電場が発生すると圧電体からなる圧電基板53が有する非線形性によって歪電流が発生する。歪電流のうち、2次の非線形性に起因する電流I
2は電場Eの2乗に比例する。すなわち、I
2=αE
2
なる式で表される歪電流I
2が発生する。この式で、αは圧電基板の結晶方位に依存する係数である。歪電流I
2は電場Eの2乗に比例するため、電場Eの極性に寄らず圧電基板の結晶方位に対して同じ方向に流れる。つまり、
図4に示したように、x方向の電場Exに対してはx方向の歪電流I
2xが流れ、y方向の電場Eyに対してはy方向の歪電流I
2y(第1ギャップ67Aにおける歪電流をI
2yA、第2ギャップ67Bにおける歪電流をI
2yBとする。)が流れる。なお、ここではαが正の定数である場合について説明したが、実際のαは圧電基板の材料および結晶方位に依存する複素数となる。
【0049】
ここでx方向に沿った歪電流I
2xに着目すると、第1電極指63Aを流れる歪電流I
2xは、第1電極指63Aに流れ込む歪電流I
2xと第1電極指63Aから流れ出る歪電流I
2xとが逆方向であるため打ち消しあって0になる。このため、歪電流I
2xに基づく歪波がSAW素子51の外部に出力されることは基本的にはない。第2電極指63Bにおいても同様に歪電流I
2xは打ち消し合う。よってIDT電極55の交差領域Tc全体
における歪電流I
2は打ち消しあってSAW素子51の外部に歪波として出力されることはない。
【0050】
一方、y方向に沿った電場E
yに着目すると、第1ギャップ67Aにおける歪電流I
2yA、第2ギャップ67Bにおける歪電流I
2yBはいずれも同方向であるため、これらの歪電流I
2yは打ち消し合わない。
【0051】
このように打ち消し合わずに残ったギャップ67における歪電流I
2yが歪波の発生要因の1つになっていると考えられる。これは本発明者等が歪波に関する種々の実験を行い、考察を重ねた結果、初めて見出したものである。
【0052】
ここでは電場Eに起因する歪波について説明したが、この他、SAWの振動に起因する歪波も存在している。SAWの振動に起因する歪波も、電場Eに起因する歪波と同様にギャップ67における歪電流が発生要因になっていると考えられる。なお、電場Eに起因する歪波は圧電体の誘電率の非線形性に起因するものであり、SAWの振動に起因する歪波は圧電体の弾性定数の非線形性に起因するものである。
【0053】
図5は、ギャップ67付近をy方向に沿って切断したときの断面図であり、(a)は絶縁膜69が形成されていない状態のもの、(b)は絶縁膜69を形成した状態のもの(SAW素子51)である。なお、
図5においても
図4と同様に第1櫛歯状電極59Aが第2櫛歯状電極59Bよりも電位が高い状態を示している。
【0054】
図5(a)のように絶縁膜69が形成されていない場合、上述したように圧電基板53のギャップ67の直下の領域において電場Eyが生じている。この電場Eyは、電極指63に近い圧電基板53の上面側ほど大きい。
【0055】
一方、
図5(b)に示すように圧電基板53の上面53aのうち、交差領域Tnに圧電基板53よりも誘電率の低い絶縁膜69を設けると、第1電極指63Aから圧電基板53を経由して第2ダミー電極指65Bまで到達する距離が長くなる。一般的に対向する一対の電極間に発生する電場Eの大きさは電極間の距離に反比例するから、
図5(b)における電場Eyの大きさは
図5(a)における電場Eyよりも小さくなる。また、圧電基板53よりも誘電率の小さい絶縁膜69が設けられていることによって、絶縁膜69に電場Eが集中し、距離を離した以上に電場Eyを弱める効果が発揮される。
【0056】
上述のようにギャップ67に発生する電場Eyが歪波の発生要因の1つであると考えられるため、この電場Eyを弱めることによって歪波が抑制されることとなる。
【0057】
一方、SAW素子51において、
図3に示したように交差領域Tcには絶縁膜69は形成されておらず、電極指63の交差領域Tcに位置する部分は圧電基板53の上面53aに直に配置されている。IDT電極55によって励振されたSAWは主として圧電基板53の上面53aのうち交差領域Tcをx方向に沿って伝搬するが、歪波を抑制するために設けた絶縁膜69は非交差領域Tnのみに設けられているため、SAWの伝搬に基づく電気特性が絶縁膜69によって劣化するのを抑制することができる。
【0058】
したがってSAW素子51によれば、SAWの伝搬に基づく電気特性を維持しつつ歪波を抑制することができる。
【0059】
またSAW素子51においては、非交差領域Tnをx方向に沿って延長した領域にも絶縁膜69が形成されているが、交差領域Tcをx方向に沿って延長した領域には絶縁膜69は形成されていない。よって反射器57を構成する電極指のうち交差領域Tcをx方向
に延長した領域に位置する部分は、圧電基板53の上面53aに直に形成されている。これによって反射器57のSAWを反射させる機能を維持することができる。
【0060】
また絶縁膜69は、非交差領域Tnの全体にわたって形成されており、櫛歯状電極59のうち少なくともバスバー電極61およびダミー電極指65は全体が非交差領域Tnに配置されることとなるため、バスバー電極61およびダミー電極指65に絶縁膜69による段差が生じることがない。これによりバスバー電極61およびダミー電極指65に段差による段切れが発生しにくくなり、導通不良が発生するのを抑制することができる。
【0061】
一方、電極指63は非交差領域Tnと交差領域Tcとの境界付近で絶縁膜69による段差が形成されるが、絶縁膜69の厚みを電極指63の厚みよりも薄くすることによって、電極指69の段切れを抑制することができる。よって、絶縁膜69の厚みは、櫛歯状電極59の厚み(特に電極指63の厚み)よりも薄くするとよい。また絶縁膜69を非交差領域Tnから交差領域Tcに向かうにつれて厚みが漸次薄くなるように形成することによっても、電極指63の段切れを抑制することができる。
【0062】
絶縁膜69は、圧電基板53よりも誘電率の小さい材料であればどのような材料を用いてもよい。例えば、圧電基板53としてLiTaO
3、LiNbO
3などを用いた場合には、絶縁膜69としては、SiO
2等の酸化珪素、SiN等の酸化窒素、Al
2O
3等の酸化アルミニウムといった絶縁材料を用いることができる。絶縁膜69の厚みは、例えば、6nm〜600nmである。
【0063】
以上、
図2における第1直列共振子15A−1を構成するSAW素子51について説明したが、第1直列共振子15A−1以外の第2、第3直列共振子15A−2、15A−3、第1、第2並列共振子15B−1、15B−2および補助共振子15Cの構成は、絶縁膜69が設けられていない点を除いて、第1直列共振子15A−1(SAW素子51)と概ね同様である。なお、これらの共振子15においても、第1直列共振子15A−1と同様に絶縁膜69が設けられてもよい。また、多重モード型SAWフィルタ17においても、同様の絶縁膜69が設けられていてもよい。
【0064】
相互変調歪は送信端子3から入力される送信波と、アンテナ端子7から入力される妨害波が、同時にSAW共振子に印加されることによって発生するため、送信波および妨害波の双方の強度が大きい第1直列共振子15A−1が最も強い歪波を発生させることが多い。このため、第1直列共振子15A−1に絶縁膜69を設けることが、分波器全体の相互変調歪を抑制することに最も効果がある。ただし、その他の共振子、特にアンテナ端子7に近い第1並列共振子15B−1、補助共振子15Cもある程度の歪波の発生源になるため、これらの共振子にも絶縁膜69を設けることで、更なる歪波の抑制を図ることができる。
【0065】
多重モード型SAWフィルタ17は、
図2において模式的に示すように、例えば、縦結合型のものであり、SAWの伝搬方向において配列された複数(本実施形態では3つ)のIDT電極55と、その両側に配置された反射器57とを有している。また、多重モード型SAWフィルタ17は、例えば、入力された不平衡信号を平衡信号に変換して出力する不平衡入力−平衡出力型のものである。
【0066】
複数の共振子15および多重モード型SAWフィルタ17は、例えば、1つの圧電基板53の上面53aに共に設けられている。
【0067】
次に
図6を用いてSAW素子51の製造方法の一例について説明する。
図6(a)〜(d)はSAW素子51の製造プロセス順に並べた図である。
図6において、左側の列が平
面図であり、右側の列が左側の列に示した各平面図のA−A’線における断面である。SAW素子51の製造方法に対応する
図6(a)〜(d)の工程は、いわゆるウエハプロセスにおいて実現される。すなわち、分割されることによって圧電基板53となる母基板を対象に、薄膜形成やフォトリソグラフィー法などが行われ、その後、ダイシングされることにより、多数個分のSAW素子51または分波器1が並行して形成される。ただし、
図6(a)〜(d)では1つのSAW素子51に対応する部分のみを図示する。
【0068】
図6(a)に示すように、まず、圧電基板53の上面53aには、絶縁膜69となる膜69’が形成される。具体的には、酸化珪素、酸化窒素等の絶縁材料を用いて、スパッタリング法、蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の薄膜形成法によっ
て、上面53a全体に膜69’を形成する。
【0069】
次に
図6(b)に示すように、膜69’に対して縮小投影露光機(ステッパー)およびRIE(Reactive Ion Etching)装置を用いたフォトリソグラフィー法等によりパターニングが行われる。このパターニングにより交差領域Tcに形成されていた膜69’が除去されて、非交差領域Tnに絶縁膜69が形成される。
【0070】
絶縁膜69を形成する方法としては、この他にも例えばリフトオフ法を採用してもよい。具体的には、絶縁膜69を形成する部分が開口するようにパターニングされたレジスト層を圧電基板53の上面53aに形成し、このレジスト層の上から絶縁膜となる絶縁材料の膜を形成した後、レジスト層を除去すればよい。
【0071】
次に
図6(c)に示すように、アルミニウム等の金属材料を用いて、スパッタリング法、蒸着法またはCVD法等の薄膜形成法によって、上面53a全体にIDT電極55となる膜55’を形成する。
【0072】
次に
図6(d)に示すように、膜55’に対して縮小投影露光機およびRIE装置を用いたフォトリソグラフィー法等によりパターニングが行われる。このパターニングによって、IDT電極55が形成されて、
図3に示したSAW素子51が完成する。
【実施例】
【0073】
上述した実施形態に係るSAW素子51と実質的に同じ構成からなる実施例のSAW素子について、歪波の低減効果及び絶縁膜69の電気特性への影響を有限要素法によるシミュレーションによって調べた。
【0074】
シミュレーションは以下の条件のもとで行った。
・圧電基板の材料:LiTaO
3
・圧電基板のカット角:42°YカットX伝搬
・デューティ:0.5
・電極指ピッチp:2.31μm
・電極指の厚み:0.4μm
・ギャップ長l
g:1.0μm
(歪低減効果)
まず歪低減効果のシミュレーション結果について
図8及び
図9を用いて説明する。歪低減効果は、絶縁膜69を設けていない比較例のSAW素子と、絶縁膜69を設けた実施例のSAW素子51のそれぞれについてシミュレーション用の解析モデルを作製し、その解析モデルについて圧電基板53のギャップ67における電束密度Dを対比することによって確かめた。
【0075】
ここで電束密度Dを計算したのは、電束密度Dと比例関係にある電場Eが歪波の発生強
度の指標となるからである。電場Eが歪波の発生強度の指標となる理由は以下の通りである。
【0076】
IDT電極55に電場の振幅がE
1、E
2である2つの正弦波の交流電圧が印加された場合、圧電基板53の誘電性によって流れる電流Iは、次の(1)式によって表される。
【0077】
I=aε{E
1sin(ω
1t)+E
2sin(ω
2t)}+bε
2{E
1sin(ω
1t)+E
2sin(ω
2t)}
2+・・・ (1)
(1)式において、a、bは定数、εは誘電率、ε
2は2次の非線形誘電率である。また、簡単のために3次以上の非線形の項は省略し、SAWの振動に起因する歪波(圧電体の弾性定数の非線形性)は考慮しないものとする。さらに(1)式を展開すると次のようになる。
【0078】
I=aε{E
1sin(ω
1t)+E
2sin(ω
2t)}
+bε
2{E
12sin
2(ω
1t)+2E
1E
2sin(ω
1t)sin(ω
2t)+E
22sin
2(ω
2t)}+・・・(2)
(2)式において、{E
12sin
2(ω
1t)+2E
1E
2sin(ω
1t)sin(ω
2t)+E
22sin
2(ω
2t)}が2次の歪電流であり、そのうちの第1項と第3項が2次の高調波歪、第2項が相互変調歪である。
【0079】
この式から圧電基板中の電場と歪波との間には相関があるといえる。特に(1)式において、2次の非線形項であるε
2項には電場Eの2乗が含まれることから、電場Eが大きくなると発生する歪波は急速に大きくなる。よって、圧電基板中の電場Eの最大値Emax
が歪波の発生強度の指標となり、ひいては圧電基板中の電束密度Dの最大値Dmaxを計算
すれば歪波の発生強度を調べることができる。
【0080】
図8は歪低減効果をシミュレーションする際に用いた実施例の解析モデルの概略図であり、
図5と同様にギャップ67の部分をy方向に沿って切断したときの断面に相当する。
図8に示すように、実施例の解析モデルでは、絶縁膜69の電極指63側の端部がギャップ67の中央に位置しているものである。また絶縁膜69についての設定条件は、材料がSiO
2、厚みが50nmである。なお、比較例の解析モデルは絶縁膜69を設けていないこと以外は、実施例の解析モデルと同じである。
【0081】
図9(a)は圧電基板53の上面53aから0.02μmの深さにおける圧電基板中の電束密度Dを示すグラフである。同グラフにおいて横軸は解析モデルのx方向における位置であり、ギャップ67の中心を「0」としている。また、同グラフにおいて実線が実施例の計算結果であり、破線が比較例の計算結果である。
【0082】
このグラフからわかるように、電極指63側(Position>0)における電束密度Dの最大値D
max1、ダミー電極指65側(Position<0)の電束密度Dの最大値D
max2(絶対値で見たときの最大値)いずれも、実施例の方が比較例よりも小さくなっている。
【0083】
図9(b)は圧電基板53の上面53aからの深さが異なる3か所(depth=0.02
μm、0.08μm、0.14μm)における電束密度の最大値D
max1、D
max2の計算結果を示すグラフである。
【0084】
このグラフからわかるように電束密度の最大値D
max1、D
max2はいずれの深さにおいても実施例の方が比較例よりも小さくなっている。
【0085】
よって
図9に示した結果から、実施例のSAW素子によれば歪波を抑制することができ
ることを確認できた。
【0086】
(電気特性への影響)
次に絶縁膜69の電気特性への影響のシミュレーション結果について説明する。
【0087】
上述した実施形態のSAW素子51は、絶縁膜69が非交差領域Tnにのみ設けられており、交差領域Tcには絶縁膜69を設けないようにしたが、これは絶縁膜69を交差領域Tcにまで形成するとSAW素子51の電気特性が劣化すると考えられるためである。そこで、絶縁膜69を交差領域Tcにも形成した場合の電気特性についてシミュレーションを行った。
【0088】
具体的には交差領域Tcに絶縁膜69が形成されていない実施例のSAW素子と交差領域Tcにも絶縁膜69が形成されている比較例のSAW素子について、電気機械結合係数K
2を計算した。なお、絶縁膜69はSiO
2からなるものとし、比較例については絶縁膜69の厚みが異なる4種類の解析モデルについて計算を行った。
【0089】
図10に電気機械結合係数K
2の計算結果のグラフを示す。同グラフにおいて横軸は絶縁膜69の厚みであり、厚みが0の位置にプロットされているのが実施例である。厚みが0の位置以外の位置にプロットされているのが比較例である。
【0090】
図10に示すグラフからわかるように交差領域Tcにも絶縁膜69を設けると電気機械結合係数K
2が小さくなる。このように電気機械結合係数K
2が小さくなるとSAWの伝搬損失の増加、Δfの狭小化などが起こり、SAW素子の電気特性が劣化することとなる。
【0091】
よって
図10に示す結果から、交差領域Tcに絶縁膜69を設けないことによって電気特性の劣化を抑制することができるといえる。
【0092】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0093】
上述した実施の形態に係るSAW素子51では絶縁膜69が非交差領域Tnの全体にわたって形成されていたが、絶縁膜69は少なくとも第1櫛歯状電極59Aのうち第2ギャップ67Bを介して第2電極指63Bに対向している部分および第2櫛歯状電極59Bのうち第1ギャップ67Aを介して第1電極指63Aに対向している部分に形成されていればよい。したがって、例えば、
図7に示すように非交差領域Tnのうち、第1ダミー電極指65Aおよび第2ダミー電極指65Bが設けられている領域にのみ形成するようにしてもよい。
【0094】
IDT電極55の形状は、図示したものに限定されない。例えば、IDT電極55は、いわゆるアポダイズが施されたものであってもよいし、ダミー電極指65が設けられないものであってもよい。また、IDT電極55は、バスバー電極61が傾斜もしくは屈曲するものであってもよいし、バスバー電極61の弾性波の伝搬方向に直交する方向(y方向)の大きさが変化するものであってもよい。また、IDT電極55は、電極指63のピッチが一定でなく、狭くなる部分が設けられてもよい。また、電極指63またはダミー電極指65は、その先端の角部が面取りされていてもよいし、先端の幅(x方向)が大きくされていてもよい。